(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】セラミックス
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20241025BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C04B35/486
C01G25/02
(21)【出願番号】P 2020045334
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】近藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】菅 洋平
(72)【発明者】
【氏名】檮木 陵太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】小塚 久司
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 良仁
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-082166(JP,A)
【文献】特開平09-139219(JP,A)
【文献】特開平05-151982(JP,A)
【文献】特開2017-113714(JP,A)
【文献】特開2017-001003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
C01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに固着した第1の層および第2の層を含むセラミックスであって、
前記第1の層は、Caを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含み、
前記第2の層は、Yを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含み、
前記第1の層と前記第2の層との間の、Yの有無によって特定される界面の付近にCaが存在し、
前記界面から前記第2の層側に2μm離れた位置における、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R
2は1.6mol%以上
8.3mol%以下であるセラミックス。
【請求項2】
前記界面から前記第2の層側に10μm離れた位置における、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R
10は4.2mol%以下である請求項
1記載のセラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジルコニアを含むセラミックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性を有する安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニアは、ガス透過膜やガス分離膜等のガスを拡散する機能を有するセラミックスの材料の一種である。特許文献1には、Caを含む安定化ジルコニアを含む第1の層を備えるセラミックスからなる酸素透過膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記技術において、Yを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含む第2の層が第1の層に積層されたセラミックスは、第1の層と第2の層との間の界面の密着性が低くなることがあるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、第1の層と第2の層との間の界面の密着性を向上できるセラミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のセラミックスは、互いに固着した第1の層および第2の層を含むものであり、第1の層はCaを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含み、第2の層はYを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含み、第1の層と第2の層との間の界面の付近にCaが存在し、界面から第2の層側に2μm離れた位置における、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R2は1.6mol%以上である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のセラミックスによれば、Caを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含む第1の層と、Yを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含む第2の層と、の界面から第2の層側に2μm離れた位置におけるCaの物質量の割合R2が1.6mol%以上なので、焼結により第1の層の粒子と第2の層の粒子との結合が強まり、第1の層と第2の層との間の界面の密着性を向上できる。
【0008】
セラミックスによれば、割合R2は8.3mol%以下なので、Caの拡散による界面近傍のイオン伝導率の低下を抑制できる。
【0009】
請求項2記載のセラミックスによれば、界面から第2の層側に10μm離れた位置における、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの割合R10は4.2mol%以下なので、請求項1の効果に加え、Caの拡散による界面近傍のイオン伝導率の低下をさらに抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施の形態におけるセラミックスの断面図である。
【
図2】酸素透過速度を測定する装置の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態におけるセラミックス10の中心軸Oを含む断面図である。本実施形態では、セラミックス10は円筒状の管である。
図1では、セラミックス10の中心軸Oを境にして片側が図示されており、中心軸Oを境にしたもう片側の図示は省略されている。
【0012】
セラミックス10は、第1の層11及び第2の層12が互いに固着されている。セラミックス10は、第1の層11及び第2の層12の成形および焼成の工程を経て製造される。本実施形態では、第1の層11の外周に第2の層12が固着している。本実施形態では、セラミックス10は厚さ方向に酸素を透過する機能を有する。
【0013】
第1の層11は、Caを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含む。Caを含む安定化ジルコニアは、CaO(安定化剤)をZrO2に固溶させ、室温において立方晶が安定して存在するようにしたジルコニアである。Caを含む部分安定ジルコニアは、安定化ジルコニアの安定化剤の量よりも安定化剤の量を減らしたジルコニアであり、室温において立方晶および正方晶が分散して存在する。安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニアは酸素イオン伝導体として機能する。
【0014】
第1の層11には、安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニアに加え、他の酸素イオン伝導体、電子伝導体、酸素イオン伝導性と電子伝導性の両方の機能を備える酸化物(以下「混合伝導性酸化物」と称す)を含むことができる。
【0015】
他の酸素イオン伝導体としては、例えばセリア系固溶体が挙げられる。セリア系固溶体としては、例えばガドリニウム固溶セリアやサマリウム固溶セリア等のセリウム系複合酸化物が挙げられる。
【0016】
電子伝導体としては、例えばペロブスカイト構造を有する酸化物、スピネル型結晶構造を有する酸化物、及び、貴金属等の金属材料から選択される電子伝導体を用いることができる。ペロブスカイト構造を有する酸化物としては、例えばLaMnO3系化合物におけるLaサイトにSrを添加した酸化物、CaTiO3やBaTiO3等の複合酸化物、La1-XMXCrO3-Z(但し、MはMgを除くアルカリ土類金属、0≦X≦0.4、Zは金属元素の割合や酸素原子の量が変動することを示す値である)等が挙げられる。
【0017】
混合伝導性酸化物としては、例えば、LaGaO3系化合物において、SrをLaサイトに添加すると共に、FeをGaサイトに添加したペロブスカイト構造を有する酸化物、SrCoO3系化合物において、BaをSrサイトに添加すると共に、FeをCoサイトに添加したペロブスカイト構造を有する酸化物、層状ペロブスカイト構造を有する酸化物、蛍石型構造を有する酸化物、オキシアパタイト構造を有する酸化物、メリライト構造を有する酸化物等が挙げられる。
【0018】
第1の層11は触媒を含有できる。触媒としては、例えばNi,Co,Cu等の金属やRh,Pt等の貴金属が挙げられる。第1の層11は酸化タンタルや酸化ニオブ等の他の酸化物を含むことができる。第1の層11は多孔質であっても良い。第1の層11が多孔質である場合の第1の層11の気孔率としては、例えば20~60%である。第1の層11の気孔率は、セラミックス10の断面の電子顕微鏡(SEM)の画像から求めることができる。気孔率は、SEMの視野内に現出する第1の層11に囲まれた気孔の面積の和を、視野内の第1の層11の面積および気孔の面積の和で除した値の百分率である。
【0019】
第2の層12は、Yを含む安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを含む。Yを含む安定化ジルコニアは、Y2O3(安定化剤)をZrO2に固溶させ、室温において立方晶が安定して存在するようにしたジルコニアである。Yを含む部分安定ジルコニアは、安定化ジルコニアの安定化剤の量よりも安定化剤の量を減らしたジルコニアであり、室温において立方晶および正方晶が分散して存在する。安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニアは酸素イオン伝導体として機能する。
【0020】
第2の層12は、Yを含む安定化ジルコニアや部分安定化ジルコニアの他、他の酸化物を含むことができる。他の酸化物としては、例えばペロブスカイト構造を有するLaCrO3系酸化物であるLa1-XSrXCrO3-Z(0≦X≦0.2、Zは金属元素の割合や酸素原子の量が変動することを示す値である)が挙げられる。また、他の酸化物として、第1の層11において例示した酸素イオン伝導体、電子伝導体、及び、混合伝導性酸化物から選ばれる1種以上を第2の層12は含むことができる。
【0021】
第2の層12には触媒を担持させることができる。触媒としては、例えばNi,Co,Cu等の金属やRh,Pt等の貴金属が挙げられる。
【0022】
なお、第2の層12に含まれる化合物を構成する元素は、Ca以外の元素が好ましい。第2の層12のイオン伝導率の低下を抑制するためである。また、第1の層11に含まれる化合物を構成する元素は、Y以外の元素が好ましい。第1の層11と第2の層12との間の界面13の位置を、第2の層12に含まれるYの濃度によって特定するためである。
【0023】
セラミックス10は、例えば以下のようにして製造される。まず第1の層11の成形体を準備する。第1の層11の成形体は、所定の酸化物の粉末に、合成樹脂製のビーズや炭素粉末等の造孔剤およびバインダを混合した後、押出成形やプレス成形等によって作られる。第1の層11の気孔率は、造孔剤の粒径や量などにより設定される。
【0024】
次いで、第1の層11の成形体の表面に、第2の層12を構成するペーストを塗布し乾燥させ第2の層12の成形体を形成する。第2の層12を構成するペーストは、所定の酸化物の粉末にビヒクルを混合したものである。ペーストの塗布は、印刷法、スプレー法、ディップコーティング法、ドクターブレード法等により行われる。これにより第1の層11及び第2の層12の成形体を一体にする。
【0025】
次に、成形体を焼成する。焼成の工程を経て、第1の層11及び第2の層12が互いに固着したセラミックス10が得られる。第2の層12に触媒を担持させる場合は、セラミックス10の第2の層12の表面に、所定の触媒の粉末にビヒクルを混合したペーストを塗布した後、焼成する。
【0026】
成形体の製造は押出成形およびペーストの塗布によるものに限られるものではない。公知の他の方法により成形体を製造することは当然可能である。他の方法としては、例えばシート成形およびシート積層法、プレス成形などが挙げられる。
【0027】
セラミックス10は、第1の層11と第2の層12との間の界面13の付近にCaが存在する。界面13の位置は、セラミックス10の断面から、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の波長分散型分光器(WDS)を用いて特定する。WDS分析の条件は加速電圧15kV、照射電流80nA、照射時間15msとし、その条件で設定できる最小のビーム径を使用する。
【0028】
まず、WDS分析により、セラミックス10の断面における第1の層11と第2の層12との間の境界付近の、縦50μm横50μmの正方形の視野14内のZr,Ca及びYを、視野14の全体に均等に割り当てた62500点の測定点において定量分析(面分析)する。測定点は、第1の層11と第2の層12との間の境界が延びる方向に0.2μm間隔で250列並び、境界にほぼ垂直な方向に0.2μm間隔で250行並ぶ。
【0029】
焼成の工程において、第1の層11の成形体に含まれるCaは第2の層12に向かって拡散し、第2の層12の成形体に含まれるYは第1の層11に向かって拡散する。しかしZrO2においてはYよりもCaの方が拡散し易いので、拡散し難いYを指標とし、Yの測定値(カウント)を62500点の測定点の位置に対応させたマップを作成する。そのマップと反射電子像に基づくセラミックス10の組織とを見比べ、第1の層11と第2の層12との間の界面13となる測定点を、測定点250列ごとに1点ずつ定める。
【0030】
次いで測定点の列ごとに、界面13から第2の層12側に界面13から2μm離れた位置15における測定点の、Zrの測定値(カウント)及びCaの測定値(カウント)を求め、各測定値の平均値を求める。なお、該当する測定点とセラミックス10の断面に現出する気孔とが重なったときは、その測定点における測定値は除いて平均値を求める。
【0031】
このようにして求めたZr及びCaの平均値からZrの濃度(wt%)及びCaの濃度(wt%)を求めた後、Zrの物質量およびCaの物質量を求める。Zrの物質量は、WDS分析によるZrの濃度(wt%)をZrのモル質量91(g/mol)で除した値である。Caの物質量は、WDS分析によるCaの濃度(wt%)をCaのモル質量40(g/mol)で除した値である。次に、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R2(mol%)を算出する。
【0032】
割合R2(mol%)を求めるときと同じく、測定点の列ごとに、界面13から第2の層12側に界面13から10μm離れた位置16における測定点の、Zrの測定値(カウント)及びCaの測定値(カウント)を求めた後、Zrの物質量およびCaの物質量を求める。次に、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R10(mol%)を算出する。
【0033】
セラミックス10は、界面13から第2の層12側に2μm離れた位置におけるCaの物質量の割合R2(平均値)が1.6mol%以上である。これは焼成の工程において第1の層11の成形体に含まれるCaが第2の層12に向かって拡散したことを意味する。焼結により第1の層11の粒子と第2の層12の粒子との結合が強まっているので、第1の層11と第2の層12との間の界面13の密着性を向上できる。
【0034】
セラミックス10は、割合R2(平均値)が8.3mol%以下である。これは焼成の工程において第1の層11の成形体に含まれるCaの拡散が過剰になり過ぎていないことを意味する。従って第2の層12に拡散したCaによる界面13近傍のイオン伝導率の低下を抑制できる。
【0035】
セラミックス10は、界面13から第2の層12側に10μm離れた位置におけるCaの割合R10(平均値)が4.2mol%以下である。これも焼成の工程において第1の層11の成形体に含まれるCaの拡散が過剰になり過ぎていないことを意味する。よってCaの拡散による界面13近傍のイオン伝導率の低下をさらに抑制できる。
【実施例】
【0036】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(試験片の作製)
カルシア安定化ジルコニア又はカルシア部分安定化ジルコニア、アクリル製の造孔剤、及び、触媒(Pt)の各粉末とバインダとを混合し、押出成形により成形体を作製した。この成形体を切断して縦20mm幅20mm厚さ1.5mmの板状の成形体(第1の層の成形体)を得た。
【0038】
これとは別に、8mol%イットリア安定化ジルコニア、LaCrO3系酸化物(La0.8Sr0.2)CrO3の各粉末とビヒクルとを混合し、第2の層のためのペーストを得た。このペーストを第1の層の成形体の表面の全体に100μmの厚さで印刷して、第1の層の成形体の上に第2の層の成形体を積層した成形体を得た。この成形体を大気中で焼成して、第1の層と第2の層とが固着した種々のセラミックスの試験片を得た。
【0039】
次に触媒(Pt)の粉末とビヒクルとを混合したペーストを、試験片の第2の層の表面に塗布した後、1000℃で焼成した。これにより第2の層の表面に触媒を付着させた。
【0040】
なお、第1の層を構成するジルコニアは、カルシアの固溶量を10~19mol%の範囲で異ならせた種々の安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを用いた。試験片を得るときの成形体の焼成条件は、昇温速度を1~10℃/min、最高温度を1000~1500℃、最高温度での保持時間を0~20時間の範囲で異ならせた。試験片を作製するときのこれら以外の因子は同一にして、種々の試験片を得た。
【0041】
(R2及びR10の算出)
EPMAのWDS分析(加速電圧15kV、照射電流80nA、照射時間15ms)により、試験片の断面(研磨面)の、縦50μm横50μmの正方形の視野内に均等に割り当てた62500点の測定点におけるZr,Ca及びYを定量分析した。なお、試験片の断面上に現出する気孔の位置に測定点があった場合には、その測定点の結果は除外した。視野内において、Zr及びYが検出された第2の層と、Yが検出限界以下となる第1の層と、の界面となる測定点を、測定点250列ごとに1点ずつ定めた。視野の位置は、視野の相対する2辺が界面とほぼ垂直に交わり、視野の別の相対する2辺が界面とほぼ平行になるように設定した。
【0042】
次いで、測定点の列ごとに、界面から第2の層側に界面から2μm離れた位置におけるZrの測定値およびCaの測定値を求めた。それらの平均値からZr及びCaの濃度(wt%)を求めた後、Zr及びCaの物質量を求め、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R2(mol%)を算出した。
【0043】
同様に、測定点の列ごとに、界面から第2の層側に界面から10μm離れた位置におけるZrの測定値およびCaの測定値を求めた。それらの平均値からZr及びCaの濃度(wt%)を求めた後、Zr及びCaの物質量を求め、Zrの物質量とCaの物質量との合計に対するCaの物質量の割合R10(mol%)を算出した。
【0044】
(界面の密着性)
電子顕微鏡(SEM)により、試験片を作製した条件ごとに各5個の試験片の界面の状態を観察した。
【0045】
(酸素透過速度)
図2に示す装置30を使って試験片20の酸素透過速度を測定した。
図2は酸素透過速度を測定する装置30の模式的な断面図である。装置30は2つの筒31,33に挟まれた状態で試験片20が配置される。筒31は空気室32を形成し、筒32は水素室34を形成する。試験片20に形成された第1の層11は水素室34に面し、第2の層12は空気室32に面する。空気室32には管35から空気が供給され、水素室34には管36から水素ガスが供給される。試験片20と筒33との間にホウケイ酸ガラス製のリング37が介在する。リング37が溶融・凝固することにより水素室34を封止し、試験片20は空気室32と水素室34とを隔離する。酸素透過速度の測定時にヒータ38は試験片20を加熱する。リング37の溶融・凝固は測定に先立ち行われ、測定の間、リング37は水素室34を封止するシールとして機能する。
【0046】
試験片20をヒータ38で1000℃に加熱した状態で、空気(流量300mL/min)を空気室32に供給し、水素ガス(流量200mL/min)を水素室34に供給した。水素室34内のガスに含まれる水蒸気の濃度を鏡面露点計で測定し、水素室34内の水蒸気の濃度から試験片20を透過した酸素量を求めた。その酸素量から試験片20の酸素透過速度((cc/min)/cm2)を求めた。
【0047】
界面の密着性や酸素透過速度を評価した試験片のR2及びR10を、密着性の評価結果および酸素透過速度と共に表1に記した。表1のNo.1-11は、異なる条件で作製された試験片である。界面の密着性の評価は、5個の試験片のうち1個以上の試験片の界面に剥離が認められたものはB、5個の試験片の全てに剥離が認められなかったものをAとした。
【0048】
【表1】
表1に示すように、R
2が1.6mol%以上のNo.3-11は界面に剥離が認められなかった。しかし、R
2が1.6mol%未満のNo.1及び2は界面に剥離が認められた。R
2が1.6mol%以上であると、焼結により第1の層の粒子と第2の層の粒子との結合が強まり、界面の密着性が向上したと推察される。
【0049】
界面に剥離が認められなかったNo3-11の試験片の酸素透過速度を測定した。界面に剥離が認められたNo.1及び2の試験片は酸素透過速度を測定しなかった。表1に示すように、R2が8.3mol%以下のNo.3-10は酸素透過速度が20(cc/min)/cm2以上あった。しかし、R2が8.3mol%よりも大きいNo.11は酸素透過速度が5(cc/min)/cm2しかなかった。No.3-10はCaの拡散による界面近傍のイオン伝導率の低下を抑制できたと推察される。
【0050】
また、R10が4.2mol%以下のNo3-10の酸素透過速度は20(cc/min)/cm2以上あった。R10を4.2mol%以下にすることにより、Caの拡散による界面近傍のイオン伝導率の低下を抑制できることが明らかになった。
【0051】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0052】
実施形態では、セラミックス10が円筒状の管の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。セラミックス10は、平板、湾曲した板、屈曲した管など任意の形状にできる。
【0053】
実施形態では、セラミックス10が酸素透過膜の機能を有する場合について説明したが、セラミックス10の用途はこれに限られるものではない。セラミックス10は機械部品や電気部品など、用途に制限はない。従って第1の層11に、イオン伝導体や電子伝導体などではなく、アルミナやムライト等の他の酸化物が含まれるようにすることは当然可能である。
【0054】
実施形態では、第1の層11に第2の層12が積層されたセラミックス10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2の層12にさらに第3の層や第4の層などを積層することは当然可能である。第3の層や第4の層としては、第1の層11や第2の層12に含まれる化合物として例示した種々の酸化物が挙げられる。
【符号の説明】
【0055】
10 セラミックス
11 第1の層
12 第2の層
13 界面
15 界面から第2の層側に2μm離れた位置
16 界面から第2の層側に10μm離れた位置