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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】感圧センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/20 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
G01L1/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020068694
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021004872
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019080039
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591005006
【氏名又は名称】マクセルクレハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】水谷 武
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-090906(JP,A)
【文献】特開昭62-114202(JP,A)
【文献】特開平01-042804(JP,A)
【文献】特開2008-256399(JP,A)
【文献】特開2013-134191(JP,A)
【文献】特開2017-096658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/20
H01C 10/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気抵抗値の変化の検出により圧力を検知し、最大測定圧力が300kPa以上1000kPa以下である感圧センサであって、
一対の電極と、該一対の電極間に配置される、圧力に応じて厚さ方向の電気抵抗値(Ω)が変化するシート状の感圧導電部材とを備え、
前記感圧導電部材は、第1のゴム成分に第1の導電性充填剤が分散した第1のゴム層と、第2のゴム成分に第2の導電性充填剤が分散した第2のゴム層とが積層されて構成され、
前記第1のゴム層は、前記第2のゴム層に比べて厚さ方向の電気抵抗値(Ω)が高い層であり、前記第1のゴム層の厚さは1mm未満で、かつ、前記第2のゴム層の厚さよりも小さく、
前記第1のゴム層の厚さと前記第2のゴム層の厚さの合計厚さである感圧導電部材の厚さが100μm~300μmであり、
前記第1のゴム層の厚さは、前記感圧導電部材の厚さの20%以上50%未満であり、
前記第1の導電性充填剤が黒鉛およびカーボンブラックであり、前記第2の導電性充填剤がカーボンブラックであり、黒鉛を含まないことを特徴とする感圧センサ。
【請求項2】
前記第1のゴム層の体積抵抗率が1.0×10Ω・cm~1.0×1011Ω・cmであり、前記第2のゴム層の体積抵抗率が1.0×10Ω・cm~1.0×10Ω・cmであることを特徴とする請求項1記載の感圧センサ。
【請求項3】
前記第1のゴム成分および前記第2のゴム成分がシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の感圧センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、感圧導電部材およびその感圧導電部材を備える感圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力の大きさに応じた抵抗値の変化を検出する感圧センサが知られている。感圧センサとしては、歪みゲージを用いる形式のセンサや、圧電セラミックスを用いる形式のセンサが知られているが、これらは部材の剛性が高く、感圧センサの形状が制限される傾向にあった。
【0003】
近年、感圧センサの形状の自由度を高めるため、導電部材の材質にエラストマーを使用し、柔軟性を付与した感圧導電部材が提案されている。例えば、特許文献1には、非導電性エラストマー中にナノメーターサイズの導電性充填剤が分散した感圧導電部材が開示されている。所定の導電性充填剤を分散させることで、電気抵抗値の再現性などの感圧導電部材の特性の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-220481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、感圧センサは、受けている圧力が大きくなるほど電気抵抗値が低くなる出力特性(感圧挙動)を有する。この出力特性を表す曲線に基づき、測定された電気抵抗値から、受けている圧力の大きさが検出される。そのため、圧力を精度良く検出するためには、感圧挙動が安定していることが必要である。しかしながら、従来の非導電性エラストマーを用いた感圧導電部材では、圧力に応じて電気抵抗値がばらついたり、圧力の上昇に伴い電気抵抗値が高くなったりして、安定した感圧挙動が得られない場合がある。特に、高圧力条件下では、安定した感圧挙動を得ることが困難である。
【0006】
本発明はこのような事情に対処するためになされたものであり、柔軟性を有しつつ、安定した感圧挙動を示す感圧導電部材、およびその感圧導電部材を備える感圧センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の感圧導電部材は、圧力に応じて電気抵抗値が変化するシート状の感圧導電部材であって、上記感圧導電部材は、第1のゴム成分に第1の導電性充填剤が分散した第1のゴム層と、第2のゴム成分に第2の導電性充填剤が分散した第2のゴム層とが積層されて構成され、上記第1のゴム層は、上記第2のゴム層に比べて電気抵抗値が高い層であり、上記第1のゴム層の厚さは1mm未満で、かつ、上記第2のゴム層の厚さよりも小さいことを特徴とする。
【0008】
上記第1のゴム層の厚さと上記第2のゴム層の厚さの合計厚さである感圧導電部材の厚さが100μm~1000μmであり、上記第1のゴム層の厚さは、上記感圧導電部材の厚さの20%以上50%未満であることを特徴とする。
【0009】
上記第1のゴム層の体積抵抗が1.0×10Ω・cm~1.0×1011Ω・cmであり、上記第2のゴム層の体積抵抗が1.0×10Ω・cm~1.0×10Ω・cmであることを特徴とする。
【0010】
上記第1のゴム成分および上記第2のゴム成分がシリコーンゴムであることを特徴とする。
【0011】
上記第1の導電性充填剤が黒鉛およびカーボンブラックであり、上記第2の導電性充填剤がカーボンブラックであることを特徴とする。
【0012】
本発明の感圧センサは、電気抵抗値の変化の検出により圧力を検知する感圧センサであって、一対の電極と、該一対の電極間に配置される感圧導電部材とを備え、上記感圧導電部材が本発明の感圧導電部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感圧導電部材は、導電性充填剤をそれぞれ含む第1のゴム層と第2のゴム層の積層体であるので柔軟性を有する。また、第1のゴム層は、第2のゴム層に比べて電気抵抗値が高い層であり、第1のゴム層の厚さは1mm未満で、かつ、第2のゴム層の厚さよりも小さいので、第1のゴム層が感圧層、第2のゴム層が導電層として機能することで、圧力に応じて電気抵抗値の変化が安定し、良好な感圧挙動が得られる。
【0014】
第1のゴム層の厚さと第2のゴム層の厚さの合計厚さである感圧導電部材の厚さが100μm~1000μmであり、第1のゴム層の厚さは、感圧導電部材の厚さの20%以上50%未満であるので、フィルム状の感圧センサに好適であり、良好な感圧挙動が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の感圧導電部材を示す図である。
図2】本発明の感圧センサを示す図である。
図3】圧力に対する抵抗値を測定するための負荷試験の模式図である。
図4】実施例1、比較例1の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図5】比較例2~3の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図6】実施例2の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図7】実施例3~4の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図8】実施例5~6の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図9】実施例7、比較例4の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図10】実施例2~6の圧力と抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図11】本発明の感圧導電部材の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、ゴム層からなる感圧導電部材について、優れた感圧挙動を得るべく鋭意検討した。その結果、電気抵抗値が異なる2つのゴム層を積層させ、さらに各層の厚さを設定することで、圧力に応じた電気抵抗値の変化が安定することを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0017】
本発明の感圧導電部材の一形態を図1に基づいて説明する。図1はシート状の感圧導電部材の断面図である。この感圧導電部材は、例えば、圧力の大きさを検出する感圧センサの導電部材として使用される。図1に示すように、感圧導電部材3は、第1のゴム層1と第2のゴム層2とが積層された2層構造である。層間には接着剤層がなく、導電性を有するゴム層同士の接触となるため、通電性が良く、良好な感圧挙動が得られる。感圧導電部材3は、ゴム層からなるので柔軟性に富み、センサ形状の自由度に優れる。このようなゴム層からなる感圧導電部材は、荷重を受けていないときには高い電気抵抗値を示し、荷重を受けた時には電気抵抗値が低くなる。これは、荷重による変形によって、導電性充填剤同士の距離が短くなり、導電性充填剤による導通経路が生じるためである。
【0018】
第1のゴム層1は、ゴム成分(以下、第1のゴム成分ともいう)に導電性充填剤(以下、第1の導電性充填剤ともいう)を配合したゴム組成物(以下、第1のゴム組成物ともいう)からなり、導電性充填剤が層中に分散することで、導電性を有する。また、第2のゴム層2は、ゴム成分(以下、第2のゴム成分ともいう)に導電性充填剤(以下、第2の導電性充填剤ともいう)を配合したゴム組成物(以下、第2のゴム組成物ともいう)からなり、導電性充填剤が層中に分散することで、導電性を有する。
【0019】
第1のゴム成分および第2のゴム成分は、特に限定されず、シリコーンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが用いられる。これらは単独で使用してもよく、または2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、シリコーンゴム、EPDMを用いることが好ましい。また、第1のゴム成分と第2のゴム成分とは、同じ種類のものを用いることが好ましい。シリコーンゴムは、ウイリアムス可塑度(再練10分後)が200以下であることが好ましい。ウイリアムス可塑度は、JIS K 6249-8の可塑度試験で規定される方法で測定される。
【0020】
第1の導電性充填剤および第2の導電性充填剤としては、黒鉛粉末、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの固体炭素材料や、銅粉、銀粉、鉄粉などの金属粉末、導電性酸化錫、導電性酸化チタンなどの導電性金属酸化物などが用いられる。これら導電性充填剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、第1の導電性充填剤および第2の導電性充填剤のそれぞれが、黒鉛粉末および導電性カーボンブラックの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0021】
本発明において、第1のゴム層1は、第2のゴム層2に比べて電気抵抗値が高い層である。第1のゴム層1は主に感圧層として機能し、第2のゴム層2は主に導電層(低抵抗層)として機能する。第1のゴム層1の体積抵抗が1.0×10Ω・cm~1.0×1011Ω・cmであり、第2のゴム層2の体積抵抗が1.0×10Ω・cm~1.0×10Ω・cmであることが好ましい。
【0022】
各層の電気抵抗値は、ゴム組成物中の導電性充填剤の種類や配合量を調整することで行う。例えば、第1のゴム組成物と第2のゴム組成物とで同じ種類の導電性充填剤を用いる場合、該導電性充填剤の配合量を、第1のゴム組成物よりも第2のゴム組成物の方を多くすることで、第2のゴム層2の電気抵抗値を低くすることができる。また、第1のゴム組成物と第2のゴム組成物とで同じ配合量の導電性充填剤を用いる場合、体積抵抗率がより小さい導電性充填剤を第2のゴム組成物に配合することで、第2のゴム層2の電気抵抗値を低くすることができる。
【0023】
第1のゴム層1の導電性充填剤として、黒鉛粉末および導電性カーボンブラックを用いることが好ましい。その形態において、黒鉛粉末は、第1のゴム成分100質量部に対して20質量部~70質量部含まれることが好ましく、30質量部~50質量部含まれることがより好ましい。また、導電性カーボンブラックは、第1のゴム成分100質量部に対して1質量部~10質量部含まれることが好ましく、1質量部~5質量部含まれることがより好ましい。
【0024】
一方、第2のゴム層2の導電性充填剤としては、導電性カーボンブラックが好ましい。その形態において、導電性カーボンブラックは、第2のゴム成分100質量部に対して10質量部~30質量部含まれることが好ましく、10質量部~20質量部含まれることがより好ましい。
【0025】
黒鉛粉末は、天然黒鉛と人造黒鉛に大別され、さらに鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、球状黒鉛などがあり、いずれであっても使用できる。本発明に使用する導電性充填剤としては、人造黒鉛であり、さらに等方性である球状黒鉛を用いることが好ましい。球状黒鉛の平均粒子径は、特に限定されないが、5~50μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。平均粒子径は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置などを用いて測定することができる。
【0026】
導電性カーボンブラックは、平均粒子径が10~50nmであることが好ましく、平均粒子径が20~50nmであることがより好ましい。平均粒子径が10~50nmの範囲内とすることで、少量の配合量であっても十分な電気抵抗値が得られやすい。
【0027】
また、本発明の感圧導電部材を構成する各ゴム層には、発明の効果を阻害しない範囲で、その他の添加剤を配合することも可能である。例えば、加硫剤、加硫促進剤、補強剤、老化防止剤、軟化剤、着色剤などを配合できる。
【0028】
各層および導電部材の厚さについて、図1に基づいて説明する。本発明において、第1のゴム層1の層厚さtは1mm未満で、かつ、第2のゴム層2の層厚さtよりも小さいことを特徴としている。感圧層を低抵抗層よりも薄く形成することで、圧力に応じた電気抵抗値の変化を安定して検出しやすくなる。
【0029】
第1のゴム層1の層厚さtは、好ましくは30μm~500μmであり、より好ましくは50μm~200μmであり、さらに好ましくは50μm~100μmである。第2のゴム層2の層厚さtは、層厚さtよりも厚くした上で、好ましくは50μm~2000μmであり、より好ましくは100μm~500μmであり、さらに好ましくは100μm~200μmである。
【0030】
第1のゴム層1の厚さtと第2のゴム層2の厚さtの合計厚さである感圧導電部材の総厚さtは、100μm~1000μmであることが好ましく、100μm~300μmであることがより好ましい。さらに、第1のゴム層1の厚さtは、感圧導電部材の総厚さtに対して、20%以上50%未満であることが好ましく、25%~48%であることがより好ましく、25%~40%であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の感圧導電部材の各ゴム層は、ゴム成分が架橋されていることが好ましい。架橋方法としては、放射線架橋やプレス加硫などの化学架橋を行うことができる。プレス加硫に用いる加硫剤には、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス-(t-ブチルペルオキシ-イソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物を用いることができる。加硫剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部~3質量部が好ましい。加硫剤の配合量が少なすぎると、架橋が不十分となり強度が低下するおそれがあり、加硫剤の配合量が多すぎると、架橋密度が高くなりすぎて、十分な柔軟性が得られないおそれがある。
【0032】
放射線架橋は、電子線、γ線、X線などが挙げられる。本発明においては放射線遮蔽層の効果を制御しやすいという観点で電子線照射が好ましい。電子線照射条件としては、加速電圧が50kV~1000kV、好ましくは200kV~500kVであり、照射線量が50kGy~400kGy、好ましくは50kGy~200kGyである。照射条件として加速電圧が50kV未満では厚さ方向への電子線到達深度が低くなり未架橋部分が残るおそれがある。照射線量が400kGyをこえると、過架橋になり十分な柔軟性が得られないおそれがある。
【0033】
本発明の感圧導電部材の製造方法について以下に説明する。
【0034】
本発明の感圧導電部材が薄肉(例えば、感圧導電部材の厚みが1000μm以下)の場合、第2のゴム組成物の塗料および第1のゴム組成物の塗料を順次、塗工フィルムに塗工し、その後、電子線照射することで得られる。
【0035】
(1)第2のゴム組成物の塗工
第2のゴム組成物を溶剤に溶解し、濾過、脱泡することで第2のゴム組成物の塗料を得る。溶剤としては、ゴム成分を溶解可能であればよく、例えば、トルエンなどを用いることができる。得られた塗料を、塗工フィルム(例えば、50μm厚のPETフィルム)に塗工する。塗工方法としては、コンマバー法や、スプレー法、ディッピング法、刷毛塗り法など被膜を形成できるものであれば使用できる。塗工後、第2のゴム組成物の塗料を乾燥する。乾燥は、例えば90℃の恒温槽内で10分程度行う。
【0036】
(2)第1のゴム組成物の塗工
第1のゴム組成物を溶剤に溶解し、濾過、脱泡することで第1のゴム組成物の塗料を得る。溶剤としては、第2のゴム組成物の塗料と同様の溶剤を用いることができる。得られた塗料を、乾燥後の第2のゴム組成物の表面に塗工する。塗工後、第2のゴム組成物の塗料の乾燥条件と同様の条件で乾燥する。その後、カバーフィルム(塗工フィルムと同一)を乾燥後の第1のゴム組成物の表面に貼り合わせる。
【0037】
(3)電子線照射
得られた塗工体の片面もしくは両面から電子線照射を行う。両面に照射する場合、具体的には、まず、第1のゴム層側から、上述した電子線照射条件で電子線を照射する。その後、第2のゴム層側から、同じ照射条件で電子線を照射する。これによって、第1のゴム層中のゴム成分、および第2のゴム層中のゴム成分がそれぞれ架橋されて、本発明の感圧導電部材が得られる。なお、電子線の照射順序としては第2のゴム層側から先に処理を行ってもよい。また、塗工厚みと処理する電子線照射装置の条件によっては、片面にのみ照射することも可能である。
【0038】
また、本発明の感圧導電部材の製造方法は、上記の製造方法に限定されない。例えばラインでの製造を考慮した場合、図11に示すような方法も採用できる。以下には、図11の方法について説明する。
【0039】
まず、第2のゴム組成物を溶剤に溶解し、濾過、脱泡することで第2のゴム組成物の塗料を得る。得られた塗料を、塗工フィルム24に塗工する。塗工後、第2のゴム組成物の塗料を乾燥する。その後、カバーフィルム(図示省略)を乾燥後の第2のゴム組成物22の表面に貼り合わせ、一旦所定長さを巻き取る。
【0040】
次に、第1のゴム組成物を溶剤に溶解し、濾過、脱泡することで第1のゴム組成物の塗料を得る。得られた塗料を、塗工フィルム23に塗工する。塗工後、第1のゴム組成物の塗料を乾燥する。その後、先に作製した第2のゴム組成物のカバーフィルム(図示省略)を剥ぎ取りながら、図11に示すように、第1のゴム組成物21の表面に第2のゴム組成物22の表面を貼り合わせ、所定長さを巻き取る。第2のゴム組成物22の塗工フィルム24が、最終的にカバーフィルムとなる。得られた塗工体25に対して、上記(3)に示す電子線照射を行なうことで、感圧導電部材が得られる。
【0041】
また、その他の製造方法として、塗工による成形に代えて、金型成形や押出成形、分出し成形によって各ゴム組成物をシート状に成形してもよく、この場合プレス加硫が適する。塗工による成形の場合、フィルム状電極に直接加工できるため、電極と感圧導電部材との間の接触抵抗のばらつきを抑えることができる。また、薄膜の長尺化、薄膜での2層(多層)積層が、分出しや押出の場合に比較して容易に可能であり、厚み精度も良いという点で好ましい。
【0042】
本発明の感圧センサの一形態を図2に示す。図2は本発明の感圧センサの断面図である。感圧センサ4は、一対の電極5、6と、該一対の電極5、6間に本発明の感圧導電部材3とを備える。一対の電極5、6は、電源(図示省略)および検出器(図示省略)に接続されている。
【0043】
電極5、6の材質としては、特に限定されず、銅、銀、アルミニウム、金、白金などの金属からなる金属電極や、PETフィルムなどの上に、銅、銀、アルミニウムなどの金属ペーストを塗布または印刷加工したフィルム状電極などが挙げられる。金属電極として、具体的には、銅箔、銀箔、アルミ箔、金メッキ箔などを用いることができる。
【0044】
電極5、6の厚さは特に限定されないが、柔軟性、耐久性の観点から、50~250μmであることが好ましい。例えば、スクリーン印刷などで作製されたフィルム状電極を用いることでセンサ形状の自由度に優れ、様々な形状のものに応用することができる。
【0045】
本発明の感圧導電部材は、後述の実施例で示すように、第1のゴム層および第2のゴム層のいずれの層側から圧力を負荷した場合であっても、同様の電気抵抗値が得られる。そのため、感圧センサにおいて、圧力を受ける向きに左右されないで感圧導電部材を使用可能である。
【0046】
図2の感圧センサ4において、所定の電圧が印加された状態で、感圧センサ4の例えば電極5側から圧力が負荷されると、感圧導電部材3が変形し、その変形によって各ゴム層中の導電性充填剤が密集することで厚み方向の電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化を検出器で検出することで、圧力の大きさを検知できる。
【0047】
本発明の感圧導電部材は、低圧力条件から高圧力条件まで広範囲において優れた出力特性を有する。そのため、本発明の感圧センサは、低圧力から高圧力までの広範囲の圧力を検知可能な感圧センサとして用いることができる。例えば、最大測定圧力を300kPa以上に設定することができ、例えば、最大測定圧力を500kPaや、1000kPaに設定することができる。本発明の感圧センサは、高圧力条件でも測定可能であることから、例えば、倉庫内での荷物の管理、インフラ設備(高架、トンネル壁面など)の破損検知などを行うための感圧センサとして用いることができる。また、形状の自由度も高く、長尺化も可能であることから、大きな構造への対応も可能である。
【実施例
【0048】
まず、層構造が異なる導電部材を用いて、圧力に対する電気抵抗値の挙動を検討した。実施例1および比較例1には2層構造の感圧導電部材を用いた。比較例2および比較例3には、第1のゴム層のみで構成される単層構造の感圧導電部材を用いた。表1には、各試験例におけるゴム組成物の組成と層厚さを示す。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1
シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤としてカーボンブラック20質量部を配合し、さらに加硫剤1.5質量部を配合して第2のゴム組成物を得た。このゴム組成物をシート状に分出し成形し、得られた成形体を枠ゲージの中に配置した。配置した成形体を熱盤に挟んでプレスし、加硫温度164℃、加硫時間20分、加硫圧力として面圧10MPaの条件でプレス加硫した。その後、加硫温度200℃、加硫時間4時間の条件で二次加硫(アニール処理)して、厚さ2mmの第2のゴム層を得た。
続いて、シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤として黒鉛40質量部およびカーボンブラック5質量部をそれぞれ配合して第1のゴム組成物を得た。このゴム組成物をトルエン溶液に該ゴム組成物の固形分率が30質量%となるように溶解し、濾過、脱泡を経て、第1のゴム組成物の塗料を得た。この塗料を50μm厚のPETフィルムに塗工した。塗工後、乾燥温度90℃、乾燥時間10分の条件で塗料を乾燥した。乾燥後、塗工体の表面に50μm厚のPETフィルムを貼り合わせ、加速電圧250kV、照射線量100kGy、送り速度10m/minの条件で電子線照射を行ない、厚さ0.1mmの第1のゴム層を得た。得られた第1のゴム層および第2のゴム層を重ね合わせて、感圧導電部材とした。
【0051】
なお、第1のゴム層の体積抵抗は、9.3×10Ω・cm(横河ヒューレット・パッカード(株)4329A HIGH RESISTANCE METERにて、500V印加で測定)であり、第2のゴム層の体積抵抗は、9.4×10Ω・cm(三菱油化(株)Loresta IP MCP-T250にて測定)であった。また、下記加圧試験の条件における、第1のゴム層の電気抵抗値は1.0×10Ω~1.0×10Ωであり、第2のゴム層の電気抵抗値は1.0×10Ω~1.0×10Ωであった。
【0052】
比較例1
実施例1と同様の方法で、厚さ2mmの第2のゴム層を得た。
続いて、シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤として黒鉛40質量部およびカーボンブラック5質量部をそれぞれ配合し、さらに加硫剤0.75質量部を配合して第1のゴム組成物を得た。この組成物をシート状に分出し成形し、得られた成形体を上述した条件でプレス加硫、二次加硫(アニール処理)して、厚さ1mmの第1のゴム層を得た。
得られた第1のゴム層および第2のゴム層を重ね合わせて、感圧導電部材とした。
【0053】
比較例2
シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤として黒鉛40質量部およびカーボンブラック5質量部をそれぞれ配合して第1のゴム組成物を得た。このゴム組成物をトルエン溶液に該ゴム組成物の固形分率が30質量%となるように溶解し、濾過、脱泡を経て、第1のゴム組成物の塗料を得た。この塗料を50μm厚のPETフィルムに塗工した。塗工後、乾燥温度90℃、乾燥時間10分の条件で塗料を乾燥した。乾燥後、塗工体の表面に50μm厚のPETフィルムを貼り合わせ、加速電圧250kV、照射線量100kGy、送り速度10m/minの条件で電子線照射を行ない、厚さ0.1mmの第1のゴム層からなる感圧導電部材を得た。
【0054】
比較例3
比較例1の第1のゴム層と同様にして、感圧導電部材を製造した。
【0055】
得られた各感圧導電部材の電気抵抗値を、図3に示す試験装置で測定した。試験装置11は、圧力Fが負荷される上部プレート12と、下部プレート13とを有する。これらプレート間に、一対の絶縁板(例えばベークライト板)14、14を介して、一対の電極15、16が設けられる。図3の試験では、加圧側の電極15としてφ20mmの銅円柱を用い、電極16として銅箔板を用いた。電極15、16はそれぞれ検出器17に接続されている。試験では、電極15、16間に感圧導電部材3を挟み、所定の電圧を印加した状態で、下記の試験条件により圧力Fを加え、感圧導電部材の厚み方向の電気抵抗値を測定した。検出器としては、株式会社エーディーシー製の直流電圧・電流源6240Bを使用した。圧力と抵抗値の変化をプロットした図を、図4および図5に示す。
【0056】
<試験条件>
圧縮試験機:株式会社今田製作所製、SV-201型引張圧縮試験機
圧力:0~1000kPa
加圧速度:約0.2mm/min
加圧面積:314mm
印加電圧:直流3V、または直流10V
【0057】
試験では、圧力に対する感圧導電部材の向きについても検討した。図3に示すように、感圧導電部材3の第1のゴム層1を荷重側に向けて配置した試験をAパターンとした。一方、感圧導電部材3の第2のゴム層2を荷重側に向けて配置した試験をBパターンとした。なお、図中において特に記載がない場合は、Aパターンの試験結果を示している。
【0058】
図5に示す感圧挙動は、いずれも単層構造の感圧導電部材の結果である。比較例2は、層厚さが0.1mmと薄く、圧力を上げていくと抵抗値が検出器の測定可能範囲外に入ってしまい、低圧力条件のみの結果となったが、抵抗値のばらつきは大きかった。また、比較例3は、圧力の上昇に伴って抵抗値が上昇する結果となった。本来であれば、圧力の上昇に伴い抵抗値は緩やかに低下するため、これらの感圧挙動は感圧導電部材として適したものではない。
【0059】
図4に示す比較例1は、比較例3の導電部材(厚さ1mmの第1のゴム層)に第2のゴム層を加えた2層構造の感圧導電部材である。しかし、比較例3(図5参照)の感圧挙動と同様に、圧力の上昇に伴って抵抗値が上昇する結果となった。これに対して、図4に示す実施例1は、比較例2の導電部材(厚さ0.1mmの第1のゴム層)に第2のゴム層を加えた2層構造の感圧導電部材であり、図4に示すように、圧力の上昇に伴って抵抗値が緩やかに低下し、優れた感圧挙動を示した。
【0060】
次に、感圧導電部材の各ゴム層の厚さについて詳細に検討した。表2には各試験例のゴム組成物の組成を示し、表3には各試験例の層厚さを示す。実施例2~実施例7には2層構造の感圧導電部材を用い、比較例4には第1のゴム層のみからなる単層構造の感圧導電部材を用いた。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
実施例2~実施例7
シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤としてカーボンブラック20質量部を配合して、第2のゴム組成物を得た。このゴム組成物をトルエン溶液に該ゴム組成物の固形分率が23質量%となるように溶解し、濾過、脱泡を経て、第2のゴム組成物の塗料を得た。この塗料を50μm厚のPETフィルムに、乾燥後の層厚さが所望の厚さとなるように塗工した後、乾燥温度90℃、乾燥時間10分の条件で塗料を乾燥した。
続いて、シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤として黒鉛40質量部およびカーボンブラック5質量部をそれぞれ配合して、第1のゴム組成物を得た。このゴム組成物をトルエン溶液に該ゴム組成物の固形分率が30質量%となるように溶解し、濾過、脱泡を経て、第1のゴム組成物の塗料を得た。この塗料を乾燥後の第2のゴム層の表面に、乾燥後の層厚さが所望の厚さとなるように塗工した後、乾燥温度90℃、乾燥時間10分の条件で塗料を乾燥した。
乾燥後、塗工体の表面に50μm厚のPETフィルムを貼り合わせ、第1のゴム層側からおよび第2のゴム層側から、加速電圧300kV、照射線量100kGy、送り速度10m/minの条件で電子線照射を行ない、第1のゴム層および第2のゴム層を架橋して、2層構造の感圧導電部材を得た。
【0064】
比較例4
シリコーンゴム100質量部に、導電性充填剤として黒鉛40質量部およびカーボンブラック5質量部をそれぞれ配合して第1のゴム組成物を得た。このゴム組成物をトルエン溶液に該ゴム組成物の固形分率が30質量%となるように溶解し、濾過、脱泡を経て、第1のゴム組成物の塗料を得た。この塗料を50μm厚のPETフィルムに塗工した。塗工後、乾燥温度90℃、乾燥時間10分の条件で塗料を乾燥した。乾燥後、塗工体の表面に50μm厚のPETフィルムを貼り合わせ、加速電圧250kV、照射線量100kGy、送り速度10m/minの条件で電子線照射を行ない、厚さ140μmの第1のゴム層からなる感圧導電部材を得た。
【0065】
得られた各感圧導電部材の電気抵抗値を、図3に示す試験装置を用い、上述した試験条件によって測定した。検出器は、上記と同様、株式会社エーディーシー製の直流電圧・電流源6240Bを使用した。測定結果を図6図9に示す。
【0066】
図6図8に示すように、実施例2~実施例6の感圧導電部材は良好な感圧挙動を示した。第1のゴム層および第2のゴム層の各層厚さが増加するほど、抵抗値のばらつきが大きくなる傾向が見られた。また、AパターンおよびBパターンで大きな差は見られなかった。図6に示すように、感圧導電部材に印加する電圧が3V、10Vと異なる場合であっても安定した感圧挙動を示した。
【0067】
また、図9には、実施例7と比較例4を同グラフにプロットした図を示す。比較例4の単層構造の感圧導電部材は、実施例7の感圧導電部材の電気抵抗値と同程度であり、かつ、層厚さが比較的近いものであるが、図9に示すように、抵抗値がばらつく結果となった。これに対して、実施例7は、グラフの曲線が安定しており優れた感圧挙動を示した。
【0068】
以上、上述した実施例および比較例では、電極に銅電極を使用したが、他の電極を用いた場合でも、本発明に係る感圧導電部材は良好な感圧挙動を示す。例えば、図10には、銅電極に代えて銀電極を使用した場合における実施例2~実施例6の導電部材の抵抗値変化を示す。銀電極としては、フィルム状電極を2つ使用した。一対の銀電極間に各感圧導電部材を挟み、布製のクッション材を介して、加圧部材であるφ20mmの銅円柱で上述の条件で加圧した。検出器に、株式会社エーディーシー製の直流電圧・電流源6240Bを使用した。
【0069】
図10に示すように、実施例2~実施例6の感圧導電部材は銀電極の場合も良好な感圧挙動を示した。図10の感圧挙動は、図6図8の感圧挙動に比べて優れた感圧挙動を示した。図6図8では銅円柱および銅箔を電極に用いたのに対して、図10では銀のフィルム状電極を用いており、電極(形状)の違いによる接触抵抗が感圧挙動の安定性に影響したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の感圧導電部材は、柔軟性を有しつつ、安定した感圧挙動を示すので、感圧導電部材として広く使用でき、感圧センサなどに適用することで圧力の大きさを精度よく検出することができる。特に、幅広い圧力レンジの感圧センサに好適である。
【符号の説明】
【0071】
1 第1のゴム層
2 第2のゴム層
3 感圧導電部材
4 感圧センサ
5 電極
6 電極
11 試験装置
12 上部プレート
13 下部プレート
14 絶縁板
15 電極
16 電極
17 検出器
21 第1のゴム組成物
22 第2のゴム組成物
23 塗工フィルム
24 塗工フィルム
25 塗工体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11