(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】紡績機の動作の最適化
(51)【国際特許分類】
D01H 13/22 20060101AFI20241025BHJP
D01H 4/42 20060101ALI20241025BHJP
D01H 1/20 20060101ALI20241025BHJP
D01H 13/16 20060101ALI20241025BHJP
B65H 63/06 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
D01H13/22
D01H4/42
D01H1/20
D01H13/16 Z
B65H63/06 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020104338
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】10 2019 116 475.3
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518264859
【氏名又は名称】ザウラー スピニング ソリューションズ ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Saurer Spinning Solutions GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Carlstr. 60, 52531 Uebach-Palenberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100210099
【氏名又は名称】遠藤 太介
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ヴェアハイト
(72)【発明者】
【氏名】イェアク フォン リヴォニウス
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ シファース
(72)【発明者】
【氏名】アンナ トゥロウスキ
(72)【発明者】
【氏名】ユアゲン ヒュルス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン メアティン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュピッツァー
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-275723(JP,A)
【文献】特開2001-279538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00-17/02
B65H63/00-63/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
品質及び生産性に関して、紡績機の動作を最適化する方法であって、
設定された糸特性を有する糸を製造し、
設定された糸特性からの偏差としての、前記糸の品質パラメータ(15)
であって、CV値及び/又はIPI値を含む、前記糸の品質パラメータ(15)を
、糸クリアラを使用して紡績動作中に検出し、
スピニングロータの回転数、又は、オープンエンドロータ紡績機の糸引出し速度若しくはスライバの供給速度、又は、エアジェット紡績機の引渡し速度若しくは引出し速度により定められる製造速度を調整するためのパラメータ(9)を設定し、
前記品質パラメータ(15)と前記製造速度を調整するためのパラメータ(9)とを評価し、
前記製造速度の調整を、前記品質パラメータ(15)を含む目標量に依存して行
い、前記製造速度が増加すると、製造される前記糸の品質は低下する、
方法。
【請求項2】
糸切れ率(13)を検出及び評価し、前記目標量は、前記糸切れ率(13)を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
制御装置及び紡績機を含む装置であって、
設定された糸特性を有する糸を製造する手段と、
設定された糸特性からの偏差としての、前記糸の品質パラメータ(15)
であって、CV値及び/又はIPI値を含む、前記糸の品質パラメータ(15)を紡績動作中に検出する手段
であって、糸クリアラとして構成される、前記品質パラメータ(15)を検出する手段と、
スピニングロータの回転数、又は、オープンエンドロータ紡績機の糸引出し速度若しくはスライバの供給速度、又は、エアジェット紡績機の引渡し速度若しくは引出し速度により定められる製造速度を調整するためのパラメータ(9)を設定する手段と
を備え、
前記制御装置は、前記品質パラメータ(15)と前記製造速度を調整するためのパラメータ(9)とを評価するように構成されており、
前記制御装置は、前記品質パラメータ(15)を含む目標量に依存して、前記制御装置を使用して、前記製造速度の調整を実行可能であるように構成されて
おり、前記製造速度が増加すると、製造される前記糸の品質は低下する、
装置。
【請求項4】
糸切れ率を検出する手段が設けられており、
前記制御装置は、前記糸切れ率(13)を評価するように構成されており、
前記目標量は、前記糸切れ率(13)を含む、
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記製造速度を調整するためのパラメータ(9)と前記目標量とを同時に表示するユーザインタフェースを含む、
請求項3又は4に記載の装置。
【請求項6】
前記パラメータ(9)の時間特性(20,21)を表示する前記制御装置は、前記製造速度及び前記目標量を調整するように構成されている、
請求項3乃至5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記目標量に対する限界値(14,16,17)を設定可能である、
請求項3乃至6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記製造速度を調整するためのパラメータ(9)の変更の提案を算出するように構成されている、
請求項3乃至7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記設定された糸特性、前記製造速度を調整するためのパラメータ(9)及び対応する前記目標量を含むデータセット(23)を調整及び記憶するように構成されている、
請求項3乃至8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記設定された糸特性を含むデータセット(23)と前記目標量についての設定された限界値とを比較し、当該比較に依存して、前記紡績機の動作のためのデータセット(25)を選択するように構成されている、
請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記制御装置は、選択されたデータセット(26)の改訂のためのインタフェースを有する、
請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記制御装置は、改訂されたデータセット(27)を適用及び記憶するように構成されている、
請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質及び生産性に関して、紡績機、特にオープンエンドロータ紡績機又はエアジェット紡績機の動作を最適化する方法に関する。本発明はまた、制御装置及び紡績機を含む装置に関する。
【背景技術】
【0002】
欧州特許第2565306号明細書(EP2565306B1)には、それぞれ算出された糸切れ率に依存してスピニングロータの回転数を自動で調整し、これにより、糸切れ率が設定された目標領域内で最大糸切れ率を下回るように当該糸切れ率を閉ループ制御する、オープンエンドロータ紡績機が開示されている。スピニングロータの回転数は、オープンエンドロータ紡績機の製造速度を直接的に定めている。スピニングロータの回転数が変化した際に設定された糸パラメータ又は糸特性を維持するために、糸引出し速度とスライバの供給速度とがスピニングロータの回転数に従って変更される。
【0003】
ロータスピニングにおいては、スピニングロータのロータ溝において糸形成が行われる。ここでは、円運動する糸端のねじりモーメントにより、堆積した繊維に撚りが加えられる。こうした撚りは、糸の引出しに必要な糸耐性を形成する。ロータ溝からの糸の引出しの際には、糸が、ロータ内での糸の円運動によって形成される遠心力よりも大きな耐性を有していなければならない。そうでないと、糸がロータの領域で既に裂断されてしまう。裂断力がほぼ一定であれば、円運動する糸端の遠心力は、ロータ回転数の増加につれて2次関数的に増加する。このため、ロータ回転数を2倍にすると、ロータの領域において4倍の糸応力が生じる。このように、ロータの領域における糸切れの危険性は、ロータ回転数の増加につれて増加する。
【0004】
オープンエンドロータ紡績機の動作時に許容可能な糸切れ率は、利用可能な糸切れ除去手段の数に依存する。ここで、糸切れ率とは、オープンエンドロータ紡績機の動作時間又は作業位置の動作時間に対する糸切れの数である。糸切れは糸継ぎによって除去される。糸継ぎは半自動で行うことができ、即ち、糸継ぎにはオペレータが必要である。糸継ぎは糸継ぎキャリッジによって自動で実行することもできる。また、糸継ぎを作業位置において自律的に自動で実行可能な機械も公知である。第1のケースにおいては、許容可能な糸切れの数は、利用可能なオペレータの数に依存する。第2のケースにおいては、許容糸切れ率は、糸継ぎキャリッジの数によって決定される。作業位置での自律的な糸継ぎにおいては、充分な負圧の供給が損なわれることなく、どれだけの数の糸継ぎが並行して実行可能であるかが重要である。上述した条件に基づいて、最大許容糸切れ率を設定することができる。
【0005】
よって、糸が製造される速度、ひいてはオープンエンドロータ紡績機の生産性は、ロータ回転数が増加するにつれて増加する。このため、スピニングロータを最大可能回転数で運転することが所望されている。
【0006】
独国特許出願公開第102004053505号明細書(DE102004053505A1)には、糸切れの数が増加した場合に製造速度を低減し、糸切れの数が低下した場合に製造速度を増加することにより、エアジェット紡績機の生産性を最適化する方法が開示されている。よって、ここでも、糸切れ率に依存して製造速度が調整される。製造速度を変化させるために、引渡し速度と引出し速度とが対応して調整される。引渡し速度に対して糸撚りを一定に維持するために、対応して、圧縮空気が製造速度に依存して調整される。
【0007】
上掲の刊行物においては、専ら、紡績機の生産性が観察されている。しかし、製造される糸の品質も同様に決定的に重要である。従って、従来技術においては、例えば欧州特許第0877108号明細書(EP0877108B1)に記載されているようないわゆる糸クリアラが公知である。
【0008】
糸クリアラは、糸の製造中、測定可能な糸特性を検出する。このようにして糸欠陥が特定される。除去限界により、どの糸欠陥が除去され、どの糸欠陥が糸に残存しているかが判別可能となる。糸欠陥の除去のほか、糸クリアラは、糸の品質の評価も行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第2565306号明細書(EP2565306B1)
【文献】独国特許出願公開第102004053505号明細書(DE102004053505A1)
【文献】欧州特許第0877108号明細書(EP0877108B1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、糸の製造において生産性及び品質の双方を最適化することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
当該課題は、品質及び生産性に関して、紡績機の動作を最適化する方法により解決される。本発明に係る方法によれば、設定された糸特性を有する糸が製造され、糸の品質パラメータが紡績動作中に検出され、製造速度を調整するためのパラメータが設定され、品質パラメータと製造速度を調整するためのパラメータとが評価され、製造速度の調整が、品質パラメータを含む目標量に依存して行われる。
【0012】
最適化は、好適には、オープンエンドロータ紡績機又はエアジェット紡績機に対して行われる。
【0013】
糸特性とは、例えば、糸番手及び糸撚りである。また、使用される原材料も糸特性に影響する。糸特性は、好適には、機械パラメータ及び/又は製造パラメータによっても設定可能である。これには特に、紡績手段、例えばスピニングロータ、コーミングローラ、引出しノズル又は紡糸ノズルが含まれる。さらに、紡糸負圧又は紡糸圧、紡糸装置によって加えられる延伸及び加えられる撚りも重要である。オープンエンドロータ紡績機においては、引出し速度とスライバ供給とロータ回転数との比も重要である。エアジェット紡績機においては、紡糸圧と引渡し速度との比が重要である。
【0014】
品質パラメータは、好適には、設定された糸特性からの偏差を記述している。糸の製造を最適化するために、特に好適には、CV値及び/又はIPI値が使用される。CV値は、この場合、糸の均質性の尺度であり、糸が不均質となるにつれ、CV値は増加する。IPI値とは、個別に見れば障害とは判断されない、いわゆる頻繁な糸欠陥(不完全性)である。その大部分は、ショートディフェクトマトリクス(Kurzfehler-Matrix)において動作させられる除去領域の下方にある。IPI値は、厚部、薄部及びネップを表すことができる。
【0015】
既に上述したように、オープンエンドロータ紡績機での製造速度を調整するためのパラメータとして、特にロータ回転数が考慮される。この場合、糸特性を維持するために、供給と引出し速度とを対応して調整しなければならない。エアジェット紡績機においては、製造速度を調整するためのパラメータとして、引渡し速度を選定することができる。紡糸圧は、糸特性を維持するために、引渡し速度に従って調整される。
【0016】
本発明は、紡績機の製造速度が製造される糸の品質に直接的に影響するとの認識を基礎としている。製造速度が増加すると、製造される糸の品質は低下する。品質パラメータに依存して製造速度を調整することにより、所望の品質を維持しつつ、最大の生産性を達成することができる。生産性をより高めるために、品質パラメータの限界を調整することができる。
【0017】
最適化は紡績機全体に対して行うことができ、即ち、全ての作業位置が同等の製造速度で運転される。この場合、調整は、好適には、平均値に基づいて、又は、パイロット紡糸位置での製造速度及び品質パラメータの評価に基づいて、行われる。また、各作業位置を個々に最適化することもできる。このためには、個々の個別駆動部を備えた自律的な作業位置が必要である。各作業位置は、固有の個々の製造速度で製造を行うことができる。これにより、各作業位置につき、品質パラメータについての種々の限界と種々の糸特性とを設定することもできる。同等の糸特性を有する糸を製造する複数の作業位置を最適化のためにグループにまとめてもよい。
【0018】
好適には、製造速度の調整は、品質パラメータを含む目標量に依存して、制御装置を使用して行われる。この場合、制御装置は、好適には人工知能を有するように構成可能である。
【0019】
相応に、上記課題は、制御装置及び紡績機を含む装置により解決される。当該装置は、設定された糸特性を有する糸を製造する手段と、糸の品質パラメータを紡績動作中に検出する手段と、製造速度を調整するためのパラメータを設定する手段とを備えている。本発明によれば、制御装置が、品質パラメータと製造速度を調整するためのパラメータとを評価するように構成されており、制御装置が、品質パラメータを含む目標量に依存して、制御装置を使用して、製造速度の調整を実行可能であるように構成されている。
【0020】
制御装置は、紡績機の一部であってよく、当該ケースにおいては、好適には中央制御装置及び/又は作業位置制御部として構成される。組み込まれた制御装置は、本発明での最適化におけるタスクのほか、好適には紡績機の公知の制御機能も担当する。ただし、制御装置は、(空間的に)紡績機から独立していてもよい。必要とされるのは、要求されるデータが制御装置と紡績機との間で交換可能であることのみである。このために、例えば、紡績工場内で、制御装置を、ネットワークを介して紡績機に接続することもできる。この場合、制御装置は、最適化のために、紡績工場の他の紡績機に接続されてもよい。以下においてさらに説明する特定の実施形態においては、インターネットへの制御装置及び紡績機の接続が有利であり得る。制御装置は、好適には、PC、ラップトップコンピュータ又はタブレットとして構成可能であり、又は、これらを含み得る。
【0021】
糸を製造する手段は、好適には紡糸装置として、特にはオープンエンドロータ紡績機又はエアジェット紡績機として構成される。糸の品質パラメータを検出する手段は、好適には糸クリアラとして構成される。製造速度を調整するためのパラメータの設定のために、操作装置を設けることができる。
【0022】
本発明に係る方法の有利な発展形態によれば、糸切れ率が検出及び評価され、目標量が当該糸切れ率を含む。即ち、目標量とは、当該構成においては、品質パラメータ及び糸切れ率の双方を含む。即ち、製造速度の調整は、品質パラメータと糸切れ率との双方に依存して行われる。製造速度の調整は、好適には、品質パラメータ及び糸切れ率の双方が設定された限界内に入るように行われる。このようにすることにより、生産性及び品質の双方を最適に調整することができる。こうして、製造速度が、発生する糸切れを除去し得る大きさまでにしかならないことを保証することができる。また、製造速度は、品質パラメータが設定された限界内に入る程度に制限される。
【0023】
従って、本発明に係る装置の有利な構成においては、糸切れ率を検出する手段が設けられ、制御装置は、糸切れ率を評価するように構成され、目標量は、糸切れ率を含む。糸切れは、それ自体は公知の手法で、糸モニタ又は糸クリアラを使用して特定することができる。相応の評価装置により、糸切れが評価されて糸切れ率が算出される。評価装置は制御装置の一部であってもよい。
【0024】
制御装置は、好ましい実施形態によれば、製造速度を調整するためのパラメータと目標量とを同時に表示するユーザインタフェースを含む。即ち、製造速度を調整するためのパラメータのほか、ユーザインタフェースには、少なくとも品質パラメータが表示される。目標量の構成に応じて、他の品質パラメータ及び/又は糸切れ率がユーザインタフェースに表示される。好適には、同一のユーザインタフェースを介して、製造速度を調整するためのパラメータを変更することもできる。オペレータは、製造速度の調整に必要な関連する全ての情報を受け取る。このように、ユーザインタフェースを使用することにより、オペレータにとって当該調整が容易となる。ユーザインタフェースは、紡績機の操作装置の一部であってもよいし、又は、PC、ラップトップコンピュータ若しくはタブレットのスクリーンであってもよい。
【0025】
製造速度を調整するためのパラメータの時間特性及び目標量の時間特性をユーザインタフェースに表示すると特に明瞭である。これにより、オペレータは、製造速度の変化がどのように目標量に作用するかを容易に認識することができ、製造速度を増加させ得るかどうか、又は、これを低下させるべきかどうかを判別することができる。
【0026】
好適には、制御装置は、目標量に対する限界値を設定可能である。好適には、品質パラメータの上方限界値及び下方限界値が設定されるか又は制御装置により設定可能である。糸切れ率とは、特に上方限界値である。また、好適には、1つ又は複数の限界値もユーザインタフェースに表示される。また、時間特性の表示としての1つ又は複数の限界値の表示も有利である。
【0027】
本発明に係る装置の可能な一実施形態によれば、制御装置は、製造速度又は製造速度を調整するためのパラメータを、設定された限界値からの目標量の偏差に依存して自動で変更するように構成される。
【0028】
制御装置は、好ましくは、製造速度を調整するためのパラメータの変更の提案を算出するように構成可能である。当該提案は、設定された限界値からの目標量の偏差に依存して算出される。各提案は、オペレータに対し、好適にはユーザインタフェースに表示される。よって、オペレータは、制御装置の対応する構成に関連して、提案を確認し、又は、手動で変更し、その後ようやく確認することができる。確認後にはじめて、制御装置により、製造速度の変更が実行される。
【0029】
紡績機の製造速度を最適に調整するために、人工知能の基本方式を使用することができる。本発明に関連して、事例ベース推論法(英語:case-based reasoning)が特に有利である。ここでは、類推により問題が解決される。これに必要な事例ベースを形成するために、制御装置は、設定された糸特性、製造速度を調整するためのパラメータ及び対応する目標量を含むデータセットを調整及び記憶するように構成される。既述のように、制御部は、好適には、インターネットへの接続部を有する。これにより、ローカルのデータセットだけでなく、他の紡績工場のデータセットも利用可能となる。こうして、事例ベースを著しく拡大し、システムの学習を促進することができる。
【0030】
記憶されたデータセットのなかから適当な事例を特定するために、制御装置は、好適には、設定された糸特性を含むデータセットと目標量の設定された限界値とを比較し、当該比較に基づいて、紡績機の動作のためのデータセットを選択するように構成される。装置は、好適には、選択されたデータセットを適用するように構成される。即ち、好適には、比較によりデータセットが選択され、好適には、紡績機が選択されたデータに基づいて運転される。
【0031】
オペレータが選択されたデータセットを評価可能かつ改訂可能とするために、制御装置は、選択されたデータセットを改訂するインタフェースを有する。
【0032】
制御装置は、好適には、改訂されたデータセットを適用及び記憶するように構成される。このようにすれば、データセットを検査し、続いて事例ベースを拡張することができる。
【0033】
本発明を以下に実施例に即して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明による最適化を実行するためのユーザインタフェースを示す図である。
【
図2】製造速度を調整するためのパラメータと目標量との時間特性を示す図である。
【
図3】事例ベース推論の基本方式にしたがった最適化を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1には、紡績機のオペレータが使用することにより、目標量に基づいて製造速度の調整を行い得る制御装置のユーザインタフェースが示されている。当該実施例においては、目標量は品質パラメータ、即ち、CV値及び糸切れ率(Yarn Breaks)を含む。CV値はパーセントにて表示される。当該実施例はオープンエンドロータ紡績機に関連している。
【0036】
ユーザインタフェースは、第一に、糸特性についての推論を与えるデータを含む。フィールド1にはロット名、フィールド2にはロット番号、フィールド3には糸番手、フィールド4には作業領域が表示される。作業領域は、最適化が行われる紡績位置を表している。ロット番号及びロット名のデータにより、いずれの時点でも、糸特性にとって重要な他の機械パラメータ及び製造パラメータのトレーサビリティが保証される。
【0037】
フィールド5には、最適化に使用される観察時間範囲(Observation time)を表示することができる。残り時間(Remaining time)はフィールド6に表示される。フィールド9には、スピニングロータの基準回転数を表示することができる。さらに、フィールド7には、最適化のためにロータ回転数を変化させる際のステップサイズ(Delta Roter Speed)を表示することができる。フィールド14には、糸切れ率の上方限界(max)が表示される。フィールド16には、CV値の下方限界(min)の入力が可能である。フィールド17においては、CV値の上方限界(max)が設定される。
【0038】
スタート面10の操作により、最適化過程が開始される。ストップ面11により、当該過程を中断又は終了することができる。紡績機の動作は、最初、基準回転数9で開始される。その時点のロータ回転数はフィールド8に表示される。運転中の製品(Production)はフィールド12に表示される。即ち、製造される糸のメートルが表示される。さらに、その時点の糸切れ率13及びCV値15も表示される。これに直接的に隣接して、設定された限界値が表示される。オペレータは、糸切れ率13及びCV値15が限界値に到達していないかどうか、また、限界値からどれだけ離れているかを一見して理解することができる。オペレータは、ロータ回転数を、直接的に基準回転数9によって、又は、キー押しによって、予め設定されたステップサイズ7だけ変化させることができる。
【0039】
代替実施形態においては、制御装置は、ロータ回転数の変化量の提案を形成するように構成されている。こうした提案は、例えばポップアップウィンドウにより表示可能である。制御装置には、糸切れ率13及びCV値15の、設定された限界値14,16,17からの偏差とステップサイズ7とに基づいて、当該提案を計算するアルゴリズムを格納することができる。オペレータは、ここで、ロータ回転数の変更を行う前に、もう一度提案を検査する機会を有する。
【0040】
製造速度の変更についてのオペレータの決定を容易にするために、有利には、製造速度を調整するためのパラメータと目標量との時間特性をグラフによって表示することができる。
図2には、こうしたグラフによる図が、再びオープンエンドロータ紡績機の例によって示されている。目標量としてCV値が示されている。
【0041】
従って、
図2には、時間(Time)に関するCV値の特性20とロータ回転数の特性21とが示されている。さらに、CV値の下方限界18及び上方限界19も示されている。観察の開始時には、CV値は設定された限界内にあるが、下方限界18まであと少ししかない。よって、ここに、ロータ回転数を増加して生産性を高める機会が生じる。ロータ回転数は複数のステップで増加される。その都度、CV値は増加し、上方限界19を超過するに至る。ロータ回転数は、最後に行われたステップ分だけ再び低減される。これにより、より高い製造速度を有する最適な動作点が見出される。なお、CV値は依然として設定された限界内にある。
【0042】
図3には、事例ベース推論の基本方式を用いた、品質及び生産性に関する紡績機の動作の最適化が示されている。ここでの過程は、大部分が自動で、例えば人工知能を有するチップを含む、本発明による制御装置により行われる。
【0043】
最適化の起点は、事例ベース又はデータベース22である。当該データベース22は、設定された条件のもとでの1つ又は複数の紡績機の最適化された動作点を含む複数のデータセット23を含む。このために、データセット23は、設定された糸特性、製造速度を調整するためのパラメータ、及び、そこから得られる目標量を含む。参照番号24は、紡績機の動作を最適化するために設定された条件を定義している。設定された条件24は、少なくとも、設定された糸特性と、目標量に対して設定された限界値とを含む。次いで、条件24とデータセット23とが比較され、条件24に最も近いデータセット23が選択される(Retrieve)。ここから、データセット25が得られる。データセット25を設定された条件のもとで適用することにより、適用されたデータセット26が得られる(Reuse)。説明している方法においては、ここまでが、好適には制御装置によって自動で行われる。制御装置は、好適には、オペレータによる改訂(Revise)を可能にするインタフェースを有する。これによりデータセット27が得られ、これが最終的にデータセット28としてデータベース22に引き渡される(Retain)。これにより、制御装置は学習し、将来の最適化のためにより大きなデータベース22にアクセス可能となる。