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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 9/02 20060101AFI20241025BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
F28F9/02 301Z
F28D1/053 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020141594
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037450
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 智
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 直孝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 章博
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第2078361(GB,A)
【文献】特開2018-169062(JP,A)
【文献】実開昭55-50475(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 9/02
F28D 1/00-1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のヘッダ間に熱交換チューブを複数積層配置した熱交換器であって、
前記ヘッダは、開放部と底部を有する樋状断面のヘッダ部材が、1つの前記ヘッダ部材における前記底部が他の前記ヘッダ部材の前記開放部を塞ぐように、前記熱交換チューブの積層方向に沿って積層されており、
前記ヘッダ部材の側部には、前記熱交換チューブの端部が嵌装される嵌装孔が設けられていることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記熱交換チューブは、前記ヘッダ部材の長手方向に沿って長い扁平断面を有することを特徴とする請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
前記熱交換チューブの両端にそれぞれ前記ヘッダ部材を接続することで一組の熱交換モジュールを構成し、
前記熱交換モジュールが複数積層されていることを特徴とする請求項1又は2記載の熱交換器。
【請求項4】
前記開放部は、当該開放部を塞ぐ前記底部が嵌合する段差部を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項5】
前記ヘッダは、
積層端の前記ヘッダ部材の前記開放部がヘッダカバーで塞がれており、
前記ヘッダ部材の長手方向端部が、前記ヘッダ部材の積層方向に延在するキャップで塞がれていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項6】
前記ヘッダ部材の側部には、前記嵌装孔が、前記ヘッダ部材の長手方向に沿って複数設けられており、
前記ヘッダ部材は、前記嵌装孔の間に、前記ヘッダ部材内を仕切る仕切りが挿入される仕切り溝を備えることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項7】
前記嵌装孔は、前記ヘッダ部材の長手方向に対して傾斜角を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項8】
前記嵌装孔は、前記ヘッダ部材の長手方向に交差する方向に凸状の円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の熱交換器。
【請求項9】
前記ヘッダ部材は、積層された前記ヘッダ部材間を区画する前記底部を有する第1のヘッダ部材と、積層された前記ヘッダ部材間を連通させる連通部を有する第2のヘッダ部材とを備え、
前記ヘッダは、前記第1のヘッダ部材と前記第2のヘッダ部材とが任意に積層されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジエータ、エバポレータ、コンデンサ、ヒータコアなどの熱交換器は、扁平断面形状等で表面積を大きくした熱交換チューブに冷媒等の熱媒体を流通させ、熱交換チューブの表面或いは熱交換チューブの表面に接する熱交換フィンを介して、熱媒体と熱交換チューブ周囲の流体(例えば、空気)との間の熱交換を行っている。このような熱交換器は、熱交換チューブの端部に、ヘッダ(或いはヘッダタンク)と呼ばれる熱媒体の流通溜まり部材が接続されており、このヘッダを介して複数の熱交換チューブへの熱媒体の流出入が行われている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-210141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した熱交換器は、ヘッダのサイズをより小さくすることで、熱交換器全体の外形サイズに対する熱交換領域を大きくすることができ、コンパクトで熱交換性能の高い熱交換器を得ることができる。
【0005】
しかしながら、従来の熱交換器におけるヘッダ構造では、ヘッダの長手方向と扁平状の熱交換チューブにおける幅方向断面の長手方向(幅方向)が直交しており、扁平状の熱交換チューブが挿入される孔が、ヘッダの長手方向に沿って複数設けられる構造になっている。またヘッダは略環状の構造をしているため、チューブの幅方向のヘッダ寸法は同方向のチューブの幅方向の寸法よりも大きくする必要がある。このため、チューブの幅方向の寸法が大きくなるほど、ヘッダのチューブ幅方向における寸法も大きくなるため、耐圧強度の関係上、ヘッダの肉厚を大きくせざるを得ず、熱交換器に占めるヘッダ部分の容積が大きくなり、熱交換器全体の外形サイズに対する熱交換領域が小さくなって、熱交換性能が低下してしまう。そして、このような問題は、熱交換領域の拡大を図るべく、熱交換チューブにおける幅方向の寸法を大きくすればする程、より顕在化することになる。
【0006】
また、従来の熱交換器におけるヘッダの構造では、ヘッダの長手方向に沿って、熱交換チューブが積層されているので、熱交換チューブの積層数を増やして熱交換器のサイズを変更するには、長さを変えたヘッダをサイズ変更の度に用意する必要がある。このため、熱交換器のサイズ変更を簡易に行うことができず、設置スペース等を考慮して熱交換器のサイズを任意に調整することが困難になる問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に対処するために提案されたものであり、熱交換チューブにおける幅方向の寸法に依らず、ヘッダのサイズを小さくして、熱交換器の外形サイズに対する熱交換領域の拡大を図ること、熱交換器のサイズ変更を簡易且つ任意に行えるようにして、設置スペース等に合わせた熱交換器のサイズ調整を容易にすること、などが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
一対のヘッダ間に熱交換チューブを複数積層配置した熱交換器であって、前記ヘッダは、開放部と底部を有する樋状断面のヘッダ部材を、1つの前記ヘッダ部材における前記底部が他の前記ヘッダ部材の前記開放部を塞ぐように、前記熱交換チューブの積層方向に沿って積層されており、前記ヘッダ部材の側部に、前記熱交換チューブの端部が嵌装される嵌装孔が設けられていることを特徴とする熱交換器。
【発明の効果】
【0009】
このような特徴を有する本発明の熱交換器は、熱交換チューブにおける幅方向の寸法に依らず、ヘッダのサイズを小さくして、熱交換器の外形サイズに対する熱交換領域の拡大を図ることができる。また、このような特徴を有する本発明の熱交換器は、ヘッダ部材の積層数を変えることで、熱交換器のサイズ変更を簡易且つ任意に行うことができ、設置スペース等に合わせて熱交換器のサイズ調整を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】熱交換器の一例の外観斜視図。
図2】一組の熱交換モジュールの分解斜視図。
図3】ヘッダ部材(第1のヘッダ部材と第2のヘッダ部材)の説明図((a1),(a2)が側面図、(b1),(b2)が平面図,(c1),(c2)が正面図)。
図4】ヘッダにおけるヘッダ部材の積層状態と熱交換チューブを通過する熱媒体の流れを示す説明図。
図5】ヘッダ部材の他の構成例を示した説明図。
図6】熱交換器の組み立て(熱交換モジュールとフィンの配置)を説明する説明図。
図7】熱交換器の組み立て(キャップ,仕切り,ヘッダカバー,サイドプレートの取り付け)を説明する説明図。
図8】熱交換器の組み立て(挿入式のキャップや仕切りの取り付け)を説明する説明図。
図9】(a)が挿入式のキャップの断面図、(b)が挿入式の仕切りの断面図。
図10】ヘッダ部材の他の構成例を示した説明図((a)が斜視図、(b)が側面図、(c)が正面図、(d)が底面図)。
図11】一組の熱交換モジュールの他の構成例を示した説明図。
図12】ヘッダ部材の他の構成例を示した説明図((a)が斜視図、(b)が側面図、(c)が正面図、(d)が底面図)。
図13図11に示した熱交換モジュールを複数積層した熱交換器を示した説明図。
図14】ヘッダの構成例を示した説明図。
図15】ヘッダの構成例を示した説明図。
図16】熱交換器の実施例を示した斜視図。
図17】熱交換器の実施例を示した斜視図。
図17A図17のA部拡大図。
図18図17に示した熱交換器のヘッダ部を示した説明図。
図18A図18のB部拡大図。
図19】ヘッダ部材の他の構成例を示した説明図((a)が斜視図、(b)が正面図、(c)が平面図、(d)が背面図)。
図20】熱交換器の実施例を示した斜視図。
図21図20に示した熱交換器に用いられるヘッダ部材の説明図((a)が第1のヘッダ部材、(b)が第2のヘッダ部材)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。図示矢印のX,Y,Z方向は、互いに直交する異なる方向を示しており、各方向は、重力方向との関係が示されていない場合は、重力方向とは無関係である。また、以下の説明における「上」「下」は、図示上の表現であって、重力方向に対する上下を意味していない。
【0012】
図1に示すように、熱交換器1は、複数の熱交換チューブ2と、熱交換チューブ2の両端にそれぞれ接続される一対のヘッダ3とを備えている。図示の例では、熱交換チューブ2は、扁平断面形状を有しており、内部に熱媒体を流通させる流路が形成されている。熱交換チューブ2は、図示X方向に長い扁平断面を有し、図示Y方向に沿って熱媒体を流すように延設されている。
【0013】
ヘッダ3は、複数積層された熱交換チューブ2のそれぞれに熱媒体を流入させるか、熱交換チューブ2から熱媒体を流出させるための溜まり流路であり、図2に示すヘッダ部材30が複数積層された構造を有している。
【0014】
ヘッダ部材30は、図2に示すように、開放部31と底部32と側部33を有する樋状断面(略コ字状断面)を有しており、熱交換チューブ2の扁平断面の長手方向(図示X方向)に延在している。
【0015】
熱交換器1は、図2に示すように、熱交換チューブ2の両端にそれぞれヘッダ部材30を接続することで、一組の熱交換モジュール1Mを構成している。熱交換ユニット1Mは、一対のヘッダ部材30の間に熱交換チューブ2を備え、熱交換ユニット1Mを複数積層することで、熱交換器1が構成されている。
【0016】
一組の熱交換モジュール1Mは、図2に示すように、2つの熱交換チューブ2(2A,2B)が扁平断面の長手方向(図示X方向)に並列配置されており、各々の熱交換チューブ2(2A,2B)の端部が、ヘッダ部材30の側部33に設けられた嵌装孔33Aに嵌装されている。ここでは、一組の熱交換モジュール1Mは2つの熱交換チューブ2(2A,2B)を備えているが、1つの熱交換チューブ2で一組の熱交換モジュール1Mを構成することもできる。
【0017】
ヘッダ部材30は、ヘッダ3内の熱媒体の流路を形成するために必要な形態を有している。図3に示す例では、側面図(a1),平面図(b1),正面図(c1)で示した第1のヘッダ部材30Aと、側面図(a2),平面図(b2),正面図(c2)で示した第2のヘッダ部材30Bとに分けられる。
【0018】
第1のヘッダ部材30Aは、底部32に連通部が存在しない形態、すなわち、底部32によって積層されたヘッダ部材30間を区画する形態になっている。第2のヘッダ部材30Bは、底部32に連通部(連通孔)32Aが設けられている形態、すなわち、底部32の連通部32Aを介して積層されたヘッダ部材30間を連通させる形態になっている。
【0019】
ヘッダ部材30は、複数(図2の例では2つ)の熱交換チューブ2(2A,2B)を接続するために、嵌装孔33Aが、ヘッダ部材30の長手方向(図示X方向)に沿って側部33に複数並列されている。また、嵌装孔33Aの間には、ヘッダ部材30内を仕切る仕切りを挿入する仕切り溝34が設けられている。図2に示す例では、1つの熱交換モジュール1Mに、2つの熱交換チューブ2(2A,2B)を設ける例を示しているが、2つ以上の複数の熱交換チューブ2を設ける場合には、ヘッダ部材30の長手方向に沿って複数の嵌装孔33Aが設けられることになり、隣接する嵌装孔33Aの間に、流通路の形態に応じて適宜仕切り溝34が設けられる。また、1つの熱交換モジュール1Mに、1つの熱交換チューブ2を設ける場合には、前述した仕切り溝34は不要になる。
【0020】
ヘッダ3を構成するには、図4に示すように、開放部31と底部32を有する樋状断面(略コ字状断面)のヘッダ部材30は、1つのヘッダ部材30における底部32が他のヘッダ部材30の開放部31を塞ぐように、熱交換チューブ2の積層方向に沿って積層される。図4に示す例では、ヘッダ部材30の開放部31は、この開放部31を塞ぐ底部32が嵌合する段差部31Aを有している。
【0021】
ヘッダ部材30を積層する際に、前述した第1のヘッダ部材30Aと第2のヘッダ部材30Bを交互に積層することで、図4に示すように、連通部32Aを通過する熱媒体の流れを形成することができる。第1のヘッダ部材30Aと第2のヘッダ部材30Bは、熱媒体の流れに着目すると、底部32にて積層されたヘッダ部材30間を区画する第1のヘッダ部材30Aは、熱交換チューブ2の流入端が嵌装孔33Aに嵌装されている。また、底部32に連通部32Aを有する第2のヘッダ部材30Bは、熱交換チューブ2の流出端が嵌装孔33Aに嵌装されている。
【0022】
ヘッダ部材30は、金属板のプレス成形やロール成形などで製造することができるが、押し出し成形によっても製造することができる。図5には、押し出し材からなるヘッダ部材30の例を示している。これによると、ヘッダ部材30の長手方向断面の肉厚を場所毎に変えることができ、構造上耐圧的に弱いところの肉厚を厚くして、耐圧強度を高めることができる。
【0023】
熱交換器1を組み立てる際には、図6に示すように、熱交換モジュール1Mとフィン4を交互に積層し、ヘッダ部材30を、図4に示すように積層した状態で組み付ける。
【0024】
ヘッダ部材30を組み付けた後は、図7に示すように、積層され組み付けられたヘッダ部材30の長手方向端部にキャップ5を取り付けて、ヘッダ部材30の両端部を塞ぐ。キャップ5は、ヘッダ部材30の積層方向(図示Z方向)に延在する板状部材であり、ヘッダ部材30に設けられている嵌合部35(図3参照)に嵌合される。
【0025】
また、ヘッダ部材30を組み付けた後には、図7に示すように、ヘッダ部材30の仕切り溝34に、仕切り6が嵌め込まれる。仕切り6は、ヘッダ部材30の積層方向(図示Z方向)に延在する板状部材であり、ヘッダ部材30の長手方向の内部を区画する。
【0026】
図7に示した例では、熱媒体の流通路を形成するために、仕切り6に連通口6Aが設けられている。連通口6Aは、仕切り6で区画されたヘッダ部材30の長手方向を部分的に連通させる。図示の例では、最上段のヘッダ部材30の側部33に熱媒体の流入口33Bと流出口33Cを設けて、最下段のヘッダ部材30における仕切り6の区画を連通させるために連通口6Aが設けられている。
【0027】
図7に示した例では、流入口33Bから流入した熱媒体は、仕切り6で仕切られたヘッダ部材30の長手方向左側(流入口33B側)を通って、図4に示すように、積層された熱交換チューブ2を上方から下方に流れ、連通口6Aが内部に設けられた最下段のヘッダ部材30にて、連通口6Aを通って仕切り6で区画されたヘッダ部材30の長手方向右側(流出口33C側)に流れ、積層された熱交換チューブ2を下方から上方に流れて、流出口33Cから流出される。
【0028】
図7に示した例では、ヘッダ3における積層端(最上段)のヘッダ部材30の開放部31は、ヘッダカバー7で塞がれている。ヘッダカバー7は、ヘッダ部材30の長手方向に延在する板状部材である。また、複数積層された熱交換モジュール1Mの積層端(最上段及び最下段)には、サイドプレート8が必要に応じて取り付けられている。
【0029】
図7に示した例では、ヘッダ3における積層端(最上段)のヘッダ部材の側部33に設けられた熱媒体の流入口33Bと流出口33Cには、配管を接続するために図示しない接続部材が設けられている。
【0030】
図7に示した例では、全ての部品を図1に示すように組み付けた状態で、組み付けられたヘッダ部材30などの各部をろう付けなどで接合する。
【0031】
キャップ5と仕切り6は、図7に示した例では、側方から嵌め込むようにしてヘッダ部材30に取り付けているが、図8に示すように、ヘッダ部材30やヘッダカバー7に、積層方向(図示Z方向)に連なる挿入孔36を設けて、挿入孔36に挿入することで、キャップ5と仕切り6をヘッダ部材30に取り付けるようにしてもよい。この際に、図9に示すように、キャップ5と仕切り6に、図示X方向に突出する突き当て部5P,6Pを設けて、熱交換チューブ2の端部を突き当て部5P,6Pに突き当てることで、熱交換チューブ2の嵌合状態を位置決めしている。
【0032】
熱交換チューブ2は、ヘッダ部材30の長手方向に沿って長い扁平断面を有しているが、扁平断面の長手方向と熱媒体の流通方向を重力方向に対して直交配列した場合には、熱交換チューブ2の表面に付着した凝縮水や室外使用時の雨水を円滑に排水することが難くなる。
【0033】
これに対しては、図10に示すように、ヘッダ部材30に設ける嵌装孔33Aを、ヘッダ部材30の長手方向に対して傾斜角を有するように形成する。これによって、一組の熱交換モジュール1Mは、図11に示すように、熱交換チューブ2の表面を重力方向に対して傾斜した状態にすることができる。図10及び図11に示した例では、2つの嵌装孔33Aの方向(熱交換チューブ2の幅方向断面の長手方向(幅方向))を平行にしているが、2つの嵌合孔33Aの方向をハの字状又は逆ハの字状にしてもよい。
【0034】
このように、熱交換チューブ2を傾斜して配備すると、熱交換チューブ2の表面に付着する凝縮水などは、傾斜に沿って重力方向下側に流れ円滑な排水が可能になる。また、熱交換チューブ2における幅方向をヘッダ部材30の長手方向に対して傾斜させると、ヘッダ部材30の長手方向に沿って配備される熱交換チューブ2における幅方向を傾斜分だけ長く設定することができるので、熱交換チューブ2の伝熱面積を広げて熱交換領域を広げることができる。これにより、排水性の向上を図りながら、熱交換器の外形サイズに対する熱交換効率を高めることができる。
【0035】
図12に示したヘッダ部材30は、図10に示した例の変形例であり、嵌装孔33Aが、ヘッダ部材30の長手方向に交差する方向に凸状の円弧状に形成されている。このような円弧状の嵌合孔33Aに、扁平断面の熱交換チューブ2の表面を湾曲させて嵌装させることで、前述した例と同様に、排水性の向上を図りながら、熱交換器の外形サイズに対する熱交換効率を高めることができる。円弧断面の熱交換チューブ2は押し出し成形によって製造することができる。
【0036】
図13は、図11に示した熱交換モジュール1Mを複数図示Z方向に積層した熱交換器1を示している。この例では、ヘッダ部材30の長手方向に対して傾斜して配備される2つの熱交換チューブ2上に、フィン4を2つのフィン4A,4Bに分割して配置している。図示の例では、2つのフィン4A,4Bは、ヘッダ部材30の長手方向に対して平行に傾斜した2つの熱交換チューブ2上に配置されているが、2つの熱交換チューブ2が、ハの字状に傾斜している場合には、フィン4は山状に屈折した状態で、2つの熱交換チューブ2上に配置されることになる。また、図示の例では、下側のサイドプレート8の中央に排水溝8Aが設けられている。
【0037】
図14及び図15は、ヘッダ3の他の構成例を示している。前述したように、ヘッダ部材30を積層してヘッダ3を形成すると、ヘッダ部材30の底部32に設けた連通部32Aがヘッダ3の耐圧強度を低下させる。これに対処するために、連通部32Aの周囲の特定部分だけヘッダ部材30の肉厚を増やすことは、一定の肉厚の一枚の金属板でヘッダ部材30を形成する場合、生産技術上困難である。また、単純に、ヘッダ部材30全体の肉厚を増やして対応しようとすると、強度的に問題の無い部分の肉厚まで増やすことになり、重量やコストが不必要に増加してしまう問題が生じる。
【0038】
図14及び図15は、前述した問題を解決するための構成例である。図14に示した例は、積層されるヘッダ部材30の間に、連通部を有する板材である補強用連通プレート40を挟む構造を採用している。補強用連通プレート40は、ヘッダ部材30の開放部31における段差部31A上に設置され、設置された補強用連通プレート40の上に、積層される他のヘッダ部材30の底部32が載置される。当然ながら、補強用連通プレート40の連通部(図示省略)とその上に積層されるヘッダ部材30の底部32における連通部32Aは、重なった状態になる。最終的には、ヘッダ部材30の底部32と開放部31と補強用連通プレート40は、ろう付けなどで一体に接合されてヘッダ3が形成される。
【0039】
図14に示した例では、ヘッダ部材30の強度を増やす必要のない部分については肉厚を増やさず、強度を高める必要のある連通部のある部分だけ肉厚を増加させることができる。これによって、材料コスト、加工コスト、生産性等を犠牲にすることなく、重量増を必要最小限に抑えて、ヘッダ3全体としての耐圧強度を十分な強度にすることができる。
【0040】
図15に示した例は、ヘッダ部30を開放部31に段差部31Aを設けない形態(シンプルなコ字状断面)にして、積層されるヘッダ部材30の間に、連通部を有する断面H字型の部材である補強用連通部材41を挟む構造にしている。補強用連通部材41は、ヘッダ部材30の底部32を載置する面の角部を、ヘッダ部材30の底部32の外形が密着するR形状にしており、補強用連通部材41の上側には、ヘッダ部材30の底部32が密着し、補強用連通部材41の下側には、ヘッダ部材30の開放部31が密着する構成にしている。最終的には、ヘッダ部材30の底部32と開放部31と補強用連通部材41は、ろう付けなどで一体に接合されてヘッダ3が形成される。
【0041】
図15に示した例は、図14に示した例と同様に、ヘッダ部材30の強度を増やす必要のない部分については肉厚を増やさず、強度を高める必要のある連通部のある部分だけ肉厚を増加させることができ、生産性を犠牲にすることなく、重量増を必要最小限に抑えて、ヘッダ3全体としての耐圧強度を十分な強度にすることができる。また、図15に示した例は、ヘッダ部材30と補強用連通部材41が密着していることで、結露水などが溜まる隙間部分を排除でき、冷凍パンクなどの不具合が発生するリスクを抑えることができる。
【0042】
以下に、熱交換器1のより具体的な実施例及び変形例を示す。以下の説明で図示矢印のX,Y,Z方向は、前述した説明に対応しており、X方向がヘッダ部材30の長手方向、Y方向が熱交換チューブ2の延設方向(熱媒体の流れ方向)、Z方向が熱交換モジュール1M(ヘッダ部材30)の積層方向をそれぞれ示している。なお、前述した説明と共通する部位には同一符号を付して重複説明を適宜省略する。
【0043】
図16に示した熱交換器100は、エバポレータ、室内コンデンサ、ヒータコアなどに適用可能な例であり、図示Y方向の熱交換チューブ2の延設方向(熱媒体の流れ方向)を重力方向にして、熱交換チューブ2を流れる熱媒体(冷媒)と複数の熱交換チューブ2間を通過する空気とが熱交換する。
【0044】
ヘッダ部材30及び熱交換チューブ2における熱媒体の流れは、ヘッダ部材30内の仕切りやヘッダ部材30における連通部の設置を適宜行うことで任意に設定することができる。
【0045】
図17に示した熱交換器101は、ラジエータなどに適用可能な例であり、ヘッダ部材30の積層方向を重力方向にして、熱交換チューブ2を流れる熱媒体(冷媒)と複数の熱交換チューブ2間を通過する空気とが熱交換する。熱交換器101は、重力方向と交差する方向に熱交換チューブ2が延在しており、熱交換チューブ2の扁平な幅方向がヘッダ部材30の長手方向(図示X方向)に対して傾斜して取り付けられている。フィン4は、熱交換チューブ2に接する位置(熱交換チューブ2の間)に適宜配備されるが、一部図示省略している。
【0046】
熱交換器101は、熱交換チューブ2の左右端部にヘッダ部101Aが配備されている。ヘッダ部101Aは、熱媒体出入口9Aを有するタンク9と、図18に示すような、ヘッダ3、サイドキャップ10、アッパーキャップ11、ロワーキャップ12を備えている。
【0047】
ヘッダ3は、前述しているように、ヘッダ部材30を複数積層した構造を有している。各ヘッダ部材30は、一方の側部33に嵌装孔33Aを有し、それに対向する側部33にタンク9内とヘッダ部材30内を連通させるタンク連通部33Dを有している。
【0048】
サイドキャップ10は、ヘッダ部材30の側方を塞ぐ部材であり、タンク9を接合するためのかしめ爪10Aを有すると共に、ヘッダ部材30の側方に突出した嵌合突起37に嵌合する嵌合孔10Bと嵌合溝10Cを有している。
【0049】
アッパーキャップ11は、ヘッダ3の上部に取り付けられ、タンク9を接合するためのかしめ爪11Aを有している。ロワーキャップ12は、ヘッダ3の下部に取り付けられ、最下段のヘッダ部材30の開放部31を塞ぎ、タンク9を接合するためのかしめ爪12Aを有している。
【0050】
タンク9は、ヘッダ3に流入する或いはヘッダ3から流出される熱媒体が内部に充填される。熱媒体出入口9Aの一方がタンク9内に熱媒体を流入する流入口になり、熱媒体出入口9Aの他方がタンク9内から熱媒体を流出する流出口になる。タンク9がヘッダ3に接合された状態では、ヘッダ部材30の嵌装孔33Aが設けられた側部33の側面以外はタンク9に内蔵される。
【0051】
図19は、ヘッダ部材30の変形例を示している。図18に示した熱交換器101では、サイドキャップ10とアッパーキャップ11とロワーキャップ12に、かしめ爪10A,11A,12Aを設けているが、図19に示すように、ヘッダ部材30の側部33にかしめ爪33Eを設けるようにしてもよい。この際のヘッダ部材30の側方は、前述した平板状のキャップ5を挿入孔36に挿入することで塞がれる。
【0052】
図20は、図17に示した例の変形例を示している。図20に示した熱交換器102は、熱交換チューブ2が図示X方向に並列配置されている。熱交換器102におけるヘッダ3は、図21に示すような第1のヘッダ部材30A(図21(a))と第2のヘッダ部材30B(図21(b))が、設定された熱媒体の流通経路に応じて適宜選択配置されている。
【0053】
熱交換器102における熱媒体の流通経路は、タンク9の内側に設けた仕切り9Bによっても適宜設定される。タンク9の内側には、タンク9内を上下に区画する仕切り部9Bが設けられるだけでなく、タンク9内を左右に区画する仕切り部(図示省略)を設けることができる。タンク9内を左右に区画する仕切り部は、ヘッダ部材30の仕切り溝34に挿入されることで、ヘッダ部材30内の延在方向を区画する。
【0054】
熱交換器102において、並列配置される2つの熱交換チューブ2上には、フィン4が配置される。
【0055】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる熱交換器1(100,101,102)は、ヘッダ部材30を積層してヘッダ3を構成することにより、熱交換チューブ2における幅方向の寸法に依らず、ヘッダ3のサイズを小さくして、熱交換器1(100,101,102)の外形サイズに対する熱交換領域の拡大を図ることができる。また、このような熱交換器1(100,101,102)は、ヘッダ部材30の積層数を変えることで、熱交換器1(100,101,102)のサイズ変更を簡易且つ任意に行うことができ、設置スペース等に合わせて熱交換器1(100,101,102)のサイズ調整を容易に行うことができる。
【0056】
特に、熱交換チューブ2の両端にそれぞれヘッダ部材を接続することで一組の熱交換モジュール1Mを構成し、この熱交換モジュール1Mを複数積層して熱交換器1を構成するものでは、モジュール化することで、熱交換モジュール1Mの積層数を変えるだけで熱交換器1の高さ寸法を容易に変更することができる。
【0057】
また、ヘッダ部材30の開放部31に、この開放部31を塞ぐ別のヘッダ部材30の底部32が嵌合する段差部31Aを設けることで、ヘッダ部材30を積層して熱交換器1を組み立てる際の組み立て性が向上すると共に、積層時のヘッダ部の位置決めが容易になる。
【0058】
また、ヘッダ部材30の側部33に、熱交換チューブ2の端部が嵌装される嵌装孔33Aが、ヘッダ部材30の長手方向に沿って複数設けられているものでは、空気の流れ方向に沿って複数の熱交換チューブ2を設けることができ、ヘッダ部材30が複数の嵌装孔33Aの間に、ヘッダ部材30を仕切る仕切り6が挿入される仕切り溝34が設けられていることで、熱交換チューブ2からなる熱交換部を複数パス形成することができる。これにより熱交換部の熱交換量を増やすことができる。
【0059】
なお、積層されるヘッダ部材30は、前述した第1のヘッダ部材30Aと第2のヘッダ部材30Bを適宜積層することで、熱交換器1に様々なパスを形成することができる。第1のヘッダ部材30Aと第2のヘッダ部材30Bの積層形態は、これらを交互に積層する形態だけでなく、圧損低減や吹出温度均一化等の目的に応じて、第1のヘッダ部材30Aと第2のヘッダ部材30Bを任意の組み合わせで積層することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,100,101,102:熱交換器,1M:熱交換モジュール,
2,2A,2B:熱交換チューブ,3:ヘッダ,
4:フィン,5:キャップ,6:仕切り,6A:連通口,
5P,6P:突き当て部,7:ヘッダカバー,
8:サイドプレート,9:タンク,9A:熱媒体出入口,9B:仕切り部,
10:サイドキャップ,10A:かしめ爪,10B:嵌合孔,10B:嵌合溝,
11:アッパーキャップ,12:ロワーキャップ,
30:ヘッダ部材,30A:第1のヘッダ部材,30B:第2のヘッダ部材,
31:開放部,31A:段差部,
32:底部,32A:連通部,
33:側部,33A:嵌装孔,
33B:流入口,33C:流出口,33D:タンク連通部,33E:かしめ爪,
34:仕切り溝,35:嵌合部,36:挿入孔,37:嵌合突起,
40:補強用連通プレート,41:補強用連通部材
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