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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】膜ろ過装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20230101AFI20241025BHJP
【FI】
C02F1/44 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020162304
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054984
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】金 翔寿
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】田島 直幸
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-299937(JP,A)
【文献】特開2019-098317(JP,A)
【文献】特開2014-172010(JP,A)
【文献】特開2020-131161(JP,A)
【文献】特開平05-345181(JP,A)
【文献】特開2005-288220(JP,A)
【文献】特開2020-124687(JP,A)
【文献】特開2009-156692(JP,A)
【文献】水野 直治,水溶液の電気伝導率に対する各種イオン濃度の影響,日本土壌肥料学会誌,1984年,55巻, 2号,103ー108ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有するろ過手段と、
前記ろ過手段からの透過水の導電率を検出する第1の導電率検出手段と、
前記ろ過手段からの濃縮水の導電率を検出する第2の導電率検出手段と、
前記ろ過手段からの透過水の流量を検出する第1の流量検出手段と、
前記ろ過手段からの濃縮水の流量を検出する第2の流量検出手段と、
前記第1および第2の導電率検出手段による検出値と、前記第1および第2の流量検出手段による検出値とに基づいて、前記ろ過手段に供給される被処理水の導電率を算出する算出手段と、を有し、
前記第1の導電率検出手段による検出値をC とし、前記第2の導電率検出手段による検出値C とし、前記第1の流量検出手段による検出値Q とし、前記第2の流量検出手段による検出値Q としたとき、前記ろ過手段に供給される被処理水の導電率は、
C=(Q /(Q +Q ))×C +(Q /(Q +Q ))×C
で与えられる、膜ろ過装置。
【請求項2】
直列に接続された複数のろ過手段であって、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有し、前記複数のろ過手段のうち最も上流側に位置する第1のろ過手段と、前記複数のろ過手段のうち前記第1のろ過手段の次に上流側に位置し、前記ろ過手段である第2のろ過手段とを含む複数のろ過手段と、
前記第1のろ過手段に被処理水を供給する供給ラインと、
前記第1のろ過手段からの透過水を流通させて前記第2のろ過手段に供給する第1の透過水ラインと、
前記第1のろ過手段からの濃縮水を流通させる第1の濃縮水ラインと、
前記第1の濃縮水ラインから分岐し、前記第1の濃縮水ラインを流れる濃縮水の一部を外部へ排出する排水ラインと、
前記第2のろ過手段からの透過水を流通させ、前記第1の流量検出手段と前記第1の導電率検出手段とが設けられた第2の透過水ラインと、
前記第2のろ過手段からの濃縮水を流通させ、前記第2の流量検出手段と前記第2の導電率検出手段とが設けられた第2の濃縮水ラインと、を有し、
前記算出手段は、前記第1および第2の流量検出手段による検出値と、前記第1および第2の導電率検出手段による検出値とに基づいて、前記第1の透過水ラインを流れる透過水の導電率を算出する、請求項1に記載の膜ろ過装置。
【請求項3】
少なくとも前記算出した導電率に基づいて、前記第1のろ過手段に劣化または詰まりの予兆があるか否かを判定する判定手段を有する、請求項に記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
前記第1のろ過手段に供給される被処理水と前記第1のろ過手段からの透過水と前記第1のろ過手段からの濃縮水とのいずれかの水温を検出する水温検出手段と、
前記供給ラインを流れる被処理水の圧力を検出する第1の圧力検出手段と、
前記第1の透過水ラインを流れる透過水の圧力を検出する第2の圧力検出手段と、
前記第1の濃縮水ラインを流れる濃縮水の圧力を検出する第3の圧力検出手段と、
前記供給ラインを流れる被処理水の導電率を検出する第3の導電率検出手段と、を有し、
前記判定手段は、前記水温検出手段による検出値と、前記第3の導電率検出手段による検出値と、前記第1から第3の圧力検出手段による検出値とに基づいて、前記算出した導電率を補正し、前記水温の変動、前記供給ラインを流れる被処理水の導電率の変動、および、前記第1の透過水ラインを流れる透過水の流量と前記排水ラインを流れる濃縮水の流量との和に対する前記第1の透過水ラインを流れる透過水の流量の割合である回収率の変動による影響を排除した導電率補正値を算出し、前記導電率補正値の経時変化から得られる第1の回帰直線の傾きに基づいて、前記ろ過手段に劣化の予兆があるか否かを判定する、請求項に記載の膜ろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水に含まれる不純物を除去する水処理装置として、逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を有する膜ろ過装置が知られている。この装置では、所定の供給圧力でRO膜またはNF膜に供給された被処理水(原水)が、RO膜またはNF膜により、透過水と濃縮水とに分離される。これにより、不純物が除去された処理水(透過水)を得ることができる。
【0003】
RO膜またはNF膜を有する膜ろ過装置では、多くの場合、水の有効利用(節水)の観点から、不純物を含む濃縮水の一部を濃縮排水として外部に排出し、残りを濃縮還流水としてRO膜またはNF膜の上流側に還流させる構成が採用されている。これにより、すべての濃縮水を濃縮排水として排出する場合に比べて、回収率(透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する透過水の流量の割合)を向上させることができ、節水を実現することができる。それと同時に、このような膜ろ過装置では、水温の変化(すなわち、水の粘性の変化)による透過水の流量変化に対応するために、加圧ポンプの回転数を制御することでRO膜またはNF膜への原水の供給圧力を調整して、透過水の流量を一定に維持する流量制御が行われている。
【0004】
ところで、透過水の流量変化は、RO膜またはNF膜の性能低下によっても発生する。例えば、残留遊離塩素を含む原水がRO膜またはNF膜に供給されると、膜は酸化して劣化することがあるが、その場合、膜厚が薄くなり膜の透過孔が大きくなることで、透過水の流量は増加する。また、水の有効利用(節水)の観点から回収率を高くすると、膜面に不純物(特に、シリカまたはカルシウム)が析出するスケーリングが発生しやすくなり、それにより、RO膜またはNF膜の詰まりが発生することがある。この場合、膜の透過孔が閉塞されることで、透過水の流量は減少する。このような透過水の流量変化は、上述した透過水の流量制御によって相殺されるが、その一方で、膜の劣化や詰まりは、膜の塩除去性能を低下させ、透過水の水質低下を引き起こしてしまう。また、膜の詰まりが進行すると、必要な原水の供給圧力が上昇して膜ろ過装置の運転ができなくなってしまう。そのため、RO膜またはNF膜を有する膜ろ過装置では、その運転状態、特に膜に劣化や詰まりが発生しているか否かを正確に把握し、迅速な対応を行うことが求められている。
【0005】
特許文献1には、RO膜の一次側および二次側に接続された、流量センサ、温度センサ、および圧力センサの検出結果に基づいて、RO膜の透過流束を算出し、算出した透過流束と初期透過流束を比較することで、RO膜に劣化または詰まりが発生しているか否かを判定する方法が記載されている。また、特許文献1には、RO膜の劣化または詰まりの有無をより正確に判定するために、電気伝導度計を用いて、RO膜のイオン除去率の変化を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-288220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、イオン除去率の検出は、RO膜に原水を供給する供給ラインとRO膜からの透過水を流通させる透過水ラインとにそれぞれ電気伝導度計(導電率計)を設置し、原水と透過水の導電率をそれぞれ検出することで行うことができる。しかしながら、RO膜の上流側にさらに別のRO膜が接続されている場合など、RO膜に供給される原水の圧力が非常に高くなることがあるが、その場合、供給ラインに設置する導電率計としては高耐圧用のものを用意しなければならず、それにはコストがかかってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、コストアップを招くことなく運転状態を正確に把握することができる膜ろ過装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の膜ろ過装置は、被処理水を透過水と濃縮水とに分離する逆浸透膜またはナノろ過膜を有するろ過手段と、ろ過手段からの透過水の導電率を検出する第1の導電率検出手段と、ろ過手段からの濃縮水の導電率を検出する第2の導電率検出手段と、ろ過手段からの透過水の流量を検出する第1の流量検出手段と、ろ過手段からの濃縮水の流量を検出する第2の流量検出手段と、第1および第2の導電率検出手段による検出値と、第1および第2の流量検出手段による検出値とに基づいて、ろ過手段に供給される被処理水の導電率を算出する算出手段と、を有している。第1の導電率検出手段による検出値をC とし、第2の導電率検出手段による検出値C とし、第1の流量検出手段による検出値Q とし、第2の流量検出手段による検出値Q としたとき、ろ過手段に供給される被処理水の導電率は、C=(Q /(Q +Q ))×C +(Q /(Q +Q ))×C で与えられる。
【0010】
このような膜ろ過装置によれば、例えば、ろ過手段に供給される被処理水の圧力が非常に高くなる場合にも、高耐圧用の導電率計を用いることなく、そのような被処理水の導電率を間接的に検出(算出)することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上、本発明によれば、コストアップを招くことなく運転状態を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。
図2】一次透過水の導電率の検出値および算出値の経時変化を示すグラフである。
図3図2に示す検出結果および算出結果に基づいてそれぞれ算出した導電率回帰直線の傾きの経時変化を示すグラフである。
図4】本発明の第2の実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。
【0015】
膜ろ過装置10は、被処理水(原水)に含まれる不純物を除去して処理水を生成する装置であり、直列に接続された2つのろ過手段11,12を有している。各ろ過手段11,12は、被処理水を、不純物を含む濃縮水と、不純物が除去された透過水とに分離する逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を有している。なお、ここでいう「直列に接続される」とは、被処理水が複数のろ過手段で順次処理されることを意味し、したがって、本実施形態では、上流側の第1のろ過手段11で分離された透過水が下流側の第2のろ過手段12に被処理水として供給されることを意味する。以下、第1のろ過手段11で分離された透過水および濃縮水をそれぞれ「一次透過水」および「一次濃縮水」ともいい、第2のろ過手段12で分離された透過水および濃縮水をそれぞれ「二次透過水」および「二次濃縮水」ともいう。
【0016】
膜ろ過装置10は、第1のろ過手段11にそれぞれ接続された複数のライン、すなわち、第1のろ過手段11に原水を供給する供給ラインL1と、第1のろ過手段11からの一次透過水を流通させて第2のろ過手段12に供給する一次透過水ライン(第1の透過水ライン)L2と、第1のろ過手段11からの一次濃縮水を流通させる一次濃縮水ライン(第1の濃縮水ライン)L3とを有している。一次濃縮水ラインL3は、2つのラインに分岐され、すなわち、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の一部を外部へ排出する排水ラインL4と、その残りを供給ラインL1に還流させる還流水ラインL5とに分岐されている。還流水ラインL5は、一次濃縮水ラインL3から分岐した後、後述する加圧ポンプ13の上流側で供給ラインL1に接続されている。なお、還流水ラインL5は、供給ラインL1に直接接続される代わりに、供給ラインL1に設けられた原水タンク(図示せず)に接続されていてもよい。
【0017】
また、膜ろ過装置10は、第2のろ過手段12にそれぞれ接続された複数のライン、すなわち、第2のろ過手段12からの二次透過水を流通させる二次透過水ライン(第2の透過水ライン)L6と、第2のろ過手段12からの二次濃縮水を流通させる二次濃縮水ライン(第2の濃縮水ライン)L7とを有している。二次濃縮水ラインL7は、後述する加圧ポンプ13の上流側で供給ラインL1に接続されている。なお、二次濃縮水は、第1のろ過手段11からの一次透過水をさらに分離したものであり、水質の観点からは必ずしも外部に排出される必要はないが、場合によっては、その一部が外部に排出されてもよく、そのための排水ラインが二次濃縮水ラインL7に接続されていてもよい。また、二次濃縮水ラインL7は、還流水ラインL5と同様に、供給ラインL1に直接接続される代わりに、原水タンクに接続されていてもよい。
【0018】
さらに、膜ろ過装置10は、後述する3つの流量制御を実行するための構成として、供給ラインL1に設けられた加圧ポンプ13と、一次濃縮水ラインL3に設けられた定流量弁14と、排水ラインL4に設けられた流量調整弁CV1および排水流量計15と、還流水ラインL5に設けられた手動弁MV1と、二次透過水ラインL6に設けられた二次透過水流量計16と、二次濃縮水ラインL7に設けられた流量調整弁CV2および二次濃縮水流量計17とを有している。加えて、膜ろ過装置10は、そのような3つの流量制御を並行して実行する制御部20を有している。
【0019】
加圧ポンプ13は、インバータ(図示せず)によって回転数が制御されるようになっており、供給ラインL1を流れる原水の圧力(第1のろ過手段11への原水の供給圧力)を調整する圧力調整手段として機能する。定流量弁14は、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量を一定に保持し、後述する3つの流量制御のうち2つの流量制御の干渉を抑制してハンチングを回避する機能を有している。流量調整弁CV1は、排水ラインL4を流れる一次濃縮水(以下、「濃縮排水」ともいう)の流量を調整する流量調整手段として機能し、排水流量計15は、濃縮排水の流量を検出する流量検出手段として機能する。手動弁MV1は、排水ラインL4を流れる一次濃縮水と還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の圧力バランスを調整する圧力調整弁として機能する。二次透過水流量計16は、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量を検出する流量検出手段として機能する。流量調整弁CV2は、二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水の流量を調整する流量調整手段として機能し、二次濃縮水流量計17は、二次濃縮水の流量を検出する流量検出手段として機能する。
【0020】
制御部20は、膜ろ過装置10の通常運転(膜ろ過)時に、3つの流量制御、すなわち、二次透過水の流量制御である第1の流量制御と、濃縮排水の流量制御である第2の流量制御と、濃縮返流水の流量制御である第3の流量制御とを並行して実行するものである。第1の流量制御では、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量が設定流量になるように加圧ポンプ13が制御される。第2の流量制御では、一次透過水ライン(第1の透過水ライン)L2を流れる一次透過水の流量から濃縮排水(排水ラインL4を流れる一次濃縮水)の目標流量が算出され、濃縮排水の流量がその目標流量になるように流量調整弁CV1の開度が制御される。第3の流量制御では、二次透過水ライン(第2の透過水ライン)L6を流れる二次透過水の流量から二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水の目標流量が算出され、二次濃縮水の流量がその目標流量になるように流量調整弁CV2の開度が制御される。以下、これら3つの流量制御の詳細について説明する。
【0021】
第1の流量制御では、二次透過水流量計16による二次透過水の検出流量(検出値)が一定(予め設定された目標流量)になるように加圧ポンプ13が制御される。例えば、水温が変化すると、水の粘性の変化により、第1のろ過手段11で分離される透過水の流量が変化し、第2のろ過手段12で分離される透過水の流量も変化する。この変化に応じて、制御部20は、インバータを通じて加圧ポンプ13の回転数を制御する。すなわち、水温が低くなると、水の粘性は高くなり、その結果、第2のろ過手段12からの二次透過水の流量が減少する。そのため、制御部20は、この減少分を補うように、加圧ポンプ13の回転数を上げることで、原水の供給圧力を増加させる。また、水温が高くなると、水の粘性は低くなり、その結果、第2のろ過手段12からの二次透過水の流量が増加する。そのため、制御部20は、この増加分を打ち消すように、加圧ポンプ13の回転数を下げることで、原水の供給圧力を低下させる。なお、加圧ポンプ13の回転数は、予め設定された上限値を上回ったり、同じく予め設定された下限値を下回ったりしないように、制御部20により制御される。そのため、加圧ポンプ13の回転数が下限値になるように制御された場合でも、二次透過水の流量が設定流量を上回ってしまう可能性があるが、このような場合を考慮して、加圧ポンプ13と第1のろ過手段11との間に、原水の供給圧力を調整するための手動弁や比例制御弁が設けられていてもよい。
【0022】
このように、加圧ポンプ13の回転数、すなわち、第1のろ過手段11への原水の供給圧力が調整されることで、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量が一定に維持される。その一方で、原水の供給圧力の変化に応じて、第1のろ過手段11で分離される濃縮水の流量も変化するが、一次濃縮水ラインL3には、上述したように定流量弁14が設けられている。そのため、第1の流量制御により、加圧ポンプ13の回転数が変化して原水の供給圧力が変化した場合にも、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量を一定に保持することができる。その結果、第1の流量制御が排水ラインL4や還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の流量に影響を及ぼすことがなくなり、後述する第2の流量制御は、第1の流量制御と干渉することなく独立して行われることになる。
【0023】
ここで、定流量弁14の規定流量は、一方では、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりが発生しない程度であればよく、他方では、圧力損失の増大によって膜を破損させない程度であればよい。ただし、定流量弁14の規定流量を必要以上に大きくすることは、加圧ポンプ13に要求される流量が必要以上に大きくなり、結果的に加圧ポンプ13のサイズが大きくなるため、エネルギー消費の点で好ましくない。そのため、定流量弁14の規定流量は、第1および第2のろ過手段11,12の透過流束と、第1および第2のろ過手段11,12に要求される濃縮水の最低流量も考慮して設定され、例えば、第1のろ過手段11として直径が約20.32cm(8インチ)のRO膜を用いる場合、1~15m/hの範囲である。なお、第1のろ過手段11(第2のろ過手段12)に要求される濃縮水の最低流量とは、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりが発生しないための一次濃縮水ラインL3(二次濃縮水ラインL7)に流すべき濃縮水の最低流量を意味する。一方で、本実施形態では、1つの加圧ポンプ13で2つのろ過手段11,12に原水を供給する必要があるため、加圧ポンプ13による第1のろ過手段11への原水の供給圧力は比較的大きくなる。そのため、定流量弁14の規定流量は、この点も考慮して設定する必要がある。例えば、2つのろ過手段11,12としてそれぞれ直径が約20.32cm(8インチ)のRO膜を用いる場合、第1のろ過手段11の適用温度範囲が5~35℃のとき、例えば、定流量弁14としては、株式会社ケイヒン製の定流量弁(品番:NSPW-25、設定流量:55L/min)を用いることができる。
【0024】
ところで、定流量弁14には、定流量弁14を正常に作動させるための作動差圧範囲(定流量弁の一次側と二次側の圧力差の許容範囲)が規定されている。そのため、例えば、第1のろ過手段11として中高圧用のRO膜を使用する場合や、水温が極端に低下した場合など、条件によっては、原水の供給圧力が著しく上昇して一次濃縮水の圧力が上昇し、定流量弁14の一次側と二次側の圧力差が作動差圧範囲を超えてしまうことがある。その場合、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量が一定に保持されないおそれがある。
【0025】
そこで、定流量弁14の上流側の一次濃縮水ラインL3に、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の圧力を減圧する(すなわち、二次側の圧力を一次側の圧力よりも低くすることができる)減圧弁が設けられていてもよい。これにより、第1のろ過手段11への原水の供給圧力が著しく上昇する場合であっても、定流量弁14の一次側と二次側の圧力差を作動差圧範囲内に収めて定流量弁14を正常に作動させることができ、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の流量を一定に保持することができる。また、減圧弁が設けられていると、定流量弁14が正常に作動して一次濃縮水の流量が増加することがないため、後述する第2の流量制御によって濃縮排水の流量が目標流量に調整される際に還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の流量が増加することがなく、加圧ポンプ13の吐出流量が増加することがない。そのため、加圧ポンプ13の揚程が低くなることで必要な透過水の流量が得られなくなるおそれもなくなる。さらに、減圧弁を設けることは、それよりも下流側の周辺部材(配管など)にそれほどの耐圧性能が要求されなくなるため、安全面で有利であるだけでなく、耐圧性能がそれほど高くない安価な汎用品が利用可能になることで、コスト面でも有利である。なお、減圧弁の種類は、一次濃縮水の圧力を定流量弁14の作動差圧範囲内に減圧することができるものであれば特に限定されるものではないが、定流量弁14の規定流量以上の流量が流れるものや、二次側の圧力が排水ラインL4や還流水ラインL5の通水差圧と排水側の背圧との合計よりも大きくなるものを選定する必要がある。
【0026】
第2の流量制御では、第1のろ過手段11の回収率(一次透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する一次透過水の流量の割合)を考慮して濃縮排水の目標流量が算出され、排水流量計15による濃縮排水の検出流量(検出値)がその目標流量になるように、流量調整弁CV1の開度が調整される。このときの回収率は、水の有効利用(節水)の観点から、できるだけ高いことが好ましい。すなわち、濃縮排水の流量はできるだけ少ないことが好ましい。しかしながら、定流量弁14により一次濃縮水の流量が一定に保持されているため、濃縮排水の流量が少なくなると、当然のことながら、還流水ラインL5から供給ラインL1に還流する一次濃縮水の流量が増加する。それにより、原水の不純物濃度が高まると、第1のろ過手段11のRO膜またはNF膜の膜面に不純物(特に、シリカまたはカルシウム)が析出するスケーリングが起こりやすくなってしまう。したがって、濃縮排水の流量は、一次濃縮水の不純物濃度が溶解度以上の濃度にならない範囲で回収率が最大になるように、すなわち、不純物であるシリカまたはカルシウムが析出しない範囲で回収率が最大になるように設定される。
【0027】
ただし、不純物の溶解度は、水温に応じて変化する。例えば、シリカの場合、その溶解度は温度上昇に比例して増加し、カルシウム(炭酸カルシウム)の場合、温度が上昇するにつれてその溶解度は減少する。そのため、水温が低い場合には、シリカの溶解度が相対的に低く、シリカが析出しやすい(シリカスケールが発生しやすい)が、水温が高くなると、カルシウムの溶解度が相対的に低くなるため、カルシウムが析出しやすく(カルシウムスケールが発生しやすく)なる。そこで、供給ラインL1には、第1のろ過手段11に供給される原水の水温を検出する温度センサ21が設けられており、この温度センサで検出された水温に基づいて、濃縮排水の最適な目標流量が算出される。なお、温度センサ21は、第1のろ過手段11からの透過水と濃縮水のいずれかの水温を検出するようになっていてもよく、すなわち、一次透過水ラインL2または一次濃縮水ラインL3に設けられていてもよい。
【0028】
具体的には、まず、検出された水温でシリカが析出する理論上の回収率(以下、「シリカの析出回収率」という)と、検出された水温でカルシウム(炭酸カルシウム)が析出する理論上の回収率(以下「カルシウムの析出回収率」という)が算出される。なお、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率のそれぞれの算出方法については後述する。次に、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率とが比較され、目標回収率として、より小さい方の析出回収率が設定される。そして、この目標回収率と、制御部20により間接的に検出された一次透過水の流量とに基づいて、以下の式(1)により、濃縮排水の目標流量が算出されて設定される。
(濃縮排水の目標流量)=
(一次透過水の検出流量/目標回収率)-(一次透過水の検出流量) (1)
【0029】
なお、一次透過水の流量の間接的な検出は、二次透過水流量計16と二次濃縮水流量計17を用いて行うことができる。すなわち、一次透過水の検出流量は、二次透過水流量計16により検出された二次透過水の流量と、二次濃縮水流量計17により検出された二次濃縮水の流量との和として算出(取得)することができる。ただし、一次透過水ラインL2に図示しない流量計が設けられていてもよく、それにより、一次透過水の流量を直接検出するようになっていてもよい。
【0030】
スケーリングの発生を確実に抑制するという観点からは、安全率を加味し、上記式(1)で算出された目標流量を上回る流量を濃縮排水の設定流量として設定することもできるが、節水の観点からは、算出された目標流量を濃縮排水の設定流量として設定することが好ましい。なお、回収率(目標回収率)として、通常は、パーセントで表した値が用いられるが、上記式(1)では、小数で表した値が用いられることは言うまでもない。
【0031】
ここで、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率の算出方法についてそれぞれ説明する。
【0032】
(シリカの析出回収率の算出方法)
シリカの析出回収率Yは、検出された水温でのシリカの溶解度(mg/L)をCとし、予め測定された原水のシリカ濃度(mg/L)をFとしたとき、以下の式(2)から算出される。
=(C-F)/C (2)
【0033】
なお、シリカの溶解度の算出方法としては、ASTM(American Society for Testing and Materials)D4993-89などに規定された方法を用いることができる。
【0034】
(カルシウムの析出回収率の算出方法)
カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数を算出する方法を利用して算出される。ここで、ランゲリア指数(飽和指数)とは、カルシウム(炭酸カルシウム)の析出の可能性を示す指標であり、水の実際のpHと、理論pH(pHs:水中の炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態にあるときのpH)との差(pH-pHs)を意味する。すなわち、ランゲリア指数が正の値で絶対値が大きいほど炭酸カルシウムが析出しやすくなり、負の値では炭酸カルシウムは析出されない。そのため、カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数がゼロになるときの回収率として算出される。なお、より安全側の値として設定するために、カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数が負の値になるときの回収率であってもよい。
【0035】
濃縮水のランゲリア指数は、濃縮水のpHと、濃縮水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)と、検出された水温とから算出される。ランゲリア指数の算出方法としては、例えば、特開平11-267687号公報(段落[0025]~[0027])などに記載された方法を用いることができる。また、濃縮水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)は、予め測定された原水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)と、回収率とから算出される。したがって、カルシウムの析出回収率Yは、濃縮水のランゲリア指数がゼロになるときの濃縮水の不純物濃度(mg/L)をCとし、予め測定された原水の不純物濃度(mg/L)をFとしたとき、以下の式(3)の関係で表されることになる。
=(C-F)/C (3)
【0036】
なお、一次透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する一次透過水の流量の割合である回収率は、一次透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する一次濃縮水の流量の割合である濃縮倍率で表すことができる。すなわち、回収率Yは、濃縮倍率をNとしたとき、以下の式(4)で表すことができる。
Y=(N-1)/N (4)
【0037】
したがって、上記式(1)~(3)は、上記式(4)を用いて、それぞれ以下のように表すことができる。
(濃縮排水の目標流量)=(一次透過水の検出流量)/(濃縮倍率-1) (1’)
=C/F (2’)
=C/F (3’)
ここで、Nは、シリカの析出回収率に対応する許容濃縮倍率であり、Nは、カルシウムの析出回収率に対応する許容濃縮倍率である。
【0038】
シリカおよびカルシウムの析出回収率の算出方法や濃縮排水の設定流量の算出方法は、例えば加圧ポンプの容量や原水の流量などの装置設計上の制約によって、予め回収率や流量に制約がある場合には、上述した限りではない。また、第1の流量制御によって二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の流量が一定に調整され、後述する第3の流量制御によって二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水の流量が一定に調整されると、一次透過水ラインL2を流れる一次透過水も実質的に一定に調整される。そのため、濃縮排水の設定流量の算出には、そのような一次透過水の実質的な目標流量を用いることもできる。ただし、この方法は、一次透過水の実質的な目標流量と実際の流量が一致していない場合に、実際の回収率が目標回収率からずれる可能性があるため好ましくない。すなわち、一次透過水の実際の流量が目標流量よりも大きい場合には、実際の回収率が目標回収率を上回ることでスケーリングが発生したり、一次透過水の実際の流量が目標流量よりも小さい場合には、実際の回収率が目標回収率を下回ることで節水を図ることができなくなったりする。
【0039】
したがって、濃縮排水の設定流量の算出には、上述したように、二次透過水流量計16による検出値と二次濃縮水流量計17による検出値とから間接的に検出される一次透過水の流量を用いることが好ましい。これにより、第1の流量制御において二次透過水の流量制御が適切に実施されない事態が発生しても、実際の回収率が目標の回収率からずれることを抑制することができる。なお、実際の算出には、二次透過水や二次濃縮水の検出流量のばらつきなどによる影響を最小限に抑えるために、所定検出時間や所定検出回数における平均流量を用いることが好ましい。
【0040】
ただし、装置起動時や運転再開時など、二次透過水や二次濃縮水の流量が安定せず、検出流量のばらつきが非常に大きい場合には、二次透過水や二次濃縮水の流量が安定するまでの一定期間、上述した一次透過水の実質的な目標流量を用いて、濃縮排水の設定流量を算出するようになっていてもよい。また、一次透過水の実質的な目標流量と実際の流量との差に応じて、濃縮排水の設定流量の算出に用いる一次透過水の流量を切り替えるようになっていてもよい。すなわち、その差が所定範囲内にある場合には、目標流量を用いて算出し、その差が所定範囲を外れた場合には、実際の流量を用いて算出するようになっていてもよい。
【0041】
上述のように回収率制御を行う場合、流量調整弁CV1としては、電動比例制御弁を用いることが好ましい。これにより、電動比例制御弁の分解能に応じて開度調整を細かく行うことができ、電磁弁の組み合わせなどによる段階式での開度調整に比べて、回収率を細やかに調整することができる。例えば、50~70%の範囲の回収率を5段階(50%、55%、60%、65%、70%)にしか制御できない段階式では、目標回収率が64%に設定された場合、回収率を60%にしか調整することができず、無駄な濃縮排水が発生してしまう。したがって、流量調整弁CV1として電動比例制御弁を用いることは、このような濃縮排水の無駄も削減することができるため、節水の観点からも有利である。
【0042】
ただし、流量調整弁CV1として電動比例制御弁を用いる場合には、その開閉速度と、制御部20による濃縮排水の設定流量の算出速度(演算速度)との関係に注意が必要である。例えば、2つの速度が大きく異なっている場合、電動比例制御弁の開閉が完了して濃縮排水の流量が安定する前にその設定流量が変更されると、ハンチングが発生する可能性がある。また、濃縮排水の設定流量が一次透過水の検出流量(二次透過水流量計16による二次透過水の検出流量と二次濃縮水流量計17による二次濃縮水の検出流量との和)に基づいて決定されるため、濃縮排水の流量制御は、加圧ポンプ13の回転数を制御するインバータの応答速度にも影響を受ける可能性がある。したがって、制御部20による濃縮排水の設定流量の演算速度を決定する際には、電動比例制御弁の開閉速度とインバータの応答速度とを考慮することが好ましい。すなわち、電動比例制御弁の開閉速度が遅い場合は、インバータの応答速度を遅くし、電動比例制御弁の開閉速度が速い場合は、インバータの応答速度を速くすることが好ましい。なお、上述したように、第2の流量制御(一次濃縮水の流量制御)は、定流量弁14の設置により第1の流量制御(二次透過水の流量制御)と独立して行われるため、互いの流量制御が干渉することが抑制される。その結果、上述のようなハンチングの発生を極力抑制することができ、実際の回収率が目標の回収率からずれることを抑制することができる。この点からも、一次濃縮水ラインL3に定流量弁14が設けられていることが好ましい。
【0043】
なお、本実施形態では、回収率の目標値をより高く設定して、さらなる節水を実現するために、上述の析出回収率をより高くすることを目的として、スケール防止剤を原水に添加するようになっていてもよい。この場合、定流量弁14の規定流量を小さくすることができ、結果として、より小さい容量の加圧ポンプ13を用いることで省エネルギー化を実現することもできる。スケール防止剤の添加は、薬注ポンプによって行うことができる。
【0044】
スケール防止剤は、シリカやカルシウムなどのスケール成分の析出を抑制可能な物質であれば、特定のものに限定されるものではない。その種類としては、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチルホスホン酸などのホスホン酸とその塩類などのホスホン酸系化合物;正リン酸塩、重合リン酸塩などのリン酸系化合物;ポリマレイン酸、マレイン酸共重合物などのマレイン酸系化合物;アクリル酸系ポリマーなどが挙げられ、アクリル酸系ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸、マレイン酸/(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸/スルホン酸、(メタ)アクリル酸/ノニオン基含有モノマーなどのコポリマーや、(メタ)アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマー、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド-アルキルスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド-アリールスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーなどが挙げられる。ターポリマーを構成する(メタ)アクリル酸としては、例えば、メタアクリル酸およびアクリル酸と、それらのナトリウム塩などの(メタ)アクリル酸塩などが挙げられる。ターポリマーを構成するアクリルアミド-アルキルスルホン酸としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とその塩などが挙げられる。また、ターポリマーを構成する置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、t-ブチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0045】
これらの中でも、ホスホン酸系化合物とアクリル酸系ポリマーのうち少なくとも1種類を含むものを用いることが好ましい。また、カルシウムとシリカに由来するスケールを同時に抑制するためには、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を用いることが特に好ましい。
【0046】
なお、RO膜用の市販のスケール防止剤としては、オルガノ株式会社製の「オルパージョン」シリーズ、BWA Water Additives社製の「Flocon(登録商標)」シリーズ、Nalco社製の「PermaTreat(登録商標)」シリーズ、ゼネラル・エレクトリック社製の「Hypersperse(登録商標)」シリーズ、栗田工業株式会社製の「クリバーター(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
【0047】
上述したように、定流量弁14により一次濃縮水の流量が一定に維持されるため、排水ラインL4および還流水ラインL5の一方を流れる一次濃縮水の流量を規定するだけで、他方を流れる一次濃縮水の流量も規定することができる。そのため、図示した実施形態では、排水ラインL4に流量制御手段としての流量調整弁CV1と排水流量計15が設けられ、還流水ラインL5に圧力バランス調整のための手動弁MV1が設けられているが、その逆であってもよい。すなわち、還流水ラインL5に、流量調整弁(比例制御弁)と流量計が設けられ、排水ラインL4に、圧力バランス調整のための手動弁が設けられていてもよい。あるいは、排水ラインL4および還流水ラインL5の両方に、流量調整弁(比例制御弁)と流量計を設けることもできる。
【0048】
第3の流量制御では、第2のろ過手段12の返流率(二次透過水の流量と二次濃縮水の流量との和に対する二次濃縮水の流量の割合)を考慮して二次濃縮水の目標流量が算出され、二次濃縮水流量計17による二次濃縮水の検出流量(検出値)がその目標流量になるように、流量調整弁CV2の開度が調整される。第2のろ過手段12には、不純物濃度が低い第1のろ過手段11からの一次透過水が供給されるため、節水の観点から、第2のろ過手段12の返流率は低く設定されることが好ましい。すなわち、二次濃縮水の流量はできるだけ少ないことが好ましく、具体的には、第2のろ過手段12からの二次透過水の流量に対して1/20~1/5倍の範囲に設定されることが好ましい。
【0049】
二次濃縮水の目標流量(設定流量)は、返流率の目標値と、二次透過水流量計16による二次透過水の検出流量とに基づいて算出することが好ましい。これにより、第1の流量制御において二次透過水の流量制御が適切に実施されない事態が発生しても、実際の返流率が目標の返流率からずれることを抑制することができる。なお、実際の算出には、二次透過水の検出流量のばらつきなどによる影響を最小限に抑えるために、所定検出時間や所定検出回数における平均流量を用いることが好ましい。
【0050】
ただし、装置起動時や運転再開時など、二次透過水の流量が安定せず、検出流量のばらつきが非常に大きい場合には、二次透過水の流量が安定するまでの一定期間、予め設定された二次透過水の目標流量を用いて、二次濃縮水の設定流量を算出するようになっていてもよい。また、二次透過水の目標流量と実際の流量との差に応じて、二次濃縮水の設定流量の算出に用いる二次透過水の流量を切り替えるようになっていてもよい。すなわち、その差が所定範囲内にある場合には、目標流量を用いて算出し、その差が所定範囲を外れた場合には、実際の流量を用いて算出するようになっていてもよい。
【0051】
上述のように返流率制御を行う場合、流量調整弁CV2として電動比例制御弁を用いることが好ましく、これにより、電動比例制御弁の分解能に応じて開度調整を細かく行うことができる。ただし、流量調整弁CV2として電動比例制御弁を用いる場合には、その開閉速度と、二次濃縮水の設定流量の算出速度(演算速度)との関係に注意が必要である。例えば、2つの速度が大きく異なっている場合、電動比例制御弁の開閉が完了して二次濃縮水の流量が安定する前にその設定流量が変更されると、ハンチングが発生する可能性がある。また、二次濃縮水の設定流量が二次透過水流量計16による二次透過水の検出流量に基づいて決定される場合、二次濃縮水の流量制御は、加圧ポンプ13の回転数を制御するインバータの応答速度にも影響を受ける可能性がある。したがって、二次濃縮水の設定流量の演算速度を決定する際には、電動比例制御弁の開閉速度とインバータの応答速度とを考慮することが好ましい。すなわち、電動比例制御弁の開閉速度が遅い場合は、インバータの応答速度を遅くし、電動比例制御弁の開閉速度が速い場合は、インバータの応答速度を速くすることが好ましい。ただし、本実施形態では、二次濃縮水ラインL7には定流量弁が設置されないため、第3の流量制御(二次濃縮水の流量制御)は、第1の流量制御(二次透過水の流量制御)と独立に行われない。そのため、互いの流量制御が干渉することを抑制するためにも、電動比例制御弁の開閉速度は遅く設定されることが好ましい。これにより、上述のようなハンチングの発生を極力抑制することができ、実際の返流率が目標の返流率からずれることを抑制することができる。
【0052】
なお、上述したように、二次濃縮水の一部は外部に排出されてもよく、そのための排水ラインが二次濃縮水ラインL7に接続されていてもよいが、その場合、第3の流量制御(二次濃縮水の流量制御)は、第2の流量制御(一次濃縮水の流量制御)と同様の方法で実行されてもよい。すなわち、二次濃縮水ラインL7には、流量調整弁CV2および二次濃縮水流量計17の代わりに、排水ラインとの接続部よりも上流側に、一次濃縮水ラインL3に設けられているのと同様の定流量弁14が設けられていてもよく、その下流側に、還流水ラインL5に設けられているのと同様の手動弁MV1が設けられていてもよい。また、二次濃縮水ラインL7に接続される排水ラインには、排水ラインL4に設けられているのと同様の流量調整弁CV1および排水流量計15が設けられていてもよい。
【0053】
ところで、還流水ラインL5との合流部よりも上流側の供給ラインL1には、多くの場合、原水に含まれる残留遊離塩素を除去するために活性炭ろ過器が設けられている。しかしながら、活性炭ろ過器の塩素除去能力は、原水の水温や流量、残留遊離塩素の濃度に依存する。そのため、場合によっては、活性炭ろ過器の下流側に残留遊離塩素が漏れることがあり、そのような残留遊離塩素が第1のろ過手段11のRO膜またはNF膜を酸化させて劣化させる可能性があり、ひいては第2のろ過手段12のRO膜またはNF膜を酸化させて劣化させる可能性もある。このような膜の劣化が発生すると、膜厚が薄くなり膜の孔径が大きくなることで、一次透過水の流量が増加するだけでなく、膜の塩除去性能が低下して一次透過水の水質低下につながる。
【0054】
一方、水の有効利用(節水)の観点から回収率はできるだけ高いことが好ましいが、このときの目標回収率は、上述したように、温度センサ21による検出値と予め測定された原水の不純物濃度に基づいて算出される。そのため、原水の不純物濃度が変動して予め測定された設定値を上回ると、目標回収率を達成するように濃縮排水の流量制御が行われていても、スケール発生のリスクが高まり、第1のろ過手段11のRO膜またはNF膜に詰まりが発生する可能性がある。このような膜の詰まりが発生すると、膜の透過孔が閉塞されることで、一次透過水の流量が減少するだけでなく、膜の塩除去性能が低下して一次透過水の水質低下につながる。
【0055】
このような理由から、膜ろ過装置10の性能低下、すなわち、第1のろ過手段11のRO膜またはNF膜の性能低下、特に劣化または詰まりの有無を正確に判定し、劣化や詰まりが発生する場合にはそれを可能な限り初期の段階で検知することが望ましい。そこで、本実施形態の制御部20には、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があるか否かを判定する判定手段としての機能も設けられている。さらに、本実施形態では、制御部20がそのような予兆判定を行うために用いるデータを取得するために、複数の検出手段が設けられている。すなわち、供給ラインL1を流れる原水の導電率を検出する原水導電率計22aと、二次透過水ラインL6を流れる二次透過水の導電率を検出する二次透過水導電率計22bと、二次濃縮水ラインL7を流れる二次濃縮水の導電率を検出する二次濃縮水導電率計22cと、供給ラインL1を流れる原水の圧力を検出する原水圧力計23aと、一次透過水ラインL2を流れる一次透過水の圧力を検出する一次透過水圧力計23bと、一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水の圧力を検出する一次濃縮水圧力計23cと、が設けられている。なお、これら検出手段の設置位置は、圧力計23a~23cを除いて、図示した位置に限定されるものではない。例えば、原水圧力計23aは、供給ラインL1のうち加圧ポンプ13の下流側に設置される必要があるが、原水導電率計22aは、供給ラインL1のうち還流水ラインL5との接続部や二次濃縮水ラインL7との接続部よりも上流側に設置されてもよい。
【0056】
以下、制御部20による、第1のろ過手段11の劣化または詰まりの予兆判定方法について説明する。
【0057】
第1のろ過手段11の劣化または詰まりは、上述したように、一次透過水の水質低下(すなわち、透過水の導電率上昇)として現れるとともに、一次透過水の流量変化として現れる。ただし、第1の流量制御と第3の流量制御によって一次透過水ラインL2を流れる一次透過水の流量が実質的に一定に維持されている場合には、一次透過水の流量変化として現れる代わりに、原水の供給圧力の変化として現れる。したがって、第1のろ過手段11の劣化または詰まりは、一次透過水の導電率の経時変化と原水の供給圧力の経時変化を詳細に解析することで、その有無を判定することが可能になる。しかしながら、一次透過水の導電率は、第1のろ過手段11の劣化または詰まりの有無だけでなく、水温や原水の水質(導電率)によっても変化し、回収率によっても変化する。また、原水の供給圧力は、水温によっても変化する。そのため、第1のろ過手段11の劣化または詰まりの有無を正確に判定するには、一次透過水の導電率の検出結果や原水の供給圧力の検出結果を直接解析するのではなく、劣化または詰まり以外の影響を排除した補正値を用いて解析を行うことが必要になる。
【0058】
そこで、原水圧力計23aにより原水の供給圧力が検出されると、その供給圧力の検出値が補正され、水温の変動による影響が排除された補正値(以下、「圧力補正値」という)が算出される。具体的には、温度センサ(水温検出手段)21による検出値と、二次透過水流量計(第1の流量検出手段)16による検出値と、二次濃縮水流量計(第2の流量検出手段)17による検出値とに基づいて、原水圧力計(第1の圧力検出手段)23aによる検出値が補正されて圧力補正値が算出される。原水圧力計23aにより検出された原水の供給圧力をPfo[bar]とすると、圧力補正値Pfs[bar]は、以下の式(5)によって与えられる。
【数1】

ここで、Qpoは、二次透過水流量計16による検出値と二次濃縮水流量計17による検出値との和として算出(取得)された一次透過水の流量[L/h]、Qpsはその参照値である。また、Kは水温補正係数であり、以下の式(6)によって与えられる。
【数2】

ここで、Aは水温によって決まる定数、Tは温度センサ21により検出された原水の水温[℃]、Tはその参照値である。
【0059】
また、後述するように一次透過水の導電率が算出されると、その導電率の算出値が補正され、水温の変動、原水の水質(導電率)の変動、および回収率の変動による影響が排除された補正値(以下、「導電率補正値」という)が算出される。具体的には、温度センサ(水温検出手段)21による検出値と、原水導電率計(第3の導電率検出手段)22aによる検出値と、原水圧力計(第1の圧力検出手段)23a、一次透過水圧力計(第2の圧力検出手段)23b、および一次濃縮水圧力計(第3の圧力検出手段)23cによる検出値とに基づいて、一次透過水の導電率の算出値が補正されて導電率補正値が算出される。後述する式(8)により算出される一次透過水の導電率をCpo[μS/cm]とすると、導電率補正値Cps[μS/cm]は、以下の式(7)によって与えられる。
【数3】

fo:原水圧力計23aにより検出された原水の供給圧力[bar]
fs:式(5)により算出された圧力補正値[bar]
ΔP:原水が第1のろ過手段11の一次側を通過する際の圧力損失[bar]
ΔP:同参照値[bar]
po:一次透過水圧力計23bにより検出された一次透過水の圧力[bar]
ps:同参照値[bar]
fo:原水導電率計22aにより検出された原水の導電率[μS/cm]
fs:同参照値[μS/cm]
po:後述する式(8)により算出される一次透過水の導電率[μS/cm]
ps:同参照値[μS/cm]
:温度センサ21により検出された原水の水温[℃]
:同参照値[℃]
【0060】
ここで、圧力損失ΔP,ΔPは、原水圧力計23aと一次濃縮水圧力計23cにより間接的に検出(算出)され、供給ラインL1を流れる原水と一次濃縮水ラインL3を流れる一次濃縮水との圧力差として表される。なお、式(5)~(7)における各参照値としては、第1のろ過手段11の使用開始直後(膜ろ過装置10の運転開始直後)の検出値(算出値)や、使用開始直後から一定時間経過してから性能が安定した後の検出値(算出値)を用いることができる。ただし、第1のろ過手段11の使用開始直後には、特に、運転開始前に拡散したイオンによって一次透過水の導電率が時間と共に変化する。そのため、参照値としては、第1のろ過手段11の使用開始直後から一定時間経過して性能が安定した後で取得した値を用いることが好ましい。第1のろ過手段11(RO膜またはNF膜)の性能が安定するまでの期間は、それまで膜がどのように保管されていたかによって変化するが、その保管状態が適切であれば、ドライタイプ(乾燥状態で保管)とウェットタイプ(湿潤状態で保管)のどちらの膜でも、一般に数時間から数日である。すなわち、膜の塩除去性能は、使用開始後、数時間から数日の間に向上し、それ以降は安定するのが一般的である。したがって、参照値としては、第1のろ過手段11の使用開始直後から、予め設定された時間または日数を経過した後に取得した値を用いることができる。
【0061】
圧力補正値および導電率補正値は連続的または周期的に算出され、こうして算出された値がそれぞれの経時変化を示すデータ(時系列データ)として収集される。なお、第1のろ過手段11の劣化または詰まりは急激に起こるわけではなく、圧力補正値および導電率補正値にもその影響が急激に現れるわけではないため、時系列データとして、それぞれの一定期間における移動平均値を収集してもよく、移動平均を算出する期間は数時間から数日であってよい。
【0062】
そして、時系列データの収集と並行して、時系列データに対して回帰分析(線形回帰)が行われ、算出される回帰直線の傾きに基づいて、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があるか否かが判定される。第1のろ過手段11に劣化または詰まりがない場合、圧力補正値および導電率補正値にそれぞれ変化はなく、回帰直線の傾きもそれぞれゼロとなる。したがって、この予兆判定では、圧力補正値の時系列データに対する回帰直線(以下、単に「圧力回帰直線」ともいう)の傾きがゼロを含む所定範囲内であるか否かが判定され、かつ導電率補正値の時系列データに対する回帰直線(以下、単に「導電率回帰直線」ともいう)の傾きがゼロを含む所定範囲内であるか否かが判定される。その結果、圧力回帰直線の傾きが所定範囲から外れるか、導電率回帰直線の傾きが所定範囲から外れた場合に、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定される。
【0063】
圧力補正値は、ろ過手段11の劣化が発生すると、原水が第1のろ過手段11を透過しやすくなることで減少し、第1のろ過手段11の詰まりが発生すると、原水が第1のろ過手段11を透過しにくくなることで増加する。したがって、圧力回帰直線の傾きが所定の下限値以下になった場合に、第1のろ過手段11に劣化の予兆があると判定され、圧力回帰直線の傾きが所定の上限値以上になった場合に、第1のろ過手段11に詰まりの予兆があると判定される。一方、導電率補正値は、第1のろ過手段11の劣化が発生しても詰まりが発生しても、第1のろ過手段11の塩除去性能が低下することで増加するが、実際には、第1のろ過手段11に詰まりが発生した場合、それがかなり進行してからでないと導電率補正値に変化が現れない。そのため、第1のろ過手段11の詰まりに対応する上限値は設定されず、導電率回帰直線の傾きが所定の上限値以上になった場合に、第1のろ過手段11に劣化の予兆があると判定される。
【0064】
なお、第1のろ過手段11の劣化または詰まりには、比較的短期間で発生するものと長期間かけて緩やかに発生するものとがある。すなわち、圧力補正値および導電率補正値にはそれぞれ、比較的短期間で現れる変化と長期間かけて緩やかに現れる変化とがある。このような2種類の変化を検知するために、短期間である第1の期間とそれよりも長期間である第2の期間の2種類の時系列データに対して回帰分析が実施されることが好ましい。ここで、第1の期間の時系列データとは、例えば、現時点を含む直近の5~90日分の時系列データである。また、第2の期間の時系列データとは、現時点を含む直近の、第1の期間よりも長い期間の時系列データ、あるいは、上述した参照値を取得した時点から現時点までの期間が第1の期間を超えていた場合、その全期間の時系列データである。このような2種類の時系列データに対して回帰分析を実施した場合にも、それぞれの回帰直線の傾きに基づいて、上述したのと同様の基準で第1のろ過手段11の劣化または詰まりの有無を判定することができる。
【0065】
すなわち、第1の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲から外れるか、第2の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲から外れた場合に、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定される。具体的には、第1の期間または第2の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲の下限値以下になった場合に、第1のろ過手段11に劣化の予兆があると判定される。また、第1の期間または第2の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲の上限値以上になった場合に、第1のろ過手段11に詰まりの予兆があると判定される。これら上限値および下限値は、劣化または詰まりが発生しないぎりぎりの範囲を実験的に検証することで設定することができる。なお、装置構成や第1のろ過手段11に使用する膜の違いによって、第1の期間と第2の期間でそれぞれ所定範囲(上限値および下限値)を変更して設定してもよい。一例として、上限値は+0.0001~+0.01に設定され、下限値は-0.0001~-0.01に設定される。一方で、第1の期間における導電率回帰直線の傾きが所定値以上になるか、第2の期間における導電率回帰直線の傾きが所定値以上になった場合に、ろ過手段11に劣化の予兆があると判定される。一例として、所定値は+0.01~+1.0に設定される。
【0066】
ここで、一次透過水の導電率の算出方法と、その算出方法の有効性を確認するための実験結果について説明する。
【0067】
第2のろ過手段12で一次透過水が二次透過水と二次濃縮水とに分離される場合、二次透過水と二次濃縮水に含まれる不純物量の総和は、一次透過水に含まれる不純物量に一致する。そのため、一次透過水の不純物濃度は、二次透過水と二次濃縮水のそれぞれの不純物濃度と、その流量分配比とから算出することができる。また、水の導電率は、その水に含まれる不純物濃度から算出することができる。したがって、一次透過水の導電率は、二次透過水と二次濃縮水のそれぞれの導電率と、その流量分配比とから算出することができる。すなわち、一次透過水の導電率Cpo[μS/cm]は、二次透過水導電率計(第1の導電率検出手段)22bにより検出される二次透過水の導電率をC2p[μS/cm]とし、二次濃縮水導電率計(第2の導電率検出手段)22cにより検出される二次濃縮水の導電率C2c[μS/cm]とし、二次透過水流量計(第1の流量検出手段)16により検出される二次透過水の流量をQ2p[L/h]とし、二次濃縮水流量計(第2の流量検出手段)17により検出される二次濃縮水の流量をQ2c[L/h]としたとき、以下の式(8)から算出することができる。
po
(Q2p/(Q2p+Q2c))×C2p
+(Q2c/(Q2p+Q2c))×C2c (8)
【0068】
なお、装置起動時や運転再開時などにおいては、二次透過水や二次濃縮水の流量が安定せず、検出流量のばらつきが非常に大きくなったり、停止期間中の水の滞留による影響で二次透過水や二次濃縮水の導電率が正確に測れなかったりすることがある。そのため、実際の算出は、二次透過水や二次濃縮水の流量が安定するまでの一定期間、あるいは、二次透過水や二次濃縮水の導電率が正確に測れるようになるまでの一定期間行われないことが好ましい。また、二次透過水と二次濃縮水の流量分配比は、返流率(二次透過水の流量と二次濃縮水の流量との和に対する二次濃縮水の流量の割合)で表すことができることから、二次透過水と二次濃縮水の検出流量の代わりに、返流率の目標値を用いて、一次透過水の導電率を算出してもよい。すなわち、一次透過水の導電率Cpo[μS/cm]は、返流率の目標値(小数点表示)をRとしたとき、以下の式(9)を用いて算出することもできる。
po=(1-R)×C2p+R×C2c (9)
【0069】
上述した導電率の算出方法の有効性を確認するために、本発明者らは、図1に示す膜ろ過装置を用いて、第1のろ過手段の回収率の目標値と原水中の遊離炭酸濃度とが異なる6つの条件のそれぞれにおいて、一次透過水の水質が安定した後に1時間の連続運転を行い、連続運転時のそれぞれの測定値の平均から、上記式(8)の算出方法を用いて一次透過水の導電率を算出した。具体的には、原水に炭酸ガスを添加して遊離炭酸濃度を約4~20ppm(as CaCO)の範囲で3種類に変化させたときに、それぞれの遊離炭酸濃度に対し、第1のろ過手段の回収率の目標値を50%と75%に変化させ、それぞれの条件において、上記式(8)の算出方法を用いて一次透過水の導電率を算出し、その算出値を、一次透過水ラインに実際に設置した導電率計による検出値と比較した。原水として、pHが約7、導電率が約300μS/cmの井水を用い、各ろ過手段として、ダウケミカル社製のRO膜(品番:XLE-4040)を用いた。また、導電率計として、測定範囲が0.01~99.9μS/cm、精度が±2%F.S.(±1digit)のオルガノ株式会社製の導電率計(品番:ST-CL-02)を用いた。なお、すべての条件において、第2のろ過手段の返流率を10%に設定した。
【0070】
表1に、6つの条件における一次透過水の導電率の検出値および算出値とその差(検出値-算出値)を示す。なお、各条件における第1のろ過手段の回収率の目標値と原水中の遊離炭酸濃度は、以下の通りである。
条件1 回収率:50%、遊離炭酸濃度:4.1ppm
条件2 回収率:75%、遊離炭酸濃度:4.2ppm
条件3 回収率:50%、遊離炭酸濃度:10.4ppm
条件4 回収率:75%、遊離炭酸濃度:11.1ppm
条件5 回収率:50%、遊離炭酸濃度:21.7ppm
条件6 回収率:75%、遊離炭酸濃度:23.7ppm
【表1】
【0071】
表1に示すように、上記式(8)による算出値は、回収率の違いや遊離炭酸濃度の違いによって一次透過水の導電率が変動しても、実際の検出値との差が、最大でも絶対値で1.02μS/cmであった。一次透過水ラインに実際に設置した導電率計の誤差はフルスケールで2%、すなわち2μS/cmに相当することから、上記式(8)を用いることで、回収率の違いや遊離炭酸濃度の違いによらず、その導電率計の計測誤差の範囲内で一次透過水の導電率を算出することができることが確認された。なお、炭酸ガスは、溶液中に存在する際、溶液のpHによっては導電率の測定に影響を与えることがあるが、表1に示す結果から、この実験での炭酸ガスの添加量が導電率の測定に影響を与えない範囲であることも確認された。
【0072】
さらに、本発明者らは、図1に示す膜ろ過装置を用いて90日間の運転を行い、上記式(8)の算出方法によって算出した一次透過水の導電率に基づいて、第1の期間における導電率回帰直線の傾きを算出した。そして、その算出値と、一次透過水ラインに実際に設置した導電率計による検出値に基づいて算出した同期間における導電率回帰直線の傾きとを比較した。
【0073】
膜ろ過装置の運転は、24時間の連続運転(条件A)を45日間、10時間の運転と2時間の停止を繰り返す間欠運転(条件B)を30日間、10時間の運転と14時間の停止を繰り返す間欠運転(条件C)を15日間行い、条件Bの間欠運転では、運転時、150分の運転と30分の停止を繰り返し、条件Cの間欠運転では、運転時、50分の運転と70分の停止を繰り返した。また、膜ろ過装置の運転は、すべての運転条件において、第1のろ過手段に劣化が発生する条件、具体的には、第1のろ過手段の上流側に設置された活性炭ろ過器から残留遊離塩素が漏れ、それが第1のろ過手段に供給されることを模擬し、原水に遊離塩素を直接添加する条件で行った。原水として、pHが約7、導電率が約300μS/cm、遊離炭酸濃度が約4ppm(as CaCO)、水温が17~21℃の井水を用い、各ろ過手段として、ダウケミカル社製のRO膜(品番:XLE-4040)を用いた。また、導電率計として、測定範囲が0.01~99.9μS/cm、精度が±2%F.S.(±1digit)のオルガノ株式会社製の導電率計(品番:ST-CL-02)を用いた。なお、条件A~Cのいずれの場合も、第1のろ過手段の回収率を62~69%に設定し、第2のろ過手段の返流率を90%に設定した。
【0074】
回帰分析の対象となる時系列データの要素としては、式(7)から算出された導電率補正値の日平均値(1日あたりの平均値)を用いた。ただし、条件B,Cの間欠運転では、運転と停止を繰り返すため、上述したように、運転再開後に検出流量のばらつきが大きくなることや導電率が正確に測れないことによる影響を排除するために、運転再開後の10分間のデータを平均値の算出からは除外した。また、導電率回帰直線の傾きの算出は、現時点を含む30日分の時系列データに対して行った。したがって、実際には、導電率回帰直線の傾きの算出は、第1のろ過手段の使用開始日(運転開始日)から数えて30日後から行い、例えば、第1のろ過手段の使用開始日(1日目)から35日目の場合、6~35日分の30点の時系列データに対して行った。なお、式(5)~(7)における各参照値としては、新品のろ過手段を数日間使用して透過水の水質が安定した(と判断した)日の値を用いた。
【0075】
なお、この実験では、運転再開後に平均値の算出からデータを除外する期間を10分間としたが、必ずしも10分間でなくてもよく、データの除外期間をより長くすれば、より安定したデータ群で平均値を算出することもできる。ただし、膜の劣化に由来する導電率補正値の変化を相対的に捉えるためには、データの除外期間は、ろ過手段として新品の膜を使用してから運転期間全体にわたって一定でなければならないにことに留意されたい。
【0076】
図2は、一次透過水の導電率の検出値および算出値の経時変化を示すグラフであり、図3は、図2に示す検出結果および算出結果に基づいてそれぞれ算出した導電率回帰直線の傾きの経時変化を示すグラフである。また、表2に、15日ごとの一次透過水の導電率の検出値および算出値(それぞれ日平均値)と、その差(検出値-算出値)を示す。
【表2】
【0077】
図2に示すように、第1のろ過手段が時間とともに劣化することによって一次透過水の導電率が変動しても、上記式(8)による算出値は、実際の検出値にわずかな差で追従しており、その差は、表2から、最大でも絶対値で0.12μS/cmであった。一次透過水ラインに実際に設置した導電率計の誤差はフルスケールで2%、すなわち2μS/cmに相当することから、表1に示す結果と同様に、上記式(8)を用いることで、運転条件(運転間隔)の違いによらず、その導電率計の計測誤差の範囲内で一次透過水の導電率を算出することができることが確認された。また、これに応じて、式(8)による算出値に基づいた導電率回帰直線の傾きも、図3に示すように、実際の検出値に基づいた導電率回帰直線の傾きにほぼ追従しており、いずれも同じ日に第1のろ過手段に劣化の予兆があることを判定することができた。
【0078】
なお、上述した実験結果によれば、一次透過水の導電率を間接的に検出する代わりに、一次透過水ラインL2に導電率計を設置して一次透過水の導電率を直接検出することも考えられる。しかしながら、本実施形態では、1つの加圧ポンプ13で2つのろ過手段11,12に原水を供給する必要があるため、第1のろ過手段11に供給される原水は高圧になり、それに応じて、第1のろ過手段11からの透過水も高圧になる。そのような高圧の透過水が流れる一次透過水ラインL2に導電率を設置しようとすると、高耐圧用のものを用意しなければならず、それにはコストがかかってしまう。このような理由から、一次透過水ラインL2を流れる一次透過水の導電率は、上記式(8)に示すように、二次透過水ラインL6に設置された二次透過水流量計16および二次透過水導電率計22bによる検出値と、二次濃縮水ラインL7に設置された二次濃縮水流量計17および二次濃縮水導電率計22cによる検出値とから間接的に検出(算出)されることが好ましい。
【0079】
制御部20により第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定された場合、第1のろ過手段11の交換または洗浄を行うことが好ましい。しかしながら、第1のろ過手段11の交換または洗浄を行うには膜ろ過装置10の運転を停止する必要があり、それができない場合、第1のろ過手段11の劣化または詰まりが進行し、膜ろ過装置10が運転不能に陥るなどの重大な問題に発展する可能性がある。そこで、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定されたにもかかわらず、膜ろ過装置1の運転を停止することができない場合には、第1のろ過手段11の劣化または詰まりの進行を遅らせる延命運転を行うことが好ましい。さらに、第1のろ過手段11の交換を行うか洗浄を行うかなどの具体的な対策の検討に十分な時間が必要な場合にも、第1のろ過手段11の延命運転を行うことができる。具体的な延命運転の方法は、以下に示すように、第1のろ過手段11の劣化または詰まりの原因に応じて適切なものが選択される。なお、このような延命運転は、制御部20による予兆判定後に自動的に実施されてもよい。
【0080】
第1のろ過手段11の劣化の主な原因としては、例えば、上述したように、第1のろ過手段11の上流側に設置された活性炭ろ過器の塩素除去能力が低下したことにより、残留遊離塩素を含む原水が第1のろ過手段11に供給されたことが考えられる。この場合には、回収率を当初の目標値よりも高い値に設定することで、濃縮排水の流量を減少させ、それに応じて一次還流水ラインL5を流れる一次濃縮水の流量を増加させることができる。あるいは、予め設定された二次透過水の目標流量よりもユースポイントでの二次透過水の使用量が少ない場合には、その目標流量をより低い必要最小限の値に変更し、二次透過水の流量を減少させることもできる。その結果、一次還流水ラインL5や二次濃縮水ラインL7との合流部よりも上流側の供給ラインL1を流れて活性炭ろ過器に流入する原水の流量を減少させ、活性炭ろ過器への塩素負荷を下げることができる。こうして、活性炭ろ過器からの残留遊離塩素の漏れを最小限に抑え、第1のろ過手段11の劣化の進行を遅らせて延命を図ることができる。なお、回収率の初期目標値として、シリカまたはカルシウムが析出しない最大のシリカ濃度またはカルシウム濃度となる回収率が設定されている場合、そこからさらに回収率を高くすることは、スケール発生のリスクを高めることにつながる。そのため、活性炭ろ過器からの残留遊離塩素の漏れが懸念される場合、回収率の初期目標値としては、シリカまたはカルシウムが析出しない最大のシリカ濃度またはカルシウム濃度となる回収率に安全率を加味した値を設定しておくことが好ましい。
【0081】
第1のろ過手段11の劣化の原因は他にも考えられ、例えば、原水への酸化剤の混入なども考えられる。さらには、第1のろ過手段11の破損や配管接続部におけるOリングの取り付けミスなどにより、劣化によるものと類似した変化が圧力補正値および導電率補正値に現れることもある。したがって、第1のろ過手段11に劣化の予兆があると判定された場合、まず、その原因が残留遊離塩素であるか否か、すなわち、第1のろ過手段11に供給される原水に残留遊離塩素が含まれているか否かが特定(検出)され、その上で、第1のろ過手段11の適切な延命運転が選択される。残留遊離塩素の検出方法としては、例えば、ジエチル-P-フェニレンジアミン(DPD)試薬を用いた比色法が挙げられ、あるいは、残留塩素計を用いて原水中の残留遊離塩素を直接検出することもできる。なお、残留遊離塩素が検出されなかった場合には、回収率を当初の目標値よりも低い値に設定することで、一次透過水の水質悪化を抑制することを優先してもよい。
【0082】
一方、ろ過手段11の詰まりの主な原因としては、上述したように、原水の不純物濃度の変動によるスケーリングが挙げられ、その他にも、原水中の有機物や微粒子などの付着によるファウリングが挙げられる。スケーリングによって第1のろ過手段11に詰まりが発生する場合、そもそもの原因は回収率が高いことであるため、回収率を当初の目標値よりも低い値に設定することで、許容濃縮倍率(式(4)参照)を下げることができ、第1のろ過手段11の詰まりの進行を遅らせて延命を図ることができる。なお、ここで設定する回収率は、例えば加圧ポンプの容量や原水の流量などの装置設計上の制約によって決まる許容最低回収率よりも高い値であることが好ましい。一方、ファウリングによって第1のろ過手段11に詰まりが発生する場合、フラッシングを実施することで、第1のろ過手段11の詰まりの進行を遅らせたり、場合によっては詰まりを回復したりすることができる。フラッシングは、フラッシング用の排水ライン(図示せず)から一次濃縮水を排出することで実施され、これにより、フラッシングに必要な膜面流速が得られることになる。第1のろ過手段11の詰まりの原因は、原水をサンプリングし、その水質分析を行うことで特定することができるが、その原因が特定されるまでに時間を要する場合がある。この場合には、まず、フラッシングを複数回実施するか、あるいは数日間フラッシングを実施し、それでも詰まりが回復しない場合、詰まりの原因としてはスケーリングの可能性が高いため、回収率変更に基づいた延命運転に移行することが好ましい。
【0083】
なお、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定された場合、そのことを通知する警報が出力されることが好ましい。これにより、膜ろ過装置10の操作員に対し、第1のろ過手段11の交換または洗浄を行うかどうかの判断を促したり、第1のろ過手段11の延命運転を行う場合には、劣化または詰まりの原因を特定する作業のタイミングを知らせたりすることができる。
【0084】
また、第1のろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定され、例えば、第1のろ過手段11の交換を行った場合、式(5)~(7)における各参照値は、新たな第1のろ過手段11に対して取得され、そうして新たに取得した参照値を用いて、圧力補正値および導電率補正値が算出される。したがって、制御部20は、式(5)~(7)における各参照値を記憶する記憶手段を備えていることが好ましく、記憶手段に記憶された各参照値は、第1のろ過手段11が交換されるたびにリセットされて更新される。
【0085】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については、図面に同じ符号を付してその説明を省略し、第1の実施形態と異なる構成のみ説明する。
【0086】
本実施形態は、第1の実施形態の第2のろ過手段12が省略され、第1のろ過手段(ろ過手段)11のみが設けられている点で、第1の実施形態と異なっている。これに伴い、第1の実施形態の二次透過水ラインL6と二次濃縮水ラインL7が省略され、二次濃縮水ラインL7に設けられていた二次濃縮水流量計17および流量調整弁CV2も同じく省略されている。また、二次透過水ラインL6に設けられていた二次透過水流量計(透過水流量計)16と二次透過水導電率計(透過水導電率計)22bは、一次透過水ライン(透過水ライン)L2に設けられ、二次濃縮水ラインL7に設けられていた二次濃縮水導電率計(排水導電率計)22cは、排水ラインL4に設けられている。加えて、本実施形態では、第1の実施形態の原水導電率計22aも省略されている。
【0087】
このような構成の変更に伴い、本実施形態では、第1の実施形態で実行されていた3つの流量制御のうち、第3の流量制御は実行されずに第1の流量制御と第2の流量制御のみが並行して実行される。なお、本実施形態の第1の流量制御は、透過水ラインL2を流れる透過水の流量が設定流量に調整される点を除いて、第1の実施形態と同様の条件で実行される。また、本実施形態の第2の流量制御も、上記式(1)における「一次透過水の検出流量」として透過水流量計16による透過水の検出流量が用いられる点を除いて、第1の実施形態と同様の条件で実行される。ただし、本実施形態では、場合によっては、ろ過手段11で分離された濃縮水の全部が外部に排出されるように、還流水ラインL5(および手動弁MV1)と、一次濃縮水ライン(濃縮水ライン)L3に設けられている定流量弁14とが省略されてもよく、したがって、第1の実施形態と同様の条件で第2の流量制御が実行されなくてもよい。
【0088】
一方で、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の方法で、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があるか否かを判定することができるが、上述した構成の変更に伴い、そのような予兆判定に用いるいくつかのデータの取得方法が第1の実施形態と異なっている。具体的には、上記式(5)のQpoおよびQpsとして、透過水流量計16により検出された透過水ラインL2を流れる透過水の流量および同参照値がそれぞれ用いられる点、上記式(7)のCfoおよびCfsとして、後述する式(10)により算出される原水の導電率および同参照値がそれぞれ用いられる点、および、同じく上記式(7)のCpoおよびCpsとして、透過水導電率計22bにより検出された透過水ラインL2を流れる透過水の導電率および同参照値がそれぞれ用いられる点で、第1の実施形態と異なっている。
【0089】
ろ過手段11に供給される原水の導電率は、上記式(8)を導出した手法と同様の考え方で、ろ過手段11で分離された透過水および濃縮水(濃縮排水)のそれぞれの導電率と、その流量分配比とから算出することができる。すなわち、原水の導電率Cfo[μS/cm]は、透過水導電率計(第1の導電率検出手段)22bにより検出される透過水の導電率をC1p[μS/cm]とし、排水導電率計(第2の導電率検出手段)22cにより検出される濃縮排水の導電率C1c[μS/cm]とし、透過水流量計(第1の流量検出手段)16により検出される透過水の流量をQ1p[L/h]とし、濃縮水流量計(第2の流量検出手段)17により検出される濃縮排水の流量をQ1c[L/h]としたとき、以下の式(10)から算出することができる。
fo
(Q1p/(Q1p+Q1c))×C1p
+(Q1c/(Q1p+Q1c))×C1c (10)
【0090】
なお、上記式(10)による導電率の算出は、上記式(8)による導電率の算出と同様に、透過水や濃縮排水の流量が安定するまでの一定期間、あるいは、透過水や濃縮排水の導電率が正確に測れるようになるまでの一定期間行われないことが好ましい。また、透過水と濃縮排水の流量分配比は、ろ過手段11の回収率(透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する透過水の流量の割合)で表すことができることから、原水の導電率Cfo[μS/cm]は、回収率の目標値(小数点表示)をYとしたとき、以下の式(11)を用いて算出することもできる。
fo=Y×C1p+(1-Y)×C1c (11)
【0091】
ただし、上記式(10)、(11)の算出方法では、導電率の算出に用いる流量分配比が、透過水ラインL2を流れる透過水と排水ラインL4を流れる濃縮水(濃縮排水)との流量分配比であるため、算出される導電率は、供給ラインL1のうち還流水ラインL5との接続部よりも上流側を流れる原水の導電率である。これに対し、定流量弁14の設定流量を用いることで、透過水ラインL2を流れる透過水と濃縮水ラインL3を流れる濃縮水との流量分配比が推定されるため、それに基づいて、供給ラインL1のうち還流水ラインL5との接続部よりも下流側を流れる原水の導電率を算出することもできる。
【0092】
上述した2つの実施形態では、1つの制御部により複数の流量制御が実行されるが、それぞれの流量制御が別個に設けられた制御部によって実行されてもよい。また、流量制御を実行する制御部とは別の制御部を設け、その制御部に、ろ過手段に劣化または詰まりの予兆があるか否かを判定する判定手段としての機能や、ろ過手段に供給される被処理水の導電率を算出する算出手段としての機能を分担させてもよい。
【0093】
また、ろ過手段の数は2つ(第1の実施形態)または1つ(第2の実施形態)に限定されず、直列に接続された3つ以上のろ過手段が設けられていてもよい。その場合、任意のろ過手段において、当該ろ過手段に供給される被処理水の導電率を上記式(8)または(10)により算出してもよく、こうして算出した導電率を用いて、当該ろ過手段の上流側に隣接するろ過手段に供給される被処理水の導電率を同じく上記式(8)または(10)から算出してもよい。また、3つ以上のろ過手段が直列に接続されている場合にも、任意のろ過手段に対して劣化または詰まりの予兆判定を行うことができるが、その予兆判定に用いるデータのうち、当該ろ過手段に供給される被処理水の導電率と当該ろ過手段で分離された透過水の導電率の少なくとも一方に、上記式(8)または(10)による算出値を用いることができる。
【0094】
なお、第1の実施形態のように、ろ過手段の数が2つの場合、それらの間に追加の加圧ポンプが設置されてもよい。その場合、第1のろ過手段に原水を供給する供給ラインに導電率計を設置できないことがあるが、その代わりに、一次濃縮水ラインに導電率計を設置することができる。これにより、第1のろ過手段に供給される原水の導電率は、上記(8)により算出された一次透過水の導電率と、一次濃縮水ラインに設置した導電率計による検出値とに基づいて、上記式(10)から算出することができる。
【0095】
また、各ろ過手段は、複数のRO膜またはNF膜から構成されていてもよい。この場合、複数のRO膜またはNF膜は、一次側(原水および濃縮水の流通側)が直列に接続されて最終的に各濃縮水ラインに接続され、二次側(透過水の流通側)が並列に接続されて最終的に各透過水ラインに接続されることになる。
【符号の説明】
【0096】
10 膜ろ過装置
11 第1のろ過手段(ろ過手段)
12 第2のろ過手段
13 加圧ポンプ
14 定流量弁
15 排水流量計
16 二次透過水流量計(透過水流量計)
17 二次濃縮水流量計
20 制御部
21 温度センサ
22a 原水導電率計
22b 二次透過水導電率計(透過水導電率計)
22c 二次濃縮水導電率計(排水導電率計)
23a 原水圧力計
23b 一次透過水圧力計
23c 一次濃縮水圧力計
L1 供給ライン
L2 一次透過水ライン(透過水ライン)
L3 一次濃縮水ライン(濃縮水ライン)
L4 排水ライン
L5 還流水ライン
L6 二次透過水ライン
L7 二次濃縮水ライン
CV1,CV2 流量調整弁
MV1 手動弁
図1
図2
図3
図4