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  • 特許-トナー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20241025BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20241025BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
G03G9/08
G03G9/097 365
G03G9/087 331
G03G9/087 325
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020197175
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085469
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 慎二朗
(72)【発明者】
【氏名】椿 頼尚
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-107769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08
G03G 9/097
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、結晶性樹脂、エステルワックス、及び分散剤を含むトナー粒子を有するトナーであって、
前記結着樹脂は非晶性ポリエステル樹脂を含み、
前記分散剤は、アクリル共重合体樹脂、又は非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂を含み、
示差走査熱量計を用いて測定される、前記エステルワックス由来の昇温時の吸熱ピーク温度をT1、前記エステルワックス由来の冷却時の発熱ピーク温度をT2、前記結晶性樹脂のピーク温度をTcとすると、T2<Tc<T1であり、且つ、T1は75℃以上80℃以下であり、
前記トナー粒子中の前記エステルワックスの分散径は0.2μm以上0.7μm以下であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
請求項1に記載のトナーであって、
前記エステルワックスはポリオール系エステルワックスを含ことを特徴とするトナー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記エステルワックスのSP値をSP1、前記結晶性樹脂のSP値をSP2、前記非晶性ポリエステル樹脂のSP値をSP3とすると、SP1<SP2<SP3であり、且つ、SP2-SP1≦1であることを特徴とするトナー。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のトナーであって、
示差走査熱量計を用いて測定される、前記エステルワックス由来の昇温時の吸熱ピーク温度をT1、前記分散剤のガラス転移温度をTaとすると、Ta<T1であることを特徴とするトナー。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のトナーであって、
前記トナー粒子中の前記エステルワックスの含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とするトナー。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のトナーであって、
フローテスターによる、前記アクリル共重合体樹脂の軟化温度は95℃以上119℃以下であることを特徴とするトナー。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のトナーであって、
前記トナー粒子中の前記アクリル共重合体樹脂の含有量は、1.0質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とするトナー。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のトナーであって、
前記トナー粒子中の前記ハイブリッド樹脂の含有量は、7.0質量%以上32.0質量%以下であることを特徴とするトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリ装置等の画像形成装置に使用されるトナー(電子写真用トナー)には、近年、画像形成装置の省エネルギー化に伴い、低温定着化が求められている。
【0003】
低温定着化を達成するため、トナーに結晶性樹脂を添加することで、定着時のトナーを低粘度化すると、定着可能領域の高温側のオフセットが悪化するという問題がある。そのため、一般に、定着可能領域の高温側を維持するために、離型剤としてワックスを使用する。
【0004】
このような低温定着トナーとして、特許文献1には、非結晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含有し、結晶性ポリエステル樹脂中にスチレン-アクリル酸系樹脂を含有するトナーにおいて、結晶性ポリエステル樹脂の分散径と相溶性とを制御することにより低温定着性を向上できる旨が開示されている。
【0005】
特許文献2には、同様に結晶性ポリエステル樹脂中にスチレン-アクリル酸系樹脂を含有するトナーにおいて、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、スチレン-アクリル酸系樹脂、及びエステルワックスの相溶性を適切にすることでエステルワックスの分散性を制御して、耐熱性を確保できる旨が開示されている。
【0006】
特許文献3には、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、ワックス、及びスチレンアクリル系樹脂組成物を含有するトナーにおいて、嵩高く疎水性を有する特定のスチレンアクリル系樹脂を特定の質量割合で配合することで、トナー表面に疎水性の高いワックス分散剤を露出させ、高温高湿下での帯電性を確保できる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-20690号公報
【文献】特開2018-84754号公報
【文献】特開2017-116810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、離型性に優れるエステルワックスは、定着可能領域の高温側のオフセットに有利にはたらくが、トナー中での分散性が悪い傾向があり、結晶性樹脂と併用することでさらに分散性は悪化する。分散性が悪いと、45℃付近の温度条件下でトナーを放置した際にワックスがトナー表面にブリードして、トナー同士の凝集を引き起こすことで、トナーの耐熱保存性を悪化させるという課題がある。また、分散性改善のためにトナーの混練時にせん断強度を高めると、結晶性樹脂とポリエステル樹脂が相溶化し、トナーのガラス転移温度(Tg)が下がり耐熱保存性が悪化する。これらの理由から、低温定着トナーにおいて、定着可能領域の高温側での耐オフセット性(耐ホットオフセット性)と耐熱保存性との両立は困難であった。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、トナー中のワックスのブリード特性を制御することで、耐ホットオフセット性と耐熱保存性とを両立したトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるトナーは、結着樹脂、結晶性樹脂、エステルワックス、及び分散剤を含むトナー粒子を有する。そして、前記結着樹脂は非晶性ポリエステル樹脂を含み、前記分散剤は、アクリル共重合体樹脂、又は非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂を含む。示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される、前記エステルワックス由来の昇温時の吸熱ピーク温度をT1、前記エステルワックス由来の冷却時の発熱ピーク温度をT2、前記結晶性樹脂のピーク温度をTcとすると、T2<Tc<T1であり、且つ、T1は65℃超85℃未満である。
【0011】
上記の本発明によれば、分散剤がアクリル共重合体樹脂、又は非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂を含むため、分散剤がポリエステル樹脂に親和的な成分とエステルワックスに親和的な成分を有する共重合体を含み、エステルワックス(特にポリオール系エステルワックス)と結晶性樹脂との分散性を最適化できる。そのため、45℃付近という高温条件下での保存時には、エステルワックスのブリード及び結晶性樹脂によるトナーの可塑化が抑制されていることで、耐熱保存性を改善することができる。そして、定着温度においては、エステルワックスをブリードさせて離型剤としての効果を十分に発揮させることができるため、定着可能領域を高温側に拡大することができる。
【0012】
さらに、T2<Tc<T1を満たすことにより、トナーとしての耐熱保存性を確保することができる。その理由は、以下のように推察される。
【0013】
トナーの混練後の冷却時には、結晶性樹脂、エステルワックスの順に結晶化する。すると、結晶性樹脂が結晶核剤として作用し、エステルワックスの結晶化を促進させ、結晶性の高いワックスドメインが形成される。製品のトナーが高温環境下で保存される場合には、結晶性樹脂、エステルワックスの順に融解する。このことから、結晶性樹脂の吸熱によりエステルワックスが融解しにくくなり、ブリードが抑制されるものと推察される。ブリードが抑制されることにより、トナーとしての耐熱保存性を確保することができる。
【0014】
T1が65℃超85℃未満であることにより、定着温度においては、結晶性樹脂とエステルワックスとの両者が十分に溶融し、エステルワックスのブリードを妨げないので、エステルワックスが離型剤としての効果を発揮し、トナーとして耐ホットオフセット性を得ることができる。T1が65℃以下である場合、耐熱保存性の確保が難しくなるおそれがある。T1が85℃以上の場合には、定着温度でワックスが十分に融解しないおそれがある。また、T1がこれより高温のエステルワックスは製造が困難である。
【0015】
上記のトナーにあっては、前記エステルワックスはポリオール系エステルワックスを含み、前記トナー粒子中の前記エステルワックスの分散径は1μm以下であることが好ましい。
【0016】
エステルワックスとしてポリオール系エステルワックスを用いることで、トナーの耐ホットオフセット性がより向上し、定着可能領域の高温側を拡張することができる。ポリオール系エステルワックスは分散しにくいことから、ブリードを制御するために、分散径を1μm以下にすることが好ましい。分散径が1μmを超える場合には、トナーを高温環境下で保管した場合にブリードが発生し、耐熱保存性を確保できなくなるおそれがある。
【0017】
上記のトナーにあっては、前記エステルワックスのSP値(溶解度パラメータ)をSP1、前記結晶性樹脂のSP値をSP2、前記非晶性ポリエステル樹脂のSP値をSP3とすると、SP1<SP2<SP3であり、且つ、SP2-SP1≦1であることが好ましい。
【0018】
SP1<SP2<SP3であり、且つ、SP2-SP1≦1であることにより、エステルワックスのSP値が結晶性樹脂のSP値とは近く、非晶性ポリエステル樹脂と離れた値となり、エステルワックスは結晶性樹脂に対して親和的に、非晶性ポリエステル樹脂に対して非親和的になる。これにより、高温時にエステルワックスがワックスドメインに留まりやすくなり、ブリードがより抑制されるため、耐熱保存性により優れたトナーを実現できる。
【0019】
上記のトナーにあっては、示差走査熱量計を用いて測定される、前記エステルワックスの昇温時の吸熱ピーク温度をT1、前記分散剤のガラス転移温度をTaとすると、Ta<T1であることが好ましい。
【0020】
分散剤のガラス転移温度がエステルワックスの融点(昇温時の吸熱ピーク温度)よりも低いことにより、トナーの低温定着性を阻害しないほか、定着温度でのエステルワックスのブリードを阻害しないため、エステルワックスの離型性を十分に発揮させることができる。
【0021】
上記のトナーにあっては、前記トナー粒子中の前記エステルワックスの含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0022】
エステルワックスの含有量を上記範囲内とすることで、トナーを高温環境下(45℃)で保管した時にブリードせず、トナー定着時のトナー溶融状態において十分な離型性を発揮することで、耐ホットオフセット性と耐熱保存性とを両立することができる。
【0023】
上記のトナーにあっては、フローテスターによる、前記アクリル共重合体樹脂の軟化温度(Tm)は95℃以上119℃以下であることが好ましい。
【0024】
アクリル共重合体樹脂の軟化温度が119℃以下であることにより、トナーの低温定着性を一層確保することができる。また、アクリル共重合体樹脂の溶融状態での粘度が低くなる傾向があるため、トナーの定着時に溶融状態のトナー中でエステルワックスが拡散しやすくなり、エステルワックスが離型性を発揮しやすくなると推察される。アクリル共重合体樹脂の軟化温度が95℃未満の場合、トナーの粘度が低下し、定着可能領域の高温側での耐オフセット性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0025】
上記のトナーにあっては、前記分散剤がアクリル共重合体樹脂を含む場合には、前記トナー粒子中の前記アクリル共重合体樹脂の含有量が1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、前記分散剤が前記ハイブリッド樹脂を含む場合には、前記トナー粒子中の前記ハイブリッド樹脂の含有量が7.0質量%以上32.0質量%以下であることが好ましい。
【0026】
分散剤の含有量を上記範囲内とすることで、分散剤による分散性と、トナーとしての低温定着性とを両立することができる。分散剤の含有量が上記下限未満の場合、分散性制御の効果を十分に得ることができないおそれがある。また、分散剤の含有量が上記上限を超える場合、定着可能領域の低温側での折り曲げ強度が弱くなり、低温定着を阻害する要因となるおそれがある。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、トナー中のエステルワックスのブリード特性を制御することで、耐ホットオフセット性と耐熱保存性とを両立したトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】DSC曲線に基づくガラス転移温度の求め方を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[トナー、トナー粒子]
本発明のトナーは、結着樹脂、結晶性樹脂、エステルワックス、及び分散剤を含むトナー粒子を有する。さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、任意成分を含有していてもよい。トナー粒子の一次粒子の体積平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、体積平均粒子径が4μm以上8μm以下のトナー粒子が挙げられる。以下でそれぞれの成分について説明する。
【0030】
なお、本発明において、結晶性樹脂と非晶性樹脂とは、結晶性指数により区別され、結晶性指数が0.6以上1.5以下の範囲にある樹脂を結晶性樹脂とし、結晶性指数が0.6未満であるか又は1.5を超える樹脂を非晶性樹脂とする。結晶性指数が1.5を超える樹脂は非晶性であり、また、結晶性指数が0.6未満である樹脂は結晶性が低く、非晶性部分が多い。
【0031】
なお、結晶性指数とは、樹脂の結晶化の度合いの指標となる物性であり、軟化温度と吸熱の最高ピーク温度の比(軟化温度/吸熱の最高ピーク温度)により定義されるものである。ここで、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性ポリエステル樹脂においては、最高ピーク温度を融点とし、非晶性ポリエステル樹脂においては、最も高温側にあるピークをガラス転移点とする。
【0032】
結晶化の度合いは、原料モノマーの種類及び比率、並びに製造条件(例えば反応温度、反応時間、冷却速度)等を調整することで制御できる。
【0033】
<結着樹脂>
本発明に係るトナー粒子は、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂を含有する。本発明の効果を損なわない範囲において、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂以外の成分を含有していてもよい。
【0034】
(非晶性ポリエステル樹脂)
本発明のトナーに用いる非晶性ポリエステル樹脂は、テレフタル酸又はイソフタル酸を主成分として含むジカルボン酸モノマーと、エチレングリコールを主成分として含むジオールモノマーとを重縮合させて得られる非晶性ポリエステル樹脂である。
【0035】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジカルボン酸モノマーは、テレフタル酸又はイソフタル酸を主成分として含む。ここで、ジカルボン酸モノマーに占めるテレフタル酸又はイソフタル酸のモル含有率は、70%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、上記ジカルボン酸モノマーは、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸を含むことができる。テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸等が挙げられる。上記ジカルボン酸モノマーは、テレフタル酸又はイソフタル酸のエステル形成性誘導体や、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体も含むことができる。本発明において、エステル形成性誘導体には、カルボン酸の酸無水物やアルキルエステル等が含まれる。なお、テレフタル酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸モノマーを用いる場合、該ジカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
非晶性ポリエステル樹脂の合成においては、上記ジカルボン酸モノマーと共に、3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いてもよい。3価以上のポリカルボン酸モノマーとしては、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のポリカルボン酸やそのエステル形成性誘導体が使用できる。3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いる場合、該ポリカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジオールモノマーは、エチレングリコールを主成分として含む。ここで、ジオールモノマーに占めるエチレングリコールのモル含有率は、70%以上100%以下であることが好ましく、80%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
また、上記ジオールモノマーは、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等を含むことができる。エチレングリコール以外のジオールモノマーを用いる場合、該ジオールモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明のトナーに用いる非晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造できる。例えば、ジカルボン酸モノマーと、ジオールモノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーとを用いて、窒素ガス雰囲気中、190~240℃の温度にて重縮合反応を行うことにより、非晶性ポリエステル樹脂を合成することができる。
【0041】
上記重縮合反応において、ジオールモノマーと、カルボン酸モノマー(ジカルボン酸モノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーとを含む)との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]:[COOH]として、1.3:1~1:1.2が好ましい。また、上記重縮合反応において、カルボン酸モノマーに占めるジカルボン酸モノマーのモル含有率は、80~100%であることが好ましい。さらに、上記重縮合反応においては、必要に応じてジブチルスズオキシドやチタンアルコキシド(例えばテトラブトキシチタネート)等のエステル化触媒を使用することができる。
【0042】
上記非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、定着性、保存性及び耐久性等の観点から、50~70℃が好ましい。一方、ガラス転移温度がこの範囲を外れると、定着性、保存性及び耐久性のバランスが崩れることがある。
【0043】
上記非晶性ポリエステル樹脂の軟化温度(Tm)は、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から、100~150℃が好ましい。一方、軟化温度がこの範囲を外れると、低温定着性と耐ホットオフセット性とのバランスが崩れることがある。
【0044】
上記非晶性ポリエステル樹脂の分子量について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるテトラヒドロフラン(THF)可溶分のピークトップ分子量(Mp)が、トナーの耐熱性、熱保存性及び低温定着性の両立の観点から、3000~10500であることが好ましい。一方、ピークトップ分子量が3000~10500の範囲から外れると、トナーの耐熱性、熱保存性、及び低温定着性のバランスが崩れることがある。
【0045】
GPCでは、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)が使用され、標準物質にはポリスチレンが使用される。なお、ピークトップ分子量とは、GPCの測定により得られるクロマトグラムにおいて最大のピーク高さを示す分子量を指す。
【0046】
上記非晶性ポリエステル樹脂の酸価は、帯電特性の観点から、0~60mgKOH/gが好ましく、上記非晶性ポリエステル樹脂の水酸基価は、耐ホットオフセット性の観点から、0~50mgKOH/gが好ましい。一方、酸価が60mgKOH/gより大きいと、帯電性能が劣る場合があり、水酸基価が50mgKOH/gより大きくなると、耐ホットオフセット性が不十分となる場合がある。
【0047】
上記非晶性ポリエステル樹脂のSP値(溶解度パラメータ)は、10.5~12.5が好ましい。
本発明のトナーにおいて、非晶性ポリエステル樹脂の含有量は、特に限定されないが、トナー粒子中50~80質量%であることが好ましい。
【0048】
<結晶性樹脂>
本発明のトナーにおいては、結晶性樹脂は、非晶性ポリエステル樹脂中に分散している。本発明のトナーに用いる結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸を主成分として含むジカルボン酸モノマーと、炭素数2~10の脂肪族ジオールを主成分として含むジオールモノマーとを重縮合させて得られる直鎖状飽和脂肪族ポリエステルユニットで構成される結晶性ポリエステル樹脂である。直鎖状飽和脂肪族ポリエステルユニットで構成されることで、この結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂が相溶しにくくなる。
【0049】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジカルボン酸モノマーは、炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸を主成分として含む。ここで、ジカルボン酸モノマーに占める炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸のモル含有率は、80%以上100%以下であることが好ましい。
【0050】
上記炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、アゼライン酸、ゼバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等が挙げられる。また、ジカルボン酸モノマーは、これら脂肪族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体も含むことができる。なお、これらジカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
結晶性ポリエステル樹脂の合成においては、上記ジカルボン酸モノマーと共に、3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いてもよい。3価以上のポリカルボン酸モノマーとしては、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上のポリカルボン酸やそのエステル形成性誘導体が使用できる。3価以上のポリカルボン酸モノマーを用いる場合、該ポリカルボン酸モノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用されるジオールモノマーは、炭素数2~10の脂肪族ジオールを主成分として含む。ここで、ジオールモノマーに占める炭素数2~10の脂肪族ジオールのモル含有率は、80%以上100%以下であることが好ましい。
【0053】
上記炭素数2~10の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。なお、これらジオールモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
結晶性ポリエステル樹脂の合成においては、上記ジオールモノマーと共に、3価以上のポリオールモノマーを用いてもよい。3価以上のポリオールモノマーとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン等が使用できる。3価以上のポリオールモノマーを用いる場合、該ポリオールモノマーは、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明のトナーに用いる結晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル製造法と同様にして製造できる。例えば、ジカルボン酸モノマーと、ジオールモノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーや3価以上のポリオールモノマーとを用いて、窒素ガス雰囲気中、190~240℃の温度にて重縮合反応を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂を合成することができる。
【0056】
上記重縮合反応において、ポリオールモノマー(ジオールモノマーと、場合により3価以上のポリオールモノマーとを含む)の水酸基と、カルボン酸モノマー(ジカルボン酸モノマーと、場合により3価以上のポリカルボン酸モノマーとを含む)のカルボキシル基との当量比(OH基/COOH基)は、保存性の観点等から、0.83~1.3が好ましい。また、上記重縮合反応において、カルボン酸モノマーに占めるジカルボン酸モノマーのモル含有率は、90~100%であることが好ましい。該ジカルボン酸モノマーのモル含有率が小さい程、結晶化の割合や速度が低くなり、耐トナー凝集性が不十分になる。更に、上記重縮合反応において、ポリオールモノマーに占めるジオールモノマーのモル含有率は、80~100%であることが好ましい。なお、上記重縮合反応においては、必要に応じてジブチルスズオキシドやチタンアルコキシド(例えばテトラブトキシチタネート)等のエステル化触媒を使用することができる。
【0057】
上記結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tmp)は、40℃以上が好ましく、定着性、保存性及び耐久性等の観点から、60~90℃が更に好ましい。融点が40℃未満だと、耐久性が不十分となる場合がある。また、融点が90℃以上だと、定着性が不十分となる場合がある。
【0058】
上記結晶性ポリエステル樹脂の軟化温度(Tm)は、低温定着性及び耐ブロッキング性の観点から、65~110℃が好ましい。一方、軟化温度がこの範囲を外れると、低温定着性、耐ブロッキング性が不十分となる。
【0059】
上記結晶性ポリエステル樹脂は、結晶化速度及び耐ブロッキング性の観点から、軟化温度(Tm)と融点(Tmp)の比(Tm/Tmp)が1.0~1.4であることが好ましい。一方、軟化温度と融点の比がこの範囲を外れると、結晶化速度や耐ブロッキング性が不十分となる場合がある。
【0060】
上記結晶性ポリエステル樹脂の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるテトラヒドロフラン(THF)可溶分のピークトップ分子量(Mp)が、保存性及び低温定着性等の観点から、10000~90000が好ましい。GPCでは、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)が使用され、標準物質にはポリスチレンが使用される。なお、ピークトップ分子量とは、GPCの測定により得られるクロマトグラムにおいて最大のピーク高さを示す分子量を指す。一方、ピークトップ分子量が上記の範囲を外れると、保存性及び低温定着性が不十分となる場合がある。
【0061】
上記結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、帯電特性の観点から、0~60mgKOH/gが好ましく、上記結晶性ポリエステル樹脂の水酸基価は、耐ホットオフセット性の観点から、0~40mgKOH/gが好ましい。一方、酸価が60mgKOH/gより大きいと、帯電性能が劣る場合があり、水酸基価が40mgKOH/gより大きくなると、耐ホットオフセット性が不十分となる場合がある。
【0062】
上記結晶性ポリエステル樹脂のSP値(溶解度パラメータ)は、9.3~10.0が好ましい。該SP値が9.3未満では、非晶性ポリエステル樹脂に対する相溶性が低くなりすぎ、耐久性が不十分となる場合がある。一方、該SP値が10.0を超えると、結着樹脂のガラス転移温度(Tg)が低下し、耐ブロッキング性が低下する場合がある。
【0063】
本発明のトナーにおいて、結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、特に限定されないが、トナー粒子中3~30質量%であることが好ましい。
【0064】
<エステルワックス>
本発明に係るトナー粒子は、離型剤としてエステルワックスを含有する。離型剤としてのエステルワックスは、トナーを記録媒体に定着させるときに、トナーに離型性を付与するために添加される。本発明のトナーにおいては、離型剤が非晶性ポリエステル樹脂中に分散している。
【0065】
本発明における離型剤としてのエステルワックスとしては、例えば、合成エステル系ワックスを使用できる。合成エステル系ワックスとしては、ニッサンエレクトールワックス(日油株式会社製、WEP-2、WEP-3、WEP-4、WEP-5、WEP-6、WEP-7、WEP-8、WEP-9、WEP-10)等が挙げられる。
【0066】
合成エステル系ワックスのうち、モノエステル系ワックスとしては、WE-11、WE-12、WE-13、ユニスターM-B96R(いずれも製品名、日油株式会社製)等が挙げられ、ポリオール系エステルワックスとしては、WEP-8、WE-14、WE-15(製品名、日油株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
本発明のトナーは、示差走査熱量計を用いて測定される、エステルワックス由来の昇温時の吸熱ピーク温度をT1、エステルワックス由来の冷却時の発熱ピーク温度をT2、結晶性樹脂のピーク温度をTcとすると、T2<Tc<T1であり、且つ、T1は65℃超85℃未満である。T1のより好ましい範囲としては、70℃以上80℃以下である。
【0068】
T2<Tc<T1を満たすことにより、トナーとしての耐熱保存性を確保することができる。その理由は、以下のように推察される。
【0069】
トナーの混練後の冷却時には、結晶性樹脂、エステルワックスの順に結晶化する。すると、結晶性樹脂が結晶核剤として作用し、エステルワックスの結晶化を促進させ、結晶性の高いワックスドメインが形成される。製品のトナーが高温環境下で保存される場合には、結晶性樹脂、エステルワックスの順に融解する。このことから、結晶性樹脂の吸熱によりエステルワックスが融解しにくくなり、ブリードが抑制されるものと推察される。ブリードが抑制されることにより、トナーとしての耐熱保存性を確保することができる。
【0070】
T1が上記範囲内であることにより、定着温度においては、結晶性樹脂とエステルワックスとの両者が十分に溶融し、エステルワックスのブリードを妨げないので、エステルワックスが離型剤としての効果を発揮し、トナーとして耐ホットオフセット性を得ることができる。T1が上記下限未満の場合、耐熱保存性の確保が難しくなるおそれがある。T1が上記上限を超える場合、定着温度でワックスが十分に融解しないおそれがある。また、T1がこれより高温のエステルワックスは製造が困難である。
【0071】
本発明に係るトナー粒子中のエステルワックスの分散径は1μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。また、当該分散径は0.2μm以上であることがより好ましい。そして、本発明のトナーにおいて、エステルワックスはポリオール系エステルワックスを含むことが好ましい。エステルワックスとしてポリオール系エステルワックスを用いることで、トナーの耐ホットオフセット性がより向上し、定着可能領域の高温側を拡張することができる。ポリオール系エステルワックスは分散しにくいことから、ブリードを制御するために、分散径を上記上限以下にすることが好ましい。分散径が上記上限を超える場合には、トナーを高温環境下で保管した場合にブリードが発生し、耐熱保存性を確保できなくなるおそれがある。
【0072】
本発明のトナーにあっては、エステルワックスのSP値(溶解度パラメータ)をSP1、結晶性樹脂のSP値をSP2、非晶性ポリエステル樹脂のSP値をSP3とすると、SP1<SP2<SP3であり、且つ、SP2-SP1≦1であることが好ましい。
【0073】
SP1<SP2<SP3であり、且つ、SP2-SP1≦1であることにより、エステルワックスのSP値が結晶性樹脂のSP値とは近く、非晶性ポリエステル樹脂と離れた値となり、エステルワックスは結晶性樹脂に対して親和的に、非晶性ポリエステル樹脂に対して非親和的になる。これにより、高温時にエステルワックスがワックスドメインに留まりやすくなり、ブリードがより抑制されるため、耐熱保存性により優れたトナーを実現できる。
【0074】
本発明に係るトナー粒子中のエステルワックスの含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以上4.5質量%以下であることがより好ましい。エステルワックスの含有量を上記範囲内とすることで、トナーを高温環境下(45℃)で保管した時にブリードせず、トナー定着時のトナー溶融状態において十分な離型性を発揮することで、耐ホットオフセット性と耐熱保存性とを両立することができる。
【0075】
<分散剤>
本発明に係るトナー粒子は、分散剤として、アクリル共重合体樹脂、又は非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂を含有する。これにより、分散剤がポリエステル樹脂に親和的な成分とエステルワックスに親和的な成分を有する共重合体を含むこととなり、エステルワックス(特にポリオール系エステルワックス)と結晶性樹脂との分散性を最適化できる。そのため、45℃付近という高温条件下での保存時には、エステルワックスのブリード及び結晶性樹脂によるトナーの可塑化が抑制されていることで、耐熱保存性を改善することができる。そして、定着温度においては、エステルワックスをブリードさせて離型剤としての効果を十分に発揮させることができるため、定着可能領域を高温側に拡大することができる。
【0076】
アクリル共重合体樹脂としては、例えば、スチレン-アクリル酸エステル共重合体樹脂等が使用できるが、スチレン及びn-ブチルアクリレートを含む原料モノマーを共重合して得られる樹脂であることが好ましい。また、脂肪族炭化水素樹脂によりグラフト変性されていないことが好ましい。
【0077】
非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂は、ブロック共重合体及びグラフト共重合体のいずれもが使用可能でき、例えば、上述した非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とを、公知の方法にて架橋反応させることによって製造することができる。
【0078】
本発明のトナーにおいては、示差走査熱量計を用いて測定される、エステルワックスの昇温時の吸熱ピーク温度をT1、分散剤のガラス転移温度をTaとすると、Ta<T1であることが好ましい。
【0079】
分散剤のガラス転移温度がエステルワックスの融点(昇温時の吸熱ピーク温度)よりも低いことにより、トナーの低温定着性を阻害しないほか、定着温度でのエステルワックスのブリードを阻害しないため、エステルワックスの離型性を十分に発揮させることができる。
【0080】
また、分散剤のガラス転移温度(Ta)は、50℃以上70℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であることにより、低温定着性と耐熱保存性とを両立することができる。Taが50℃未満の場合、耐熱保存性が悪化するおそれがある。Taが70℃を超える場合、低温定着性を阻害するおそれがある。
【0081】
上記トナーにあっては、フローテスターによる、前記アクリル共重合体樹脂の軟化温度(Tm)は95℃以上119℃以下であることが好ましい。
【0082】
アクリル共重合体樹脂の軟化温度が119℃以下であることにより、トナーの低温定着性を一層確保することができる。また、アクリル共重合体樹脂の溶融状態での粘度が低くなる傾向があるため、トナーの定着時に溶融状態のトナー中でエステルワックスが拡散しやすくなり、エステルワックスが離型性を発揮しやすくなると推察される。アクリル共重合体樹脂の軟化温度が95℃未満の場合、トナーの粘度が低下し、定着可能領域の高温側での耐オフセット性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0083】
分散剤がアクリル共重合体樹脂を含む場合、本発明に係るトナー粒子中のアクリル共重合体樹脂の含有量は1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、分散剤が非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂を含む場合、本発明に係るトナー粒子中の当該ハイブリッド樹脂の含有量は7.0質量%以上32.0質量%以下であることが好ましい。
【0084】
分散剤の含有量を上記範囲内とすることで、分散剤による分散性と、トナーとしての低温定着性とを両立することができる。分散剤の含有量が上記下限未満の場合、分散性制御の効果を十分に得ることができないおそれがある。また、分散剤の含有量が上記上限を超える場合、定着可能領域の低温側での折り曲げ強度が弱くなり、低温定着を阻害する要因となるおそれがある。
【0085】
<その他の内添剤>
本発明に係るトナー粒子は、必要に応じて、上記以外の内添剤を含有していてもよい。上記以外の内添剤としては、例えば、着色剤や帯電制御剤が挙げられる。着色剤や帯電制御剤は、結着樹脂中に分散している。
【0086】
着色剤としては、特に限定されず、電子写真分野で用いられる有機系染料、有機系顔料、無機系染料、無機系顔料等を使用できる。
【0087】
黒色の着色剤としては、例えば、カーボンブラック、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭、非磁性フェライト、磁性フェライト及びマグネタイトを使用できる。
【0088】
イエローの着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185を使用できる。
【0089】
マゼンタの着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222を使用できる。
【0090】
シアンの着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60等を挙げることができる。
【0091】
本発明に係るトナーにおいて、着色剤の含有量は特に限定されないが、トナー粒子中4質量%以上10質量%以下であることが好ましい。着色剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。着色剤は、結着樹脂中に均一に分散させるために、マスターバッチ化して用いてもよい。
【0092】
帯電制御剤は、トナーに好ましい帯電性を付与するために添加される。帯電制御剤としては、特に限定されず、電子写真分野で用いられる正電荷制御用及び負電荷制御用の帯電制御剤を使用できる。
【0093】
正電荷制御用の帯電制御剤としては、例えば、四級アンモニウム塩、ピリミジン化合物、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩を使用できる。
【0094】
負電荷制御用の帯電制御剤としては、例えば、含金属アゾ化合物、アゾ錯体染料、サリチル酸及びその誘導体の金属錯体及び金属塩(金属はクロム、亜鉛、ジルコニウムなど)、有機ベントナイト化合物、ホウ素化合物を使用できる。
【0095】
<外添剤>
本発明に係るトナーは、必要に応じて、外添剤が添加されていてもよい。外添剤は、トナー粒子の表面に付着している。なお、以下において適宜、本発明に係るトナーのうち、外添剤が表面に付着したトナー粒子を有するトナーのことを、外添トナーという。
【0096】
外添剤としては、特に限定されず、電子写真分野で用いられる外添剤を使用できる。本発明に係るトナーにおいて、外添剤の含有量は特に限定されないが、トナー粒子100質量部に対して0.5質量部以上4質量部以下であることが好ましい。外添剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【実施例
【0097】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0098】
<トナー粒子の作製>
[実施例1]
(材料混合・混練・粉砕・分級工程)
ヘンシェルミキサを用いて、以下の成分を5分間前混合した後、二軸押出機を用いて、シリンダ設定温度110℃、バレル回転数300rpm、原料供給速度20kg/時間で溶融混練して溶融混練物を得た。
・結着樹脂:非晶性ポリエステル樹脂P 79質量%
・結晶性ポリエステル樹脂A 7質量%
・着色剤:カーボンブラック(キャボット株式会社製、商品名:Regal330) 6質量%
・離型剤:モノエステル系ワックス(1) 4質量%
・分散剤:アクリル共重合体樹脂X 4質量%
【0099】
得られた溶融混練物を、冷却ベルトで冷却させた後、カッテングミルを用いて粗粉砕し、次いでジェット式粉砕機を用いて微粉砕し、さらに風力分級機を用いて分級して、平均粒子径6.7μmのトナー粒子(トナー母体粒子)を得た。
【0100】
(外添工程)
上記工程で得たトナー粒子(トナー母体粒子)100質量部に、市販のシリカ微粒子(商品名:R976、アエロジル社製、平均一次粒子径7nm)を1.0質量部加えて、撹拌羽根の先端速度を40m/秒に設定した気流混合機(三井鉱山社製、ヘンシェルミキサ)で2分間撹拌することによって外添トナーを得た。
【0101】
[実施例2~22、比較例1~7]
以下の表1に実施例及び比較例において使用した結晶性ポリエステル樹脂の一覧を、表2に実施例及び比較例において使用した非晶性ポリエステル樹脂の一覧を、表3に実施例及び比較例において使用したエステルワックスの一覧を、表4に実施例及び比較例において使用した分散剤の一覧を示す。これらの材料を、表5に示すような組み合わせで添加した以外は実施例1と同様にして、外添トナーを得た。なお、表4及び表5における分散剤の「アクリル」はアクリル共重合体樹脂を、「ハイブリッド」は非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂を表す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
<評価>
実施例及び比較例のトナーについて、下記方法に従い各種測定を行い、トナーの低温定着性、高温定着性、及び耐熱保存性を評価した。これらの評価結果を下記表6に示す。
【0108】
<DSC測定による各種ピーク温度の測定方法>
示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用いて、試料1gを昇温速度毎分10℃で、150℃まで加熱した後、150℃のまま2分保持し、冷却速度毎分10℃で、30℃まで冷却させて、DSC曲線を測定した。得られたDSC曲線から、エステルワックス由来の昇温時の吸熱ピーク温度(T1)、エステルワックス由来の冷却時の発熱ピーク温度(T2)、及び結晶性樹脂のピーク温度(Tc)を求めた。
【0109】
<DSC測定によるガラス転移温度の測定方法>
日本産業規格(JIS)K7121-1987に準じ、示差走査熱量計(商品名:DSC220、セイコー電子工業株式会社製)を用いて、試料1gを昇温速度毎分10℃で加熱してDSC曲線を測定した。図1に示すように、得られたDSC曲線のガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0110】
<フローテスター測定による流出開始温度「Ti」と軟化温度「Tm」の測定方法>
流動特性評価装置(株式会社島津製作所製、フローテスター、型番:CFT-100C)を用いて、試料1gを開始温度の40℃から昇温速度6℃/分で加熱しながら、荷重20kgf/cm2(9.8×105Pa)を与え、ダイ(ノズル口径1mm、長さ1mm)から試料を流出させた。試料が流出し始めた温度を流出開始温度「Ti」、試料の半分量が流出したときの温度を軟化温度「Tm」とした。
【0111】
<エステルワックスの分散径の測定方法>
トナーをエポキシ樹脂に包埋し、ウルトラミクロトーム(Reichert社製、商品名:ウルトラカットN)で面出しを行い、試料を得た。得られた試料に対して、走査透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:S-4800)を用いて、離型剤(ワックス)の分散状態を観察した。得られた電子顕微鏡写真データから無作為に200~300個のワックス部を抽出し、画像解析ソフト(商品名:A像くん、旭化成エンジニアリング株式会社製)で画像解析することにより、ワックスの円相当径(μm)を求め、これをワックスの分散径(μm)とした。
【0112】
<SP値の計算方法>
SP値は、Fedorsらが提案した「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(147~154頁)」に記載される方法によって計算した。
【0113】
<定着性の評価方法>
評価用に改造した市販複写機(シャープ株式会社製、型式:MX-5100FN)を用いて、2成分現像剤による定着画像を形成した。まず、記録用紙(シャープ株式会社製、PPC用紙、型式:SF-4AM3)に、ベタ画像(縦20mm、横50mmの長方形)を含むサンプル画像を未定着画像として形成した。この際、ベタ画像におけるトナーの記録用紙への付着量が1.0mg/cmになるよう調整した。
【0114】
次に、ベルト定着装置を用いて定着画像を作製した。定着プロセス速度を283mm/秒とし、定着ベルトの温度を110℃から5℃刻みで上げ、低温オフセット及び高温オフセットがそれぞれ起こらない最低温度及び最高温度を求めた。
【0115】
「低温オフセット」及び「高温オフセット」とは、定着時にトナーが記録用紙に定着せずに、定着ベルトに付着したまま定着ベルトが一周した後に記録用紙に付着することと定義する。
【0116】
得られた結果から「低温定着性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(最低温度が110℃未満)
○:良好(最低温度が110℃以上120℃未満)
△:可 (最低温度が120℃以上130℃未満)
×:不可(最低温度が130℃以上)
【0117】
また、得られた結果から「高温定着性」を次の基準により判定した。
◎:優秀(最高温度が195℃以上)
○:良好(最高温度が185℃以上195℃未満)
△:可 (最高温度が175℃以上185℃未満)
×:不可(最高温度が175℃未満)
【0118】
<耐熱保存性の評価方法>
高温保存後の凝集物の有無によって耐熱保存安定性を評価した。外添トナー20gをポリ容器に密閉し、50℃で72時間放置した後、トナーを取り出して230メッシュのふるいに掛けた。ふるい上に残存するトナーの重量を測定し、この重量のトナー全重量に対する割合である残存量を求め、下記の評価基準で評価した。残存量の数値が低いほど、トナーがブロッキングを起こしておらずトナー粒子(トナー母体粒子)が被覆層で充分に被覆されていることを示す。
【0119】
評価基準は以下のとおりである。
◎:優秀(凝集なし。残存量が0.5%未満)
○:良好(凝集微量。残存量が0.5%以上7%未満)
△:可 (凝集多量。残存量が7%以上12%未満)
×:不可(凝集多量。残存量が12%以上)
【0120】
<総合評価の方法>
上記の評価結果(低温定着性、高温定着性、及び耐熱保存性)に基づいて、次の基準で総合評価した。
◎:優秀 (すべての評価項目が○以上であり、そのうち◎が2つ以上である。)
○:良好 (すべての評価項目が○以上であり、そのうち◎が2つ未満である。)
○△:やや良好(評価項目に×がなく、△が1つ以上である。)
△:可 (評価項目に×が1つあるが、それ以外の2項目が共に◎である。)
×:不可 (評価項目に×が2つ以上ある、あるいは、評価項目に×が1つであってもそれ以外の2項目に○以下の評価がある。)
【0121】
【表6】
【0122】
表6から明らかなように、トナーが非晶性ポリエステル樹脂、結晶性樹脂、エステルワックス、及び分散剤を含み、当該分散剤がアクリル共重合体樹脂、又は非晶性ポリエステル樹脂とスチレン樹脂とのハイブリッド樹脂であり、T2<Tc<T1であり、T1が65℃超85℃未満である実施例1~実施例22のトナーは、低温定着性、高温定着性(耐ホットオフセット性)、及び耐熱保存性の総合評価において優れるものであった。
【0123】
これに対して、T2<T1<Tcであり、T1が65℃以下である比較例1では耐熱保存性が「×」となり、実施例に対して劣っていた。
【0124】
Tc<T2<T1である比較例2でも耐熱保存性が「×」となり、実施例に対して劣っていた。
【0125】
分散剤(アクリル共重合体樹脂及び当該ハイブリッド樹脂)を含まない比較例3でも耐熱保存性が「×」となり、実施例に対して劣っていた。
【0126】
T1が65℃以下である比較例4及び比較例5でも耐熱保存性が「×」となり、実施例に対して劣っていた。
【0127】
T1が85℃以上である比較例6では、低温定着性が「×」となり、実施例に対して劣っていた。
【0128】
エステルワックスとしてポリオール系エステルワックス(1)を使用した実施例4、実施例5、及び実施例22について検討すると、いずれの実施例においても低温定着性及び高温定着性に優れていることがわかる。なかでも、当該ワックスの分散径が1μm以下である実施例4及び実施例5は、耐熱保存性により優れていることがわかる。
【0129】
エステルワックスを含有しない比較例7のトナーでは、高温定着性が「×」となり、実施例に対して劣っていた。
【0130】
<その他の実施形態>
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
図1