(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート杭構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20241025BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
E02D5/34 A
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2021002577
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156204
【氏名又は名称】株式会社淺沼組
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000148346
【氏名又は名称】株式会社錢高組
(73)【特許権者】
【識別番号】510065067
【氏名又は名称】▲高▼松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】新井 佑一郎
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 柾治
(72)【発明者】
【氏名】牛島 栄
(72)【発明者】
【氏名】関 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正美
(72)【発明者】
【氏名】片岡 隆広
(72)【発明者】
【氏名】細井 泰行
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 治人
(72)【発明者】
【氏名】吉井 浩人
(72)【発明者】
【氏名】川幡 栄治
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193751(JP,A)
【文献】特開2015-214864(JP,A)
【文献】特開2005-282268(JP,A)
【文献】特開2018-084047(JP,A)
【文献】特開2002-302959(JP,A)
【文献】特開2002-294697(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110565688(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0040564(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/34 - 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の縦主筋と環状の横フープ筋を組み合わせて筒状に形成した鉄筋籠が、コンクリート柱に内設された鉄筋コンクリート杭において、
前記縦主筋として、長さ方向
の一部が
他の部分より高強度に形成された
高強度領域を備えた部分高強度鉄筋を含
み、
前記部分高強度鉄筋は、長さ方向上端部側に前記高強度領域が設けられ、前記高強度領域の長さ方向下端部側に中強度領域が設けられ、前記中強度領域の長さ方向下端部側に低強度領域が設けられていることを特徴とする鉄筋コンクリート杭構造。
【請求項2】
前記部分高強度鉄筋の上端部に定着部が形成され、該定着部が鉄筋コンクリート杭の上端部に設けられたフーチング内に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート杭構造。
【請求項3】
前記部分高強度鉄筋における高強度領域の降伏強度が、490~1275N/mm
2の範囲であることを特徴とする請求項1
または2に記載の鉄筋コンクリート杭構造。
【請求項4】
前記部分高強度鉄筋の高強度領域と該高強度領域の強度より低い強度領域との変位点が、前記鉄筋コンクリート杭の上端部側から少なくとも鉄筋コンクリート杭の直径の5倍以内の長さの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート杭構造。
【請求項5】
前記縦主筋が、前記部分高強度鉄筋と普通強度鉄筋の組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート杭構造。
【請求項6】
前記鉄筋コンクリート杭の上端部に設けられたフーチング内の前記部分高強度鉄筋が、他の部材の鉄筋と接続されていることを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート杭構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート杭構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に土木、建築構造物の施工では、地中に鉄筋コンクリート製の杭基礎を構築し、その上に建築構造物を構築している。上記杭基礎の構築工法としては、現場にて地盤掘削後、掘削孔に複数の縦主筋と環状の横フープ筋を組み合わせて筒状に形成した鉄筋籠を挿入し、コンクリートを打設して鉄筋コンクリート杭を構築する場所打ち杭工法と、予め工場で作製した鉄筋コンクリート杭を現場で打設する既製杭工法がある。
【0003】
一方、建築構造物を支持するために地中に構築される杭基礎は、建築構造物が地震力等による水平方向の外力が入力すると、杭基礎に塑性ヒンジが発生し、杭頭部が降伏して杭頭部及びフーチングに曲げや亀裂、せん断亀裂等が発生する場合がある。また、フーチング内の縦主筋との定着部に亀裂が生じると、縦主筋の定着性能が低下し、補修が困難となったり、上部構造に目立った損傷がない場合であっても建物を継続使用できなくなることがある。さらに、杭頭がせん断破壊した場合は、軸力支持性能が低下するため、被災後に建物が傾斜する場合がある。
【0004】
そのため、このような状況を考慮して、鉄筋コンクリート杭の杭頭の曲げ耐力を高めるために、杭頭部の杭径を増加させたり、
図10に示すように、複数の縦主筋22と環状の横フープ筋3を組み合わせて筒状に形成した鉄筋籠4において、杭1中間部及び下部に対して杭1上部の縦主筋22の本数を増加させた構造とするなどして対応している。
【0005】
しかしながら、場所打ち杭工法による鉄筋コンクリート杭の場合、縦主筋同士のあきが、鉄筋径の1.5倍、粗骨材径の1.25倍、25mmのうち最も小さい値を下限とすることが規定されているため、杭径は縦主筋の本数により決定される。即ち、縦主筋の本数を増加させると、必然的に杭径を大きく設計しなければならないという問題があった。また、既製杭工法による鉄筋コンクリート杭においても、杭頭部における補強筋の本数が多くなると、配筋の収まりが悪化するという問題があった。
【0006】
また、軟弱地盤等に対して構築した杭基礎において、杭頭に大きい曲げモーメントが作用する場合には、杭頭部のみを鋼管で覆い、鋼管コンクリート杭とすることで曲げ耐力を増加させる方法がある。しかしながら、この方法では鋼材量が増加するためコストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに対して、太径の鉄筋を用いずに、杭径の増加を抑えながら縦主筋量を増やす方法として、束ね筋を用いるコンクリート杭が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この提案では縦主筋同士を束ねるために機械式接手が必要となるためコストがかかり経済性に劣る。また、縦主筋の強度を高めると、フーチング内の定着部の長さが増加するため、縦主筋上部の収まりの悪化や施工性の低下が問題となる。
【0009】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、杭頭に大きな曲げモーメントが作用した場合でも、縦主筋の本数を抑えた構成で、必要とする耐力を確保することが可能であり、かつ、施工性に優れた鉄筋コンクリート杭構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鉄筋コンクリート杭構造は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、本発明の鉄筋コンクリート杭構造は、複数の縦主筋と環状の横フープ筋を組み合わせて筒状に形成した鉄筋籠が、コンクリート柱に内設された鉄筋コンクリート杭において、前記縦主筋として、長さ方向の少なくとも一部が高強度に形成された部分高強度鉄筋を含むことを特徴とする。
第2に、上記第1の発明の鉄筋コンクリート杭構造において、前記部分高強度鉄筋の上端部に定着部が形成され、該定着部が鉄筋コンクリート杭の上端部に設けられたフーチング内に埋設されていることが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の鉄筋コンクリート杭構造において、前記部分高強度鉄筋は、長さ方向上端部側の強度が下端部側の強度より高強度に形成されていることが好ましい。
第4に、上記第1から第3の鉄筋コンクリート杭構造において、前記部分高強度鉄筋の長さ方向中央部の強度が、上端部側及び下端部側の強度より高強度に形成されていることが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明の鉄筋コンクリート杭構造において、前記部分高強度鉄筋における高強度領域の降伏強度が、490~1275N/mm2の範囲であることが好ましい。
第6に、上記第1から第5の発明の鉄筋コンクリート杭構造において、前記部分高強度鉄筋の高強度領域と、該高強度領域の強度より低い強度領域の変位点が、前記上端部側から少なくとも鉄筋コンクリート杭の直径の5倍以内の長さの範囲に設定されていることが好ましい。
第7に、上記第1から第6の発明の鉄筋コンクリート杭構造において、前記縦主筋が、前記部分高強度鉄筋と普通強度鉄筋の組み合わせで構成されていることが好ましい。
第8に、上記第1から第7の発明の鉄筋コンクリート杭構造において、前記鉄筋コンクリート杭の上端部に設けられたフーチング内の前記部分高強度鉄筋が、他の部材の鉄筋と接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の杭構造によれば、杭頭に大きな曲げモーメントが作用した場合でも、縦主筋の本数を抑えるとともに、必要とする耐力を確保することができる。
また、杭頭の縦主筋量が抑えられるため、フーチングや基礎梁の配筋との交錯を緩和することができ、施工性や品質の向上、さらには工期短縮によるコスト削減効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】縦主筋に部分高強度縦主筋を用いた本発明の鉄筋コンクリート杭構造を示す概略図であり、(A)は側面透視概略図であり、(B)は(A)のA-A概略断面図である。
【
図2】本発明の鉄筋コンクリート杭構造に用いる部分高強度縦主筋の一実施形態を示す概略図である。
【
図3】鉄筋コンクリート杭の塑性ヒンジ発生位置を示す側面透視概略図であり、(A)は従来の鉄筋コンクリート杭、(B)は本発明の鉄筋コンクリート杭の側面透視概略図である。
【
図4】縦主筋強度を下方向に向けて段階的に低下させた実施形態を示す概略図である。
【
図5】部分高強度縦主筋の上端部に定着部を設けた実施形態を示す概略図である。
【
図6】本発明に係る鉄筋コンクリート杭のフーチングと他の部材を接続した実施形態の接合構造を示す概略図である。
【
図7】実施例で用いた模擬地盤の土質構成(A)、標準貫入試験の結果を示すグラフ(B)及び、試験に用いた鉄筋コンクリート杭の概略図(C)である。
【
図8】深度に対する水平地盤反力係数及び、曲げモーメント分布の結果を示すグラフである。
【
図9】部分高強度縦主筋を用いた鉄筋コンクリート杭と、通常強度の縦主筋を用いた鉄筋コンクリート杭の軸力-曲げ相関図を示すグラフである。
【
図10】普通強度鉄筋を縦主筋に用いた従来の鉄筋コンクリート杭構造を示す概略図であり、(A)は側面透視概略図であり、(B)は(A)のB-B概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の鉄筋コンクリート杭構造を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る鉄筋コンクリート杭構造の一実施形態の概略説明図である。
【0015】
本発明の鉄筋コンクリート杭構造は、複数の縦主筋22と環状の横フープ筋3を組み合わせて筒状に形成した鉄筋籠4が、コンクリート柱に内設された鉄筋コンクリート杭1において、縦主筋22として、長さ方向の少なくとも一部が高強度に形成された部分高強度鉄筋2が用いられたものである。
【0016】
本発明で用いる部分高強度鉄筋2としては、JIS G 3112:2020(鉄筋コンクリート用棒鋼)で規定されるSD295A、SD295B、SD345、SD390、SD490等の規格の異形棒鋼を用いることができ、これらの中でも、汎用性等の観点からSD390を好適に用いることができる。
【0017】
また、上記の規格に類似する異形棒鋼も利用できる。異形棒鋼の形状としては、一般的な竹節の他、波節、ねじ鉄筋等、コンクリートとの付着性を考慮した棒鋼を例示することができる。使用する異形棒鋼の径は、鉄筋コンクリート杭の設計に応じて適宜設定することができるが、通常、D22~D38程度のものが用いられる。
【0018】
本発明の鉄筋コンクリート杭構造における部分高強度鉄筋2は、縦主筋22の長さ方向の少なくとも一部に高強度領域2aが形成されているが、高強度領域2aの位置及び範囲は、鉄筋コンクリート杭1の1本に対して同一箇所であっても複数個所に分散されていてもよい。また、高強度領域2aの長さは鉄筋コンクリート杭の全体長さに応じて適宜設定することができる。
【0019】
部分高強度鉄筋2における高強度領域2aの降伏強度は、通常強度領域の強度よりも高強度であれば限定されるものではないが、通常、490~1275N/mm2の範囲であることが好ましく、685~800N/mm2がより好ましい。この範囲とすることにより、縦主筋22の本数の増加を抑えつつ、杭の曲げ耐力を増加させることができる。なお、鉄筋コンクリート杭1の縦主筋22には、通常、全体の降伏強度が295~390N/mm2程度の普通強度鉄筋が用いられており、部分高強度鉄筋2における高強度領域2a以外の普通強度領域2bは、上記普通強度鉄筋の降伏強度の範囲と同等の強度に設定されている。
【0020】
高強度領域2aの成形方法としては、高強度領域2aとする場所に熱処理を施すことにより高強度化することができる。具体的な熱処理の方法としては、ガスバーナー等の火炎による熱処理や、高周波による熱処理を例示することができる。
【0021】
熱処理を施すことにより、熱処理領域は高強度領域2aとされ、非熱処理領域は普通強度領域2bとなる。また、高強度領域2aと普通強度領域2bの境界は、
図2に示すように、徐々に強度が変化する強度移行領域2cとしてもよい。このような強度移行領域2cを形成する方法としては、高強度領域2aの熱処理から普通強度領域2bにかけて徐々に弱い熱処理を施すことにより形成することができる。
【0022】
また、本発明の鉄筋コンクリート杭構造においては、部分高強度鉄筋2における高強度領域2aは、鉄筋コンクリート杭1の上端部側に設けるのが好ましく、さらに、部分高強度鉄筋2の高強度領域2aと、普通強度領域2bとの強度領域の変位点が、上端部側から少なくとも鉄筋コンクリート杭1の直径の5倍以内の長さの範囲に設定されていることが好ましい。変位点の位置が上記範囲内であれば、地震動等による過大な力が加わる杭頭部の曲げモーメントやせん断力に対する強度を増強させることが可能となる。
【0023】
さらに、部分高強度鉄筋2の強度の切り替え位置は、地盤条件から算出した曲げモーメント分布を用い、杭頭部の発生応力をMA、杭頭部の許容曲げ耐力をM1、鉄筋仕様強度が切り替わる位置の発生応力をMB、強度切り替わり位置の許容曲げ耐力をM2とした場合に、M1>MA及びM2=MBの関係を満たすように設定することもできる。これにより、鉄筋コンクリート杭1の塑性ヒンジ発生位置23が杭頭部から離れた位置となり、フーチング5への亀裂の発生を抑制することができ、縦主筋22の定着能力の低下を防止できる。
【0024】
上記の条件により、
図3に示すように鉄筋コンクリート杭の塑性ヒンジ発生位置23を
図3(A)に示す従来の杭頭部側から
図3(B)に示す下方に移行させることが可能となるため、フーチング5内に存在して定着部となる縦主筋22上端部側の定着強度を低下させる領域が解消され、耐震性能を高めることができる。また、建築物の被災後の継続使用性を高めることができる。
【0025】
鉄筋コンクリート杭1の施工方法には、現場で掘削孔を造成して鉄筋籠4を挿入し、コンクリートを打設して杭を造成する場所打ち杭工法と、工場で鉄筋籠4を内設した鉄筋コンクリート杭1を製造して現場に輸送し、掘削孔に打設、挿入する既製杭工法があるが、本発明に係る鉄筋コンクリート杭1は何れの工法に対しても適用が可能である。
【0026】
場所打ち杭工法の場合、掘削深さ、即ち鉄筋コンクリート杭1の長さは、施工設計に応じて適宜決定されるが、掘削孔に挿入する鉄筋籠4は、通常、所定の長さの鉄筋籠4を1段ずつ縦主筋22同士を接合し継ぎ足しながら挿入して所定の長さに造成する。1段の縦主筋22の長さは設計者により適宜設定できるが、一般的には5~11mである。また、縦主筋22同士の接合は、通常、重ね継手により接合される。
【0027】
杭頭部の杭径は、通常、約1~3mの範囲に設定されるが、例えば、液状化が懸念されるような軟弱地盤に対し、径が大きい杭を施工する場合には、高強度に形成した領域内で十分に曲げモーメントが低減しなければ、
図4に示すように、高強度領域2aと隣り合う領域に中強度領域2d、さらに低強度領域2eを形成して、徐々に鉄筋強度を下げていく構成も可能である。ここで、上記中強度領域と上記低強度領域の降伏強度範囲としては、390~490N/mm
2程度の範囲が考慮される。
【0028】
また、本発明の鉄筋コンクリート杭構造においては、縦主筋22の上端部すなわち部分高強度鉄筋2の上方に定着部21を設けるのが好ましい。定着部21は、縦主筋22の上端部を加工して形成してもよいし、別体の定着体を取り付け固定して定着部21としてもよい。定着部21の形状は特に限定されるものではないが、例えば、縦主筋22の上端部を加工する定着体としては、
図4、
図5に示すような逆J字型フック状や、逆L字型フック状等の他の定着可能な形状とすることができる。また、縦主筋22の上端部に、別体の定着体を取り付け加工する定着部21としては、ナット状の定着体や、逆J字型フック状、逆L字型フック状の定着体等がある。なお、部分高強度鉄筋2の上端部側に定着部21を形成する場合には、形成する上端部側の強度は高強度とはせず、普通強度鉄筋と同等の降伏強度に設定することが好ましい。また、工程の調整等により、定着部21を曲げ加工により形成したのちに熱処理して部分的に高強度化してもよい。また、その場合は曲げ加工した部分を避けて熱処理を行うのが好ましい。
【0029】
上記定着部21を含む部分高強度鉄筋2の上端部側を鉄筋コンクリート杭1の上端部に設けられたフーチング5内に埋設することにより、フーチング5内に部分高強度鉄筋2を確実に定着させることができ、優れた耐力を有する高強度杭とすることが可能となる。また、定着時の応力負担は、フーチング5内の部分高強度鉄筋2の直線部分と、その上端部に形成された定着部21に、各々同等程度の荷重を負担させる長さとすることが望ましい。なお、この場合、フーチング5内に定着する部分高強度鉄筋2の長さは、
図4に示すように定着部21の長さと概ね同等となる。
【0030】
なお、構造計算上の耐力が確保されていることや、鉄筋の収まりに問題がないことを確認した場合には、定着部21を設けずに縦主筋22による直線定着とすることもできる。この場合の定着長さは、杭頭部、もしくは鉄筋仕様強度が切り替わる位置から上方に鉄筋径dの40~60倍程度の間で適宜設定することができる。
【0031】
本発明の鉄筋コンクリート杭構造においては、鉄筋籠4を構成する複数の縦主筋22全てを部分高強度鉄筋2としてもよいが、部分高強度鉄筋2と高強度領域2aを有さない普通強度鉄筋の縦主筋22を混在させてもよい。また、場所打ち杭工法の場合には、縦方向に繋ぐ全ての鉄筋籠4の縦主筋22に部分高強度鉄筋2を用いてもよいし、最上部の鉄筋籠4のみの縦主筋22に部分高強度鉄筋2を用いてもよい。縦主筋2を上記構成とすることにより、鉄筋コンクリート杭1を所望の耐力に調整することが可能となる。
【0032】
以上、本発明の鉄筋コンクリート杭構造を実施形態に基づいて説明したが、本発明の鉄筋コンクリート杭構造は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、場所打ち杭工法による鉄筋コンクリート杭1の構築において、1つの鉄筋籠4の縦主筋22について部分高強度鉄筋2を用いる構成について説明したが、本発明では、鉄筋コンクリート杭1全体に対する縦主筋22について部分高強度鉄筋2となっていればよく、例えば、最上部の鉄筋籠4の縦主筋22のみを部分高強度鉄筋2として、それより下方の鉄筋籠4の縦主筋22を普通強度鉄筋と同等の降伏強度の縦主筋22として構成することもできる。
【0034】
また、鉄筋コンクリート杭1の上端部に設けられたフーチング5の部分高強度鉄筋2を他の部材の鉄筋と接続した構成とすることもできる。他の部材としては、本発明に係る部分高強度鉄筋2と同様の構成の部分高強度鉄筋2を内設した部材であれば限定されず、例えば、基礎梁等の梁や基礎スラブ(耐圧版)等を例示することができる。また、他の部材の鉄筋は、普通強度鉄筋だけでなく、高強度鉄筋や部分高強度鉄筋でもよいし、部分高強度鉄筋2と同様の強度を有する部分高強度鉄筋であってもよい。
【0035】
図6に、本発明に係る鉄筋コンクリート杭1のフーチング5と他の部材6を接続した実施形態の接合構造を示す。
図6に示す実施形態の接合構造では、鉄筋コンクリート杭1のフーチング5に対して、高強度領域7a、普通強度領域7b、強度移行領域7cを有する部分高強度鉄筋7を内設する他の部材としての基礎梁6を接合しており、基礎梁6に内設された部分高強度鉄筋7の高強度領域7aの一部と、鉄筋コンクリート杭1の部分高強度鉄筋2の高強度領域2aの上端部近傍とを接合している。これにより、例えば基礎梁6に対して上下方向の曲げモーメントがかかった場合でも、発生した応力を確実に鉄筋コンクリート杭1の部分高強度鉄筋2に伝達させることができるため、優れた耐力を有する高強度杭と高強度梁の接合構造とすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の鉄筋コンクリート杭構造を実施例に挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
図8(A)に示す縦主筋22に部分高強度鉄筋2を用いた構成の鉄筋コンクリート杭1と、
図7(A)に示す土質構成の模擬地盤に場所打ち杭工法にて構築した鉄筋コンクリート杭1(
図7C)は、全長32.6m、直径1.5m(フーチング5径2.1m)となっている。また、部分高強度鉄筋2は、縦主筋22の上端部から7.5mまで熱処理を施して高強度領域2aの縦主筋降伏強度を700N/mm
2とし、それ以下の領域を普通強度領域2bの縦主筋降伏強度を390N/mm
2とした。なお、
図7(B)に標準貫入試験結果のグラフを示す。
【0038】
この本発明の鉄筋コンクリート杭1に対して、Changの式を用いた方法で曲げモーメント分布を算定した。その結果を
図8に示す。この結果では、本実施例に係る鉄筋コンクリート杭1の軸方向下方向の曲げモーメント分布はフーチング5と接続する最上部で最大となり、下方に行くにつれて急激に低減している。
【0039】
図9に、部分高強度鉄筋2を用いた鉄筋コンクリート杭1と、普通強度鉄筋と同等の降伏強度の縦主筋22を用いた鉄筋コンクリート杭1の軸力-曲げ相関図を示す。この図から、部分高強度鉄筋2を用いた鉄筋コンクリート杭1の圧縮耐力及び杭断面全体に圧縮応力が生じている状態(圧縮軸力が大きい状態)の曲げ耐力は、普通強度鉄筋の降伏強度の縦主筋22を用いた従来の鉄筋コンクリート杭とほとんど変わらないことがわかる。一般に、圧縮側の耐力で杭の断面が決定されるケースは少なく、圧縮側の耐力が増加しないことは設計上の問題とはならない。
一方、部分高強度鉄筋2を用いた鉄筋コンクリート杭1では、引張軸力の限界値が増加する。また、軸力0前後から引張軸力の限界値までの間における曲げ耐力が、従来の鉄筋コンクリート杭と比較して増加することがわかる。
【0040】
上記本発明の鉄筋コンクリート杭構造によれば、杭頭に大きな曲げモーメントが作用した場合でも、縦主筋22の本数を抑えるとともに、必要とする耐力を確保することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄筋コンクリート杭
2 部分高強度鉄筋
2a 高強度領域
2b 普通強度領域
2c 強度移行領域
2d 中強度領域
2e 低強度領域
21 定着部(J型フック)
22 縦主筋
23 塑性ヒンジ発生位置
3 横フープ筋
4 鉄筋籠
5 フーチング
6 他の部材(基礎梁)
7 部分高強度鉄筋
7a 高強度領域
7b 普通強度領域
7c 強度移行領域
8a コンクリートの圧縮強度で耐力が決まる領域
8b 鉄筋の引張強度で耐力が決まる領域
8c 部分高強度鉄筋を適用した杭で、コンクリートに圧縮応力が作用する領域
8d 部分高強度鉄筋を適用した杭で、コンクリートに圧縮応力が生じない領域
8e 普通強度縦主筋を適用した杭で、鉄筋の引張強度で耐力が決まる領域