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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20241025BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20241025BHJP
   B29C 44/20 20060101ALI20241025BHJP
   B29K 25/00 20060101ALN20241025BHJP
   B29K 33/04 20060101ALN20241025BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20241025BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20241025BHJP
【FI】
C08J9/14 CET
C08J9/14 CEY
C08J9/14 CFD
B29C44/00 E
B29C44/20
B29K25:00
B29K33:04
B29K67:00
B29L7:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021006353
(22)【出願日】2021-01-19
(65)【公開番号】P2022110748
(43)【公開日】2022-07-29
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】関谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大利 隆史
(72)【発明者】
【氏名】小暮 直親
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-082805(JP,A)
【文献】特開2009-215504(JP,A)
【文献】特開2008-133424(JP,A)
【文献】特開2011-219631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂、物理発泡剤及び難燃剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出、発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む、見掛け密度20~50kg/m、厚み10~150mmの熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、
前記基材樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、JIS K7122-1987に基づく融解熱量が5J/g未満であるポリエステル樹脂とを含み、
前記基材樹脂中の前記ポリエステル樹脂の配合量が5~50質量%であり、
前記基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が20~40質量%であり、
前記物理発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィンを含み、
前記物理発泡剤の添加量の合計100mol%に対する前記ハイドロフルオロオレフィンの添加量の割合が50mol%以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項2】
前記ハイドロフルオロオレフィンの添加量が基材樹脂1kgに対し0.5mol以上1.5mol以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロオレフィンが、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとを含み、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとのmol比が20:80~80:20であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂押出発泡板とその製造方法に関し、詳しくは、建築物の壁、床、屋根等の断熱材として好適に使用可能な熱可塑性樹脂押出発泡板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状発泡板を構成する樹脂として、ポリエステル樹脂が知られている。ポリエステル樹脂は、発泡板中に空気が流入することを抑制する性能が高い樹脂であるが、ポリエステル樹脂単独では板状発泡板に成形することが困難であった。
【0003】
一方、発泡板中に空気が流入することを抑制する性能が高い樹脂として、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が知られている。しかしながら、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を単独の原料として発泡板を製造することは可能であるものの、低熱伝導率化の観点においてさらなる改善の余地があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、特許文献1において、ポリスチレン樹脂と特定のポリエステル樹脂(スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む)とを含み、ポリスチレン樹脂とポリエステル樹脂の質量比が、95:5~50:50の熱可塑性樹脂押出発泡板(以下、単に押出発泡板とも称する。)を提案した。この押出発泡板は、発泡体表面に凹凸状の波うちがなく、外観が良好であり、十分な厚みを有し、発泡倍率が高いものであった。
【0005】
また、本発明者らは、特許文献2において、ポリスチレン樹脂と、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、非晶質ポリエステル樹脂との混合樹脂からなる(実施例では非晶質ポリエステル樹脂の含有量が22~44質量%)スチレン系樹脂発泡体を提案した。この押出発泡体は、熱伝導率の経時変化が小さく、難燃性及び曲げ破壊歪み等の機械的強度に優れるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-082805号公報
【文献】特開2019-189666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1、2の押出発泡体は、基材樹脂に通常のポリスチレンを特定の比率で含んでおり、該ポリスチレンが比較的高い空気透過係数を示すことから、長期に亘る断熱性の保持の観点においてさらなる改善の余地を残していた。
【0008】
本発明は、熱伝導率を長期に亘って低く維持することができ、優れた断熱性及び難燃性を有する熱可塑性樹脂押出発泡板とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に記載の熱可塑性樹脂押出発泡断熱板とその製造方法を提供する。
<1>基材樹脂、物理発泡剤及び難燃剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出、発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む、見掛け密度20~50kg/m、厚み10~150mmの熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であって、
前記基材樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、JIS K7122-1987に基づく融解熱量が5J/g未満であるポリエステル樹脂を含み、
前記基材樹脂中の前記ポリエステル樹脂の配合量が5~50質量%であり、
前記基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が20~40質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
<2>前記物理発泡剤が、ハイドロフルオロオレフィンを含み、該ハイドロフルオロオレフィンの添加量が基材樹脂1kgに対し0.5mol以上1.5mol以下であることを特徴とする<1>に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
<3>前記物理発泡剤の添加量の合計100mol%に対する前記ハイドロフルオロオレフィンの添加量の割合が50mol%以上であることを特徴とする<2>に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
<4>前記ハイドロフルオロオレフィンが、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとを含み、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンと1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとのmol比が20:80~80:20であることを特徴とする<2>または<3>に記載の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法。
<5>難燃剤を含む、見掛け密度20~50kg/m、厚み10~150mmの熱可塑性樹脂押出発泡板であって、
前記熱可塑性樹脂押出発泡板の基材樹脂が、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、JIS K7122-1987に基づく融解熱量が5J/g未満であるポリエステル樹脂との混合物であり、
前記基材樹脂中の前記ポリエステル樹脂の含有量が5~50質量%であり、
前記基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が20~40質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡板。

【発明の効果】
【0010】
本発明は、基材樹脂を融解熱量が5J/g未満であるポリエステル樹脂とスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体とを含む熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法であり、基材樹脂中のポリエステル樹脂の比率と基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の比率とを特定範囲とすることにより、優れた難燃性を有し、熱伝導率を長期に亘って低く維持することができ、断熱性に優れた熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板とその製造方法について説明する。本発明で製造される熱可塑性樹脂押出発泡板(以下、押出発泡板とも称する。)は、基材樹脂、物理発泡剤及び難燃剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を含み、見掛け密度20~50kg/m、厚み10~150mmであり、前記基材樹脂は、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、融解熱量が5J/g未満のポリエステル樹脂とを含む。
【0012】
(1)スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体
前記基材樹脂に用いられるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、スチレンと(メタ)アクリル酸低級アルキルエステルとの共重合体であり、具体的には、例えば、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸プロピル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸プロピル共重合体などが例示されるが、これらのうち目的とする所期の作用効果が顕著であるスチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体が好ましく、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体がより好ましい。これらのスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は1種又は2種以上を混合して使用することができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを含む概念であり、これらの一方、または双方を意味する。
【0013】
前記基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は20~40質量%であり、好ましくは25~38質量%、より好ましくは30~36質量%である。なお、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量の異なる2種以上のものを併用することができるが、2種以上のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用する場合には、それぞれのスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる(メタ)アクリル酸エステル成分含有量の合計をスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量とする。
【0014】
前記基材樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分が少なすぎると、押出発泡板の熱伝導率を低下させる効果が小さくなる。一方、(メタ)アクリル酸エステル成分が多すぎる場合には、押出発泡板の熱伝導率の面からは充分であるが、難燃性が悪化し、建築材料として要求される難燃性規格を満足することができなくなる。ただし、難燃性は、製造に使用する難燃剤の種類や量、押出発泡体の密度、押出発泡体中の発泡剤残量によっても影響されるものである。また、前記基材樹脂における(メタ)アクリル酸エステル成分量が適切な範囲にあると、基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と融解熱量が5J/g未満のポリエステル樹脂が層状に分散しやすく、低熱伝導率化しやすくなるという利点がある。
【0015】
スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体による熱伝導率低下効果は、(メタ)アクリル酸エステル成分による熱伝導率が低い発泡剤の押出発泡板中からの逸散抑制と熱伝導率の高い空気の押出発泡板中への流入抑制によるものである。そのため、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分が少なくなると押出発泡板の熱伝導率が高くなる。しかし、(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のみを使用して押出発泡体を製造した場合は、難燃性規格を満足することが困難となる。
【0016】
そこで、(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を使用する場合には、(メタ)アクリル酸エステル成分が少ないスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を併用し、前記(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量の範囲とすることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分が少ないスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリエステル樹脂との両社との相溶性が比較的優れる。そのため、(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル成分が少ないスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びポリエステル樹脂からなる樹脂組成の場合には、得られる押出発泡板を構成する樹脂の分散状況が複雑な連続層を形成し、押出発泡板中からの発泡剤の逸散、押出発泡板中への空気の流入を効率的に抑えることで、難燃性を維持しながら押出発泡板の熱伝導率を低くすることが可能となると考えられる。
【0017】
前記(メタ)アクリル酸エステル成分が多いスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分が40~75質量%であることが好ましく、50~75質量%であることがより好ましい。前記(メタ)アクリル酸エステル成分が少ないスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分が5質量%以上40質量%未満であることが好ましく、15質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフ分析等の公知の方法により求めることができる。
【0019】
基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の配合量は、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体中に含まれる(メタ)アクリル酸エステル成分量によって調整されるものであるが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、押出発泡板の熱伝導率を低く維持する観点から、基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の配合量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
(2)ポリエステル樹脂
前記基材樹脂で用いられるポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合させる方法やポリエステル単独重合体及び/又はポリエステル共重合体のエステル交換反応等により製造されるポリエステル共重合体が挙げられる。
【0021】
前記ポリエステル樹脂は、JIS K7122(1987)における熱流束示差走査熱量測定法に基づいて、熱流束示差走査熱量測定装置(以下、DSC装置という。)を使用し、10℃/分の昇温速度でガラス転移終了時よりも30℃高い温度まで加熱し、その温度に10分間保った後、ガラス転移温度よりも50℃低い温度まで冷却温度毎分10℃で冷却し、再度10℃/分の昇温速度でガラス転移終了時よりも30℃高い温度まで加熱して得られるDSC曲線に基づくポリエステル樹脂の融解に伴う吸熱ピーク熱量が5J/g未満(0も含む。)の条件を満足するものである。このポリエステル樹脂の吸熱ピーク熱量は、該ポリエステル樹脂をスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と配合した基材樹脂の発泡特性の観点から更に2J/g未満(0も含む。)が好ましく、より好ましくは1J/g未満(0も含む。)である。
【0022】
前記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートの結晶化を防ぐために、エチレングリコール成分単位の一部をエチレングリコール成分よりも嵩高いジオール成分に変更した非晶性ポリエチレンテレフタレート共重合体が例示される。
【0023】
前記ポリエステル樹脂のジオール成分としては、脂肪族系及び芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)或いはそのエステル形成性誘導体を使用することができる。
【0024】
前記ポリエステル樹脂中のジオール成分単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、または1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,6-シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、またはビスフェノールA等の芳香族ジオール、または3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、スピログリコールという)、2-(5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール(以下、ジオキサングリコールという)等の環状エーテル骨格を有するジオールを挙げることができる。これらのジオール成分は、単独使用でもよく2種以上の複合使用でもよい。
【0025】
前記のジオール成分で変性したポリエチレンテレフタレート樹脂としては、特に、スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂、ジオキサングリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂、ネオペンチルグリコール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂、1,4-シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート樹脂を好適に用いることができる。
【0026】
前記ポリエステル樹脂は、主たるジカルボン酸成分単位として、芳香族ジカルボン酸またはその酸無水物、またはその誘導体からなる酸成分単位、例えば、テレフタル酸成分単位、イソフタル酸成分単位、ナフタレンジカルボン酸成分単位、これらのジカルボン酸成分を一種類以上含むことが好ましい。
【0027】
前記ポリエステル樹脂の結晶性の程度は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸等2種以上使用してそれらジカルボン酸成分単位のmol比を変える方法や、ジオール成分としてエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノール等2種以上使用してそれらジオール成分単位のmol比を変える方法等により調整することができる。
【0028】
本発明の押出発泡断熱板を構成する基材樹脂が好ましいモルフォロジーをなすためには、前記ポリエステル樹脂の溶融粘度はスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の溶融粘度に近いほど好ましく、温度200℃、剪断速度100sec-1の条件下における溶融粘度(η)が500~10000Pa・s、更に700~8000Pa・s、特に1000~6000Pa・sの範囲内であることが好ましい。
【0029】
前記基材樹脂中の前記ポリエステル樹脂の配合量は、5~50質量%である。ポリエステル樹脂の配合量が少なすぎると厚物で大きな断面積を有する押出発泡断熱板が得られにくくなる。一方、ポリエステル樹脂の配合量が多すぎると基材樹脂の溶融張力が低下して発泡成形が困難になり、高発泡倍率の押出発泡断熱板が得られない虞れがあるうえに、ポリエステル樹脂の種類にもよるが、得られる押出発泡断熱板の耐熱性が従来の一般的なポリスチレン樹脂発泡断熱板と比べ劣るものとなる虞れがある。また、大きな断面積の押出発泡板が得られ易く、高発泡倍率と高い独立気泡率とを兼ね備えた押出発泡断熱板を得る観点から、前記基材樹脂中の前記ポリエステル樹脂の配合量は、10~45質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。
【0030】
前記基材樹脂中の前記スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体と前記ポリエステル樹脂との質量比(スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体:ポリエステル樹脂)は、95:5~50:50であることが好ましく、85:15~45:55であることがより好ましく、80:20~40:60であることがさらに好ましい。
【0031】
また本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲内で、基材樹脂中に、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系エラストマーやポリフェニレンエーテル樹脂のような他の重合体を、配合目的に応じて混合して使用することもできる。そのような他の重合体の使用量は、基材樹脂中(基材樹脂を100質量%として)に、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。なお、前記ポリスチレン樹脂とは、ポリスチレン樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル成分が5質量%未満であり、スチレン成分が50質量%を超えるものをいう。
【0032】
(3)物理発泡剤
物理発泡剤は、オゾン破壊係数がゼロ又は極めて低く、かつ地球温暖化係数の低いものであることが好ましい。物理発泡剤は、熱可塑性樹脂押出発泡断熱板の熱伝導率を低下させることを目的に、少なくともハイドロフルオロオレフィン(HFO)を物理発泡剤として使用することが好ましい。
【0033】
前記HFOは、具体的には、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、HFO1234zeともいう)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、HFO1233zdともいう)、1-クロロ-2,3,3,3-テロラフルオロプロペン(以下、HFO1224ydともいう)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)等が挙げられる。これらの発泡剤は単独でまたは2種以上を併用することもできる。なお、前記ハイドロフルオロオレフィンは、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が非常に小さい他、気体状態の熱伝導率が低く、不燃性である。
【0034】
前記HFOは、基材樹脂中のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分を可塑化する効果が炭化水素系発泡剤より高い。そのため、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量と関連して、発泡適性の良好な範囲に調整しやすくなることやスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体とポリエステル樹脂とが複雑な連続層を形成しやすくなることが考えられる。
【0035】
また、前記のHFOの中でも、特に熱伝導率が低い押出発泡板を得る観点からは、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体への浸透率が低く、また熱伝導率が低いHFOである、HFO1234ze、HFO1233zd及びHFO1224ydから選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0036】
前記HFOとして、HFO1234z及びHFO1233zdを用いる場合、押出発泡後の発泡断熱板に、HFOが有効量残存して、長期断熱性を有する押出発泡板とする観点から、HFO1234zeとHFO1233zdとのmol比(HFO1234ze:HFO1233zd)が20:80~80:20であることが好ましく、30:70~70:30であることがより好ましい。
【0037】
前記HFOの添加量は、前記基材樹脂1kg当たり0.5mol以上1.5mol以下であることが好ましい。この範囲であれば、押出発泡後の発泡断熱板中にHFOが有効量残存して、長期断熱性を有する押出発泡板となる。前記観点から、前記HFOの添加量は、前記基材樹脂1kg当たり0.7mol以上1.4mol以下であることがより好ましく、0.8mol以上1.3mol以下であることがさらに好ましい。
【0038】
また、物理発泡剤の添加量の合計100mol%に対する前記ハイドロフルオロオレフィンの添加量の割合が50mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましく、70mol%以上であることがさらに好ましい。
【0039】
前記物理発泡剤には、長期断熱性を阻害しない範囲で、炭素数1~5の脂肪族アルコール、水、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル、二酸化炭素等を併用することも、前記HFOの添加量を削減し、より安価に製造できることから好ましい。
【0040】
また、前記物理発泡剤として、見掛け密度が低く、独立気泡率が高い押出発泡板を得られ易くするという観点からは、炭素数3~5の飽和炭化水素の添加量が前記基材樹脂1kg当たり0.3mol以下であることが好ましく、前記基材樹脂1kg当たり0.2mol以下であることがより好ましく、前記基材樹脂1kg当たり0.1mol%以下であることがさらに好ましい。炭素数3~5の飽和炭化水素は基材樹脂中に含まれるスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を可塑化する効果が弱い。そのため、本発明においては、炭素数3~5の飽和炭化水素の添加量を少なくするか配合しないことによって見掛け密度が低く、独立気泡率が高い押出発泡板が得られ易くなると考えられる。
【0041】
(4)難燃剤
難燃剤としては臭素系難燃剤を好適に用いることができる。臭素系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2-ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、臭素化ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体の臭素化物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を併用して用いることができる。前記臭素系難燃剤の中でも、高熱安定性、高難燃性の観点から、特に、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、スチレン-ブタジエン共重合体の臭素化物を用いることが好ましい。これら化合物は単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0042】
難燃剤の配合量は、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法に規定される「試験方法A」に記載の押出法ポリスチレンフォーム断熱板を対象とする燃焼性規格のような高度な難燃性を満足する観点から、難燃剤の配合量の下限は基材樹脂100質量部に対して1質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。また、押出時の発泡性の低下及び熱可塑性樹脂発泡体の機械的物性の低下を最小限にする観点から、難燃剤の配合量の上限は熱可塑性樹脂100質量部に対して10質量部が好ましく、7質量部がより好ましい。
【0043】
さらに、本発明おいては、押出発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を前記難燃剤と併用して配合することができる。難燃助剤としては、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、トリフェニルホスフェート、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系化合物等を挙げることができる。これらの化合物は単独又は2種以上を併用することができる。
【0044】
前記難燃剤を熱可塑性樹脂へ配合する方法としては、所定割合の難燃剤を前記熱可塑性樹脂と共に押出機の上流部に設けられている原料供給部に供給し、押出機中にて前記熱可塑性樹脂と共に混練する方法が挙げられる。その他、押出機中に設けられた難燃剤供給部より熱可塑性樹脂溶融物中に難燃剤を供給することもできる。なお、難燃剤を押出機に供給する場合、難燃剤と熱可塑性樹脂とをドライブレンドしたものを押出機に供給する方法、予め加熱溶融させた液状の難燃剤を押出機内に供給する方法や、難燃剤及びベースレジンとしての熱可塑性樹脂を含むマスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することができる。特に、分散性の観点から難燃剤を含むマスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することが好ましい。なお、難燃助剤の配合方法についても前記方法と同様である。
【0045】
(5)断熱性向上剤
また、本発明においては基材樹脂に、断熱性向上剤を配合してさらに断熱性を向上することができる。断熱性向上剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミ等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどが例示される。これらは1種又は2種以上を使用することができる。該断熱性向上剤の添加量は基材樹脂100質量部に対し、0.5~5質量部、好ましくは1~4質量部の範囲で使用される。
【0046】
(6)その他の添加剤
また、本発明においては基材樹脂に、必要に応じて、気泡調整剤、顔料,染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0047】
前記気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。なかでも難燃性を阻害することがなく気泡径を調整することが容易であるタルクが好適である。特にJIS Z8901(2006年)に規定される粒径が0.1~20μm、更に0.5~15μmの大きさのタルクを用いることが好ましい。気泡調整剤の添加量は、該気泡調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、基材樹脂100質量部に対し、概ね、0.01~8質量部、更に0.01~5質量部、特に0.05~3質量部が好ましい。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板の製造方法としては、例えば、前記の熱可塑性樹脂と物理発泡剤と難燃剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出機出口に付設されたダイを通して押出、発泡し、板状に成形することにより、熱可塑性樹脂押出発泡板を製造する方法が例示される。具体的には、前記熱可塑性樹脂と、必要に応じて添加される添加剤を押出機に供給し、さらに物理発泡剤を物理発泡剤供給口より供給し、これらを溶融混練してなる溶融混練物を押出機の先端のダイリップから大気圧下に押出した後、成形具(ガイダー等)により所定の形状(板状)に成形することにより製造される。前記成形具は、例えば、上下一対のポリテトラフルオロエチレン製の板で構成される賦形装置を使用することができる。
【0049】
以下、熱可塑性樹脂押出発泡板の諸物性について詳述する。
[見掛け密度]
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡板の見掛け密度は、発泡板の製造安定性や機械強度を向上させる観点から、その下限は20kg/mであることが好ましく、25kg/mであることがより好ましく、30kg/mであることがさらに好ましい。また、断熱性を向上させること及び軽量性を確保する観点から、見掛け密度の上限は50kg/mであることが好ましく、45kg/mであることがより好ましく、40kg/mであることがさらに好ましい。
【0050】
[厚み]
押出発泡板の厚みは、その使用目的に応じて適宜設定されるものであり、特に限定されるものではないが、断熱材として使用する観点から25mm以上であることが好ましく、35mm以上であることがより好ましく、45mm以上であることがさらに好ましい。厚みの上限は概ね150mmである。本発明においては、基材樹脂中にポリエステル樹脂が含まれるため前記厚物の押出発泡板が得られ易くなる。
【0051】
[独立気泡率]
押出発泡板の独立気泡率は、長期断熱性の観点から、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、92%以上であることがさらに好ましい。
【0052】
押出発泡板の独立気泡率は、押出発泡板の無作為に選択した計5箇所からカットサンプルを切り出して測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を求め、5箇所の独立気泡率の算術平均値を採用する。なお、カットサンプルは、押出発泡板から縦45mm×横20mm×厚み25mmの大きさに切断された、表皮を有しないサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に25mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば、縦45mm×横20mm×厚み12.5mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。また、独立気泡率S(%)は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定された熱可塑性樹脂発泡体の真の体積Vxを用い、下記式(1)により算出される。
【0053】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(VA-W/ρ)・・・(1)
Vx:空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(発泡体のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:熱可塑性樹脂発泡体を構成する基材樹脂の密度(g/cm
【0054】
[熱伝導率]
本発明の押出発泡板の製造後10日経過後の熱伝導率は、0.024W/(m・K)以下であることが好ましく、0.023W/(m・K)以下であることがより好ましく、0.022W/(m・K)以下であることがさらに好ましい。
【0055】
また、本発明の押出発泡体は、製造後1500日経過後の熱伝導率において0.028W/(m・K)以下であることが好ましく、0.027W/(m・K)以下であることがより好ましく、0.026W/(m・K)以下であることがさらに好ましい。さらに、押出発泡板の長期断熱性の観点から、製造後10日、製造後1500日経過後の熱伝導率と製造後10日経過後の熱伝導率の差は小さいほど好ましい。
【0056】
なお、前記熱伝導率は、製造直後の押出発泡板から縦200mm×横200mm×厚み任意の表皮が存在しない試験片を切り出し、温度23℃、湿度50%の雰囲気下に10日保存した試験片及び10日、1500日保存した試験片について、JIS A 1412-2(1999)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定される。
【0057】
なお、製造後1500日経過後の熱伝導率は、JIS A1486(2014)に準拠し、促進試験を行ったサンプルに対して測定する。この方法によれば、例えば、厚さ50mmの押出発泡板を厚さ10mmにスライスしたサンプルにより、製造後60日経過後に測定された熱伝導率は、押出発泡板の製造後約1500日経過後の熱伝導率に相当する。
【実施例
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではない。
実施例、比較例において使用した熱可塑性樹脂、難燃剤、気泡調整剤、物理発泡剤を以下に示す。
【0059】
<熱可塑性樹脂>
(スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体)(MS原料)(以下、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体に由来する(メタ)アクリル酸エステル成分をM成分と表記する場合がある)
MS1:スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、東洋スチレン(株)製、MS600 M成分-60質量%・スチレン成分-40質量%、溶融粘度(200℃、100sec-1)2570Pa・s、空気透過係数5.9(cc・mm/(m・day・atm))
MS2:スチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、東洋スチレン(株)製、MS200 M成分-20質量%・スチレン成分-80質量%、溶融粘度(200℃、100sec-1)1750Pa・s、空気透過係数22.9(cc・mm/(m・day・atm))
【0060】
(ポリエステル系樹脂)(PET原料)
PET1:(スピログリコール)変性PET、三菱瓦斯化学(株)製Altester3012、ジカルボン酸成分-テレフタル酸100質量%、グリコール成分-スピログリコール(SPG)/エチレングリコール(EG)=30質量%/70質量%、吸熱ピーク熱量0J/g、溶融粘度(200℃、100sec-1)2000Pa・s、空気透過係数4.1(cc・mm/(m・day・atm))
PET2:グリコール変性PET、SKケミカル社製PN100、ジカルボン酸成分-テレフタル酸100質量%、グリコール成分-1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)/エチレングリコール(EG)=43質量%/57質量%、吸熱ピーク熱量0J/g、溶融粘度3170Pa・s、空気透過係数2.4(cc・mm/(m・day・atm))
【0061】
前記の各樹脂の種類、メーカー・製品名、溶融粘度、空気透過係数を表1、表2に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
なお、前記樹脂の溶融粘度は、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dを使用して、以下の方法により測定した。シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーの先端に穴径1.0mm、長さ10.0mmのキャピラリーを取り付け、シリンダー及びキャピラリーを200℃に昇温した後、シリンダー内に測定試料(樹脂ペレット)を充填し、4分間の予備加熱にて十分に溶融させ、剪断速度100sec-1の条件にて樹脂の溶融粘度を測定した。
【0065】
前記樹脂の空気透過係数は東洋精機株式会社製ガス透過率試験機BT-3を用いてJIS K7126-1:2006 プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第1部:差圧法を使用して測定した。
【0066】
<難燃剤>
難燃剤として、臭化ブタジエン-スチレンブロック共重合体:ランクセス(株)製「Emerald innovation 3000」を用いた。
【0067】
<気泡調整剤>
気泡調整剤として、タルク:松村産業(株)製「ハイフィラー#12」を用いた。
【0068】
<物理発泡剤>
発泡剤1:ハイドロフルオロオレフィン(HFO):1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)
発泡剤2:ハイドロフルオロオレフィン(HFO):1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1233zd)
発泡剤3:エタノール(EtOH)
発泡剤4:水
【0069】
前記混合樹脂、難燃剤、気泡調整剤の各々を下記表3及び表4に示す配合割合(ただし、MS原料と、PET原料との配合量の合計を100質量%とする)で押出機に供給し、さらに前記物理発泡剤を物理発泡剤供給口より供給し、溶融混練して、溶融混練物を押出機の先端のダイリップから、表3、表4に示す条件で大気圧下に押出した後、成形具である賦形装置(ガイダー)により所定の形状(板状)に成形し、厚み55mmの原板を得た。その後、原板の両面の表層スキンを均等に削ることにより実施例1~6及び比較例1~3の幅600mm×長さ2000mm×厚み50mmの板状の熱可塑性樹脂押出発泡板を製造した。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
製造した押出発泡板について、見掛け密度、独立気泡率、気泡構造(厚み方向気泡径、気泡変形率)を以下の方法で測定した。
<見掛け密度>
見掛け密度の測定は、JIS K6767(1999年)に準拠して行なった。各押出発泡板の幅方向中央部及び幅方向両端部付近の計3箇所から縦50mm×横50mm×厚み50mmの直方体のサンプルを切り出して各々のサンプルについて見掛け密度を測定し、3箇所の測定値の相加平均値を見掛け密度とした。
【0073】
<独立気泡率>
押出発泡板の幅方向の中央部及び幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用した。なお、カットサンプルは押出発泡板から縦25mm×横25mm×厚み25mmの大きさに切断されたものを用いた。
サンプルの独立気泡率を、ASTM-D2856-70の手順Cにより空気比較式比重計(東芝ベックマン(株)製 型式:930型)を使用して測定して上記式(1)から求め、3箇所の算術平均値を独立気泡率とした。
【0074】
<難燃性評価>
製造後7日間経過後の熱可塑性樹脂押出発泡板について、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法の測定方法Aに準拠して燃焼性試験を行った。測定は1つの押出発泡板に対して試験片を無作為に5個切り出し、以下の基準により難燃性を評価した。
〇:全ての試験片において3秒以内で炎が消え、残塵がなく、かつ燃焼限界線を超えて燃焼しない。
×:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒を超える。
【0075】
<表面性>
表面性について目視にて以下の評価を行った。
〇:表面平滑な原板が安定して製造され、良好な押出発泡板が得られた。
×:原板の表面に割れや裂けが見られ、良好な押出発泡板が安定して得られなかった。
【0076】
<LOI(酸素指数)>
製造直後の押出発泡板を気温23℃、相対湿度50%の部屋に移し、その部屋で4週間放置した後、押出発泡板から試験片を切り出し、JIS K7201-2007に準拠して測定し、難燃性を評価した。点火器の熱源の種類は、液化石油ガス(LPG)を使用し、点火手順はA法を使用し、試験片を試験機内の所定の位置に自立させて行った。試験場所の温度は23℃、湿度50%で行った。
【0077】
<熱伝導率>
製造直後の押出発泡板から、縦200mm×横200mm×厚み50mmの表皮が存在しない試験片を切り出し、温度23℃、湿度50%の雰囲気下に10日保存した試験片について、熱伝導率をJIS A1412-2(1999年) 平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定した。
【0078】
また、製造1500日後の熱伝導率は、JIS A1486(2014)に準拠し、熱抵抗の長期変化促進試験の試験方法Aを行った試験片に対して熱伝導率の測定を行って得られた値である。具体的には、厚さ50mmの製造直後の押出発泡板の中央部において、200mm×200mm×10mmの成形表皮が存在しない試験片を両面から均等に切り出し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造60日後(50mm厚みの押出発泡板の製造1500日後に相当)の試験片を用いてJIS A1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
<評価結果>
表5に示す物性の評価及び測定結果から、実施例1~6の押出発泡板は、表3に示すように、基材樹脂がスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体とJIS K7122-1987に基づく融解熱量が5J/g未満のポリエステル樹脂とを含み、基材樹脂中のポリエステル樹脂の配合量が5~50質量%の範囲内にあり、かつ、基材樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が20~40質量%の範囲内にあることから、良好な難燃性を示すとともに、1500日経過後も低い熱伝導率を維持することが確認された。
【0082】
これに対して、基材樹脂中の(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が20~40質量%の範囲内にない比較例1~3の押出発泡体は、難燃性に劣るか、成形不可という結果となった。