IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイカ工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/72 20060101AFI20241025BHJP
   C08G 18/50 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C08G18/72 040
C08G18/50 021
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021013483
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022117015
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 晋太郎
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529794(JP,A)
【文献】特表2018-525465(JP,A)
【文献】特表2018-524429(JP,A)
【文献】特開平6-128345(JP,A)
【文献】特公昭60-32641(JP,B1)
【文献】特開2000-248040(JP,A)
【文献】特開2009-242600(JP,A)
【文献】特開2010-77326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/72
C08G 18/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)、からなる組成物。

(1)
上記式で、m=1~2、n=2~3、Rがポリエーテルである。
【請求項2】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)の合計のイソシアネート基のモル数と、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)の活性水素基モル数が、(イソシアネート基のモル数)/(活性水素基モル数)=0.7~1.5である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)の質量比率が、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)/ヘキサメチレンジイソシアネート(A)=2~6/4~8である請求項1もしくは請求項2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の材料や部材で構成されている道路、ビル、ダム、堤防等の土木建築系構造物、自動車、自動二輪車、電車、気動車、船舶、飛行機等の機械系構造物を接着するウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種構造物は前述の様に、複数の材料や部材で構成されており接着工法をとる場合、異種材料の接着で非常に難しい側面がある。構造物の接着は、異種材料にせよ同種材料にせよ高い接合信頼性が必要となる。
特に自動車等の乗り物の場合は、振動等の影響により、高い接着強度を有し、硬化した接着剤が簡単に破壊しないだけの高い最大応力、高い伸び率を持つ皮膜物性が求められる。
【0003】
特許文献1は、ゴルフボール用のウレタン樹脂組成物に関する公報である。構造物接着用への適応は難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-102871
【文献】特開2004-204139
【文献】特開2009-091414
【文献】特開2015-113369
【0005】
特許文献2は、シーリング剤に関する公報である。シーリング剤としての性能は備えているが、構造物接着用への適応は難しかった。
【0006】
特許文献3、手塗ができ、耐水性が良好で剥落防止塗材に適応できるウレア樹脂組成物に関する公報である。構造物接着用として用いるには接着強度に改善の余地が有った。
【0007】
特許文献4、二液常温硬化型ウレタン塗膜防水材組成物に関する公報である。溶剤を含んでおり、環境に対する悪影響が懸念され、且つ、構造物接着用として用いるには接着強度に改善の余地が有った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
構造物接着に於いて、高い接着強度を示し、硬化物自体も皮膜物性が、高い最大応力および高い伸び率を示す様なウレタン樹脂組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)、からなる組成物を得ることである。
【発明の効果】
【0010】
構造物接着に於いて、高い接着強度を示し、硬化物自体も皮膜物性が、高い最大応力および高い伸び率を示す様なウレタン樹脂組成物であるので、さまざまな構造物接着を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
イソシアネート化合物とアミン化合物が反応すると、ウレア結合が生成するが、便宜上本願ではウレタンと表現する。
本願のヘキサメチレンジイソシアネート(:HDI)は、市販のものを使用することができる。HDIは、旭化成社、東ソー社、三井化学社、万華化学社等より販売されており、何れを使用することもできる。
【0012】
本願のクルードMDI(:cMDI)は、市販のものを使用することができる。cMDIは、BASF INOAC ポリウレタン社より、商品名:ルプラネートM20S、商品名:ルプラネートM11S、商品名:ルプラネートM5S、東ソー社より商品名:ミリオネートMR-100、東ソー社より商品名:ミリオネートMR-200、東ソー社より商品名:ミリオネートMR-400、住化コベストロウレタン社より商品目:44V20L、ハンツマン社より、商品名:SUPRASEC5005等が販売されている。より好適な材料としては、44V20Lである。
【0013】
硬化剤であり、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)は、市販のものを使用することができる。具体的な製品名を挙げると、クミアイ化学工業社製、エラスマー650Pを挙げることができる。尚、エラスマー650Pの数平均分子量は、888である。
【0014】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)の合計のイソシアネート基のモル比が、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)の活性水素基モル数と、(イソシアネート基のモル数)/(活性水素基モル数)=0.7~1.5、より好適には(イソシアネート基のモル数)/(活性水素基モル数)=0.8~1.3である。
【0015】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)の質量比率が、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)/ヘキサメチレンジイソシアネート(A)=2~6/4~8、より好適クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)/ヘキサメチレンジイソシアネート(A)=3~5/5~7である。
【0016】
本願のウレタン樹脂組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)の他に、接着強度、皮膜物性の最大応力、伸び率を阻害しない範囲で、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のグリコール系、ポリエステルポリオール系、ひまし油系、アルコール含有ゴム等のアルコール類を添加することもできる。
【0017】
本願のウレタン樹脂組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)の他に、接着強度、皮膜物性の最大応力、伸び率を阻害しない範囲で、長期接着性確保の為に、酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤としては、リン系、ヒドロキノン系、ビス・トリス・ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。
また、接着強度、皮膜物性の最大応力、伸び率を阻害しない範囲で、ガラス密着性向上の為、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルシランおよびアクリルシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランが挙げられる。
【0018】
本願のウレタン樹脂組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)の他に、接着強度、皮膜物性の最大応力、伸び率を阻害しない範囲で、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、カオリン、焼成カオリン、クレー、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、ゼオライト、ガラスビーズ、シラスバルーン等の無機系充填材を添加する事ができる。
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリカーボネート等の有機系充填材を添加する事もできる。
【0019】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお、部数は全て重量部である。
【実施例
【0020】
イソシアネート化合物のイソシアネート基〔mol〕の計算方法
イソシアネート化合物のイソシアネート基モル数は、以下の式で計算できる。
イソシアネート基〔mol〕=添加量〔g〕×(NCO〔%〕/100)×1/42
【0021】
硬化剤の活性水素基〔mol〕の計算方法
硬化剤の活性水素基モル数は、以下の式で計算できる。
活性水素基〔mol〕=添加量〔g〕×水酸基価〔mgKOH/g〕×1/56110
【0022】
実施例1のイソシアネート化合物の組成物液作製
23℃環境下にて、ヘキサメチレンジイソシアネート(:HDI、NCO〔%〕は、50〔%〕)を16.8g、クルードMDI(:cMDI)である44V20L(NCO〔%〕は、31〔%〕)を7.2g秤取り、清浄なスパーテルにて泡が入らない様に撹拌し、実施例1のイソシアネート化合物の組成物液を得た。
【0023】
実施例2~5、比較例1~8のイソシアネート化合物の組成物液作製
表1、表2に示した割合で、実施例1のイソシアネート化合物の組成物液作製と同様の方法で、実施例2~5、比較例1~8のイソシアネート化合物の組成物液を得た。尚、ミリオネートMT(NCO〔%〕は、33.6〔%〕)は、東ソー社製、モノメリックMDIである。またプレポリマーは、井上製作所社製プラネタリーミキサーである商品名:PLM-2の釜の中に、三洋化成工業社製のポリプロピレングリコールである製品名:PP-2000を19.1g秤取り、100℃、6.7kPaにて脱水を行い、水分が500ppm以下に成ったのを確認し、東ソー社製のポリメリックMDIであるミリオネートMR-200を37.2g添加して、系を窒素雰囲気に置換してから、80℃にて2時間反応させて得られたプレポリマー(NCO〔%〕は、18.9〔%〕)である。
【0024】
実施例1~5、比較例1~8の硬化剤
表1、表2に示しているが、実施例1~5、比較例1、比較例4、比較例5、比較例8の硬化剤は、エラスマー650P(水酸基価は、130.4〔mgKOH/g〕)を100g用いた。比較例2、比較例3の硬化剤は、エラスマー650Pの数平均分子量が1238である製品名:エラスマー1000P(水酸基価は、254.0〔mgKOH/g〕)を100g、比較例6、比較例7の硬化剤は、エラスマー650Pの数平均分子量が488である製品名:エラスマー250P(水酸基価は、96.4〔mgKOH/g〕)を100g使用した。表1、表2のイソシアネート化合物は、()書きでNCO〔%〕、硬化剤は()書きで水酸基価〔mgKOH/g〕を示している。
【0025】
実施例1~5、比較例1~8の組成物の作製
表1、表2に示した割合で、イソシアネート化合物と硬化剤を秤取り、清浄なスパーテルにて泡が入らない様に撹拌し実施例1~5、比較例1~8の組成物を作製した。
尚、(イソシアネート基のモル数)/(活性水素基モル数)を1行目、クルードMDI(:cMDI)/ヘキサメチレンジイソシアネート(:HDI)質量比を2行目、硬化剤/イソシアネート質量比を3行目に示している。尚、2行目、(※)で示した比較例5と比較例6は、クルードMDI(:cMDI)の代わりに、モノメリックMDIを使用したので、(モノメリックMDI/ヘキサメチレンジイソシアネート)質量比である。
比較例6、比較例7は、エラスマー250Pが固体で、均一な組成物を得ることが出来なかったので、皮膜物性、接着強度測定は行っていない。
【0026】
皮膜物性測定
前項にて得られた実施例1~5、比較例1~5、比較例8の液を、シリコーン離型紙に、約150mm×150mm×1mm厚と成る様に各組成物を塗布し、23℃/50%RH環境にて1日、40℃にて2日インキュベートし硬化皮膜を得た。
JIS K6251、No.3号ダンベル型で打ち抜き、試験片を作製した。一軸試験機であるINSTRON社製、製品名:5967を用い、皮膜物性を測定した。引っ張り速度は100mm/分、測定環境は23±2℃で、n=5平均である。
判定基準は、最大応力については、最大応力が30MPa以上は合格、30MPa未満は不合格である。伸び率については、伸び率が300%以上は合格、300%未満は不合格である。結果を表4、表5に示す。
【0027】
SUS430同士、接着強度確認
25mm×100mm×1.5mm厚のステンレスであるSUS430板を2枚準備した。1枚の端部の12.5mmの位置に、200g/m2と成るように、実施例1~5、比較例2~4の液を塗布し、もう一枚のSUS430板の端部を重ねてクリップ2個で厚締し、23℃/50%RH環境にて1日、40℃にて2日インキュベートし、接着強度試験片を得た。一軸試験機であるINSTRON社製、製品名:5967を用い、引っ張り速度が3mm/分にて、せん断接着強度を測定した。測定環境は23±2℃で、n=5平均である。判定基準は、5MPa以上は合格、5MPa未満は不合格である。結果を表4、表5に示す。尚、皮膜物性で不合格と成った比較例1~5、比較例8、均一な組成物を得ることが出来なかった比較例6、比較例7は、SUS430同士接着強度確認は行っていない。
【0028】
A1100P、SPCC-SD接着強度確認
SUS304の接着強度確認と同様に、25mm×100mm×1.6mm厚のアルミニウム合金板であるA1100P、25mm×100mm×1.6mm厚の冷間圧延鋼板・ダル仕上げのSPCC-SD板を用い、接着強度確認を行った。測定条件、判定基準はSUS403と同様である。尚、皮膜物性で不合格と成った比較例1~5、比較例8、均一な組成物を得ることが出来なかった比較例6、比較例7は、A1100P、SPCC-SD接着強度確認は行っていない。
【0029】
ヘキサメチレンジイソシアネート(A)、クルードジフェニルメタンジイソシアネート(B)、式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)、からなる組成物である実施例1~5は、皮膜物性測定の最大応力、伸び率、各種被着体を用いた接着強度測定、何れも合格と成った。
【0030】
イソシアネート化合物として、ヘキサメチレンジイソシアネート(:HDI)を使用しなかった実施例1は、皮膜物性の最大応力、伸び率共に不合格と成った。
【0031】
式(1)で表される、数平均分子量が500~1200のアミン化合物(C)の範囲外の数平均分子量のエラスマー1000Pを用いた比較例2、比較例3は、皮膜物性が不合格と成った。数平均分子量が範囲外のエラスマー250Pを使用した比較例6、比較例7は、均一な組成物を得られなかった。
【0032】
クルードMDI(:cMDI)の代わりに、モノメリックMDIを使用した比較例4、比較例5は、皮膜物性の伸び率は合格と成ったが、最大応力は不合格と成った。
【0033】
イソシアネート化合物として、プレポリマーを使用した比較例8は、皮膜物性測定の最大応力、伸び率、何れも不合格と成った。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】