IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】セメントクリンカ粉砕物含有粉末
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
C04B7/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021029802
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131065
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】多田 真人
(72)【発明者】
【氏名】林 建佑
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104213(JP,A)
【文献】特開2018-002540(JP,A)
【文献】特開2010-228926(JP,A)
【文献】特開2020-164411(JP,A)
【文献】特開2018-131361(JP,A)
【文献】特開2012-012285(JP,A)
【文献】特開2016-183060(JP,A)
【文献】セメントの常識,日本,セメント協会,2020年01月,20頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ粉砕物、または、セメントクリンカ粉砕物と生石灰粉末の混合物である、セメントクリンカ粉砕物含有粉末であって、
ボーグ式(ただし、エーライト(CS)の算出において用いられるCaOの割合の数値は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末に含まれる全CaOの割合から、遊離石灰(f.CaO)の割合を減じたものとする。)で算出される値として、エーライト(CS)の割合が56~65質量%、ビーライト(CS)の割合が12~20質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、および、フェライト相(CAF)の割合が0.5~12質量%であり、かつ、遊離石灰(f.CaO)の割合が0.8~3.0質量%であり、
カリウムの割合が、酸化物(K O)換算で0.40~0.80質量%であることを特徴とするセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
【請求項2】
上記ボーグ式で算出される値として、エーライト(CS)の割合が59~65質量%、ビーライト(CS)の割合が12~20質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、および、フェライト相(CAF)の割合が2~12質量%であり、かつ、遊離石灰(f.CaO)の割合が0.9~2.2質量%である請求項1に記載のセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
【請求項3】
X線回折法によって測定されるフェライト相(CAF)の結晶子径が、30~90nmである請求項1又は2に記載のセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のセメントクリンカ粉砕物含有粉末、及び、石膏を含むセメントであって、
硫黄の割合が、SO換算で3.0~3.5質量%であり、かつ、ブレーン比表面積が、4,800~6,000cm/gであることを特徴とするセメント。
【請求項5】
請求項に記載のセメントを、10℃以下の温度下で、水を含む他の材料と混練し、未硬化のセメント組成物を得る混練工程と、
上記未硬化のセメント組成物を養生して、セメント組成物の硬化体を得る養生工程、
を含むセメント組成物の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
より経済的で合理的な施工のために、セメント組成物の強度を早期に発現させる技術が必要とされている。
セメントの硬化を促進させるための硬化促進剤として、例えば、特許文献1には、消石灰と、チオ硫酸塩、ギ酸塩、硝酸塩及び亜硝酸塩の中から選ばれた少なくとも一種以上を含有してなる硬化促進剤が記載されている。
また、初期強度発現性に優れたセメントとして、例えば、特許文献2には、ボーグ式により求めたCS量が60~71%かつCS量が1%以上かつCSとCSとの合量が70~80%で、CS/CS量比が少なくとも5以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0~4.0重量%のエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるセメントに、石灰石微粉末を内割で2~10重量%添加したことを特徴とするセメント組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-277111号公報
【文献】特開2017-154904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメント組成物の強度発現性は、温度に影響され、冬季又は寒冷地等の低温の環境下では、セメント組成物の早期強度発現性が低下し、セメント組成物から型枠を外すことができるまでの時間が遅延するという問題がある。
また、早期にセメント組成物の強度を発現させるための硬化促進剤の効果も、温度に影響されやすいため、低温の環境下では、硬化促進剤の効果が十分とならず、冬季又は寒冷地等において使用することができないという問題がある。また、硬化促進剤は高価であるという問題もある。
本発明の目的は、低温(例えば、10℃)の環境下において、早期強度発現性に優れ、かつ、常温(例えば、20℃)の環境下における早期強度発現性と比較した場合、早期強度発現性の低下の程度が小さいセメントを得ることができる、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカ粉砕物、または、セメントクリンカ粉砕物と生石灰粉末の混合物である、セメントクリンカ粉砕物含有粉末であって、特定のボーグ式で算出される値として、エーライト(CS)の割合が42~65質量%、ビーライト(CS)の割合が12~40質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、および、フェライト相(CAF)の割合が0.5~12質量%であり、かつ、遊離石灰(f.CaO)の割合が0.7~3.0質量%であるセメントクリンカ粉砕物含有粉末によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] セメントクリンカ粉砕物、または、セメントクリンカ粉砕物と生石灰粉末の混合物である、セメントクリンカ粉砕物含有粉末であって、ボーグ式(ただし、エーライト(CS)の算出において用いられるCaOの割合の数値は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末に含まれる全CaOの割合から、遊離石灰(f.CaO)の割合を減じたものとする。)で算出される値として、エーライト(CS)の割合が42~65質量%、ビーライト(CS)の割合が12~40質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、および、フェライト相(CAF)の割合が0.5~12質量%であり、かつ、遊離石灰(f.CaO)の割合が0.7~3.0質量%であることを特徴とするセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
【0006】
[2] カリウムの割合が、酸化物(KO)換算で0.40~0.80質量%である前記[1]に記載のセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
[3] X線回折法によって測定されるフェライト相(CAF)の結晶子径が、30~90nmである前記[1]又は[2]に記載のセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメントクリンカ粉砕物含有粉末、及び、石膏を含むセメントであって、硫黄の割合が、SO換算で3.0~3.5質量%であり、かつ、ブレーン比表面積が、4,800~6,000cm/gであることを特徴とするセメント。
[5] 前記[4]に記載のセメントを、10℃以下の温度下で、水を含む他の材料と混練し、未硬化のセメント組成物を得る混練工程と、上記未硬化のセメント組成物を養生して、セメント組成物の硬化体を得る養生工程、を含むセメント組成物の硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメントクリンカ粉砕物含有粉末によれば、低温(例えば、10℃)の環境下において、早期強度発現性に優れ、かつ、常温(例えば、20℃)の環境下における早期強度発現性と比較した場合、早期強度発現性の低下の程度が小さいセメントを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメントクリンカ粉砕物含有粉末は、セメントクリンカ粉砕物、または、セメントクリンカ粉砕物と生石灰粉末の混合物である、セメントクリンカ粉砕物含有粉末であって、ボーグ式(ただし、エーライト(CS)の算出において用いられるCaOの割合の数値は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末に含まれる全CaOの割合から、遊離石灰(f.CaO)の割合を減じたものとする。)で算出される値として、エーライト(CS)の割合が42~65質量%、ビーライト(CS)の割合が12~40質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、および、フェライト相(CAF)の割合が0.5~12質量%であり、かつ、遊離石灰(f.CaO)の割合が0.7~3.0質量%であることを特徴とするセメントクリンカ粉砕物含有粉末。
【0009】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の、ボーグ式(ただし、エーライト(CS)の算出において用いられるCaOの割合の数値は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末に含まれる全CaOの割合から、遊離石灰(f.CaO)の割合を減じたものとする。)で算出されるエーライト(3CaO・SiO2;CSと略記される。)の割合は、42~65質量%、好ましくは44~65質量%、より好ましくは50~64.5質量%、さらに好ましくは55~64質量%、特に好ましくは56~64質量%である。上記割合が42質量%未満であるとセメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記割合が65質量%を超えると、未硬化のセメント組成物の流動性が低下する場合がある。
セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の、上記ボーグ式で算出されるビーライト(2CaO・SiO;CSと略記される。)の割合は、12~40質量%、好ましくは12~38質量%、より好ましくは12.5~30質量%、さらに好ましくは12.5~25質量%、さらに好ましくは13~20質量%、特に好ましくは13~19質量%である。上記割合が12質量%未満であるとセメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの長期強度発現性が低下する場合がある。上記割合が40質量%を超えると、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。
【0010】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の、上記ボーグ式で算出されるアルミネート相(3CaO・Al;CAと略記される。)の割合は、12~18質量%、好ましくは12.5~16質量%、より好ましくは13~15質量%、特に好ましくは13~14質量%である。上記割合が12質量%未満であるとセメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記割合が18質量%を超えると、セメント組成物の水和熱が過大となる。
セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の、上記ボーグ式で算出されるフェライト相(4CaO・Al23・Fe23;CAFと略記される。)の割合は、0.5~12質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~8質量%、さらに好ましくは3~7質量%、特に好ましくは4~6質量%である。上記割合が0.5質量%未満のセメントクリンカ粉砕物含有粉末の製造は困難である。上記割合が12質量%を超えると、未硬化のセメント組成物の流動性が低下する場合がある。
【0011】
なお、本明細書中、セメントクリンカ粉砕物含有粉末中、C3S(エーライト)、C2S(ビーライト)、C3A(アルミネート相)、C4AF(フェライト相)の各含有率は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末全量(100質量%)中の割合として、f.CaOの割合(質量%)、セメントクリンカ粉砕物含有粉末の原料やセメントクリンカ(焼成物)の化学成分に基づき、下記のボーグ式(1)~(4)を用いて算出される。
(1) C3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))-(7.60×SiO2(質量%))-(6.72×Al23(質量%))-(1.43×Fe23(質量%))
(ただし、計算式(1)中、「CaO(質量%)」の数値は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の全CaOの割合から、f.CaOの割合を減じた数値(CaO(質量%)=全CaO-f.CaO)とする。)
(2) C2S(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))-(0.754×C3S(質量%))
(3) C3A(質量%)=(2.65×Al23(質量%))-(1.69×Fe23(質量%))
(4) C4AF(質量%)=3.04×Fe23(質量%)
【0012】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の遊離石灰(f.CaO)の割合は、0.7~3.0質量%、より好ましくは0.8~2.5質量%、さらに好ましくは0.9~2.2質量%、さらに好ましくは1.2~2.1質量%、さらに好ましくは1.6~2.0質量%、特に好ましくは1.7~1.9質量%である。上記割合が0.7質量%未満であるとセメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記割合が3.0質量%を超えると、セメント組成物の低温時の早期強度発現性が低下する。
【0013】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末中のカリウムの割合は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性、及び、未硬化のセメント組成物の流動性を向上させる観点から、酸化物(KO)換算で、好ましくは0.40~0.80質量%、より好ましくは0.42~0.70質量%、さらに好ましくは0.44~0.60質量%、特に好ましくは0.45~0.55質量%である。
【0014】
X線回折法によって測定されるフェライト相(CAF)の結晶子径は、好ましくは30~90nm、より好ましくは40~85nm、さらに好ましくは45~80nm、さらに好ましくは48~70nm、特に好ましくは50~60nmである。上記結晶子径が30nm未満であると、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記結晶子径が90nmを超えるセメントクリンカ粉砕物含有粉末は製造が困難である。
【0015】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末の水硬率(H.M.)は、2.10~2.40、好ましくは2.15~2.38、より好ましくは2.20~2.36、特に好ましくは2.28~2.35である。上記水硬率(H.M.)が2.10未満であると、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記水硬率(H.M.)が2.40を超えると、未硬化のセメント組成物の流動性が低下する。
セメントクリンカ粉砕物含有粉末のケイ酸率(S.M.)は、1.80~4.60、好ましくは2.40~3.20、より好ましくは2.70~3.00、さらに好ましくは2.80~2.90、特に好ましくは2.84~2.88である。上記ケイ酸率(S.M.)が1.80未満であると、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記ケイ酸率(S.M.)が4.60を超えると、未硬化のセメント組成物の流動性が低下する。
【0016】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末の鉄率(I.M.)は、2.3~25.0、好ましくは2.8~15.0、より好ましくは3.0~10.0、さらに好ましくは3.2~6.0、さらに好ましくは3.4~5.0、特に好ましくは3.6~4.0である。上記鉄率(I.M.)が2.3未満であると、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を含むセメントの早期強度発現性が低下する。上記鉄率(I.M.)が25.0を超えると、未硬化のセメント組成物の流動性が低下する。
【0017】
なお、水硬率、ケイ酸率、及び鉄率は、それぞれ、下記式を用いて算出することができる。
水硬率=CaO/(SiO+Al+Fe
ケイ酸率=SiO/(Al+Fe
鉄率=Al/Fe
(上記式中の化学式は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の、上記化学式が表す化合物の含有率(質量%)を表す。)
【0018】
セメントクリンカ粉砕物含有粉末は、セメントクリンカ粉砕物のみからなるものでもよく、セメントクリンカ粉砕物含有粉末中の遊離石灰(f.CaO)の割合を、0.7~3.0質量%の範囲内に調整する目的で、セメントクリンカ粉砕物と生石灰粉末を混合してなる混合物であってもよい。
また、セメントクリンカ粉砕物含有粉末は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末中のカリウムの割合を、所望の数値範囲内(例えば、酸化物(KO)換算で、0.40~0.80質量%)に調整する目的で、セメントクリンカ粉砕物とカリウム塩(例えば、KSO)を混合してなる混合物であってもよい。
セメントクリンカ粉砕物の原料としては、石灰石、生石灰、消石灰等のカルシウム含有原料(CaO源)や、珪石、粘土等の珪素含有原料(SiO源)や、粘土等のアルミニウム含有原料(Al23源)や、鉄滓、鉄ケーキ等の鉄含有原料(Fe23源)等の、セメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料を使用することができる。
上記原料を、所望の水硬率、ケイ酸率、鉄率等となるように混合した後、好ましくは1,350~1,550℃(より好ましくは1,400~1,500℃)で焼成することでセメントクリンカを得た後、得られたセメントクリンカ(塊状物)を、ボールミル等の慣用の粉砕装置を用いて粉砕することで、セメントクリンカ粉砕物を得ることができる。
【0019】
本発明のセメントは、上述したセメントクリンカ粉砕物含有粉末、及び、石膏を含むセメントであって、硫黄の割合が、SO換算で3.0~3.5質量%であり、かつ、ブレーン比表面積が、4,800~6,000cm/gであるものである。
石膏の例としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セメント中の硫黄の割合は、SO換算で3.0~3.5質量%、好ましくは3.1~3.4質量%、より好ましくは3.2~3.4質量%である。上記割合が3.0質量%未満であると、セメント組成物の硬化前の使用可能時間(良好な流動性を保ちうる時間)が短くなり、作業性が低下する。上記割合が3.5質量%を超えると、セメントの強度発現性が低下する。
セメント中のカリウムの割合は、セメントの早期強度発現性、及び、未硬化のセメント組成物の流動性を向上させる観点から、酸化物(KO)換算で、好ましくは0.10~0.60質量%、より好ましくは0.20~0.55質量%、さらに好ましくは0.25~0.50質量%、特に好ましくは0.30~0.45質量%である。
【0020】
セメントのブレーン比表面積は、4,800~6,000cm/g、より好ましくは4,900~5,800cm/g、特に好ましくは5,000~5,600cm/gである。上記ブレーン比表面積が4,800cm/g未満であると、セメントの強度発現性が低下する。上記ブレーン比表面積が6,000cm/gを超えると、セメントの流動性が低下する。
【0021】
本発明のセメントクリンカ粉砕物含有粉末をセメントの原料として用いることで、低温(例えば、10℃)の環境下において、該セメントクリンカ粉砕物含有粉末と石膏を含むセメント組成物の硬化体を製造した場合の、該硬化体の早期材齢(例えば、材齢1~7日)の強度を大きくし、かつ、常温の環境下において硬化体を製造した場合と比較して、早期材齢の強度の低下の程度を小さくすることができる。このような効果は、上記セメント組成物が、セメントの硬化促進剤を含まない場合であっても、得ることができる。
上記セメントを含むセメント組成物(モルタル、コンクリートまたはセメントペースト)の硬化体の製造方法の例としては、上記セメントを、10℃以下(好ましくは-10~10℃、より好ましくは0~10℃)の温度下で、他の材料(水等)と混練し、未硬化のセメント組成物を得る混練工程と、未硬化のセメント組成物を養生して、セメント組成物の硬化体を得る養生工程、を含む方法が挙げられる。
他の材料としては、特に限定されるものではなく、細骨材や、粗骨材や、水や、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤等の各種混和剤や、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等の各種混和材等が挙げられる。
また、混練工程における混練方法及び養生工程における養生方法は、特に限定されるものではなく、一般的なセメント組成物の混練方法及び養生方法を用いることができる。
【実施例
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1~3]
20℃の環境下で、一般的なセメントクリンカの原料を用いて、セメントクリンカ原料を調製した。調製した原料を、ロータリーキルンを用いて、1,450℃で焼成して、塊状物であるセメントクリンカを得た。得られた塊状物であるセメントクリンカを、ボールミルを用いて粉砕して、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を得た。
得られたセメントクリンカ粉砕物含有粉末の、エーライト、ビーライト、アルミネート相(CA)、フェライト相(CAF)、遊離石灰(f・CaO)の各割合、水硬率、ケイ酸率、鉄率の各値、及び化学組成を表1~2に示す。
また、X線回折法によって、セメントクリンカ粉砕物含有粉末のフェライト相(CAF)の結晶子径をX線回析装置(例えば、ブルカージャパン社製、商品名「D8 ADVANCE」)より測定した。具体的には、フェライト相の2θ=12.2(CuKα線)付近(0,2,0)面の回折線プロファイルの半値幅(FMHM)からシェラーの式(5)により算出した。
L=K・λ/(β・cosθ) ・・・(5)
(式(5)中、Lは結晶子径(nm)であり、Kは定数(0.94)であり、λはX線の波長(nm)であり、βは半値幅であり、θは回折X線のフラッグ角(°)を示す。)
また、遊離石灰(f・CaO)の割合は、セメント協会標準試験方法「JCAS I-01-1997(遊離酸化カルシウムの定量方法)」により測定した。
結果を表1に示す。
【0023】
次いで、セメントクリンカ粉砕物含有粉末と石膏粉末を混合してセメントを製造した。石膏粉末の量は、セメント中の硫黄の割合が、SO換算で表3に示す数値となる量とした。また、セメントのカリウムの割合(KO換算値)及びブレーン比表面積を表3に示す。
得られたセメントを用いて、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠してモルタルの供試体を作製し、該供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さを測定した。
また、20℃の代わりに10℃の環境下でセメントクリンカの製造、セメントの製造及びモルタルの供試体の作製等を行う以外は上述のモルタル供試体の作製方法と同様にして、モルタル供試体を作製し、該供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さを測定した。
【0024】
さらに、10℃の環境下で製造されたモルタルの材齢1日におけるモルタル圧縮強さ(A)と、20℃の環境下で製造されたモルタルの材齢1日におけるモルタル圧縮強さ(B)の比((A)/(B))を算出した。結果を表3に示す。該比の数値が大きいほど、20℃環境下で製造した場合と比較して、10℃の環境下で製造した場合の早期強度発現性の低下の程度が小さいことを意味する。
【0025】
[実施例4]
実施例2で得られたセメントクリンカを、ボールミルを用いて粉砕した後、生石灰を添加、混合して、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を得る以外は実施例2と同様にして、モルタルの供試体を作製した。生石灰の量は、セメントクリンカ含有粉砕物含有粉末中の遊離石灰(f・CaO)の割合が、表1に示す数値となる量とした。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
[実施例5]
表1~2に示す数値になるようにセメントクリンカ原料を調製した以外は、実施例1と同様にして、モルタルの供試体を作製した。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
[実施例6]
実施例5において得られたセメントクリンカを、ボールミルを用いて粉砕した後、KSO(試薬)を添加、混合して、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を得る以外は実施例5と同様にして、モルタルの供試体を作製した。KSO(試薬)の量は、セメントクリンカ含有粉砕物含有粉末中のKO、及び、SOの割合が、表2に示す数値となる量とした。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
【0026】
[実施例7]
表1~2に示す数値になるようにセメントクリンカ原料を調製した以外は、実施例1と同様にして、モルタルの供試体を作製した。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
【0027】
[比較例1]
表1~2に示す数値になるようにセメントクリンカ原料を調製した以外は、実施例1と同様にして、モルタルの供試体を作製した。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例2]
比較例1において得られたセメントクリンカを、ボールミルを用いて粉砕した後、生石灰を添加、混合して、セメントクリンカ粉砕物含有粉末を得る以外は比較例1と同様にして、モルタルの供試体を作製した。生石灰の量は、セメントクリンカ含有粉砕物含有粉末中の遊離石灰(f・CaO)の割合が、表1に示す数値となる量とした。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
【0028】
[比較例3]
表1~2に示す数値になるようにセメントクリンカ原料を調製した以外は、実施例1と同様にして、モルタルの供試体を作製した。得られたモルタル供試体の材齢1日及び7日におけるモルタルの圧縮強さ等を実施例1と同様にして測定した。
なお、比較例3で製造したセメントは早強ポルトランドセメントに相当するセメントである。
各々の結果を表1~3に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
表1から、実施例1~7のセメント組成物の硬化体(本発明のセメントクリンカ粉砕物含有粉末と石膏を含むセメントを用いて、10℃の環境下で製造されたもの)のモルタルの圧縮強さ(材齢1日:8.8~10.6N/mm、材齢7日:35.6~38.2N/mm)は、比較例1~3のモルタルの圧縮強さ(材齢1日:4.2~6.2N/mm、材齢7日:32.8~35.2N/mm)よりも大きいことがわかる。
また、実施例1~7の10℃の環境下で製造されたモルタルの材齢1日におけるモルタル圧縮強さと20℃の環境下で製造されたモルタルの材齢1日におけるモルタル圧縮強さの比(0.29~0.38)は、比較例1、4~7の上記比(0.16~0.25)よりも大きいことがわかる。
なお、実施例5~6の上記比(0.34~0.36)は、実施例1~3の上記比と同等であるが、実施例5~6のモルタル組成物の硬化体のモルタルの圧縮強さ(材齢1日:8.9~9.2N/mm、材齢7日:35.6~36.4N/mm)は、実施例1~3のモルタル組成物の硬化体のモルタルの圧縮強さ(材齢1日:10.3~10.6N/mm、材齢7日:37.4~38.2N/mm)よりも小さいことがわかる。