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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】対象音加工装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20241025BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
G10K15/04 302A
H04R3/00 310
H04R3/00 320
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021106462
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023004633
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】稲留 康一
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-268258(JP,A)
【文献】特開2010-226332(JP,A)
【文献】特開2013-251802(JP,A)
【文献】特開平11-167384(JP,A)
【文献】特表2015-513832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00-15/12
H04R 3/00- 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定場所において、収音部により収音された対象音と、
前記対象音の収音条件と、
前記収音部の第1特性に基づいて取得された前記対象音を加工するための第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工した加工済対象音と、
前記所定場所において、所定環境下で前記対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音である絶対音を再現する試聴音と、
前記試聴音を出力するための出力部の第2特性に基づいて取得された前記試聴音を加工するための第2加工用補正値を用いて、前記試聴音を加工した加工済試聴音と、
のうち、前記対象音および収音条件と、前記対象音以外の音の少なくとも1つとを関連付けて格納する格納部を備え
加工済試聴音を試聴したい対象音の特徴を受け付ける受付部と、
受け付けた前記特徴に対応する対象音を前記格納部から探索する探索部と、
探索された対象音に関連付けられた加工済試聴音、または前記対象音以外の音を前記格納部から取得する取得部と、
取得した前記加工済試聴音を制御し、または前記対象音以外の音から加工済試聴音を
生成して前記出力部から出力する出力制御部と、
をさらに備える対象音加工装置。
【請求項2】
前記第1特性は、前記収音部の周波数特性および収音可能レベルの少なくともいずれかを含み、
前記第2特性は、前記出力部の周波数特性および出力可能レベルの少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の対象音加工装置。
【請求項3】
前記加工済試聴音は、外部騒音に起因する室内騒音、室間遮音性能、建物内外から敷地境界へ伝搬する騒音、空調設備に起因する室内騒音、床衝撃音遮断性能および室内残響時間の少なくともいずれかを含む請求項1または2に記載の対象音加工装置。
【請求項4】
前記対象音は、室内の音および屋外の音の少なくとも1つを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の対象音加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象音加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音の響き方や遮音の程度などは通常、数値で示されることが多く、このような数値に馴染みの薄い一般の人は、具体的な音の聞こえ方をイメージすることは難しい。そのため、例えば、建物の設計仕様から音の響き方や遮音性能などを計算して、騒音などを収音した対象音に予測計算結果を加味した試聴音を生成することが行われている。例えば、特許文献1には、環境騒音(対象音)に対して、受音室内への伝搬経路ごと、例えば、戸境壁直接透過経路、開口部からの迂回伝搬経路、側壁固体伝搬経路などの経路ごとの減衰量を予測し、予測計算した減衰量から求まるインパルス応答波形を環境騒音の音源波形に畳み込み演算して評価音(試聴音)を生成することが開示されている(請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-156388号公報
【文献】特許第4307622号公報
【文献】特許第4234257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、収音した対象音を加工装置のある場所へ持ち帰ってから、試聴音を生成していたため、対象音を収音した場所において、収音した対象音を加工することができず、その場で試聴音を聞くことができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る対象音加工装置は、
所定場所において、収音部により収音された対象音と、
前記対象音の収音条件と、
前記収音部の第1特性に基づいて取得された前記対象音を加工するための第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工した加工済対象音と、
前記所定場所において、所定環境下で前記対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音である絶対音を再現する試聴音と、
前記試聴音を出力するための出力部の第2特性に基づいて取得された前記試聴音を加工するための第2加工用補正値を用いて、前記試聴音を加工した加工済試聴音と、
のうち、少なくとも1つまたは2つ以上を関連付けて格納する格納部を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、対象音を収音した場所において、対象音に遮音や響き方などの音環境に関する予測計算結果を加味した試聴音を忠実に再現して試聴できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの概要を説明するための図である。
図1B】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの動作の概要を説明するためのシーケンス図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの構成を説明するためのブロック図である。
図3A】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの対象音加工装置が有するマイク補正値テーブルの一例を示す図である。
図3B】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの対象音加工装置が有するスピーカ補正値テーブルの一例を示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの対象音加工装置のハードウェア構成を説明するための図である。
図5A】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの対象音加工装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図5B】本発明の第1実施形態に係る対象音加工システムの携帯端末の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図6A】本発明の第2実施形態に係る対象音加工システムの動作の概要を説明するためのシーケンス図である。
図6B】本発明の第2実施形態に係る対象音加工システムの構成を説明するためのブロック図である。
図7A】本発明の第2実施形態に係る対象音加工システムの対象音加工装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図7B】本発明の第2実施形態に係る対象音加工システムの携帯端末の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の第3実施形態に係る対象音加工装置の構成を説明するためのブロック図である。
図9】本発明の第4実施形態に係る対象音加装置の構成を説明するためのブロック図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る対象音加装置が有する試聴音データベースの一例を示す図である。
図11】本発明の第4実施形態に係る対象音加装置のハードウェア構成を説明するための図である。
図12】本発明の第4実施形態に係る対象音加装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図13】本発明の第5実施形態に係る対象音加工システムの収音装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図14】本発明の第5実施形態に係る対象音加工システムの携帯端末の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図15】本発明の第5実施形態に係る対象音加工システムの対象音加工装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図16】収音データの周波数特性を示すグラフである。
図17】マイクの収音可能レベルと線形性とを示すグラフである。
図18】ヘッドホン再生音の周波数特性を示すグラフである。
図19】ヘッドホンの再生可能レベルと線形性とを示すグラフである。
図20】本発明の実験条件の概要を示す図である。
図21】室間音圧レベル差を示すグラフである。
図22】会議室(音源室)側の音圧波形を示すグラフである。
図23】会議室(音源室)側のオクターブバンドレベルを示すグラフである。
図24】執務室(受音室)側の音圧波形を示すグラフである。
図25】執務室(受音室)側のオクターブバンドレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0009】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての対象音加工システム100について、図1A図5Bを用いて説明する。対象音加工システム100は、例えば、所定場所において収音した対象音を、建築仕様などにより決まる性能を経て、どのように聞こえるかを評価するための評価音を生成するために用いられる。図1Aは、本実施形態に係る対象音加工システムの概要を説明するための図である。
【0010】
対象音加工システム100は、対象音加工装置110および携帯端末120を含んで構成されている。また、携帯端末120には、収音部130(マイク)と出力部140(スピーカ)とが、携帯端末120の外部からケーブルを用いて有線接続されている。なお、収音部130と出力部140とは、無線通信規格を用いて携帯端末120と無線接続されていてもよく、さらに、収音部130と出力部140とは、携帯端末120に内蔵されているものを用いてもよい。
【0011】
例えば、携帯端末120を所有した作業者やユーザが、携帯端末120に接続された収音部130(マイク)を用いて、所定場所において、対象音を収音する。ここで、対象音は、例えば、室内の音、屋外の音などが含まれるが、これらには限定されない。また、所定場所は、例えば、戸建て住宅や集合住宅などの建築予定地、商業施設やオフィスビル、道路、鉄道施設、空港、発電所、工場などの建設予定地、既存建物などであり、当該所定場所の関係者や購入希望者などが、当該所定場所の音に関する環境を知りたい場所である。
【0012】
まず、所定場所における対象音131の収音作業者が、収音部130を用いて所定場所の対象音を収音し、収音した対象音131を携帯端末120へ保存する。そして、収音作業者(または携帯端末120の所有者など)が、携帯端末120に保存された対象音データを対象音加工装置110へ送信する。なお、携帯端末120と対象音加工装置110とは、無線接続により接続されている。また、対象音加工装置110は、クラウド上に設置されたクラウドサーバなどであってもよい。
【0013】
そして、対象音加工装置110は、受信した対象音データに基づいて、所定場所で収音された対象音131を加工して、評価音(加工済試聴音141)を生成する。なお、携帯端末120は、対象音データを対象音加工装置110へ送信する際に、携帯端末120に接続されている収音部130(マイク)および出力部140(スピーカ)の特性に関するデータも合わせて送信することが好ましいが、対象音加工装置110からの要求に応じる形で送信してもよい。
【0014】
これは、収音部130の収音特性により、収音された対象音131の一部の周波数成分がカットされたり、出力部140の出力特性により、出力される試聴音が実際に聞こえる音と異なる周波数成分を持つ音が出力されたりするためのである。そのため、対象音加工システム100においては、マイクやスピーカの特性をも加味した上で、対象音131を加工して試聴音(加工済試聴音141)を生成するようになっている。
【0015】
例えば、携帯端末120に内蔵された内蔵型のマイクやスピーカは、携帯端末120の価格を抑える目的や、携帯端末120の筐体内のスペースの問題などから、外付け型のマイクやスピーカと比べて、小型化されており、特定の性能が制限されていたり、特定の機能が削られていたりする場合がある。また、外付け型のマイクやスピーカであっても、使用目的や価格によっては、特定の機能に限定されていたり、特定の性能が制限されていたり、これとは反対に特定の機能が強化されていたりする場合がある。そのため、マイクやスピーカには、様々な機能や性能を持ったものが存在している。
【0016】
このように、マイクやスピーカなどについて、対象音の収音専用のマイクや、試聴音の出力専用のスピーカを使用していれば、マイクやスピーカごとのばらつきを調整する必要はない。しかしながら、専用のマイクやスピーカを使用しなければならないとすれば、対象音の収音の際には、専用マイクをその都度、所定場所にまで運搬しなければならず、また、試聴音を聴取する場合には、専用スピーカの設置場所まで出向かなければならず、臨機応変、機動的に対応することが困難となる。
【0017】
そのため、対象音加工システム100においては、各機器の特性等に依存する誤差を解消するために、収音した対象音を加工する各段階において、機器による誤差を解消した絶対音(加工済対象音、試聴音、加工済試聴音)を生成し、これらの絶対音を加工することにより、現実の音と変わらない音を再現して、聴取者が体験できるようにしている。
【0018】
よって、対象音加工システム100においては、収音した対象音の対象音データとともに、収音部130(マイク)の特性と、出力部140(スピーカ)の特性とを対象音加工装置110に送信する。あるいは、収音部130および出力部140の特性を対象音とは別個に対象音加工装置110に送信してもよく、例えば、対象音の送信前に送信しても、対象音の送信後に送信してもよい。対象音加工装置110は、受信した対象音データについて、収音した収音部130の特性に応じた補正値を用いて加工して、加工済対象音を生成する。次に、対象音加工装置110は、生成した加工済対象音から、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音を生成する。
【0019】
ここで、所定環境には、例えば、対象音を収音した所定場所における建設予定の集合住宅や戸建住宅などの建物などであり、これらの建物の室内やベランダ等の室外などが含まれる。さらに、所定環境には、当該建物の壁の位置や面積、遮音性能(音響透過損失)、建物に取り付けられる窓の位置、面積、遮音性能(音響透過損失)、給気口の面積、数、遮音性能(基準化音響透過損失)、室内の表面積、吸音性能(吸音力)、など、当該建物の住環境等を実現する様々な要因が含まれてもよい。
【0020】
そして、対象音加工装置110は、例えば、仮想空間上に所定環境(建物など)を再現し、収音した対象音のデータを用いて、当該所定環境下における、音響効果を予測して、試聴音を生成する。対象音加工装置110は、生成した試聴音を、出力部140の特性に応じた補正値を用いて加工して、加工済試聴音を生成する。このように、出力部140の特性に基づいた補正値を用いて試聴音を加工することで、専用スピーカを用いなくても、出力部140において、実際に聞こえる音を確実に再現することが可能となる。なお、加工済試聴音の試聴結果に基づいて、試聴音を再度生成するようにしてもよい。このように、試聴音を再度生成するようにすることにより、様々な環境下における試聴音を再現できるので、例えば、窓の面積や遮音性能のグレードを変更することにより、様々な環境下における試聴音をシミュレートすることが可能となる。
【0021】
図1Bを参照して、対象音加工システムの動作概要について説明する。ステップS101において、収音部130により対象音を収音する。ステップS103において、収音部130から携帯端末120へ、収音した対象音を送信する。収音される対象音は、例えば、アナログデータとなっている。
【0022】
そして、ステップS105において、携帯端末120は、受信した対象音をデジタル変換した対象音データを対象音加工装置110に送信する。ステップS107において、対象音加工装置110は、受信した対象音データを所定の条件に従って加工して、加工済試聴音を生成する。ステップS109において、対象音加工装置110は、生成した加工済試聴音を携帯端末120(出力部140)へ送信する。ステップS111において、出力部140は、受信した加工済試聴音を出力する。なお、収音部130および出力部140は、携帯端末120に内蔵されていてもよい。また、対象音のデジタル変換は、対象音加工装置110において行ってもよい。
【0023】
図2を参照して、対象音加工システム100の構成について説明する。対象音加工システム100は、対象音加工装置110と携帯端末120とを含んで構成される。対象音加工装置110は、第1受信部211、収音条件取得部212、加工済対象音生成部213、試聴音生成部214、加工済試聴音生成部215および第2送信部216を備える。
【0024】
第1受信部211は、所定場所において、収音部130により収音された対象音を取得する。取得された対象音に関するデータは、例えば、アナログデータとなっており、対象音加工装置110は、受信した対象音のアナログデータをデジタル変換して、対象音データ(デジタルデータ)として保存する。なお、収音部130が、ADコンバータを有していれば、収音部130において、デジタル変換してもよい。
【0025】
収音条件取得部212は、収音条件は、対象音を収音した際の諸々の条件であり、例えば、収音部130(マイク)の周波数特性などの機械特性や、収音部130に組み込まれているソフトウェアの特徴、所定場所の気温、湿度、風向、風量などの環境特性を含むものであるが、これらには限定されない。
【0026】
加工済対象音生成部213は、取得した収音条件に基づいて、対象音を加工するための第1加工用補正を取得する。加工済対象音生成部213は、例えば、内部ストレージや外部ストレージなどから第1加工用補正値を取得するが、第1加工用補正値の取得方法はこれには限定されない。
【0027】
そして、加工済対象音生成部213は、取得した第1加工用補正値を用いて、対象音(対象音データ)を加工して加工済対象音を生成する。加工済対象音生成部213は、例えば、特定の周波数成分をキャンセルなどして、対象音データを加工して、加工済対象音を生成する。
【0028】
試聴音生成部214は、対象音を収音した所定場所において、所定環境下で、前記対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音を、生成された加工済対象音を加工して生成する。ここで、所定環境は、例えば、対象音を収音した所定場所における建設予定の集合住宅や戸建住宅などの建物などであり、これらの建物の室内やベランダ等の室外などを含み、さらに、所定環境には、当該建物の壁の位置や面積、遮音性能(音響透過損失)、建物に取り付けられる窓の位置、面積、遮音性能(音響透過損失)、給気口の面積、数、遮音性能(基準化音響透過損失)、室内の表面積、吸音性能(吸音力)、周辺建物からの音の反射など、当該建物の住環境等を実現する様々な要因が含まれてもよい。
【0029】
また、生成される試聴音は、例えば、(1)外部騒音に起因する室内騒音、(2)室間遮音性能(隣室から伝搬する騒音)、(3)建物内外から敷地境界へ伝搬する騒音、(4)空調設備に起因する室内静ひつ性能、(5)床衝撃音遮断性能(床衝撃音)、(6)室内残響時間(音の響き)である。
【0030】
具体的には、(1)は、外部に鉄道などの騒音源がある場合に、その音が室内においてどのように聞こえるかについての音である。(2)は、ある部屋にTVや会議の音などの騒音源がある場合に、その音が隣室においてどのように聞こえるかについての音である。(3)は、建物敷地内(建物内や建物外)にある設備機械や作業音などの騒音源が敷地境界や近隣に対してどのように聞こえるかの伝搬する音音である。(4)は、エアコンや全熱交換器などの室内に空調設備の騒音源である場合に、室内の静粛性がどのように変化するか、あるいは、室内において空調設備の音がどのように聞こえるかについての音である。(5)は、上階の部屋からの飛び跳ねや走り回り音音などが下階の室でどのように聞こえるかについての音である。(6)は、室内で会議や講演などをする場面で話し声や音響機器からの音が、当該室内においてどのように響いて聞こえるかについての音である。
【0031】
加工済試聴音生成部215は、生成された試聴音を出力するための出力部140(スピーカ)の出力条件に基づいて、試聴音を加工するための第2加工用補正値を取得し、取得した第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工して加工済試聴音を生成する。
【0032】
出力部140から出力した場合の、試聴音の再現性は、出力部140の特性に依存するため、同じ試聴音のデータを再生したとしても、特性の異なる複数の出力部140から出力させた場合には、聴取者にとっては、聞こえ方に差が生じることがある。このような事態が発生すると、実際に建物などを建築した後に、追加の工事が必要となる場合もある。そのため、事前に実際に聞こえる音を再現するために、出力部140の出力特性に応じて、生成した試聴音を加工する。試聴音の加工には、加工用の補正値(第2加工用補正値)が用いられる。
【0033】
第2加工用補正値は、出力部140(スピーカ)のそれぞれについて、基準となる実験用の音を出力させて、それぞれの出力部140の周波数特性などの出力特性を確認した上で、決定される。そして、加工済試聴音生成部215は、上述のようにして決定された第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工して、生成された試聴音を出力部140の特性に応じて加工された加工済試聴音を生成する。
【0034】
第2送信部216は、加工済試聴音生成部215において、生成された加工済試聴音を携帯端末120へ送信する。なお、第2送信部216は、生成された加工済試聴音を出力部140へ直接送信してもよい。
【0035】
次に、携帯端末120は、取得部221、第1送信部222、第2受信部223および出力制御部224を備える。さらに、携帯端末120には、収音部130および出力部140が接続されている。なお、収音部130および出力部140は、携帯端末120に内蔵されていてもよい。
【0036】
取得部221は、所定場所において、収音部130(マイク)により収音された対象音を取得する。ここで、対象音は、室内の音および屋外の音の少なくとも1つが含まれる。取得された対象音のデータは、アナログデータとなっているが、例えば、収音部130が、ADコンバータを有していれば、収音部130において、収音した対象音のアナログデータをデジタルデータに変換してもよい。また、収音部130が、ADコンバータを有していない場合、携帯端末120が有するADコンバータを用いて、デジタルデータに変換してもよい。さらに、収音部130および携帯端末120ともにADコンバータを有していない場合、上述したように、対象音加工装置110が有するADコンバータにおいて、収音した対象音のアナログデータをデジタルデータに変換してもよい。
【0037】
第1送信部222は、取得した対象音のデータを対象音加工装置110へ送信する。対象音加工装置110へ送信される対象音のデータは、アナログデータであっても、デジタルデータであってもよい。
【0038】
第2受信部223は、対象音加工装置110から送信された加工済試聴音141を受信する。受信される加工済試聴音141のデータは、デジタルデータとなっている。
【0039】
出力制御部224は、受信した加工済試聴音141を制御して出力部140から出力する。出力制御部224は、受信した加工済試聴音141のデジタルデータを、アナログデータに変換して、出力部140へ送り、出力部140において、加工済試聴音141のアナログデータを再生するように制御する。
【0040】
次に図3Aおよび図3Bを参照して対象音加工システム100の対象音加工装置110が有するマイク補正値テーブル301およびスピーカ補正値テーブル302の一例について説明する。マイク補正値テーブル301は、マイクID(Identifier)311に関連付けて特性312および補正値313を記憶する。マイクID311は、対象音を収音可能なマイクを識別するための識別子である。特性312は、マイクの特性を示し、周波数特性および収音可能レベルを含む。補正値313は、周波数補正値およびレベル補正値を含む。そして、対象音加工装置110の加工済対象音生成部213は、マイク補正値テーブル301を参照して、マイク(収音部130)の特性に応じた補正値を抽出し、受信した対象音を加工する。
【0041】
スピーカ補正値テーブル302は、スピーカID321に関連付けて特性322および補正値323を記憶する。スピーカID321は、対象音加工装置110から送信された加工済試聴音を出力可能なスピーカを識別するための識別子である。特性321は、スピーカの特性を示し、周波数特性および出力可能レベルを含む。補正値323は、周波数補正値およびレベル補正値を含む。そして、対象音加工装置110の加工済試聴音生成部215は、スピーカ補正値テーブル302を参照して、スピーカ(出力部140)の特性に応じた補正値を抽出し、生成した試聴音を加工する。
【0042】
図4を参照して、対象音加工システム100の対象音加工装置110のハードウェア構成について説明する。CPU(Central Processing Unit)410は、演算制御用のプロセッサであり、プログラムを実行することで図2の対象音加工装置110の各機能構成を実現する。CPU410は複数のプロセッサを有し、異なるプログラムやモジュール、タスク、スレッドなどを並行して実行してもよい。ROM(Read Only Memory)420は、初期データおよびプログラムなどの固定データおよびその他のプログラムを記憶する。また、ネットワークインタフェース430は、ネットワークを介して他の装置などと通信する。なお、CPU410は1つに限定されず、複数のCPUであっても、あるいは画像処理用のGPU(Graphics Processing Unit)を含んでもよい。また、ネットワークインタフェース430は、CPU410とは独立したCPUを有して、RAM(Random Access Memory)440の領域に送受信データを書き込みあるいは読み出しするのが望ましい。また、RAM440とストレージ450との間でデータを転送するDMAC(Direct Memory Access Controller)を設けるのが望ましい(図示なし)。さらに、CPU410は、RAM440にデータが受信あるいは転送されたことを認識してデータを処理する。また、CPU410は、処理結果をRAM440に準備し、後の送信あるいは転送はネットワークインタフェース430やDMACに任せる。
【0043】
RAM440は、CPU410が一時記憶のワークエリアとして使用するランダムアクセスメモリである。RAM440には、本実施形態の実現に必要なデータを記憶する記憶領域が確保されている。対象音データ441は、所定場所において収音部130を用いて収音された対象音のデータであり、デジタル変換されたデータである。
【0044】
マイク補正値442は、対象音を収音する際に使用した収音部130(マイク)に依存するマイク感度(実際の音と収音された音との差)を校正するために用いられる。スピーカ補正値443は、生成した加工済試聴音を再生する出力部140(スピーカ)に依存するスピーカ固有の音響特性(生成された試聴音と再生される試聴音との差)をキャンセルするために用いられる。
【0045】
加工済対象音データ444は、収音された対象音を第1加工用補正値により加工した対象音のデータである。試聴音データ445は、加工済対象音を加工して得られる、所定場所において、所定環境下で、対象音を試聴した場合に実際に聞こえる音を再現する試聴音のデータである。加工済試聴音データ446は、生成された試聴音を出力するための出力部140の出力条件に基づいて、第2加工用補正値を用いて加工された試聴音である。
【0046】
送受信データ447は、ネットワークインタフェース430を介して送受信されるデータである。また、RAM440は、各種アプリケーションモジュールを実行するためのアプリケーション実行領域448を有する。
【0047】
ストレージ450には、データベースや各種パラメータ、あるいは本実施形態の実現に必要な以下のデータまたはプログラムが記憶されている。ストレージ450は、マイク補正値テーブル301およびスピーカ補正値テーブル302を格納する。マイク補正値テーブル301は、図3Aに示した、マイクID311と補正値313などとの関係を管理するテーブルであり、スピーカ補正値テーブル302は、図3Bに示した、スピーカID321と補正値323などとの関係を管理するテーブルである。
【0048】
ストレージ450は、さらに、第1受信モジュール451、収音条件取得モジュール452,加工済対象音生成モジュール453、試聴音生成モジュール454、加工済試聴音生成モジュール455および第2送信モジュール456を格納する。第1受信モジュール451は、収音された対象音を携帯端末120から受信するモジュールである。収音条件取得モジュール452は、受信した対象音の収音条件を取得するモジュールである。加工済対象音生成モジュール453は、取得した収音条件に基づいて、第1加工用補正値を取得して、取得した第1加工用補正値を用いて対象音を加工して加工済対象音を生成するモジュールである。試聴音生成モジュール454は、所定場所において、所定環境下で、対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音である試聴音を、加工済対象音を加工して生成するモジュールである。加工済試聴音生成モジュール455は、生成された試聴音出力するための出力部140の出力条件に応じた第2加工用補正値を用いて試聴音を加工して加工済試聴音を生成するモジュールである。第2送信モジュール456は、生成した加工済試聴音を携帯端末120へ送信するモジュールである。これらのモジュール451~456は、CPU410によりRAM440のアプリケーション実行領域448に読み出され、実行される。制御プログラム457は、対象音加工装置110の全体を制御するためのプログラムである。
【0049】
入出力インタフェース460は、入出力機器との入出力データをインタフェースする。入出力インタフェース460には、表示部461、操作部462、が接続される。また、入出力インタフェース460には、さらに、記憶媒体464が接続されてもよい。さらに、音声出力部であるスピーカ463や、音声入力部であるマイク(図示せず)、あるいは、GPS位置判定部が接続されてもよい。なお、図4に示したRAM440やストレージ450には、対象音加工装置110が有する汎用の機能や他の実現可能な機能に関するプログラムやデータは図示されていない。
【0050】
次に図5Aに示したフローチャートを参照して、対象音加工装置110の処理手順について説明する。このフローチャートは、図4のCPU410がRAM440を使用して実行し、図2の対象音加工装置110の各機能構成を実現する。
【0051】
ステップS501において、対象音加工装置110は、所定場所において収音された対象音を携帯端末120から受信する。ステップS503において、対象音加工装置110は、取得した対象音の収音条件を取得する。ステップS505において、対象音加工装置110は、取得した収音条件に基づいて、対象音を加工するための第1加工用補正値を取得する。ステップS507において、対象音加工装置110は、取得した第1加工用補正値を用いて、対象音を加工して加工済対象音を生成する。
【0052】
ステップS509において、対象音加工装置110は、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に実際に聞こえる音である試聴音を、生成された加工済対象音を加工して生成する。ステップS511において、対象音加工装置110は、生成した試聴音を出力する出力部140の出力条件に基づいて、試聴音を加工するための第2加工用補正値を取得する。ステップS513において、対象音加工装置110は、取得した第2加工用補正値を用いて、生成した試聴音を加工して加工済試聴音を生成する。対象音加工装置110は、生成した加工済試聴音を携帯端末120へ送信する。
【0053】
次に図5Bに示したフローチャートを参照して、携帯端末120の処理手順について説明する。このフローチャートは、不図示のCPUがRAMを使用して実行し、図2の携帯端末120の各機能構成を実現する。
【0054】
ステップS531において、携帯端末120は、収音部130により収音された対象音を収音部130から取得する。ここで、携帯端末120は、取得した対象音をデジタル変換してもよい。ステップS533において、携帯端末120は、取得した対象音のデータを対象音加工装置110へ送信する。ステップS535において、携帯端末120は、対象音加工装置110から加工済試聴音を受信し、受信した加工済試聴音を出力部140から出力する。
【0055】
本実施形態によれば、収音部の特性に応じて加工した対象音に基づいて試聴音を生成するので、収音機器に依存せずに(専用の収音機器を用いなくとも)試聴音を生成することができる。さらに、出力部の特性に合わせて、生成した試聴音を加工するので、出力機器に依存せずに(専用の出力機器を用いなくとも)試聴音を聴取できる。また、専用の機器を用いる必要がないので、任意の場所における対象音について、その場で迅速かつ正確な試聴音を生成、聴取することができる。
【0056】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る対象音加工システム600について、図6A図7Bを用いて説明する。図6Aは、本実施形態に係る対象音加工システム600の処理手順を説明するためのシーケンス図である。本実施形態に係る対象音加工システム600は、上記第1実施形態と比べると、対象音加工装置610において、試聴音の試聴結果に基づいて、新たな試聴音を生成する点で異なる。その他の構成および動作は第1実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については、同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0057】
図6Aを参照して、加工済試聴音の試聴結果に基づいて新たな加工済試聴音の生成について説明する。ステップS601において、携帯端末620は、例えば、再生した加工済試聴音を、例えば、ユーザが試聴した結果を対象音加工装置610に送信する。そして、ステップS603において、対象音加工装置610は、試聴結果(判定結果)に基づいて、例えば、窓の面積や遮音性能(音響透過損失)などの試聴音の生成条件を変えて、加工済試聴音を再度生成する。ステップS605において、対象音加工装置610は、生成した加工済試聴音を携帯端末620(出力部140)へ送信する。ステップS607において、出力部140は、再度生成された加工済試聴音を再生する。以上のように、対象音加工システム100においては、加工済試聴音の試聴結果に応じて、加工済試聴音を生成し直すようにしてもよく、これにより、ある対象音に対して、複数の環境下における試聴音を試聴することが可能となる。
【0058】
次に図6Bを参照すると、対象音加工システム600は、対象音加工装置610および携帯端末620を含む。対象音加工装置610は、結果受付部611を有する。また、携帯端末620は、結果入力受付部621を有する。
【0059】
結果入力受付部621は、出力部140から出力された加工済試聴音を試聴した人物の当該加工済試聴音に対する試聴の結果の入力を受け付ける。ここで、加工済試聴音の試聴の結果は、例えば、出力された加工済試聴音に対する評価や、所定環境の変更の指示などである。
【0060】
そして、結果受付部611は、携帯端末620から加工済試聴音の試聴結果を受け付ける。対象音加工装置610の試聴音生成部214は、受け付けた試聴結果に基づいて、収音した対象音から、先に生成した試聴音とは異なる新たな環境における試聴音を生成する。ここで、先に生成した試聴音とは異なる新たな環境は、例えば、窓の面積の増減や遮音性能を変更したり、壁の遮音性能を変更したりした場合の環境をいうが、これらには限定されない。
【0061】
試聴音生成部214は、受信した試聴結果(判定結果)に基づいて、試聴音の生成条件を変更して、試聴結果(判定結果)に応じた試聴音を生成する。試聴音生成部214は、例えば、試聴音の生成条件として、設定可能な全ての生成条件で、試聴音を生成する。
【0062】
抽出部612は、このように、設定可能な全ての生成条件で生成された試聴音のうち、ユーザが判定した判定結果に基づいて、ユーザの要求を満たす試聴音を抽出する。なお、抽出部612により、設定可能な全ての生成条件で生成された試聴音の全てが抽出されてもよい。
【0063】
付与部613は、抽出部612により抽出された試聴音について、所定環境を構築するために要するコストや工期などを加味して、抽出された試聴音のスコアを付与する。付与部613は、例えば、低コストおよび短工期で所定環境を構築することができる試聴音には、高いスコアを付与するようにしてもよい。なお、スコア付与の方法はここに示した方法には限定されない。
【0064】
そして、第2送信部216は、新たに生成した加工済試聴音を携帯端末620へ送信する。出力部140は、受信した加工済試聴音を出力し、結果入力受付部621は、当該加工済試聴音を試聴した人物による試聴結果を再度受け付け、受け付けた試聴結果を対象音加工装置610へ送信する。対象音加工システム600においては、上述のような手順を繰り返すことにより、様々な環境下における試聴音を試すことが可能となる。
【0065】
次に図7Aおよび図7Bを参照して、対象音加工装置610および携帯端末620の処理手順について説明する。まず、図7Aを参照して、ステップS701において、対象音加工装置610は、試聴音の再生成要求があるか否かを判定する。再生成要求がある場合(ステップS701のYES)、対象音加工装置610は、ステップS509へ戻り、目標レベル(騒音レベルや室間遮音性能(Dr-50)など)を満たす試聴音を再度生成する手順を繰り返す。例えば、その時点で設定可能な全ての生成条件で試聴音を生成しておき、その後、生成された試聴音のうち、ユーザの要求を満たす試聴音を抽出することにより、試聴音の再生成を行ってもよい。
【0066】
次に図7Bを参照して、ステップS731において、携帯端末620は、結果入力受付部621で受け付けた試聴結果が、加工済試聴音(試聴音)の再生成を要求する結果か否かを判断する。再生成要求がない場合(ステップS731のNO)、携帯端末620は、処理を終了する。再生成要求がある場合(ステップS731のYES)、携帯端末620は、次のステップへ進む。ステップS733において、携帯端末620は、対象音加工装置610へ試聴音の再送信要求を送る。
【0067】
ステップS735において、携帯端末620は、対象音加工装置610から再生成された加工済試聴音を受信し、出力部140から出力する。ステップS737において、携帯端末620は、再生成された加工済試聴音に対する試聴結果が、再生成を要求する結果か否かを判断する。再生成要求がある場合(ステップS737のYES)、携帯端末620は、ステップS733へ戻る。再生成要求がない場合(ステップS737のNO)、携帯端末620は、処理を終了する。
【0068】
本実施形態によれば、試聴音の試聴結果の入力を受け付けるので、様々な環境下における試聴音を試聴できる。
【0069】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係る対象音加工装置について、図8図11を用いて説明する。図8は、本実施形態に係る対象音加工装置800の構成を説明するためのブロック図である。本実施形態に係る対象音加工装置800は、上記第1実施形態および第2実施形態の対象音加工システムと比べると、対象音加工装置800において、対象音の収音、加工、出力を行う点で異なる。
【0070】
対象音加工装置800は、収音部801、第1特性取得部802、加工済対象音生成部803、試聴音生成部804、第2特性取得部805、加工済試聴音生成部806、出力制御部807、出力部808および格納部809を有する。
【0071】
収音部801は、所定場所において、対象音131を収音する。収音部801は、マイクなどの機器であり、外付け型、内蔵型いずれでもよい。
【0072】
第1特性取得部802は、収音部801の第1特性を取得する。第1特性は、例えば、収音部801により収音される音の周波数特性や収音部801の収音可能レベルなどである。第1特性取得部802は、格納部809に格納されたマイク補正値テーブル301から第1特性を取得する。
【0073】
加工済対象音生成部803は、取得した第1特性に基づいて、収音した対象音を加工するための第1加工用補正値を取得し、取得した第1加工用補正値を用いて、対象音を加工して加工済対象音を生成する。すなわち、加工済対象音生成部803は、取得した第1特性に紐付けて記憶されている第1加工用補正値をマイク補正値テーブル301から取得する。そして、取得した第1加工用補正値を用いて、対象音131を加工して加工済対象音を生成する。
【0074】
ここで、第1加工用補正値を用いて収音した対象音131を加工するのは、マイクなどの収音機器には、様々な種類が存在し、それぞれのマイクが様々な特性を有しているため、機器の特性に依存するばらつき(機器依存性)を解消するためである。例えば、あるマイクでは、高音域(高周波数領域)の音をカットするように構成されている。また、別のマイクでは、低音域(低周波数領域)の音をカットするように構成されている。
【0075】
このように、それぞれのマイクは、例えば、その用途や値段などに応じて、様々な特性を有しており、マイクごとに収音される音(音データ)には、その特性に応じた、特徴(機器依存性)が含まれることになる。そのため、加工済対象音生成部803は、この音(音データ)の特徴を解消するために、第1加工用補正値を用いて、音(音データ)の特徴を取り除き、収音部801(マイク)の機器特性の違いを解消するようにしている。
【0076】
試聴音生成部804は、対象音131を収音した場所において、所定環境下で、収音した対象音131を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音を生成する。ここで、所定環境は、例えば、対象音131を収音した所定場所における建設予定の集合住宅や戸建住宅などの建物などであり、これらの建物の室内やベランダ等の室外などを含み、所定環境には、当該建物の壁の位置や面積、遮音性能(音響透過損失)、建物に取り付けられる窓の位置、面積、遮音性能(音響透過損失)、給気口の面積、数、遮音性能(基準化音響透過損失)、室内の表面積、吸音性能(吸音力)など、当該建物の住環境等を実現する様々な要因が含まれてもよい。
【0077】
また、生成される試聴音は、例えば、(1)外部騒音に起因する室内騒音、(2)室間遮音性能(隣室から伝搬する騒音)、(3)建物内外から敷地境界へ伝搬する騒音、(4)空調設備に起因する室内静ひつ性能、(5)床衝撃音遮断性能(床衝撃音)、(6)室内残響時間(音の響き)である。
【0078】
第2特性取得部805は、生成された試聴音を出力するための出力部808の第2特性を取得する。第2特性は、例えば、出力部808から出力される音の周波数特性や出力部808の出力可能レベルなどである。第2特性取得部805は、格納部809に格納されたスピーカ補正値テーブル302から第2特性を取得する。
【0079】
加工済試聴音生成部806は、取得した第2特性に基づいて、生成した試聴音を加工するための第2加工用補正値を取得し、取得した第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工して加工済試聴音141を生成する。すなわち、加工済試聴音生成部806は、取得した第2特性に紐付けて記憶されている第2加工用補正値をスピーカ補正値テーブル302から取得する。そして、取得した第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工して加工済試聴音141を生成する。
【0080】
ここで、第2加工用補正値を用いて、生成した試聴音を加工するのは、上述のマイク(収音部801)と同様に、スピーカなどの出力機器には、様々な機器が存在し、それぞれのスピーカが様々な特性を有しているため、機器の特性に依存するばらつき(機器依存性)を解消するためである。例えば、あるスピーカでは、高音域の再現性は優れているが低音域の再現性は劣っていたり、または、これとは反対に、高音域の再現性は劣っているが低音域の再現性は優れていたりすることがある。
【0081】
このように、それぞれのスピーカは、例えば、その用途や値段などに応じて、様々な特性を有しており、スピーカごとに出力される音は、その特性に応じた音として出力されることとなる。そのため、加工済試聴音生成部806は、出力される音の機器に依存する特性を解消するために、第2加工用補正値を用いて、機器に依存する特性を取り除き、出力部808(スピーカ)の機器特性をキャンセルして、実際に聞こえる音を再現できるようにしている。
【0082】
出力制御部807は、生成した加工済試聴音を制御して、出力部808から出力する。出力制御部807は、例えば、加工済試聴音をデジタルデータからアナログデータに変換して、変換したアナログデータを出力部808へ送る。
【0083】
出力部808は、加工済試聴音を出力する。出力部808は、加工済試聴音を出力するためのスピーカやヘッドホンなどの機器である。なお、出力部808は、対象音加工装置800に内蔵されていても、対象音加工装置800に外付けされていてもよい。
【0084】
格納部809は、マイク補正値テーブル301およびスピーカ補正値テーブル302を格納する。マイク補正値テーブル301は、マイクID311と補正値313などとの関係を管理するテーブルであり、スピーカ補正値テーブル302は、スピーカID321と補正値323などとの関係を管理するテーブルである。そして、加工済対象音生成部803は、マイク補正値テーブル301から第1加工用補正値を取得し、加工済試聴音生成部806は、スピーカ補正値テーブル302から第2加工用補正値を取得する。
【0085】
このように、対象音加工装置800においては、第1加工用補正値および第2加工用補正値を予めマイク補正値テーブル301およびスピーカ補正値テーブル302として格納部809に格納しておき、必要に応じて読み出すようにしている。
【0086】
本実施形態によれば、対象音加工装置が、加工用補正値を格納したテーブルを有するので、迅速、確実に加工済試聴音を生成することができる。また、収音場所と対象音加工装置の設置場所とが異なっていても、容易に加工済試聴音を生成でき、試聴することが可能となる。
【0087】
[第4実施形態]
次に本発明の第4実施形態に係る対象音加工装置900について、図9図12を用いて説明する。図9は、本実施形態に係る対象音加工装置900の構成を説明するためのブロック図である。本実施形態に係る対象音加工装置900は、上記第1実施形態~第3実施形態の対象音加工システムおよび対象音加工装置と比べると、予め生成されたデータベースを用いる点で異なる。
【0088】
対象音加工装置900は、格納部901、受付部902、探索部903、取得部904および出力制御部905を有する。
【0089】
格納部901は、所定場所において、収音部130により収音された対象音(対象音データ)と、収音された対象音の収音条件と、を格納する。格納部901は、さらに、収音部130の第1特性に基づいて取得された対象音を加工するための第1加工用補正値を用いて、取得された対象音を加工した加工済対象音(加工済対象音データ)と、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音(試聴音データ)と、を格納する。
【0090】
格納部901は、また、試聴音を出力するための出力部140の第2特性に基づいて取得された試聴音を加工するための第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工した加工済試聴音(加工済試聴音データ)を格納する。
【0091】
そして、格納部901は、対象音データ、収音条件、加工済対象音データ、試聴音データおよび加工済試聴音データをそれぞれ関連付けて、試聴音データベース911として格納している。対象音加工装置900においては、対象音を収音して加工済試聴音を生成する毎に、これらのデータを格納部901へ格納し、試聴音データベース911へストックしておく。このように、対象音の収音の際に、生成した各種データをデータベースへストックしておくので、データベースのストック量が増えるにつれて、より迅速に所望の加工済試聴音を聴取することが可能となる。
【0092】
受付部902は、加工済試聴音を試聴したい対象音の特徴を受け付ける。ここで、対象音の特徴は、例えば、近くに工場がある場所、近くに高速道路や幹線道路が走っている場所、海岸の近くの場所、山間部の場所、公園の近くの場所、地上からの高さ[m]、時間帯(昼夜)、天候、気温[℃]、気圧[atm]、湿度[%]、風速[m/s]、風向などを含むがこれらには限定されない。また、対象音の周波数特性や波形(時間軸上の音圧の変化)等でもよい。
【0093】
探索部903は、受け付けた特徴に対応する対象音を格納部901から探索する。すなわち、収音された対象音は、メタデータとして上述の特徴が付与された対象音データとして格納されている。そのため、探索部903は、このメタデータを頼りに受け付けた特徴に対応する対象音データを探索する。なお、探索部903は、受け付けた特徴に完全一致する対象音データを探索するが、完全一致する対象音データが存在しない場合には、受け付けた特徴のうち一部の特徴が合致するものを、合致率が高い方から順番に探索するようにしてもよい。
【0094】
取得部904は、探索された対象音(対象音データ)に関連付けられた加工済試聴音(加工済試聴音データ)を取得する。この場合、1つの対象音には、複数の加工済試聴音が関連付けられている。すなわち、出力部140は、様々な種類のものが複数存在しており、これらの出力部140のそれぞれに対応するように、複数の加工済試聴音が存在しているからである。そのため、取得部904は、探索された対象音を出力する出力部140の特性に合った加工済試聴音を取得する。
【0095】
出力制御部905は、取得した加工済試聴音を制御して出力部140から出力する。出力部140から出力される加工済試聴音は、出力部140の特性に合致した試聴音となっている。
【0096】
次に図10を参照して試聴音データベース911の構造について説明する。試聴音データベース911は、対象音ID1001に関連付けて対象音データ1002、収音条件1003、加工済対象音データ1004、試聴音データ1005、出力条件1006および加工済試聴音データ1007を記憶する。
【0097】
対象音ID1001は、収音した対象音を識別するための識別子である。対象音データ1002は、収音した対象音のデータであり、収音部130で収音した対象音のアナログデータと、これをデジタル変換したデジタルデータと、を含む。なお、対象音データ1002は、アナログデータだけであってもよく、必要に応じてデジタル変換を行い、デジタルデータを得るようにしてもよい。
【0098】
収音条件1003は、対象音を収音した際の各種条件である。収音条件1003には、マイク特性や収音環境などが含まれる。マイク特性は、収音部130(マイク)の周波数特性や収音可能レベルなどであり、収音環境は、天候や気温、気圧などである。
【0099】
加工済対象音データ1004は、収音部130(マイク)の特性に応じて、収音した収音データを加工したデータである。試聴音データ1005は、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音のデータである。出力条件1006は、出力部140(スピーカ)の周波数特性や出力可能レベルなどの出力に関する条件である。加工済試聴音データ1007は、出力部140(スピーカ)の出力特性に合わせて、加工された試聴音のデータである。
【0100】
そして、探索部903は、格納部901に格納された試聴音データベース911から受付部902で受け付けた特徴に合致する対象音を探索し、取得部904は、出力部140の特性に合わせた加工済試聴音データを取得する。
【0101】
図11を参照して対象音加工装置900のハードウェア構成について説明する。RAM1140は、CPU410が一時記憶のワークエリアとして使用するランダムアクセスメモリである。RAM1140には、本実施形態の実現に必要なデータを記憶する記憶領域が確保されている。対象音特徴データ1141は、加工済試聴音を試聴したい対象音の特徴に関するデータである。加工済試聴音データ1142は、加工済試聴音を試聴したい対象音の特徴に基づいて試聴音データベース911を探索して得られた対象音に関連付けて記憶されている加工済試聴音に関するデータである。送受信データ1143は、ネットワークインタフェース430を介して送受信されるデータである。また、RAM1140は、各種アプリケーションモジュールを実行するためのアプリケーション実行領域1144を有する。
【0102】
ストレージ1150には、データベースや各種パラメータ、あるいは本実施形態の実現に必要な以下のデータまたはプログラムが記憶されている。ストレージ1150は、試聴音データベース911を格納する。試聴音データベース911は、図10に示した、対象音ID1001と加工済試聴音データ1007などとを関連付けて記憶するデータベースである。
【0103】
ストレージ1150は、さらに、受付モジュール1151、探索モジュール1152、取得モジュール1153および出力制御モジュール1154を格納する。受付モジュール1151は、加工済試聴音を試聴したい対象音の特徴を受け付けるモジュールである。探索モジュール1152は、受け付けた特徴に対応する対象音を格納部901に格納された試聴音データベース911から探索する。取得モジュール1153は、探索された対象音に関連付けられた加工済試聴音を試聴音データベース911から取得するモジュールである。出力制御モジュール1154は、取得した加工済試聴音を制御して出力部140から出力するモジュールである。これらのモジュール1151~1154は、CPU410によりRAM440のアプリケーション実行領域1144に読み出され、実行される。制御プログラム1155は、対象音加工装置900の全体を制御するためのプログラムである。
【0104】
次に図12に示したフローチャートを参照して、対象音加工装置900の処理手順について説明する。このフローチャートは、図11のCPU410がRAM1140を使用して実行し、図9の対象音加工装置900の各機能構成を実現する。
【0105】
ステップS1201において、対象音加工装置900の受付部902は、加工済試聴音を試聴したい対象音の特徴を受け付ける。ステップS1203において、探索部903は、受け付けた特徴に対応する対象音を試聴音データベース911から探索する。ステップS1205において、取得部904は、探索された対象音に関連付けられた加工済試聴音を試聴音データベース911から取得する。ステップS1207において、出力制御部905は、取得した加工済試聴音を制御して出力部140から出力する。
【0106】
なお、上述の説明では、対象音、収音条件、加工済対象音、試聴音および加工済試聴音をそれぞれ関連付けてデータベースへ格納する例を用いて説明をしたが、データベースへ格納するデータの組み合わせは、これらには限定されない。
【0107】
例えば、対象音をデータベースへ格納しておけば、わざわざ対象音を収音しなくても、過去に収音しておいた対象音のなかに所望の対象音があれば、その対象音を使用することができる。このように、過去に収音しておいた対象音を用いることで、収音に要する時間等を削減することが可能となる。
【0108】
また、例えば、対象音と共に収音条件および当該対象音から生成された加工済対象音をデータベースに関連付けて格納しておけば、所望の対象音がデータベースに存在していれば、当該所望の対象音から生成される加工済対象音を生成するまでの処理が不要となる。つまり、予めデータベースに登録されている加工済対象音のデータを使用することで、最終的に加工済試聴音を得るまでの時間等を削減することが可能となる。
【0109】
さらに、対象音、収音条件および加工済対象音と共に試聴音がデータベースに関連付けて格納されていれば、所望の対象音がデータベースに存在すれば、試聴音を生成するまでの処理が不要となる。そのため、上述のように、最終的に加工済試聴音を得るまでの時間等を大幅に削減することが可能となる。
【0110】
本実施形態によれば、対象音の収音の際に、生成した各種データをデータベースへストックしておくので、データベースのストック量が増えるにつれて、より迅速に所望の加工済試聴音を聴取することが可能となる。
【0111】
[第5実施形態]
次に本発明の第5実施形態に係る対象音加工システムについて、図13図15を用いて説明する。本実施形態に係る対象音加工システムは、収音装置、携帯端末および対象音加工装置を含む。携帯端末と対象音加工装置とは、ネットワークを介して接続されている。また、収音装置と携帯端末とは、有線または無線により接続されている。図13図15は、本実施形態に係る対象音加工システムに含まれる収音装置、携帯端末および対象音加工装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。なお、以下の説明では、収音装置と携帯端末とが別構成である例を用いて説明をするが、収音装置が携帯端末に内蔵されていてもよい。
【0112】
まず、図13を参照して、収音装置の処理手順について説明する。ステップS1301において、第1作業者がマイクなどの収音装置を操作して、所定場所における対象音を収音する。ステップS1303において、第1作業者が収音装置を操作して、収音された対象音を携帯端末へ送信する。
【0113】
次に、図14を参照して、携帯端末の処理手順について説明する。ステップS1401において、第1作業者がタブレット端末やスマートフォンなどの携帯端末を操作して、受信した対象音をAD変換してデジタルデータとする。ステップS1403において、第1作業者が携帯端末を操作して、対象音加工装置へ対象音(対象音データ)を送信する。ステップS1405において、第1作業者が携帯端末を操作して、後述する、対象音加工装置で生成された加工済試聴音を出力部から出力する。ステップS1407において、第1作業者が携帯端末を操作して、出力された加工済試聴音の聴取結果を対象音加工装置へ送信する。ステップS1409において、第1作業者が携帯端末を操作して、対象音加工装置から受信した新たな加工済試聴音を出力部から出力する。
【0114】
図15を参照して、対象音加工装置の処理手順について説明する。ステップS1501において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、収音装置による収音条件に基づいて、第1加工用補正値を取得する。ステップS1503において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、取得した第1加工用補正値を用いて、収音した対象音を加工して加工済対象音を生成する。ステップS1505において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音を、生成した加工済対象音から生成する。
【0115】
ステップS1507において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、生成した試聴音を出力するための携帯端末の出力部の出力条件に基づいて、生成した試聴音を加工するための第2加工用補正値を取得する。ステップS1509において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、取得した第2加工用補正値を用いて、生成した試聴音を加工して、加工済試聴音を生成する。なお、出力部は、携帯端末に内蔵されるものであっても、携帯端末に外付けされるものであってもよい。ステップS1511において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、生成した加工済試聴音を携帯端末へ送信する。
【0116】
ステップS1513において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、携帯端末から受信した、生成した加工済試聴音の試聴結果に基づいて、新たな加工済試聴音を生成する。新たな加工済試聴音は、先に生成した加工済試聴音とは、環境条件を変えて生成した試聴音となっている。ステップS1515において、第2作業者が対象音加工装置を操作して、生成した新たな加工済試聴音を携帯端末へ送信する。なお、出力された加工済試聴音は、第1作業者および第2作業者の少なくともいずれかが試聴して評価してもよい。例えば、第2作業者が加工済試聴音を試聴する場合は、第2作業者が生成した加工済試聴音を第2作業者自らが評価することとなる。あるいは、出力された加工済試聴音は、第1作業者および第2作業者とは異なる第3作業者が試聴して評価してもよい。
【0117】
本実施形態によれば、収音場所と対象音加工装置の設置場所とが異なっていても、容易に加工済試聴音を生成でき、試聴することが可能となる。
【0118】
[実施例]
次に、図16図25を参照して本発明の実施例について説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例には限定されない。
【0119】
対象音加工システム100,600および対象音加工装置800,900において、生成される試聴音は、表1に示した6項目((a)~(f))である。すなわち、(a)外部騒音に起因する室内騒音、(b)室間遮音性能(隣室から伝搬する騒音)、(c)建物内外から敷地境界へ伝搬する騒音、(d)空調設備に起因する室内騒音、(e)床衝撃音遮断性能(床衝撃音)、(f)室内残響時間(音の響き)の6項目である。
【0120】
【表1】
【0121】
6項目それぞれの具体例については、例えば、(a)交通騒音(道路交通騒音、鉄道騒音など)、(b)会議室の話声やホテルのテレビ音などの空気伝搬音、(c)屋外設備機械、室内設備機械、(d)室内の空調設備、(e)床衝撃音(重量床衝撃音・軽量床衝撃音)、(f)会議室の話声、教室の授業の声などである。それぞれの計算には、例えば、特許文献1~3に記載の技術が利用される。
【0122】
また6項目それぞれの対象周波数は、(a)50Hz~5,000Hz帯域、(b)100Hz~5,000Hz帯域、(c)および(d)50Hz~5,000Hz帯域、(e)重量床衝撃音:50Hz~630Hz帯域、軽量床衝撃音:50Hz~5,000Hz帯域、(f)100Hz~5,000帯域となっている。
【0123】
そして、試聴音の生成については、(a)~(d)においては、減音量フィルタを生成し、音源データ(収音した対象音データ)にフィルタ処理して試聴音を生成する。
【0124】
(e)においては、JIS規格による標準衝撃源(タイヤ、ボール、タッピング)の衝撃力から床衝撃音レベルを求め、スラブ厚や床仕上げ構造、仕上げ天井などの条件ごとに収音した標準衝撃源による床衝撃音から計算した条件に近い音源データを抽出し、その床衝撃音レベルと計算値のレベル差を減音量としたフィルタを生成して、試聴音を生成する。なお、重量床衝撃音は、50Hz~630Hz帯域が評価対象であるので、対象外の周波数についてはフィルタ処理して再生しない。
【0125】
(f)においては、無響室で収音した朗読音等のドライソースの音に、音響シミュレーション等により予測したインパルス応答やインパルス応答の実測値を畳み込み演算することにより、試聴音を生成する。
【0126】
次に、使用するマイク(収音部130や収音装置)やヘッドホン(出力部140やスピーカ)などはそれぞれ、固有の音響特性を有している。そのため、生成した試聴音を忠実に再生するためには、これらの音響特性を補正する必要があり、予め求めた補正値をもとに収音した音源(対象音)や生成した試聴音を補正する。なお、使用機器の音響特性に対する補正値は、以下の方法で求められる。
【0127】
≪マイクの音響特性の補正方法≫
<マイクの周波数特性>
マイク(収音部130)の音響特性の補正方法について、携帯端末120としてタブレット端末を使用した場合を例に説明する。まず、評価対象周波数の音をマイクで収音できることを実験的に確認する。無響室において、スピーカ(音源)からピンクノイズ(雑音)を発生させ、1m離れた位置に精密騒音計を設置して収音する。図16には、収音データの1/3オクターブバンドレベルが示されている。
【0128】
タブレット端末に外付けしたマイクと精密騒音計は、対象周波数範囲である50Hz~5,000Hz帯域において概ね一致している。一方、タブレット端末に内蔵されたマイクでは、80Hz帯域以下の低い周波数でレベル差が見られる。重量床衝撃音や設備音等の低音域で問題となる音を収音する場合には、外付けマイクを利用することが好ましい。
【0129】
<マイクの収音可能レベルと線形性>
試聴音の試聴の際には、システム使用時は使用者の聴力障害への配慮や騒音対策が必要になる騒音の大きさを踏まえ、収音する音圧レベルを30dB~80dBと想定する。また、マイクの周波数特性は、収音する音圧レベルに応じて線形変化するものを用いる。そのため、使用するマイクの収音可能レベルと周波数特性との線形性を実験的に確認する。
【0130】
ピンクノイズの音量を30dB~80dBとし、タブレット端末の内蔵マイクと精密騒音計とを用いて収音した。収音した音を1/3オクターブバンド分析し、タブレット端末の内臓マイクと精密騒音計との対応を検討する。図17には、代表例として、1,000Hz帯域の結果が示されている。
【0131】
精密騒音計の値を真値とした場合、タブレット端末の内蔵マイクの使用時には、30dB~80dBまでは概ね線形に変化している。システム利用で想定している音圧レベル範囲で線形変化することから周波数帯域ごとに一定の補正値で補正が行える。
【0132】
対象とするマイクが、対象音加工システム100で利用できることを確認後、精度よく収音できるように、精密騒音計と対象とするマイクとの1/3オクターブバンドレベル差を補正値(第1加工用補正値)として利用する。
【0133】
≪ヘッドホンの音響特性の補正方法≫
<ヘッドホンの周波数特性>
ヘッドホンは、用途や好みに応じたチューニングがなされているものが多く、生成した試聴音を忠実に再生するには、個々のヘッドホンの周波数特性をキャンセルしなければならない。そのため、無響室において、ダミーヘッドにヘッドホンを装着し、タブレット端末経由でピンクノイズ(音源ソース)を再生する。図18には、ピンクノイズとヘッドホンの再生音の1/3オクターブバンドレベルが示されている。平坦な、周波数特性のピンクノイズに対して、使用したヘッドホンの再生音は、周波数ごとに異なり、特に、400Hz~1,000Hz帯域の音が強調される特性となっている。
【0134】
<ヘッドホンの再生可能レベルと線形性>
ピンクノイズのレベルを変えてヘッドホンで再生し、ヘッドホンの再生可能レベルと線形性とを検討する。図19には、代表例として、1,000Hz帯域の1/3オクターブバンドレベルが示されている。
【0135】
20dB~80dBの範囲において、ヘッドホンで再生できており、ピンクノイズの5dBピッチのレベル変化に応じて線形に変化している。他の周波数帯域においても同様の結果が得られた。20dBまで再生が行えることから、例えば、室間の遮音を検討する際に、音源室において、75dBで発生している音源に対して、空間遮音性能でDr-55までの効果を試聴音として表現できる。ここで、Drは、室間音圧レベル差等級であり、Dr値が大きいほど室間の遮音性能が高く、空気伝搬音が伝わりにくいことを示す。
【0136】
対象とするヘッドホンが対象音加工システム100で利用できることを確認後、生成した試聴音を忠実に再生できるように、ピンクノイズ(音源ソース)とヘッドホンの再生音との1/3オクターブバンドレベル差を補正値(第2加工用補正値)として、ヘッドホン固有の音響特性をキャンセルする。
【0137】
≪実建物におけるシステム精度の検証事例≫
<検証概要>
オフィスの室内を利用し、空間遮音性能に関する対象音加工装置110,610および対象音加工装置800,900による予測計算と試聴音、加工済試聴音の生成精度を検証した。測定室の概要を図20に示す。
【0138】
会議室と執務室との間の界壁は、乾式二重壁(遮音性能:TL-40)となっている。会議室と執務室との廊下扉は、エアタイトが設置されていない一般的なスチール製親子扉である。会議室を音源室とし、スピーカから対象音(ピンクノイズまたは男性朗読音)を再生した。再生された対象音を対象音加工装置110(タブレット端末の内蔵マイクを使用)でそれぞれ収音して、収音された対象音の音源データとした。なお、収音精度検証のため、精密騒音計(RION社製NA-28)でも収音を行った。受音室にはダミーヘッドを設置して会議室からの伝搬音を収音した。また、JIS A1418:2000「建築物の空気音遮断性能の測定方法」における室間音圧レベル差の測定も行った。
【0139】
<予測計算精度>
対象音加工システム100による、予測計算精度を確認するために、空間音圧レベル差の予測値と実測値とを比較した。図21には、オクターブバンドレベルの比較結果が示されている。実測値に対して、予測値は、125Hz帯域~4,000Hz帯域において概ね対応しており、精度良く室間音圧レベル差を予測できている。
【0140】
<収音精度>
収音精度が試聴音の生成精度に影響を及ぼすため、対象音加工システム100(タブレット内蔵マイク)収音データと精密騒音計とによる収音データを比較した。精密騒音計の音圧波形と対象音加工システム100(タブレット内蔵マイク)で収音した音圧波形(加工済対象音)を図22に、それぞれの音圧波形のオクターブバンドレベルを図23に示す。
【0141】
対象音加工システム100(タブレット内蔵マイク)で収音した音圧波形の形状や振幅は、ピンクノイズおよび男性朗読音ともに精密騒音計で収音した音圧波形と同波形、同振幅である。オクターブバンドレベルでは、最大1dB程度の誤差であり、普通騒音計と同等の精度で収音できている。
【0142】
<試聴音の精度>
対象音加工システム100,600および対象音加工装置800,900の収音データに対して予測計算結果を加味した試聴音の音圧波形に対してヘッドホン固有の音響特性をキャンセルする補正処理を行い、加工済試聴音を生成した。
【0143】
試聴音の音圧波形、加工済試聴音(ヘッドホン再生音)の音圧波形、受音室の執務室でダミーヘッドを用いて収音した音圧波形(実測値)を図24に、それぞれのオクターブバンドレベルを図25に示した。なお、受音室の暗騒音が図25に示されているが、男性朗読再生時では、1,000Hz帯域以上で受音室の暗騒音の影響を受けるため評価から除外している。
【0144】
加工済試聴音(ヘッドホン再生音)は、試聴音および実測値の音圧波形とほぼ同形状、同振幅であり、オクターブバンドレベルも同程度である。
【0145】
システムの対象音加工装置で生成した試聴音をヘッドホンで正しく再生できており、加工済試聴音は実際の音を再現出来ている。
【0146】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されず適宜変更可能である。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0147】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に供給され、内蔵されたプロセッサによって実行される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、プログラムを実行するプロセッサも本発明の技術的範囲に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の技術的範囲に含まれる。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25