(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】細胞の異なる亜型の活性を選択的にモジュレートするための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20241025BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241025BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241025BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241025BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20241025BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20241025BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241025BHJP
C12N 15/64 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C12N15/867 Z
A61K35/76
A61K39/00 Z
A61K48/00
A61P3/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/08
C12N7/01
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/64 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021148499
(22)【出願日】2021-09-13
(62)【分割の表示】P 2018555522の分割
【原出願日】2017-04-20
【審査請求日】2021-10-13
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514077888
【氏名又は名称】エコール ノルマル シュペリウール ドゥ リヨン
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カロリーヌ・コスタ・フェホス
(72)【発明者】
【氏名】エルス・ヴェローエン
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ-ロイク・コセ
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン・ベンダー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ブッフホルツ
(72)【発明者】
【氏名】チ・ジョウ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】Molecular Therapy, 2015, Vol.23, Supplement 1, S2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/867
A61K 35/76
A61K 39/00
A61K 48/00
A61P 3/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 35/00
A61P 37/02
A61P 37/08
C12N 7/01
C12N 15/62
C12N 15/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i) 配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、及び(ii) 造血細胞、間質細胞、肝細胞、筋細胞又は神経系の細胞から選択される標的細胞に結合する少なくとも1つの細胞ターゲティングドメイン、
を含む、融合タンパク質及び
(b) 配列番号11で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含む、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項2】
前記細胞ターゲティングドメインが、DARPin、scFv、ターゲティングペプチド、及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項3】
(a)(i) 配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、及び(ii) DARPin、ターゲティングペプチド、又はこれらの組合せから選択される少なくとも1つの細胞ターゲティングドメイン、を含む、融合タンパク質
及び
(b) 配列番号11で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの糖タンパク質を含む、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項4】
(a)(i) 配列番号9の配列と比較した、E501A、W504A、Q530A、及びE533Aの点突然変異を含む、配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質、及び(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメイン、を含む、融合タンパク質及び
(b) 配列番号11で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含む、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項5】
配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質が配列番号9のN末端において切断を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項6】
配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質は、配列番号9の配列と比較して、E501A、W504A、Q530A、及びE533Aの点突然変異を含む、請求項1から3及び5のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項7】
配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質が、配列番号9の2-34アミノ酸を欠く(GcΔ34)、請求項1から6のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項8】
造血細胞が、T細胞、B細胞、単球、Th1細胞、Th2細胞、Treg細胞、マスト細胞、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、造血幹細胞、前駆T細胞、前駆B細胞、赤芽球、血小板又は好中球から選択される、請求項1、2及び5から7のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項9】
少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインが、CD3、CD8、CD4、CD11b、CD62L、CD56、CCR5、又はCXCR4に特異的である、請求項1から8のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項10】
少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインが、CD3に特異的である、請求項1から9のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項11】
少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインが、CD8に特異的である、請求項1から9のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項12】
少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインが、CD4に特異的である、請求項1から9のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項13】
前記糖タンパク質Fが、配列番号11の525~546番目のアミノ酸を欠く(FcΔ22)、請求項1から12のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項14】
a)(i) 配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質若しくは配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質又は膜貫通ドメインを含むタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、 及び
b)配列番号11で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含み、
前記細胞ターゲティング融合タンパク質が、配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を含み、
配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質が、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く、
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項15】
レンチウイルスベクターである、請求項1から14のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項16】
標的細胞の活性を選択的にモジュレートするために使用するための、請求項14又は15に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを含む組成物。
【請求項17】
標的細胞に形質導入するために使用するための、請求項14又は15に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを含む組成物。
【請求項18】
標的細胞がT細胞である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
T細胞がヒトT細胞である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
T細胞がアカゲザルT細胞である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
標的細胞に形質導入するために使用するための、請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを含む組成物。
【請求項22】
標的細胞がT細胞である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
T細胞がヒトT細胞である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
T細胞がアカゲザルT細胞である、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
標的細胞の活性を選択的にモジュレートするために使用するための医薬の製造における、請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの使用。
【請求項26】
標的細胞に形質導入するために使用するための医薬の製造における、請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの使用。
【請求項27】
標的細胞がT細胞である、医薬の製造における、請求項26に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの使用。
【請求項28】
T細胞がヒトT細胞である、使用のための医薬の製造における、請求項27に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの使用。
【請求項29】
T細胞がアカゲザルT細胞である医薬の製造における、請求項27に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの使用。
【請求項30】
標的細胞の活性を選択的にモジュレートするための方法であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、前記標的細胞を含む細胞と接触させる工程を含む、in vitro又はex vivoでの方法。
【請求項31】
標的細胞に対して選択的に形質導入するための方法であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、前記標的細胞を含む細胞と接触させる工程を含む、in vitro又はex vivoでの方法。
【請求項32】
標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、かつ標的細胞に対して選択的に形質導入するための方法であって、請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、前記標的細胞を含む細胞と接触させる工程を含む、in vitro又はex vivoでの方法。
【請求項33】
請求項1から15のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを含む医薬。
【請求項34】
免疫療法、遺伝子治療、及び/又はワクチン接種における、請求項33に記載の医薬。
【請求項35】
免疫疾患、がん、遺伝疾患、アレルギー疾患、炎症性疾患、感染性疾患、代謝疾患、神経疾患、筋疾患、及びこれらの組合せの予防及び/又は処置における、請求項33又は34に記載の医薬。
【請求項36】
請求項1から13のいずれか一項に定義した細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする核酸を含む、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項37】
細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする配列、及
びニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fの少なくとも1つの糖タンパク質をコードする配列を含む核酸を含み、
・ 前記細胞ターゲティング融合タンパク質が、(i) 配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質若しくは配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質又は膜貫通ドメインと、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含み、
・ 少なくとも1つの前記糖タンパク質が、配列番号11で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fと少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を含む、
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項38】
前記細胞ターゲティング融合タンパク質が、配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質若しくは配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を含む、請求項37に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項39】
配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、及び配列番号13からなる群から選択される配列を含む核酸を含み、かつ/又は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、及び配列番号14の配列からなる群から選択される配列をコードする配列を含む、請求項37又は38に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項40】
レンチウイルスベクターである、請求項37から39のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター。
【請求項41】
請求項1から15又は37から40のいずれか一項に記載の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを作製するための方法であって、パッケージング細胞株に、
(i)(i) 配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質若しくは配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質又は膜貫通ドメインと、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(ii)配列番号11で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有する糖タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、及び
(iii)前記レトロウイルスに由来するコアタンパク質をコードする核酸を含む、少なくとも1つのベクター
を共トランスフェクトする工程を含み、
前記細胞ターゲティング融合
タンパク質が、配列番号9で表されるニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号10で表される麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hのアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を有するタンパク質を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の異なる亜型の活性を選択的にモジュレートするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系の細胞は、多種類の病態に関与する。したがって、免疫系細胞の活性を増強又は低減することは、多くの治療戦略の焦点となっている。ある特定の細胞表面タンパク質の発現により、機能が全く異なる、多種類の免疫細胞を識別することができる。これまでのところ、他とはっきり異なる細胞亜型だけの、選択的な活性化又は失活化を、とりわけ、in vivoにおいて可能とする技術は、利用可能となっていない。
【0003】
所望される免疫応答の発生を誘導又は促進するサイトカインの使用は、がんに対する免疫療法において、魅力的な手法である。サイトカインは、典型的に、他の免疫療法を支援するか、又は化学療法に加えて投与される、非特異的な補助物質として使用される。しかし、現在までのところ、サイトカインベースの処置は、未解決の全身毒性のために、まれにしか使用されていない。その上、サイトカインは通例、全身に適用され、これにより、関連するサイトカイン受容体を発現する全ての細胞型にヒットする。したがって、疾患に関連する部位において微調整されたモジュレーションは可能ではない。
【0004】
この欠点を克服するため、サイトカインを、抗腫瘍抗体と融合させるか、又は抗腫瘍抗体を伴うマイクロ粒子若しくはナノ粒子へと接続し、これにより、サイトカインを、腫瘍へとターゲティングし、全身副作用を低減することができる。しかし、これらの融合タンパク質又はサイトカイン-抗体ロード粒子は、安定性が低く、in vivoにおいて、急速に除去され、疾患部位における相対的な低サイトカイン濃度をもたらす。加えて、サイトカイン-抗体ロード粒子によるサイトカインの放出は、pHに依存する。更に、これらの過去の手法により腫瘍へと送達されるサイトカイン(IL-2等)は、複雑な腫瘍微小環境内の、免疫エフェクター細胞及び免疫抑制性細胞の両方を含む多様な種類の異なる免疫細胞を非選択的に刺激するので、がん処置へのそれらの適用は制限される。
【0005】
遺伝子治療に関して述べると、休眠ヒトT細胞、B細胞、及びHSC(造血幹細胞)等、重要な標的細胞は、レンチウイルスベクターによる形質導入が困難である。従来のVSV-LVにより媒介される形質導入は、T細胞が活性化している場合に限り生じる。現在実施されている遺伝子治療試験では、コグネイト抗原受容体を介して、T細胞を活性化させるが、これは通例、T細胞の表現型的かつ機能的な変化を誘導し、最終的には、in vivoにおける、T細胞の存続の短縮及び抗腫瘍効果の低減をもたらす。
【0006】
休眠T細胞への遺伝子導入を促進するために、いくつかのキメラレンチウイルスベクターが作出された。例えば、Verhoeyenら(Blood、2003、101巻、6号)は、2種類のエンベロープ糖タンパク質:N末端において、IL-7へと融合させたキメラMLV(マウス白血病ウイルス)エンベロープ糖タンパク質(gp)と、VSV-G(水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質)とにより偽型化された、HIV由来のベクターについて開示している。これらのIL-7ベクター粒子は、休眠T細胞に効率的に形質導入し、T細胞の活性化を誘導するが、CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞への形質導入が同等である。したがって、これらのIL-7ベクター粒子は、異なるT細胞サブセットを区別できない。更に、VSV-G gp等、非ターゲティングエンベロープgpが必要とされるという事実があるので、場合によっては、望まれない造血細胞又は内皮細胞に形質導入が起きてしまう可能性があろう。1つの例外は、麻疹ウイルス(MeV)糖タンパク質による偽型レンチウイルスベクター(MV-LV)である。MV-LVは、G0/G1aの細胞周期状態の変化なしに、休眠Tリンパ球の形質導入を媒介しうる。Zhouら(J Immunol、2015、195巻、5号)はまた、CD4ターゲティングLVは、単離されたばかりの休眠T細胞に形質導入しうるが、高粒子用量でも、極めて低効率(10%未満)であることについても開示している。
【0007】
最後に、養子T細胞療法のために、分化が低度な腫瘍特異的T細胞を作出するための最新の戦略は、T細胞刺激及び培養プロトコールの最適化に依拠する。例えば、より多くのTSCM細胞(ステムセルメモリー(Stem memory)T細胞)、又はTCM細胞(セントラルメモリーT細胞)を作製するには、T細胞の刺激及び拡大のために、IL-15とIL-7との組合せ、又はIL-21とIL-7との組合せを使用する。この培養系は、常態的なサイトカイン補充(2日ごと)が要求されるので、極めて高価である。その後、通例、いくつかの細胞分取工程を実行して、所望の細胞型を得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Verhoeyenら(Blood、2003、101巻、6号)
【文献】Zhouら(J Immunol、2015、195巻、5号)
【文献】Needleman及びWunsch(1970)、J. Mol Biol.、48:443~453
【文献】Funkeら、Molecular therapy、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、免疫細胞の異なる亜型の活性を、選択的かつ効率的にモジュレートするための方法を提供することが、依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、各々を、パラミクソウイルス(Paramyxoviridae)科のウイルスの糖タンパク質へと融合させた、細胞特異的ターゲティングドメイン(例えば、CD4+ T細胞又はCD8+ T細胞に特異的である)、及び機能的ドメイン、例えば、サイトカインの両方を保有する偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルス様粒子(VLP)又はレンチウイルスベクター(LV))を使用することにより、免疫細胞の異なる亜型の活性を選択的にモジュレートすることが可能であることを見出した。前記レトロウイルスベクターはまた、パッケージングされた遺伝子も、標的細胞へと、特異的かつ効率的に送達する。
【0011】
実のところ、偽型レトロウイルス様粒子上又はレトロウイルスベクター上で、機能的ドメインを、細胞特異的ターゲティングドメインと組み合わせることにより、標的免疫細胞亜型の選択的な活性モジュレーションが、細胞特異的ターゲティングドメインだけを含む、対応する粒子又はベクターと比較して大幅に改善されることが見出されたのは予測外であった。
【0012】
例えば、本発明者らは、刺激用サイトカインを提示するT細胞ターゲティング粒子が、混合細胞型の培養物中及びin vivoのヒト血液系マウスモデルにおいて、標的T細胞サブセットを選択的に活性化させ、また、刺激のための培養条件を必要とせずに、パッケージングされた遺伝子も、標的T細胞亜型へと送達することを示した。MeV(麻疹ウイルス)糖タンパク質に基づく、IL-7(インターロイキン7)を提示するCD4ターゲティング粒子(4H/IL7H-VLP)が、実際、培養された初代CD4+細胞の生存を特異的に活性化させ、これを促進する一方で、NiV(ニパウイルス)糖タンパク質に基づく、IL7を提示するCD8ターゲティング粒子(8G/IL7G-VLP)は、CD8+ T細胞の生存を特異的に活性化させ、これを促進する。その上、4H/IL7H-LVは、GFPトランス遺伝子を、細胞混合物中のCD4+ T細胞へと、用量依存的に、効率的かつ特異的に送達する。親CD4ターゲティングLV(IL-7を共提示しない)と比較して、4H/IL7H-LVは、治療用ErbB2CARトランス遺伝子を、休眠CD4+ T細胞へと、選択的に送達するのに、より効果的である。また、CD8+ T細胞の、同様の専一的な遺伝子導入及び刺激も、CD8/IL-7を共提示する、NiV糖タンパク質による偽型レンチウイルスベクター(8G/IL7G-LV)について観察されている。実際、8G/IL7G-LVは、CD8+ T細胞の選択的活性化、及び遺伝子送達のターゲティングにおいて、8G-LVより効果的である(実施例を参照されたい)。
【0013】
本発明に従うレトロウイルス様粒子及びレトロウイルスベクターは、
・ 細胞の標的部位において、サイトカインの局所濃度を増大させ、これにより、サイトカイン療法の効率を改善し、その重篤な副作用を予防する利点、
・ 可溶性サイトカインと比較して、標的細胞に対する、より安定的かつ定常的な刺激をもたらし、これにより、サイトカイン療法の効率を改善する利点、
・ 単一の粒子上又はレトロウイルスベクター上における、異なる種類のサイトカイン、及び異なる種類のターゲティングドメインの組合せを可能とする、極めて柔軟な系をもたらす利点、
・ in vitro又はin vivoにおいて、細胞刺激の、細胞特異的遺伝子導入とのカップリングを可能とする結果として、特定の休眠T細胞サブセットへの、より効果的な形質導入をもたらす利点、
・ 形質導入細胞の分化が制御されるかたちでの、粒子表面上又はベクター表面上に提示されたサイトカインとの相互作用によるin vitro又はin vivoでのT細胞表現型の誘導の、遺伝子導入とのカップリングを可能とする利点
等、多くの利点を提示し、より一般には、
・ in vitro又はin vivoにおける、遺伝子、mRNA、shRNA、マイクロRNA、ペプチド、タンパク質、タンパク質断片、及びこれらの組合せを含むがこれらに限定されない、生物学的材料及び/又は治療薬の、特異的細胞又は細胞のサブセットへの送達を可能とする利点、
・ 養子療法のために、より容易な細胞の製造工程(例えば、T細胞又は造血細胞の製造工程)を可能とする利点、
・ ヒトにおける既存の抗体が低量であるために、ニパウイルスに由来する糖タンパク質により偽型化されたレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを使用する場合の、in vivoにおける耐性の問題を予防する利点
を提示する。
【0014】
したがって、本発明は、
a)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質であって、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体、又は膜貫通ドメインに結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、
b)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質であって、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体、又は膜貫通ドメインに結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質、及び
c)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来し、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く、少なくとも1つの糖タンパク質
を含み、
前記細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又は前記モジュレーティング融合タンパク質が、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む、
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターに関する。
【0015】
前記パラミクソウイルス科のウイルスは、例えば、麻疹ウイルス(MeV)、イヌジステンパーウイルス、クジラモルビリウイルス、小反芻獣疫ウイルスウイルス、ブタジステンパーウイルス、及び牛疫ウイルスからなる群から選択される、モルビリウイルス(Morbillivirus)属のウイルス、又は例えば、ニパウイルス(NiV)、シーダウイルス、及びヘンドラウイルスからなる群から選択される、ヘニパウイルス(Henipavirus)属のウイルスでありうる。
【0016】
a)及び/又はb)のタンパク質は、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの配列と比較した、少なくとも2つの突然変異であって、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体への、少なくとも部分的な結合不可能性を結果としてもたらす、少なくとも2つの突然変異を含む。
【0017】
前記細胞ターゲティングドメインは、DARPin、scFv、ターゲティングペプチド、及びこれらの組合せからなる群から選択することができ、かつ/又は前記機能的ドメインは、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、神経伝達物質、アポトーシスリガンド、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0018】
標的細胞は、造血系細胞(T細胞、B細胞、単球、Th1細胞、Th2細胞、Treg細胞、マスト細胞、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、造血幹細胞、前駆T細胞及び/又は前駆B細胞、赤芽球、血小板及び/又は好中球を含む)、間質細胞、内皮細胞、肝細胞、筋肉細胞、神経系の細胞、罹患細胞、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0019】
本発明はまた、標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、かつ/又は、例えば、上記で規定した標的細胞に選択的に形質導入する、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの使用にも関する。
【0020】
本発明はまた、標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、かつ/又は標的細胞に選択的に形質導入するための方法であって、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、前記標的細胞を含む細胞、例えば、上記で規定した標的細胞と接触させる工程を含む方法にも関する。
【0021】
本発明はまた、好ましくは、免疫療法、遺伝子治療、及び/又はワクチン接種における、例えば、免疫疾患(例えば、自己免疫疾患)、がん、遺伝疾患、アレルギー疾患、炎症性疾患、感染性疾患、代謝疾患、神経学的疾患(例えば、神経萎縮、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病)、筋疾患、及びこれらの組合せの予防及び/又は処置における医薬としての使用のための上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターにも関する。
【0022】
本発明はまた、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする配列、及び/又はモジュレーティング融合タンパク質をコードする配列を含む核酸であって、
・ 前記細胞ターゲティング融合タンパク質が、(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含み、
・ 前記モジュレーティング融合タンパク質が、(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、
核酸にも関する。
【0023】
本発明はまた、上記で規定した核酸を含むベクターにも関する。
【0024】
本発明はまた、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを作製するための方法であって、パッケージング細胞株に、
(i)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(ii)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含むモジュレーティング融合タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(iii)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(iv)前記レトロウイルスに由来するコアタンパク質をコードする核酸を含む、少なくとも1つのベクター、及び
(v)任意選択で、パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含む、少なくとも1つのベクター
を共トランスフェクトする工程を含み、
前記細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又は前記モジュレーティング融合タンパク質が、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む
方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター
本明細書で使用される「レトロウイルス様粒子」とは、レトロウイルスタンパク質であるGag、Pol、及びEnv(エンベロープ)は含むが、レトロウイルス由来の遺伝情報は含まない粒子を指す。
【0026】
Gagタンパク質、Polタンパク質、及びEnvタンパク質は、レトロウイルスに由来し、パッケージング細胞株により、トランスでもたらされる。
【0027】
本明細書で使用される「レトロウイルスベクター」は、Gagタンパク質、Polタンパク質、及びEnv(エンベロープ)タンパク質と、RNA分子とを含む。前記RNA分子は、gag遺伝子、env遺伝子、又はpol遺伝子を含有しないが、結果として得られる粒子への、RNA分子の有効なパッケージングに要求される、psiエレメント及びLTRを含む。前記RNA分子は、適切なプロモーターの制御下にあり、したがって、前記遺伝子を、宿主細胞又は標的細胞のゲノムへと組み込むと発現する、目的の遺伝子を更に含みうる。
【0028】
レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、それらのコアタンパク質、すなわち、Gag遺伝子及びPol遺伝子によりコードされるタンパク質が、レトロウイルスに由来する、ウイルス様粒子又はウイルスベクターのそれぞれである。
【0029】
本明細書では、「レトロウイルス」という用語は、そのゲノムがRNA分子からなり、逆転写酵素を含むウイルスを意味する。
【0030】
レトロウイルスは、レトロウイルス(Retroviridae)科のメンバーである。レトロウイルスは、オンコウイルス(Oncovirus)属、レンチウイルス(Lentivirus)、又はスピューマウイルス(Spumavirus)属でありうる。
【0031】
オンコウイルスは、アルファレトロウイルス、ベータレトロウイルス、デルタレトロウイルス、イプシロンレトロウイルス、又はガンマレトロウイルスでありうる。
【0032】
レトロウイルスが、オンコウイルスである場合、前記レトロウイルスは、MLV(マウス白血病ウイルス)、ASV(トリ肉腫ウイルス)、ネコ白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、RSV(ラウス肉腫ウイルス)、MPMV(メイソン-ファイザーサルウイルス)、HTLV I(ヒトT細胞性白血病ウイルスI)、又はHTLV II(ヒトT細胞性白血病ウイルスII)でありうる。
【0033】
レトロウイルスが、レンチウイルスである場合、前記レトロウイルスは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、好ましくは、HIV-1若しくはHIV-2、SIV(サル免疫不全ウイルス)、EIAV(ウマ伝染性貧血ウイルス)、FIV(ネコ免疫不全ウイルス)、又はCAEV(ヤギ関節炎脳炎ウイルス)でありうる。
【0034】
レトロウイルスが、スピューマウイルスである場合、前記レトロウイルスは、HFV(ヒト泡沫状ウイルス)でありうる。
【0035】
例えば、レトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクター、アルファレトロウイルスベクター、マウスレトロウイルスベクター、又はFIVベクターでありうる。
【0036】
このようなレトロウイルスのゲノムは、遺伝子データベースで、たやすく入手可能である。
【0037】
好ましい実施形態では、前記レトロウイルスは、レンチウイルス、より好ましくは、HIV-1又はHIV-2等のHIVである。
【0038】
したがって、本発明は、好ましくは、レンチウイルス様粒子(LVP)又はレンチウイルスベクター(LV)、好ましくは、HIV由来のLVP又はLVに関する。
【0039】
本明細書の「偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター」という表現における「偽型」という用語は、レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターが、前記レトロウイルスと、少なくとも別のウイルスに由来し、かつ/又は操作エンベロープ糖タンパク質、例えば、キメラエンベロープ糖タンパク質及び/若しくは突然変異エンベロープ糖タンパク質であるエンベロープ糖タンパク質を保有することを意味する。
【0040】
本発明に従うレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、例えば、パラミクソウイルス科のウイルス、好ましくは、下記で詳述される、モルビリウイルス属又はヘニパウイルス属のウイルスの糖タンパク質に由来する操作糖タンパク質で偽型化されている。
【0041】
パラミクソウイルス科のエンベロープ糖タンパク質
本発明に従うレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを偽型化するために使用される、修飾エンベロープ糖タンパク質は、パラミクソウイルス科のエンベロープ糖タンパク質のウイルスに由来する。
【0042】
パラミクソウイルス科のウイルスは、好ましくは、モルビリウイルス属又はヘニパウイルス属のウイルスである。
【0043】
モルビリウイルス属のウイルス及びヘニパウイルス属のウイルスは、2種類の糖タンパク質:付着タンパク質(ヘニパウイルス属のウイルスで、糖タンパク質Gと呼ばれるか、又はモルビリウイルス属のウイルスで、糖タンパク質Hと呼ばれる)、及び糖タンパク質F(融合タンパク質又はFタンパク質ともまた呼ばれる)を使用して、標的細胞に侵入する。Fタンパク質は、ウイルス膜の、宿主細胞の細胞膜との融合を媒介する。糖タンパク質G/Hは、標的膜上の受容体を認識し、その膜融合機能において、Fタンパク質を支援する。糖タンパク質G/H及び糖タンパク質Fのいずれも、本発明に従うレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを偽型化するために、修飾形態で使用される。
【0044】
モルビリウイルス属のウイルスは、例えば、麻疹ウイルス、イヌジステンパーウイルス、クジラモルビリウイルス、小反芻獣疫ウイルスウイルス、ブタジステンパーウイルス、及び牛疫ウイルスからなる群から選択される。
【0045】
好ましいモルビリウイルス属のウイルスは、麻疹ウイルス(MeV)である。
【0046】
ヘニパウイルス属のウイルスは、例えば、ニパウイルス、シーダウイルス、及びヘンドラウイルスからなる群から選択される。
【0047】
ヘニパウイルス属の好ましいウイルスは、ニパウイルス(NiV)である。
【0048】
好ましい実施形態では、修飾エンベロープ糖タンパク質は、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質H及びエンベロープ糖タンパク質F、又はニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質G及びエンベロープ糖タンパク質Fに由来する。
【0049】
ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gの配列の例は、配列番号9の配列である。
【0050】
ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fの配列の例は、配列番号11の配列である。
【0051】
麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hの配列の例(糖タンパク質Hと呼ばれる)は、配列番号10の配列である。
【0052】
麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fの配列の例は、配列番号12の配列である。
【0053】
エンベロープ糖タンパク質G/Hに由来するタンパク質
本発明に従う偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質と、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質とを含む。細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又はモジュレーティング融合タンパク質は、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来する、第1のタンパク質を含む。
【0054】
エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hは、上記の「パラミクソウイルス科のエンベロープ糖タンパク質」という節で規定した通りである。
【0055】
パラミクソウイルス科のウイルスは、上記の「偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター」という節で規定した通りである。
【0056】
本明細書では、「エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質」という表現により、タンパク質が、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの配列に照らした比較により、少なくとも1つの修飾を含むことを意味する。
【0057】
好ましいエンベロープ糖タンパク質Gは、NiVエンベロープ糖タンパク質G、NiV G糖タンパク質、又はNiV-Gともまた称する、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gである。
【0058】
好ましいエンベロープ糖タンパク質Hは、MeV糖タンパク質H、MeVヘマグルチニン、又はMV-Hともまた称する、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hである。
【0059】
エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hは、野生型若しくはワクチン株である、ウイルスのエンベロープ糖タンパク質であるか、又はその変異体であり、但し、前記変異体が、標的膜上の受容体を認識し、その膜融合機能において、Fタンパク質を支援する、前記野生型若しくはワクチン株の糖タンパク質の能力を保持することを条件とする。
【0060】
NiVエンベロープ糖タンパク質Gの基準配列は、配列番号9の配列である。
【0061】
NiVエンベロープ糖タンパク質Gは、配列番号9と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な配列のタンパク質でありうる。例えば、NiVエンベロープ糖タンパク質は、配列番号9の配列のタンパク質でありうる。
【0062】
MeVヘマグルチニンの基準配列は、配列番号10の配列である。
【0063】
MeVヘマグルチニンは、配列番号10と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な配列のMeVヘマグルチニンでありうる。例えば、MeVヘマグルチニンは、配列番号10の配列のMeVヘマグルチニンでありうる。
【0064】
好ましい実施形態では、エンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質は、前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く。
【0065】
前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠くタンパク質はまた、その細胞質領域内で切断されたタンパク質とも称する。
【0066】
本明細書では、「細胞質領域のxアミノ酸を欠くタンパク質」、「その細胞質領域内のxアミノ酸だけ切断されたタンパク質」、及び「Δcxタンパク質」という表現は、同義であり、互換的に使用することができる。
【0067】
その細胞質領域内で切断されたエンベロープ糖タンパク質Gの使用は、レトロウイルス様粒子及びレトロウイルスベクターへのその組込みを大幅に改善し、これにより、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの、高力価及び高作製収率による作出を可能とする。
【0068】
エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域は、N末端に位置する。
【0069】
したがって、切断されていない糖タンパク質Gを基準として、Δcx糖タンパク質の切断部分の位置を確認する場合は、エンベロープ糖タンパク質GのN末端の第2のアミノ酸残基で、すなわち、第1のメチオニン残基を省略して、カウントを開始する。
【0070】
例として述べると、配列番号Zの配列である、糖タンパク質Gの細胞質領域内のXアミノ酸を欠くタンパク質は、配列番号Zの配列の、アミノ酸2~1+Xを欠くという点で、前記糖タンパク質Gと異なる。
【0071】
エンベロープ糖タンパク質G配列内の細胞質領域の位置特定は、当業者が容易に決定しうる。
【0072】
MeV H糖タンパク質の細胞質領域は、例えば、配列番号10の配列の、アミノ酸1~34からなる。
【0073】
NiV G糖タンパク質の細胞質領域は、例えば、配列番号9の配列の、アミノ酸1~45からなる。
【0074】
例えば、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、細胞質領域内の、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも18アミノ酸、少なくとも20アミノ酸を欠きうる。
【0075】
例えば、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、細胞質領域内の、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも18アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも24アミノ酸を欠きうる。好ましい実施形態では、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、15、18、20、又は24アミノ酸を欠く。
【0076】
例えば、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質は、細胞質領域内の、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも18アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも25アミノ酸又は少なくとも30アミノ酸を欠きうる。好ましい実施形態では、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質は、34アミノ酸を欠く。
【0077】
好ましい実施形態では、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが、少なくとも部分的に可能でない。
【0078】
前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体への、少なくとも部分的な結合不可能性は、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの配列内に導入される、少なくとも1つの突然変異により得ることができる。
【0079】
例えば、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、前記エンベロープ糖タンパク質の配列と比較して、少なくとも1つの点突然変異、好ましくは少なくとも2つの点突然変異を含みうる。
【0080】
点突然変異は、アミノ酸の欠失、付加、又は置換でありうる。
【0081】
好ましい実施形態では、点突然変異は、置換である。
【0082】
好ましい実施形態では、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが可能でない、すなわち、これに結合することが完全には可能でない。
【0083】
エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質の、その天然受容体への結合の不可能性は、細胞ターゲティング効率を、大幅に増大させる。
【0084】
エンベロープ糖タンパク質Gの、少なくとも1つの天然受容体に結合する能力は、当業者が周知の任意の方法により評価することができる。
【0085】
天然のNiV受容体は、NiVのエフリンB2受容体及びエフリンB3受容体である。
【0086】
したがって、NiVエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質は、好ましくは、NiVのエフリンB2受容体及び/又はエフリンB3受容体、好ましくは、NiVのエフリンB2受容体及びエフリンB3受容体の両方に結合することが、少なくとも部分的に可能でない。
【0087】
例えば、エンベロープ糖タンパク質NiV-Gは、配列番号9の配列と比較した、少なくとも2つ又は少なくとも3つの、E501A、W504A、Q530A、及びE533Aからなる群から選択される点突然変異を含みうる。
【0088】
好ましい実施形態では、糖タンパク質NiV-Gは、点突然変異E501A、W504A、Q530A、及びE533Aを含むか、又はこれらからなり、したがって、NiVのエフリンB2受容体及びエフリンB3受容体への結合の不可能性をもたらす。
【0089】
天然のMeV受容体は、SLAM、ネクチン4、及びCD46である。
【0090】
したがって、MeVエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、好ましくは、SLAM、ネクチン4、及び/又はCD46、好ましくは、少なくとも、SLAM及びCD46の両方に結合することが、少なくとも部分的に可能でない。
【0091】
例えば、エンベロープ糖タンパク質MV-Hは、配列番号10の配列と比較した、少なくとも2つ又は少なくとも3つの、Y481A、R533A、S548L、及びF549Sからなる群から選択される点突然変異を含みうる。
【0092】
好ましい一実施形態では、エンベロープ糖タンパク質MV-Hは、点突然変異Y481A、R533A、S548L、及びF549Sを含むか、又はこれらからなり、したがって、SLAM及びCD46への結合の不可能性をもたらす。
【0093】
したがって、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質は、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、かつ/又は前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが、少なくとも部分的に可能でない。
【0094】
より好ましい実施形態では、エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質のいずれも、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが、少なくとも部分的に可能でない。
【0095】
本明細書では、「基準配列と少なくともx%同一な配列」とは、配列が、基準配列と同一であるか、又は基準配列の各100アミノ酸につき、最大で100-xアミノ酸の変更により、基準配列と異なることを意図する。
【0096】
アライメント及び同一性百分率の決定は、手動で実行することもでき、又は例えば、Needleman及びWunsch(1970)、J. Mol Biol.、48:443~453において記載されている、Needleman及びWunschによるアルゴリズムに基づく、Needleプログラム、例えば、ポリペプチド配列の比較のための以下のパラメータ:比較行列:BLOSUM62、ギャップ開始ペナルティー:10及びギャップ拡張ペナルティー:0.5、末端ギャップペナルティー:false、末端ギャップ開始ペナルティー=10、末端ギャップ拡張ペナルティー=0.5;並びにポリヌクレオチド配列の比較のための以下のパラメータ:比較行列:DNAFULL;ギャップ開始ペナルティー=10、ギャップ拡張ペナルティー=0.5、末端ギャップペナルティー:false、末端ギャップ開始ペナルティー=10、末端ギャップ拡張ペナルティー=0.5を使用して、自動的に実行することもできる。
【0097】
本明細書で規定される通り、基準配列と、「少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な」アミノ酸配列は、基準配列と比較した、欠失、挿入、及び/又は置換等の突然変異を含みうる。
【0098】
置換の場合、置換は、好ましくは、下記のTable 1(表1)に指し示される保存的置換に対応する。好ましい実施形態では、基準配列と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な配列は、保存的置換だけにより、基準配列と異なる。
【0099】
【0100】
別の好ましい実施形態では、基準配列と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列は、基準配列の、天然における対立遺伝子変異体に対応する。
【0101】
エンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質
本発明に従う偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターはまた、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する、少なくとも1つの糖タンパク質であって、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く糖タンパク質も含む。
【0102】
エンベロープ糖タンパク質Fは、上記の「パラミクソウイルス科のエンベロープ糖タンパク質」という節で規定した通りである。
【0103】
パラミクソウイルス科のウイルスは、上記の「偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター」という節で規定した通りである。
【0104】
本明細書では、「エンベロープ糖タンパク質Fに由来するタンパク質」という表現により、タンパク質が、エンベロープ糖タンパク質Fの配列に照らした比較により、少なくとも1つの修飾を含むことを意味する。
【0105】
好ましいエンベロープ糖タンパク質Fは、NiVエンベロープ糖タンパク質F、NiV F糖タンパク質、又はNiV-Fともまた称する、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fである。
【0106】
別の好ましいエンベロープ糖タンパク質Fは、MeV糖タンパク質F又はMeV-Fともまた称する、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fである。
【0107】
エンベロープ糖タンパク質Fは、野生型若しくはワクチン株である、エンベロープ糖タンパク質であるか、又はその変異体であり、但し、前記変異体が、ウイルス膜の、標的細胞又は宿主細胞の細胞膜との融合を媒介する、野生型若しくはワクチン株の糖タンパク質Fの能力を保持することを条件とする。
【0108】
NiVエンベロープ糖タンパク質Fの基準配列は、配列番号11の配列である。NiVエンベロープ糖タンパク質Fは、配列番号11と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な配列のタンパク質でありうる。例えば、NiVエンベロープ糖タンパク質Fは、配列番号11の配列のタンパク質でありうる。
【0109】
MeVエンベロープ糖タンパク質Fの基準配列は、配列番号12の配列である。
【0110】
MeVエンベロープ糖タンパク質Fは、配列番号12と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な配列のタンパク質でありうる。例えば、MeVエンベロープ糖タンパク質Fは、配列番号12の配列のタンパク質でありうる。
【0111】
好ましい実施形態では、エンベロープ糖タンパク質Fに由来するタンパク質は、前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く。
【0112】
前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠くタンパク質はまた、その細胞質領域内で切断されたタンパク質とも称する。
【0113】
本明細書では、「細胞質領域のxアミノ酸を欠くタンパク質」、「その細胞質領域内のxアミノ酸だけ切断されたタンパク質」、及び「Δcxタンパク質」という表現は、同義であり、互換的に使用することができる。
【0114】
その細胞質領域内で切断されたエンベロープ糖タンパク質Fの使用は、レトロウイルス様粒子及びレトロウイルスベクターへのその組込みを大幅に改善し、これにより、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの、高力価及び高作製収率による作出を可能とする。
【0115】
エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域は、C末端に位置する。
【0116】
したがって、切断されていない糖タンパク質Fを基準として、Δcx糖タンパク質の切断部分の位置を確認する場合は、糖タンパク質FのC末端からカウントを開始する。
【0117】
例として述べると、nアミノ酸からなる、配列番号Zの配列である、糖タンパク質Fと比較して、その細胞質領域内のXアミノ酸を欠く糖タンパク質は、配列番号Zの配列の、アミノ酸n-x+1~nを欠くという点で、前記糖タンパク質Fと異なる。
【0118】
エンベロープ糖タンパク質F配列内の細胞質領域の位置特定は、当業者が容易に決定しうる。
【0119】
MeV糖タンパク質Fの細胞質領域は、例えば、配列番号12の配列のアミノ酸518~550(33アミノ酸)からなる。
【0120】
NiV糖タンパク質Fの細胞質領域は、例えば、配列番号11の配列のアミノ酸519~546(28アミノ酸)からなる。
【0121】
例えば、エンベロープ糖タンパク質Fに由来するタンパク質は、細胞質領域内の、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、少なくとも25アミノ酸、又は少なくとも30アミノ酸を欠きうる。
【0122】
例えば、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来するタンパク質は、前記麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fと比較して、細胞質領域内の30アミノ酸を欠きうる。例えば、前記麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来し、細胞質領域内の30アミノ酸を欠くタンパク質は、配列番号15の配列を含むか、又はこれらからなる。
【0123】
例えば、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来するタンパク質は、前記ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fと比較して、細胞質領域内の22アミノ酸を欠きうる。例えば、前記ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来し、細胞質領域内の22アミノ酸を欠くタンパク質は、配列番号16の配列を含むか、又はこれらからなる。
【0124】
標的細胞
標的細胞とは、その活性がモジュレートされ、かつ/又は少なくとも1つの目的の遺伝子を形質導入される、目的の細胞である。
【0125】
標的細胞は、それらの表面において、特定の細胞表面受容体を発現し、これにより、これらの細胞を特異的にターゲティングするが、前記細胞表面受容体を発現しない細胞はターゲティングしないことを可能となる。
【0126】
本明細書では、「標的細胞」及び「細胞の標的サブセット」という表現が同義であり、互換的に使用することができる。
【0127】
標的細胞は、造血細胞、間質細胞、内皮細胞、肝細胞、筋細胞(例えば、心臓細胞)、神経系細胞、及び/又は罹患細胞からなる群から選択することができる。
【0128】
神経系細胞は、例えば、ニューロン及び/又はグリア細胞である。
【0129】
本明細書では、「造血細胞」とは、造血系の細胞を意味する。
【0130】
好ましい標的細胞は、造血細胞である。
【0131】
造血細胞は、T細胞、B細胞、単球、Th1細胞、Th2細胞、Treg細胞、マスト細胞、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マクロファージ、造血幹細胞、前駆T細胞及び/又は前駆B細胞、赤芽球、血小板、好中球、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0132】
より好ましい標的造血細胞は、T細胞、より好ましくは、CD8+ T細胞又はCD4+ T細胞である。
【0133】
罹患細胞とは、腫瘍細胞、腫瘍幹細胞、特定の機能的遺伝子を欠き、特定の遺伝子を過剰発現し、かつ/又は特定の遺伝子の切断形態若しくは突然変異形態を発現する細胞、感染細胞、及び/或いは機能障害細胞でありうる。
【0134】
細胞特異的ターゲティングドメイン
細胞特異的ターゲティングドメイン(「細胞ターゲティングドメイン」ともまた呼ばれる)は、本発明に従う偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの、標的細胞が選択的に発現する表面受容体への特異的結合を可能とする。
【0135】
標的細胞は、上記の、同じ名称の節で規定した通りでありうる。
【0136】
ターゲティング融合タンパク質の細胞ターゲティングドメインは、好ましくは、DARPin、scFv、ターゲティングペプチド、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0137】
「DARPin」という用語は、デザインされたアンキリンリピートタンパク質を指す。
【0138】
scFvという用語は、抗体の単鎖可変断片を指す。
【0139】
例えば、細胞ターゲティングドメインは、CD3、CD8、CD4、がん細胞マーカー、CD11b、CD19、CD62L、CD56、Glut-1(グルコーストランスポーター)、CD19、CD22、CD20、CCR5、又はCXCR4に特異的である。
【0140】
好ましい細胞ターゲティングドメインは、CD4に特異的なDARPin、又はCD8に特異的なscFvである。
【0141】
機能的ドメイン
機能的ドメインは、標的細胞の活性をモジュレートすることを可能とする。
【0142】
本明細書では、「標的細胞の活性をモジュレートすること」とは、表現型の変化(例えば、成熟及び/又は分化)を活性化させるか、若しくは阻害し、誘導し、増殖を誘導し、かつ/又は前記標的細胞のアポトーシスを誘導することを意味する。標的細胞の活性をモジュレートすることは、例えば、免疫を増強又は抑制すること、細胞型特異的免疫応答を促進することを含む。
【0143】
モジュレーティング融合タンパク質の機能的ドメインは、好ましくは、受容体リガンドである。
【0144】
本明細書では、「受容体リガンド」とは、分子、好ましくは、細胞により通常放出され、それらの細胞表面において、コグネイト受容体を発現する細胞の生理学的状態を変更するタンパク質を好ましくは意味する。受容体リガンドは、例えば、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、神経伝達物質、アポトーシスリガンド、ケモカイン、グルコーストランスポーター、及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0145】
例えば、サイトカインは、インターロイキン(IL)、TNF(腫瘍壊死因子)、又はインターフェロンからなる群から選択することができる。
【0146】
インターロイキンは、例えば、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL15、IL21、IL-17、又はIL-12でありうる。
【0147】
例えば、アポトーシスリガンドは、FASリガンド、CD40リガンド、又はTNFアルファでありうる。
【0148】
例えば、ケモカインは、CXCL4、CCL5、又はCXCL10でありうる。
【0149】
例えば、増殖因子は、GM-SCF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、又はFlt-3リガンドでありうる。
【0150】
例えば、ホルモンは、インスリン、成長ホルモン、又はホルモンペプチド、例えば、バソプレッシンでありうる。例えば、神経伝達物質は、例えば、インスリン、グルカゴン、カルシトニン、ニューロテンシン、又はブラジキニンから選択される神経ペプチドでありうる。
【0151】
好ましい機能的ドメインは、サイトカイン、好ましくは、インターロイキン、より好ましくは、IL-7である。
【0152】
細胞ターゲティング融合タンパク質及びモジュレーティング融合タンパク質
本発明に従うレトロウイルス様粒子及びレトロウイルスベクターは、1つが、細胞ターゲティング融合タンパク質であり、1つがモジュレーティング融合タンパク質である、2種類の融合タンパク質を含む。
【0153】
細胞ターゲティング融合タンパク質は、(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む。
【0154】
モジュレーティング融合タンパク質は、(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む。
【0155】
当業者は、細胞ターゲティング融合タンパク質と、モジュレーティング融合タンパク質とは、2つの異なる種類の融合タンパク質であるので、細胞ターゲティングドメインと、機能的ドメインとは、異なることを明確に理解するであろう。
【0156】
膜貫通ドメインは、任意の天然における膜貫通ドメイン又は天然におけるものではない膜貫通ドメインでありうる。
【0157】
膜貫通ドメインは、受容体の膜貫通ドメイン、膜貫通タンパク質、好ましくはウイルスの膜貫通タンパク質、膜貫通タンパク質の断片、膜貫通ペプチド、又は遺伝子改変された受容体の膜貫通ドメイン、遺伝子改変された膜貫通タンパク質、遺伝子改変された膜貫通タンパク質の断片、若しくは遺伝子改変された膜貫通ペプチド等、これらの変異体でありうる。
【0158】
膜貫通ドメインの例は、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)の膜貫通ドメイン(TMD)、CD34の膜貫通ドメイン、又はVSVG糖タンパク質膜貫通ドメインである。
【0159】
パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質のC末端を、好ましくは、細胞ターゲティングドメイン又は機能的ドメインのN末端へと、直接的又は間接的に(例えば、リンカーを介して)融合させる。
【0160】
膜貫通ドメインのC末端を、好ましくは、細胞ターゲティングドメイン又は機能的ドメインのN末端へと、直接的又は間接的に(例えば、リンカーを介して)融合させる。
【0161】
パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質、エンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質、細胞ターゲティングドメイン、及び機能的ドメインは、上記で規定した通りである。
【0162】
偽型レトロウイルス様粒子内又はレトロウイルスベクター内に両方が存在する場合、細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質、及びモジュレーティング融合タンパク質内のこれらのタンパク質は、同じパラミクソウイルス科のウイルスに由来する場合もあり、異なるパラミクソウイルス科のウイルスに由来する場合もある。
【0163】
細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質、及びモジュレーティング融合タンパク質内のこれらのタンパク質が、異なるパラミクソウイルス科のウイルスに由来する場合、これらのタンパク質は、好ましくは、同じ属のウイルスに由来し、より好ましくは、同じ種のウイルスに由来する。
【0164】
細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質、及びモジュレーティング融合タンパク質内のこれらのタンパク質は、好ましくは、同一である。したがって、好ましい実施形態では、細胞ターゲティング融合タンパク質は、機能的ドメインではなく、おそらく、存在する場合、少なくとも1つのリンカー及び/又は少なくとも1つのタグではなく、そのターゲティングドメインにより、モジュレーティング融合タンパク質と異なる。
【0165】
融合タンパク質の2つのタンパク質は、リンカーと併せて連結することができる。当業者に周知である、任意の適切なリンカーを使用することができる。
【0166】
例えば、リンカーは、(G4S)3、G4S、第Xa因子の切断部位、又は螺旋状リンカー(例えば、HL3、HL7、…)でありうる。
【0167】
融合タンパク質は、例えば、それらの精製及び/又は検出を容易とするように、タグ付けすることができる。
【0168】
存在する場合、タグは、好ましくは、融合タンパク質のC末端に配置する、すなわち、細胞ターゲティングドメイン及び/又は機能的ドメインのN末端へと融合させる。当業者に周知である、任意の適切なタグを使用することができる。
【0169】
例えば、タグは、Hisタグ、RGSH6等のRGS-Hisタグ、HAタグ、又はc-mycタグでありうる。
【0170】
特異的偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター
本発明は特に、
a)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、
b)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質H、又は膜貫通ドメインに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質、及び
c)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含み、
前記細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又は前記モジュレーティング融合タンパク質が、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む、
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターに関する。
【0171】
したがって、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む、少なくとも1つの融合タンパク質であって、細胞ターゲティング融合タンパク質、又はモジュレーティング融合タンパク質である融合タンパク質を含む。一実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、各々が、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む、2つの融合タンパク質であって、1つの融合タンパク質が、細胞ターゲティング融合タンパク質であり、第2の融合タンパク質が、モジュレーティング融合タンパク質である、2つの融合タンパク質を含む。
【0172】
一実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、
a)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、
b)(i)膜貫通ドメインと、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質、及び
c)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含む。
【0173】
一実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、
a)(i)膜貫通ドメインと、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、
b)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質、及び
c)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含む。
【0174】
一実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、
a)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、
b)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質、及び
c)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する、少なくとも1つの糖タンパク質
を含む。
【0175】
細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質、モジュレーティング融合タンパク質内のこれらのタンパク質、及びエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質は、同じパラミクソウイルス科のウイルスに由来する場合もあり、異なるパラミクソウイルス科のウイルスに由来する場合もある。
【0176】
細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質、モジュレーティング融合タンパク質内のこれらのタンパク質、及び/又はエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質が、異なるパラミクソウイルス科のウイルスに由来する場合、これらのタンパク質は、好ましくは、同じ属のウイルスに由来し、より好ましくは、同じ種のウイルスに由来する。
【0177】
一実施形態では、細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質、モジュレーティング融合タンパク質内のこれらのタンパク質、及びエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質は、同じパラミクソウイルス科のウイルスに由来する。
【0178】
別の実施形態では、細胞ターゲティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質、及びパラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質が、同じパラミクソウイルス科のウイルスに由来するのに対し、モジュレーティング融合タンパク質は、(i)膜貫通ドメイン、例えば、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)の膜貫通ドメイン(TMD)と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む。
【0179】
別の実施形態では、モジュレーティング融合タンパク質内の、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質、及びパラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質が、同じパラミクソウイルス科のウイルスに由来するのに対し、細胞ターゲティング融合タンパク質は、(i)膜貫通ドメイン、例えば、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)の膜貫通ドメイン(TMD)と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む。
【0180】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの異なる成分、特に、細胞ターゲティング融合タンパク質、モジュレーティング融合タンパク質、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質、及び膜貫通ドメインは、上記で規定した通りである。
【0181】
好ましい偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、
a)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質であって、前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、前記エンベロープ糖タンパク質Gの、少なくとも1つの天然受容体、又は膜貫通ドメインに結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含む、少なくとも1つの細胞ターゲティング融合タンパク質、
b)(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質であって、前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、前記エンベロープ糖タンパク質Gの、少なくとも1つの天然受容体、又は膜貫通ドメインに結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む、少なくとも1つのモジュレーティング融合タンパク質、及び
c)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来し、前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く、少なくとも1つの糖タンパク質
を含み、
この場合、前記細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又は前記モジュレーティング融合タンパク質は、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む。
【0182】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの例を、下記のTable 2(表2)に示す。
【0183】
【0184】
好ましい実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、本明細書の下記の「偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを作製するための方法」という節で記載される作製法により得ることが可能であるか、又は得られる。
【0185】
核酸及びベクター
本発明はまた、本発明に従うレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを偽型化するために使用される細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又はモジュレーティング融合タンパク質をコードする核酸にも関する。
【0186】
したがって、本発明は特に、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする配列、及び/又はモジュレーティング融合タンパク質をコードする配列を含む核酸であって、
・ 前記細胞ターゲティング融合タンパク質が、(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質であり、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Gの、少なくとも1つの天然受容体、又は膜貫通ドメインに結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質と、(ii)少なくとも1つの細胞ターゲティングドメインとを含み、
・ 前記モジュレーティング融合タンパク質が、(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gに由来するタンパク質であり、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Gの、少なくとも1つの天然受容体、又は膜貫通ドメインに結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質と、(ii)少なくとも1つの機能的ドメインとを含む
核酸に関する。
【0187】
核酸が、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする配列と、モジュレーティング融合タンパク質をコードする配列とを含む場合、前記細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又は前記モジュレーティング融合タンパク質は、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む。
【0188】
核酸は、好ましくは、
(i)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質に由来するタンパク質であって、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Gの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Gの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質をコードする配列と、
(ii)1つの細胞ターゲティングドメイン、又は1つの機能的ドメインをコードする配列と、
(iii)任意選択で、配列(i)と配列(ii)との間のリンカー配列と、
(iv)任意選択で、好ましくは、配列(ii)の3'末端で、タグをコードする配列と
を含むか、又はこれらからなり、
この場合、配列(i)と、配列(ii)とを、インフレームで融合させている。
【0189】
リンカー配列は、上記で規定したリンカーをコードする、例えば、(G4S)3をコードする。
【0190】
配列(i)は、核酸の3'に位置する配列(ii)と比較して、核酸の5'に位置する。
【0191】
一実施形態では、核酸は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、及び配列番号13からなる群から選択される配列と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一な配列を含むか、若しくはこれらからなり、かつ/又は配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、及び配列番号14の配列からなる群から選択される配列と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一な配列をコードする配列を含むか、若しくはこれらからなる。
【0192】
好ましい実施形態では、核酸は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、及び配列番号13からなる群から選択される配列を含むか、若しくはこれらからなり、かつ/又は配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、及び配列番号14の配列からなる群から選択される配列をコードする配列を含むか、若しくはこれらからなる。
【0193】
配列同一性百分率の定義は、上記に提示されている。
【0194】
基準配列と、「少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な」核酸配列は、基準配列と比較した、欠失、挿入、及び/又は置換等の突然変異を含みうる。
【0195】
置換の場合、置換は、好ましくは、例えば、翻訳されたアミノ酸配列内に、上記のTable 1(表1)に指し示した基準配列と比較して、サイレント置換又は保存的置換をもたらす置換に対応する。
【0196】
好ましい実施形態では、基準配列と、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一な核酸配列は、サイレント置換及び/又は保存的置換をもたらす置換だけにより、基準配列と異なる。
【0197】
本発明はまた、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質をコードし、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く核酸にも関する。
【0198】
パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質は、上記で規定した通りである。
【0199】
核酸は、好ましくは、単離核酸である。
【0200】
本明細書では、「核酸」という表現は、リボヌクレオシド(「RNA分子」ともまた呼ばれる)、デオキシリボヌクレオシド(「DNA分子」ともまた呼ばれる)、又は一本鎖形態若しくは二本鎖形態における、ホスホロチオエート及びチオエステル等、これらの任意のホスホエステル類似体のリン酸エステルポリマー形態を意味する。
【0201】
生物学的成分(核酸、ベクター、又はタンパク質等)に言及する「単離された」という用語は、生物の細胞又は生物自体における、他の生物学的成分から実質的に分離又は精製された生物学的成分を指し、ここで、他の染色体内及び染色体外のDNA及びRNA、タンパク質、細胞、並びに細胞内小器官等の成分が天然におけるものである。「単離核酸」又は「単離ベクター」は、標準的な精製法により精製された核酸分子を含む。これらの用語はまた、増幅及び/又はクローニングにより調製された核酸及びベクターのほか、化学合成された核酸及びベクターも包含する。
【0202】
本発明に従う核酸は、ベクターへとクローニングすることが好ましい。
【0203】
したがって、「ベクター」という用語は、「レトロウイルスベクター」と異なる意味を有する。
【0204】
本明細書では、「ベクター」という用語は、核酸ベクターを意味する。
【0205】
ベクターは、一般に、複製起点、多重クローニング部位、及び選択用マーカーを含む。
【0206】
ベクターは、好ましくは、発現カセット、すなわち、その発現を可能とする、少なくとも1つの発現シグナルの制御下に置かれた、本発明に従う核酸を含む。
【0207】
発現シグナルは、特に、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、及びこれらの組合せから選択される。
【0208】
適切なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーは、当業者に周知である。
【0209】
ベクターの例は、例えば、プラスミドである。
【0210】
本明細書では、「プラスミド」とは、二本鎖環状DNAを意味する。プラスミドは、前記プラスミドを含む細胞の選択を可能とするマーカー遺伝子、細胞によるプラスミドの複製を可能とする複製起点、及び/又は本発明に従う核酸の挿入を可能とする多重クローニング部位を含みうる。
【0211】
したがって、本発明はまた、上記で規定した核酸を含むベクターにも関する。
【0212】
ベクターは、好ましくは、単離ベクターである。
【0213】
ベクターは、
・ 第1の核酸であって、
(i)a)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質であって、好ましくは前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質、又はb)膜貫通ドメインをコードする配列と、
(ii)1つの細胞ターゲティングドメインをコードする配列と、
(iii)任意選択で、配列(i)と配列(ii)との間のリンカー配列と、
(iv)任意選択で、好ましくは、配列(ii)の3'末端で、タグをコードする配列
とを含むか、又はこれらからなり、配列(i)と、配列(ii)とを、インフレームで融合させた、第1の核酸、
・ 第2の核酸であって、
(i)a)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質であって、好ましくは前記エンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠き、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質G若しくはエンベロープ糖タンパク質Hの、少なくとも1つの天然受容体に結合することが、少なくとも部分的に可能でないタンパク質、又はb)膜貫通ドメインをコードする配列と、
(ii)1つの機能的ドメインをコードする配列と、
(iii)任意選択で、配列(i)と配列(ii)との間のリンカー配列と、
(iv)任意選択で、好ましくは、配列(ii)の3'末端で、タグをコードする配列と
を含むか、又はこれらからなり、配列(i)と、配列(ii)とを、インフレームで融合させた、第2の核酸
を含みうるか、又はこれらからなることが可能であり、
この場合、第1の核酸及び/又は第2の核酸は、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質をコードする配列を含む。
【0214】
したがって、前記第1の核酸は、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードし、前記第2の核酸は、モジュレーティング融合タンパク質をコードする。
【0215】
目的の遺伝子
偽型レトロウイルスベクターを使用する場合、少なくとも1つの目的の遺伝子は、前記レトロウイルスベクターの、レトロウイルス由来のゲノム内に存在しうる。
【0216】
目的の遺伝子は、治療用タンパク質、アポトーシスタンパク質、キメラ抗原受容体、細胞表面受容体、抗体、抗体断片、shRNA、抗原、サイトカイン、マイクロRNA、CRISPR(clustered, regularly interspaced, short palindromic repeat)/CASエレメント(例えば、特に、特定の遺伝子の破壊又は補正のための、CAS9及び/又はガイドRNA)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ等、他のヌクレアーゼ系、S/MAR(Scaffold/Matrix Attachment Region)エピソーム、リガンド、及び/又は受容体をコードしうる。
【0217】
レトロウイルスベクターにより、S/MARエピソームを、細胞核内に挿入し、次いで、このレトロウイルスベクターを、宿主細胞DNAにより複製する。
【0218】
目的の遺伝子の例は、グロビン遺伝子、造血系増殖因子遺伝子(例えば、エリスロポエチン(EPO)遺伝子)、インターロイキン遺伝子(とりわけ、インターロイキン1遺伝子、インターロイキン2遺伝子、インターロイキン3遺伝子、インターロイキン6遺伝子、又はインターロイキン12遺伝子)、コロニー刺激因子遺伝子(顆粒球コロニー刺激因子遺伝子、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子遺伝子、又は幹細胞型コロニー刺激因子遺伝子等)、血小板特異的インテグリンαIIbβ遺伝子、多剤耐性遺伝子、慢性肉芽腫症(CGD)を伴う患者において欠損する、gp91遺伝子又はgp47遺伝子、病原体による感染に対して細胞を耐性とする抗ウイルス遺伝子(ヒト免疫不全ウイルス等)、血友病において突然変異する、第VIII血液凝固因子又は第IX血液凝固因子をコードする遺伝子、T細胞媒介性免疫応答に関与するリガンドをコードする遺伝子(T細胞抗原受容体、キメラ抗原受容体(CAR)等)、B細胞抗原受容体(免疫グロブリン、HIVに対する中和抗体、C型肝炎、B型肝炎、及び/又は他の感染性疾患)、インターロイキン受容体に共通するγ鎖遺伝子、TNF遺伝子、ガンマインターフェロン遺伝子、CTLA4遺伝子、Melana等、腫瘍細胞内で発現する遺伝子、MAGE遺伝子(MAGE-1、MAGE-3等)、P198遺伝子、P1A遺伝子、gp100遺伝子を含む。
【0219】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを作製するための方法
本発明はまた、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを作製するための方法であって、パッケージング細胞株に、
(i)細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(ii)モジュレーティング融合タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(iii)パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来し、好ましくは、前記エンベロープ糖タンパク質Fの細胞質領域の少なくとも1つの部分を欠く糖タンパク質をコードする、少なくとも1つの核酸、
(iv)前記レトロウイルスに由来するコアタンパク質をコードする核酸を含む、少なくとも1つのベクター、及び
(v)任意選択で、パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含む、少なくとも1つのベクター
を共トランスフェクトし、
これにより、共トランスフェクト細胞を得る工程を含む方法にも関する。
【0220】
前記細胞ターゲティング融合タンパク質、及び/又は前記モジュレーティング融合タンパク質は、パラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質G又はエンベロープ糖タンパク質Hに由来するタンパク質を含む。
【0221】
パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含む、少なくとも1つのベクターは、レトロウイルスベクターを作製するためだけに要求される。
【0222】
当業者に周知である、任意の適切なパッケージング細胞株を使用することができる。
【0223】
本明細書では、「パッケージング細胞株」とは、本発明の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの異なる成分を発現することが可能な細胞株を意味する。
【0224】
本発明の偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの異なる成分をコードする核酸及びベクターは、例えば、マウス白血病ウイルスベースのベクターの場合、パッケージング細胞株のゲノム内に組み込むことができる。
【0225】
パッケージング細胞株は、好ましくは、レンチウイルスのGag遺伝子及びPol遺伝子の発現と適合性である。
【0226】
例えば、パッケージング細胞株は、293T細胞、昆虫細胞、TE 671細胞、及びHT1080細胞からなる群から選択することができる。
【0227】
「トランスフェクション」という用語は、宿主細胞が、前記核酸又はベクターによりコードされるタンパク質を発現させるような、少なくとも1つの外来核酸又は外来ベクター(例えば、DNA、cDNA、又はRNA)の、細胞への導入を意味する。外来核酸又は外来ベクターは、開始、停止、プロモーター、シグナル、分泌、又は細胞の遺伝子的機構により使用される他の配列等の、調節配列又は制御配列を含みうる。
【0228】
カプシド形成に必要なプサイ配列を含むベクターを、プサイ陽性ベクターと呼ぶのに対し、前記プサイ配列を含まないベクターを、プサイ陰性ベクターと呼ぶ。
【0229】
パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含むベクターだけが、プサイ陽性ベクターである。共トランスフェクションに使用される、他の核酸及びベクターは、プサイ陰性である。
【0230】
細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする核酸、モジュレーティング融合タンパク質をコードする核酸、及びパラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質をコードする核酸は、上記で規定した通りである。核酸は、2つ又は3つの別個のベクター:例えば、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする核酸を含むか又はこれからなる第1のベクター、及びモジュレーティング融合タンパク質をコードする核酸、及びパラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質をコードする核酸を含むか又はこれからなる第2のベクター等、2つの別個のベクター;又は3つの別個のベクターである、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする核酸を含むか又はこれからなる第1のベクター、モジュレーティング融合タンパク質をコードする核酸を含むか又はこれからなる第2のベクター、及びパラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質をコードする核酸を含むか又はこれからなる第3のベクターの形態で、提供することができる。代替的に、細胞ターゲティング融合タンパク質をコードする核酸、モジュレーティング融合タンパク質をコードする核酸、及びパラミクソウイルス科のウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fに由来する糖タンパク質をコードする核酸は、これらの3つの核酸を含むか又はこれからなる、単一のベクターにより提供することができる。
【0231】
前記レトロウイルスに由来するコアタンパク質をコードする核酸を含むベクターもまた使用する。
【0232】
本明細書では、「レトロウイルスに由来するコアタンパク質」とは、gag遺伝子及びpol遺伝子によりコードされるタンパク質を意味する。gag遺伝子は、レトロウイルスプロテアーゼにより、コアを含む構造タンパク質へと更にプロセシングされるポリタンパク質をコードする。pol遺伝子は、特に、レトロウイルスプロテアーゼ、逆転写酵素、及びインテグラーゼをコードする。
【0233】
したがって、レトロウイルスに由来するコアタンパク質をコードする核酸は、前記レトロウイルスのgag遺伝子及びpol遺伝子を含む。
【0234】
少なくとも1つのレトロウイルスに由来するコアタンパク質は、例えば、野生型レトロウイルスに由来する、対応するコアタンパク質と比較して修飾することができる。
【0235】
一実施形態では、少なくとも1つのレトロウイルスに由来するコアタンパク質を、アミノ酸の欠失、挿入又は、置換等、少なくとも1つのアミノ酸突然変異により修飾する。
【0236】
好ましい実施形態では、前記少なくとも1つの修飾コアタンパク質は、欠損インテグラーゼである。欠損インテグラーゼの例は、D116A突然変異を保有する。
【0237】
したがって、コアタンパク質をコードする核酸は、pol遺伝子内の、少なくとも1つの突然変異、及び/又はpol遺伝子内の、少なくとも1つの突然変異を含みうる。前記少なくとも1つの突然変異は、ヌクレオチドの欠失、挿入、又は置換でありうる。
【0238】
好ましい一実施形態では、コアタンパク質をコードする核酸は、pol遺伝子内の、少なくとも1つの突然変異を含み、これにより、欠損インテグラーゼをコードする。
【0239】
欠損インテグラーゼを含むレトロウイルスベクターを、組込み欠損レトロウイルスベクターと呼ぶ。このようなベクターは、目的の遺伝子をコードする、カプシドに封入されたRNA分子を、一過性に導入することを可能とする。
【0240】
好ましい組込み欠損レトロウイルスベクターは、IDLV(組込み欠損レンチウイルスベクター)である。
【0241】
gag遺伝子及びpol遺伝子の由来は、レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターに、その名称を与える。例えば、「HIV-1由来のレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクター」という表現は通常、gag遺伝子及びpol遺伝子が、HIV-1のgag遺伝子及びpol遺伝子であるか、又はHIV-1に由来する修飾gag遺伝子及びpol遺伝子であることを指し示す。
【0242】
パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含むベクターもまた、共トランスフェクション、特に、レトロウイルスベクターの作製のために使用することができる。
【0243】
本明細書では、「パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含むベクター」とは、「シス作用型」配列として公知である、レトロウイルスの核酸配列を含むベクターを意味する。これらのベクターは、転写及び組込みの制御のための、LTR(long terminal repeat)、又は、例えば、U3領域の少なくとも1つの部分を欠く修飾(LTR)、カプシド形成に必要なプサイ配列、並びにレトロウイルスゲノムの逆転写に必要な、プライマー結合性部位(PBS)及びポリプリントラクト(PPT)配列を含む。
【0244】
U3領域の少なくとも1つの部分を欠くLTRを含むベクターを使用して作製されるレトロウイルスベクターは、例えば、自己不活化(SIN-LTR)ベクターである。
【0245】
一実施形態では、前記パッケージングコンピテントレトロウイルス由来のゲノムを含むベクターは、CRISPR/CASエレメント及び/又はS/MARエピソームを含む、目的の遺伝子を更に含む。
【0246】
CRISPR/CAS系を使用する場合、パッケージングコンピテントのレトロウイルス由来のゲノムを含むベクターは、典型的に、エンドヌクレアーゼであるCAS(例えば、CAS9)をコードする遺伝子と、ターゲティングされる目的の遺伝子に特異的なガイドRNA(gRNA)に対応するDNA配列と、任意選択で、遺伝子補正のための配列とを含む。
【0247】
前記レトロウイルス由来のゲノムは、好ましくは、任意のトランス補正機能の非存在下で、複製欠損である。複製コンピテントゲノムは、gag、pol、及びenvのレトロウイルス遺伝子を更に含むであろう。複製欠損ゲノムでは、ウイルス遺伝子であるgag、pol、及びenvが欠失している。本発明のレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターのアセンブリーは、トランスにおいて、gag及びpolをコードするが、「シス」配列((iv)のベクター等)を欠損させた、別のベクターと、偽型エンベロープ糖タンパク質をコードする、少なくとも別のベクター又は核酸((i)、(ii)、及び(iii)の核酸、又は前記核酸を含むベクター等)とをもたらすことにより達成される。これらのベクター又は核酸の発現は、ウイルスゲノムの複製及び完全なウイルス粒子の形成に必要な遺伝子を除く、目的の遺伝子のカプシド形成を可能とする。
【0248】
上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを作製するための方法は、
b)共トランスフェクトされた細胞を、前記核酸及びベクターによりコードされるタンパク質の発現を可能とするのに十分な時間にわたり培養する工程と;
c)コードされるタンパク質による、レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの形成を可能とする工程と
を更に含みうる。
【0249】
特定の細胞又は細胞の亜型の活性のモジュレーティング及び/又はこれらへの形質導入
本発明の別の目的は、使用、好ましくは、標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、任意選択で、標的細胞に選択的に形質導入する、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの、in vitro又はex vivoにおける使用である。
【0250】
本発明の更に別の目的は、方法、好ましくは、標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、任意選択で、標的細胞に選択的に形質導入するための、in vitro又はex vivoにおける方法であって、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、前記標的細胞を含む細胞と接触させる工程を含む方法である。
【0251】
「標的細胞の活性を選択的にモジュレートすること」という表現における、「選択的に」という用語は、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターにより、本質的に、前記標的細胞だけが、それらの活性モジュレートされることを意味する。例えば、それらの活性がモジュレートされる細胞は、非標的細胞のうちの、10%未満、例えば、5%未満又は1%未満を含む。
【0252】
「標的細胞に選択的に形質導入すること」という表現における、「選択的に」という用語は、本質的に、標的細胞だけに形質導入することを意味する。例えば、形質導入される細胞は、形質導入される非標的細胞のうちの、10%未満、例えば、5%未満又は1%未満を含む。
【0253】
「標的細胞の活性をモジュレートすること」という表現は、上記の「機能的ドメイン」という節で規定した通りである。
【0254】
本明細書で使用される「~を導入すること」又は「~を形質導入すること」という用語は、レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターが、標的細胞に結合すると、生物学的材料を、標的細胞の膜又は細胞質へと送達する能力に関する。送達の後、生物学的材料は、細胞の他のコンパートメントへと移動しうる。
【0255】
本明細書で使用される「生物学的材料」という表現は、細胞の構造及び/又は機能を変更しやすい、1又は複数の化合物に関する。本発明の文脈では、生物学的材料とは、1又は複数の目的の遺伝子を含む核酸であって、上記で説明した通り、レトロウイルスベクターのゲノム内に含まれうる核酸であることが好ましい。
【0256】
細胞の形質導入を実施するための条件は、当業者に周知であり、典型的に、好ましくは、例えば、レトロネクチンでコーティングされたフラスコ内、プレート内、又はディッシュ内で培養され、任意選択で、サイトカインカクテルであらかじめ刺激された、形質導入する細胞を、偽型レトロウイルスベクターと、好ましくは、0.5~100の間のMOI(感染多重度)でインキュベートすることを含む。
【0257】
標的細胞は、特に、上記の、同じ名称の節で規定した通りである。
【0258】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、培養培地中の、標的細胞を含む細胞と接触させることができる。
【0259】
当業者には、所与の細胞に適する培地による培養が公知である。
【0260】
したがって、規定された細胞機能を変化させるために、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、in vitro又はin vivoにおいて使用し、これにより、基礎研究のための新たなツールをもたらすことができる。
【0261】
医薬組成物
本発明はまた、少なくとも1つの、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを含む医薬組成物にも関する。
【0262】
医薬組成物中で使用さる偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの量は、例えば、免疫原性、投与を意図される対象の状態(例えば、重量、年齢、性別、健康状態、存在する場合の併用処置、及び処置の頻度)、投与方式、製剤の種類、及び/又は標的細胞の数に依存する。
【0263】
医薬組成物は、好ましくは、少なくとも1つの偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。
【0264】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、有効成分の生物学的活性の有効性に干渉せず、好ましくは、投与される宿主に対して毒性ではない、任意の担体を包含することを意図する。
【0265】
当業者には、本発明の医薬組成物で使用されうる、薬学的に許容される担体が周知である。例えば、本発明の医薬組成物で使用されうる、薬学的に許容される担体は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、d-α-トコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート等の自己乳化型薬物送達系(SEDDS)、Tweens、又は他の類似のポリマー性送達マトリックス等、医薬剤形中で使用される界面活性剤、ヒト血清アルブミン等の血清タンパク質、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム等の緩衝物質、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、又はプロタミン硫酸塩、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、ケイ酸マグネシウム等の電解質、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、及び羊毛脂を含む。α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリン等のシクロデキストリン、若しくは2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン及び3-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含む、ヒドロキシアルキルシクロデキストリン等の化学修飾誘導体、又は他の可溶化誘導体もまた、本発明に従う組成物の送達を増強するのに使用すると有利でありうる。
【0266】
医薬組成物は、106IU~1012IUの偽型レトロウイルスベクター、好ましくは、107IU~109IU、より好ましくは、107IU~108IUを含みうる。
【0267】
本明細書における「IU」又は「感染単位」という用語は、細胞株に対する滴定により決定され、IU/mlとして表される、感染性ベクター粒子の数量を意味する。
【0268】
投与は、本発明に従う医薬組成物の、単回投与又は複数回投与により達成することができ、前記複数回投与は、同時に、又は時間経過にわたり個別に注射される。
【0269】
一実施形態では、正確な投与を容易とするように、医薬組成物を単位剤形で提供する。「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び他の哺乳動物のための単位投与量として適する、物理的に個別の単位をさし、各単位は、適切な医薬賦形剤と会合して、所望の治療効果をもたらすように計算された、所定の数量の活性材料を含有する。典型的な単位剤形は、あらかじめ充填され、あからじめ測定された、液体組成物のアンプル又はシリンジを含む。このような組成物中で、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは通例、少量の成分であり、残余は、所望の投与形態を形成するのに有用である、多様な媒体又は担体及び加工補助剤である。
【0270】
本発明は更に、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを含む医薬組成物と、投与方式に関する指示書とを含むキットも提供する。これらの指示書は、例えば、医学的適応、投与経路、投与量、及び/又は処置される患者群を指し示しうる。
【0271】
処置される対象
処置される対象は、哺乳動物、例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物でありうる。
【0272】
ヒトはまた、「個体」又は「患者」とも称する。
【0273】
前記ヒトは、任意の年齢、例えば、乳幼児、小児、若齢者、成人、老齢者、及び任意の性別でありうる。
【0274】
非ヒト哺乳動物は、好ましくは、齧歯動物(例えば、マウス、ラット、又はウサギ)、ネコ科動物(例えば、ネコ)、イヌ科動物(例えば、イヌ)、又は霊長動物(例えば、チンパンジー)である。
【0275】
処置される対象は、好ましくは、ヒトである。
【0276】
疾患の予防及び/又は処置
本発明は、特定の細胞又は細胞のサブセットの活性を選択的にモジュレートし、任意選択で、前記特定の細胞又は細胞のサブセットに選択的に形質導入することにより、予防し、かつ/又は治癒させうる疾患の予防及び/又は処置に、特に有用である。
【0277】
前記疾患は、特定の細胞又は細胞のサブセットを伴うことが好ましい。
【0278】
したがって、処置される対象は、特定の細胞又は細胞のサブセットの活性を選択的にモジュレートし、任意選択で、前記特定の細胞又は細胞のサブセットに選択的に形質導入することにより、予防し、かつ/又は治癒させうる疾患を患う場合もあり、これに罹患している可能性が高い場合もある。
【0279】
前記疾患は、免疫疾患(例えば、自己免疫疾患)、がん、遺伝疾患、アレルギー疾患、炎症性疾患、感染性疾患(特に、細菌及び/又はウイルス感染)、代謝疾患、神経変性疾患(例えば、神経萎縮、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病)、筋疾患、及びこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0280】
本明細書で使用される「自己免疫疾患」という表現は、通常、体内に存在する物質及び/又は組織に対する、体内の過活性の免疫応答に起因する疾患を指す。したがって、この過活性の免疫応答に関与する免疫細胞を特異的にターゲティングすることにより、本発明の偽型レトロウイルス様粒子及びレトロウイルスベクターは、自己免疫疾患の予防及び/又は処置に有用なツールである。
【0281】
自己免疫疾患は、特に、急性播種性脳脊髄炎、急性出血性白質脳炎、アジソン病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、筋委縮性側索硬化症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、抗シンセターゼ症候群、アトピー性アレルギー、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性心筋症、自己免疫性腸症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖性症候群、自己免疫性末梢神経障害、自己免疫性膵炎、自己免疫性多内分泌症候群、自己免疫性プロゲステロン皮膚炎、自己免疫性血小板減少性紫斑症、自己免疫性蕁麻疹、自己免疫性ブドウ膜炎、バロー病、バロー同心性硬化症、ベーチェット症候群、バーガー病、ビッカースタッフ型脳炎、ブラウ症候群、水泡性類天疱瘡、キャッスルマン病、セリアック病、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、慢性再発性多巣性骨髄炎、チャーグ-ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、補体第2成分欠損症、頭蓋動脈炎、CREST症候群、クローン病、クッシング症候群、皮膚白血球破砕性血管炎、デゴス病、ダーカム病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、1型糖尿病、びまん性皮膚硬化型全身性強皮症、ドレスラー症候群、円板状エリテマトーデス、湿疹、腱付着部炎関連関節炎、好酸球性筋膜炎、好酸球性胃腸炎、後天性表皮水疱症、結節性紅斑、本態性混合型寒冷グロブリン血症、エバンス症候群、進行性骨化性線維異形成症、特発性肺線維症、胃炎、消化器性類天疱瘡、巨細胞性動脈炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギランバレー症候群(GBS)、橋本脳炎、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、妊娠性疱疹、低ガンマグロブリン血症、特発性炎症性脱髄性疾患、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病、IgA腎症、封入体筋炎、炎症性脱髄性多発性神経障害、間質性膀胱炎、若年性特発性関節炎、若年性関節リウマチ、川崎病、ランバート-イートン筋無力症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、線状IgA病(LAD)、ルーゲーリック病、ルポイド肝炎、全身性エリテマトーデス、マジード症候群、メニエール病患、顕微鏡的多発血管炎、ミラー-フィッシャー症候群、混合性結合組織疾患、限局性強皮症、ムッハ-ハーベルマン病、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、視神経脊髄炎、ニューロミオトニア、眼部瘢痕性類天疱瘡、オプソクローヌスミオクローヌス症候群、オルド甲状腺炎、回帰性リウマチ、腫瘍随伴性小脳変性症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー-ロンベルグ症候群、パーソネージ-ターナー症候群、扁平部炎、天疱瘡、尋常性天疱瘡、悪性貧血、静脈周囲性脳脊髄炎、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性胆汁性肝硬変、進行性炎症性神経障害、乾癬、乾癬性関節炎、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、ラスムッセン脳炎、レイノー現象、再発性多発性軟骨炎、ライター症候群、レストレスレッグズ症候群、後腹膜線維症、関節リウマチ、リウマチ熱、サルコイドーシス、シュミット症候群、シュニッツラー症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節炎、スティル病、スティッフマン症候群、亜急性細菌性心内膜炎、スザック症候群、スイート症候群、シデナム舞踏病、交感性眼炎、高安動脈炎、側頭動脈炎、トロサ-ハント症候群、横断性脊髄炎、潰瘍性大腸炎、分類不能型結合組織病、分類不能型脊椎関節炎、血管炎、尋常性白斑、及びウェゲナー肉芽腫症を含む。
【0282】
本明細書で使用される「がん」という用語は、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、B細胞性リンパ腫、T細胞性リンパ腫、乳がん、肝細胞癌、造血細胞から発生するがんであって、白血病、特に、B-CLL(B細胞性慢性リンパ球性白血病)、CML(慢性骨髄性白血病)、又はATL(急性T細胞白血病)等、T細胞ベースの白血病、ALL(急性リンパ芽球性白血病)、AML(急性骨髄性白血病)を含むがん、及び/又は黒色腫等、任意の種類のがんを包含する。
【0283】
治療的適用
本発明はまた、好ましくは、免疫療法、遺伝子治療、及び/又はワクチン接種における、医薬としての使用のための、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターにも関する。
【0284】
遺伝子治療とは、例えば、目的の細胞内に、遺伝子を送達し、かつ/又は目的の遺伝子を、内因性部位において補正することにより得られうる、医薬としての遺伝子を使用する治療である。遺伝子治療では、目的の遺伝子を含む核酸を、患者の細胞へと送達し、目的の遺伝子によりコードされるタンパク質の発現、及び/又は目的の遺伝子の補正をもたらし、これにより、疾患の予防及び/又は処置を可能とする。
【0285】
前記目的の遺伝子は、本発明に従うレトロウイルスベクター内に含まれるRNA分子内に存在しうる。
【0286】
遺伝子の補正は、CRISPR/CAS系により実行することができる。
【0287】
免疫療法(immunotherapy)ともまた呼ばれる免疫療法(immune therapy)は、免疫系の活性をモジュレート(例えば、刺激又は阻害)して、疾患を予防及び/又は処置することに基づく治療である。
【0288】
本発明の文脈では、免疫療法は、本発明に従うレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを使用することにより、特定の標的免疫細胞だけの活性をモジュレートし、任意選択で、前記標的免疫細胞に選択的に形質導入することで構成される。例えば、レトロウイルスベクターを使用して、形質細胞内で、B細胞を分化させる等、B細胞を活性化させ、任意選択で、B細胞に、感染作用物質に対する(例えば、HIV、HCV、又はHBCに対する)異所性抗体をコードする核酸を形質導入することができる。
【0289】
免疫療法はまた、T細胞療法も含む。T細胞療法では、T細胞は、それらの機能についてモジュレートすることに加えて、遺伝子導入、例えば、T細胞受容体(CAR)による遺伝子導入に対する許容性も大きくすることができる。
【0290】
養子T細胞療法は、T細胞を、それを必要とする対象へと輸注する治療である。本発明の文脈では、本発明に従うレトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを使用することにより、前記T細胞の活性をモジュレートしてから、輸注することができる。
【0291】
本発明の文脈では、ワクチン接種は、レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの表面において、ターゲティングされ、同時に、抗原提示細胞(例えば、マクロファージ)を活性化させる、特定のウイルスエピトープを提示(displaying)し、その後、この抗原提示細胞が、エピトープを、免疫系(T細胞及びB細胞)へと提示(present)することで構成される。
【0292】
本発明はまた、医薬としての使用のための、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターであって、標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、任意選択で、標的細胞に選択的に形質導入される偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターにも関する。
【0293】
本発明は特に、上記の「疾患の予防及び/又は処置」という節で規定した疾患の予防及び/又は処置における、上記で規定した使用のための偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターに関する。
【0294】
前記疾患は、例えば、免疫疾患(例えば、自己免疫疾患)、がん、遺伝疾患、アレルギー疾患、炎症性疾患、感染性疾患(特に、細菌及び/又はウイルス感染)、代謝疾患、神経疾患(神経萎縮、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等)、筋疾患、及びこれらの組合せである。
【0295】
一実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、例えば、タンパク質又は遺伝子の導入のために、ベクターの表面において、DC細胞特異的なリガンド(CD11b等)と、GM-SCF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)とを共提示することにより、DC(樹状細胞)ワクチンを改善するために使用する。
【0296】
有利な実施形態では、T細胞の活性化を、T細胞特異的な遺伝子導入とカップリングさせるが、これは、休眠T細胞、例えば、T細胞ベースの遺伝子治療における遺伝子導入効率を、著明に増強した。in vivoにおける、T細胞サブセットへの、効率的な遺伝子導入は、臨床適用に高額の費用を誘導する、ex vivoにおける培養工程及び形質導入工程を省略することを可能とするので、遺伝子治療及び細胞療法の分野における革命である。更に、細胞を、in vivoにおける、それらの通常の微小環境内に放置することは、細胞が、それらの表現型を保存し、患者の内部で長時間にわたり存続すること(例えば、腫瘍特異的なCD8細胞傷害性細胞)を可能とする。
【0297】
別の実施形態では、本発明を使用して、例えば、B細胞が、感染作用物質に対する中和抗体を産生することを可能とするか、又は、B細胞は、寛容原性細胞として作用しうるので、免疫系により許容される組換えタンパク質の、B細胞による分泌を可能とする免疫療法等、B細胞ベースの遺伝子治療における、休眠Bリンパ球への選択的遺伝子送達を増強することができる。
【0298】
更に、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの表面上で、1又は複数のサイトカインを提示することは、T細胞サブセットが、in vivoで長時間にわたり存続しうる、TSCM又はTCM等の表現型へと分化することを誘導しうる。
【0299】
別の実施形態では、本発明を、がん治療のための、(自家)抗がんナチュラルキラー細胞の、in vivoにおける拡大のために使用することができる。
【0300】
一実施形態では、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを使用して、アポトーシスリガンドと、腫瘍細胞又は免疫細胞に特異的なターゲティングドメインとを共提示することにより、規定された細胞サブセットのアポトーシスを誘導する。
【0301】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、医薬組成物の形態で提供することができる。
【0302】
医薬組成物は、好ましくは、上記の、同じ名称の節で規定した通りである。
【0303】
本発明はまた、それを必要とする対象を処置するための方法であって、治療有効量の、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを、好ましくは、免疫療法、遺伝子治療、及び/又はワクチン接種の枠組みで投与する工程を含む方法にも関する。
【0304】
本発明はまた、それを必要とする対象を処置するための方法であって、治療有効量の、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターであって、標的細胞の活性を選択的にモジュレートし、任意選択で、標的細胞に選択的に形質導入される偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを投与する工程を含む方法にも関する。
【0305】
本発明はまた、疾患を予防及び/又は処置するための方法であって、それを必要とする対象へと、治療有効量の、上記で規定した偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターを投与する工程を含み、前記疾患が、好ましくは、上記で規定した通りである方法にも関する。
【0306】
当業者に公知である、任意の適切な投与法を使用することができる。特に、本発明に従う偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、経口経路、非経口経路(好ましくは、静脈内注射による)、髄腔内経路、特に、大腿内(骨髄腔内等)若しくは上腕骨髄腔内経路注射、及び/又は局所腫瘍内注射により投与することができる。
【0307】
非経口経路を選択する場合、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、例えば、アンプル内又はフラスコ内でコンディショニングされた、注射用溶液又は注射用懸濁液の形態でありうる。
【0308】
偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターは、治療有効量で使用又は投与することが好ましい。
【0309】
「治療有効量」とは、処置される対象に、治療効果を付与する、偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターの数量を指す。治療効果は、客観的(すなわち、何らかの試験又はマーカーにより測定可能である)の場合もあり、主観的(すなわち、対象が、効果があることを指摘する又は効果を感じる)の場合もある。当業者に公知の通り、有効用量は、投与経路、対象の身長及び/又は体重のほか、他の薬剤の併用の可能性に応じて変動するであろう。
【0310】
本明細書で使用される「~を含むこと」という用語は、「~からなること」という用語を包含する。
【0311】
以下の例及び図を見ながら、本発明を更に例示しよう。
【0312】
本明細書で引用される全ての参考文献であって、雑誌論文若しくは抄録、公開されているか若しくは公開されていない特許出願、交付された特許を含む参考文献、又は引用された参考文献中で提示される、全てのデータ、表、図、及び本文を含む、他の任意の参考文献は、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる。
【配列表フリーテキスト】
【0313】
配列番号1は、ヒトCD4に特異的な、デザインされたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)29.2へと融合させた、切断型突然変異(Y481A、R533A、S548L、F549S)MVHタンパク質(HcDelta18)をコードする核酸配列に対応する。
配列番号2は、配列番号1の配列によりコードされるアミノ酸配列に対応する。
配列番号3は、さらなる(G4S)3リンカーと連結された、ヒトCD8(scFvC8-Vh1)を指向する単鎖抗体へと融合させた、切断型突然変異(E501A、W504、Q530A、E533A)NiVGタンパク質(GcΔ34)をコードする核酸配列に対応する。
配列番号4は、配列番号3の配列によりコードされるアミノ酸配列に対応する。
配列番号5は、IL-7へと融合させた、切断型突然変異(E501A、W504、Q530A、E533A)NiVGタンパク質(GcΔ34)をコードする核酸配列に対応する。
配列番号6は、配列番号5の配列によりコードされるアミノ酸配列に対応する。
配列番号7は、ヒトEpCAMを指向する、デザインされたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)へと融合させた、切断型突然変異(E501A、W504、Q530A、E533A)NiVGタンパク質(GcΔ34)をコードする核酸配列に対応する。
配列番号8は、配列番号7の配列によりコードされるアミノ酸配列に対応する。
配列番号9は、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Gの全長アミノ酸配列に対応する。
配列番号10は、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Hの全長アミノ酸配列に対応する。
配列番号11は、ニパウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fの全長アミノ酸配列に対応する。
配列番号12は、麻疹ウイルスのエンベロープ糖タンパク質Fの全長アミノ酸配列に対応する。
配列番号13は、IL-7へと融合させた、切断型突然変異MeV Hタンパク質(HcΔ15)をコードする核酸配列に対応する。
配列番号14は、配列番号13の配列によりコードされるアミノ酸配列に対応する。
配列番号15は、細胞質テール内の30アミノ酸だけ切断された麻疹ウイルスFタンパク質(FcΔ30)のアミノ酸配列に対応する。
配列番号16は、細胞質テール内の22アミノ酸だけ切断されたニパウイルスFタンパク質(FcΔ22)のアミノ酸配列に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0314】
【
図1】4
H/IL7
H-LVによる、ErbB2-CAR遺伝子の、休眠CD4
+ T細胞への、効率的かつ安定的な導入を示す図である。4
H/IL7
H-LVが、治療用遺伝子(ErbB2に特異的なCARである、ErbB2-CAR)を、休眠T細胞へと効率的に導入しうるのかどうかを評価するために、単離されたばかりのCD3
+ T細胞に、4
H-LV又は4
H/IL7
H-LVを形質導入した。VSV-LVを形質導入されるか、又は非形質導入(ut)のままとされた細胞を、陰性対照として使用した。3日後、形質導入細胞のうちの半分を、FACSにより解析して、CD4-又はCD8-でゲートをかけた細胞内の、ErbB2-CAR
+細胞の百分率を決定した。安定的なErbB2-CARの発現を確認するために、形質導入細胞のうちの他の半分を、抗CD3/抗CD28/IL-2による刺激の存在下で、洗浄工程の後、更に3日間にわたり、更に培養した。次いで、CD4
+/ErbB2
+細胞及びCD8
+/ErbB2
+細胞の百分率を、FACSにより決定した。
【
図2】天然受容体の認識を除去する、NiVエンベロープ糖タンパク質Gの突然変異を示す図である。エフリンB2(A)及びエフリンB3(B)の、NiV-G突然変異体に対する結合性が示される。293T細胞に、モック、GcΔ34
Hisをコードするプラスミド、又は異なるGcΔ34
EpCAM突然変異体:非突然変異体(GcΔ34
EpCAM)、E533A(GcΔ34
EpCAMmut1)、Q530A+E533A(GcΔ34
EpCAMmut2.1)、E501A+W504A(GcΔ34
EpCAMmut2.2)、又はE501A+W504A+Q530A+E533A(GcΔ34
EpCAMmut4)をトランスフェクトし、1μg/mlの組換えFc-エフリンB2又は組換えFc-エフリンB3と共にインキュベートした。異なる突然変異体による、受容体への結合の量を、MFI値として示す。統計学的解析は、非突然変異GΔ34-DARPin-Ac1と比べたものである(n=3;平均値±標準偏差(SD)を示す;
*:P<0.1;
**:P<0.01;
***:対応のないt検定によるP<0.001)。
【
図3】4
H/IL7
H-VLPによるCD4+ T細胞の選択的活性化を示す図である。単離されたばかりのCD3
+ T細胞を、非形質導入(ut)のままとするか、又はこれらに、CD4-DARPin-Hmut(4
H-VLP)、CD4-DARPin/IL7-Hmut(4
H/IL7
H-VLP)、若しくはIL7-Hnse(Hnse/IL7
H-VLP)で偽型化された、異なる種類のVLPを形質導入した。3日後、細胞を、CD8抗体、CD4抗体、及びCD71抗体で染色した。CD4-又はCD8-でゲートをかけた細胞内の、CD71の発現を示す。
【
図4】ターゲティングVLP上に機能的に提示されたIL7が、T細胞の生存を促進することを示す図である。CD4ターゲティングMV-H(4
H-VLP)、CD8ターゲティングMV-H(8
H-VLP)、IL7を提示するCD4ターゲティングMV-H(4
H/IL7
H-VLP)、又はIL7を提示するCD8ターゲティングMV-H(8
H/IL7
H-VLP)で偽型化されたウイルス様粒子(VLP)と共に、6日間にわたりインキュベートされた成人休眠CD3
+ T細胞についての前方/側方散乱プロファイルである。培地単独(非形質導入;ut)中で、又は15ng/mlのIL7の存在下で培養された細胞を、対照として使用した。生細胞の百分率を、各ドットブロット内に表示する。
【
図5】CD4ターゲティングLV上に機能的に提示されたIL7が、T細胞の生存を促進することを示す図である。VSVG(VSV-LV)、MV-Hmut(Hnse-LV)、CD4ターゲティングMV-H(4
H-LV)、又はIL7を提示するCD4ターゲティングMV-H(4
H/IL7
H-LV)で偽型化されたレンチウイルスベクター(LV)と共に、6日間にわたりインキュベートされた成人休眠CD3
+ T細胞についての前方/側方散乱プロファイルである。培地単独(非形質導入;ut)中で、又は15ng/mlのIL7の存在下で培養された細胞を、対照として使用した。生細胞の百分率を、各ドットブロット内に表示する。
【
図6】4
H/IL7
H-LVによる、CD4+ T細胞の選択的活性化を示す図である。単離されたばかりのCD3
+ T細胞を、非形質導入(ut)のままとするか、又はこれらに、CD4-DARPin-Hmut(4
HΔ18-LV)、Hnse(Hnse-LV)、若しくはVSVG(VSVG-LV)で偽型化された、異なる種類のLVを形質導入した。ここではIL7を、20アミノ酸を伴うC切断型(HΔ20)、又は15アミノ酸を伴うC切断型(HΔ15)のいずれかの、Hmutの2つの異なる変化形上に提示した。したがって、2種類の4
H/IL7
H-LVを作製し、休眠T細胞へと形質導入した。3日後、細胞を、CD3抗体、CD8抗体、CD69抗体、及びCD71抗体で染色した。CD8
+細胞内及びCD8
-(CD4
+)細胞内の活性化マーカーである、CD69及びCD71の発現を示す。
【
図7】偽型レンチウイルスベクター(LV)についての概略表示を示す図である。4
H-LVとは、MeV糖タンパク質の偽型に基づくCD4ターゲティングLVである。4
H/IL7
H-LVとは、MV糖タンパク質の偽型に基づくIL7を提示するCD4ターゲティングLVである。エンベロープ糖タンパク質H(MV-H)を、その細胞質テールにおいて、例えば、15、18、又は20アミノ酸だけ切断し、4つの点突然変異(Y481A、R533A、S548L、及びF549S)のうちの少なくとも2つを導入して、その、SLAM及びCD46の天然受容体の認識を遮蔽し、これにより、エンベロープ糖タンパク質であるHmutを結果としてもたらす。その後、ターゲティングドメイン(例えば、CD4-DARPin)及び/又はサイトカイン(例えば、IL7)を、リンカーを伴うか又は伴わずに、突然変異体のH(Hmut)へと融合させる。MVエンベロープ糖タンパク質Fを、その細胞質テールにおいて、30アミノ酸だけ切断する(MV-F
Δ30)。
【
図8】偽型ウイルス様粒子(VLP)についての概略表示を示す図である。8
G-VLPとは、NiV糖タンパク質の偽型に基づくCD8ターゲティングVLPである。8
G/IL7
G-VLPとは、NiV糖タンパク質の偽型に基づくIL7を提示するCD8ターゲティングVLPである。NiV-Gエンベロープ糖タンパク質を、その細胞質テールにおいて、34アミノ酸(Δ34)だけ切断し、4つの点突然変異(E501A、W504A、Q530A、及びE533A)を導入して、その、エフリンB2/B3の天然受容体の認識を遮蔽し、これにより、エンベロープ糖タンパク質であるNiV-G
Δ34を結果としてもたらす。その後、ターゲティングドメイン(CD8-scFv)及び/又はサイトカイン(IL7)を、リンカーを伴うか又は伴わずに、突然変異体のGタンパク質(NiV-G
Δ34)へと融合させる。NiVエンベロープ糖タンパク質Fを、その細胞質テールにおいて、22アミノ酸だけ切断する(NiV-F
Δ22)。
【
図9】4
H/IL7
H-LVによる、休眠CD4
+ T細胞への、効率的かつ選択的な形質導入を示す図である。単離されたばかりのCD3
+ T細胞を、非形質導入(ut)のままとするか、又はこれらに、CD4-DARPin-Hmut(4
HΔ18-LV)、Hnse(Hnse-LV)、若しくはVSVG(VSVG-LV)で偽型化された、異なる種類のLVを形質導入した。ここではIL7を、20アミノ酸を伴うC切断型(HΔ20)、又は15アミノ酸を伴うC切断型(HΔ15)のいずれかの、Hmutの2つの異なる変化形上に提示した。したがって、2種類の4
H/IL7
H-LV(4
HΔ18/IL7
HΔ15-LV、及び4
HΔ18/IL7
HΔ20-LV)を作製し、休眠T細胞へと形質導入した。3日後、細胞を、CD3抗体、CD8抗体、及びCD4抗体で染色した。CD4-又はCD8-でゲートをかけた細胞内の、GFPの発現を示す。
【
図10】NiV糖タンパク質により偽型化されたLVの中和を示す図である。プールされたヒト血清(IVIG)の系列希釈液を伴う、37℃で、2時間にわたるインキュベーションの後で、CHO-EpCAM細胞又はCHO-エフリンB2細胞に、NiVmutEpCAM-LV(丸)、MVEpCAM-LV(四角)、NiVwt-LV(三角)、又はVSVG-LV(ダイヤモンド)を、0.4のMOIで形質導入した。72時間後、GFP+細胞を、フローサイトメトリーにより決定し、非処理対照と比べたGFP+細胞の数を示す(n=3)。
【
図11】8
G/IL7
G-LVによる、CD88
+ T細胞の選択的活性化を示す図である。単離されたばかりのCD3
+ T細胞を、非形質導入(ut)のままとするか、又はこれらに、CD8-scFv-Gmut (8
G-LV)、若しくはCD8-scFv-Gmut /IL7-Gmut (8
G/IL7
G-LV)で偽型化された、異なる種類のLVを形質導入した。3日後、細胞を、CD8抗体、CD4抗体、及びCD71抗体で染色した。CD4-又はCD8-でゲートをかけた細胞内の、CD71の発現を示す。
【
図12】8
G/IL7
G-LVによる、休眠CD8
+ T細胞への、効率的かつ選択的な形質導入を示す図である。単離されたばかりのCD3
+ T細胞を、非形質導入(ut)のままとするか、又はこれらに、CD8-scFv-Gmut (8
G-LV)、若しくはCD8-scFv-Gmut /IL7-Gmut (8
G/IL7
G-LV)で偽型化された、異なる種類のLVを形質導入した。3日後、細胞を、CD3抗体、CD8抗体、及びCD4抗体で染色した。CD4-又はCD8-でゲートをかけた細胞内の、GFPの発現を示す。
【
図13】8
G/IL7
G-LVによる、CAR19遺伝子の、休眠CD8
+ T細胞への効率的な導入を示す図である。単離されたばかりのCD3
+ T細胞を、非形質導入(ut)のままとするか、又はこれらに、CD8-scFv-Gmut (8
G-LV)、CD8-scFv-Gmut /IL7-Gmut (8
G/IL7
G-LV) 又はVSVG(VSV-LV)で偽型化された、異なる種類のLVを形質導入した。CD19特異的CAR(CAR19)をコードする治療用遺伝子を、LVにより送達した。形質導入の3日後、CAR19の発現を、抗cmyc抗体により検出した。CD4
+T細胞又はCD8
+ T細胞中の、CAR19発現細胞の百分率を示す。
【
図14】4
H/IL7
H-LVが、in vivoのヒト化マウスにおける、CD4+ T細胞の活性化のターゲティングを可能とすることを示す図である。NOD/SCID gc-/-マウスに、臍帯血T細胞を注射し、生着(20%のT細胞の再構成)の2カ月後、100マイクロリットルの4
H/IL7
H-LV(10
6IU)又は4
H/IL7
H-LVをIV注射した。ベクターを注射した2週間後、マウスを屠殺し、脾臓細胞を、CD71+ CD4+ T細胞(活性化マーカー)の%について査定した。
【実施例】
【0315】
材料及び方法
構築物の作出
pQE30ss_Ac1_corrからPCR増幅した、EpCAMに特異的なDARPinAc1(Stefanら、2011年)のコード配列を、SfiI/NotIを介して、プラスミドであるpHL3-HRS3opt2#2(Friedelら、2015年)の骨格へと挿入することにより、切断型突然変異MVHcΔ18mutタンパク質と、Hと、Hisでタグ付けされたDARPinAc1との間の(G4S)3リンカー(L3)とをコードするプラスミドであるpHL3-Ac1を作出した。
【0316】
ニパウイルスGタンパク質変異体をコードする全てのプラスミドは、プラスミドであるpCAGGS-NiV-codonop-Gnに由来した。各断片をPCR増幅し、同時に、ライゲーションに使用する、共通のAgeI制限部位を導入することにより、Ac1ターゲティングドメインのコード配列を、Gタンパク質リーディングフレームのC末端へと融合させる結果として、プラスミドであるpCAGGS-NiV-G-DARPin-Ac1をもたらした。全ての他のターゲティングドメインも、AgeI/NotIを介して交換した。Gタンパク質リーディングフレームをPCR増幅し、PCR断片を、pCAGGS-NiV-G-DARPin-Ac1へと挿入することにより、Gタンパク質細胞質テールの切断型を導入する結果として、プラスミドであるpCAGGS-NiV-GcΔ33-DARPin-Ac1及びpCAGGS-NiV-GcΔ34-DARPin-Ac1をもたらした。pCAGGS-NiV-codonop-GnからのPCR増幅により、Hisでタグ付けしたGタンパク質及びGcΔ34タンパク質を作出した。PacI/NotIによる制限を介して、断片を、pCAGGS-NiV-G-DARPin-Ac1のプラスミド骨格へとクローニングする結果として、それぞれ、pCAGGS-NiV-G-His及びpCAGGS-NiV-GcΔ34-Hisもたらした。部位指向突然変異誘発により、天然受容体の認識に干渉する突然変異を、タンパク質コード配列であるNiV-GcΔ34-DARPin-Ac1へと導入した。突然変異部位において、相同な領域を伴う、デザインされた突然変異を保有する2つの断片の増幅により、各突然変異をもたらした。これらの断片を融合させ、フランキングプライマー対により増幅した。結果として得られる断片を、RsrII/AgeIを介して、pCAGGS-NiV-GcΔ34-DARPin-Ac1へとクローニングし、プラスミドであるpCAGGS-NiV-GcΔ34EpCAMmutを作出した。
【0317】
NiV-F変異体を作出するために、pCAGGS-NiV-Fから、FcΔ22及びFcΔ25のコード配列を増幅し、PacI/SacIによる制限を介して、pCAGGS-NiV-codonop-Gnのプラスミド骨格へとクローニングする結果として、プラスミドであるpCAGGS-NiV-FcΔ22及びpCAGGS-NiV-FcΔ25をもたらした。pCAGGS-NiV-Fから、NiV-F変異体を増幅し、同時に、AU1タグを、N末端に付加することにより、ベクター粒子についてのウェスタンブロット解析に使用される、AU1タグ付けされたNiV-F変異体を作出した。結果として得られるPCR断片を、PacI/SacIによる制限消化物を介して、pCAGGS-NiV-codonop-Gnの骨格へとクローニングする結果として、プラスミドである、pCAGGS-AU1-NiV-F、pCAGGS-AU1-NiV-FcΔ22、及びpCAGGS-AU1-NiV-FcΔ25をもたらした。
【0318】
ベクターの作製
ポリエチレンイミン(PEI)を使用する、HEK-293T細胞の一過性トランスフェクションにより、ベクター粒子を作出した。トランスフェクションの24時間前に、細胞2.5×107個を、T175フラスコ.へと播種した。トランスフェクションの当日に、細胞培養培地を、15%のFCS及び3mMのL-グルタミンを伴う、10mlのDMEMで置きかえた。35μgの全DNAを、添加剤を伴わない、2.3mlのDMEMと混合することにより、DNAミックスを調製した。
【0319】
例えば、G対Fの比を最適化した後、GcΔ34DARPin/scFv変異体をコードする0.9μgのプラスミドを、F変異体をコードする4.49μgのプラスミドと混合した。14.4μgのHIV-1パッケージングプラスミドであるpCMVΔR8.9及び15.1μgの導入LVプラスミドを使用した。H2O中に18mMのPEI溶液140μlを、添加剤を伴わない2.2mlのDMEMと混合することにより、トランスフェクション試薬ミックスを調製した。この溶液を、DNAミックスと混合し、ボルテックスし、室温で20分間にわたりインキュベートし、HEK-293T細胞へと添加する結果として、全体で、10%のFCS、2mMのL-グルタミンを伴うDMEMをもたらした。24時間後、残りのPEI/DNA複合体を除去するために、培地を、10%のFCS、2mMのL-グルタミンを伴うDMEMと交換した。トランスフェクション後の2日目、レンチウイルスベクターを含有する細胞上清を、0.45μmのフィルターを通して濾過した。必要な場合、20%のスクロースクッション上、450×gで、24時間にわたる遠心分離により、ベクター粒子を精製した。ペレットを、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)中で再懸濁させた。形質導入のために、CHO-EpCAM細胞及びSK-OV-3細胞8×103個、又はMolt4.8細胞及びRaji細胞2×104を、96ウェルプレートの単一のウェルへと播種し、翌日、形質導入した。必要な場合、細胞の培地を、異なる濃度のBafilomycin A1(Santa Cruz Biotechnology、Inc社、Dallas、USA)を含有する培地で置きかえ、細胞を、37℃で30分間にわたりプレインキュベートしてから、ベクターを添加した。滴定のために、ベクター粒子の、少なくとも4つの系列希釈液を使用した。72時間後、緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性細胞の百分率を、フローサイトメトリーにより決定した。希釈倍数と、GFP陽性細胞の数(形質導入された細胞の数/ベクターの容量μl/0.001)との間の直線的相関を示す希釈液を選択することにより、1ml当たりの形質導入単位(t.u./ml)を計算した。
【0320】
本発明に従う偽型レトロウイルス様粒子又はレトロウイルスベクターについての概略表示を、
図7及び
図8に描示する。
【0321】
(実施例1)
CD4+ T細胞の選択的活性化
CD4+リンパ球は活性化させるが、CD8+リンパ球は活性化させないために、融合タンパク質(F)と共に、MV Hタンパク質上に、ターゲティングリガンドとしてのCD4特異的DARPinと、活性化ドメインとしてのIL-7とを提示するVLPを作出する結果として、4H/IL7H-VLP(配列番号2、配列番号14、及び配列番号15の配列のタンパク質を含む)をもたらした。粒子を作出するために、トランスフェクションプロトコールを確立した。略述すると、0.45μgのpCG-Hmut-CD4-DARPin(Zhouら、J Immunol、2015)、0.45μgのpCG-HΔ15-IL7(Els Verhoeyen社製)、4.7μgのpCG-FcΔ30(Funkeら、Molecular therapy、2008)、14.4μgのHIV-1パッケージングプラスミドであるpCMVΔR8.9(Funkeら、Molecular therapy、2008)、及び15.1μgのpCG-1を、1つのT175フラスコ内の、HEK293T細胞のトランスフェクションのために使用した。採取した後で、ベクター粒子を、超遠心分離を介して更に濃縮した。LVについて、約107tu/mlの力価を得、VLPについて、1ml当たりのp24約1.5ugの力価を得た。
【0322】
単離されたばかりの休眠T細胞上で、4
H/IL7
H-VLPの機能を裏付けた。略述すると、Pan T cell isolation kit(Miltenyi Biotech社)を使用する陰性選択により、CD3
+ T細胞を、成人末梢血から単離した。その後、細胞を、刺激の非存在下で、4
H/IL7
H-VLPと共にインキュベートした。3日後、CD71活性化マーカーについてのFACS解析により確認される通り、細胞培養物中のCD4
+ T細胞は活性化したが、CD4
- T細胞は活性化しなかった(
図3)。IL-7を提示する非ターゲティング粒子は、CD4
+ T細胞及びCD4
- T細胞のいずれも活性化させた。IL-7は、T細胞生存サイトカインであることが公知である。したがって、全てのIL7を提示するVLPが、初代T細胞の死を予防するのに、組換えヒトIL-7と同様に有効であるのに対し、培養物中の休眠T細胞の大半は、従来型のIL7を欠損させるVLP粒子の存在下で、6日後に死滅することが裏付けられた(
図4)。
【0323】
T細胞の生存を促進し、CD4
+ T細胞を選択的に活性化させる能力はまた、IL7を提示するCD4ターゲティングLV(4
H/IL7
H-LV)によっても獲得された。GFPをコードする導入プラスミドにより、pCG-1を置換したことを除き、上記で記載した通りに、ウイルス粒子を作製した。加えて、系の柔軟性と、Hmutの他の変化形を使用することにより、粒子の機能を増強しうるのかどうかとについても調べるために、Hmut-IL7をコードする、2つの異なるプラスミドを、ベクターの作製のために使用した。pCG-HΔ15-IL7は、Hmut-IL7の、15アミノ酸の細胞質切断型(4
H/IL7
HΔ15-LVを作製するための)を伴い、pCG-HΔ20-IL7は、Hmut-IL7の、20アミノ酸の細胞質切断型(4
H/IL7
HΔ20-LVを作製するための)を伴う。具体的には表示しないが、IL7を提示するVLP及びIL7を提示するLVは、pCG-HΔ15-IL7により作製した。4
H/IL7
H-VLPによる達成と同様に、単離されたばかりのヒトCD3
+ T細胞を、刺激の非存在下で、表示のLVと共に、6日間にわたりインキュベートしたところ、4
H/IL7
H-LVは、T細胞の生存を、親4
H-LV及び非ターゲティングHnse-LVと比較して著明に促進した(
図5)。予測される通り、rhIL-7処置陽性群では、高百分率の生細胞が観察され、VSV-LV形質導入群又は非形質導入(ut)群では、最小の生細胞が観察された(
図5)。更に、4
H/IL7
H-LVは、混合細胞培養物中の、その標的細胞集団の選択的刺激において、4
H/IL7
H-VLPと同様に強力であった。
図6に示す通り、4
H/IL7
H-LVは、活性化マーカーである、CD69及びCD71を発現するCD4
+細胞を選択的に上方調節するが、CD4
- 細胞は上方調節しない。CD4
+ T細胞の刺激では、4
H/IL7
HΔ15-LVと、4
H/IL7
HΔ20-LVとの間に差違は見られなかった。こうして、機能的なIL7を提示するターゲティングLVの作出に成功する。
【0324】
(実施例2)
腫瘍特異的キメラ抗原受容体の、休眠T細胞への送達
IL7を提示するベクターは、休眠T細胞の活性化を誘発したので、これらの細胞は、レンチウイルス形質導入を許容することが予測される。これを実証するために、GFPトランス遺伝子を送達する4
H/IL7
H-LVの2つの変化形を作出した。
図9に示す通り、4
H/IL7
HΔ15-LV及び4
H/IL7
HΔ20-LVのいずれも、細胞混合物中の休眠CD4
+ T細胞に、効率的かつ選択的に形質導入しうる。
【0325】
キメラ抗原受容体(CAR)は、がん治療のための強力なツールである。従来、CARの遺伝子送達のためには、T細胞サブセットを精製し、活性化させなければならない。ここでは、CARを、休眠CD4
+細胞へと、選択的に送達しうることを裏付ける。CARをコードする導入プラスミドにより、pCG-1を置換したことを除き、実施例1で記載した通りに、粒子を作出した。休眠T細胞に、ErbB2特異的キメラ抗原受容体(ErbB2-CAR)を送達する4
H/IL7
H-LVを形質導入したところ、ErbB2-CAR発現は、CD4
+ T細胞集団内だけで観察された。IL7を欠損させるCD4ターゲティングLV(4
H-LV)と比較して、4
H/IL7
H-LVは、CD4
+ T細胞に対する選択性を保持しながら、CAR遺伝子の送達において、より効果的であった(
図1)。
【0326】
(実施例3)
休眠ヒトCD8
+ T細胞を選択的に活性化させ、これらに形質導入するように、MV糖タンパク質を、NiVのMV糖タンパク質で置きかえることができる
VLP又はLVを、NiV糖タンパク質で効率的に偽型化するために、NiV-Gを、その細胞質テールにおいて、34アミノ酸だけ切断し(GcΔ34)、NiV-Fを、その細胞質テールにおいて、22アミノ酸だけ切断した(FΔ22)。次に、4つの点突然変異(E501A、W504A、Q530A、E533A)を、GcΔ34へと導入することにより、エフリンB2/B3に対する、GcΔ34による天然受容体の認識を破壊した。この操作Gタンパク質により偽型化されたLVは、天然のNiVのエフリンB2受容体及びエフリンB3受容体への結合を完全に喪失し(
図2)、これらの受容体を発現する細胞に侵入しなかった。
【0327】
更に、NiVにより偽型化されたLVは、高度な作製収率及び静脈内免疫グロブリンに対する耐性等、いくつかの魅力的な特徴を有する。NiVに対するワクチン接種は存在せず、少数の発生は、マレーシア、バングラデシュ、及びインドにおける少数の場合に限定されている(SEARO: WHO South-East Asia Regional Office)ので、ヒトにおいては、中和抗体が存在しないはずである。これを裏付けるために、広範にわたるヒト血清ドナーをカバーする静脈内免疫グロブリン(IVIG;Intratect(登録商標))を、漸増濃度で、NiVwt-LV、NiVmut
EpCAM-LV、MV
EpCAM-LV、及びVSV-LVと共にインキュベートしてから、標的細胞への形質導入を行った。次いで、形質導入の3日後に、フローサイトメトリーにより、GFPの発現を決定した。予測される通り、VSVG-LV及びNiVwt-LVにより媒介される形質導入は、IVIGによる処理の影響を受けなかった。他方、MV
EpCAM-LVは、形質導入率の用量依存的な低下を示し、100μg/mlのIVIGで、完全に中和された。これに対し、NiVmut
EpCAM-LVは、使用した全ての濃度で、IVIGに対して耐性であり、したがって、ヒト免疫グロブリンに対する感受性が、対応するMVベースのベクターの、少なくとも10000分の1のはずである(
図10)。これらの結果は、NiV糖タンパク質に基づく受容体ターゲティングベクターが、ヒトへと注射されても中和されないことを示す。
【0328】
したがって、NiV-Gの上記特徴のために、サイトカインを提示するCD8ターゲティング粒子を作出するのに、NiVによる偽型を更に使用した。ここでは、OKT8に由来する、CD8特異的scFvを、NiV-GΔ34mut4上に提示して、エンベローププラスミドであるpCG-Gmut-CD8scFvを作出し、ヒトIL7を、NiV-GΔ34mut4上に提示して、エンベローププラスミドであるpCG-Gmut-IL7を作出した。8G/IL7G-LVを作製するために、0.45μgのpCG-Gmut-CD8scFv、0.45μgのpCG-Gmut-IL7、4.7μgのpCG-FcΔ22、14.4μgのHIV-1パッケージングプラスミドであるpCMVΔR8.9、及び15.1μgの導入LVプラスミドを、1つのT175フラスコ内の、HEK293T細胞のトランスフェクションのために使用した。LVについて、約107tu/mlの力価を得、VLPについて、1ml当たりのp24約1.5ugの力価を得た。
【0329】
4
H/IL7
H-LVによる達成と同様に、8
G/IL7
G-LV(配列番号4、配列番号6、及び配列番号16の配列のタンパク質を含む)も、末梢血混合物中のCD8
+ T細胞を選択的に刺激し、これらに形質導入することが可能であった。
図11に示す通り、単離されたばかりのヒトCD3
+ T細胞を、8
G/IL7
G-LVと共に、3日間にわたりインキュベートしたところ、培養物中のCD8
+ T細胞サブセットが、CD71の発現を上方調節しただけではなく、また、この細胞集団だけが、レポータートランス遺伝子であるGFP(
図12)、又は治療用トランス遺伝子であるCAR19(
図13)を効率的に発現した。加えて、親であるIL7を欠損させるCD8ターゲティングLV(8
G-LV)と比較して、8
G/IL7
G-LVは、CD8
+ T細胞への形質導入についての特異性を損なわずに、標的細胞を活性化させ、トランス遺伝子を送達するのに、より効果的であった。
【0330】
(実施例4)
CD8ターゲティングNiV-Gの、IL7を提示するNiV-Gに対する最適の比の同定
オフ標的効果を最大限に低減しながら、より多くの標的細胞にヒットし、力価を改善し、他とはっきり異なる細胞集団の選択的活性化及びこれらへの形質導入についての粒子の特異性を増強するために、トランスフェクションプロトコールを、ベクターの作製のために更に最適化し、パッケージング細胞内で維持されるNiV-Gtargeting domain(又はMV-Htargeting domain)及びNiV-Gfunctional domain(MV-Hfunctional domain)をコードするプラスミドの量を注意深く決定する。
【0331】
G8/GIL7-LVを作製するために、実施例3で記載した通り、4.7μgのpCG-FcΔ22と併せた、総量0.9μgのpCG-Gmutプラスミド、14.4μgのHIV-1パッケージングプラスミドであるpCMVΔR8.9、及び15.1μgのpSEWを、1つのT175フラスコ内の、HEK293T細胞のトランスフェクションのために使用した。この間、プラスミドであるpCG-Gmut-CD8scFvと、pCG-Gmut-IL7とを、20:1、10:1、5:1、1:1、又は1:5の異なる比で混合した。8G/IL7G-LVを含有するそれぞれの細胞上清を、CD8+ Molt細胞又はCD8+ A301細胞の形質導入のために使用し、形質導入の48時間後、GFP+細胞の百分率を、FACSにより測定して、力価を計算する。加えて、8G/IL7G-LVを、単離されたばかりのCD3+ T細胞の形質導入のために使用し、次いで、CD8+細胞内及びCD8-細胞内の、CD71及びGFPの発現を決定する。最良の比は、標的集団内で、高力価、CD71及びGFPの高発現を与え、非標的集団内で最低の発現を与える比として同定する。
【0332】
(実施例5)
IL7を提示するターゲティングVLP及びターゲティングLVにより形質導入された休眠T細胞の特徴づけ
T細胞コンパートメントは、高度に不均質であり、T細胞サブセットは、表現型的かつ機能的に、異なる。がんのT細胞療法に関する限りにおいて、低分化細胞は、通例、in vivoにおけるより良好な抗腫瘍効果と相関する。したがって、本発明に従うベクター粒子により活性化するか又は修飾されるT細胞サブセットを同定することは重要である。8G/IL7G-LV-CARを例にとると、形質導入された休眠T細胞の表現型を、形質導入された前刺激T細胞(最も広く使用される、CD3/CD28の刺激プロトコールによる)と比較して特徴づけるべきである。略述すると、休眠CD3+ T細胞又は前刺激CD3+ T細胞への形質導入の3日後、CD11a、CD11b、CD25、CD27、CD28、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD69、CD71、CD95、CD127、及びCCR7を含む、複数のT細胞マーカーの発現についてモニタリングする。これらの分子は、過去において、CD45RA+CD45RO-CD62LhighCD95-CD27highCCR7highナイーブT細胞(TN)、CD45RA+CD45RO-CD62LhighCD95+CD27highCCR7highステムセルメモリーT細胞(TSCM)、CD45RA-CD45ROhighCD62L+CD95+CD27+セントラルメモリーT細胞(TCM)、CD45RA-/+CD45ROhighCD62L-CD95+CD27-/+CCR7-エフェクターメモリーT細胞(TEM)、及びCD45RA-/+CD45RO+CD62L-CD95highCD27-CD28-CCR7-エフェクターT細胞(TE)を分化させるのに使用されてきたので選んだ。CAR+ T細胞の表現型は、フローサイトメトリーにより解析する。
【0333】
加えて、あらかじめ分取されたCD4+ T細胞サブセット(TSCM、TCM、TEM、及びTE)を、4H/IL7H-VLPと共にインキュベートして、例えば、T細胞活性化のための本発明の、従来型のTCR刺激を上回る利点を裏付ける。略述すると、4H/IL7H-VLPを伴うインキュベーション又はCD3/28抗体による刺激の3日後、上記に指し示したT細胞サブセットを、表現型の変動及び活性化レベルについて解析する。IL7を提示するT細胞ターゲティングベクター粒子は、低分化T細胞を活性化させ、これらに形質導入することが予測される。
【0334】
(実施例6)
ex vivoにおいて作製されるCART細胞の機能を増強し、CART細胞の作製手順を簡略化する
養子T細胞免疫療法は、多様な種類の疾患を処置するために、臨床で有効なレジメであることが裏付けられている。しかし、その広範な適用は、いくつかの問題により制限されている。一方で、CAR操作T細胞又はTCR操作T細胞の作製は、in vitroにおける刺激、長時間にわたる拡大、並びに細胞の単離及び精製のために、極めて高価であり、かつ、労働集約的である。他方で、in vitroにおいて拡大されたエフェクターT細胞は、in vivoにおいて存続できず、持続的な抗腫瘍効果を呈することができないことが多い。本発明は、細胞の刺激と、遺伝子の導入とを、単一の工程で組み合わせ、休眠T細胞への形質導入を可能とすることにより、これらの難題に対する潜在的な解決策を提示する。本発明を使用して、T細胞の作製工程を、著明に簡略化し、これにより、T細胞の製造費用を低減することができる。更に、従来作製された細胞と比較して、本発明により作製されるCAR/TCR操作T細胞は、実施例5で裏付けた通り、低分化細胞を効率的に操作する潜在的可能性のために、in vivoにおいてより強力でありうる。
【0335】
これらの特徴を裏付けるために、単離されたばかりのヒトPBMC又はヒトCD8+ T細胞に、例えば、8G/IL7G-LV-CAR又は対照としてのVSV-LV-CARを形質導入する。一方、従来型のCAR T細胞も、最も広範に使用されるプロトコールに従い、並行して調製する。略述すると、同じドナーから単離されたヒトPBMC又はCD8+ T細胞を、CD3/CD28抗体及びIL2で刺激する。次いで、細胞に、8G/IL7G-LV-CAR又はVSV-LV-CARを形質導入するのに続き、IL2の存在下で、10日間にわたる拡大を行う。休眠T細胞へのベクターの形質導入の2~3日後、又は刺激されたT細胞への形質導入の12日後、これらの細胞を、in vitroにおいて、標的腫瘍細胞と共に共培養するか、又は腫瘍を保有するヒト化マウスに注入した。その後、in vitroにおける腫瘍細胞の溶解及びin vivoにおける腫瘍の寛解、動物の生存、腫瘍反応性のT細胞の存続、及び増殖について評価する。
【0336】
(実施例7)
in vivo様の条件下における、IL7を提示するターゲティング粒子による選択的活性化及び形質導入
次の段階では、ウイルス粒子を使用して、in vivo状況において、異なる細胞をターゲティングし、これらを機能的に修飾する実行可能性について探索する。したがって、新鮮なヒト末梢血への、ウイルス粒子、例えば、G8/GIL7-LVの形質導入を実施する。これは、in vivoにおいて、ウイルス粒子が遭遇する障害である、活性のヒト補体系の存在下における、CD8+ T細胞集団の活性化及びこれらへの遺伝子導入のターゲティングについての査定を可能とする。
【0337】
略述すると、新鮮な末梢血を、8G/IL7G-LV-GFP、又は他の対照ベクター(VSV-LV、8H/IL7H-LV、8G-LV、又はVSV/IL7G-LV)と共に、6~8時間にわたりインキュベートする。その後、総PBMCを、血液から単離し、刺激用試薬を添加せずに、T細胞培養培地中で、更に培養する。3~4日後、培養物中のCD8+細胞及びCD8-細胞を、CD71及びGFPの発現について査定する。安定的な遺伝子導入について確認するために、細胞の小画分を、CD3/CD28抗体及びIL2を補充した培養培地へと、さらなる3日間にわたり導入してから、GFP+細胞の百分率について解析する。
【0338】
(実施例8)
IL7を提示するターゲティング粒子は、ヒト化マウスモデルにおいて、休眠T細胞を選択的に活性化させ、これらに形質導入する
本発明に従う粒子は、in vivoにおいて、局所適用又は全身適用して、細胞型特異的な活性化又は修飾を可能としうることを裏付けるために、これらの粒子を、健常ドナーに由来するヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を生着させたマウスに適用する。このマウスモデルでは、多重系列のヒト造血細胞を作出することができ、これらの細胞は、マウス宿主に許容される。
【0339】
ここでは、G8/GIL7偽型化粒子の、ヒトCD8+ T細胞の活性化及び修飾への適用を例に取る。略述すると、ヒトCD3+ T細胞のうちの約10%を検出することにより、ヒト免疫系の確立に成功したことを確認した後で、G8/GIL7偽型化粒子を、静脈内注射(iv)を介して全身適用するか、又は脾臓内注射若しくは胸腺内注射を介して局所適用する。G8/GIL7-VLPを注射して、in vivoにおける、ヒトCD8+ T細胞の選択的活性化の実行可能性について評価する。この実験状況下、VLP注射後の異なる時点において、活性化レベル/持続期間及びCD8+ T細胞の増殖について解析する。G8/GIL7-LV-GFPを注射して、in vivoにおける遺伝子送達の機能について評価する。この実験状況下、LV注射後の異なる時点において、GFPの発現、形質導入された細胞の表現型、並びにそれらの増殖及び存続について解析する。G8/GIL7-LV-CARを注射して、治療用遺伝子の送達及びin vivoにおけるCAR TT細胞の作出について評価する。この実験状況下、LV注射後の異なる時点において、CARの発現、形質導入された細胞の表現型、標的腫瘍細胞/抗原の存在/非存在下における、形質導入された細胞の増殖及び存続、局所/全身における腫瘍の消失について解析する。
【0340】
(実施例9)
アカゲザルCD4+ T細胞の選択的活性化
非ヒト霊長動物(NHP)のT細胞は、ヒトT細胞と表現型的に類似することから、ヒトの免疫及び免疫療法についての最良の動物モデルとなる。T細胞療法に関する限りにおいて、NHPモデルは効果、投与量、適用経路、及び潜在的な医薬の安全性の予測において、より信頼できるものであり得るであろう。したがって、NHPにおいて、他とはっきり異なる細胞型を特異的に改変するか、又はこの細胞型において、機能的な変化を誘導するツールが強く所望される。
【0341】
ここでは、4H/IL7H-SIVベクター及びアカゲザルへのその適用について、例として詳細に記載する。まず、アカゲザルCD4特異的DARPin57.2(CD4D57.2)を、Hmutタンパク質(H-CD4D57.2)上で提示されるターゲティングドメインとして使用し、アカゲザル反応性のIL7を、Hmut(H-rmIL7)上で提示される機能的ドメインとして使用する。次いで、例えば、実施例4で比を決定した、上記2つのHタンパク質を使用して、サル免疫不全ウイルスmac 251(SIVmac251)由来のLVを偽型化する。P27 ELISA/Nano-sightにより、ベクターの収率及び力価を決定し、かつ、CD4+サル細胞への形質導入を決定した後で、単離されたばかりのサルCD3+ T細胞に、GFP又はCARを送達する4H/IL7H-SIVを形質導入する。次いで、CD4- T細胞と対比したCD4+ T細胞における、活性化マーカー及びトランス遺伝子の発現を、上記で記載した通りに決定した。次に、in vivoにおける適用の可能性を、NHPモデルにおいて評価する。この目的で、単一用量のベクターを、登録された動物(例えば、アカゲザル)の各々の、2つの腋窩リンパ節へと、ゆっくりと注射する。注射の1週間後、血液試料を回収し、注射されたリンパ節2例中1例を、手術により摘出し、単一の細胞懸濁液へと解離させた。in vivoにおいて形質導入されたT細胞の表現型、特異的な活性化、トランス遺伝子の発現レベル、及び/又は機能(治療用トランス遺伝子を送達する場合の)について解析するように、詳細な解析を実施する。更に、第2のリンパ節に、第2の用量の同じベクターを投与し、in vivoにおいて形質導入されたT細胞の増殖、存続、及び/又は機能(治療用トランス遺伝子を送達する場合の)について評価するように、登録された動物を6ヵ月間モニタリングする。
【0342】
(実施例10)
イムノコンピテントのマウスモデルにおいて、抗原特異的T細胞を、選択的に活性化及び拡大する
ターゲティングサイトカインが、疾患部位において機能しながら、全身毒性を回避する潜在的可能性を、イムノコンピテントのマウス黒色腫腫瘍モデルにおいてうまく査定することができる。IL12を提示するマウスCD8ターゲティングVLP(m8G/mIL12G-VLP)を例に取る。かつての研究は、IL12の適用が、導入された腫瘍反応性T細胞の許容性及び抗腫瘍性の有効性を増強するが、全身における毒性が大きいことを示した。この欠点を克服するために、本発明者らの研究では、m8G/mIL12G-VLPを使用して、IL12の機能が、腫瘍部位において生じるように制御する。野生型のC57/Bl6マウスに、B16/OVA黒色腫細胞を移植し、腫瘍を確立させた後で、マウスを、放射線照射で処置し、C57/Bl6 OT-Iトランスジェニックマウスから単離されたT細胞を導入する。OT-IT細胞を移植した後で、i.v.注射を介して、m8G/mIL12G-VLP、又はマウスIL12、又は対照としてのPBSで、マウスを処置する。腫瘍容量、in vivoにおける存続、及びOT-IT細胞の機能、及びマウスの生存について解析する。
【0343】
(実施例11)
in vivoにおける、ヒトCD4+ T細胞の活性化のターゲティング
ヒトCD4
+ T細胞の活性化について、in vivoの効能MV-4
H/IL7
H-LVを査定するために、NOD/SCID gc-/-(NSG)マウスに、CD3
+臍帯血T細胞を生着させた。血中のヒトT細胞の再構成は、毎週決定した。20%(hCD3
+細胞/総hCD45
+細胞+mCD45
+細胞の%)のhT細胞を検出したら、マウスに、10
6IUのMV-4
H/IL7
H-LV又はMV-4
H-LVをIV注射した。ベクターを注射した2週間後、マウスを屠殺し、脾臓細胞及び末梢血単核細胞を単離した。注目すべきことに、MV-4
H/IL7
H-LV(25%のCD4+ CD71+細胞)の場合には、MV-4
H-LV(8%のCD4+ CD71+細胞)との比較での、ヒトCD4+ T細胞についてのCD71後期活性化マーカーにより明らかにされるIL-7の強力な特異的活性化が見出された(
図14)。更に、CD8+ T細胞を表すCD4- T細胞は、いずれのターゲティングベクターについても、CD71の同一な発現を示す。後者は、IL-7生存シグナル伝達が、標的CD4+ T細胞だけを活性化させ、CD8+細胞は活性化させないことを強調する。
【0344】
結論として述べると、in vitroにおいて、MV-4H/IL7H-LVにより達成された、標的細胞の特異的活性化に続き、in vivoのヒト血液系マウスモデルにおいても、MV-4H/IL7H-LVによるCD4+ T細胞の特異的活性化が確認された。
【配列表】