(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】作業ブース設置構造
(51)【国際特許分類】
E04H 1/12 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
E04H1/12 302C
E04H1/12 B
(21)【出願番号】P 2021151565
(22)【出願日】2021-09-16
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福谷 優作
(72)【発明者】
【氏名】高桑 健一
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-022547(JP,A)
【文献】特開2014-037671(JP,A)
【文献】特開平09-310515(JP,A)
【文献】特開2020-200691(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0316346(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/12
E04B 1/62-1/99
E04B 2/00
E04B 2/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部に天井機器が設けられている建物内の室の一部に平面視で矩形状の作業ブースが設置されている設置構造であって、
上記室は、上記作業ブースと、該作業ブース以外の共用空間とに区画され、
作業ブースは、室の床部に起立する複数枚の仕切壁材が連結されることにより平面視で矩形状に形成され、
各仕切壁材は室の床部に載置又は固定され、各仕切壁材の側端部は、隣接する他の仕切壁材の側端部又は室の壁部に固定されており、
仕切壁材は、室の床部から天井部に至る高さの2枚の第1仕切壁材と、上端部又は上側に、作業ブース内外を連通する連通口が設けられた2枚の第2仕切壁材とを備え、
上記作業ブースの床部の一辺は600~2000mmであり、
上記2枚の第2仕切壁材は、互いに隣り合うように平面視でL字状に配置され、
作業ブースは、上記2枚の第2仕切壁材が上記共用空間に面していて、該共用空間及び作業ブース内の一方の天井部に位置する上記天井機器の動作が第2仕切壁材の連通口を通して、共用空間及び作業ブース内の他方に及ぶように設置されており、
連通口を有する第2仕切壁材に対向する第1仕切壁材の作業ブース内面の少なくとも上部に吸音部が設けられていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項2】
請求項1の作業ブース設置構造において、
吸音部の面積は、少なくとも、作業ブースの内部空間の体積と、吸音部の連通口に対する高さ位置とに応じて設定されていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項3】
請求項1又は2の作業ブース設置構造において、
吸音部は、第1仕切壁材の上端から天井高さの半分の高さ位置までの範囲に設けられていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
第2仕切壁材において連通口下側の作業ブース内面にも吸音部が設けられていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
第2仕切壁材には、作業ブース内を共用空間と接続する出入り口が設けられていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項6】
請求項5の作業ブース設置構造において、
作業ブース内を共用空間と接続する出入り口を開閉する扉が設けられ、該扉の作業ブース内面側に吸音部が設けられていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
第2仕切壁材の上端部には、枠内に開口を有する開口欄間が設けられており、該開口欄間の開口で連通口が構成されていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
第2仕切壁材は高さが室の天井部よりも低く、該第2仕切壁材の上端部と室の天井部との間の空間で連通口が構成されていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
吸音部は、該吸音部が設けられるベース材の作業ブース内面に着脱可能に固定される複数枚の吸音パネルであることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
吸音部は、該吸音部が設けられるベース材の作業ブース内面に一体的に埋め込まれた吸音体であることを特徴とする作業ブース設置構造。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1つの作業ブース設置構造において、
少なくとも第1仕切壁材は、室の天井部に固定されていることを特徴とする作業ブース設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内の室に設置される作業ブースの設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、職場への通勤の頻度を減らす等の狙いから、職場以外の場所でテレワークを行う環境が求められている。自宅でのテレワークは、そのテレワークの環境が整い難く、加えて、オフィス等の作業環境として、オンライン会議の機会が増え、自席で会議することが増えたため、建物の広いスペースの室内を区画して、その一部に複数の作業ブースを仕切壁材により設置し、この作業ブースを利用者のテレワークやオフィス等での個人ワークのために用いることが注目されている。
【0003】
このように、大空間の室内に仕切壁材で作業ブースを区画して、その内部に1人や2人の少人数の打合せやテレワーク等の用途のスペースを設ける場合、仕切壁材により天井部まで囲ってしまうと、一般的に作業ブース内の天井部に、煙やガス等の感知器、スプリンクラー、換気装置等の高価な天井機器を作業ブース個別に設置する必要が生じる場合があり、天井部に設置する設備や天井構造が大掛かりとなって、作業ブースの設置効率は悪くなる。
【0004】
一般に、広いスペースの室内では、法令上、予めその天井部に換気設備や、スプリンクラー、火災報知器等の防災設備が必要数だけ設置されており、作業ブースの設置効率のためには、それらをそのまま利用することが望ましい。
【0005】
このように、室内の天井部に既に設置されている天井機器を利用して、それらの増設工事を不要にしたり、設置数を減らしたりするためには、室内を作業ブースで区画する際、各作業ブースにおいて共用空間の天井機器の作動に障害が生じないようにする必要がある。
【0006】
ところで、室内に会議室、作業エリア、作業ブース等を設置するようにした、この種の技術として、従来、例えば特許文献1には、4つの壁で空間内に個室を仕切り、フロント壁及びバック壁の上端に開放式の欄間部を設け、サイド壁の上端に個室の内部に張り出す吸音構造の庇状部材が設けられた間仕切り式の半開放個室装置が開示されている。
【0007】
また、特許文献2に示されるものでは、間仕切りを介して互いに隣接する2つの部屋において、間仕切りの上部に開口欄間を形成し、間仕切りの上側の天井面に吸音材を設けるだけでなく、開口欄間に対向する壁にも吸音材を設けて、隣の部屋の会話等の音が部屋に入るのを抑えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許3940025号公報
【文献】特許5325488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そして、このように建物の室内に作業ブースを設置するに当たり、天井部に共用の天井機器が設置されかつ床部が通路とされる共用空間と、作業ブースとに室内を分け、作業ブースにおいて、共用空間(通路)側の仕切壁材の上部に、開口を有する開口欄間を設け、この開口欄間の開口によって作業ブース内を外部の天井機器に連通させるレイアウトの採用が考えられる。
【0010】
その場合、作業ブース外の共用空間や別の作業ブース等で発生する音が開口を通って作業ブース内に侵入し、隣のブースの音や声が聞こえてしまう騒音の問題が発生することとなる。明瞭に識別できる音声が作業ブース内に侵入すると、作業ブース内での作業に集中できなくなるという大きな問題がある。また、複数の作業ブースを設置する場合は、他の作業ブースの音声が、共用空間を通じて別の作業ブースに拡散し、やはり作業・打合せに集中できないという問題が発生する。
【0011】
こうした騒音の問題に対処するために、ブースの内面に吸音材を設けてもよいが、狭いスペースのブースでは吸音材の位置が不適切であると、騒音を有効に解決することが困難になる。
【0012】
尚、特許文献1のように、仕切壁の上端に張り出し構造の庇状部材を設ける場合、特殊の構造の庇状部材が必要となり、その張り出しによってブース内の空間の容積も小さくなる上に、天井に設置された天井機器が例えばスプリンクラーの場合、万が一火事が発生した際、張り出し構造の庇状部材が、散水障害の原因となり、問題である。
【0013】
また、特許文献2の吸音構造にすると、天井部にスプリンクラー等の天井機器が設置されている場合においても、マスキング音発生用のスピーカーが必要であり、さらにマスキング音を天井部の下側に透過させる構造を得るために、天井部も当該天井機器を避けるような区分けをして、吸音材を配置した音吸収性天井材と、配置されていない音透過性天井材とを併せて施工する必要があり、これらにより、複雑な設計が必要となるだけでなく、室の天井部の大規模な工事が必要となるのは避けられない。
【0014】
そこで、本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記のように共用空間と作業ブースとに室内を分けるレイアウトにおいて、作業ブースと共用空間とを区別せずに天井設備を計画できるようにすることにある。つまり、作業ブースを設置する広い室内の共用天井部の構造はそのままの状態に維持しつつ、作業ブース内の構造のみで、ブース外のブース内への騒音が侵入するのを抑制して、作業ブース内の快適な音環境を形成しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、この発明では、建物内の室を作業ブースと残りの共用空間とに分ける場合に、平面視で矩形状の作業ブースを構成する複数枚の仕切壁材のうち、互いに隣接する2枚の壁材の上部にそれぞれ共用空間と連通する開口を形成し、残り2枚の壁材のブース内面において少なくとも上部に、例えばブース内空間の体積に対して算定される所定量以上の面積の吸音部を設けるようにした。
【0016】
具体的には、第1の発明は、天井部に天井機器が設けられている建物内の室の一部に平面視で矩形状の作業ブースが設置されている設置構造が対象である。
【0017】
上記室は、上記作業ブースと、該作業ブース以外の共用空間とに区画されている。また、作業ブースは、室の床部に起立する複数枚の仕切壁材が連結されることにより平面視で矩形状に形成され、各仕切壁材は室の床部に載置又は固定され、かつ各仕切壁材の側端部は、隣接する他の仕切壁材の側端部又は室の壁部に固定されている。そして、仕切壁材は、室の床部から天井部に至る高さの2枚の第1仕切壁材と、上端部又は上側に、作業ブース内外を連通する連通口が設けられた2枚の第2仕切壁材とを備え、上記作業ブースの床部の一辺は600~2000mmとされている。上記2枚の第2仕切壁材は、互いに隣り合うように平面視でL字状に配置され、作業ブースは、上記2枚の第2仕切壁材が上記共用空間に面していて、該共用空間及び作業ブース内の一方の天井部に位置する天井機器の動作が第2仕切壁材の連通口を通して、共用空間及び作業ブース内の他方に及ぶように設置されており、連通口を有する第2仕切壁材に対向する第1仕切壁材の作業ブース内面の少なくとも上部に吸音部が設けられていることを特徴とする。
【0018】
この第1の発明では、建物内の室の天井部に天井機器が既に施工済みとして設置され、その室が平面視で矩形状の作業ブースと、それ以外の共用空間とに区画されている。作業ブースの仕切壁材は、2枚の第1仕切壁材と2枚の第2仕切壁材とを有し、第1仕切壁材は、室内の床部から天井部に至る高さであるが、第2仕切壁材は、上端部又は上側に作業ブース内外を連通する連通口が設けられている。そして、作業ブースは、連通口が設けられた上記2枚の第2仕切壁材が共用空間に面するように設置されているため、作業ブース内は、第2仕切壁材の連通口を介して共用空間に連通し、共用空間及び作業ブース内の一方の天井部に位置する天井機器の作動時に、その動作が連通口を通して共用空間及び作業ブース内の他方に及ぶようになり、例えば共用空間の天井機器がスプリンクラーであれば、スプリンクラーから噴射された水が連通口を介して作業ブース内に降り注ぎ、スプリンクラーの作業ブース内に対する作動が阻害されることはなくなる。また、天井機器が換気装置であれば、共用空間又は作業ブース内の汚染空気が連通口を通じて換気装置により換気される。
【0019】
また、第2仕切壁材は共用空間に面しているので、共用空間の音が第2仕切壁材の連通口を介して作業ブース内に侵入する騒音が生じようとする。しかし、第2仕切壁材は第1仕切壁材と対向し、第1仕切壁材の少なくとも上部に吸音部が設けられているので、共用空間から連通口を介して作業ブース内に侵入した音は、連通口に対向する位置にある当該吸音部で吸収されて小さくなり、それ以後は作業ブース内に伝わるのが抑制される。つまり、連通口を通じて侵入した騒音(共用空間から侵入する音声)が、適切な位置にある吸音材に吸音されることによって、作業ブース内で立位又は座位で作業する作業者に伝達される音声の明瞭度が下がり、音声自体は聞こえるものの、内容までは聞き取り難くなり、それに気が散らず、作業の邪魔になり難いことが期待される。よって、共用空間に連通する連通口があったとしても、作業ブースの内部を音が聞こえても集中できる程度の静かで快適な音環境に保つことができる。
【0020】
さらに、作業ブースの2枚の第2仕切壁材に連通口を形成し、2枚の第1仕切壁材の上部に吸音部を設けるだけで、上記のような音環境を形成することができる。共用空間や作業ブースの天井部は、作業ブースを設置する前の元の室内の天井部をそのままの状態に維持すればよく、天井部の構造を変更する大掛かりな大規模工事は全く不要となる。このことで、作業ブースを低いコストで容易に設置することができ、その分、設置効率が上昇する。
【0021】
また、作業ブースの床部の一辺が600~2000mmであるので、その作業ブースは床部の面積が小さいものとなり、打合せやテレワーク等の用途に好適で、内部の音環境の好ましい小スペースの作業ブースが得られる。
【0022】
第2の発明は、第1の発明の作業ブース設置構造において、吸音部の面積は、少なくとも、作業ブースの内部空間の体積と、吸音部の連通口に対する高さ位置とに応じて設定されていることを特徴とする。このことで、好ましい面積を持った吸音部が得られる。
【0023】
第3の発明は、第1又は第2の発明の作業ブース設置構造において、吸音部は、第1仕切壁材の上端から天井高さの半分の高さ位置までの範囲に設けられていることを特徴とする。こうして第1仕切壁材の天井高さの半分の高さ位置の上側に吸音材を集中的に配置することで、作業ブース内で座位で集中作業をする作業者に効率的に騒音対策が可能となる。
【0024】
第4の発明は、第1~第3の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、第2仕切壁材において連通口下側の作業ブース内面にも吸音部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
この第4の発明では、連通口下側の第2仕切壁材内面にも吸音部が設けられ、この吸音部は第1仕切壁材に対向した位置にあるので、仮に、連通口から作業ブース内に侵入した音が全て第1仕切壁材の上部の吸音部で吸収されずに一部が反射されたとしても、その反射した侵入音は、第1仕切壁材に対向する連通口下側の吸音部で吸収される。このことで、作業ブースの内部に侵入する音がさらに小さくなり、ブース内をより一層静かで作業に集中できる快適な音環境に保つことができる。
【0026】
第5の発明は、第1~第4の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、第2仕切壁材には、作業ブース内を共用空間と接続する出入り口が設けられていることを特徴とする。
【0027】
この第5の発明では、第2仕切壁材に出入り口が設けられることで、出入り口を、作業ブース内の音環境に悪影響を及ぼすことの小さい好ましい位置に設けることができる。
【0028】
第6の発明は、上記第5の発明の作業ブース設置構造において、作業ブース内を共用空間と接続する出入り口を開閉する扉が設けられ、該扉の作業ブース内面側に吸音部が設けられていることを特徴とする。この扉の内面側の吸音部により、作業ブースの内部に侵入する音がさらに小さくなり、ブース内をより一層静かで快適な音環境に保つことができる。
【0029】
第7の発明は、第1~第6の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、第2仕切壁材の上端部には、枠内に開口を有する開口欄間が設けられており、該開口欄間の開口で連通口が構成されていることを特徴とする。
【0030】
この第7の発明では、第2仕切壁材の上端部に開口欄間が設けられていることで、第2仕切壁材の高さを第1仕切壁材に合わせることができ、仕切壁材の高さの揃った作業ブースが得られる。
【0031】
第8の発明は、第1~第6の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、第2仕切壁材は高さが室の天井部よりも低く、該第2仕切壁材の上端部と室の天井部との間の空間で連通口が構成されていることを特徴とする。
【0032】
この第8の発明では、第2仕切壁材を、第1仕切壁材よりも低いいわゆるローパーティションにするだけで、作業ブース用の連通口を形成することができ、その連通口の形成が容易になる。
【0033】
第9の発明は、第1~第8の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、吸音部は、該吸音部が設けられるベース材の作業ブース内面に着脱可能に固定される複数枚の吸音パネルであることを特徴とする。吸音部が設けられるベース材とは、仕切壁材や扉を意味する。
【0034】
この第9の発明では、吸音部がベース材の作業ブース内面に着脱可能な吸音パネルであるので、その吸音パネルの数や位置を変更することで、吸音部の位置や面積等を容易に調整することができる。
【0035】
第10の発明は、第1~第8の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、吸音部は、該吸音部が設けられるベース材の作業ブース内面に一体的に埋め込まれた吸音体であることを特徴とする。ベース材は、仕切壁材や扉である。
【0036】
この第10の発明では、予めベース材に一体的に埋め込まれた吸音体で吸音部が構成されているので、ベース材によって作業ブースを設置するだけで、自動的にその内部に吸音構造を形成できることとなり、設置作業が容易になる。
【0037】
第11の発明は、第1~第10の発明のいずれか1つの作業ブース設置構造において、少なくとも第1仕切壁材は、室の天井部に固定されていることを特徴とする。
【0038】
この第11の発明では、作業ブースの少なくとも第1仕切壁材が室の天井部に固定されているので、室内に作業ブースを安定して設置することができる。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によると、天井部に天井機器を備えた室の内部に平面視で矩形状の作業ブースを、それ以外の共用空間と区画して設置するレイアウトに当たり、仕切壁材は、天井部に至る高さの2枚の第1仕切壁材と、上部に作業ブース内空間及び共用空間を連通する連通口を有する2枚の第2仕切壁材とし、2枚の第2仕切壁材は平面視でL字状に配置し、連通口を有する第2仕切壁材に対向する第1仕切壁材の作業ブース内面の少なくとも上部に吸音部を設けた。このことにより、作業ブースを設置する室内の天井部の構造はそのままの状態に維持して大規模工事を不要にしつつ、作業ブース内の構造のみで、ブース外の共用空間の騒音(音声)がブース内へ侵入するのを抑制し、作業ブース内での音声の明瞭度を下げる(音声の内容を作業者が聞き取り難くなる)ことにより作業者にとって作業ブース内の快適な音環境を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1において室内に設置された作業ブースを模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、作業ブースを仕切壁材が展開された状態で示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0042】
(実施形態1)
図1において、Rは建物内の例えば数人から数十人が机やいすを並べて業務を行える程度の広い室であり、その天井部Cの床部F(共に
図2に示す)からの高さは例えば2000mm~3000mm程度(図示例では2850mm)である。この室Rの天井部Cには、防災設備や換気設備として、予め複数の天井機器A,A,…が所定の間隔で設置されている。天井機器Aは、法令上に基づいて必要数設置されるもので、例えば煙やガス等の感知器、スプリンクラー、換気装置等であり、
図1ではスプリンクラーを例示している。
【0043】
このように天井部Cに防災設備又は換気設備としての天井機器A,A,…が設置されている室Rにおいて、図示しないが、その一部に平面視で例えば矩形状の作業エリアが区画され、この作業エリアの区画により、室Rは、当該作業エリアとそれ以外の共用エリアとに分けられている。図示しないが、共用エリアには、共同で使用する複数の机、椅子、テープルセット、ソファ等が配置されている。
【0044】
作業エリアは、その外側にあって床部Fから天井部Cまで至る遮音機能を有する仕切壁(図示せず)により共用エリアと仕切られており、作業エリアの内部には、
図1に示すように、例えば平面視で矩形状の6つの作業ブースB,B,…が区画されて設置されている。以下の説明では、6つの作業ブースB,B,…を第1~第6の作業ブースと番号付けし、
図1において第1~第6の作業ブースB,B,…の番号を丸数字で示している。
【0045】
6つの作業ブースB,B,…は、平面視が互いに同じ形状で床面積も互いに同じである。これらの作業ブースB,B,…は、例えば第1~第3の作業ブースB,B,…と、第4~第6の作業ブースB,B,…との3つずつに分けられ、3つずつの作業ブースB,B,…が直線に並んで互いに平行な2列となり、両列の作業ブースB,B,…間に間隔が空けられている。このことで、室Rに区画された作業エリア内は、上記2列で6つの作業ブースB,B,…と、その作業ブースB,B,…以外のスペースである共用空間Sとに区画され、共用空間Sは、作業ブースB,B,…の両列間のスペースと、各列の列方向両隣りのスペースとからなっており、その床部Fは通路として利用される。
【0046】
また、作業エリアの上記仕切壁には、ドアにより開閉される出入口(図示せず)が形成されており、作業ブースBを利用して作業をする作業者は、この出入口を経て作業エリア内の共用空間Sに共用エリアから出入りするようになっている。さらに、作業エリアの仕切壁の上部には、作業エリアの内部と共用エリアとを連通させる連通口(図示せず)が形成されている。
【0047】
尚、本発明では、室Rを作業エリアと共用エリアとに区画して、作業エリア内に作業ブースBを設置する構成は必要でなく、室Rの内部であれば作業ブースBを設置することができる。
【0048】
そして、
図1に示す例では、共用空間Sの天井部Cに、室Rの全体に既に設置されている上記天井機器A,A,…の一部が配置されている。天井機器A,A,…は、予め室Rの天井部Cに設置されているので、作業ブースB,B,…のレイアウトによっては、そのブースBの内部の天井部Cにも位置することも生じる。
【0049】
各作業ブースBは、その床部の一辺が600~2000mmの矩形状である。床部の一辺がこのような長さであると、作業ブースBは、その床部の面積は小さく、少人数での打合せやテレワーク等の用途に好適となる。図示例では作業ブースBは間口1500mm、奥行1500mmのものとしている。
【0050】
各作業ブースBは、室Rの床部Fに固定されて起立する4枚(複数枚)の仕切壁材1,1,2,2が連結されることにより平面視で矩形状に形成されている。各列の3つの作業ブースB,B,…において、隣接する作業ブースB,Bの隔壁となる仕切壁材1は同じ仕切壁材が共用されている。
【0051】
各仕切壁材1,2は縦長の細長い板状のもので(
図2参照)、例えば不燃材料であるスチールのパネル板材により形成されている。各仕切壁材1,2は下端部で室Rの床部Fに固定され(又は載置だけされていてもよい)、側端部は隣接する他の仕切壁材1,2の側端部に固定されている。作業ブースBが作業エリアの仕切壁近く又は室Rの壁際に設置される場合、その仕切壁又は室Rの壁部を利用してもよく、それに隣接する2枚の仕切壁材1,2は側端部で当該室Rの壁部に固定される。
【0052】
各作業ブースBの仕切壁材1,2は、2枚の第1仕切壁材1,1と2枚の第2仕切壁材2,2との4枚、又は3枚の第1仕切壁材1,1,…と1枚の第2仕切壁材2との4枚で構成されている。第1及び第2仕切壁材1,2は、いずれも室Rの床部Fから天井部Cに至る高さを有し、各仕切壁材1,2の上端部は天井部Cに固定されている。
【0053】
一般に、壁が天井部と床部とに強固に固定された構造は、間仕切り壁を有する構造物と見做されて、当該壁の表面等は不燃性が求められる。一方、室の床部のみや壁部のみに固定されたり、床部に載置されたりする壁は家具と見做され、その表面は不燃性ではなくて難燃性でもよいし、地域によっては、不燃・難燃に対する配慮が不要な設備であってもよい。
【0054】
この実施形態では、仕切壁材1,2が室Rの天井部Cに固定されて構造物と見做されるので、仕切壁材1,2としては不燃材料であるスチールが用いられている。尚、仕切壁材1,2は天井部Cに対し転倒防止の措置に必要な最低限の止付けでよい。このことで、天井部Cや天井部C裏側の補強工事は不要となる。
【0055】
こうして、各作業ブースBの4枚の仕切壁材1,2が室Rの天井部Cに固定されているので、室Rの内部に作業ブースB,B,…が安定して設置される。
【0056】
本発明では、各列の3つの作業ブースB,B,…のうち列の両端部に位置する第1、第3、第4及び第6の4つの作業ブースB,B,…の設置構造に特徴がある。4つの作業ブースB,B,…は、
図1で示すと、図の左右の各列の作業ブースB,B,…のうち上下両端部に位置するものである。これらの作業ブースB,B,…は、2枚の第1仕切壁材1,1と2枚の第2仕切壁材2,2との4枚で構成されている。
【0057】
図2は、上記各列の一端部(
図1では左列の下端部及び右列の上端部)に位置する第1及び第6の2つの作業ブースB,Bを4枚の仕切壁材1,1,2,2が展開された状態で示し、作業ブースB内から見たものである。尚、各列の他端部(
図1では左列の上端部及び右列の下端部)に位置する第3及び第4の作業ブースB,Bについても、図示しないが、上記各列の一端部の第1及び第6の作業ブースB,Bと同様であり、異なるのは、
図2で左右が逆になるだけである。
【0058】
第1及び第6の作業ブースB,Bに基づき説明を続けると、上記2枚の第2仕切壁材2,2は作業ブースB外の上記共用空間Sに面している。この第2仕切壁材2の面する共用空間Sは、作業ブースB,B,…の両列間のスペースだけでなく、各列の列方向両隣りのスペース(
図1の上下両側)も相当する。これら第2仕切壁材2,2は、2枚の第1仕切壁材1,1と同様に、上端部で天井部Cに固定されているが、その上端部に、作業ブースBの内部空間を共用空間Sと連通する連通口4が設けられている。具体的には、各第2仕切壁材2の上端部には、その一部として矩形の枠5a内に開口5bを有する開口欄間5が一体に設けられており、その開口欄間5の開口5bで上記連通口4が構成されている。一般に、欄間は、枠内に開口が形成され、その開口がアクリルやガラス等の仕切り板、ルーバー等で被覆されたものであるが、本発明では、仕切り板やルーバー等がなく、開口がそのまま開いているものが用いられる。開口欄間5の開口5b(連通口4)の高さは500~700mmが望ましく、その左右幅は第2仕切壁材2の幅全体に近いことが望ましく、天井機器Aの作動により求められる防災、換気の観点での機能を果たせばよい。尚、作業エリアの仕切壁の上部に形成される連通口も、上記第2仕切壁材2上部の連通口4と同様の機能を持つものとしている。
【0059】
上記2枚の第1仕切壁材1,1は互いに隣り合うように配置され、平面視ではL字状に配置されている。また、2枚の第2仕切壁材2,2も互いに隣り合うように配置され、平面視ではL字状に配置されている。すなわち、作業ブースBにおいて、一方の第1仕切壁材1は一方の第2仕切壁材2に対向し、他方の第1仕切壁材1は他方の第2仕切壁材2に対向するように配置されている。
【0060】
上記2枚の第2仕切壁材2,2の一方は、作業ブースB,B,…の両列間のスペースの共用空間Sに面し、また他方は作業ブースB,B,…の各列の隣のスペースの共用空間Sに面するようにそれぞれ配置されている。このことで、第1及び第6の作業ブースB,Bの各々は、2枚の第2仕切壁材2,2が共に共用空間Sに面するように設置されており、その2つの連通口4,4(開口欄間5の開口5b)が共用空間Sの天井部Cの天井機器A,A,…に臨んでいる構造とされ、該共用空間Sの天井機器A,A,…の動作が第2仕切壁材2,2の連通口4,4を通して作業ブースB内に及ぶようになっている。すなわち、天井機器Aがスプリンクラーの場合、そのスプリンクラーからの水が連通口4,4を通して作業ブースB内に放出され、換気装置の場合、その換気装置からの空気が連通口4,4を通して作業ブースB内に流入し、天井機器Aが感知器の場合には、作業ブースB内の煙やガス等が連通口4を通して感知器に届くようになっている。
【0061】
また、図示しないが、天井機器Aが各作業ブースB内の天井部Cにある場合でも、その天井機器Aの動作が第2仕切壁材2,2の連通口4,4を通して作業ブースB外の共用空間Sに及ぶようになっている。すなわち、作業ブースBは、2枚の第2仕切壁材2,2が面している共用空間S及び作業ブースB内の一方の天井部Cに位置する天井機器Aの動作が、第2仕切壁材2,2の連通口4,4を通して、共用空間S及び作業ブースB内の他方に及ぶように設置されている。
【0062】
さらに、上記作業ブースB,B,…の両列間のスペースの共用空間Sに面する一方の第2仕切壁材2には、その作業ブースB内を共用空間Sと接続する出入り口15が設けられており、作業ブースBで作業する作業者は、この出入り口15を通って、共用空間Sから作業ブースB内に入り又は作業ブースB内から共用空間Sに出るようになっている。この出入り口15は出入り扉16によって開閉される。
【0063】
図1中、21は各作業ブースB内において出入り口15と反対側(作業ブースBの内奥側)に設置された机、22は椅子である。
【0064】
そして、作業エリアの上記仕切壁の上部に形成されている上記連通口と、各作業ブースBの第2仕切壁材2上部の連通口4とは互いに対向しないように配置されている。
【0065】
このように、上端部に連通口4を有する第2仕切壁材2,2にそれぞれ2枚の第1仕切壁材1,1が対向して配置されている。そして、この各第1仕切壁材1において、その作業ブースB内面の少なくとも上部に吸音部10が設けられている。吸音部10は、第1仕切壁材1の上端(室Rの天井部C)から下側へ例えば800mm以上の高さの範囲にかつ第1仕切壁材1の左右方向幅全体に亘って設けられている。この吸音部10の下端位置を下げることで、その面積を拡げることができる。
【0066】
具体的には、吸音部10は、並べられて配置される複数枚の吸音パネル11,11,…からなる。図示しないが、各吸音パネル11は、表面に吸音材が貼り付けられた矩形パネル状のもので、裏面側に磁気が作用するマグネット(磁石)が設けられており、そのマグネットの磁気によって、ベース材としてのスチール製の第1仕切壁材1の内面に着脱可能に固定される。尚、マグネットに代えて面ファスナーやフック、両面テープ等を用いてもよく、同様にして吸音パネル11を第1仕切壁材1(ベース材)の内面に着脱可能に固定できる。長期に作業ブースBとして使用する目的であれば、着脱可能にすることのメリットは期待できないものの、上記両面テープや接着施工でもよい。
【0067】
各吸音パネル11は、例えば300mm角、450mm角、600mm角の正方形のものである。
図2では、第1仕切壁材1の内面に450mm角の12枚の吸音パネル11,11,…が横方向に3枚、高さ方向に4列に並べられて固定されている。この吸音パネル11の枚数や配置は、第1仕切壁材1内面のスペースに応じて変更することができる。例えば300mm角の吸音パネル11は横方向に4枚~6枚、高さ方向に2~4列とし、450mm角の吸音パネル11は横方向に3~4枚、高さ方向に1~3列とし、600mm角の吸音パネル11は横方向に2枚~3枚、高さ方向に1~2列とすればよい。吸音パネル11としては、例えば450mm角の吸音パネル11として、大建工業株式会社製の商品名「オフトーンマグネットパネルN」を用いることが好適である。
【0068】
上記吸音部10の面積は、少なくとも、作業ブースBの内部空間の体積と、吸音部10の連通口4に対する高さ位置とに応じて設定されていることが望ましい。こうして作業ブースB内の空間の体積に対して算定される所定量以上の面積の吸音部10を設ける場合、例えば6.5m
3あたり、吸音部10は、500Hz帯域の残響室法吸音率が0.8以上かつ1kHz帯域以上の残響室法吸音率が0.9以上の吸音性能のある吸音パネル11を1.2~3.6m
2設置すればよい。また、設置するにあたって吸音部10の位置は、作業ブースB内での作業環境によるが、例えば、机21を設置し、椅子22に座る座位で作業する場合は、同じ面積の吸音パネル11を設置する場合は、連通口4の対向面が最も効果的である。例えば、連通口4の対向面である第1仕切壁材1上端の天井面から、少なくとも床部F上面から1mの高さ位置までが最も効果的な配置である。その次に効果的なのは、後述の実施形態2(
図3参照)や実施形態3(
図4参照)に示すように、第2仕切壁材2の連通口4の下側で床面から1mの高さ位置まで。さらにその次に効果的なのは、連通口4の対向面である第1仕切壁材1の床面より1mに至らない高さ、その次は第2仕切壁材2の床面より1mに至らない高さとなる。作業ブースBに出入り口15等の開口部を設ける場合は、当該開口部や開口部周辺に吸音部10を設けるのは難しいが、開口部を開閉する開閉部材(出入り扉16)をベース材としてそのブースB内側に吸音部10を設けることもできる。
【0069】
一方、各列の3つの作業ブースB,B,…のうち列の中間部に位置する第2及び第5の2つの作業ブースB,Bでは、3枚の第1仕切壁材1,1,…と1枚の第2仕切壁材2との4枚で構成されている。その1枚の第2仕切壁材2だけが作業ブースB,B,…の両列間のスペースの共用空間Sに面しており、図示しないが、その第2仕切壁材2の上端部のみに開口欄間5が設けられ、その開口5bが連通口4として作業ブース内B2,B5を共用空間S(作業ブースB,B,…の両列間のスペース)に連通させている。
【0070】
また、この開口欄間5を持った第2仕切壁材2に対向し、作業ブースB,B,…の両列間のスペースの共用空間Sと反対側に位置する1枚の第1仕切壁材1には、その内面の上部に吸音部10(図示せず)が第1仕切壁材1に着脱可能に設けられ、この吸音部10は、上記と同様に複数の吸音パネル11,11,…からなっている。
【0071】
したがって、この実施形態においては、建物内の室Rが例えば2列に配置された6つの作業ブースB,B,…と、それ以外の共用空間Sとに区画されている。各列の端部に位置する第1、第3、第4及び第6の4つの作業ブースB,B,…は、例えば2枚の第1仕切壁材1,1と2枚の第2仕切壁材2,2とが連結されて平面視で矩形状に形成されたもので、その共用空間Sに面する2枚の第2仕切壁材2,2の各々の上端部に、作業ブースB内の空間と共用空間Sとを連通する連通口4(開口欄間5の開口5b)が設けられている。そのため、作業ブースB内は、この2枚の第2仕切壁材2,2の連通口4,4を介して共用空間Sに連通し、共用空間Sの天井部Cに位置する上記天井機器A,A,…の作動時にその作動が連通口4,4を介して作業ブースB内に作用する。例えば天井機器Aがスプリンクラーであれば、スプリンクラーから噴射された水が連通口4,4を介して作業ブースB内にも降り注ぎ、スプリンクラーの作業ブースB内に対する作動が阻害されることはなく、その消火動作に伴う効果が作業ブースB内でも確保される。
【0072】
また、天井機器Aが各作業ブースB内の天井部Cにある場合でも、その天井機器Aの作動が、上記と同様に第2仕切壁材2,2の連通口4,4を通して作業ブースB外の共用空間Sに及ぶ。
【0073】
このように、作業ブースBの共用空間Sに面する2枚の第2仕切壁材2,2にそれぞれ開口欄間5の開口5bによる連通口4,4を形成するだけで、共用空間Sの天井部Cに位置する天井機器Aの作動を作業ブースB内で利用し、或いは作業ブースBの天井部Cに位置する天井機器Aの作動を共用空間Sで利用することができるので、共用空間Sや作業ブースBの天井部Cは、室Rに作業ブースB,B,…を区画して設置する前の元の室R内の天井部Cをそのままの状態に維持すればよく、天井部Cの構造を変更する大規模な工事は全く不要となる。特に、天井機器Aとして、高額な換気装置や防災設備(スプリンクラー、火災警報器)を別途増設することは不要となる。このことで、作業ブースB,B,…を低いコストで容易に設置することができ、その分、設置効率を上昇させることができる。
【0074】
そして、上記2枚の第2仕切壁材2,2は共用空間Sに面し、その第2仕切壁材2に連通口4があることで、共用空間Sの人の会話等の音声が連通口4を介して作業ブースB内に侵入する騒音が生じようとする。しかし、作業ブースBにおいては、2枚の第2仕切壁材2,2はそれぞれ対応する第1仕切壁材1,1と対向し、その対向位置にある第1仕切壁材1の少なくとも上部に吸音部10が設けられているので、共用空間Sから連通口4を介して作業ブースB内に侵入した音声は、連通口4に対向する位置にある当該吸音部10で吸収されて小さくなり、それ以後は作業ブースB内に伝わるのが抑制されることで、作業ブースBで聞こえる音声の明瞭度が下がる。つまり、作業ブースB内で作業する作業者にとっては、この音声が明瞭に聞こえると、その内容に気を取られて作業に集中し難くなるのに対し、聞こえる音声が不明瞭されると、音声があることは認識するものの、その内容によって気が散り難くなる。このように、作業ブースBの内部では、作業ブースBの外側の音声の明瞭度が下がり、集中できる快適な音環境に保つことができる。
【0075】
具体的には、作業ブースBの2枚の第2仕切壁材2,2上部の連通口4,4は、作業エリア内の共用空間Sに面し該共用空間Sに向かって開口しているので、ある特定の作業ブースBには、作用エリアの共用空間Sで発生する騒音と、他の作業ブースBで発生し、当該他の作業ブースB内で吸音されながら小さくなり、これが天井部C付近で設けられた連通口4を通じて作業エリア内の共用空間Sに音漏れした騒音とが、上記特定の作業ブースBの天井部C付近に設けられた連通口4を通じて入ってくる。そして、作業エリアの仕切壁上部に作業エリア内外を連通する連通口が開けられていると、共用エリアの騒音が、該連通口を通じて作業エリア内の共用空間Sに入り、さらに、この共用空間Sから、作業ブースBの天井部C付近に位置する連通口4を通じて、該作業ブースB内に侵入する。これら多種類の騒音が作業ブースBに侵入したとしても、その作業ブースB内では吸音部10によって騒音(音声)の明瞭度が下がり、作業ブースB内は作業者が集中できる快適な音環境に保たれる。
【0076】
さらに、室Rは、作業ブースB,B,…が設置された作業エリアと共用エリアとに分けられ、作業エリアは、遮音機能を有する仕切壁によって共用エリアに対し区画されている。そのため、仕切壁の上部に連通口がない構造の場合であれば、共用エリアの音声(騒音)が各作業ブースBに直接に入ることはなく、作業ブースB,B,…に直接入ってくる音声は作業エリアのみの騒音となり、作業ブース内Bに入ってくる騒音を最小限に維持することができる。
【0077】
このように、作業ブースBにおいて、上端部に連通口4が開口している2枚の第2仕切壁材2,2にそれぞれ対向する2枚の第1仕切壁材1,1に対し、その上部に吸音部10を設けるだけで、上記のような音環境を形成することができることとなる。よって、内部の音環境が好適条件下にある小スペースの作業ブースBが得られる。
【0078】
そのとき、上記吸音部10は、第1仕切壁材1に着脱可能に固定される複数枚の吸音パネル11,11,…で構成されており、吸音パネル11,11,…の着脱によってその数や位置を容易に変更することができ、吸音部10の位置や面積等の調整が容易になる。
【0079】
また、共用空間Sから作業ブースB内に出入りする出入り口15を、仮に吸音部10のある第1仕切壁材1に形成した場合、その出入り口15に必要な大きさによって吸音部10を設けるスペースが影響を受け、吸音部10のスペースを大に確保することが困難になる。これに対し、本実施形態では、連通口4のある第2仕切壁材2に出入り口15が設けられているので、吸音部10の大きなスペースを確保して吸音効果を高めることができる。よって出入り口15は、作業ブースB内の音環境に悪影響を及ぼすことの小さい好ましい位置に設けられていることとなる。
【0080】
さらに、第2仕切壁材2の上端部に、連通口4となる開口5bを有する開口欄間5が設けられていることで、第2仕切壁材2の高さは第1仕切壁材1に合わせて天井部Cの高さ位置に揃えることができ、仕切壁材1,2の高さの揃った作業ブースB,B,…が得られる。
【0081】
(実施形態2)
図3は本発明の実施形態2を示す。尚、以下の各実施形態では、
図1及び
図2と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0082】
この実施形態は、実施形態1の作業ブース設置構造に変更を加えたものであり、開口欄間5を有する2枚の第2仕切壁材2,2において、欄間開口5下側の第2仕切壁材2内面にも開口下側吸音部12が設けられている。この吸音部12は、第1仕切壁材1の吸音部10と同様に、第2仕切壁材2に対して着脱可能な複数枚の吸音パネル11,11,…を並べた構造であるが、第1仕切壁材1の吸音部10に比べそれよりも吸音パネル11の枚数が少なく、相対的に小さい面積となっている。開口下側吸音部12は、例えば第2仕切壁材2の内面に450mm角の3枚の吸音パネル11,11,…が横方向に3枚、高さ方向に1列に並べられて固定されている。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0083】
したがって、この実施形態でも実施形態1と同様の作用効果が得られる。特に、この実施形態の場合、第1仕切壁材1内面の吸音部10だけでなく、開口欄間5の開口5b(連通口4)下側の第2仕切壁材2内面にも吸音部12が追加して設けられ、この吸音部12は第1仕切壁材1に対向した位置にあるので、仮に、開口欄間5の開口5b(連通口4)から作業ブースB内に侵入した音が第1仕切壁材1上部の吸音部10で吸収されずに一部が反射されたとしても、その反射した侵入音は、第1仕切壁材1に対向する開口欄間5下側の吸音部12で吸収される。このことで、作業ブースBの内部に侵入する音が全体としてさらに小さくなり、作業ブースB内で聞こえる音声の明瞭度がさらに下がり、ブースB内をより一層作業し易い快適な音環境に保つことができる利点が生じる。
【0084】
(実施形態3)
図4は実施形態3を示し、第2仕切壁材2の上端部に位置する開口欄間5をなくしたものである。
【0085】
この実施形態では、第2仕切壁材2の上端部に開口欄間5は設けられておらず、第2仕切壁材2は、上端の高さ位置が天井高さよりも500~700mm程度低いいわゆるローパーティションで構成されている。このことで第2仕切壁材2の上端と室Rの天井部Cとの間に空間(間隔)が形成され、この空間により第2仕切壁材の上側に高さ500~700mmの連通口4が構成されている。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0086】
したがって、この実施形態においても実施形態1と同様の作用効果を奏することができる。また、この実施形態では、第2仕切壁材2を、第1仕切壁材1よりも低いローパーティションにするだけで、作業ブース用の連通口4を形成することができ、その連通口4の形成が容易になる。
【0087】
尚、この実施形態3において、実施形態2と同様に、連通口4下側の第2仕切壁材2内面に開口下側吸音部12を設けてもよい。
【0088】
(その他の実施形態)
本発明は上記各実施形態に限定されず、種々の変形の実施形態を包含している。例えば、上記実施形態では、仕切壁材1,2をスチール等の不燃材料で構成しているが、仕切壁材1,2を天井部Cに固定しない構造の場合には、仕切壁材1,2は家具と見做されるので、不燃材料以外の材料で構成することができる。
【0089】
また、上記各実施形態では、吸音部10,12を仕切壁材1,2に対し吸着により着脱される複数の吸音パネル11,11,…で構成しているが、仕切壁材1,2(ベース材)に一体的に埋め込まれた吸音体で構成してもよい。
【0090】
さらに、各作業ブースB内、例えば机21下側の仕切壁材に、該作業ブースB内に対し暗騒音やマスキング音を出す音響装置を設置することもでき、作業ブースB内での音声の明瞭度をさらに低下させることが期待され、音環境がさらに好適になる。
【0091】
また、室Rに設置される作業ブースBは、その設置数やレイアウトを変更してもよく、室Rが作業ブースBとそれ以外の共用空間Sとに分けられるように設置すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、広い室内に小スペースで音環境の良い作業ブースを設置するときに、天井部の工事や複雑な天井工事の設計が不要で、既存の天井機器をそのまま利用して設置でき、設置効率が高いので、極めて有用で産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0093】
R 室
C 天井部
F 床部
A 天井機器
B 作業ブース
S 共用空間
1 第1仕切壁材
2 第2仕切壁材
4 連通口
5 開口欄間
5b 開口
10 吸音部
11 吸音パネル
12 開口下側吸音部
15 出入り口
16 出入り扉