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特許7577061がんの予後に関する向上されたバイオマーカーツールとしてのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの複合発現パターン
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  • 特許-がんの予後に関する向上されたバイオマーカーツールとしてのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの複合発現パターン 図1
  • 特許-がんの予後に関する向上されたバイオマーカーツールとしてのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの複合発現パターン 図2
  • 特許-がんの予後に関する向上されたバイオマーカーツールとしてのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの複合発現パターン 図3
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  • 特許-がんの予後に関する向上されたバイオマーカーツールとしてのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの複合発現パターン 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】がんの予後に関する向上されたバイオマーカーツールとしてのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの複合発現パターン
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20241025BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241025BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241025BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021530331
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 IN2019050580
(87)【国際公開番号】W WO2020031206
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】201821029791
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521056711
【氏名又は名称】インディアン インスティチュート オブ サイエンス エデュケーション アンド リサーチ、プネー(アイアイエスイーアール プネー)
【氏名又は名称原語表記】INDIAN INSTITUTE OF SCIENCE EDUCATION AND RESEARCH, PUNE (IISER PUNE)
【住所又は居所原語表記】Dr. Homi Bhabha Road, Pashan, Pune Maharashtra 411008, India
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サンジーヴ・ガランド
(72)【発明者】
【氏名】ルティカ・ナイク
【審査官】三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】Oncotarget,2015年,Vol.7, No.4,P.4993-5006
【文献】Cancer Cell International,2009年,Vol.9, No.18,P.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SATB-1及びSATB-2(Special AT-rich Sequence-Binding Protein)クロマチンオーガナイザーの複合発現レベルを評価することによって特徴付けられる、対象における、がんの進展及び悪性度を評価するためのin-vitroの方法であって、
i. 原発腫瘍組織から単離された、腫瘍原性細胞培養物を培養する工程、並びに
ii. RNA単離及び定量RT-PCRによって、上記培養物における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの複合発現パターンを評価する工程
を含み、前記腫瘍原性細胞が、3Dスフェロイド培養物として培養され、
SATB-1及びSATB-2の複合発現レベルが、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、胃腺がん、尿路上皮膀胱がん、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、肝臓肝細胞がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、膵腺がん、及び皮膚黒色腫を含む群から選択されるがんに関して評価され、
SATB-1及びSATB-2の複合発現パターンを評価することが、以下を含む群から選択される、in-vitroの方法;
(i) SATB1及びSATB2の複合発現の増加は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける、劣った患者生存と相関する;
(ii) SATB2の減少を伴う、SATB1の発現増加は、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存と相関する;並びに
(iii) SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少は、尿路上皮膀胱がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、膵腺がん、及び皮膚黒色腫における、劣った患者生存と相関する。
【請求項2】
請求項1に記載のin-vitroの方法における使用のための、がんと診断された対象における、がんの種類の、進展及び悪性度を評価するための、予後キットであって、以下を含む、予後キット;
(i) ネガティブコントロールとしての、健康な細胞培養物
(ii) ポジティブコントロールとしての、がんの種類に特異的な腫瘍原性細胞培養物;
(iii) RNA単離、シークエンシング、及びRT-PCRを実施するためのツール;並びに
(iv) 以下を示す、がんの種類に特異的な、SATB1及びSATB2の複合発現パターンを示す表;
(a) SATB1及びSATB2の複合発現の増加は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける、劣った患者生存と相関する;
(b) SATB2の減少を伴う、SATB1の発現増加は、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存と相関する;並びに
(c) SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少は、尿路上皮膀胱がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、膵腺がん、及び皮膚黒色腫における、劣った患者生存と相関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの予後に関するバイオマーカーツールとしての、SATB(special AT-rich sequence-binding protein-1)ファミリークロマチンオーガナイザー、すなわち、SATB-1及びSATB-2の複合発現パターン(a combined expression pattern)のプロファイリングのための新規の方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、がんの悪性度の評価のための向上されたツールとしての、及び多数のがんの種類に関する新規の予後マーカーの組合せとしての、SATBタンパク質の二重発現パターン(a dual expression pattern)に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは、インド及び世界中で死の主な原因である。がんは、複雑な疾患であり、遺伝子発現の変化をもたらす遺伝子の変化又は異常を経て起きる多数の工程である。多数のがんの種類に関する、疾患の悪性度又はがんの進展を評価するための、正確な予後バイオマーカーが欠如している。
【0004】
がんは、細胞の起源に関して多様であり、組織微小環境によって影響されるダイナミックな分子発現パターンを表す。これはがん治療の失敗をもたらす主要な限界である。がんの悪性度を評価する正確なバイオマーカーの要求が存在する。これらの予後マーカーは、疾患の予後を評価し、がん治療の決定を後押しもするだろう。この状況において、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの役割が、がんの進展において暗示されてきた。
【0005】
SATB(special AT-rich binding protein)ファミリータンパク質(SATB1及びSATB2)が、遺伝子発現の制御を伴う、高次クロマチン形成を統合する重要な制御因子として浮上した。過去10年に亘る研究が、SATB1及びSATB2(このファミリーの密接に関係した2つのメンバー)の、がんの進展における、個々の、特定の役割を明らかにした。SATBファミリークロマチンオーガナイザーは、アポトーシス、細胞浸潤、転移、増殖、血管新生、及び免疫調節のダイナミックな均衡を制御する多様で重大な役割を担う。
【0006】
過去10年の多くの研究が、多数のがんの種類における、SATB1の発現と腫瘍の悪性度との強い関連を実証してきた。本発明者ら(Galande et al.)によって発表されたMir et al. Oncogene 2016は、大腸がんの腫瘍形成及び腫瘍の進展における、SATB1の役割を明らかにした。著者らは、SATB1の制御の機構的理解を説明し、β‐カテニン、TCFファミリーメンバー、並びにWntシグナル経路の制御に関する多数の下流のエフェクター及びメディエーターの発現の制御が必要であり且つ十分であることを見つけた。
【0007】
T細胞白血病の診断マーカーとしてSATB1が示唆された、「Cancer-associated mar binding protein」と題されたKohwi-Shigematsuらによる研究を参照することができる(米国特許第5,624,799号)。SATB1の異常な発現は、リンパ腫(Agrelo et al. Dev. Cell. 2009)、及び皮膚T細胞性リンパ腫(Fredholm et al. J Invest Dermatol. 2018; Sun et al. J Invest Dermatol. 2018)を促進すると推測される。
【0008】
さらに、米国特許出願公開第2015/ 0323536号において、Kohwi-Shigematsuらは、「SATB1: A Determinant of Morphogenesis and Tumor Metastasis」と題された研究の中で、がん転移におけるSATB1の役割を示唆した。
【0009】
米国特許出願公開第2017/067125号において、Kohwi-Shigematsuらは、また、乳がん細胞に対する治療標的として、SATB1を標的とする長鎖ノンコーディングRNAの使用を記載し、この研究は「Long Non-Coding RNA Expressed in Aggressive Cancer」と題されている。Zhengらは、SATB1の異常な発現が、乳房の腫瘍の進展及び転移をもたらすことを示した。
【0010】
Srivastava. Sが、がんの予後及び診断の評価のためのパネルにおける、マーカーの1つとして、SATB1の使用を記述した、米国特許第2018/0010195号を参照することもできる。この研究は、「Compositions and methods for monitoring, diagnosis, prognosis, detection and treatment of cancer」として題されている。
【0011】
さらに、多くの研究が、鼻咽頭(Deng et al., Int. J. Clin. Exp. Pathol. 2014)、膀胱(Han et al., Tumour Biol. 2013)、前立腺(Mao et al. J. Transl. Med. 2013; Wang et al. Exp Ther Med. 2018)、肺(Selinger et al., J. Thorac. Oncol. 2011)、卵巣(Xiang et al., Oncol. Lett. 2012)、肝臓(Tu et al., Liver Int. 2012)、及びグリオーマ(Chu et al., J. Transl. Med. 2012)の場合の、がんの悪性度とSATB1の発現の相互関係を示している。
【0012】
Elebroら(J. Transl. Med. 2014)は、腸タイプ及び膵胆管タイプの膨大部領域腺がん(pancreato-biliary type periampullary adenocarcinomas)(膵がんを含む)の両方に関する、予後及び予測バイオマーカーとして、SATB1を提案した。
【0013】
Fengら(Exp Ther Med. 2018)及びChengら(PLoS One, 2014)は、SATB1の、子宮内膜がん及び腎がんそれぞれとの強い関連性を示した。
【0014】
SATB2に関して、その発現は、がん特異的な役割を実証する、Wangら(J. Pathol. 2009)によって大腸がん、Liuら(PLoS One, 2012)によって骨がん、及びSeongら(Oncogene, 2015)によって頭頚部がんの悪性度との相互関係を示されている。
【0015】
「Use of Protein SATB2 as a marker for Colorectal Cancer」と題される、Uhlenらによる研究は、大腸がんに関する診断マーカーとして、SATB2単独を提案した(米国特許第8465934号)。
【0016】
上述した研究の全てが、SATB1又はSATB2を個々に考えており、その発現を腫瘍悪性度と関連付けていた。しかしながら、これらの研究は、多数のがんの種類の、がんの進展、及び予後における役割に対する、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現パターンの重要性に取り組むいかなる傾向も提供しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許第5,624,799号
【文献】米国特許出願公開第2015/ 0323536号
【文献】米国特許出願公開第2017/067125号
【文献】米国特許第2018/0010195号
【文献】米国特許第8465934号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、多数のがんの種類における、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現を評価し、TCGA(The Cancer Genome Atlas)のがん患者生存データを用いて、患者生存との、二重発現パターンの関係を確認して、がんの進展を規定することである。
【0019】
本発明の別の目的は、腫瘍の種類に特異的であり、がん患者生存の決定因子として働く、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの発現パターンの間のバランスを明確にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
SATBファミリータンパク質は、遺伝子発現の制御を伴う、高次クロマチン形成を統合する重要な制御因子として浮上した。過去10年に亘る研究は、SATB1及びSATB2(このファミリーの密接に関係した2つのメンバー)の、がんの進展における、特定の役割を明らかにした。しかしながら、今日まで実施された全ての研究は、SATB1及びSATB2を分離して考えていた。
【0021】
ある態様において、本発明は、SATB(Special AT-rich Sequence-Binding Protein)クロマチンオーガナイザー(すなわち、SATB-1及びSATB-2)の複合発現パターンを評価することによって特徴付けられる、対象における、がんの進展及び悪性度を評価するためのin-vitroの方法であって;
i. 原発腫瘍組織から単離された、腫瘍原性細胞培養物を培養する工程、並びに
ii. RNA単離及びシークエンシング及び定量RT-PCRによって、上記培養物における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの複合発現レベルを評価する工程
を含む方法を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、がんの予後に対する、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現パターンを評価するための方法であって;
(a) 複数のがんの種類に由来する、患者のTCGA(The Cancer Genome Atlas)データセットのカプランマイヤー生存解析(Kaplan Meier survival analysis)を実施する工程、並びに
(b) 患者生存データを、TCGA由来の、複数のがんの種類の腫瘍サンプルの、RNAシークエンシングを通して得られる遺伝子発現と比較して、がんの予後に対する、SATB1及びSATB2クロマチンオーガナイザーの重要性を評価する工程
を含む方法を提供する。
【0023】
更なる別の態様において、本発明は、がんの予後に対する、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現パターンを推定することによって、対象における、がんの進展を評価するための予後キットであって、上記キットは、複数のがん細胞の種類における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの発現レベルを示す表を含み、上記表は、患者の腫瘍サンプルにおける、SATB-1及びSATB-2の複合発現レベルの比較のための、複数のがん細胞の種類における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの発現レベルを含む、キットを提供する;
(i) SATB-1及びSATB-2の増加した複合発現は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんに関して、劣った患者生存に強く相関する;
(ii) 大腸腺がん(COAD)、尿路上皮膀胱がん(urothelial bladder carcinoma)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん(uterine corpus endometrial carcinoma)、及び肝臓肝細胞がんに関して、劣った患者生存となる、SATB2との、負の相関するSATB1の発現;
(iii) SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少は、急性骨髄性白血病、低悪性度のグリオーマ、皮膚黒色腫、及び膵腺がんに関して、劣った患者生存の決定因子である(図1図2)。
【0024】
複数のがん細胞の種類における、SATB1及びSATB2の複合発現レベルを示す上記表は、図3に規定される。
【0025】
別の態様において、本発明は、3Dスフェロイド培養物及び2D細胞株における、SATB1及びSATB2クロマチンオーガナイザーの組織特異的な発現パターンを提供し、上記SATBクロマチンファミリーオーガナイザーの複合発現は、正確に腫瘍の悪性度を予測するための高度に信頼できるツールとして働く。
【0026】
本発明は、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの発現の機能的重要性も立証する。それによって、腫瘍新生細胞のin vitroモデルである、3次元(3D)スフェロイド培養物が確立された。
【0027】
より好ましくは大腸がん細胞株で作製されたスフェロイド(3D培養)及び細胞株(2D培養)における、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの発現パターンが、プロファイリングされた。スフェロイドにおけるSATB1の上方制御、及び2D培養物における下方制御が見られ、SATB2は、3Dスフェロイド培養物と比較して、2D培養物において、高く発現し、従って、細胞可塑性の制御における、SATBファミリークロマチンオーガナイザーのダイナミックな発現の役割が示唆された。
【0028】
従って、本発明は、腫瘍の種類に特異的であり、がん患者生存の正確な決定因子として働く、SATB1及びSATB2クロマチンオーガナイザーの発現パターン間のダイナミックなバランスが存在することを納得いくように実証する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】様々ながんの種類における、SATB1の発現に関する、カプランマイヤー解析のプロット。赤い線は、SATB1の高発現を指し、一方で、青い線は、SATB1の低発現を指す。データは、尿路上皮膀胱がん、子宮頸部扁平上皮がん、膠芽腫、腎淡明細胞がん(kidney renal clear cell carcinoma)、乳頭状腎細胞がん(kidney renal papillary cell carcinoma)、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、肝臓肝細胞がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、卵巣がん、膵腺がん、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺がん、子宮体部子宮内膜がん、大腸腺がん(colon adenocarcinoma)、直腸腺がん、浸潤性乳がんに関して、プロットされている。統計学的有意性は、ログランクp値≦0.05を使用して計算された。$は、p値≦0.1を有する、より少ない患者数を有するデータセットを指す。
図2】様々ながんの種類における、SATB2の発現に関する、カプランマイヤー解析のプロット。赤い線は、SATB2の高発現を指し、一方で、青い線は、SATB2の低発現を指す。データは、尿路上皮膀胱がん、子宮頸部扁平上皮がん、膠芽腫、腎淡明細胞がん、乳頭状腎細胞がん、乳頭状腎細胞がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、肝臓肝細胞がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、卵巣がん、膵腺がん、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺がん、子宮体部子宮内膜がん、大腸腺がん、直腸腺がん、浸潤性乳がんに関して、プロットされている。統計学的有意性は、ログランクp値≦0.05を使用して計算された。$は、p値≦0.1を有する、より少ない患者数を有するデータセットを指す。
図3図3は、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの発現の、がんの種類に亘る患者生存との関係を表す。
図4】SATBファミリークロマチンオーガナイザーは、2D及び3D(スフェロイド)培養物において、ダイナミックな制御を示す。Aは、大腸がん細胞株A-i HCT116、A-ii HT29、A-iii HCT15から作製された7日目の3D(スフェロイド)の代表画像である。Bは、HCT116、HCT15、及びHT29大腸がん細胞株(2D)及びスフェロイド(3D)における、定量RT-PCR解析の、SATB1(B-i)及びSATB(B-ii)の相対的遺伝子発現のグラフ表示であり、アクチンの発現が内在性コントロールとして使用された。(*,P<0.05; **,P<0.001; ***,P<0.0001)。
図5】スフェロイドは、多能性マーカーの発現上昇及び分化マーカーの発現減少を伴う、自己複製分画を示す。HCT116、HCT15、及びHT29大腸がん細胞株(2D)及びスフェロイド(3D)における、定量RT-PCRの、A‐分化マーカー(CK20及びcyclin E1);B‐多能性マーカー(Nanog、Klf4、Oct4、及びSox2)のグラフ表示であり、アクチンの発現が内在性コントロールとして使用された。(*, P<0.05; **,P<0.001; ***, P<0.0001)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、様々な態様が十分に理解され(understood)、及び理解される(appreciated)ことが可能なように、特定の好ましく且つ最適な実施形態に関して、詳細に記載される。
【0031】
SATBファミリークロマチンオーガナイザーの異常な発現、及び多数のがん細胞の種類とのSATBファミリークロマチンオーガナイザーの異常な発現の関連性は、発がんをもたらす高次クロマチン形成の調節における、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの異常な発現の関与を示唆している。SATBタンパク質は、多数の遺伝子を制御する構造的ネットワークを提供し、そのため、SATBの異常な発現は、腫瘍形成となる分子事象の蓄積をもたらし得る。
【0032】
好ましい実施形態において、本発明は、SATB(Special AT-rich Sequence-Binding Protein)クロマチンオーガナイザー(すなわち、SATB-1及びSATB-2)の複合発現パターンを評価することによって特徴付けられる、対象における、がんの進展及び悪性度を評価するための、in-vitroの方法であって;
(i) 原発腫瘍組織から単離された、腫瘍原性細胞培養物を培養する工程、並びに
(ii) RNA単離及びシークエンシング、定量RT-PCR、免疫組織化学、並びに免疫ブロット法によって、上記培養物における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの複合発現レベルを評価する工程
を含む方法を提供する。
【0033】
RNA単離及びシークエンシング、定量RT-PCR、免疫組織化学、並びに免疫ブロット法の技術は、本分野においてよく確立されており、従って、実施することが可能である。
【0034】
本方法は、尿路上皮膀胱がん、子宮頸部扁平上皮がん、膠芽腫、腎淡明細胞がん、乳頭状腎細胞がん、乳頭状腎細胞がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、肝臓肝細胞がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、卵巣がん、膵腺がん、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺がん、子宮体部子宮内膜がん、大腸腺がん、直腸腺がん、及び浸潤性乳がんを含む群から選択されるがん細胞の種類における、がんの進展及び悪性度を評価するための方法を提供する。
【0035】
ある実施形態において、本発明は、患者生存データに由来する、多数のがんにおける、がんの予後に対する、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現パターンを規定するための方法を提供し、上記方法は、
(a) 複数のがんの種類に由来する、患者のTCGA(The Cancer Genome Atlas)データセットのカプランマイヤー生存解析を実施し、患者生存データを、TCGAデータセットのRNAシークエンシング解析を通して得られる原発腫瘍の遺伝子発現と比較する工程、
(b) 工程(a)のRNAシークエンシングを通して得られた、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの遺伝子発現を相互に関連付けて、がんの予後に対する、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの遺伝子発現の重要性を評価する工程
を含む。
【0036】
第一の工程は、多数の腫瘍の種類に関する、SATB1及びSATB2ファミリークロマチンオーガナイザーの発現の、患者生存との関係のカプランマイヤー生存解析を実施することを含む。多数の腫瘍の種類における、腫瘍内のSATBクロマチンオーガナイザーの発現の、患者生存との関連性を評価するために、TCGAデータが使用された。RNAシークエンシングを通して得られた遺伝子発現が、患者生存データと相関する、14種類のがん由来の、患者のTCGAデータセットの生存解析が行われ、がんの予後に対するSATBファミリークロマチンオーガナイザーの2つのメンバーの重要性を評価した。遺伝子発現(正規化されたRSEM RNAseqV2のリードカウント)に基づいて、患者は、最高から最低まで、分類された。SATB1の発現に基づいた、上位15%~25%及び下位15%~25%の患者は、SATB1hi及びSATB1lowとして特徴付けられ、同様に、遺伝子発現プロファイルに基づいて、患者は、SATB2hi及びSATB2lowとして分類された。統計学的有意性は、有意と考えられるログランクp値≦0.05を用いて計算された。しかしながら、患者数の増加が研究の重要性の向上につながるため、より少ない患者数を有するそれらのがんの種類は、生存/傾向(survival/trend)に従う場合、生存解析(p値≦0.1)の対象とされた。生存研究は、SATBクロマチンオーガナイザーは、ダイナミックな発現パターン、組織特異的な制御を示し、患者生存の決定因子であることを明確に明らかにした。
【0037】
SATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現パターンを規定するために解析されるがん細胞の種類は、尿路上皮膀胱がん、子宮頸部扁平上皮がん、膠芽腫、腎淡明細胞がん、乳頭状腎細胞がん、乳頭状腎細胞がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、肝臓肝細胞がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、卵巣がん、膵腺がん、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺がん、子宮体部子宮内膜がん、大腸腺がん、直腸腺がん、及び浸潤性乳がんを含む群から選択される。
【0038】
好ましい一実施形態において、本発明は、患者生存データに基づいたカプランマイヤー解析によって規定される、高度に信頼できる予後マーカーとして働く、SATB1及びSATB2の両方の発現の状態と、がんの種類との間の関係を提供する。
【0039】
本発明は、発現パターンを、複数のがん細胞の種類における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの発現レベルを示す表と比較することを提供し、上記表は、
i. SATB1及びSATB2の複合発現の増加は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける、劣った患者生存と相関する;
ii. SATB2の減少を伴う、SATB1の発現増加は、尿路上皮膀胱がん、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存となる;並びに
iii. 急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、皮膚黒色腫、及び膵腺がんの場合、SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少は、劣った患者生存の決定因子であった(図1図2
を含む。
【0040】
別の実施形態において、本発明は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける劣った患者生存と相関する、健康な組織と比較した腫瘍サンプルにおける、SATB-1及びSATB-2の複合発現の増加を提供する。
【0041】
更なる別の実施形態において、本発明は、尿路上皮膀胱がん、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存と相関する、健康な組織と比較した腫瘍サンプルにおける、SATB2の減少を伴う、SATB1の発現増加を提供する。
【0042】
もう一つの別の実施形態において、本発明は、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、皮膚黒色腫、及び膵腺がんおける、劣った患者生存と相関する、健康な組織と比較した腫瘍サンプルにおける、SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少を提供する。
【0043】
それにより、複数のがん細胞の種類における、SATB-1及びSATB-2の複合発現レベルを示す上記表は、図3に規定される。特定のがん細胞の種類における、SATB-1及びSATB-2の複合発現のレベルを決定することによる、がんの進展を評価するための本方法は、正しく(accurate)、且つ正確(precise)な方法である。
【0044】
別の好ましい実施形態において、本発明は、腫瘍再生能に関して、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの発現と関係する機能的重要性を提供する。
【0045】
本発明は、尿路上皮膀胱がん、子宮頸部扁平上皮がん、膠芽腫、腎淡明細胞がん、乳頭状腎細胞がん、乳頭状腎細胞がん、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、肝臓肝細胞がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、卵巣がん、膵腺がん、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺がん、子宮体部子宮内膜がん、大腸腺がん、直腸腺がん、及び浸潤性乳がんからなる群から選択される、がんの種類における、進展及び悪性度を評価するためのin-vitroの方法の使用を提供し、がんと診断された対象/患者の原発腫瘍組織から単離される腫瘍原性細胞における、SATB-1及びSATB-2の複合発現パターンを決める際に、対象又は患者のリスクは以下のように推測される;
(i) SATB1及びSATB2の複合発現の増加は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける、劣った患者生存と相関する;
(ii) SATB2の減少を伴う、SATB1の発現増加は、尿路上皮膀胱がん、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存となる;並びに
(iii) 急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、皮膚黒色腫、及び膵腺がんの場合、SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少は、劣った患者生存の決定因子であった。
【0046】
好ましい一実施形態において、SATB(Special AT-rich Sequence-Binding Protein)クロマチンオーガナイザー(すなわち、SATB-1及びSATB-2)の複合発現パターンを評価することによって特徴付けられる、患者における、大腸がん/大腸腺がん/直腸腺がんの進展及び悪性度を評価するためのin-vitroの方法であって、
(i) 原発腫瘍組織から単離された、腫瘍原性細胞培養物を培養する工程、並びに
(ii) RNA単離及びシークエンシング、定量RT-PCR、免疫組織化学、並びに免疫ブロット法によって、上記培養物における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの複合発現レベルを評価する工程
を含み、SATBの複合発現パターンは、3Dスフェロイドとして培養された腫瘍原性細胞における、 SATB-2の減少を伴う、SATB-1の発現の増加は、大腸がん/大腸腺がん/直腸腺がんと診断された患者において、劣った患者生存となることを指す、方法を提供する。
【0047】
図4は、スフェロイド培養物として培養された大腸がん細胞株の場合の、SATB1の発現レベルの増加、及びSATB-2の発現レベルの減少を示す。従って、本in-vitroの方法は、SATBの発現を決定することによって患者生存を評価するための確実な方法である。
【0048】
それにより、本発明は、in-vitroの研究の機能アッセイに基づく、原理の証明を有する、がんの予後に関するバイオマーカーツールとしての、SATB(Special AT-rich Sequence-Binding Protein)ファミリークロマチンオーガナイザー(すなわち、SATB-1及びSATB-2)の複合発現パターンをプロファイリングするための方法であって、
(a) がん細胞株から3D及び2D培養物を構築する工程、並びに
(b) 上記がん細胞株から製造されたスフェロイド(3D培養)及び細胞株(2D培養)における、定量RT-PCRを使用して、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの遺伝子発現パターンをプロファイリングする工程
を含む方法を提供する。
【0049】
この状況において、新生細胞を研究するための確立された機能的モデルである、大腸がん細胞株由来のスフェロイド(3D培養物)が作製され、3D培養物におけるSATB1及びSATB2の発現が評価された。スフェロイドは、多様な特徴(例えば、足場非依存性増殖、化学療法剤抵抗性、自己複製、非対称分裂、及び多能性)に依存する、腫瘍始原細胞(tumor initiating cells(TICs))又は新生細胞の機能的単離を基本的に含む。スフェロイドは、in vivoの腫瘍の、3Dの細胞状況、及び関連のある病理生理学的勾配を反映する。従って、スフェロイド(3D)は、がんの悪性度を評価するための、適切なin vitroモデルシステムである。
【0050】
SATB1は、スフェロイド培養物において正に制御され、細胞株において負に制御され、一方で、SATB2は、2D培養物と比較して3D培養物において負に制御されることが、見出された。これは、腫瘍内の細胞機能及び分子機能をつかさどるSATBクロマチンオーガナイザーの発現の間にバランスが存在することを示唆する。
【0051】
別の好ましい実施形態において、本発明は、複数のがん細胞の種類における、SATB-1及びSATB-2クロマチンオーガナイザーの発現レベルを示す表を含む、がんの予後に対するSATBファミリークロマチンオーガナイザーの二重発現パターンを推定することによって、対象における、がんの進展を評価するためのキットを提供する。
【0052】
がんの種類の進展及び悪性度を評価して、がんと診断された対象における、生存を予測するための、本発明の予後キットは、以下を含む;
(i) ネガティブコントロールとしての、健康な細胞培養物
(ii) ポジティブコントロールとしての、がんの種類に特異的な腫瘍原性細胞培養物;
(iii) RNA単離、シークエンシング、及びRT-PCRを実施するためのツール;並びに
(iv) 以下を示す、がんの種類に特異的な、SATB1及びSATB2の複合発現パターンを示す表;
(a) SATB1及びSATB2の複合発現の増加は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける、劣った患者生存と相関する;
(b) SATB2の減少を伴う、SATB1の発現増加は、尿路上皮膀胱がん、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存と相関する;並びに
(iii) SATB2の発現増加及びSATB1の発現減少は、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、膵腺がん、及び皮膚黒色腫における、劣った患者生存と相関する。
【0053】
前述の実施形態及び本in-vitro方法に沿って、本発明は、がんの種類に特異的であって、悪性度及び進展に関して患者において評価されることになる、腫瘍原性細胞株(ポジティブコントロール)、及び健康な細胞培養(ネガティブコントロール)を提供する。代替的には、本in-vitroの方法は、患者由来組織(すなわち、生検サンプル)を直接使用することによって、行われ得る。RNA単離及びシークエンシングの段階は、本分野で既知の方法に従って実施され、当業者によって実施されることが可能である。試験サンプルにおける、SATB-1及びSATB-2の発現を決定する際、上記パターンを表す表に対する発現パターンは、患者生存に関して、解析される。
【0054】
従って、SATB1及びSATB2の複合発現パターンを示す、本方法は、腫瘍の進展の理解に対する向上した明察を提供し、従ってSATB1及びSATB2の複合発現パターンを、信頼できる予後マーカーとして規定する。
【実施例
【0055】
以下の実施例は、本発明の説明の目的で与えられ、従って、本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0056】
実施例1:がんの予後に関するバイオマーカーとしてのSATBクロマチンオーガナイザー
生存解析は、SATB1及びSATB2の両方のより高い発現は、子宮頸部扁平上皮がん、肉腫、及び胃腺がんにおける、劣った患者生存と相関することを明らかにした。SATB1の相関関係は、Wang et al Jpn J Clin Oncol. 2015、及びHedner et al Virchows Arch. 2014によって、胃腺がん及び子宮頸部扁平上皮がんの場合に、悪性度と結び付けられるが、しかしながら、これらの研究のどれもが、SATB2の関連性を報告していなかった。これらの発見は、Wang et al Tumour Biol. 2015、Zhang et al Mol Cell Biochem. 2013、及びLiu et al Mol Cell Biochem. 2017による、肉腫に関する、より早期の報告に一致しており、独立した研究において、SATB1及びSATB2の発現は、それぞれ、腫瘍悪性度に相関した。
【0057】
SATB1の発現は、SATB2と負に相関し、大腸腺がん(COAD)、直腸腺がん(READ)、肺扁平上皮がん、子宮体部子宮内膜がん、及び肝臓肝細胞がんにおける、劣った患者生存となり(表1にまとめられている)、先の2つのがんの種類の場合は、Brocato et al. (Carcinogenesis, 2015)、及びTsuji et al. (Cancer Res. 2009)によって、推測される一方で、その後ろの種類との相関関係は新規である。生存解析は、急性骨髄性白血病、低悪性度グリオーマ、尿路上皮膀胱がん、及び膵腺がんの場合に、SATB2のより高い発現及びSATB1のより低い発現は、劣った患者生存の決定因子であることを明らかにした(図1図2)。しかしながら、最近の研究は、尿路上皮膀胱がんに関して、SATB1の発現の相関関係について、明確さの欠如を示した(Choudhary et al. Urol Oncol. 2018)。驚くべきことに、両方のSATBタンパク質のより高い発現は、腎淡明細胞がんにおいて、よりよい患者生存を与えた。本解析は、Kowalczykら (Cancer Genomics Proteomics, 2016)、Guoら(Int J Clin Exp Pathol. 2015)による、腎淡明細胞がんにおける、両方のSATBクロマチンオーガナイザーの下方制御の確立された事実と合致する。従って、本明細書で提示される解析は、腫瘍悪性度に関する、SATBクロマチンオーガナイザーの組織特異的な制御を、明確に示している。分子標的療法を設計するのに有効的に使用できる、多数の腫瘍の種類に亘る、この総合的な解析は、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの両方のメンバーを利用して、がんの種類を分類することを、強く支持する。
【0058】
実施例2:SATBファミリークロマチンオーガナイザーは、大腸がんにおいて、ダイナミックな制御を示す。
生体物質の供給源:
HCT116、HCT15細胞株は、欧州細胞培養コレクション(European Collection of Cell Cultures )(ECACC, SIGMA, St Loius, USA)から製造され、HT29は細胞株は、米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC, Manssas, Virginia, USA)から製造された。
【0059】
SATB(Special AT-rich binding protein)ファミリータンパク質は、遺伝子発現の制御を伴う、高次クロマチン形成を統合する重要な制御因子として浮上した。最近の研究は、SATB1及びSATB2の両方が、がんの進展のための手段であることを、実証した。しかしながら、今日までの研究のどれもが、大腸がんの悪性度における役割に関して、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの両方のメンバーの、広範囲に及ぶ特性評価を実施しなかった。
【0060】
再生能の観点から、SATBクロマチンオーガナイザーの制御を評価するために、大腸がん細胞株由来の3Dスフェロイド培養物(図4A-i、B-i、C-i)が確立された。スフェロイドは、超低接着プレートに単一の大腸がん細胞を蒔いた7日後に、生じた。スフェロイド及び対応する細胞株は、RNA単離を実施し、定量RT-PCRを使用して、SATBクロマチンオーガナイザーの発現をプロファイリングした。それぞれの細胞株と比較して、スフェロイド培養物における、SATB1の発現の劇的な増加、一方で、SATB2の明らかな減少が、見られた(図4Bi、B-ii)。従って、SATB1の発現は、がん細胞の悪性度の評価のためのin vitroモデルである、スフェロイド表現型と、正に相関した。反対に、SATB2の発現は、スフェロイドと、負に相関した。
【0061】
さらに、機能を理解するために、スフェロイド及び対応する2D細胞株培養物に亘る、多能性マーカー(Nanog、Klf4、Oct4、Sox2)並びに分化マーカー(CK20及びcyclinE1)の発現が評価された。スフェロイドは、自己複製に関わる細胞分画を示し、そのため、それぞれの細胞株と比較して、全ての多能性マーカーの上方制御、及びそれに応じた分化マーカーの下方制御を示した(図4A、B)。このデータは、細胞可塑性に対する、SATBクロマチンオーガナイザーのダイナミックな制御を示唆し、SATB1は、自己複製状態の生成及び維持に関わる。CK20及びcyclinE1と相関するSATB2の発現は、SATB2が、大腸がん細胞の分化を媒介することに関わるであろうということを示唆する。
【0062】
この実施例は、大腸がんの進展に関わる、SATBファミリーのクロマチンオーガナイザーの2つのメンバーによって制御される、異なる機能を、明確に示している。
【0063】
発明の有利な点:
・本発明は、腫瘍の種類に特異的で、がん患者の生存の決定因子として働く、SATBファミリークロマチンオーガナイザーの発現パターンの間のダイナミックなバランスを提供する。
・SATBファミリークロマチンオーガナイザーのがん組織特異的な制御は、がんの予後に関する正確なバイオマーカーとして働く。
・がんの悪性度の向上した評価。
図1
図2
図3
図4
図5