(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】官能化ゴム
(51)【国際特許分類】
C08C 19/22 20060101AFI20241025BHJP
C08C 19/20 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C08C19/22
C08C19/20
(21)【出願番号】P 2021538131
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2019087046
(87)【国際公開番号】W WO2020136223
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-21
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521282000
【氏名又は名称】ダイナソル、エラストメロス、ソシエダッド、アノニマ、ウニペルソナル
【氏名又は名称原語表記】DYNASOL ELASTOMEROS, S.A.U.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】セルヒオ、コロナ、ガルバン
(72)【発明者】
【氏名】ペドロ、ホセ、ペレス、ロメロ
(72)【発明者】
【氏名】マリア、デル、マーレ、ディアス、レケホ
(72)【発明者】
【氏名】アルバロ、ベルトラン、マルティン
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-519206(JP,A)
【文献】特表2018-508618(JP,A)
【文献】特表2018-513257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0118857(US,A1)
【文献】国際公開第2015/181415(WO,A1)
【文献】Chih-Cheng Peng et al,A Simple Pathway toward Quantitative Modification of Polybutadiene: A New Approach to Thermoreversible Cross-Linking Rubber Comprising Supramolecular Hydrogen-Bonding Networks,Macromolecules,米国,American Chemical Society,2005年,vol.38,p.5575-5580
【文献】Alvaro Beltran et al,Mild Catalytic Functionalization of Styrene-Butadiene Rubbers,Macromolecures,米国,American Chemical Society,2012年,vol.45,p.9267-9274
【文献】Juan Urbano et al,Catalytic Cyclopropanation of Polybutadienes,Jounal of Polymer Science,米国,Wiley Online Library,2010年,vol.48,p.4439-4444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムポリマーを官能化するための方法であって、式Tp
xAgの触媒の存在下で、ゴムポリマーとナイトレンまたはカルベンの少なくとも1つの供給源とを反応させることを含み、前記Tp
xがトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す、前記方法。
【請求項2】
ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子Tp
xが以下の式を有する、請求項1に記載の方法
【化1】
[式中、Ra、RbおよびRcは独立して、H、ハロゲン、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
3-7シクロアルキル、C
6-10アリール、ハロゲンで置換されたC
6-10アリール、およびC
1-6アルキルで置換されたC
6-10アリールから選択される。]。
【請求項3】
前記ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子Tp
xが、ヒドロトリス(3,4,5-トリブロモピラゾリル)ボレート、ヒドロトリス(3-フェニル-ピラゾリル)ボレート、ヒドロトリス(3,5-ジメチル-4-ブロモピラゾリル)ボレート、ヒドロトリス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)-4-ブロモピラゾリル)ボレートおよびヒドロトリス(3,5-ジメチル-ピラゾリル)ボレートからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゴムポリマーが、共役ジエンおよびアルケニル芳香族モノマーを含む任意に水素化されたコポリマー、または任意に水素化されたジエンホモポリマー、または共役ジエンモノマーを含むコポリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ゴムポリマーが、ポリブタジエン、ポリイソプレン、イソプレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロックコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエントリブロックコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマーおよびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナイトレンの少なくとも1つの供給源が、PhINSO
2(C
6H
4)R
1、NaClNSO
2(C
6H
4)R
1およびN
3SO
2(C
6H
4)R
1からなる群から選択され、前記R
1が独立して、H、C
1-6アルキル、C
3-7シクロアルキル、C
6-10アリール、I、Br、Cl、F、NO
2、CF
3、OR
3、COOR
3、OCOR
3およびNR
3
2から選択され、前記R
3がそれぞれ独立して、H、C
1-6アルキル、C
3-7シクロアルキルおよびC
6-10アリールから選択され、かつ/または前記カルベンの少なくとも1つの供給源がN
2CHCO
2RおよびN
2C(R’)CO
2Rからなる群から選択され、前記RがC
1-6アルキル、C
3-7シクロアルキルおよびC
6-10アリール基から選択され、かつR’がC
1-6アルキルまたはC
6-C
12アリール基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が120℃未満の温度で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの基-NH
nSO
2(C
6H
4)R
1で官能化されたゴムポリマーであって、
前記R
1はそれぞれ独立して、H、C
1-6アルキル、C
3-7シクロアルキル、C
6-10アリール、I、Br、Cl、F、NO
2、CF
3、OR
3、COOR
3およびOCOR
3から選択され、前記R
3は独立して、H、C
1-6アルキル、C
3-7シクロアルキルおよびC
6-10アリールから選択され、前記nは0または1であ
り、前記ゴムポリマーが共役ジエンおよびアルケニル芳香族モノマーを含む任意に水素化されたコポリマーである、前記官能化ゴムポリマー。
【請求項9】
多分散指数が3未満である請求項8に記載の官能化ゴムポリマーであって、前記多分散指数がM
w/M
nの結果であり、前記M
wが重量平均モル質量であり、前記M
nが数平均モル質量であり、前記M
wおよびM
nがゲル浸透クロマトグラフィーによって決定される、前記官能化ゴムポリマー。
【請求項10】
スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-ブタジエン-イソプレンコポリマーおよびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーからなる群から選択される、請求項8または9に記載の官能化ゴムポリマー。
【請求項11】
前記官能化ゴムポリマーの総重量に対して、0.1~5重量%の-NH
n
SO
2
(C
6
H
4
)R
1
部分を含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の官能化ゴムポリマー。
【請求項12】
ゴムポリマーの官能化における式Tp
xAgの触媒の使用であって、前記Tp
xがヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す、前記使用。
【請求項13】
アスファルト組成物、タイヤ組成物、接着剤組成物、タイ層組成物、シーラント組成物、コーティング組成物、強化組成物、オーバーモールド組成物、プラスチック衝撃改質、エンジニアリングプラスチックブレンド相溶化、繊維および不織布組成物、ナノ材料、医療機器、ケーブル組成物、およびリチウムイオン二次電池の電極用バインダーにおける、請求項8~11のいずれか一項に記載の官能化ゴムポリマーの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能化ゴムおよび製造方法の分野に関する。より具体的には、本発明は、ナイトレンおよび/またはカルベン基の金属触媒添加による水素化および非水素化ゴムの化学修飾、ならびに、特に接着剤、プラスチック衝撃改質、プラスチックブレンド相溶化、アスファルト改質、ナノ材料における、およびとりわけタイヤ用コンパウンドにおけるそれらの使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン-ブタジエン合成ゴムは、スチレンおよびブタジエンに由来するポリマー材料を含む。これらのゴムは、ランダムに分布したスチレンおよびブタジエンモノマー(SBR)のポリマー鎖を含み得るが、ホモポリマーおよびブロックコポリマーを含む材料でもあり得る。SBSトリブロックコポリマーは、スチレンモノマーのポリマー鎖、それに続くブタジエンモノマーのポリマー鎖、同様にそれに続くスチレンモノマーの別のポリマー鎖からなる。ブタジエンモノマーの水素化、すなわちジエンの二重結合の単結合への変換により、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンのブロックコポリマーであるSEBSとして知られているものがもたらされる。
【0003】
共役ジエンおよびアルケニル芳香族基を含む、スチレン-ブタジエンまたはスチレン-イソプレンのトリブロックコポリマーまたはペンタブロックコポリマー等のポリマーはすでに市販されており、接着剤、靴底およびポリマー改変等の多くの用途において使用されている。
【0004】
ゴム材料の機械的挙動により、その産業用途が決定される。例えば、応力下での変形の程度は、特定の高分子材料の可能な用途を決定するために重要であり得る。この挙動は、組成、分子量、分子量分布等のポリマーの物理化学的特性に依存する。この意味で、ポリマー鎖において極性基が存在することは、接着性や溶剤耐性等の他のポリマー特性にも影響を与える特徴であり、界面および形態の改変を通じて材料の性能を向上させる戦略として、ポリマーのブレンドにおいて特に重要である。
【0005】
SBSおよびSEBS材料は非極性材料である。そのため、通常はより極性である高いエンジニアリングプラスチックと共にゴム材料を含む相溶性のある組成物を入手することは困難であることが多い。極性基を有するポリマー基材の官能化は、それらの表面エネルギー、機械的特性、極性、親水性または疎水性、親油性または疎油性等の改変を可能にする既知の方法である。この方法は、エンジニアリングプラスチックの衝撃改質、工業用プラスチックまたはシリカ等の非混和性材料とのポリマー基板の相溶化、接着剤、コーティング、自動車タイヤに好適な組成物等の用途において活用され得る。
【0006】
しかしながら、極性基によるポリマー基材の官能化は、通常、そのプロセスにより鎖架橋反応または鎖切断反応等の好ましくない二次反応を引き起こすため、依然として困難な作業である。
【0007】
アニオン重合によって官能化ポリマーを得るいくつかの方法が存在している。それらの中で、求電子試薬によりリビングポリマー、特にアルキルリチウム開始リビングポリマーを終わらせる方法論は、おそらく最も有用である。しかしながら、この方法では、しばしば不完全な機能化反応や副産物が引き起こされる(Anionic Polymerization: Principles and Practical Applications”, Hsieh, H.L., Quirk, Roderic P., Marcel Dekker Inc, New York, 1996, page 262)。したがって、ポリマーを官能化するためのより良い方法の開発が不可欠である。
【0008】
リビングアニオン重合において官能化開始剤を使用することは、鎖末端官能化ポリマーを得るための別の方法である。ジメチルアミノプロピルリチウムまたは(3-(t-ブチルジメチルシロキシ)プロピル)リチウム等のリチウム含有開始剤が開示されている(米国特許第5,552,753号;米国特許第6,197,891号)。これらの種類の開始剤によってもたらされる官能基は、アニオン重合条件下で安定ではなく;したがって、それらは、重合中に安定である他の基、例えばアルキル基によって保護される。官能化ポリマーを得るために、最終的な脱保護工程が必要である。この方法の明らかな欠点は、追加の保護および脱保護反応を行う必要があることにある。
【0009】
官能化開始剤の使用、および官能基によるリビングポリマーの終結の両方により、各ポリマー分子、すなわちその最初および/または最後の末端に、限られた数の官能基を組み込むことができる。
【0010】
これに関連して、鎖末端官能基の存在は、ポリマーの表面および界面特性に影響を与える可能性がある(Lo Verso, F., Likos, C.N., Polymer, 2008, 49, 1425-1434)。しかしながら、ポリマーのバルクの物理的特性を変更したり、より高密度の官能基を組み込んだりするためには、それらをポリマー鎖に沿った繰り返し単位に組み込む必要がある(鎖内官能化)。
【0011】
鎖内官能化ポリマーを得るための効率的な方法はこれまでほとんど知られていない。市販されている鎖内官能化ポリマーは、通常、フリーラジカル開始剤の存在下での反応性溶融押出によって製造されてきた。プロセス中に鎖架橋および鎖切断の副反応が頻繁に起こるため、この方法は効率的ではない。ポリマーの官能化におけるラジカル開始剤の使用により生じる問題としては、ポリマー鎖における官能基の量および位置を制御することの難しさ、ならびにポリマー骨格をしばしば不利に改変または分解する二次架橋および切断反応が挙げられる。
【0012】
鎖内官能化ポリマーを合成する別の方法は、陰イオン重合における官能化モノマーの使用である。このアプローチに関する主な問題は、新しい官能基ごとに新しいモノマーを最初に準備する必要があることにある。さらに、多くの重要な官能基は、有機リチウム化合物に対して安定ではない。したがって、重合反応中に安定である適切な保護基によって官能基を保護することがしばしば必要である。この方法には、それに続く脱保護反応によって保護基を除去しなければならないという欠点がある。上記に加えて、これらのモノマーが保護された官能基によって官能化されている場合であっても、モノマーは制御された方法でのみ重合して、一般に-78℃でTHF中で明確なポリマーを形成することができる(Nakahama, S.; Hirao, A. Prog. Polym. Sci. 1990, 15, 299)。要約すると、官能基ごとに新しいモノマーが関与するこれらの手法には、一般的な重合プロセスと比較して、2つの追加の工程があり;モノマーへの保護基の導入と脱保護工程を行う必要性、および低い反応温度/極性溶媒という必須条件という明らかな欠点がある。工業的なプロセスにおいて陰イオン重合は一般に室温以上で炭化水素溶媒中で行われ、費用がかかり、時間のかかる非効率的な後重合工程の導入は好ましくは回避されるため、これらの条件は商業的なプロセスにおいて経済的に実現可能ではない。
【0013】
Gonzalez, L. et al. (Rubber Chem Technol, 1996, 69, 266-272)には、カーボンブラックとの相溶化のためにSBRを官能化する代替的な方法が開示されている。この方法は、4-アミノベンゼンスルホニルアジドのナイトレン熱付加を介したSBRのブタジエン鎖の官能化で構成されている。しかしながら、この方法では、アジド分解時にナイトレン基をその場で生成するために150℃を超える温度が必要となる。高温はSBR加硫プロセスにつながり、それによりポリマー鎖の架橋密度が高まる。したがって、そのような熱官能化プロセスは、架橋副反応に起因してSBR材料の剛性が高まるという望ましくない付随的効果を伴う。さらに、SBRポリマー鎖の官能化レベルおよび選択性を制御することもできない。
【0014】
WO2016/170019には、モノアジドを用いて80~250℃の温度でSBRおよびポリオレフィンポリマーを官能化するためのプロセスが開示されている。しかしながら、このプロセスでは、ゴムポリマーの選択的な官能化は可能ではなく、高温下での反応を必要とし、架橋副反応を引き起こす。
【0015】
したがって、架橋等のゴム鎖に影響を与える望ましくない付随的な反応という欠点を伴うことなく、他の材料との相溶性を改善するゴム官能化プロセスの必要性が存在する。
【0016】
Beltran A. et al. (Macromolecules, 2012, 45 (23), 9267-9274)の研究において、室温におけるカルボン酸極性基によるSBRゴムの官能化が開示されている。この反応は、銅触媒ヒドロトリス(3,4,5-トリブロモピラゾリル)ボレート(TpBr3Cu)の存在下におけるジアゾ酢酸エチルからのカルベン基のその場での触媒的形成からなる。ジアゾ酢酸エチルは触媒と反応して、ブタジエンモノマーの二重結合にカルベンが付加される金属-カルベン種を生成する。しかしながら、銅触媒は除去が非常に難しく、保存時に酸化や副反応が起こるため、得られるゴムは時間とともに安定でなくなる。
【0017】
したがって、当技術分野においては、架橋反応または鎖切断反応等のゴム鎖に影響を与える望ましくない付随的な反応という欠点を伴うことなく、他の材料との相溶性を改善する経済的で用途の広いゴム官能化プロセスが必要である。ゴムの相溶性の向上は、極性材料とのブレンドおよびいくつかの組成物におけるそれらの工業的用途への道を開く。
【発明の概要】
【0018】
本発明の著者は、驚くべきことに、ゴムポリマー鎖へのナイトレンおよび/またはカルベンの付加が可能であり、それにより鎖切断または架橋等の二次反応を伴うことなく選択的なゴム官能化がもたらされることを見出した。本発明者らはさらに、本発明の方法により、相溶化特性が改善されたゴムが製造されることを見出した。これらおよびさらなる利点は、以下で詳細に説明され、特許請求の範囲により定義される。
【0019】
したがって、本発明によれば、いくつかの官能基を、制御された方法で、ポリマー鎖に沿って(鎖内官能化)、所望の量で、所望の部位または位置に、かつ所望の種類を、ジエンホモポリマーおよびコポリマー、ならびにアルケニル芳香族ジエンコポリマーに導入する一般的な方法が提供され、前記ホモポリマーまたはコポリマーは、水素化または非水素化されている。さらに、本発明のいくつかの変形例によれば、ポリマーは、鎖末端官能化されていてもよい。
【0020】
したがって、第1の態様では、本発明は、式TpxAgの触媒の存在下で、ゴムポリマーとナイトレンまたはカルベンの少なくとも1つの供給源とを反応させる工程を含み、Tpxがヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す、ゴムポリマーを官能化するための方法に関する。
【0021】
本発明の第2の態様は、少なくとも1つの基-NHnSO2(C6H4)R1で官能化され、R1がそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリール、I、Br、Cl、F、NO2、CF3、OR3、COOR3、OCOR3から選択され、R3が独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリールから選択され、nが0または1であるゴムポリマーに関する。
【0022】
本発明の第3の態様は、本発明の方法によって得られるゴムポリマーに関する。
【0023】
本発明の第4の態様は、ゴムポリマーの官能化における式TpxAgの触媒の使用であって、Tpxがヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す使用に関する。
【0024】
最後に、本発明の第5の態様は、アスファルト組成物、タイヤ組成物、接着剤組成物、タイ層組成物、シーラント組成物、コーティング組成物、強化組成物、オーバーモールド組成物、プラスチック衝撃改質、エンジニアリングプラスチックブレンド相溶化、繊維および不織布組成物、ナノ材料、医療機器、ケーブル組成物、およびリチウムイオン二次電池の電極用バインダーにおける本発明の官能化ゴムポリマーの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明のこれらおよび他の特徴および利点は、図面を参照するとともに、単なる例として挙げられ、それに限定されない好ましい実施形態から明らかになる本発明の詳細な説明を考慮して明確に理解されるであろう。
【0026】
【
図1】SEBS等の飽和ゴムの官能化の代表的な反応スキーム。
【
図2】SBS、SBR等の不飽和ゴムの官能化の代表的な反応スキーム。
【
図3】内部標準としてナフタレンを使用した、NT基が付加されたSEBSの官能化サンプルの
1HNMRスペクトル。
【
図4】上:出発材料SEBSのGPC。下:NT官能化された官能化SEBSのGPC。
【
図5】3つの比較サンプルと本発明のサンプルの25℃(上)および-30℃(下)でのノッチ付きシャルピー衝撃。
【発明の詳細な説明】
【0027】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語および表現は、本開示が属する当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。
【0028】
本発明の方法
本発明の第1の態様は、式TpxAgの触媒の存在下で、ゴムポリマーとナイトレンまたはカルベンの少なくとも1つの供給源とを反応させる工程を含み、TpxAgがヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す、ゴムポリマーを官能化するための方法に関する。
【0029】
本発明の反応は触媒反応であり、触媒TpxAgは、それぞれ、ナイトレンまたはカルベンの供給源から、寿命が非常に短い中間体である金属-ナイトレンTpxAg=NR種または金属-カルベンTpxAg=CR2種を生成する。
【0030】
特定の理論に拘束されることを望まないが、本発明の方法において、反応は、ナイトレンまたはカルベンがゴムポリマー鎖の炭素対水素の共有結合に挿入し得るナイトレンまたはカルベンのC-H挿入を介して起こるか、またはナイトレンまたはカルベンの二重結合への付加による3員環の形成を介して起こると考えられる。
【0031】
「ナイトレンまたはカルベンの供給源」は、金属触媒の存在下で金属-ナイトレン種または金属-カルベン種の形成をもたらす反応物として理解される。ナイトレン供給源の非限定的な例は、PhINSO2(C6H4)R1、NaClNSO2(C6H4)R1およびN3SO2(C6H4)R1であり、R1は独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリール、I、Br、Cl、F、NO2、CF3、OR3、COOR3、OCOR3およびNR3
2から選択され、R3はそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキルおよびC6-10アリールから選択される。
【0032】
好ましい実施形態において、ナイトレン供給源はイミノフェニルヨードナンであり;好ましくは、上記で定義された式PhINSO2(C6H4)R1の化合物である。
【0033】
一つの実施形態において、上記で定義されたナイトレン供給源におけるR1は、C1-6アルキルであり;好ましくはC1-3アルキルである。より好ましくは、R1はメチル基である。
【0034】
特定の場合において、ナイトレン供給源はPhINTsであり、Tsはトシル基として知られる-SO2-トリル基を表す。
【0035】
カルベン供給源の非限定的な例は、N2CHCO2RおよびN2C(R’)CO2Rであり、Rは、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキルおよびC6-10アリール基から選択される。好ましくは、RはC1-6アルキルであり;より好ましくはC1-3アルキル基であり;より一層好ましくは、Rはエチルである。R’はC1-6アルキルまたはC6-C12アリール基である。
【0036】
一つの実施形態において、ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子であるTp
xは、下記の式を有する
【化1】
[式中、Ra、RbおよびRcは独立して、H、ハロゲン、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
3-7シクロアルキル、C
6-10アリール、ハロゲンで置換されたC
6-10アリール、およびC
1-6アルキルで置換されたC
6-10アリールから選択される。]。
【0037】
特定の実施形態において、Ra、RbおよびRcは独立して、H、Br、Cl、Me、Et、iPr、tBu、CF3、Cy、Phおよびp-Cl-C6H4から選択される。
【0038】
特定の実施形態において、ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子であるTpxは、ヒドロトリス(3,4,5-トリブロモピラゾリル)ボレート(TpBr3)、ヒドロトリス(3-フェニル-ピラゾリル)ボレート(TpPh)、ヒドロトリス(3,5-ジメチル-4-ブロモピラゾリル)ボレート(Tp*,Br)、ヒドロトリス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)-4-ブロモピラゾリル)ボレート(Tp(CF3)2,Br)およびヒドロトリス(3,5-ジメチル-ピラゾリル)ボレート(Tp*)からなる群から選択される。
【0039】
特定の実施形態において、本発明の方法において触媒は、前駆体TpxAgLの形態で使用され、Lは、アセトニトリル、THFまたはアセトン等の非プロトン性溶媒から選択される配位子である。この場合、L配位子は最初に解離し、活性触媒TpxAgになる。
【0040】
本発明の方法において使用されるゴムポリマーは、共役ジエンおよびアルケニル芳香族モノマーを含む水素化もしくは非水素化コポリマー、または共役ジエンモノマー、好ましくはブタジエンを含むジエンホモポリマーもしくはコポリマーのいずれかとして理解される。非水素化の意味は当技術分野で周知であるが、本明細書では、上記のモノマーの共重合または単独重合から生じ、ジエン不飽和の水素化を受けていないゴムポリマーとしてさらに明確にされる。
【0041】
特定の実施形態において、ゴムポリマーは水素化されている。別の特定の実施形態において、ゴムポリマーは水素化されていない。
【0042】
特定の実施形態によれば、水素化コポリマーの場合、ポリマーの元のジエン不飽和の少なくとも50%、好ましくは85%超、より好ましくは95%超が水素化されている。別の特定の実施形態によれば、芳香族単位の1%未満が水素化されている。ゴムポリマーの水素化は、赤外線分光法(IR)や核磁気共鳴(NMR)等の様々な分析技術によってモニタリングされ得る。
【0043】
本発明の方法において使用されるゴムポリマーを形成するアルケニル芳香族モノマーの非限定的な例としては、スチレン、ビニルピリジン(2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等)、ビニルナフタレン(1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等)、1,2-ジフェニル-4-メチルヘキセンおよびそれらの混合物が挙げられる。アルケニル芳香族モノマーは、好ましくはC1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-15アリールおよびC1-6アルキル(C6-10)アリールからなる群から選択される1つ以上の置換基で任意に置換され得る。
【0044】
置換アルケニル芳香族モノマーの代表的な例としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、3-メチルスチレン、3,5-ジエチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-フェニルスチレン、4-p-トリルスチレン、4-(tert-ブチル)-スチレン、2,4-ジビニルトルエン、1-α-メチルビニルナフタレン、2-α-メチルビニルナフタレン、4,5-ジメチル-1-ビニルナフタレン、シリル化スチレンおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0045】
好ましい実施形態において、アルケニル芳香族モノマーは、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、3,5-ジエチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-フェニルスチレン、4-p-トリルスチレン、4-(tert-ブチル)-スチレン、シリル化スチレン等の任意に置換されたスチレン基、およびそれらの混合物から選択される。より好ましくは、アルケニル芳香族モノマーはスチレンである。
【0046】
本発明の方法において使用されるゴムポリマーを形成する共役ジエンモノマーの非限定的な例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-3-エチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-エチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチル-1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、3-メチル-1,3-ヘプタジエン、1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、3-n-プロピル-1,3-ペンタジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、2,4-ジエチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジ-n-プロピル-1,3-ブタジエン、2-メチル-3-イソプロピル-1,3-ブタジエン、ファルネセン、ミルセンおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0047】
好ましい実施形態において、共役ジエンモノマーは、1,3-ブタジエンまたはイソプレンから選択される。より好ましくは、共役ジエンモノマーは1,3-ブタジエンである。
【0048】
本発明の方法において使用されるポリマーの一部を形成する異なるモノマーは、任意のモノマー配列(ブロック、テーパーもしくはランダムまたはそれらの組み合わせ)に配置し得る。
【0049】
また、本発明の方法において使用されるポリマーは、直鎖状または分岐鎖状であり得る。分岐鎖状ポリマーとしては、グラフトポリマー、星型ポリマー、ブラシ型コポリマーおよびくし型コポリマーが挙げられる。
【0050】
好ましくは、本発明の方法において使用されるゴムポリマーは、スチレン、ブタジエンまたはイソプレンのモノマー単位を含むコポリマー、またはジエンモノマー単位を含むジエンホモポリマーまたはコポリマーである。より好ましくは、本発明の方法において使用されるゴムポリマーは、ポリブタジエン(PBR)、ポリイソプレン、イソプレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー(SBR)、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-ブタジエン-スチレントリブロックコポリマー(SBS)、スチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマーおよびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマー(SEBS)からなる群から選択される。好ましい実施形態において、スチレン-ブタジエンコポリマー(SBR)は、スチレン-ブタジエンランダムコポリマーまたはテーパーブロックコポリマーである。
【0051】
ゴムポリマー中のスチレン、ブタジエンまたはイソプレンのモノマー単位の相対量は、本発明の方法の目的のために、最終製品の特定の必要性に応じた任意の適切な量であり得る。
【0052】
特定の実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%を超えるスチレンモノマー単位を含む。好ましい実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、85または90%を超えるスチレンモノマー単位を含む。
【0053】
特定の実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%を超えるブタジエンモノマー単位を含む。好ましい実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、85または90%を超えるブタジエンモノマー単位を含む。
【0054】
特定の実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%を超えるイソプレンモノマー単位を含む。好ましい実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、85または90%を超えるイソプレンモノマー単位を含む。
【0055】
別の特定の実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して90、80、70、60、50、40、30、20または10%未満のスチレンモノマー単位を含む。
【0056】
別の特定の実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して90、80、70、60、50、40、30、20または10%未満のブタジエンモノマー単位を含む。
【0057】
別の特定の実施形態において、ゴムポリマーは、ポリマー中のモノマーの総数に対して90、80、70、60、50、40、30、20または10%未満のイソプレンモノマー単位を含む。
【0058】
共役ジエンモノマーおよびアルケニル芳香族モノマーを含むコポリマーゴムは、通常、2重量%~50重量%のスチレン等のアルケニル芳香族モノマー、および50重量%~98重量%の1,3-ブタジエン等の共役ジエンモノマーを含む。
【0059】
本発明の方法は、鎖切断、鎖架橋または酸化等の望ましくない副反応を伴うことなく官能化ゴムポリマーを製造することを可能にするという驚くべき利点を有する。したがって、本発明の方法は、ゴムポリマーの多分散指数(PDI)を変更しない。換言すれば、本発明の方法において、使用されるゴムポリマーのPDIは、得られる官能化ゴムポリマーのPDIの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%である。好ましい実施形態において、使用されるゴムポリマーのPDIは、得られる官能化ゴムポリマーのPDIと等しいか、または実質的に同じである。
【0060】
当業者はPDI(多分散指数)の意味を容易に理解し、これはMw/Mnの結果として本明細書でさらに明確にされ、Mwはポリマーの分子量分布の重量平均モル質量であり、Mnはポリマーの分子量分布の数平均モル質量である。均一なポリマーは同じ質量の分子で構成され、そのためPDI値は1であるのに対し、不均一なポリマーまたは分散ポリマーは、1より大きいPDI値によって特徴付けられる。ポリマーのPDI値が高いほど、上記のポリマーがより分散する。
【0061】
本開示において、重量平均モル質量Mwは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法によって決定される。また、本開示において、数平均モル質量Mnも同様の方法によって決定される。
【0062】
特定の実施形態において、本発明の方法は銅を使用しない。これは、得られる官能化ポリマーが貯蔵時に酸化反応を受けないというさらなる利点を有する。
【0063】
特定の実施形態において、本発明の方法は、加熱を必要とすることなく官能化反応を引きこす、すなわち反応が加熱されずに室温で反応が引き起こされるものである。好ましい実施形態において、本発明の方法は、120℃以下、好ましくは90℃以下、好ましくは80℃以下、好ましくは0~50℃、より好ましくは10~40℃、より一層好ましくは15~35℃の温度で行われる。
【0064】
特定の実施形態において、本発明の方法は溶液中で行われる。一つの実施形態において、反応は、有機溶媒、例えばシクロヘキサン、ジクロロエタン、ジクロロメタン、n-ヘキサン、ペンタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル等の炭化水素溶媒およびハロゲン置換炭化水素溶媒、およびそれらの混合物の存在下で行われる。
【0065】
本発明の方法において、触媒とナイトレンまたはカルベン供給源分子との間のモル比は1:100~1:10、好ましくは1:75~1:20、より好ましくは1:75~1:30である。
【0066】
ナイトレンまたはカルベン供給源の量は、所望の官能化速度に応じて変化し得る。特定の実施形態において、ナイトレン/カルベン供給源とゴムポリマーとの間のモル比は1:100~1:3、好ましくは1:50~1:5、より好ましくは1:30~1:5である。
【0067】
当業者であれば、官能化が行われるために必要な反応時間を容易に特定するであろう。
【0068】
特定の実施形態において、本発明の方法は、最小で1、5、10、30または60分を必要とする。別の特定の実施形態において、本発明の方法は、最小で2、4、6、8、10、12、14、18、24または48時間を必要とする。
【0069】
別の特定の実施形態において、本発明の方法は、不活性雰囲気を必要とする。そのような例は、窒素雰囲気およびアルゴン雰囲気である。
【0070】
一つの実施形態において、反応が完了した後、官能化ゴムポリマーが有機溶媒から回収される。例えば、デカンテーション、濾過、遠心分離、および当業者に公知の他の手段による。本発明の方法の特定の実施形態において、粗官能化ポリマーは、その沈殿をもたらす極性溶媒の添加によって単離される。好適な極性溶媒の例は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、t-ブタノール等の1~4個の炭素原子を含む低級アルコールおよびそれらの混合物である。
【0071】
特に、本明細書に記載の方法においては、官能基は重合後の工程において導入されるため、アニオン重合プロセス中にアニオン成長鎖に対する干渉を回避するために官能基を保護する必要はない。したがって、先行技術、例えば機能性モノマーの使用に対する本発明の利点の1つは、アニオン重合中の官能化プロセスにおける2つの典型的な工程:重合前の官能基の保護および重合後のそれらの脱保護を排除することにある。
【0072】
本発明のさらなる利点は、使用されるナイトレンまたはカルベンの供給源に応じて、いくつかの官能基または官能価を導入する可能性を提供することにある。さらに、本発明の方法において起こる反応は副反応を伴わない単なる付加であるため、基本的なポリマー構造(モノマーの含有量および分布、構造および分子量分布)は変化しない。
【0073】
特定の理論に拘束されることを望まないが、SEBS等の飽和ゴムにおいては、主な反応部位は三級C-H結合であり、それぞれ対応する-NHRまたは-CH
2CO
2R基に変換されると考えられる(
図1を参照)。また、ゴムがSBSやSEBR等の不飽和ゴムである場合、主な反応部位は二重C=C結合であると考えられ、対応するアジリジンまたはシクロプロパンに変換される(
図2を参照)。実施例およびGPCデータにおいて示されるように、架橋プロセスは観察されない。これは、ゴムポリマーが熱誘導ラジカル反応条件下で官能化され、それにより架橋および鎖切断による副生成物がもたらされる従来技術の方法とは対照的である。
【0074】
本発明の官能化ポリマー
本発明の第2の態様は、少なくとも1つの基-NHnSO2(C6H4)R1で官能化されたゴムポリマーであって、R1がそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリール、I、Br、Cl、F、NO2、CF3、OR3、COOR3、OCOR3およびNR3
2から選択され、R3がそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリールから独立して選択され;かつnが0または1であるゴムポリマーに関する。0の値はアジリジン官能基の形成に対応する。
【0075】
好ましい実施形態において、R1は、C1-6アルキル、I、Br、Cl、F、COOH、COO-C1-6アルキルまたはそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、フェニル芳香環は、C1-6アルキル、I、Br、Cl、F、COOH、COO-C1-6アルキルからなる群から選択されるR1置換基で置換されている。
【0076】
特定の実施形態において、nは1である。
【0077】
さらに別の特定の実施形態において、nは0である。
【0078】
特定の実施形態において、官能化ゴムポリマーは、官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.01~20重量%の-NHnSO2(C6H4)R1部分を含み、R1は上記で定義された通りである。この文脈において、部分という用語は、官能基と同様に解釈され、ナイトレン供給源との反応により生じたそれらの基を識別するために使用される。好ましくは、官能化ゴムポリマーは、官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.01~5重量%の-NHnSO2(C6H4)R1部分、より好ましくは0.01~2重量%の-NHnSO2(C6H4)R1部分を含む。
【0079】
好ましい実施形態において、官能化ゴムポリマーは、3未満、2未満、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.3未満、より一層好ましくは1.2未満の多分散指数(PDI)によって特徴付けられる。
【0080】
本発明の方法において使用されるゴムポリマーと同様に、官能化ゴムポリマーは、共役ジエンおよびアルケニル芳香族モノマーを含む水素化もしくは非水素化コポリマー、または共役ジエンモノマーを含むジエンホモポリマーもしくはコポリマーのいずれかと理解される。
【0081】
特定の実施形態において、官能化ゴムポリマーは水素化されている。別の特定の実施形態において、官能化ゴムポリマーは水素化されていない。
【0082】
特定の実施形態によれば、官能化ポリマーの元のジエン不飽和の少なくとも50%、好ましくは85%超、より好ましくは95%超が水素化されている。別の特定の実施形態によれば、1%未満の芳香族単位が水素化されている。
【0083】
アルケニル芳香族モノマー、共役ジエンモノマーおよびゴムポリマーの適切で好ましい実施形態は、本発明の方法に関して上記で定義された通りである。本発明において、開示されたポリマーの分子量は、分布ピークにおける分子量Mpに関連する。本発明のポリマーの分子量は、要件に応じて調整され、かつ重合されたモノマーの量を変えることにより調整することができるが、通常、分布ピークにおける分子量Mpは、約1,000g/mol~約10,000,000g/molである。好ましくは、ポリマーのMpは、約5,000g/mol~約500,000g/mol、より好ましくは20,000~400,000g/molの範囲である。本発明の方法により合成されるポリマーの分子量は、GPC法によって簡便に測定される。
【0084】
本発明の第3の態様は、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーに関する。
【0085】
特定の実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、-NHnSO2(C6H4)R1および-CHn+1R2から選択される少なくとも1つの基を含み、R1はそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリール、I、Br、Cl、F、NO2、CF3、OR3、COOR3、OCOR3およびNR3
2から選択され、R3はそれぞれ独立して、H、C1-6アルキル、C3-7シクロアルキル、C6-10アリールから選択され;R2はそれぞれ独立して-CO2Rから選択され、RはC1-6アルキル、C3-7シクロアルキルおよびC6-10アリール基であり、nは0または1である。0の値は、アジリジンまたはシクロプロパン官能基の形成に対応する。
【0086】
好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、-NHnSO2(C6H4)R1から選択される少なくとも1つの基を含み、R1およびnは上記で定義された通りである。
【0087】
好ましい実施形態において、R1は、C1-6アルキル、I、Br、Cl、F、COOH、COO-C1-6アルキルまたはそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、フェニル芳香環は、C1-6アルキル、I、Br、Cl、F、COOH、COO-C1-6アルキルからなる群から選択されるR1置換基で置換されている。
【0088】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、-CHn+1R2から選択される少なくとも1つの基を含み、R2およびnは上記で定義された通りである。
【0089】
別の好ましい実施形態において、RはC1-3アルキル基である。
【0090】
別の好ましい実施形態において、R2は-CO2Etである。
【0091】
特定の実施形態において、nは1である。
【0092】
さらに別の特定の実施形態において、nは0である。
【0093】
特定の実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.01~20重量%の-NHnSO2(C6H4)R1部分を含み、R1は上記で定義された通りである。この文脈において、部分という用語は、官能基と同様に解釈され、ナイトレン供給源との反応により生じたそれらの基を識別するために使用される。好ましくは、官能化ゴムポリマーは、官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.01~5重量%の-NHnSO2(C6H4)R1部分、より好ましくは0.01~2重量%の-NHnSO2(C6H4)R1部分を含む。
【0094】
別の好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.01~20重量%の-CHn+1R2を含み、R2は上記で定義されたとおりである。この文脈において、部分という用語は、官能基と同様に解釈され、カルベン供給源との反応により生じたそれらの基を識別するために使用される。好ましくは、官能化ゴムポリマーは、官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.01~5重量%の-CHn+1R2部分、より好ましくは0.01~2重量%の-CHn+1R2部分を含む。
【0095】
好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、3未満、2未満、好ましくは1.5未満、より好ましくは1.3未満、より一層好ましくは1.2未満の多分散指数(PDI)によって特徴付けられる。
【0096】
一つの実施形態において、特に本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、特にポリマーの構造に埋め込まれているかまたは閉塞されている、上記の触媒TpxAgを含む。一つの実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、銀イオン、特にAg(I)、Ag(II)またはAg(III)イオンを含み、特にポリマーの構造に埋め込まれるかまたは閉塞される。触媒または銀イオンの量は、埋め込まれているかまたは閉塞されている触媒または銀イオンを含む官能化ゴムポリマーの総重量に対して0.1~5重量%の範囲であり得る。別の実施形態において、本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、特にポリマーの構造に埋め込まれているかまたは閉塞されている銅イオンを含まない。
【0097】
本発明のゴムポリマーに関連するすべての開示された実施形態および特許請求の範囲は、本発明の方法によって得られるゴムポリマーにも適用可能であると解釈される。
【0098】
使用および用途
本発明者らは、驚くべきことに、Tpxがヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す式TpxAgの触媒が、ゴムポリマーの官能化においていくつかの利点を有することを見出した。したがって、本発明は、新規のポリマーおよびそれらの合成方法に限定されず、それらの使用および用途も含む。
【0099】
このように、本発明の第4の態様は、ゴムポリマーの官能化における式TpxAgの触媒の使用に関するものであり、Tpxはヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子を表す。
【0100】
一つの実施形態において、ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子であるTp
xは、下記の式を有する
【化2】
[式中、Ra、RbおよびRcは独立して、H、ハロゲン、C
1-6アルキル、C
1-6ハロアルキル、C
3-7シクロアルキル、C
6-10アリール、ハロゲンで置換されたC
6-10アリール、およびC
1-6アルキルで置換されたC
6-10アリールから選択される。]。
【0101】
特定の実施形態において、Ra、RbおよびRcは独立して、H、Br、Cl、Me、Et、iPr、tBu、CF3、Cy、Phおよびp-Cl-C6H4から選択される。
【0102】
本発明の第4の態様の特定の実施形態において、ヒドロトリス(ピラゾリル)ボレート配位子であるTpxは、ヒドロトリス(3,4,5-トリブロモピラゾリル)ボレート(TpBr3)、ヒドロトリス(3-フェニル-ピラゾリル)ボレート(TpPh)、ヒドロトリス(3,5-ジメチル-4-ブロモピラゾリル)ボレート(Tp*,Br)、ヒドロトリス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)-4-ブロモピラゾリル)ボレート(Tp(CF3)2,Br)およびヒドロトリス(3,5-ジメチル-ピラゾリル)ボレート(Tp*)からなる群から選択される。
【0103】
特定の実施形態において、触媒は、前駆体TpxAgLの形態で使用され、Lは、アセトニトリル、THFまたはアセトン等の非プロトン性溶媒から選択される配位子である。この場合、L配位子は最初に解離し、活性触媒TpxAgになる。
【0104】
本発明の第4の態様よって官能化されるゴムポリマーは、上記の通りである。特定の実施形態において、ポリマーは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、イソプレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、スチレン-イソプレンコポリマー、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-ブタジエンコポリマーおよびスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンコポリマーからなる群から選択される。
【0105】
以下の実施例に示されるように、本発明の方法により、特性が改善された官能化ゴムポリマーを得ることが可能になる。このようにして、本発明者らは、驚くべきことに、相溶性特性が改善されたゴムポリマーの製造方法を見出した。強化された物理的特性、ならびにポリマーの相溶性および極性は、得られる鎖内官能化ポリマーの重要な特性であり、非官能化ポリマーまたは鎖末端官能化ゴムポリマーに対しての利点を付与するものである。さらに、表面活性を改変することができ(高いまたは低い表面エネルギー)、接着性、混和性、分散性、または濡れ性の制御を改善したい用途において有用である。本発明の鎖内官能化ゴムポリマーが非官能化ポリマーと混合される場合、非官能化ポリマーの官能基とは異なる性質の官能基により、それらは混合物の表面に選択的に配置され、それにより少量の鎖内官能化ポリマーであっても表面特性が改変される。
【0106】
上記に関して、本発明の第5の態様は、アスファルト組成物、タイヤ組成物、接着剤組成物、タイ層組成物、シーラント組成物、コーティング組成物、強化組成物、オーバーモールド組成物、プラスチック衝撃改質、エンジニアリングプラスチックブレンド相溶化、繊維および不織布組成物、ナノ材料、医療機器、ケーブル組成物、およびリチウムイオン二次電池の電極用バインダーにおける、本発明の官能化ゴムポリマーの使用、または本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーの使用に関する。
【0107】
本発明の官能化ゴムポリマー、または本発明の方法によって得られる官能化ゴムポリマーは、接着剤組成物に使用することができる。接着剤組成物は、熱溶融性接着剤、溶剤型接着剤または反応性接着剤(ポリマーの鎖内官能基と反応することができる成分が意図的に添加される)であり得、光、UVおよび放射線硬化組成物も包含される。
【0108】
熱溶融性接着剤の場合、鎖内官能化ポリマー中に存在する官能基は樹脂および基材と相互作用し、樹脂との相溶性および基材との相互作用を改善し、粘着性、剥離性および剪断性が改善された接着剤が得られる。基材との相互作用は、水素結合の形成によって、またはポリマー中の官能基と基材との特定の相互作用によって改善される。鎖内官能化ポリマーが溶剤型接着剤に添加された場合も、同様の挙動が予想される。
【0109】
熱溶融性接着剤組成物は、粘着性付与樹脂、安定剤、可塑剤および酸化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含み得る。これらの用途のいくつかにおいて、約15~30重量部、より好ましくは約18~25重量部の本発明の鎖内官能化ポリマー物が、粘着性付与剤、安定剤、可塑剤および酸化防止剤等の従来の接着剤配合物の他の成分と混合され、これらの接着剤組成物に、官能基を導入せずに同じ種類のポリマーを使用して同じ組成で調製された接着剤と比較して改善された特性を付与する。好適な粘着性付与剤の例としては、ポリマーとの相溶性を有し、高いおよび低い軟化点を有する樹脂が挙げられる。これらには、水素化樹脂、コロフォニーエステル(colophony ester)、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂およびクマロン-インデン樹脂が含まれる。いくつかの例示的な様式において、組成物中の固着樹脂(fixing resin)の量は、約45~65重量%の範囲である。一般に、エクステンダー油(extender oil)として知られている可塑剤としては、鉱油、パラフィン油、ナフテン油が挙げられる。いくつかの例示的な様式において、組成物中の可塑剤の量は、約15~30重量%の範囲である。酸化防止剤は、通常は約0.05~3重量%の量で接着剤組成物に添加される。酸化防止剤の例としては、フェノール化合物およびチオ化合物が挙げられる。好ましい実施形態において、組成物は、約15~30重量%の粘着性樹脂、約15~30重量%の可塑剤、および約0.05~2重量%の酸化防止剤を含む。好ましい実施形態において、接着剤組成物は、複数の用途、例えば、包装用接着剤、ラベルおよび接着テープ、構造物において、また、使い捨て弾性物品の製造に使用される感圧接着剤として使用することができる。
【0110】
反応性接着剤の場合、鎖内官能化ポリマーは、光、放射線またはUV光によって反応または活性化することができる官能基を備えていることが求められる。接着剤配合物に配置された本発明のポリマーの官能基は、このようにして、基材または2つのポット接着剤のように接着剤配合物中に存在する別の化学物質と反応し得る。
【0111】
本発明の官能化ポリマーの別の用途は、本発明のポリマーを含むシーラント組成物である。
【0112】
本発明の官能化ポリマーの別の用途はコーティング組成物であり、本発明のポリマーは、ポリマーに付着した官能基に応じて、基材に付着するのを助け、かつ/またはコーティングされる表面をより疎水性または親水性にするのを助ける。
【0113】
さらに、本発明のポリマーは、材料を強化するため、または複合材料を製造するために有用であり、これは、これらのポリマーが強化材料または強化される材料と混合され得ることを意味する。強化される材料は、好ましくは、アスファルト、接着剤、プラスチック、タイヤおよびナノ材料からなる群から選択され得る。ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレンおよびそれらのコポリマーから選択されるプラスチックが強化される場合、良好な結果が得られる。強化された材料またはコンパウンドは、物品の製造に有用であり、例えば、押し出し成形品、射出成形品、圧縮成形品またはタイヤであり得る。
【0114】
官能化ポリマーの別の用途は、本発明のポリマーと混合されたアスファルトを含む改質アスファルトである。アスファルトは、アスファルトおよびポリマーの総重量に対して約1~25重量%のポリマーを含み得る。好ましくは、改質アスファルトは、約5~20重量%のポリマーを含む。本発明のポリマーにより改質されたこれらのアスファルト混合物は、道路、アスファルト膜等の用途において使用することができる。
【0115】
本発明の官能化ポリマーの別の用途は、本発明のポリマーと任意の性質のプラスチック、より好ましくはエンジニアリングプラスチックとの混合物を含む改質材料に関する。本発明のポリマーは、未使用のプラスチックに対して物理的特性、特に耐衝撃性を改善するために添加され得る。混合物は、典型的には、混合物の総重量に対して約0.01~90重量%、好ましくは約1~40重量%のポリマーを含む。一つの実施形態によれば、プラスチックは、好ましくはポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、およびスチレン、ブタジエンおよびイソプレンからなる群から選択されるモノマーから調製され、好ましくは分布ピークの平均分子量が約3,000~300,000g/molであるブロックまたは進行性のランダムコポリマーから選択される少なくとも1種のポリマーを含む。多種多様なエンジニアリングプラスチックを混合することができるが、エンジニアリングプラスチックは、好ましくはポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレンおよびそれらのコポリマーからなる群から選択される。本発明のポリマーは、好ましくはプラスチック中のその混合物としてポリスチレンを含む。
【0116】
本発明のポリマーは、好ましくはエレクトロスピニング、スパンボンド、メルトブローまたは他の任意の既知の方法によって調製される繊維および不織布を得るのに有用である。鎖内官能化ポリマーが有する官能性に応じて、親水性または疎水性の表面を備えるポリマーの繊維を得ることができる。特に興味深いのは、撥水性であり自浄性であるの疎水性表面である。一般に、フッ素基は表面エネルギーが低いため疎水性を付与することが知られている。これらのポリマー繊維は、特殊な衣類、外科用糸等を得るための用途において有利に使用され得る。
【0117】
本発明のポリマーは、本発明のポリマーに存在する官能基とナノ粒子に存在する相補的官能基との物理的または化学的両方の相互作用の可能性が高いことを考えると、改善された特性を有する有機または無機ナノ材料を製造するのにも有用である。
【0118】
本発明のポリマーは、特に生体適合性官能基をポリマー鎖に組み込むことによって、医療用チューブの製造等の医療用途においても有用である。
【0119】
本発明のポリマーは、ケーブル用途向けの組成物を製造するのにも有用であり、本発明の官能化ポリマーに由来する熱可塑性エラストマー(TPE)が配合物に添加され、次いで架橋されて、電気分野または自動車分野の絶縁体として有用な耐火性ハロゲンフリーケーブルが得られる。
【0120】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、上記の好ましい特定の実施形態が組み合わされる。本発明は、好ましい特定の実施形態のそのような組み合わせにも関する。
【0121】
明細書および請求項の全体を通して、「含む」という言葉およびその変形は、他の技術的特徴、付加物、成分または工程を除外することを目的とするものではない。当業者にとって、本発明の他の目的、利点および特徴は、部分的には明細書から、そして部分的には本発明の実施から集められなければならない。
【実施例】
【0122】
本発明を、例示的な実施形態の構成および試験を説明するための実施例により説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例に決して限定されないことが理解される。
【0123】
以下の実施例におけるすべての重合および水素化は、温度、撹拌のための制御システム、および流量計、ならびに窒素の流入口、排出口およびサンプリングラインを備える内部容量が2Lのオートクレーブ反応器において行われた。
【0124】
得られたポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、および500MHzにおけるCDCl3での1HNMR法によって特性化された。
【0125】
単離されたポリマーのサンプルはGPCによって分析され、Mw、MnおよびPDIが対応する出発物質のものと類似していることが示され、鎖切断または鎖架橋プロセスがないことが確認された。
【0126】
ポリマー鎖に組み込まれた基の同一性は、1HNMR分光法によって確認された。例えば、CH2CO2Et、CHCO2Et(シクロプロパン)、NHTおよびNT(アジリジン)の典型的な共鳴が1HNMRスペクトルで特定された。ポリマーのいくつかの特徴的な共鳴、および追加された外部標準の共鳴に関するそのような共鳴の統合によって、それぞれの場合に組み込まれる官能基の相対量が決定された。このようにして、取り込みのパーセンテージを1HNMRによって決定した。
【0127】
実施例1.[N-(p-トルエンスルホニル)イミノ]フェニルヨージナンによるSEBSの官能化
この官能化反応は、異なる量の反応物により3回繰り返された。詳細は以下の表を参照のこと。
【0128】
SEBSゴムポリマーを1,2-ジクロロエタンに溶解し、そこにN-(p-トルエンスルホニル)イミノ]フェニルヨージナン(PhINTs)および銀ヒドロトリス(3,5-ジメチル-4-ブロモピラゾリル)ボレート触媒(Tp*,BrAg)を添加した。
【0129】
混合物を、窒素雰囲気下、80℃で12時間加熱した。冷却後、メタノール(100~200mL)を添加し、沈殿した官能化ゴムをろ過により分離し、真空乾燥した。ポリマーの単離収率は95%超であり、NHT単位の取り込みは1~5%w/wの範囲であり(以下の表を参照)、主としてゴム鎖の三級部位へのNHT単位の挿入に由来するペンダント-NHT基に対応していた。
【0130】
【0131】
実施例2.[N-(p-トルエンスルホニル)イミノ]フェニルヨージナンによる不飽和ゴムの官能化
実施例1の変形例において、溶媒としてのシクロヘキサン中で室温で作業すると、1~5%の間隔内のNHT単位の組み込みの程度の改変ゴムが95%超の収率で得られた。この場合、不飽和ゴムは、不飽和ゴムの二重結合へのNHT単位の付加に由来するアジリジン環の形成時に改変された。
【0132】
実施例3.ジアゾ酢酸エチルによるSEBSの官能化
実施例1に記載されたのと同様の濃度のゴムおよび触媒のシクロヘキサン溶液を調製した。ジアゾ酢酸エチル(EDA)をシクロヘキサンに溶解し、自動添加システムを使用して、室温で12時間、溶液を上記の混合物にゆっくりと添加した。次いで、減圧下で溶媒を除去する前に混合物をさらに1時間撹拌し、最小量のテトラヒドロフランに再溶解し、メタノールで沈殿させた。真空下で濾過および乾燥した後、95%超の質量が回収された。1HNMR研究により、CHCO2Et基がポリマー鎖に1~5%w/wで組み込まれ、ペンダント-CH2CO2Et単位が結合することが明らかになった。
【0133】
実施例4.ジアゾ酢酸エチルによる不飽和ゴムの官能化
実施例3の変形例において、不飽和ゴムを使用して、改変された材料が高い質量回収率(95%超)で単離された。CHCO2Et単位の組み込みは、不飽和ゴムのC=C結合上で起こり、シクロプロパン単位の形成がもたらされた。組み込みの割合:1~5%w/w。
【0134】
実施例5.ジアゾ酢酸エチルとそれに続くPhINTによる飽和ゴムの官能化
高分子ゴム材料は、シクロヘキサン中のTp*,BrAg触媒を反応媒体として使用すると、同じ触媒を使用してワンポット法により連続的に官能化できた。
【0135】
このようにして、EDAの溶液を最初に室温で触媒およびゴムの撹拌溶液にゆっくりと添加した。添加完了後(12時間)、PhINTを添加し、80℃で12時間さらに撹拌し、カルボン酸塩とアミン官能基を有するゴムを得た。単離された材料は、それぞれカルベン-CHCO2Et基およびナイトレン-NT基の金属触媒挿入に由来するペンダント-CH2CO2Et基およびペンダント-NHT基の存在と一致する1HNMRスペクトルを示した。組み込みの割合:官能基ごとに1~5%w/w。
【0136】
実施例6.ジアゾ酢酸エチルとそれに続くPhINTによる不飽和ゴムの官能化
実施例5の変形例において、同じプロトコルを不飽和ゴムに適用し、ゴム構造内にシクロプロパンおよびアジリジン環を有する改変された材料を得た。カルベンおよびナイトレンの両方の取り込みを室温で行い、それぞれの単位において1~5%w/w以内の取り込みが発生した。
【0137】
実施例7.様々な触媒による官能化
実施例1~6において使用されたTp*,BrAg触媒の代わりに、本実施例では、実験を繰り返すことからなるが、組成TpxAgLの触媒を用い、Tpxは以下の表に示される配位子を表し、Lはアセトニトリルまたはテトラヒドロフランのいずれかである。
【0138】
【0139】
比較例1.銅触媒による官能化
銅アナログTpxCuLを触媒として使用することによっても、ゴムの官能化が起こった。しかしながら、単離された材料中にいくらか残っている閉塞銅イオンの存在により、緑がかった色の発生およびテトラヒドロフランへの溶解性の喪失が誘発され、ラジカル媒介架橋プロセスの存在が証明された。これらの不純物は、空気にさらされたときにゴムの色の外観の後に生じた。
【0140】
比較例1.1.銅触媒によるカルベンの官能化と本発明の触媒によるカルベンの官能化
不飽和ゴムポリマー(SBテーパージブロックコポリマー(1.0)またはSBSトリブロックコポリマー(6.0))のEDA官能化に使用されるTpBr3Cu(NCMe)またはTp*,BrAg触媒の不飽和ゴムの安定性への影響を比較するために実験を行った。ゴムは以下のように官能化された。
【0141】
触媒およびポリマーをシクロヘキサンに溶解した後、不活性雰囲気下で、シクロヘキサン中のジアゾ化合物EDAの溶液を徐添加シリンジから添加した(プログラム可能な添加時間)。12時間添加した後、減圧下で溶媒の量を減らし、メタノールを添加してゴムを沈殿させた。ゴムを1HNMRで分析し、CHCO2Et官能基が組み込まれていることを確認した。
【0142】
得られた官能化ポリマーを室温で2ヶ月間保存し、それらの成長をモニターした。興味深いことに、室温で2か月保存した後、銀触媒で官能化されたサンプルとは対照的に、銅触媒で官能化されたサンプルは、THFに完全に溶解できず、分子量分布の拡大が観察されたため、溶解性の問題があり、望ましくない架橋反応がこのポリマーにおいて起こったことが証明された。
【0143】
比較例1.2.銅触媒によるナイトレンの官能化と本発明の触媒によるナイトレンの官能化
不飽和ゴムポリマー(SBSトリブロックコポリマー)のPhINT官能化に使用されるTpBr3Cu(NCMe)またはTp*,BrAg触媒が官能基化の程度および分子量分布に及ぼす影響を比較するための実験を行った。ゴムは以下のように官能化された。
【0144】
触媒およびゴムの溶液を、不活性雰囲気下のシクロヘキサン中で、以下の表に示される比率で調製した。ゴムが溶解したらナイトレン供給源を添加し、混合物を一晩撹拌した。銀触媒を用いた実験は室温で行われ、銅触媒を用いた実験は60℃で行われた。翌日、減圧下で減少した溶媒の量とメタノールを添加してゴムを沈殿させた。真空下でゴムを濾過および乾燥させ、内部標準としてトリメトキシベンゼン(TMB)を積分することにより、ゴムに組み込まれた「NT」の割合を1HNMRで分析して決定した。
【0145】
以下の表は、銀触媒と銅触媒との両方の比較を示す。Tp*,BrAg触媒で官能化されたポリマーは、触媒および官能化剤の使用の相対量が少なく、反応条件が穏やかであるにもかかわらず、TpBr3Cu(NCMe)実験において使用されたものと比較して、より高いレベルの官能化をもたらすことが観察された。
【0146】
【0147】
さらに、銀触媒を使用して得られた官能化ゴムは未使用ゴムと同様の分子量分布を有するが、銅触媒を使用した場合の官能化ゴムは分子量分布の広がりを示し、望ましくない架橋反応が発生を示していることが観察された。
【0148】
実施例8.様々な前駆体による官能化
実施例1、2、5および6において使用されたPhINTのナイトレン前駆体の代わりに、本実施例は、同じ実験を繰り返すことからなるが、異なるナイトレン前駆体を使用した。使用したナイトレン前駆体は、PhI=N-SO2(C6H4)R1であり、(C6H4)R1は、C1-6アルキル、I、Br、Cl、F、COOHまたはCOO-C1-6アルキルでパラ置換されたフェニルから選択される。
【0149】
実施例9.官能化ゴムの特性評価
実施例1に記載したように調製された官能化SEBSの単離された正確に秤量されたサンプルをCDCl3に溶解し、ナフタレンを内部標準として添加した。1HNMR(400MHz)スペクトルは、官能化ゴムのトシル部分のMe基に割り当てられた2.48ppmを中心とする共鳴シグナルを示した。このシグナルをナフタレンのシグナルと統合すると、実施例1に含まれる表に示される官能化の程度が得られた。
【0150】
さらに、THFに溶解した上記のサンプルをにより行ったGPC研究により、Mn=77517およびPDI=1.10が得られ、最初のSEBS(Mn=73964、PDI=1.11)と十分に比較した。
【0151】
図3および
図4は、NMRおよびGPCのデータを示す。
【0152】
実施例10.シャルピー衝撃試験およびSEM分析
シャルピー衝撃耐性の試験を、4つの異なるサンプルであるポリアミド-6(比較サンプル1)、ならびに20重量%のSEBSを含むそのブレンド(比較サンプル2)、20重量%のSEBS-g-MAを含むそのブレンド(1.4%官能化、比較サンプル3;SEBS-g-MA=反応性押出しにより無水マレイン酸で官能化されたSEBS)、および10重量%のNTで官能化されたSEBSを含むそのブレンド(4.2%官能化、サンプル4)について、23℃および-30℃で行った。試験は、規格ISO179-1に従って行われた。
【0153】
押出しにかける前に、予備ブレンドに酸化防止剤Irganox-1330(商標)を添加し、不活性雰囲気下で80℃で一晩乾燥させた。予備ブレンドを、6つの加熱ゾーン(210℃、215℃、220℃、225℃、230℃、240℃)を備えたEurolab(商標)押出機で押し出し、Sandretto(商標)6GV-50射出成形機に射出して衝撃試験用の試験片を得た。
【0154】
【0155】
図5は、上記の表のデータをグラフで表したものである。
【0156】
エラストマー成分として非官能化SEBSのみを含む混合物について異なる条件下で測定された衝撃耐性の値は、純粋なポリアミド-6において検出された値と同等であった。官能化SEBS材料、特にp-トルエンスルホニルアミン官能化SEBSでは衝撃耐性が大幅に向上し、SEBS-g-MAの半分の量を添加でより良好な値を提供した。
【0157】
キシレンにより室温で96時間処理したサンプルのSEMイメージング(Phillips XL30 ESEM 20KV顕微鏡)を、
図6、7および8に示す。真空下で一晩乾燥させた後、サンプルを液体窒素で破砕し、厚さ3~4nmのAu/Pd層を堆積させた。
【0158】
図6に示すように、非官能化SEBS(比較サンプル2)は、隙間(niche)の深さに関連して形状とサイズが大きく不均一であるため、ポリアミドとの相溶性が低く、これは分散相の形態が、ポリアミドの分散レベルが非常に低く、静脈(vein)または岩礁(reef)の構造に対応していることを示す。
【0159】
図7は、比較サンプル3の形態を示す。比較的均一なサイズ分布を有する液滴の形状の分散形態が観察される。形状の範囲は50~100nmであった。
【0160】
図8は、本発明のサンプル4の形態を示す。SEBS-N(H)Tsは、ポリアミド-6との均質なブレンドを生成し、これは、直径が50~100nmから1~2ミクロンの範囲で、平均サイズが300~400nm程度の球状ドメインを備えた、十分に分布した均質な形態によって確認された。したがって、p-トルエンスルホニルアミン官能化SEBSは、ポリアミド-6との相溶性が高かった。