(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】プリプレグの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B29B 15/14 20060101AFI20241025BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20241025BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
B29B15/14
B29C70/16
B29C70/50
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022084080
(22)【出願日】2022-05-23
【審査請求日】2022-09-02
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張怡娟
(72)【発明者】
【氏名】周建旭
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼龍田
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-148573(JP,A)
【文献】特開2011-148146(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111716587(CN,A)
【文献】特開昭61-083006(JP,A)
【文献】特開2020-117333(JP,A)
【文献】特開2012-184279(JP,A)
【文献】特開昭50-109267(JP,A)
【文献】特開2018-176709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
B29C 70/00-70/88
C08J 5/04-5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数が8本~12本である複数のローラに対して、熱処理、溶射処理、酸化還元処理、塗装処理、又は真空下のメッキ層処理を行うことを含む表面処理を行い、前記複数のローラのそれぞれの転動面の粗さを低減するステップと、
互いに離間するように繊維束ロールとワイピングホイールとの間に順次配列されている前記複数のローラによって、前記繊維束ロールの繊維束を前記ワイピングホイールに搬送し、平らにするステップと、
前記ワイピングホイールによって前記繊維束を搬送して、前記ワイピングホイールのホイール面上の樹脂を前記繊維束に含浸させるステップと、
前記複数のローラと前記ワイピングホイールが前記繊維束を搬送する間に、
前記複数のローラと前記ワイピングホイールとの間に設けられるテンションコントローラによって前記複数のローラと前記ワイピングホイールにおける前記繊維束の張力を調整及び制御するステップと、
巻取ドラムによって前記樹脂を含浸させた前記繊維束を巻き取るステップと、
を含
み、
前記巻取ドラムによって前記樹脂を含浸させた前記繊維束を巻き取るステップにおいて、テンションコントローラによって前記繊維束の張力を安定させ、前記巻取ドラムの起動と停止により前記繊維束の張力が影響を受けることを回避する、プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記複数のローラに対する前記表面処理は、0.2μm~25μmの粗さになるよう前記複数のローラのそれぞれの転動面を形成することを含む請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
繊維束ロールからの繊維束を巻き取るように配置される巻取ドラムと、
前記繊維束ロールと前記巻取ドラムとの間に設けられ、前記繊維束を搬送して、平らにするように配置され、互いに離間するように前記繊維束ロールと前記巻取ドラムとの間に順次配列されており、数は8本~12本である複数のローラと、
前記複数のローラと前記巻取ドラムとの間に設けられ、前記複数のローラからの前記繊維束を搬送するように配置されたワイピングホイールであって、当該ワイピングホイールのホイール面上の樹脂を前記繊維束に含浸させるように設けられたワイピングホイールと、
前記複数のローラと前記ワイピングホイールとの間に設けられ、前記複数のローラと前記ワイピングホイールにおける前記繊維束の張力を調整及び制御するように配置され
、前記巻取ドラムの起動及び停止時に前記繊維束の張力を安定させ、前記巻取ドラムの起動と停止により前記繊維束の張力が影響を受けないよう設けられるテンションコントローラと、
を備え、
前記巻取ドラムは、前記ワイピングホイールで前記樹脂を含浸させた前記繊維束を巻き取るプリプレグの製造装置。
【請求項4】
前記複数のローラのそれぞれの転動面の粗さは、0.2μm~25μmである請求項
3に記載のプリプレグの製造装置。
【請求項5】
前記複数のローラのそれぞれの転動面は、硬質クロム層で覆われている請求項
4に記載のプリプレグの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリプレグの作製技術に関し、特に、プリプレグの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリプレグを作製する際、一般的な技術としては、まず繊維束ロールから繊維束を繰り出し、繊維束を浸漬状態の樹脂ワイピングホイールに通過させて樹脂を含浸させる。次いで樹脂を含浸させた繊維束を巻取ドラムに巻き取ってプリプレグ布を形成する。
【0003】
このような方法において、樹脂の含浸処理に際して、繊維束、ワイピングホイール、及び巻取ドラムの間の作動によって繊維束の巻き取りが行われる。しかしながら、巻取ドラムの作動開始時及び作動終了時に、ワイピングホイールは、相互の作動による引っ張りや自身の慣性により、巻取ドラムの回転に対して正確に同期して作動しないため、作製されたプリプレグの一部が十分に含浸されなかった。
【0004】
従来技術における別の浸漬型技術としては、繊維束を樹脂タンクに直接通過させてから、押圧輪によって繊維束を押圧して繊維束上の余分な樹脂を除去することで、繊維束の樹脂含有量を制御する。しかしながら、繊維束を押圧する時、糸張力の変化のため、繊維束の樹脂付着量が安定しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本開示の目的の一つは、テンションコントローラによって繊維束の張力を安定させ、巻取ドラムの起動と停止により繊維束の張力が影響されることを回避し、さらに繊維束とワイピングホイールとのフィットの度合いを維持し、繊維束のうちの単糸に樹脂を十分に含浸させることができる効果を達成し得るプリプレグの製造方法及び製造装置を提供することにある。また、繊維束が受ける張力が安定するので、繊維の毛羽量を減少することができる。
【0006】
本開示の他の目的は、表面が平坦で滑らかなローラによって繊維束を搬送して、繊維束を平らにし、広げるので、繊維束の耳折れ状況を大幅に低減させ、繊維束の幅を安定させるだけでなく、繊維束と樹脂との含浸効果を向上させ、プリプレグの樹脂含有量の変動率を効果的に低減させることができるプリプレグの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の上記目的に従い、下記ステップを含むプリプレグの製造方法を提案する。
数が8本~12本である複数のローラに対して、熱処理、溶射処理、酸化還元処理、塗装処理、又は真空下のメッキ層処理を行うことを含む表面処理を行い、複数のローラのそれぞれの転動面の粗さを低減するステップ。
互いに離間するように繊維束ロールとワイピングホイールとの間に順次配列されている複数のローラによって、繊維束ロールの繊維束をワイピングホイールに搬送し、平らにするステップ。
ワイピングホイールによって繊維束を搬送して、ワイピングホイールのホイール面上の樹脂を繊維束に含浸させるステップ。
ローラとワイピングホイールが繊維束を搬送する間に、ローラとワイピングホイールとの間に設けられるテンションコントローラによってローラとワイピングホイールにおける繊維束の張力を調整及び制御するステップ。
巻取ドラムによって樹脂を含浸させた繊維束を巻き取るステップ。
巻取ドラムによって樹脂を含浸させた繊維束を巻き取るステップにおいて、テンションコントローラによって繊維束の張力を安定させ、巻取ドラムの起動と停止により繊維束の張力が影響を受けることを回避する。
【0008】
本開示の一実施例によれば、ローラに対する表面処理は、0.2μm~25μmの粗さになるよう複数のローラのそれぞれの転動面を形成することを含む。
【0013】
本開示の上記目的に従い、下記を備えるプリプレグの製造装置を提案する。
繊維束ロールの繊維束を巻き取るように配置される巻取ドラム。
繊維束ロールと巻取ドラムとの間に設けられ、繊維束を搬送して、平らにするように配置され、互いに離間するように繊維束ロールと巻取ドラムとの間に順次配列されており、数は8本~12本である複数のローラ。
ローラと巻取ドラムとの間に設けられ、ローラからの繊維束を搬送するように配置されワイピングホイールであって、当該ワイピングホイールのホイール面上の樹脂を繊維束に含浸させるように設けられたワイピングホイール。
ローラとワイピングホイールとの間に設けられ、ローラとワイピングホイールにおける繊維束の張力を調整及び制御するように配置され、巻取ドラムの起動及び停止時に繊維束の張力を安定させ、巻取ドラムの起動と停止により繊維束の張力が影響を受けないよう設けられるテンションコントローラ。
巻取ドラムは、ワイピングホイールで樹脂を含浸させた繊維束を巻き取る。
【0014】
本開示の一実施例によれば、前記ローラのそれぞれの転動面の粗さは、0.2μm~25μmである。
【0016】
本開示の一実施例によれば、前記ローラのそれぞれの転動面は、硬質クロム層で覆われている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
下記添付図面についての説明は、本開示の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより分かりやすくするためのものである。
【
図1】本開示の一実施形態によるプリプレグの製造装置を示す装置模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態によるプリプレグの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の一実施例によるプリプレグの製造装置を示す装置模式図である
図1を参照する。プリプレグの製造装置100は、プリプレグ布を作製することに用いることができる。本実施形態において、プリプレグの製造装置100は、主に、巻取ドラム110、複数のローラ120、ワイピングホイール130、及びテンションコントローラ140を含んでもよい。
【0019】
巻取ドラム110は、繊維束152を巻き付けてなる繊維束ロール150の繊維束152を巻き取ることに用いることができる。例えば、巻取ドラム110は、プリプレグ全体の製造装置100の最下流に位置してもよいが、繊維束ロール150は、プリプレグの製造装置100の最上流に設けられてもよく、下流に位置する巻取ドラム110は、上流からの繊維束152を巻き取ることができる。
【0020】
複数のローラ120は、繊維束ロール150と巻取ドラム110との間に設けられている。幾つかの例において、ローラ120の材料は、工具鋼又はステンレス鋼、例えば304ステンレス鋼である。これらのローラ120は、繊維束ロール150と巻取ドラム110との間に、互いに離間するように、繊維束ロール150が巻取ドラム110に向かう方向に沿って順次配列されてよい。幾つかの例において、
図1に示すように、これらのローラ120は、互いに所定の距離を隔て且つ上下にずらして配列される。例えば、これらのローラ120は、所定のピッチで順次配列されている。これらのローラ120のうち、最上流に設けられたローラ120は、繊維束ロール150に隣接している。
【0021】
ローラ120は、繊維束ロール150からの繊維束152を搬送することに用いることができる。繊維束152は、これらのローラ120を蛇行可能に順次迂回し、これらのローラ120の転動面122の一部と貼り合わされることができる。例えば、
図1に示すように、繊維束152は、最上流に設けられたローラ120の下方の転動面122を通過してから、次のローラ120の上方の転動面122を通過し、次に、さらに次のローラ120の下方の転動面122を通過し、これによって類推する。これらのローラ120は、転動面122の一部が繊維束152と貼り合わされるので、繊維束152を平らにして繊維束152の幅を広げることができる。幾つかの例において、ローラ120の数は、2本~12本である。幾つかの好適な例において、ローラ120の数は、5本~8本である。複数のローラ120によって繊維束152を搬送して、繊維束152を効果的に平らにし、幅が比較的広くて安定的な繊維束152を得ることができる。
【0022】
幾つかの例において、ローラ120は、平坦で滑らかな転動面122を有し、これにより、ローラ120を通過する繊維束152の幅が安定的に確保でき、且つ繊維束152の耳折れ状況を大幅に低減でき、また繊維束152の毛羽量を効果的に減少することができる。幾つかの例において、ローラ120のそれぞれの転動面122の粗さが0.2μm~25μm程度まで小さくなるように、ローラ120によって繊維束152を搬送する前に、ローラ120に対して表面処理を行うことができる。幾つかの好適な例において、ローラ120の転動面122の粗さは、0.2μm~6.3μm程度である。幾つかの例示的な例において、ローラ120に対して行われる表面処理は、ローラ120に対して、表面電気メッキ処理、熱処理、溶融メッキ処理、溶射処理、酸化還元処理、塗装処理、又は真空下のメッキ層処理を行うことを含んでもよい。例えば、ローラ120に対して表面電気メッキ処理を行う場合、ローラ120のそれぞれの転動面122に1層の硬質クロム層をメッキすることができ、これによりローラ120の転動面122の粗さを小さくすることができる。また、ローラ120に対して熱処理を行う場合、ローラ120の硬度を高めることができ、これによりローラ120の転動面122の粗さを小さくすることができる。
【0023】
ワイピングホイール130は、ローラ120と巻取ドラム110との間、即ち、最下流のローラ120と巻取ドラム110との間に設けられる。ワイピングホイール130は、ローラ120からの繊維束152を搬送することができる。ワイピングホイール130のホイール面132に樹脂160が付着している。幾つかの例において、プリプレグの製造装置100は、ワイピングホイール130のホイール面132に樹脂160を供給するように、樹脂供給装置を含んでもよい。幾つかの例示的な例において、
図1に示すように、樹脂供給装置は、樹脂160を収容するタンク体170であってもよい。タンク体170は、ワイピングホイール130の下方に設けられてもよく、ワイピングホイール130の下部はタンク体170内の樹脂160に浸漬されてもよい。ワイピングホイール130の回転に伴い、ワイピングホイール130のホイール面132がタンク体170内の樹脂160を漬けることができる。繊維束152は、ワイピングホイール130の周りを回り、ワイピングホイール130のホイール面132の一部と貼り合わされてもよい。例えば、繊維束152は、
図1に示すように、ワイピングホイール130の上方のホイール面132と貼り合わされてもよい。ワイピングホイール130による繊維束152の搬送に伴い、ワイピングホイール130のホイール面132上の樹脂160は、繊維束152に漬けられることができる。樹脂160を含浸した繊維束152は、その後、巻取ドラム110によって巻き取られることができる。
【0024】
幾つかの例において、繊維束152を漬ける樹脂160は、熱硬化性樹脂である。例えば、樹脂160は、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。また、樹脂160の粘度は、例えば、200cps~10000cps程度であってもよい。幾つかの好適な例において、樹脂152の粘度は、1000cps~3000cps程度である。
【0025】
幾つかの例において、プリプレグの製造装置100は、選択的に、2つの調整ローラ180、182を更に含んでもよい。この2つの調整ローラ180、182は、それぞれ、ワイピングホイール130の上流と下流に設けられてもよく、調整ローラ180は、最下流のローラ120とワイピングホイール130との間に設けられ、調整ローラ182は、ワイピングホイール130と巻取ドラム110との間に設けられる。調整ローラ180、182は繊維束152の移動経路を調整することができ、その結果、ローラ120から搬送されてきた繊維束152がワイピングホイール130の上方のホイール面132を通過し、ホイール面132に密着する。例えば、繊維束152は、調整ローラ180の下方をまず通過し、上に向かってワイピングホイール130の上方のホイール面132を通過し、次いで調整ローラ182の下方を通過する。すなわち、ワイピングホイール130の上下流の両側にそれぞれ位置する調整ローラ180、182は、繊維束152の経路を調整して、ワイピングホイール130の上方のホイール面132に繊維束152を圧着することができる。
【0026】
図1に示すように、プリプレグの製造装置100は、選択的に、掻き取り部材190を更に含んでもよい。掻き取り部材190は、ワイピングホイール130の一方の側に隣接して設けられ、且つタンク体170の上方に位置してもよい。掻き取り部材190は、ワイピングホイール130のホイール面132に付着した余分な樹脂160を掻き取って、ワイピングホイール130のホイール面132上の樹脂160をより均一に分布させ、さらに繊維束152における樹脂含有量の均一性を向上させることができる。
【0027】
図1を継続して参照すると、テンションコントローラ140は、ローラ120とワイピングホイール130との間、すなわち、最下流のローラ120とワイピングホイール130との間に設けられている。幾つかの例示的な例において、テンションコントローラ140は、最下流のローラ120と調整ローラ180との間に設けられる。テンションコントローラ140は、ローラ120とワイピングホイール130における繊維束152の張力を調整・制御するように配置される。従って、テンションコントローラ140は、繊維束152の搬送中の張力を安定させることができ、巻取ドラム110の起動と停止によって繊維束152の起動張力と張力喪失の慣性動作に影響することを回避することができる。これにより、繊維束152とワイピングホイール130のホイール面132との間のフィットの度合いを維持し、繊維束152の単糸に樹脂160を十分に含浸させることができる効果を奏することができる。
【0028】
本発明の一実施形態によるプリプレグの製造方法を示すフローチャートである
図2を参照する。本実施形態によるプリプレグの製造方法は、
図1のプリプレグの製造装置100によって行われてもよい。プリプレグの製造装置100の各装置の構成及び配置について既に上記のように詳細に説明しており、ここで説明を繰り返さない。
【0029】
プリプレグを製造する際、複数のローラ120によって繊維束ロール150の繊維束152をワイピングホイール130に搬送するように、ステップ200を実行してもよい。繊維束152は、複数のローラ120を蛇行可能に順次周りを回り、これらのローラ120の転動面122の一部に貼り合わされるので、これらのローラ120が繊維束152を搬送する際、繊維束152を平らにし、繊維束152の幅を広げることができる。幾つかの例において、ローラ120によって繊維束152を搬送する前に、複数のローラ120に対して表面処理を行うことができることによって、ローラ120のそれぞれの転動面122の粗さを小さくする。表面処理後、ローラ120のそれぞれの転動面122の粗さは、例えば、0.2μm~25μm程度、好ましくは0.2μm~6.3μm程度であってもよい。ローラ120の転動面122が既に平坦で滑らかであった例において、ローラ120に対する表面処理を省略することができる。ローラ120に対して表面処理を行う場合、例えば、これらのローラに対して、表面電気メッキ処理、熱処理、溶融メッキ処理、溶射処理、酸化還元処理、塗装処理、又は真空下のメッキ層処理を行ってもよい。例えば、表面電気メッキ処理を行う時、ローラ120のそれぞれの転動面122に硬質クロム層をメッキしてもよい。
【0030】
ワイピングホイール130によって繊維束152を引き続き搬送するように、ローラ120が繊維束152をワイピングホイール130に搬送した後、ステップ210を行ってもよい。繊維束152は、ワイピングホイール130のホイール面132の一部と貼り合わされる。ワイピングホイール130のホイール面132に樹脂160が付着しており、且つ繊維束152はホイール面132の一部と貼り付けられるため、ワイピングホイール130による繊維束152の搬送に伴い、ワイピングホイール130のホイール面132上の樹脂160は、繊維束152に漬けられることができる。ワイピングホイール130のホイール面132上の樹脂160の分布均一性を向上させるように、ワイピングホイール130が繊維束152を搬送する時、選択的に、掻き取り部材190によってワイピングホイール130のホイール面132に付着した余分な樹脂160を掻き取ることができる。
【0031】
いくつかの例示的な例において、
図1に示すように、繊維束152を搬送している間に、ワイピングホイール130の上流と下流にそれぞれ設けられた調整ローラ180、182によって繊維束152の移動経路を調整することができ、それによりローラ120から搬送されてきた繊維束152は、ワイピングホイール130の上方のホイール面132を通過し、ホイール面132に密着することができる。
【0032】
ローラ120とワイピングホイール130との間に設けられたテンションコントローラ140によって、ローラ120とワイピングホイール130における繊維束152の張力を調整・制御するように、ローラ120とワイピングホイール130が繊維束152を搬送している間に、ステップ220を行ってもよい。これにより、繊維束152の搬送中の張力の安定性を向上させて、巻取ドラム110の起動と停止によって繊維束152の張力起動と張力喪失の慣性動作に影響することを回避することができる。従って、繊維束152とワイピングホイール130のホイール面132との間のフィットの度合いを維持し、繊維束152の単糸に樹脂160を十分に含浸させることができる。
【0033】
繊維束152を搬送する時、巻取ドラム110によって、ワイピングホイール130から搬送された、樹脂160が漬けられた繊維束152を巻き取って、プリプレグの作製をおおまかに完了するように、ステップ230を行ってもよい。繊維束152の搬送及び巻取は、繊維束152と、ローラ120と、ワイピングホイール130と、巻取ドラム110との間の動作の合わせによって達成される。
【0034】
以下、本開示のプリプレグの製造装置及び方法を参照して複数の実施例を具体的に説明する。これらの実施例に用いられる繊維束は、炭素繊維12Kである。
【0035】
実施例1において、表面処理されたローラを増設して繊維束を搬送して、ローラは2本~12本、例えば5本~8本であってもよい。この実施例において、例えば、
図1のテンションコントローラ140と調整ローラ180との間で繊維束の幅を測定し、繊維束の耳折れ状況を観察し、その結果を下記の表1に示す。ここで、繊維束の幅は、30秒当たりに1回測定し、20回の測定結果の平均値である。耳折れ回数は、繊維束の長さが500mで発生する耳折れ回数である。
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、ローラによって繊維束の搬送を補助することで、繊維束を効果的に平らにすることができるので、繊維束の幅は、ローラによって搬送されない繊維束の幅よりも大きくなる。また、ローラによって搬送される繊維束に耳折れが発生する回数も、ローラによって搬送されない繊維束に比べて大幅に少ない。
【0037】
実施例2において、テンションコントローラを増設し、繊維束の毛羽量を観察し、観察結果を下記の表2に示す。ここで、毛羽量は、繊維束の長さが500mで発生する毛羽量である。
【表2】
【0038】
表2から明らかなように、テンションコントローラを増設した後、繊維束が受ける張力が安定しているので、繊維束に毛羽量がほとんどなく、その毛羽量は、テンションコントローラによる張力調整がない繊維束よりも大幅に少ない。
【0039】
実施例3は、ローラとテンションコントローラを同時に増設するものである。この実施例において、例えば、
図1のテンションコントローラ140と調整ローラ180との間で繊維束の幅を同様に測定し、作製されたプリプレグの樹脂含有量の変動率を測定し、その結果を下記の表3に示す。ここで、繊維束の幅は30秒当たりに1回測定し、20回の測定結果の平均値である。樹脂含有量の変異率はプリプレグにおける20枚のセル間の樹脂含有量の変異率を測定したものであり、各セルは5cm*5cmである。
【表3】
【0040】
表3から明らかなように、テンションコントローラを増設した後、繊維束は、起動や停止の慣性動作による張力が大きすぎたり又は小さすぎたりすることを回避することができる。さらに増設したローラによって繊維束を平らにし、繊維束の展開幅を広げて、繊維束と樹脂との含浸状況をより良好にさせ、樹脂含有量の変動率を効果的に低下させる。
【0041】
上記実施形態から明らかなように、本開示の一つのメリットは、本開示がテンションコントローラによって繊維束の張力を安定させ、巻取ドラムの起動と停止により繊維束の張力が影響されるのを回避し、さらに繊維束とワイピングホイールとのフィットの度合いを維持し、繊維束のうちの単糸に樹脂を十分に含浸させることができる効果を達成し得ることである。また、繊維束が受ける張力が安定するので、繊維の毛羽量を減少することができる。
【0042】
本開示の他のメリットは、本開示において、表面が平坦で滑らかなローラによって繊維束を搬送して、繊維束を平らにし、広げるので、繊維束の耳折れ状況を大幅に低減させ、繊維束の幅を安定させるだけでなく、繊維束と樹脂との含浸効果を向上させ、プリプレグの樹脂含有量の変動率を効果的に低減させることができることである。
【0043】
本開示を実施例で以上のように開示するが、本開示を限定するものではなく、当業者であれば、本開示の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修正を行ってもよい。従って、本開示の保護範囲は、特許請求の範囲で定義したものを基準とすべきである。
【符号の説明】
【0044】
100 プリプレグの製造装置
110 巻取ドラム
120 ローラ
122 転動面
130 ワイピングホイール
132 ホイール面
140 テンションコントローラ
150 繊維束ロール
152 繊維束
160 樹脂
170 タンク体
180 調整ローラ
182 調整ローラ
190 掻き取り部材
200 ステップ
210 ステップ
220 ステップ
230 ステップ