(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】金属-有機化合物複合材
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20241025BHJP
C10M 103/04 20060101ALI20241025BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20241025BHJP
C10M 107/20 20060101ALI20241025BHJP
C10M 107/40 20060101ALI20241025BHJP
C25D 15/02 20060101ALI20241025BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20241025BHJP
C10N 10/08 20060101ALN20241025BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20241025BHJP
C10N 10/16 20060101ALN20241025BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241025BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20241025BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C10M103/04
C10M107/02
C10M107/20
C10M107/40
C25D15/02 H
C25D15/02 J
C10N10:02
C10N10:08
C10N10:12
C10N10:16
C10N30:06
C10N40:14
(21)【出願番号】P 2022156907
(22)【出願日】2022-09-29
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】湖山 貴之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘高
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】桂 翔生
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0145764(US,A1)
【文献】特開昭55-104395(JP,A)
【文献】特開2005-336309(JP,A)
【文献】特開2007-098636(JP,A)
【文献】特開2021-063188(JP,A)
【文献】特開2021-011626(JP,A)
【文献】特開平06-017296(JP,A)
【文献】特開2008-248294(JP,A)
【文献】特開2020-164621(JP,A)
【文献】特開2003-277950(JP,A)
【文献】特開2013-129902(JP,A)
【文献】特開2022-020762(JP,A)
【文献】特開2019-171613(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184270(WO,A1)
【文献】特開昭50-032244(JP,A)
【文献】特開2004-339338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00~20/08
C23C 24/00~30/00
C10M 103/04
C10M 107/02
C10M 107/20
C10M 107/40
C25D 15/00~15/02
C10N 10/02
C10N 10/08
C10N 10/12
C10N 10/16
C10N 30/06
C10N 40/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、Ti、Cu、Au、Ni、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含む金属材と、複数の有機化合物粒子(但し、潤滑剤を内包するカプセルを除く)とからなり、
前記複数の有機化合物粒子は、
セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように前記金属材の表面に付着している状態、および
前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没している状態、からなる群から選択される1つ以上の状態を有し、
前記複数の有機化合物粒子は、化合物Aを含み、
前記化合物Aは、単位分子構造内に水素(H)、炭素(C)および酸素(O)からなる群から選択されるいずれか2種以上を含む脂肪族化合物であり、
前記複数の有機化合物粒子はフッ素を含有しない、金属-有機化合物複合材。
【請求項2】
Al、Ti、Cu、Au、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含む金属材と、複数の有機化合物粒子(但し、潤滑剤を内包するカプセルを除く)と
からなり、
前記複数の有機化合物粒子は、
セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように 前記金属材の表面に付着している状態、および
前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没している状態、からなる群から選択される1つ以上の状態を有し、
前記複数の有機化合物粒子は化合物Bを含み、
前記化合物Bは、単位分子構造内にアミド結合を1つ以上含む脂肪族化合物であ
り、
前記複数の有機化合物粒子はフッ素を含有しない、金属-有機化合物複合材。
【請求項3】
Al、Ti、Cu、Au、Ni、SnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含む金属材と、複数の有機化合物粒子
(但し、潤滑剤を内包するカプセルを除く)と
からなり、
前記複数の有機化合物粒子は、
セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように前記金属材の表面に付着している状態、および
前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没している状態、からなる群から選択される1つ以上の状態を有し、
前記複数の有機化合物粒子は化合物Cを含み、
前記化合物Cは、単位分子構造内にアミノ基を1つ以上含む芳香族化合物であ
り、
前記複数の有機化合物粒子はフッ素を含有しない、金属-有機化合物複合材(但し、前記金属材が多孔質めっき層であって表面に多数の孔を有するとともに該孔に前記複数の有機化合物粒子がブラスト処理により充填されてなるものを除く)。
【請求項4】
前記複数の有機化合物粒子を10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃まで熱重量示差熱分析したとき、融点を示すときは前記融点が100℃以上であるか、または融点を示さない、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属-有機化合物複合材。
【請求項5】
前記複数の有機化合物粒子を10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃まで熱重量示差熱分析したとき、分解点を示すときは前記分解点が500℃以下であり、分解点を示さず燃焼点を示すときは、前記燃焼点が500℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属-有機化合物複合材。
【請求項6】
前記複数の有機化合物粒子の平均粒径は50μm未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属-有機化合物複合材。
【請求項7】
前記複数の有機化合物粒子は、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように前記金属材の表面に付着している、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属-有機化合物複合材。
【請求項8】
前記複数の有機化合物粒子は、前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没している、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属-有機化合物複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は金属-有機化合物複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材は、例えば軸受け、ピストンリングおよびシリンダといった機械部品、ならびにプレス加工等で使用される金型品等の摺動部材に使用され得る。摺動部材は、日常的に摺動が繰り返されるため、潤滑性(すなわち摩擦係数が低いこと)が求められる。
【0003】
また、近年、CO2排出規制の強化に伴い、化石燃料への依存度が低い電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド自動車(PHEV)が増加しつつあり、EVおよびPHEVに使用される接点材料など、より摺動が繰り返される部材が増加しつつある。
【0004】
例えば特許文献1には、金属材に固体潤滑剤を接触させる(具体的には、金属材中に固体潤滑剤を一様に分散させる)こと、および当該固体潤滑剤としては、潤滑性等の観点でタルクが好ましいことが開示されている。特許文献2には、金属材に潤滑性を付与するために、金属材にタルクなどの無機フィラーを接触させる(共析させる)ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-118047号
【文献】特開平11-241169号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、近年、より摺動が繰り返される部材が増加しつつあり、従来技術よりも潤滑性が改善された金属材(またはその複合材)が求められている。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、従来技術よりも潤滑性が改善された金属材(またはその複合材)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
Al、Ti、Cu、Au、Ni、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含む金属材と、複数の有機化合物粒子とを含み、
前記複数の有機化合物粒子は、
セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように前記金属材の表面に付着している状態、および
前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没している状態、からなる群から選択される1つ以上の状態を有し、
前記複数の有機化合物粒子は、化合物A、化合物Bおよび化合物Cからなる群から選択されるいずれか一種以上を含み、
前記化合物Aは、単位分子構造内に水素(H)、炭素(C)および酸素(O)からなる群から選択されるいずれか2種以上を含む脂肪族化合物であり、
前記化合物Bは、単位分子構造内にアミド結合を1つ以上含む脂肪族化合物であり、
前記化合物Cは、単位分子構造内にアミノ基を1つ以上含む芳香族化合物である、金属-有機化合物複合材である。
【0009】
本発明の態様2は、
前記複数の有機化合物粒子は前記化合物Aを含む、態様1に記載の金属-有機化合物複合材である。
【0010】
本発明の態様3は、
前記金属材は、Al、Ti、Cu、Au、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含み、
前記複数の有機化合物粒子は前記化合物Bを含む、態様1に記載の金属-有機化合物複合材である。
【0011】
本発明の態様4は、
前記金属材は、Al、Ti、Cu、Au、Ni、SnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含み、
前記複数の有機化合物粒子は前記化合物Cを含む、態様1に記載の金属-有機化合物複合材である。
【0012】
本発明の態様5は、
前記複数の有機化合物粒子を10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃まで熱重量示差熱分析したとき、融点を示すときは前記融点が100℃以上であるか、または融点を示さない、態様1~4のいずれか1つに記載の金属-有機化合物複合材である。
【0013】
本発明の態様6は、
前記複数の有機化合物粒子を10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃まで熱重量示差熱分析したとき、分解点を示すときは前記分解点が500℃以下であり、分解点を示さず燃焼点を示すときは、前記燃焼点が500℃以下である、態様1~5のいずれか1つに記載の金属-有機化合物複合材である。
【0014】
本発明の態様7は、
前記複数の有機化合物粒子はフッ素を含有しない、態様1~6のいずれか1つに記載の金属-有機化合物複合材である。
【0015】
本発明の態様8は、
前記複数の有機化合物粒子の平均粒径は50μm未満である、態様1~7のいずれか1つに記載の金属-有機化合物複合材である。
【0016】
本発明の態様9は、
前記複数の有機化合物粒子は、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように前記金属材の表面に付着している、態様1~8のいずれか1つに記載の金属-有機化合物複合材である。
【0017】
本発明の態様10は、
前記複数の有機化合物粒子は、前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没している、態様1~8のいずれか1つに記載の金属-有機化合物複合材である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、従来技術よりも潤滑性が改善された金属複合材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材の一例の模式断面図を示す。
【
図1B】本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材の別の一例の模式断面図を示す。
【
図2A】実施例1で作製した金属材(Ni-Pめっき層)の表面に酸化ポリエチレン粒子を接触(付着)させた金属-有機化合物複合材の表面の写真を示す。
【
図2B】
図2Aの金属-有機化合物複合材の表面にセロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)を貼り付けた後の写真を示す。
【
図3A】往復摺動試験したサンプルの表面模式図を示す。
【
図3B】表1の金属材:Ni-P(粒子無し)に対して往復摺動試験した後、
図3Aに示すような摺動痕30の中央部を、摺動方向に対して垂直な方向に表面粗さ計で測定した表面プロファイル結果を示す。
【
図4】実施例2で作製した金属材(Ni-Pめっき層)の表面に酸化ポリエチレン粒子を接触(付着)させた金属-有機化合物複合材の表面の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、特許文献1に記載されるような従来技術よりも潤滑性が改善された金属複合材を実現するべく、様々な角度から検討した。特許文献1に記載されるような従来技術では、固体潤滑作用を有するタルク等を金属材に接触させることにより潤滑性を付与していた。本発明者らが検討を進めた結果、固体潤滑作用を有する無機粒子であるタルクとは異なり、必ずしも固体潤滑作用を有しない特定の有機化合物粒子を所定の条件で特定の金属材に接触させることにより、タルクを接触させるよりも摩擦係数を低減できる(すなわち潤滑性を改善できる)ことがわかった。これは、金属材の摺動時に、特定の有機化合物の一部が分解し、その一部が新たに炭素等を含有する反応膜を形成すること等により、金属材表面近傍の摩擦係数が低減されて潤滑性が向上するためであると考えられる。なお、当該反応膜には、膜内に拡散する又は摩耗粉に由来すると考えられる金属材の原子成分、が含まれ得る。
以上により、従来技術よりも潤滑性が改善された金属複合材を実現することができた。なお、上記メカニズムは、本発明の実施形態の技術的範囲を制限するものではない。
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0021】
本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材は、
Al、Ti、Cu、Au、Ni、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含む金属材と、複数の有機化合物粒子とを含み、前記複数の有機化合物粒子は、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるように前記金属材の表面に付着しているか、及び/又は、前記金属材の少なくとも一部が表面に露出するように前記金属材の中に埋没しており、前記複数の有機化合物粒子は、化合物A、化合物Bおよび化合物Cからなる群から選択されるいずれか一種以上を含み、前記化合物Aは、単位分子構造内に水素(H)、炭素(C)および酸素(O)からなる群から選択されるいずれか2種以上を含む脂肪族化合物であり、前記化合物Bは、単位分子構造内にアミド結合を1つ以上含む脂肪族化合物であり、前記化合物Cは、単位分子構造内にアミノ基を1つ以上含む芳香族化合物である。
これにより、従来技術(すなわちタルクを接触させた金属材)よりも潤滑性を改善することが可能である。
【0022】
図1Aは、本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材の模式断面図を示す。
図1Aにおいて、金属-有機化合物複合材1は、金属材2と、複数の粒子3とを含み、複数の粒子3は、金属材2の少なくとも一部2aが、金属-有機化合物複合材1の表面に露出するように(粒子3が金属材2の表面2bの全てを覆わないように)、金属材2の中に埋没している。ここで、各粒子3は、その一部が金属材2中に埋没し、残りの部分が金属-有機化合物複合材1の表面に露出している。このような接触状態をとることにより、金属材2の摺動時に、特定の有機化合物の一部が分解し、その一部が新たに炭素を含有する反応膜を形成すること等により、金属材2の表面2b近傍の摩擦係数が低減されて潤滑性が向上する。また、金属材2の少なくとも一部2aが金属-有機化合物複合材1の表面に露出することにより、金属-有機化合物複合材1が接点材料として用いられる場合は摺動前の初期の接触抵抗(電気抵抗)を低減できる。なお、金属材2の少なくとも一部2aが表面に露出しているか否かは、例えば目視等で金属光沢の有無を確認することにより判断できる。
【0023】
図1Aの金属-有機化合物複合材1において、各粒子3は、摺動の開始前には金属材2中に全て埋没していてもよい。これにより、粒子3が露出するように摺動処理を施すことにより、金属-有機化合物複合材1と同様に摩擦係数を下げることが可能となる。また、金属-有機化合物複合材1と同様に、初期の接触抵抗を低減できる。すなわち、本明細書において「その一部が金属材2の中に埋没している粒子3」とは、単一の粒子3において摺動開始前にはその全体が金属材2の中に埋没しているが、摺動開始後にその一部が金属材2から露出し、その他の部分が金属材2の中に埋没している実施形態を含む。
【0024】
図1Bは、本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材の別の一例の模式断面図を示す。
図1Bにおいて、金属-有機化合物複合材11は、金属材2と、複数の粒子3とを含み、複数の粒子3は、金属材2の表面2bに付着している。ここで、粒子3は、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により剥離できるような弱い力で、表面2bに付着している。このような接触状態をとることにより、金属材2の摺動時に、直ちに摺動した部分の粒子3の少なくとも一部が除去され、金属-有機化合物複合材1と同様に、金属材2の少なくとも一部が金属-有機化合物複合材11の表面に露出した状態を実現でき、金属-有機化合物複合材1と同様に、金属材2の表面2b近傍の摩擦係数を下げることが可能となる。また、接触抵抗測定時においても金属材2を直ちに金属-有機化合物複合材11の表面に露出させることができるため、金属-有機化合物複合材1と同様に、初期の接触抵抗を低減できる。
【0025】
図1Bでは、複数の粒子3は、複数の粒子3の間から金属材2が金属-有機化合物複合材1の表面に露出しないように(金属材2の表面2bの全てを覆うように)、金属材2の表面2bに付着している状態を示したが、その状態に限定されず、例えば複数の粒子3の間から金属材2の一部が、金属-有機化合物複合材1の表面に露出するように表面2bに付着していてもよい。
【0026】
上述したように、金属材2に対する粒子3の接触状態を例示してきたが、その接触状態は1種であっても、2種以上であってもよい。例えば本発明の実施形態において、全粒子3のうち、一部の粒子3が金属材2の表面に付着しており、その他の粒子3が金属材2の中に埋没していてもよい。その場合、金属-有機化合物複合材の粒子が付着した側の表面に、金属材の少なくとも一部が露出していればよく、露出していなくても、セロハン粘着テープにより表面に付着した粒子3が剥離できればよい。また、粒子3の埋没状態としても、一部の粒子3が金属材2の表面から露出しており、その他の粒子3が金属材2中に全て埋没していてもよい。
【0027】
金属材2は、Al、Ti、Cu、Au、Ni、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含む。金属材2は、当該金属を合計で75質量%以上含むことが好ましく、合計で85質量%以上含むことがより好ましく、合計で95質量%以上含むことがさらに好ましい。金属材2は、上記金属を一種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0028】
金属材2は、バルク材料であっても、例えばめっき層などの表面処理層であってもよい。金属材2の厚さtは、特に制限されない。金属材2がめっき層などの表面処理層であれば、tは0.05~100μmであり得、0.07~50μmであることが好ましく、0.10~30μmであることがより好ましい。
【0029】
有機化合物粒子3について、「有機化合物」とは、炭素を含む化合物のうち、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸塩、青酸、シアン酸塩、チオシアン酸塩、B4CおよびSiC等のように簡単な構造の化合物を除いたものを指す。例えばシロキサン結合(-Si-O-Si-)が主鎖であって側鎖に有機基を有するシリコーン樹脂は、本明細書における「有機化合物」に含むものとする。
【0030】
粒子3を構成する有機化合物として、化合物Aは、単位分子構造内に水素(H)、炭素(C)および酸素(O)からなる群から選択されるいずれか2種以上を含む脂肪族化合物であり、金属材2の上記金属種の全てに対して摩擦係数をより低減する効果がある。そのため、複数の粒子3は化合物Aを含むことが好ましい。化合物Aの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、それらを酸化処理した樹脂(酸化ポリエチレンなど)、ポリメタクリル酸エステル樹脂等が挙げられる。なお、「単位分子構造」とは、高分子(重合体)の場合にはその1繰り返し単位、非重合体の場合には個々の分子を意味する。
【0031】
粒子3を構成する有機化合物として、化合物Bは、単位分子構造内にアミド結合を1つ以上含む脂肪族化合物であり、金属材2の上記金属種の全てに対して摩擦係数を十分に低減し、上記金属種のうちNiを除いて、摩擦係数をより低減する効果がある。そのため、金属材2は、Al、Ti、Cu、Au、Sn、ZnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含み、且つ複数の粒子3は化合物Bを含むことが好ましい。化合物Bの例としては、ナイロン66またはナイロン12等のナイロン樹脂が挙げられる。
【0032】
粒子3を構成する有機化合物として、化合物Cは、単位分子構造内にアミノ基(-NR1R2であって、R1およびR2は水素または炭化水素基であり、R1およびR2は同じでも異なっていてもよい)を1つ以上含む芳香族化合物であり、金属材2の上記金属種の全てに対して摩擦係数を十分に低減し、上記金属種のうちZnを除いて、摩擦係数をより低減する効果がある。すなわち金属材2は、Al、Ti、Cu、Au、Ni、SnおよびCrからなる群から選択されるいずれか一種以上の金属を合計で50質量%超含み、且つ複数の粒子3は、化合物Cを含むことが好ましい。化合物Cの例としては、メラミンシアヌレート、スルファニル酸等が挙げられる。
【0033】
複数の粒子3は、融点が100℃以上であるか、融点を示さない(すなわち融解せずに分解する)ことが好ましい。これにより、金属-有機化合物複合材1および11を高温に加熱したときに、有機化合物の融解に起因する摩擦係数の悪化を抑制できる。より好ましくは、複数の粒子3の融点が110℃以上であるか、融点を示さないことであり、さらに好ましくは、融点が120℃以上であるか、融点を示さないことである。ここで、「融点」とは、例えば大気下で、10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃までの熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行って求められる融点である。具体的には、TG曲線において質量の減少が1%未満の温度領域内の温度であって、且つDTA曲線において、温度上昇に伴って、熱流量が減少し始める第1の変曲点までの直線の外挿線と、その後一定の傾きで熱流量が減少し始める第2の変曲点以降の直線(すなわち前記一定の傾きの直線)の外挿線と、の交点の温度を、融点とすることができる。また、複数の粒子3が融点を示さない場合(融解せずに分解するような化合物の場合)は、その分解点が100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。ここで、「分解点」とは、例えば大気下で、10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃までの熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行って求められる分解点である。具体的には、TG曲線において1%以上の質量の減少が確認された温度領域内の温度であって、且つDTA曲線において、温度上昇に伴って、熱流量が減少し始める第1の変曲点までの直線の外挿線と、その後一定の傾きで熱流量が減少し始める第2の変曲点以降の直線(すなわち前記一定の傾きの直線)の外挿線と、の交点の温度を、分解点とすることができる。
【0034】
複数の粒子3は、金属-有機化合物複合材1および11の摩擦係数をより低減させる観点では、分解点が500℃以下であることが好ましい。より好ましくは、分解点が450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。なお、分解点を示さず燃焼点を示すときは、燃焼点が500℃以下であることが好ましく、より好ましくは450℃以下、さらに好ましくは400℃以下である。ここで、「燃焼点」は、例えば大気下で、10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃までの熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行って求められる燃焼点である。具体的には、TG曲線において1%以上の質量の減少が確認された温度領域内の温度であって、且つDTA曲線において、温度上昇に伴って、熱流量が増加し始める第1の変曲点までの直線の外挿線と、その後一定の傾きで熱流量が増加し始める第2の変曲点以降の直線(すなわち前記一定の傾きの直線)の外挿線と、の交点の温度を、燃焼点とすることができる。
【0035】
複数の粒子3は、コスト低減の観点からフッ素を含有しないことが好ましい。
【0036】
複数の粒子3の平均粒径(平均円相当直径、メディアン径(体積基準))は50μm未満であることが好ましい。これにより、例えば特定の有機化合物の一部が分解し、その一部が金属材2の表面2b近傍と反応すること等をより促進できる。複数の粒子3の平均粒径は、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
なお、金属材2がめっき層などの表面処理層であれば、その層厚に対して、粒子3の粒径が大きいと、層表面が凸状態になり得る。金属材2がめっき層などの表面処理層であれば、その層厚よりも、粒子3の平均粒径が小さいことが好ましく、これにより、金属材2中における、体積当たりの粒子3の分散密度を向上させることができる。
【0037】
複数の粒子3は非導電性であることが好ましい。これにより、金属-有機化合物複合材1および11が接点材料に使用される場合に、導電性粒子の脱落による接点の短絡を抑制できる。
【0038】
本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材1および11は、本発明の目的を達成する上で他の部材を含んでいてもよい。例えば金属-有機化合物複合材1および11は、金属材2が表面処理層の場合、その基材等を含んでもよい。基材の材質としては、例えば銅、鉄、アルミ、チタン、マグネシウム等の金属(またはその合金)であり得る。また基材の形態としては、例えば板、条、棒材、形材および線材等の展伸材、鋳物、焼結材、ならびにそれらを部品に加工したもの等であり得る。また、金属-有機化合物複合材1および11は、上述した特定の有機化合物粒子3以外の有機化合物粒子を含んでいてもよく、無機粒子を含んでいてもよい。その場合、全粒子のうち50体積%以上が上記特定の有機化合物粒子3であることが好ましく、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上がより好ましく、全て(100体積%)が上記特定の有機化合物粒子3であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材11は、金属材2の表面2bに、複数の有機化合物粒子3を含む分散液を塗布することにより製造することができる。
【0040】
本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材1は、例えば金属材2の金属めっき液中に粒子3を分散させて、攪拌しながら、基材に対して電気めっき処理を行うことで、基材上に、複数の粒子3が金属材2中に埋没(共析)した金属-有機化合物複合材1が得られる。なお、金属材2の金属めっき液中で粒子3が凝集することを抑制して安定的な分散状態を維持するために、適宜界面活性剤(分散剤)を使用してもよい。
【0041】
なお、金属めっき液中に粒子3を分散させて電気めっきを行い、金属材2中に粒子3を共析させるプロセスにおいては、以下の反応(A)および(B)が同時に進行する。
(A)基材表面に、液中分散粒子が静電気的または物理的に吸着(接触)する反応
(B)基材表面に、金属材2が堆積(成長)する反応
(A)で吸着した粒子3が(B)の金属材2中に取り込まれることで「共析」が生じる。共析めっきが定常的に進行する条件においては、反応初期に吸着した粒子3が金属材2中に取り込まれるのと同時に、新たな粒子3の吸着が発生する。このため、めっき処理を停止した場合にも、多くの場合で最表面に粒子3の露出が見られ、通常の共析めっきプロセスにおいて、一部が金属材2中に埋没し、残りの部分が金属材2表面に露出した粒子3を含む金属-有機化合物複合材1を容易に製造することができる。
ここで、金属材2中への粒子3の共析量は、(A)の吸着頻度と(B)のめっき膜成長速度とのバランスで決定される。そのため、例えば粒子3のめっき液中における分散量などのめっき条件を変化させることで、共析量を変化させることが可能となる。例えば、めっき処理の終盤において、めっき液中に分散した粒子3を含まないめっき液を用いて処理を行う、またはめっき液の攪拌速度を変化させて(A)の吸着頻度を低下させるなどにより、めっきの最表面側に粒子3を共析させない層を設けることで、金属材2中に粒子3が全て埋没した金属-有機化合物複合材を製造することが可能となる。
【0042】
本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材1および11は、従来技術よりも潤滑性を改善できる(すなわち摩擦係数を低くできる)。具体的には、本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材1および11は、下記摺動試験50サイクルまでの各サイクル後の摩擦係数(垂直荷重に対する水平荷重の比)の平均値を、粒子3の代わりに従来のタルクを接触させた金属材よりも低くできる。
<摺動試験(往復摺動試験)>
φ6mmの高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)ボールである相手材を、試験対象の金属-有機化合物複合材1または11の表面に対し、印加する垂直荷重:1N、摺動幅(摺動のストローク):10mm、平均摺動速度:30mm/秒で1往復させることを1サイクルとして、所定サイクル摺動させる。摺動試験機としては、例えばボールオンディスク試験装置(CSM社製:Tribometer)を用いることができる。
【0043】
本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材1および11は、さらに優れた耐摩耗性を有し得る。具体的には、本発明の実施形態に係る金属-有機化合物複合材1および11は、上記摺動試験500サイクル後の摩耗量が、粒子3を接触させない場合と比較して大きく低減(例えば1/2以下に低減、好ましくは1/5以下に低減、より好ましくは1/10以下に低減)できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【実施例1】
【0045】
市販の基材として、Fe板(板厚t:0.2mm)、Al板(板厚t:0.2mm)、Ti板(板厚t:0.2mm)およびCu板(板厚t:0.3mm)を金属材として(それぞれ、金属の純度は95質量%以上)、その金属材の板厚方向に垂直な1つの表面に、表1に示す種々の粒子がアルコール中に20mg/mlの割合で懸濁された液を0.5ml/cm2滴下し、乾燥させることで、種々の粒子が金属材表面に接触(付着)した金属-有機化合物複合材を得た。また、上記Cu板を基材として、Au、Sn、Zn、Ni、Ni-P(Ni含有量:85質量%以上)、Crのめっき層を公知の方法で形成し(めっき厚さt:5μm、各めっき層の純度は95質量%以上)、その上に表1に示す種々の粒子(又は粒子の分散液)がアルコール中に20mg/mlの割合で懸濁された液を0.5ml/cm2滴下し、乾燥させることで、種々の粒子が金属材表面に接触(付着)した金属-有機化合物複合材を得た。また、表1に示す種々の粒子に対し、差動型示差熱天秤(リガク社製、Thermo plus EVOII)を用いて、大気下、10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃まで熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い、各粒子の融点、分解点および燃焼点を求めた。それらの結果も合わせて表1に示す。なお、表1において、「化合物種」の欄の「-」は、本発明の実施形態における化合物A~Cのいずれにも該当しないことを意味し、「融点(℃)」、「分解点(℃)」および「燃焼点(℃」の欄の「-」は、熱重量示差熱分析において該当する温度を示さなかったことを意味し、「平均粒径(μm)」の欄の「-」は、該当する平均粒径を調査していないことを意味する。
【0046】
【0047】
上記のように作製した金属-有機化合物複合材を目視で観察した結果、全ての複合材において、複数の粒子は、複数の粒子の間から金属材が金属-有機化合物複合材の表面に露出することなく、金属材の表面に接触(付着)していた(すなわち金属材の表面が複数の粒子により覆われていた)。また、上記のように作製した金属-有機化合物複合材の全てにおいて、金属材に接触(付着)した粒子は、例えば、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)の粘着面を、金属-有機化合物複合材における粒子が接触した側の表面に、指で押し付けて貼り付け、それを当該表面に対して垂直方向に剥がすことにより剥離できる。
一例として、
図2Aは、金属材(Ni-Pめっき層)の表面に酸化ポリエチレン粒子を接触(付着)させた金属-有機化合物複合材の表面の写真を示す。
図2Aに示すように、粒子を付着させた部分(破線で囲まれた部分)には、金属光沢は見られず、金属材の露出は確認できなかった。
図2Bは、
図2Aの金属-有機化合物複合材の表面にセロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)を貼り付けた後の写真を示し(一点鎖線で囲んだ部分にテープが貼り付けられている)、
図2Cはそのテープを、貼り付けた表面に対して垂直方向に剥がした後の写真を示す。なお、
図2Bにおいて、セロハン粘着テープは、その粘着面を、金属-有機化合物複合材における粒子が接触した側の表面に指で押し付けることにより貼り付けている。
図2Cに示すように、テープが貼り付けてあった部分(一点鎖線で囲まれた部分)に新たに金属光沢が見られ、粒子はセロハン粘着テープにより剥離されたことがわかる。
【0048】
上記のように作製した金属-有機化合物複合材に対して、以下の潤滑性評価を行った。なお、以下の潤滑性評価は、上記セロハン粘着テープの貼り付けおよび剥離は行っていないサンプルセットを別途用意することで行った。
<潤滑性評価>
ボールオンディスク試験装置(CSM社製:Tribometer)を用いた往復摺動試験として、φ6mmの高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)ボールである相手材を、試験対象の金属-有機化合物複合材に対し、印加する垂直荷重:1N、摺動幅(摺動のストローク):10mm、平均摺動速度:30mm/秒で1往復させることを1サイクルとして、50サイクル摺動させた。
潤滑性評価の判定として、各サイクル後における摩擦係数(垂直荷重に対する水平荷重の比)の平均値を算出し、その平均摩擦係数が、粒子を接触させていない場合およびタルクを接触させた場合と比較して低下しているものを十分(〇)とし、粒子を接触させていない場合及び/又はタルクを接触させた場合と比較して低下していないものを不十分(×)とし、さらに粒子を接触させていない場合と比較して50%以下に低下したものを優れている(◎)とした。
以上の結果を表2にまとめた。
【0049】
【0050】
表2の結果より、次のように考察できる。表2において、金属材がAl、Ti、Cu、Au、Ni、Ni-P、Sn、ZnまたはCrであり、且つ、接触させた粒子が酸化ポリエチレン(本発明の実施形態に係る化合物Aの要件を満たす)、ポリプロピレン(本発明の実施形態に係る化合物Aの要件を満たす)、ナイロン12(本発明の実施形態に係る化合物Bの要件を満たす)、またはメラミンシアヌレート(本発明の実施形態に係る化合物Cの要件を満たす)である場合は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、粒子を接触させない場合および従来技術(すなわちタルクを金属材に接触させた場合)よりも摩擦係数が低く、潤滑性が改善されていた。
【0051】
表2の結果より、以下(1)~(3)の場合、摩擦係数がより低くなっており、好ましい態様であった。
(1)金属材がAl、Ti、Cu、Au、Ni、Ni-P、Sn、ZnまたはCrであり、且つ、接触させた粒子が化合物A(酸化ポリエチレンまたはポリプロピレン)である
(2)金属材がAl、Ti、Cu、Au、Ni-P、Sn、ZnまたはCrであり、且つ、接触させた粒子が化合物B(ナイロン12)である
(3)金属材がAl、Ti、Cu、Au、Ni、Ni-P、SnまたはCrであり、且つ、接触させた粒子が化合物C(メラミンシアヌレート)である
【0052】
一方で、金属材がFeの場合、および接触させた粒子がPEEKの場合は、本発明の実施形態の要件を満たしておらず、摩擦係数を十分に低下させることができなかった。
【0053】
さらに、上記金属-有機化合物複合材の一部に対して、以下の耐摩耗性評価を行った。なお、以下の耐摩耗性評価は、上記セロハン粘着テープの貼り付けおよび剥離、ならびに潤滑性評価を行っていないサンプルセットを別途用意することで行った。
<耐摩耗性評価>
ボールオンディスク試験装置(CSM社製:Tribometer)を用いた往復摺動試験として、φ6mmの高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)ボールである相手材を、試験対象の金属-有機化合物複合材に対し、印加する垂直荷重:1N、摺動幅(摺動のストローク):10mm、平均摺動速度:30mm/秒で1往復させることを1サイクルとして、500サイクル摺動させた。
往復摺動試験終了後、表面形状測定装置(アルバック社製:DEKTAK6M)を使用して表面プロファイルを取得することで摩耗量を算出した。
【0054】
図3Aは往復摺動試験したサンプルの表面模式図を示し、
図3Bは、一例として、表1の金属材:Ni-P(粒子無し)に対して往復摺動試験した後、
図3Aに示すような摺動痕30の中央部を、摺動方向に対して垂直な方向に表面粗さ計で測定した表面プロファイル結果を示す。ここで摩耗量(μm
2)は、
図3Bの表面プロファイル結果における、(摺動部31以外の)非摺動部32の平均線32aよりも、下方に削られた摩耗部31aの面積から、塑性変形によって上方に隆起したと考えられる隆起部31bの面積を、差し引くことにより求めた。
摩耗量算出結果を表3に示す。
【0055】
【0056】
表3の結果より、本発明の実施形態の要件を満たす場合、金属材に粒子を接触させない場合(粒子無しの場合)と比較して、摩耗量を大幅に低減できることがわかった。
【実施例2】
【0057】
実施例1で用いたものと同じCu板を基材として、Ni-P(Ni含有量:85質量%以上)のめっき層を公知の方法で形成し(めっき厚さt:5μm、めっき層の純度は95質量%以上)、その上に、表1に示す酸化ポリエチレン粒子がアルコール中に2mg/mlの割合で懸濁された液を0.5ml/cm2滴下し、乾燥させることで、酸化ポリエチレン粒子が金属材(Ni-Pめっき層)表面に接触(付着)した金属-有機化合物複合材を得た。
【0058】
図4に、上記のように作製した金属材(Ni-Pめっき層)の表面に酸化ポリエチレン粒子を接触(付着)させた金属-有機化合物複合材の表面の写真を示す。
図4に示すように、複数の酸化ポリエチレン粒子の間から金属光沢(例えば破線で囲まれた部分)が確認され、Ni-Pめっき層の一部が金属-有機化合物複合材の表面に露出していた。また、上記金属-有機化合物複合材は、実施例1と同様に作製(塗布)しているため、実施例1と同様にセロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標)No.405)により酸化ポリエチレン粒子を剥離できると考えられる。
【0059】
上記のように作製した金属材(Ni-Pめっき層)に酸化ポリエチレン粒子を接触させた金属-有機化合物複合材に対し、実施例1と同様に潤滑性評価した結果、平均摩擦係数は、0.17と優れた値を示した。
【実施例3】
【0060】
板厚0.3mmの純銅板をめっき基材とし、アセトン洗浄にて表面を脱脂した後、硫酸系のSnめっき液を用い、めっき液中に表4に示す有機化合物粒子(添加量30g/L)と、界面活性剤(AGXセイミケミカル製、サーフロンS231、添加量5g/L)とを分散させ、攪拌を行いながら、Sn板を対極として1A/dm2の電流密度で10分間の通電を行い、厚さ約5μmのSnめっき層中に、複数の有機化合物粒子が、金属材の少なくとも一部が表面に露出するように共析した(埋没した)金属-有機化合物複合材を得た。また、比較として、有機化合物粒子および界面活性剤を分散させずにめっき処理した金属材(Snめっき層)も作製した。また、表4に示す粒子に対し、差動型示差熱天秤(リガク社製、Thermo plus EVOII)を用いて、大気下、10℃/分の昇温速度で、室温から最大1000℃まで熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い、粒子の融点、分解点および燃焼点を求めた。それらの結果も合わせて表4に示す。なお、表4において、「融点(℃)」、「分解点(℃)」および「燃焼点(℃」の欄の「-」は、熱重量示差熱分析において該当する温度を示さなかったことを意味する。
【0061】
【0062】
上記のように作製した金属-有機化合物複合材に対し、実施例1と同様に潤滑性評価および耐摩耗性評価を行った。結果を表5および表6にそれぞれ示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表5の結果に示すように、上記金属-有機化合物複合材は、金属材がAl、Ti、Cu、Au、Ni、Ni-P、Sn、ZnまたはCrであり、且つ、接触(埋没)させた粒子が化合物A(架橋PMMA)であるという好ましい態様であったため、粒子無しの場合と比較して、粒子を接触(埋没)させていない場合と比較して平均摩擦係数が50%以下に低下するという優れた結果であった。
また、表6の結果より、本発明の実施形態の要件を満たす場合、金属材に粒子を接触させない場合(粒子無しの場合)と比較して、摩耗量を大幅に低減できることがわかった。
【符号の説明】
【0066】
1、11 金属-有機化合物複合材
2 金属材
2a 表面に露出した金属材2の一部
2b 金属材2の表面
3 有機化合物粒子
30 摺動痕
31 摺動部
31a 摩耗部
31b 隆起部
32 非摺動部
32a 平均線