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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20241025BHJP
   B62D 1/04 20060101ALI20241025BHJP
   H01H 36/00 20060101ALI20241025BHJP
   G01B 7/00 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D1/04
H01H36/00 J
G01B7/00 101C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022191019
(22)【出願日】2022-11-30
(65)【公開番号】P2024078578
(43)【公開日】2024-06-11
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】中村 高太郎
【審査官】小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023012(JP,A)
【文献】特開2019-023011(JP,A)
【文献】特開2016-159833(JP,A)
【文献】特開2022-129139(JP,A)
【文献】特開2018-052379(JP,A)
【文献】特開2018-120757(JP,A)
【文献】特許第5009473(JP,B2)
【文献】国際公開第2023/195052(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/087203(WO,A1)
【文献】特開2021-127059(JP,A)
【文献】特開2020-040581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00 - 1/28
B62D 6/00 - 6/10
B60R 16/00 - 16/08
B60W 40/08 - 50/16
G01B 7/00
H01H 36/00
G01V 3/08
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による車両の操舵操作を受け付けるステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルの操舵角を取得する操舵角取得部と、
前記ステアリングハンドルに設けられた電極部の静電容量を測定し、当該静電容量の測定結果に基づいて運転者による前記ステアリングハンドルの把持の有無及び把持位置を取得する把持センサユニットと、
前記把持センサユニットの異常の有無を判定する異常判定装置と、を備えるステアリング装置であって、
前記異常判定装置は、前記操舵角が所定の操舵角閾値を超える前の直進時における前記把持位置と、前記操舵角が前記操舵角閾値を超えた後の転回時における前記把持位置と、に基づいて前記把持センサユニットの異常の有無を判定することを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
前記異常判定装置は、前記直進時における前記把持位置が第1位置でありかつ前記転回時における前記把持位置が前記第1位置及び当該第1位置と異なる第2位置の両方を含む場合、前記把持センサユニットは異常であると判定することを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ステアリングハンドルは、環状のリム部と、前記リム部の内側に設けられたハブ部と、前記リム部と前記ハブ部とを接続するスポーク部と、を備え、
前記把持センサユニットは、前記リム部における前記把持位置を取得し、
前記第2位置は、前記リム部のうち前記第1位置よりも転回方向反対側に定められることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記把持センサユニットは、
前記ステアリングハンドルに設けられた第1電極部と、
前記ステアリングハンドルのうち前記第1電極部よりも前記第1位置から遠くかつ前記第2位置に近い位置に設けられた第2電極部と、
前記第1電極部の静電容量の測定結果に基づいて前記リム部のうち前記第1位置における把持の有無を判定する第1把持判定部と、
前記第2電極部の静電容量の測定結果に基づいて前記リム部のうち前記第2位置における把持の有無を判定する第2把持判定部と、を備え、
前記異常判定装置は、前記直進時における前記把持位置が前記第1位置でありかつ前記転回時における前記把持位置が前記第1位置及び前記第2位置の両方を含む場合、前記第1把持判定部の判定結果を無効にすることを特徴とする請求項3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記操舵角閾値は、中立位置から90°以上離れた角度に設定されることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。より詳しくは、運転者による操舵操作を受け付けるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中でも脆弱な立場にある人々にも配慮した持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。この実現へ向けて、車線維持機能、車線逸脱抑制機能、及び先行車追従機能等の運転支援機能に関する研究開発を通して交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発に注力している。
【0003】
このような運転支援機能を備える車両では、例えば特許文献1に示されたようなセンサ装置によって運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定し、把持していないと判定した場合には、運転者に対しステアリングハンドルの把持を促したり、実行中の運転支援機能をキャンセルしたりする場合がある。
【0004】
特許文献1に示されたセンサ装置では、ステアリングハンドルに設けられた電極の静電容量の測定値に基づいて、運転者によるステアリングハンドルの把持の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-82821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1に記載の発明のように静電容量の測定値に基づいてステアリングハンドルの把持の有無を判定する場合、ステアリングハンドルに飲み物や雨等の水分が付着していると静電容量の測定値が変化してしまい、誤判定するおそれがある。このためセンサ装置に異常が生じた場合、これを速やかに検出する必要がある。
【0007】
本発明は、ステアリングハンドルの把持センサの異常の有無を速やかに判定できるステアリング装置を提供することを目的としたものであり、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るステアリング装置は、運転者による車両の操舵操作を受け付けるステアリングハンドルと、前記ステアリングハンドルの操舵角を取得する操舵角取得部と、前記ステアリングハンドルに設けられた電極部の静電容量を測定し、当該静電容量の測定結果に基づいて運転者による前記ステアリングハンドルの把持の有無及び把持位置を取得する把持センサユニットと、前記把持センサユニットの異常の有無を判定する異常判定装置と、を備え、前記異常判定装置は、前記操舵角が所定の操舵角閾値を超える前の直進時における前記把持位置と、前記操舵角が前記操舵角閾値を超えた後の転回時における前記把持位置と、に基づいて前記把持センサユニットの異常の有無を判定することを特徴とする。
【0009】
(2)この場合、前記異常判定装置は、前記直進時における前記把持位置が第1位置でありかつ前記転回時における前記把持位置が前記第1位置及び当該第1位置と異なる第2位置の両方を含む場合、前記把持センサユニットは異常であると判定することが好ましい。
【0010】
(3)この場合、前記ステアリングハンドルは、環状のリム部と、前記リム部の内側に設けられたハブ部と、前記リム部と前記ハブ部とを接続するスポーク部と、を備え、前記把持センサユニットは、前記リム部における前記把持位置を取得し、前記第2位置は、前記リム部のうち前記第1位置よりも転回方向反対側に定められることが好ましい。
【0011】
(4)この場合、前記把持センサユニットは、前記ステアリングハンドルに設けられた第1電極部と、前記ステアリングハンドルのうち前記第1電極部よりも前記第1位置から遠くかつ前記第2位置に近い位置に設けられた第2電極部と、前記第1電極部の静電容量の測定結果に基づいて前記リム部のうち前記第1位置における把持の有無を判定する第1把持判定部と、前記第2電極部の静電容量の測定結果に基づいて前記リム部のうち前記第2位置における把持の有無を判定する第2把持判定部と、を備え、前記異常判定装置は、前記直進時における前記把持位置が前記第1位置でありかつ前記転回時における前記把持位置が前記第1位置及び前記第2位置の両方を含む場合、前記第1把持判定部の判定結果を無効にすることが好ましい。
【0012】
(5)この場合、前記操舵角閾値は、中立位置から90°以上離れた角度に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明において、把持センサユニットは、ステアリングハンドルに設けられた電極部の静電容量を測定し、当該静電容量の測定結果に基づいて運転者によるステアリングハンドルの把持の有無及び把持位置を取得し、異常判定装置は、把持センサユニットの異常の有無を判定する。ここで運転者は、車両を転回させるためにステアリングハンドルを左折方向又は右折方向へ向けて回動させる際、直進時から転回時にかけてステアリングハンドルを持ち替える場合が多い。すなわち、ステアリングハンドルの操舵角が操舵角閾値を超える前の直進時における把持位置は、操舵角が操舵角閾値を超えた後の転回時における把持位置と異なる場合が多い。そこで異常判定装置は、直進時における把持位置と転回時における把持位置とに基づいて、把持センサユニットの異常の有無を判定する。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの把持センサユニットの異常の有無を簡易な構成で速やかに判定することができ、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【0014】
(2)上述のように直進時から転回時にかけてステアリングハンドルを持ち替えると、直進時と転回時とで把持位置が異なる場合が多い。そこで異常判定装置は、直進時における把持位置が第1位置でありかつ転回時における把持位置が第1位置及び第2位置の両方を含む場合、すなわち直進時から転回時にかけて把持位置が第1位置から第2位置へ変化したにも関わらず、転回時も第1位置が把持されている場合、把持センサユニットは異常であると判定する。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの把持センサユニットの異常の有無を簡易な構成で速やかに判定することができる。
【0015】
(3)上述のようにステアリングハンドルを持ち替える場合、運転者は、自身の腕の延びや手首の捩れを小さくしたり、肘と胴体との干渉を避けたりするため、直進時から転回時にかけて環状のリム部における把持位置を転回方向と反対側へ変更する場合が多い。すなわち左折時にリム部を反時計周りに回動させる場合、運転者は、把持位置を直進時における位置から時計周りに離れた位置へ変更する場合が多い。また右折時にリム部を時計周りに回動させる場合、運転者は、把持位置を直進時における位置から反時計周りに離れた位置へ変更する場合が多い。そこで異常判定装置は、直進時における把持位置が第1位置でありかつ転回時における把持位置が第1位置及びこの第1位置よりも転回方向反対側に定められた第2位置の両方を含む場合、把持センサユニットは異常であると判定する。よって本発明によれば、ステアリングハンドルの把持センサユニットの異常の有無を簡易な構成で速やかに判定することができる。
【0016】
(4)把持センサユニットは、第1位置に近い位置に設けられた第1電極部と、第2位置に近い位置に設けられた第2電極部と、第1電極部の静電容量の測定結果に基づいて第1位置における把持の有無を判定する第1把持判定部と、第2電極部の静電容量の測定結果に基づいて第2位置における把持の有無を判定する第2把持判定部と、を備える。また異常判定装置は、直進時における把持位置が第1位置でありかつ転回時における把持位置が第1位置及び第2位置の両方を含む場合、把持センサユニットのうち第1把持判定部に異常があると判断し、これ以降の第1把持判定部の判定結果を無効にする。これにより、異常が生じたと判定された後の把持センサユニットの判定結果の信頼性を保証することができる。
【0017】
(5)運転者は、ステアリングハンドルを中立位置から左折方向又は右折方向へ90°以上回動した時にステアリングハンドルを持ち替える場合が多い。そこで本発明では、操舵角閾値を中立位置から90°以上離れた角度に設定することにより、把持センサユニットの異常を精度良く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の構成を示す図である。
図2】右測定回路の回路構成を示す図である。
図3A】直進時における運転者によるリム部の典型的な把持位置を示す図である。
図3B】左折時における運転者によるリム部の典型的な把持位置を示す図である。
図3C】右折時における運転者によるリム部の典型的な把持位置を示す図である。
図4】異常判定装置における異常判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである(その1)。
図5】異常判定装置における異常判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである(その2)。
図6】異常判定装置における異常判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るステアリング装置について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るステアリング装置1の構成を示す図である。ステアリング装置1は、図示しない車両に搭載される。ステアリング装置1は、運転者による車両の操舵操作や車両補機に対する補機操作等を受け付けるステアリングハンドル2と、このステアリングハンドル2を軸支するステアリングシャフト3と、ステアリングハンドル2に設けられた複数の電極部の静電容量の測定結果に基づいて、運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無及び把持位置を取得する把持センサユニット8と、この把持センサユニット8の異常の有無を判定する異常判定装置9と、を備える。
【0021】
ステアリングハンドル2は、円環状であり運転者が把持可能なリム部20と、このリム部20の内側に設けられたハブ部23と、ハブ部23から径方向に沿って延びリム部20のリム内周部21に接続される3つのスポーク部25L,25R,25Dと、を備える。
【0022】
ハブ部23は、円盤状であり、例えば運転者から視たリム部20の中心に設けられ、ステアリングハンドル2の中心を構成する。運転者から視たハブ部23の背面側には、ステアリングハンドル2を軸支するステアリングシャフト3が連結されている。ステアリングシャフト3は、ハブ部23の骨格である心金と、図示しない車体の一部を構成する操舵機構とを連結する軸状の連結部材である。したがって運転者がステアリングハンドル2を回転させることによって生じるステアリングトルクは、このステアリングシャフト3によって図示しない操舵機構に伝達される。
【0023】
このステアリングシャフト3には、ステアリングハンドル2の操舵角を検出し、検出値に応じた信号を異常判定装置9へ出力する操舵角センサ31が設けられている。なお以下では、ステアリングハンドル2が図1に示すような中立位置にあるときにおける操舵角を0°とする。またステアリングハンドル2を中立位置から左折方向(図1中反時計周り)へ回動させると操舵角は正側へ増加し、ステアリングハンドル2を中立位置から右折方向(図1中時計周り)へ回動させると操舵角は負側へ増加するものとする。
【0024】
リム部20とハブ部23とは、3つのスポーク部25L,25R、25Dによって接続されている。左スポーク部25Lは、水平方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た左側の部分とリム内周部21のうち運転者から視た左側の部分とを接続する。右スポーク部25Rは、左スポーク部25Lと平行かつ水平方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た右側の部分とリム内周部21のうち運転者から視た右側の部分とを接続する。下スポーク部25Dは、スポーク部25L,25Rに対し直交かつ鉛直方向に沿って延び、ハブ部23のうち運転者から視た下側の部分とリム内周部21のうち運転者から視た下側の部分とを接続する。
【0025】
以上のようにリム部20は運転者から視て円環状であり、運転者はその全周にわたり把持可能である。またこのリム部20には、後述の把持センサユニット8の複数の電極部40,50,60,70が全周にわたり設けられている。
【0026】
左スポーク部25L及び右スポーク部25Rには、それぞれ、運転者が図示しない車両補機(例えば、オーディオ装置やカーナビゲーション装置等)を操作するための運転者による補機操作を受け付ける左補機操作コンソールユニット27L及び右補機操作コンソールユニット27Rが設けられている。運転者は、これら補機操作コンソールユニット27L,27Rに設けられた複数のスイッチを指で操作することによって、車両補機を操作することが可能となっている。
【0027】
なお以下では、運転者から視て略円形のリム部20、リム内周部21、ハブ部23、及びステアリングシャフト3の位置や各スポーク部25L,25R,25Dの向きを、ステアリングシャフト3を中心としかつリム部20の運転者から視た上端部20Cを基準とした時計回りの角度[°]で表す場合もある。すなわち、右スポーク部25Rは、90°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム内周部21の90°の部分を接続する。下スポーク部25Dは、180°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム内周部21の180°の部分を接続する。また左スポーク部25Lは、270°の向きに沿って延び、ハブ部23及びリム内周部21の270°の部分を接続する。
【0028】
把持センサユニット8は、それぞれ検出対象領域が異なる複数(本実施形態では、4つ)の近接センサ4,5,6,7と、これら近接センサ4~7による測定結果に基づいて運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無及び把持位置を判定する把持判定装置80と、を備える。
【0029】
右近接センサ4は、リム部20に設けられた右電極部40と、この右電極部40と電気的に接続された右測定回路42と、を備える。右電極部40は、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。右電極部40は、リム部20の内部に設けられている。右電極部40は、リム部20のうち45°から135°の間の約90°の範囲(すなわち、主に直進時に運転者が右手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち右電極部40が配置されている領域を右グリップ部20Rともいう。右測定回路42は、配線41を介して右電極部40と接続されている。右測定回路42は、右電極部40の配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、右電極部40と接地との間の静電容量を測定する。右電極部40の配置位置と人体との距離が近くなるほど、右電極部40と接地との間の静電容量は大きくなる。右測定回路42による静電容量の測定値Ch_Rは把持判定装置80へ送信される。
【0030】
図2は、右測定回路42の回路構成を示す図である。
右測定回路42は、パルス電源43と、増幅器44と、第1スイッチ45と、第2スイッチ46と、充電コンデンサ47と、静電容量測定部48と、を備える。なお図2では、右電極部40と接地(例えば、車体)との間の静電容量を、ステアリングハンドル2を操作する運転者の手を含む人体Hによって形成される静電容量Chと、人体Hを除く配線や部品等の浮遊コンデンサEによって形成される浮遊容量Ceと、に分けて図示する。
【0031】
図2に示すように、パルス電源43と増幅器44とは直列に接続されている。第2スイッチ46と充電コンデンサ47とは並列に接続されている。パルス電源43及び増幅器44から成る直列回路と、第2スイッチ46及び充電コンデンサ47から成る並列回路は、第1スイッチ45を介して接続されている。増幅器44の出力端子と第1スイッチ45とは、配線41を介して右電極部40に接続されている。したがってパルス電源43は、増幅器44及び配線41を介して右電極部40に接続される。また第2スイッチ46及び充電コンデンサ47は、それぞれ第1スイッチ45及び配線41を介して右電極部40に接続されている。
【0032】
パルス電源43は、把持判定装置80からの指令に応じて、所定周波数かつ所定電圧のパルス電圧Vsを増幅器44に供給する。増幅器44は、パルス電源43から供給されるパルス電圧Vsを増幅し、右電極部40に印加する。
【0033】
第2スイッチ46は、図示しない駆動回路によってオン/オフされるスイッチング素子である。この第2スイッチ46の駆動回路は、例えば充電コンデンサ47の電圧VCrefが予め定められた閾値Vthrに到達するまでの間、第2スイッチ46をオフにし、電圧VCrefが閾値Vthrに到達した後に、第2スイッチ46をオンにし、充電コンデンサ47に蓄えられた電荷を放電する。
【0034】
第1スイッチ45は、図示しない駆動回路によってオン/オフされるスイッチング素子である。この第1スイッチ45の駆動回路は、パルス電源43のパルス電圧Vsの立ち上がりに応じて第1スイッチ45をオフにする。これにより右電極部40には、パルス電源43及び増幅器44から供給されるパルス電圧が印加され、図2において矢印2aで示す経路を経て電荷が移動し、人体H及び浮遊コンデンサEが充電される。
【0035】
また第1スイッチ45の駆動回路は、パルス電源43のパルス電圧Vsの立ち下がりに応じて第1スイッチ45をオンにする。これにより、人体H及び浮遊コンデンサEと充電コンデンサ47とが接続され、人体H及び浮遊コンデンサEから充電コンデンサ47へ図2において矢印2bで示す経路を経て電荷が移動し、充電コンデンサ47が充電される。これにより充電コンデンサ47の電圧VCrefは上昇する。
【0036】
このためパルス電源43及び増幅器44によってパルス電圧を右電極部40に印加すると、人体H及び浮遊コンデンサEの充電及び放電が交互に繰り返され、充電コンデンサ47の電圧VCrefが徐々に高くなる。この際、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでの時間(又は、パルス電源43のパルス数)は、人体Hによって形成される静電容量Ch、すなわち右電極部40と運転者の身体との間の距離に応じて変化する。すなわち、リム部20のうち右電極部40の配置位置に対し運転者の身体の一部が接触又は接近しており静電容量Chが高い場合、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでにかかる時間は短くなり、運転者の身体の一部が右電極部40の配置位置から離れており静電容量Chが低い場合、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでにかかる時間は長くなる。
【0037】
静電容量測定部48は、充電コンデンサ47の電圧VCrefが閾値Vthrに到達するまでの時間やパルス数を測定しており、この測定結果に基づいて間接的に右電極部40の近傍に存在する人体Hによって形成される静電容量Chを測定する。静電容量測定部48は、以上の手順によって得られた静電容量Chの測定値Ch_Rを把持判定装置80へ送信する。
【0038】
図1に戻り、左近接センサ5は、リム部20に設けられた左電極部50と、この左電極部50と電気的に接続された左測定回路52と、を備える。左電極部50は、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。左電極部50は、リム部20の内部に設けられている。左電極部50は、リム部20のうち225°から315°の間の約90°の範囲(すなわち、主に直進時に運転者が左手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち左電極部50が配置されている領域を左グリップ部20Lともいう。左測定回路52は、配線51を介して左電極部50と接続されている。左測定回路52は、左電極部50の配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、左電極部50と接地との間の静電容量を測定する。左電極部50の配置位置と人体との距離が近くなるほど、左電極部50と接地との間の静電容量は大きくなる。左測定回路52による静電容量の測定値Ch_Lは把持判定装置80へ送信される。なお左測定回路52の回路構成は、図2に示す右測定回路42とほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0039】
上近接センサ6は、リム部20に設けられた上電極部60と、この上電極部60と電気的に接続された上測定回路62と、を備える。上電極部60は、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。上電極部60は、リム部20の内部に設けられている。上電極部60は、リム部20のうち315°から405°(45°)の間の約90°の範囲(すなわち、主に転回時に運転者が右手又は左手で把持可能な範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち上電極部60が配置されている領域を上グリップ部20Uともいう。上測定回路62は、配線61を介して上電極部60と接続されている。上測定回路62は、上電極部60の配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、上電極部60と接地との間の静電容量を測定する。上電極部60の配置位置と人体との距離が近くなるほど、上電極部60と接地との間の静電容量は大きくなる。上測定回路62による静電容量の測定値Ch_Uは把持判定装置80へ送信される。なお上測定回路62の回路構成は、図2に示す右測定回路42とほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0040】
下近接センサ7は、リム部20に設けられた下電極部70と、この下電極部70と電気的に接続された下測定回路72と、を備える。下電極部70は、リム部20に沿って延びる円弧状であり、導電性である。下電極部70は、リム部20の内部に設けられている。下電極部70は、リム部20のうち135°から225°の間の約90°の範囲(すなち、主に転回時に運転者が右手又は左手で把持可能な範囲でありかつリム部20のうち運転者の膝に最も近い範囲)に配置されている。なお以下では、リム部20のうち下電極部70が配置されている領域を下グリップ部20Dともいう。下測定回路72は、配線71を介して下電極部70と接続されている。下測定回路72は、下電極部70の配置位置と人体との間の距離に応じて増減する値として、下電極部70と接地との間の静電容量を測定する。下電極部70の配置位置と人体との距離が近くなるほど、下電極部70と接地との間の静電容量は大きくなる。下測定回路72による静電容量の測定値Ch_Dは把持判定装置80へ送信される。なお下測定回路72の回路構成は、図2に示す右測定回路42とほぼ同じであるので、詳細な説明を省略する。
【0041】
以上のように右近接センサ4の右電極部40は、他の電極部50,60,70よりも右グリップ部20Rに近い位置に設けられている。このため右近接センサ4はリム部20のうち右グリップ部20Rを検出対象領域とする。左近接センサ5の左電極部50は、他の電極部40,60,70よりも左グリップ部20Lに近い位置に設けられている。このため左近接センサ5はリム部20のうち左グリップ部20Lを検出対象領域とする。上近接センサ6の上電極部60は、他の電極部40,50,70よりも上グリップ部20Uに近い位置に設けられている。このため上近接センサ6はリム部20のうち上グリップ部20Uを検出対象領域とする。下近接センサ7の下電極部70は、他の電極部40,50,60よりも下グリップ部20Dに近い位置に設けられている。このため下近接センサ7はリム部20のうち下グリップ部20Dを検出対象領域とする。把持判定装置80は、上述のようにそれぞれリム部20における検出対象領域が異なる4つの近接センサ4~7の測定値Ch_R,Ch_L,Ch_U,Ch_Dに基づいて、運転者によるリム部20の把持の有無及び把持位置を取得する。
【0042】
図2に示すように、把持判定装置80は、右近接センサ4から出力される右電極部40の静電容量の測定値Ch_Rに基づいてリム部20の右グリップ部20Rにおける把持の有無を判定する右把持判定部80Rと、左近接センサ5から出力される左電極部50の静電容量の測定値Ch_Lに基づいてリム部20の左グリップ部20Lにおける把持の有無を判定する左把持判定部80Lと、上近接センサ6から出力される上電極部60の静電容量の測定値Ch_Uに基づいてリム部20の上グリップ部20Uにおける把持の有無を判定する上把持判定部80Uと、下近接センサ7から出力される下電極部70の静電容量の測定値Ch_Dに基づいてリム部20の下グリップ部20Dにおける把持の有無を判定する下把持判定部80Dと、を備える。
【0043】
右把持判定部80Rは、測定値Ch_Rが予め定められた右静電容量閾値Ch_R_thより大きい場合、リム部20は右グリップ部20Rにおいて運転者によって把持されていると判定し、測定値Ch_Rが右静電容量閾値Ch_R_th未満である場合、リム部20は右グリップ部20Rにおいて運転者によって把持されていないと判定する。
【0044】
左把持判定部80Lは、測定値Ch_Lが予め定められた左静電容量閾値Ch_L_thより大きい場合、リム部20は左グリップ部20Lにおいて運転者によって把持されていると判定し、測定値Ch_Lが左静電容量閾値Ch_L_th未満である場合、リム部20は左グリップ部20Lにおいて運転者によって把持されていないと判定する。
【0045】
上把持判定部80Uは、測定値Ch_Uが予め定められた上静電容量閾値Ch_U_thより大きい場合、リム部20は上グリップ部20Uにおいて運転者によって把持されていると判定し、測定値Ch_Uが上静電容量閾値Ch_U_th未満である場合、リム部20は上グリップ部20Uにおいて運転者によって把持されていないと判定する。
【0046】
下把持判定部80Dは、測定値Ch_Dが予め定められた下静電容量閾値Ch_D_thより大きい場合、リム部20は下グリップ部20Dにおいて運転者によって把持されていると判定し、測定値Ch_Dが下静電容量閾値Ch_D_th未満である場合、リム部20は下グリップ部20Dにおいて運転者によって把持されていないと判定する。
【0047】
図1に戻り、異常判定装置9は、操舵角センサ31から出力される操舵角検出値θdと、把持センサユニット8における把持の有無や把持位置等の判定結果と、に基づいて把持センサユニット8の異常の有無を判定する。
【0048】
図3Aは、直進時における運転者によるリム部20の典型的な把持位置を示す図である。図3Aに示すように、運転者は、直進時、すなわちステアリングハンドル2を中立位置に維持する場合、右手HRで右グリップ部20Rを把持し、左手HLで左グリップ部20Lを把持する場合が多い。
【0049】
図3Bは、左折時における運転者によるリム部20の典型的な把持位置を示す図である。図3Bに示すように左折時には、運転者はリム部20を中立位置から反時計回りに90°以上回動させる。この際、図3Aに示すように右手HRで右グリップ20Rを把持しかつ左手HLで左グリップ20Lを把持したままリム部20を反時計周りに90°以上回動させると、腕の延びや手首の捩れが大きくなったり、肘が胴体に干渉したりするため、多くの運転者は、図3Bに示すように右手HR及び左手HLを持ち替える。すなわち、直進時に右グリップ部20Rを把持していた右手HRは、左折時には、右グリップ部20Rよりも時計周り側の下グリップ部20Dに持ち替える。また直進時に左グリップ部20Lを把持していた左手HLは、左折時には、左グリップ部20Lよりも時計周り側の上グリップ部20Uに持ち替える。
【0050】
図3Cは、右折時における運転者によるリム部20の典型的な把持位置を示す図である。図3Cに示すように右折時には、運転者はリム部20を中立位置から時計回りに90°以上回動させる。この際、図3Aに示すように右手HRで右グリップ20Rを把持しかつ左手HLで左グリップ20Lを把持したままリム部20を時計周りに90°以上回動させると、腕の延びや手首の捩れが大きくなったり、肘が胴体に干渉したりするため、多くの運転者は、図3Cに示すように右手HR及び左手HLを持ち替える。すなわち、直進時に右グリップ部20Rを把持していた右手HRは、右折時には、右グリップ部20Rよりも反時計周り側の上グリップ部20Uに持ち替える。また直進時に左グリップ部20Lを把持していた左手HLは、右折時には、左グリップ部20Lよりも反時計周り側の下グリップ部20Dに持ち替える。
【0051】
以上のように、運転者は、車両を転回させるためにリム部20を左折方向又は右折方向へ向けて90°以上回動させる際、直進時から転回時にかけてリム部20を持ち替える場合が多い。異常判定装置9は、転回時における運転者によるリム部20の持ち替えを利用することによって把持センサユニット8の異常の有無を判定する。
【0052】
図4図6は、異常判定装置9において把持センサユニット8の異常の有無を判定する異常判定処理の具体的な手順を示すフローチャートである。図4図6に示す処理は、運転者が図示しないスタートスイッチを操作することによって車両が起動されたことに応じて、異常判定装置9において所定の制御周期の下で繰り返し実行される。
【0053】
始めにステップST1では、異常判定装置9は、操舵角センサ31及び把持センサユニット8から現在の操舵角検出値及び把持位置を取得し、図示しない記憶媒体に記憶にし、ステップST2に移る。これにより記憶媒体には、制御周期毎の操舵角検出値及び把持位置の時系列データが記憶される。
【0054】
次にステップST2では、異常判定装置9は、現在の操舵角検出値は、予め定められた正の左折時操舵角閾値以上であるか否かを判定する。ここで左折時操舵角閾値は、図3Bに示すように左折時に多くの運転者がリム部20の持ち替えを開始する操舵角に設定される。より具体的には、左折時操舵角閾値は、中立位置から正側へ90°以上離れた角度、すなわち90°以上の角度に設定される。異常判定装置9は、ステップST2の判定結果がNOである場合ステップST3に移り、YESである場合ステップST11に移る。
【0055】
次にステップST3では、異常判定装置9は、現在の操舵角検出値は、予め定められた負の右折時操舵角閾値未満であるか否かを判定する。ここで右折時操舵角閾値は、図3Cに示すように右折時に多くの運転者がリム部20の持ち替えを開始する操舵角に設定される。より具体的には、右折時操舵角閾値は、中立位置から負側へ90°以上離れた角度、すなわち-90°以下の角度に設定される。異常判定装置9は、ステップST3の判定結果がYESである場合ステップST21に移り、NOである場合ステップST1に戻る。
【0056】
ステップST11では、異常判定装置9は、ステップST1において記憶した時系列データから、操舵角検出値が左折時操舵角閾値を超える前の直進時における把持位置を、直進時把持位置として取得し、ステップST12に移る。より具体的には、異常判定装置9は、上記時系列データの中から、操舵角検出値が左折時操舵角閾値を初めて超えた時点よりも前において、操舵角検出値が0°よりも僅かに大きな値に設定された閾値を超えた時点における把持位置を直進時把持位置として取得する。換言すれば、異常判定装置9は、運転者が中立位置にあるステアリングハンドル2を左折方向へ回動し始めた時点における把持位置を直進時把持位置として取得する。
【0057】
ステップST12では、異常判定装置9は、ステップST1において記憶した時系列データから、操舵角検出値が左折時操舵角閾値を超えた後の左折時における把持位置を、左折時把持位置として取得し、ステップST13に移る。より具体的には、異常判定装置9は、上記時系列データにおける最新の把持位置を左折時把持位置として取得する。
【0058】
ステップST13では、異常判定装置9は、直進時把持位置と左折時把持位置とを比較することにより、運転者は左折時にリム部20を持ち替えたか否かを判定する。より具体的には、異常判定装置9は、直進時把持位置と左折時把持位置とが異なる場合、運転者は左折時にリム部20を持ち替えたと判定し、直進時把持位置と左折時把持位置とが一致する場合、運転者は左折時にリム部20を持ち替えていないと判定する。異常判定装置9は、ステップST13の判定結果がYESである場合ステップST14に移り、NOである場合ステップST1に戻る。
【0059】
ステップST14では、異常判定装置9は、把持センサユニット8のうち、右近接センサ4及び右把持判定部80Rの異常の有無を判定する。より具体的には、異常判定装置9は、直進時把持位置は右グリップ部20Rを含みかつ左折時把持位置は右グリップ部20Rとこの右グリップ部20Rより右折方向側(時計周り側)の下グリップ部20Dとの両方を含む場合、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常であると判定し、ステップST15に移る。すなわち、異常判定装置9は、運転者が左折時に右手HRを右グリップ部20Rから下グリップ部20Dに持ち替えたにも関わらず、右グリップ部20Rが把持されていると判定されている場合、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常であると判定する。また異常判定装置9は、直進時把持位置は右グリップ部20Rを含まない場合、又は左折時把持位置が右グリップ部20R及び下グリップ部20Dの両方を含まない場合、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常でないと判定し、ステップST16に移る。
【0060】
ステップST15では、異常判定装置9は、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常であると判定されたことに応じて、これ以降の右把持判定部80Rの判定結果を無効とし、ステップST16に移る。
【0061】
ステップST16では、異常判定装置9は、把持センサユニット8のうち、左近接センサ5及び左把持判定部80Lの異常の有無を判定する。より具体的には、異常判定装置9は、直進時把持位置は左グリップ部20Lを含みかつ左折時把持位置は左グリップ部20Lとこの左グリップ部20Lより右折方向側(時計周り側)の上グリップ部20Uとの両方を含む場合、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常であると判定し、ステップST17に移る。すなわち、異常判定装置9は、運転者が左折時に左手HLを左グリップ部20Lから上グリップ部20Uに持ち替えたにも関わらず、左グリップ部20Lが把持されていると判定されている場合、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常であると判定する。また異常判定装置9は、直進時把持位置は左グリップ部20Lを含まない場合、又は左折時把持位置が左グリップ部20L及び上グリップ部20Uの両方を含まない場合、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常でないと判定し、ステップST1に戻る。
【0062】
ステップST17では、異常判定装置9は、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常であると判定されたことに応じて、これ以降の左把持判定部80Lの判定結果を無効とし、ステップST1に戻る。
【0063】
ステップST21では、異常判定装置9は、ステップST1において記憶した時系列データから、操舵角検出値が右折時操舵角閾値を超える前の直進時における把持位置を、直進時把持位置として取得し、ステップST22に移る。より具体的には、異常判定装置9は、上記時系列データの中から、操舵角検出値が右折時操舵角閾値を初めて超えた時点よりも前において、操舵角検出値が0°よりも僅かに小さな値に設定された閾値を超えた時点における把持位置を直進時把持位置として取得する。換言すれば、異常判定装置9は、運転者が中立位置にあるステアリングハンドル2を右折方向へ回動し始めた時点における把持位置を直進時把持位置として取得する。
【0064】
ステップST22では、異常判定装置9は、ステップST1において記憶した時系列データから、操舵角検出値が右折時操舵角閾値を超えた後の右折時における把持位置を、右折時把持位置として取得し、ステップST23に移る。より具体的には、異常判定装置9は、上記時系列データにおける最新の把持位置を右折時把持位置として取得する。
【0065】
ステップST23では、異常判定装置9は、直進時把持位置と右折時把持位置とを比較することにより、運転者は右折時にリム部20を持ち替えたか否かを判定する。より具体的には、異常判定装置9は、直進時把持位置と右折時把持位置とが異なる場合、運転者は右折時にリム部20を持ち替えたと判定し、直進時把持位置と右折時把持位置とが一致する場合、運転者は右折時にリム部20を持ち替えていないと判定する。異常判定装置9は、ステップST23の判定結果がYESである場合ステップST24に移り、NOである場合ステップST1に戻る。
【0066】
ステップST24では、異常判定装置9は、把持センサユニット8のうち、右近接センサ4及び右把持判定部80Rの異常の有無を判定する。より具体的には、異常判定装置9は、直進時把持位置は右グリップ部20Rを含みかつ右折時把持位置は右グリップ部20Rとこの右グリップ部20Rより左折方向側(反時計周り側)の上グリップ部20Uとの両方を含む場合、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常であると判定し、ステップST25に移る。すなわち、異常判定装置9は、運転者が右折時に右手HRを右グリップ部20Rから上グリップ部20Uに持ち替えたにも関わらず、右グリップ部20Rが把持されていると判定されている場合、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常であると判定する。また異常判定装置9は、直進時把持位置は右グリップ部20Rを含まない場合、又は右折時把持位置が右グリップ部20R及び上グリップ部20Uの両方を含まない場合、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常でないと判定し、ステップST26に移る。
【0067】
ステップST25では、異常判定装置9は、右近接センサ4及び右把持判定部80Rは異常であると判定されたことに応じて、これ以降の右把持判定部80Rの判定結果を無効とし、ステップST26に移る。
【0068】
ステップST26では、異常判定装置9は、把持センサユニット8のうち、左近接センサ5及び左把持判定部80Lの異常の有無を判定する。より具体的には、異常判定装置9は、直進時把持位置は左グリップ部20Lを含みかつ右折時把持位置は左グリップ部20Lとこの左グリップ部20Lより左折方向側(反時計周り側)の下グリップ部20Dとの両方を含む場合、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常であると判定し、ステップST27に移る。すなわち、異常判定装置9は、運転者が右折時に左手HLを左グリップ部20Lから下グリップ部20Dに持ち替えたにも関わらず、左グリップ部20Lが把持されていると判定されている場合、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常であると判定する。また異常判定装置9は、直進時把持位置は左グリップ部20Lを含まない場合、又は右折時把持位置が左グリップ部20L及び下グリップ部20Dの両方を含まない場合、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常でないと判定し、ステップST1に戻る。
【0069】
ステップST27では、異常判定装置9は、左近接センサ5及び左把持判定部80Lは異常であると判定されたことに応じて、これ以降の左把持判定部80Lの判定結果を無効とし、ステップST1に戻る。
【0070】
本実施形態に係るステアリング装置1によれば、以下の効果を奏する。
(1)把持センサユニット8は、ステアリングハンドル2に設けられた複数の電極部40~70の静電容量を測定し、これら静電容量の測定結果に基づいて運転者によるステアリングハンドル2の把持の有無及び把持位置を取得し、異常判定装置9は、把持センサユニット8の異常の有無を判定する。ここで運転者は、車両を転回させるためにステアリングハンドル2を左折方向又は右折方向へ向けて回動させる際、直進時から転回時にかけてステアリングハンドル2を持ち替える場合が多い。すなわち、ステアリングハンドル2の操舵角検出値が左折時操舵角閾値又は右折時操舵角閾値を超える前の直進時における把持位置は、操舵角検出値が左折時操舵角閾値又は右折時操舵角閾値を超えた後の転回時における把持位置と異なる場合が多い。そこで異常判定装置9は、直進時把持位置と左折時把持位置又は右折時把持位置とに基づいて、把持センサユニット8の異常の有無を判定する。よってステアリング装置1によれば、ステアリングハンドル2の把持センサユニット8の異常の有無を簡易な構成で速やかに判定することができ、ひいては持続可能な輸送システムの発展に寄与することができる。
【0071】
(2)上述のように直進時から転回時にかけてステアリングハンドルを持ち替えると、直進時と転回時とで把持位置が異なる場合が多い。そこで異常判定装置9は、例えば、直進時における右手HRの把持位置が右グリップ部20Rでありかつ左折時における右手HRの把持位置が右グリップ部20R及び下グリップ部20Dの両方を含む場合、すなわち直進時から左折時にかけて右手HRの把持位置が右グリップ部20Rから下グリップ部20Dへ変化したにも関わらず、左折時も右グリップ部20Rが把持されている場合、把持センサユニット8は異常であると判定する。よってステアリング装置1によれば、ステアリングハンドル2の把持センサユニット8の異常の有無を簡易な構成で速やかに判定することができる。
【0072】
(3)上述のようにステアリングハンドル2を持ち替える場合、運転者は、自身の腕の延びや手首の捩れを小さくしたり、肘と胴体との干渉を避けたりするため、直進時から転回時にかけて環状のリム部20における把持位置を転回方向と反対側へ変更する場合が多い。すなわち左折時にリム部20を反時計周りに回動させる場合、運転者は、右手HRの把持位置を直進時における右グリップ部20Rから時計周りに離れた下グリップ部20Dへ変更する場合が多い。また右折時にリム部20を時計周りに回動させる場合、運転者は、右手HRの把持位置を直進時における右グリップ部20Rから反時計周りに離れた上グリップ部20Uへ変更する場合が多い。そこで異常判定装置9は、例えば、直進時における右手HRの把持位置が右グリップ部20Rでありかつ左折時における右手HRの把持位置が右グリップ部20R及びこの右グリップ部20Rよりも左折方向反対側に定められた下グリップ部20Dの両方を含む場合、把持センサユニット8は異常であると判定する。よってステアリング装置1によれば、ステアリングハンドル2の把持センサユニット8の異常の有無を簡易な構成で速やかに判定することができる。
【0073】
(4)把持センサユニット8は、右グリップ部20Rに近い位置に設けられた右電極部40と、下グリップ部20Dに近い位置に設けられた下電極部70と、右電極部40の静電容量の測定結果に基づいて右グリップ部20Rにおける把持の有無を判定する右把持判定部80Rと、下電極部70の静電容量の測定結果に基づいて下グリップ部20Dにおける把持の有無を判定する下把持判定部80Dと、を備える。また異常判定装置9は、直進時における右手HRの把持位置が右グリップ部20Rでありかつ左折時における右手HRの把持位置が右グリップ部20R及び下グリップ部20Dの両方を含む場合、把持センサユニット8のうち右把持判定部80Rに異常があると判断し、これ以降の右把持判定部80Rの判定結果を無効にする。これにより、異常が生じたと判定された後の把持センサユニット8の判定結果の信頼性を保証することができる。
【0074】
(5)運転者は、ステアリングハンドル2を中立位置から左折方向又は右折方向へ90°以上回動した時にステアリングハンドル2を持ち替える場合が多い。そこでステアリング装置1では、左折時操舵角閾値及び右折時操舵角閾値を中立位置から90°以上離れた角度に設定することにより、把持センサユニット8の異常を精度良く判定することができる。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。
【0076】
例えば上記実施形態では、リム部20を4つのグリップ部20R,20L,20U,20Dに分割し、把持センサユニット8は、各グリップ部20R,20L,20U,20Dの近傍に設けられた各電極部40,50,60,70の静電容量の測定結果に基づいて各グリップ部20R,20L,20U,20Dにおける把持の有無を判定したが、本発明はこれに限らない。すなわち、各電極部を設ける位置は、リム部20に限らずスポーク部25L,25R,25Dやハブ部23に設けてもよい。またステアリングハンドル2に設ける電極部の数は、4つに限らず5つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…ステアリング装置
2…ステアリングハンドル
20…リム部
20R,20L,20U,20D…グリップ部
23…ハブ部
25L,25R,25D…スポーク部
31…操舵角センサ(操舵角取得部)
8…把持センサユニット
4…右近接センサ
40…右電極部
5…左近接センサ
50…左電極部
6…上近接センサ
60…上電極部
7…下近接センサ
70…下電極部
80…把持判定装置
80R…右把持判定部
80L…左把持判定部
80U…上把持判定部
80D…下把持判定部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6