(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】光造形装置、及び、構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/124 20170101AFI20241025BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241025BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241025BHJP
B29C 64/277 20170101ALI20241025BHJP
【FI】
B29C64/124
B33Y30/00
B33Y10/00
B29C64/277
(21)【出願番号】P 2022571039
(86)(22)【出願日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 JP2021030142
(87)【国際公開番号】W WO2022137640
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020217511
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山岸 裕幸
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104368(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0243976(US,A1)
【文献】国際公開第2020/180254(WO,A1)
【文献】特開2020-066236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/124
B33Y 30/00
B33Y 10/00
B29C 64/277
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化前の光硬化性樹脂を貯留する容器であって、光透過性を有する底板を有する容器と、
前記光硬化性樹脂に浸漬されるホルダと、
前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射する反応光照射部と、
前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する阻害光照射部と、を備えて
おり、
前記阻害光照射部として、前記境界面の異なる領域に異なる入射角で入射する阻害光を照射する複数の阻害光照射部を備えている、
ことを特徴とする光造形装置。
【請求項2】
硬化前の光硬化性樹脂を貯留する容器であって、光透過性を有する底板を有する容器と、
前記光硬化性樹脂に浸漬されるホルダと、
前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射する反応光照射部と、
前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する阻害光照射部と、を備えて
おり、
前記阻害光照射部として、前記境界面の異なる領域に異なる入射角で入射する阻害光を照射する複数のミラーを有するDMD(Digital Mirror Device)を備えている、
ことを特徴とする光造形装置。
【請求項3】
光透過性を有する底板を有する容器に硬化前の光硬化性樹脂を貯留すると共に、ホルダを前記光硬化性樹脂に浸漬する前処理工程と、
前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射すると共に、前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する照射工程と、を含んで
おり、
前記照射工程は、前記阻害光を境界面の異なる領域に異なる入射角で入射するように照射する、
ことを特徴とする構造物の製造方法。
【請求項4】
前記構造物は、複数のマイクロセルにより構成された光演算機能を有する平面状光回折素子であって、各マイクロセルがピラーからなる平面状光回折素子である、
ことを特徴とする請求項
3に記載の構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形を行う光造形装置に関する。また、本発明は、光造形を用いた構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の構造物を造形する方法のひとつとして、光造形法(液槽重合法とも呼ばれる)が知られている。光造形法においては、硬化前の光硬化性樹脂が貯留された容器と、硬化前の光硬化性樹脂に浸漬されたホルダと、が用いられる。容器の底板は、光硬化性樹脂の硬化を促進する反応光が透過するよう、光透過性を有する材料により構成される。そして、容器の底板とホルダの底面との間に存在する硬化前の光硬化性樹脂に反応光を照射する工程と、ホルダを引き上げる工程とを繰り返すことによって、硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が一層ずつ造形される。造形された構造物は、ホルダの底面に付着した状態で、ホルダと共に引き上げられる。
【0003】
光造形法を用いて微細構造を有する構造物を造形するためには、各サイクルにおけるホルダの引き上げ量を、微細構造のスケールと同程度に小さくする必要がある。しかしながら、造形法においては、硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が容器の底板に付着してしまい、このようなホルダの微小な引き上げが困難になることがある。
【0004】
硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が容器の底板に付着することを防止する技術としては、容器の底板近傍に酸素を導入することによって硬化阻害を生じさせる方法が知られている(特許文献1,2)。しかしながら、この方法には、以下の問題がある。第1に、この方法を実施するためには、酸素透過膜が必要になる。酸素透過膜は、膜厚が薄く、剛性及び強度が低い。このため、酸素透過膜に凹凸や皺などが生じ易く、その結果、光造形を安定的に実施することが困難になる。第2に、容器の底板近傍に導入される酸素の濃度は、酸素透過膜の表面において最も高く、酸素透過膜から遠ざかるに従って緩やかに低下するブロードな分布になる。このため、容器の底板から離れたところでも硬化阻害が生じることになる。硬化阻害が生じる領域を容器の底板直近に制限するためには、酸素透過膜の酸素透過率、酸素濃度、流量等を精密に制御する必要があるが、造形速度が変化するなかでこのような制御を行うことは困難である。第3に、硬化阻害を生じさせるために利用するのが酸素気体であるため、硬化阻害を局所的に生じさせることが困難である。
【0005】
硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が容器の底板に付着することを防止する別の技術としては、光硬化性樹脂の硬化を促進する反応光と共に、光硬化性樹脂の硬化を阻害する阻害光を照射する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第9453142号明細書
【文献】米国特許第10471699号明細書
【文献】米国特許第8697346号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の技術においては、反応光及び阻害光の両方を、容器の底板と硬化前の光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射する。このため、反応光が進入する領域全体に阻害光が進入することになる。すなわち、容器の底板とホルダの底面との間の光硬化性樹脂全体に、反応光及び阻害光の両方が照射される。したがって、反応光が強すぎれば、硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が容器の底板に付着してしまい、阻害光が強すぎれば、容器の底板とホルダの底板との間で光硬化性樹脂の硬化が進まなくなるという問題があった。
【0008】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、容器の底板とホルダの底面との間で光硬化性樹脂の硬化を確実に進めながら、硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が容器の底板に付着する可能性を低減する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る光造形装置は、硬化前の光硬化性樹脂を貯留する容器であって、光透過性を有する底板を有する容器と、前記光硬化性樹脂に浸漬されるホルダと、前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射する反応光照射部と、前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する阻害光照射部と、を備えている。
【0010】
本発明の一態様に係る構造物の製造方法は、光透過性を有する底板を有する容器に硬化前の光硬化性樹脂を貯留すると共に、ホルダを前記光硬化性樹脂に浸漬する前処理工程と、前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射すると共に、前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する照射工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、容器の底板とホルダの底面との間で光硬化性樹脂の硬化を確実に進めながら、硬化した光硬化性樹脂からなる構造物が容器の底板に付着する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る光造形装置の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す光造形装置を用いた構造物の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図1に示す光造形装置の変形例を示す断面図である。
【
図4】
図3に示す光造形装置のごとき光造形装置を用いて製造することが可能な平面状光回折素子の一具体例を示す斜視図である。
【
図5】
図1に示す光造形装置が備える反応光照射部の第1の変形例を示す模式図である。
【
図6】
図1に示す光造形装置が備える反応光照射部の第2の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(造形装置の構成)
本発明の一実施形態に係る光造形装置1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1の(a)は、光造形装置1の断面図である。
図1の(b)は、光造形装置1において阻害光を全反射する際にエバネッセント光が生じる様子を示す模式図である。
【0014】
光造形装置1は、樹脂製の構造物を製造するための装置であり、
図1に示すように、容器11と、ホルダ12と、反応光照射部13と、阻害光照射部14と、を備えている。また、光造形装置1は、ホルダ12を引き上げる不図示の引上機構を備えている。
【0015】
容器11は、硬化前の光硬化性樹脂(以下、「光硬化性樹脂RL」とも記載する)を貯留するための構成である。容器11は、例えば、升状又は桶状である。容器11の底板111は、少なくとも後述する反応光及び阻害光を透過する透光性材料により構成されている。ホルダ12は、硬化後の光硬化性樹脂(以下、「光硬化性樹脂RS」とも記載する)を支持するための構成である。ホルダ12の形状は、例えば、四角柱状又は円柱状である。ホルダ12は、その底面121が容器11の底板111に対向するように、光硬化性樹脂RLに浸漬される。
【0016】
反応光照射部13は、反応光が容器11の底板111と光硬化性樹脂RLとの境界面BSを透過するように、反応光を照射するための構成である。ここで、反応光とは、光硬化性樹脂RLの硬化を促進する作用を有する光のことを指す。反応光照射部13によって反応光が照射されると、容器11の底板111とホルダ12の底面121との間に存在する光硬化性樹脂RLの硬化が促進される。
【0017】
なお、反応光照射部13は、(A1)反応光を生成する光源(例えば、LD、LED、ランプなど)であってもよいし、(A2)別途設けられた光源にて生成された反応光を反射する反射体(例えば、ミラー、プリズムなど)であってもよいし、(A3)別途設けられた光源にて生成された反応光を集光又はコリメートするレンズであってもよいし、(A4)別途設けられた光源にて生成された反応光を導波する光導波路(例えば、光ファイバなど)であってもよい。構成(A2)、構成(A3)、又は構成(A4)を採用する場合、別途設けられた光源も、光造形装置1の構成要素とし得る。
【0018】
また、反応光照射部13は、(B1)容器11の底板111とホルダ12の底面121との間に存在する光硬化性樹脂RLの全体に反応光を照射するように構成されていてもよいし、(B2)容器11の底板111とホルダ12の底面121との間に存在する光硬化性樹脂RLの一部分に反応光を照射するように構成されていてもよい。構成(B1)を採用する場合、構造物の各層について、該層を構成する各点の造形が一括実施される。一方、構成(B2)を採用する場合、構造物の各層について、ホルダ12の底面121をスキャンするように反応光の照射点を移動させることで、該層を構成する各点の造形が順次実施される。なお、
図1においては、構成(B1)を例示している。
【0019】
阻害光照射部14は、阻害光が容器11の底板111と光硬化性樹脂RLとの境界面BSにおいて阻害光が全反射するよう、阻害光を照射するための構成である。ここで、阻害光とは、光硬化性樹脂RLの硬化を阻害する作用をする光のことを指す。阻害光照射部14によって阻害光が照射されると、阻害光がエバネッセント光として境界BSから光硬化性樹脂RLに進入する。エバネッセント光の強度が境界面BSにおける強度の1/e以上になる領域をエバネッセント光が侵入する領域と見做すと、その領域の厚みdは、d=λ/{4π(n1
2×sin2θ-n2
2)1/2}により与えられる。ここで、λは、阻害光の波長であり、θは、境界面BSに対する阻害光の入射角である。また、n1は、容器11の底板111の屈折率であり、n2は、光硬化性樹脂RLの屈折率である。エバネッセント光が進入する領域においては、反応光を照射しても光硬化性樹脂RLの硬化が起こらないか、又は、起こったとしても不十分になる。
【0020】
なお、阻害光照射部14は、(C1)阻害光を生成する光源(例えば、LD、LED、ランプなど)であってもよいし、(C2)別途設けられた光源にて生成された阻害光を反射する反射体(例えば、ミラー、プリズムなど)であってもよいし、(C3)別途設けられた光源にて生成された阻害光を集光又はコリメートするレンズであってもよいし、(C4)別途設けられた光源にて生成された阻害光を導波する光導波路(例えば、光ファイバ)であってもよい。構成(C2)、構成(C3)、又は構成(C4)を採用する場合、別途設けられた光源も、光造形装置1の構成要素とし得る。
【0021】
また、阻害光照射部14は、(D1)容器11の底板111のうち、ホルダ12の底面121と対向する領域の全体に阻害光を照射するように構成されていてもよいし、(D2)容器11の底板111のうち、ホルダ12の底面121と対向する領域の一部分に阻害光を照射するように構成されていてもよい。反応光照射部13において構成(B1)を採用する場合、阻害光照射部14においては構成(D1)を採用することが好ましい。一方、反応光照射部13において構成(B2)を採用する場合、阻害光照射部14においては構成(D1)を採用してもよいし構成(D2)を採用してもよい。ただし、構成(D2)を採用する場合、阻害光の照射点が常に反応光の照射点を包含するよう、阻害光の照射点を移動させることが好ましい。
【0022】
なお、反応光及び阻害光としては、例えば、波長が100nm以上500nm以下の光を用いることができる。ただし、反応光の波長と阻害光の波長とは、異なっていることが好ましい。一例として、波長470nmの反応光と波長375nmの阻害光との組み合わせが考えられる。
【0023】
(光造形装置を用いた構造物の製造方法)
光造形装置1を用いた構造物の製造方法S1の流れについて、
図2を参照して説明する。
図2は、製造方法S1の流れを示すフローチャートである。
【0024】
製造方法S1は、前処理工程S11と、照射工程S12と、引上工程S13と、後処理工程S14と、を含んでいる。照射工程S12及び引上工程S13は、予め定められた回数だけ繰り返される。例えば、構造物をn層(nは任意の自然数)に分けて1層ずつ造形する場合、照射工程S12及び引上工程S13は、n回繰り返される。
【0025】
前処理工程S11は、容器11に光硬化性樹脂RLを貯留すると共に、光硬化性樹脂RLにホルダ12を浸漬する工程である。ここで、ホルダ12は、底面121が容器11の底板111から離間するように、且つ、後述する照射工程S12において底面121に反応光が到達するように、光硬化性樹脂RLに浸漬される。光硬化性樹脂RLの貯留、及び、ホルダ12の浸漬は、それぞれ、作業者が手動で行ってもよいし、光造形装置1又はその他の装置が自動で行ってもよい。
【0026】
照射工程S12は、反応光照射部13が反応光を照射すると共に、阻害光照射部14が阻害光を照射する工程である。ここで、反応光の照射は、反応光が容器11の底板111と光硬化性樹脂RLとの境界面BSを透過するように行われる。また、阻害光の照射は、阻害光が容器11の底板111と光硬化性樹脂RLとの境界面BSにおいて全反射するように行われる。反応光照射部13の制御、及び、阻害光照射部14の制御は、それぞれ、作業者が手動で行ってもよいし、光造形装置1又はその他の装置が自動で行ってもよい。
【0027】
照射工程S12においては、反応光が境界面BSを透過するので、容器11の底板111とホルダ12の底面121との間に存在する光硬化性樹脂RLの硬化が促進される。ただし、阻害光が境界面BSにおいて阻害光が全反射するので、阻害光がエバネッセント光として境界面BSから光硬化性樹脂RLに進入する。このため、エバネッセント光が侵入する容器11の底板111の近傍においては、反応光を照射しても光硬化性樹脂RLの硬化が起こらないか、又は、起こったとしても不十分である。このため、構造物を構成する光硬化性樹脂RSが容器11の底板111に付着する可能性が低くなる。
【0028】
引上工程S13は、引上機構がホルダ12を引き上げる工程である。ここで、ホルダ12を引き上げる方向は、ホルダ12が容器11の底板111から遠ざかる方向であり、ホルダ12を引き上げる量は、構造物一層分の厚みと同程度である。引上機構の制御は、作業者が手動で行ってもよいし、光造形装置1又はその他の装置が自動で行ってもよい。
【0029】
引上工程S13においては、光硬化性樹脂RSにより構成された構造物がホルダ12と共に引き上げられ、次の照射工程S12における硬化の対象となる光硬化性樹脂RLが構造物と容器11の底板111との間に補充される。
【0030】
照射工程S12と引上工程S13とを繰り返すことによって構造物の光造形が完了すると、後処理工程S14が実施される。後処理工程S14は、光造形が完了した構造物を容器11から取り出すと共に、容器11から取り出した構造物に対して露光及び/又は洗浄などの処理を行う工程である。後処理工程S14においては、更に、未露光樹脂の完全露光及び/又は焼成などの処理を行ってもよい。
【0031】
(光造形装置の効果)
以上のように、光造形装置1は、硬化前の光硬化性樹脂RLを貯留する容器11であって、光透過性を有する底板111を有する容器11と、光硬化性樹脂RLに浸漬されるホルダ12と、光硬化性樹脂RLの硬化を促進する作用を有する反応光を、その反応光が底板111と光硬化性樹脂RLとの境界面BSを透過するように照射する反応光照射部13と、光硬化性樹脂RLの硬化を阻害する作用を有する阻害光を、その阻害光が境界面BSにおいて全反射するように照射する阻害光照射部14と、を備えている。
【0032】
このため、光造形装置1によれば、光硬化性樹脂RSからなる構造物を製造する際に、その構造物が容器11の底板111に付着する可能性を低減することができる。
【0033】
(光造形装置の変形例)
光造形装置1の一変形例について、
図3を参照して説明する。
図3は、本変形例に係る光造形装置1Aの構成を示す断面図である。
【0034】
図1に示す光造形装置1が1つの阻害光照射部14を備えているのに対して、
図3に示す光造形装置1Aは2つの阻害光照射部141,142を備えている。阻害光照射部141,142以外の光造形装置1Aの構成は、阻害光照射部14以外の光造形装置1の構成と同様であるので、ここではその説明を割愛する。
【0035】
阻害光照射部141,142は、それぞれ、容器11の底板111と光硬化性樹脂RLとの境界面BSにおいて阻害光が全反射するよう、容器11の底板111に阻害光を照射するための構成である。ただし、境界面BSにおいて第1の阻害光照射部141が照射する阻害光が入射する領域BS1と、境界面BSにおいて第2の阻害光照射部142が照射する阻害光が入射する領域BS2とは、互いに異なる。また、第1の阻害光照射部141が照射する阻害光の境界面BSへの入射角θ1と、第2の阻害光照射部142が照射する阻害光の境界面BSへの入射角θ2とは、互いに異なる。このため、領域BS1を介して阻害光がエバネッセント光として光硬化性樹脂RLに進入する領域の厚みd1と、領域BS2を介して阻害光がエバネッセント光として光硬化性樹脂RLに進入する領域の厚みd2とは、互いに異なる。このため、光造形装置1Aを用いれば、表面に段差を有する構造物を製造することができる。
【0036】
一例として、底板111の屈折率n1が1.52、光硬化性樹脂RLの屈折率n2が1.33、阻害光の波長λが405nmであるケースを考える。第1の阻害光照射部141から照射される阻害光の境界面BSへの入射角θ1が75°であるとすると、領域BS1を介してエバネッセント光が光硬化性樹脂RLに進入する領域の厚みd1は、約52nmとなる。一方、第2の阻害光照射部142から照射される阻害光の境界面BSへの入射角θ2が63°であるとすると、領域BS1を介してエバネッセント光が光硬化性樹脂RLに進入する領域の厚みd2は、約126nmとなる。このため、光造形装置1Aを用いれば、表面に74nm程度の段差を有する構造物を製造することができる。
【0037】
以上のように、光造形装置1Aは、境界面BSの異なる領域BS1,BS2に異なる入射角θ1,θ2で入射する阻害光を照射する複数の阻害光照射部141,142を備えている。このため、光造形装置1Aを用いれば、表面に段差を有する構造物を製造することができる。
【0038】
(構造物の具体例)
光造形装置1Aのごとき光造形装置を用いれば、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルにより構成された、光演算機能を有する平面状光回折素子を製造することができる。このような平面状光回折素子に信号光が入射すると、各マイクロセルを透過した位相の異なる信号光が相互に干渉することによって、予め定められた光演算が行われる。なお、本明細書において、「マイクロセル」とは、セルサイズが例えば、10μm未満のセルのことを指す。また、本明細書において、「セルサイズ」とは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、特に限定されないが、例えば1nmである。
【0039】
このような平面状光回折素子の一具体例を
図4に示す。
図4は、本具体例に係る平面状光回折素子100の斜視図である。
【0040】
本具体例に係る平面状光回折素子100は、一辺1.0mmの正方形の有効領域を有している。この有効領域は、マトリックス状に配置された1000×1000個のマイクロセルにより構成されている。各マイクロセルは、厚さ100μmのベース上に形成された、1辺1μmの正方形の底面底辺を有する四角柱状のピラーにより構成されている。各ピラーの高さは、0nm、100nm、200nm、…、1100nm、1200nm(100nmステップ13段階)の何れかであり、そのピラーにより構成されるマイクロセルを透過する光の位相変化量が所期の値になるように決められている。
【0041】
このような平面状光回折素子を製造するには、各マイクロセルに相当にする領域に、阻害光をそのマイクロセルを構成するピラーに応じた入射角で入射させればよい。この場合、境界面BSの異なる領域に異なる入射角で入射する阻害光を照射する複数(マイクロセルと同数又はそれ以上)のミラーを備えたDMD(Digital Mirror Device)を、阻害光照射部141,142として用いればよい。
【0042】
(反応光照射部の変形例1)
反応光照射部13の第1の変形例について、
図5を参照して説明する。
図5は、本変形例に係る反応光照射部13の模式図である。
【0043】
本変形例に係る反応光照射部13は、集光レンズLと、ミラーMと、により構成されている。集光レンズLは、不図示の光源から出射された反応光を集光するための構成である。ミラーMは、集光レンズLにより集光された反応光を反射するための構成である。ミラーMは、反射面の向きを制御可能に構成されている。このため、本具体例に係る反応光照射部13を用いれば、ホルダ12の底面121をスキャンするように反応光の照射点Pを移動させることができる。
【0044】
(反応光照射部の変形例2)
反応光照射部13の第2の変形例について、
図6を参照して説明する。
図6は、本変形例に係る反応光照射部13の模式図である。
【0045】
本変形例に係る反応光照射部13は、複数のミラーM1~Mn(nは2以上の自然数)を備えたDMDと、コリメートレンズL1と、集光レンズL2と、により構成されている。DMDを構成する各ミラーMi(iは1以上n以下の自然数)は、不図示の光源から出射された反応光を反射するための構成である。コリメートレンズL1は、DMDを構成する各ミラーMiにより反射された反射光をコリメートするための構成である。集光レンズL2は、各ミラーMiにより反射され、コリメートレンズL1にてコリメートされた反応光を集光するための構成である。DMDを構成する各ミラーMiは、反射面の向きを制御可能に構成されている。例えば、ミラーMaの反射面の向きを、反射光がコリメートレンズL1に入射するように制御すれば、点Paに反応光が照射することができ、ミラーMaの反射面の向きを、反射光がコリメートレンズL1に入射しないように制御すれば、点Paへの反応光の照射を避けることができる。このため、本具体例に係る反応光照射部13を用いれば、ホルダ12の底面121に反応光を照射するか否かを各点毎に切り替えることができる。これにより、光硬化樹脂を用いて微細構造を造形することが可能になる。
【0046】
(まとめ)
本発明の第1の態様に係る光造形装置は、硬化前の光硬化性樹脂を貯留する容器であって、光透過性を有する底板を有する容器と、前記光硬化性樹脂に浸漬されるホルダと、前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射する反応光照射部と、前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する阻害光照射部と、を備えている。
【0047】
本発明の第2の態様に係る光造形装置は、第1の態様に係る光造形装置の構成に加えて、前記阻害光照射部として、前記境界面の異なる領域に異なる入射角で入射する阻害光を照射する複数の阻害光照射部を備えている。
【0048】
本発明の第3の態様に係る光造形装置は、第1の態様又は第2の態様に係る光造形装置の構成に加えて、前記阻害光照射部として、前記境界面の異なる領域に異なる入射角で入射する阻害光を照射する複数のミラーを有するDMD(Digital Mirror Device)を備えている。
【0049】
本発明の第4の態様に係る構造物の製造方法は、光透過性を有する底板を有する容器に硬化前の光硬化性樹脂を貯留すると共に、ホルダを前記光硬化性樹脂に浸漬する前処理工程と、前記光硬化性樹脂の硬化を促進する作用を有する反応光を、該反応光が前記底板と前記光硬化性樹脂との境界面を透過するように照射すると共に、前記光硬化性樹脂の硬化を阻害する作用を有する阻害光を、該阻害光が前記境界面において全反射するように照射する照射工程と、を含んでいる。
【0050】
本発明の第5の態様に係る構造物の製造方法は、第4の態様に係る構造物の製造方法のうち、複数のマイクロセルにより構成された光演算機能を有する平面状光回折素子であって、各マイクロセルがピラーからなる平面状光回折素子を製造する製造方法である。
【0051】
(付記事項)
本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1 光造形装置
11 容器
111 底板
12 ホルダ
121 底面
13 反応光照射部
14 阻害光照射部