IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁気センサの製造方法 図1
  • 特許-磁気センサの製造方法 図2
  • 特許-磁気センサの製造方法 図3
  • 特許-磁気センサの製造方法 図4
  • 特許-磁気センサの製造方法 図5
  • 特許-磁気センサの製造方法 図6
  • 特許-磁気センサの製造方法 図7
  • 特許-磁気センサの製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】磁気センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20241025BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20241025BHJP
   H10N 52/00 20230101ALI20241025BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R33/02 L
H10N52/00 U
H10N52/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023079771
(22)【出願日】2023-05-15
(62)【分割の表示】P 2021007324の分割
【原出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2023099639
(43)【公開日】2023-07-13
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】梅原 剛
(72)【発明者】
【氏名】原田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚史
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-111711(JP,A)
【文献】特開2013-088232(JP,A)
【文献】国際公開第2020/250489(WO,A1)
【文献】特開2016-206075(JP,A)
【文献】特開2016-128768(JP,A)
【文献】特開2018-059730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
H10N 52/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された第1及び第2の磁気抵抗効果素子と、直列に接続された第3及び第4の磁気抵抗効果素子を有し、前記第1及び第2の磁気抵抗効果素子の組と前記第3及び第4の磁気抵抗効果素子の組は並列に接続され、前記第1及び第4の磁気抵抗効果素子が電源側に接続され、前記第1~第4の磁気抵抗効果素子はそれぞれ、磁化方向が固定された第1~第4の磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1~第4の磁化自由層と、を有する磁気センサの製造方法であって、
前記第1~第4の磁化固定層の磁化方向がそれぞれ所定の基準角度に対して第1~第4の角度θ1~θ4回転し、θ1=θ3、θ2=θ4、θ1≠θ2であり、θ1-θ2の異なる複数の磁気センサに対して、各磁気センサの出力との間に所定の線形関係が成り立つ前記第1~第4の磁化自由層の磁化方向の角度範囲と、前記磁気センサの出力レンジとの関係を求めることと、
前記複数の磁気センサから、前記角度範囲と前記出力レンジの要求条件を満たす磁気センサを選択することと、
選択した前記磁気センサについて、前記第1~第4の磁気抵抗効果素子を作成し、前記第1及び第4の磁気抵抗効果素子を前記電源側に接続することと、
を有する磁気センサの製造方法。
【請求項2】
前記第1の角度θ1と前記第2の角度θ2の差が180°未満である、請求項に記載の磁気センサの製造方法。
【請求項3】
前記第1~第4の磁気抵抗効果素子の前記第1~第4の磁化固定層と前記第1~第4の磁化自由層は円形断面を有する、請求項1または2に記載の磁気センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気センサの設計方法と製造方法、及び磁気センサに関し、特に磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサの設計方法と製造方法、及び磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサが知られている。磁気抵抗効果素子は外部磁界に対して磁化方向が固定された磁化固定層と、外部磁界に対し磁化方向が回転する磁化自由層と、を有している。この様な磁気センサは、外部磁界の印加方向を検知するために用いられることがある。特許文献1,2には、複数の磁気抵抗効果素子がブリッジ回路で接続された磁気センサが開示されている。磁気センサの出力は外部磁界の印加方向の変化に対して概ね正弦波状に変化する。このため、比較的リニアリティ(線形性)の高い領域で作動するよう磁化固定層の磁化方向が決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-88232号公報
【文献】特開2016-206075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気センサは通常、製品や部品に組み込まれて使用されるが、外部磁界を発生する磁石と磁気センサとの位置関係は、当該製品や部品の設計によって決まるのが一般的である。このため、磁気センサの磁化自由層に印加される外部磁界の向きも製品ごとに異なる。また、磁気センサに求められるリニアリティや出力レンジも製品ごとに異なる。従って、磁気センサはこれらの条件に合わせ、個別の製品毎に設計する必要があり、設計方法の合理化が望まれている。
【0005】
本発明は、様々な設計条件に対して容易に対応可能な磁気センサの設計方法と製造方法、及び磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は直列に接続された第1及び第2の磁気抵抗効果素子と、直列に接続された第3及び第4の磁気抵抗効果を有し、第1及び第2の磁気抵抗効果素子の組と第3及び第4の磁気抵抗効果素子の組は並列に接続され、第1及び第4の磁気抵抗効果素子が電源側に接続され、第1~第4の磁気抵抗効果素子はそれぞれ、磁化方向が固定された第1~第4の磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1~第4の磁化自由層と、を有する磁気センサの製造方法に関する。気センサの製造方法は、第1~第4の磁化固定層の磁化方向がそれぞれ所定の基準角度に対して第1~第4の角度θ1~θ4回転し、θ1=θ3、θ2=θ4、θ1≠θ2であり、θ1-θ2の異なる複数の磁気センサに対して、各磁気センサの出力との間に所定の線形関係が成り立つ第1~第4の磁化自由層の磁化方向の角度範囲と、磁気センサの出力レンジとの関係を求めることと、複数の磁気センサから、角度範囲と出力レンジの要求条件を満たす磁気センサを選択することと、選択した磁気センサについて、第1~第4の磁気抵抗効果素子を作成し、第1及び第4の磁気抵抗効果素子を電源側に接続することと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、様々な設計条件に対して容易に対応可能な磁気センサの設計方法と製造方法、及び磁気センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る磁気センサの作動原理を示す概略図である。
図2図1に示す磁気センサの磁気抵抗効果素子の概略構成を示す概念図である。
図3】リニアリティエラーの定義を示す概念図である。
図4】磁気センサの設計方法の一例を示すフロー図である。
図5】ステップS2,S3で得られた磁気センサの特性図である。
図6】ステップS4で得られた磁気センサの特性図である。
図7】第2の実施形態に係る磁気センサの構成を示す概略図である。
図8】変形例に係る磁気センサの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下の説明及び図面において、Z方向は磁気抵抗効果素子の積層膜の積層方向に一致する。磁化固定層14及び磁化自由層16の磁化方向並びに外部磁界の方向は、図1(a)に示すように、時計の3時を0°として反時計回りに定義される角度θで表される。θ=0°を「所定の基準角度」という場合がある。
【0012】
図1は磁気センサ1の作動原理を示す概略図であり、図1(a)は磁気センサ1の概略回路構成を、図1(b)は磁化自由層16の磁化方向と磁気センサ1の出力との関係を示している。磁気センサ1は4つの磁気抵抗効果素子(以下、第1の磁気抵抗効果素子E1、第2の磁気抵抗効果素子E2、第3の磁気抵抗効果素子E3、第4の磁気抵抗効果素子E4という)を有し、これらの磁気抵抗効果素子E1~E4はブリッジ回路(ホイートストンブリッジ)で相互に接続されている。4つの磁気抵抗効果素子E1~E4は2つの組に分割され、それぞれの組の磁気抵抗効果素子E1,E2及び磁気抵抗効果素子E3,E4は直列接続されている。また、磁気抵抗効果素子E1,E2の組と磁気抵抗効果素子E3,E4の組は並列接続されている。磁気抵抗効果素子の組E1,E2及び組E3,E4のそれぞれの一端は定電圧の電源電圧Vddに接続され、他端は接地(GND)されている。磁気抵抗効果素子E1,E4が電源電圧Vddの側に配置され、磁気抵抗効果素子E2,E3がGNDの側に配置されている。また、第1の磁気抵抗効果素子E1と第2の磁気抵抗効果素子E2の間の中点電圧V1と、第3の磁気抵抗効果素子E3と第4の磁気抵抗効果素子E4の間の中点電圧V2が取り出され、差分電圧V1-V2が磁気センサ1の出力として出力される。第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4の電気抵抗をそれぞれR1~R4とすると、中点電圧V1、V2はそれぞれ下式のように求められる。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
図2は第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4の概略構成を示す概念図である。図2(a)は第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4の膜構成を、図2(b)はZ方向からみた、磁化自由層16と内側磁化固定層14と外側磁化固定層12の断面図を示している。第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4は同一の構成を有している。第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4は一般的なスピンバルブ型の膜構成を有している。第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4は反強磁性層11と、外側磁化固定層12と、非磁性中間層13と、内側磁化固定層14と、スペーサ層15と、磁化自由層16と、を含む積層膜であり、これらの層11~16はこの順でZ方向に積層されている。積層膜はZ方向において一対の電極層(図示せず)に挟まれており、電極層から積層膜にZ方向にセンス電流が流れるようにされている。
【0016】
磁化自由層16は外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁性層であり、例えばNiFeで形成することができる。外側磁化固定層12は反強磁性層11との交換結合によって外部磁界に対して磁化方向が固定された強磁性層である。反強磁性層11はPtMn、IrMn,NiMnなどで形成することができる。内側磁化固定層14は外側磁化固定層12とスペーサ層15との間に挟まれた強磁性層であり、Ru,Rhなどの非磁性中間層13を介して外側磁化固定層12と反強磁性結合している。従って、内側磁化固定層14と外側磁化固定層12はいずれも外部磁界に対して磁化方向が固定されているが、その磁化方向は互いに反平行の向きとされている。スペーサ層15は磁化自由層16と内側磁化固定層14との間に位置し、磁気抵抗効果を奏する非磁性層である。スペーサ層15は、Cuなどの非磁性金属からなる非磁性導電層、またはAl23などの非磁性絶縁体からなるトンネルバリア層である。スペーサ層15が非磁性導電層である場合、第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4は巨大磁気抵抗効果(GMR)素子として機能し、スペーサ層15がトンネルバリア層である場合、第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4はトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子として機能する。MR変化率が大きく、ブリッジ回路の出力電圧を大きくすることができるという点で、第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4はTMR素子であることがより好ましい。なお、本明細書では、内側磁化固定層14を単に磁化固定層ということがある。
【0017】
図2(b)に示すように、磁化自由層16と内側磁化固定層14と外側磁化固定層12、すなわち第1の磁気抵抗効果素子E1はZ方向からみて、概ね円形の断面形状を有している。図中の矢印は各々の膜16,14,12の磁化方向を模式的に示している。磁化自由層16の磁化方向は外部磁界の方向に応じて回転する。磁化自由層16にバイアス磁界を印加するバイアス磁石は設けられていない。従って、磁化自由層16の磁化方向は外部磁界の向きと実質的に一致する。磁化自由層16に印加される磁界の向きは、所定の基準角度(θ=0°)を基準とする角度θAと角度θBとの間の特定の角度範囲で変動する。この特定の角度範囲を磁界検知角度範囲θRと呼ぶ。磁界検知角度範囲θRは磁気センサ1の感磁方向を決定し、磁気センサ1が組み込まれる製品や部品によって制約される。磁化自由層16の磁化方向は磁界検知角度範囲θRの中央値θcの周りを、磁界検知角度範囲θRの範囲内で、外部磁界の向きに応じて回転する。内側磁化固定層14の磁化方向と磁化自由層16の磁化方向との間の相対角度が変化し、センス電流に対する電気抵抗が変化することで、外部磁界の向きを検知することができる。
【0018】
再び図1(a)を参照すると、第1~第4の磁気抵抗効果素子E1~E4の内側磁化固定層14の磁化方向θ1~θ4は図中の矢印の方向を向いている。従って、90°より小さい角度θで外部磁界が印加されると、第1及び第3の磁気抵抗効果素子E1,E3の電気抵抗が、第2及び第4の磁気抵抗効果素子E2,E4の電気抵抗より大きくなる。これにより、中点電圧V1が中点電圧V2より低くなり、図1(b)に示すように、差分電圧V1-V2は負となる。90°より大きい角度θで外部磁界が印加された場合は、これとは逆に、中点電圧V1が中点電圧V2より高くなり、差分電圧V1-V2は正となる。中点電圧V1,V2の差分電圧V1-V2を検出することで、中点電圧V1,V2を検出する場合と比べて2倍の感度が得られる。また、中点電圧V1,V2がオフセットしている場合も、差分電圧V1-V2を検出することでオフセットの影響を排除することができる。差分電圧V1-V2は磁気センサ1の出力レンジVRを規定する。出力レンジVRは磁気センサ1の感度に比例するが、必ずしも大きければいいとは限らず、磁気センサ1が組み込まれる製品や部品によって異なる。
【0019】
磁気センサ1の出力はできるだけ線形に近いことが望ましい。ここで、線形性(リニアリティ)の指標としてリニアリティエラーELを定義する。図3に示すように、磁化自由層16の磁化方向の所定の角度範囲で、磁気センサ1の出力の実波形が得られたとする。リニアリティエラーELを定義するために、まず実波形の線形近似線を求める。線形近似線は例えば最小二乗法で求められるが、これに限定されない。上記角度範囲における出力の最大値をdVH2、最小値をdVH1とする。上記角度範囲の各角度θで実波形と線形近似線との差分を求め、その最大値をΔVmaxとすると、リニアリティエラーELは以下のように求められる。
【0020】
【数3】
【0021】
リニアリティエラーELは磁気センサ1が組み込まれる製品や部品によって異なるが、一般に5~10%である。そこで、本実施形態ではEL=5%とする。リニアリティエラーELは式(3)に限定されず、リニアリティを示す任意の指標を用いることができる。また、ELが所定の値(ここではEL=5%)となる角度範囲をリニアリティレンジθLという。リニアリティレンジθLは、磁気センサ1の出力との間に所定の線形関係(ここではEL=5%)が成り立つ、第1~第4の磁化自由層16A~16Dの磁化方向の角度範囲(外部磁界の角度範囲)である。リニアリティレンジθLの要求条件は、磁気センサ1が組み込まれる製品や部品によって異なる。リニアリティレンジθLは、磁気センサ1が組み込まれる製品や部品にとって、出力との関係がほぼ線形とみなすことのできる、第1~第4の磁化自由層16A~16Dの磁化方向の角度範囲である。例えば、カメラのオートフォーカス機構では、外部磁界を発生する磁石と外部磁界を検出する磁気センサ1がレンズ光軸方向に相対移動するが、相対移動距離はオートフォーカス機構によって制限される。従って、磁気センサ1の磁化自由層16に印加される外部磁界の向きは、ある所定の角度範囲に制限され、磁気センサ1がこれを上回るリニアリティレンジθLを備える必要はない。
【0022】
次に、このような磁気センサ1の設計方法について説明する。上述のとおり、磁気センサ1の設計条件としては出力レンジVRとリニアリティレンジθLが重要であるが、本手法はこれらを考慮した設計方法を提供する。図4に本方法の概略フローを示す。まず、複数の磁気センサ1を作成する。磁気センサ1は実際に作成してもよいし、シミュレーションで作成してもよい。複数の磁気センサ1は、第1~第4の磁化固定層14A~14Dの磁化方向がそれぞれ所定の基準角度(θ=0°)に対して第1~第4の角度θ1~θ4回転し、θ1=θ3、θ2=θ4、θ1≠θ2(従って、θ3≠θ4)である。しかし、θ1-θ2は互いに異なる。ここでは、6種類の磁気センサ1を作成し、θ1=θ3=180°とし、θ2とθ4を0°,30°,60°,90°,120°,150°とした。
【0023】
次に、複数の磁気センサ1に対し磁化自由層16の磁化方向と出力レンジVRとの関係を求める(ステップ2)。図5(a)には6種類の磁気センサ1を対象に、磁化自由層16の磁化方向と磁気センサ1の出力(差分電圧V1-V2)との関係を求めた結果を示す。θ2=θ4=0°または30°のときに出力が最大となる。θ2及びθ4が増加するに従い出力が減少し、グラフの直線部分の傾きが減少する。
【0024】
次に、各磁気センサ1に対して、第1~第4の磁化自由層16の磁化方向と各磁気センサ1の出力との間に所定の線形関係(ここではEL=5%)が成り立つ磁化方向の角度範囲(リニアリティレンジθL)と、磁気センサ1の出力レンジVRとの関係を求める(ステップ3)。図5(b)に結果の一例を示す。縦軸は規格化した出力レンジVRを示している。この際、プロットした各点からと出力レンジVRの近似曲線Fを求めてもよい。近似曲線Fは例えば最小二乗法で求めることができる。この図からわかるように、リニアリティレンジθLと出力レンジVRは負の相関関係にある。リニアリティレンジθLは小さくても大きな出力レンジVRが望ましい場合、小さなθ2及びθ4を選択すればよく、出力レンジVRよりもリニアリティレンジθLが重要である場合、大きなθ2及びθ4を選択すればよい。
【0025】
次に、複数の磁気センサ1から、リニアリティレンジθLと出力レンジVRの要求条件を満たす磁気センサ1を選択する(ステップS5,S6)。選択は図5(b)を参照して人間が行ってもよいし、コンピュータで行ってもよい。リニアリティレンジθLと出力レンジVRの要求条件がそれぞれ数値範囲で与えられる場合、要求条件は図5(b)において、所定の矩形領域Rとして定義される。図示の例ではθ2=θ4=90°の磁気センサ1が選択されることになる。領域Rを縦軸方向に2分する水平線L1または横軸方向に2分する垂直線L2と、近似曲線との交点Cを、最適なθ2,θ4として選択してもよい。選択をコンピュータで行う場合、複数の磁気センサ1における磁化自由層16の磁化方向と出力レンジVRとの関係(図5(a))と、リニアリティレンジθLと出力レンジVRの要求条件が入力され、要求条件を満たすθ2,θ4またはθ2,θ4の範囲がCPUによって計算される。
【0026】
磁気センサ1はリニアリティの良好な領域で使用することが望まれる。しかし、上述のように、外部磁界は特定の磁界検知角度範囲θRの範囲内で印加される。例えば、図5(a)の領域Aに示すように、磁界検知角度範囲θRが180°を中心とした120~240°の角度範囲である場合、磁気センサ1によってはリニアリティの悪い領域を使用するため、測定精度が低下する。この場合、図6(a)の領域Aに示すように、θ=180°における出力が出力レンジVRの中央値(V1=V2)となるようにすれば、リニアリティの良好な領域を最も有効に利用できることになる。そこで、磁気センサ1を選択する前に、図5(a)のグラフを修正することが好ましい。具体的には、第1~第4の角度θ1~θ4の相対関係を一定とし、(θ1+θ2)/2=θcの関係を満たすように、第1~第4の角度θ1~θ4を変更する(ステップS4)。第1~第4の角度θ1~θ4の相対関係が一定とは、θ1とθ2の差、θ1とθ3の差、θ1とθ4の差がすべて一定であることを意味する。図5(a)に示す例では、θc=180°である。図6(a)はこの操作によって得られる、磁化自由層16の磁化方向と磁気センサ1の出力との関係を、図6(b)はリニアリティレンジθLと出力レンジVRとの関係を示す。図6(a)の各曲線は図5(a)の対応する曲線を平行移動したものとなっており、曲線の形状自体は図5(a)と図6(a)で変わっていない。従って、図6(b)は図5(b)のグラフと一致する。磁気センサ1の選択は図5(b)のグラフに基づき行ってもよいし、図6(b)のグラフに基づき行ってもよい。しかし、図6(b)のグラフに基づき磁気センサ1を選択することで、第1~第4の角度θ1~θ4の最適値を同時に得ることができる。
【0027】
ステップS4は磁気センサ1を全体的に回転させるのと同じ効果を奏する。しかし、磁気センサ1を回転して配置することは困難な場合もある。磁化固定層14の磁化方向は着磁方向によって容易に調整可能であり、従って、本実施形態によれば、汎用性の高い磁気センサ1の設計方法を提供することができる。また、円形断面を有する磁化固定層14は方向性がなく、どの角度に対しても同じように着磁可能である。同様に、円形断面を有する磁化自由層16は方向性がなく(形状異方性がなく)、外部磁界の印加方向によらず同じように回転する。つまり、磁気抵抗効果素子自体が形状による方向性を持たないため、磁化固定層14の磁化方向を用途に合わせて様々に変更可能である。このように、本実施形態は円形の磁気抵抗効果素子との親和性が高いといえる。
【0028】
(第2の実施形態)
本実施形態は、複数の磁気抵抗効果素子がホイートストンブリッジの代わりにハーフブリッジで接続されている点を除き、第1の実施形態と同様である。磁気センサ1は1列に接続された第1の磁気抵抗効果素子E1と第2の磁気抵抗効果素子E2とを有し、第1の磁気抵抗効果素子E1は、磁化方向が固定された第1の磁化固定層14Aと、外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1の磁化自由層16Aと、を有している。第2の磁気抵抗効果素子E2は、磁化方向が固定された第2の磁化固定層14Bと、外部磁界に応じて磁化方向が回転する第2の磁化自由層16Bと、を有している。
【0029】
本実施形態では、第1の実施形態と同様、図4に示すステップに従って、磁気センサ1の設計を行うことができる。具体的には、第1の磁化固定層16Aの磁化方向が所定の基準角度(ここではθ=0°)に対して第1の角度θ1回転し、第2の磁化固定層16Bの磁化方向が所定の基準角度に対して第2の角度θ2回転し、θ1-θ2の異なる複数の磁気センサ1を作成する(ステップ1)。磁気センサ1は実際に作成してもよいし、シミュレーションで作成してもよい。次に、複数の磁気センサ1に対し磁化自由層16の磁化方向と出力レンジVRとの関係を求める(ステップ2)。次に、各磁気センサ1に対して、第1及び第2の磁化自由層16A,16Bの磁化方向と各磁気センサ1の出力との間に所定の線形関係が成り立つ磁化方向の角度範囲(リニアリティレンジθL)と、磁気センサ1の出力との関係を求める(ステップ3)。次に、複数の磁気センサ1から、角度範囲(リニアリティレンジθL)と出力レンジVRの要求条件を満たす磁気センサ1を選択する(ステップS5,S6)。磁気センサ1を選択する前に、θ1-θ2の位置関係を変えずに(θ1+θ2)/2=θcの関係を満たすように、第1の角度θ1と第2の角度θ2を変更してもよい(ステップ4)。
【0030】
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、様々な変形が可能である。例えば、図8(a)に示すように、磁気センサ1は磁化自由層16にバイアス磁界を印加するバイアス磁石18を有していてもよい。図中、黒矢印は外部磁界の印加方向であり、白抜き矢印はバイアス磁界の印加方向を示している。外部磁界の向きは一定であり、強度だけが変化する。一対のバイアス磁石18が磁気抵抗効果素子E1~E4のそれぞれの両側に設けられ、バイアス磁界が磁化固定層14の磁化方向と直交する向きに印加される。磁化自由層16にはバイアス磁界と外部磁界の合成磁界が印加される。磁気抵抗効果素子E1~E4の電気抵抗は、合成磁界の向きに応じて変化するため、磁気センサ1の出力から外部磁界の強度を求めることができる。あるいは、図8(b)に示すように磁気抵抗効果素子E1~E4を一方向に長い長尺形状として、形状異方性によって磁化自由層16の無磁界時の磁化方向を長手方向に固定しても同様の効果が得らえる。
【0031】
また、本実施形態では磁気センサ1は定電圧駆動されるが、定電流駆動されてもよい。定電流駆動では、第1の磁気抵抗効果素子E1と第4の磁気抵抗効果素子E4に入力される電流の合計値(第1の実施形態)、または第1の磁気抵抗効果素子E1に入力される電流(第2の実施形態)が一定に維持される。詳細は省略するが、この場合も図5,6に示したのと同様の特性が得られ、上述の方法に従って磁気センサ1の設計が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 磁気センサ
14A~14D 第1~第4の磁化固定層
16A~16D 第1~第4の磁化自由層
E1~E4 第1~第4の磁気抵抗効果素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8