(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】発進装置
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20241025BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20241025BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
F16H45/02 Y
F16D25/0638
F16F15/134 B
(21)【出願番号】P 2023546969
(86)(22)【出願日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2022033578
(87)【国際公開番号】W WO2023038059
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2021145167
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】輪嶋 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 晃義
(72)【発明者】
【氏名】津田 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 康平
(72)【発明者】
【氏名】大越 雅弘
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-014355(JP,A)
【文献】特表2009-515113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
F16D 25/0638
F16F 15/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからのトルクが伝達される入力部材と、出力部材と、入力要素、複数の出力側締結部材を介して前記出力部材に締結される出力要素、および前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体を含むダンパ装置とを含む発進装置において、
前記ダンパ装置を介して前記入力部材と前記出力部材とを連結すると共に両者の連結を解除するクラッチを備え、
前記クラッチは、複数の入力側締結部材を介して前記ダンパ装置の前記入力要素に締結される動力伝達要素を含み、
前記発進装置の中心軸から前記入力側締結部材の軸心までの距離は、前記中心軸から前記出力側締結部材の軸心までの距離よりも短
く、
前記入力要素は、1枚の環状プレートを含み、
前記出力要素は、前記ダンパ装置の軸方向における前記環状プレートの両側に配置されると共に連結部材を介して互いに連結される2枚の出力プレートを含み、
前記動力伝達要素および前記環状プレートの各々には、前記出力側締結部材を挿通するための複数の孔が形成され、
前記2枚の出力プレートの一方には、前記入力側締結部材との干渉を抑制するための複数の切欠が形成されている発進装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発進装置において、
前記クラッチは、前記入力部材と一体に回転するクラッチハブ、前記複数の入力側締結部材を介して前記ダンパ装置の前記入力要素に締結されるクラッチドラム、前記クラッチハブに嵌合される第1摩擦係合プレート、および前記クラッチドラムに嵌合されると共に前記第1摩擦係合プレートと摩擦係合可能な第2摩擦係合プレートとを含む多板クラッチである発進装置。
【請求項3】
請求項2に記載の発進装置において、
前記クラッチドラムは、前記第2摩擦係合プレートが嵌合されるドラム部と、前記ドラム部の一端から径方向内側に延出された環状のフランジ部とを含み、
前記フランジ部の内周部は、前記複数の入力側締結部材を介して前記入力要素の内周部に締結される発進装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の発進装置において、
前記動力伝達要素には、前記2枚の出力プレートの他方との干渉を抑制するための複数の開口が形成されている発進装置。
【請求項5】
請求項1に記載の発進装置において、
前記クラッチは、ピストン、前記ピストンに固定された摩擦材、および前記ピストンの外周部に連結されると共に前記複数の入力側締結部材を介して前記ダンパ装置の前記入力要素の内周部に締結される動力伝達部材を含む単板クラッチである発進装置。
【請求項6】
請求項1から
5の何れか一項に記載の発進装置において、
前記ダンパ装置の前記弾性体は、互い並列に作用する複数の第1弾性体と、前記発進装置の径方向における前記複数の第1弾性体の内側に配置され、互いに並列に作用すると共に前記複数の第1弾性体と並列に作用する複数の第2弾性体とを含む発進装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の発進装置において、
前記ダンパ装置は、少なくとも前記入力要素と前記出力要素との間でトルクが伝達されていないときに前記入力要素および前記出力要素の一方により保持されると共に、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクが伝達されるときに前記入力要素と前記出力要素との相対捩れ角の増加に応じて前記第1および第2弾性体と並列に作用する第3弾性体と、
前記入力要素と前記出力要素との相対回転を規制するストッパとを更に含み、
前記第3弾性体および前記ストッパは、前記複数の第2弾性体と周方向に並ぶように配設される発進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンからトルクが伝達される入力部材に連結される入力要素と出力部材に連結された出力要素との間でトルクを伝達する弾性体を有するダンパ装置と、ダンパ装置を介して入力部材と出力部材とを連結するクラッチとを含む発進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発進装置として、複数の摩擦係合プレートを有する多板クラッチを含むものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この発進装置において、ダンパ装置のドライブ部材(入力要素)は、出力部材としてのダンパハブにより回転自在に支持されると共に多板クラッチに近接するように配置される環状の第1入力プレートと、当該第1入力プレートよりも大きい内径を有すると共にタービンランナに近接するように配置される環状の第2入力プレートとを含む。第1および第2入力プレートは、互いに対向する状態で複数のリベットを介して多板クラッチのクラッチドラムに連結される。これにより、ドライブ部材すなわち第1および第2入力プレートは、クラッチドラムと一体に回転可能となり、多板クラッチの係合によりダンパ装置とが連結されることになる。
【0003】
また、従来、いわゆる単板クラッチであるロックアップ機構を含む発進装置も知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。この種の発進装置のロックアップ機構は、入力部材としてのフロントカバーとタービンランナとの間に配置された円板状のピストンと、当該ピストンのフロントカバー側の側面に固定されたリング状の摩擦板とを含む。また、ピストンは、タービンハブに回動可能となるように取り付けられ、ロックアップダンパ機構を介してタービンランナに連結される。これにより、摩擦板がフロントカバーの内側面に密着してピストンがフロントカバーに連結されると、ロックアップダンパ機構を介してフロントカバーとタービンランナとが連結されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-067159号公報
【文献】特開2008-196540号公報
【文献】特開2010-203563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された発進装置において、多板クラッチのクラッチドラムは、径方向外側に延出され、当該発進装置の外周側で複数のリベットを介してドライブ部材(第1および第2プレート)の外周部に締結される。このため、特許文献1に記載の発進装置のダンパ装置では、弾性体をダンパ装置の径方向における複数のリベットの内側に配置せざるを得ず、弾性体の捻れ角を大きくして振動減衰性能を向上させることが困難であった。また、上記特許文献2に記載された発進装置のダンパ装置では、出力側プレートの外周部と支持プレートの外周部とが複数のリベットを介して締結される。このため、弾性体をダンパ装置の径方向における複数のリベットの内側に配置せざるを得ず、当該弾性体の捻れ角を大きくして振動減衰性能を向上させることが困難であった。更に、特許文献3に記載された発進装置のダンパ装置では、弾性体および出力プレートを挟み込む2枚の外プレート(入力部材)の外周部同士が複数のリベットを介して締結される。このため、かかるダンパ装置では、出力側のイナーシャを増加させるスペースを確保できず、振動減衰性能の更なる向上を図ることが困難であった。
【0006】
そこで、本開示は、ダンパ装置を介して入力部材と出力部材とを連結する多板クラッチを含む発進装置において、ダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の発進装置は、エンジンからのトルクが伝達される入力部材と、出力部材と、入力要素、複数の出力側締結部材を介して前記出力部材に締結される出力要素、および前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体を含むダンパ装置とを含む発進装置において、前記ダンパ装置を介して前記入力部材と前記出力部材とを連結すると共に両者の連結を解除するクラッチを含み、前記クラッチが、複数の入力側締結部材を介して前記ダンパ装置の前記入力要素に締結される動力伝達要素を含み、前記発進装置の中心軸から前記入力側締結部材の軸心までの距離が、前記中心軸から前記出力側締結部材の軸心までの距離よりも短いものである。
【0008】
本開示の発進装置では、クラッチに含まれる動力伝達要素が複数の入力側締結部材を介してダンパ装置の入力要素に締結される。そして、発進装置の中心軸から入力側締結部材の軸心までの距離は、当該中心軸から出力側締結部材の軸心までの距離よりも短く定められる。すなわち、本開示の発進装置では、クラッチの動力伝達要素が、発進装置の外周側ではなく、中心軸側でダンパ装置の入力要素に締結される。これにより、ダンパ装置の径方向における複数の入力側締結部材の外側に弾性体を配置してダンパ装置の捩れ角を大きくすることが可能となる。更に、出力要素を発進装置の外周側に延出させて当該出力要素の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくすることできる。この結果、本開示の発進装置では、ダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】本開示の発進装置のダンパ装置を示す背面図である。
【
図4】本開示の発進装置の多板クラッチを構成するクラッチドラムを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は、本開示の発進装置1を示す概略構成図であり、
図2は、発進装置1を示す断面図である。これらの図面に示す発進装置1は、エンジン(内燃機関)EGからのトルク(動力)が伝達される入力部材としてのフロントカバー3や、ポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4、タービンランナ(出力側流体伝動要素)5、ステータ6、変速機TMの入力軸ISに固定される出力部材としてのタービンハブ7、ロックアップクラッチ8、ダンパ装置10等を含む流体伝動装置である。変速機TMは、例えば4段-10段変速式の有段変速機であってもよく、機械式の無段変速機(CVT)であってもよい。
【0012】
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1およびダンパ装置10の中心軸CA(軸心)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわち発進装置1やダンパ装置10の中心軸CAから当該中心軸CAと直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
【0013】
発進装置1のポンプインペラ4は、フロントカバー3の外筒部に溶接により密に固定されるポンプシェル40と、ポンプシェル40の内面に配設された複数のポンプブレード41とを含む。フロントカバー3およびポンプインペラ4(ポンプシェル40)は、作動油(ATF)で満たされる流体室9を画成する。また、タービンランナ5は、ポンプインペラ4と同軸に回転するように流体室9内に配置される。タービンランナ5は、タービンシェル50と、タービンシェル50の内面に配設された複数のタービンブレード51とを含む。タービンシェル50の内周部は、複数のリベット(出力側締結部材)90を介してタービンハブ7に固定される。
【0014】
ステータ6は、互いに対向し合うポンプインペラ4とタービンランナ5との間に両者と同軸に配置され、ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ60により一方向すなわちポンプインペラ4およびタービンランナ5の回転方向と同方向のみに制限される。ポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、作動油を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータとして機能する。すなわち、トルクコンバータの速度比(タービンランナ5の回転数/ポンプインペラ4の回転数)が大きい場合、ステータ6は、ポンプインペラ4およびタービンランナ5に連れ回る。これに対して、当該速度比が小さくなると、ワンウェイクラッチ60の作用によりステータ6の回転が制限され、タービンランナ5からの作動油がステータ6の各ステータブレード61により整流されてポンプインペラ4に戻される。これにより、トルクコンバータのトルク比(出力トルク/入力トルク)を大きくすることが可能となる。ただし、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ60を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手のみとして機能させてもよい。
【0015】
ロックアップクラッチ8は、油圧式の多板クラッチであり、ダンパ装置10を介してフロントカバー3とタービンハブ7とを連結するロックアップを実行すると共に当該ロックアップを解除する。
図2に示すように、ロックアップクラッチ8は、フロントカバー3のセンターピース3cにより軸方向に移動自在に支持されるロックアップピストン80と、クラッチハブ81と、クラッチドラム(動力伝達要素)82と、複数の第1摩擦係合プレート83と、複数の第2摩擦係合プレート84とを含む。クラッチハブ81は、外周側に形成されたスプラインを有する筒状部と、当該筒状部の一端から径方向に延出されると共にフロントカバー3の側壁部3wの内面に固定される環状のフランジ部とを含む。クラッチドラム82は、
図2に示すように、内周側に形成されたスプラインを有するドラム部82dと、ドラム部82dの一端から径方向内側に延出された環状のフランジ部82fとを含む。第1摩擦係合プレート83は、両面が平坦に形成された環状のセパレータプレートであり、各第1摩擦係合プレート83の内周部は、クラッチハブ81の筒状部に形成されたスプラインに嵌合される。第2摩擦係合プレート84は、両面に摩擦材を有する摩擦板であり、各第2摩擦係合プレート84の外周部は、クラッチドラム82のドラム部82dに形成されたスプラインに嵌合される
【0016】
更に、ロックアップクラッチ8は、ロックアップピストン80を基準としてフロントカバー3とは反対側に位置するように、すなわちロックアップピストン80よりもダンパ装置10およびタービンランナ5側に位置するようにセンターピース3cに固定される環状のフランジ部材(油室画成部材)85と、フロントカバー3とロックアップピストン80との間に配置される複数のリターンスプリング86とを含む。図示するように、ロックアップピストン80とフランジ部材85とは、係合油室87を画成し、当該係合油室87には、図示しない油圧制御装置からの作動油(係合油圧)が供給される。従って、係合油室87への係合油圧を高めることで、第1および第2摩擦係合プレート83,84をフロントカバー3に向けて押圧するようにロックアップピストン80を軸方向に移動させ、それによりロックアップクラッチ8を係合(完全係合あるいはスリップ係合)させることができる。
【0017】
ダンパ装置10は、
図2に示すように、タービンランナ5とロックアップクラッチ8との軸方向における間に配置される。ダンパ装置10は、回転要素として、ロックアップクラッチ8によりフロントカバー3に連結されるドライブ部材(入力要素)11と、タービンランナ5と共にタービンハブ7に固定されるドリブン部材(出力要素)15とを含む。更に、ダンパ装置10は、
図1および
図2に示すように、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、それぞれドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば6個)の第1スプリング(第1弾性体)SP1と、複数(本実施形態では、例えば2個)の第2スプリング(第2弾性体)SP2と、複数(本実施形態では、例えば2個)の第3スプリング(第3弾性体)SP3とを含む。本実施形態において、第1、第2および第3スプリングSP1,SP2,SP3は、何れもストレートコイルスプリングである。ただし、第1、第2および第3スプリングSP1,SP2,SP3の少なくとも何れかは、アークコイルスプリングであってもよい。
【0018】
図2に示すように、ダンパ装置10のドライブ部材11は、金属板をプレス加工することにより形成された1枚の環状プレート(プレス加工品)である。ドライブ部材11は、ロックアップクラッチ8のクラッチドラム82の内径よりも僅かに小さい内径を有し、中心孔に嵌合されるタービンハブ7により回転自在に支持される。また、ドライブ部材11は、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば6個)の外側スプリング収容窓11woと、複数(本実施形態では、例えば6個)の外側スプリング当接部11coと、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の第1内側スプリング収容窓11wiと、複数(本実施形態では、例えば4個)の第1内側スプリング当接部11ciと、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の第2内側スプリング収容窓11wsと、複数(本実施形態では、例えば4個)の第2内側スプリング当接部11csとを含む。
【0019】
複数の外側スプリング収容窓11woは、何れも第1スプリングSP1の自然長に応じた周長を有する開口であり、ドライブ部材11の外周に沿って周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。外側スプリング当接部11coは、隣り合う外側スプリング収容窓11woの周方向における間に1個ずつ形成される。複数の第1内側スプリング収容窓11wiは、何れも第2スプリングSP2の自然長に応じた周長を有する開口であり、ドライブ部材11の径方向における複数の外側スプリング収容窓11woの内側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。本実施形態では、ドライブ部材11の径方向に対向する一対の外側スプリング収容窓11woの内側に、当該ドライブ部材11の中心孔を介して径方向に対向するように一対の第1内側スプリング収容窓11wiが形成される。第1内側スプリング当接部11ciは、各第1内側スプリング収容窓11wiの周方向における両側に1個ずつ形成される。
【0020】
また、複数の第2内側スプリング収容窓11wsは、何れも第3スプリングSP3の自然長に応じた周長を有する開口であり、ドライブ部材11の径方向における複数の外側スプリング収容窓11woの内側に複数の第1内側スプリング収容窓11wiと周方向に並ぶように当該周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。本実施形態において、各第2内側スプリング収容窓11wsは、対応する第1内側スプリング収容窓11wiの周方向における一端に近接するようにドライブ部材11に形成され、一対の第2内側スプリング収容窓11wsは、ドライブ部材11の中心孔を介して径方向に対向する。第2内側スプリング当接部11csは、各第2内側スプリング収容窓11wsの周方向における両側に1個ずつ形成される。
【0021】
ドリブン部材15は、何れも金属板をプレス加工することにより形成された環状の板体(プレス加工品)である第1出力プレート16および第2出力プレート17を含む。
図2に示すように、第1出力プレート16は、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば6個)の外側スプリング収容窓16woと、複数(本実施形態では、例えば6個)の外側スプリング当接部16coと、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の第1内側スプリング収容窓16wiと、複数(本実施形態では、例えば4個)の第1内側スプリング当接部16ciと、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の第2内側スプリング収容窓16wsと、複数(本実施形態では、例えば4個)の第2内側スプリング当接部16csとを含む。
【0022】
複数の外側スプリング収容窓16woは、何れも第1スプリングSP1の自然長に応じた周長を有する開口であり、第1出力プレート16の外周に沿って周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。外側スプリング当接部16coは、隣り合う外側スプリング収容窓16woの周方向における間に1個ずつ形成される。複数の第1内側スプリング収容窓16wiは、何れも第2スプリングSP2の自然長に応じた周長を有する開口であり、第1出力プレート16の径方向における複数の外側スプリング収容窓11woの内側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。本実施形態では、第1出力プレート16の径方向に対向する一対の外側スプリング収容窓16woの内側に、当該第1出力プレート16の中心孔を介して径方向に対向するように一対の第1内側スプリング収容窓16wiが形成される。第1内側スプリング当接部16ciは、各第1内側スプリング収容窓16wiの周方向における両側に1個ずつ形成される。
【0023】
また、複数の第2内側スプリング収容窓16wsは、何れも第3スプリングSP3の自然長よりも長い周長を有する開口であり、第1出力プレート16の径方向における複数の外側スプリング収容窓16woの内側に複数の第1内側スプリング収容窓16wiと周方向に並ぶように当該周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。本実施形態において、各第2内側スプリング収容窓16wsは、対応する第1内側スプリング収容窓16wiの周方向における一端に近接するように第1出力プレート16に形成され、一対の第2内側スプリング収容窓16wsは、第1出力プレート16の中心孔を介して径方向に対向する。第2内側スプリング当接部16csは、各第2内側スプリング収容窓16wsの周方向における両側に1個ずつ形成される。
【0024】
更に、第1出力プレート16は、それぞれ複数のスプリング支持部161,162,163,164,165,166を含む。複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング支持部161の各々は、対応する外側スプリング収容窓16woの外周縁に沿って延在し、複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング支持部162の各々は、外側スプリング収容窓16woの内周縁に沿って延在する。複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部163の各々は、対応する第1内側スプリング収容窓16wiの外周縁に沿って延在し、複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部164の各々は、対応する第1内側スプリング収容窓16wiの内周縁に沿って延在する。複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部165の各々は、対応する第2内側スプリング収容窓16wsの外周縁に沿って延在し、複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部166の各々は、対応する第2内側スプリング収容窓16wsの内周縁に沿って延在する。
【0025】
図2および
図3に示すように、第2出力プレート17は、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば6個)の外側スプリング収容窓17woと、複数(本実施形態では、例えば6個)の外側スプリング当接部17coと、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の第1内側スプリング収容窓17wiと、複数(本実施形態では、例えば4個)の第1内側スプリング当接部17ciと、それぞれ円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の第2内側スプリング収容窓17wsと、複数(本実施形態では、例えば4個)の第2内側スプリング当接部17csとを含む。
【0026】
複数の外側スプリング収容窓17woは、何れも第1スプリングSP1の自然長に応じた周長を有する開口であり、第2出力プレート17の外周に沿って周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。また、外側スプリング当接部17coは、隣り合う外側スプリング収容窓17woの周方向における間に1個ずつ形成される。複数の第1内側スプリング収容窓17wiは、何れも第2スプリングSP2の自然長に応じた周長を有する開口であり、第2出力プレート17の径方向における複数の外側スプリング収容窓11woの内側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。本実施形態では、第2出力プレート17の径方向に対向する一対の外側スプリング収容窓17woの内側に、当該第2出力プレート17の中心孔17o(
図3参照)を介して径方向に対向するように一対の第1内側スプリング収容窓17wiが形成される。第1内側スプリング当接部17ciは、各第1内側スプリング収容窓17wiの周方向における両側に1個ずつ形成される。
【0027】
また、複数の第2内側スプリング収容窓17wsは、何れも第3スプリングSP3の自然長よりも長い周長を有する開口であり、第2出力プレート17の径方向における複数の外側スプリング収容窓17woの内側に複数の第1内側スプリング収容窓17wiと周方向に並ぶように当該周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設されている。本実施形態において、各第2内側スプリング収容窓17wsは、対応する第1内側スプリング収容窓17wiの周方向における一端に近接するように第2出力プレート17に形成され、一対の第2内側スプリング収容窓17wsは、第2出力プレート17の中心孔17oを介して径方向に対向する。第2内側スプリング当接部17csは、各第2内側スプリング収容窓17wsの周方向における両側に1個ずつ形成される。
【0028】
更に、第2出力プレート17は、それぞれ複数のスプリング支持部171,172,173,174,175,176を含む。複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング支持部171の各々は、対応する外側スプリング収容窓17woの外周縁に沿って延在し、複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング支持部172の各々は、外側スプリング収容窓17woの内周縁に沿って延在する。複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部173の各々は、対応する第1内側スプリング収容窓17wiの外周縁に沿って延在し、複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部174の各々は、対応する第1内側スプリング収容窓17wiの内周縁に沿って延在する。複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部175の各々は、対応する第2内側スプリング収容窓17wsの外周縁に沿って延在し、複数(本実施形態では、例えば2個)のスプリング支持部176の各々は、対応する第2内側スプリング収容窓17wsの内周縁に沿って延在する。
【0029】
図2に示すように、ドリブン部材15の第1出力プレート16は、ドライブ部材11の内径よりも大きい内径を有し、当該ドライブ部材11のロックアップクラッチ8(フロントカバー3)側に配置される。また、ドリブン部材15の第2出力プレート17は、ドライブ部材11およびクラッチドラム82(フランジ部82f)の内径よりも大きく、かつ第1出力プレート16の内径よりも小さい内径を有し、ドライブ部材11のタービンランナ5側に配置される。そして、第1および第2出力プレート16,17は、ドライブ部材11を間に挟んだ状態で、両者の外周部に挿通される複数のリベット(連結部材)91を介して互いに連結される。このように、ドリブン部材15をダンパ装置10の軸方向におけるドライブ部材11の両側に配置される2枚の第1および第2出力プレート16,17により構成することで、当該ドリブン部材15の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくすることが可能となる。
【0030】
また、ドライブ部材11は、その内周部が第1出力プレート16の中心孔内に入り込むように屈曲されており、ドライブ部材11の内周部には、複数のリベット(入力側締結部材)92を介してクラッチドラム82のフランジ部82fの内周部が締結される。これにより、ダンパ装置10の入力要素であるドライブ部材11は、ロックアップクラッチ8のクラッチドラム82と一体回転可能となり、クラッチドラム82は、ドライブ部材11を介してタービンハブ7により調心される。更に、
図2および
図4に示すように、クラッチドラム82のフランジ部82fには、第1出力プレート16の各スプリング支持部164との干渉を抑制するために、それぞれ略円弧状に延びる複数(本実施形態では、例えば2個)の開口82oが周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成されている。
【0031】
一方、第2出力プレート17の内周部は、上記複数のリベット(出力側締結部材)90を介してタービンランナ5のタービンシェル50と共にタービンハブ7に締結(固定)される。上述のように、本実施形態では、第2出力プレート17の内径が、ドライブ部材11およびクラッチドラム82のフランジ部82fの内径よりも大きく定められている。このため、発進装置1等の中心軸CAから入力側締結部材としての各リベット92の軸心までの距離L2は、
図2に示すように、中心軸CAから出力側締結部材としての各リベット90の軸心までの距離L0よりも短くなる。
【0032】
更に、クラッチドラム82のフランジ部82fの内周部には、それぞれリベット92が挿通される複数のリベット孔82rを包囲するように複数の孔82hが周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成されている。また、ドライブ部材11の内周部には、それぞれクラッチドラム82のフランジ部82fの対応する孔82hに連通するように(重なり合うように)複数の孔11hが形成されている。加えて、
図3に示すように、第2出力プレート17(2枚の出力プレートの一方)の中心孔17oには、リベット92との干渉を抑制するための複数の切欠17rが周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成されている。
【0033】
これにより、フロントカバー3やポンプインペラ4とは別に、ドライブ部材11、第1および第2出力プレート16,17等を組み立ててダンパ装置10を形成すると共に、ドライブ部材11の内周部に複数のリベット92を介してクラッチドラム82を締結して、ダンパ装置10およびクラッチドラム82の組立体を得ることができる。更に、タービンハブ7、タービンランナ5および第2出力プレート17の各リベット孔、ドライブ部材11の各孔11h、クラッチドラム82の各孔82hにリベット90を挿通してカシメることで、ダンパ装置10およびクラッチドラム82の組立体をタービンハブ7に組み付けることが可能となる。この結果、ロックアップクラッチ8およびダンパ装置10ひいては発進装置1の組立性を良好に確保することが可能となる。
【0034】
また、複数の第1スプリングSP1は、それぞれドライブ部材11の対応する外側スプリング収容窓11wo内に配置される。更に、各第1スプリングSP1は、第1および第2出力プレート16,17の対応するスプリング支持部161,171により径方向外側から支持(ガイド)されると共に、第1および第2出力プレート16,17の対応するスプリング支持部162,172により径方向内側から支持(ガイド)される。また、ダンパ装置10の取付状態(ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクが伝達されていない状態の一つ)において、ドライブ部材11の各外側スプリング当接部11co、第1および第2出力プレート16,17の各外側スプリング当接部16co,17coは、周方向に隣り合う第1スプリングSP1同士の間で両者の端部に当接する。
【0035】
一方、複数の第2スプリングSP2は、それぞれドライブ部材11の対応する第1内側スプリング収容窓11wi内に配置される。また、各第2スプリングSP2は、第1および第2出力プレート16,17の対応するスプリング支持部163,173により径方向外側から支持(ガイド)されると共に、第1および第2出力プレート16,17の対応するスプリング支持部164,174により径方向内側から支持(ガイド)される。更に、ダンパ装置10の取付状態において、ドライブ部材11の各第1内側スプリング当接部11ci、第1および第2出力プレート16,17の各第1内側スプリング当接部16ci,17ciは、それぞれ第2スプリングSP2の対応する端部に当接する。
【0036】
これにより、ドリブン部材15は、複数の第1スプリングSP1および複数の第2スプリングSP2を介してドライブ部材11に連結される。また、複数の第1スプリングSP1は、同一円周上に配列され、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で並列に作用する。更に、複数の第2スプリングSP2は、発進装置1の径方向における複数の第1スプリングSP1の内側に同一円周上に配列され、それぞれ複数の第1スプリングSP1と並列に作用することになる。
【0037】
また、複数の第3スプリングSP3は、それぞれドライブ部材11の対応する第2内側スプリング収容窓11ws内に配置(保持)され、発進装置1の径方向における複数の第1スプリングSP1の内側に複数の第2スプリングSP2と周方向に並ぶように配設される。更に、各第3スプリングSP3は、第1および第2出力プレート16,17の対応するスプリング支持部165,175により径方向外側から支持(ガイド)されると共に、第1および第2出力プレート16,17の対応するスプリング支持部166,176により径方向内側から支持(ガイド)される。また、ダンパ装置10の取付状態において、ドライブ部材11の各第2内側スプリング当接部11csは、第3スプリングSP3の対応する端部に当接する。
【0038】
これに対して、ダンパ装置10の取付状態において、各第3スプリングSP3と、その両側に位置する第1および第2出力プレート16,17(ドリブン部材15)の第2内側スプリング当接部16cs,17csとの間には、予め定められた周方向の間隔が形成され、両者が当接することはない。すなわち、各第3スプリングSP3の両側に位置する第2内側スプリング当接部16cs,17csの一方は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクが伝達されるときに当該ドライブ部材11およびドリブン部材15の相対捩れ角が増加するのに伴って第3スプリングSP3の一方の端部に当接する。
【0039】
より詳細には、各第3スプリングSP3は、ロックアップクラッチ8を介してエンジンEGからドライブ部材11に伝達される入力トルクが比較的低いときに(第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用する前)、ドリブン部材15(ドライブ部材11およびドリブン部材15の他方)に対して摺動(空走)する。そして、ドライブ部材11に伝達される入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の値)T1に達すると、ドライブ部材11等の主回転方向(エンジンEGの回転方向)における前側に位置する第3スプリングSP3の一方の端部が、当該主回転方向における前側の第2内側スプリング当接部16cs,17csに当接する。これにより、各第3スプリングSP3は、ドライブ部材11への入力トルクがトルクT1に達して当該ドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になると、それぞれ複数の第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用する。従って、ダンパ装置10は、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。
【0040】
また、ダンパ装置10は、
図1に示すように、ドライブ部材11への入力トルクが最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2に達した段階でドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転を規制する2つのストッパ18を含む。本実施形態において、各ストッパ18は、ドライブ部材11に周方向に間隔をおいて形成された円弧状に延びる2つのスロット(長穴)11sと、第1および第2出力プレート16,17を互いに連結する複数(本実施形態では、例えば4個)のリベット95とを含む(
図2参照)。本実施形態において、各スロット11sは、互いに近接していない第1および第2内側スプリング収容窓11wi,11wsの周方向における間に位置するようにドライブ部材11に形成されている。また、本実施形態では、各スロット11s内に2個のリベット95が取付状態において当該スロット11sの両端を形成する壁面と当接しないように挿通される。
【0041】
上述のように構成される発進装置1においてロックアップクラッチ8によるロックアップが解除されている際、
図1からわかるように、エンジンEGからフロントカバー3に伝達されたトルク(動力)が、ポンプインペラ4、タービンランナ5およびタービンハブ7という経路を介して変速機TMの入力軸ISへと伝達される。これに対して、発進装置1のロックアップクラッチ8によりロックアップが実行されると、エンジンEGからフロントカバー3およびロックアップクラッチ8を介してドライブ部材11に伝達されたトルクは、当該ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達するまで、互いに並列に作用する複数の第1スプリングSP1および複数の第2スプリングSP2を介してドリブン部材15およびタービンハブ7に伝達される。この間、並列に作用する第1および第2スプリングSP1,SP2により、エンジンEGからのトルクの変動が減衰(吸収)される。これにより、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対捩れ角を十分に確保すると共にダンパ装置10を低剛性化して当該ダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。更に、第1および第2スプリングSP1,SP2の受け持ちトルクの増加を抑制してダンパ装置10のトルク容量を良好に確保することができる。
【0042】
また、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1になると、上述のように、第3スプリングSP3の主回転方向における前側の端部が、当該主回転方向における前側の第1内側スプリング当接部16ci,17ciに当接する。これにより、各第3スプリングSP3は、ドライブ部材11の上記主回転方向における後側の第1内側スプリング当接部11ciとドリブン部材15(第1および第2出力プレート16,17)の上記主回転方向における前側の第1内側スプリング当接部16ci,17ciとの間で伸縮しながら、第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用してドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する。
【0043】
この結果、エンジンEGからのトルクは、フロントカバー3、ロックアップクラッチ8、ドライブ部材11、並列に作用する第1、第2および第3スプリングSP1,SP2,SP3、ドリブン部材15およびタービンハブ7という経路を介して変速装置の入力軸ISへと伝達される。また、フロントカバー3に入力されるトルクの変動は、並列に作用する第1、第2および第3スプリングSP1,SP2,SP3により減衰(吸収)される。これにより、当該第1、第2および第3スプリングSP1,SP2,SP3によって、ドライブ部材11に伝達された大きなトルク変動を吸収することが可能となる。更に、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT2になると、ドライブ部材11の各スロット11sに挿通された2つのリベット95の一方が当該スロット11sの一方の端部を形成する壁面に当接する。これにより、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転が規制され、第1、第2および第3スプリングSP1,SP2,SP3のすべての撓みが規制されることになる。
【0044】
上述のように、発進装置1では、多板クラッチであるロックアップクラッチ8のクラッチドラム82(動力伝達要素)が複数の入力側締結部材としてのリベット92を介してダンパ装置10のドライブ部材(入力要素)11に締結される。そして、発進装置1の中心軸CAから各リベット92の軸心までの距離L2は、当該中心軸CAからダンパ装置10のドリブン部材(出力要素)15とタービンハブ(出力部材)7とを締結する出力側締結部材としての各リベット90の軸心までの距離L0よりも短く定められる。すなわち、本開示の発進装置1では、ロックアップクラッチ8のクラッチドラム82が、発進装置1の外周側ではなく、中心軸CA側でダンパ装置10のドライブ部材11に締結される。これにより、ダンパ装置10の径方向における複数のリベット92の外側に弾性体としての第1および第2スプリングSP1,SP2を配置してダンパ装置10の捩れ角すなわちドライブ部材11とドリブン部材15との相対捩れ角を大きくすることが可能となる。更に、第1および第2出力プレート16,17を発進装置1の外周側に延出させて当該ドリブン部材15の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくし、当該ドリブン部材15が変速機TMと一体になって振動する振動モードでの共振の振動数をより小さくすることできる。この結果、発進装置1では、ダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【0045】
また、発進装置1において、クラッチドラム82は、第2摩擦係合プレート84が嵌合されるドラム部82dと、当該ドラム部82dの一端から径方向内側に延出された環状のフランジ部82fとを含み、フランジ部82fの内周部は、複数のリベット92を介してドライブ部材11の内周部に締結される。これにより、ロックアップクラッチ8のクラッチドラム82を発進装置1の中心軸CA側でダンパ装置10のドライブ部材11に締結して、中心軸CAから各リベット92の軸心までの距離L2を中心軸CAから各リベット90の軸心までの距離L0よりも短くすることが可能となる。
【0046】
更に、ドライブ部材11は、1枚の環状プレートであり、ドリブン部材15は、ダンパ装置10の軸方向におけるドライブ部材11の両側に配置されると共に連結部材としての複数のリベット91を介して互いに連結される第1および第2出力プレート16,17を含む。また、クラッチドラム82には、リベット90が挿通される複数の孔82hが形成され、ドライブ部材11には、リベット90が挿通される複数の孔11hが形成される。更に、第2出力プレート17の中心孔17oには、リベット92との干渉を抑制するための複数の切欠17rが形成される。これにより、ドリブン部材15の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくすると共に、ダンパ装置10およびロックアップクラッチ8の組立性を良好に確保しつつ、ロックアップクラッチ8のクラッチドラム82を発進装置1の中心軸CA側でダンパ装置10のドライブ部材11に締結することが可能となる。
【0047】
また、クラッチドラム82のフランジ部82fには、第1出力プレート16(2枚の出力プレートの他方)のスプリング支持部164との干渉を抑制するための複数の開口82oが形成されている。これにより、クラッチドラム82と第1出力プレート16すなわちドリブン部材15とを近接させてダンパ装置10ひいては発進装置1の軸長の増加を良好に抑制することが可能となる。
【0048】
更に、ダンパ装置10は、互い並列に作用する複数の第1スプリングSP1と、発進装置1の径方向における複数の第1スプリングSP1の内側に配置され、互いに並列に作用すると共に複数の第1スプリングSP1と並列に作用する複数の第2スプリングSP2とを含む。これにより、ダンパ装置10の捩れ角を十分に確保すると共にダンパ装置10を低剛性化して当該ダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。加えて、第1および第2スプリングSP1,SP2の受け持ちトルクの増加を抑制してダンパ装置10のトルク容量を良好に確保することが可能となる。
【0049】
また、ダンパ装置10は、少なくともドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクが伝達されていないときにドライブ部材11(ドライブ部材11とドリブン部材15との一方)により保持されると共に、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクが伝達されるときにドライブ部材11とドリブン部材15との相対捩れ角の増加に応じて第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用する複数の第3スプリングSP3と、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転を規制するストッパ18とを含む。更に、複数の第3スプリングSP3と、ストッパ18とは、複数の第2スプリングSP2と周方向に並ぶように配設される。これにより、ダンパ装置10ひいては発進装置1の大径化を抑制すると共に、第3スプリングSP3に作用する遠心力を低下させて当該遠心力により第3スプリングSP3がドリブン部材15(ドライブ部材11とドリブン部材15との他方)に押し付けられることで発生する摩擦力(摺動抵抗)を小さくすることが可能となる。
【0050】
図5は、本開示の他の実施形態に係るダンパ装置10Bを含む発進装置1Bを示す概略構成図である。なお、発進装置1Bやダンパ装置10Bの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0051】
発進装置1Bは、多板クラッチであるロックアップクラッチ8の代わりに、単板クラッチであるロックアップクラッチ8Bを含むものである。ロックアップクラッチ8Bは、流体室9内に配置される油圧式クラッチであり、タービンハブ7により軸方向に移動自在に支持されるロックアップピストン80Bと、フロントカバー3の内壁面と対向するようにロックアップピストン80Bに貼着された摩擦材80fと、ロックアップピストン80Bとダンパ装置10Bのドライブ部材11Bとを連結する動力伝達部材(動力伝達要素)88と、フロントカバー3とロックアップピストン80Bとの間に画成されるロックアップ室89とを含む。
【0052】
かかるロックアップクラッチ8Bでは、図示しない油圧制御装置によりロックアップ室89内の油圧を流体室9内の油圧よりも低くすることで、当該ロックアップクラッチ8Bを係合させてダンパ装置10Bを介してフロントカバー3とダンパハブ7とを連結することができる。また、油圧制御装置により流体室9内の作動油をドレンしつつロックアップ室89内に作動油(油圧)を供給することで、ロックアップクラッチ8Bを解放してフロントカバー3とダンパハブ7との連結を解除することができる。
【0053】
図5に示すように、ロックアップクラッチ8Bのロックアップピストン80Bは、外周部から周方向に間隔をおいて軸方向に延出された複数の係合爪部80eを有する。また、動力伝達部材88は、金属板をプレス加工することにより形成された1枚の環状プレート(プレス加工品)であり、ロックアップピストン80Bの内径と概ね同一の外径を有する。動力伝達部材88は、中心孔に嵌合されるタービンハブ7により回転自在に支持される。更に、動力伝達部材88の外周部には、複数の係合凹部88eが周方向に間隔をおいて形成されており、各係合凹部88eには、ロックアップピストン80Bの対応する係合爪部80eが嵌め込まれる。これにより、動力伝達部材88は、ロックアップピストン80の軸方向移動を許容しつつ当該ロックアップピストン80に一体回転するように連結される。そして、動力伝達部材88の内周部は、複数のリベット(入力側締結部材)92を介してドライブ部材11Bの内周部に締結される。加えて、動力伝達部材88の内周部には、それぞれリベット92が挿通される複数のリベット孔88rを包囲するように複数の孔88hが周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成されている。
【0054】
そして、発進装置1Bにおいても、中心軸CAから各リベット92の軸心までの距離L2が、当該中心軸CAからダンパ装置10Bのドリブン部材(出力要素)15とタービンハブ(出力部材)7とを締結する出力側締結部材としての各リベット90の軸心までの距離L0よりも短く定められる。すなわち、発進装置1Bでは、ロックアップクラッチ8Bの動力伝達部材88が、発進装置1Bの外周側ではなく、中心軸CA側でダンパ装置10Bのドライブ部材11Bに締結される。これにより、ダンパ装置10Bの径方向における複数のリベット92の外側に弾性体としての第1および第2スプリングSP1,SP2を配置してダンパ装置10Bの捩れ角すなわちドライブ部材11Bとドリブン部材15との相対捩れ角を大きくすることが可能となる。更に、第1および第2出力プレート16,17を発進装置1Bの外周側に延出させて当該ドリブン部材15の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくし、当該ドリブン部材15が変速機TMと一体になって振動する振動モードでの共振の振動数をより小さくすることできる。この結果、発進装置1Bでは、ダンパ装置10Bの振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本開示の発進装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力部材(3)と、出力部材(7)と、入力要素(11,11B)、複数の出力側締結部材(90)を介して前記出力部材(7)に締結される出力要素(15)、および前記入力要素(11,11B)と前記出力要素(15)との間でトルクを伝達する弾性体(SP1,SP2,SP3)を含むダンパ装置(10,10B)とを含む発進装置(1,1B)において、前記ダンパ装置(10,10B)を介して前記入力部材(3)と前記出力部材(7)とを連結すると共に両者の連結を解除するクラッチ(8,8B)を含み、前記クラッチ(8,8B)が、複数の入力側締結部材(92)を介して前記ダンパ装置(10,10B)の前記入力要素(11,11B)に締結される動力伝達要素(82,88)を含み、前記発進装置(1,1B)の中心軸(CA)から前記入力側締結部材(92)の軸心までの距離(L2)が、前記中心軸(CA)から前記出力側締結部材(90)の軸心までの距離(L0)よりも短いものである。
【0056】
本開示の発進装置では、クラッチに含まれる動力伝達要素が複数の入力側締結部材を介してダンパ装置の入力要素に締結される。そして、発進装置の中心軸から入力側締結部材の軸心までの距離は、当該中心軸から出力側締結部材の軸心までの距離よりも短く定められる。すなわち、本開示の発進装置では、クラッチの動力伝達要素が、発進装置の外周側ではなく、中心軸側でダンパ装置の入力要素に締結される。これにより、ダンパ装置の径方向における複数の入力側締結部材の外側に弾性体を配置してダンパ装置の捩れ角を大きくすることが可能となる。更に、出力要素を発進装置の外周側に延出させて当該出力要素の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくすることできる。この結果、本開示の発進装置では、ダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【0057】
また、前記クラッチ(8)は、前記入力部材(3)と一体に回転するクラッチハブ(81)、前記複数の入力側締結部材(92)を介して前記ダンパ装置(10)の前記入力要素(11)に締結されるクラッチドラム(82)、前記クラッチハブ(81)に嵌合される第1摩擦係合プレート(33)、および前記クラッチドラム(82)に嵌合されると共に前記第1摩擦係合プレート(83)と摩擦係合可能な第2摩擦係合プレート(84)とを含む多板クラッチであってもよい。
【0058】
更に、前記クラッチドラム(82)は、前記第2摩擦係合プレート(84)が嵌合されるドラム部(82d)と、前記ドラム部(82d)の一端から径方向内側に延出された環状のフランジ部(82f)とを含むものであってもよく、前記フランジ部(82f)の内周部は、前記複数の入力側締結部材(92)を介して前記入力要素(11)の内周部に締結されてもよい。
【0059】
これにより、クラッチのクラッチドラムを発進装置の中心軸側でダンパ装置の入力要素に締結して、中心軸から各入力側締結部材の軸心までの距離を当該中心軸から各出力側締結部材の軸心までの距離よりも短くすることが可能となる。
【0060】
また、前記入力要素は、1枚の環状プレート(11,11B)を含むものであってもよく、前記出力要素(15)は、前記ダンパ装置(10,10B)の軸方向における前記環状プレート(11,11B)の両側に配置されると共に連結部材(91)を介して互いに連結される2枚の出力プレート(16,17)を含むものであってもよく、前記動力伝達要素(82,88)および前記環状プレート(11,11B)の各々には、前記出力側締結部材(90)を挿通するための複数の孔(82h,88h)が形成されてもよく、前記2枚の出力プレート(16,17)の一方には、前記入力側締結部材(92)との干渉を抑制するための複数の切欠(17r)が形成されてもよい。
【0061】
これにより、出力要素の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくすると共に、ダンパ装置およびクラッチの組立性を良好に確保しつつ、当該クラッチのクラッチドラムを発進装置の中心軸側でダンパ装置の入力要素に締結することが可能となる。
【0062】
更に、前記動力伝達要素(82,88)には、前記2枚の出力プレート(16,17)の他方との干渉を抑制するための複数の開口(82o)が形成されてもよい。
【0063】
これにより、動力伝達要素と2枚の出力プレートの一方すなわち出力要素とを近接させてダンパ装置ひいては発進装置の軸長の増加を良好に抑制することが可能となる。
【0064】
また、前記クラッチ(8B)は、ピストン(80B)、前記ピストン(80B)に固定された摩擦材(80f)、および前記ピストン(80B)の外周部に連結されると共に前記複数の入力側締結部材(92)を介して前記ダンパ装置(10B)の前記入力要素(11B)の内周部に締結される動力伝達部材(88)を含む単板クラッチであってもよい。
【0065】
更に、前記ダンパ装置(10,10B)の前記弾性体は、互い並列に作用する複数の第1弾性体(SP1)と、前記発進装置(1,1B)の径方向における前記複数の第1弾性体(SP1)の内側に配置され、互いに並列に作用すると共に前記複数の第1弾性体(SP1)と並列に作用する複数の第2弾性体(SP2)とを含むものであってもよい。
【0066】
これにより、ダンパ装置の捩れ角を十分に確保すると共に当該ダンパ装置を低剛性化してダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。加えて、第1および第2弾性体の受け持ちトルクの増加を抑制してダンパ装置のトルク容量を良好に確保することが可能となる。
【0067】
また、前記ダンパ装置(10,10B)は、少なくとも前記入力要素(11,11B)と前記出力要素(15)との間でトルクが伝達されていないときに前記入力要素(11,11B)および前記出力要素(15)の一方により保持されると共に、前記入力要素(11,11B)と前記出力要素(15)との間でトルクが伝達されるときに前記入力要素(11,11B)と前記出力要素(15)との相対捩れ角の増加に応じて前記第1および第2弾性体(SP1,SP2)と並列に作用する第3弾性体(SP3)と、前記入力要素(11,11B)と前記出力要素(15)との相対回転を規制するストッパ(18)とを含むものであってもよく、前記第3弾性体(SP3)および前記ストッパ(18)は、前記複数の第2弾性体(SP2)と周方向に並ぶように配設されてもよい。
【0068】
これにより、ダンパ装置ひいては発進装置の大径化を抑制すると共に、第3弾性体に作用する遠心力を低下させて当該遠心力により第3弾性体が入力要素と出力要素との他方に押し付けられることで発生する摩擦力(摺動抵抗)を小さくすることが可能となる。
【0069】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示の発明は、発進装置の製造産業等において利用可能である。