(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】複合ガス吸着剤、複合ガス吸着剤の製造方法、脱臭フィルタおよび空気清浄機
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20241025BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241025BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20241025BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20241025BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241025BHJP
F24F 8/15 20210101ALI20241025BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01J20/28 Z
A61L9/01 E
A61L9/01 H
A61L9/01 K
A61L9/014
B01J20/30
F24F8/15
(21)【出願番号】P 2024052180
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023058389
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鴻上 綾
(72)【発明者】
【氏名】秋田 将吾
(72)【発明者】
【氏名】松田 優花
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086177(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203508(WO,A1)
【文献】特開2005-349364(JP,A)
【文献】特開2014-047087(JP,A)
【文献】特開2001-232189(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2003-0016069(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/34
B01D 53/00 - 53/96
A61L 9/01
A61L 9/014
F24F 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水率が35質量%以上の多孔質材料を有し、当該多孔質材料に3質量%以上の2-イミダゾリジノン及び3質量%以上の無機酸又は有機酸が担持され、かつ、無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量以上であり、
前記保水率が、水蒸気賦活処理を施し、2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を担持する前の水分含有率であり、
塩基性臭気物質、揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質のうちの複数が含まれる複合ガスに対して吸着性能を有する複合ガス吸着剤。
【請求項2】
前記多孔質材料の窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積が1000~2200m
2/gである請求項1に記載の複合ガス吸着剤。
【請求項3】
前記多孔質材料は、窒素吸着等温線からHK法により算出した2nm未満のミクロ孔の細孔容積とBJH法により算出した2~50nmのメソ孔の細孔容積との和が0.35~1.50cm
3/gである請求項1に記載の複合ガス吸着剤。
【請求項4】
前記多孔質材料は、前記細孔容積の和に対する前記ミクロ孔の細孔容積の割合が70~89%、かつ前記細孔容積の和に対する前記メソ孔の細孔容積の割合が11~30%である請求項3に記載の複合ガス吸着剤。
【請求項5】
前記塩基性臭気物質がアンモニアであり、前記揮発性有機化合物がトルエンおよび酢酸の少なくとも何れかであり、前記アルデヒド系臭気物質がアセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドの少なくとも何れかである請求項1~4の何れか一項に記載の複合ガス吸着剤。
【請求項6】
前記有機酸が以下の化学式1からなる請求項1~4の何れか一項に記載の複合ガス吸着剤。
[化1]
【請求項7】
前記無機酸がリン酸である請求項1~4の何れか一項に記載の複合ガス吸着剤。
【請求項8】
請求項1~4の何れか一項に記載の複合ガス吸着剤の製造方法であって、
多孔質材料に賦活ガスである水蒸気中において熱処理を行う賦活処理を行う賦活処理工程と、
粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製する調製工程と、前記水溶液を前記賦活処理工程を行った前記多孔質材料に接触させ、前記多孔質材料に前記水溶液を担持させる担持工程と、を含む複合ガス吸着剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4の何れか一項に記載の複合ガス吸着剤を用いた屋内向け空気清浄機用の脱臭フィルタ。
【請求項10】
請求項9に記載の脱臭フィルタを用いた空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の臭気物質を含有する複合ガスを吸着する複合ガス吸着剤、当該複合ガス吸着剤の製造方法、複合ガス吸着剤を用いた脱臭フィルタおよび当該脱臭フィルタを用いた空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境や作業環境に存在する臭気物質として、酸性臭気物質,中性臭気物質,塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質等が存在する。特に、シックハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒド,アセトアルデヒド等のアルデヒド系臭気物質の除去及び消臭に対する要望が高い。
【0003】
従来のアルデヒド系臭気物質の吸着剤としては、例えば、活性炭やゼオライト等の多孔質材にアルデヒド化合物と反応する化合物を担持させた吸着剤が用いられてきた。例えば特許文献1には、分子中に尿素結合を有する尿素化合物として、環状尿素化合物である2-イミダゾリジノン又はプソイド尿酸、並びに無機酸及び/又は有機酸を多孔質担体に担持した吸着剤が記載してある。
【0004】
特許文献2には、ヒドロキシアミン化合物が平均粒子径50~10,000μmの活性炭に担持した吸着材が記載してある。特許文献3には、ヒドロキシアミン化合物と、当該ヒドロキシアミン化合物以外のアミン化合物とが多孔質担体に担持した吸着材が記載してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-232189号公報
【文献】特開2017-094258号公報
【文献】特開2018-114463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生活環境とりわけ室内環境においては多種多様な臭気ガスが存在しているため、アルデヒド系臭気物質だけではなく、各臭気ガスをバランスよく、かつ迅速に除去可能なガス吸着剤の要望が高まっている。
【0007】
気相用途、とりわけ空気清浄機用途については、クリーンエア供給率(CADR:CreanAir Delivery Rate)性能が要求されており、これはAHAM(Association ofHome Appliance Manufacturers;米国家電製品協会)が制定した基準であり、空気清浄機が1分間あたりに供給する清浄な空気の量を表した指標とされている。いかに清浄な空気を迅速に送出できるかという性能が市場では求められ、使用される吸着剤として、吸着容量の他に吸着速度も要求されている。
【0008】
特許文献1に記載の吸着剤は、多孔質担体として例えば活性炭を使用することが記載してあるが、細孔が十分に発達していない活性炭を使用した場合、要求される吸着速度を達成することが困難である虞があった。さらに、薬剤による活性炭の細孔閉塞により、トルエン,酢酸等の揮発性有機化合物に対して十分な吸着性能を発揮できない虞があった。
【0009】
特許文献2に記載の吸着剤は、上記の平均粒子径を有する活性炭に対して特定のヒドロキシアミン化合物を担持させているため、GB規格に基づくホルムアルデヒドの簡易試験を行った場合に、ホルムアルデヒド50mg/枚負荷後のクリーンエア供給率(CADR)が高く(60m3/h以上)、クリーンエア供給率維持率(CADR維持率)が高い(50%以上)ものとなっている。
【0010】
特許文献3に記載の吸着剤は、特定のヒドロキシアミン化合物と他のアミン化合物とを併用して担持させたアミン担持多孔質担体を含有するため、吸着性能が高く、かつ、ホルムアルデヒド50mg/枚負荷後のクリーンエア供給率(CADR)が高く、クリーンエア供給率維持率(CADR維持率)が高いものとなっている。
【0011】
このように特許文献2,3については、担持薬剤によるアルデヒド類への効果及び吸着速度の指標とされるCADR(クリーンエア供給率)について記載があるものの、吸着剤の細孔特性についてはアルデヒド類の除去および吸着剤の硬さを考慮した範囲(0.30~1.40cc/g)となっており、アルデヒド類以外のガスの除去効果および吸着速度との関係性については不明である。
【0012】
臭気物質吸着の規格として、韓国空気清浄機協会(KACA)規格(SPS-KACA002-132)がある。これによれば、アンモニア,トルエン,ホルムアルデヒドガスが存在する8m3試験室でクリーンエア供給率(CADR;m3/h)が一定水準以上の初期性能を要求されている。そのため、アルデヒド類(アルデヒド系臭気物質)だけでなくその他の臭気物質を含めた複合ガスに対し、一定以上の吸着容量を満たしつつ、同時に一定レベルの吸着速度を達成することができるガス吸着剤の要望が高まっている。
【0013】
従って、本発明の目的は、臭気物質として塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質のうちの複数が含まれる複合ガスに対して一定以上の吸着容量を満たし、かつ迅速に除去することが可能な複合ガス吸着剤、複合ガス吸着剤の製造方法、脱臭フィルタおよび空気清浄機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明に係る複合ガス吸着剤の特徴構成は、保水率が35質量%以上の多孔質材料を有し、当該多孔質材料に3質量%以上の2-イミダゾリジノン及び3質量%以上の無機酸又は有機酸が担持され、かつ、無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量以上であり、前記保水率が、水蒸気賦活処理を施し、2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を担持する前の水分含有率であり、塩基性臭気物質、揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質のうちの複数が含まれる複合ガスに対して吸着性能を有する点にある。
【0015】
上述したように、アルデヒド類に対するガス吸着剤は多く存在している。しかし、化学吸着により除去可能な塩基性臭気物質,アルデヒド系臭気物質、および、物理吸着により除去可能な揮発性有機化合物を単独のガス吸着剤で迅速に除去することは困難であった。
【0016】
揮発性有機化合物は、一般的に物理吸着により多孔質材料によって除去されると考えられており、ミクロ孔が発達した多孔質材料が適する傾向にある。塩基性臭気物質およびアルデヒド系臭気物質は、一般的に化学吸着により多孔質材料によって除去されると考えられている。また、ミクロ孔(<2nm)が発達した多孔質材料を用いることで、化学吸着に寄与する2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸をより多く多孔質材料に担持させることができる。
【0017】
化学吸着により除去される物質については薬剤担持量が重要であり、これらの薬剤は水溶液として多孔質材料へ噴霧し担持されるため、一定量以上の薬剤を担持するためには、多孔質材料が多くの水分を吸収出来る必要があり、多孔質材料の保水率が35質量%以上であれば臭気物質の除去に必要な薬剤を十分量担持する事が出来る。
【0018】
2-イミダゾリジノンおよび無機酸又は有機酸の担持量は、保水率が35質量%以上の多孔質材料の質量に対して3質量%以上とする。当該担持量をこの範囲内とすることによって、化学吸着によって吸着させることができる臭気物質を効率よく吸着することができる。
【0019】
無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量未満であると、両者薬剤が中和反応により失活するため、複合ガスに対して十分な効果を得る事ができないが、無機酸又は有機酸の担持量を2-イミダゾリジノンに対して等倍量以上とすることで、塩基性臭気物質に対して有効な無機酸又は有機酸が保持され易くなる。
【0020】
本発明に係る複合ガス吸着剤の更なる特徴構成は、前記多孔質材料の窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積を1000~2200m2/gとした点にある。
【0021】
本構成によれば、複合ガスに対して吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす多孔質材料の比表面積を規定できる。
【0022】
本発明に係る複合ガス吸着剤の更なる特徴構成は、前記多孔質材料が、窒素吸着等温線からHK法により算出した2nm未満のミクロ孔の細孔容積とBJH法により算出した2~50nmのメソ孔の細孔容積との和を0.35~1.50cm3/gとした点にある。
【0023】
多孔質材料におけるメソ孔(2~50nm)は、ガスの吸着には直接寄与しないが、吸着サイトとされるミクロ孔へのガス物質移動時における導入孔となり、メソ孔が一定の割合で存在する多孔質材料を用いることで、吸着速度を向上させ、より迅速にガスを吸着することが可能となる。
【0024】
複合ガスに対して一定以上の吸着容量を満たしつつ、同時に一定レベルの吸着速度を達成するためには、多孔質材料のミクロ孔およびメソ孔の細孔容積が一定量以上存在し、かつミクロ孔及びメソ孔が一定の比率で存在している多孔質材料を用いる必要がある。
【0025】
そのため、本発明の複合ガス吸着剤における多孔質材料は、HK法により算出した2nm未満のミクロ孔の細孔容積とBJH法により算出した2~50nmのメソ孔の細孔容積との和が0.35~1.50cm3/gであるものを使用する。
【0026】
後述の実施例2によると、当該和が0.35~1.50cm3/gである本発明の複合ガス吸着剤において、複数種類の臭気物質(塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質)が含まれる複合ガスに対するクリーンエア供給率(CADR)は、比較例のガス吸着剤における複合ガスに対するCADRよりも優れていると認められている。
【0027】
従って、本構成によれば、化学吸着により除去可能な塩基性臭気物質,アルデヒド系臭気物質、および、物理吸着により除去可能な揮発性有機化合物に対し、吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす複合ガス吸着剤を供することができる。
【0028】
本発明に係る複合ガス吸着剤の更なる特徴構成は、前記多孔質材料が、前記細孔容積の和に対する前記ミクロ孔の細孔容積の割合を70~89%、かつ前記細孔容積の和に対する前記メソ孔の細孔容積の割合を11~30%とした点にある。
【0029】
後述の実施例2においては、本発明の複合ガス吸着剤は、前記細孔容積の和に対する前記ミクロ孔の細孔容積の割合が70~89%、および、前記細孔容積の和に対する前記メソ孔の細孔容積の割合が11~30%であるものを使用するのがよいと認められている。
【0030】
従って、本構成によれば、化学吸着により除去可能な塩基性臭気物質,アルデヒド系臭気物質、および、物理吸着により除去可能な揮発性有機化合物に対し、吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす複合ガス吸着剤を供することができる。
【0031】
本発明に係る複合ガス吸着剤の更なる特徴構成は、前記塩基性臭気物質をアンモニアとし、前記揮発性有機化合物をトルエンおよび酢酸の少なくとも何れかとし、前記アルデヒド系臭気物質をアセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドの少なくとも何れかとした点にある。
【0032】
本構成によれば、生活環境や作業環境に存在する主要な臭気物質を特定し、当該臭気物質を含有する複合ガスに対して吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす複合ガス吸着剤を供することができる。
【0033】
本発明に係る複合ガス吸着剤の更なる特徴構成は、前記有機酸が以下の化学式1からなる点にある。
【0034】
【0035】
本構成によれば、入手の容易なカルボン酸を有機酸として使用することができるため、本発明の複合ガス吸着剤を容易に供することができる。
【0036】
本発明に係る複合ガス吸着剤の更なる特徴構成は、前記無機酸をリン酸とした点にある。
【0037】
本構成によれば、入手の容易なリン酸を無機酸として使用することができるため、本発明の複合ガス吸着剤を容易に供することができる。
【0038】
本発明に係る複合ガス吸着剤の製造方法の特徴構成は、上記の複合ガス吸着剤の製造方法であって、多孔質材料に賦活ガスである水蒸気中において熱処理を行う賦活処理を行う賦活処理工程と、粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製する調製工程と、前記水溶液を前記賦活処理工程を行った前記多孔質材料に接触させ、前記多孔質材料に前記水溶液を担持させる担持工程と、を含む点にある。
【0039】
調製工程は、粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノンおよび粉末又は粒子状の無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製することができる。或いは、調製工程は、粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノンを水に溶解した水溶液を調製し、当該水溶液とは別に、粉末又は粒子状の無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製することができる。
【0040】
担持工程においては、前記水溶液および多孔質材料を接触させることにより、多孔質材料全体に偏りなく2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を担持させることができる。
【0041】
従って、本構成によれば、塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質が含まれる複合ガスに対して吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす複合ガス吸着剤を作製することができる。
【0042】
本発明に係る屋内向け空気清浄機用の脱臭フィルタの特徴構成は、上記の複合ガス吸着剤を用いた点にある。
【0043】
本構成によれば、塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質が含まれる複合ガスに対して吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす屋内向け空気清浄機用の脱臭フィルタを供することができる。
【0044】
本発明に係る空気清浄機の特徴構成は、上記の脱臭フィルタを用いた点にある。
【0045】
本構成によれば、塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質が含まれる複合ガスに対して吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす空気清浄機を供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】実施形態の複合ガス吸着剤の製造方法を示した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の複合ガス吸着剤は、環境中に存在する複数種類の臭気物質が含まれる複合ガスに対して吸着性能を有するものである。当該複合ガス吸着剤は、保水率が35質量%以上の多孔質材料を有し、当該多孔質材料に3質量%以上の2-イミダゾリジノン及び3質量%以上の無機酸又は有機酸が担持され、かつ、無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量以上であり、前記保水率が、水蒸気賦活処理を施し、2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を担持する前の水分含有率であり、塩基性臭気物質、揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質のうちの複数が含まれる複合ガスに対して吸着性能を有する。
【0048】
(複合ガス)
本発明の複合ガス吸着剤は、塩基性臭気物質、揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質のうちの複数、即ち、これらのうちの少なくとも二種類が含まれる複合ガスに対して吸着性能を有する。
【0049】
塩基性臭気物質は、例えばアンモニア,アルキルアミン(トリメチルアミン,トリエチルアミン等),芳香族アミン(ピリジン等)、上記以外で臭気のある有機アミン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
揮発性有機化合物(VOC)は、室温で高い蒸気圧を有する有機化学分子であり、例えばトルエン,酢酸,ホルムアルデヒド,ベンゼン,キシレン,エチルベンゼン,スチレン,プロパン,ヘキサン,シクロヘキサン,リモネン,ピネン,アセトアルデヒド,ヘキサアルデヒド,酢酸エチル,ブタノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
アルデヒド系臭気物質は、例えばホルムアルデヒド,アセトアルデヒド,プロピオンアルデヒド,アクロレイン,n-ブチルアルデヒド,イソブチルアルデヒド,ペンタナール,ヘキサナール,ヘプタナール,オクタナール,ノネナール,デカナール,3-メチル-ブチルアルデヒド,クロトンアルデヒド,2,4-ヘプタジエナール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
(多孔質材料)
多孔質材料は、多数の細孔が形成された構造を有する材料のことを示す。多孔質材料は多数の細孔が形成されるため、大きい比表面積を有している。多孔質材料が有する細孔のサイズは特に限定されるものではないが、例えば0.1~200000nmとすることができる。
【0053】
本発明における多孔質材料は、窒素吸着等温線からHK法により算出した2nm未満のミクロ孔の細孔容積とBJH法により算出した2~50nmのメソ孔の細孔容積との和が0.35~1.50cm3/gであり、前記細孔容積の和に対するミクロ孔の細孔容積の割合が70~89%、かつ前記細孔容積の和に対するメソ孔の細孔容積の割合が11~30%であるものを使用する。
【0054】
窒素吸着等温線は窒素吸着測定によって得ることができ、これをBET(Brunauer-Emmett-Teller)法で解析することにより、比表面積を算出することができる。
【0055】
多孔質材料の細孔はその直径によって、ミクロ孔(<2nm),メソ孔(2~50nm)およびマクロ孔(>50nm)に分類されており、マイクロ孔及びメソ孔の測定には、一般的にガス吸着法が用いられる。
【0056】
本発明では、多孔質材料において、ミクロ孔(<2nm)の細孔容積の存在割合を確認する際に用いられる解析法としてHK(Horvath Kawazoe)法を適用する。
【0057】
トルエン,酢酸などの揮発性有機化合物は、一般的に物理吸着により多孔質材料によって除去されると考えられており、ミクロ孔が発達した多孔質材料が適する傾向にある。アンモニアなどの塩基性臭気物質、および、ホルムアルデヒド,アセトアルデヒドなどのアルデヒド系臭気物質は、一般的に化学吸着により多孔質材料によって除去されると考えられている。また、ミクロ孔が発達した多孔質材料を用いることで、化学吸着に寄与する2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸をより多く多孔質材料に担持させることができる。
【0058】
また、本発明では、多孔質材料において、メソ孔(2~50nm)の細孔容積の存在割合を確認する際に用いられる解析法としてBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を適用する。
【0059】
当該メソ孔は、ガスの吸着には直接寄与しないが、吸着サイトとされるミクロ孔へのガス物質移動時における導入孔となり、メソ孔が一定の割合で存在する多孔質材料を用いることで、吸着速度を向上させ、より迅速にガスを吸着することが可能となる。
【0060】
複合ガスに対して一定以上の吸着容量を満たしつつ、同時に一定レベルの吸着速度を達成するためには、これらのミクロ孔およびメソ孔の細孔容積が一定数以上存在し、かつミクロ孔及びメソ孔が一定の比率で存在している多孔質材料を用いる必要がある。
【0061】
以上の観点から、多孔質材料は、HK法により算出した2nm未満のミクロ孔の細孔容積とBJH法により算出した2~50nmのメソ孔の細孔容積との和が0.35~1.50cm3/gであるものを使用する。当該細孔容積の和は、好ましくは0.47~1.22、より好ましくは0.47~0.97、さらに好ましくは0.67~0.86とするのがよい。
【0062】
本発明では多孔質材料において、前記細孔容積の和に対するミクロ孔の細孔容積の割合が70~89%であるものを使用する。当該割合は、好ましくは71~89%、より好ましくは80~88%、さらに好ましくは82~86%とするのがよい。
【0063】
また、本発明では多孔質材料において、前記細孔容積の和に対するメソ孔の細孔容積の割合が11~30%であるものを使用する。当該割合は、好ましくは11~29%、より好ましくは12~20%、さらに好ましくは14~18%とするのがよい。
【0064】
多孔質材料は、空気清浄機に求められる吸着除去性能と硬さをバランスする観点から、多孔質材料の窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積が1000~2200m2/gであるものを使用する。当該比表面積は、好ましくは1000~2000m2/g、より好ましくは1056~1996m2/gとするのがよい。
【0065】
多孔質材料への薬剤担持可能量の目安として保水率があり、多孔質材料に一定時間水分を含浸後に脱水し、脱水前後の質量変化より算出する方法がある。
【0066】
本発明において多孔質材料の保水率の下限値は35質量%以上の範囲とし、好ましくは38質量%以上、より好ましくは41質量%以上とするのがよい。
【0067】
本発明において多孔質材料の保水率の上限値は、80質量%以下の範囲とし、好ましくは78質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは61質量%以下とするのがよい。
【0068】
多孔質材料の表面にはアルカリ金属等が存在しており、この金属類が担持させた無機酸又は有機酸と中和反応し、アンモニア等の塩基性臭気物質との反応性が低下して吸着性能が低下する可能性がある。そのため、使用する多孔質材料は前記金属類の含有量が少ないものが好ましい。
【0069】
強熱残分は、多孔質材料に含まれる金属量のことであり、多孔質材料を電気炉中で強熱灰化し、その残分を求める方法により測定することができる。当該測定は、例えばJIS K1474「強熱残分」に記載の方法で測定するとよい。
【0070】
本発明において多孔質材料の強熱残分は0.1~7.0%の範囲とし、好ましくは0.1~3.0%とするのがよい。
【0071】
嵩密度は、粉体を一定容積の容器に一定の方法で充填し、粒子間の空隙も含めた体積で粉体の質量を除した値のことである。嵩密度は多孔質材料が有する細孔特性によって変化し、ミクロ孔が少ないと一定容積当たりに含まれる多孔質材料の質量が重くなるため嵩密度の数値は大きくなる傾向である。一方、メソ孔が多いと一定の容積当たりに含まれる多孔質材料の質量が軽くなるため嵩密度の数値は小さくなる傾向である。
【0072】
また、嵩密度の数値が大きいと、質量換算でフィルタへ複合ガス吸着剤を充填する場合、複合ガス吸着剤の充填量が少なくなるため性能が低下する虞がある。一方、嵩密度の数値が小さいと、複合ガス吸着剤の充填量は増えるが、フィルタ通気時の圧力損失が大きくなる虞がある。そのため、嵩密度は、一定の範囲内にあるものが好ましい。
【0073】
嵩密度は、充填密度測定装置を用い、多孔質材料を充填密度測定容器に充填して単位体積当たりの質量を求める方法により測定することができる。当該測定は、例えばJIS K1474「充填密度」に記載の方法で測定するとよい。
【0074】
本発明において多孔質材料の嵩密度は0.35~0.65の範囲とし、好ましくは0.40~0.55とするのがよい。
【0075】
多孔質材料の原料は、特に限定されない。例えば植物系材料(例えば木材,鉋屑,木炭,ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻,果実種子,パルプ製造副生成物,リグニン,廃糖蜜などの植物由来の材料)、鉱物系材料(例えば泥炭,亜炭,褐炭,瀝青炭,無煙炭,コークス,コールタール,石炭ピッチ,石油蒸留残渣,石油ピッチなどの鉱物由来の材料)、合成樹脂系材料(例えばフェノール樹脂,ポリ塩化ビニリデン,アクリル樹脂などの合成樹脂由来の材料)、天然繊維系材料(例えばセルロースなどの天然繊維,レーヨンなどの再生繊維などの天然繊維由来の材料)などが挙げられる。
【0076】
これら多孔質材料の原料のうち、ミクロ孔が多く存在することで吸着性能に優れることから、植物系材料とするのが好ましい。当該植物系材料のなかでは、より一層効率よく吸着性能を発揮し得るため、ヤシ殻などの果実殻を多孔質材料の原料とすることが好ましい。本実施形態では、多孔質材料の原料として植物系材料のヤシ殻を用いる場合について説明する。
【0077】
多孔質材料は、上記の原料を必要に応じて炭化又は不融化した後、賦活処理することにより得ることができる。炭化方法,不融化方法および賦活方法は特に限定されず、公知の手法を適用することができる。例えば賦活方法は、ガス賦活法や化学的賦活法により行うことができる。ガス賦活法は、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活ガス(水蒸気,二酸化炭素等)中において、500~1000℃程度で熱処理する方法である。化学的賦活法は、炭素原料(又はその炭化物若しくは不融化物)を賦活剤(リン酸,塩化亜鉛,水酸化カリウム,水酸化ナトリウム等)と混合し、300~800℃程度で熱処理する方法である。
【0078】
多孔質材料の形状は特に限定されず、例えば粒子状、繊維状(糸状,織り布(クロス)状,フェルト状)、ブロック状、粉末状などとすることができ、具体的使用態様に応じて適宜選択できる。単位体積当たりの吸着性能が高く、またフィルタへの充填性を考慮して、当該形状を粒子状とするのが好ましい。多孔質材料の寸法は特に限定されず、具体的な使用態様に応じて適宜粒度等を調整すればよい。
【0079】
多孔質材料は、市販品を使用することもできる。
【0080】
(アミン化合物)
アルデヒド類は、アミン化合物との間でシッフ塩基等のアルデヒド-アミンの結合を形成することが知られている。そのため、多孔質材料にアミン化合物を担持させると、当該結合の反応に伴い、不快臭の原因物質であるアルデヒド系臭気物質を化学結合により効率良く多孔質材料に吸着させることができる。
【0081】
アミン化合物は分子中に少なくとも1個のアミノ基を有するものであれば特に限定されない。例えば第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンを用いることができる。
【0082】
本発明では、操作性および安全性を鑑み、アミン化合物として2-イミダゾリジノン(エチレン尿素)を使用する場合について説明する。
【0083】
本実施形態における2-イミダゾリジノンの担持量は、多孔質材料の質量に対して3質量%以上とする。当該担持量をこの範囲内とすることによって、化学吸着によって吸着させることができる臭気物質を効率よく吸着することができる。
【0084】
当該担持量が3質量%未満であると、担持量が少ないため、アルデヒド系臭気物質に対し十分な除去性能が発現できず、当該担持量の下限値は、3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上とするのがよい。
【0085】
担持量が30質量%を超えると、過剰に担持されるため、揮発性有機化合物の吸着に有効な細孔を閉塞するため、複合ガス、特に揮発性有機化合物に対して十分な除去性能が発現できず、当該担持量の上限値は30質量%以下、より好ましくは25質量%以上30質量%未満、さらに好ましくは20質量%以上25質量%未満とすることが好ましい。
【0086】
(無機酸又は有機酸)
無機酸又は有機酸は、アンモニアのような塩基性臭気物質に対する吸着性能が優れている。また、無機酸又は有機酸は単独ではアルデヒド系臭気物質に対する吸着性能を有していないが、無機酸又は有機酸を2-イミダゾリジノンとともに多孔質材料に担持させることにより、アルデヒド系臭気物質の吸着速度を向上させることができる。
【0087】
本発明で用いられる無機酸は、例えばリン酸,塩酸,硫酸,硝酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本発明で用いられる有機酸は、例えばカルボン酸,スルホン酸,スルフィン酸,フェノール,エノール,チオフェノール,イミド,オキシム,芳香族スルホンアミド,第一級及び第二級ニトロ化合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
本発明で用いられる有機酸は、以下の化学式1によって表される化合物を使用するのが好ましい。
【0090】
【0091】
上記の化学式1で表される化合物は、具体的には、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸等が挙げられる。
【0092】
これらの無機酸又は有機酸は、市販品を使用することができる。
【0093】
これらの無機酸又は有機酸のうち、塩酸,硫酸,硝酸,リン酸,カルボン酸,スルホン酸,スルフィン酸を使用するのが好ましい。本実施形態では無機酸としてリン酸を使用する場合について説明する。
【0094】
本実施形態における無機酸又は有機酸の担持量は、多孔質材料の質量に対して3質量%以上とする。当該担持量をこの範囲内とすることによって、化学吸着によって吸着させることができる臭気物質、特に塩基性臭気物質を効率よく吸着することができる。
【0095】
当該担持量が3質量%未満であると、担持量が少ないため、塩基性系臭気物質に対し十分な除去性能が発現できず、当該担持量の下限値は、3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上とするのがよい。
【0096】
担持量が30質量%を超えると、過剰に担持されるため、揮発性有機化合物の吸着に有効な細孔を閉塞するため、複合ガス、特に揮発性有機化合物に対して十分な除去性能が発現できず、当該担持量の上限値は30質量%以下、より好ましくは25質量%以上30質量%未満、さらに好ましくは20質量%以上25質量%未満とすることが好ましい。
【0097】
また、無機酸又は有機酸を2-イミダゾリジノンの等倍量以上担持することで、塩基性臭気物質(アンモニア)に対し一定以上の効果を得られることを本願の検討で見出したため、無機酸又は有機酸の担持量を2-イミダゾリジノンの等倍量以上、具体的には1~5倍、好ましくは1.0~3倍、さらに好ましくは1.1~3倍とするのがよい。
【0098】
以上より、本発明の複合ガス吸着剤は、保水率が35質量%以上の多孔質材料を有し、当該多孔質材料に3質量%以上の2-イミダゾリジノン及び3質量%以上の無機酸又は有機酸が担持され、かつ、無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量以上となるように構成してある。これにより、本発明の複合ガス吸着剤は、化学吸着により除去可能な塩基性臭気物質(アンモニア等),アルデヒド系臭気物質(アセトアルデヒド,ホルムアルデヒド等)、および、物理吸着により除去可能な揮発性有機化合物(トルエン,酢酸等)に対し、吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たすことが可能となる。
【0099】
(複合ガス吸着剤の製造方法)
本発明の複合ガス吸着剤の製造方法は、
多孔質材料に賦活ガスである水蒸気中において熱処理を行う賦活処理を行う賦活処理工程と、粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製する調製工程Aと、当該水溶液を
賦活処理工程を行った多孔質材料に接触させ、多孔質材料に前記水溶液を担持させる担持工程Bと、を含む(
図1)。担持工程Bの後に、公知の手法による乾燥処理などを行ってもよい。
賦活処理工程は、多孔質材料を賦活ガスである水蒸気中において、500~1000℃で熱処理する。
【0100】
調製工程Aは、粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノンおよび粉末又は粒子状の無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製する。或いは、調製工程Aは、粉末又は粒子状の2-イミダゾリジノンを水に溶解した水溶液を調製し、当該水溶液とは別に、粉末又は粒子状の無機酸又は有機酸を水に溶解した水溶液を調製する態様としてもよい。
【0101】
担持工程Bにおける前記接触は、前記水溶液および多孔質材料が接触できる態様であれば特に限定されるものではなく、例えば前記水溶液を多孔質材料に噴霧する態様、前記水溶液を多孔質材料に散布する態様、前記水溶液中に多孔質材料を浸漬する態様とすることができる。
【0102】
このとき、多孔質材料に2-イミダゾリジノンおよび無機酸又は有機酸を接触させる方法としては、以下の手法を取り得る。
【0103】
(a)2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を含む水溶液を多孔質材料に噴霧及び/又は散布する。
(b)2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を含む水溶液中に多孔質材料を浸漬する。
(c)2-イミダゾリジノンを含む水溶液を多孔質材料に噴霧及び/又は散布、又は2-イミダゾリジノンを含む水溶液中に多孔質材料を浸漬させた2-イミダゾリジノン処理物と、無機酸又は有機酸を含む水溶液を多孔質材料に噴霧及び/又は散布、又は無機酸又は有機酸を含む水溶液中に多孔質材料を浸漬させた無機酸又は有機酸処理物と、を混合する。
【0104】
上記の担持工程Bにより、多孔質材料全体に偏りなく2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸を担持させることができる。
【0105】
2-イミダゾリジノンを含む水溶液の温度は15~30℃とするのが好ましく、無機酸又は有機酸を含む水溶液の温度は15~30℃とするのが好ましい。また、担持時間は特に限定されるものではないが、1時間以内とするのが好ましい。
【0106】
本発明の複合ガス吸着剤の製造方法によれば、塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質が含まれる複合ガスに対して吸着性能に特に優れ、一定以上の吸着容量を満たし、かつ吸着速度も満たす複合ガス吸着剤を作製することができる。
【0107】
(工業製品への適用)
本発明の複合ガス吸着剤は、工業製品に配合して使用することができる。
【0108】
当該工業製品とは、従来から広く知られている工業製品及び工業原料を指す。具体的には、塗料,接着剤,インキ,シーリング剤,紙製品,バインダー,樹脂エマルション,パルプ,木質材料,木質製品,プラスチック製品,フィルム,壁紙,建材(石膏ボード,内装材,天井材,床材等),繊維製品,フィルタ(特に屋内向け空気清浄機用の脱臭フィルタやキャビンエアフィルタ等の脱臭フィルタ等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
工業製品としてフィルタ(特に脱臭フィルタ)を採用する場合、その構造は公知の構造を採用することができる。
【0110】
また、これらの複合材料も工業製品に含まれる。複合材料としては、例えば、木質材料とプラスチックとの複合材料等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0111】
本発明の複合ガス吸着剤が配合された上述の屋内向け空気清浄機用の脱臭フィルタなどの工業製品を、例えば室内環境に含まれる複数種類の臭気物質(塩基性臭気物質,揮発性有機化合物およびアルデヒド系臭気物質)と接触させることによって、当該複合ガス吸着剤と臭気物質とが接触し、当該臭気物質を効率よく吸着除去することができる。
【実施例】
【0112】
以下に、本発明の複合ガス吸着剤の製造方法について説明する。
【0113】
〔実施例1〕[実施例1-1~1-5及び比較例1-1~1-6]
多孔質材料は、原料としてヤシ殻(東南アジア周辺で採取された公知のヤシ殻を購入)を使用した。当該原料は、定法により炭化した後、賦活処理を行った。当該賦活処理は、ガス賦活法によって行った。当該ガス賦活法は、前記原料を賦活ガス(水蒸気)中において900℃で熱処理を行った。
【0114】
熱処理(水蒸気賦活処理)の時間は、実施例1-1,1-3及び比較例1-1~1-4を30分、実施例1-2,1-4,1-5及び比較例1-5~1-6を150分とした。
【0115】
保水率が35質量%以上(38~51質量%)の多孔質材料を有し、当該多孔質材料に3質量%以上(5質量%)の2-イミダゾリジノン及び3質量%以上の無機酸又は有機酸(5~25質量%のリン酸)が担持され、かつ、無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量以上(1~5倍)となるように、無機酸又は有機酸及び2-イミダゾリジノンを担持させた。更に多孔質材料内部の細孔に薬剤を担持させるため、保水率に対し担持薬剤量の比が0.2以上となるように(0.3~0.6)、実施例1-1~1-5を調製した。
尚、保水率に対する担持薬剤量の比は、0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.1~0.8、さらに好ましくは、0.2~0.6とするのがよい。
【0116】
粉末状の2-イミダゾリジノンおよび液体状のリン酸(濃度85%:無機酸の一例)を表1に示す担持量となるよう水に溶解した水溶液を調製した(調製工程A)。当該水溶液の温度を室温に維持した状態で、上記の処理を行った多孔質材料100gに15分接触させた(担持工程B)。
【0117】
2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸の担持量、保水率に対する担持薬剤量比、及び無機酸又は有機酸の担持量に対する2-イミダゾリジノンの担持量比は、表1に示した値となるように、各実施例及び各比較例のそれぞれについて調節した。
【0118】
<保水率の測定>
担持工程Bの前の保水率を以下のようにして測定した。
恒温振とう機(振幅40mm、120~130/分、50℃に調整できるもの)を使用し、115±5℃で3時間乾燥した多孔質材料50gを10mgの桁まで量り取り、それをW0(g)とする。量り取った多孔質材料を500mL容の三角フラスコに入れ、蒸留水200mLを加え、50℃の恒温振とう機中で20分間振とうし、多孔質材料を遠心力脱水機で1分間脱水する。脱水後の試料量を10mgの桁まで量り取り、それをWe(g)とし、次式によって保水率を算出する。
【0119】
<保水率計算方法>
保水率(%)=(We―W0)÷We×100
【0120】
<CADR測定法>
9cm×9cmのフィルタに本発明の複合ガス吸着剤6.0gをセットし、試験室(1m3)内の排気ファンの上にセットした後、試験室内のアンモニア,トルエン,酢酸,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒドの各濃度が10ppmとなるよう試験室内にガスを注入し、排気ファンを稼働させた。FT-IRガス分析装置(MATRIXMG5:ブルカージャパン株式会社製)を用いて2分間隔で試験室内の各ガス濃度を60分間測定し、経過時間とガスの気中濃度の関係から、以下の手法により各ガスのクリーンエア供給率(CADR)(m3/h)を算出した。
【0121】
CADR計算方法
1)初期濃度(C0)と各時間の濃度(Ct)から対数Ln(Ct/C0)を計算する。
2)対数Ln(Ct/C0)と時間から傾きKを計算する。
3)傾きKに試験空間(30m3)を掛け、CADR(m3/H)を算出する。
傾きKの算出方法については、C/C0の値により以下の2方法に区別して行う。
・C/C0<0.1の場合は、0.1を下回るまでの点で算出
・C/C0≧0.1の場合は、60分までの全ての点で算出
【0122】
結果を表1に示した。
【0123】
【0124】
実施例1-1~1-5において、2-イミダゾリジノンの担持量が3質量%以上及びリン酸の担持量が3質量%以上であり、かつ2-イミダゾリジノンに対するリン酸担持量比が等倍量以上であり、保水率に対する薬剤担持量比が0.6以下の時、CADR合計値は942~1354m3/hであった。
【0125】
CADR性能割合は、各臭気物質(塩基性臭気物質(アンモニア),揮発性有機化合物(VOC:トルエン,酢酸)およびアルデヒド系臭気物質(ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド))のCADR合計値に対する割合(%)を示したものである。
【0126】
一方、比較例1-1,1-2のように、リン酸担持量が3質量%未満であり、かつ2-イミダゾリジノンに対するリン酸担持量比が等倍量未満の場合、CADR合計値は741,763m3/hとなり上記実施例のCADR合計値より低く、塩基性臭気物質のCADR性能割合は3.3%,2.7%となり上記実施例のCADR性能割合(塩基性臭気物質)より低い結果となった。これより、比較例1-1,1-2は、塩基性臭気物質のCADR性能割合が劣ると認められた。
【0127】
また、比較例1-3,1-4のように、2-イミダゾリジノン担持量が3質量%未満または、2-イミダゾリジノンに対するリン酸担持量比が等倍量以上の場合、CADR合計値は991~1005m3/hとなり実施例1-1,1-3と同程度であるが、CADR性能割合に関して比較例1-3,1-4のアルデヒド系臭気物質が9.0,12.0%となり上記実施例のCADR性能割合(アルデヒド系臭気物質)より低い結果となった。これより、比較例1-3,1-4は、アルデヒド系臭気物質のCADR性能割合が劣ると認められた。
【0128】
更に、比較例1-5,1-6では、保水率に対する無機酸又は有機酸、及び2-イミダゾリジノンの担持量比が0.8の場合、CADR合計値は1345,768m3/hであるが、揮発性有機化合物のCADR値が513,459m3/hとなり各実施例の揮発性有機化合物のCADR値に対して低い結果となった。これより、過剰量の薬剤を担持させることで細孔が閉塞し、揮発性有機化合物の吸着性能が低くなることが確認された。
【0129】
〔実施例2〕[実施例2-1~2-7及び比較例2-1]
実施例1と同様の多孔質材料を使用し、同様の炭化処理および賦活処理を行った。
【0130】
熱処理(水蒸気賦活処理)の時間は、実施例2-1~2-7及び比較例2-1のそれぞれの比表面積が表2に示した値となるように、各実施例及び各比較例のそれぞれについて調節した。当該時間は、実施例2-1:30分、実施例2-2:60分、実施例2-3:90分、実施例2-4:120分、実施例2-5:150分、実施例2-6:180分、実施例2-7:210分、比較例2-1:0分とした。
【0131】
粉末状の2-イミダゾリジノン5.1gおよび液体状のリン酸(濃度85%:無機酸の一例)7.8gを22.7mLの水に溶解した水溶液を調製した(調製工程A)。当該水溶液の温度を室温に維持した状態で、上記の処理を行った多孔質材料100gに15分接触させた(担持工程B)。
【0132】
上記のようにして複合ガス吸着剤(実施例2-1~2-7)および比較例2-1の吸着剤を製造した。製造された多孔質材料(実施例2-1~2-7及び比較例2-1)における2-イミダゾリジノンの担持量は5.1質量%、リン酸の担持量は7.8質量%であった。
【0133】
実施例2で製造した多孔質材料(実施例2-1~2-7,比較例2-1)における各物性値は、以下に示す方法により測定した。
【0134】
<窒素吸着等温線の測定>
高精度ガス/蒸気吸着量測定装置BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、多孔質材料を真空下にて250℃で3時間加熱した後、77Kにおける多孔質材料の窒素吸着等温線を測定した。比表面積(m2/g)は、当該窒素吸着等温線からBET法で算出した。
【0135】
<HK法によるミクロ孔の細孔容積の測定>
上記により得られた窒素吸着等温線に対してHK法を適用し、2nm未満のミクロ孔の細孔容積(I)(cm3/g)を算出した。HK法での解析にあたってはマイクロトラック・ベル株式会社から提供された基準曲線「NGCB-BEL.t」を用いた。
【0136】
<BJH法によるメソ孔の細孔容積の測定>
上記により得られた窒素吸着等温線に対してBJH法を適用し、2~50nmのメソ孔の細孔容積(II)(cm3/g)を算出した。BJH法での解析にあたってはマイクロトラック・ベル株式会社から提供された基準曲線「NGCB-BEL.t」を用いた。
【0137】
実施例2で製造した多孔質材料(実施例2-1~2-7,比較例2-1)における保水率及びCADR性能は、先述の方法により実施例1と同様に測定した。
【0138】
結果を表2に示した。
【0139】
【0140】
実施例2-1~2-7において、複数種類の臭気物質が含まれる複合ガスに対するCADRの合計値は918~1228であった。一方、比較例2-1において、複合ガスに対するCADRの合計値は281であった。これより、本発明の複合ガス吸着剤は、比較例のガス吸着剤よりも優れたCADRを有するものと認められた。特に実施例2-1~2-7では揮発性有機化合物(CADR:503~673)及びアルデヒド系臭気物質(CADR:186~244)において、比較例(揮発性有機化合物CADR:93,アルデヒド系臭気物質CADR:30)よりも特に優れたCADRを有するものと認められた。従って、本発明の複合ガス吸着剤は、臭気物質として塩基性臭気物質(アンモニア),揮発性有機化合物(トルエン,酢酸)およびアルデヒド系臭気物質(ホルムアルデヒド,アセトアルデヒド)が含まれる複合ガスに対して一定以上の吸着容量を満たし、かつ迅速に除去することが可能であることが判明した。
【0141】
また、実施例2-1~2-7では、アルデヒド系臭気物質のCADR性能割合(19.5~21.0%)は、特に比較例2-1におけるアルデヒド系臭気物質のCADR性能割合(10.6%)よりも優れていると認められた。
【0142】
実施例2-1~2-7における比表面積は1056~2139m2/gであった。一方、比較例2-1における比表面積は672m2/gであった。従って、本発明の複合ガス吸着剤は、多孔質材料の窒素吸着等温線からBET法で算出した比表面積が1000~2200m2/gであるものを使用するのがよいと認められた。
【0143】
このように、当該比表面積が1000m2/g未満の場合は、複合ガス吸着剤において複合ガスに対するCADRの合計値および各ガス(特にアルデヒド系臭気物質)におけるCADR性能割合が優れたものではないため、好ましくないと認められた。
【0144】
比表面積が2200m2/gより大きい場合においても同様に、CADRの合計値および各ガスにおけるCADR性能割合が優れたものではないため、好ましくないと認められた(結果は示さない)。
【0145】
実施例2-1~2-7において、多孔質材料の保水率は38~61質量%であった。一方、比較例2-1における保水率は25%であった。従って、本発明の複合ガス吸着剤は、実施例2においても多孔質材料の保水率が35%以上であるものを使用するのがよいと認められた。
【0146】
実施例2-1~2-7において、HK法により算出した2nm未満のミクロ孔の細孔容積(I)とBJH法により算出した2~50nmのメソ孔の細孔容積(II)との和は、0.47~1.22cm3/gであった。一方、比較例2-1における当該細孔容積の和は0.29cm3/gであった。従って、本発明の複合ガス吸着剤は、当該細孔容積の和が0.35~1.50cm3/gであるものを使用するのがよいと認められた。
【0147】
尚、当該細孔容積の和が0.35cm3/g未満あるいは1.50cm3/gより大きい場合は、複合ガス吸着剤において複合ガスに対するCADRの合計値が優れたものではないため、好ましくないと認められた。
【0148】
実施例2-1~2-7において、前記細孔容積の和に対するミクロ孔の細孔容積の割合[(I)/((I)+(II))]は71~89%であった。一方、比較例2-1における当該割合は89%であった。従って、本発明の複合ガス吸着剤は、当該割合が70~89%であるものを使用するのがよいと認められた。
【0149】
尚、当該割合が70%未満あるいは89%より大きい場合は、複合ガス吸着剤において複合ガスに対するCADRの合計値が優れたものではないため、好ましくないと認められた。
【0150】
実施例2-1~2-7において、前記細孔容積の和に対するメソ孔の細孔容積の割合[(II)/((I)+(II))]は11~29%であった。一方、比較例2-1における当該割合は11%であった。従って、本発明の複合ガス吸着剤は、当該割合が11~30%であるものを使用するのがよいと認められた。
【0151】
尚、当該割合が11%未満あるいは30%より大きい場合は、複合ガス吸着剤において複合ガスに対するCADRの合計値が優れたものではないため、好ましくないと認められた。
【0152】
従って、本発明の複合ガス吸着剤は、2-イミダゾリジノンの担持量が3質量%以上及びリン酸の担持量が3質量%であり、かつ2-イミダゾリジノンに対するリン酸担持量比が等倍量以上のものを使用するのがよいと認められた。
【0153】
〔実施例3〕[実施例3-1~3~3]
実施例1と同様の多孔質材料を使用し、同様の炭化処理および賦活処理を行った。
【0154】
2-イミダゾリジノン及び無機酸又は有機酸の担持量、保水率に対する担持薬剤量比、及び無機酸又は有機酸の担持量に対する2-イミダゾリジノンの担持量比は、表3に示した値となるように、各実施例のそれぞれについて実施例1の手法に準じて調節した。
【0155】
即ち、保水率が35質量%以上(61質量%)の多孔質材料を有し、当該多孔質材料に3質量%以上(15~35質量%)の2-イミダゾリジノン及び3質量%以上の無機酸又は有機酸(16.5~38.5質量%のリン酸)が担持され、かつ、無機酸又は有機酸の担持量が2-イミダゾリジノンの等倍量以上(1.1倍)となるように、無機酸又は有機酸及び2-イミダゾリジノンを担持させた。更に、保水率に対し担持薬剤量の比が0.5~1.2となるように、実施例3-1~3~3を調製した。
【0156】
【0157】
実施例3-1~3~3において、2-イミダゾリジノンの担持量が3質量%以上及びリン酸の担持量が3質量%であり、かつ2-イミダゾリジノンに対するリン酸担持量比が等倍量以上であり、保水率に対する薬剤担持量比が1.2以下の時、CADR合計値は1064~1481m3/hであった。
【0158】
一方、比較例1-1,1-2のように、リン酸担持量が3質量%未満であり、かつ2-イミダゾリジノンに対するリン酸担持量比が等倍量未満の場合、CADR合計値は741,763m3/hとなり上記実施例のCADR合計値より低く、塩基性臭気物質のCADR性能割合は3.3%,2.7%となり上記実施例のCADR性能割合(塩基性臭気物質)より低い結果となった。これより、比較例1-1,1-2は、塩基性臭気物質のCADR性能割合が劣ると認められた。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、複数の臭気物質を含有する複合ガスを吸着する複合ガス吸着剤、当該複合ガス吸着剤の製造方法、複合ガス吸着剤を用いた脱臭フィルタおよび当該脱臭フィルタを用いた空気清浄機に利用できる。
【符号の説明】
【0160】
A 調製工程
B 担持工程