(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】光デバイスの動作方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/125 20060101AFI20241025BHJP
G02B 6/124 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
G02B6/125 301
G02B6/124
(21)【出願番号】P 2024146296
(22)【出願日】2024-08-28
(62)【分割の表示】P 2024516397の分割
【原出願日】2023-07-07
【審査請求日】2024-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 敬太
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106094107(CN,A)
【文献】特開2015-121626(JP,A)
【文献】国際公開第2005/085921(WO,A1)
【文献】特許第7205678(JP,B1)
【文献】特開2021-179484(JP,A)
【文献】YE, C. et al.,Ultra-Compact Broadband 2×23 dB Power Splitter Using a Subwavelength-Grating-Assisted Asymmetric Directional Coupler,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,IEEE,2020年04月15日,Vol.38, No.8,p.2370-2375,10.1109/JLT.2020.2973663
【文献】CHEBEN, P. et al.,Subwavelength integrated photonics,Nature,2018年08月30日,Vol.560,p.565-572,https://doi.org/10.1038/s41586-018-0421-7
【文献】TEGLIETTI, Bruno et al.,Subwavelength Grating Waveguide-Based 1310/1550 nm Diplexer,2022 IEEE Photonics Conference (IPC),2022年,https://doi.org/10.1109/IPC53466.2022.9975638
【文献】WANG, Z. et al.,Silicon-based subwavelength grating polarization beam splitter with asymmetric directional coupler,Laser Physics,2023年07月04日,Vol.33,P.086204,https://doi.org/10.1088/1555-6611/acdbc4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数fの光を伝搬させて動作させる光デバイスの動作方法であって、
前記光デバイスは、基板上に並んで配置された第一光導波路と第二光導波路を備え、前記第一光導波路と前記第二光導波路の間で前記光が結合するように他の領域よりも前記第一光導波路と前記第二光導波路との間隔が狭い光結合領域を有するとともに、
前記光結合領域において、前記第一光導波路と前記第二光導波路との周囲に、前記光の伝搬方向に、第一屈折率材料と、前記第一屈折率材料よりも屈折率が低い第二屈折率材料が周期Λで交互に配置されたグレーティング構造を有しており、
真空中の光速をc
0、前記光結合領域における導波モードに対応する実効屈折率をn
effとすると、前記周期Λが、
11c
0/(20n
eff・f)≦Λ≦3c
0/(4n
eff・f)
を満足する前記周波数fの光を前記光デバイスに伝搬させて動作させる光デバイスの動作方法。
【請求項2】
前記周期Λが、
11c
0/(20n
eff・f)≦Λ≦3c
0/(5n
eff・f)
を満足する前記周波数fの光を前記光デバイスに伝搬させて動作させる請求項1に記載の光デバイスの動作方法。
【請求項3】
前記光デバイスにおける前記第一光導波路の幅が前記第二光導波路の幅の1.2倍以上2倍以下である請求項1または2に記載の光デバイスの動作方法。
【請求項4】
周波数fの光を伝搬させて動作させる光デバイスの動作方法であって、
前記光デバイスは、基板上に並んで配置された第一光導波路と第二光導波路、および前記光の伝搬方向に第一屈折率材料と前記第一屈折率材料よりも屈折率が低い第二屈折率材料が周期Λで交互に配置されたグレーティング構造を備え、
前記第一光導波路と前記第二光導波路とから前記グレーティング構造に前記光が入射されるよう構成されており、
前記光の伝搬方向に垂直で前記基板に平行な方向の前記グレーティング構造の幅が、前記光の波長の3倍以上となり、
真空中の光速をc
0、前記グレーティング構造における導波モードに対応する実効屈折率をn
effとすると、前記周期Λが
11c
0/(20n
eff・f)≦Λ≦3c
0/(4n
eff・f)
を満足する前記周波数fの光を前記光デバイスに伝搬させて動作させる光デバイスの動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光デバイスの動作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)、リン化インジウム(InP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、およびそれらを基礎とする化合物半導体などの様々な材料による光デバイスにおいて、周囲よりも屈折率を高くすることで光を局所的な領域に閉じ込め、その領域を線状に形成することで、光を所望の領域に伝搬させることができる光導波路はデバイスの基本的な構成要素として広く用いられている。
【0003】
また、2つの独立する光導波路を伝搬光の波長以下の距離に近接させることで、2つの導波路の光伝搬モードが光学的に結合し、その結果、伝搬光の任意の電力を移行させる機能をもつ方向性結合器、あるいは幅広な導波路を形成して内部を伝搬する光の固有モードをマルチモード化させ、各モード間の光干渉によって伝搬光を任意の数に分波、または逆に合波させる機能をもつ多モード干渉導波路(Multi-Mode Interference、MMI)、入力された光を偏波分離し、それぞれ異なる位置に出力させる機能、もしくはその逆の機能をもつ偏波合分波器、光の伝搬方向に回折格子構造を設け、所望の波長または偏波の光を光導波路から上下方向に回折させることで、空間に光を伝搬させる機能をもつグレーティングカプラなど、光導波路を基本としたさまざまな導波路型のデバイスもまた、さまざまな機能を実現するための光デバイスの基本的な構成要素の1つとして広く用いられている。
【0004】
しかし一般的な方向性結合器あるいはMMIなどの導波路型光デバイスでは、一方の光導波路を伝搬する光電力を十分に他方の光導波路へと移行する、または入力光電力を複数の出力に等分配するためには、伝搬する光の波長の数十倍程度と長い距離が必要になり、デバイスサイズが大きくなるという課題がある。また、MMI、偏波合分波器、グレーティングカプラなどの光デバイスでは動作する波長あるいは偏波の範囲が小さく、様々な波長あるいは偏波に対応するには、様々な属性の光に対応したデバイスを並列に配置するなどの工夫が必要で、それもまた全体としてのデバイスサイズが大きくなる要因となっていた。例えば方向性結合器でよく用いられる、光電力の50%を他方に分岐する3dBカプラあるいは3dBスプリッタは、所望の移行率が得られるデバイス長の許容誤差範囲が約1マイクロメートル程度と非常に狭いという課題もある。全体としてのデバイス長に対し、許容誤差範囲のデバイス長が小さいという事は、方向性結合器はそれだけ製造誤差に弱いデバイスであるという事を示している。
【0005】
前記の課題を解決するための技術として、Siをベースとした光デバイス内に2つの光導波路に垂直の方向に、伝搬光以下の周期の周期構造、いわゆるサブウェーブレングス・グレーティング(Sub-wavelength Grating、SWG)構造を導入することで、デバイスサイズの小型化、偏波無異存化、波長無依存化などの実現に成功している(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】C. Ye et al., “Ultra-Compact Broadband 2 x 23 dB Power Splitter Using a Subwavelength-Grating-Assisted Asymmetric Directional Coupler,” JLT, vol. 38, no. 8 (2020)
【文献】P. Cheben, “Subwavelength integrated photonics,” Nature, vol. 560, pp. 565-572 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2においては、小型な方向性結合器を実現する技術が開示されているが、SWG構造は、波長以下のサイズの周期構造を設ける必要がある。一般的に導波路を構成するSi、InPなどの半導体光材料の屈折率は3を超えるため、実質的には波長の1/3以下のサイズが必要である。例えば波長1.5μmであれば0.5μm以下の周期構造が必要であり、光導波路コア材料の充填率を50%とすると0.25μm程度の微細構造が必要となる。このようなサイズの構造体を高精度に形成することは光半導体プロセス上実現の難易度が高く、電子ビーム(EB)リソグラフィーのような高精度なプロセスが必要となり、高コスト要因となる。
【0008】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、従来よりも必要とされる加工精度が緩和され、容易に製造することが可能な光デバイスによる動作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の光デバイスの動作方法は、周波数fの光を伝搬させて動作させる光デバイスの動作方法であって、
前記光デバイスは、基板上に並んで配置された第一光導波路と第二光導波路を備え、前記第一光導波路と前記第二光導波路の間で前記光が結合するように他の領域よりも前記第一光導波路と前記第二光導波路との間隔が狭い光結合領域を有するとともに、
前記光結合領域において、前記第一光導波路と前記第二光導波路との周囲に、前記光の伝搬方向に、第一屈折率材料と、前記第一屈折率材料よりも屈折率が低い第二屈折率材料が周期Λで交互に配置されたグレーティング構造を有しており、
真空中の光速をc0、前記光結合領域における導波モードに対応する実効屈折率をneffとすると、前記周期Λが、
11c0/(20neff・f)≦Λ≦3c0/(4neff・f)
を満足する前記周波数fの光を前記光デバイスに伝搬させて動作させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示の光デバイスの動作方法によれば、従来よりも必要とされる加工精度が緩和され、容易に製造することが可能な光デバイスにより動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1による光デバイスの構成を示す模式的な上面図である。
【
図2】実施の形態1による光デバイスの光結合領域の構成を示す模式的な拡大斜視図である。
【
図3】実施の形態1による光デバイスの動作点を、比較例の光デバイスの動作点と比較して示す線図である。
【
図4】実施の形態1による光デバイスの動作を、比較例の光デバイスの動作と比較して説明するための模式的な図である。
【
図5】比較例の光デバイスの光電力の分岐の特性を示す線図である。
【
図6】別の比較例の光デバイスの光電力の分岐の特性を示す線図である。
【
図7】実施の形態1による光デバイスの光電力の分岐の特性を示す線図である。
【
図9】比較例の光デバイスの特性を示す線図である。
【
図10】実施の形態2の光デバイスの特性を比較例と比較して示す線図である。
【
図11】実施の形態2の光デバイスの動作を比較例と比較して示す図である。
【
図12】実施の形態3による光デバイスの構成を示す模式的な上面図である。
【
図13】実施の形態3による光デバイスの光結合領域の構成を示す模式的な拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1および
図2に、実施の形態1による光デバイスとしての方向性結合器の構成を示す。
図1の平面図に示すように、この方向性結合器は、内部に周囲よりも屈折率が高い領域を有し、この領域に光が局所的に閉じこもり、ある特定の方向にのみ光の伝搬が許容された第一光導波路11および第二光導波路21の2つの光導波路が、基板1上に形成されている。この方向性結合器を、
図1に示すように、光の伝搬方向に、入力領域A、幅寄せ領域B、結合領域C、幅拡大領域D、出力領域Eの順に領域分けすると、各領域において、第一光導波路11および第二光導波路21は以下のような構成になっている。入力領域Aにおいて、第一光導波路11および第二光導波路21は、光の波長の数倍以上の十分な間隔で配置されている。幅寄せ領域Bにおいて、第一光導波路11と第二光導波路21の間隔が、入力領域Aにおける伝搬光の波長の数倍以上の間隔から、波長サイズ程度にまで狭くなるよう変化している。この幅寄せ領域Bでは、第一光導波路11と第二光導波路21が光損失無く折れ曲がるよう、領域の長さが波長の10倍程度以上の長さで、第一光導波路11、第二光導波路21共に、円弧の組み合わせ、または正弦波または余弦波の組み合わせ、またはサイクロイド曲線、クロソイド曲線などの曲線を描いて折れ曲がるよう構成されている。光結合領域Cにおいては、第一光導波路11と第二光導波路21は、間隔が波長程度で概ね一定に保つように平行かつ近接して配置されている。さらに、幅拡大領域Dにおいて、第一光導波路11と第二光導波路21の間隔が、幅寄せ領域Bと逆に、波長程度から光の波長の数倍以上の十分な間隔になるよう広がっている。幅拡大領域Dは、波長の10倍程度以上の長さで、第一光導波路11、第二光導波路21共に、円弧の組み合わせ、または正弦波または余弦波の組み合わせ、またはサイクロイド曲線などの曲線を描いて折れ曲がるよう構成されている。さらに、出力領域Eでは、第一光導波路11と第二光導波路21とが、光の波長の数倍以上の十分な間隔で配置されている。この光デバイスは、第一光導波路11と第二光導波路21の間隔が最接近している領域である光結合領域Cにおいて、第一光導波路11と第二光導波路の光が結合する方向性結合器を構成している。
【0013】
図2は、光結合領域Cの部分を拡大して示す斜視図である。
図2に示すように、光結合領域Cの第一光導波路11および第二光導波路21は、基板1と、基板1上に形成された下部クラッド層5と、下部クラッド層5上に下部クラッド層5よりも高い屈折率をもつ材料で構成される、光を閉じ込める領域であるコア層11aおよび21aを有する。さらに、コア層と同じ材質で構成され、光の伝搬方向のおおよそ垂直になるように、かつコア層11aとコア層21aの双方を貫くような突起部(グレーティング)31が周期的に繰り返し配置されているグレーティング構造3を有する。さらに、コア層11a、21a、および突起部31は、コア層を構成する材料よりも低い屈折率を有する、例えばSiO
2、SiNなどの材料からなる周囲クラッド6で囲まれている。すなわちグレーティング構造3は、コア層と同じ材料である第一屈折率材料の突起部31と第一屈折率材料よりも屈折率が低い第二屈折率材料の周囲クラッド6とが一定の周期で繰り返し配置された構成であり、導波路全体としてグレーティング付きの導波路構造となっている。グレーティング構造3のグレーティングの周期Λは、おおむね以下の式(1)を満足するように設定されている。
【0014】
【数1】
ここで、c
0は真空中を伝搬する光の速度、fは光デバイスを伝搬する光の周波数、n
effは導波モードの実効屈折率、をそれぞれ示す。ここで、実効屈折率は、光導波路の構造および素材で決定されるパラメータであり、光導波路が複雑な構造をもつ場合であっても、導波モードの伝搬速度から、その光導波路が一定の屈折率材料で構成されると仮定したときの、屈折率に相当する値で定義される。なお、図中には、方向性結合器に入力する光41と、方向性結合器によって分岐した出力光42、43を矢印で模式的に示している。また、
図1と
図2の方向の対応がわかるよう、x、y、z軸を図中に記載している。
【0015】
図3に、グレーティング付き光導波路を伝搬する光の分散関係を模式的に示す。横軸に波数、縦軸に周波数を示す。グレーティングによる逆格子ベクトルの作用によって、分散特性はいわゆるX点(=π/Λ)で折り返され、かつX点付近で分散特性が湾曲され、伝搬モードが存在しないブラッグ反射領域が生じる。ブラッグ反射領域よりも低周波数側がSWG領域である。先行技術で示されているグレーティング付き光導波路は、図中の破線矢印で示すSWG領域を動作点としていた。一方、ブラッグ反射領域よりも高周波数側は放射領域であり、伝搬光が導波路外部に放射され、電力が減衰していくような動作となる。本実施の形態1による光デバイスの動作点は、
図3中の実線矢印で示す領域である。
図3で示すf_min~f_maxの間に動作周波数fが入るように、すなわち式(1)を満足するようにグレーティングの周期Λを設定する。本実施の形態1にかかる光デバイスは、先行技術で示されるSWGデバイスと同等の波数を示し放射領域となる周波数で動作することを特徴とする。Λをこのように設定することで、放射領域ではあるものの、同一の光デバイスを伝搬する光の周波数fに対して、グレーティングの周期Λを先行技術よりも長周期化できる、すなわちグレーティングを形成するパターンの微細度を緩和できるという効果が得られる。
【0016】
以下では、上記構造の効果について説明する。
図4に、通常の光導波路をベースにしたときの方向性結合器と、グレーティング付き光導波路をベースにしたときの方向性結合器中を伝搬する光の関係を模式的に示す。通常の光導波路をベースにした構造では伝搬光の周波数増大に従って波数ベクトルも大きくなるが、グレーティング付き光導波路をベースにした構造では逆格子ベクトルが作用する。本開示の技術のように、ブラッグ反射領域よりも高い周波数領域で動作する場合、逆格子ベクトルが作用して伝搬光の波数ベクトルが折り返された結果、波数ベクトルのkz成分を従来のSWGと同程度の長さに設定することができる。これにより、本開示では長周期のグレーティング構造であっても、従来のSWG構造と同様の効果を得ることができる。
【0017】
図5から
図7に、それぞれ、グレーティング構造を有さない通常の方向性結合器、SWG構造のグレーティングを有する方向性結合器、本実施の形態1によるグレーティング構造を有する方向性結合器に、波長1.55μmの光を入射させたときの、光結合領域の長さと光電力の分岐率の関係を計算により求めた結果を示す。いずれの方向性結合器も、光結合領域における、第一光導波路11および第二光導波路21が、屈折率が3.4のSi導波路であって、幅が0.4μmおよび0.5μm、間隔が0.2μm、高さが0.25μmで、屈折率1.6のSiO
2クラッドに囲まれている方向性結合器(n
eff=2.38)である。
図5は、比較例としての、グレーティング構造を有さない通常の方向性結合器の計算結果である。
図6は、比較例としての、周期0.22μm(Λ=0.338c
0/(n
eff・f))、充填率50%のSWG構造を設けた方向性結合器の計算結果である。
図7は、本実施の形態1による方向性結合器の計算結果の一例であり、グレーティング構造3として、周期0.39μm(Λ=0.600c
0/(n
eff・f))、充填率50%のグレーティング構造を設けた場合の計算結果である。
【0018】
なお、第一光導波路11と第二光導波路21の幅を異なる幅とするのは、異なる幅とすることで、光分岐に必要な距離を短くできる効果があるためである。幅の比が1.2倍程度からその効果が顕著になる。設計したい分岐率により最適な比は異なる。ただし、幅の比が2倍以上のように大きくなりすぎると第一光導波路と第二光導波路それぞれの導波モードの実効屈折率差が大きくなりすぎ、結合モードを形成しなくなる。
【0019】
図5より、グレーティングが無い通常の方向性結合器では長さをどのように設定しても50%の電力分岐を実現できないが、
図6のようにSWG構造を付加することで、長さ6μm~8μm付近で概ね50%の電力分岐を実現できる。また、
図7の本実施の形態1による構成においては、SWGよりも約1.8倍の長周期のグレーティングであっても、同様に長さ6μm~8μm付近で概ね50%の電力分岐を実現できており、従来のSWG構造と同等の特性が得られていることがわかる。同じ電力分岐が得られる方向性結合器長が長いという事は方向性結合器の要求製造精度を緩和できるという事である。また、同時に所望の特性が得られる光学長が長いという事であり、動作する波長帯域を拡大することができるという効果もある。
【0020】
なお、方向性結合器の形状、素材、位置関係は本実施の形態1に限る必要はない。例えば入力側の光導波路と出力側の光導波路の位置は入れ替わっても良いし、基板1の材料はSi、GaAs、SiO2、SiN、LiNbO3などの他の材料でもよいし、コア層もSiである必要はなく、クラッド層よりも高屈折率材料でさえあればよく、例えばSiO2クラッドに対してGeなどをドープしたSiO2などでもよい。この場合、デバイスの屈折率が全体的に小さくなるため、デバイスサイズが大型になるという点では不利である一方、伝搬光の光損失が小さくなるため、低損失なデバイスが実現できる利点がある。
【0021】
実施の形態2.
本実施の形態2は実施の形態1の変形例であり、
図1、2に示す方向性結合器において、グレーティング3の周期が、おおむね以下の式(2)を満足することを特徴とする。
【数2】
ここで、c
0は真空中を伝搬する光の速度、fは光デバイスを伝搬する光の周波数、n
effは導波モードの実効屈折率、Λはグレーティング3の周期をそれぞれ示す。
【0022】
実施の形態1においては、長周期グレーティングであっても、光電力の分岐比特性の観点で従来のSWGデバイスと同等の特性が得られることを確認した。しかしこの動作領域は光導波路の分散関係における放射領域となるため、原理的に放射損が避けられないという問題がある。特に、グレーティングの周期Λが大きい、すなわち動作周波数が
図3の分散特性の上方に位置する場合にその影響は大きくなる懸念がある。しかしΛが式(2)を満足する範囲であれば、長周期グレーティングを導入する際のデメリットとなる、放射モードによる伝搬光の減衰を抑制しつつ、実施の形態1に示す効果を実現することができる。
【0023】
以下に、本実施の形態の効果について説明する。電磁界シミュレーヨン(Finite Difference Time Domain Method、FDTD法)を用いて、各構造における放射損失を計算した。
図8にFDTD法の計算モデルを示す。10μm~100μmまで高さ0.22μmのグレーティング付き光導波路がクラッド中に設置されており、0μm~10μmは同じ高さの通常の光導波路となっている。屈折率nは、グレーティング構造の突起部31が3.4、周囲クラッド6が1.6、光導波路が3.4である。このモデルでX=0μm位置で光導波路の基本モードを励起して、図面右方向に向かって伝搬させている。この時のグレーティングの周期を様々に変化させたときの、伝搬距離と伝搬光の電力の関係を計算した。
【0024】
図9が、
図3におけるSWG領域とブラッグ反射領域における放射損失の計算結果である。周期Λが0.20μm~0.32μm(Λが0.307c
0/(n
eff・f)~0.491c
0/(n
eff・f))のSWG領域では、グレーティング周期に依存する過剰損失は発生していない事がわかる。周期Λが0.34μm(Λ=0.522c
0/(n
eff・f))のブラッグ反射領域においては、グレーティング付き光導波路内に伝搬モードが存在しないため、伝搬距離に応じて大きく振動しながら電力が減衰している事がわかる。
【0025】
図10が、
図3における放射領域における放射損失の計算結果である。周期Λが0.36μm~0.38μm(Λが0.553c
0/(n
eff・f)~0.583c
0/(n
eff・f))の本実施の形態2の構造においては、放射領域ではあるため、わずかながら損失はあるものの、
図9におけるSWG領域の損失特性とほぼ同等の損失に抑えられていることがわかる。一方、周期Λを大きくした0.40μm~0.60μm(Λが0.614c
0/(n
eff・f)~0.922c
0/(n
eff・f))の領域では、放射損失が大きく、伝搬光の光電力が大きく減衰していることがわかる。
【0026】
図11に、周期Λが0.20μm(Λ=0.307c
0/(n
eff・f))(
図11D)、0.34μm(Λ=0.522c
0/(n
eff・f))(
図11C)、0.38μm(Λ=0.583c
0/(n
eff・f))(
図11B)、0.60μm(Λ=0.922c
0/(n
eff・f))(
図11A)における伝搬光の電磁界分布の計算結果を示す。
図11において、上向き(↑)は電界が正であり、下向き矢印(↓)が電界負であり、濃いほど絶対値が大きいことを示している。
図9、
図10に示した、放射損失が大きな構造においては伝搬光の強度が右へ行くほどに小さくなっている様子がわかる。
【0027】
実施の形態3.
図12および
図13に、実施の形態3による光デバイスの構成を示す。この光デバイスは、光結合領域が多モード干渉導波路(Multi-Mode Interference、MMI)となっている光デバイスである。
図12の平面図に示すように、この光デバイスは、内部に周囲よりも屈折率が高い領域を有し、前記領域に光が局所的に閉じこもり、ある特定の方向にのみ光の伝搬が許容された第一光導波路11および第二光導波路21の2つの光導波路が、基板1上に形成されている。この光デバイスを、
図12に示すように、光の伝搬方向に、入力領域A、幅寄せ領域B、結合領域C、幅拡大領域D、出力領域Eの順に領域分けすると、各領域において、第一光導波路11および第二光導波路21は以下のような構成になっている。入力領域Aにおいて、第一光導波路11および第二光導波路21は、光の波長の数倍以上の十分な間隔で配置されている。幅寄せ領域Bにおいて、第一光導波路11と第二光導波路21の間隔が、入力領域における伝搬光の波長の数倍以上の間隔から、波長サイズ程度にまで狭くなるよう変化している。この幅寄せ領域Bでは、第一光導波路11と第二光導波路21が光損失無く折れ曲がるよう、領域の長さが波長の10倍程度以上の長さで、第一光導波路11、第二光導波路21共に、円弧の組み合わせ、または正弦波または余弦波の組み合わせ、またはサイクロイド曲線、クロソイド曲線などの曲線を描いて折れ曲がるよう構成されている。光結合領域Cにおいては、グレーティング構造30が形成されてMMI部を構成しており、第一光導波路11と第二光導波路21から光がこのグレーティング構造30に入射するように構成されている。また、光結合領域Cのグレーティング構造30からの光が、再び幅拡大領域Dにおける第一光導波路11と第二光導波路21に結合するよう構成されている。幅拡大領域Dにおいては、第一光導波路11と第二光導波路21の間隔が、幅寄せ領域Bとは逆に、光結合領域C側の間隔である波長程度から光の波長の数倍以上の十分な間隔になるよう広がっている。幅拡大領域Dは、波長の10倍程度以上の長さで、第一光導波路11、第二光導波路21共に、円弧の組み合わせ、または正弦波または余弦波の組み合わせ、またはサイクロイド曲線などの曲線を描いて折れ曲がるよう構成されている。さらに、出力領域Eでは、第一光導波路11と第二光導波路21とが、光の波長の数倍以上の十分な間隔で配置されている。
【0028】
光結合領域CのMMI部では、
図13に示すように、基板1上と、基板1上に形成された下部クラッド層5と、下部クラッド層5上に前記下部クラッド層5よりも高い屈折率をもつ材料で構成される、光の伝搬方向のおおよそ垂直になるように、グレーティング33が周期的に繰り返し設置されているグレーティング構造30と、グレーティング33を囲むように設置された、コア層を構成する材料よりも低い屈折率を有する、例えばSiO
2、SiNなどの材料からなる周囲クラッド6で囲まれた構成のグレーティング付きの導波路構造となっており、グレーティング33の周期が、おおむね以下の式(3)(実施の形態1の式(1)と同じ)を満足するよう設定されている。また、光の損失が十分に小さいMMIとして機能するためには、グレーティング構造30のx方向、すなわち光の伝搬方向に垂直で基板1に平行な方向、の幅は光の波長の3倍以上とする必要がある。
【0029】
【数3】
ここで、c
0は真空中を伝搬する光の速度、fは光デバイスを伝搬する光の周波数、n
effは導波モードの実効屈折率、Λはグレーティング33の周期をそれぞれ示す。なお、図中には、本実施の形態の方向性結合器に入力する光41と、方向性結合器によって分岐した出力光42、43を矢印で模式的に示している。また、
図12と
図13の方向の対応がわかるよう、x、y、z軸を図中に記載している。
【0030】
本実施の形態3とすることで、より要求製造精度が低い長周期のグレーティングで、先行技術で開示されているSWG構造MMIと同様に広い波長範囲での電力分岐動作を実現可能である。これにより、製造コストを低減できるという利点を得られる。
【0031】
本開示には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本開示の技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0032】
1 基板、3、30 グレーティング構造、11 第一光導波路、21 第二光導波路、C 光結合領域、31、33 グレーティング
【要約】
【課題】容易に製造することが可能な光デバイスによる動作方法を提供する。
【解決手段】周波数fの光を伝搬させて動作させる光デバイスの動作方法であって、光デバイスは、基板上に並んで配置された第一光導波路と第二光導波路を備え、第一光導波路と第二光導波路の間で光が結合するように他の領域よりも第一光導波路と第二光導波路との間隔が狭い光結合領域を有するとともに、光結合領域において、第一光導波路と第二光導波路との周囲に、光の伝搬方向に、第一屈折率材料と、第一屈折率材料よりも屈折率が低い第二屈折率材料が周期Λで交互に配置されたグレーティング構造を有しており、真空中の光速をc
0、光結合領域における導波モードに対応する実効屈折率をn
effとすると、周期Λが、11c
0/(20n
eff・f)≦Λ≦3c
0/(4n
eff・f)を満足する周波数fの光を前記光デバイスに伝搬させて動作させるようにした。
【選択図】
図3