(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20241025BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20241025BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241025BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20241025BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20241025BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20241025BHJP
【FI】
C25B13/02 301
C25B1/23
C25B9/00 Z
C25B9/63
H01M8/12 101
C25B1/042
C25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2024506000
(86)(22)【出願日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2023005517
(87)【国際公開番号】W WO2023171297
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022035316
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】千葉 春香
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 玄太
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-041044(JP,A)
【文献】特開2021-111473(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218334(WO,A1)
【文献】特開2007-172848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/02
C25B 1/23
C25B 9/00
C25B 9/63
H01M 8/12
C25B 1/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層、第2電極層、及び前記第1電極層と前記第2電極層との間に配置される電解質層を有するセル本体部と、
前記セル本体部を支持する主面、及び複数の供給孔を有する金属支持体と、
を備え、
前記電解質層は、前記主面の第1辺を覆う第1端部を有し、
前記主面に垂直な前記電解質層の断面において、前記第1端部は、第1基準線と第2基準線の間に配置される先端部を含み、
前記第1基準線は、前記第1辺を通り、前記主面に垂直な直線であり、
前記第2基準線は、前記第1基準線から4μm内側に位置し、前記第1基準線と平行な直線であって、
前記第1端部
の前記先端部は、前記主面と平行な方向において前記第1辺に近づくほど薄くなっている、
電気化学セル。
【請求項2】
前記電解質層は、前記主面の第2辺を覆う第2端部を有し、
前記第2辺は、前記第1辺と平行であり、
前記主面に垂直な前記電解質層の断面において、前記第2端部は、第3基準線と第4基準線の間に配置される先端部を含み、
前記第3基準線は、前記第2辺を通り、前記主面に垂直な直線であり、
前記第4基準線は、前記第3基準線から4μm内側に位置し、前記第3基準線と平行な直線であって、
前記第2端部
の前記先端部は、前記主面と平行な方向において前記第2辺に近づくほど薄くなっている、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記主面は、長方形に形成され、
前記第1辺及び前記第2辺それぞれは、前記主面の長辺である、
請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記電解質層は、前記主面の外側にはみ出た突出部を有し、
前記突出部は、前記金属支持体の側面のうち少なくとも一部を覆っている、
請求項1乃至3のいずれかに記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セル(電解セル、燃料電池など)において、金属支持体によってセル本体部を支持する構造が知られている。例えば、特許文献1に記載された電気化学セルは、第1電極層、電解質層、及び第2電極層がこの順で金属支持体の主面上に積層されたセル本体部を備える。電解質層は第1電極層を覆っており、その端部はセル本体部の主面に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学セルの保温性を向上させるには、金属支持体の主面を電解質層の端部で覆うことによって金属支持体からの放熱を抑制することが有効である。しかしながら、電解質層の端部を金属支持体の主面の端まで形成すると、電解質層の端部に損傷(角割れ、クラックなど)が生じやすい。
【0005】
本発明の課題は、電解質層の損傷を抑制可能な電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る電気化学セルは、セル本体部と、金属支持体とを備える。セル本体部は、第1電極層、第2電極層、及び第1電極層と第2電極層との間に配置される電解質層を有する。金属支持体は、セル本体部を支持する主面、及び複数の供給孔を有する。電解質層は、主面の第1辺を覆う第1端部を有する。第1端部は、主面と平行な方向において第1辺に近づくほど薄くなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電解質層の損傷を抑制可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電解セルの平面図である。
【
図5】
図5は、変形例4に係る電解質層の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の平面図である。
図2は、
図1のA-A断面図である。電解セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。
【0010】
電解セル1は、板状に形成される。電解セル1は、平面視において長手方向(Y軸方向)に延びる長方形に形成される。
【0011】
図2に示すように、電解セル1は、セル本体部10、金属支持体20、及び流路部材30を備える。
【0012】
[セル本体部10]
セル本体部10は、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、この順で金属支持体20側から積層されている。水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0013】
[水素極層6]
水素極層6は、金属支持体20と電解質層7との間に配置される。水素極層6は、金属支持体20によって支持される。詳細には、水素極層6は、金属支持体20の第1主面20S上に配置される。水素極層6は、金属支持体20の第1主面20Sのうち複数の供給孔21が設けられた領域を覆う。水素極層6は、各供給孔21内に入り込んでいてよい。水素極層6は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。
【0014】
水素極6には、各供給孔21を介して原料ガスが供給される。原料ガスは、少なくともH2Oを含む。
【0015】
原料ガスがH2Oのみを含む場合、水素極6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2を生成する。
・水素極6:H2O+2e-→H2+O2-・・・(1)
【0016】
原料ガスがH2Oに加えてCO2を含む場合、水素極6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH2、CO及びO2-を生成する。
・水素極6:CO2+H2O+4e-→CO+H2+2O2-・・・(2)
・H2Oの電気化学反応:H2O+2e-→H2+O2-・・・(3)
・CO2の電気化学反応:CO2+2e-→CO+O2-・・・(4)
【0017】
水素極層6は、電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。水素極層6は、酸化物イオン伝導性を有していてよい。水素極層6は、例えば、8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、ガドリニウムドープセリア(GDC)、サマリウムドープセリア(SDC)、(La,Sr)(Cr,Mn)O3、(La,Sr)TiO3、Sr2(Fe,Mo)2O6、(La,Sr)VO3、(La,Sr)FeO3、及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料、或いは、これらのうち1つ以上とNiOとの複合物によって構成することができる。
【0018】
水素極層6の気孔率は特に制限されないが、例えば5%以上70%以下とすることができる。水素極層6の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0019】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0020】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される。電解質層7は、水素極層6の全体を覆う。本実施形態において、電解質層7は、水素極層6及び反応防止層8の間に配置され、水素極層6及び反応防止層8それぞれに接続される。
【0021】
電解質層7の外周部は、金属支持体20の第1主面20Sに接合される。これによって、水素極層6側と酸素極層9側との間の気密性を確保できるため、金属支持体20と電解質層7との間を別途封止する必要がない。なお、電解質層7の外周部とは、電解質層7のうち、金属支持体20の第1主面20Sに接続される部分である。
【0022】
図1に示すように、電解質層7は、第1端部71及び第2端部72を有する。第1及び第2端部71,72は、短手方向(X軸方向)における電解質層7の両端部である。第1及び第2端部71,72それぞれは、長手方向に沿って延びる。
【0023】
第1端部71は、電解質層7の外周部のうち、第1主面20Sの第1辺L1に沿って延びる部分である。第2端部72は、電解質層7の外周部のうち、第1主面20Sの第2辺L2に沿って延びる部分である。第1及び第2端部71,72の構成については後述する。
【0024】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9に伝達させる。電解質層7は酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層7は、例えば、8YSZ、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリニウムドープセリア)などによって構成することができる。
【0025】
電解質層7は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ(8YSZ)、GDC、ScSZ、SDC、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0026】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0027】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0028】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を介して水素極層6の反対側に配置される。本実施形態において、反応防止層8は、電解質層7に接続される。反応防止層8は、電解質層7と酸素極層9とが反応して電気抵抗の大きい反応層が形成されることを抑制する機能を有する。
【0029】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0030】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0031】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0032】
[酸素極層9]
酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解セル1が反応防止層8を備えているため、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解セル1が反応防止層8を備えていない場合、酸素極層9は電解質層7上に接続される。酸素極層9は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。
【0033】
酸素極層9は、下記(2)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からO2を生成する。
・酸素極層9:2O2-→O2+4e-・・・(2)
【0034】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O3、(La,Sr)FeO3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)CoO3、及び(Sm,Sr)CoO3のうち1つ以上と酸化物イオン伝導材料(GDCなど)との複合物によって構成することができる。
【0035】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0036】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0037】
[金属支持体20]
金属支持体20は、セル本体部10を支持する。金属支持体20は、板状に形成される。金属支持体20は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。金属支持体20は電解セル1の強度を保つことができればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0038】
金属支持体20は、複数の供給孔21、第1主面20S、及び第2主面20Tを有する。第1主面20Sは、本発明に係る「主面」の一例である。
【0039】
各供給孔21は、第1主面20Sから第2主面20Tまで金属支持体20を貫通する。各供給孔21は、第1主面20S及び第2主面20Tに開口する。各供給孔21は、第1主面20Sのうち水素極層6に接合される領域に形成される。各供給孔21は、金属支持体20と流路部材30との間に形成される流路30aに繋がる。
【0040】
各供給孔21は、機械加工(例えば、パンチング加工)、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。或いは、金属支持体20が多孔質金属によって構成される場合、各供給孔21は多孔質金属内の気孔であってよい。従って、各供給孔21は、第1主面20S及び第2主面20Tに垂直に形成されていなくてよい。
【0041】
第1主面20Sには、セル本体部10が接合される。第2主面20Tには、流路部材30が接合される。第1主面20Sは、第2主面20Tの反対側に設けられる。
【0042】
ここで、
図1には、第1主面20Sを規定する4辺が図示されている。第1主面20Sは、第1辺L1、第2辺L2、第3辺L3、及び第4辺L4によって規定される。第1主面20Sは、金属支持体20の外表面のうち、第1辺L1、第2辺L2、第3辺L3、及び第4辺L4によって囲まれた領域である。
【0043】
第1主面20Sの平面形状は、長手方向に延びる長方形である。第1辺L1と第2辺L2は、互いに平行である。第1及び第2辺L1,L2それぞれは、第1主面20Sの長辺である。第1及び第2辺L1,L2それぞれは、長手方向と平行である。第3辺L3と第4辺L4は、互いに平行である。第3及び第4辺L3,L4それぞれは、第1主面20Sの短辺である。第3及び第4辺L3,L4それぞれは、短手方向と平行である。なお、本明細書において、「平行」とは、厳密な意味で平行な場合だけでなく、実質的に平行(傾きが10度以内)といえる場合をも含む概念である。
【0044】
金属支持体20は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体20は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体20におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0045】
金属支持体20は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体20におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体20におけるZrの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体20は、TiをTiO2(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO2(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0046】
金属支持体20は、金属支持体20の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化皮膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化皮膜は、金属支持体20の表面を部分的又は全体的に覆う。また、酸化皮膜は、各供給孔21の内壁面を部分的又は全体的に覆っていてもよい。
【0047】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体20の第2主面20Tに接合される。流路部材30は、金属支持体20との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体20の各供給孔21を介して、セル本体部10の水素極層6に供給される。
【0048】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体20と同様の材料によって形成されていてよい。この場合、流路部材30は、金属支持体20と実質的に一体であってよい。
【0049】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体20の第2主面20Tに接合される。インターコネクタ32は、電解セル1を外部電源又は他の電解セルと電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0050】
このように、本実施形態に係る流路部材30では、枠体31及びインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31及びインターコネクタ32は一体であってよい。
【0051】
[電解質層7の第1端部71の構成]
次に、電解質層7の第1端部71の構成について説明する。
図3は、
図2の部分拡大図である。
【0052】
図3に示すように、第1端部71は、金属支持体20の第1主面20Sに接続される。第1端部71は、第1主面20Sの第1辺L1を覆う。すなわち、第1端部71は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出した領域を端まで覆っている。これによって、金属支持体20からの放熱を抑制できるため、電解セル1の保温性を向上させることができる。
【0053】
図3に示すように、第1端部71は、第1主面20Sと平行な短手方向において第1辺L1に近づくほど薄くなっている。詳細には、第1端部71は、第1辺L1を覆う先端部71aを有しており、先端部71aの厚みは、短手方向において第1辺L1に近づくに従って徐々に小さくなっている。これによって、先端部71aの外縁に損傷(角割れ、クラックなど)が生じることを抑制できる。
【0054】
ここで、平面形状が長方形である電解セル1は、短手方向に比べて長手方向において大きく熱伸縮する。そのため、電解質層7の外周部のうち長手方向に沿った部分には短手方向に沿った部分に比べて大きな熱応力がかかりやすい。従って、第1端部71の厚みを第1辺L1に近づくほど薄くすることによって、電解質層7のうち特に損傷しやすい部分を効果的に保護することができる。
【0055】
先端部71aは、電解質層7のうち第1基準線P1と第2基準線P2との間の部分である。第1基準線P1は、第1辺L1を通り、かつ、第1主面20Sに垂直な直線である。第2基準線P2は、第1基準線P1から4μm内側に位置し、かつ、第1基準線P1と平行な直線である。
【0056】
先端部71aの厚みとは、第1主面20Sに垂直な方向(Z軸方向)における先端部71aの高さを意味する。先端部71aの厚みは、第2基準線P2と交差する位置で最大値となり、第1基準線P1と交差する位置で最小値となる。先端部71aの厚みは、第1辺L1に近づくに従って連続的に小さくなっていてよく、或いは、第1辺L1に近づくに従って段階的に小さくなっていてよい。
【0057】
従って、
図3において、先端部71aの外表面は、第1主面20Sの反対側に向かって凸状に湾曲しているが、第1主面20S側に向かって凸状に湾曲していてよく、直線状であってよく、或いは、全体的又は部分的に屈曲していてよい。
【0058】
先端部71aの厚みが第1辺L1に近づくに従って徐々に小さくなっている限り、第1端部71のうち先端部71a以外の部分の厚みは特に限られない。先端部71a以外の部分の厚みは、実質的に均一であってよく、先端部71aに近づくほど小さくなっていてよく、或いは、先端部71aに近づくほど大きくなっていてよい。
【0059】
以上、
図3に示した一断面において、先端部71aの厚みが第1辺L1に近づくに従って徐々に小さくなっていることを説明した。
図3に示した構成は、先端部71aの全ての断面において観察されることが好ましいが、先端部71aの少なくとも一断面において観察できればよい。
図3に示した構成が一断面でも観察されるのであれば、少なくとも当該部分では電解セル1の保温性を向上させることができるとともに、当該部分の外縁に損傷が生じることを抑制できる。
【0060】
[電解質層7の第2端部72の構成]
次に、電解質層7の第2端部72の構成について説明する。
図4は、
図2の部分拡大図である。
【0061】
図4に示すように、第2端部72は、金属支持体20の第1主面20Sに接続される。第2端部72は、第1主面20Sの第2辺L2を覆う。すなわち、第2端部72は、第1主面20Sのうち水素極層6から露出した領域を端まで覆っている。これによって、金属支持体20からの放熱を抑制できるため、電解セル1の保温性を向上させることができる。
【0062】
図4に示すように、第2端部72は、第1主面20Sと平行な短手方向において第2辺L2に近づくほど薄くなっている。詳細には、第2端部72は、第2辺L2を覆う先端部72aを有しており、先端部72aの厚みは、短手方向において第2辺L2に近づくに従って徐々に小さくなっている。これによって、先端部72aの外縁に損傷(角割れ、クラックなど)が生じることを抑制できる。上述した第1端部71と同様、第2端部72には大きな熱応力がかかりやすいため、第2端部72の厚みを第2辺L2に近づくほど薄くすることによって、電解質層7のうち特に損傷しやすい部分を効果的に保護することができる。
【0063】
先端部72aは、電解質層7のうち第3基準線P3と第4基準線P4との間の部分である。第3基準線P3は、第2辺L2を通り、かつ、第1主面20Sに垂直な直線である。第4基準線P4は、第3基準線P3から4μm内側に位置し、かつ、第3基準線P3と平行な直線である。
【0064】
先端部72aの厚みとは、第1主面20Sに垂直な方向における先端部72aの高さを意味する。先端部72aの厚みは、第4基準線P4と交差する位置で最大値となり、第3基準線P3と交差する位置で最小値となる。先端部72aの厚みは、第2辺L2に近づくに従って連続的に小さくなっていてよく、或いは、第2辺L2に近づくに従って段階的に小さくなっていてよい。
【0065】
従って、
図4において、先端部72aの外表面は、第1主面20Sの反対側に向かって凸状に湾曲しているが、第1主面20S側に向かって凸状に湾曲していてよく、直線状であってよく、或いは、全体的又は部分的に屈曲していてよい。
【0066】
先端部72aの厚みが第2辺L2に近づくに従って徐々に小さくなっている限り、第2端部72のうち先端部72a以外の部分の厚みは特に限られない。先端部72a以外の部分の厚みは、実質的に均一であってよく、先端部72aに近づくほど小さくなっていてよく、或いは、先端部72aに近づくほど大きくなっていてよい。
【0067】
以上、
図4に示した一断面において、先端部72aの厚みが第2辺L2に近づくに従って徐々に小さくなっていることを説明した。
図4に示した構成は、先端部72aの全ての断面において観察されることが好ましいが、先端部72aの少なくとも一断面において観察できればよい。
図4に示した構成が一断面でも観察されるのであれば、少なくとも当該部分では電解セル1の保温性を向上させることができるとともに、当該部分の外縁に損傷が生じることを抑制できる。
【0068】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0069】
[変形例1]
上記実施形態において、電解セル1は、平面視において長手方向に延びる長方形に形成されることとしたが、これに限られない。電解セル1は、平面視において正方形に形成されていてよく、或いは、平面視において短手方向に延びる長方形に形成されていてよい。
【0070】
[変形例2]
上記実施形態において、金属支持体20の第1主面20Sの平面形状は、長手方向に延びる長方形であることとしたが、これに限られない。金属支持体20の第1主面20Sの平面形状は、正方形であってよく、或いは、短手方向に延びる長方形であってよい。
【0071】
[変形例3]
電解質層7の外周部のうち短手方向に沿って延びる第3及び第4端部73,74(
図1参照)は、第1及び第2端部71,72と同じ構成であってよく、或いは、第1及び第2端部71,72と異なる構成であってよい。第3及び第4端部73,74それぞれが第1及び第2端部71,72と同じ構成である場合には、電解セル1の保温性を更に向上させることができるとともに、電解質層7の外縁に損傷が生じることを更に抑制できる。
【0072】
[変形例4]
図5に示すように、電解質層7の第1端部71は、突出部71bを有していてもよい。突出部71bは、第1端部71のうち金属支持体20の第1主面20Sの外側にはみ出た部分である。すなわち、突出部71bは、第1端部71のうち第1基準線P1より外側(第2基準線P2の反対側)に位置する部分である。突出部71bは、先端部71aに連なる。突出部71bは、先端部71aと一体である。
【0073】
また、
図5に示すように、突出部71bは、金属支持体20の側面20Uのうち少なくとも一部を覆っていることが好ましい。これによって、側面20Uを突出部71bで被覆できるため、金属支持体20からの放熱をさらに抑制することができる。
【0074】
なお、第1端部71が突出部71bを有する場合であっても、第1端部71の先端部71aは、第1及び第2基準線P1,P2によって規定される。また、図示しないが、電解質層7の第2端部72も突出部を有していてもよい。
【0075】
[変形例5]
上記実施形態において、水素極層6はカソードとして機能し、酸素極層9はアノードとして機能することとしたが、水素極層6がアノードとして機能し、酸素極層9がカソードとして機能してもよい。この場合、水素極層6と酸素極層9の構成材料を入れ替えるとともに、水素極層6の外表面に原料ガスを流す。
【0076】
[変形例6]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル1について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 セル
6 水素極層
7 電解質層
71 第1端部
71a 先端部
71b 突出部
72 第2端部
72a 先端部
73 第3端部
74 第4端部
8 反応防止層
9 酸素極層
10 セル本体部
20 金属支持体
20S 第1主面
21 供給孔
30 流路部材
30a 流路
L1~L4 第1乃至第4辺
P1~P4 第1乃至第4基準線