(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】ブラックマスから二次電池素材を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20241028BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20241028BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20241028BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20241028BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241028BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20241028BHJP
C01D 15/02 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B26/12
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/44 101Z
C22B3/20
C01D15/02
(21)【出願番号】P 2023545250
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 KR2023004018
(87)【国際公開番号】W WO2023191414
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】10-2022-0040519
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519197594
【氏名又は名称】高麗亞鉛株式会社
【氏名又は名称原語表記】KOREA ZINC CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】523282235
【氏名又は名称】ケムコ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】チェ,チャン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ ジュン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-521327(JP,A)
【文献】特開2012-106874(JP,A)
【文献】特開2014-103004(JP,A)
【文献】特表2021-512215(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0170763(US,A1)
【文献】特開2020-072032(JP,A)
【文献】特開2021-172537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素雰囲気でブラックマスを焼成する焼成工程(S10)と、
前記焼成工程(S10)から焼成された、焼成されたブラックマスを水で浸出してリチウム(Li)溶液とケーキに分離する先抽出工程(S20)と、
前記先抽出工程(S20)で生成されたリチウム(Li)溶液を蒸発濃縮して炭酸リチウム(Li2CO3)結晶を製造する第1蒸発濃縮工程(S30)と、
前記先抽出工程(S20)で分離されたケーキを
硫酸及び過酸化水素で浸出する浸出工程(S40)と、
前記浸出工程(S40)により生成された浸出溶液から銅及びアルミニウムを除去する第1浄液工程(S50)と、
前記第1浄液工程(S50)からの溶液を中和してリチウム(Li)溶液とNi、Co、及びMnを含むケーキ(NCMケーキ)に分離する後抽出工程(S60)と、
前記第1蒸発濃縮工程(S30)により生成された炭酸リチウム(Li
2CO
3)結晶と前記後抽出工程(S60)により生成されたリチウム(Li)溶液を
、炭酸リチウム(Li
2
CO
3
)結晶とリチウム(Li)溶液とを用いて水酸化リチウム(LiOH)を製造する水酸化リチウム(LiOH)製造工程に移送する移送工程と、を含
み、
前記水酸化リチウム(LiOH)製造工程は、
前記後抽出工程(S60)により生成されたリチウム(Li)溶液にリン酸(H
3
PO
4
)及び水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してリン酸リチウム(Li
3
PO
4
)ケーキを生成するリン酸塩沈殿工程(S70)と、
前記第1蒸発濃縮工程(S
3
0)により生成された炭酸リチウム(Li2CO3)結晶と、前記リン酸塩沈殿工程(S70)のリン酸リチウム(Li
3
PO
4
)ケーキを硫酸で浸出して硫酸リチウム(Li
2
SO
4
)溶液を製造する硫酸塩製造工程(S80)と、
前記硫酸塩製造工程(S80)で生成された硫酸リチウム(Li
2
SO
4
)に炭酸ナトリウム(Na
2
CO
3
)を投入して炭酸リチウム(Li
2
CO
3
)を沈殿させる炭酸塩沈殿工程(S90)と、
前記炭酸リチウム(Li
2
CO
3
)に酸化カルシウム(CaO)及び水を投入して水酸化リチウム(LiOH)溶液を製造する水酸化塩製造工程(S100)と、
前記水酸化塩製造工程(S100)で生成された水酸化リチウム(LiOH)溶液を蒸発濃縮する第2蒸発濃縮工程(S110)と、を含む、ブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【請求項2】
前記後抽出工程(S60)で生成されたNCMケーキを硫酸で浸出し、
pHが1.5~2.5であり、Ni、Co、及びMnを含む溶液(NCM溶液)を製造する弱酸浸出工程(S120)と、
前記弱酸浸出工程(S120)で生成されたNCM溶液から不純物を除去する第2浄液工程(S130)と、
前記第2浄液工程(S130)を経たNCM溶液を
二次電池の前駆体原料を生産する工場に送液する工程(S140)と、をさらに含む、請求項
1に記載のブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【請求項3】
前記後抽出工程(S60)で生成されたNCMケーキを2回以上リパルプして残留ナトリウム塩を除去する工程をさらに含む、請求項
2に記載のブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【請求項4】
前記第1浄液工程(S50)は硫化水素ナトリウム(NaHS)を投入して銅(Cu)を除去し、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してアルミニウム(Al)を除去する工程を含む、請求項
1に記載のブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【請求項5】
前記硫酸塩製造工程(S80)で生成された硫酸リチウム(Li
2SO
4)溶液を蒸発濃縮して硫酸リチウム(Li
2SO
4)結晶とリン酸(H
3PO
4)ろ液に分離する工程をさらに含む、請求項
1に記載のブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【請求項6】
前記炭酸塩沈殿工程(S90)で生成された炭酸リチウム(Li
2CO
3)ケーキのうち残留ナトリウム塩を除去するためのリパルプ工程をさらに含む、請求項
1に記載のブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【請求項7】
前記硫酸塩製造工程(S80)で溶液に硫酸アルミニウム(Al
2(SO
4)
3)を投入して不純物を除去する工程をさらに含む、請求項
1に記載のブラックマスから二次電池素材を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池スクラップから回収されたブラックマス(Black Mass)からリチウム及び二次電池の前駆体原料(ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn))などの二次電池素材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池スクラップから回収されたブラックマスに含まれているリチウムを回収するための研究が持続的になされている。ブラックマスを還元焼成して過酸化形態のリチウムを炭酸リチウムに変形させ、リチウム水溶液に分配して抽出する先抽出方法またはブラックマスを複合硫酸塩溶液で浸出して後段工程でリチウムを分離して抽出する後抽出方法などが用いられている。
【0003】
先抽出方法は、ブラックマスを窒素雰囲気で還元焼成してブラックマスに含まれたリチウムを炭酸リチウムに還元させた後、水浸出工程で回収するので、不純物濃度が非常に低く、高純度の炭酸リチウムを回収することができる。しかし、リチウム還元率が制限的であるため、リチウム回収率が約85%に留まる。
【0004】
後抽出方法は、ブラックマスを複合硫酸塩溶液で抽出した後にリチウムを分離するので、工程を比較的単純化させることができる。しかし、様々な不純物除去工程を経て発生する工程副産物によるリチウム廃棄率が高く、リチウム回収率は約80%に留まる。
【0005】
また、ブラックマスを硫酸溶液に抽出時に投入される過酸化水素のような副原料がブラックマスの焼成の有無によってその量が2倍以上差が出る問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ブラックマスからリチウムを先抽出する工程及び後抽出する工程による問題点を解決し、リチウム及び二次電池前駆体金属の回収率を向上させることを解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、ブラックマスを焼成する焼成工程(S10)と、前記焼成工程(S10)から焼成された、焼成されたブラックマスを水で溶解してリチウム(Li)溶液とケーキに分離する先抽出工程(S20)と、前記先抽出工程(S20)で生成されたリチウム(Li)溶液を蒸発濃縮して炭酸リチウム(Li2CO3)結晶を製造する第1蒸発濃縮工程(S30)と、前記先抽出工程(S20)で分離されたケーキを浸出する浸出工程(S40)と、前記浸出工程(S40)により生成された浸出溶液から銅及びアルミニウムを除去する第1浄液工程(S50)と、前記第1浄液工程(S50)からの溶液を中和してリチウム(Li)溶液とNi、Co、及びMnを含むケーキ(NCMケーキ)に分離する後抽出工程(S60)と、前記第1蒸発濃縮工程(S30)により生成された炭酸リチウム(Li2CO3)結晶と前記後抽出工程(S60)により分離されたリチウム(Li)溶液を水酸化リチウム(LiOH)製造工程に移送する移送工程とを含んでいる。
【0008】
本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、前記後抽出工程(S60)により分離されたリチウム(Li)溶液にリン酸(H3PO4)及び水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してリン酸リチウム(Li3PO4)ケーキを生成するリン酸塩沈殿工程(S70)と、前記第1蒸発濃縮工程(S30)により生成された炭酸リチウム(Li2CO3)結晶と前記リン酸塩沈殿工程(S70)のリン酸リチウム(Li3PO4)ケーキを硫酸で溶解して硫酸リチウム(Li2SO4)溶液を製造する硫酸塩製造工程(S80)と、前記硫酸塩製造工程(S80)で生成された硫酸リチウム(Li2SO4)に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を投入して炭酸リチウム(Li2CO3)を沈殿させる炭酸塩沈殿工程(S90)と、前記炭酸リチウム(Li2CO3)に酸化カルシウム(CaO)及び水を投入して水酸化リチウム(LiOH)溶液を製造する水酸化塩製造工程(S100)と、前記水酸化塩製造工程(S100)で生成された水酸化リチウム(LiOH)溶液を蒸発濃縮する第2蒸発濃縮工程(S110)とをさらに含んでいる。
【0009】
本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、前記後抽出工程(S60)で生成されたNCMケーキを硫酸で溶解し、Ni、Co、及びMnを含む溶液(NCM溶液)を製造する弱酸浸出工程(S120)と、前記弱酸浸出工程(S120)で生成されたNCM溶液から不純物を除去する第2浄液工程(S130)と、前記第2浄液工程(S130)を経たNCM溶液を、例えば、前駆体原料を生産する工場や施設に送液する工程(S140)とをさらに含んでいる。
【0010】
本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、前記後抽出工程(S60)で生成されたNCMケーキを2回以上リパルプして残留ナトリウム塩を除去する工程をさらに含んでいる。
【0011】
前記第1浄液工程(S50)は硫化水素ナトリウム(NaHS)を投入して銅(Cu)を除去し、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してアルミニウム(Al)を除去する工程を含んでいる。
【0012】
本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、前記硫酸塩製造工程(S80)で生成された硫酸リチウム(Li2SO4)溶液を蒸発濃縮して硫酸リチウム(Li2SO4)結晶とリン酸(H3PO4)ろ液に分離する工程をさらに含んでいる。
【0013】
本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、前記炭酸塩沈殿工程(S90)で生成された炭酸リチウム(Li2CO3)ケーキのうち残留ナトリウム塩を除去するためのリパルプ工程をさらに含んでいる。
【0014】
本発明の一実施例によるブラックマスから二次電池素材を製造する方法は、前記硫酸塩製造工程(S80)で溶液に硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)を投入して不純物を除去する工程をさらに含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、二次電池から回収したブラックマスを利用して高収率工程を通じてリチウム(Li)の回収率は92%以上を達成することができ、二次電池の原料であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)の回収率は95%以上を達成することができる。また、多量のバッテリー副産物をリサイクル処理して環境汚染問題を減らすことができる効果がある。
【0016】
本発明によれば、リチウム先抽出のために還元焼成をする過程を通じて硫酸浸出時に投入される副原料の使用量が減る効果がある。
【0017】
本発明によれば、浄液工程の回数とpHを調節することにより高純度のNCM複合硫酸塩溶液を製造するための濃度まで不純物を除去することができる。
【0018】
本発明によれば、乾式工程である先抽出工程と湿式工程である後抽出工程を混合構成することによって、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)等の有価金属の回収率を向上させ、ブラックマスからリチウム(Li)を効果的に分離することができる。
【0019】
本発明によれば、不純物含量の高い後抽出工程のリチウム(Li)溶液からリチウムを回収する工程と、相対的に不純物含量の低い先抽出工程のリチウム(Li)溶液を蒸発濃縮後に炭酸リチウム(Li2CO3)として回収する工程を分離して別途の精製工程で運営することで、リチウム精製工程におけるリチウムの損失を減らし、加工費を節減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ブラックマスから先抽出工程及び後抽出工程を経て製造されたリチウム(Li)を水酸化リチウム(LiOH)製造工程に移送する工程図である。
【
図2】高純度水酸化リチウム(LiOH)を製造する工程図である。
【
図3】高純度NCM(Ni、Co、Mn)溶液を製造する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。
【0022】
図1は、ブラックマスから先抽出工程及び後抽出工程を経て製造されたリチウム(Li)を水酸化リチウム(LiOH)製造工程に移送する工程図である。
【0023】
[焼成工程(S10)]
焼成炉にブラックマスを投入して窒素(N2)雰囲気、800~900℃で1~3時間還元焼成する工程である。炉内の反応式は、下記(式1)の通りである。
【0024】
2Li(NCM)O2+2CO→Li2CO3+NCM+(NCM)O+CO2…(式1)
【0025】
非活性気体である窒素雰囲気でブラックマスを焼成することによって、リチウム(Li)を水に溶けることができる形態に転換させることができる。リチウム先抽出のためにブラックマスを還元焼成する過程で、一部高酸化物(Me2O3、Me=Ni、Co、Mn)が低酸化物(MeO、Me=Ni、Co、Mn)に還元されて硫酸浸出時に投入される副原料(H2O2、過酸化水素)の使用量が減る。
【0026】
[先抽出工程(S20)]
焼成工程(S10)で還元焼成された、焼成されたブラックマスに水を添加して20~30℃で1~3時間リチウム(Li)を浸出して分離する工程であり、炭酸リチウム(Li2CO3)溶液が製造される。還元焼成されたブラックマスから総リチウム(Li)の65%以上を水を用いて分離して得ることができる。
【0027】
先抽出工程(S20)を通じて、後の工程であるリン酸塩沈殿工程(S70)の運転費用及び副原料費を節減することができ、高純度水酸化リチウム(LiOH)製造工程への不純物の混入を最小化し、水酸化リチウム(LiOH)製造工程の加工費を節減することができる。
【0028】
[第1蒸発濃縮工程(S30)]
前記先抽出工程(S20)のろ液を蒸発濃縮して炭酸リチウム(Li2CO3)結晶を製造する工程である。
【0029】
[浸出工程(S40)]
【0030】
前記先抽出工程(S20)でリチウムを先抽出して生成されたケーキを硫酸(H2SO4)及び過酸化水素(H2O2)で80~85℃で8時間還元浸出させる工程であり、反応式は次の通りである。
【0031】
MeO+H2SO4→MeSO4+H2O [Me=Ni/Co/Mn]…(式2)
【0032】
Me2O3+2H2SO4+H2O2→2MeSO4+2H2O+O2…(式3)
【0033】
Me+H2SO4→MeSO4+H2 [Me=Ni/Co/Mn]…(式4)
【0034】
先抽出工程(S20)を通じてリチウム(Li)が先抽出されたケーキからニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)を浸出する場合、副原料の使用量を最小化し、連続工程における安定した工程管理が可能である。
【0035】
[第1浄液工程(S50)]
複雑な設備構成、環境的リスク、高い加工費が必要な溶媒抽出(Solvent Extraction)と対比して簡単な沈殿反応だけで浸出工程(S40)で製造された浸出溶液(硫酸塩溶液)中の銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)等の不純物を除去できるように構成された1次浄液工程であり、不純物の除去効率を向上させる。
【0036】
脱銅(Cu)工程は、硫化水素ナトリウム(NaHS)を投入(1.2eq)して60~80℃で4時間反応させて液中のCuをCuSに沈殿除去する工程であり、反応式は次(式5)の通りである。ここで、単位eqは当量を意味するもので、化学反応において物質の量的関係を根拠として各元素または化合物ごとに割り当てられた一定量を意味する。
【0037】
2CuSO4+2NaHS→2CuS↓+Na2SO4+H2SO4…(式5)
【0038】
脱アルミニウム(Al)工程は、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入(pH 4.0)して70~85℃で8時間反応させてアルミニウム(Al)をAl(OH)3に沈殿除去する工程であり、反応式は次(式6)の通りである。
【0039】
Al2(SO4)3+6NaOH→2Al(OH)3↓+3Na2SO4…(式6)
【0040】
アルミニウム(Al)がAl(OH)3に沈殿する過程でFe及びSiの一部が共沈除去される。
【0041】
[後抽出工程(S60)]
前記第1浄液工程(S50)のろ液を水酸化ナトリウム(NaOH)で中和(pH 10~12)して70~85℃で4時間反応させてニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)は沈殿回収し、リチウム(Li)はろ液に分配されて分離される工程である。後抽出工程(S60)でニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)の沈殿率は99.9%以上である。
【0042】
濾過されたNCMケーキを2回以上リパルプ(Repulping)して残留ナトリウム塩(Na Salt)を除去する。ケーキ中のナトリウム(Na)の品位は3.43%→0.4%まで除去される。
【0043】
図2は、高純度水酸化リチウム(LiOH)を製造する工程図である。
【0044】
高純度水酸化リチウム(LiOH)製造工程は、前述した先抽出工程(S20)及び第1蒸発濃縮工程(S30)を通じて回収した炭酸リチウム(Li2CO3)、及び後抽出工程(S60)を通じて分離回収したリチウム溶液から沈殿製造されたリン酸リチウム(Li3PO4)に硫酸を添加して硫酸リチウム(Li2SO4)を製造し、硫酸リチウムに炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加して炭酸リチウム(Li2CO3)を製造した後、炭酸リチウム(Li2CO3)に酸化カルシウム(CaO)を添加して水酸化リチウム(LiOH)溶液を製造及び蒸発濃縮する工程で構成され、リチウム回収率に優れた高純度炭酸リチウム(Li2CO3)及び高純度水酸化リチウム(LiOH・H2O)を製造する工程である。具体的な高純度水酸化リチウム(LiOH)製造工程は、下記の通りである。
【0045】
[第1蒸発濃縮工程(S30)]
前述した通り、先抽出工程(S20)のろ液を蒸発濃縮して炭酸リチウム(Li2CO3)結晶を製造する工程である。
【0046】
[リン酸塩沈殿工程(S70)]
後抽出工程(S60)で生成されたリチウム(Li)溶液にリン酸(H3PO4)を投入(1.2eq)して70~85℃で2時間反応させてリチウム(Li)をリン酸リチウム(Li3PO4)の形態に沈殿回収する工程である。水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してpH 10.0~12.0に中和し、反応式は次の通りである。
【0047】
3Li2SO4+2H3PO4→2Li3PO4↓+3H2SO4…(式7)
【0048】
Li2CO3+H3PO4→Li3PO4↓+H2O+CO2…(式8)
【0049】
H2SO4+2NaOH→Na2SO4+2H2O…(式9)
【0050】
リン酸リチウム(Li3PO4)は、炭酸リチウム(Li2CO3)に比べて溶解度が低いため、リチウム(Li)沈殿回収率(94.0%)が高い(リン酸リチウム(Li3PO4)の溶解度はLi 0.07g/L、25℃であり、炭酸リチウム(Li2CO3)の溶解度はLi 2.4g/L、25℃である)。リン酸塩沈殿工程(S70)のろ液のうちリチウム(Li)の濃度は0.1g/Lであり、リチウム損失は6.0%である。
【0051】
好ましくは、リン酸塩沈殿工程(S70)のろ液を浄水処理するためにP(0.5g/l)を除去するための工程(脱リン(P)工程)が必要なこともある。前記脱リン工程は50~70℃、pH 5.5~6.5で4時間反応させることができる。その反応式は次の通りである。
【0052】
Al2(SO4)3+2H3PO4→2AlPO4+3H2SO4…(式10)
【0053】
[硫酸塩製造工程(S80)]
リン酸塩沈殿工程(S70)で生成されたリン酸リチウム(Li3PO4)を含むケーキ及び第1蒸発濃縮工程(S30)で生成された炭酸リチウム(Li2CO3)結晶を硫酸に浸出して硫酸リチウム(Li2SO4)溶液(Li 35g/l)を製造する工程である。このとき、温度は60~80℃であり、反応時間は2時間でpHは2.0以下である。反応式は次の通りである。
【0054】
2Li3PO4+3H2SO4→3Li2SO4+2H3PO4…(式11)
【0055】
Li2CO3+H2SO4→Li2SO4+H2O+CO2…(式12)
【0056】
リチウム(Li)先抽出工程(S20)から製造された溶液(炭酸リチウム(Li2CO3)溶液)を蒸発濃縮して回収された炭酸リチウム(Li2CO3)を硫酸塩製造工程(S80)に投入する。
【0057】
前記炭酸リチウム(Li2CO3)はリン酸塩沈殿工程(S70)を経ないので、リン酸(H3PO4)及び水酸化ナトリウム(NaOH)の使用量が40%以上節減され、リン酸塩沈殿工程(S70)のろ液に分配されるリチウム(Li)の損失が大きく減る。
【0058】
好ましくは、前記硫酸塩製造工程(S80)で製造された硫酸リチウム(Li2SO4)溶液を蒸発濃縮して硫酸リチウム(Li2SO4)結晶とリン酸(H3PO4)ろ液に分離することができる。リン酸(H3PO4)ろ液はリン酸塩沈殿工程(S70)でリサイクルしてリチウム沈殿副原料として用いられ得る。前記蒸発濃縮工程で発生した蒸発凝縮水をリチウム(Li)先抽出工程の工程液としてリサイクルすることができる。これを通じて、系外への廃液発生量の減少及び系内新水流入量を減少させることができる。
【0059】
[炭酸塩沈殿工程(S90)]
硫酸塩製造工程(S80)で製造された硫酸リチウム(Li2SO4)に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を投入して80~85℃で4時間反応させて炭酸リチウム(Li2CO3)を沈殿させる工程である。反応式は次の通りである。
【0060】
Li2SO4+Na2CO3→Li2CO3↓+Na2SO4…(式13)
【0061】
好ましくは、炭酸塩沈殿工程(S90)のケーキのうち残留ナトリウム(Na)塩の除去のためにリパルプ(Repulping)工程を行うことができる。リチウム(Li)の損失を最小化するために80℃(Li 1.6g/L)でリパルプする。炭酸塩沈殿工程(S90)のろ液(Li 1.6g/L)はリン酸塩沈殿工程(S70)でリサイクルされる。
【0062】
好ましくは、炭酸リチウム(Li2CO3)を沈殿させる前に、脱リン(P)工程を通じて硫酸塩製造工程(S80)の溶液中の不純物(P、Fe等)を除去することができる。硫酸塩製造工程(S80)で製造された溶液に硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)を投入してpH 5.0~6.0に調節し50~70℃で4時間反応させることで、大部分のリン(P)を沈殿除去することができ、鉄(Fe)及びその他の不純物も共沈除去することができる。反応式は次の通りである。
【0063】
Al2(SO4)3+2H3PO4→2AlPO4+3H2SO4…(式14)
【0064】
[水酸化塩製造工程(S100)]
炭酸塩沈殿工程(S90)で製造された炭酸リチウム(Li2CO3)ケーキに酸化カルシウム(CaO)及び水を投入し70~80℃で2時間反応させ、水酸化リチウム(LiOH)溶液に転換する工程である。反応式は次の通りである。
【0065】
Li2CO3(s)+CaO(s)+H2O→2LiOH(aq)+CaCO3(s)…(式15)
【0066】
溶液中、リチウム(Li)の濃度が最大10g/Lの条件で水酸化リチウム(LiOH)への転換率は95%以上である。
【0067】
好ましくは、水酸化塩製造工程(S100)を2回実施することができる。
【0068】
好ましくは、水酸化塩製造工程(S100)で生成された炭酸カルシウム(CaCO3)残渣中に内在したリチウム(Li)の回収のためのリパルプ工程を行うことができる。
【0069】
[第2蒸発濃縮工程(S110)]
水酸化塩製造工程(S100)で製造された水酸化リチウム(LiOH)溶液を窒素(N
2)雰囲気で蒸発濃縮してLiOH・H
2O製品を製造する工程である。LiOH・H
2O製造工程までのリチウム(Li)の総回収率は92%以上である。
図3は、高純度NCM(Ni、Co、Mn)溶液を製造する工程図であり、後抽出工程(S60)で生成されたケーキを硫酸浸出及び精製して、NCM溶液を製造する工程に関するものである。
【0070】
第1浄液工程(S50)でpH 4までpHを段階的に上げ一次的に不純物を除去した後、第2浄液工程(S130)でpH 5に調節して高純度NCM複合硫酸塩溶液を製造するための濃度まで不純物を除去することができる。第2浄液工程(S130)の残渣は、浸出工程(S40)で再使用することで工程副産物として分配される有価金属(Ni、Co、Mn及びLi)を最小限にして回収率を増加させることができる。具体的な工程は下記の通りである。
【0071】
[弱酸浸出工程(S120)]
後抽出工程(S60)でリチウム(Li)が分離されたNCMケーキを60~80℃で4時間硫酸(H2SO4)に浸出(pH 1.5~2.5)する。NCMケーキの溶解率向上のために少量の還元剤を投入することができ、このとき、還元剤は過酸化水素(H2O2)を用いる。
【0072】
[第2浄液工程(S130)]
前記弱酸浸出工程(S120)により製造されたNCM溶液中に含まれた銅(Cu)とアルミニウム(Al)をそれぞれ5mg/L以下まで除去する2次精製工程である。脱銅工程は、硫化水素ナトリウム(NaHS) 1.2eqを投入して60~80℃で4時間反応させる。脱アルミニウム工程ではpH 4.0~5.5、温度70~85℃で8時間反応させる。
【0073】
[NCM溶液送液工程(S140)]
第2浄液工程(S130)を通じて銅及びアルミニウムが除去されたNCM溶液は、例えば、前駆体原料を生産する工場または施設に送液されて組成ごとに製造される。
【0074】
[実施例]
本実施例においては、前述した工程を通じてLiOH・H2O製品とNCM溶液を製造した。各工程による詳細条件は、下記の通りである。
【0075】
焼成工程(S10)-焼成炉温度900℃、窒素(N2)雰囲気で2時間焼成を行った。
【0076】
先抽出工程(S20)-焼成工程(S10)で還元焼成された、焼成されたブラックマスに25℃の水を添加し、2時間浸出を行った。
【0077】
第1蒸発濃縮工程(S30)-先抽出工程(S20)のろ液を蒸発濃縮した。
【0078】
浸出工程(S40)-先抽出工程(S20)でリチウムを先抽出して生成されたケーキに硫酸及び60%の過酸化水素(H2O2)を投入してろ液のうちニッケル(Ni)濃度100g/L、最終pH 3.0基準として80℃の温度で8時間浸出を行った。過酸化水素(H2O2)の量はケーキ原料の5wt%を投入した。
【0079】
第1浄液工程(S50)-浸出工程(S40)で製造された浸出溶液に30%の硫化水素ナトリウム(NaHS)を1.2eq投入し、70℃の温度で4時間脱銅(Cu)工程を行った。その後、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入(pH 4.0)し、85℃の温度で8時間脱アルミニウム(Al)工程を行った。
【0080】
後抽出工程(S60)-第1浄液工程(S50)のろ液に水酸化ナトリウム(NaOH)を投入し、pHを11.0に調節し、85℃の温度で4時間分離工程を行った。
【0081】
リン酸塩沈殿工程(S70)-後抽出工程(S60)で生成されたリチウム(Li)溶液に85%リン酸(H3PO4)を1.2eq投入し、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してpHを11.0に調節した。70℃の温度条件で2時間沈殿工程を行った。また、沈殿工程で生成されたろ液を浄水処理するために硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)を1.5eq投入し、pH 6.0、60℃の温度条件で4時間脱リン(P)工程を行った。
【0082】
硫酸塩製造工程(S80)-リン酸塩沈殿工程(S70)で生成されたリン酸リチウム(Li3PO4)を含むケーキ及び第1蒸発濃縮工程(S30)で生成された炭酸リチウム(Li2CO3)結晶にリチウム(Li)濃度35g/Lを基準に硫酸を1.1eq投入し、pH<2.0の条件で2時間行った。また、硫酸塩製造工程(S80)で製造された硫酸リチウム(Li2SO4)溶液を蒸発濃縮して、硫酸リチウム(Li2SO4)結晶とリン酸(H3PO4)ろ液に分離した。
【0083】
炭酸塩沈殿工程(S90)-硫酸塩製造工程(S80)で製造された硫酸リチウム(Li2SO4)に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を1.2eq投入し、85℃の温度で4時間沈殿工程を行った。
【0084】
水酸化塩製造工程(S100)-炭酸塩沈殿工程(S90)で製造された炭酸リチウム(Li2CO3)ケーキに酸化カルシウム(CaO) 1.05eq及び水を投入し、70℃の温度で2時間行った。
【0085】
第2蒸発濃縮工程(S110)-水酸化塩製造工程(S100)で製造された水酸化リチウム(LiOH)溶液を窒素(N2)雰囲気で蒸発濃縮した。
【0086】
弱酸浸出工程(S120)-後抽出工程(S60)でリチウム(Li)が分離されたNCMケーキに硫酸(H2SO4) 1.0eq及び60%の過酸化水素(H2O2)をNCMケーキの5wt%ほど投入して浸出工程を行った。
【0087】
第2浄液工程(S130)-弱酸浸出工程(S120)により製造されたNCM溶液に30%の硫化水素ナトリウム(NaHS)を1.2eq投入し、60℃の温度で4時間脱銅(Cu)工程を行った。その後、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してpHを5.0に調節し、85℃の温度で8時間脱アルミニウム(Al)工程を行った。
【0088】
本実施例により工程を行った結果、ブラックマスに含まれたリチウム(Li)量の92%に該当する水酸化リチウム(LiOH)を回収することができ、これは従来の先抽出方法を通じたリチウム回収率(85%)及び後抽出方法を通じたリチウム回収率(80%)に比べて高い回収率である。
【0089】
また、本実施例により工程を行った結果、ブラックマスに含まれたニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)の95%を回収することができた。
【0090】
本明細書では、本発明を一部実施例と関連して説明したが、本発明の属する技術分野の通常の技術者が理解できる本発明の思想及び範囲を逸脱しない範囲で多様な変形及び変更がなされ得るという点を理解すべきである。また、そのような変形及び変更は、本明細書に添付の特許請求の範囲内に属するものであると考えられるべきである。