(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】パネル式支保工、支保構造およびトンネル施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/40 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
E21D11/40 A
(21)【出願番号】P 2022516936
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2021014580
(87)【国際公開番号】W WO2021215235
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020074827
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507011611
【氏名又は名称】株式会社進富
(73)【特許権者】
【識別番号】516152952
【氏名又は名称】構法開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 克則
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-159298(JP,A)
【文献】特開2008-144505(JP,A)
【文献】特開2003-082991(JP,A)
【文献】実開昭57-038900(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に配設された一対の支保部材と、
前記支保部材同士を連結するつなぎ鋼材と、を備えるパネル式支保工であって、
前記支保部材は、一対のフランジと一対の前記フランジを連結するウェブとにより断面コ字状を呈しており、
一対の前記支保部材は、前記フランジの先端同士が対向するように設けられてい
て、
切羽側に設けられる前記支保部材の下端に、ガイドピンが立設された底板が固定されており、
坑口側に設けられる前記支保部材の下端に、貫通孔が形成された底板が固定されていることを特徴とする、パネル式支保工。
【請求項2】
前後に配設された一対の支保部材と、
前記支保部材同士を連結するつなぎ鋼材と、を備えるパネル式支保工であって、
前記支保部材は、一対のフランジと一対の前記フランジを連結するウェブとにより断面コ字状を呈しており、
一対の前記支保部材は、前記フランジの先端同士が対向するように設けられてい
て、
切羽側に設けられる前記支保部材に、切羽側に突出する受金具が設けられていることを特徴とする、パネル式支保工。
【請求項3】
前記支保部材が、地山等級に応じた支保パターンにより設定された鋼製支保工の断面積の1/2以上の断面積と、前記鋼製支保工の断面係数の1/2以上の断面係数を有していることを特徴とする、請求項1
または請求項2に記載のパネル式支保工。
【請求項4】
前記支保部材同士の間において、前記支保部材の周方向に沿って設けられた金網を備えていることを特徴とする、請求項1
乃至請求項3のいずれか1項に記載のパネル式支保工。
【請求項5】
一対の前記支保部材のうちの少なくとも一方の前記ウェブに、他方の前記支保部材の反対側に突出する複数のスタッド材を備えていることを特徴とする、請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載のパネル式支保工。
【請求項6】
前記つなぎ鋼材に、エレクターにより把持可能な把手が固定されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項
5のいずれか1項に記載のパネル式支保工。
【請求項7】
パネル式支保工同士をトンネル周方向に連結することにより形成されたアーチ状の支保構造であって、
前記パネル式支保工は、前後に配設された一対の支保部材と、前記支保部材同士を連結するつなぎ鋼材と、を備え、
前記支保部材は、一対のフランジと一対の前記フランジを連結するウェブとにより断面コ字状を呈しており、
一対の前記支保部材は、前記フランジの先端同士が対向するように設けられていて、
一方の前記パネル式支保工の前記支保部材の上端の継手板から、先端に接合ピンが設けられたジョイナーが突設されており、
他方の前記パネル式支保工の前記支保部材の上端部に、前記ジョイナーを挿通する開口を有した継手板を備えているとともに、前記接合ピンを係合可能なスチフナが固定されていることを特徴とする、支保構造。
【請求項8】
地山を掘削する掘削工程と、
地山を掘削することにより露出した地山面に沿って支保工を形成する支保工程と、を備えるトンネル施工方法であって、
前記支保工程は、請求項1乃至請求項
6のいずれか1項に記載のパネル式支保工を建て込む建込作業と、
前記地山面に向けて吹付けコンクリートを吹き付ける吹付け作業と、を備えており、
前記建込作業では、既設の前記パネル式支保工の切羽側の支保部材のウェブに、新設の前記パネル式支保工の坑口側の支保部材のウェブを並設させた状態で、前記パネル式支保工を設置することを特徴とする、トンネル施工方法。
【請求項9】
前記建込作業において、左右一対の前記パネル式支保工同士を上端部において連結することによりアーチ状に形成することを特徴とする、請求項
8に記載のトンネル施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル式支保工、支保構造およびこれを利用したトンネル施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NATMによるトンネル施工では、トンネルの掘削により露出した地山面を、支保工により早期に閉塞する。トンネルの支保工には、地山面に吹き付けられた吹付けコンクリートと、地山面に沿って組み立てられた鋼製支保工と、必要に応じて設定されたロックボルト等により構成されているのが一般的である。支保工の設置は、掘削により露出した地山に対して一次吹付けコンクリートを吹き付けた後、あるいは吹付けコンクリートを吹き付ける前に、鋼製支保工を組み立てて、その後、吹付けコンクリート(二次吹付けコンクリート)を吹き付けることにより行う。
【0003】
鋼製支保工を組み立てる際には、ドリルジャンボなどの重機を利用して、鋼製支保工を保持しつつ、左右の鋼製支保工を切羽の天端付近において、手作業にてボルトの締結作業を行うのが一般的である。一方、手作業によるボルトの締結や転倒防止用の繋ぎ材やタイロッド等の取付けは、作業に手間がかかるとともに、支保工が完成する前の露出した地山、または、一次吹付けコンクリートの直下で作業を行う必要がある。
【0004】
そのため、支保工施工時の作業性の向上や、安全性の向上を目的とした施工方法が開示されている。例えば、特許文献1には、鋼製支保工の端部に形成された継手部にワンタッチジョイントを設けておき、鋼製支保工を把持可能な一対のハンドを有するエレクタ装置を利用して、左右の鋼製支保工の継手部同士を突き合せることでワンタッチジョイントを連結するとともに切羽面に沿ってアーチ状に組み立てられた鋼製支保工を建て込むトンネル構築方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のトンネル構築方法では、鋼製支保工の建て込みはロボットを利用するものの、鋼製支保工の建て込み後、人力により新設の鋼製支保工をタイロッドまたはつなぎ材により既設の支保工に連結する必要がある。そのため、掘削により露出した地山、または、一次吹付けコンクリートの直下において作業員が作業を行う必要がある。
【0007】
本発明は、支保工施工時の作業性の向上と安全性の向上を図ることを可能とした、パネル式支保工およびトンネル施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する本発明のパネル式支保工は、前後に配設された一対の支保部材と、前記支保部材同士を連結するつなぎ鋼材とを備えている。前記支保部材は、一対のフランジと一対の前記フランジを連結するウェブとにより断面コ字状を呈しており、一対の前記支保部材は、前記フランジの先端同士が対向するように設けられている。
切羽側に設けられる前記支保部材の下端に、ガイドピンが立設された底板が固定されている場合は、坑口側に設けられる前記支保部材の下端に、貫通孔が形成された底板が固定されている。また、切羽側に設けられる前記支保部材に、切羽側に突出する受金具が設けられていてもよい。
【0009】
また、本発明のトンネル施工方法は、地山を掘削する掘削工程と、地山を掘削することにより露出した地山面に沿って支保工を形成する支保工程とを備えるものであって、前記支保工程は、前記パネル式支保工を建て込む建込作業と、前記地山面に向けて吹付けコンクリートを吹き付ける吹付け作業とを備えている。前記建込作業では、既設の前記パネル式支保工の切羽側の支保部材のウェブに、新設の前記パネル式支保工の坑口側の支保部材のウェブを並設させる。
【0010】
かかるパネル式支保工およびこれを利用したトンネル施工方法によれば、鋼製支保工を構成する支保部材につなぎ鋼材が予め固定されているため、予め支保部材同士の間に所定の間隔が確保されており、鋼製支保工の位置決めに要する手間を省略あるいは低減することができる。また、鋼製支保工設置後の切羽近傍でのタイロッドやつなぎ材の設置作業を省略することができる。
【0011】
なお、前記支保部材は、地山等級に応じた支保パターンにより設定された鋼製支保工の断面積の1/2以上の断面積と、前記鋼製支保工の断面係数の1/2以上の断面係数を有しているのが望ましい。このようにすれば、パネル式支保工の支保部材を既設のパネル式支保工の支保部材と組み合わせることで、地山等級に応じた支保パターンにより設定された鋼製支保工と同等以上の断面寸法を有した鋼製支保工が形成されることになる。
また、前記支保部材同士の間において、前記支保部材の周方向に沿って設けられた金網を備えていれば、鋼製支保工設置後の切羽近傍での金網の設置作業を省略することができる。そのため、作業性の向上と安全性の向上を図ることができる。
【0012】
また、一対の前記支保部材のうちの少なくとも一方の前記ウェブに、他方の前記支保部材の反対側に突出する複数のスタッド材を備えていれば、既設のパネル式支保工の切羽側に、所定の間隔をあけてパネル式支保工を配設できる。また、スタッド材は、吹付コンクリート内において定着部材として機能するため、吹付コンクリートと支保部材との一体性を確保できる。
また、切羽側に設けられる前記支保部材の下端にガイドピンが立設された底板が固定されていて、坑口側に設けられる前記支保部材の下端に貫通孔が形成された底板が固定されている場合は、貫通孔に既設のパネル式支保工のガイドピンを挿通させた状態で、新設のパネル式支保工を設置することで位置決めが完了するため、施工の手間を大幅に削減できる。
【0013】
また、切羽側に設けられる前記支保部材に、切羽側に突出する受金具が設けられている場合は、既設のパネル式支保工の受金具に新設のパネル式支保工の坑口側の支保部材を係止させることで、パネル式支保工の配置が完了するため、施工の手間を大幅に削減できる。
さらに、前記つなぎ鋼材に、エレクターにより把持可能な把手が固定されていれば、パネル式支保工をエレクターで把持するための特殊な治具等を要することなく、エレクターを利用したパネル式支保工の移動や位置決めを行える。
【0014】
なお、前記建込作業では、左右一対の前記パネル式支保工同士を上端部において連結することによりアーチ状の支保構造を形成するのが望ましい。このとき、一方の前記パネル式支保工の前記支保部材の上端の継手板から、先端に接合ピンが設けられたジョイナーが突設されており、他方の前記パネル式支保工の前記支保部材の上端部に、前記ジョイナーを挿通する開口を有した継手板を備えているとともに、前記接合ピンを係合可能なスチフナが固定されていれば、接合ピンをスチフナに係合するのみで、パネル式支保工同士を連結できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパネル式支保工およびこれを利用したトンネル施工方法によれば、支保工施工時の作業性の向上の安全性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態に係るトンネルの概要を示す断面図である。
【
図3】トンネル施工方法の一次吹付け作業を示す断面図である。
【
図4】トンネル施工方法の建込作業を示す断面図である。
【
図6A】パネル式支保工の一部を示す平面図である。
【
図6B】パネル式支保工の一部を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るパネル式支保工の設置状況を示す斜視図である。
【
図8A】パネル式支保工の一部を示す平面図である。
【
図8B】パネル式支保工の一部を示す正面図である。
【
図9】第一パネル式支保工の設置状況を示す斜視図である。
【
図10】第一パネル式支保工の設置状況を示す平面図である。
【
図11】第二パネル式支保工の設置状況を示す平面図である。
【
図12】支保部材同士の接合部を示す断面図である。
【
図13】支保部材同士の接合部の概要を示す平面図である。
【
図15】第二実施形態に係るトンネルの概要を示す断面図である。
【
図16】第二実施形態の支保工の概要を示す断面図である。
【
図17】トンネル施工方法の一次吹付け作業を示す断面図である。
【
図18】トンネル施工方法の建込作業を示す断面図である。
【
図20B】パネル式支保工の一部を示す平面図である。
【
図21A】切羽側の支保部材の脚部を示す側面図である。
【
図21B】切羽側の支保部材の脚部を示す平断面図である。
【
図21C】坑口側の支保部材の脚部を示す側面図である。
【
図21D】坑口側の支保部材の脚部を示す平断面図である。
【
図21E】パネル式支保工の設置状況を示す拡大断面図である。
【
図22A】支保部材同士の接合部を示す正面図である。
【
図22B】支保部材同士の接合状況を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一実施形態>
本実施形態では、NATMによりトンネル施工を行う場合について説明する。トンネルTは、
図1に示すように、地山Gを掘削することにより露出した地山面Gsを吹付けコンクリート2や鋼製支保工(パネル式支保工3)などからなる支保工1により閉塞することで安定化を図る。なお、支保工1には、必要に応じてロックボルトを含めるものとする。また、トンネル施工時には、必要に応じて先進ポーリング、パイプルール工法、薬液注入工等の補助工法を併用してもよい。
【0018】
トンネル施工は、まず、地山Gを掘削して、掘削孔(トンネルT)を形成する(掘削工程)。トンネルTの掘削方式は限定されるものではなく、例えば、発破式掘削であってもよいし、機械式掘削であってもよい。1サイクル毎のトンネルTの掘進長は、地山状況(地山等級や土被り等)に応じて決定するが、本実施形態では、1.0~1.2mとする。
【0019】
トンネルTを所定延長(本実施形態では1.0~1.2m)掘削したら、地山Gを掘削することにより露出した地山面Gsに沿って支保工1を形成する(支保工程)。本実施形態の支保工1は、
図2に示すように、一次吹付けコンクリート21および二次吹付けコンクリート22からなる吹付けコンクリート2と、鋼製支保工(支保部材4)および金網5からなるパネル式支保工3とを備えており、支保工程は、一次吹付け作業、建込作業および二次吹付け作業(吹付け作業)を備えている。
【0020】
一次吹付け作業では、
図3に示すように、地山Gの掘削により露出した地山面Gsに一次吹付けコンクリート21を吹き付ける。一次吹付けコンクリート21は、トンネルTの壁面(側面)に加え、切羽Kにも吹き付ける。一次吹付けコンクリート21の吹付け厚さは、適宜決定すればよいが、本実施形態では5cmとする。
【0021】
建込作業では、
図4に示すように、切羽Kの近傍において、一次吹付けコンクリート21の表面(または地山面Gs)に沿ってパネル式支保工3を建て込む。なお、パネル式支保工3(金網5)の外面と一次吹付けコンクリート21の表面との間には、掘削時の余掘りにより、パネル式支保工3の建て込み時の調整移動に必要な隙間(例えば、5cm程度の隙間)が設けられている。パネル式支保工3は、
図5Aおよび
図5Bに示すように、前後に配設された一対の支保部材4,4と、支保部材4同士の間に配設された金網5と、一対の支保部材4,4を連結する複数のつなぎ鋼材6とを備えている。パネル式支保工3の長さ(切羽K側の支保部材4の端面から坑口側の支保部材4の端面までの距離)は、地山等級に応じて設定された鋼製支保工同士の間隔(本実施形態では1.0~1.2m)とする。
【0022】
一対の支保部材4,4は、トンネル軸方向に間隔をあけて、切羽K側と坑口側に配設される。支保部材4は、
図6Bに示すように、一対のフランジ4a,4aと一対のフランジ4a,4aを連結するウェブ4bとにより断面コ字状を呈した、いわゆる溝形鋼により構成されている。支保部材4の断面寸法は、地山等級に応じた支保パターンにより設定された鋼製支保工の断面積の1/2以上の断面積と、当該鋼製支保工の断面係数の1/2以上の断面係数とを有した寸法を確保できる大きさとする。例えば、地山等級に応じた支保パターンの鋼製支保工がH-125×125×6.5×9(断面積:30.0cm
2、断面係数:134cm
3)の場合には、支保部材4に[-125×65×6×8(断面積:17.1cm
2、断面係数:67.8cm
3)を使用すればよい。支保部材4は、
図5Aに示すように、トンネルTの断面形状に応じた形状に曲げ加工が施されており、正面視弧状を呈している。一対の支保部材4,4は、互いのフランジ4aの先端同士が対向するように(一対のフランジ4a,4aとウェブ4bとにより囲まれた空間が内側になるように)設けられている。
【0023】
金網5は、
図5Bに示すように、支保部材4の周方向に沿って設けられている。本実施形態の金網5は、15×15cmの網目を有しているが、金網5の寸法は限定されるものではない。
図6Aおよび
図6Bに示すように、本実施形態では、支保部材4の地山G側のフランジ4aの外面に金網5が溶接されている。金網5は、一方の支保部材4のフランジ4aと他方の支保部材4のフランジ4aとの間に横架されている。金網5は、前後の支保部材4,4に溶接されているので、万一の肌落ちに対しても安全性を確保する。
【0024】
つなぎ鋼材6は、
図6Aに示すように、前後に配設された支保部材4同士の間に介設されている。つなぎ鋼材6を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、H形鋼、溝形鋼、L形鋼等の鋼材、鋼棒、または、鋼管等を使用してもよい。つなぎ鋼材6の一方の端部は一方の支保部材4のウェブ4bに溶接されていて、他方の端部は他方の支保部材4のウェブ4bに溶接されている。なお、つなぎ鋼材6と支保部材4との固定方法は限定されるものではなく、例えば、ボルト接合してもよい。また、つなぎ鋼材6の支保部材4への固定箇所も限定されるものではなく、例えば、内側のフランジ4aに溶接してもよい。複数のつなぎ鋼材6,6,…は、トンネル壁面に沿って間隔をあけて配設されている。つなぎ鋼材6の本数や配設ピッチ等は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【0025】
建込作業では、
図4に示すように、既設パネル式支保工3aの切羽K側に、新設のパネル式支保工3を建て込む。パネル式支保工3を建て込む際には、既設パネル式支保工3aの切羽K側の支保部材4のウェブ4bに、新設のパネル式支保工3の坑口側の支保部材4のウェブ4bを重ねるとともに、両ウェブ4b、4bを連結する。
【0026】
本実施形態では、
図7に示すように、左右一対のパネル式支保工3,3を配設し、パネル式支保工3同士を頂部(上端部)において組み合わせることで、アーチ状の支保構造を形成する。左右のパネル式支保工3,3を組み合わせる際には、支保部材4同士を頂部において連結する。
【0027】
支保部材4同士の連結には、連結プレート7(
図6参照)を使用する。連結プレート7は、左右の支保部材4,4にまたがって、両支保部材4,4のウェブ4bに添接する。
図6Bに示すように、本実施形態では、連結プレート7に、断面視コ字状を呈した溝形鋼を使用する。連結プレート7は、支保部材4の断面寸法よりも小さい断面寸法を有しており、フランジ4a,4aおよびウェブ4bに囲まれた空間に挿入可能である。連結プレート7は、既設パネル式支保工3aの支保部材4の坑口側のウェブ4bと、新設のパネル式支保工3の支保部材4の切羽K側のウェブ4bにそれぞれ添接する。すなわち、支保部材4の頂部は、支保部材4の前後(切羽K側と坑口側)から連結プレート7により挟持する。
【0028】
支保部材4を挟む一方の連結プレート7には、
図6Aに示すように、複数(本実施形態では四つ)のピン8が固定されていて、他方の連結プレート7には、
図8Bに示すように、複数のピン8に対応する位置に貫通孔が形成されている。そして、支保部材4を挟む連結プレート7,7にピン8を挿通することで、支保部材4同士を連結する。
【0029】
以下、支保部材4同士の接合部の詳細について説明する。
左右一対のパネル式支保工3,3のうち、一方のパネル式支保工3(以下、「第一パネル式支保工31」という)の切羽K側の支保部材4(以下、「第一切羽側支保部材41」という)の上端には、
図6Aおよび
図6Bに示すように、第一連結プレート71が固定されている。本実施形態の第一連結プレート71は、400mmの長さを有していて、200mmが第一切羽側支保部材41の端部から張り出した状態で、第一切羽側支保部材41に固定されている。第一連結プレート71は、溝形鋼からなり、第一連結プレート71には、4本のピン8,8,…が等間隔で固定されている。なお、第一連結プレート71の第一切羽側支保部材41への固定方法は限定されるものではないが、本実施形態では主にフランジ4a,4aに溶接する。また、第一連結プレート71に固定されたピン8の数およびピン8の配設ピッチは限定されるものではない。さらに、第一連結プレート71を構成する材料および第一連結プレート71の寸法は限定されるものではない。第一切羽側支保部材41の上端部には、ピン8の位置に対応して、二つの貫通孔が形成されている。第一連結プレート81は、2本のピン8を第一切羽側支保部材41の貫通孔に貫通させた状態で第一切羽側支保部材41に固定されている。貫通孔の形状は、ピン8を挿通可能で、かつ、係止可能なものとし、本実施形態では、ピン8の直径よりも1mm程度大きい内径とする。
【0030】
第一パネル式支保工31の坑口側の支保部材4(以下、「第一坑口側支保部材42」の上端には、伝達プレート9が固定されている。伝達プレート9は幅約100mm、長さ約200mmの鋼板からなり、フランジ4a,4aとウェブ4bにより囲まれた空間内において、ウェブ4bの表面に添接された状態でフランジ4a、4aのそれぞれに溶接されている。第一坑口側支保部材42の上端部および伝達プレート9には、ピン8を挿通可能な貫通孔が2カ所ずつ形成されている。
【0031】
また、左右一対のパネル式支保工3,3のうちの他方のパネル式支保工3(以下、「第二パネル式支保工32」という)の切羽K側の支保部材4(以下、「第二切羽側支保部材43」という)の上端には、
図8Aに示すように、伝達プレート9が固定されている。伝達プレート9は幅約100mm、長さ約200mmの鋼板からなり、フランジ4a,4aとウェブ4bにより囲まれた空間内において、ウェブ4bの表面に添接された状態でフランジ4a、4aのそれぞれに溶接されている。第二切羽側支保部材43の上端部および伝達プレート9には、ピン8を挿通可能な貫通孔が2カ所ずつ形成されている。
【0032】
第二パネル式支保工32の坑口側の支保部材4(以下、「第二坑口側支保部材44」という)に上端には、第二連結プレート72が固定されている。第二連結プレート72は、400mmの長さを有していて、そのうち200mmの範囲が第二坑口側支保部材44の端部から張り出した状態で、残りの200mmの範囲が第二坑口側支保部材44に固定されている。なお、第二連結プレート72の第二坑口側支保部材44への固定方法は限定されるものではないが、本実施形態では主にフランジ4a,4aに溶接する。第二連結プレート72には、ピン8を挿通するための四つの貫通孔が形成されている。貫通孔は、第一連結プレート71のピン8に対応する位置に形成されている。
【0033】
パネル式支保工3を建て込む際には、まず、
図9に示すように、第一パネル式支保工31を既設パネル式支保工3aの切羽K側に配設する。第一パネル式支保工31は、一旦既設パネル式支保工3aの切羽K側に隙間をあけて配置してから、坑口側に引き戻すことにより既設パネル式支保工3aの切羽K側面に当接させる。このとき、
図10に示すように、既設パネル式支保工3aの支保部材4の頂部に配設されたピン8を、第一パネル式支保工31の第一坑口側支保部材42に形成された貫通孔および伝達プレート9に形成された貫通孔に貫通させる。なお、パネル式支保工3は、重機のエレクター等により把持した状態で、所定の位置に配設および微調整を行い、保持しておく。
【0034】
次に、
図7および
図11に示すように、第二パネル式支保工32を既設パネル式支保工1aの切羽K側に配設する。第二パネル式支保工32は、一旦既設パネル式支保工3aの切羽K側に隙間をあけて配置してから、坑口側に引き戻すことにより既設パネル式支保工3aの切羽K側の面に当接させる。このとき、第二切羽側支保部材43の頂部に形成された貫通孔および伝達プレート9の貫通孔に、第一切羽側支保部材41の頂部に固定された第一連結プレート71のピン8を貫通させる。また、既設パネル式支保工3aの頂部に配設されたピン8を、第二坑口側支保部材44に形成された貫通孔、および第二連結プレート72に形成された貫通孔に貫通させる。こうすることで、新設の左右のパネル式支保工3,3の支保部材4,4と、左右の既設パネル式支保工3a,3aの支保部材4,4とが連結される。支保部材4,4は、
図12に示すように、H形状に重ねられた状態で、前後から連結プレート7,7により挟持されることで連結される。
【0035】
なお、第一パネル式支保工31の支保部材4の先端面(トンネルTの天端側の端面)は
図13に示すように、坑口側に向かうにしたがって第二パネル式支保工32側に近付くように、トンネル軸方向(第二パネル式支保工32の移動方向)に対して傾斜している。一方、第二パネル式支保工32の支保部材4の先端面は、切羽K側に向かうにしたがって、第一パネル式支保工31側に近付くように傾斜している。このようにすることで、支保部材4の端面同士をメタルタッチさせて、支圧接合にして軸力を伝達可能な構造とする。
【0036】
パネル式支保工3同士を連結したら、
図14に示すように、第二パネル式支保工32の支保部材4の脚部を側方(地山G側)に押し出す(押し広げる)。第二パネル式支保工32は、支保部材4の脚部を側方に押し出した際の位置が、既設パネル式支保工3aの支保部材4と揃うように設計しておく。このとき、支保部材4は、鋼製支保工の降伏曲げ耐力の10%程度(150kN/cm程度)の曲げ力がかかるように押し出すものとする。こうすることで、ピン8と貫通孔(連結プレート7やウェブ4b等に形成された貫通孔)にせん断力が作用し、摩擦力により貫通孔からピン8が抜け難くなる。そのため、支保部材4同士の接合性が向上する。なお、この反力を保持するため、既設パネル式支保工3aの支保部材4の脚部に別途ピンを配設しておき、第二パネル式支保工32の脚部に予めあけておいた孔に差し込むとよい。支保部材4の脚部を側方に押し出す際の力は限定されるものではない。また、支保部材4の脚部は、必ずしも側方に押し出す必要はない。
【0037】
なお、パネル式支保工3を設置することで、一次吹付けコンクリート21の表面が金網5で覆われた状態となる。この状態で、切羽K近傍において、前後方向に隣接する支保部材4同士または断面方向に隣接する支保部材4同士をボルト接合してもよい。
【0038】
パネル式支保工3の組み立てが完了したら、トンネルTの側面に向けて二次吹付けコンクリート22を吹き付ける(二次吹付け作業)。二次吹付けコンクリート22は、支保工の脚部および前後に配設された支保部材4同士の間(
図2参照)に吹き付けるものとし、本実施形態では、支保部材4の内空側面が露出する厚さ(例えば、10cm~25cm)で吹付を行う。なお、二次吹付けコンクリート22の厚さは限定されるものではなく、例えば、支保部材4の内空側のフランジ2aが露出していてもよいし、支保部材4が埋設される厚さであってもよい。
【0039】
本実施形態のパネル式支保工3およびこれを利用したトンネル施工方法によれば、鋼製支保工を構成する支保部材4に金網5が予め固定されているため、鋼製支保工の設置と金網5との設置を同時に行うことができる。そのため、鋼製支保工設置後に切羽K近傍において金網5を設置する作業を省略することができ、作業性の向上と安全性の向上を図ることができる。
【0040】
また、前後に配設された支保部材4同士が所定の間隔で固定されているため、鋼製支保工の位置決めに要する手間を省略あるいは低減することができる。
支保部材4同士は、つなぎ鋼材6を介して強固に連結されているため、パネル式支保工3の組み立て時は、切羽K側の支保部材4(または坑口側の支保部材4)を重機により把持して移動させることができる。
【0041】
支保部材4は、既設パネル式支保工3aの支保部材4と組み合わせることで、必要な断面寸法を確保しているため、トンネルTの支保構造としての耐力を確保できる。
支保部材4同士の連結は、一方の連結プレート7に固定されたピン8を、支保部材4の貫通孔に貫通させて他方の連結プレート7に差し込むのみで完了するため、施工性に優れている。
【0042】
左右に配設された支保部材4同士の接合部では、連結プレート7を介して力が伝達されるため、アーチ状の支保構造としての能力を十分に発揮することができる。すなわち、 第一切羽側支保部材41および第二坑口側支保部材44は、一体に固定された連結プレート7との間で応力が伝達される。すなわち、支保部材4(第一切羽側支保部材41または第二坑口側支保部材44)のフランジ4aに作用した応力は、ウェブ4bおよびフランジ4aに溶接された連結プレート7に伝達される。一方、第一坑口側支保部材42および第二切羽側支保部材43は、伝達プレート9がフランジ4aに溶接されているため、支保部材4(第一坑口側支保部材42または第二切羽側支保部材43)のフランジ4aに作用した応力が、ウェブ4bと伝達プレート9に伝達され、ピン8を介して連結プレート7に伝達される。
【0043】
左右に隣り合う支保部材4同士は、支保部材4の貫通孔と複数(本実施形態では4本)のピン8とのせん断接合により連結されている。アーチ上端部(支保部材4同士の接合部)に作用する曲げ応力を複数のピン8により伝達するとともに、複数のピン8のせん断力による偶力で必要な曲げ耐力を確保している。
【0044】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、NATMによりトンネル施工を行う場合について説明する。トンネルTは、
図15に示すように、地山Gを掘削することにより露出した地山面Gsを吹付けコンクリート2や鋼製支保工(パネル式支保工3)などからなる支保工1により閉塞することで安定化を図る。
【0045】
支保工1は、トンネルTを所定延長(本実施形態では1.0~1.2m)掘削する度に、地山Gを掘削することにより露出した地山面Gsに沿って形成する。本実施形態の支保工1は、
図16に示すように、一次吹付けコンクリート21および二次吹付けコンクリート22からなる吹付けコンクリート2と、鋼製支保工(支保部材4)、金網5およびつなぎ鋼材6からなるパネル式支保工3とを備えている。
【0046】
一次吹付けコンクリート21は、
図17に示すように、地山Gの掘削により露出した地山面Gsに吹き付ける。一次吹付けコンクリート21は、トンネルTの壁面(側面)に加え、切羽Kにも吹き付ける。一次吹付けコンクリート21の吹付け厚さは、適宜決定すればよいが、本実施形態では5cmとする。
【0047】
パネル式支保工3は、
図18に示すように、切羽Kの近傍において、一次吹付けコンクリート21の表面(または地山面Gs)に沿って建て込む。パネル式支保工3は、
図19Aおよび
図19Bに示すように、前後に配設された一対の支保部材4,4と、支保部材4同士の間に配設された金網5と、一対の支保部材4,4を連結する複数のつなぎ鋼材6とを備えている。パネル式支保工3の長さ(切羽K側の支保部材4の端面から坑口側の支保部材4の端面までの距離)は、地山等級に応じて設定された鋼製支保工同士の間隔(本実施形態では0.96~1.16m)とする。また、金網5は、必要に応じて設置すればよく、地山等級等によっては省略してもよい。
【0048】
一対の支保部材4,4は、トンネル軸方向に間隔をあけて、切羽K側と坑口側に配設される。支保部材4は、
図20Aに示すように、一対のフランジ4a,4aと一対のフランジ4a,4aを連結するウェブ4bとにより断面コ字状を呈した、いわゆる溝形鋼により構成されている。支保部材4の断面寸法は、地山等級に応じた支保パターンにより設定された鋼製支保工の断面積の1/2以上の断面積と、当該鋼製支保工の断面係数の1/2以上の断面係数とを有した寸法を確保できる大きさとする。支保部材4は、
図19Bに示すように、トンネルTの断面形状に応じた形状に曲げ加工が施されており、正面視弧状を呈している。一対の支保部材4,4は、
図20Aに示すように、互いのフランジ4aの先端同士が対向するように(一対のフランジ4a,4aとウェブ4bとにより囲まれた空間が内側になるように)設けられている。
【0049】
図20Aおよび
図20Bに示すように、支保部材4のウェブ4bの外面(他方の支保部材4と反対側の面)には、複数のスタッド材45が立設(突設)されている。本実施形態のスタッド材45の頭部は、拡径されている。スタッド材45は、パネル式支保工3を設置する際に、既設のパネル式支保工3と間に所定の大きさ(本実施形態では40mm程度)の隙間を確保するための定規として機能するとともに、吹付コンクリートとの一体性を確保するための定着部材として機能する。
【0050】
また、切羽K側に設けられる支保部材4には、切羽K側に突出する受金具46が設けられている。受金具46は、切羽K側に設けられる他のパネル式支保工3の坑口側の支保部材4と係合する。こうすることで、隣り合う支保部材4同士が受金具46を介して連結される。本実施形態の受金具46は、支保部材4に溶接された本体板46aと、本体板46aの先端に形成された突起46bとを備えている。突起46bは、受金具46に他のパネル式支保工3の支保部材4を上載した際に、この支保部材4がズレ出て落ちることを防止するものである。突起46bは、支保部材4の端面から支保部材4のフランジ4aの幅にスタッド材45の長さを加えた長さよりも大きな間隔を確保した位置に形成されている。本実施形態の突起46bは、本体板46aに別部材を固定することにより形成されているが、突起46bは本体板46aを構成する板材の端部を折り曲げることにより形成してもよい。
【0051】
図21Aおよび
図21Bに示すように、切羽K側に設けられた支保部材4の下端(脚部)には、第一底板47aが固定されている。第一底板47aは、支保部材4のウェブ4bよりも切羽K側に突出するように支保部材4の外形よりも大きな外形を有していて、その突出部分にはガイドピン47cが立設されている。また、坑口側の支保部材4の下端には、
図21Cおよび
図21Dに示すように、第二底板47bが固定されている。第二底板47bには、支保部材4のフランジ4a,4aおよびウェブ4bに囲まれた空間に挿通する貫通孔47dが形成されている。貫通孔47dは、ガイドピン47cを挿通可能である。
図21Eに示すように、パネル式支保工3を設置する際には、貫通孔47dに既設のパネル式支保工3のガイドピン47cを挿通させる。
【0052】
金網5は、
図19Aに示すように、支保部材4の周方向に沿って設けられている。
図20Aおよび
図20Bに示すように、本実施形態では、支保部材4の地山G側のフランジ4aの外面に金網5が溶接されている。金網5は、一方の支保部材4のフランジ4aと他方の支保部材4のフランジ4aとの間に横架されている。金網5は、前後の支保部材4,4に溶接されているので、万一の肌落ちに対しても安全性を確保する。
【0053】
つなぎ鋼材6は、
図20Aに示すように、前後に配設された支保部材4同士の間に介設されている。つなぎ鋼材6の一方の端部は一方の支保部材4のウェブ4bに溶接されていて、他方の端部は他方の支保部材4のウェブ4bに溶接されている。複数のつなぎ鋼材6,6,…は、トンネル壁面に沿って間隔をあけて配設されている。
【0054】
図19Aおよび
図19Bに示すように、本実施形態のパネル式支保工3には、エレクターにより把持可能な把手61が設けられている。把手61は、鋼材からなり、肩部において隣り合う一対のつなぎ鋼材6,6に横架されている。把手61は、パネル式支保工3の重心または重心の近傍において、つなぎ鋼材6と直交するように固定されている。なお、把手61の固定箇所や向きは限定されるものではなく、例えば、支保部材4に固定してもよい。
【0055】
新設のパネル式支保工3は、
図18に示すように、既設パネル式支保工3aの切羽K側に建て込む。本実施形態では、
図19Bに示すように、左右一対のパネル式支保工3,3を配設し、パネル式支保工3同士を頂部(上端部)において組み合わせることで、アーチ状の支保構造30を形成する。左右のパネル式支保工3,3を組み合わせる際には、支保部材4同士を頂部において連結する。
【0056】
図22Aに示すように、支保部材4の先端(上端)には、継手板48が設けられており、左右に配設された一対の支保部材4,4を連結する際には、継手板48同士を突き合せた状態で連結する。このとき、左右一対の支保部材4,4のうちの一方の支保部材4には、継手板48を貫通して他方の支保部材4側に突出するジョイナー73が設けられている。ジョイナー73は、
図22Bに示すように、支保部材4に溶接された鋼材であって、先端に向かうにしたがって上下幅が狭くなる形状を有している。ジョイナー73の基端部は支保部材4に溶接されていて、ジョイナー73の中間部は継手板48に溶接されている。ジョイナー73の先端には、接合ピン74が設けられている。接合ピン74は、ジョイナー73の先端から突出した状態で、設けられている。
【0057】
左右一対の支保部材4,4のうちの他方の支保部材4の継手板48には、ジョイナー73を挿通する開口が形成されている。また、他方の支保部材4には、
図22Aおよび
図22Bに示すように、接合ピン74を係合可能なスチフナ75が固定されている。スチフナ75は、
図22Cに示すように支保部材4のフランジ4a,4aとウェブ4bにより囲まれた空間に溶接固定された板材からなり、接合ピン74を係合可能な係合孔76が形成されている。
【0058】
パネル式支保工3は、エレクター(図示せず)のクランプにより、把手61を掴んだ状態で、切羽Kまで搬入する。パネル式支保工3は、切羽手前において、エレクターにより立設させるとともに、既設パネル式支保工3aとの相対位置の位置調整を行う。
【0059】
左右一対の支保部材4,4を連結する際には、支保部材4の底板47(第一底板47a、第二底板47b)を支点として、支保部材4の上端を持ち上げることで、支保部材4の継手板48同士の間に隙間を有した状態とする(
図22B参照)。次に、左右の支保部材4,4の上端を同時に下降させて、ジョイナー73を他方の支保部材4の継手板48を貫通させるとともに接合ピン74をスチフナ75の係合孔76に挿入する(
図22A参照)。これにより、左右一対の支保部材4が接合された状態となり、支保部材4同士の軸力方向は継手板48,48により支圧接合となって、ジョイナー73を介して鉛直方向(強軸側)および水平方向(弱軸側)の曲げ力が伝達可能となる。左右一対のパネル式支保工3,3を連結すると、前後左右の脚部(第一底板47a,第二底板47b)を支持点として自立する。
【0060】
また、パネル式支保工3を建て込む際には、
図21Eに示すように、既設パネル式支保工3aの第一底板47aに立設されたガイドピン47cを、新設のパネル式支保工3の第二底板47bに形成された貫通孔47dに挿通させた状態で、パネル式支保工3を配設する。そして、既設パネル式支保工3aの切羽K側の支保部材4のウェブ4bに、新設のパネル式支保工3の坑口側の支保部材4のウェブ4bに固定されたスタッド材45の先端を当接させるとともに、既設パネル式支保工3aのスタッド材45を新設のパネル式支保工3の支保部材4のウェブ4bに当接させることで、ウェブ4b同士の間に隙間をあけた状態とする(
図20A参照)。さらに、既設パネル式支保工3aの受金具46に新設のパネル式支保工3の坑口側の支保部材4を係止させる(
図20A参照)。
【0061】
パネル式支保工3の組み立てが完了したら、トンネルTの側面に向けて二次吹付けコンクリート22を吹き付ける(
図16参照)。二次吹付けコンクリート22は、支保部材4の脚部および前後に配設された支保部材4同士の間に吹き付けるものとし、本実施形態では、支保部材4の内空側面が露出する厚さ(例えば、10cm~25cm)で吹付を行う。なお、二次吹付けコンクリート22の厚さは限定されるものではなく、例えば、支保部材4の内空側のフランジ2aが露出していてもよいし、支保部材4が埋設される厚さであってもよい。本実施形態では、パネル式支保工3と既設パネル式支保工3aとの間にも二次吹付けコンクリート22を吹き付ける。
【0062】
本実施形態のパネル式支保工3およびこれを利用したトンネル施工方法によれば、支保部材4に設けられたスタッド材45が、パネル式支保工3同士の間に吹き付けられた吹付けコンクリートに埋め込まれることで、吹付コンクリートを介して前後に隣り合うパネル式支保工3の支保部材4同士が連結される。そのため、新設のパネル式支保工3の支保部材4と既設パネル式支保工3aの支保部材4とが組み合わされて、鋼製支保工として必要な断面寸法を確保でき、トンネルTの支保構造30として必要な耐力を確保できる。
【0063】
また、左右に隣り合う支保部材4同士は、頂部においてジョイナー73を介して接合するため、支保部材4同士の軸力方向は継手板48により支圧接合になり、ジョイナー73により鉛直方向(強軸側)および水平方向(弱軸側)の曲げ力が伝達される。ジョイナー73は、先端に行くにしたがって断面形状が縮小させる先細り形状なため、継手板48に挿入しやすい。また、ジョイナー73を継手板48の開口部に挿入することで、接合ピン74が係合孔76に挿入されるように、ジョイナー73が誘導させるため、重機(エレクター)の操作のみで容易に支保部材4同士を接合できる。また、継手板48とスチフナ75とが離れた位置に形成されているため、ジョイナー73を介した支保部材4同士の連結状態が安定する。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記各実施形態では、支保部材4の頂部において、前後に配設された支保部材4同士(新設の支保部材4と既設の支保部材4)を連結するものとしたが、前後に隣接する支保部材4同士は、頂部以外の部分において連結してもよい。例えば、支保部材4の脚部において両支保部材4を前後から連結プレート7により挟持した状態で、ピン8により固定してもよい。
【0065】
また、前記各実施形態では、ピン8または接合ピン74を利用して支保部材4同士を連結するものとしたが、支保部材4はボルト接合してもよい。また、左右の支保部材4,4同士は、一方の支保部材4に設けられたピン8を、他方の支保部材4の継手板48に形成された係合孔に係合することにより連結してもよい。
また、前記各実施形態では、掘進後、一次吹付けコンクリート21を吹き付けるものとしたが、一次吹付けコンクリート21は、地山状況に応じて施工すればよい。すなわち、比較的安定した岩盤の区間では、一次吹付けコンクリート21を省略してもよい。
【0066】
また、伝達プレート9は、必要に応じて配設すればよい。
また、前記第一実施形態では、一方の連結プレート7に固定されたピン8を他方の連結プレート7に挿通させるものとしたが、ピン8は、他方の連結プレート7に固定(嵌合、締結または機械式固定等)してもよい。
【0067】
前記各実施形態では、左右のパネル式支保工3,3を組み合わせることによりアーチ状に形成するものとしたが、パネル式支保工3の形状は限定されるものではなく、例えば、一つのパネル式支保工3がアーチ状であってもよいし、三つ以上のパネル式支保工3を組み合わせることによりアーチ状に形成されるものであってもよい。
パネル式支保工3は、工場生産したものをトンネル坑内に搬入してもよいし、現場内で製造したものを使用してもよい。
金網5は、必要に応じて設置すればよく、例えば、良質な地山の区間では、省略してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 支保工
2 吹付けコンクリート
3 パネル式支保工
30 支保構造
4 支保部材
45 スタッド材
46 受金具
47 底板
47a 第一底板
47b 第二底板
47c ガイドピン
47d 貫通孔
48 継手板
5 金網
6 つなぎ鋼材
61 把手
7 連結プレート
73 ジョイナー
74 接合ピン
75 スチフナ
8 ピン
9 伝達プレート
T トンネル