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特許7577271ポリエステル系分割型複合繊維、織編物及び織編物の製造方法
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  • 特許-ポリエステル系分割型複合繊維、織編物及び織編物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】ポリエステル系分割型複合繊維、織編物及び織編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20241028BHJP
   D06M 11/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D06M11/00 111
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020083725
(22)【出願日】2020-05-12
(65)【公開番号】P2021179031
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 徳嶺
(72)【発明者】
【氏名】増田 紘之
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-089940(JP,A)
【文献】特開2010-159502(JP,A)
【文献】特開2005-171138(JP,A)
【文献】特開2005-206966(JP,A)
【文献】特開昭58-098419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00-13/04
D06M 10/00-23/18
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ難溶出性成分のポリエステル樹脂Aとアルカリ易溶出性成分のポリエステル樹脂Bを有し、繊維の横断面形状において前記ポリエステル樹脂Aが前記ポリエステル樹脂Bにより複数個に分割され、単糸繊度が5.0dtex以下の複合繊維であって、前記ポリエステル樹脂Aが、a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル樹脂又はポリエステル製品を製造する工程で発生するポリエステル屑の少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料に由来する成分を40質量%以上含む再生ポリエステル樹脂であり、前記再生ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂A)が、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であり、かつ平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12・・・A)ことを特徴とする織編物用ポリエステル系分割型複合繊維。
【請求項2】
a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル樹脂又はポリエステル製品を製造する工程で発生するポリエステル屑の少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を40質量%以上含む再生ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂A)からなる繊維を含有する織編物であって、前記ポリエステル樹脂Aが、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であり、平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12・・・A)、
かつ前記ポリエステル樹脂Aからなる繊維の単糸繊度が1.0dtex以下であることを特徴とする織編物。
【請求項3】
請求項2に記載の織編物の製造方法であって、
請求項1に記載の織編物用ポリエステル系分割型複合繊維を製織又は製編することで生機を得る工程と、
前記生機にアルカリ減量処理を施して、前記ポリエステル樹脂Bを溶出させることで、前記ポリエステル樹脂Aの部分を分割割繊させる工程と、を含むことを特徴とする、織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済ポリエステル製品やポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルなどに由来するリサイクルポリエステル原料を含む再生ポリエステル樹脂を一部に用いた複合繊維であって、アルカリ易溶出性成分によりアルカリ難溶出性成分が複数個に分割されたポリエステル系分割型複合繊維に関するものである。さらに本発明は前記再生ポリエステル樹脂からなる繊維を含む織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、高融点で耐薬品性があり、また比較的低コストであるため、繊維、フィルム、ペットボトル等の成形品等に幅広く用いられている。これらのポリエステル製品は、製造段階又は加工段階で屑の発生が避けられず、また使用後に廃棄処分される場合が多い。ところが、焼却する場合には高熱が発生するため、焼却炉の傷みが大きく、寿命が短くなる。一方、焼却しない場合には、腐敗分解しないために半永久的に残ることになる。
【0003】
近年、一度使用されたポリエステル製品のうち、ゴミとして捨てられたプラスチック容器等が河川を経由して海洋へ流出し、波又は潮流の作用で細かく破砕されてマイクロプラスチックとして海洋生物の体内に蓄積、食物連鎖で濃縮され海洋生物の生態系に悪影響が出ていること、プラスチックが海洋汚染の一大原因となっていることが問題視されていることから、その使用量の削減、生分解性プラスチックへの切り替え等の動きが全世界的に起きている。
このような環境上の問題の観点から、資源を再利用するリサイクルが様々な方法で行われている。PETに代表されるポリエステル製品に関しても、その製造工程で発生したポリエステル屑をリサイクルする方法に加え、一度市場に出回って廃棄された製品を回収し、それを原料として再使用する方法が検討されている。特に、近年においては、繊維製品について、一定のリサイクル率を達成することで認定されるエコマークを付与した製品が普及している。
【0004】
リサイクルポリエステル原料として、製造工程で発生したポリエステル屑あるいは使用済みのポリエステル製品を回収したものを用いてリサイクルする方法としては、各種の方法が提案されている。
例えば、PET屑にメタノールを添加してジメチレンテレフタレート(以下「DMT」と表記することがある。)とエチレングリコール(以下「EG」と表記することがある。)に分解する方法(特許文献1)、PET屑にEGを添加して解重合した後、メタノールを添加してDMTを回収する方法(特許文献2)、PET屑をEGで解重合してオリゴマーとし、これを重縮合反応に用いる方法(特許文献3)等が提案されている。
【0005】
ところで、一旦製品となったPETボトル等を再生する際に問題になる不純物としては、ポリエステル樹脂中に添加されている各種の添加剤のほか、ボトル本体に付属するものとして、a)キャップ(アルミニウム、ポリプロピレン、ポリエチレン)、b)中栓、c)ライナー(ポリプロピレン、ポリエチレン)、d)ラベル(紙、ポリスチレン等の樹脂、インク)、e)接着剤、f)印字用インク等がある。
一般に、再生工程の前処理としては、回収されたPETボトルを振動ふるいにかけて砂、金属等を除去する。その後、PETボトルを洗浄し、着色ボトルを分離した上で、荒い粉砕を行う。そして、風力分離によりラベル等を取り除く。さらに、キャップ等に由来するアルミニウム片を除いて、PETボトル片を細かく粉砕する。高温アルカリ洗浄により接着剤、蛋白質、かび等の成分を除き、比重差によりポリプロピレン、ポリエチレン等の異種成分を分離する工程が行われる。
しかしながら、これらの工程を経たとしても、特にポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の非ポリエステル樹脂をPET樹脂から完全に分離・除去することは困難である。
例えば、特許文献1~4に記載のリサイクル方法で再生ポリエステル樹脂の製造を試みたとしても、非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えず、異物の混入量が十分に低減できたものとはいえず、バージンポリエステル樹脂同様の品質を有する製品を得ることは困難である。このように異物の混入量が十分に低減されていないと、紡糸工程又は製膜工程における濾過フィルターの昇圧速度が速く、長期の連続運転ができず、加工操業性が非常に悪くなる。しかも、特許文献1~3のような方法では、回収装置の設置、運転、維持等に多額のコストもかかり、実用性という点でも改善の余地がある。
【0006】
特許文献4記載の発明には、ポリエステル屑をエチレングリコールで解重合した後に、平均目開きが10~50μmのフィルターでろ過した後、再重合反応を行う方法が記載されている。そして、得られた再生ポリエステル樹脂は、異物の混入量が少なく、加工時の操業性に優れるものであることが示されている。
しかしながら、この方法においても、上記のような非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えておらず、異物の混入量が十分に低減できたものではなかった。
このように、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えており、バージンポリエステル樹脂と同様に各種の製品を得ることが可能で、かつ品質の高い製品を得ることができる再生ポリエステル樹脂は未だに得られていない。
【0007】
中でもポリエステル樹脂を用いて溶融紡糸を行い、繊維を得る際には、異物の混入量が生産性に大きく影響を及ぼす。繊維の形状を複雑にしたり、細繊度化するほど、異物の影響を大きく受けることとなり、生産が困難となったり、また得られる繊維の機械的特性値が劣るものとなるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭42-8855号公報
【文献】特開昭48-62732号公報
【文献】特開昭60-248646号公報
【文献】特開2005-171138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決し、使用済ポリエステル製品やポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルなどに由来するリサイクルポリエステル原料を高比率で含有する再生ポリエステル樹脂を少なくとも一部に使用した分割型複合繊維であって、バージンポリエステル樹脂のみを使用したときと同様の機械的特性値を有するとともに、生産性よく得ることができるポリエステル系分割型複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、次の(1)~(3)を要旨とするものである。
(1)アルカリ難溶出性成分のポリエステル樹脂Aとアルカリ易溶出性成分のポリエステル樹脂Bを有し、繊維の横断面形状において前記ポリエステル樹脂Aが前記ポリエステル樹脂Bにより複数個に分割され、単糸繊度が5.0dtex以下の複合繊維であって、前記ポリエステル樹脂Aが、a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル樹脂又はポリエステル製品を製造する工程で発生するポリエステル屑の少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料に由来する成分を含む40質量%以上再生ポリエステル樹脂であり、前記再生ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂A)が、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であり、かつ平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12・・・A)ことを特徴とする織編物用ポリエステル系分割型複合繊維。
(2)a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル樹脂又はポリエステル製品を製造する工程で発生するポリエステル屑の少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を40質量%以上含む再生ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂A)からなる繊維を含有する織編物であって、前記ポリエステル樹脂Aが、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であり、平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12・・・A)、
かつ前記ポリエステル樹脂Aからなる繊維の単糸繊度が1.0dtex以下であることを特徴とする織編物。
(3)(2)に記載の織編物の製造方法であって、(1)に記載の織編物用ポリエステル系分割型複合繊維を製織又は製編することで生機を得る工程と、前記生機にアルカリ減量処理を施して、前記ポリエステル樹脂Bを溶出させることで、前記ポリエステル樹脂Aの部分を分割割繊させる工程と、を含むことを特徴とする、織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル系分割型複合繊維(以下、本発明複合繊維と称することがある)は、アルカリ難溶出性成分のポリエステル樹脂Aとして用いる再生ポリエステル樹脂が、異物の混入量が少なく、かつカルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量が特定の範囲を満足するものであるため、溶融紡糸により繊維を得る工程において、複雑な断面形状であっても長期の連続運転が可能となり、生産性よく製品を得ることができる。さらに、本発明複合繊維は、バージンポリエステル樹脂を用いたものと同様の機械的特性値を有し、各種衣料用、工業用分野などのさまざまな分野、用途に好適に使用することができる。
本発明の織編物は、前記再生ポリエステル樹脂からなる細繊度の繊維を含有するものであるため、バージンポリエステル樹脂を用いたものと同様の機械的特性値を有するとともに、柔軟性、緻密性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明複合繊維(単繊維)の横断面の一実施態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明複合繊維は、アルカリ難溶出性成分のポリエステル樹脂Aと、アルカリ易溶出性成分のポリエステル樹脂Bを含有するものである。
【0014】
本発明のアルカリ難溶出性成分であるポリエステル樹脂Aは、a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料に由来する成分を含む再生ポリエステル樹脂である。
上記a)の使用済みポリエステル製品としては、例えば一度市場に出回り、使用後に回収されたポリエステル成形品(繊維を含む。)等が挙げられる。その代表例としては、PETボトル等のような容器又は包装材料が挙げられる。
上記b)のポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルは、製品化に至らなかったポリエステルであり、例えば規格を外れた樹脂ペレット、成形時に不要になった材料、成形時に切断された断片、成形時、加工時等に発生した屑、銘柄変更時に発生する移行品の裁断物、試作品・不良品の裁断物等が挙げられる。
上記a)及びb)は、その形態等は限定されず、必要に応じてさらに粉砕、切断等の加工を行うことによりペレット化されていても良いし、あるいは溶融してペレット化されていても良い。
また、上記a)及びb)のリサイクルポリエステル原料としては、結晶質又は非晶質のいずれのものであっても良い。従って、例えば熱処理を行っていない非晶質のポリエステル屑のペレット、熱処理を施した結晶質ペレット、結晶質ペレットと非晶質ペレットとの混合品等を使用することができる。本発明では、特に缶内への投入や解重合反応時にペレット同士の融着を防止する目的で結晶性のリサイクルポリエステル原料を用いることが好ましい。従って、上記a)又はb)の材料を熱処理により結晶化したもの(結晶化ペレット等)を好適に用いることができる。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂Aとしては、前記リサイクルポリエステル原料を40質量%以上含有することが好ましく、中でも50質量%以上含有することが好ましい。リサイクルポリエステル原料の含有量が40質量%未満であると、環境問題に配慮するという目的を果たすことができないものとなる。リサイクルポリエステル原料の含有量の上限については、特に限定するものではないが、後述するポリエステル樹脂Aの製造方法によれば、リサイクルポリエステル原料の含有量が40~80質量%のポリエステル樹脂Aまで容易に得ることが可能である。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂Aは、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、かつカルボキシル末端基濃度が30当量/t以下の特性値を有するものである。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂Aは、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であり、その中でも3.5モル%以下であることが好ましい。特に、後述する製造方法により得られるポリエステル樹脂Aにおいては、エチレングリコールを原料の一つとして用いるが、その際の副生成物としてジエチレングリコールが生じ得る。ポリエステル樹脂Aは、その副生するジエチレングリコールの量が少ないものであり、ジエチレングリコールの含有量が4モル%以下であることにより、結晶性にすぐれた性能を有している。このため、バージンポリエステルと同様に操業性よく溶融紡糸を行うことができ、後述する図1に示すようなポリエステル樹脂Aがポリエステル樹脂Bにより複数個に分割されている複雑な断面形状の複合繊維を得ることが可能となる。また、強度、伸度等の機械的特性値に優れた複合繊維を得ることが可能となる。なお、ジエチレングリコールの含有量の下限値は、例えば0.5モル%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂Aは、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であり、特に25当量/t以下であることが好ましく、その中でも20当量/t以下であることが最も好ましい。カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下とすることにより、熱安定性に優れた性能を有しており、このため、バージンポリエステルと同様に操業性よく溶融紡糸を行うことができる。したがって、後述する図1に示すようなポリエステル樹脂Aがポリエステル樹脂Bにより複数個に分割されている複雑な断面形状の複合繊維を得ることが可能となる。また、強度、伸度等の機械的特性値に優れた複合繊維を得ることが可能となる。
なお、カルボキシル末端基濃度の下限値は、例えば5当量/t程度とすることができるが、これに限定されない。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂Aのジエチレングリコールの含有量が4モル%を超える場合や、カルボキシル末端基濃度が30当量/tを超える場合には、ポリエステル樹脂Aの結晶性や熱安定性が劣るものとなるため、溶融紡糸によりポリエステル樹脂Aがポリエステル樹脂Bにより複数個に分割されている複雑な断面形状の複合繊維を操業性よく得ることができない。つまり、ポリエステル樹脂Aが図1に示すように個々の形状や大きさが揃った断面形状のものとすることができない。このため、このような複合繊維からポリエステル樹脂Bをアルカリ減量処理して得られるポリエステル樹脂Aからなる繊維は、形状や大きさにばらつきが生じるものとなる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂Aは、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることが好ましい。中でも、0.5MPa/h以下であることが好ましく、0.4MPa/h以下であることがより好ましい。本発明における平均昇圧速度は、各種無機物に由来する異物や非ポリエステル樹脂に由来する異物の混入量の多さの指標となるものであり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示すものである。平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることにより、バージンポリエステルと同様に生産性よく溶融紡糸を行うことができ、強度、伸度等の機械的特性値に優れた繊維を製造することも可能となる。なお、平均昇圧速度の下限値は、例えば0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
平均昇圧速度は、エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用いて測定する。エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する。
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
【0021】
本発明のポリエステル樹脂Aは、特に種類は限定されないが、その中でもエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエチレンテレフタレート(PET)を使用することが好ましい。本発明のポリエステル樹脂A中におけるPETの含有量は70質量%以上であることが好ましく、中でも80質量%以上であることが好ましく、さらには90~100質量%であることが好ましい。
特に、後述のポリエステル樹脂Aの製造方法においては、通常はエチレングリコールとテレフタル酸の重縮合物であるPETを得ることができるが、リサイクルポリエステル原料において、エチレングリコールとテレフタル酸以外の成分が存在する際には、PET以外のポリエステル樹脂が重縮合反応により生成する場合もある。このため、ポリエステル樹脂Aとしては、主体となるPET以外に、酸成分又はグリコール成分として、以下に示す成分が共重合されていても良い。これらの成分は2種以上含まれていても良い。
【0022】
酸成分としては、例えばイソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸等、ダイマー酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1、4-シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、ダイマー酸等が挙げられ、 グリコール成分としては、例えばネオペンチルグリコール、1、4-ブタンジオール、1、2-プロピレングリコール、1、5-ペンタンジオール、1、3-プロパンジオール、1、6-ヘキサメチレンジオール、ジエチレングリコール、1、4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ブチルエチルプロパンジオール、(2-メチル1、3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を挙げることができる。
【0023】
本発明のアルカリ易溶出性成分であるポリエステル樹脂Bは、アルカリ溶解性、分割性、曳糸性等から、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエチレンテレフタレート(PET)を使用することが好ましい。ポリエステル樹脂Bはアルカリ減量処理による溶解速度を速めるために、ジカルボン酸成分にスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸成分を共重合することが好ましい。スルホン酸塩基を含有する芳香族ジカルボン酸成分としては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が好適である。共重合量は、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bのアルカリ溶解速度差等により適宜選択されるが、0.1~10.0 モル%とすることが好ましく、共重合量を極力少なくすることが、紡糸操業性、コスト面で好適である。
【0024】
さらに、平均分子量1000~10000のポリアルキレングリコールを共重合しているものが好ましい。ポリアルキレングリコールは、ポリエステル中において、アルカリでいち早く溶解することにより、ポリエステルの分子鎖を切断し、また、表面にボイドを発生させて表面積を増やすことなどにより溶解速度を速める作用をするものである。ポリエステル中のポリアルキレングリコールの共重合量は1~20質量%とすることが好ましい。
【0025】
なお、上記のポリエステル樹脂A及びポリエステル樹脂Bには本発明の効果を損なわない範囲で、改質剤(例えば、艶消し剤、安定剤、難燃剤、又は着色剤)を添加してもよい。また、各種の機能付与成分例えば、カチオン染料可染性成分、又は熱収縮性成分)が共重合されるか、又は混合されて含有されていてもよい。
【0026】
本発明複合繊維は、繊維の横断面形状においてアルカリ難溶出性成分のポリエステル樹脂Aがアルカリ易溶出性成分のポリエステル樹脂Bにより複数個に分割されている。本発明複合繊維は、アルカリ減量処理を施した際に前記ポリエステル樹脂Bの全て又は一部が溶解することによって分割割繊される。
【0027】
次に、本発明複合繊維におけるポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの配置について説明する。本発明複合繊維は、構成する単繊維を長手方向に対して垂直に切断した断面形状において、ポリエステル樹脂Aがポリエステル樹脂Bにより複数個に分割されている。図1(a)~(d)は、このような複合繊維の単繊維の横断面形状の実施態様を示す模式図であり、図中、1はポリエステル樹脂A、2はポリエステル樹脂B、3は中空部である。
図1(a)は、繊維の中心付近に中空部3を有し、中空部の周辺にポリエステル樹脂Aからなる偏平形状のセグメント20個が放射状に配置されたものである。
(b)は、ポリエステル樹脂Aからなる略三角形状のセグメント8個が放射状に配置されたものである。
(c)は、ポリエステル樹脂Aからなる丸形状のセグメント19個が配列して配置されたものである。
(d)は、ポリエステル樹脂Aからなる偏平形状のセグメント10個が放射状に配置されたものである。
【0028】
本発明複合繊維は、アルカリ減量処理やその後の工程で各セグメントが容易に剥離し、分割度を高いものとするために、図1に示すように、ポリエステル樹脂Bによってポリエステル樹脂Aの複数のセグメントが他のセグメントと接触することなく独立した状態で存在していることが好ましい。
【0029】
本発明複合繊維におけるポリエステル樹脂Aのセグメント数は特に限定するものではないが、紡糸性や口金作製の容易性等を考慮し、また、極細繊維の生産性を考慮すると、2~60セグメントとすることが好ましく、中でも4~30セグメントとすることが好ましい。セグメントの形状は特に限定するものではなく、図1に示すように、偏平形状、略三角形状、丸形等とすることができ、本発明複合繊維によれば、最終的に得られるポリエステル樹脂Aからなる極細繊維は、様々な形状のものとすることができる。
【0030】
つまり、本発明複合繊維は、アルカリ減量処理により分割割繊するものであるが、アルカリ減量処理を行った場合には、ポリエステル樹脂Bが溶出してポリエステル樹脂Aの各セグメントが独立した極細繊維を得ることができる。
【0031】
ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bとの体積複合比率は、複合繊維の単糸繊度、分割数、分割処理後の極細繊維の単糸繊度等を考慮して、60/40~95/5とすることが好ましく、中でも75/25~85/15とすることが好ましい。このような範囲であればアルカリ減量処理によるポリエステル樹脂Aの分割が容易で、かつ、アルカリ溶液によるポリエステル樹脂Bの溶出量が少なく経済的である。また、アルカリ減量処理後に得られる布帛の組織の緩みが小さく、組織ズレの発生を抑えることができるため、風合いに優れた高密度な布帛を得ることができる。
【0032】
このような分割割繊後に得られるポリエステル樹脂Aからなる極細繊維は、単糸繊度が1.0dtex以下とする必要があり、中でも、0.5dtex以下とすることが好ましく、0.2dtex以下とすることがより好ましい。0.5dtex以下の極細繊維であれば、得られる繊維構造物はより柔軟性、緻密性に優れ、研磨性能や清掃性能に好適なものとなる。なお、紡糸性や口金作製の容易性等を考慮すると、単糸繊度は0.01dtex以上とすることが好ましい。
【0033】
本発明複合繊維は高配向未延伸糸(POY)、延伸糸(FDY)のいずれであってもよい。
本発明複合繊維の単糸繊度は特に限定するものではないが、上記したようなポリエステル樹脂Aのセグメントの数や分割割繊後に得られる極細繊維の単糸繊度を考慮すると、1~5.0dtexとすることが好ましい。
また本発明複合繊維はマルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよいが、中でもマルチフィラメントであることが好ましく、総繊度が40~130dtexとすることが好ましい。
【0034】
本発明複合繊維は、前記したような特性値を満足する再生ポリエステル樹脂をポリエステル樹脂Aとして用いているため、バージンポリエステル樹脂と同等の性能を有するものとすることができる。このため、本発明複合繊維の強度はPOYの場合、2.0cN/dtex以上であることが好ましく、2.4cN/dtex以上であることがより好ましい。FDYの場合、3.0cN/dtex以上であることが好ましく、3.5cN/dtex以上であることがより好ましい。また、本発明複合繊維の伸度は、POYの場合、90~140%であることが好ましく、100~130%であることがより好ましい。FDYの場合、25~55%であることが好ましく、30~50%であることがより好ましい。上記の強度、伸度を満足することによって、製織や製編する際に糸切れを起こすことなく織物や編物を操業性よく得ることができる。
【0035】
次に、本発明の織編物は、前述のポリエステル樹脂Aからなる繊維を少なくとも一部に含有する織物又は編物である。
本発明の織編物中に含まれる前記ポリエステル樹脂Aからなる繊維の含有量は、25質量%以上であることが好ましく、中でも35質量%以上であることが好ましい。ポリエステル樹脂Aからなる繊維以外の繊維として用いることができる繊維としては、ポリエステル繊維が好ましく、本発明複合繊維と同等の繊度のものや、細繊度のものを用いることができる。また、高収縮性を有するものを用いることもできる。
【0036】
また、本発明の織編物は、本発明複合繊維を一部に用いて製織又は製編して得られた織物又は編物の生機に、アルカリ減量処理を施し、本発明複合繊維中のポリエステル樹脂Bを溶出させ、ポリエステル樹脂Aの部分を分割割繊させることによって得ることができる。製造方法の詳細は後述する。
【0037】
本発明の織編物は、特に組織など限定されない。織物としては、織、綾織(ツイル)、朱子織、ドビー織、二重織などが挙げられる。本発明の編物においても、編物の組織も特に限定されず、天竺、スムース、フライス、ピケ等の丸編、シングルトリコット、ハーフトリコット等の経編等が挙げられる。
【0038】
次に、再生ポリエステル樹脂であるポリエステル樹脂Aの製造方法について説明する。本発明のポリエステル樹脂Aの製造方法においては、(1)~(5)に示す工程を順に行うことが重要である。
(1)エチレングリコールとテレフタル酸のスラリーを添加し、エチレンテレフタレートオリゴマーを得る。
(2)(1)で得られたオリゴマーに対して、エチレングリコールを添加する。
(3)(2)で得られたエチレングリコールを添加したオリゴマー中に、常圧下、撹拌しながらリサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35となるように投入し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行う。
(4)(3)で得られた解重合体を濾過粒度10~25μmの金属製のフィルターを通過させて異物を濾過する。
(5)(4)で得られた異物濾過後の解重合体に、重合触媒を添加し、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。
【0039】
まず、(1)の工程においては、リサイクルポリエステル原料〔a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種〕を解重合する前段階として、エチレングリコールとテレフタル酸のスラリーを添加し、エステル化反応物(エチレンテレフタレートオリゴマー)を得る。エチレンテレフタレートオリゴマーの量は、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂100質量%中の0.20~0.80質量%とすることが好ましく、0.30~0.70質量%とすることがより好ましい。
エチレンテレフタレートオリゴマーの量が上記より少ない場合(3)の工程においてリサイクルポリエステル原料を投入した際に、リサイクルポリエステル原料同士がブロッキングを起こしやすくなり、攪拌機に過大な負荷がかかるため好ましくない。
一方、エチレンテレフタレートオリゴマーの量が上記範囲より多い場合は解重合反応に特に問題は起きないが、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂のリサイクル率が低くなり好ましくない。
【0040】
(2)の工程においては、(1)で得られたエチレンテレフタレートオリゴマーに対して、エチレングリコールを添加する。
このときのエチレングリコールの添加量は、(3)の工程における解重合反応を十分に進行させるため、エチレンテレフタレートオリゴマーを100質量%に対して、5~15質量%とすることが好ましく、中でも10~15質量%とすることがより好ましい。エチレングリコールの添加量が15質量%を超えると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなる場合があり、好ましくない。
エチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールを投入する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的で、攪拌機を回しながら内容物の温度を均一にし、投入することが好ましい。
【0041】
(3)の工程においては、(2)で得られたエチレングリコールを添加したオリゴマー中に、撹拌しながらリサイクルポリエステル原料を投入する。このとき、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35となるように投入し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行う。
本発明の製造方法においては、この工程が重要である。つまり、リサイクルポリエステル原料を利用した従来の方法においては、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行っているが、本発明においては、エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合を行い、かつオリゴマー、エチレングリコール、リサイクルポリエステル原料の全ての成分を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.08~1.35となるようにしてリサイクルポリエステル原料を投入し、解重合を行うものである。全グリコール成分/全酸成分のモル比は、中でも1.10~1.33であることが好ましく、さらには、1.12~1.30であることが好ましい。
上記したような(1)~(3)の工程を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、(4)の工程において、これらの異物をもれなく濾過することができる。そして、(5)の工程の重縮合反応において、本発明の特性値として、ジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が特定量以下のものであり、かつ異物の混入量が少ない再生ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
なお、本発明の製造方法においては、上記の解重合反応により、リサイクルポリエステル原料をモノマーにまで分解されずに、繰り返し単位が5~20程度のオリゴマーまで分解されることが望ましい。このように制御することにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われる結果、より多くの異物を取り除くことが可能となる。
解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外であると、得られる再生ポリエステル樹脂は、本発明で規定する、カルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量の少なくとも一方を満足しないものとなり、また、平均昇圧速度が高いものとなる。これは、解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外である場合、各種の無機物や非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われないため、(4)の工程において、これらの異物をもれなく濾過することができず、(5)の工程の重縮合反応後に異物が析出し、その結果、平均昇圧速度が高い再生ポリエステル樹脂となる。
【0042】
本発明の製造方法で用いる反応器は、容量や攪拌翼の形状は、一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、エチレングリコールを系外に溜出させない蒸留塔を併設している構造となっていることが好ましい。
リサイクルポリエステル原料を投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。
【0043】
(3)の工程で行う解重合時の反応温度は、反応器の内温を245~280℃の範囲に設定して行うことが好ましく、中でも内温を255~280℃の範囲に設定して行うことがより好ましい。解重合時の反応温度が245℃未満になる場合には、反応物が固化し、操業性が悪化するとともに、再生ポリエステル樹脂が得られたとしても、ジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる。反応温度が280℃を超える場合は、得られる再生ポリエステル樹脂のジエチレングリコールの含有量やカルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる。
また、解重合の反応時間(リサイクルポリエステル原料の投入終了後からの反応時間)は、4時間以内が好ましく、ジエチレングリコールの副性量を抑えること、ポリエステルの色調悪化を抑える観点から、2時間以内とすることがより好ましい。
【0044】
(4)の工程においては、(3)の工程で解重合反応を行った解重合体を、濾過粒度10~25μmの金属製のフィルターを通過させて異物を濾過する。上記したように、(3)の工程の条件で解重合反応を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、濾過粒度10~25μmの金属製のフィルターを通過させることにより、析出した異物を濾過し、異物の混入量の少ない解重合体を得ることができる。
濾過粒度が25μmより大きい金属製のフィルターを使用すると、ポリマー中の異物を十分に除去できず、得られる再生ポリエステル樹脂中の異物が多くなる。このため、このような樹脂を用いて紡糸を行うと、ノズルパックの昇圧や切糸が生じる。一方、濾過粒度が10μmよりも小さい金属フィルターを使用すると、異物による目詰まりが生じやすく、フィルターライフが短くなることにより、コスト的に不利となり、また、操業性も悪化する。
【0045】
また、本発明の(4)の工程で使用できる金属製のフィルターとしては、一般的なもので特に問題ないが、スクリーンチェンジャー式のフィルターやリーフディスクフィルターやキャンドル型焼結フィルターなどが挙げられる。
【0046】
そして、本発明の製造方法においては、上記の工程(4)を経て得られた異物濾過後の解重合体に、重合触媒を添加し、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重合触媒としては、例えば、ゲルマニウム、アンチモン、チタン及びコバルト化合物などの1種以上を用いることができるが、好ましくはゲルマニウム又はアンチモン化合物を使用する。さらに、得られる再生ポリエステル樹脂の透明性を重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。ゲルマニウム又はアンチモンの化合物としては、それらの酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物などが例示される。これらの重縮合触媒は、生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対し5×10-5モル/unit以上とすることが好ましいが、中でも6×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。
なお、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒も重縮合反応時に触媒として作用する場合もあるため、(4)の工程で重合触媒を添加する際には、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒の量や種類を考慮することが好ましい。
【0047】
また、重縮合反応時には、上記の重合触媒と併せて、脂肪酸エステルやヒンダードフェノール系抗酸化剤やリン化合物を添加して、重縮合反応を行うこともできる。
脂肪酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等が挙げられる。中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましい。
【0048】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。
【0049】
リン化合物としては、亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。
【0050】
そして、重縮合反応槽において、温度260℃以上、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が260℃未満であったり、重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣るものとなる。
重縮合反応温度は、中でも270℃以上とすることがより好ましい。ただし、重縮合反応温度が高過ぎると熱分解によりポリマーが着色し、色調が悪化すること、同じく熱分解により末端基量(COOH)が高くなるため、本発明においては、重縮合反応温度の上限は、285℃以下とすることが好ましい。
【0051】
上記の重縮合反応により得られる本発明のポリエステル樹脂Aの極限粘度は、溶融紡糸を行うことを考慮し、0.38~0.70dl/gであることが好ましい。
【0052】
次に、本発明複合繊維の製造方法を説明する。
以下は、本発明複合繊維がFDYである場合の製造方法の一実施態様であり、通常の複合紡糸装置を用いて溶融紡糸を行うことができる。本発明のFDYの溶融複合紡糸に際しては、紡糸口金からポリエステル樹脂Bがポリエステル樹脂Aを分割するように紡糸する。具体的には、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bとを準備し、それぞれを別々に溶融した後、別々の配管を通り、口金パックへ流入する。パックへ流入したポリマーは口金により合流され、公知の技術により割繊型、オレンジ型、海島型などの形態に複合され口金より吐出される。この際、紡糸温度280~295℃、紡糸速度3000~3600m/分の条件で紡糸することが適当である。紡糸後、口金から吐出されたポリマーは冷却、固化され、油剤が付与された後、延伸温度70~90℃、延伸倍率1~2倍、熱処理温度140~170℃にて延伸、熱処理することで、本発明複合繊維(FDY)が得られる。
【0053】
次に、本発明の織編物の製造方法を説明する。
本発明の織編物は、例えば上記の製造方法で得られた本発明複合繊維を一部に用いて製織、製編等の工程を経て得られた生機に対して、アルカリ減量処理を施すことによって得られる。
アルカリ減量処理は、従来公知の方法で行なえばよい。図1(a)に示すような分割型複合繊維の場合、アルカリ溶液による溶解除去量、すなわち減量量は15~30質量%程度であることが好ましく、20~25質量%程度であることがより好ましい。減量率が15質量%未満の場合、分割型複合繊維の分割割繊が十分に行われず、手触りの良好な織編物とならない傾向が生じる。また減量率が30質量%を超えると、分割割繊は良好に行なわれるものの、極細繊維も若干溶解され、得られた織編物の強力が低下する傾向が生じる。
アルカリ溶解による処理の条件は、一般的にポリエステル繊維構造物の減量加工で実施されている方法であり、例えば、0.5%~5.0%の水酸化ナトリウム水溶液を使用する方法を挙げることができる。より好ましくは1.0%~3.0%、特に好ましくは、1.0%~2.0%である。処理温度は85℃~100℃が好ましく、90℃~98℃がより好ましい。
【実施例
【0054】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)ポリエステル樹脂の組成
重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比が1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合成分の種類と含有量を求めた。
(c)カルボキシル末端基濃度
得られた再生ポリエステル樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
(d)昇圧試験機により測定した平均昇圧速度
前記の方法で測定した。
【0055】
(e)分割型複合繊維の強度
JIS L-1013に従い、島津製作所製オートグラフDSS-500を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cmで測定した。
(f)分割型複合繊維の伸度
JIS L-1013に従い、島津製作所製オートグラフDSS-500を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cmで測定した。
(g)分割型複合繊維の単糸繊度(dtex)
JIS L-1013 8.3.1B法に従い測定した。
【0056】
(h)紡糸性
POYを得る際の、溶融紡糸時の糸切れの状況を、24時間連続して溶融紡糸を行った際の1錘あたりの糸切れ回数により、以下のように3段階で評価した。
○・・糸切れ回数が0回であった。
△・・糸切れ回数が1~2回であった。
×・・糸切れ回数が3回以上であった。
(i)延伸性
POYを延伸する際の糸切れの状況を、100錘で10時間連続して延伸を行った際の切断回数(合計回数)により、以下のように3段階で評価した。
○・・切断回数が0~1回であった。
△・・切断回数が2~4回であった。
×・・切断回数が5回以上であった。
(j)織物の立毛感(起毛感、毛並み)
得られた織物に対し、触感により、立毛感を下記の基準で評価した。
○:立毛感が良好である。
△:立毛感が普通である。
×:立毛感が不十分である。
(k)織物のソフト感
得られた織物に対し、触感により、ソフト感を下記の基準で評価した。
○:肌触りがソフトである。
△:肌触りが普通である。
×:肌触りが硬い。
【0057】
〔再生ポリエステル樹脂の製造〕
再生ポリエステル樹脂A
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃及び圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー45.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いてエステル化反応器の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを10.0質量部投入した。エステル化反応器(以後「ES缶」と表記する。)の内温降下が止まったところより、55.0質量部のリサイクルポリエステル原料(ポリエステル樹脂を製造する工程で発生するポリエステル屑のペレット状のもの)をロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比(以下「G/A」と表記することがある。)が1.20となるように投入した。
その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、エステル化反応器と重縮合反応器との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットして重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.20質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、再生ポリエステル樹脂A(極限粘度:0.64)を得た。
【0058】
再生ポリエステル樹脂B
再生ポリエステル樹脂Aと同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー30.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを7.0質量部投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、70.0質量部のリサイクルポリエステル原料(実施例1と同様のもの)をロータリーバルブを介し約2時間かけて定量投入した。
このとき、リサイクルポリエステル原料をG/Aが1.10となるように投入した。その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unitとなるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で5時間、溶融重合反応を行い、再生ポリエステル樹脂B(極限粘度:0.65)を得た。
【0059】
再生ポリエステル樹脂C
実施例1と同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。エチレンテレフタレートオリゴマー45.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを7.0質量部投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、55.0質量部のリサイクルポリエステル原料(PETボトルを粉砕又は再溶融してペレット化したもの)をロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。
このとき、リサイクルポリエステル原料を、G/Aが1.16となるように投入した。その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.40質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、再生ポリエステル樹脂C(極限粘度:0.64)を得た。
【0060】
再生ポリエステル樹脂D
実施例1と同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー45.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコールを10.0質量部投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、55.0質量部のリサイクルポリエステルをロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、リサイクルポリエステル原料(実施例1と同様のもの)をG/Aが1.20となるように投入した。
その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き25μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、酢酸コバルトを0.5×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.05質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度280℃で3時間、溶融重合反応を行い、再生ポリエステル樹脂D(極限粘度:0.56)を得た。
【0061】
再生ポリエステル樹脂E
再生ポリエステル樹脂Aと同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー30.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコール2.5質量部を投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、70.0質量部のリサイクルポリエステルをロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、リサイクルポリエステル原料(実施例1と同様のもの)をG/Aが1.06となるように投入した。
その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、酢酸コバルトを0.5×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.40質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、再生ポリエステル樹脂E(極限粘度:0.64)を得た。
【0062】
再生ポリエステル樹脂F
再生ポリエステル樹脂Aと同様にして、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー50.0質量部をES缶に仕込み、続いてES缶の撹拌機を回した状態でエチレングリコール19.0質量部を投入した。ES缶の内温降下が止まったところより、50.0質量部のリサイクルポリエステルをロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。このとき、リサイクルポリエステル原料(実施例1と同様のもの)をG/Aが1.36となるように投入した。
その後、270℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、ES缶とPC缶との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットしてPC缶へ圧送した後、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、酢酸コバルトを0.5×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.40質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で4時間、溶融重合反応を行い、再生ポリエステル樹脂F(極限粘度:0.64)を得た。
【0063】
バージンポリエステル樹脂
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー100.0質量部をPC缶に仕込み、重合触媒として三酸化アンチモンを1.0×10-4mol/unit、二酸化チタンのEGスラリーを0.20質量%となるよう加え、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa、温度275℃で3時間、溶融重合反応を行い、バージンポリエステル樹脂(極限粘度0.46)を得た。
【0064】
再生ポリエステル樹脂A~F及びバージンポリエステル樹脂の特性値を表1に示す
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかなように、前述した工程(1)~(5)を順に行なって得られた再生ポリエステル樹脂A~Dは、カルボキシル末端基量、ジエチレングリコールの含有量が本発明で規定する範囲内のものであり、平均昇圧速度も低いものであった。
一方、再生ポリエステル樹脂Eでは、前述した工程(3)の解重合反応時のG/Aが低いため、カルボキシル末端基濃度が高く、平均昇圧速度も高いものであった。
再生ポリエステル樹脂Fでは、前述した工程(3)の解重合反応時のG/Aが高いため、ジエチレングリコールの含有量が高く、平均昇圧速度も高いものであった。
【0067】
実施例1
ポリエステル樹脂Aとして再生ポリエステル樹脂A、ポリエステル樹脂Bとして5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP-Na)を2.5モル%と、平均分子量8000のポリエチレングリコール(PEG)を12.0質量%共重合した極限粘度0.72の共重合PETを用い、ポリエステル樹脂A/Bの複合質量比を81.2/18.8とし、紡糸温度288℃、吐出量36g/分で、ポリエステル樹脂Bがポリエステル樹脂Aを8個に分割するように設計された48孔の紡糸孔を有する紡糸口金をそなえた複合紡糸装置を用いて紡糸した。そして、紡出した糸条を冷却、油剤付与し、3100m/分の速度で巻き取り、120dtex/48フィラメントのPOYを採取した。次に、このPOYを84℃の加熱ローラーを介し、1.56倍に延伸し、さらに153℃のヒートプレート上で熱処理を行い、75dtex/48フィラメントの分割型複合繊維(FDY)を得た。得られた分割型複合繊維は、強度が3.45cN/dtex、伸度が37.9%であり、各単繊維の断面形状は、図1の(b)に示すようなものであった。
得られた分割型複合繊維を市販の仮撚加工機を使用して、加工温度175℃、仮撚数3000回/mで仮撚加工を行い、この加工糸を経糸及び緯糸に用いて生機密度が経145本/2.54cm、緯95本/2.54cmの平織物を製織した。得られた平織物を染色加工工程で苛性ソーダ20g/L、浴比1:30、温度98℃の条件でアルカリ減量処理を施すことにより、織物中の上記分割型複合繊維からポリエステル樹脂Bを溶解除去して、ポリエステル樹脂Aからなる極細繊維に分割割繊した。その後、常法の仕上工程を行い、織物を得た。
【0068】
実施例2
ポリエステル樹脂Aに再生ポリエステル樹脂Bを用いた以外は実施例1と同様にして本発明複合繊維75dtex/48フィラメントを得た。さらに実施例1と同様にして製織及びアルカリ減量処理を行うことで織物を得た。
【0069】
実施例3
ポリエステル樹脂Aに再生ポリエステル樹脂Cを用いた以外は実施例1と同様にして本発明複合繊維75dtex/48フィラメントを得た。さらに実施例1と同様にして製織及びアルカリ減量処理を行うことで織物を得た。
【0070】
実施例4
ポリエステル樹脂Aに再生ポリエステル樹脂Dを用いた以外は実施例1と同様にして本発明複合繊維75dtex/48フィラメントを得た。さらに実施例1と同様にして製織及びアルカリ減量処理を行うことで織物を得た。
【0071】
比較例1
ポリエステル樹脂Aに再生ポリエステル樹脂Eを用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステル系分割型複合繊維75dtex/48フィラメントを得た。さらに実施例1と同様にして製織及びアルカリ減量処理を行うことで織物を得た。
【0072】
比較例2
ポリエステル樹脂Aに再生ポリエステル樹脂Fを用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステル系分割型複合繊維75dtex/48フィラメントを得た。さらに実施例1と同様にして製織及びアルカリ減量処理を行うことで織物を得た。
【0073】
参考例1
ポリエステル樹脂Aにバージンポリエステル樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてポリエステル系分割型複合繊維78dtex/48フィラメントを得た。さらに実施例1と同様にして製織及びアルカリ減量処理を行うことで織物を得た。
【0074】
【表2】
表2から明らかなように、実施例1~4で得られたポリエステル系分割型複合繊維は、図1の(b)に示すようなポリエステル樹脂Aがポリエステル樹脂Bにより複数個に分割されている複雑な断面形状の複合繊維を紡糸性よく得ることができた。また、糸質物性もバージンポリエステル樹脂を用いたものと遜色がなく、実用上問題のない繊維を得ることができた。また、実施例1~4で得られたアルカリ減量処理後の織物の風合いも、アルカリ減量処理して得られたポリエステル樹脂Aからなる繊維の形状や大きさが揃っていたため、立毛感、ソフト感ともにバージンポリエステル樹脂を用いたものと遜色がないものであった。
一方、比較例1で得られたポリエステル系分割型複合繊維は、用いた再生ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基濃度が高かったため、紡糸性が悪く、複合繊維の断面形状は、ポリエステル樹脂Aが図1の(b)に示すような個々の形状や大きさが揃った断面形状のものとすることができなかった。また、糸質物性も低強度・低伸度のものとなった。また、得られたアルカリ減量処理後の織物の風合いは、アルカリ減量処理して得られたポリエステル樹脂Aからなる繊維の形状や大きさにばらつきが生じたため、立毛感に劣るものであった。
比較例2で得られたポリエステル系分割型複合繊維は、用いた再生ポリエステル繊維のジエチレングリコールの含有量が高かったため、延伸性に劣る結果となり、複合繊維の断面形状は、ポリエステル樹脂Aが図1の(b)に示すような個々の形状や大きさが揃った断面形状のものとすることができなかった。また、得られたアルカリ減量処理後の織物の風合いは、アルカリ減量処理して得られたポリエステル樹脂Aからなる繊維の形状や大きさにばらつきが生じたため、ソフト感に劣るものであった。
【符号の説明】
【0075】
1 ポリエステル樹脂A
2 ポリエステル樹脂B
3 中空部
図1