(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】磁気センサおよび磁気センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 10/12 20060101AFI20241028BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20241028BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20241028BHJP
H01F 41/22 20060101ALI20241028BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241028BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20241028BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20241028BHJP
【FI】
H01F10/12
H01F10/32
H01F41/18
H01F41/22
H01F1/147 191
G01R33/09
H10N50/10 M
(21)【出願番号】P 2020207446
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス:https://doi.org/10.1063/1.5129953 ウェブサイトの掲載日:2020年(令和2年)1月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム スピン流を用いた新機能デバイス実現に向けた技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】大兼 幹彦
(72)【発明者】
【氏名】赤松 昇馬
(72)【発明者】
【氏名】安藤 康夫
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 静似
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-161909(JP,A)
【文献】特開2011-159891(JP,A)
【文献】特開2002-042318(JP,A)
【文献】特開平11-134620(JP,A)
【文献】国際公開第2007/126071(WO,A1)
【文献】特開2020-136551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/12
H10N 50/10
H01F 10/32
H01F 41/18
H01F 41/22
H01F 1/147
G01R 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記固定層と前記自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、
前記自由層はFeSiAl合金薄膜を含
み、前記FeSiAl合金薄膜は、Siを7wt%~10wt%、Alを4wt%~8wt%含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmであり、A2の構造とB2の構造とを含むことを
特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
請求項
1記載の磁気センサの製造方法であって、
スパッタリングにより基板上に、前記自由層と前記絶縁層と前記固定層とを、この順番またはこれとは反対の順番で形成した後、275℃以上375℃以下の温度で熱処理を行うことを
特徴とする磁気センサの製造方法。
【請求項3】
前記自由層を形成するとき、スパッタリングにより、Siを7wt%~10wt%、Alを4wt%~8wt%含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする請求項
2記載の磁気センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサおよび磁気センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高感度を示す磁気センサとして、磁気トンネル接合(MTJ)素子のトンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用したTMRセンサがある。MTJ素子は、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、固定層と自由層との間に配置された絶縁層とを有しており、自由層の磁気異方性を制御することにより、磁気センサの特性を制御することができる。このような磁気センサは、心臓や脳などの生体から発生する微弱な磁場を検出することが可能であり、室温で動作する生体磁気計測装置に利用することができる。また、非接触での電流の測定も可能であり、消費電力も小さく、感度も高いため、例えば、電気自動車のバッテリーの蓄電残量検知などに効果的に利用することができる。さらに、コンクリート構造物中の鉄筋などの破断や劣化を検知するための、非破壊検査用磁気センサとしても利用できる。
【0003】
従来、磁気センサに利用可能なMTJ素子として、例えば、自由層にNiFe合金を用いたもの(例えば、非特許文献1参照)や、CoFeB合金を用いたもの(例えば、非特許文献2参照)、CoFeSiB合金を用いたもの(例えば、非特許文献3参照)などが開発されている。
【0004】
ここで、磁気センサの感度は、MTJ素子の自由層の磁気抵抗比をTMR比、異方性磁場をHkとすると、TMR比/2Hkによって表すことができる。この式から、TMR比が大きく、異方性磁場Hkが小さいほど、感度が高くなることがわかる。また、結晶磁気異方性定数をK1、飽和磁化の大きさをMsとすると、異方性磁場Hkは、Hk=2×K1/Msで定義される。このように、異方性磁場Hkは結晶磁気異方性定数K1に比例することから、結晶磁気異方性定数K1を小さくしても、磁気センサの感度は高くなる。
【0005】
従来の磁気センサよりも感度を高めるために、自由層に使用する合金として、非特許文献1乃至3に記載のような合金とは異なり、これまで自由層に使用されていなかった合金にまで対象を広げることも効果的であると考えられる。これまで自由層に使用されていなかった合金として、例えば、6wt%~12wt%のSiと、3wt%~10wt%のAlと、残部のFeとを主成分とするFeSiAl合金(センダスト)がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
FeSiAl合金(センダスト)は、その中心組成(Fe85Al5.38Si9.62;数字はwt%)で、透磁率が30000以上となることが知られている(例えば、非特許文献4参照)。また、FeSiAl合金(センダスト)は、その中心組成でK1および飽和磁歪定数λsがゼロとなり、軟磁性特性を発現することや、その軟磁性特性が組成や製造時の熱処理温度に非常に敏感であることが知られている(例えば、非特許文献5参照)。また、製造時の熱処理温度が高くなるほど、原子規則度が高くなることも知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kosuke Fujiwara, Mikihiko Oogane, Saeko Yokota, Takuo Nishikawa, Hiroshi Naganuma, and Yasuo Ando, “Fabrication of magnetic tunnel junctions with a bottom synthetic antiferro-coupled free layers for high sensitive magnetic field sensor devices”, J. Appl. Phys., 2012, Vol. 111, 07C710
【文献】K. Ishikawa, M. Oogane, K. Fujiwara, J. Jono, M. Tsuchida, and Y. Ando, “Investigation of magnetic sensor properties of magnetic tunnel junctions with superparamagnetic free layer at low frequencies for biomedical imaging applications”, Jpn. J. Appl. Phys., 2016, Vol. 55, 123001
【文献】Daiki Kato, Mikihiko Oogane, Kosuke Fujiwara, Takuo Nishikawa, Hiroshi Naganuma, and Yasuo Ando, “Fabrication of Magnetic Tunnel Junctions with Amorphous CoFeSiB Ferromagnetic Electrode for Magnetic Field Sensor Devices”, Applied Physics Express, 2013, Vol. 6, 103004
【文献】増本量、山本達治、「新合金「センダスト」及びFe-Si-Al系合金の磁気的並に電気的性質に就て」、日本金属学会誌、1937年、第1巻、第3号、p.127-135
【文献】高橋研、諏訪部繁和、成田隆之、脇山徳雄、「Fe-Si-Alスパッタ薄膜の磁気特性」、日本応用磁気学会誌、1986年、Vol.10、No.2、p.307-310
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1乃至3に記載の合金は、MTJ素子の自由層の材料として使用されてきたが、磁気センサの感度をさらに高めることを目的として、これまで自由層に使用されていなかった合金で、従来の合金に匹敵する良好な軟磁気特性を有し、自由層に使用可能なものを見出すことが期待されている。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、良好な軟磁気特性を有し、MTJ素子の自由層に使用可能なFeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、MTJ素子の自由層にFeSiAl合金薄膜を含む磁気センサおよび磁気センサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、これまで製造できなかった、ナノメートルオーダー(100nm以下)の厚みを有するセンダストの薄膜の製造に初めて成功し、そのセンダスト薄膜の磁気特性を調べたところ、組成を調整することによって良好な軟磁気特性を有することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、Siを7wt%~10wt%、Alを4wt%~8wt%含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmであることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法は、スパッタリングにより基板上に、Siを7wt%~10wt%、Alを4wt%~8wt%含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、本発明に係るFeSiAl合金薄膜の製造方法により好適に製造することができる。本発明に係るFeSiAl合金薄膜は、例えば、非特許文献1に記載のNiFe合金や非特許文献3に記載のCoFeSiB合金と比べて、同等程度またはより小さい異方性磁場Hkを有しており、良好な軟磁気特性を有している。このため、MTJ素子の自由層に使用することにより、良好な感度を有する磁気センサを得ることができる。また、NiFe合金やCoFeB合金、CoFeSiB合金と比べて安価に製造することができる。
【0015】
本発明に係る磁気センサは、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、前記固定層と前記自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、前記自由層はFeSiAl合金薄膜を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る磁気センサは、自由層がFeSiAl合金薄膜を含んでおり、これまでには無い、新たな構成の磁気センサである。本発明に係る磁気センサで、自由層に含まれるFeSiAl合金薄膜は、本発明に係るFeSiAl合金薄膜であることが好ましい。この場合、特に良好な感度を有している。
【0017】
本発明に係る磁気センサの製造方法は、本発明に係る磁気センサを製造するための方法であって、スパッタリングにより基板上に、前記自由層と前記絶縁層と前記固定層とを、この順番またはこれとは反対の順番で形成した後、275℃以上375℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る磁気センサの製造方法は、自由層にFeSiAl合金薄膜を含む、これまでには無い、新たな構成の磁気センサを得ることができる。本発明に係る磁気センサの製造方法は、前記自由層を形成するとき、スパッタリングにより、Siを7wt%~10wt%、Alを4wt%~8wt%含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmの薄膜を成膜した後、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。この場合、本発明に係るFeSiAl合金薄膜を含む自由層を形成することができる。このため、特に良好な感度を有する磁気センサを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好な軟磁気特性を有し、MTJ素子の自由層に使用可能なFeSiAl合金薄膜およびFeSiAl合金薄膜の製造方法、ならびに、MTJ素子の自由層にFeSiAl合金薄膜を含む磁気センサおよび磁気センサの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、磁気特性等を調べるための試料を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、各熱処理温度T
aでの(a)試料1のXRDスペクトル、(b)試料2のXRDスペクトル、(c)試料1のXRD φスキャンパターン、(d)試料2のXRD φスキャンパターンである。
【
図3】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、(a)試料1および2の平均表面粗さ(R
a)と熱処理温度T
aとの関係を示すグラフ、(b)試料2の熱処理温度T
aが400℃のときのAFM像である。
【
図4】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときの(a)XRDスペクトル、(b)AFM像である。
【
図5】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、(a)試料1、(b)試料2の各熱処理温度T
aでの磁化曲線(M-H曲線)である。
【
図6】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときの磁化曲線(M-H曲線)である。
【
図7】本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜の、試料2および5の(a)異方性磁場H
kと熱処理温度T
aとの関係を示すグラフ、(b)結晶磁気異方性定数K
1と熱処理温度T
aとの関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態の磁気センサの、TMR比およびセンサ感度を求める磁気トンネル接合(MTJ)素子の各試料(a)~(c)を示す縦断面図である。
【
図9】(a)
図8(a)、(b)
図8(b)、(c)
図8(c)に示す磁気トンネル接合素子の、各熱処理温度T
MTJでの磁気抵抗曲線である。
【
図10】
図8(a)~(c)に示す磁気トンネル接合素子のセンサ感度と熱処理温度T
MTJとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至
図10は、本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜および磁気センサを示している。
【0022】
本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜は、Siを7wt%~10wt%、Alを4wt%~8wt%含み、残部がFeおよび不可避不純物から成り、膜厚が20nm~100nmである。
【0023】
また、本発明の実施の形態の磁気センサは、磁化方向が固定されている固定層と、磁化方向が変化可能な自由層と、固定層と自由層との間に配置された絶縁層とを有する磁気トンネル接合素子を利用した磁気センサであって、自由層はFeSiAl合金薄膜を含んでいる。FeSiAl合金薄膜は、本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜であることが好ましい。
【実施例1】
【0024】
本発明の実施の形態のFeSiAl合金薄膜を製造し、その磁気特性等を調べた。
図1に示すように、マグネトロンスパッタリングにより、MgO基板11の上に、厚さ20nmのMgO層12と、厚さ30nmのFeSiAl合金薄膜13と、厚さ5nmのTa層14とを、この順序で積層して試料1~5を作製した。各試料のFeSiAl合金薄膜13は、成膜後、300~500℃の温度(T
a)で、1時間の熱処理を行った。各試料のFeSiAl合金薄膜13の組成を、表1に示す。なお、FeSiAl合金薄膜13の組成は、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma;ICP)分析により求めた。
【0025】
【0026】
試料1~3のFeSiAl合金薄膜13に対して、X線回折法による測定およびAFM(原子間力顕微鏡)による表面観察を行った。試料1および2のFeSiAl合金薄膜13の、熱処理前、熱処理温度T
aが300℃、400℃、500℃のときのXRDスペクトルを、それぞれ
図2(a)および(b)に、XRD φスキャンパターンを、それぞれ
図2(c)および(d)に示す。また、試料1および2のFeSiAl合金薄膜13の、熱処理前、熱処理温度T
aが300℃、400℃、500℃のときのAFM観察により求められた平均表面粗さ(R
a)を、
図3(a)に、試料2の熱処理温度T
aが400℃のときのFeSiAl合金薄膜13のAFM像を、
図3(b)に示す。また、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときのFeSiAl合金薄膜13のXRDスペクトルおよびAFM像を、それぞれ
図4(a)および(b)に示す。
【0027】
図2(a)および(b)に示すように、試料1および2のFeSiAl合金薄膜13では、300~500℃のいずれの熱処理温度でも、A2の構造を示す(004)ピーク、および、B2の構造を示す(002)ピークが認められた。また、
図4(a)に示すように、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときのFeSiAl合金薄膜13でも、A2の構造を示す(004)ピーク、および、B2の構造を示す(002)ピークが認められた。また、
図2(c)および(d)に示すように、試料1および2のFeSiAl合金薄膜13では、400~500℃の熱処理温度のとき、D0
3規則構造を示すピークが認められた。これらの結果から、FeSiAl合金薄膜13は、熱処理温度T
aが300℃のときには、A2およびB2の構造が混在しており、熱処理温度T
aが400~500℃のときには、A2、B2、およびD0
3の構造が混在していると考えられる。
【0028】
また、
図3(a)、(b)および
図4(b)に示すように、試料1~3のFeSiAl合金薄膜13では、300~500℃のいずれの熱処理温度でも、平均表面粗さ(R
a)は、0.1~0.6nm程度であり、膜厚(30nm)と比較すると表面粗さは非常に小さいことが確認された。
【0029】
次に、試料1~3のFeSiAl合金薄膜13の磁化曲線(M-H曲線)を求めた。試料1および2のFeSiAl合金薄膜13の、熱処理前、熱処理温度T
aが300℃、400℃、500℃のときの磁化曲線を、それぞれ
図5(a)および(b)に示す。また、試料3の熱処理温度T
aが400℃のときのFeSiAl合金薄膜13の磁化曲線を、
図6に示す。各磁化曲線は、[100]方向(面内方向)に沿って測定したものである。
【0030】
図5に示すように、試料1および2の熱処理後のFeSiAl合金薄膜13は、保磁力(H
c)が6Oe以下であり、試料1の熱処理温度が500℃のものを除くと、保磁力(H
c)が4Oe以下であることが確認された。また、
図6に示すように、試料3の熱処理温度が400℃のものは、保磁力(H
c)が約1.6Oeであることが確認された。これらの保磁力の値は、非特許文献1のNiFe系合金や非特許文献3のCoFeSiB系合金の保磁力の値と同程度であり、FeSiAl合金薄膜13は良好な軟磁気特性を有しているといえる。
【0031】
次に、試料2および5のFeSiAl合金薄膜13の、熱処理前、熱処理温度T
aが300~500℃のものに対して、室温で振動試料型磁力計(VSM)による測定を行い、その測定結果から、各試料の異方性磁場H
kを求めた。さらに、その異方性磁場H
kから、H
k=2×K
1/M
s(M
s:飽和磁化の大きさ)の式を用いて、結晶磁気異方性定数K
1を求めた。異方性磁場H
kおよび結晶磁気異方性定数K
1と、熱処理温度T
aとの関係を、それぞれ
図7(a)および(b)に示す。なお、
図7(a)には、非特許文献1のNiFe系合金および非特許文献3のCoFeSiB系合金の異方性磁場H
kの値も示している。
【0032】
図7(a)に示すように、FeSiAl合金薄膜13は、熱処理温度T
aが350℃~500℃のとき、NiFe系合金やCoFeSiB系合金と比べて、同等程度またはより小さい異方性磁場H
kを有していることが確認された。また、
図7(b)に示すように、FeSiAl合金薄膜13は、熱処理温度T
aが350℃~500℃のとき、結晶磁気異方性定数K
1がゼロ近傍に集中しており、K
1の大きさが非常に小さい値になっていることが確認された。この結果から、FeSiAl合金薄膜13は良好な軟磁気特性を有しているといえる。
【実施例2】
【0033】
図8(a)~(c)に示すように、表1に示す試料3のFeSiAl合金薄膜13を自由層に用いた磁気トンネル接合(MTJ)素子を3つ作製し、TMR比およびセンサ感度を求めた。作製した各MTJ素子は、下層から上層に向かって、以下の構造を有している。
図8(a):MgO-sub./MgO(20)/FeSiAl(30)/MgO(2.0)/Co
25Fe
75(5)/IrMn(10)/Ta(5)/Ru(10)
図8(b):SiO
2-sub./Ta(5)/CoFeB(5)/MgO(20)/FeSiAl(30)/CoFeB(1.0)/MgO(2.0)/CoFeB(3)/Ru(0.85)/CoFe(5)/IrMn(10)/Ta(5)/Ru(10)
図8(c):SiO
2-sub./Ta(5)/CoFeB(5)/MgO(20)/FeSiAl(30)/MgO(2.0)/CoFeB(3)/Ru(0.85)/CoFe(5)/IrMn(10)/Ta(5)/Ru(10)
なお、括弧内の数字は膜厚で、単位はnmである。
【0034】
各MTJ素子は、平面形状が面積20×40~40×80μm
2の長方形であり、DC/RFマグネトロンスパッタ法により各層を成膜した後、10kOeの磁場中で、250℃~425℃の熱処理温度(T
MTJ)で熱処理を行って作製した。各MTJ素子の基板(sub.)21とFeSiAl(30)層との間の層は、下地層22であり、基板21の表面の粗さを整え、FeSiAl(30)層の結晶の配向性を高めるために設けられている。
図8(b)および(c)の下地層22のMgO(20)は、成膜後、600℃の熱処理温度T
MgOで熱処理して形成されている。
【0035】
下地層22の上部の、
図8(a)および(c)のFeSiAl(30)層、ならびに、
図8(b)のFeSiAl(30)/CoFeB(1.0)層は、自由層23であり、磁化方向が変化可能である。自由層23のFeSiAl(30)層は、成膜後、400℃の熱処理温度T
aで熱処理して形成されている。自由層23の上部のMgO(2.0)層は、絶縁層24である。絶縁層24の上部の、
図8(a)のCo
25Fe
75(5)層、ならびに、
図8(b)および(c)のCoFeB(3)/Ru(0.85)/CoFe(5)層は、固定層25であり、磁化方向が固定されている。固定層25の上部のIrMn(10)は、反強磁性層26である。反強磁性層26の上部のTa(5)/Ru(10)層は、キャップ層27である。
【0036】
様々な熱処理温度T
MTJで作製した
図8(a)~(c)の各MTJ素子に対して、直流4端子法により、面内方向の磁場Hを-1000Oe~+1000Oeまでスイープしたときの磁気抵抗曲線を求めた。その結果を、それぞれ
図9(a)~(c)に示す。
図9(a)に示すように、
図8(a)に示すMTJ素子は、熱処理温度T
MTJが325~375℃のとき、55%以上のTMR比を有することが確認された。
図9(b)に示すように、
図8(b)に示すMTJ素子は、熱処理温度T
MTJが250~350℃で30%以上のTMR比を有し、熱処理温度T
MTJが300℃のとき、最大TMR比51.0%を示すことが確認された。また、
図9(b)の挿入図に示すように、軟磁気特性を反映した小さい反転磁界が確認された。
図9(c)に示すように、
図8(c)に示すMTJ素子は、熱処理温度T
MTJが300℃のとき、TMR比が30%以上となり、最大TMR比35.9%を示すことが確認された。また、
図9(c)の挿入図に示すように、350℃以下で、軟磁気特性を反映した小さい反転磁界が確認された。
図9(b)と
図9(c)とを比較すると、自由層23にCoFeB(1.0)層を挿入することにより、TMR比が向上していることが確認された。
【0037】
図9に示す各結果から、様々な熱処理温度T
MTJで作製した
図8(a)~(c)の各MTJ素子のセンサ感度を求め、
図10に示す。なお、
図10には、非特許文献1のNiFe系合金を用いたMTJ素子のセンサ感度も示している。
図10に示すように、各MTJ素子は、熱処理温度T
MTJが375℃以下のとき、高いセンサ感度を有することが確認された。特に、
図8(a)に示すMTJ素子では、NiFe系合金を利用したMTJ素子と同等程度のセンサ感度を有していることが確認された。このことから、MTJ素子の自由層にFeSiAl合金薄膜を使用することにより、良好な感度を有する磁気センサを得ることができるといえる。
【符号の説明】
【0038】
11 MgO基板
12 MgO層
13 FeSiAl合金薄膜
14 Ta層
21 基板
22 下地層
23 自由層
24 絶縁層
25 固定層
26 反強磁性層
27 キャップ層