(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】金属部品の製造方法及び金属シート
(51)【国際特許分類】
C23F 1/00 20060101AFI20241028BHJP
B44C 5/00 20060101ALI20241028BHJP
C23F 1/02 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C23F1/00 D
B44C5/00 G
C23F1/00 104
C23F1/02
(21)【出願番号】P 2022112551
(22)【出願日】2022-07-13
(62)【分割の表示】P 2020144854の分割
【原出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000135748
【氏名又は名称】株式会社バンダイ
(73)【特許権者】
【識別番号】598088620
【氏名又は名称】株式会社バンダイナムコクラフト
(73)【特許権者】
【識別番号】514171876
【氏名又は名称】株式会社セアール
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊田 直希
(72)【発明者】
【氏名】文園 香織
(72)【発明者】
【氏名】松浦 保
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253476(JP,A)
【文献】特開昭48-49638(JP,A)
【文献】特開2008-291329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の第1面をエッチングして前記金属板に凹部を形成し、前記金属板の厚さ方向において金属部品の一部を形成する第1のエッチング工程と、
前記第1面に保護層を貼付する工程と、
前記保護層が貼付された前記金属板の前記第1面と反対側の第2面をエッチングして前記金属板に凹部を形成し、前記金属板の厚さ方向において前記金属部品の残り部分を形成する第2のエッチング工程と、
を含み、
前記第1のエッチング工程で形成される前記凹部には、前記金属部品の輪郭よりも内側の前記金属部品の表面の模様を形成する凹部が含まれ
、
前記第2のエッチング工程では、前記第1のエッチング工程において形成された凹部の一部と接続する凹部を形成することにより、前記金属部品の輪郭を形成する貫通孔が形成され、
前記金属部品は、前記貫通孔により前記金属板と分離可能に構成される、金属部品の製造方法。
【請求項2】
前記第2のエッチング工程では、前記貫通孔を形成する凹部のみが形成される、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2のエッチング工程では、前記金属部品を識別する識別情報が更に形成される、請求項1
に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属部品は、模様、数字、図形、キャラクター、動物、または、植物を表す外観を有する、請求項1から
3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1のエッチング工程の後で、かつ、前記保護層を貼付する工程の前に、前記第1面に着色する工程を更に含む、請求項1から
4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第2のエッチング工程の後に、前記第2面において前記金属部品に剥離層を貼付する工程であって、
前記第2面において、前記金属部品に粘着層を形成する工程と、
前記第2面において、前記粘着層を介して前記金属部品に前記剥離層を貼付する工程と
を含む工程を更に含む、請求項1から
5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記保護層の前記第1面に対する粘着力は、前記粘着層の前記第2面に対する粘着力よりも弱い、請求項
6に記載の製造方法。
【請求項8】
金属シートであって、
金属部品を含み、
前記金属部品は前記金属シートの第1面側に前記金属部品の輪郭よりも内側において模様を形成する凹部を有し、
前記金属シート及び前記金属部品の第1面が保護層により覆われており、
前記金属部品には、前記金属シートの前記第1面と反対側の第2面側において粘着剤を介して剥離層が貼付され
、
前記金属部品は、前記金属シートと同一平面を形成する部分を有し、
前記金属部品は、前記金属シートと同一素材で構成されている、金属シート。
【請求項9】
前記保護層の前記第1面に対する粘着力は、前記粘着剤の粘着力よりも弱い、請求項
8に記載の金属シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品の製造方法及び金属シートに関する。
【背景技術】
【0002】
エッチング工程において、金属部品をエッチング処理により金属板から型抜き(姿抜き)分割することにより、別個独立した金属部品を形成し、その後、別個独立した金属部品の裏面へ接着剤を転写させることで、金属製の装飾用シールを製造する技術がある(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、型抜き分割された後の金属部品にカラー印刷をするので、バラバラな状態にある金属部品の処理位置が狂わないように位置決めするなど、工程が煩雑である。また、金属部品を型抜き分割せずに、その周囲の金属板を含めた全体のレイアウトを保持しつつ、シートとして製造することは考慮されていない。
【0005】
そこで、金属板に金属部品を形成する処理において、個々の金属部品とその周囲の金属板とのレイアウトを保持しつつ、金属部品を容易に金属板から分離可能に形成する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属部品の製造方法であって、
金属板の第1面をエッチングして前記金属板に凹部を形成し、前記金属板の厚さ方向において金属部品の一部を形成する第1のエッチング工程と、
前記第1面に保護層を貼付する工程と、
前記保護層が貼付された前記金属板の前記第1面と反対側の第2面をエッチングして前記金属板に凹部を形成し、前記金属板の厚さ方向において前記金属部品の残り部分を形成する第2のエッチング工程とを含む。
本発明はまた、金属部品の製造方法であって、
金属板の第1面をエッチングして前記金属板に凹部を形成し、前記金属板の厚さ方向において金属部品の一部を形成する第1のエッチング工程と、
前記第1面に保護層を貼付する工程と、
前記保護層が貼付された前記金属板の前記第1面と反対側の第2面をエッチングして前記金属板に凹部を形成し、前記金属板の厚さ方向において前記金属部品の残り部分を形成する第2のエッチング工程と、
を含み、
前記第1のエッチング工程で形成される前記凹部には、前記金属部品の輪郭よりも内側の前記金属部品の表面の模様を形成する凹部が含まれ、
前記第2のエッチング工程では、前記第1のエッチング工程において形成された凹部の一部と接続する凹部を形成することにより、前記金属部品の輪郭を形成する貫通孔が形成され、
前記金属部品は、前記貫通孔により前記金属板と分離可能に構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属板に金属部品を形成する処理において、個々の金属部品とその周囲の金属板とのレイアウトを保持しつつ、金属部品を容易に金属板から分離可能に形成する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】実施形態に対応する金属部品の製造方法の一例を示すフローチャート。
【
図1B】実施形態に対応するエッチング処理の一例を示すフローチャート。
【
図2】実施形態に対応する金属部品の製造方法を説明するための図。
【
図3】実施形態に対応する金属部品の構成例を示す図。
【
図4】実施形態に対応する金属部品の使用例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴うち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。また、各図において、紙面に対する上下左右表裏方向を、本実施形態における部品(またはパーツ)の上下左右表裏方向として、本文中の説明の際に用いることとする。
【0010】
まず、発明の実施形態に対応する金属部品の製造方法を、
図1Aのフローチャート及び
図2に従って説明する。
図1Aは、実施形態に対応する金属部品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2は、
図1Aのフローチャートに従って製造される金属部品の断面の一例を示す図である。
【0011】
図1Aにおいて、S101では、原材料となる厚さ0.1mmから0.15mmの金属板の面のうち第1面に対して、金属板の厚さ方向において金属部品の一部を形成するようにエッチング処理(腐食処理)を行う。金属板は、例えばステンレス製とすることができるが、それ以外の金属、例えばアルミ等であってもよい。エッチング処理の詳細については
図1Bに示すとおりであり、後段で詳細を説明する。
【0012】
ここで、
図2を参照すると、
図2(A)には原材料の金属板200が示されている。金属板200の厚みは説明のために拡大して示しているが、実際の厚みは0.1から0.15mmである。これに対して上側の面を第1面としてエッチング処理を施すと、
図2(B)のように金属板200の表面が、厚さ方向に約半分だけエッチングされ凹部201が形成される。なお、凹部201の幅は均一ではなく、様々な幅とすることができる。また、凹部201の深さも均一でなくてもよい。この凹部201により金属板200の表面に模様が形成される。凹部201には、金属部品の模様を形成するものと、金属部品の輪郭を形成するものとが含まれる。また、第1面がシールの表面となる。
【0013】
図1Aの説明に戻り、続くS102では第1面に保護層として粘着フィルムを貼付する。この粘着フィルムは、第2面をエッチングする際に第1面が侵食されないようにするための保護層であって、エッチング処理によって浸食されない耐酸性のフィルムを用いることができる。耐酸性フィルムは、例えば0.4mmの厚さを有し、粘着層とPET基材で形成され、粘着層により第1面とPET基材とが結合されて、第1面がその後に行われるエッチング処理から保護される。ここで、
図2(
C)は、金属板200をひっくり返して粘着フィルム202が第1面に結合された様子を示している。
【0014】
図1Aの説明に戻り、続くS103では金属板の第1面の反対側の(裏面の)第2面に対して、金属板の厚さ方向において金属部品の残り部分を形成するようにエッチング処理を行う。これにより、
図2(
D)に示すように、S101で形成された凹部201の一部と接続するように形成された凹部により、金属部品の輪郭に相当する部分が貫通して貫通孔203が形成され、金属部品が完成するようにエッチング処理が行われる。貫通孔203により囲まれる領域が金属部品204を構成する。S103で形成された凹部と接続された上記一部以外の凹部201は、金属部品204の第1面において模様等を形成する。第2面のエッチング処理により、各金属部品204は、金属板200から切り離されることになるが、事前に粘着フィルム202が第1面に貼付されているので、各金属部品204は金属板200から分離、或いは、離脱することなく一体的に保持される。
【0015】
図1Aの説明に戻り、続くS104において、金属板の第2面に粘着剤が添付される。粘着剤は公知の材料でよいが、第1面の保護層として貼付した粘着フィルム202の粘着層よりも粘着力の高い粘着剤を用いる必要がある。これは、粘着フィルム202のPET基材をはがした際に、金属部品が粘着フィルム202側に張り付いてしまうことを防止するためである。
図2(E)は、各金属部品204に粘着剤205を貼付した様子を示す。
【0016】
図1Aの説明に戻り、続くS105において、金属板の第2面の粘着剤に対して剥離層として剥離フィルムを貼付する。
図2(F)は、粘着剤205に対して剥離フィルム206を貼付した様子を示している。粘着剤205の粘着力は、粘着フィルム202の粘着層よりも粘着力が強いため、粘着フィルム202をはがした際には、金属部品204は剥離フィルム206側に残存し、金属板のそれ以外の部分が粘着フィルム202と共に金属部品204から分離される。従って、粘着フィルム202をはがすことにより、金属部品204だけが剥離フィルム206側に分離され、金属部品204をそれぞれ剥離フィルム206から剥離することで、金属シールとして使用することができる。
【0017】
なお、
図1Aでは記載を省略していたが、S101の後、S102の処理の前に、第1面に対して着色を行ってもよい。その場合、S102では、着色された第1面に対して粘着フィルムが貼付される。また、
図1Aでは、金属板の第2面に対する剥離層の形成をS104とS105の2つの工程に分けて実施する場合を示したが、粘着剤が貼付された剥離フィルムを用いることで単一の工程としてもよい。
【0018】
次に
図1Bを参照して、
図1AのS101、S103におけるエッチング処理の詳細について説明する。まず、S111において、基材である金属板の表面を洗浄する。続くS112において、金属板の表裏にフォトレジストをラミネートする。続くS113において、形成しようとする金属部品の輪郭及び模様に対応するフォトマスクを金属板にかぶせて、紫外線を照射する。これにより、フォトマスクにより遮光されていない部分のフォトレジストが感光し、フォトマスクのパターンが転写される。続くS114において、S113において感光しなかった部分のフォトレジストを薬品で除去することにより現像処理を行う。これにより、必要な部分がマスキングされた状態となる。続くS115において、S114の現像処理の結果に対して金属を溶かす薬品(エッチャント)をかけて、マスキングされていない部分を溶かすことで、金属部品の輪郭部分や模様を形成する。続くS116において、レジストを剥離して洗浄し、その後乾燥させる。
【0019】
次に
図3を参照して、
図1Aの製造方法により製造された金属部品の構成の一例を示す。
図3(A)は、3つの金属部品を含むシート300の第1面側の構成例を示す。シート300には、金属部品301、302、303が含まれる。それぞれの輪郭は、
図2の貫通孔203により規定される。また、各金属部品上に形成されている模様304から306は、
図2の凹部201により形成されている。シート300の第1面には
図2の粘着フィルム202が貼付されている。粘着フィルム202はPET基材で構成されているので透明であり、
図3では半透明の斜線領域で示している。
【0020】
図3(B)は、3つの金属部品を含むシート300の第2面側の構成例を示す。シート300の金属部品301、302、303には、それぞれ粘着剤205が貼付され、更にその上に剥離フィルム206が貼付されている。また、それぞれの輪郭は、第1面の場合と同様、
図2の貫通孔203により規定される。また、第2面には、各金属部品を識別するための識別番号が形成されている。当該識別番号は、S101とS103の各エッチング処理において、貫通孔203により規定されるように形成されてもよい。例えば、
図3(B)のような丸付き数字の場合、中の数字はS101による凹部201により形成され、外側の丸の輪郭はS101とS103による貫通孔203により形成されてもよい。その場合、当該識別番号に粘着剤205が貼付されて、粘着フィルム202がはがされた場合に剥離フィルム206側に付着するようにしてもよい。この場合、粘着フィルム202がはがされた場合にも、個々の金属部品の識別番号が残存するので、金属部品を識別しやすくなる。また、識別番号は、S103の第2面のエッチング処理のみにおいて形成されてもよく、その場合、粘着フィルム202がはがされた場合にシート300側に残存し、対応する金属部品とは分離される。
【0021】
識別番号の一例は、
図3(B)では参照番号307から309で示しているが、識別番号の付与の形態は、ここで示すような丸付き番号だけでなく、任意の形式としてよい。これにより、金属部品を、模型玩具を作成する際のパーツとして使用することができる。また、識別番号を付与する位置は、当該識別番号と関連付けられる金属部品の近傍であってもよいし、当該金属部品の第2面側であってもよい。この場合、金属部品の接着面側に識別番号が付与されるので番号は表には現れないので、金属部品の外観に影響を与えない。その際、識別番号を形成する凹部の深さは、凹部201で形成されるものよりも浅いものとしてもよい。
【0022】
図3(C)は、金属部品301から303をそれぞれ粘着フィルム202と剥離フィルム206とから取り外した状態を示している。このようにして剥離フィルム206等から取り外した金属部品301から303は、金属シール、装飾用シール、エッチングシール等と呼ばれ、例えばプラモデル等の模型玩具の部品として使用することができる。これらのシールは、裏面に粘着剤が貼付されているので、従来のように瞬間接着剤等で模型玩具の表面に貼付する必要がない。
【0023】
図4は、金属部品301から303の使用例を示す。
図4(A)は、金属部品301の使用例を示しており、同様に、
図4(B)は金属部品302の使用例を、
図4(C)は金属部品303の使用例をそれぞれ示している。このように、プラモデル等の模型玩具の各パーツに貼り付けて、通気口等を表現するのに用いることができる。但し、本実施形態に対応する方法で製造した金属部品の利用形態は、これに限られるものではなく、プラモデル等の模型玩具の表面を装飾するために用いられてもよいし、自動車模型や、車両模型のマークやエンブレムとして用いてもよい。また、金属部品の外観は、
図3や
図4に示したものに限らず、任意の模様、図形、数字、キャラクター、動物、植物などを表す外観を有することができる。
【0024】
上述した本実施形態に対応する金属部品の製造方法によれば、従来は必要であった金属部品とシートとを接続するゲートと呼ばれる接続部分が不要となる。ゲートは金属部品がばらばらとならないようにするために設けられていたが、金属部品をシートから分離する際にゲートを逐一切り離さなければならず煩雑であった。また、ゲートを切り離すのにも技量が要求されるため、きれいに切り離すためには、それなりに熟練する必要があった。本実施形態の製造方法による金属部材はゲートを介してシートと接続されておらず、粘着フィルムと剥離フィルムからはがすことで直ちに利用可能となるので、簡単、かつ、きれいな状態で金属部品を利用可能となる。
【0025】
また、製造工程における浸食を防ぐために使用される粘着フィルムは、製品完成後も金属部品の表面を保護するので、各金属部品を使用直前まで新品同様の無傷の状態に維持することができる。
【0026】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。