(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】研磨パッド及びウェハのノッチ研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24D 11/00 20060101AFI20241028BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20241028BHJP
B24D 3/32 20060101ALI20241028BHJP
B24B 9/00 20060101ALI20241028BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20241028BHJP
B24B 57/02 20060101ALI20241028BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
B24D11/00 E
B24D3/00 320B
B24D3/32
B24D3/00 310Z
B24B9/00 601H
B24B37/24 B
B24B57/02
H01L21/304 621E
H01L21/304 622F
(21)【出願番号】P 2024057062
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594002288
【氏名又は名称】株式会社BBS金明
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇将
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正俊
(72)【発明者】
【氏名】森本 仁嗣
(72)【発明者】
【氏名】服部 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】昌子 沙里
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-041483(JP,A)
【文献】特開2022-157064(JP,A)
【文献】特開2023-148106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 9/00
B24B 37/00 - 37/34
B24D 3/00 - 99/00
B24B 57/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
円盤形状のウェハに形成された結晶軸の方向を示すノッチに対して前記研磨面を押し当てつつ前記第1回転軸心周りで回転されることにより、前記ノッチを研磨する研磨パッドであって、
前記研磨面は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成され、
前記バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンであり、
前記研磨
粒子はダイヤモンドであり、
密度が0.9~1.2g/cm
3であり、
デュロメータ硬度(D)が26~47であり、
圧縮弾性率が1645.1~3241.7MPaであることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記研磨体は、前記母材内又は前記気孔内に保持されたシリカ粒子を含む請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記気孔は、立体網目構造をなす細孔と、前記細孔より容積が大きく、前記研磨面に開口しつつ前記細孔と連通する大気孔とからなる請求項1又は2記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記細孔は46.8~57.7体積%であり、
前記大気孔は0
を超え、13.8体積%
以下である請求項3記載の研磨パッド。
【請求項5】
ウェハと研磨パッドと研磨液とを用意する第1工程と、
前記ウェハと前記研磨パッドとの間に前記研磨液を供給しつつ、前記ウェハを前記研磨パッドにより研磨する第2工程とを備え、
前記ウェハは、中心軸線と、前記中心軸線と略直交する方向に延びる表面と、前記表面と逆に位置し、前記中心軸線と略直交する方向に延びる裏面と、前記表面から前記裏面まで切り欠けられ、結晶軸の方向を示すノッチとを有し、
前記研磨パッドは、第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記研磨パッドは、前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
前記研磨面は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成され、
前記バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンであり、
前記研磨
粒子はダイヤモンドであり、
密度が0.9~1.2g/cm
3であり、
デュロメータ硬度(D)が26~47であり、
圧縮弾性率が1645.1~3241.7MPaであり、
前記第2工程では、前記第1回転軸心を前記中心軸線と直交させ、前記研磨粒子を含まない前記研磨液を用いつつ、前記ノッチに対して前記研磨面を押し当てつつ前記第1回転軸心周りで前記研磨パッドを回転することを特徴とするウェハのノッチ研磨方法。
【請求項6】
前記第2工程では、前記研磨パッドを前記第1回転軸心に沿って移動させる請求項5記載のウェハのノッチ研磨方法。
【請求項7】
前記第2工程では、前記中心軸線が前記第1回転軸心周りで揺動するように前記研磨パッド
に対してウェハを揺動させる請求項5又は6記載のウェハのノッチ研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドと、ウェハのノッチ研磨方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~4に従来の研磨パッドが開示されている。特許文献1~3の研磨パッドは、不織布にペーストを含浸し、ペースト中の溶剤を除去したものである。特許文献1のペーストは、ウレタンと、ジメチルホルムアミド等の溶剤と、SiO2等の研磨粒子と、炭酸ナトリウム等のアルカリ微粒子とからなる。特許文献2のペーストは、エーテル系ウレタンと、N,N-ジメチルホルムアミド等の溶剤とからなる。特許文献3のペーストは、ウレタンと、溶剤と、撥水剤とからなる。乾燥等による溶剤の除去により、ウレタンは不織布に結合した状態で固化している。特許文献4の研磨パッドは、バインダ樹脂、研磨粒子及び溶剤を混合したペーストを用いて製造したものである。
【0003】
特許文献1の研磨パッドは、半導体素子を製造するために用いられるシリコン等からなる円盤形状のウェハの外周縁部を研磨するために用いられる。すなわち、回転中心周りに回転可能な回転テーブルにウェハが保持される。この際、ウェハの中心軸線が回転テーブルの回転中心に位置される。一方、研磨パッドの外周端面がウェハの外周縁部と当接するようにスピンドルの上端に研磨パッドを設ける。そして、ウェハの外周縁部と研磨パッドの外周端面との間に研磨液を供給するとともに所定の荷重を付加しつつ、回転テーブル及びスピンドルを回転させる。これにより、ウェハの外周縁部を研磨できる。このため、ウェハの外周縁部による半導体デバイスの欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-46838号公報
【文献】特開2019-118981号公報
【文献】特開2020-49639号公報
【文献】特許第5511266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ウェハには、円弧の中心をなす中心軸線の他、結晶軸の方向を示すノッチ(Notch)を有している場合がある。結晶軸の方向を示すために用いられる一般的なオリエンテーションフラット(Orientation Flat)では、大口径のウェハから切除する面積が大きくなってしまい、ウェハを無駄にしてしまうからである。
【0006】
このようにノッチを有するウェハでは、ノッチに何らの対策をしないまま表面又は裏面の研磨を行うと、それらの研磨の最中にノッチ近傍で欠けや割れが発生し、ウェハの無駄を生じてしまう。
【0007】
また、量産性を考慮し、加工時間の短縮化が望まれている一方、ノッチに欠け等が生じない要望もある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ノッチを有するウェハの無駄を可及的に少なくできるとともに、加工時間が短い一方、ノッチに欠けを生じない研磨パッドと、そのようなウェハのノッチ研磨方法とを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の研磨パッドは、第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
円盤形状のウェハに形成された結晶軸の方向を示すノッチに対して前記研磨面を押し当てつつ前記第1回転軸心周りで回転されることにより、前記ノッチを研磨する研磨パッドであって、
前記研磨面は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成され、
前記バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンであり、
前記研磨粒子はダイヤモンドであり、
密度が0.9~1.2g/cm3であり、
デュロメータ硬度(D)が26~47であり、
圧縮弾性率が1645.1~3241.7MPaであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のウェハのノッチ研磨方法は、ウェハと研磨パッドと研磨液とを用意する第1工程と、
前記ウェハと前記研磨パッドとの間に前記研磨液を供給しつつ、前記ウェハを前記研磨パッドにより研磨する第2工程とを備え、
前記ウェハは、中心軸線と、前記中心軸線と略直交する方向に延びる表面と、前記表面と逆に位置し、前記中心軸線と略直交する方向に延びる裏面と、前記表面から前記裏面まで切り欠けられ、結晶軸の方向を示すノッチとを有し、
前記研磨パッドは、第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記研磨パッドは、前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
前記研磨面は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成され、
前記バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンであり、
前記研磨粒子はダイヤモンドであり、
密度が0.9~1.2g/cm3であり、
デュロメータ硬度(D)が26~47であり、
圧縮弾性率が1645.1~3241.7MPaであり、
前記第2工程では、前記第1回転軸心を前記中心軸線と直交させ、前記研磨粒子を含まない前記研磨液を用いつつ、前記ノッチに対して前記研磨面を押し当てつつ前記第1回転軸心周りで前記研磨パッドを回転することを特徴とする。
【0011】
本発明の研磨パッドは、研磨面が母材と研磨粒子とを含む研磨体によって構成されている。母材は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔が形成されている。そして、母材内又は気孔内に研磨粒子が保持されている。このため、本発明のノッチ研磨方法により、本発明の研磨パッドでウェハのノッチを研磨すれば、ノッチに押し付ける際に優れた追随性を発揮しつつ、良好な研磨を行うことができる。
【0012】
また、本発明の研磨パッドは、バインダ樹脂をポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンとし、研磨粒子をダイヤモンドとしつつ、特定の密度、デュロメータ硬度(D)及び圧縮弾性率としている。発明者らの試験結果によれば、これらの特性によって加工時間の短縮化を実現しつつ、ノッチ近傍で欠けや割れが発生し難く、又は発生しない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ノッチを有するウェハの無駄を可及的に少なくできるとともに、加工時間が短い一方、ノッチに欠けを生じない。また、本発明によれば、研磨粒子を含まない又は研磨粒子の少ない研磨液を用いることができることから、研磨後のウェハに残留する研磨粒子であるパーティクルが少なく、研磨後のウェハの洗浄性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1~10の研磨パッドに係り、図(A)は平面図、図(B)は断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1~10の研磨パッドの拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の研磨パッドの500倍のSEM写真である。
【
図4】
図4は、実施例1の研磨パッドの2000倍のSEM写真である。
【
図5】
図5は、実施例1の研磨パッドの5000倍のSEM写真である。
【
図6】
図6は、実施例1の研磨パッドに係り、ある大気孔を示す500倍のSEM写真である。
【
図7】
図7は、実施例1の研磨パッドに係り、他の大気孔を示す500倍のSEM写真である。
【
図8】
図8は、実施例1~6のノッチ研磨方法で用いた研磨前のウェハに係り、図(A)は平面図、図(B)は断面図である。
【
図9】
図9は、実施例のノッチ研磨方法で用いた研磨前のウェハの一部拡大側面図である。
【
図10】
図10は、実施例1~6のノッチ研磨方法を示す模式平面図である。
【
図11】
図11は、実施例1~6のノッチ研磨方法を示す模式側面図である。
【
図12】
図12は、実施例1~6のノッチ研磨方法で研磨した後のウェハの一部拡大平面図である。
【
図13】
図13は、実施例1~6のノッチ研磨方法で研磨した後のウェハの一部拡大側面図である。
【
図14】
図14は、実施例1~6の研磨パッドの研磨時の模式拡大断面図である。
【
図15】
図15は、実施例1~6の研磨パッドの模式拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の研磨パッドは、研磨面が研磨体によって構成され、研磨体は母材と研磨粒子とを含んでいる。母材は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔が形成されている。研磨粒子は母材内又は気孔内に保持されている。この研磨パッドは、LHA(Loosely Held Abrasive)パッドとも称される砥粒内包型研磨パッドである。
【0016】
バインダ樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンを採用する。LHAパッドは、バインダ樹脂として、ポリエーテル、硬質発泡ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂の他、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系合成樹脂や、ポリエチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル等を採用することが可能であるが、発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドとしては、追随性、柔軟性等の点でポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0017】
研磨粒子としては、ダイヤモンドを採用する。LHAパッドは、研磨粒子として、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、炭化ホウ素、酸化鉄等を採用することが可能であるが、発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドとしては、ヌープ硬度が高く、研磨持続性が良好等の点でダイヤモンドが好ましい。
【0018】
発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドとしては、密度は0.9~1.2g/cm3とし、デュロメータ硬度(D)は26~47とし、圧縮弾性率は1645.1~3241.7MPaとすることが好ましい。
【0019】
発明者らの試験結果によれば、研磨体は、母材内又は気孔内に保持されたシリカ粒子を含むことが特に好ましい。シリカ粒子は研磨粒子であるダイヤモンドよりも軟質であり、ダイヤモンドを柔軟に支持する。
【0020】
気孔は、立体網目構造をなす細孔と、細孔より容積が大きく、研磨面に開口しつつ細孔と連通する大気孔とからなることが特に好ましい。大気孔は、ノッチの研磨時における加工抵抗を抑制し、ノッチでの欠けを低減する。
【0021】
発明者らの試験結果によれば、細孔は46.8~57.7体積%であり、大気孔は0を超え、13.8体積%以下であることが好ましい。
【0022】
研磨液を用いる場合、研磨液は純水であってもよく、油性であってもよく、酸性又はアルカリ性の薬品を含むものであってもよい。
【0023】
研磨面は、第1面と連続し、第2面に近づくにつれて大径となるテーパ状をなす第3面と、第2面と連続し、第1面に近づくにつれて大径となるテーパ状をなす第4面とを有し得る。第3面と第4面とはノッチの開き角度と整合する内角を有していることが好ましい。
【0024】
本発明の研磨方法において、第2工程では、研磨パッドを第1回転軸心に沿って移動させることが好ましい。この場合、ノッチの第5面と第6面との境界部分を含め、ノッチ全体を研磨パッドの稜線によって研磨可能である。このため、ノッチ研磨後のウェハにノッチ近傍での欠けや割れがより発生し難く、又は発生しない。
【0025】
また、本発明の研磨方法において、第2工程では、中心軸線が第1回転軸心周りで揺動するように研磨パッドに対してウェハを揺動させることが好ましい。この場合、ノッチと表面又は裏面との縁部も好適に研磨できる。このため、ノッチ研磨後のウェハにノッチ近傍での欠けや割れがより発生し難く、又は発生しない。
【0026】
(実施例・比較例)
以下、本発明を具体化した実施例1~6と、比較例1、2とを説明する。
【0027】
まず、以下のバインダ樹脂、研磨粒子及び溶剤を準備した。
(バインダ樹脂)
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
(研磨粒子)
ダイヤモンド(平均粒径:5μm)
(溶剤)
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)
(フィラー)
シリカ粒子(平均粒径:200nm)
(気孔形成剤)
グラニュー糖(平均粒径200μm)
【0028】
そして、これらバインダ樹脂、研磨粒子、溶剤、フィラー及び気孔形成剤を表1に示す質量%で混合し、ペーストとした。得られた各ペーストを用い、Tダイを用いてシート状の成形体を得た。各成形体から溶剤を除去し、バインダ樹脂を固化させた。
【0029】
【0030】
こうして、各研磨体とした。各研磨体の外周部分及び内周部分を第1回転軸心Pを中心として切除し、実施例1~6の研磨パッド1を得た。各研磨パッド1は、
図1及び
図2に示すように、内径φ1が152mm、外径φ2が200mm、厚みtが4.5mmである。なお、後述の研磨装置によって内径、外径及び厚みは変更可能である。
【0031】
各研磨パッド1は、
図1に示すように、第1回転軸心Pを中心とする円環状に形成されている。また、各研磨パッド1は、第1回転軸心Pと略直交する方向に延びる円環状の第1面1aと、第1回転軸心Pと略直交する方向に延び、第1面1aの逆に位置する円環状の第2面1bと、外周側で第1面1aと第2面1bとを接続する研磨面3とを有している。
【0032】
研磨面3は、
図2に示すように、第1面1aと連続し、第2面1bに近づくにつれて第1回転軸心Pから大径となるテーパ状をなす第3面3aと、第2面1bと連続し、第1面1aに近づくにつれて第1回転軸心Pから大径となるテーパ状をなす第4面3bとを有している。第3面3aと第4面3bとは110°±20°の内角θ1を有している。また、第3面3aと第4面3bとは稜線Lを形成している。内角θ1は後述するノッチ7の開き角度θ2に合わせて形成される。
【0033】
実施例1の研磨パッド1の500倍のSEM写真を
図3に示し、2000倍のSEM写真を
図4に示し、5000倍のSEM写真を
図5に示す。また、実施例1の研磨パッド1におけるある大気孔の500倍のSEM写真を
図6に示し、他の大気孔の500倍のSEM写真を
図7に示す。
【0034】
図3及び
図4に示すように、実施例1~6の研磨パッド1は、
図14及び
図15にも示すように、母材13と研磨粒子11とを有している。母材13は、バインダ樹脂からなり、複数の気孔15a、15bが形成されている。研磨粒子11は、母材13内又は細孔15a内に保持されている。また、各研磨パッド1は、母材13内又は細孔15a内に保持されたフィラー12を含む。また、
図5及び
図6に示すように、各研磨パッド1の気孔15a、15bは、立体網目構造をなす細孔15aと、細孔15aより容積が大きく、研磨面3に開口しつつ細孔15aと連通する大気孔15bとからなっている。
【0035】
こうして得られた実施例1~6の研磨パッド1の物性値として、デュロメータ硬度(D)、密度(g/cm3)及び圧縮弾性率(MPa)を測定した。この結果を表2に示す。
【0036】
【0037】
また、バインダ樹脂の含有率(体積%)、研磨粒子の含有率(体積%)、フィラーの含有率(体積%)及び気孔の含有率(体積%)を測定した。この結果を表3に示す。
【0038】
【0039】
また、気孔の含有率の内訳、つまり細孔の含有率(体積%)と、大気孔の含有率(体積%)も計測した。この結果を表4に示す。
【0040】
【0041】
(試験)
図8に示すように、SiCからなり、研磨前のウェハ5を用意した。ウェハ5は、直径が8インチの円盤状である。ウェハ5は、円弧の中心をなす中心軸線Qと、中心軸線Qと略直交する方向に延びる表面5aと、表面5aと逆に位置し、中心軸線Qと略直交する方向に延びる裏面5bとを有している。また、ウェハ5の外周縁の1か所には、表面5aから裏面5bまで切り欠けられ、結晶軸の方向を示すノッチ7を有している。
【0042】
ノッチ7は、
図9に示すように、外周縁の1か所から中心軸線Qに延びる第5面7aと、外周縁の他の1か所から中心軸線Qに延びる第6面7bとによって開き角度θ2で形成されている。
【0043】
また、
図10に示す研磨装置を用意した。研磨装置は、BBS金明製「FINE SURFACE E-200」であり、研磨パッド1を第1回転軸心P周りに回転可能な図示しないブラケットを備えている。第1回転軸心Pは、図示しないドラムに保持されたウェハ5の中心軸線Qと直交している。ブラケットは、ドラムに対し、研磨パッド1を押し付けることが可能になっている。また、研磨装置は、研磨パッド1を第1回転軸心Pに沿って一定範囲Tで移動させることが可能になっている。これにより、ノッチ7の第5面7aと第6面7bとの境界部分を含め、ノッチ7全体を研磨パッド1の稜線Lによって研磨可能である。
【0044】
また、ウェハ5は、
図11に示すように、中心軸線Qが第1回転軸心P周りで揺動するように研磨パッド1に対して上下S°の角度で揺動するようになっている。揺動中心は、ウェハ5の厚さ方向の中央において中心軸線Qからノッチ7の中心に向けて延ばした仮想線とウェハ5の外周面との交点Xである。これにより、ノッチ7は、ウェハ5の表面5aとの境界部分と、裏面5bとの境界部分とが研磨可能である。
【0045】
そして、実施例1~6の研磨パッド1又は比較例1、2の研磨パッド1を用い、以下の条件で200枚のウェハ5のノッチ7を研磨した。比較例1の研磨パッド1は市販の硬質ウレタンパッド(硬度D:60)であり、比較例2の研磨パッド1は市販の不織布パッド(硬度D:30)である。実施例1~6の研磨パッド1については、研磨粒子を含まない水を研磨液として用いた。比較例1、2の研磨パッド1については、シリカを研磨粒子とし、研磨粒子の濃度を変更した過マンガン酸系スラリーを研磨液として用いた。
研磨パッド1の回転数:600(rpm)
ノッチ7に対する研磨面3の押し付け荷重:0.8(kgf)
【0046】
研磨後のノッチ7の一部拡大平面図を
図12に示し、一部拡大側面図を
図13に示す。
図12及び
図13に示すように、研磨後のノッチ7は、表面が平滑にされるとともに、先端、表面5aとの境界部分及び裏面5bとの境界部分に面取り9が形成され、研磨後のウェハ5はノッチ7の近傍で欠けや割れが発生し難くなる。
【0047】
研磨時間と磨き残しの有無と、パーティクルと、研磨液とを評価した。この際、磨き残しは、ノッチ7の先端(TOP-VN)、ノッチ7の表面5a部分(A-VN)及びノッチ7の裏面5b部分(B-VN)で評価した。
【0048】
研磨時間と磨き残しの有無に関しては、研磨時間が90秒以内であり、かつ磨き残しが無ければ◎、研磨時間が120秒以内であり、かつ磨き残しが無ければ〇、研磨時間が180秒以内であり、かつ磨き残しが無ければ△、研磨時間が180秒以上であり、かつ磨き残しが有れば×とした。但し、ノッチ7において、前加工の研削痕(キズ)が横方向に存在しており、顕微鏡観察にて横方向の研削痕が確認された場合は磨き残し有りと判断する。
【0049】
パーティクルに関しては、電子顕微鏡の観察判定により、5μm×5μmの面内において、パーティクル数が0個であれば◎、5個以内であれば〇、5個以上、10個以内であれば△、10個以上であれば×とした。
【0050】
研磨液に関しては、研磨粒子の濃度が0ppmで研磨可能であれば◎、研磨粒子の濃度が1ppm以上、1000ppm未満でなければ研磨できなかった場合は〇、研磨粒子の濃度が1000ppm以上、5000ppm未満でなければ研磨できなかった場合は△、研磨粒子の濃度が5000ppm以上、10000ppm以下でなければ研磨できなかった場合は×とした。
【0051】
総合では、研磨時間と磨き残しの有無、パーティクル及び研磨液において、一つでも×又は△があれば×とし、全てが○以上であり、◎が2以下であれば〇とし、全てが○以上であり、◎が3以上であれば◎とした。結果を表5に示す。
【0052】
【0053】
表5から、総合において、実施例1~4の研磨パッド1が◎を得ており、実施例5、6の研磨パッド1が〇を得ている。発明者らの試験結果によれば、PVDFに代えて、TPU(熱可塑性ポリウレタン)を採用した場合も、同様の効果が得られた。これに対し、比較例1、2の研磨パッド1では、磨き残しを生じているとともに、パーティクル及び研磨液で評価が劣っている。これは以下の理由によると推察している。
【0054】
すなわち、
図14及び
図15に示すように、実施例1~6の研磨パッド1は、気孔15が細孔15aと大気孔15bとからなる。細孔15aは立体網目構造をなしている。大気孔15bは細孔15aより容積が大きく、研磨面2に開口しつつ細孔15aと連通している。ダイヤモンドからなる研磨粒子11は、母材13の細孔15a内に内包して存在し、点又は面接触で母材13に固着されている。研磨中において、ある研磨粒子11に過度に大きな負荷が集中した場合、その研磨粒子11は母材13から脱落し、細孔15a内で局所的に自由度を持ちながら研磨する。この際、フィラー12は細孔15a内で研磨粒子11を柔軟に支持し、研磨粒子11に過度に大きな負荷が集中することを抑制している。このため、ウェハ5のノッチ7に深いキズやスクラッチが入らない。
【0055】
また、実施例1~6の研磨パッド1は、大気孔15bを有するため、柔軟性が向上しており、加工中に変形しやすく、ノッチ7に追随しながら研磨すると推察される。こうして、実施例1~6の研磨パッド1では、大気孔15bがノッチ7の研磨時における加工抵抗を抑制し、ノッチ7での欠けを低減する。
【0056】
特に、実施例1~6の研磨パッドは、バインダ樹脂をポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンとし、研磨粒子11をダイヤモンドとしつつ、特定の密度、デュロメータ硬度(D)及び圧縮弾性率としている。このため、これらの特性によって加工時間の短縮化を実現しつつ、ノッチ7近傍で欠けや割れが発生し難く、又は発生しない。
【0057】
したがって、実施例1~6の研磨パッド1及びこれらを用いたノッチ研磨方法によれば、ノッチ7を有するウェハ5の無駄を可及的に少なくできることがわかる。
【0058】
また、実施例1~10の研磨パッド1及びこれらを用いたノッチ研磨方法によれば、研磨粒子を含まない又は研磨粒子の少ない研磨液を用いることができ、研磨後のウェハ5に残留する研磨粒子であるパーティクルが少ないことから、研磨後のウェハ5の洗浄性に優れる。
【0059】
以上において、本発明を実施例1~6に即して説明したが、本発明は上記実施例1~6に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0060】
例えば、実施例1~6ではSiCからなるウェハ5のノッチ7を研磨したが、本発明の研磨パッド及びウェハ研磨方法はSi、GaN等の半導体全般からなるウェハのノッチを研磨する場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は半導体デバイスの製造装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
P…第1回転軸心
1a…第1面
1b…第2面
3…研磨面
5…ウェハ
7…ノッチ
1…研磨パッド
15a、15b…気孔(15a…細孔、15b…大気孔)
13…母材
11…研磨粒子
12…シリカ粒子(フィラー)
【要約】
【課題】ノッチを有するウェハの無駄を可及的に少なくできるとともに、加工時間が短い一方、ノッチに欠けを生じない研磨パッドと、そのようなウェハのノッチ研磨方法とを提供する。
【解決手段】本発明の研磨パッド1は、研磨面3は、バインダ樹脂を含み、複数の気孔15a、15bが形成された母材13と、母材13内又は気孔15a、15b内に保持された研磨粒子11とを含む研磨体によって構成されている。バインダ樹脂はポリフッ化ビニリデン又は熱可塑性ポリウレタンであり、研磨砥粒11はダイヤモンドであり、密度が0.9~1.2g/cm
3であり、デュロメータ硬度(D)が26~47であり、圧縮弾性率が1645.1~3241.7MPaである。
【選択図】
図14