(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】撮像装置および光デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20241028BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20241028BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/27 E
G02B6/12 336
(21)【出願番号】P 2020138801
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勝就
(72)【発明者】
【氏名】五味 英晃
(72)【発明者】
【氏名】児玉 周太朗
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-066391(JP,A)
【文献】特開2006-098873(JP,A)
【文献】国際公開第2019/180810(WO,A1)
【文献】特開2010-204696(JP,A)
【文献】国際公開第2001/002904(WO,A1)
【文献】“平成30年度 超小型マルチスペクトルデジタルホログラフィック顕微鏡”,[2024年5月20日検索],2018年,インターネット<URL:https://hojo.keirin-autorace.or.jp/shinsei/document/list/kikai/h30/pdf/30-165koho.pdf?200803>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G02B 6/12- 6/14
G02F 1/29- 7/00
G02B 5/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色光源を使って対象物体を撮影する撮像装置
であって、
前記白色光源から
出射された白色光を
互いに異なる特定の波長
帯を有する複数の色光に分波する
第1アレイ導波路格子を有する分波部と、
前記
分波部によって分波された
前記複数の色光のうちの少なくとも1つの色光を選択する波長選択部と、
前記波長選択部によって選択された前記少なくとも1つの色光の半値全幅を狭帯域化
した特定の狭帯域波長帯を有する狭帯域色光を分波する第2アレイ導波路格子を有する狭帯域化機能部
と、
前記狭帯域化機能部によって分波された前記狭帯域色光を物体光と参照光とに分け、前記物体光に前記対象物体を照射し、前記対象物体から出射された前記物体光と前記参照光との干渉縞を生成し、前記干渉縞
の像を撮像素子
で撮像する
干渉機能部と、
前記撮像素子で撮像された前記干渉縞の像が記録される記録部と、
前
記記録部に記録された
前記干渉縞
の像から
前記対象物体の画像を、光伝搬計算を使った画像処理により画像化し、表示
する再生部と、
を備え、
前記第2アレイ導波路格子のコヒーレンス長は、前記狭帯域色光のピーク波長と前記狭帯域色光の半値全幅及び前記再生部における前記干渉縞の像の解像度によって設定され、
前記第1アレイ導波路格子のコヒーレンス長は、前記狭帯域色光のピーク波長を含む所定の波長帯に含まれる所定の波長及び前記狭帯域色光の半値全幅よりも大きい所定の半値全幅によって設定されている、
撮像装置。
【請求項2】
白色光源を使って対象物体を撮影する撮像装置であって、
前記白色光源から出射された白色光を互いに異なる特定の波長帯を有する複数の色光に分波する第1アレイ導波路格子を有する分波部と、
前記分波部によって分波された前記複数の色光のうちの2つ以上の色光を選択する波長選択部と、
前記
波長選択部によって選択された
前記2つ以上の色光の
各々の半値全幅を狭帯域化
された特定の狭帯域波長帯を有する2つ以上の狭帯域色光を分波する第2アレイ導波路格子を有する狭帯域化機能部
と、
前記狭帯域化機能部によって分波された前記2つ以上の狭帯域色光の各々を物体光と参照光とに分け、前記物体光に前記対象物体を照射し、前記2つ以上の狭帯域色光の各々のピーク波長で前記対象物体から出射された前記物体光と前記参照光との干渉縞を生成し、前記2つ以上の狭帯域色光の各々のピーク波長での前記干渉縞の像を記録する干渉機能部と、
前記干渉機能部で記録された前記干渉縞
の画像を組み合わせ
て前記対象物体の画像の高精度
な画像解析を行い
、光伝搬計算を使った画像処理により画像化し、表示する
再生部と、
を備え、
前記第2アレイ導波路格子のコヒーレンス長は、前記2つ以上の狭帯域色光の各々のピーク波長の合成波長、前記2つ以上の狭帯域色光のうちの少なくとも1つの狭帯域色光の半値全幅及び前記再生部における前記干渉縞の像の解像度によって設定され、
前記第1アレイ導波路格子のコヒーレンス長は、前記合成波長を含む所定の波長帯に含まれる所定の波長、及び、前記2つ以上の狭帯域色光のうちの少なくとも1つの狭帯域色光の半値全幅よりも大きい所定の半値全幅によって設定されている、
撮像装置。
【請求項3】
前記干渉機能部
は、前記2つ以上の狭帯域色光の位相シフトを行う位相シフト機能
を有し、
前記再生部では前記位相シフト機能を用いて前記干渉縞
の画像情報を使って高精度
な画像解析を行う、
請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記干渉機能部
に、前記位相シフト機能を
有する温度センサ及びヒータ、又は、前記位相シフト機能を有するピエゾ素子が配置されている、
請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記分波部と、前記波長選択部と、前記狭帯域化機能部と、前記干渉機能部において前記干渉縞が形成される領域よりも光入射側の部分、前記温度センサ及び前記ヒータと、が互いに共通の1つの導波路チップに形成されている、
請求項4に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置及び画像処理方法に係り、特に広帯域の波長帯域を狭帯域化させる撮像装置とその撮像方法および、これを実現する光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
アレイ導波路グレーティング(Arrayed Waveguide Grating : AWG)は、波長を合分波する光学素子として薄型で多数の波長を同時に合分波できる素子である。AWGは入出力導波路、入出力スラブ導波路、アレイ導波路で構成されており、白色光のような広帯域の波長を含む光が入力導波路に入射されると入力スラブ導波路内で同位相に広がりアレイ導波路に入射される。アレイ導波路内では、隣接する導波路とは一定の光路差がつくように設計されており、出力スラブ導波路では波長ごとの屈折率を利用して各波長に分波する。それぞれの波長を出力導波路から取り出すことで分波器として利用することができる。狭帯域化機能部材として用いる場合は、分波器としてのAWGを逆に用いれば良い。実際に広帯域波長を持つ光を単一波長の光に分波できることが特許文献1に記載されている。また、AWGは光導波路の1つなので1チップ化が可能であり、複数のAWGを1チップ上に作成可能であることが従来技術として知られており特許文献2に記載されている。
【0003】
デジタルホログラフィック顕微鏡(Digital Holographic Microscope : DHM)は非侵襲・非接触で微小物体の厚みや屈折率の定量位相情報の計測が可能な光学測定装置の一つである。DHMは光源の光を物体光と参照光に分波し、対象物体を透過及び反射した物体光と基準となる参照光を合波することで干渉縞を形成する。その干渉縞を撮像素子で記録し、ホログラムを生成したのちに再生伝搬計算で対象物体を再構成する手法である。この手法を用いた癌細胞の識別や対象物体の表面形状分析などが行われている。
(非特許文献1、2記載)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】E. Watanabe, T. Hoshiba, and B. Javidi, “High-precision microscopic phase imaging without phase unwrapping for cancer cell identification,” Opt. Lett. 38(8), 1319-1321 (2013).
【0005】
【文献】J. Kuhn, T. Colomb, F. Monfort, F. Charriere, Y. Emery, P. Marquet and C. Depeursinge,”Real-time dual-wavelength digital holographic microscopy with a single hologram acquisition,” Opt. Exp. 15(12), 7231-7242(2007).
【特許文献】
【0006】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DHMは、細胞識別や微細構造分析が可能であること、可視光領域以外の波長帯でのイメージングが可能であること、高分解能化等といった利点がある。しかし、特に多波長のDHMでは光学系が大型化・複雑化になる課題や、白色光などの広帯域の波長を持つ光から狭い範囲の波長を使って対象物体の分光特性を取得できないという課題があった。さらに白色光のままでは対象物体の3次元イメージングができないことも課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲に記載の技術を用いる。
【0010】
2つのAWGを組み合わせることで分波器としてのAWGで白色光を分波し、2つ目の狭帯域化機能部材としてのAWGで各波長の半値全幅を小さくすることで可干渉性を向上させることにより、単一の白色光源から出射された広帯域の波長を合分波して単一で対象物体の分光特性を取得できる。これにより顕微イメージングを可能にする撮像装置及び光デバイスを提供できる。
【0011】
さらに分波器と狭帯域化機能部材の間に波長選択スイッチを設けることで、自由に波長を選択することが可能となり、対象物体のもつ分光特性を細かく調べることができる。また、これまでカラーイメージングを取得するには複数の光源を用意しなければならなかったので、光学系が大きくなってしまったが、白色光は三原色であるRGBを含んでいるため、RGB波長のそれぞれの干渉縞画像からカラーの元画像を作成することが可能となる。
【0012】
さらに、白色光を分波・狭帯域化することで単一波長の光源の波長に依存しない干渉機能部が可能なので、波長を選択し組み合わせることで複数波長の干渉縞を形成し、合成波長により単一波長よりも広範囲の位相変化を記録することも可能となる。
【0013】
また、合分波器にアレイ導波路グレーティングを用いることで光導波路と組み合わせが可能となるので、AWGと光導波路を1チップ化することができ、超小型の実験光学系を構築することが可能となる。小型にすることで医療用内視鏡や宇宙応用に向けた被染色細胞評価への応用が実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光を分波・スイッチングによる特定波長の抽出・抽出した特定波長を光の狭帯域化することが可能な光導波路技術と、対象物体の振幅・位相情報が取得可能な撮像素子を使うことにより、広帯域波長でイメージングができ且つ狭帯域の光の波長を少しずつ変えてその位相情報を測定することで急峻な変化のある測定物体の三次元画像を正確に測定できる撮像装置を提供できる。
【0015】
さらに、光源も白色光源にすることで単一の光源で、カラーイメージングなど複数波長を用いた干渉機能部が可能となる顕微鏡を提供できる。
【0016】
また、分波器や狭帯域化機能部材そして干渉機能部に光導波路技術を使うことにより、単一光源でワンチップの超小型光学系が実現できるので最小空間光学系の顕微鏡を提供できる。
【0017】
さらに、干渉機能部により微小物体の3次元イメージングや定量位相イメージングなどが実現できるので、医療応用に向けた細胞識別評価や宇宙応用に向けた非染色細胞検査評価ができる装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例に係る撮像装置および/または光デバイスを含む全体システム構成の一例を示す図。
【
図2】実施例に係る撮像装置および光デバイスのソフトウェア構成図。
【
図3】実施例に係る撮像装置および光デバイスの主要技術であるAWGの原理を示す図
【
図4】実施例に係る撮像装置および光デバイスの実際の全体構成を示す図
【
図5】実施例に係る光デバイスの別の実施例を示す図
【
図8】波長合成による効果を示したシミュレーション図
【
図9】本発明による効果を示すために定量位相評価に用いたサンプルの形状を示す図
【
図10】本発明による効果を示すための実験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付けてその重複説明は省略する。以下の実施形態においては、本発明に係る撮像装置および/または光デバイスを例に挙げて説明する。
【0020】
図1は本発明の実施形態の撮像装置および/または光デバイス1を含む全体構成の一例を示した図である。
図1の撮像装置および/または光デバイス1では対象物体11は光を透過する形の例を示しているが、これに限ることはなく、反射型でも良い。
【0021】
この撮像装置および/または光デバイス1は記録光学機能2と処理機能18とシステム制御機能22の3つの機能要素から構成されている。以下各機能について詳細に記載する。
【0022】
記録光学機能2では例えば白色光等を放射する光源3から照射された光が分波器4で複数種類の光の波長に分波される。複数に分波された光は波長選択機能部材(波長選択部)5によりある特定の波長の光のみを選択する。前記選択された光はある幅を持った波長の光となっているので狭帯域化機能部材(狭帯域化機能部)6で狭帯域化し、狭帯域化された波長の光として干渉機能部材(干渉機能部)7に入る。前記狭帯域化された光はビームスプリッターAにより2つの光に分かれ、一つが参照光、一つが物体光となる。参照光はミラーB16で反射された後ビームスプリッターBで反射されて撮像素子15へ参照光として入る。物体光となる光はビームスプリッターAで反射され、さらにミラーA12で反射されて対象物体11に入射されその透過光がビームスプリッターBを透過して撮像素子15へ物体光として入る。ここで前記物体光と基準となる参照光とを合波することで干渉縞を形成する。その干渉縞を撮像素子(記録部)15で記録する。
【0023】
さらに位相シフト機能9により位相をシフトさせた参照光と物体光とを合波することで新たな干渉縞を形成し、同じく撮像素子15で記録する。これを繰り返し、記録された複数の干渉縞をもとに処理機能18内の画像処理19でノイズ除去等の処理を行ってホログラムを生成し、光伝搬計算20で対象物体を再構成して画像表示処理21を使って画像化する。温度コントローラ8は温度依存の波長をコントロールするための装置である。これら詳しい処理の方法については後述する。上記参照光と物体光で構成された光学系を干渉系10と称する。ここで上記の2つのビームスプリッター13、14はこれである必要はなく、ハーフミラーでも良い。また上記光学系は透過光学系で2つのビームスプリッターと2つのミラーで構成されているがこれに限ることはない。また反射光学系でも構わない。
【0024】
上述の一連の処理を制御するのがシステム制御機能
(再生部)22でありコントローラ23、ROM24、RAM25、外部メモリ26で構成されている。コントローラ23は記録光学機能2内の各部材の電源のON/OFFや細かな各種設定値の設定や制御、処理機能
(再生部)18へのコマンドセットや制御も行う。ROM24にはシステムのソフトウェアや初期値等を記録されている。RAM25はコントローラ23や処理機能18で一時的に記録されたデータや設定値を記録するためのものである。外部メモリ25はROM24やRAM25に保存しきれないデータや以前のデータ等を保持しておくためのメモリである。あるいはソフトウェアのアップデータ等の保存や新たな設定値の保存等にも利用できる。画像表示処理21で生成された画像データは表示部
(再生部)27で表示される。これらデータ等はシステムバス28でデータは送受信される。
図1では表示されていないが、前記データはネットワークを介して外部へ送受信しても良い。
【0025】
図2は本実施例の撮像装置および/または光デバイス1のソフトウェア構成図であり、コントローラ23、ROM24、RAM25、及び外部メモリ26、システムバス28からなる。コントローラ23は、所定のプログラムに従って撮像装置および/または光デバイス1全体を制御するマイクロプロセッサユニットである。システムバス28はコントローラ23と撮像装置および/または光デバイス1内の各部との間でデータ送受信を行うためのデータ通信路である。
【0026】
ROM(Read Only Memory)24は、オペレーティングシステムなどの基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラムが格納されたメモリであり、例えばEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)やフラッシュROMのような書き換え可能なROMが用いられ、ROM24に格納されたプログラムを更新することにより、基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラムのバージョンアップや機能拡張が可能である。
【0027】
RAM(Random Access Memory)25は基本動作プログラムやその他のアプリケーションプログラム実行時のワークエリアとなる。具体的には、例えばROM24に格納された基本動作プログラム24aはRAM25に展開され、更にコントローラ23が前記展開された基本動作プログラムを実行することにより、基本動作実行部25aを構成する。以下では、説明を簡単にするために、コントローラ23がROM24に格納された基本動作プログラム24aをRAM25に展開して実行することにより各部の制御を行う処理を、基本動作実行部25aが各部の制御を行うものとして記述する。なお、その他のアプリケーションプログラムに関しても同様の記述を行うものとする。
【0028】
撮像処理実行部25bは撮像素子15に対し撮影の指示、停止等を行うのと共に入力された撮像素子からの電気信号を元に撮像画像の再生処理を行う。画像処理実行部25c前記再生処理を行った撮像画像に対して様々なソフトウェアの処理で輝度や色彩等の補正や画像をより鮮明にするためのエッジ処理や画質改善処理、ノイズ除去処理等を行う。
【0029】
光伝搬計算実行部25dについての詳細は後述するが、記録光学機能2で得られた干渉縞画像に対し様々な光伝搬計算を行いそれによって新たな詳細の対象物体の画像やプロファイル等を作成する計算を行う処理である。各種部材の設定値実行部25eは記録光学機能2の波長選択機能部材5、干渉機能部材7の様々な設定値の変更を行う処理であり、これにより変更された設定値での画像や干渉縞等の取得を可能とする。例えばある波長で設定されて得られた干渉縞に対し、λ/4だけシフトさせた時の干渉縞が必要な場合にはこの部分の処理により各機能部材の設定を行う。
【0030】
画像表示実行部25fは前記計算等により再構成された画像や初期の物体画像等を表示するためのソフトウェアである。上記ソフトウェアは全てがソフトウェアとして記載されているがこれに限ることはなく、例えば高速化するために一部をハードウェア化されていても良い。コントローラ23は撮像装置および/または光デバイス1全体の制御を行うアルゴリズムが組み込まれている。
【0031】
本実施例の撮像装置および/または光デバイス1の動作は、
図2に示したように、主として外部メモリ26に記憶された撮像処理プログラム26bと、画像処理プログラム26cと、光伝搬計算プログラム26dと、各種部材の設定プログラム26e、画像表示プログラム26fがRAM25に展開され、コントローラ23により実行される撮像処理実行部25bと、画像処理実行部25cと、光伝搬計算実行部25d、各種部材の設定値実行部25e、画像表示実行部25fによって制御されるものとする。前述の撮像処理実行部25bと、画像処理実行部25cと、光伝搬計算実行部25d、各種部材の設定値実行部25e、画像表示実行部25fはその一部または全部の動作をハードウェアで実現する各ハードウェアブロックで行っても良い。ROM24及びRAM25はコントローラ23と一体構成であっても良い。また、ROM24は、
図2に示したような独立構成とはせず、外部メモリ26内の一部記憶領域を使用しても良い。
【0032】
また、RAM24は、各種アプリケーションプログラム実行時に、必要に応じてデータを一時的に保持する一時記憶領域を備えるものとする。外部メモリ26は撮像素子15で撮影されている画像を一時的に蓄えても良い。また、撮像装置および/または光デバイス1の各動作設定値や撮像装置および/または光デバイス1の位置情報や各種情報、撮像装置および/または光デバイス1が撮影した画像や情報等の一部または全部のデータ、その他プログラムを格納している。
【0033】
外部メモリ26の一部領域を以ってROM24の機能の全部または一部を代替しても良い。また、外部メモリ26は、撮像装置および/または光デバイス1に電源が供給されていない状態であっても記憶している情報を保持する必要がある。したがって、例えばフラッシュROMやSSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disc Drive)等のデバイスが用いられる。
【0034】
次に本発明の基礎的な技術に関して数式を用いながら説明を行う。
図3は本発明の技術の一つであるアレイ導波路グレーティング(Arrayed Waveguide Grating:AWG)
(第1アレイ導波路格子、分波部)30の原理を説明するための図である。以下AWGと称する。ここで説明を行うAWG30は、入力導波路31、入力スラブ導波路33、アレイ導波路35、出力スラブ導波路34、出力導波路32で構成される。
【0035】
入力導波路31から入射された光は入力側の入力スラブ導波路33で回折により広がり、アレイ導波路35を構成する複数の導波路を同位相で励振する。アレイ導波路35の各々の導波路は互いに接合しないように離れており、その長さが一定値ずつ異なるように設計されている。この値は例えば波長をλとするとλ,λ/2,λ/4,λ/6,λ/8・・・等のわずかな値を設定する。すなわち、アレイ導波路35を伝搬した後の各導波路の出力端における光の位相は一定量ずつずれている。つまり、AWGはアレイ導波路における光路差を利用した回折格子となる。
【0036】
アレイ導波路35を通過した光は出力側の出力スラブ導波路34に伝搬され回折により広がるが、それぞれのアレイ導波路35を通過した光は互いに干渉するので波面の揃う方向にのみ強め合い集光する。この集光の方向は波長によって異なるので出力スラブ導波路35端にファイバーを設置することで異なる波長を取り出すことができる。これが出力導波路32である。アレイ導波路35を通過した光は干渉し強め合わなければならない。その条件は以下の式(1)で与えられる。ここで、ncはアレイ導波路35の実効屈折率、nsは出力スラブ導波路34の実効屈折率、dはアレイ導波路35の導波路間隔、ΔLは光路差、θはスラブ導波路35の回折角度であり、mは回折次数である。波長が変われば集光位置が移動する。
【0037】
【0038】
出力スラブ導波路34から出射した光が到達する出力導波路32の焦点位置の中心からの距離xとして、集光位置の波長分解能は波長λで(1)式を微分して(2)式となる。fは出力スラブ導波路34の焦点距離、ngはアレイ導波路35の実効群屈折率である。また、ngは(3)式で表される。
【0039】
【0040】
【0041】
(2)式及び(3)式より焦点距離を長くしたり、回折次数を大きくしたり、アレイ導波路35の間隔を小さくすることで波長分解能を高めることができる。波長分解能とは、所望の導波路間隔のことで値が大きいほど間隔が小さく、たくさんの導波路を設けることができる。また、回折次数を高めることができるのがAWGの利点である。AWGは光路長差ΔLの設定のみで回折次数を独立に設計することができ、光路長差ΔLはアレイ導波路35のレイアウトによって柔軟に設定できるために所望の波長分解能の分離が容易に実現できる。
【0042】
また、(1)式でθ=0すなわち中心波長λ0が求められる。
【0043】
【0044】
ここでAWG30の中心波長は回折次数に応じて周期的に存在することが分かる。隣接する回折次数間の波長間隔はFSR(Free Spectral Range)と称され、周波数単位で(5)式のように表される。cは光速とする。AWG30では、波長分解能を上げるためには回折次数を大きくすればよいが、中心波長が一定である。従って(4)式から光路長差も大きくなる。よって、(5)式FSRが小さくなるので合分波できる波長領域が減少する。つまり、適切な回折次数の選択がAWG30の設計において重要である。
【0045】
【0046】
これらAWGは上述の(1)から(5)の式を満足するような値で設計して薄膜プロセスで作成すれば非常に小型でかつ薄いAWGを作成することが可能である。
【0047】
次に本実施例の撮像装置および/または光デバイス1の実際の適用例としての平面導波路型デジタルホログラフィック顕微鏡(Planar Lightwave Circuit Digital Holographic Microscope:PLC-DHM)について説明する。以下PLC-DHM36と称する。
【0048】
図4は本発明による分波器用AWG30aと狭帯域化用AWG(
第2アレイ導波路格子)30bと波長選択機能部材5と、干渉機能部材7を組み合わせたPLC-DHM36の実施形態を示した図である。分波器用AWG30aと狭帯域化用AWG30bは
図1の分波器4と狭帯域化機能部材6に相当するものである。
【0049】
今回の発明ではPLC-DHM36を2つのAWGを使うことからAWG-PLC-DHMと称してAWG30を2つ組み合わせて単一波長を用いたイメージング手法を示している。この
図4ではAWGを2つ組み合わせる手法となっており、上述した通り、分波器4としてのAWG30aと狭帯域化機能部材6としてのAWG30bからなる。
【0050】
本発明を用いることで、広帯域の波長をもつ光から単一波長の光のみを用いて対象物体の分光特性を取得できるだけでなく、3次元イメージングを可能にする。
【0051】
さらに、分波器4のAWG30と狭帯域化機能部材6のAWG30との間に波長選択機能部材(スイッチング)7を導入することで自由な波長を選択することが可能となり、複数波長を用いた分光特性の取得やイメージングが実現できる。このエリアが光デバイス40となる。また、複数のAWGは平面で構成されているため薄膜化が容易であり、四角で囲まれた光デバイス40の部分にある2つのAWG、波長選択機能部材7は1チップ化させることが可能でる。
【0052】
さらに温度センサー39とヒータ38を組み込むことで温度コントローラ8を構成することが出来る。これも1チップ化が可能である。この温度コントローラ8はAWGからの光を一定の波長にコントロールしたり、波長をわずかに変更したりするときに使う。今例えば光の波長をλとすると、元の波長λ,に対してλ/2,λ/4,λ/6,λ/8・・・等のわずかな値シフトさせたいときにヒータ38と温度センサ39を使った温度コントローラ8で変更することが可能になる。或いは周囲温度により光の波長がずれた場合の補正等にも使用することが可能である。
【0053】
図4の下の図では光源としての白色光は色々な波長成分が混ざって出射されるが、分波器4を通った後は特定の波長成分のみが通り、図では示していないが波長選択機能部材5を通り、狭帯域化機能部材6を通ると選択化され狭帯域化された光のみ通ることを図式化したものである。
【0054】
図5は
図4で説明した光デバイス40部分の別の応用例である。この場合には温度センサ39とヒータ38が無い状態を示している。上述の例では温度センサ39とヒータ38を使った位相シフト機能9についての記載となっているが位相シフト機能9としてピエゾ素子等を使うことも可能である。
【0055】
従って光デバイス40には温度センサー39とヒータ38がなくても良い。この例を
図5に示す。
図5では光デバイス40は分波器AWG30a、波長選択機能部材5、狭帯域化用AWG30bからなり、いずれも薄膜プロセスで作成できるので小型化が可能である。機能としては
図4と同様に白色光を分波器AWG30aで分波し、波長選択機能部材5で特定の波長を選択し、狭帯域化用AWG30bで特定の狭帯域された光を生成して対象物体に照射する。
【0056】
次に
図5、6を用いて分波器用AWG30aと狭帯域化用AWG30bがどの様な精度で作ることが可能かを示した図である。これは一例であり、設計や条件により色々に対応することは可能である。
図5の分波器用AWG30aの大きさは
図5(a)に示した通り3.7mm×20.9mmである。光源の白色光から出射された光を8つの波長に分波できていることが確認できた。効率は、70%を達成し高効率で分波器できていることも確認できた。波長が600 nm付近の半値全幅は17 nmとなっているので、コヒーレンス長は(6)式と計算され、可干渉性は低くなったので、別のAWGで狭帯域化する必要があるのもわかる。
【0057】
【0058】
次に狭帯域化機能部材6のAWG30bの評価について説明する。この狭帯域化用AWG30bの特徴は、回折次数を大きくすることでチャネル間隔を小さくすることである。(2)式を変形するとチャネル間隔Δλは(2‘)式となるので、回折次数mに反比例することになる。
【0059】
【0060】
また、半値全幅はチャネル間隔Δλの半分程度であることからチャネル間隔が小さくなることで半値全幅の狭帯域化が可能となる。
【0061】
次に狭帯域化AWG30bの実験結果を
図6に示す。狭帯域化用AWG30bの大きさは
図6(a)に示した通り15.2mm×24.2mmである。狭帯域化AWG30bの波長間隔が9.6 nmと可視光領域に対して大変小さい値をなっているので、1つのチャネルから約40個のピークが観測される。そのうちの605 nm付近のピークを1つ取り出すと、半値全幅は0.2 nmを達成した。ただし、本実験で使用したスペクトルアナライザーの分解能が0.2 nmとなっており、それより小さい値を表示できないのでさらに小さい可能性がある。半値全幅が0.2 nmの時、コヒーレンス長L
cは(6)式と計算できるので、可干渉性が向上していることを確認した。
【0062】
【0063】
この様に2つのAWGを使うことで白色光源でも十分に狭帯域化された光を利用して平面導波路型デジタルホログラフィック顕微鏡が構成できることが確認できる。
【0064】
上記では位相を少しずつシフトさせる方法の一例として温度センサー39とヒーター38を使ったシステムについて記載しているが、これに限ることはなく、例えばピエゾ素子等の素子を使って光路差を作り位相をシフトさせる方法でも良い。
【0065】
次に実際の対象物体のプロファイルがどの程度高精度に出来るかを、
図7を用いて説明する。上述した様に本発明では少しずつ波長をずらした複数の波長の干渉縞を形成することが出来る。これにより複数波長を用いた合成波長による高ダイナミックレンジの定量位相評価も可能となり、位相情報から高精度の測定サンプルの表面形状を測定できるようになる。1波長のみの場合、3次元物体の正しい形状を得るためには位相アンラップする必要があった。
【0066】
しかし、多波長を用いる場合位相アンラップの必要性を低減させる方法が提案されており、その一つが合成波長である。ここでは2波長を用いた場合の合成波長を述べる。
図7は、波長合成による効果を示したシミュレーション図である。この図では2波長での合成波長と単波長を比較した。
図7より単波長のみ用いた場合、細かく位相が折り返されているが、2波長合成波長を用いることで位相の折り返しが減っていることが分かる。このように合成波長は波長を拡大し位相アンラップの回数を減らすことができる。
【0067】
2波長の合成波長は、物体光の波面O1とその共役O2*をかけた値の計算により合成波長位相Φは(8)式の様になる。
【0068】
【0069】
(8)式から合成波長Λは(9)式のように定義される。
【0070】
【0071】
波長を適切に選択し、合成波長を用いることにより位相アンラップの必要性を低減させることができるだけでなく、100 mmを超える物体の形状を得ることができる。以下にその例を示す。
【0072】
例えば、波長が632.8 nmと543.5 nmの二つの波長を用いた合成波長による定量位相評価を行うために
図8のようなサンプルを作り評価した。
図8は屈折率が1.52スライドガラスと屈折率が1.50のマッチングオイルで理論光路差が3.1 µmとなっており、これは632.8 nmの約5倍の急激な段差を有するサンプルである。
【0073】
また、今回の実験で使用した光源の波長は632.8 nm, 543.5 nmであるので合成波長は、(10)式に相当するので、位相アンラップを行わずに段差を表現できる。
【0074】
【0075】
図9は
図8のサンプルを使って得られた位相像と543.5 nmのみ使用した測定結果と合成波長を使用した測定結果である。
図9(a)は543.5nmの波長のみを使った場合の断面図、
図9(b)は波長543.5nmと波長632.8nmの2つの波長を使った合成波長による断面図である。
図9(a)のように543.5 nmのみでは急激な段差に位相アンラップが対応できず、光路差を表せていない。急激な段差を有するサンプルに対しては位相アンラッピングで3次元情報を取得することは困難であるのが分かる。これに対し、
図9(b)の様に合成波長を用いることで光路差が合成波長内に収まっているので、位相アンラップを行わずに光路差が測定可能となる。
【0076】
上記では本発明の効果を説明するために様々な実験結果や検討結果、サンプルの形状等を数値化して示しているが、上記数値化はあくまでも一例であり、対象とする物体の大きさや形状により様々な形状を用いることが可能である。また、より小型軽量化を図るため、さらに小型薄型のAWGを作ることも可能であり、薄膜プロセスを使い、大量かつ低価格に作ることも可能である。また、上記の各AWGの形状や導波路の本数等についてはあくまでも設計事項なので大きさや形状、導波路の本数等についてはこれに限ることはなく、様々な形状や大きさ、本数を使っても構わない。
【符号の説明】
【0077】
1:撮像装置、2:記録光学機能、3:光源、4:分波器、5:波長選択機能部材、6:狭帯域化機能部材、7:干渉機能部材、8:温度コントローラ、9:位相シフト機能、10:干渉計、11:対象物体、12:ミラーA、13:ビームスプリッターA、14:ビームスプリッターB
、15:撮像素子、16:ミラーB、18:処理機能、19:画像処理、20:光伝搬計算、21:画像表示処理、22:システム制御機能、23:コントローラ、24:R O M、25:R A M、26:外部メモリ、27:表示部、28:システムバス、30:アレイ導波路グレーティング(Arrayed Waveguide Grating : AWG)、30a:分波器用AWG、30b:狭帯域化用AWG、31:入力導波路、32:出力導波路、33:入力スラブ導波路、34:出力スラブ導波路、35:アレイ導波路、36:平面導波路型デジタルホログラフィック顕微鏡(Planar Lightwave Circuit Digital Holographic Microscope:PLC-DHM)、37:光ファイバー、38:ヒーター、39:温度センサー、40:光デバイス、