IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特許7577337キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット
<>
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図1
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図2A
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図2B
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図3
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図4
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図5
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図6
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図7
  • 特許-キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20241028BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20241028BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241028BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241028BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241028BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241028BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20241028BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K31/711
A61P35/00
A61P9/10
A61K48/00
C12N15/62 Z
C12Q1/34
C12N15/55
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021534069
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028421
(87)【国際公開番号】W WO2021015234
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019136414
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】和田 健彦
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/148620(WO,A1)
【文献】特表2003-511059(JP,A)
【文献】FINN, P.J., et al.,"Synthesis and properties of DNA-PNA chimeric oligomers.",NUCLEIC ACIDS RESEARCH,1996年09月01日,Vol.24, No.17,pp.3357-3363,doi: 10.1093/nar/24.17.3357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7088
A61K 31/711
C12N 15/62
C12N 15/11
C12N 15/55
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸に対して結合する能力を有する第1の核酸又はその誘導体と、前記標的核酸に対して結合する能力を有し、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体とが融合したキメラ分子であって、
前記第1の核酸又はその誘導体の主鎖骨格が、アミド骨格であり、
前記第1の核酸又はその誘導体が、ペプチドリボ核酸又はその誘導体とペプチド核酸又はその誘導体の組み合わせであり、
前記第1の核酸又はその誘導体が、前記第2の核酸又はその誘導体の5’末端に融合しており、
前記第1の核酸の誘導体又は第2の核酸の誘導体が、前記第1の核酸又は前記第2の核酸に結合しているウラシル、シトシン、チミン、アデニン又はグアニンのハロゲン化誘導体、前記第1の核酸又は前記第2の核酸に結合しているプリン環又はピリミジン環のハロゲン化誘導体、前記第1の核酸又は前記第2の核酸の脱アミノ誘導体、及び前記第1の核酸又は前記第2の核酸の塩基の酸素原子に代えて硫黄原子を有する誘導体から選択される誘導体であって、
前記キメラ分子と前記キメラ分子に結合した前記標的核酸とからなる複合体が、ヌクレアーゼに対して特異的に結合し、
前記ヌクレアーゼが、前記第1の核酸又はその誘導体と、前記第2の核酸又はその誘導体との融合部分で前記標的核酸を切断し、
前記ヌクレアーゼで切断後の標的核酸両断片の融解温度Tmが、38℃以下である、前記キメラ分子
【請求項2】
前記第1の核酸又はその誘導体の主鎖骨格が、中性又は陽イオン性である、請求項1に記載のキメラ分子。
【請求項3】
前記第2の核酸又はその誘導体の主鎖骨格が、糖-リン酸骨格である、請求項1又は2に記載のキメラ分子。
【請求項4】
前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼHである、請求項のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項5】
前記第2の核酸又はその誘導体が、DNAである、請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項6】
前記標的核酸が、RNA又はDNAである、請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ分子。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ分子を有効成分とする医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が、がん又は虚血性脳疾患である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ分子とヌクレアーゼとを用いて、生体外で標的核酸を切断する、標的核酸の切断方法。
【請求項10】
前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼHである、請求項に記載の標的核酸の切断方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ分子とヌクレアーゼとを含む標的核酸切断用又は診断用キット。
【請求項12】
前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼHである、請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラ分子、医薬組成物、標的核酸の切断方法、及び、標的核酸切断用又は診断用キットに関する。
本願は、2019年7月24日に、日本に出願された特願2019-136414号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸医薬が抗体医薬と同様に次世代型分子標的薬として注目されている。特に、核酸医薬は、抗体医薬では治療できない疾患も対象となる。また化学合成により比較的安価に供給できること等多数の利点を有し、抗体医薬同様に、ポスト低分子医薬としての地位が確立されつつある。
【0003】
核酸医薬には多数の薬剤戦略が報告されているが、例えば、アンチセンス核酸(ASO)は疾患進行に関与するメッセンジャーRNA(mRNA)やマイクロRNA(miRNA)、エスアイRNA(siRNA)などを標的とし、塩基配列選択的に標的を認識し、複合体を形成することで標的RNAの機能を抑制し治療効果を発現する。これら核酸医薬が有効に薬効発現するためには、1)高い生体内安定性、2)標的核酸への高い特異性と複合体安定性が求められ、天然型DNA/RNAに化学修飾を施した修飾オリゴ核酸/人工オリゴ核酸の開発が精力的に研究されている。
【0004】
これまで優れた修飾あるいは人工核酸が報告されているものの、標的核酸と類似配列を有する非標的核酸への結合に起因する副作用(狭義のオフターゲット効果)、標的核酸認識に依存しない核酸医薬特有の毒性(広義のオフターゲット効果)の発現が実用化に向けて解決すべき課題として指摘され、その低減・改善が世界的に研究されている。
【0005】
広義のオフターゲット効果の克服へ向けた方法論として、核酸医薬の投与量の低減が提案されている。しかし、投与量を低減すると当然標的RNAとの複合体形成量の低下が起こり、効果的な薬効発現は期待出来ない。具体的には、細胞内導入量がsub-nMレベルが限界と報告されているASOを用いて、発現量がsub-μMレベルのmRNAを標的とする系ではもちろん、nM-pMレベルの細胞内発現量で機能を発揮するmiRNAを標的とする系でもフィードバック機構が報告され、標的RNAとASOの1:1複合体形成に基づく薬効発現戦略では、十分な治療効果が期待できないことが指摘されている。
本課題の解決法として、少量のASOで標的RNAを触媒のように切断する、RNaseHを活用した触媒様の機能を有する核酸医薬が注目されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Liang, X. et al., Mol. Ther. 2017, 25, 2075
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低濃度で標的核酸の機能を抑止でき、オフターゲット効果を抑制できるキメラ分子、前記キメラ分子を含む医薬組成物、前記キメラ分子を用いる標的核酸の切断方法、及び、前記キメラ分子を含む標的核酸切断用又は診断用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、RNaseによる標的RNAの切断効率向上には、代謝回転数の増加が有効であると考えた。この観点から、RNA切断後の解離過程に着目することで、切断後標的RNAの複合体から迅速解離可能なオリゴ核酸系構築に資する設計法を提案し、実証実験に成功した。本方法を利用すれば、低濃度で標的核酸の機能を抑止でき、オフターゲット効果を抑制できることを見出したことから、本発明を完成させた。
本発明は以下の態様を含む。
[1] 標的核酸に対して結合する能力を有する第1の核酸又はその誘導体と、前記標的核酸に対して結合する能力を有し、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体とが融合したキメラ分子。
[2] 前記第1の核酸又はその誘導体の主鎖骨格が、中性又は陽イオン性である、[1]に記載のキメラ分子。
[3] 前記第1の核酸又はその誘導体の主鎖骨格が、アミド骨格である、[2]に記載に記載のキメラ分子。
[4] 前記第2の核酸又はその誘導体の主鎖骨格が、糖-リン酸骨格である、[1]~[3]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[5] 前記第1の核酸又はその誘導体が、前記第2の核酸又はその誘導体の5’末端に融合している、[1]~[4]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[6] 前記第1の核酸又はその誘導体が、前記第2の核酸又はその誘導体の3’末端に融合している、[1]~[4]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[7] 前記キメラ分子と前記キメラ分子に結合した前記標的核酸とからなる複合体が、ヌクレアーゼに対して特異的に結合する、[1]~[6]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[8] 前記ヌクレアーゼが、前記第1の核酸又はその誘導体と、前記第2の核酸又はその誘導体との融合部分で前記標的核酸を切断する、[7]に記載のキメラ分子。
[9] 前記ヌクレアーゼで切断後の標的核酸両断片の融解温度Tmが、38℃以下である、[8]に記載のキメラ分子。
[10] 前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼHである、[7]~[9]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[11] 前記第1の核酸又はその誘導体が、ペプチド核酸又はペプチドリボ核酸もしくはそれらの誘導体である、[1]~[10]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[12] 前記第2の核酸又はその誘導体が、DNAである、[1]~[11]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[13] 前記標的核酸が、RNA又はDNAである、[1]~[12]のいずれか一項に記載のキメラ分子。
[14] [1]~[13]のいずれか一項に記載のキメラ分子を有効成分とする医薬組成物。
[15] 前記医薬組成物が、がん又は虚血性脳疾患である、[14]に記載の医薬組成物。
[16] [1]~[13]のいずれか一項に記載のキメラ分子とヌクレアーゼとを用いて標的核酸を切断する、標的核酸の切断方法。
[17] 前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼHである、[16]に記載の標的核酸の切断方法。
[18] [1]~[13]のいずれか一項に記載のキメラ分子とヌクレアーゼとを含む標的核酸切断用又は診断用キット。
[19] 前記ヌクレアーゼが、リボヌクレアーゼHである、[18]に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低濃度で標的核酸の機能を抑止でき、オフターゲット効果が抑制できるキメラ分子、前記キメラ分子を含む医薬組成物、前記キメラ分子を用いる標的核酸の切断方法、及び、前記キメラ分子を含む標的核酸切断用又は診断用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各々の10倍量の5’末端を蛍光色素で標識したRNAと混合した系を用い、PPD-RNA複合体のRNaseHによる切断物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した図である。レーン1はRNA1のラダーと塩基配列、レーン2はDNA1とRNA1との複合体にRNaseHを60U/μL添加した場合、レーン3はDNA1とRNA1との複合体にRNaseHを6U/μL添加した場合、レーン4はPPD1とRNA1との複合体にRNaseHを60U/μL添加した場合、レーン5はPPD1とRNA1との複合体にRNaseHを6U/μL添加した場合のRNaseHによるRNA1切断物のポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンを示す。
図2A】DNA1-RNA1の複合体の場合の、RNaseHのRNA1の切断位置を示した図である。
図2B】PPD1-RNA1の複合体の場合の、RNaseHのRNA1の切断位置を示した図である。
図3】各々の10倍量の5’末端を蛍光色素で標識したRNAと混合した系を用い、DNA1、PPD4、PPD1又はPD2とRNA1との複合体のRNaseHによる切断物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した図である。レーン1はそれぞれRNA1(対照)、DNA1、PPD4、PPD1、PD2を添加した場合のRNaseHによるRNA1切断物のポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンを示す。レーン6はRNA1のラダーと塩基配列を示す。
図4】各々の10倍量の5’末端を蛍光色素で標識したRNAと混合した系を用い、DNA2、PPD7又PD1とRNA2との複合体のRNaseHによる切断物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した図である。レーン1はRNA2のラダーと塩基配列を示し、レーン2~5はそれぞれRNA2(対照)、DNA2、PPD7、PD1を添加した場合のRNaseHによるRNA2切断物のポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンをそれぞれ示す。
図5】各々の10倍量の5’末端を蛍光色素で標識したRNAと混合した系を用い、DPP1又PPD5とRNA1との複合体のRNaseHによる切断物をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した図である。レーン1はRNA1のラダーと塩基配列を示し、レーン2~8はそれぞれRNA1(対照)、PPD5(10nM)、PPD5(1nM)、PPD5(0.1nM)、DPP1(10nM)、DPP1(1nM)、DPP1(0.1nM)を添加した場合のRNaseHによるRNA1切断物のポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンをそれぞれ示す。
図6】RNaseHのDPP1-RNA1複合体のRNAの切断位置を示した図である。
図7】無細胞系翻訳システムにおけるPPD2とDNA2のアンチセンス活性を示す。レーン1~3はRNaseH非存在下、レーン4~6はRNaseH存在下での結果を示す。レーン1及び4は対照、レーン2及び5はDNA2、レーン3及び6はPPD2を添加した場合を示す。
図8】無細胞系翻訳システムにおけるPPD5とDPP2のアンチセンス活性を示す。レーン1、3及び5はRNaseH非存在下、レーン2、4及び6はRNaseH存在下での結果を示す。レーン1及び2は対照、レーン3及び4はPPD5、レーン5及び6はDPP2を添加した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[キメラ分子]
本発明のキメラ分子は、標的核酸に対して結合する能力を有する第1の核酸又はその誘導体と、前記標的核酸に対して結合する能力を有し、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体とが融合している。
【0012】
本発明において、核酸の誘導体としては、特に制限はされないが、核酸に結合している塩基部が、ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニン若しくはプリン環やピリミジン環のハロゲン化誘導体、脱アミノ誘導体、または各核酸塩基の酸素原子に代えて硫黄原子を有する誘導体などを挙げることができる。
【0013】
前記標的核酸に対して結合する能力を有する第1の核酸又はその誘導体は、その主鎖骨格が中性又は陽イオン性であることが好ましく、中性であることがより好ましい。前記中性の主鎖骨格としては、特に制限はないが、例えば、アミド骨格が挙げられる。前記アミド骨格を有する核酸又はその誘導体としては、例えば、ペプチド核酸又はその誘導体(以下、Peptide nucleic acid;PNAと称することがある)、ペプチドリボ核酸又はその誘導体(Peptide ribonucleic acid;以下、PRNAと称することがある)、PRNAとPNAの組み合わせ(以下、PNA/PRNAとも称する)等が挙げられる。PNA/PRNAにおいて、PNAにおけるPRNAの結合位置は、PNAのいずれの位置でもよく、PNAの途中に結合されていてもよい。例えば、PNA-PRNA-PNAのような組み合わせであってもよい。
【0014】
前記陽イオン性の主鎖骨格としては、特に制限はないが、例えば、イミノ骨格やリン酸アミド若しくはフォスホロアミダイト骨格等が挙げられる。前記各骨格を有する核酸又はその誘導体としては、例えば、モルホリノ型核酸等が挙げられる。
【0015】
前記標的核酸に対して結合する能力を有し、主鎖骨格が陰イオン性である第2の核酸又はその誘導体の主鎖骨格としては、特に制限はないが、糖-リン酸骨格が好ましい。前記糖-リン酸骨格を有する核酸又はその誘導体としては、例えば、リボ核酸(Ribonucleic acid;以下、RNAとも称する)、デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid;以下、DNAとも称する)等が挙げられる。
【0016】
前記標的核酸としては、本発明のキメラ分子が結合できる標的配列を有する核酸又はその誘導体であれば、特に制限はないが、RNA又はDNAが好ましく、本発明のキメラ分子を医薬組成物として用いる場合は、前記標的核酸は、前記医薬組成物を用いて治療する疾患の原因となる蛋白質をコードするRNA又はDNAが好ましい。
【0017】
前記第1の核酸又はその誘導体は、前記第2の核酸又はその誘導体の3’末端、5’末端のいずれに融合していてもよい。
【0018】
本発明の前記第1の核酸又はその誘導体と、前記第2の核酸又はその誘導体が融合したキメラ分子としては、例えば、前記第1の核酸又はその誘導体であるPNAと、前記第2の核酸又はその誘導体であるDNAとの融合体(以下、PNA-DNAキメラ分子とも称する)、前記第1の核酸又はその誘導体であるPNA/PRNAと、前記第2の核酸又はその誘導体であるDNAとの融合体等が挙げられる。前記前記第1の核酸又はその誘導体であるPNA/PRNAと、前記第2の核酸又はその誘導体であるDNAとの融合体としては、DNAの5’側にPNA/PRNAが融合したキメラ分子(以下、PNA/PRNA-DNAキメラ分子、PPDとも称する)、DNAの3’側にPNA/PRNAが融合したキメラ分子(以下、DNA-PNA/PRNAキメラ分子、DPPとも称する)等が挙げられる。
【0019】
本発明のキメラ分子は以下のようにして製造することができる。
前記第1の核酸としてPNA、前記標第2の核酸としてDNAである、PNA-DNAキメラ分子は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0020】
(PNAオリゴマーの合成)
PNAオリゴマーは、公知の固相ペプチド合成法により合成することができる。例えば、ベンゾイル基保護FmocPNAモノマーを用いて、Fmoc-固相ペプチド合成法(Solid phase peptide synthesis;以下、Fomc-SPPS法とも称する)により、下記に示す工程により合成することができる。
【0021】
【化1】
【0022】
上記において、N末又はC末のリジン残基は、水溶性の向上と、アシル転移反応抑制のために導入している。合成は、NovaSyn(登録商標)TGRレジン等を用い、公知の方法により行うことができる。ベンゾイル基保護Fmoc-PNAモノマーの縮合反応は、例えば、Fmoc-PNA(Bz)-OH(10等量)、HATU(1-[bis(dimethylamino)methyliumyl]-1H-1,2,3-triazolo[4,5-b]pyridine-3-oxide hexafluorophosphate;10等量)、HOAt(1-hydroxy-7-azabenzotriazole;10等量)及びDIEA(N,N-diisopropylethylamine;20等量)を含むNMP(N-methylpyrrolidone)溶液で30分間処理することにより行うことができる。Fmoc基は、20%ピペリジンを含むNMP溶液で20分間処理することにより除去することができる。これらのカップリング、Fmoc基の除去工程は、目的とする配列に到達するまで繰り返す。ベンゾイル基の脱保護は、28%アンモニア水で、60℃で処理することにより行うことができる。最後に、リジン残基のBoc基の解離と脱保護をTFA(trifluoroacetic acid)/TIPS(triisopropylsilane)/フェノール/水(94:3:1:2)混合液で処理することにより行う。得られた粗生成物は、逆相HPLCにより精製することができ、ESI-TOF-MSにより精製物を同定することができる。
【0023】
(PNA-DNAキメラ分子の合成)
PNA-DNAキメラ分子は、公知の方法で合成したベンゾイル保護Fmocモノマーを目的配列に適用し、例えば、下記のようにして合成することができる。
【0024】
【化2】
【0025】
PNA分子のN末は、アシル転移反応を抑制するためにグリシンで修飾している。合成は、DNA合成のためにアデニン残基に結合しているCPGレジンを用いてDNA/RNA自動合成機によりDNA分子の構築から開始する。
【0026】
DNA分子は、アクチベータとして5-BMTを用いる通常のホスホアミデート法により伸長させることができる。5’-アミノ修飾デオキシヌクレオチド誘導体は、公知の方法により調製した5’-MMTr(モノメトキシトリチル)アミノデオキシヌクレオチドホスホアミデートを用いてDNA分子の5’末端に導入する。DNA合成機による5’アミノ修飾誘導体の導入後、3%TCA/DCM溶液で15分間処理することによりDNAの5’末端のMMTr基を除去する。次に、PNAをアミド結合で結合するため、DNAの5’アミノ基を用いてFmoc-SPPS法により伸長させる。
【0027】
ベンゾイル保護FmocPNAを用いる縮合反応は、Fmoc-PNA(Bz)-OH(10等量)、HATU(10等量)、HOAt(10等量)及びDIEA(20等量)を含むNMP溶液で30分間行う。レジン上で未反応のアミノ基のアセチルキャッピングは、25%無水酢酸/DCMで行うことができる。Fmoc基は、20%ピペリジン/NMP処理により除去することができる。これらカップリング、アセチルキャッピング、Fmoc除去工程を、目的配列になるまで繰り返す。最後に、ベンゾイル基、及びDNA分子のシアノエチル基の解離と脱保護を、28%アンモニアで60分間処理することにより行う。得られた粗生成物は、逆相HPLCにより精製することができ、精製物は、MALDI-TOF-MSにより同定することができる。
【0028】
(PNA/PRNA-DNAキメラ分子;PPDの合成)
DNAの5’側にPNA/PRNAが融合した、PPDの合成は、前記PNA-DNAキメラ分子の合成と同様の方法により、例えば、下記に示した工程により行うことができる。
【0029】
【化3】
【0030】
RPNAモノマーは、Fmoc-SPPS法に基づきPNA分子の特定の位置に導入することができる。PRNAモノマー(Fmoc-γPRNA-OH)は、例えば、下記の工程により調製することができる。
【0031】
【化4】
【0032】
粗生成物は逆相HPLC精製し、精製物は、MALDI-TOF-MSにより同定することができる。
【0033】
(DNA-PNA/PRNAキメラ分子;DPPの合成)
DNAの3’末端にPNA/PRNAを融合した、DPPの合成は、例えば、Fmoc-SPPS法を用い、DNA合成機を用いて、以下の工程により行うことができる。
【0034】
【化5】
【0035】
合成は、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルアルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)と4-ジメチルアミノピリジンのDMF(N,N-dimethylformamide)溶液の縮合試薬を用いてNovaSyn(登録商標)TGAレジン上でFmoc-Gly-OHを導入することにより開始する。
【0036】
合成は、Fmoc-SPPS法のためにFmoc-Gly機能性TGAレジンを用いることが好ましい。PNA/PRNA分子は、ベンゾイル保護Fmoc-PNAとFmoc-γPRNAモノマーを用いてFmoc-SPPS法により伸長することにより合成することができる。カップリング条件は、PNA-DNAキメラ分子と同様の条件を用いることができる。Fmoc-SPPSの完了後、PRNA分子の2’、3’-ヒドロキシ基は、アセチル基で保護する。N末のFmoc基の除去後、レジンをDNA合成機により、公知のホスホアミデート法によりホスホアミデート結合で結合したPNA/PRNA分子のN末端のアミノ基からDNA分子を伸長する。最後に、解離と脱保護を28%アンモニアにより行う。得られた粗生成物は、逆相HPLCにより精製することができ、精製物は、MALDI-TOF-MSにより同定することができる。
【0037】
(ヌクレアーゼに対する作用)
本発明のキメラ分子と前記キメラ分子に結合した前記標的核酸とからなる複合体は、ヌクレアーゼに特異的に結合する。前記ヌクレアーゼとしては、リボヌクレアーゼHが好ましく用いられるが、それに限らず前記複合体に特異的に結合すればよく、特にリボヌクレアーゼの種類に関しての制限はない。
【0038】
前記ヌクレアーゼは、前記第2の核酸又はその誘導体を認識する部位(以下、核酸認識部位とも称する)と、標的核酸を切断するヌクレアーゼ活性部位を有する。前記ヌクレアーゼの前記核酸認識部位は、塩基性アミノ酸残基から構成されているチャネル構造を有するため、陰イオン性の骨格を有する前記第2の核酸又はその誘導体と結合する。前記第2の核酸又はその誘導体が、前記核酸認識部位に結合すると、前記第2の核酸又はその誘導体と融合している第1の核酸又はその誘導体が、前記ヌクレアーゼの切断活性部位に引き込まれ、前記第1の核酸又はその誘導体と、前記第2の核酸又はその誘導体の融合(接合)部位において、選択的に標的核酸を切断することができる。
【0039】
本発明のキメラ分子は、前記第1の核酸又はその誘導体と、前記第2の核酸又はその誘導体の融合(接合)部位で、本発明のキメラ分子に結合している標的配列を切断できるため、前記誘導部位を標的核酸の切断部位とするキメラ分子を設計することにより、標的核酸を目的とする位置で切断することができる。
【0040】
本発明のキメラ分子は、前記ヌクレアーゼで切断後の標的核酸両断片の融解温度(Tm)が好ましくは、体温以下、例えば、38℃以下であってよく、37℃以下、30℃以下、25℃以下であってもよい。前記標的核酸両断片のTmを体温以下とすることにより、前記ヌクレアーゼで1か所切断されて生ずる標的核酸両断片は、速やかにヌクレアーゼから解離することができる。一方、ヌクレアーゼによる標的核酸の切断後、本発明のキメラ分子は、ヌクレアーゼから速やかに解離するため、本発明のキメラ分子は、速やかに次の標的核酸の切断に用いられ、標的核酸のヌクレアーゼによる切断の高効率なターンオーバーが可能となる。そのため、本発明のキメラ分子は、低濃度で標的核酸を切断することが可能となるため、オフターゲット効果を軽減することができる。
【0041】
[医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、本発明のキメラ分子を有効成分として含有する。
【0042】
本発明において、医薬組成物としては、特に制限はないが、本発明のキメラ分子が標的とする標的核酸がコードする蛋白質が原因となる疾患を治療する医薬組成物等が挙げられ、例えば、抗腫瘍剤、虚血性脳疾患治療剤等が挙げられる。本発明の医薬組成物は、内在性のヌクレアーゼにより、標的核酸を切断し、標的核酸がコードする蛋白質の発現を抑制することができるため、前記標的核酸がコードする蛋白質が原因となる疾患を治療することができる。
前記標的核酸がコードする蛋白質としては、本発明の医薬組成物の標的になるものであれば原理的には全て可能であり、例えば、特発性肺繊維症の治療標的とされるTGFβやがんの治療標的であるp53ならびにがん遺伝子ras、加齢性黄斑変性症の治療標的であるVEGF165等が、本発明の医薬組成物の標的となる蛋白質の例として挙げられる。
前記疾患としては、特に制限はなく、がん、虚血性脳疾患、加齢性黄斑変性、家族性高コレステロール血症、筋ジストロフィー、認知症、NASH、肝硬変、特発性肺線維症、肝疾患、自己免疫疾患、腎疾患、造血系疾患、アトピー性皮膚疾患、乾癬等が挙げられる。
【0043】
本発明の医薬組成物は、様々な形態、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤等とすることができる。好ましい態様は、注射剤であり、非経口(例えば、静脈内、経皮、腹腔内、筋内)で投与することが好ましい。
【0044】
本発明の医薬組成物としては、上記剤型により単剤で用いるだけでなく、異なる組成の核酸医薬あるいは低分子薬剤や抗体医薬などとの合剤など、投与に用いられる剤型やデリバリーシステムは最適なものを選べばよい。また、本発明の医薬組成物をそのまま、あるいは修飾することで、ミセル内に封入したり、抗体医薬などと結合した形態等様々な投与方法を選択しうる。本発明の医薬組成物は、疾病の種類や標的核酸の種類等により異なるが、例えば、0.025~50mg/kg、好ましくは0.1~50mg/kgであり、より好ましくは0.1~25mg/kg、さらに好ましくは0.1~10mg/kg又は0.1~3mg/kgとすることができるが、これに限定されない。
【0045】
[標的核酸の切断方法及び標的核酸切断用又は診断用キット]
本発明の標的核酸の切断方法は、本発明のキメラ分子と、ヌクレアーゼを用いる。ヌクレアーゼとしては、前記したものが挙げられる。本発明の標的核酸の切断方法により、標的配列を特異的に切断することができるため、配列選択的な標的核酸の切断、ゲノム編集ツールの他、標的核酸がコードする蛋白質が原因となる疾患の診断に用いることができる。
【0046】
本発明の標的核酸切断用又は診断用キットは、本発明のキメラ分子と、ヌクレアーゼを含む。ヌクレアーゼとしては、前記したものが挙げられる。本発明の標的核酸切断用キットには、本発明のキメラ分子、及びヌクレアーゼの他に、標的核酸断片検出に必要な他の構成要素、例えば、アクリルアミドゲル、反応緩衝液、反応容器等を含むことができる。本発明の標的核酸切断用キットにより、標的核酸を特異的に切断することができるため、配列選択的な標的核酸の切断、ゲノム編集ツールとして用いることができる。また、本発明の診断用キットは、本発明のキメラ分子が標的とする標的核酸がコードする蛋白質が原因となる疾患の診断に用いることができる。本発明のキメラ分子が標的とする標的核酸がコードする蛋白質としては、前記したものが挙げられる。
本発明の診断用キットは、例えば、被検者の生体試料中の核酸が、本発明の診断用キットにより切断できるか否かを検出することにより、被検者の生体試料中に標的核酸が含まれているかを判定することができるため、前記被検者が、本発明のキメラ分子が標的とする標的核酸がコードする蛋白質が原因となる疾患に罹患しているかを診断することができる。前記生体試料としては、特に制限はなく、例えば血液、唾液、尿、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、涙液、眼房水、硝子体液、リンパ液等が挙げられる。
また、本発明の診断用キットの構成要素を体内に導入することで、体内環境や標的分子の存在の有無、濃度などにより生ずる、検出プローブ分子の構造変化や物理化学的変化を体外で検出することや、体外から照射あるいは暴露させる光や磁気、超音波、放射線等によるエネルギー変化の外部での検出で高感度に計測することや、画像として可視化する体外診断への応用も可能である。
【実施例
【0047】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]PNA-DNAキメラ分子の製造
PNA-DNAキメラ分子は、DNA自動合成及び、CPGレジンを用いるFmoc-SPPS法により合成した。
合成は、自動DNA合成機によりDNA分子の構築から開始した。2’-デオキシアデノシン残基を担持させたCPGレジンDNA合成のためにアデニン残基に結合しているCPGレジン(1μMスケール)をDNA合成機に導入し、DNA分子をアクチベータとして5-BMTを用いる通常のホスホアミデート法により伸長させた。ホスホアミデート溶液の濃度は、アセロニトリル中で70~78mMとした。5’-アミノ修飾デオキシシチジン誘導体は、公知の方法により調製した5’-MMTrNHデオキシシチジンホスホアミデートを用いてDNA分子の5’末端に導入した。最終のトリチル“ON”工程を用いて、DNA合成器による5’-アミノ修飾誘導体の導入後、レジンをDNA合成機から外し、Fmoc-SPPS工程のための反応カラムに移した。3%TCA/DCM溶液で15分間処理することによりDNAの5’末端のMMTr基を除去した。
【0049】
次に、PNAをアミド結合の基礎としてのDNAの5’アミノ基を用いてFmoc-SPPS法により伸長させた。レジンは、表面のアミノ基を塩基性とするため20%ピペリジン/NMPで処理し、ろ過し、NMPで5回以上洗浄した。ベンゾイル基保護FmocPNAモノマーを用いた縮合反応は、Fmoc-PNA(Bz)-OH(10等量)、HATU(10等量)、HOAt(10等量)及びDIEA(20等量)を含むNMP溶液(300μL)を用いる処理により行った。時々強く撹拌しながら、30分間室温で反応させた後、溶液を除去し、レジンをNMPで3回以上洗浄した。
【0050】
次に、NMP中20%ピペリジン溶液をレジンに添加し、20分間時々撹拌し、Fmoc基を除去した。Fmoc基除去の完了後、レジンをNMPで5回以上洗浄した。縮合反応とFmoc除去工程は目的のPNA-DNAキメラ分子の配列を構築するまで繰り返した。
最後に、PNA残基のN末アミノ基内の分子アシル転移を抑制するため、Fmoc-Gly-OHを上記と同じ縮合条件により導入した。Fmoc-SPPS工程が完了後、レジンを28%アンモニア溶液で60℃下16時間処理することにより、全ての保護基を除去し、レジンから分離した。次に、レジンをろ過により除去し、ろ液を濃縮した。粗生成物は、COSMOSIL 5C18-AR-IIカラム(ナカライテスク、10Φ×250mm)を用い、流速3mL/minで、溶媒A:0.1M TEAA緩衝液(pH7.5)、溶媒B:0.1M TEAA(pH7.5)/アセトニトリル(1:1、v/v)で5%から70%のリニアグラジエントで30分間の条件で逆相HPLCを用いて精製した。
上記の方法により、下記表1に示す2種のPNA-DNAキメラ分子(PD1、PD2)を製造した。
【0051】
【表1】
【0052】
[実施例2]PPDの製造
DNAの5’末端側にPNA/PRNAが融合したDNA-PNA/PRNAキメラであるPPDは、DNA自動合成機とCPGレジンを用いたFmoc工程の組み合わせにより合成した。
合成は、自動DNA合成によりDNA分子の構築から開始した。2’デオキシヌクレオシド残基を担持したCPGレジン(1μMスケール)をDNA合成機に導入し、DNA分子をアクチベータとして5-BMTを用いる通常のホスホアミデート法により伸長させた。ホスホアミデート溶液の濃度は、アセロニトリル中で70~78mMとした。5’アミノ修飾デオキシヌクレオシド誘導体は、公知の方法により調製した5’-MMTrNHデオキシシチジンホスホアミデートを用いてDNA分子の5’末端に導入した。
【0053】
最終のトリチル“ON”工程を用いてDNA合成機による5’アミノ修飾誘導体の導入後、レジンをDNA合成機から外し、Fmoc-SPPS工程のための反応カラムに移した。3%TCA/DCM溶液で15分間処理することによりDNAの5’末端のMMTr基を除去した。
【0054】
次に、PNAをアミド結合の基礎としてのDNAの5’アミノ基を用いてFmoc-SPPS法により伸長させた。レジンは、表面のアミノ基を塩基性とするため20%ピペリジン/NMPで処理し、ろ過し、NMPで5回以上洗浄した。
ベンゾイル基保護FmocPNAモノマーを用いた縮合反応は、Fmoc-PNA(Bz)-OH(10等量)、HATU(10等量)、HOAt(10等量)及びDIEA(20等量)を含むNMP溶液(300μL)を用いる処理で行った。時々強く撹拌しながら、30分間室温で反応させた後、溶液を除去し、レジンをNMPで3回以上洗浄した。
【0055】
次に、NMP中20%ピペリジン溶液をレジンに添加し、20分間時々撹拌し、Fmoc基を除去した。Fmoc基除去の完了後、レジンをNMPで5回以上洗浄した。縮合反応とFmoc除去工程は目的のPNA-DNAキメラの配列を構築するまで繰り返した。最後に、PNA残基のN末アミノ基内の分子アシル転移を抑制するため、Fmoc-Gly-OH又はFmoc-Lys(Fmoc)-OHを上記と同じ縮合条件により導入した。
Fmoc-SPPS工程が完了後、レジンを28%アンモニア溶液で60℃で16時間処理することにより、全ての保護基を除去し、レジンから分離した。
次に、レジンをろ過により除去し、ろ液を濃縮した。粗生成物は、COSMOSIL 5C18-AR-IIカラム(ナカライテスク、10Φ×250mm)を用い、流速3mL/minで、溶媒A:0.1M TEAA緩衝液(pH7.5)、溶媒B:0.1M TEAA(pH7.5)/アセトニトリル(1:1、v/v)で5%から70%のリニアグラジエントで30分間の条件で逆相HPLCを用いて精製した。
上記の方法により、表2に示す7種のPPD(PPD1~PPD7)を製造した。
【0056】
【表2】
【0057】
[実施例3]DPPの製造
Fmoc-Gly-OH(30mg、100μmol)とEDC・HCl(19mg、100μmol)をDMF(1.0mL)に溶解し、溶液を氷冷下35分間撹拌した。氷冷を外し、DMF及びDMAP(1.2mg、10μmol)中のNovaSyn(登録商標)TGAレジン(42mg、ヒドロキシ基の10μmol)をDMF及びDMAP(1.2mg、10μmol)を溶液に添加し、得られた混合物を室温で1.5時間撹拌した。レジンをろ過し、NMP、DCM/エタノール(1:1、v/v)及びDCMで連続的に洗浄した。
【0058】
レジンを十分に洗浄後、1.0mLの安息香酸無水物(113mg、0.5mmol)の20%ピリジン/NMP溶液をレジンに添加し、混合物を時々振盪しながら室温に放置した。1時間放置後、レジンをNMPとDCMで十分に洗浄した。エタノールで洗浄後、レジンを減圧下で、デシケーター中で乾燥させ、Fmoc-Gly機能性TGAレジンを得た(41mg、94%)。Fmoc-Gly-OHの導入量は、20%ピペリジン/NMP処理によって遊離するFmoc-ピペリジンの定量的UV(301nm)測定により算出した。
【0059】
上記で得られたFmoc-Gly機能性TGAレジン(1μmolスケール)をNMPで洗浄し、室温で20分間20%ピペリジン/NMPで処理し、Fmoc保護基を除去した。NMPで十分に洗浄後、レジンをFmoc-PNA(Bz)-OH又はFmoc-γRPNA-OH(10等量)、HOAt(10等量)、HATU(10等量)及びDIEA(20等量)のNMP溶液(300μL)に添加し、混合物を時々振盪しながら、室温で30分間放置し、このカップリング工程を2回繰り返した。NMPで洗浄し、DCMで洗浄後、レジンを室温で10分間25%無水酢酸/DCMで処理した。上記カップリング工程後、レジンをDCMで洗浄し、NMPで洗浄した。続いて、Fmocを室温で20分間20%ピペリジン/NMP処理により除去した。同じFmoc除去、カップリング及びキャッピング工程をPNA-PRNA鎖の伸長に用いた。最後のカップリング工程後、レジンをNMPとDCMで十分に洗浄し、ピリジンで洗浄した。その後、無水酢酸/DCM(2:3、v/v)をレジンに添加し、時々振盪しながら室温で2時間放置し、PRNA分子の2’3’ヒドロキシ基を保護した。
【0060】
N末のFmoc保護基の除去後、レジンを自動DNA/RNA合成機のために空のカラムに移し、レジンを含むカラムをDNA/RNA合成機に設置した。DNA鎖は、5’-O-DMTr-3’-O-(2-シアノエチル)ホスホアミデート構築ブロックを用いて通常のホスホアミデート法により伸長した。鎖の集合後、レジンを28%アンモニア水で、60℃で18時間処理し、DPPを脱保護、解離させた。その後、メンブレンフィルターを通してろ過し、レジンを除去した。ろ液を真空で部分的に濃縮し、5C18-AR-IIカラム(10×250nm)で逆相HPLCを用いて精製し、DPPを得た。
上記の方法により、表3に示す2種のDPP(DPP1、DPP2)を製造した。
【0061】
【表3】
【0062】
[実施例4]RNase活性の測定
PD・RNA複合体のRNaseによるRNA切断活性を以下のように検討した。
標的となる塩基配列が、配列番号12で表される塩基配列を有する5’-FAMラベルRNA(5’-FAM-GAAUCUUAUAGUCUUGCA-3’;RNA1)を、実施例2で得られたPPD1の0.1等量と混合した。混合物をアニールし、PPD・RNA複合体を形成させた。
次に、60U/μLのRNaseHを混合物に加え、37℃で反応させ、RNA1を切断させた。30分間反応させた後、7M尿酸トリス塩酸緩衝液を加えて反応を止め、次にRNaseHの不活化を70℃で10分間行った。PPD1の対照として、同じ処理をカウンターパートの配列番号13で表される塩基配列を有するDNA1(5’-TGCAAGACTATAAGATTC-3’)に対して行った。切断されたRNA断片は、20%分解ポリアクリルアミドゲル電気泳動(分解PAGE)、蛍光イメージアナライザーによる可視化と定量により分析した。その結果を、図1及び表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
図1及び表4に示したように、RNaseHの60U/μLを用いたDNA1の場合は、54%のRNA1が切断された。それに対し、PPD1の場合は、99%以上のRNA1が切断され、これはRNaseHの活性の飽和を意味する。そこで、RNaseHの量を6U/μLまで減少させて同じRNAの切断実験を行った。
その結果、図1及び表4に示したように、DNA1の場合は、RNA1の切断の程度が12%まで減少したのに対し、PPD1の場合は、RNA1の切断は、90%以上に維持されていた。この結果、RNaseHは、DNA1・RNA1複合体と比較して、PPD1・RNA1複合体において8倍高いRNA1切断活性を示していることが判明した。
【0065】
PD1の場合の切断位置は、図2Bに示したように、PNA-DNAアミド結合近くの一つの位置であった。それに対し、DNA1の場合は、図2Aに示したように、複数の位置で切断されていた。RNaseHが結合する最小のDNA塩基長は5~6塩基であり、これは、RNaseHのDNA結合チャネル間の距離に対応している。従って、PPD1のDNA分子は、一つの切断位置を導入するRNaseHのDNA結合チャネルにより正確に認識される、7DNA核酸塩基からなっていた。5~6塩基対を用いるDNA・RNAヘテロ複合体は、幾つかの位置で結合させることが可能となる。これは、複数サイトのRNA切断を誘導する。これらに基づき、上記RNA切断の促進は、次のように説明される。
【0066】
RNaseHは標的RNAに対する塩基配列選択性を有しないため、DNA1の場合、標的RNAとの複合体の切断部位は様々であり、一度の切断で複合体の解離が誘起されない可能性が高く、ASO-切断RNA-RNaseH複合体から、切断RNAは解離できず、DNA1のターンオーバー回数は低くなる。一方、本発明のキメラ分子であるPPD1の場合は、標的RNAの一カ所、特に切断後の複合体の安定性がいずれも体温(37℃)以下となる配列前後での切断を実現でき、一度の切断で複合体は効率よく解離し、他の切断されていない標的RNAに結合することが可能となり、ターンオーバー数の飛躍的な向上が可能となると考えらえる。このことを、切断されたRNA1・DNA1複合体の切断後の両断片とASOとの複合体のTmを、実測定や熱力学的パラメータを用いた最近接塩基法により算出し、実証した。
【0067】
図2Aに示したように、DNA1の場合、切断は非特異的に様々な部位(a~e)で観察された。切断後の複合体の安定性を計算すると、サイトaとサイトdでの切断では、それぞれDNA1との切断後複合体はTm=35.3℃、37.2℃となった。これは、体温(37℃)とほぼ同じで、切断後でも複合体は解離し難いことが予想される。他のサイトでの切断でも切断断片との複合体のTmは37℃以上となるものが多かった。一部の切断断片(サイトbやc)は、切断後のRNA断片とDNA1の複合体のTmは、37℃以下になるものもあったが、その生成確率は高くなかった。このため、一般的に複数回のRNaseH切断が複合体解離には必要となり、RNaseH切断のターンオーバー数の抑制が起こっている。
【0068】
それに対して、PPD1は、PNA-DNAジャンクションにおいて選択的な一つのRNA切断を示し、これは、RNA切断前と比較してRNA1・PPD1複合体の温度安定性を大きく減少させる。したがって、1度のRNaseH切断で複合体は解離し、ASOは直ぐに切断されていない標的RNAとの複合体形成が可能となり、結果的にRNaseH切断ターンオーバー数が促進され、この実験においてすべてのRNA1が切断される。このことを確認するため、切断されたRNA・PPD1複合体のTmを算出した。
【0069】
図2Bに示したように、主要な切断サイトは、サイトaの一つであった。それにより、生成した断片は、PPD1のDNA分子との複合体(切断されたRNA・DNA複合体)、PPD1のPNA/PRNA分子との複合体(切断されたRNA・PNA/PRNA複合体)のようなPPD1との複合体とは異なるタイプの複合体を形成する。上記切断されたRNA・DNA複合体の温度安定性は、ニアレストネイバーサーモダイナミックスパラメータにより算出したところ、Tm=13.2℃であった。上記切断されたRNA・PNA/PRNA複合体の温度安定性は、UV温度融解解析によりTm=22.3℃であった。PNAは、生理的に高い塩濃度条件下でDNA/RNAと不安定性の複合体を形成すると報告されている。このことから、切断されたRNA・PNA/PRNA複合体のこの低い温度安定性は合理的であると考えられる。
以上のことから、PNA-DNA融合部での選択的な一つの位置でのRNA1の切断は、体温(37℃)以下の温度安定性を有するRNA断片を生成し、PPD1の効率的なターンオーバーとして認識される。
【0070】
次に、RNaseH活性に関するキメラへのPRNA導入の効果を検討した。RNA1(1μM)とRNaseH(0.6U/μL)を、DNA1、PPD4、PPD1又はPD2(10nM)存在下で37℃30分間反応させた。その結果を図3及び表5に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
DNA1の場合は、RNA1切断の量は、非常に小さかった。それに対して、PPD4及びPPD1の10nM存在下ではRNA1の90%を超える切断が観察された。PD2についても、PPD4及びPPD1と比較して同じレベルのRNaseH活性が示された。
【0073】
RNaseH活性に関しキメラのPRNAを導入した効果を、配列番号14で表される塩基配列を有するRNA2(5’-FAM-UAAGAAGGAGAUAUAC-3’)を用いた16merRNAを用いて検討した。RNA2(1μM)とRNaseH(6×10-3U/μL)を配列番号15で表される塩基配列を有するDNA2(5’-GTATATCTCCTTCTTA-3’)、PPD7又はPD1(10nM)存在下で、37℃で30分間反応させた。その結果を、図4及び表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
DNA2の場合、52%のRNA2が切断された。PPD7存在下では、76%のRNA2の切断が観察され、これはDNA2と比較して1.5倍のRNaseH活性であった。それに対して、PD1の場合は、RNA2切断量は、40%であり、これは、PPD7よりも1.9倍低かった。この結果、キメラ分子へのPRNA導入は、RNaseH活性を促進させることを可能とし、これは、標的RNAとのA型の複合体が形成されるRNA選択的結合性に起因すると考えられる。
【0076】
次に、DPP1のRNaseHによる標的RNA1の切断活性を検討し、PPD5の活性と比較した。DPPは、3’末端にRNA切断が誘導されると予想される。RNA1をDPP1又はPPD5の1/100、1/1000又は1/10000等量と混合し、それぞれアニールし複合体を形成させた。その後、6×10-3のU/μLのRNaseHを加え、37℃で30分間反応させた。その結果を、図5及び表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
図5に示したように、DPP1は、RNAの3’末端から3~4塩基の位置でRNAが切断した。主要な切断部位を図6に示した。切断活性は、DPP1の10nMの場合で43%であり、これは、DPP5の場合(73%)と比較して、1.7倍低かった。DPP1のこの低い切断活性は、限定的なRNA1切断位置に起因すると考えられる。PPD5の場合は、切断位置は、PNA-DNAジャンクションの一つのポイントである。従って、RNA1の効率的な解離と、PPD5の効率的なターンオーバーが37℃以下の低い温度安定性を有するRNA1の生成により実現された。
【0079】
それに対して、DPP1の場合は、切断はRNA1の3’末端近くで見られ、そのため、長いRNA断片が切断後に生じ、それが37℃を超える高い温度安定性を維持する。そのため、DPP1のターンオーバー効率は、PPD5と比較して低下した。
【0080】
[実施例5]RNaseHによるRNA切断反応の速度論的パラメータ
PD5の高効率のRNA切断について検討するため、RNaseHによるRNA切断の速度論的分析を実施した。
RNaseH(1.5×10-3U/μL=4.1nM)を過剰量のPPD1・RNA1(1、2、5、10μM)存在下でpseudo-first-order反応条件下で反応させ、各PPD1・RNA1の濃度で切断したRNA1量のタイムプロファイルをプロットした。得られた各々の基質濃度の初期速度を用いることにより、Lineweaver-Burkプロットを行った。同じ実験を、DPP1・RNA1の場合も実施した。Lineweaver-Burkプロットから得られた速度論的パラメータを表8に纏めた。DNA・RNA複合体のパラメータは、大塚らにより報告された結果を参照し、抽出した。その結果を表8に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表8に示したように、PPD1・RNA1複合体とRNaseHとによるRNA切断反応のkcat値は、DNA・RNA複合体よりも1.9倍程度であった。この結果は、RNaseHは、対応するDNA・RNA複合体と比較して、PPD1・RNA1複合体は若干切断効率が向上していることを示しているが、図3で示した標的RNA切断実験よりも明確にその向上率は低い。RNaseHはPPD1・RNA1複合体と高い切断活性を示し、RNaseHのPPD1・RNA1複合体との結合のミカエリシスメンテン乗数(Km)は、DNA.RNA複合体よりも大きかった。このことは、PPD1・RNA1複合体とRNaseHとの結合活性は、DNA・RNA複合体よりも低いことを示唆している。kcatとKm値との間のこの関係に従い、RNaseHの認識性は、PPD1の高いRNA切断活性に殆ど影響を与えないと思われる。また、PPD1・RNA1複合体のVmax値は、DNA・RNA複合体よりも4倍大きいが、この値は、ゲル電気泳動から推定される値よりも小さい(例えば、図1により、約8倍高いRNA切断活性が観察される(レーン2と4の比較)。これらの結果から、基質(PPD1-RNA1複合体)とのRNaseHの結合は、律速ステップではなく、切断されたPPD1-RNA1複合体のRNaseHからの解離工程がRNaseHの効率的なRNA切断活性に重要であると考えられる。
【0083】
DPP1の場合は、RNaseHによるRNA切断活性のkcat値は、DNA・RNA複合体よりも小さかった。この結果は、DPP1は、対応するDNAと比較して低い切断活性を示すことを示している。RNA切断のVmax値は、DNA・RNA複合体よりも1.7倍以上であったが、Km値は、DNA・RNA複合体の5.2倍以上であった。
このDNA・RNA複合体と比較して高いKm値は、天然のDNA骨格が、PNA-PRNA骨格へ置換することにより、RNaseHの認識性の低下を誘導することに起因するものと思われる。しかしながら、DPP1・RNA1複合体のKm値は、PPD1-RNA1よりも低く、これは、DPP1・RNA1複合体のRNaseHの認識性が、PPD1・RNA1複合体と比較して促進されていることを示している。DPP1・RNA1とPPD1・RNA1との間でKm値が異なっていることは、RNaseHによるDPP1・RNA1複合体の認識部位が、PPD1-RNA1複合体の認識部位と異なっていることを支持している。
【0084】
図5に示した切断反応も認識部位が異なっていることを支持している。PPDとDPPとの間の異なるRNaseH活性は、RNA切断位置だけではなく、RNaseHとの認識性及びRNaseHの触媒切断活性(kcat/Km)に依存的であると考えられる。このkcat/Km値は、RNaseHのRNA切断反応の速度論的解析に依存する基質濃度により決定することができる。上記表8に示したように、PPDとDPPのkcat/Km値は、殆ど同じオーダーであった(PPD・RNA:1.67×10-1-1、DPP・RNA:1.97×10-1-1)。このことから、キメラ分子のターンオーバー効率は、RNAの切断位置により主に制御されると考えられる。これらのことから、RNaseHの切断位置は、RNA切断活性とキメラのターンオーバー効率の促進に重要であることが判明した。
【0085】
[実施例6]無細胞系翻訳システムにおけるアンチセンス活性
内在性のRNA切断への適用を確かめるため、in vitro無細胞系翻訳システムを用いて、PPDの蛋白質合成阻害活性(アンチセンス活性)を検討した。この検討で用いたASOであるPPD2とDNA2は、ルシフェラーゼレポーターアッセイのため、Renillaルシフェラーゼ遺伝子の上流のシャインダルガノ(SD)配列の相補配列である、5’-GAAGGA-3’を含む16merである。ASO(PPD2又はDNA2)は、標的のmRNAに対して1/10等量添加した。反応は、RNaseHのRNA切断活性を評価するため、RNaseH存在下と非存在下で行った。その結果を図7に示す。
【0086】
図7に示したように、RNaseH非存在下では、アンチセンス活性は、DNA2の場合、殆ど観察されなかった。DNA2の阻害活性は、RNaseHを加えることにより若干見られた(12%)。それに対し、PPD2の場合は、RNaseH非存在下で9%のアンチセンス活性が認められ、DNA1よりも少し高かった。PPD2のアンチセンス活性は、RNaseH添加により91%まで著しく促進された。RNaseH非存在下の化学量論的な阻害レベルよりもこのように低いことは、阻害が1体1の複合体形成のみにより起こることを示唆している。わずか1/10等量のアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加で、PPD2の場合、10%以上の蛋白質発現の阻害が認められた。このことは、PPD2はRNaseH活性によって、触媒様に作用することを示している。この結果は、PPDは、標的mRNAを効率的に切断し、RNaseH活性を利用して蛋白質生産を阻害できることを示唆している。この結果は、RNA断片のゲル電気泳動解析と一致している。従って、RNAの切断位置を検討することは、アンチセンス活性のためのより効果的なASOをデザインするために本質的であると考えられる。
【0087】
次に、無細胞系翻訳システムにおけるPPD5とDPP2のアンチセンス活性を、PURSYSTEM Classic IIを用いて検討した。実験は、RNaseH非存在下と存在下で行った。その結果を図8に示す。
PD5とDPP2は、Renillaルシフェラーゼ遺伝子をコードする標的のmRNAに対して1/10等量添加した。PPD5の場合、アンチセンス活性は、RNaseH添加により75%まで促進された。それに対し、DPP2の場合は、RNaseH添加によるアンチセンス活性の促進は12%であり、PPD5と比較して6倍低かった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、低濃度で標的核酸の機能を抑止でき、オフターゲット効果が抑制できるキメラ分子、前記キメラ分子を含む医薬組成物、前記キメラ分子を用いる標的核酸の切断方法、及び、前記キメラ分子を含む標的核酸切断用又は診断用キットを提供することができる。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
0007577337000001.app