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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】溶湯保持炉
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/20 20060101AFI20241028BHJP
   F27B 3/16 20060101ALI20241028BHJP
   F27D 21/00 20060101ALI20241028BHJP
   B22D 45/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
F27B3/20
F27B3/16
F27D21/00 N
B22D45/00 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023112536
(22)【出願日】2023-07-07
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391003727
【氏名又は名称】株式会社トウネツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 城也太
【審査官】齋藤 健児
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-152067(JP,A)
【文献】特開2018-202451(JP,A)
【文献】特開2014-209054(JP,A)
【文献】特開2020-062677(JP,A)
【文献】実開昭53-053413(JP,U)
【文献】特許第7312499(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/20
F27B 3/16
F27D 21/00
B22D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体と、を有し、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記保持室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜する傾斜床面と、前記傾斜床面の下端部から側方へ延出する側方延出面とを有し、
前記側方延出面に、前記金属溶湯内の不要物が入る溝部が設けられ、
前記溶湯加熱体と前記傾斜床面との間に易加熱空間が形成されており、
前記易加熱空間にある前記金属溶湯が前記溶湯加熱体の表面と接触することによって前記溶湯加熱体の熱が前記金属溶湯に伝えられる構成とした、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【請求項2】
金属溶湯が供給される受湯室と、
前記受湯室と連通され、前記受湯室から流れ込んだ前記金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室と連通され、前記保持室から流れ込んだ前記金属溶湯を出湯する出湯室と、
前記保持室の内部の前記金属溶湯の液面との間に空間を作ることなく前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに設定された下限レベルに下がったことを検出する液面レベルセンサと、を有し、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記下限レベルに下がったことを検知した際に前記受湯室に前記金属溶湯を供給し、前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さを常時前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに保つ溶湯保持炉であり、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を有し、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記保持室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜する傾斜床面と、前記傾斜床面の下端部から側方へ延出する側方延出面とを有し、
前記側方延出面に、前記金属溶湯内の不要物が入る溝部が設けられ、
前記溶湯加熱体と前記傾斜床面との間に易加熱空間が形成されており、
前記易加熱空間にある前記金属溶湯が前記溶湯加熱体の表面と接触することによって前記溶湯加熱体の熱が前記金属溶湯に伝えられる構成とされ、
前記保持室の側壁部と前記溶湯加熱体の接続部分の位置が前記下限レベルよりも低い、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【請求項3】
前記溶湯加熱体の傾斜角度および前記傾斜床面の傾斜角度はともに20~45度の範囲内にある、請求項1または2記載の溶湯保持炉。
【請求項4】
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している請求項1または2記載の溶湯保持炉。
【請求項5】
金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体と、を有し、
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【請求項6】
金属溶湯が供給される受湯室と、
前記受湯室と連通され、前記受湯室から流れ込んだ前記金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室と連通され、前記保持室から流れ込んだ前記金属溶湯を出湯する出湯室と、
前記保持室の内部の前記金属溶湯の液面との間に空間を作ることなく前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに設定された下限レベルに下がったことを検出する液面レベルセンサと、を有し、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記下限レベルに下がったことを検知した際に前記受湯室に前記金属溶湯を供給し、前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さを常時前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに保つ溶湯保持炉であり、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を有し、
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら前記溶湯加熱体と同方向に傾斜しており、
前記保持室の側壁部と前記溶湯加熱体の接続部分の位置が前記下限レベルよりも低い、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【請求項7】
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面の傾斜角度と前記溶湯加熱体の傾斜角度はともに20~45度の範囲内にある、請求項5または6記載の溶湯保持炉。
【請求項8】
前記溶湯加熱体の基端部の下端である溶湯加熱体基端部下端が、前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置よりも、少なくとも高い位置にある、
請求項1、請求項2、請求項5、請求項6のいずれか1項に記載の溶湯保持炉。
【請求項9】
前記保持室蓋の下面表面の少なくとも一部が上方に窪んだ構造をなす、請求項1、請求項2、請求項5、請求項6のいずれか1項に記載の溶湯保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、アルミニウム合金などの非鉄金属を溶解した金属溶湯を保持する溶湯保持炉に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、アルミニウム合金などの非鉄金属の金属溶湯を加熱保持するため、従来から溶湯保持炉が使用されている。
【0003】
特許文献1には、溶解保持炉の炉体の天井部に支持板を介して取付けられた浸漬式バーナと、浸漬バーナより下流側に配置され、金属溶湯中の介在物を金属溶湯の上部へ浮上分離するための介在物浮上分離装置と、前記介在物を濾取するためのセラミックフィルタ等を備えた溶解保持炉が開示されている。
【0004】
特許文献2には、溶解炉本体と、溶解炉本体に金属溶湯を供給する材料投入機構とを備え、溶解炉本体が、溶解室と、受湯室と、汲出室と、溶湯加熱機構とを備え、溶解室が、溶解室蓋を備えた溶解保持炉が開示されている。前記材料投入機構は、汲出室において溶解室蓋の下面高さ位置より上に設定された下限レベルに汲出室の金属溶湯の液面高さ位置が下がったことを検出する液面レベルセンサSを備え、液面レベルセンサで汲出室の液面高さ位置が下限レベルに下がったことを検出した際、受湯室に金属溶湯及び金属塊の少なくとも一方を、汲出室の液面高さ位置が溶解室蓋の下面高さ位置より、常時、上の位置を保つように供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-320083号公報
【文献】特許第6638158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属溶解炉から溶解保持炉に金属溶湯を移した後、時間が経過するにつれて金属溶湯の流動性が低下する。そのため溶解保持炉内にもバーナやヒータ等の溶湯加熱体を設けるのが好ましい。
【0007】
特許文献1では、溶解保持炉の炉体の天井部に支持板を介して取り付けられた浸漬式バーナを用いている。
【0008】
しかしながら、このような縦型の浸漬式バーナでは、金属溶湯を加熱する部分がすべて金属溶湯内に浸漬されていないため、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえないことを本願発明者は知見した。また、特許文献1でいう天井部と金属溶湯との間に空気の存在する空間があると、縦型の浸漬式バーナの加熱する部分の一部が空気の存在する空間に触れるため、金属溶湯の湯面近傍で、酸化物が付着形成されやすくなる恐れがある。
【0009】
特許文献2の溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)では、溶解室蓋を上部から貫通した状態で加熱する部分がすべて金属溶湯に浸漬した配置をしている。この場合は、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえないことを本願発明者は知見した。例えば、略立方体や略直方体等の特定の大きさの溶解室内の金属溶湯に、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)を浸漬させ、特定の出力の溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)が金属溶湯を加熱する場合を考える。この場合、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)と金属溶湯とがいかに広く接触するかで、金属溶湯を加熱する効率が変わってくる。すなわち、金属溶湯に接触する溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の表面積が大きいほど金属溶湯を加熱する効率がよい。したがって、特許文献2の溶解室蓋を上部から貫通した状態で加熱する部分がすべて金属溶湯に浸漬した配置でも、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえない。また、特許文献2の溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)は、横浸漬型として溶解室の底部近傍に溶解室の外部側壁部から貫通した状態で配置している場合もある。
【0010】
しかしながら、前記特許文献2の溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の横浸漬型として溶解室の底部近傍に溶解室の外部側壁部から貫通した状態の配置では、浸漬バーナ又は浸漬ヒータを覆うセラミックチューブが割れるような破損の場合、浸漬バーナ又は浸漬ヒータを通じて、それぞれのバーナユニットやヒータボックスまで金属溶湯が侵入してくる恐れがあることを本願発明者は知見した。また、横浸漬型として溶解室の底部近傍に溶解室の外部側壁部から貫通した状態の配置は、前述のような破損が生じた場合、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の配置高さより低い高さまで金属溶湯を抜いた上で、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の交換作業を行わないといけないという作業上の問題がある。
【0011】
さらに、例えば、溶湯保持炉の金属溶湯を保持する保持室に関していえば、実際に金属溶湯が保持される保持室容器を形成する不定形耐火物や保持室容器の外側に位置する断熱材等は、各々作製される際、大気中の水分が含まれてしまい、乾燥させても完全には水分が抜けきれていない。そして、保持室容器を形成する不定形耐火物の抜け切れなかった水分は、金属溶湯と反応して水素原子の形で金属溶湯中に取り込まれ、水素ガスの気泡として金属溶湯中に放出される。また、保持室容器の外側に位置する断熱材等の抜け切れなかった水分は、保持室容器を形成する不定形耐火物を通して金属溶湯と反応して水素原子の形で金属溶湯中に取り込まれ、水素ガスの気泡として金属溶湯中に放出される。これらの水素ガスの気泡は、鋳造した製品内にピンホールを発生させる恐れがある。現状では、不活性ガス(窒素やアルゴンなど)を用いた脱ガス装置により、水素ガスの気泡を排除しているが十分ではなく、更なる水素ガスの気泡の放出を抑制することが求められている。
【0012】
そこで本発明の課題は、金属溶湯を効率的に加熱することができるとともに、酸化物の発生と水素ガスの気泡の放出を抑制した溶湯保持炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための手段の態様は次のとおりである。
【0014】
(第1の態様)
金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体と、を有し、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記保持室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜する傾斜床面を有し、
前記溶湯加熱体と前記傾斜床面との間に易加熱空間が形成されており、
前記易加熱空間にある前記金属溶湯が前記溶湯加熱体の表面と接触することによって前記溶湯加熱体の熱が前記金属溶湯に伝えられる構成とした、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【0015】
(作用効果)
第1の態様の溶湯保持炉によれば、溶湯加熱体と保持室の傾斜床面との間に形成された易加熱空間において、溶湯加熱体の全体から金属溶湯への熱伝導効率を高めることができ、保持室内の金属溶湯を効率的に加熱することができる。
【0016】
また、従来の溶湯加熱体を縦置きした略立方体や略直方体等の保持室は、保持室内に溶湯加熱体を収容するために、保持室の高さをある程度高くせざるを得なかった。しかし、保持室の高さが高くなると、溶湯保持炉と既存設備(例えばダイカストマシンの給湯設備をいい、この給湯設備は最大約1200mm程度の高さを有する。以下同じ。)を併設した際に、溶湯保持炉の高さが前記既存設備よりも高くなることが少なくなかった。このように溶湯保持炉と既存設備に高さの差が生じた場合、溶湯保持炉から既存設備に金属溶湯を移動させる労力が大きく、運転効率が悪いという問題がある。また、従来の溶湯加熱体が縦置きの場合、天井部と金属溶湯との間に空気の存在する空間があると、酸化物が付着形成されやすくなる恐れがあった。さらに、溶湯加熱体すべてが金属溶湯内に浸漬されていない場合があるため、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえなかった。また、従来の溶湯加熱体が縦置きで、加熱する部分がすべて金属溶湯に浸漬した場合でも、金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえなかった。例えば、略立方体や略直方体等の特定の大きさの溶解室内の金属溶湯に、溶湯加熱体を浸漬させ、特定の出力の溶湯加熱体が金属溶湯を加熱する場合を考える。この場合、溶湯加熱体と金属溶湯とがいかに広く接触するかで、金属溶湯を加熱する効率が変わってくる。すなわち、金属溶湯に接触する溶湯加熱体の表面積が大きいほど金属溶湯を加熱する効率がよい。したがって、従来の溶湯加熱体が縦置きで、加熱する部分がすべて金属溶湯に浸漬した場合でも、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえなかった。
【0017】
このような問題が生じることを防ぐため、保持室の高さを低くするとともに幅を広くして従前の保持室と同程度の容量の保持室とし、かつ、その保持室に長さが短く径が太い溶湯加熱体(従前の溶湯加熱体と同程度の加熱能力にするために径を太くする必要がある)を縦置きする方法も考えられる。しかし、そのような溶湯加熱体は特注品となるため、従前の溶湯加熱体と比べて著しく高価であり(10倍程度の価格)、イニシャルコストが高いという問題がある。
【0018】
他方、従来の溶湯加熱体を横置きするタイプの保持室では、保持室の幅を広くしなければならないため、必然的に保持室の底面の面積が大きくなり、保持室の設置面積が大きくなってしまうという問題がある。また、溶湯加熱体が破損した場合、破損した箇所から金属溶湯が溶湯加熱体に侵入し、例えば、溶湯加熱体が浸漬バーナの場合はバーナユニットまで、溶湯加熱体が浸漬ヒータの場合はヒータボックスまで、金属溶湯が侵入してくる恐れがある。さらに、破損が生じた場合、溶湯加熱体の配置高さより低い高さまで金属溶湯を抜いた上で、溶湯加熱体の交換作業を行わないといけないという作業上の問題がある。
【0019】
以上のような問題を解消するため、第1の態様では、溶湯加熱体を保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設ける構造とした。このような構造にすることで、溶湯加熱体を縦置きするタイプの従来の保持室よりも、保持室の高さを低くすることができる。その結果、前述の運転効率の低下という問題が生じることを防ぐことができる。また、溶湯加熱体の全体を金属溶湯内に浸漬することができるし、従来の溶湯加熱体の縦置きや横置きと比べ斜め下方に向かって延出するので長さを長くできるため、金属溶湯に接触する溶湯加熱体の表面積が大きくなり、金属溶湯を加熱する効率がよい。さらに、酸化物の付着形成を防ぐことができる。また、溶湯加熱体を横置きするタイプの従来の保持室よりも、保持室の底面の面積を小さくすることができるため、保持室の設置面積を小さくすることができるし、溶湯加熱体が破損した場合でも、破損した箇所から金属溶湯が溶湯加熱体に侵入し、例えば、溶湯加熱体が浸漬バーナの場合はバーナユニットまで、溶湯加熱体が浸漬ヒータの場合はヒータボックスまで、金属溶湯が侵入してくる恐れがない。さらに、破損が生じた場合でも、溶湯加熱体の配置高さより低い高さまで金属溶湯を抜かずに、溶湯加熱体を交換できる。また、保持室を小さくすることができるため、前述したように、保持室容器を形成する不定形耐火物や保持室容器の外側に位置する断熱材からの水分が金属溶湯と反応して水素原子の形で金属溶湯中に取り込まれ、水素ガスの気泡として金属溶湯中に放出される量も少なくなり、必然的に水素ガスの気泡の放出を抑制することができる。
【0020】
それとともに第1の態様では、溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、溶湯加熱体と同方向に傾斜させた傾斜床面を設けている。このように、保持室に傾斜床面を設けることで、溶湯加熱体と傾斜床面の間の距離が一定に保たれ、この隙間に存在する金属溶湯の熱伝導効率が高くなる。
【0021】
(第2の態様)
金属溶湯が供給される受湯室と、
前記受湯室と連通され、前記受湯室から流れ込んだ前記金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室と連通され、前記保持室から流れ込んだ前記金属溶湯を出湯する出湯室と、
前記保持室の内部の前記金属溶湯の液面との間に空間を作ることなく前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに設定された下限レベルに下がったことを検出する液面レベルセンサと、を有し、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記下限レベルに下がったことを検知した際に前記受湯室に前記金属溶湯を供給し、前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さを常時前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに保つ溶湯保持炉であり、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を有し、
前記溶湯加熱体の下方に位置する前記保持室の底面は、前記溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体と同方向に傾斜する傾斜床面を有し、
前記溶湯加熱体と前記傾斜床面との間に易加熱空間が形成されており、
前記易加熱空間にある前記金属溶湯が前記溶湯加熱体の表面と接触することによって前記溶湯加熱体の熱が前記金属溶湯に伝えられる構成とされ、
前記保持室の側壁部と前記溶湯加熱体の接続部分の位置が前記下限レベルよりも低い、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【0022】
(作用効果)
第1の態様と同様の作用効果を奏することができる。さらに、第1の態様の作用効果に加えて、以下の作用効果も奏することができる。
【0023】
すなわち、前記特許文献1では、浸漬式バーナ付近で酸化物が発生する可能性について言及しており、この酸化物や異物等の介在物を除去するために介在物浮上分離装置やセラミックフィルタを設けている。この介在物浮上分離装置やセラミックフィルタを設けると、イニシャルコストやランニングコストが高くなるとともに、溶解保持炉の構造が複雑になるという問題がある。
【0024】
また、前記特許文献2では、金属溶湯の酸化を抑制するために、金属溶湯と空気の接触を避ける構造の溶解保持炉が開示されている。具体的には、溶解保持炉の上部の溶解室蓋と金属溶湯の液面との間に空間を作らない構造が開示されている。
【0025】
しかし、前記特許文献2の溶湯加熱体(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)は、溶解室蓋を上部から貫通した状態で配置したり、横浸漬型として溶解室の底部近傍に溶解室の外部側壁部から貫通した状態で配置したりしている。
【0026】
溶解室蓋を上部から貫通した状態の配置の場合、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえない。例えば、略立方体や略直方体等の特定の大きさの溶解室内の金属溶湯に、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)を浸漬させ、特定の出力の溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)が金属溶湯を加熱する場合を考える。この場合、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)と金属溶湯とがいかに広く接触するかで、金属溶湯を加熱する効率が変わってくる。すなわち、金属溶湯に接触する溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の表面積が大きいほど金属溶湯を加熱する効率がよい。したがって、溶解室蓋を上部から貫通した状態の配置の場合は、必ずしも金属溶湯を効率的に加熱しているとはいえない。また、横浸漬型として溶解室の底部近傍に溶解室の外部側壁部から貫通した状態の配置の場合、浸漬バーナ又は浸漬ヒータを覆うセラミックチューブが割れるような破損の際、浸漬バーナ又は浸漬ヒータを通じて、それぞれのバーナユニットやヒータボックスまで金属溶湯が侵入してくる恐れがある。また、横浸漬型として溶解室の底部近傍に溶解室の外部側壁部から貫通した状態の配置の場合、前述のような破損が生じた際、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の配置高さより低い高さまで金属溶湯を抜いた上で、溶湯加熱機構(浸漬バーナ又は浸漬ヒータ)の交換作業を行わないといけないという作業上の問題がある。
【0027】
そこで、第2の態様では、保持室内の金属溶湯の液面と保持室蓋との間に空間がない状態にし、その状態を常時保つことができる構造にしたため、金属溶湯と保持室蓋との間に空気が入り込むことによって酸化物が生じる事態を防ぐことができる。
【0028】
それとともに、保持室の側壁部と溶湯加熱体の接続部分の位置を前記下限レベルよりも低い位置にしているため、保持室の側壁部と前記溶湯加熱体の接続部分を常に金属溶湯に浸漬した状態にすることができる。
【0029】
そして、傾斜して設置した第2の態様の溶湯加熱体は、保持室の側壁部との接続部分が最も高い位置にあたる。最も高い位置にある接続部分が常に金属溶湯に浸漬した状態であるということは、溶湯加熱体全体が常に金属溶湯に浸漬した状態であるといえる。
【0030】
以上のように、第2の態様の溶湯保持炉によれば、傾斜した状態で設置された溶湯加熱体が空気に触れることを防ぐことができるため、溶湯加熱体の周囲に酸化物が生じる事態を防ぐことができる。
【0031】
その結果、溶湯保持炉から出湯する金属溶湯に酸化物が混入する可能性を低減することができ、良質な金属溶湯を後段の装置(例えばダイカストマシンン)に提供することができる。
【0032】
(第3の態様)
前記溶湯加熱体の傾斜角度および前記傾斜床面の傾斜角度はともに20~45度の範囲内にある、前記第1の態様または第2の態様の溶湯保持炉。
【0033】
(作用効果)
溶湯加熱体と傾斜床面を略平行にすることで、溶湯加熱体の表面との傾斜床面との間の距離がどの箇所でもほぼ同じになるため、易加熱空間にある金属溶湯に対して溶湯加熱体から熱を均一に伝えることができる。その結果、金属溶湯を効率的に加熱することができ、金属溶湯の一部分に加熱不足が生じて金属溶湯の品質が低下する事態が生じることを防ぐことができる。
【0034】
また、溶湯加熱体の傾斜角度を20~45度の範囲にすることで、溶湯保持炉の高さを抑えることもできる。溶湯保持炉の高さを抑えることができると、溶湯保持炉の高さと他の既存設備の高さに差が生じにくくなる。その結果、溶湯保持炉から既存設備に金属溶湯を移動させる労力が小さくなり、運転効率をよくすることができる。
【0035】
(第4の態様)
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している前記第1の態様または前記第2の態様の溶湯保持炉。
【0036】
(作用効果)
第4の態様の溶湯保持炉によれば、溶湯加熱体と保持室蓋との間の隙間にある金属溶湯に対して、溶湯加熱体からの熱伝達効率を高めることができ、保持室内の金属溶湯を効率的に加熱することができる。
【0037】
(第5の態様)
金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体と、を有し、
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら前記溶湯加熱体と同方向に傾斜している、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【0038】
(作用効果)
第1の態様と同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
(第6の態様)
金属溶湯が供給される受湯室と、
前記受湯室と連通され、前記受湯室から流れ込んだ前記金属溶湯を保持する保持室と、
前記保持室と連通され、前記保持室から流れ込んだ前記金属溶湯を出湯する出湯室と、
前記保持室の内部の前記金属溶湯の液面との間に空間を作ることなく前記保持室の上方開口部を閉塞する保持室蓋と、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに設定された下限レベルに下がったことを検出する液面レベルセンサと、を有し、
前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さが前記下限レベルに下がったことを検知した際に前記受湯室に前記金属溶湯を供給し、前記出湯室の内部の前記金属溶湯の液面の高さを常時前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置以上の高さに保つ溶湯保持炉であり、
前記保持室の側壁部から斜め下方に向かって延出して設けられ、前記保持室の内部の前記金属溶湯を加熱する細長状の溶湯加熱体を有し、
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面が前溶湯加熱体と所定の間隔を空けながら前記溶湯加熱体と同方向に傾斜しており、
前記保持室の側壁部と前記溶湯加熱体の接続部分の位置が前記下限レベルよりも低い、
ことを特徴とする溶湯保持炉。
【0040】
(作用効果)
第2の態様や第4の態様と同様の作用効果を奏することができる。
【0041】
(第7の態様)
前記保持室蓋のうちの前記溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面の傾斜角度と前記溶湯加熱体の傾斜角度はともに20~45度の範囲内にある、前記第5の態様または前記第6の態様の溶湯保持炉。
【0042】
(作用効果)
保持室蓋のうちの溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面と溶湯加熱体を略平行にすることで、保持室蓋のうちの溶湯加熱体の上方に位置する部分の下面と溶湯加熱体との間の距離がどの箇所でもほぼ同じになるため、易加熱空間にある金属溶湯に対して溶湯加熱体から熱を均一に伝えることができる。その結果、金属溶湯を効率的に加熱することができ、金属溶湯の一部分に加熱不足が生じて金属溶湯の品質が低下する事態が生じることを防ぐことができる。
【0043】
また、溶湯加熱体の傾斜角度を20~45度の範囲にすることで、溶湯保持炉の高さを抑えることもできる。溶湯保持炉の高さを抑えることができると、溶湯保持炉の高さと他の既存設備の高さに差が生じにくくなる。その結果、溶湯保持炉から既存設備に金属溶湯を移動させる労力が小さくなり、運転効率をよくすることができる。
【0044】
(第8の態様)
前記溶湯加熱体の基端部の下端である溶湯加熱体基端部下端が、前記保持室蓋の下面のうちの最も高い位置よりも、少なくとも高い位置にある、前記第1の態様、前記第2の態様、前記第5の態様、前記第6の態様のいずれかの溶湯保持炉。
【0045】
(作用効果)
溶湯加熱体が破損し、金属溶湯が溶湯加熱体内に侵入しても、侵入した金属溶湯は溶湯加熱体基端部下端を超えることはない。
【0046】
(第9の態様)
前記保持室蓋の下面表面の少なくとも一部が上方に窪んだ構造をなす、前記第1の態様、前記第2の態様、前記第5の態様、前記第6の態様のいずれかの溶湯保持炉。
【0047】
(作用効果)
前記保持室蓋の下面の少なくとも一部が上方に窪んだ形状をなすことで、窪んだ形状の空間の分だけ、より多量に金属溶湯を保持することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、金属溶湯を効率的に加熱することができるとともに、酸化物の発生と水素ガスの気泡の放出を抑制した溶湯保持炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】第一実施形態に係る溶湯保持炉1を示した概略平面図である。
図2図1の保持室13のX-X線の断面図である。
図3】第二実施形態に係る溶湯保持炉1を示した概略平面図である。
図4図3のY-Y線の断面図である。
図5図1の別の形態(第三実施形態)の保持室13のX-X断面図である。
図6】比較例に係る保持室13を示す断面図である。
図7】保持室蓋の下面表面が上方に窪んだ形状にした図3のY-Y線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明に係る溶湯保持炉1の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明及び図面は、本発明の実施形態の一例を示したものにすぎず、本発明の内容をこの実施形態に限定して解釈すべきでない。
【0051】
(第一実施形態)
本発明に係る溶湯保持炉1の第一実施形態を図1図2に示す。この溶湯保持炉1は、アルミニウム合金等の金属溶湯MMを受け入れる受湯室11と、金属溶湯を保持する保持室13と、金属溶湯MMを出湯する出湯室16とを有する。保持室13には、溶湯加熱体2が備えられている。保持室13の上方USには保持室1の上方開口部を閉塞する保持室蓋13Cが設けられている。
【0052】
(保持室13)
保持室13は保持室容器13Dの内部の空間であり、この保持室13内に金属溶湯MMが保持される。保持室13内の金属溶湯MMの温度の低下を防止するため、溶湯加熱体2が設けられている。
【0053】
溶湯加熱体2は特に限定されるものではないが、金属溶湯MMの移動を妨げないものが好ましく、板状の加熱体よりも細長状の加熱体が好ましい。具体的には、チューブバーナーやチューブヒーターなどのチューブ状のものを用いることが好ましい。溶湯加熱体2の数は、金属溶湯MMの温度を適切に保持できれば特に制限はない。図1に示した第一実施例においては、保持室13内に3つの溶湯加熱体2を設置している。
【0054】
溶湯加熱体2の基端部は保持室13の側壁部分に設けられている。図2の例では、溶湯加熱体2の基端部は、保持室容器13Dの側壁13Ds(図面左側の側壁)上部と、保持室容器13Dの外側に位置する断熱材13Eの側壁(図面左側の側壁)上部に、保持室容器13Dや断熱材13Eを貫通させて取り付けられている。そして、溶湯加熱体2は保持室13の側壁部分から保持室13の斜め下方へ向かって延出している。図2の例において、溶湯加熱体2は、保持室容器13Dの側壁13Ds(図面左側の側壁)上部から、反対側の床部13Db(図面右側の床部)へ向かって延出して設けられている。すなわち、溶湯加熱体2は、保持室容器13Dの側壁13Ds(図面左側の側壁)上部から、反対側の側壁13Ds(図面右側の側壁)の下部へ向かって延出して設けられているともいえる。
【0055】
この溶湯加熱体2の傾斜角度は任意に定めることができるが、溶湯加熱体2の軸線2xと仮想水平線2yの間の俯角の角度αを20~45度とすることが好ましく、30~40度とすることがより好ましい。
【0056】
前記角度αが20度よりも小さいと、保持室13の高さを抑えることができる。その結果、前述のように、既存設備等の稼働効率が低下してしまうという不都合の発生を防ぐことができるという利点がある。
【0057】
しかし、保持室13の高さを低くしすぎると、受湯室11や出湯室16の高さを変更する必要が生じてしまう。すなわち、受湯室11や出湯室16の高さを変えない場合、各室11、13、16の高さが大きく異なる状態になってしまうため、保持室13と連結している受湯室11や出湯室16の各搬送路(第一搬送路W1及び第二搬送路W2)の形状が歪になり、各室11、13、16間で金属溶湯MMが流れにくくなるという不都合が生じてしまう。
【0058】
また、溶湯加熱体2の角度αを小さくしすぎることについては、そもそもニーズがない。
【0059】
また、溶湯加熱体2の前記角度αが小さくなるにつれて、溶湯加熱体2の延出方向が水平に近くなるため、溶湯加熱体2を収容するために保持室13の幅を長くする必要が生じる。その結果、保持室13を設置するための広い場所が必要になるという不都合も生じる。
【0060】
さらに、保持室13の幅が長くなると、保持室13の底面の面積が大きくなる傾向がある。保持室13の底面の面積が大きいと、放熱が大きくなる、設置面積が広くなるという不都合もある。
【0061】
以上のことから、溶湯加熱体2の角度αは20度以上にすることが好ましい。
【0062】
他方、角度αが45度よりも大きいと溶湯加熱体2を収容する保持室13の高さを抑えることができず、前述のように既存設備等の運転効率が低下してしまうという不都合が生じる可能性がある。
【0063】
以上のような操業上の不都合があることから、前記角度αは45度以下にすることが好ましい。
【0064】
図2の例では、保持室容器13Dの左右の側壁13Dsはほぼ垂直であり、図面右側の床部13Dbはほぼ水平である。他方、保持室容器13Dの図面左側の床部13Dbは、前記溶湯加熱体2と同様に、図面左側から右側へ向かって下方に傾斜している。この保持室容器13Dの床部13Dbの傾斜床面13Db1の傾斜角度β(傾斜床面13Db1の延長線13Dxと仮想水平線13Dyの間の俯角の角度β)は、前記溶湯加熱体2の傾斜角度αとほぼ同じにすることが好ましい。例えば、溶湯加熱体2の傾斜角度αが35度である場合は、傾斜床面13Db1の傾斜角度βも33~37度程度にすることが好ましく、35度にすることが最も好ましい。前述の各傾斜角度α、βを揃えることにより、溶湯加熱体2と傾斜床面13Db1をほぼ平行にすることができるため、溶湯加熱体2の表面と床部13Db(傾斜床面13Db1)との間の距離X(溶湯加熱体2の軸線2xと直角方向における距離)が、どの箇所においてもほぼ同じにある。その結果、溶湯加熱体2と傾斜床面13Db1の間の空間Yにある金属溶湯MMに対して溶湯加熱体2から熱を均一に伝えることができるため、金属溶湯MMを均一に加熱することが可能となる。
【0065】
すなわち、熱発生源である溶湯加熱体2に近づくほど金属溶湯MMは加熱されやすくなる傾向があり、特に溶湯加熱体2の表面と傾斜床面13Db1の間の空間Yは、溶湯加熱体2から発された熱が傾斜床面13Db1に当たって反射して再度溶湯加熱体2に戻るため、加熱効率が向上する。そして、溶湯加熱体2の外表面と傾斜床面13Db1の間の距離Xを溶湯加熱体2の軸方向のどの位置においてもほぼ同じにすることで、空間Yにおける温度がどの箇所においてもほぼ同じになるため、空間Y内において温度むらが生じにくくなる。
【0066】
また、図2に示す保持室13は、図6に示したような保持室13の床部13Dbが傾斜していない場合と比べて、溶湯加熱体2からその下方の床部13Dbまでの間の距離Xが短くなる。その結果、図6に示す形態よりも図2に示す実施形態のほうが、空間Yにある金属溶湯MMを加熱しやすい。さらに、図2に示す保持室13は、図6に示したような保持室13と比べて小さくすることができるため、前述したように、保持室容器13Dを形成する不定形耐火物や保持室容器13Dの外側に位置する断熱材13Eからの水分が金属溶湯MMと反応して水素原子の形で金属溶湯MM中に取り込まれ、水素ガスの気泡として金属溶湯MM中に放出される量も少なくなり、必然的に水素ガスの気泡の放出を抑制することができる。
【0067】
図2のように保持室容器13Dに傾斜床面13Db1を設けた場合において、溶湯加熱体2の表面から前記傾斜床面13Db1までの距離Xは7~13cmにすることが好ましく、10~11cmにすることがより好ましい。前記距離Xが7cmよりも短いと、空間Yが小さくなりすぎるため、空間Yにある金属溶湯MMの量が少なくなり、結果として保持室13内において温度むらが大きくなるおそれがある。他方、前記距離Xが13cmよりも長いと空間Yが大きくなりすぎるため、空間Yにある金属溶湯MMの量が多くなることから、加熱効率の低下などの好ましくない現象が生じることになる。
【0068】
なお、図6に示す比較例において、正確には、溶湯加熱体2からその下方の床部13Dbまでの間の距離は千差万別である。このような場合における前記距離Xとは、溶湯加熱体2からその下方の床部13Dbまでの間の平均距離をいう。
【0069】
図2のように、保持室容器13Dの床部13Dbは、傾斜床面13Db1の下端部から側方へ延出する側方延出面13Db2を有している。この側方延出面13Db2は、傾斜床面13Db1の下端部からほぼ水平に横方向に延出している。
【0070】
保持室13内において、金属溶湯MM内に異物(以下、不要な物という意味合いで「不要物」という。)があると、この異物は時間の経過とともに徐々に重力によって保持室13の床部13Dbの上に蓄積される。
【0071】
図2のように、保持室13の床部13Dbに傾斜床面13Db1を設けることにより、傾斜床面13Db1に落下した不要物は傾斜床面13Db1の傾斜に沿って転げ落ち、側方延出面13Db2の上に滞留する。すなわち、不要物は保持室13の底面全体に散在するのではなく、ごく自然に側方延出面13Db2の上に集まるようになる。したがって、保持室蓋13Cに設けた開口部蓋13Caを開けて、その開口部13Ca1から保持室13内に柄杓などを挿入にして、不要物を掻き揚げて回収する際に、側方延出面13Db2の上に集積された不要物を掬い取れば良いため、図6のように傾斜床面13Db1を設けない場合と比べて、不要物が散在していないので、不要物の回収効率を高めることができる。
【0072】
また、図1図2に示すように、側方延出面13Db2に一段と窪んだ部分(溝部13Db3)を設けるとよい。このような溝部13Db3を設けることで、不要物を回収する際、側方延出面13Db2の上の不要物をこの溝部13Db3内に落とし、その後に柄杓をこの溝部13Db3の内部に入れて、柄杓をこの溝部13Db3の延出方向に沿って移動させると、さらに容易に不要物を回収することができる。
【0073】
保持室蓋13Cの開口部13Ca1が上方に向けて開口面積が漸次広く設定されて傾斜した内周面を有する。開口部蓋13Caは開口部13Ca1に上方から嵌め込み可能に開口部13Ca1の内周面に対応して傾斜した外周面を有している。そのため垂直の内周面及び外周面を有する場合に比べ、嵌め込んだ時の隙間を作り難くして酸化を防ぎながら、開口部13Ca1に上方から開口部蓋13Caを嵌め込むだけで容易に開口部13Ca1を閉塞することができる。また、メンテナンスで開口部蓋13Caを持ち上げて外した際、保持室13の底部に開口部蓋13Caが落下することを防止できる。なお、開口部13Ca1に開口部蓋13Caを嵌め込むことで、開口部蓋13Caは保持室蓋13Cの一部として機能するため、開口部蓋13Caも保持室蓋13Cの一部といえる。
【0074】
なお、溶湯加熱体2と傾斜床面13Db1との間の空間Yは、金属溶湯MMを加熱しやすい空間という意味合いで易加熱空間ともいう。この易加熱空間に存在する金属溶湯MMの量は多くないため、金属溶湯MMが溶湯加熱体2の表面と接触することによって溶湯加熱体2の熱が金属溶湯MMに伝えられ、金属溶湯MMが容易に加熱される。
【0075】
(第二実施形態)
本発明に係る溶湯保持炉1の第二実施形態を図3図4に示す。
【0076】
溶湯保持炉1は、アルミニウム合金等の金属溶湯MMを受け入れる受湯室11と、金属溶湯MMを保持する保持室13と、金属溶湯MMが出湯する出湯室16とを有する。以下の説明では、保持室13の構造や溶湯加熱体2の設置方法など、第一実施形態と同様の部分については記載を省略する。
【0077】
保持室13の上方USには、保持室13の内部の金属溶湯MMの液面との間に空間を作ることなく保持室13の上方開口部を閉塞する保持室蓋13Cが設けられている。
【0078】
出湯室16には、図4に示されるように、保持室13の保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HL以上の高さに設定された下限レベルL2に下がったことを検出する、下限レベルセンサ17Aが備えられており、この下限レベルセンサ17Aによって、出湯室16内の金属溶湯MMの液面高さが下限レベルL2に近づいたこと(又は/及び下限レベルL2に達したこと)を検知する。そして、出湯室16内の金属溶湯MMの液面高さが下限レベルL2に近づきつつあること(又は/及び下限レベルL2に達したこと)を内容とする情報を制御部20に伝達する。その情報を受け取った制御部20は、新たな金属溶湯MMを受湯室11に供給するか否か、供給する場合はどの程度の量の金属溶湯MMを供給するかを判断する。金属溶湯MMを供給すると判断した場合は、金属溶湯供給部21に対して指令を出し、金属溶湯供給部21が指令を受けた量の金属溶湯MMを受湯室11に供給する。なお、金属溶湯供給部21としては、例えば、樋により、離れた場所にある溶解炉から金属溶湯MMを受湯室11に流し込むような既知の搬送機構を用いることができる。
【0079】
受湯室11に金属溶湯MMを供給することにより、受湯室11内の金属溶湯MMの一部が第一搬送路W1を通って保持室13へ流れ、保持室13内の金属溶湯MMの一部が第二搬送路W2を通って出湯室16へ流れる。その結果、出湯室16の液面が上昇する。
【0080】
同様に、出湯室16から金属溶湯MMを取り出す(出湯する)ことにより、受湯室11内の金属溶湯MMの一部が第一搬送路W1を通って保持室13へ流れ、保持室13内の金属溶湯MMの一部が第二搬送路W2を通って出湯室16へ流れる。その結果、受湯室11の液面が低下する。
【0081】
以上のように、受湯室11に金属溶湯MMを供給したり、出湯室16から金属溶湯MMを取り出したりすることにより、受湯室11、保持室13、出湯室16の各室の内部に金属溶湯MMの流れが発生する。
【0082】
なお、受湯室11、保持室13および出湯室16は、第一搬送路W1や第二搬送路W2を通じて互いに繋がっているため、受湯室11、保持室13および出湯室16の液面は基本的に常に同じ高さになる。
【0083】
以上のような機構により、出湯室16の液面の高さは、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HL以上の高さ位置を保つことができる。そのため、常に保持室13内の金属溶湯MMの液面と保持室蓋13Cとの間に空間がない状態になり、保持室13内において金属溶湯MMと空気の接触を防ぐことができる。金属溶湯MMと空気が接すると金属酸化物の発生の原因となるが、この実施形態のような構成にすることで、金属酸化物の発生を防止することができる。
【0084】
また、図2に示す状態と同様に、保持室13の内部では、溶湯加熱体2全体が常に金属溶湯MMに浸漬した状態になっている。すなわち、保持室13の内部においては、溶湯加熱体2のうち、保持室容器13Dの側壁13Dsの内面と溶湯加熱体2の接地部分13F(より詳しくは接地部分13Fのうちの上端(「上端接地部分13Ft」という))が最も高い部分である。この上端接地部分13Ftの高さは前記下限レベルL2以下の高さになっているため、この上端接地部分13Ftが保持室13内の金属溶湯MMに常に浸漬した状態になっている。そして、保持室13内において、上端接地部分13Ft以外の溶湯加熱体2の他の部分は上端接地部分13Ftよりも低い位置にあるため、他の部分も保持室13内の金属溶湯MMに常に浸漬した状態になっている。
【0085】
そのため、斜め下方に傾斜した状態で設置された溶湯加熱体2が空気に触れることを防ぐことができるため、溶湯加熱体2の周囲に酸化物が生じる事態を防ぐことができる。その結果、溶湯保持炉1から出湯する金属溶湯MMに酸化物が混入する可能性を低減することができ、良質な金属溶湯MMを後段の装置(例えばダイカストマシンン)に提供することができる。
【0086】
また、保持室13の内部において、溶湯加熱体2が空気に触れていると溶湯加熱体2がその空気も加熱することになるため、溶湯加熱体2の加熱効率が低下する可能性がある。しかし、第二実施形態(および第一実施形態)では、保持室13内で溶湯加熱体2全体が常に金属溶湯MMに浸漬した状態になっていて、金属溶湯MMの存在しない部分(空気)を加熱することがないため、金属溶湯MMの加熱を効率的に行うことができる。
【0087】
なお、図3図4に示すように、出湯室16内の金属溶湯MMの温度が低下することを防止するため、出湯室16の内部にもヒータ等の溶湯加熱体2を設けることが好ましい。この場合、溶湯加熱体2及び出湯室16底面の形態は、保持室13における溶湯加熱体2及び保持室容器13Dと同様の形態とすることも可能である。すなわち、出湯室16において溶湯加熱体2の加熱効率を重視する場合は、図2に示した形態と同様に、出湯室16内においても出湯室16の側壁から溶湯加熱体2を斜め下方に向かって延在するように配置し、かつ、その溶湯加熱体2の下方に位置する出湯室16の底面も溶湯加熱体2と略平行になるように溶湯加熱体2と同方向に斜めにした傾斜床面にすることが好ましい。この場合、出湯室16の傾斜床面と溶湯加熱体2との間に易加熱空間が形成され、易加熱空間にある金属溶湯MMが溶湯加熱体2の表面と接触することによって溶湯加熱体2の熱が金属溶湯MMに伝えられる。
【0088】
出湯室16には、さらに上限レベルセンサ17Bが備えられていてもよい。図4に示されるように、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HL以上の高さに設定された下限レベルL2を検知する下限レベルセンサ17Aに加えて、下限レベルL2よりも上の位置に設定された上限レベルL1を検知する上限レベルセンサ17Bが備えられている。
下限レベルセンサ17Aは、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HLと同じ高さでもよいが、これよりも高い高さであるほうが好ましい。液面レベルセンサ17は、上限レベルセンサ17Bと下限レベルセンサ17Aを一体化させた液面レベルセンサ17を用いてもよい。
【0089】
下限レベルセンサ17Aが湯面を検知した場合には、制御部20に伝達する。その情報を受け取った制御部20は、新たな金属溶湯MMを受湯室11に供給するか否か、供給する場合はどの程度の量の金属溶湯MMを供給するかを判断する。金属溶湯MMを供給すると判断した場合は、金属溶湯供給部21に対して指令を出し、金属溶湯供給部21が指令を受けた量の金属溶湯MMを受湯室11に供給する。これにより、出湯室16の湯面高さ位置は、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HLより常時上の位置を保つよう維持されるので、保持室13内で金属溶湯MMと空気とが接触せず、金属溶湯MMの酸化を防止することができる。
【0090】
また、上限レベルセンサ17Bが湯面を検知した場合には、制御部20に伝達する。その情報を受け取った制御部20は、金属溶湯供給部21に対して指令を出し、金属溶湯供給部21は金属溶湯MMの供給を停止する。したがって、金属溶湯MMを溶湯保持炉1に過剰に供給することを防止することができる。
【0091】
(第三実施形態)
図5図2の形態とは別の保持室13(第三実施形態)を示した。図5に示す保持室13は、図2の形態の保持室13と同様に、第1実施形態、第2実施形態の溶湯保持炉1に用いることができる。
【0092】
図5の保持室13は図2の保持室13とほぼ同じであるため、同じ部分については説明を省略し、異なる部分のみを説明する。図5の保持室13は、保持室13を覆う保持室蓋13Cの下面13Cbが傾斜していることを特徴とする。具体的には、溶湯加熱体2の上方に位置する保持室蓋13Cの下面13Cbが、溶湯加熱体2と所定の間隔を空けながら、溶湯加熱体2と同方向に傾斜している。以下、この点について詳述する。
【0093】
図5の例では、保持室13を覆う保持室蓋13Cの下面13Cbの一部が、溶湯加熱体2と同様に、図面左側から右側へ向かって下方に傾斜している。以下において、溶湯加熱体2とほぼ同じ方向に傾斜している保持室蓋13Cの下面13Cbを同方向傾斜下面13Cb1といい、溶湯加熱体2と異なる方向に傾斜している保持室蓋13Cの下面13Cbを異方向傾斜または水平下面13Cb2という。この同方向傾斜下面13Cb1の傾斜角度θ(同方向傾斜下面13Cb1の延長線13Cxと仮想水平線13Cyの間の俯角の角度θ)は、前記溶湯加熱体2の傾斜角度αとほぼ同じにすることが好ましい。例えば、溶湯加熱体2の傾斜角度αが35度である場合は、同方向傾斜下面13Cb1の傾斜角度θも33~37度程度にすることが好ましく、35度にすることが最も好ましい。前述の各傾斜角度α、θを揃えることにより、溶湯加熱体2と保持室蓋13Cの同方向傾斜下面13Cb1をほぼ平行にすることができるため、溶湯加熱体2の表面と保持室蓋13Cの同方向傾斜下面13Cb1との間の距離P(溶湯加熱体2の軸線2xと直角方向における距離)が、どの箇所においてもほぼ同じになる。その結果、溶湯加熱体2と保持室蓋13Cの同方向傾斜下面13Cb1の間の空間Qを流動する金属溶湯MMに対して溶湯加熱体2から熱を均一に伝えることができるため、金属溶湯MMの温度むらを低減でき、また、効率的な加熱が可能となる。すなわち、溶湯加熱体2の表面と保持室蓋13Cの同方向傾斜下面13Cb1の間の空間Qは、前述した空間Yと同様の効果を発揮することができる。この空間Qを設けたことによって、金属溶湯MMの温度むらが低減され、効率的な加熱が可能となる作用については、易加熱空間Yと同様であるため、ここでは詳細な記載を省略する。
【0094】
また、図5のように保持室蓋13Cに同方向傾斜下面13Cb1を設けた場合において、溶湯加熱体2の表面から前記同方向傾斜下面13Cb1までの距離Pは7~13cmにすることが好ましく、10~11cmにすることがより好ましい。前記距離Pが7cmよりも短いと、空間Qが小さくなりすぎるため、単位時間当たりにおける空間Q内を流れる金属溶湯MMの量が少なくなり、結果として保持室13内の温度むらが大きくなり、加熱効率が低下するおそれがある。他方、前記距離Pが13cmよりも長いと、空間Qを流れる金属溶湯MMの速度が上がらないため、空間Q側の溶湯加熱体2の表面に接触する金属溶湯MMの量が少なくなることから、溶湯加熱体2からの熱が金属溶湯MMに伝わりにくくなり、金属溶湯MMの加熱効率が低下し、また温度むらを増大させるおそれがある。
【0095】
出湯室内には下限レベルセンサ17Aが備えられており、これにより、出湯室16の湯面高さ位置は、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HLより常時上の位置を保つよう維持されるので、保持室13内で金属溶湯MMと空気とが接触せず、金属溶湯MMの酸化を防止することができる。
図2及び図5に示されている、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HLは、保持室13内で金属溶湯MMの上限位置を表しており、また、出湯室16の下限レベルL2以下、好ましくはこれよりも下の位置にある。
【0096】
なお、溶湯加熱体2の基端部14F(より詳しくは溶湯加熱体基端部14Fのうちの下端(「溶湯加熱体基端部下端14Ft」という)は、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HLより少なくとも高い位置にある。好ましくは、上限レベルL1より高い位置がよい。これにより、第二実施形態のように、出湯室16の液面の高さは、保持室蓋13Cの下面のうちの最も高い位置HL以上の高さ位置を保ち、常に保持室13内の金属溶湯MMの液面と保持室蓋13Cとの間に空間がない状態なので、仮にこの状態で溶湯加熱体2が破損し、金属溶湯MMが溶湯加熱体2内に侵入しても、侵入した金属溶湯MMは溶湯加熱体基端部下端14Ftを超えることはないからである。
【0097】
図7のように、保持室蓋13Cの下面表面の少なくとも一部が上方に窪んだ形状をなしてもよい。保持室蓋13Cの下面表面の周辺部分を除く中央部分が上方に窪んだ形状をなしてもよい。また、第5の態様や第6の態様のように、保持室蓋13Cのうちの溶湯加熱体2の上方に位置する部分の下面が溶湯加熱体2と所定の間隔を空けながら溶湯加熱体2と同方向に傾斜している場合は、保持室蓋13Cのうちの溶湯加熱体2の上方に位置する部分の下面が溶湯加熱体2と所定の間隔を空けながら溶湯加熱体2と同方向に傾斜している部分以外の保持室蓋13Cの下面表面の少なくとも一部が上方に窪んだ形状をなすようにすることができる。これにより、窪んだ形状の空間の分だけ、より多量に金属溶湯を保持することができる。ただし、受湯室11及び出湯室16の少なくとも一方の上縁の高さの低い方の上縁よりも、窪んだ形状をなした天井面は低い位置とする。天井面が高いと、天井面より受湯室11及び出湯室16の少なくとも一方の上縁の高さの低い方の上縁より金属溶湯MMが外部へ流出する恐れがあるためである。
【0098】
(比較例)
図6に比較例に係る保持室13を示した。この図6の比較例は、図2図5の実施形態と比較して、図2図5の構成の効果を説明するために表したものであり、従来の公知となっている保持室13を表したものではない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
溶湯としてはアルミニウム又はアルミニウム合金のほか他の金属溶湯MMでもよい。
【0100】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。例えば、本発明の溶湯保持炉1は、溶解保持炉、溶解炉、低圧鋳造炉等にも採用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1…溶湯保持炉、2…溶湯加熱体、2x…溶湯加熱体の軸線、2y…(溶湯加熱体の)仮想水平線、11…受湯室、11D…受湯室容器、13…保持室、13C…保持室蓋、13Ca…開口部蓋、13Ca1…開口部、13Cb…保持室蓋の下面、13Cb1…同方向傾斜下面、13Cb2…異方向傾斜または水平下面、13Cx…同方向傾斜下面の延長線、13Cy…(同方向傾斜下面の)仮想水平線、13D…保持室容器、13Db…(金属溶解室容器の)床部、13Db1…傾斜床面、13Db2…側方延出面、13Db3…溝部、13Dx…傾斜床面の延長線、13Ds…(金属溶解室容器の)側壁、13Dy…(傾斜床面の)仮想水平線、13E…断熱材、13F…接地部分、13Ft…上端接地部分、14F…溶湯加熱体基端部、14Ft…溶湯加熱体基端部下端、16…出湯室、16D…出湯室容器、17…液面レベルセンサ、17A…下限レベルセンサ、17B…上限レベルセンサ、20…制御部、21…金属溶湯供給部、22…後段の装置(ダイカストマシン等)、HL…保持室蓋の下面のうちの最も高い位置、L1…上限レベル、L2…下限レベル、ML…液面、MM…金属溶湯、P…溶湯加熱体の上方表面と保持室蓋の同方向傾斜下面との間の距離、Q…易加熱空間(上方易加熱空間)、W1…第一搬送路、W2…第二搬送路、X…溶湯加熱体の下方表面と傾斜床面との間の距離、Y…易加熱空間(下方易加熱空間)、α…溶湯加熱体の傾斜角度、β…傾斜床面の傾斜角度、θ…同方向傾斜下面の傾斜角度、HD…高さ方向、DS…下側(下方)、US…上側(上方)、WD…幅方向、LS…左側、RS…右側
【要約】
【課題】金属溶湯MMを溶湯保持炉1内で保持する際に、金属溶湯MMの加熱を効率的に行い、また、金属酸化物の発生と水素ガスの気泡の放出とを抑制すること。
【解決手段】前記課題を解決する溶湯保持炉1は、金属溶湯MMを収容し、保温する保持室13、受湯室11、出湯室16を備え、前記保持室13の内部には前記金属溶湯MMを加熱する細長状の溶湯加熱体2を備え、前記溶湯加熱体2は前記保持室13の側壁部13Dsから下方DSへ向かって延出して設けられており、 前記溶湯加熱体2の下方DSに位置する前記保持室13の底面13Db1は、前記溶湯加熱体2と所定の間隔を空けながら、前記溶湯加熱体2と同方向に傾斜している。
【選択図】図2

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7