(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】エネルギー制御コーティング構造、装置、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20241028BHJP
G02B 5/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/00 A
(21)【出願番号】P 2023112995
(22)【出願日】2023-07-10
(62)【分割の表示】P 2020507723の分割
【原出願日】2018-04-17
【審査請求日】2023-08-08
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519373970
【氏名又は名称】スリーイー ナノ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シア,ダニエル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】イエ,ユーフォン
(72)【発明者】
【氏名】バラクリシュナン,サイ シャンカール
(72)【発明者】
【氏名】ケーラニ,ナジール,ピヤラリ
(72)【発明者】
【氏名】フォミチェフ,ステパン オレゴビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コー,レミー ハワード ハオチン
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-338381(JP,A)
【文献】特開平06-278244(JP,A)
【文献】特表2017-500266(JP,A)
【文献】特開2008-078662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に金属誘電体コーティングを製造する方法であって、
前記透明基板上へ第1透明誘電体層を堆積するステップ;
前記第1透明誘電体層上へ金属層を堆積するステップ;
前記金属層上に第2透明誘電体層を堆積させるステップ;
を有し、
前記第1透明誘電体層または前記第2透明誘電体層のうちの少なくとも1つは水素化透明金属窒化物層であり、
前記金属層の厚さおよび各前記水素化透明金属窒化物層の水素濃度は、前記金属誘電体コーティングが可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%の透明度を示すように選択されており、
各前記水素化透明金属窒化物層は、前記金属層からの金属原子の移動および前記金属原子の凝集を促進してその中に金属ナノ粒子を形成するのに十分であるように水素化され、それによって、前記金属誘電体コーティングの吸収スペクトルにおいてプラズモン共鳴を生成する、
方法。
【請求項2】
各前記水素化透明金属窒化物層は窒化アルミニウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属層は銀層であり、前記ナノ粒子は銀ナノ粒子である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記方法はさらに、前記金属原子の移動を容易にするために局所的な
熱処理を用いるステップを有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
各前記水素化透明金属窒化物層は、
その堆積中に水素化される、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
各前記水素化透明金属窒化物層は、水素ガスの存在下でスパッタリングプロセスを介して形成される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層の形成中の水素濃度は、1体積%~10体積%である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層の形成中の水素濃度は、0.25体積%~20体積%である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層の形成中の水素濃度は、0.25体積%~2.5体積%である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層の形成中の水素濃度は、0.25体積%~5体積%である、請求項6記載の方法。
【請求項11】
各前記水素化透明金属窒化物層は、
その堆積後に水素化される、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
1重量ppm~1000重量ppmの水素濃度を有する少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層が形成される、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層内の水素濃度は、前記透明基板に関連する表面法線に平行な方向において空間的に傾斜している、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記第1
透明誘電体層は第1水素化透明金属窒化物誘電体層を形成し、前記第2透明誘電体層は第2水素化透明金属窒化物層を形成する、請求項1から13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記金属層および前記第2水素化透明金属窒化物層は金属誘電体2重層を形成し、前記方法はさらに、1つまたは複数の追加の金属誘電体2重層を堆積させるステップを有する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの前記水素化透明金属窒化物層内の水素濃度は、前記透明基板に関連する表面法線に平行な方向において空間的に傾斜している、請求項15記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物
層の屈折率は1.5~1.8である、請求項1から16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記金属層の抵抗率は2~6マイクロオームcmである、請求項1から17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層の平均粒径は30nm未満である、請求項1から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの水素化
透明金属窒化物層の成長方向における、少なくとも1つの前記水素化
透明金属窒化物層内の粒径分布の半値全幅は、3nm未満である、請求項1から19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記金属層の厚さは3nm~30nmである、請求項1から20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記金属層は、水素の存在下で成膜されるか、または成膜後に水素に対して曝露される、請求項1から21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
前記金属層の堆積中に使用される水素の濃度は、隣接する誘電体層の活性電子サイトが不動態化されるように制御される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記金属層の堆積中に使用される水素の濃度は、前記金属層の1つ以上の光学的または電気的特性があらかじめ選択された基準を満たすように制御される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記光学的または電気的特性は、光透過率または電気伝導率から選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記金属層または所与の金属窒化物層の堆積中に使用される水素の濃度は、前記金属層がアイランドを欠くように制御される、請求項22記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学コーティングに関する。より詳細には、本開示は、低放射率又は太陽光制御窓のための光学コーティングに関する。なお、本出願は、「」と題され、2017年4月17日に出願された米国仮出願第62/486,351号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
光、熱及び電気エネルギーの流れを効果的に制御することができる効率的で信頼性が高く経済的な装置は、様々な用途においてエネルギー効率及び所望の受動的及び能動的機能を達成するために重要である。おそらく、最も初期のエネルギー制御装置の1つは、ジェームス・デュワーによって考案されたデュワーフラスコである。デュワーフラスコは、2つのフラスコの間の部分的に真空化された間隙(1つの金属フラスコが他方を封入し、両者がネックの部分でのみ接続される)が、伝導及び対流による熱伝導を顕著に減少させるように働くものである。このデザインは、二重ガラス壁サーモスに発展した。これは、間隙が部分的に真空化され、ガラス壁は低放射金属膜で被覆されるものである。
【0003】
その後、オスラム(Osram)は、ナトリウムガラスランプ上に反射防止表面塗膜を有する約50nmの薄い金の膜を塗布し、これにより、顕著な可視透明性を達成し、熱放射をランプ内に反射して戻し、これによりランプのエネルギー効率を増大させた。その後間もなく、このコーティングは、フィリップス(Philips)によって実施された約320nmの厚さのより透明な半導体スズ酸化物膜により代替された。次に、ケーストリン(Kostlin)は、二重ガラス窓の内面への酸化スズ被覆の適用を報告し、これにより窓を通る放射熱損失を著しく減少させた。
【0004】
その後、ファン(Fan)とバックナー(Bachner)は、スズドープ酸化インジウム及び酸化チタン/銀/酸化チタン多層金属誘電体コーティングの合成を有効な熱ミラーとして報告し、「太陽/熱/電気変換、太陽熱、太陽光発電変換、及び窓絶縁」を含む様々な用途のためのこれら及び類似のコーティングの適用を提案した。ファン(Fan)とバックナー(Bachner)の研究以来、金属誘電体ベースのスペクトル選択性コーティングの分野が広範囲に開発されている。これは、光学電磁スペクトルの可視、近赤外及び中赤外部分に亘る変調を達成することを目的として、誘電体及び金属を範囲に含む様々な多層コーティングの設計につながっている。
【0005】
誘電体層は、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アモルファスシリコン、及びアモルファスカーボンをその範囲に含んでいる。金属に関しては、光学的性質を考慮する場合、銀が有力な選択肢である。
不純物の拡散及び酸化から銀層を保護するために、銀又はバッファ層/ブロッキング層の接着を促進するためのシード層などの他の金属が、機能的な方法で使用されている。
【0006】
さらに、金属及び金属合金層もまた、例えば、透過性及び/又は反射性の色の要件や、焼戻し(熱処理)の必要性に対する光学性能安定性の要件を満たすための調整層として使用されている。誘電体は、光変調以外の目的、例えば、酸素及び水分保護、並びに下層の基板への金属の接着の改善に使用されている。これらの構造は、多くの異なる材料の不可避的な使用、及び異なる堆積工程を伴う多数の多層コーティングに発展した。設計及び製作の複雑さの増加は、コーティング経済性の要求に直面しながら、多数の機能的要件に効果的かつ同時に対処するための課題を提起する。
【発明の概要】
【0007】
本開示の様々な例示的な実施形態では、1つ又は複数の層が透明な水素化金属窒化物誘電体から形成される多層金属誘電体エネルギー制御コーティングが開示される。水素化金属窒化物誘電体は、誘電体堆積中又は誘電体堆積後に水素化することができる。多層コーティングの1つ又は複数の特性は、1つ又は複数の水素化金属窒化物誘電体層中の水素濃度(及び/又はその空間プロファイル)を適切に調整することによって改善又は構成することができる。多層コーティングの1つ以上の金属層は、金属の接着を容易にし、可視スペクトルにおいて実質的な透明性を示す薄い金属層の形成を可能にするために、水素化窒化物誘電体層の上に形成されてもよい。
【0008】
いくつかの例示的な実施形態では、誘電体層又は堆積後多層コーティングの水素化は、純粋な水素ガス、又は分子状水素を含有する複数種類のガス(例えば、不活性ガス(例えば、Ar)、又は窒素、又は他のガス)を使用して、様々な温度及び持続時間で実施することができる。堆積後の水素化は、原子状水素を用いて行うこともできる。
【0009】
高温でのこれらの堆積後処理はまた、基板を同時に成形する間(例えば、ガラスの曲げるなど)、多層コーティング特性を改善又は維持するために使用され得る。
さらに、他の透明誘電体層(単数又は複数)もまた、カプセル化層として、及び/又は多層コーティング特性を改善するために組み込まれ得る。
さらに、光学特性は、金属膜中にナノ構造を設計することによって、又は透明誘電体膜中に金属ナノ構造を組み込むことによって、プラズモン共鳴を通じて調整することができる。電気バスバーは、除氷及び曇り除去のような機能を提供するために、1つ以上の金属層と一体化されてもよい。
【0010】
人間の目には見えないマイクロ/ナノ厚の金属グリッド線は、光学性能を実質的に変更させることなくバスバーに接続することができ、利用可能な電源の電圧定格内で動作しながら電力密度レベルを上げることができる。したがって、第1の態様では、透明基板と、前記透明基板の上に形成された多層金属誘電体コーティングとを備えた金属誘電体太陽光制御構造が提供される。前記多層金属誘電体コーティングは、一連の層として、前記透明基板の上に形成された第1の透明誘電体層と、前記第1の透明誘電体層の上に形成された金属層と、前記金属層の上に形成された第2の透明誘電体層とを含む。前記第1の透明誘電体層及び前記第2の透明誘電体層のうちの少なくとも1つは、水素化金属窒化物誘電体層であり、前記金属層は、十分に薄く、前記水素化金属窒化物誘電体層の各々は、前記構造が可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%の透明度を示すように、有効水素濃度を含む。
【0011】
別の態様では、透明基板の上に金属誘電体コーティングを製造する方法が提供される。この方法は、前記透明基板の上に、第1の透明誘電体層を堆積させ、前記第1の透明誘電体層の上に金属層を堆積させ、前記金属層が分離されたアイランドが存在しない状態で連続膜を形成するようにし、前記金属層の上に第2の透明誘電体層を堆積させる。前記第1の透明誘電体層及び前記第2の透明誘電体層のうちの少なくとも1つは、金属窒化物誘電体層であり、堆積後水素化を実行し、少なくとも1つの金属窒化物誘電体層が水素化金属窒化物誘電体層になるようにする。前記金属層の厚さ、及び前記水素化金属窒化物誘電体層の各々の水素濃度は、前記金属誘電体コーティングが可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%の透明度を示すように選択される。
【0012】
別の態様では、透明基板の上に金属誘電体コーティングを製造する方法が提供される。この方法は、透明基板上に、第1の透明誘電体層を堆積させ、前記第1の透明誘電体層の上に金属層を堆積させ、前記金属層が、分離されたアイランドが存在しない状態で連続膜を形成するようにし、金属層の上に第2の透明誘電体層を堆積させる。前記第1の透明誘電体層及び前記第2の透明誘電体層のうちの少なくとも1つは、金属窒化物誘電体層である。この方法は、少なくとも1つの金属窒化物誘電体層が水素化金属窒化物誘電体層になるように、堆積後水素化を実行する。前記金属層の厚さ、及び前記水素化金属窒化物誘電体層の各々の水素濃度は、前記金属-誘電体コーティングが可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%の透明度を示すように選択される。
【0013】
別の態様では、透明基板と、前記透明基板の上に形成された多層金属誘電体コーティングとを含む金属誘電体太陽光制御構造が提供される。前記多層金属誘電体コーティングは、順に、前記透明基板の上に形成された第1の透明誘電体層と、前記第1の透明誘電体層の上に形成された金属層と、前記金属層の上に形成された第2の透明誘電体層とを備える。前記第1の透明誘電体層及び前記第2の透明誘電体層のうちの少なくとも1つは、水素添加金属窒化物誘電体層である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】均一な誘電体層の間に設けられた金属層を有する基板上の金属-誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図2】下層の水素化金属窒化物誘電体層を有する基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図3】連続的又は準連続的に傾斜した水素濃度を有する下層の水素化金属窒化物誘電体層を有する基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図4】上層の水素化金属窒化物誘電体層を有する基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図5】連続的又は準連続的に変化する水素濃度を有する、上に重なる水素化金属窒化物誘電体層を有する基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図6】金属層の上下に水素化金属窒化物誘電体層が設けられた基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図7】水素化金属窒化物誘電体層が金属層の上下に設けられ、金属層の上下に設けられた水素化金属窒化物誘電体層の各々が、連続的又は準連続的に変化する水素濃度を有する基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図8】2つの金属層及び第1の下層の水素化金属窒化物誘電体層を含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図9】2つの金属層と、第1の下層の水素化金属窒化物誘電体層と、第2の上層の水素化金属窒化物誘電体層とを含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図10】2つの薄い金属層及び3つの水素化金属窒化物誘電体層を含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図11】2つの金属層及び3つの水素化金属窒化物誘電体層を含む基板上の金属-誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。ここで、中間の水素化金属窒化物誘電体層は、連続的又は準連続的に変化する水素濃度を有する。
【
図12】2つの金属層及び3つの水素化金属窒化物誘電体層を含む基板上の金属-誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。ここで、上層及び中間の水素化金属窒化物誘電体層は、連続的又は準連続的に変化する水素濃度を有する。
【
図13】2つの金属層及び3つの水素化金属窒化物誘電体層を含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。水素化金属窒化物誘電体層の各々は、連続的又は準連続的に変化する水素濃度を有する。
【
図14】3つの金属層と、第1の下層の水素化金属窒化物誘電体層と、第2の上層の水素化金属窒化物誘電体層とを含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図15】3つの金属層と4つの水素化金属窒化物誘電体層とを含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図16】3つの金属層及び4つの水素化金属窒化物誘電体層を含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。水素化金属窒化物誘電体層の各々は、連続的又は準連続的に変化する水素濃度を有する。
【
図17A】電気バスバーコンタクトが金属層の上に一体化される、基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図17B】電気バスバーコンタクトが金属層の上に一体化される、基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。
【
図17C】例示的な曇り除去又は除氷システムを示す。
【
図18A】2つの金属層を含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。電気バスバーコンタクトは、金属層のそれぞれの上に一体化される。
【
図18B】2つの金属層を含む基板上の金属誘電体多層コーティングの例示的な実施形態を示す。電気バスバーコンタクトは、金属層のそれぞれの上に一体化される。
【
図19】約0%~10%の体積分率の範囲の水素濃度を用いて調製されたAlN:H膜の組について、波長に対する屈折率の依存性の測定結果をプロットしたものである。
【
図20】約0%~10%の体積分率の範囲の水素濃度を用いて調製されたAlN:H膜の組について、波長に対する吸光係数の依存性の測定結果をプロットしたものである。
【
図21】水素化なしで(A)、及び水素化されて(B)調製されたAlNフィルムについての走査型電子顕微鏡(SEM)画像、水素化なし(C)、及び水素化されて(D)で調製されたAlNフィルムについての原子間力顕微鏡(AFM)観察グラフ、並びに例示の膜(E及びF)のz方向(すなわち、垂直方向)における表面突起のAFM分布のプロットを示す。
【
図22】例示のAlN及びAlN:H膜のグレージング角X線回折プロファイルを示す。
【
図23】水素化前及び水素化後の例示のAlN膜の透過率をプロットしたものである。
【
図24】厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上の例示的な金属誘電体コーティングについての光透過率及び反射率プロファイル、並びにコーティングされていないPETフィルムについての光透過率及び反射率プロファイルをプロットしたものである。
【
図25】厚さ1.1mmのガラス上の例示的な金属-誘電体コーティングについての光透過率及び反射率プロファイルをプロットしたものである。
【
図26】厚さ3mmのポリカーボネートシート上の例示的な金属-誘電体コーティングについての光透過率及び反射率プロファイル、並びにコーティングされていないポリカーボネートシートについてのプロファイルをプロットしたものである。
【
図27】異なる電圧(従って電力)レベルに晒されたガラス上の例示的な金属-誘電体コーティングの温度-時間プロファイルをプロットしたものである。
【
図28】は、ガラス上の例示的な金属誘電体コーティングのシミュレートされた曇り除去性能を示す。
図28Aは、氷がわずかに傾斜したガラス上をスライドする時間の電力密度への依存性をプロットし、
図28Bは、消費されたエネルギーの電力密度への依存性をプロットしたものである。
【
図29A】ガラス上の金属-誘電体コーティングの例のシミュレートした曇り除去性能を図示し、
図29Aは、電流が積層体に適用されたときの曇った領域の時間依存性をプロットしている。
【
図29B】3つの異なる時点での曇った領域のシミュレートされた空間依存性を示す。
【
図29C】3つの異なる時点での曇った領域のシミュレートされた空間依存性を示す。
【
図29D】3つの異なる時点での曇った領域のシミュレートされた空間依存性を示す。
【
図30A】いくつかの点(D)において、一連の熱加熱及び冷却サイクル後の異なる時点で測定された、例示的な金属誘電体上の光透過率曲線(A~C)を示す。
【
図30B】いくつかの点(D)において、一連の熱加熱及び冷却サイクル後の異なる時点で測定された、例示的な金属誘電体上の光透過率曲線(A~C)を示す。
【
図30C】いくつかの点(D)において、一連の熱加熱及び冷却サイクル後の異なる時点で測定された、例示的な金属誘電体上の光透過率曲線(A~C)を示す。
【
図30D】いくつかの点(D)において、一連の熱加熱及び冷却サイクル後の異なる時点で測定された、例示的な金属誘電体上の光透過率曲線(A~C)を示す。
【
図31】例示的な金属誘電体コーティングの断面SEM画像を示す。
【
図32】例示的な金属誘電体コーティングのToF-SIMSからの深さプロファイルを示す。
【
図33】異なる銀層厚さを有する3つの例示的な金属-誘電体コーティングの光吸収曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の様々な実施形態及び態様は、以下で論じられる詳細を参照して説明される。以下の説明及び図面は、本開示を例示するものであり、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。本開示の様々な実施形態の完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細が説明される。しかしながら、場合によっては、本開示の実施形態の簡潔な議論を提供するために、周知の又は従来の詳細は説明されない。
【0016】
本明細書で使用されるように、用語「含む」及び「含む」は、包括的であり、限定的ではないと解釈されるべきである。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「備える」及び「備える」という用語、並びにそれらの変形は、指定された特徴、ステップ、又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ、又は構成要素の存在を排除するものと解釈されるべきではない。本明細書で使用されるように、用語「例示的」は、「例、事例、又は例示として働く」ことを意味し、本明細書で開示される他の構成よりも好ましい、又は有利であると解釈されるべきではない。
【0017】
本明細書で使用される「約」及び「ほぼ」という用語は、特性、パラメータ、及び寸法の変動など、値の範囲の上限及び下限に存在し得る変動を包含することを意味する。特に明記しない限り、「約」及び「およそ」という期間は、±25%以下を意味する。
特に明記しない限り、任意の特定の範囲又はグループは、範囲又はグループの各メンバー及びすべてのメンバーを個別に、並びにその中に包含され、その中の任意のサブ範囲又はサブグループに関して同様に言及する可能な方法であることを理解されたい。
別段の指定がない限り、本開示は、サブレンジ又はサブグループのそれぞれ及びすべての特定のメンバー及び組み合わせに関するものであり、明示的に組み込まれる。
本明細書で使用されるように、「~ほどの」との用語は、数量又はパラメータと併せて使用される場合、記載された数量又はパラメータの約10分の1から10倍に及ぶ範囲を指す。
【0018】
図1を参照して、従来の金属-誘電体多層太陽光制御構造の一例が示される。
多層構造は、透明基板10と、その上に形成された多層金属誘電体コーティングとを含む。多層金属誘電体は、第1の(下層の)誘電体層20と、金属層30と、第2の(上層の)誘電体層40とを含む。金属層30は、可視スペクトル(400~700nm)内の透過を可能にするのに十分に薄く、同時に赤外線において実質的な反射率を示す。
【0019】
本発明者らは、このような金属誘電体構造の特性及び性能は、1つ以上の誘電体層が水素化金属窒化物誘電体層として提供される場合に改善され得ることを発見した。本開示の様々な例示的な実施形態では、1つ又は複数の層が水素化金属窒化物誘電体から形成される多層金属誘電体エネルギー制御コーティングが開示される。
以下に詳細に記載するように、このような多層コーティングの特性は、1つ以上の水素化金属窒化物誘電体層中の水素濃度(及び/又はその空間プロファイル)を適切に調整することによって改善又は選択することができる。
【0020】
いくつかの例示的な実施形態では、多層コーティングの少なくとも1つの金属層を、それぞれの水素化金属窒化物誘電体層の上に形成することができる。
後述するように、水素化金属窒化物誘電体層は、金属の接着を容易にする基板と、可視スペクトルにおいて実質的な透明性を示す薄い金属層の形成を可能にする低い浸透閾値(percolation threshold)とを提供する。
【0021】
ここで
図2を参照して、誘電体層の1つが水素化金属窒化物誘電体層である多層金属誘電体積層体の例示的な実施形態が示される。図示の実施例では、透明基板10上に形成された下層の誘電体層(金属層30の下層の)は、水素化金属窒化物誘電体層21として設けられている。中層金属層30は、水素化金属窒化物誘電体層21上に形成される。金属層30の上方には、水素化金属窒化物誘電体層であってもよい、上層の誘電体層40が設けられている。
【0022】
水素化金属窒化物誘電体層は、アモルファス、結晶、又はアモルファスと結晶の両方であってもよい。水素化金属窒化物誘電体の非限定的な例には、水素化窒化アルミニウム、水素化窒化チタン、及び水素化窒化チタンアルミニウムが含まれる。
【0023】
上層の誘電体層40は、例えば、窒化アルミニウム又は窒化チタン又は窒化チタンアルミニウムのような金属窒化物であってもよい。
水素化された金属窒化物誘電体層は、
図2に示されるように均一に水素化されてもよく、又は、以下にさらに詳細に記載されるように、空間依存性水素濃度を生じるように水素化されてもよい。
【0024】
以下に詳細に説明するように、金属窒化物誘電体層中の水素含有を制御することによって、層及び金属誘電体構造全体の光学的、物理的及び化学的特性を制御し、選択し、及び/又は最適化することが可能であることが見出された。
【0025】
中間金属層30は、銀などの金属である。他の適切な金属には、銅、アルミニウム、金及び金属合金(本明細書で使用される「金属」は、元素金属及び金属合金の両方を指す)が含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
基板10は、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、及びポリビニルブチラール(例えば、ロールトゥロールスパッタ堆積システムで処理される)を含む材料から形成されたポリマーフィルム/箔/シートなどの可撓性フィルム/箔/シート、並びにポリカーボネート及びガラスシート(グレージング)などの剛性基板(例えば、インライン又はシャトルスパッタ堆積システムで処理される)などの任意の適切な透明誘電体とすることができるが、これらに限定されない。
【0027】
誘電体層21及び40並びに金属層30の厚さは、例えば、可視光における透過率、近赤外線における反射率、及び中赤外線における放射率などの光学特性、並びに、これらに限定されないが、導電率及びシート抵抗などの電気特性を含む、適切な光学特性及び電気特性を示すように選択されてもよい。水素化金属窒化物誘電体層の例示的な厚さ範囲には、10nm~100nmが含まれるが、これらに限定されない。金属層の例示的な厚さ範囲には、3nm~30nmが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例示的な実施形態では、層は、スパッタ堆積によって形成されてもよい。このような方法は、周囲温度、周囲に近い温度、又は低温(例えば、50℃~200℃)で実施することができる。水素化金属窒化物層を含む誘電体層は、反応性スパッタリングによって堆積させることができる。例えば、窒化アルミニウム膜は、アルゴン及び窒素スパッタガスを用いたアルミニウムの反応性スパッタリングを用いて堆積させることができる。様々な粒径を有する窒化アルミニウム膜は、通常、基板温度を変化させることによって得られる。
【0028】
以下に詳細に記載されるように、水素化金属窒化物誘電体の様々な特性(例えば、屈折率及び消衰係数などであるが、これらに限定されない)、並びに金属層及び/又は透明基板などの他の層との水素化金属硝酸塩誘電体の相互作用の様々な態様(例えば、接着、パッシベーション、水分及び/又は酸素に対する障壁保護)は、電力、前駆体ガス流量(典型的にはアルゴン及び窒素)、チャンバ圧力、及び基板温度の通常の堆積パラメータに加えて、反応性スパッタ堆積中の水素ガスの添加を制御することなどによって水素の添加を制御することによって、制御、調整、変調、選択、又は他の方法で変化させることができる。
追加的に又は代替的に、水素化金属窒化物誘電体の特性は、スパッタ堆積工程中に成長表面に原子状及び/又はイオン状水素源を追加することによって調整することができる。
【0029】
さらに別の実施例では、水素化金属窒化物誘電体の特性は、層を原子及び/又はイオン水素源に曝すことによって、スパッタ堆積後に調整することができる。
複数の水素化金属窒化物誘電体層を含む例示的な実施形態では、層のうちの任意の1つ又は複数は、1つ又は複数の機能を果たすように調整され、集合的に意図的な多層コーティングを与えることができる。
【0030】
一実施例では、スパッタリングによる成長中に、0.25体積%~2.5体積%、又は0.5体積%~5体積%、又は0.5体積%~10体積%、又は1体積%~10体積%、又は0.5体積%~20体積%の範囲の濃度を有する水素ガスを供給することによって、水素が金属窒化物誘電体層に組み込まれる。
【0031】
一実施例では、水素は、成長中又は成長後のいずれかに、重量で1ppm~1000ppm、又は1ppm~10000ppm、又は10ppm~10000ppm、又は100ppm~100000ppmの範囲の濃度で金属窒化物誘電体層に組み込まれる。
【0032】
以下に提供される実施例に記載されるように、低温スパッタ堆積工程において、ある範囲の濃度を有する水素元素ガスの添加は、対応する範囲の物理的、化学的及び光学的特性を示す、ある範囲の水素化窒化アルミニウム(AlN:H)膜を生成することが見出された。
別のアプローチでは、膜成長表面における様々なレベルでの原子及び/又はイオン水素フラックスの添加は、同等に、対応する範囲の物理的、化学的、及び光学的特性を示す一連の水素化窒化アルミニウム膜を生じさせる。
【0033】
さらに別のアプローチでは、窒化アルミニウム膜を、堆積後に、様々なレベルで、様々な範囲の原子又はイオン水素フラックスに暴露し、暴露時間を変化させることは、同等に、対応する範囲の物理的、化学的、及び光学的特性を郵便局、一連の水素化窒化アルミニウム膜を生じさせる。
【0034】
いくつかの例示的な実施形態では、誘電体層又は多層コーティング後堆積の水素化は、純粋な水素ガス、又は分子状水素を含有するガス(例えば、不活性ガス(例えば、Ar)、又は窒素、又は他のガス)を使用して、様々な温度及び持続時間で実施することができる。堆積後の水素化は、原子状水素を用いて行うこともできる。高温でのこれらの堆積後処理はまた、基板を同時に成形しながら(例えば、ガラスの曲げ)、多層コーティング特性を改善又は維持するために使用され得る。
【0035】
さらに、他の透明誘電体層(単数又は複数)もまた、カプセル化層として、及び/又は多層コーティング特性を改善するために組み込まれ得る。いくつかの例示的な実施形態において、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層中の水素の堆積後濃度)は、水素化金属窒化物誘電体層の屈折率が、可視スペクトルにおいて、約1.5と1.7の間、又は約1.6と1.8の間、又は約1.5と1.8の間、又は約1.7と2.1の間、又は約1.6と2.1の間、又は約1.5と2.1の間にあるように選択又は制御される。
【0036】
いくつかの例示的な実施形態では、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層中の水素の堆積後濃度)及び水素化金属窒化物誘電体層の上に堆積される金属層の厚さ(及び任意選択で金属-誘電体二重層の数)は、金属-誘電体構造が可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%の透明度を示すように選択又は制御される。
【0037】
一実施例では、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層中の水素の堆積後濃度)及び水素化金属窒化物誘電体層の上に堆積される金属層の厚さ(及び任意選択で金属-誘電体二重層の数)は、金属-誘電体構造が可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%の透明性及び赤外スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%の反射率を示すように選択又は制御される。
【0038】
いくつかの例示的な実施形態では、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層中の水素の堆積後濃度)は、水素化金属窒化物誘電体層の消衰係数が、(i)200nm~400nmの波長について0~0.15又は0~0.07の間、及び(ii)400nm~700nmの可視スペクトルの波長について0~0.02又は0~0.05の間にあるように選択又は制御される。
【0039】
いくつかの例示的な実施形態では、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層中の水素の堆積後濃度)及び水素化金属窒化物誘電体層の上に堆積される金属層の厚さは、金属層の(室温での)抵抗率が約2μΩcmと6μΩcmとの間、又は6μΩcmと10μΩcmとの間、又は10μΩcmと20μΩcmとの間、2μΩcmと20μΩcmとの間、又は2μΩcmと10μΩcmとの間にあるように選択又は制御される。
【0040】
いくつかの例示的な実施形態では、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層中の水素の堆積後濃度のいずれか)は、水素化金属窒化物誘電体層の平均粒径が30nmと100nmとの間、又は5nmと30nmとの間、又は5nmと100nmとの間、又は100nm未満、30nm未満、又は5nmとなるように選択又は制御される。
【0041】
さらに、特定の実施形態では、十分な工程濃度の水素ガスを使用して、ナノクリスタライトが存在しないアモルファス水素化窒化アルミニウムネットワークを生成する。いくつかの例示的な実施形態では、水素化金属窒化物誘電体層の水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属窒化物誘電体層の中の水素の堆積後濃度)は、成長方向(すなわち、垂直方向/z方向)における表面特徴/粒子突起の大きさの分布の半値全幅が、3nmと5nmとの間、又は2nmと3nmとの間、又は1nmと2nmとの間、又は5nm未満、4nm未満、3nm未満、2.5nm未満、2nm未満、又は1nm未満であるように選択又は制御される。
【0042】
水素化金属窒化物誘電体層21の水素濃度は、平滑な(連続的な)金属膜の成長を促進するように選択することができ、その結果、金属層30は、可視スペクトルにおける透過率(例えば、可視スペクトルの少なくとも一部において少なくとも70%、又は少なくとも75%、又は少なくとも80%、又は少なくとも85%の透過率)及び高められた導電率を示すのに十分に薄い一方で、分離されたアイランドが存在しない。
【0043】
したがって、一実施例では、所与の選択された金属層及び所与の選択された金属窒化物について、薄いがアイランドのない金属層の成長のための適切な条件を識別するために、水素濃度を変化させることができる(例えば、水素ガスの体積分率を変化させるなど、水素化工程中に存在する水素の量を変化させることによって間接的に)。
理論によって限定されることを意図するものではないが、水素化金属窒化物層中の水素の存在は、金属窒化物誘電体層と透明基板10との接着性を高めるのにも有益であると考えられる。したがって、一実施例では、所与の選択された透明基板及び所与の選択された金属窒化物について、水素化された金属窒化物誘電体層の透明基板への十分な接着を達成する適切な条件を識別するために、水素濃度を変化させることができる(例えば、水素化工程中に存在する水素の量を変化させること、例えば、水素ガスの体積分率を変化させることによって間接的に)。理論によって限定されることを意図するものではないが、水素化金属窒化物誘電体はまた、水素化金属窒化物誘電体と透明基板との間の下層の界面において水酸化物及び酸化物の適切な形成を伴う緻密かつ緊密なネットワークを提供し得ると考えられる。
【0044】
したがって、この緻密で密な網状組織は、特に透過性ポリマー材料の場合に、下層の透明基材からの水分及び酸素の透過に対する効果的で堅牢な障壁として働くことができる。
【0045】
したがって、一実施例では、所与の選択された透明基板及び所与の選択された金属窒化物について、透明基板からの水分及び/又は酸素の浸透に対する十分な障壁保護を達成する適切な条件を識別するために、水素濃度を変化させることができる(例えば、水素ガスの体積分率を変化させるなど、水素化工程中に存在する水素の量を変化させることによって間接的に)。
【0046】
さらに、金属窒化物誘電体層の成長中に様々な濃度で水素が存在すると、様々な潜在的に有益な効果を提供することができることに留意されたい。例えば、理論によって限定されることを意図するものではないが、層形成中の水素の存在は、原子スケール欠陥の不動態化、粒径の変更、物理的構造の結晶性からアモルファスへの変化、表面特性の変更、化学的環境の調整を提供することができると考えられる。
【0047】
これらの変化の意味合いのいくつかは、所与の光学デバイス設計において、改善された可視透過率、増加した赤外線反射率、並びにより良好な透明中性及び光-太陽光ゲインを介して性能を向上させることができる、向上した光透過率及び減少した消光係数を含む。
【0048】
水素の含有はまた、より電気抵抗性のネットワーク、おそらくダングリングボンドの不動態化の結果、及び欠陥によりもたらされるチャージホッピングの相応の軽減につながる。例えば、これは、次に、Agアイランド形成を緩和し、浸透閾値を低下させ、これにより一層滑らかな金属フィルム(例えば、銀)を促進するように働くことができる。
【0049】
さらに、適切なレベルの水素化はまた、金属層(例えば銀)と誘電体膜との間、並びに誘電体膜と下層基板との間の強化された接着をもたらし得る。さらに、適切なレベルの水素はまた、膜応力緩和につながり得る。水素化はまた、フィルム硬度の調節を可能にする。
【0050】
前述の例示的な実施形態のさらに別の使用例は、水素化された金属窒化物の使用を含む。水素化された金属窒化物は、工程中又は堆積後に、スペクトル選択性コーティングを提供する。これは、空気への暴露後に、金属(例えば、Ag)の酸化又は腐食に対して、酸窒化物及び水酸化物の自然な形成を通して、固有の抵抗及び安定性を提供する。
【0051】
前述の例示的な実施形態のさらに別の変形形態は、追加の/2次カプセル化を提供するために、別の透明誘電体が金属誘電体コーティングの上に堆積される、スペクトル選択性コーティングを含む。潜在的な透明誘電体としては、ハロゲン化アルカリ(例えば、MgF2)及び他の大きなバンドギャップのセラミック(例えば、窒化物、金属酸窒化物、又は水素化金属酸窒化物)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
前述の例示的な実施形態のさらに別の変形は、多層コーティングの特性を強化するカプセル化層(単数又は複数)及び/又は層(単数又は複数)として働くように、金属層の上及び/又は下に、透明誘電体層(単数又は複数)、又は薄い(例えば、0.05nm~3nm)金属層(単数又は複数)の堆積を含む。
別の例示的な実施形態では、最上誘電体層は、適切に水素化された金属窒化物層として提供される場合、周囲の酸素及び水分に曝されると、水酸化物及び酸化物の形成を容易にもたらし得る。
【0053】
水酸化アルミニウムは、活性粒界サイトで容易に形成され、そのより大きな格子定数が与えられると、構造中の空隙を満たす傾向がある。アルミニウムはまた、自然酸化物を容易に形成する。したがって、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムの両方の組み合わせは、酸素及び水分の透過に対する強固な透過障壁を与えることができる。
【0054】
理論によって限定されることを意図するものではないが、水素化金属膜は、水素濃度(水素ガスの濃度などの工程中濃度、又は水素化金属層中の水素の堆積後濃度のいずれか)が、金属膜特性の変調をもたらし得ると考えられる。水素は、活性電子サイトを不動態化し、したがってネットワークの導電率を改善するのに役立ち得ると考えられる。さらに、水素は、金属膜の成長に影響を及ぼし、結晶粒構造に影響を及ぼし、したがってその特性に影響を及ぼす可能性があると考えられる。
【0055】
したがって、一実施例では、所与の選択された金属層及び所与の選択された金属窒化物について、薄いがアイランドのない金属層の強化された特性(例えば、光透過率、導電率など)のための適切な条件を識別するために、水素濃度を変化させることができる(例えば、水素ガスの体積分率を変化させるなど、水素化工程中に存在する水素の量を変化させることによって間接的に)。
【0056】
本明細書に記載されるものを含む、金属誘電体多層積層体の様々な実施形態は、例えば、ロールトゥロール又はインライン/シャトル製造システムで製造することができる。ロールトゥロールシステムは、典型的には、可撓性フィルム/箔上に多層コーティングを堆積させるために使用され、一方、インライン/シャトルシステムは、典型的には、硬質シート上に多層コーティングを堆積させるために使用される。
【0057】
ロールトゥロールシステムでは、可撓性フィルム/基材は、典型的には、ある幅であり、フィルム幅は、例えば、1.6m又は2.1mであり、フィルムは、ロール上にあり、フィルムは、ある長さ、ウェブ長さ(例えば、1キロメートル以上)である。
【0058】
例示的なロールトゥロール製造システムでは、金属誘電体多層積層体、例えば水素化窒化アルミニウム-銀-水素化窒化アルミニウムデバイスの堆積は、3つの連続堆積ゾーンを含むことができる。
【0059】
誘電体膜堆積ゾーンにおいて、水素化窒化アルミニウムのRF、DC、パルスRF、又はDCマグネトロン反応性スパッタ堆積は、堆積ゾーンにおける水素の導入/注入と共に、窒化アルミニウムの反応性スパッタ堆積の種々の標準的な技術を使用して実行され得る。あるいは、DCスパッタリング又は低中周波スパッタリングを使用することができる。1つの例示的な構成では、アルミニウムターゲットから延在するプラズマが分子水素と最適に相互作用し、これにより分子水素が水素原子及びイオンへと解離することを可能にし、次いで水素化窒化アルミニウム誘電体膜の成長において化学的に統合される膜成長表面又はその近傍で、分子水素ガスが導入/注入される。
【0060】
別の例示的な構成では、水素ガスは、アルゴン-窒素混合物などのスパッタガス内に適切な体積濃度で添加され、これにより水素化窒化アルミニウム膜の反応性スパッタ堆積を生じさせる。
【0061】
さらに別の例示的な構成では、水素は、膜成長表面に導入/注入され、適切なレベルでスパッタガスに添加されて、水素化窒化アルミニウム膜を生成する。
【0062】
更に別の構成では、アトマイザ/イオナイザを使用して、成長表面又はその付近に原子状水素及び/又はイオン状水素を導入/注入し、これにより水素化窒化アルミニウム膜の成長を生じさせる。
【0063】
後者の構成では、アトマイザ/イオナイザは、膜成長表面又はその近くに原子状及び/又はイオン状水素を適切に供給/注入する水素グロー放電からなる。水素グロー放電は、適切なRF、DC、パルス又はマイクロ波プラズマ構成を使用して生成することができる。同様の水素導入手段を、金属膜堆積ゾーンに対して統合することができる。
【0064】
一実施例では、ロールトゥロール製造システム内の所与の堆積ゾーン内で、水素インジェクタを横方向に、すなわちウェブ幅に沿って均一に分布させることができ、これにより、幅に沿ったガス/プラズマの化学的性質の均一性を確保し、これによりフィルムの幅全体に沿って得られるフィルムの特性の均一性を達成することに寄与する。
【0065】
さらに、最も単純な構成では、適切な密度の水素インジェクタを長手方向に、すなわちウェブの移動方向に沿って分布させることができ、これにより、堆積ゾーンに対する水素化窒化アルミニウム膜の堆積を均一にすることができる。
【0066】
代替の構成では、水素インジェクタは、長手方向に2つのバンクに細分されてもよく、これにより、長手方向に2つの異なる濃度で水素(分子、又は原子、及び/又はイオン)の注入を可能する。これにより、水素濃度に関して水素化窒化アルミニウム膜の2つの準連続領域を生じさせる。
【0067】
さらに別の構成では、水素インジェクタは、長手方向に対して水素濃度の勾配を達成するように適切に細分されてもよく、したがって、本質的に連続的に勾配が付けられた水素濃度を有する水素化窒化アルミニウム膜が得られる。同様の技法を、金属膜の堆積ゾーンにおける水素濃度を制御し、それに応じて金属膜の特性を変調する際に使用することができる。インライン/シャトル製造システムでは、上述したものと同様の方法を用いて水素を導入し、膜特性に所望の変調を生じさせることができる。さらに、インライン/シャトル製造システムにおいて、水素化は、堆積後に実施され得る。
【0068】
例えば、3層積層体は、窒化アルミニウム、銀、及び窒化アルミニウムを順次堆積ゾーンにおいて堆積すること含むことができ、その後、多層積層体は、水素を含むガス(例えば、Ar、N2、他)で処理される。さらに、堆積後処理は、多層コーティングの特性を改善するために、高温で行うことができる。さらに、コーティング特性を維持し、又はコーティング特性を改善しながら、基板成形(例えば、ガラスの曲げ)を達成するために、温度を十分に高いレベルまで上昇させることができる。
【0069】
例示的なガスは、主として低濃度の水素を含む窒素を含んだフォーミングガスである。この場合、窒素の存在は、窒化アルミニウム膜のあらゆる欠陥を「修復」又は「修復」する役割も果たすことができ、一方、水素は、金属及び誘電体膜のあらゆる酸化を軽減又は排除するように、工程全体の間にダングリングボンドを不動態化する役割を果たすことができ、並びに還元環境を提供することができる。
【0070】
以下に記載されるいくつかの例示的な実施形態では、水素化金属窒化物誘電体層の上に堆積された金属膜は、パターンニングされてもよい。そのようなパターニングを容易にするための一実施例では、レーザアブレーションサブシステムは、例えば、Ag堆積ゾーンの後であるが後続の誘電体膜堆積ゾーンよりも前にあるロールトゥロール製造システム内、すなわち、2つの堆積ゾーンを分離する真空カーテン壁において一体化される。
【0071】
さらに、レーザシステムは、超短ピコ秒又はフェムト秒のレーザパルスを出力することができ、これにより、レーザ光場と金属層(例えば、Ag)との間の相互作用は、下層の層を実質的に加熱することなく、原子/イオンプラズマプルームの放出を生じさせる。これらの工程は、コンピュータ制御ガルボスキャナなどのレーザビーム出力制御システムとともに、ナノメートル、マイクロメートル、又はミリメートルスケールの開口などのパターンニングされた銀の生成を可能とし、特定の電磁透過/反射特性(マイクロ波周波数の特定の帯域にわたる伝達をもたらすなど)を生じさせるか、又は特定の無線周波数トランシーバ機能を生成する。
【0072】
以下に説明するいくつかの例示的な実施形態では、多層金属誘電体デバイスが1つ又は複数のプラズモン吸収ピーク(例えば、その光吸収スペクトルの1つ又は複数のピーク)を示すように、製造工程を適合させることができる。このようなプラズモン吸収特徴は、可視色変化及び紫外線保護を含むがこれらに限定されない目的のために、例えば、金属誘電体多層デバイスの光学特性を変更するために使用され得る。プラズモン特徴は、多層金属誘電体デバイスに金属ナノ構造を組み込むことによって導入することができる。例えば、プラズモン吸収は、金属ナノ構造の生成を生じさせるナノスケール粗さ(0.1nm~30nmのRMS粗さ)を金属膜に生成させることによって導入することができる。
【0073】
そのような粗さは、例えば、(i)下層の誘電体層の粗さを変えることによって生成されてもよく、誘電体層の粗さは、スパッタ堆積速度及びスパッタガスの化学的性質によっても、粗さを変化させることができる。更に、(ii)スパッタ堆積速度及びスパッタガス化学的性質を変えることで、金属膜の成長特性を変えることによっても粗さを生成することができる。又は、(iii)誘電体又は金属層の原子/イオン衝撃によっても粗さを変えることができる。
【0074】
別の例示的な実施形態では、金属ナノ粒子は、例えば、
(i)金属膜の厚さを変化させること
(ii)例えば、水素化によって誘電化学的性質を変化させ、これにより金属原子の拡散及び凝集を促進すること
(iii)例えば、成長表面に衝突する前に金属原子がナノ粒子に凝集することができるスパッタベースの工程を使用して、又は金属ナノ粒子を噴霧することによって、誘電膜堆積と同時にナノ粒子堆積を行うこと
によって、透明誘電層に組み込むことができる。
【0075】
いくつかの例示的な実施形態では、波長の範囲及び/又はプラズモン吸収の強度を制御することができる。例えば、1つ以上のプラズモン特徴が金属膜の粗さを介して提供される実施例では、プラズモン特徴の波長及び/又は強度は、導入される粗さの量を制御することによって変化されてもよい。
【0076】
あるいは、1つ以上のプラズモン特徴が透明誘電体層への金属ナノ粒子の組み込みを介して提供される例示的な実施形態では、プラズモン特徴の波長及び/又は強度は、金属ナノ粒子の分散を制御することによって変化されてもよい。
【0077】
本明細書に開示される様々な例示的な実施形態は、広範囲の用途に使用することができ、例えば、パッシブデバイス又は能動デバイスとして使用することができる。
本明細書に開示される様々な金属誘電体構造及びその変形は、以下には限定されないが、例えば
・透明な熱ミラー及び透明な太陽制御コーティングを含むスペクトル選択性コーティング・透明な熱ミラー及び透明な太陽制御コーティングを同時に提供する透明な熱ミラー及び透明な太陽制御コーティングを含むスペクトル選択性抵抗性加熱器
・透明な熱ミラー及び透明な太陽制御コーティングとして機能し、自動車、航空宇宙、海洋及び関連用途における高効率のデフロスタ及びデフォッガとして使用されるスペクトル選択性抵抗性加熱器
・スペクトル選択性放射冷却コーティング;透明な導体不可視に近い無線送受信機及び送信機
・不可視に近い無線周波数エネルギーハーベスタ
などの用途に使用されてもよい。
【0078】
以下の説明は、1つ又は複数の水素化金属窒化物誘電体層を使用する異なる層構成及び組み合わせを含む、金属誘電体構造の異なる構造構成の一組の例示的な実施形態を開示する。
【0079】
図3を参照すると、金属-誘電体積層体の別の例示的な実施形態が示されており、この実施形態では、下層の誘電体層22は、水素濃度が準連続的に又は連続的に傾斜され、これにより界面要件及びバルク要件に対応して、膜特性を局所的に向上させる。図に示すように、濃度は、透明基板10に関連する表面法線に平行な方向に傾斜している。具体的には、下層の誘電体膜-基板界面では、水素濃度は、接着及び浸透障壁のために選択され、一方、下層の誘電体膜-金属膜界面では、水素濃度は、金属膜の接着及び平滑性、並びに適切な電気的及び光学的特性のために選択される。
【0080】
図4に示す金属誘電体積層体の別の実施形態では、下層の誘電体20は金属窒化物誘電体膜であり、上層の誘電体層41は水素化金属窒化物膜であり、一方、中間層30は金属膜である。層41は、酸素及び水分の浸透に対する有効かつ強固な障壁として働く密なネットワークを達成するために、空気に曝されると水酸化物及び酸化物の形成を支持するように適切に水素化される。
【0081】
さらに、フィルムを適切に水素化して、光学特性を増強又は調節し、それにより透明中性(clear-neutrality)及び光-太陽光ゲインを含む所望の光学性能を与えることもできる。上層の誘電体膜41はまた、下層の金属膜の上に緻密で強固な水素化ネットワークを提供する。
【0082】
図5に示す金属誘電体積層体の代替的な実施形態では、上層の誘電体42は、水素濃度が準連続的に又は連続的に傾斜され、これにより、適切な界面要件並びにバルク要件に対応して、膜特性を局所的に強化する。具体的には、上層の誘電体膜-金属膜界面では、金属膜への上層の誘電体膜の接着のために水素濃度が選択され、一方、上層の誘電体膜-空気界面では、強固な自然水酸化物及び酸化物バリア層の形成のために、緻密で強固なネットワーク及び化学組成を促進するために水素濃度が選択される。フィルムはまた、光学的性質を増強又は調節し、これにより透明中性及び光-太陽光ゲインを含む所望の光学的性能を与えるように、適切に水素化されてもよい。
【0083】
図6に示す金属誘電体積層体の別の実施形態では、下層の誘電体21及び上層の誘電体層41は水素化金属窒化物誘電体膜であり、一方、中間層30は金属膜である。層21は、下層の基板との強化された接着を支持するために、並びにオーバートップの非島状平滑Ag膜成長を促進するために、適切に水素化されてもよい。下層の層はまた、誘電体-基板界面での水酸化物及び酸化物の適切な形成を伴う緻密で強固なネットワークを提供し、これにより、特に透過性ポリマー材料の場合、下層の基板からの水分及び酸素の透過に対する効果的かつ強固な障壁として働く。
【0084】
層41は、酸素及び水分の浸透に対する有効かつ強固な障壁として働く緻密で強固なネットワークを達成するために、空気に曝されると水酸化物及び酸化物の形成を支持するように適切に水素化されてもよい。さらに、フィルムを適切に水素化して、光学特性を増強又は調節し、これにより、透明中性及び光-太陽光ゲインを含む所望の光学性能を与えることもできる。このフィルムはまた、下層の金属フィルムに接する緻密で強固な水素化ネットワークを提供する。
【0085】
図7に示される金属誘電体積層体の代替的な実施形態では、下層の誘電体22及び上層の誘電体42は、水素濃度が準連続的又は連続的に傾斜され、これにより、界面要件並びにバルク要件に対応して、膜特性を局所的に向上させる。具体的には、上層の誘電体膜-金属膜界面では、金属膜への上層の誘電体膜の接着のために水素濃度が選択され、一方、上層の誘電体膜-空気界面では、強固な自然水酸化物及び酸化物バリア層の形成のために、緻密で強固なネットワーク及び化学組成を促進するために水素濃度が選択される。
【0086】
これに対し、下層の誘電体膜-基板界面では、水素濃度は、接着及び浸透障壁のために選択され、一方、下層の誘電体膜-金属膜界面では、水素濃度は、金属膜接着及び平滑性並びに適切な電気的及び光学的特性のために選択される。さらに、2つの誘電体膜はまた、光学特性を増強又は変調し、これにより、透明中性及び光-太陽光ゲインを含む所望の光学性能を与えるように、適切に水素化されてもよい。
【0087】
金属誘電体多層積層体の別の例示的な実施形態が
図8に示されている。
図8において、符号21は第1の下層の誘電体層であり、符号30は第1の金属層であり、符号40は第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は第2の金属層であり、符号60は第2の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。
【0088】
第1の下層の誘電体層21は、水素化窒化アルミニウム又は水素化窒化チタン又は水素化窒化チタンアルミニウムなどの水素化金属窒化物であり、誘電体層20は、窒化アルミニウム又は窒化チタン又は窒化チタンアルミニウムなどの金属窒化物誘電体層であり、一方、中間にある金属層30は、銀などの金属膜である。誘電体層21、40及び60並びに銀層30及び50の厚さは、所望の光学的及び電気的特性を達成するように選択される(適切に選択される)。光学的及び電気的特性は、限定されるものではないが、特に、可視光における透過率、近赤外線における反射率、及び中赤外線における放射率のような光学的特性、並びに、導電率及びシート抵抗のような電気的特性である。
【0089】
図9に示す金属誘電体積層体の代替的な実施形態では、符号21は第1の下層の誘電体層であり、符号30は第1の金属層であり、符号40は第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は第2の金属層であり、符号61は第2の上層の誘電体層である。多層構造は基板10の上にある。第1の下層の誘電体層21及び第2の上層の誘電体層61は水素化される。
【0090】
図10に示す金属誘電体積層体の別の代替的な実施形態では、符号21は、第1の下層の誘電体層であり、符号30は、第1の金属層であり、符号41は、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は、第2の金属層であり、符号61は、第2の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。第1の下層の誘電体層21、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層41、並びに第2の上層の誘電体層61は水素化される。
【0091】
図11に示す金属誘電体積層体の別の代替的な実施形態では、符号21は、第1の下層の誘電体層であり、符号30は、第1の金属層であり、符号42は、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は、第2の金属層であり、符号61は、第2の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。第1の下層の誘電体層21及び第2の上層の誘電体層61は水素化され、一方、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層42は、水素濃度において準連続的に又は連続的に傾斜され、これにより、界面要件並びにバルク要件に対応して、膜特性を局所的に向上させる。
【0092】
図12に示す金属誘電体積層体の別の代替的な実施形態では、符号21は、第1の下層の誘電体層であり、符号30は、第1の金属層であり、符号42は、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は、第2の金属層であり、符号62は、第2の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。
【0093】
第1の下層の誘電体層21は水素化され、一方、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層42及び第2の上層の誘電体層62は、水素濃度において準連続的に又は連続的に傾斜され、これにより、界面要件並びにバルク要件に対応して、膜特性を局所的に向上させる。
【0094】
図13に示す金属誘電体積層体の別の代替的な実施形態では、符号22は第1の下層の誘電体層であり、符号30は第1の金属層であり、符号42は第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は第2の金属層であり、符号62は第2の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。
【0095】
第1の下層の誘電体層22、第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層42、及び第2の上層の誘電体層62は、水素濃度が準連続的又は連続的に傾斜しており、これにより、界面要件並びにバルク要件に対応して、膜特性を局所的に向上させる。
【0096】
金属誘電体多層積層体の別の例示的な実施形態が
図14に示されている。
図14において、符号21は第1の下層の誘電体層であり、符号30は第1の金属層であり、符号40は第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は第2の金属層であり、符号60は第2の上層の誘電体層であり、第3の下層の誘電体層であり、符号70は第3の金属層であり、符号81は第3の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。
【0097】
第1の下層の誘電体層21及び第3の上層の誘電体層81は、水素化窒化アルミニウム又は水素化窒化チタン又は水素化窒化チタンアルミニウムなどの水素化金属窒化物であり、一方、誘電体層40及び60は、窒化アルミニウム又は窒化チタン又は窒化チタンアルミニウムなどの金属窒化物であり、一方、中間にある金属層30、50及び70は、銀などの金属膜である。誘電体層21、40、60及び81並びに金属層30、50及び70の厚さは、所望の光学的及び電気的特性を達成するように選択する(適切に調整する)ことができる。光学的及び電気的特性は、限定されないが、特に、可視光における透過率、近赤外線における反射率、及び中赤外線における放射率などの光学的特性、並びに、導電率及びシート抵抗などの電気的特性を含む。
【0098】
図15に示す金属誘電体多層積層体の代替的な実施形態では、符号21は第1の下層の誘電体層であり、符号30は第1の金属層であり、符号41は第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、符号50は第2の金属層であり、符号61は第2の上層の誘電体層及び第3の下層の誘電体層であり、符号70は第3の金属層であり、符号81は第3の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。
【0099】
誘電体層21、41、61、81は水素化金属窒化物であり、中間金属層30、50、70は銀のような金属膜である。誘電体層21、40、60及び81並びに金属層30、50及び70の厚さは、所望の光学的及び電気的特性を達成するように、適切に調整される。所望の光学的及び電気的特性は、これらに限定されないが、特に、可視光における透過率、近赤外線における反射率、及び中赤外線における放射率などの光学的特性、並びに、導電率及びシート抵抗などの電気的特性を含む。
【0100】
図16に示す金属誘電体多層積層体の別の代替的な実施形態では、22は第1の下層の誘電体層であり、30は第1の金属層であり、42は第1の上層の誘電体層及び第2の下層の誘電体層であり、50は第2の金属層であり、62は第2の上層の誘電体層及び第3の下層の誘電体層であり、70は第3の金属層であり、82は第3の上層の誘電体層である。多層構造は基板10上に設けられる。
【0101】
誘電体層22、42、62及び82は、水素濃度が準連続的又は連続的に傾斜され、これにより界面要件並びにバルク要件に対応して膜特性を局所的に強化する。誘電体層22、42、62及び82並びに金属層30、50及び70の厚さは、所望の光学的及び電気的特性、特に、可視光における透過率、近赤外線における反射率、及び中赤外線における放射率などの光学的特性、並びに、これらに限定されないが、導電率及びシート抵抗などの電気的特性を達成するように選択する(適切に調整する)ことができる。
【0102】
金属誘電体多層積層体の別の例示的な実施形態が
図17A及び17Bに示されている。
図17A及び
図17Bにおいて、積層体は、下層の誘電体層21、金属層30、及び誘電体層41を含む。多層構造は基板10上に設けられる。誘電体層21及び41は、AlN:Hなどの水素化金属窒化物であり、層30は、銀などの金属である。
【0103】
電気バスバー接点100及び110は、金属層30とオーム接触し、バスバーは、金属誘電体デバイス90への電力の出力を容易にするように空間的に離れて位置し(平面
図AA’)、右から左を指す矢印は、電流の方向(すなわち、正電荷の流れ)を示す。適切な厚さの電気バスバー100及び110は、様々な方法を使用して金属接点を蒸着することによって、金属誘電体デバイスに一体化することができる。方法は、特定のものには限定されないが、金属及び金属合金の電子ビーム蒸着、金属及び金属合金のスパッタ蒸着、並びに関連するエッチング及び焼成工程を伴う金属インク及びペーストの印刷を含む。
【0104】
図17Cは、前述の実施形態による、少なくとも1つの水素化金属窒化物誘電体層を有する太陽光制御構造90を有するフロントガラスと、構造内に形成された少なくとも1つの金属層と電気的に連通する電気バスバー100、110とを含む、曇り除去又は除氷システムの例を示す。
【0105】
システムはまた、電源430と、太陽光制御構造に供給される電流を制御するための制御回路400とを含む。制御回路400は、(曇り除去/除氷モジュール450によって概略的に示されるように)太陽光制御構造に時間依存電流を供給するために、メモリ415に記憶され、プロセッサ410によって実行可能な命令でプログラムされてもよい。例えば、制御回路は、曇り除去及び/又は氷結除去に適した持続時間に亘って、連続的に、又は断続的に、任意選択で所定の時間依存性に従って電流を供給することができる。制御回路は、氷又は霧の存在を感知するために、1つ又は複数のセンサ420にさらに接続されてもよい。
【0106】
図17Cに示す例示的な実施形態に示すように、制御回路400は、プロセッサ410、メモリ415、システムバス405、及び1つ又は複数の任意選択の追加デバイスを含むことができる。図に示される例示的なシステムは、所与の実装形態で使用され得る構成要素に限定されることを意図していないことを理解されたい。例えば、システムは、1つ又は複数の追加のプロセッサを含むことができる。さらに、制御及び処理ハードウェア400の1つ又は複数の構成要素は、処理デバイスにインターフェースされる外部構成要素として提供され得る。
金属誘電体多層積層体の別の例示的な実施形態が
図18A及び18Bに示されている。この
図18A及び
図18Bにおいて、積層体は、誘電体層21、金属層30、誘電体層41、金属層50、及び誘電体層61を含む。多層構造は基板10上に設けられる。
【0107】
誘電体層21、41及び61は、AlN:Hなどの水素化金属窒化物であり、層30及び50は、銀などの金属である。電気バスバー接点130及び140は、金属層30及び50とオーム接触し、バスバーは、金属誘電体デバイス120への電力の出力を容易にするように空間的に離れて位置し(平面
図BB’、右から左を指す矢印は、電流の方向(すなわち、正電荷の流れ)を示す。
【0108】
適切な厚さの電気バスバー130及び140は、様々な方法を使用して金属接点を蒸着することによって、金属誘電体デバイスに一体化することができる。方法は、限定はされないが、金属及び金属合金の電子ビーム蒸着、金属及び金属合金のスパッタ蒸着、並びに関連するエッチング及び焼成工程を伴う金属インク及びペーストの印刷を含む。
【0109】
別の実施例では、電気バスバーを誘電体上(例えば
図1の誘電体層40上又は
図4の誘電体層41上)に直接付着、印刷又は固定する。金属バスバーは、誘電体上に直接電子ビーム又はスパッタ堆積されてもよく、バスバーは、金属インク(例えば、銀インク)を使用して印刷されてもよく、又は金属リボンは、適切な導電性接着剤-エポキシで固定されてもよい。これらの接点は、良好なオーム接触を達成するために、適切に熱処理-焼結することもできる。
【0110】
あるいは、インク印刷中に、誘電体を局所的に剥ぎ取るためにプラズマ放電を使用することによって誘電体の抵抗特性を軽減することができる。さらに、レーザ加工を利用することもでき、例えば、レーザアブレーション工程を使用して、誘電体の選択的剥離を達成することができ、金属のレーザ印刷の様々な方法、例えば、レーザ誘起順方向転写を使用することができる。
【0111】
さらに別の実施形態では、誘電体中への銀の移動、
図31に示すように、下層のAg層から上層の誘電体中に拡散するAgナノ粒子は、誘電体上の堆積/印刷された銀グリッドからの銀拡散と併せて利用することができ、これにより、高品質のオーミック接触が得られる。局所的な熱/光学処理を同時に使用して、最適な銀移動、したがって低い接触抵抗を達成することができる。電気バスバーの使用に加えて、適切なマイクロナノ薄電気グリッドを利用することもでき、この場合、バスバーに接続されたグリッドは、より低い電圧動作を可能にしながら、必要な電力密度を容易にする。グリッドは、前段で説明したバスバーと同様の方法で適用することができるが、人間の目では検出できない寸法のものである。例えば、複数のマイクロナノメートルの細い導電性ワイヤを利用することができる。
【0112】
前述の例示的な実施形態は、1つ又は複数の水素化金属窒化物誘電体層を有する多層金属誘電体構造の例示的な実施形態及び用途の非限定的なセットを示すために提供され、他の複数の潜在的な実施形態が可能であることが理解されるであろう。例えば、いくつかの実施態様では、スペクトル選択性金属-誘電体多層積層体を適切にパターニングし、これにより他の機能を統合することができる。例えば、これらは、RF周波数範囲において選択的な反射率及び透過率特性を与えることによって、金属層の適切なアパーチャパターニング(ナノメートル、マイクロメートル、及びミリメートルの長さスケールで)を含むことができ、これらのパターンは、単一又は複数の金属層の上にあってもよい。
【0113】
さらに別の実施例は、適切なアンテナのパターニング及びその後の整流によるRF電磁放射ハーベスティングの統合を含み、これは、適切なセンサに電力を供給することができ、したがって、自己電力供給センサをもたらすことができる。様々な例示的な実施形態は、言及された機能性に加えて、所与の筐体/システムのための超スマートウィンドウの形成を生じさせることができる。
【0114】
前述の例示的な実施形態の別の例示的な利用は、スペクトル選択的放射冷却コーティングデバイスの設計内で、AlN:Hなどの調整可能な水素化金属窒化物の利用を含む。このデバイスにおいて、電磁スペクトルの可視部分及び近赤外部分は、ほぼ完全に反射される一方で、例えば8~13μmの範囲に亘る中赤外の透明窓が提供され、これにより、放射熱エネルギーが、所与の体積から低温外側空間に向かって放出されることを可能にし、したがって、放射冷却を生じさせる。一例として、フォトニック結晶冷却デバイスは、様々なフォトニック結晶層から構成することができ、銀基板の上に低屈折率及び高屈折率の大きなバンドギャップ材料の二重層を含むブロードバンド太陽反射器は、水素化窒化物を利用する。
【0115】
[実施例]
以下の実施例は、当業者が本開示の実施形態を理解し、実施することを可能にするために提示される。それらは、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではなく、単にその例示及び代表であると見なされるべきである。
【0116】
(実施例1:水素化AlN膜の水素濃度に対する屈折率と消光係数の依存性)
図19は、スパッタリング中に約0%~10%の体積分率の範囲の水素濃度を有するガラス基板の上にRF反応性スパッタリングを用いて堆積されたAlN:H膜の、波長の関数としての光学指数の例示的なデータセットを示す。主なスパッタガスは、アルゴンと窒素からなる。反応性RFスパッタリングを使用して堆積されたこれらの膜は、20sccmの名目総ガス流量を有する極低温ポンプマルチターゲットスパッタリングチャンバ内で調製される。ここで、アルゴン流量は15sccmであり、窒素流量は5sccmであり、水素流量は0~10sccmである。
【0117】
アルゴンは、をアルミニウムターゲットの近傍に導入し、窒素及び水素を成長表面の近傍に導入した。堆積中のチャンバ圧力は、名目で5mTorrである。RF電源は150~350Wの範囲である。基板は、最初は周囲温度であり、能動的には加熱又は冷却されなかった。
図20は、AlN:H膜の消衰係数についての対応するデータセットを示す。
【0118】
前駆体水素含有量の変化は、明らかに、光学屈折率を調節するのに役立つ。さらに、水素の導入は、光波長の範囲に亘って誘電体膜の消衰係数の減少を生じさせることが観察される。消衰係数の減少は、原子スケール欠陥部位での水素結合に起因する。光学指数の変化は、水素結合の関数であり、また、フィルムの物理的構造-粒子サイズの変調の関数である。
【0119】
(実施例2:水素化AlN膜の形態及び粒径)
図21(A~F)は、ガラス上に堆積されたAlN及びAlN:H膜の例の走査型電子顕微鏡(SEM)及び原子間力顕微鏡(AFM)観察グラフ、並びにZ(縦)方向における表面特徴/粒子突起/高さの分布を示す。 窒化アルミニウムの水素化は、明らかに粒径を減少させ(AlN及びAlN:H膜のSEM観察グラフを示す
図21A及び21Bを参照)、より滑らかな膜を生じる。AlN膜の平均粒径及び標準偏差は48.6±9nmであり、AlN:H膜の平均粒径及び標準偏差は25.4±9nmである。膜の表面粗さは、AFMスキャンで観察される(それぞれAlN及びAlN:H膜表面のAFMスキャンを示す
図21C及び21Dを参照されたい)。
【0120】
さらに、Z方向の表面特徴/粒子の突起/高さの分布が
図21E及び
図21Fに示されている。
図21Eでは、AlN:H膜は、約2.2nmの半値全幅(FWHM)を有する狭い分布を有す。AlN膜は、約3.6nmのFWHMを有する。
図21Fでは、AlNの別の例及びAlN:H膜のセットについての分布は、それぞれ、約2.5nm及び約1.4nmのFWHMを示す。
【0121】
(実施例3:水素化AlN膜の小角度X線回折(XRD)試験)
図22は、3つの小角X線回折(XRD)パターンを示し、1つはAlNについて、2つはAlN:H膜についてであり、Si(100)上にRF反応性スパッタリングを使用して堆積される。AlN:H膜は、前駆体ガス流中に1.25%及び2.5%の体積分率の水素を用いて成長された。一番上のXRDスキャンは、AlNについての回折パターンを示し、2番目及び3番目のXRDスキャンは、それぞれ1.25%及び2.5%の水素を使用して成長させたAlN:Hについての回折パターンを示す。特徴的な結晶ピーク/線強度は、水素が増加するにつれて減少し、膜は次第に増加するアモルファス特性を呈することが観察される。
【0122】
(実施例4:膜堆積中及び堆積後の水素化)
図23は、AlNの光透過率が、堆積後の水素化によって同等に増強され得ることを示す。具体的には、ガラス上に堆積されたAlN膜の例は、RF水素プラズマに曝される。水素化前及び水素化後(HAlNと称する)AlNフィルムの光透過率は、フィルムの光透過率が光学波長の範囲に亘って改善されることを示す。
【0123】
(実施例5:水素化を伴う/伴わない金属-誘電体積層体の光学特性の測定結果)
下層の誘電体層、中層の金属層、及び上層の誘電体層を含む例示的な金属誘電体多層積層体の光学特性を
図24に示す。金属誘電体積層体は、スパッタ堆積を用いて堆積される。誘電体層は水素化窒化アルミニウムであり、金属層は銀である。基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。裸のPETフィルム及びコーティングされたPETフィルムの透過曲線及び反射曲線を図に示す。可視光におけるピーク透過率は86%であり、明所視加重可視光透過率は85%であり、総太陽エネルギー排除率は35%である。約900nm付近の透過率曲線の不連続性は、検出器シフトである。
【0124】
第1の下層の誘電体層、第1の金属層、第1の上層及び第2の下層の誘電体層、第2の金属層、及び第2の上層の誘電体層を含む別の例示的な金属-誘電体多層積層体の光学特性が、
図25に示されている。金属誘電体積層体は、スパッタ堆積を用いて堆積される。誘電体層は水素化窒化アルミニウムであり、金属層は銀である。また、基板はガラスである。コーティングされたガラスの透過及び反射曲線が図に示されている。可視光におけるピーク透過率は77%であり、明所視加重可視光透過率は76%であり、総太陽エネルギー排除率は47%である。コーティングされたガラスの色パラメータは、L*=90.10、a*==-0.55、及びb*= 0.63である。約900nm付近の透過率曲線の不連続性は、検出器シフトである。
【0125】
第1の下層の誘電体層、第1の金属層、第1の上層及び第2の下層の誘電体層、第2の金属層、及び第2の上層の誘電体層を含む別の例示的な金属-誘電体多層積層体の光学特性が、
図26に示されている。金属誘電体積層体は、スパッタ堆積を用いて堆積される。誘電体層は水素化窒化アルミニウムであり、金属層は銀である。基板はポリカーボネートシートである。ポリカーボネートシートの透過及び反射曲線を図に示す。可視光におけるピーク透過率は71%であり、明所視加重可視光透過率は70%であり、総太陽エネルギー排除率は49%である。コーティングされたポリカーボネートの色パラメータは、L* = 87.04、a*=-1.48、及びb*= 1.42であり、コーティングされていないポリカーボネートの色パラメータは、L* = 90.9、a*=-0.52、b* = 0.50である。
【0126】
(実施例6:除氷及び曇り除去用途のための水素化AlN層を有する金属-誘電体デバイスの性能の実験的研究)
例示的な金属-誘電体多層積層体の加熱性能を
図27に示す。多層積層体は、ガラス基板の上に堆積される。金属層と接触する電気バスバーは、可変電源に接続される。時間の関数としての温度変化のプロファイルを、様々な電力レベルについて示す。温度は、反対側のガラス表面で測定される。
【0127】
例示的な金属誘電体多層積層体の除霜性能を
図28(A、B)に示す。多層積層体は、ガラス基板の上に堆積され、積層体内の金属層と接触する電気バスバーは、可変電源に接続される。約1mmの厚さの氷のシートが、ガラス基板のコーティングされていない側に直接凍結される。
【0128】
約-10℃の一般的な常温下では、積層体に電力が供給され、様々な電力レベルについて、ガラス面から氷を除去するのに必要な時間が記録される。ガラス-氷界面への十分に均一な電力出力の際に、水の薄い溶融層が界面(すなわち、界面の表面全体)で発生し、氷のシートの滑りにつながる。ここで、「スライドする時間」は、電源投入と最終的な氷板のスライドとの間の時間の長さとして定義される。
【0129】
図28Aは、電力密度の関数としての、スライドする時間を示す。氷で覆われた領域全体に亘る高電力密度の直接的で均一な印加は、氷の完全な溶融を必要とせず、かつ周囲への熱を失うことなく、氷から試料表面を迅速に解放する結果となる(除氷は非常に迅速であるため)。これは、著しいエネルギー節約につながる。
図28Bは、氷の表面を自由にするのに必要な最小エネルギーの存在を示す。この図はまた、約0.7m×1.4mのフルスケール標準車両フロントガラスにおける同等の除霜に必要な電圧及び電流を含む。
【0130】
例示的な金属-誘電体コーティングの投影された曇り除去性能を
図29(A~D)に示す。デバイス構造は、上述したものと同様である。ベンチマークされた完全対流COMSOL Multiphysicsモデルを使用して、時間の関数として霧で覆われた例示的なコーティングされたガラス表面の割合を
図29Aに示す。コーティングへの電力は、時間ゼロでオンにされる。
図29B~Dは、異なる時間(それぞれ、時間0、2秒、及び2.5秒)における曇り除去パターンの2次元マップを示す。
【0131】
(実施例7:水素化AlN層を有する金属-誘電体デバイスの熱安定性)
例示的な金属誘電体多層積層体の安定性を
図30(A~D)に示す。金属誘電体積層体はガラス上にある。また、温度は、反対側のガラス表面で測定される。光透過率は、3つの異なる位置(
図30Dの概略図に示されるように)で、異なる時間において測定される。最初は時間ゼロに、その後、一連の熱加熱及び冷却サイクルに続いて異なる時間に測定される。各熱サイクルは、10秒間電力をオンにし、続いて15分間のパワーオフ冷却期間を含む。典型的な最初の温度は室温であり、一方、熱周期の発熱部に続く最高温度は約100℃ある。
【0132】
(実施例8:AlN層を有する金属-誘電体デバイスのプラズモン吸収)
例示的な金属-誘電体多層積層体の断面SEM画像を
図31に示す。この画像は、後方散乱モードでは、白色粒子(520)として見られる銀(500)が、濃い灰色の層として見られる最上部の水素化AlN層(510)中に存在することを示す。銀ナノ粒子は、局在化表面プラズモン共鳴を生じる。
【0133】
例示的な金属-誘電体多層積層体の飛行時間二次イオン質量分析(ToF-SIMS)によって得られた深さプロファイルを
図32にプロットした。水平軸上のスパッタ時間は、積層体表面からの距離の代替(proxy)である。上部のラベルは、プロットの異なる領域を、上部の水素化AlN層、中間の銀層、下部の水素化AlN層、及びシリコン基板として識別する。このプロットは、最上部の水素化AlN層の内側に銀が存在することを示し、
図31に示すSEM画像における観察を裏付けている。
【0134】
例示的な金属-誘電体多層積層体のプラズモン吸収を
図33に示す。様々な銀層厚さを有する金属-誘電体コーティングがガラス基板の上に堆積される。光透過及び反射は、基材のコーティングされた側から測定され、吸収を決定するために使用される。紫色波長範囲(380~450nm)における明確な吸収ピークが顕著である。観察されたプラズモン吸収は、局在化表面プラズモン共鳴の兆候であり、誘電体層中に銀ナノ粒子が存在すると仮定すると、有効媒質理論の予測と一致する現象である。ピーク強度及びピーク波長の両方は、銀層の厚さが減少するにつれて減少し、プラズモン吸収波長の同調性を実証する。誘電体組成を変化させることによって(例えば、水素化レベルを変化させることによって)、また、
図19及び
図20に示すように、上部水素化金属窒化物層の誘電定数を変化させることによって、さらなる調整可能性を統合することができる。誘電率に対するプラズモン周波数依存性を維持する際に、誘電特性を変化させることは、プラズモンピークの共鳴波長をシフトさせることができ、これにより光学特性の変化を可能にする(例えば、異なる反射色の設計)。
【0135】
上述の特定の実施形態は、例として示されており、これらの実施形態は、様々な修正及び代替の形態が可能であり得ることを理解されたい。さらに、特許請求の範囲は、開示された特定の形態に限定されることを意図するものではなく、むしろ、本開示の精神及び範囲内にあるすべての修正形態、均等物、及び代替形態を包含することを意図するものであることを理解されたい。
【0136】
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