(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】静電容量測定装置、誘電率測定装置および誘電率の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R27/26 H
(21)【出願番号】P 2023563458
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2021043448
(87)【国際公開番号】W WO2023095303
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】平永 良臣
(72)【発明者】
【氏名】糸矢 祐喜
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4555661(US,A)
【文献】特開昭52-153481(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112540234(CN,A)
【文献】特開平1-145581(JP,A)
【文献】特開2011-53154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G01R 31/64
G01N 27/00
H01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブと、信号検出部と、差分検出部と、を有し、
前記プローブは、第1電極対および第2電極対に挟まれた誘電体を含む測定試料の前記第1電極対と前記第2電極対のそれぞれに接続可能とされていて、
前記信号検出部は、前記プローブと前記第1電極対とが接続することに生じる第1信号と、前記プローブと前記第2電極対とが接続することに生じる第2信号とを検出し、
前記差分検出部は、前記第1信号と前記第2信号とに基づいて、前記第1電極対および前記第1電極対に挟まれた誘電体で構成される第1キャパシタ構造の間の第1静電容量と前記第2電極対および前記第2電極対に挟まれた誘電体で構成される第2キャパシタ構造の間の第2静電容量との差分を算出する、静電容量測定装置。
【請求項2】
前記信号検出部がLC共振回路を含む静電容量センサーであって、第1信号が第1共振周波数であり、第2信号が第2共振周波数である、請求項1に記載の静電容量測定装置。
【請求項3】
静電容量測定部と、誘電率計算部と、を有し、
前記静電容量測定部は、請求項1または請求項2に記載の静電容量測定装置であり、
前記誘電率計算部は、前記静電容量測定部で測定された前記第1静電容量と前記第2静電容量との差分と、前記第1電極対および前記第2電極対の有効面積と、前記誘電体の厚さと、に基づいて前記誘電体の誘電率を求める、誘電率測定装置。
【請求項4】
第1電極対および第2電極対に挟まれた誘電体を含み、前記第1電極対は、前記誘電体を介して対向する2つの第1電極からなり、前記第2電極対は、前記誘電体を介して対向する2つの第2電極からなり、有効面積が前記第1電極対より小さい測定試料を用意する工程と、
前記第1電極対および前記第1電極対に挟まれた誘電体で構成される第1キャパシタ構造の第1静電容量と前記第2電極対および前記第2電極対に挟まれた誘電体で構成される第2キャパシタ構造の第2静電容量との差分を測定する工程と、
前記第1静電容量と前記第2静電容量との差分と、前記第1電極対および前記第2電極対の有効面積と、前記誘電体の厚さと、に基づいて前記誘電体の誘電率を求める工程と、を含む、誘電率の測定方法。
【請求項5】
前記第1電極対の有効面積に対する前記第2電極対の有効面積の比率が99%以下である、請求項4に記載の誘電率の測定方法。
【請求項6】
前記第1電極対の有効面積が1μm
2以下である、請求項4または5に記載の誘電率の測定方法。
【請求項7】
前記2つの第2電極のうちの少なくとも1つと、前記2つの第1電極のうちの1つとの距離が50μm以下である、請求項4から6のいずれか1項に記載の誘電率の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量測定装置、誘電率測定装置および誘電率の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体は、コンデンサの材料、絶縁材料、圧電材料、集電材料として、各種の電子機器に利用されている。誘電体の誘電率を測定する方法として、誘電率測定対象の誘電体の表面に、誘電体を介して2つの電極が対向する一対の電極対を設けた構成の測定試料を作製し、その測定試料の電極対およびその電極対に挟まれた誘電体を含むキャパシタ構造の静電容量と、電極対の有効面積と、誘電体の厚さとに基づいて誘電率を計算する方法が知られている。
【0003】
キャパシタ構造の誘電率を測定する方法として、インピーダンスアナライザを用いる方法が知られている。インピーダンスアナライザは、通常、直径が100μm以上の大きさの電極対を含むキャパシタ構造の誘電率の測定に利用されている。一方、微小な(例えば100μm以下の)領域の誘電率およびその面内分布を測定する方法としては、走査型プローブ顕微鏡を用いる方法が知られている。走査型プローブ顕微鏡としては、SNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡)、SCM(走査型静電容量顕微鏡)、sMIM(走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡)、SMM(走査型マイクロ波顕微鏡)などが用いられる。さらに、微小なキャパシタ構造の静電容量を測定する方法として、上記走査型プローブ顕微鏡を用いる方法も稀に用いられることがある。
【0004】
SNDMの最も一般的な構成の一つとして、探針をカンチレバーの先端に固定した構成を含むものが知られている。また、SNDMを誘電率の定量測定に用いる場合、カンチレバーと測定試料の表面との間に作用する寄生容量(浮遊容量)の影響を排除するために、探針と測定試料とを相対的に任意の微小振幅で励振させ、その励振振幅による静電容量の差分である微分容量を計測して、励振状態での探針と測定試料との相対的な接近に際して、微分容量の距離依存性を求め、これ基づいて測定試料の誘電率を求めることが検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の電子機器の小型化により、電子機器に用いられる誘電体が微細化する傾向にある。このため、微細なキャパシタ構造の誘電率を精度よく測定することができる技術の開発が望まれている。また、微細なキャパシタ構造ではない場合でも、誘電体によってはリークパスと呼ばれる局所的に導電率が高い領域の存在によって、通常の電極対(例えば直径100μm以上)から構成されるキャパシタ構造のインピーダンス測定を通じて誘電率を決定することが困難となることがある。このようなリークパスを有する誘電体に対しても誘電率の測定を可能とする一つの方法として、電極サイズを極端に小さく(例えば、1μm以下)し、リークパスの存在位置を避けながら静電容量計測を行なう方法も考えられる。しかしながら、キャパシタ構造が微細になると、寄生容量の影響が相対的に大きくなり、誘電体の静電容量を正確に測定することが難しくなるため、誘電率を精度よく測定することが困難となる。例えば、直径が1μm以下のキャパシタ構造の場合、典型的な静電容量は0.01pFよりもはるかに小さくなり、寄生容量の値の測定ごとの変動の方が、キャパシタ構造の静電容量よりも大きくなるため、静電容量を測定することが極めて困難である。さらに、プローブ顕微鏡では、探針先端の摩耗や探針先端形状の個体差によって寄生容量が変動するため、精度よく誘電率を決定することを困難にする大きな要因となる。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、微小領域の誘電率を精度よく測定することができる誘電率測定装置および誘電率の測定方法と、その誘電率測定装置および誘電率の測定方法に用いることができる静電容量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、測定試料として、誘電率測定対象の誘電体の表面に有効面積が異なる2つの電極対が備えられた構造体を用い、その2つの電極対のそれぞれとそれに挟まれた誘電体とを含むキャパシタ構造の静電容量の差分を精度よく測定することが可能となることを見出した。そしてその静電容量の差分と、その2つの電極対のそれぞれの有効面積と、誘電体の厚さとを用いて誘電率を算出することによって、精度の高い誘電率を得ることができることを見出して、本発明を完成させた。
したがって、本発明は、下記の態様を有する。
【0009】
[1]プローブと、信号検出部と、差分検出部と、を有し、前記プローブは、第1電極対および第2電極対に挟まれた誘電体を含む測定試料の前記第1電極対と前記第2電極対のそれぞれに接続可能とされていて、前記信号検出部は、前記プローブと前記第1電極対とが接続することに生じる第1信号と、前記プローブと前記第2電極対とが接続することに生じる第2信号 とを検出し、前記差分検出部は、前記第1信号と前記第2信号とに基づいて、前記第1電極対および前記第1電極対に挟まれた誘電体で構成される第1キャパシタ構造の第1静電容量と前記第2電極対および前記第2電極対に挟まれた誘電体で構成される第2キャパシタ構造の第2静電容量との差分を算出する、静電容量測定装置。
[2]前記信号検出部がLC共振回路を含む静電容量センサーであって、第1信号が第1共振周波数であり、第2信号が第2共振周波数である、前記[1]に記載の静電容量測定装置。
【0010】
[3]静電容量測定部と、誘電率計算部と、を有し、前記静電容量測定部は、前記[1]または[2]に記載の静電容量測定装置であり、前記誘電率計算部は、前記静電容量測定部で測定された前記第1静電容量と前記第2静電容量との差分と、前記第1電極対および前記第2電極対の有効面積と、前記誘電体の厚さと、に基づいて前記誘電体の誘電率を求める、誘電率測定装置。
【0011】
[4]第1電極対および第2電極対に挟まれた誘電体を含み、前記第1電極対は、前記誘電体を介して対向する2つの第1電極からなり、前記第2電極対は、前記誘電体を介して対向する2つの第2電極からなり、有効面積が前記第1電極対より小さい測定試料を用意する工程と、前記第1電極対および前記第1電極対に挟まれた誘電体で構成される第1キャパシタ構造の第1静電容量と前記第2電極対および前記第2電極対に挟まれた誘電体で構成される第2キャパシタ構造の第2静電容量との差分を測定する工程と、前記第1静電容量と前記第2静電容量との差分と、前記第1電極対および前記第2電極対の有効面積と、前記誘電体の厚さと、に基づいて前記誘電体の誘電率を求める工程と、を含む、誘電率の測定方法。
[5]前記第1電極対の有効面積に対する前記第2電極対の有効面積の比率が99%以下である、前記[4]に記載の誘電率の測定方法。
[6]前記第1電極対の有効面積が1μm2以下である、前記[4]または[5]に記載の誘電率の測定方法。
[7]前記2つの第2電極のうちの少なくとも1つと、前記2つの第1電極のうちの1つとの距離が50μm以下である、前記[4]から[6]に記載の誘電率の測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微小領域の誘電率を精度よく測定することができる誘電率測定装置および誘電率の測定方法と、その誘電率測定装置および誘電率の測定方法に用いることができる静電容量測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誘電率の測定方法のフロー図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る誘電率の測定方法で用いることができる測定試料の一例を示す模式図であって、(a)は平面図であり、(b)は断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る誘電率測定装置の構成を示す模式図である。
【
図4】静電容量と共振周波数との関係を示すグラフ(検量線)である。
【
図5】誘電体の誘電率と静電容量との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例1で作成したLiTaO
3膜の静電容量と測定した共振周波数との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1において有限要素法を用いて作成したPZT膜の比誘電率と静電容量との関係を示す関係線である。
【
図8】実施例1において作成したPZT膜の比誘電率と静電容量の差分との関係を示す関係線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る誘電率の測定方法のフロー図である。
図1に示す誘電率の測定方法は、用意工程S1と、計測工程S2と、計算工程S3と、を有する。
【0016】
(用意工程S1)
用意工程S1は、誘電体の誘電率を測定するための測定試料を用意する工程である。
【0017】
図2は、測定試料の一例を示す模式図であり、(a)は平面図であり、(b)は断面図である。
図2に示す測定試料10は、誘電体11と、誘電体11の表面に備えられた一対の第1電極対12および一対の第2電極対13を有する。誘電体11は、誘電率測定対象である。測定試料10は、第1電極対12および第1電極対12に挟まれた誘電体11で構成される第1キャパシタ構造と第2電極対13および第2電極対13に挟まれた誘電体11で構成される第2キャパシタ構造を有する。
【0018】
第1電極対12は、誘電体11を介して対向する2つの第1電極(上側第1電極12a、下側第1電極12b)からなる。第2電極対13は、誘電体11を介して対向する2つの第2電極(上側第2電極13a、下側第2電極13b)からなる。誘電体11の下側に配置された下側第1電極12bと下側第2電極13bとは一体となった共通電極14とされている。誘電体11の上側に配置された上側第1電極12aと上側第2電極13aの形状は、測定試料10においては円形状とされているが、これに限定されるものではない。上側第1電極12aと上側第2電極13aの形状は、例えば、三角形や四角形などの多角形、楕円形であってもよい。
【0019】
第2電極対13は、有効面積が第1電極対12より小さい。有効面積は、第1電極対12および第2電極対13のそれぞれの2つの電極が互いに対向している部分の面積である。測定試料10において、第1電極対12の有効面積は上側第1電極12aの面積であり、第2電極対13の有効面積は上側第2電極13aの面積である。第1電極対12の有効面積に対する第2電極対13の有効面積の比率(第2電極対13の有効面積/第1電極対12の有効面積×100)は特に制限はないが、例えば、99%以下でもよい。上記の第2電極対13の有効面積の比率は90%以下でもよいし、10%以下でもよい。また、上記の第2電極対13の有効面積の比率は、1%以上でもよいし、50%以上でもよい。第1電極対12の有効面積は特に制限はないが、例えば、1μm2以下でもよい。第1電極対12の有効面積は、0.1μm2以下でもよく、0.001μm2以下でもよい。また、第1電極対12の有効面積は、0.00001μm2以上でもよく、0.01μm2以上でもよい。
【0020】
第2電極対13の上側第2電極13aは、第1電極対12の上側第1電極12aの近傍に配置されている。上側第1電極12aと上側第2電極13aとの距離Lは特に制限はないが、例えば、50μm以下でもよい。距離Lは、1μm以下でもよいし、第1電極対12の有効面積が0.01μm2以下であれば、0.1μm以下でもよい。距離Lは、0.01μm以上でもよいし、第2電極対13の有効面積が1μm2以上であれば、1μm以上でもよい。
【0021】
第1電極対12および第2電極対13の材料としては、例えば、金、白金、銀、クロムなどの金属を用いることができる。第1電極対12および第2電極対13の形成方法としては、例えば、蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、共通電極14の材料としては、上記の金属の他に、導電性無機物を用いることができる。導電性無機物の例としては、SrRuO3(ルテニウム酸ストロンチウム)、ITO(酸化インジウムスズ)、炭素材料などを挙げることができる。誘電体11の厚さが十分に厚い(例えば、上側第1電極12aの直径の10倍以上)場合、共通電極14は、金属や導電性無機物を含む導電性ペーストを塗布して乾燥する方法や導電性テープを張り付ける方法などの方法を用いてもよい。
【0022】
(計測工程S2)
計測工程S2は、上記の用意工程S1で用意した測定試料10を用いて、第1電極対12および第1電極対12に挟まれた誘電体11で構成される第1キャパシタ構造の第1静電容量C1と、第2電極対13および第2電極対13に挟まれた誘電体11で構成される第2キャパシタ構造の第2静電容量C2との差分ΔC(=C1-C2)を測定する。
【0023】
(計算工程S3)
計算工程S3は、上記の計測工程S2で得られた第1静電容量C1と第2静電容量C2との差分ΔCと、第1電極対12および第2電極対13の有効面積と、誘電体11の厚さと、に基づいて誘電体11の誘電率εを求める。
【0024】
計測工程S2と計算工程S3は、例えば、
図3に示す誘電率測定装置を用いて実施することができる。
図3に示す誘電率測定装置20は、静電容量測定部21と、誘電率計算部31とを備える。
【0025】
静電容量測定部21は、プローブ22と、信号検出部25と、差分検出部26とを含む。プローブ22は、カンチレバー23と探針24とを有する。カンチレバー23は、一方の端部を固定端とし、他方の端部を自由端とした構造体である。探針24は、カンチレバー23の自由端側の端部に配置されている。探針24は、上側第1電極12aと上側第2電極13aのそれぞれに接続可能とされている。探針24を含む静電容量測定部21および測定試料10の一方または両方は、位置決め装置(不図示)の上に配置されていて、位置決め装置によって、静電容量測定部21と測定試料10の相対的な位置関係を変えることより、探針24を測定試料10における任意の電極対に接続することができるようにされていてもよい。探針24が上側第1電極12aと接続することによって、プローブ22と第1電極対12とが接続し。探針24が上側第2電極13aと接続することによって、プローブ22と第2電極対13とが接続する。
【0026】
信号検出部25は、LC共振回路を含む静電容量センサーとされていてもよい。信号検出部25は、プローブ22と第1電極対12とが接続することによって生じる第1共振周波数f1と、プローブ22と第2電極対13とが接続することによって生じる第2共振周波数f2(第2信号)とを検出する。第1共振周波数f1は下記の式(1)で表され、第2共振周波数f2は下記の式(2)で表される。
【0027】
【0028】
上記の式(1)および(2)において、Lは、信号検出部25内のLC共振回路のインダクタンスである。C0は、信号検出部25内のLC共振回路の静電容量である。Cstは、寄生容量である。寄生容量は、測定試料10と接続する静電容量測定部21(プローブ22)と測定試料10の共通電極14との間の静電容量、および静電容量測定部21(プローブ22)と誘電率測定装置20(測定試料10、静電容量測定部21自身、および、誘電率測定装置20に組み込まれている全ての装置類を含む)の筐体との間の静電容量の合成容量である。C1は、第1静電容量である。C2は、第2静電容量である。信号検出部25としては、例えば、SNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡)、SCM(走査型静電容量顕微鏡)、SMM(走査型マイクロ波顕微鏡)で利用されている信号検出装置を用いることができる。なお、信号検出部25で使用する共振周波数の周波数帯は、特に制限はなく、例えば、マイクロ波帯(UHF帯やミリ波帯を含む)、VHF帯およびHF帯とすることができる。
【0029】
差分検出部26は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成される。差分検出部26は、例えば、パーソナルコンピューター、スマートフォン、シングルボードコンピューター等の情報処理装置を用いて構成される。差分検出部26は、プロセッサーがプログラムを実行することによって機能してもよい。差分検出部26の機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0030】
差分検出部26は、信号検出部25で得られた第1共振周波数f
1と第2共振周波数f
2とを用いて、第1静電容量C
1と第2静電容量C
2との差分ΔCを検出する。なお、周波数の測定については、差分検出部26の前段にFM復調器(周波数―電圧変換器)を配して行ってもよいし、あるいは、信号検出部25の出力信号をデジタル信号処理して周波数を求める方法で行ってもよい。差分ΔCは、例えば、
図4に示すように、予め、静電容量合計値(C
0+C
st+C
t、C
tは誘電体の静電容量)と、共振周波数との関係を示す関係線を作成し、この関係線を用いて第1共振周波数f
1に対応する静電容量合計値と、第2共振周波数f
2に対する静電容量合計値の差を読み取ることによって得ることができる。なお、本実施形態の誘電率の測定方法においては、差分ΔCを用いて、誘電率を算出するので、C
stを正確に求める必要はない。このため、
図4のグラフの作成にあたっては、C
0およびC
stが一定とみなせる場合には、横軸をC
0+C
st+C
tとする代わりにC
tのみとしても差し支えない。また、同様の理由で、縦軸は共振周波数そのものとする代わりに、基準周波数(例えば、前述のFM復調器における同調周波数など)を差し引いた周波数をとってもよい。
【0031】
静電容量合計値と、共振周波数との関係を示す関係線は、例えば、次のようにして得ることができる。
まず、誘電率が既知の誘電体を用いて誘電体膜を作製する。得られた誘電体膜に有効面積が異なる電極対を複数形成する。各電極対の静電容量を、各電極対の有効面積と、誘電体膜の比誘電率と厚さとを用いて算出する。電極対の静電容量C
tは、下記の式(3)により算出できる。
C
t=ε
rε
0S/d・・・(3)
式(3)において、ε
rは、誘電体膜の比誘電率であり、ε
0は、真空の誘電率であり、Sは、電極対の有効面積であり、dは、誘電体膜の厚さである。
なお、端効果によって、各電極対の静電容量を上記の式(3)によって精度良く算出することが困難な場合には、有限要素法などの平行平板コンデンサの静電容量解析法として利用されている各種の方法を用いて、静電容量を算出してもよい。次いで、
図3に示す誘電率測定装置20を用いて、その複数の電極対のそれぞれを、プローブ22の探針24を介して信号検出部25と接続したときの共振周波数を測定する。そして、算出した各電極対の静電容量と、測定した共振周波数とをプロットする。(この場合、C
0およびC
stの測定は行なわないので、グラフの横軸にはC
tをとることになる。)
【0032】
誘電率計算部31は、CPU等のプロセッサーとメモリーとを用いて構成される。誘電率計算部31は、例えば、パーソナルコンピューター、スマートフォン、シングルボードコンピューター等の情報処理装置を用いて構成される。誘電率計算部31は、プロセッサーがプログラムを実行することによって機能してもよい。誘電率計算部31の機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピューター読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM、半導体記憶装置(例えばSSD)等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスクや半導体記憶装置等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。差分検出部26と誘電率計算部31とは1つの装置として構成されてもよいし、それぞれ異なる装置として構成されてもよい。
【0033】
誘電率計算部31は、差分検出部26で得られた第1静電容量C
1と第2静電容量C
2との差分ΔCと、第1電極対12および第2電極対13の有効面積と、誘電体11の厚さと、に基づいて誘電体11の誘電率εを求める。誘電率εは、例えば、
図5に示す誘電率εと静電容量Cとの関係を示す関係線を用いて求めることができる。すなわち、第1電極対12と同じ有効面積を有し、かつ誘電体11と同じ厚さを有する誘電率εの誘電体を含むキャパシタ構造の静電容量Cと誘電率εとの関係を示す関係線φ
1と、第2電極対13と同じ有効面積を有し、かつ誘電体11と同じ厚さを有する誘電体を含むキャパシタ構造の静電容量Cと誘電率εとの関係を示す関係線φ
2を作成し、関係線φ
1と関係線φ
2との差が第1静電容量C
1と第2静電容量C
2との差分ΔCと等しくなるときの誘電率を、誘電体の誘電率とすることができる。なお、端効果によって、各電極対の静電容量を上記の式(3)によって精度良く算出することが困難な場合には、有限要素法などの平行平板コンデンサの静電容量解析法として利用されている各種の方法を用いて、静電容量を算出してもよい。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法では、測定試料10として、誘電体11の表面に有効面積が異なる2つの第1電極対12と第2電極対13とが備えられた構造体を用い、その測定試料10の第1電極対12の静電容量C1と第2電極対13の静電容量C2との差分ΔCを利用して誘電率を計算する。これにより、測定試料10と接続する静電容量測定部21と測定試料10の共通電極14との間、および静電容量測定部21と誘電率測定装置20の筐体との間で発生する寄生容量の影響を排除できる。
このため、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法によれば、微小領域の誘電率を精度よく測定することができる。よって、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法は、電流のリークが大きい(リークパスが多数存在する)薄膜状の誘電体やセラミックス製の誘電体の誘電率の測定に有利に利用することができる。
【0035】
また、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法においては、第1静電容量C1と第2静電容量C2との差分ΔCを、第1共振周波数f1と第2共振周波数f2とに基づいて算出しているので、寄生容量の影響を確実に排除できる。
【0036】
また、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法において、第1電極対12の有効面積に対する第2電極対13の有効面積の比率が99%以下である場合は、第1電極対12の静電容量C1と第2電極対13の静電容量C2との差分ΔCが明確となるので、微小領域の誘電率をより精度よく測定することができる。
【0037】
また、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法においては、第1電極対12の有効面積が5μm2以下の微小領域の誘電率を精度よく測定することができる。このため、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法は、従来の同軸プローブ法では計測が不向きな形状的特徴(例えば厚さが1cm以下、表面が平坦ではない、内部に気泡を含む、など)を有する誘電体サンプルの誘電率の測定に適用することができる。
【0038】
また、本実施形態の誘電率測定装置20および誘電率の測定方法において、上側第1電極12aと上側第2電極13aとの距離Lが5μm以下である場合は、第1電極対12の寄生容量と第2電極対13の寄生容量が近い値となり、かつ2つの電極対の測定に伴うプローブ22と測定試料10の相対的な位置関係の変化に起因する寄生容量の変化を小さな値にすることができるので、寄生容量の影響をより確実に排除できる。
【0039】
さらに、本実施形態の誘電率測定装置20の静電容量測定部21は、静電容量測定装置として利用することができる。この静電容量測定装置を用いることによって、誘電体11の表面に備えられた第1電極対12および第1電極対12に挟まれた誘電体11で構成される第1キャパシタ構造の第1静電容量C1と、第2電極対13および第2電極対13に挟まれた誘電体11で構成される第2キャパシタ構造の第2静電容量C2との差分ΔCを精度よく測定することができる。
【0040】
なお、本実施形態では、下側第1電極12bおよび下側第2電極13bは共通電極14とされているが、下側第1電極12bおよび下側第2電極13bの構成はこれに限定されるものではない。下側第1電極12bは上側第1電極12aと対向し、下側第2電極13bは上側第2電極13aと対向していれば、両者は分離していてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、信号検出部25がLC共振回路であって、プローブ22と第1電極対12とが接続することに生じる第1信号が第1共振周波数f1とされ、プローブ22と第2電極対13とが接続することに生じる第2信号が第2共振周波数f2とされているが、これに限定されるものではない。第1信号は第1静電容量C1に基づく信号であればよく、第2信号は第2静電容量C2に基づく信号であればよい。共振周波数測定によらない信号取得としては、例えば、インピーダンスアナライザやsMIM(走査型マイクロ波インピーダンス顕微鏡)を利用することができる。
【0042】
また、本実施形態では、誘電体11の誘電率を、第1電極対12と同じ有効面積を有する誘電体の誘電率εと静電容量Cとの関係を示す関係線φ1と、第2電極対13と同じ有効面積を有する誘電体の誘電率εと静電容量Cとの関係を示す関係線φ2を用いて求めたが、誘電体11の誘電率の求め方はこれに限定さとれるものではない。例えば、誘電率εと差分ΔCとの関係線を作成し、この関係線を用いて、第1静電容量C1と間の第2静電容量C2との差分ΔCに対応する比誘電率を読み取ってもよい。
【0043】
また、本実施形態で用いた測定試料10は、第1電極対12と第2電極対13とが1個ずつ配置されているが、電極対の個数はこれに限定されるものではない。例えば、1個の第1電極対12の周囲に複数個の第2電極対13を配置してもよいし、第2電極対13の周囲に複数個の第1電極対12を配置してもよいし、1個の第1電極対12と1個の第2電極対13とからなる電極対の組を複数組配置してもよい。複数の電極対を配置することによって、誘電体11の誘電率が均一とみなせない場合においては、このような複数の電極対を用いた計測結果に対し、その平均値を算出することによって、誘電体11の平均的な誘電率に対して、より信頼度の高い測定結果を得ることができる。また、このような複数の電極対に対する測定を通じて、誘電体11の誘電率の微視的な面内ばらつきを定量的に評価することができる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
(1)静電容量と共振周波数との関係線の作成
厚さ68nmのLiTaO
3膜(タンタル酸リチウム膜、比誘電率ε
r:43.4)を用意した。このLiTaO
3膜の下側の表面全体に共通クロム電極を形成し、LiTaO
3膜の上側の表面に直径が156nm、289nm、362nm、474nm、589nmの円形型の白金電極を形成した。こうして有効面積が異なる5つの電極対を備えたLiTaO
3膜測定試料を作製した。LiTaO
3膜の比誘電率と電極対の有効面積から5つの各電極対の静電容量を算出した。また、
図3に示す誘電率測定装置20を用いて、5つの各電極対について、プローブ22の探針24を介して信号検出部25と接続したときの共振周波数を測定した。算出した静電容量と測定した共振周波数シフト(ある基準となる周波数からの周波数差。この実施例では、基準周波数をFM復調器の同調周波数とした。)との関係を
図6に示す。
図6に示すグラフから、本実施例で用いた誘電率測定装置20の信号検出部25の共振周波数/静電容量(=プローブ感度係数)は338.8Hz/aFであることがわかる。
【0045】
(2)測定試料の作製
誘電率測定対象の誘電体として、厚さ93nmのPZT膜(チタン酸ジルコン酸鉛膜)を用意した。PZT膜の下側の表面全体に共通SrRuO3(ルテニウム酸ストロンチウム)(導電性酸化物)を形成し、PZT膜の上側の表面に直径が282nm(面積:0.062μm2)と168nm(面積:0.022μm2)の円形状の白金電極を775nmの距離を離して形成した。こうして有効面積0.062μm2の第1電極対12と有効面積0.022μm2の第2電極対13を備えたPZT膜測定試料を作製した。
【0046】
次いで、
図3に示す誘電率測定装置20を用いて、PZT膜測定試料の第1電極対と第2電極対を、プローブ22の探針24を介して信号検出部25と接続したときの共振周波数を測定した。その結果、第1共振周波数f
1は1009470.6kHzで、第2共振周波数f
2は1009764.8kHzであり、その差Δf(=f
2-f
1)は、294.2kHzであった。得られたΔfと、上記(1)で作成した静電容量と共振周波数との関係線から、第1静電容量C
1と第2静電容量C
2との差分ΔCを計算した結果、ΔCは868.3aFであった。
【0047】
次いで、有効面積が0.062μm
2の誘電体の比誘電率と静電容量との関係を示す関係線φ
1と、有効面積が0.022μm
2の誘電体の比誘電率と静電容量との関係を示す関係線φ
2を、有限要素法を用いて作成した。その結果を
図7に示す。
【0048】
得られた
図7の関係線φ
1の静電容量と関係線φ
2の静電容量との差分ΔCを算出して、横軸が比誘電率で、縦軸が差分ΔCの関係線を作成した。その結果を
図8に示す。そして、この関係線を用いて上記で得られた差分ΔCの測定値(868.3aF)に対応する比誘電率を読み取った結果、比誘電率は、166であった。
【0049】
[比較例1]
PZT膜の上下面に直径1mm(面積:785000μm2)の円形状の白金電極を形成して、インピーダンスアナライザを用いて比誘電率を測定した。その結果、比誘電率は172であった。
【0050】
実施例1で得られた比誘電率(166)と比較例1で得られた比誘電率(172)との差は、3.6%(=(172-166)/166×100)であり、電極直径がナノオーダの実施例1と、電極直径が1mmのインピーダンスアナライザを用いた比較例1とで得られた比誘電率に大きな違いは見られなかった。この結果から、本発明の誘電率の測定方法を用いることによって、電極直径がナノオーダの微小領域の誘電率を高い精度で測定することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本実施形態の誘電率測定装置および誘電率の測定方法を用いることによって、新規な誘電体の開発や評価を迅速に行なうことができる。
【符号の説明】
【0052】
10 測定試料
11 誘電体
12 第1電極対
12a 上側第1電極
12b 下側第1電極
13 第2電極対
13a 上側第2電極
13b 下側第2電極
14 共通電極
20 誘電率測定装置
21 静電容量測定部
22 プローブ
23 カンチレバー
24 探針
25 信号検出部
26 差分検出部
31 誘電率計算部