(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】アルミナ水分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/30 20220101AFI20241028BHJP
【FI】
C01F7/30
(21)【出願番号】P 2024072363
(22)【出願日】2024-04-26
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399127625
【氏名又は名称】浅田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】筒井 義也
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-283335(JP,A)
【文献】特開2000-109315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した水溶液を90~120℃の温度で5~36時間の間、加熱濃縮するアルミナ水分散液の製造方法であり、
製造時に前記無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した時の水溶液の体積をCとし、アルミナ水分散液を90~120℃で加熱濃縮した時の体積をDとしたときに、D/Cの値を0.1~0.8に制御し、
前記無定形水酸化アルミニウムは、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかまたは両方から選ばれるアルミニウム無機酸塩の水溶液を、アンモニア水でpH5~8として、無定形水酸化アルミニウムの沈殿物を生成させる工程と、
生成した無定形水酸化アルミニウムを水で洗浄する工程と、
前記無定形水酸化アルミニウムを水と分離する工程と、
前記無定形水酸化アルミニウムを水分率が60~80質量%になるように乾燥する工程、により得られ、
前記水溶性脂肪族アミノ酸は、無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対して水溶性脂肪族アミノ酸を1.5~5モルの量で添加し、
かつ、得られたアルミナ水分散液が、
前記アルミナ水分散液が、塩素、臭素またはヨウ素の含有量がそれぞれ0~0.02質量%であり、ナトリウムまたはカリウム含有量がそれぞれ0~0.05質量%であり、更に
下記の特徴:
(a)分散粒子の平均粒子径が5~500nmの範囲であり、
(b)アルミナ含有水分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナ粒子がベーマイト、擬ベーマイトの内、いずれか1つ以上で構成され、
(c)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(d)アルミナ水分散液が水溶性脂肪族アミノ酸を含み、
(e)アルミナ水分散液に含まれるアルミニウムのアルミナ(Al
2O
3)換算濃度が0.3~11.5質量%の範囲であり、および
(f)アルミナ水分散液に塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間が24時間以上であること
、を有することを特徴とする、アルミナ水分散液の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性脂肪族アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはそれらの混合物である
請求項1記載のアルミナ水分散液の製造方法。
【請求項3】
前記アルミナ水分散液が、B型粘度計による[回転数6rpmでの粘度]/[回転数60rpmでの粘度]であらわされるチクソトロピックインデックス(TI値)2~10を有する請求項1または2に記載のアルミナ水分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ水分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナなどの固体微粒子を水などの液体に分散したものは、多くの用途に使用されている。アルミナの微粒子を水に分散したアルミナ水分散液は、使用の用途が広いが、水系分散液の増粘、アルミナの凝集及び沈降、分散後におけるゲル化等に起因する不具合など多くの解決しなければならない課題がある。また、それらの製造方法も、アルミニウムの種々の塩を酸やアルカリで処理して製造されることが多いが、残滓成分の存在を少なくする必要がある。
【0003】
特開昭53-112299号公報(特許文献1)には、水溶性塩基性アルミニウム塩をアルカリで中和して得られたアルミナゲルを、1価の有機酸の存在下で、水熱合成してアルミナゾルを得る方法が記載されている。また、特開昭57-111237号公報(特許文献2)には、水可溶性アルミニウム塩と炭酸または炭酸塩とを反応させて得たアルミナ水和物を水熱処理した後、該処理物と1価の有機酸とを混合して乾燥するかまたは該処理物を乾燥した後、1価の有機酸と混合することからなるアルミナゾルの製造方法が提案されている。上記いずれの製造方法でも、水熱処理が必要であり、水熱処理は120℃を超える温度で高圧をかける必要があるので、専用の耐圧の反応釜が必要になり、生産性がよくない。
【0004】
特許第4502133号公報(特許文献3)には、(A):5~35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素 を添加することにより、10.5~11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程 、(B):(A)工程で得られた当該反応混合物を110~250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び (C):(B)工程で得られた当該水性懸濁液を、限外濾過法にて水と酸とを添加して 脱塩処理することにより、3~7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程を含む酸性アルミナゾルの製造方法が開示されている。また、特開昭59-223223号公報(特許文献4)には、アルミン酸アルカリ金属塩水溶液と一般式R(OH)m(COOH)n…(I)、R(OH)m(PO2H2)n…(II)(式中、m及びnは1以上の数を示し、Rは炭素数1~10の飽和又は不飽和の脂肪族基を示し、酸基1個当たりの分子量が200以下のであるものとする。)で表される有機ヒドロキシル酸の水溶液を中和反応せしめることを特徴とするアルミナゾルの製造方法が提案されている。特許文献3および4の製造方法のいずれにおいても、アルミン酸アルカリ金属塩(例えばアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム)を使用する為、合成後のアルミナゾル内にアルカリ金属が多量に残り、セラミックや耐火物用途に使用する際に焼結温度の低下や焼結体に異常な結晶成長を引き起こすため、焼結体に欠陥を発生させる可能性がある。また、特許文献3では、水熱処理温度が実施例では140℃を超えてかつ高圧であるので、特許文献1および2と同様、専用の耐圧の反応釜が必要になり、生産性がよくない。
【0005】
高い温度と高圧を使用しないアルミナ水分散液の製造方法として、特開2000-109315号公報(特許文献5)には、δ―アルミナを窒素含有モノカルボン酸と混合して、超音波分散することによりアルミナ水分散液を製造することが記載されている。特許文献5に使用されている窒素含有モノカルボン酸には、アミノ酸が含まれていて、アミノ酸とアルミナを含む水分散液の記載も存在する。しかし、特許文献5の技術では、アミノ酸を単独で使用するのではなく、アミノ酸以外に他の酸成分(具体的には、ニコチン酸、乳酸、酢酸)やアルコール成分も含まれていて、それらによりアルミナ粒子の保存安定性を提供している(特許文献5実施例等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭53-112299号公報
【文献】特開昭57-111237号公報
【文献】特許第4502133号公報
【文献】特開昭59-223223号公報
【文献】特開2000-109315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性の高いアルミナ水分散液を水溶性脂肪族アミノ酸の保護安定性のみを利用して形成し、耐火物、セラミック用途に使用する為、アルカリ金属分やハロゲン元素の含有を最小化したアルミナ水分散液の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下の態様を提供する:
[1]
無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した水溶液を90~120℃の温度で5~36時間の間、加熱濃縮するアルミナ水分散液の製造方法であり、
製造時に前記無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した時の水溶液の体積をCとし、アルミナ水分散液を90~120℃で加熱濃縮した時の体積をDとしたときに、D/Cの値を0.1~0.8に制御し、
かつ、得られたアルミナ水分散液が、下記の特徴:
(a)分散粒子の平均粒子径が5~500nmの範囲であり、
(b)アルミナ含有水分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナ粒子がベーマイト、擬ベーマイトの内、いずれか1つ以上で構成され、
(c)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(d)アルミナ水分散液が水溶性脂肪族アミノ酸を含み、
(e)アルミナ水分散液に含まれるアルミニウムのアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.3~11.5質量%の範囲であり、および
(f)アルミナ水分散液に塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間が24時間以上であることを特徴とする、アルミナ水分散液の製造方法。
[2]
前記水溶性脂肪族アミノ酸は、無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対して水溶性脂肪族アミノ酸を1.5~5モルの量で添加する[1]記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[3]
前記水溶性脂肪族アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはそれらの混合物である[1]または[2]記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[4]
前記アルミナ水分散液が、B型粘度計による[回転数6rpmでの粘度]/[回転数60rpmでの粘度]であらわされるチクソトロピックインデックス(TI値)2~10を有する[1]または[2]に記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[5]
前記アルミナ水分散液が、塩素、臭素またはヨウ素の含有量がそれぞれ0~0.02質量%であり、ナトリウムまたはカリウム含有量がそれぞれ0~0.05質量%である[1]または[2]に記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[6]
前記無定形水酸化アルミニウムは、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかまたは両方から選ばれるアルミニウム無機酸塩の水溶液を、アンモニア水でpH5~8として、無定形水酸化アルミニウムの沈殿物を生成させる工程と、
生成した無定形水酸化アルミニウムを水で洗浄する工程と、
前記無定形水酸化アルミニウムを水と分離する工程と、
前記無定形水酸化アルミニウムを水分率が60~80質量%になるように乾燥する工程、により得られる[1]または[2]記載のアルミナ水分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルミナ水分散液は、水溶性脂肪族アミノ酸を含有する。アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を持つため、水中では双生イオンとなる。そのためアルミナ水分散液中のアルミナが急激に凝集やゲル化を起こさないための保護基となる。
【0010】
一般にアルミナの等電点(ゼータ電位が0になるpH)はpH=約9とされており、一般の酸性アルミナゾルはpHが9付近になると急速にアルミナ粒子の凝集やアルミナ水分散液の増粘が発生する。しかし、本発明のアルミナ水分散液は、水溶性脂肪族アミノ酸を使用するため、アンモニア等の塩基を用いてpH5.4~10に変化させても、急激なpHの変化に伴う増粘によるゲル化等を防止し、アルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間を一般的な保護剤と異なり、24時間以上を確保することが可能となり、使用の範囲が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られたアルミナ水分散液の乾燥物の電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1で得られたアルミナ水分散液の乾燥物のX線回折画像である。
【
図3】実施例1で使用したアルミナ水分散液の乾燥により結晶化したグリシンのみのX線回折画像である。
【
図4】実施例1で得られたアルミナ水分散液の乾燥物を700℃で2時間焼成した粉体のX線回折画像である。
【
図5】実施例1で得られたアルミナ水分散液の動的光散乱法により求めた粒度分布を個数基準で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲において種々の変更が可能である。
なお本発明において数値範囲における「数値1~数値2」という表記は数値1を下限値とし、数値2を上限値とする。両端の数値1及び数値2を含む範囲を意味し、「数値1以上、数値2以下」と同義である。
【0013】
本発明は、アルミナを分散粒子として含有するアルミナ水分散液の製造方法を提供する。本発明のアルミナ水分散液は、無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した水溶液を90~120℃の温度で5~36時間の間、加熱濃縮するにより得られる。その際に、無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した時の水溶液の体積をCとし、アルミナ水分散液を90~120℃で加熱濃縮した時の体積をDとしたときに、D/Cの値が0.1~0.8に制御される。更に、得られたアルミナ水分散液は、下記の特徴:
(a)分散粒子の平均粒子径が5~500nmの範囲であり、
(b)アルミナ含有水分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナ粒子がベーマイト、擬ベーマイトの内、1つ以上で構成され、
(c)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(d)アルミナ水分散液が水溶性脂肪族アミノ酸を含み、
(e)アルミナ水分散液に含まれるアルミニウムのアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.3~11.5質量%の範囲であり、および
(f)アルミナ水分散液に塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間が24時間以上であること、
を有する。
【0014】
本発明のアルミナ水分散液は、無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した水溶液を90~120℃の温度で1~24時間加熱濃縮することで合成できる。その際、無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した水溶液の体積をCとし、90~120℃で加熱濃縮した時の体積をDとした際のD/Cが0.1~0.8、より好ましくは0.2~0.7であることが好ましい。D/Cの値が0.1未満になるとアルミナ水分散液から不溶な析出物が発生し、アルミナ水分散液が不安定になる。一方、D/Cの値が0.8を超えると加熱濃縮が不十分で所望のアルミナ水分散液にならない。
【0015】
(無定形水酸化アルミニウム)
本発明のアルミナ水分散液を製造するのに使用する無定形水酸化アルミニウムは、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかから選ばれるアルミニウム無機酸塩の水溶液をアンモニア水でpH5~8として無定形水酸化アルミニウムの沈殿物を生成させる沈殿形成工程と、得られた無定形水酸化アルミニウムを水で洗浄する水洗工程と、更に無定形水酸化アルミニウムを水と分離する水分分離工程と、無定形水酸化アルミニウムを水分率が60~80%となるように乾燥する乾燥工程と、から得られる。
【0016】
最初の沈殿形成工程では、無定形水酸化アルミニウムを製造する無定形水酸化アルミニウム沈殿形成工程は、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムから選ばれるアルミニウム無機酸塩の水溶液をアンモニア水でpH5~8に制御する。この工程でのpHは好ましくはpH6~7に制御する。pH5未満であると無定形の水酸化アルミニウムの沈殿物の沈降に非常に時間を要するため、生産性が悪くなる。一方でpHが8を超えると、無定形水酸化アルミニウムに加水し、水溶性脂肪族アミノ酸を加えて加熱濃縮する際に溶解不良が発生する。
【0017】
無定形水酸化アルミニウム沈殿物の沈殿形成工程は、温度15~45℃の範囲で0.5~3時間攪拌することにより得られる。好ましくは温度20~35℃で1~2時間である。沈殿形成工程の温度が15℃未満になると硝酸アルミニウムや硫酸アルミニウムとアンモニアの反応性が悪くなり、反応に時間を要することになり、45℃を超えるとアンモニア分の揮発が激しくなり、pHが安定しない。また、攪拌時間が0.5時間未満であると反応時間が不十分で無定形水酸化アルミニウムが十分に析出せず、3時間を超えると無定形水酸化アルミニウムは合成できるが、反応時間がかかりすぎ、生産性が悪くなる。
【0018】
無定形水酸化アルミニウム沈殿物を沈殿形成工程から得た後、無定形水酸化アルミニウム沈殿物を水で水洗し(水洗工程)、その後水を分離する(水分分離工程)を経たのち、無定形水酸化アルミニウムを水分率が60~80質量%となりように乾燥する乾燥工程に付される。乾燥工程の水分率は好ましくは65~75質量%である。水分率が60質量%未満になると無定形水酸化アルミニウムに、水溶性脂肪族アミノ酸および水を加えて反応させる際の分散性が悪くなり、水分率が80質量%を超えると無定形水酸化アルミニウムの水分率が多すぎ、取り扱いが難しくなり、生産性が悪くなる。尚、水分率は株式会社エー・アンド・デイ製のMX50を用いて、105℃で40分の条件で測定を実施する。
【0019】
無定形水酸化アルミニウムの水分率を60~80質量%に管理するための乾燥方法は特に制限されるものではなく、加熱温度、加熱時間も無定形水酸化アルミニウムの変質を伴わないものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、乾燥工程で使用する加熱温度は70~110℃、好ましくは80~100℃であり、1~12時間、好ましくは2~8時間である。
【0020】
(水溶性脂肪族アミノ酸)
本発明のアルミナ水分散液の製造に使用する水溶性脂肪族アミノ酸は、具体的にはR-CH(NH2)COOH(化学式1)で表記することができる。化学式1中、RはCnH2n+1で表記され、nは0~3の0または1~3の整数から選ばれる。水溶性脂肪族アミノ酸は、具体的にはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンから選ばれる1種または2種以上から選ばれる。水溶性脂肪族アミノ酸の化学式1において、nが4以上のものは600℃での熱分解性が悪くなり、発明の効果を発揮できない。
【0021】
(アルミナ水分散液の製造方法)
本発明では、アルミナ水分散液は、上記の無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合して水溶液を形成し、それを90℃~120℃の温度で5~36時間、加熱濃縮することにより得られる。加熱濃縮に際して、加熱方法は特に制限されるものではなく、通常の加熱方法やオートクレーブ等の使用が可能である。加熱は撹拌化に行われる。攪拌の手法は通常の攪拌方法であれば問題ない。反応温度および反応時間は好ましくは95~110℃である。反応時間は好ましくは5~24時間である。温度が90℃未満であると反応が十分進行せずにアルミナ水分散液にならない。一方、温度が120℃を超えると温度を上げるために圧力をかける等の特殊反応環境が必要になり、生産性が悪化する。加熱時間が1時間未満であると濃縮が不足し、アルミナ水分散液ができないことがあり、36時間を超えると加熱・濃縮時間が長すぎて生産性が悪くなる。
【0022】
水溶性脂肪族アミノ酸は、無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対して水溶性脂肪族アミノ酸を1.5~5モル添加し、より好ましくは1.9~3モル添加する。水溶性脂肪族アミノ酸添加量がアルミニウム1モルに対して1.5モル未満になると水溶性脂肪族アミノ酸添加量が不足し、アルミナの凝集が発生し、5モルを超えると水溶性脂肪族アミノ酸添加量が過剰になり、加熱濃縮時に過剰な水溶性脂肪族アミノ酸が析出する。
【0023】
(アルミナ水分散液の特徴)
本発明のアルミナ水分散液に含まれるアルミナ粒子は、以下の6つの特徴を有する:
(a)分散粒子の平均粒子径が5~500nmの範囲である。
(b)アルミナ含有水分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナ粒子がベーマイト、擬ベーマイトの内、1つ以上で構成され、
(c)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲である。
(d)アルミナ水分散液が水溶性脂肪族アミノ酸を含む。
(e)アルミナ水分散液に含まれるアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.3~11.5質量%の範囲である。
(f)アルミナ水分散液に塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間が24時間以上である。
【0024】
特徴(a)
アルミナ粒子の平均粒子径は5~500nmが好ましく、より好ましくは10~200nmである。平均粒子径が5nm未満になると無機粒子との結着性が悪くなり、成形時の保形性が悪くなる。一方で平均粒子径が500nmを超えると、平均粒子径が大きすぎて、一次粒子が数百nmの無機粉体を結着させ焼成した際に異物となり、破壊起点になる。ここで「平均粒子径」は、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて水溶媒にて動的光散乱法で測定を行い、個数基準測定した平均粒子径を意味する。
【0025】
特徴(b)
本発明のアルミナ水分散液におけるアルミナの結晶系は、アルミナ水分散液を100℃で乾燥させたときの粒子が、ベーマイト、擬ベーマイトの内、1つ以上で構成されることが、セラミック等の高温焼結時に焼成条件により、相転移してγアルミナ、αアルミナになるために好ましい。
【0026】
特徴(c)
本発明のアルミナ水分散液のpHは2.0~5.3であり、より好ましくはpH3.0~5.0である。アルミナ水分散液のpHが2.0未満になると強酸性になるため、無機粒子と混合した際に無機粒子を変質させたり、金属にアルミナ水分散液が接触した際に腐食させたりする。一方、アルミナ水分散液のpHが5.3を超えて10以下くらいまでは粘度が100000mPa・s以上になるまでに24時間以上要するために、耐火物の成形や触媒担体作製等が可能であるが、アルミナ水分散液のpHが10を超えてしまうと粘度が100000mPa・s以上になるまでに24時間未満になるため、アルミナ水分散液が流動性を失うまでに時間が短すぎて耐火物の成形や触媒担体作製等に保管安定性面で適さない。ここでいうアルミナ水分散液のpHは、(東亜DKK(株) ポータブルpH計「HM-40P」、pH複合電極「GST-2739C」を用いて測定する。
【0027】
特徴(d)
本発明のアルミナ水分散液には前述のようにアルミナ水分散液形成時に使用した水溶性脂肪族アミノ酸が含まれる。水溶性脂肪族アミノ酸は、前述のように、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンから選ばれる1種または2種以上である。低温度での熱分解性が良好な設計になっている。乳酸、リンゴ酸等を含むアルミナ水分散液では熱分解性が悪く残炭を残すため、比較的低温(例えば、700℃)での熱分解用途には適さない課題がある。水溶性脂肪族アミノ酸は、アルミナ水分散液の水分を蒸発させた時には、結晶化する。従って、上記特徴(b)のアルミナの結晶系を確認する際に、100℃で乾燥するが、その場合水溶性脂肪族アミノ酸は結晶化していることがある。
【0028】
特徴(e)
本発明のアルミナ水分散液中のアルミナ中のアルミニウムのAl2O3換算濃度は0.3~11.5質量%の範囲であり、好ましくは2~10質量%である。Al2O3換算濃度が0.3質量%未満であるとアルミナ水分散液中のアルミナ濃度が低すぎて無機粒子の結着剤としての使用の際に接着性が悪くなる。一方、Al2O3換算濃度が11.5質量%を超えるとアルミナ水分散液の保管安定性が悪くなり、経時で析出物がアルミナ水分散液内に析出することがある。本発明のアルミナ水分散液中のAl2O3換算濃度の算出は次のようにして実施する。
【0029】
アルミナ水分散液中のアルミニウム濃度をアルミニウム濃度測定機(アジレントテクノロジー(社)製:ICP-OCS5110)でAl濃度測定を行い、以下の式でアルミナ(Al2O3)に換算して算出する:
アルミニウムの原子量:27、酸素の原子量:16、Al2O3の分子量:102としてAl2O3換算濃度(質量%)=Al濃度(質量%)×(102/27)
【0030】
特徴(f)
本発明のアルミナ水分散液は、塩基(例えば、アンモニア)を加えてpH5.4~10にした場合に、アルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるのに24時間以上要する。上記特徴(d)に記載する水溶性脂肪族アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を持つため、水中では双生イオンとなる。そのためアンモニア等の塩基を用いてpH5.4~10に変化させても、急激な水分散液のpHの変化に伴うゲル化を防止し、液粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間を一般的な保護剤と異なり、24時間以上、好ましくは24時間~720時間、より好ましくは30~240時間を確保することが可能である。この特徴は、アルミナ水分散液の使用できるpH範囲が、広がったことと使用できる粘度にある時間が長くなったので、中性~塩基性でのスラリー添加等によってセラミックや耐火物の成形が可能になる。
【0031】
(その他の特徴)
本発明のアルミナ水分散液は、チクロトロピックインデックス(TI値)が2~10を有する。チクソトロピックインデックスは、B型粘度計(東機産業(株)製TVB10M TM-3のスピンドルローター)を使用)で粘度を測定し、TI値=[回転数6rpmでの粘度]/[回転数60rpmでの粘度]であらわされるチクソトロピックインデックスが2~10であることが好ましく、好ましくはTI値3~6である。TI値が2未満であると液性状が構造粘性を持たないため、無機粒子と当該アルミナ水分散液の混合品を型に入れて成形する際に保形するのが難しくなり、形状崩れを発生させる。一方、TI値が10を超えると構造粘性が強すぎて、せん断速度を高くしないと変形することが難しくなり、型を使用した成形の際に流し込み等を実施することが難しくなる。
【0032】
本発明のアルミナ水分散液はハロゲン元素やアルカリ金属元素の含有量が少ない。ハロゲン元素やアルカリ金属元素の含有量は、アルミナ水分散液を80℃で30分乾燥させ、乾燥によって得られた粉体を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JCM-7000搭載のエネルギー分散型蛍光X線(EDX))で測定した。ハロゲン元素(具体的には、塩素、臭素またはヨウ素)の含有は0~500ppmが好ましく、より好ましくは0~200ppmである。ハロゲン元素の含有量が500ppmを超えると耐火物やセラミックス等で使用する時、焼成を実施した際に各元素由来のガスが発生し、炉内の腐食等を発生させる傾向がある。また、アルカリ金属元素(具体的には、ナトリウムまたはカリウム)の含有は0~500ppmの範囲が好ましく、より好ましくは0~200ppmである。アルカリ金属の含有が500ppmを超えると耐火物やセラミックス等で使用する時、焼成を実施した際に焼結温度の低下を起こし、焼結体の欠陥を発生させる。
【0033】
本発明のアルミナ水分散液は、セラミックスや耐火物用途向けに高温焼成する際に炉を傷めるような塩素、臭素等のハロゲンガスやセラミックスや耐火物焼結温度を下げるナトリウム、カリウム等のアルカリ金属元素、異なる結晶相をつくるリン、シリカ等を含まない材料を選定する設計にする必要がある。
【0034】
本発明のアルミナ水分散液は、低温で熱分解性して、有機物残滓が残らない。本発明のアルミナ水分散液が低温で熱分解することを確認するために、アルミナ水分散液を100℃×1時間乾燥した試料をプラチナパン(株式会社リガク製:TG-DTA60)で、空気流量を100ml/分の環境にて、昇温速度10℃/分で25~650℃の設定範囲で昇温し、熱分解の状況を確認した。重量減少が完了する温度が400~700℃の範囲が好ましく、より好ましくは450~650℃である。また焼成時間は2~300分の範囲が好ましく、より好ましくは5~60分であり、重量減少が完了する温度が400度未満になると樹脂等を配合し、300℃程度の温度で成形等を行う際に分解が開始し、成形体が安定しなくなる課題がある。一方で重量減少が完了する温度が700℃をこえると耐火物やセラミックス等で厚物を焼成する際に内部に残炭が残りやすくなり、欠陥形成やクラック等の発生原因になる課題がある。重量減少が完了する温度が2分未満になると大物の耐火物、セラミックを所定温度で焼成する際に熱分解速度が速すぎて、端部と中央部での焼成ばらつきを発生させやすくなる課題があり、一方で重量減少が完了する温度が300分をこえると生産性が悪くなる課題がある。
【0035】
本発明では、主要原料として無定形水酸化アルミニウムゲルに加水し、水溶性脂肪族アミノ酸を加えて得られた水溶液を90~120℃で5~36時間加熱濃縮を行うことでpH2.0~5.3かつ個数基準で測定した際の平均粒子径が5~500nmの範囲で、更にアルミナ水分散液に含まれるアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.3~11.5質量%であり、チクソトロピックインデックス(TI値)が2~10の範囲であるアルミナ水分散液が得られる。本発明のアルミナ水分散液は、400~700℃の温度で2~300分焼成することで有機物の熱分解が完了でき、アンモニア等の塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100,000mPa・s以上になるまでの時間が、24時間以上にすることが可能であるセラミックス、耐火物用途向けアルミナ水分散液を提供可能である。
【0036】
本発明のアルミナ水分散液は、その材料設計により、ハロゲン元素(即ち、塩素、臭素、ヨウ素)の含有を低減し、セラミックや耐火物の焼結温度を低減させるアルカリ金属(即ち、ナトリウム、カリウム)の含有を低減させることにより、焼成時のハロゲン系の有害ガスを発生させることなく、ナトリウムやカリウムによる焼結温度添加による焼結物欠陥を低減することが可能であるアルミナ水分散液が提供可能になる。
【0037】
本発明によるアルミナ水分散液は、400~700℃という比較的低温で有機分を熱分解することができ、水溶性脂肪族アミノ酸を含むため、酸性アルミナゾルでは難しかった中性~弱アルカリ性において、24時間以上100,000mPa・sの粘度になることがなく、セラミックや耐火物等の無機フィラーと混合して成形するまでの時間を有することができるようになったため、広いpHの範囲での無機バインダーとしての利用が可能になった。また本発明のアルミナ水分散液は、アルミナ粒子の平均粒子径が5~500nmであるため、透明性、易焼結性等に優れており、ガラスや金属等へのアルミナコーティングや触媒担持体の表面修飾、微細研磨剤等としての利用が可能である。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に減縮されるものと解してはならない。実施例中、特に指摘しない限り、「部」、「%」等は質量に基づく。
【0039】
[実施例1]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.1g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製 KBS-12)で2,000rpmで1分間遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.5%であった。
【0040】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して、200rpmで120℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.6モルである。
【0041】
[実施例2]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.17mol/l硫酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1260.1g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが7.0であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.1%であった。
【0042】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで120℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.6モルである。
【0043】
[実施例3]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1060.1g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.2であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.1%であった。
【0044】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1550g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は4.1モルである。
【0045】
[実施例4]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.2であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.1%であった。
【0046】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで120℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.6モルである。
【0047】
[実施例5]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間撹拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.5%であった。
【0048】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、バリンを1300g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してバリン添加量は2.2モルである。
【0049】
[実施例6]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで撹拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は71%であった。
【0050】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は3.1モルである。
【0051】
[実施例7]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.5%であった。
【0052】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシン500gとバリン500gを添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシンとバリン添加量合計は2.6モルである。
【0053】
[実施例8]
本発明におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は67%であった。
【0054】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、グリシンを1000g添加して200rpmで100℃、24時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.7モルである。
【0055】
[比較例1]
比較例1におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1960.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが8.9であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65%であった。
【0056】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.9モルである。
【0057】
[比較例2]
比較例2におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で8時間乾燥し、水分率は45%であった。
【0058】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は1.9モルである。
【0059】
[比較例3]
比較例3におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65%であった。
【0060】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを3500g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は9.0モルである。
【0061】
[比較例4]
比較例におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65%であった。
【0062】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで45℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.9モルである。
【0063】
[比較例5]
比較例におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65%であった。
【0064】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを100g添加して200rpmで110℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は0.3モルである。
【0065】
[比較例6]
比較例におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65%であった。
【0066】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、グリシンを1000g添加して200rpmで110℃、1時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.9モルである。
【0067】
[比較例7]
比較例におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.6g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1hr乾燥し、水分率は65%であった。
【0068】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加し攪拌して分散した後、23.1mol/l乳酸を2386.6g添加して、45℃、250rpmで1時間攪拌して塩基性乳酸アルミニウム水溶液を合成した。その塩基性乳酸アルミニウム水溶液を250rpmで100℃、20時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は2.5モルである。
【0069】
[比較例8]
比較例におけるアルミナ水分散液は次のようにして合成した。
0.5mol/l硝酸アルミニウム水溶液2250gを20Lセパラブルフラスコに投入した後、250rpmで攪拌しながら、13.3mol/lのアンモニア水を1160.1g投入し、温度を30℃で1時間攪拌した後、pHが6.6であった。沈殿した無定形水酸化アルミニウムゲルを遠心分離機(株式会社関西遠心分離製作所製KBS-12)で2,000rpmで1分遠心分離と4L加水を3回繰り返しして無定形水酸化アルミニウムゲルを洗浄した後、棚段乾燥機にて100℃設定で1時間乾燥し、水分率は65.5%であった。
【0070】
乾燥後の無定形水酸化アルミニウムゲル1137.5gに水6695g添加した後、酢酸を1000g添加して200rpmで120℃、8時間加熱濃縮してアルミナ水分散液を得た。無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対してグリシン添加量は3.3モルである。
【0071】
実施例1~8および比較例1~8で得られたアルミナ水分散液について、以下に記載の測定を行って、その結果を表1~4に示す。
【0072】
Al
2
O
3
(%)
実施例1~8および比較例7のAl濃度は、アルミニウム濃度測定機(アジレントテクノロジー(社)製:ICP-OCS5110)を用いて測定を行い、Al濃度をAl2O3の濃度に変換して、表1~表4に記載した。
【0073】
pH
アルミナ水分散液のpHをポータブルpH計(東亜DKK(株)製:HM-40P、pH複合電極「GST-2739C」)を用いて測定した。結果を表1~4に記載した。
【0074】
D/C
無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した時の水溶液の体積をCとし、アルミナ水分散液を90~120℃で加熱濃縮した時の体積をDとした時に、D/Cを計算した。結果を表1~4に記載した。
【0075】
100℃乾燥時の結晶系
実施例1~8および比較例7の100℃乾燥時の結晶系はX線回折装置(リガク(株)製、MiniFlex600)で測定を行い、結果を表1~表4に記載した。
【0076】
TI値(チクソトロピックインデックスインデックス)
チクソトロピックインデックス(TI値)は、B型粘度計(東機産業(株)製TVB10M TM-3のスピンドルローター)を使用)で粘度を測定し、TI値=[回転数6rpmでの粘度]/[回転数60rpmでの粘度]で計算した。結果を表1~表4に記載した。
【0077】
平均粒子径
実施例1~8および比較例7の平均粒子径は、アルミナの平均粒子径をゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて水溶媒にて動的光散乱法で測定を行い、個数基準測定した平均粒子径を表1~表4に記載した。
【0078】
24時間後の液粘度確認結果
実施例1~8および比較例7のアルミナ水分散液に25%アンモニア水を添加し、pHを9にした後、揮発を防止するために封止し、室温で24時間放置後にB型粘度計(東機産業(株)製:TVB10M TM-3スピンドルローター)を使用して、粘度100000mPa・sを24hr時点で超えているか否かを確認し、表1~表4に記載した。
評価基準
〇:24時間後の液(水分散液)粘度が100,000mPa・s未満
×:24時間後の液(水分散液)粘度が100,000mPa・s以上
【0079】
塩素、臭素、ヨウ素、ナトリウム、カリウムの濃度
実施例1~8および比較例7の塩素、臭素、ヨウ素、ナトリウム、カリウムの濃度は走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JCM-7000搭載のエネルギー分散型蛍光X線(EDX))を用い、EDS(エネルギー分散型蛍光X線)を用いて測定を実施し、表1~表4に記載した。
n.d.:検出されなかった。
【0080】
熱分解性評価
実施例1~8および比較例7の熱分解性評価は、50mlのアルミナ製るつぼ(ニッカトー(株)製)に実施例1~8および比較例7のアルミナ水分散液を5g滴下し、熱風循環式乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥した後、電気炉(ヤマト科学(株)製FO200)にて650℃設定で15分間焼成を行い、アルミナ坩堝内に残るものの外観(色)を確認し、表1~表4に記載した。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて100℃で10分乾燥したものを電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-7001F)で、100,000倍で観察した結果を
図1に示す。
【0086】
実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて熱風循環式乾燥機にて100℃で20分乾燥した粉体及びグリシンをX線回折装置(リガク(株)製:Mini Flex600)で測定を行い、評価した結果を
図2および
図3に示す。
【0087】
実施例1のアルミナ水分散液をガラス製蒸発皿にて熱風循環式乾燥機にて100℃で20分乾燥した粉体をアルミナ製坩堝に入れて、電気炉(ヤマト科学(株)製:FO200)にて700℃で2時間焼成した粉体をX線回折装置(リガク(株)製:Mini Flex600)で測定を行い、評価した結果を
図4に示す。
【0088】
実施例1のアルミナ水分散液に関して、ゼータサイザーナノZS(スペクトリス(株)製)を用いて水溶媒にて動的光散乱法で測定を行い、個数基準で測定した結果を
図5に示す。
【0089】
表1および表2に示すように実施例1~実施例5、実施例7および実施例8はいずれもベーマイトのアルミナ水分散液ができており、Al2O3値、pH、平均粒子径、TI値が本発明の範囲の値を満たしており、600℃で15分焼成した際に白色物が確認されており、有機物の焼成残りが確認されず、有機物の熱分解が完了していることが確認された。またアンモニアでpHを10にした際に粘度が24時間経過時に100,000mPa・sを超えないことが確認された。また、実施例6はベーマイト+擬ベーマイトのアルミナ水分散液ができており、Al2O3値、pH、平均粒子径、TI値が本発明の範囲を満たしており、650℃、15分焼成した際に白色物が確認されており、有機物の焼成残りが確認されず、有機物の熱分解が完了していることが確認された。またアンモニアでpHを10にした際に粘度が24時間経過時に100,000mPa・sを超えないことが確認された。
【0090】
比較例1は、表3に示すように無定形水酸化アルミニウムのpHが8.9と高すぎて、次工程において無定形水酸化アルミニウムの溶け残りが発生する。比較例2は、無定形水酸化アルミニウムの水分率が45%と低く、無定形水酸化アルミニウムの溶け残りが発生する。比較例3はグリシンがアルミニウムに対して9.0モルと過剰であり、加熱・濃縮時にグリシンの析出が発生する。比較例4はアルミナ水分散液形成時の加熱温度が45℃と低すぎて、加熱・濃縮をすることができず、アルミナ水分散液ができない。また、比較例4ではD/Cが0.98と高く、アルミナ水分散液のpHも6.5と高い。
【0091】
比較例5はグリシン添加量がアルミニウムに対して0.3モルと少なすぎるため、アルミナ水分散液を加熱・濃縮する際に保護剤量が少なすぎて、アルミナ粒子の凝集が発生する。比較例6は加熱時間が1時間と短すぎて、加熱・濃縮を起こすまでに時間が不足し、アルミナ水分散液ができない課題がある。また、比較例6は、アルミナ水分散液のpHも5.6と高く、D/Cも0.91と高い。比較例7はベーマイト系のアルミナ水分散液はできるが、乳酸を含むため、650℃×15分の加熱では熱分解が不十分であり膜面が黒色を呈し、アルミナになっていない。また、低温熱分解性に課題がある。比較例8は、水溶性脂肪族アミノ酸ではなく酢酸を使用したので、アルミナ水分散液は形成されているようだが、水溶性脂肪族アミノ酸の保護作用が働いておらず、保存中に白い沈殿ができる(保存性が悪い)。
【0092】
図1では、実施例1のアルミナ水分散液を100℃で10分乾燥したものの電子顕微鏡写真であるが、一次粒子径が100nm以下のものが多数を占めており、狙いのアルミナ水分散液が合成出来ていることが確認された。
【0093】
図2には実施例1のアルミナ水分散液を100℃で20分乾燥したもののX線回折を示し、
図3にはアルミナ水分散液を100℃で20分乾燥した時のグリシン(結晶化したグリシン)単独のX線回折を示す。
図2では、ベーマイトのピークは→で示されていて、グリシンのピークは→の矢の先が黒く塗りつぶされているもの表されていて、結晶化したグリシンのピークとベーマイトのピークが混在していることが確認される。ベーマイト粒子と水溶性脂肪族アミノ酸である結晶化したグリシンが混在するアルミナ粒子分散液ができていることが確認された。
図2から
図3の結晶化グリシンを除くと、ベーマイトのX線回折になる。
【0094】
図4には、実施例1のアルミナ水分散液を100℃で20分乾燥し、750℃で2時間焼成したもののX線回折を示しているが、γアルミナピークパターンを示しており、ベーマイト粒子とグリシンが共存しているアルミナ粒子分散液から焼成温度を上げることで、グリシンは熱分解され、ベーマイト粒子はγアルミナに相転移できることが確認された。
【0095】
図5には、実施例1のアルミナ水分散液の粒度分布を個数基準で測定した結果より、平均粒子径が22nmであり、100nmを超えるような粗大粒子がないアルミナ水分散液が得られていることが確認された。
【0096】
本発明は以下の態様も包含する:
[1]
無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した水溶液を90~120℃の温度で5~36時間の間、加熱濃縮するアルミナ水分散液の製造方法であり、
製造時に前記無定形水酸化アルミニウム、水溶性脂肪族アミノ酸および水を混合した時の水溶液の体積をCとし、アルミナ水分散液を90~120℃で加熱濃縮した時の体積をDとしたときに、D/Cの値を0.1~0.8に制御し、
かつ、得られたアルミナ水分散液が、下記の特徴:
(a)分散粒子の平均粒子径が5~500nmの範囲であり、
(b)アルミナ含有水分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナ粒子がベーマイト、擬ベーマイトの内、いずれか1つ以上で構成され、
(c)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、
(d)アルミナ水分散液が水溶性脂肪族アミノ酸を含み、
(e)アルミナ水分散液に含まれるアルミニウムのアルミナ(Al2O3)換算濃度が0.3~11.5質量%の範囲であり、および
(f)アルミナ水分散液に塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間が24時間以上であることを特徴とする、アルミナ水分散液の製造方法。
[2]
前記水溶性脂肪族アミノ酸は、無定形水酸化アルミニウム中のアルミニウム1モルに対して水溶性脂肪族アミノ酸を1.5~5モルの量で添加する[1]記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[3]
前記水溶性脂肪族アミノ酸が、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはそれらの混合物である[1]または[2]記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[4]
前記アルミナ水分散液が、B型粘度計による[回転数6rpmでの粘度]/[回転数60rpmでの粘度]であらわされるチクソトロピックインデックス(TI値)2~10を有する[1]~[3]のいずれかに記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[5]
前記アルミナ水分散液が、塩素、臭素またはヨウ素の含有量がそれぞれ0~0.02質量%であり、ナトリウムまたはカリウム含有量がそれぞれ0~0.05質量%である[1]~[4]のいずれかに記載のアルミナ水分散液の製造方法。
[6]
前記無定形水酸化アルミニウムは、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのいずれかまたは両方から選ばれるアルミニウム無機酸塩の水溶液を、アンモニア水でpH5~8として、無定形水酸化アルミニウムの沈殿物を生成させる工程と、
生成した無定形水酸化アルミニウムを水で洗浄する工程と、
前記無定形水酸化アルミニウムを水と分離する工程と、
前記無定形水酸化アルミニウムを水分率が60~80質量%になるように乾燥する工程、により得られる[1]~[5]のいずれか記載のアルミナ水分散液の製造方法。
【要約】 (修正有)
【課題】安定性の高いアルミナ水分散液を水溶性脂肪族アミノ酸の保護安定性のみを利用して形成し、アルカリ金属分やハロゲン元素の含有を最小化したアルミナ水分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミナ水分散液は、(a)分散粒子の平均粒子径が5~500nmの範囲であり、(b)アルミナ含有水分散液を100℃で乾燥させたときのアルミナ粒子がベーマイト、擬ベーマイトの内、いずれか1つ以上で構成され、(c)アルミナ水分散液のpHが2.0~5.3の範囲であり、(d)アルミナ水分散液が水溶性脂肪族アミノ酸を含み、(e)アルミナ水分散液に含まれるアルミニウムのアルミナ(Al
2O
3)換算濃度が0.3~11.5質量%の範囲であり、および(f)アルミナ水分散液に塩基を加えてpHを5.4~10にした際にアルミナ水分散液の粘度が100000mPa・s以上になるまでの時間が24時間以上であること、を有する。
【選択図】
図1