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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024544890
(86)(22)【出願日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2024013588
【審査請求日】2024-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516272490
【氏名又は名称】SKG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 悠太
(72)【発明者】
【氏名】今川 豊
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/042331(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/001974(WO,A1)
【文献】特許第6218693(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に回転するカム、及び、前記カムの外周面に設けられた環状のウェーブベアリングを有するウェーブジェネレータと、
前記ウェーブベアリングを囲み、第1内歯が形成された剛性内歯歯車と、
前記第1内歯と噛み合い可能な第1外歯が形成された環状の可撓性外歯歯車、及び、前記可撓性外歯歯車に接続され、第2内歯が形成された環状の可撓性内歯歯車を有するフレックス部と、
前記第2内歯と噛み合い可能な第2外歯が形成された剛性外歯歯車と、を備え、
前記カムは、
前記軸線を中心とする円周方向において等間隔で位置するN個の極部(Nは、2以上の整数)と、前記円周方向において隣り合う前記極部の中間に位置するN個の中間部と、を有し、
前記軸線を中心とする径方向において、前記ウェーブベアリングを挟んで前記可撓性外歯歯車と対向し、
前記剛性外歯歯車は、前記径方向において前記可撓性内歯歯車と対向し、
前記第1外歯の歯数は、前記第1内歯の歯数よりも少なく、
前記第2内歯の歯数は、前記第2外歯の歯数よりも多く、
前記第1内歯と前記第2外歯の歯数は等しく、
前記第1内歯と前記第1外歯の歯数の差と、前記第2内歯と前記第2外歯の歯数の差は等しく、
前記可撓性内歯歯車のピッチ円直径は、前記可撓性外歯歯車のピッチ円直径よりも小さく、
前記ウェーブジェネレータは、前記可撓性外歯歯車を撓めることで、N個の前記極部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記可撓性外歯歯車を前記剛性内歯歯車に噛み合わせ、
前記可撓性内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車が前記ウェーブジェネレータによって撓められたことに応じて撓み、N個の前記中間部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記剛性外歯歯車と噛み合い、
前記可撓性内歯歯車のモジュールと前記剛性外歯歯車のモジュールが同一である、
波動歯車装置。
【請求項2】
軸線を中心に回転するカム、及び、前記カムの外周面に設けられた環状のウェーブベアリングを有するウェーブジェネレータと、
前記ウェーブベアリングを囲み、第1内歯が形成された剛性内歯歯車と、
前記第1内歯と噛み合い可能な第1外歯が形成された環状の可撓性外歯歯車、及び、前記可撓性外歯歯車に接続され、第2内歯が形成された環状の可撓性内歯歯車を有するフレックス部と、
前記第2内歯と噛み合い可能な第2外歯が形成された剛性外歯歯車と
前記可撓性内歯歯車の外周を囲む囲み部と、
前記囲み部と前記可撓性内歯歯車の間に設けられた環状のフレックスベアリングと、を備え、
前記カムは、
前記軸線を中心とする円周方向において等間隔で位置するN個の極部(Nは、2以上の整数)と、前記円周方向において隣り合う前記極部の中間に位置するN個の中間部と、を有し、
前記軸線を中心とする径方向において、前記ウェーブベアリングを挟んで前記可撓性外歯歯車と対向し、
前記剛性外歯歯車は、前記径方向において前記可撓性内歯歯車と対向し、
前記第1外歯の歯数は、前記第1内歯の歯数よりも少なく、
前記第2内歯の歯数は、前記第2外歯の歯数よりも多く、
前記第1内歯と前記第2外歯の歯数は等しく、
前記第1内歯と前記第1外歯の歯数の差と、前記第2内歯と前記第2外歯の歯数の差は等しく、
前記可撓性内歯歯車のピッチ円直径は、前記可撓性外歯歯車のピッチ円直径よりも小さく、
前記ウェーブジェネレータは、前記可撓性外歯歯車を撓めることで、N個の前記極部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記可撓性外歯歯車を前記剛性内歯歯車に噛み合わせ、
前記可撓性内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車が前記ウェーブジェネレータによって撓められたことに応じて撓み、N個の前記中間部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記剛性外歯歯車と噛み合う、
波動歯車装置。
【請求項3】
前記可撓性内歯歯車は、
N個の前記中間部のそれぞれに対応する位置で、前記径方向において前記剛性外歯歯車と最も接近し、
N個の前記極部のそれぞれに対応する位置では、前記径方向において前記剛性外歯歯車と最も離れ、前記剛性外歯歯車とは噛み合わない、
請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記可撓性内歯歯車の外径は、前記可撓性外歯歯車の外径よりも小さく、
前記フレックス部は、前記可撓性外歯歯車と前記可撓性内歯歯車を接続する接続部を有し、
前記可撓性外歯歯車、前記接続部及び前記可撓性内歯歯車は、同じ材料で一体に形成されている、
請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
前記剛性外歯歯車は、環状であり、
前記ウェーブジェネレータは、前記カムと共に回転する、中空の円筒シャフトを有し、
前記カムは、前記円筒シャフトの外周面から前記ウェーブベアリングに向かって突出して設けられ、
前記円筒シャフトは、前記剛性外歯歯車の内側に位置し、前記径方向において前記剛性外歯歯車と対向する対向部を有する、
請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
前記剛性外歯歯車は、前記軸線が延びる方向において前記カムの隣りに位置する、
請求項1又は2に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、互いに異なる2つの速比を生じさせるデュアルタイプの波動歯車装置が記載されている。特許文献1に記載の装置は、剛性の第1内歯歯車と、剛性の第2内歯歯車と、第1内歯歯車に噛み合い可能な第1外歯、及び、第2内歯歯車に噛み合い可能な第2外歯が形成された可撓性外歯歯車と、可撓性外歯歯車を第1内歯歯車及び第2内歯歯車の各々に噛み合わせるためのウェーブジェネレータと、を備える。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、可撓性外歯歯車の第1外歯の歯数が第1内歯歯車の歯数よりも少なく、可撓性外歯歯車の第2外歯の歯数が第2内歯歯車の歯数よりも多い。これにより、第1外歯と第1内歯歯車の間、及び、第2外歯と第2内歯歯車のそれぞれで異なる速比が生じる。
【0004】
特許文献1に記載の装置では、可撓性外歯歯車は、並列配置された第1内歯歯車及び第2内歯歯車の内側に位置する。また、ウェーブジェネレータは、可撓性外歯歯車の第1外歯及び第2外歯の各々を撓める2つのカムを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6218693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置では、第2内歯歯車が可撓性外歯歯車の外側に位置するため、第2内歯歯車のピッチ円直径は、第2外歯のピッチ円直径よりも大きい。一方で、第2内歯歯車の歯数は、第2外歯の歯数よりも少ない。ここで、ピッチ円直径を歯数で割った値であるモジュールを考える。特許文献1に記載の装置のピッチ円直径及び歯数の大小関係によれば、原理上、第2内歯歯車のモジュールと、可撓性外歯歯車の第2外歯のモジュールとは、同一でないはずであり、特殊の歯形が用いられていると推察される。
【0007】
また、特許文献1の段落0037の記載によれば、特許文献1に記載の装置は、楕円形状のカムの長軸の両端位置(つまり、2箇所)において、可撓性外歯歯車の第2外歯が第2内歯歯車に噛み合う。一方で、本願発明者の検討によれば、可撓性外歯歯車の第2外歯を、第2内歯歯車に噛み合わせようとすると、第2外歯は、楕円形状のカムの長軸の一端を挟んで隣り合う2箇所と、当該長軸の他端を挟んで隣り合う2箇所との計4箇所で、第2内歯歯車に噛み合うという結果が導かれた。この検討を考慮しても、特許文献1に記載の装置には、特殊な歯形が用いられていると推察される。
【0008】
特殊な歯形を用いると、カムの回転方向の正逆で、第2内歯歯車と可撓性外歯歯車の第2外歯との噛み合い方が異なり、安定した装置の動作が困難な虞がある。
【0009】
本開示は、安定した動作が可能な波動歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本開示の第1の観点に係る波動歯車装置は、
軸線を中心に回転するカム、及び、前記カムの外周面に設けられた環状のウェーブベアリングを有するウェーブジェネレータと、
前記ウェーブベアリングを囲み、第1内歯が形成された剛性内歯歯車と、
前記第1内歯と噛み合い可能な第1外歯が形成された環状の可撓性外歯歯車、及び、前記可撓性外歯歯車に接続され、第2内歯が形成された環状の可撓性内歯歯車を有するフレックス部と、
前記第2内歯と噛み合い可能な第2外歯が形成された剛性外歯歯車と、を備え、
前記カムは、
前記軸線を中心とする円周方向において等間隔で位置するN個の極部(Nは、2以上の整数)と、前記円周方向において隣り合う前記極部の中間に位置するN個の中間部と、を有し、
前記軸線を中心とする径方向において、前記ウェーブベアリングを挟んで前記可撓性外歯歯車と対向し、
前記剛性外歯歯車は、前記径方向において前記可撓性内歯歯車と対向し、
前記第1外歯の歯数は、前記第1内歯の歯数よりも少なく、
前記第2内歯の歯数は、前記第2外歯の歯数よりも多く、
前記第1内歯と前記第2外歯の歯数は等しく、
前記第1内歯と前記第1外歯の歯数の差と、前記第2内歯と前記第2外歯の歯数の差は等しく、
前記可撓性内歯歯車のピッチ円直径は、前記可撓性外歯歯車のピッチ円直径よりも小さく、
前記ウェーブジェネレータは、前記可撓性外歯歯車を撓めることで、N個の前記極部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記可撓性外歯歯車を前記剛性内歯歯車に噛み合わせ、
前記可撓性内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車が前記ウェーブジェネレータによって撓められたことに応じて撓み、N個の前記中間部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記剛性外歯歯車と噛み合い、
前記可撓性内歯歯車のモジュールと前記剛性外歯歯車のモジュールが同一である。
上記目的を達成するため、本開示の第2の観点に係る波動歯車装置は、
軸線を中心に回転するカム、及び、前記カムの外周面に設けられた環状のウェーブベアリングを有するウェーブジェネレータと、
前記ウェーブベアリングを囲み、第1内歯が形成された剛性内歯歯車と、
前記第1内歯と噛み合い可能な第1外歯が形成された環状の可撓性外歯歯車、及び、前記可撓性外歯歯車に接続され、第2内歯が形成された環状の可撓性内歯歯車を有するフレックス部と、
前記第2内歯と噛み合い可能な第2外歯が形成された剛性外歯歯車と、
前記可撓性内歯歯車の外周を囲む囲み部と、
前記囲み部と前記可撓性内歯歯車の間に設けられた環状のフレックスベアリングと、を備え、
前記カムは、
前記軸線を中心とする円周方向において等間隔で位置するN個の極部(Nは、2以上の整数)と、前記円周方向において隣り合う前記極部の中間に位置するN個の中間部と、を有し、
前記軸線を中心とする径方向において、前記ウェーブベアリングを挟んで前記可撓性外歯歯車と対向し、
前記剛性外歯歯車は、前記径方向において前記可撓性内歯歯車と対向し、
前記第1外歯の歯数は、前記第1内歯の歯数よりも少なく、
前記第2内歯の歯数は、前記第2外歯の歯数よりも多く、
前記第1内歯と前記第2外歯の歯数は等しく、
前記第1内歯と前記第1外歯の歯数の差と、前記第2内歯と前記第2外歯の歯数の差は等しく、
前記可撓性内歯歯車のピッチ円直径は、前記可撓性外歯歯車のピッチ円直径よりも小さく、
前記ウェーブジェネレータは、前記可撓性外歯歯車を撓めることで、N個の前記極部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記可撓性外歯歯車を前記剛性内歯歯車に噛み合わせ、
前記可撓性内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車が前記ウェーブジェネレータによって撓められたことに応じて撓み、N個の前記中間部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記剛性外歯歯車と噛み合う。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、安定した動作が可能な波動歯車装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の一実施形態に係る波動歯車装置の断面図。
図2】同上実施形態に係る波動歯車装置の図1に示すI-I線での概略断面図であり、カムの極数が2である場合の図。
図3】同上実施形態に係る波動歯車装置の図1に示すII-II線での断面図であり、カムの極数が2である場合の図。
図4】同上実施形態に係る波動歯車装置の図2に対応する概略断面図であり、カムの極数が3である場合の図。
図5】同上実施形態に係る波動歯車装置の図3に対応する概略断面図であり、カムの極数が3である場合の図。
図6】変形例に係る波動歯車装置の一部断面図。
図7】変形例に係る波動歯車装置の図6に示すIII-III線での概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態に係る波動歯車装置100は、図1に示すように、ウェーブジェネレータ1と、剛性内歯歯車2と、可撓性外歯歯車31及び可撓性内歯歯車32を有するフレックス部3と、剛性外歯歯車4と、カバー5と、支持部6と、を備える。
【0015】
図面では、見易さを考慮して一部構成の断面を示すハッチングを省略した。以下の説明では、図1における右側を入力側(図示Si)と呼び、左側を出力側(図示So)と呼ぶことがある。また、以下の説明では、軸線AXを中心とする円周方向を単に「円周方向」と呼び、軸線AXを中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、軸線AXが延びる方向(図1の左右方向)を単に「軸方向」と呼ぶことがある。
【0016】
ウェーブジェネレータ1は、カム10と、カム10と一体に形成された中空の円筒シャフト12と、ウェーブベアリング11と、を備える。
【0017】
カム10及び円筒シャフト12は、回転入力に応じて軸線AXを中心に回転する。円筒シャフト12には、図示せぬモータの回転動力が公知の伝達機構を介して伝達される。カム10は、円筒シャフト12の外周面からウェーブベアリング11に向かって突出して設けられる。
【0018】
円筒シャフト12は、径方向において剛性外歯歯車4と対向する対向部12aを有する。対向部12aは、環状の剛性外歯歯車4の内側に位置する。対向部12aは、円筒シャフト12のカム10よりも出力側に位置する。対向部12aと、剛性外歯歯車4との間には、円環状のベアリングB2が介在する。一方、円筒シャフト12のカム10よりも入力側の部分と、剛性内歯歯車2に固定されるカバー5との間には、円環状のベアリングB1が介在する。これにより、カム10及び円筒シャフト12は、剛性内歯歯車2に対して回転可能である。ベアリングB1,B2は、例えばボールベアリングから構成される。
【0019】
円筒シャフト12の対向部12aによって、ベアリングB2を介して剛性外歯歯車4を支持する構造を簡潔にすることができる。
【0020】
カバー5は、円盤状の剛性部材である。カバー5には、円筒シャフト12のカム10よりも入力側の部分を囲む、円形の開口5aが形成されている。
【0021】
カム10は、図2及び図4に示すように、円周方向において等間隔で位置するN個(Nは、2以上の整数)の極部10aと、円周方向において隣り合う極部10aの中間に位置するN個の中間部10bと、を有する。以下では、カム10が有する極部10aの数を極数と呼ぶ。波動歯車装置100におけるカム10の極数は、目的に応じて任意に定められる。
【0022】
図2に示すように、極数が「2」である場合のカム10は、軸方向から見て楕円状をなし、2個の極部10aと、2個の中間部10bと、を有する。この場合、円周方向において隣り合う1つの極部10aと、1つの極部10aとは、軸線AXを中心とする角度で180°離れている。また、円周方向において隣り合う1つの中間部10bと、1つの中間部10bとは、軸線AXを中心とする角度で180°離れている。また、円周方向において隣り合う1つの極部10aと、1つの中間部10bとは、軸線AXを中心とする角度で90°離れている。
【0023】
カム10の極数がN≧3の場合、軸方向から見たカム10の形状は、正N角形状をなすとともに、例えば、各極部10a及び各中間部10bが外径方向に緩やかに膨らむ曲面状を有する。
【0024】
図4に示すように、極数が「3」である場合のカム10は、3個の極部10aと、3個の中間部10bと、を有する。この場合、円周方向において隣り合う1つの極部10aと、1つの極部10aとは、軸線AXを中心とする角度で120°離れている。また、円周方向において隣り合う1つの中間部10bと、1つの中間部10bとは、軸線AXを中心とする角度で120°離れている。また、円周方向において隣り合う1つの極部10aと、1つの中間部10bとは、軸線AXを中心とする角度で60°離れている。
【0025】
Nが任意の数である場合に一般化すれば、カム10は、N個の極部10aと、N個の中間部10bと、を有する。この場合、円周方向において隣り合う1つの極部10aと、1つの極部10aとは、軸線AXを中心とする角度で(360°/N)離れる。また、円周方向において隣り合う1つの中間部10bと、1つの中間部10bとは、軸線AXを中心とする角度で(360°/N)離れる。また、円周方向において隣り合う1つの極部10aと、1つの中間部10bとは、軸線AXを中心とする角度で(180°/N)離れる。
【0026】
ウェーブベアリング11は、図2に示すように、カム10の外周面に設けられた環状のベアリングである。具体的に、ウェーブベアリング11は、カム10の外周面に固定された内輪と、フレキシブルな外輪と、内輪及び外輪の間に転動可能な状態で挿入されている複数の転動材と、を有する。ウェーブベアリング11の外輪は、転動材を介して弾性変形する。転動材は、ボール又はローラである。つまり、ウェーブベアリング11は、ボールベアリングとして構成されてもよいし、ローラベアリングとして構成されてもよい。なお、内輪は、カム10の外周面を含む部分から構成されていてもよい。
【0027】
剛性内歯歯車2は、金属などの公知の材料によって剛性を有して形成される。図2に示すように、剛性内歯歯車2は、ウェーブベアリング11を囲む円環状に構成され、その内周面には、第1内歯2tが形成されている。第1内歯2tは、剛性内歯歯車2の内周に、一定のピッチで円周方向に沿って配列された複数の歯から構成される。
【0028】
剛性内歯歯車2は、図1に示すように、外枠2aの一部を構成する。なお、剛性内歯歯車2は、外枠2aと一体であってもよいし、外枠2aに対して不動であれば外枠2aと別体であってもよい。
【0029】
フレックス部3は、特殊鋼等の金属材によりフレキシブル性を有して形成され、筒状に形成される。具体的に、フレックス部3は、可撓性外歯歯車31及び可撓性内歯歯車32に加えて、可撓性外歯歯車31及び可撓性内歯歯車32を接続する接続部33を有する。可撓性外歯歯車31及び可撓性内歯歯車32及び接続部33は、同じ材料で一体に形成されている。
【0030】
可撓性外歯歯車31は、環状をなし、ウェーブベアリング11と剛性内歯歯車2の間に位置する。可撓性外歯歯車31の内周側は、ウェーブベアリング11の外輪に嵌めこまれている。これにより、可撓性外歯歯車31は、ウェーブジェネレータ1におけるカム10の極部10aに対応する位置で撓められる。可撓性外歯歯車31の外周面には、第1内歯2tと噛み合い可能な第1外歯31tが形成されている。第1外歯31tは、可撓性外歯歯車31の外周に、一定のピッチで円周方向に沿って配列された複数の歯から構成される。
【0031】
可撓性内歯歯車32は、図1に示すように、接続部33を介して可撓性外歯歯車31に接続され、可撓性外歯歯車31よりも出力側に位置する。可撓性内歯歯車32は、可撓性外歯歯車31がウェーブジェネレータ1によって撓められたことに応じて撓む。図3に示すように、可撓性内歯歯車32の内周面には、第2内歯32tが形成されている。第2内歯32tは、可撓性内歯歯車32の内周に、一定のピッチで円周方向に沿って配列された複数の歯から構成される。
【0032】
ここで、フレックス部3の可撓性外歯歯車31がウェーブジェネレータ1によって撓められていない状態では、可撓性外歯歯車31及び可撓性内歯歯車32は、それぞれ、軸方向からみて円環状をなす。そして、可撓性内歯歯車32の外径は、可撓性外歯歯車31の外径よりも小さい。また、可撓性内歯歯車32のピッチ円直径は、可撓性外歯歯車31のピッチ円直径よりも小さい。
【0033】
接続部33は、図1に示すように、可撓性外歯歯車31と、可撓性外歯歯車31よりも外径が小さい可撓性内歯歯車32とを接続する環状の部分である。接続部33は、可撓性外歯歯車31から可撓性内歯歯車32に向かって軸線AXに近付くように傾斜している。つまり、接続部33は、可撓性外歯歯車31から可撓性内歯歯車32に向かって縮径する環状の部分である。
【0034】
上記形状の接続部33によって、可撓性外歯歯車31と可撓性内歯歯車32の接続部分で断面係数を稼ぐことができると共に、当該接続部分へ応力が集中することを避けることができる。これにより、フレックス部3全体の強度を確保することができる。
【0035】
剛性外歯歯車4は、金属などの公知の材料によって剛性を有して形成される。図3に示すように、剛性外歯歯車4は、円筒シャフト12の対向部12aを囲む円環状に構成され、その外周面には、可撓性内歯歯車32の第2内歯32tと噛み合い可能な第2外歯4tが形成されている。第2外歯4tは、剛性外歯歯車4の外周に、一定のピッチで円周方向に沿って配列された複数の歯から構成される。
【0036】
図1に示すように、剛性外歯歯車4は、軸方向においてカム10の隣りに位置し、且つ、径方向において可撓性内歯歯車32と対向する。詳細には、剛性外歯歯車4は、軸方向においてカム10と隣接して位置する。この位置関係により、波動歯車装置100が軸方向及び径方向に大きくなってしまうことを抑制でき、波動歯車装置100をコンパクトに構成することができる。
【0037】
支持部6は、例えばクロスローラベアリングから構成され、剛性外歯歯車4に固定される内輪61と、外枠2aまたは剛性内歯歯車2に固定される外輪62と、を備える。支持部6により、剛性外歯歯車4は、剛性内歯歯車2に対して軸線AXを中心に回転可能に支持される。剛性外歯歯車4と共に回転する内輪61は、図示せぬ出力対象と連結される。これにより、後述のように回転入力に対して減速された減速出力を得ることができる。
【0038】
ここで、説明の理解を容易にするため、以下のように記号を割り当てる。
第1内歯2tの歯数:Zi
第1外歯31tの歯数:Z1
第2内歯32tの歯数:Z2
第2外歯4tの歯数:Zo
剛性内歯歯車2のピッチ円直径:Di
可撓性外歯歯車31のピッチ円直径:D1
可撓性内歯歯車32のピッチ円直径:D2
剛性外歯歯車4のピッチ円直径:Do
【0039】
まず、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車31の位置関係、及び、可撓性内歯歯車32と剛性外歯歯車4の位置関係によれば、波動歯車装置100は、Di>D1と、D2>Doとを満たす。さらに、波動歯車装置100は、次の(i)~(v)の条件を満たす。
【0040】
(i)可撓性外歯歯車31の第1外歯31tの歯数は、剛性内歯歯車2の第1内歯2tの歯数よりも少ない(Z1<Zi)。
(ii)可撓性内歯歯車32の第2内歯32tの歯数は、剛性外歯歯車4の第2外歯4tの歯数よりも多い(Z2>Zo)。
(iii)第1内歯2tと第2外歯4tの歯数は等しい(Zi=Zo)。
(iv)第1内歯2tと第1外歯31tの歯数の差と、第2内歯32tと第2外歯4tの歯数の差は等しい(Zi-Z1=Z2-Zo)。
(v)可撓性内歯歯車32のピッチ円直径は、可撓性外歯歯車31のピッチ円直径よりも小さい(D2<D1)。
【0041】
具体的には、次の式が成立することで、上記の条件(i)~(iv)が満たされる。なお、Nは、前述の通り、カム10の極数である。
Z1=Zi-N
Z2=Zo+N
Zi=Zo
【0042】
ウェーブベアリング11を介してカム10に撓められた可撓性外歯歯車31は、後述のようにカム10の極部10aに対応する部分(第1噛み合い部E1)で剛性内歯歯車2と噛み合いつつ、カム10の回転に伴い、第1内歯2tと第1外歯31tの歯数の差(Zi-Z1=N)に応じて、剛性内歯歯車2に対してカム10と逆の回転方向に移動する。この際、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車31の間で生じる第1速度比i1は、次の式で表される。なお、速度比のマイナス符号は、可撓性外歯歯車31の回転方向が回転入力の逆方向であることを示す。また、R1は、第1速度比i1の逆数である。
i1=1/R1=(Z1-Zi)/Z1=-N/Z1
【0043】
可撓性外歯歯車31を有するフレックス部3は、全体として、剛性内歯歯車2に対して回転する。また、フレックス部3の可撓性内歯歯車32は、可撓性外歯歯車31がカム10に撓められたことに応じて撓む。
【0044】
剛性外歯歯車4は、後述のようにカム10の中間部10bに対応する部分(第2噛み合い部分E2)で可撓性内歯歯車32と噛み合いつつ、フレックス部3の回転に伴い、第2内歯32tと第2外歯4tの歯数の差(Z2-Zo=N)に応じて、可撓性内歯歯車32に対して可撓性内歯歯車32とは逆の回転方向(つまり、カム10と同じ回転方向)に移動する。この際、可撓性内歯歯車32と剛性外歯歯車4の間で生じる第2速度比i2は、次の式で表される。なお、R2は、第2速度比i2の逆数である。
i2=1/R2=(Z2-Zo)/Z2=N/Z2
【0045】
剛性内歯歯車2に対する可撓性外歯歯車31の回転移動量は、可撓性内歯歯車32に対する剛性外歯歯車4の回転移動量よりも大きいため、結果として、剛性外歯歯車4は、カム10に対しては逆の回転方向に移動しつつ、回転入力に対して減速される。
【0046】
一例として、カム10が楕円状(N=2)で、Zi=22、Z1=20、Z2=24、Zo=22に設定された波動歯車装置100では、i1=-1/10(つまり、R1=-10)であり、i2=1/12(つまり、R2=12)である。
【0047】
第1速度比i1と第2速度比i2の組み合わせ(R1とR2の組み合わせと同義)により、波動歯車装置100は、低減速比から高減速比までのあらゆる減速比が実現可能である。特に、波動歯車装置100は、減速比が1/5~1/50の範囲の低減速(なお、ここで言う低減速とは、減速比の逆数が小さいことを指す)が可能である。
【0048】
ここで、現状、減速比が1/5~1/50といった低減速の範囲は、遊星減速機の範疇である。遊星減速機を多段で構成することで、1/50程度の減速比が可能ではあるが、このように構成された遊星減速機では、軸長が長く、重量が大きく、低精度の減速機になってしまう。一方で、本実施形態の波動歯車装置100によれば、Z1<Ziにより、負の値となる第1速度比i1(つまり、回転入力に対し逆転)と、Z2>Zoにより、正の値となる第2速度比i2(つまり、回転入力に対し正転)との組み合わせによって、減速比が1/5~1/50の範囲も容易に実現可能である。
【0049】
(モジュールについて)
まず、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車31の各々のモジュールについて説明する。剛性内歯歯車2のモジュールMiは、Mi=Di/Ziで表される。可撓性外歯歯車31のモジュールM1は、M1=D1/Z1で表される。Di>D1と、Zi>Z1という大小関係から、Mi=M1を満たすことができ、剛性内歯歯車2のモジュールと可撓性外歯歯車31のモジュールを同一にすることができる。
【0050】
波動歯車装置100においては、Mi=M1を満たす、Di、Zi、D1、Z1の組み合わせが設定され、剛性内歯歯車2のモジュールと可撓性外歯歯車31のモジュールが同一に設定されている。
【0051】
続いて、可撓性内歯歯車32と剛性外歯歯車4の各々のモジュールについて説明する。可撓性内歯歯車32のモジュールM2は、M2=D2/Z2で表される。剛性外歯歯車4のモジュールMoは、Mo=Do/Zoで表される。D2>Doと、Z2>Zoという大小関係から、M2=Moを満たすことができ、可撓性内歯歯車32のモジュールと剛性外歯歯車4のモジュールを同一にすることができる。したがって、波動歯車装置100によれば、安定した動作が可能である。
【0052】
これは、前述のように、剛性の第2内歯歯車のモジュールと、可撓性外歯歯車の第2外歯のモジュールとを同一にできない特許文献1に記載の装置との大きな差異である。
【0053】
波動歯車装置100においては、M2=Moを満たす、D2、Z2、Do、Zoの組み合わせが設定され、可撓性内歯歯車32のモジュールと剛性外歯歯車4のモジュールが同一に設定されている。
【0054】
(噛み合い部分について)
ウェーブジェネレータ1は、可撓性外歯歯車31を撓めることで、N個の極部10aのそれぞれに対応するN個の部分で、可撓性外歯歯車31を剛性内歯歯車2に噛み合わせる。
【0055】
可撓性内歯歯車32は、可撓性外歯歯車31がウェーブジェネレータ1によって撓められたことに応じて撓み、N個の中間部10bのそれぞれに対応するN個の部分で、剛性外歯歯車4と噛み合う。
【0056】
ここで、可撓性内歯歯車32は、N個の中間部10bのそれぞれに対応する位置で、径方向において剛性外歯歯車4と最も接近し、N個の極部10aのそれぞれに対応する位置では、径方向において剛性外歯歯車4と最も離れ、剛性外歯歯車4とは噛み合わない。
【0057】
以下、カム10の極数が2である場合を図2及び図3を参照して説明し、カム10の極数が3である場合を図4及び図5を参照して説明する。
【0058】
(極数が2である場合)
図2に示すように、ウェーブジェネレータ1は、可撓性外歯歯車31を撓めることで、2個の極部10aのそれぞれに対応する2つの第1噛み合い部E1で、可撓性外歯歯車31を剛性内歯歯車2に噛み合わせる。
【0059】
図3に示すように、可撓性内歯歯車32は、可撓性外歯歯車31がウェーブジェネレータ1によって撓められたことに応じて撓み、2個の中間部10bのそれぞれに対応する2つの第2噛み合い部E2で、剛性外歯歯車4と噛み合う。
【0060】
ここで、軸線AXを中心とする角度として、図2及び図3の12時方向を0°とし、時計回りに角度が増えるものとする。そうすると、極部10aは、0°と180°に位置する。また、中間部10bは、90°と270°に位置する。
【0061】
図2との比較で図3を参照して分かるように、可撓性内歯歯車32は、2個の中間部10aのそれぞれに対応する位置(90°と270°の位置)で、径方向において剛性外歯歯車4と最も接近し、2個の極部10aのそれぞれに対応する位置(0°と180°の位置)では、径方向において剛性外歯歯車4と最も離れ、剛性外歯歯車4とは噛み合わない。
【0062】
円周方向において隣り合う1つの中間部10bと1つの極部10aとを考えた場合、当該1つの中間部10bの位置で、可撓性内歯歯車32は、径方向において剛性外歯歯車4と最も接近する。当該1つの中間部10bから当該1つの極部10aに向かうにつれて、可撓性内歯歯車32は、径方向において剛性外歯歯車4と次第に離れていく。そして、当該1つの極部10aの位置で、可撓性内歯歯車32は、径方向において剛性外歯歯車4と最も離れる。この現象は、可撓性外歯歯車31がカム10の極部10aで外径方向に撓められることに付随して、可撓性内歯歯車32におけるカム10の中間部10bに相当する位置が、相対的に内径方向に撓められることに起因する。
【0063】
上記現象により、剛性外歯歯車4は、撓んだ可撓性内歯歯車32のうち、軸線AXを中心とする曲率が小さい部分(曲がり具合が緩い部分)と噛み合うことになる。これにより、可撓性内歯歯車32の第2内歯32tと、剛性外歯歯車4の第2外歯4tとの噛み合い率を稼ぐことができ、可撓性内歯歯車32から剛性外歯歯車4へのトルクの伝達効率を良好にすることができる。これは、前述の通り、楕円形状のカムの長軸の両端位置において、可撓性外歯歯車の第2外歯が第2内歯歯車に噛み合う特許文献1に記載の装置との大きな差異である。
【0064】
また、上記の通り、可撓性内歯歯車32は、2個の中間部10aのそれぞれに対応する位置(90°と270°の位置)で、径方向において剛性外歯歯車4と最も接近する。このため、2個の中間部10aのそれぞれに対応する位置で噛み合う第2内歯32t及び第2外歯4tのうち、一方の歯溝に入り込む他方の歯の両面が均等に接触する。これにより、カム10の回転方向の正逆で、可撓性内歯歯車32と剛性外歯歯車4の噛み合い方が異なることが防止され、波動歯車装置100が安定して動作する。
【0065】
また、波動歯車装置100では、極数に対応する数の第2噛み合い部E2(N=2であれば、2個の第2噛み合い部E2)で、可撓性内歯歯車32が剛性外歯歯車4と噛み合う。このように、波動歯車装置100によれば、必要最低限の数の第2噛み合い部E2で、可撓性内歯歯車32を剛性外歯歯車4と噛み合わせることができるため、波動歯車装置100の精度を確保し易い。
【0066】
なお、波動歯車装置100は、第1噛み合い部分E1において第1内歯2tと第1外歯31tとが複数の歯で噛み合い、第2噛み合い部分E2において第2内歯32tと第2外歯4tとが複数の歯で噛み合う。第1噛み合い部分E1において噛み合う第1内歯2tと第1外歯31tの個数と、第2噛み合い部分E2において噛み合う第2内歯32tと第2外歯4tの個数とは、極数Nと、歯数Zi,Z1,Z2,Zoとの設定に応じて変化する。
【0067】
(極数が3である場合)
図4に示すように、ウェーブジェネレータ1は、可撓性外歯歯車31を撓めることで、3個の極部10aのそれぞれに対応する3つの第1噛み合い部E1で、可撓性外歯歯車31を剛性内歯歯車2に噛み合わせる。
【0068】
図5に示すように、可撓性内歯歯車32は、可撓性外歯歯車31がウェーブジェネレータ1によって撓められたことに応じて撓み、3個の中間部10bのそれぞれに対応する3つの第2噛み合い部E2で、剛性外歯歯車4と噛み合う。
【0069】
ここで、軸線AXを中心とする角度として、図4及び図5の12時方向を0°とし、時計回りに角度が増えるものとする。そうすると、極部10aは、0°,120°,240°に位置する。また、中間部10bは、60°,180°,300°に位置する。
【0070】
図4との比較で図5を参照して分かるように、可撓性内歯歯車32は、3個の中間部10aのそれぞれに対応する位置(60°,180°,300°の位置)で、径方向において剛性外歯歯車4と最も接近し、3個の極部10aのそれぞれに対応する位置(0°,120°,240°の位置)では、径方向において剛性外歯歯車4と最も離れ、剛性外歯歯車4とは噛み合わない。
【0071】
極数が3である場合も、極数が任意のNである場合も、波動歯車装置100は、極数が2である場合で説明したのと同様の現象が生じ、同様の効果を奏する。
【0072】
(変形例)
図6は、図1に示す波動歯車装置100の一部構成を変形した変形例を示す。図6では、変形例の説明に必要な部分以外の構成を省略している。また、図7は、図6に示す構成のIII-III線での概略断面図である。
【0073】
変形例に係る波動歯車装置100は、可撓性内歯歯車32の外周を囲む囲み部7と、囲み部7と可撓性内歯歯車32の間に設けられた環状のフレックスベアリング8と、をさらに備える。
【0074】
囲み部7は、金属などの公知の材料によって剛性を有して形成される。囲み部7は、剛性内歯歯車2ないしは外枠2aに固定される。
【0075】
フレックスベアリング8は、囲み部7の内周面に固定された外輪と、フレキシブルな内輪と、外輪及び内輪の間に転動可能な状態で挿入されている複数の転動材と、を有する。可撓性内歯歯車32は、フレックスベアリング8の内輪の中に嵌めこまれている。フレックスベアリング8の内輪は、転動材を介して弾性変形する。転動材は、ボール又はローラである。つまり、フレックスベアリング8は、ボールベアリングとして構成されてもよいし、ローラベアリングとして構成されてもよい。なお、外輪は、囲み部7の内周面を含む部分から構成されていてもよい。
【0076】
このように、波動歯車装置100に、囲み部7及びフレックスベアリング8を設けることで、可撓性内歯歯車32に比較的大きい負荷がかかっても、可撓性内歯歯車32を外径側から支持することができ、高精度、高出力を確保することができる。
【0077】
また、図6に示すように、可撓性外歯歯車31と可撓性内歯歯車32が直接接続されていてもよい。つまり、フレックス部3は、可撓性外歯歯車31から可撓性内歯歯車32に向かって縮径する環状の接続部33を有していなくともよい。そして、可撓性内歯歯車32のピッチ円直径は、可撓性外歯歯車31のピッチ円直径よりも小さい(D2<D1)という条件を満たす限りにおいては、フレックス部3の板厚を調整する等の手法により、可撓性内歯歯車32の外径と可撓性外歯歯車31の外径とを、略同じ(丁度同じも含む)に構成してもよい。
【0078】
本開示は以上の実施形態、変形例及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。例えば、波動歯車装置100を構成する各部の材料は、金属に限られず任意であり、目的を達成することができれば、エンジニアリングプラスチック、樹脂、セラミック等であってもよい。また、波動歯車装置100の用途は、ロボット、車載部品、家電、ホビー用品など、目的に応じて任意である。また、以上では、剛性外歯歯車4が軸方向においてカム10の直ぐ隣りに位置する例を示したが、軸方向におけるカム10と剛性外歯歯車4の間に他の部材が介在していてもよい。
【0079】
以上に説明した波動歯車装置100は、以下の付記に記載の特徴を有する。
【0080】
(付記)
(付記1)
軸線を中心に回転するカム、及び、前記カムの外周面に設けられた環状のウェーブベアリングを有するウェーブジェネレータと、
前記ウェーブベアリングを囲み、第1内歯が形成された剛性内歯歯車と、
前記第1内歯と噛み合い可能な第1外歯が形成された環状の可撓性外歯歯車、及び、前記可撓性外歯歯車に接続され、第2内歯が形成された環状の可撓性内歯歯車を有するフレックス部と、
前記第2内歯と噛み合い可能な第2外歯が形成された剛性外歯歯車と、を備え、
前記カムは、
前記軸線を中心とする円周方向において等間隔で位置するN個の極部(Nは、2以上の整数)と、前記円周方向において隣り合う前記極部の中間に位置するN個の中間部と、を有し、
前記軸線を中心とする径方向において、前記ウェーブベアリングを挟んで前記可撓性外歯歯車と対向し、
前記剛性外歯歯車は、前記径方向において前記可撓性内歯歯車と対向し、
前記第1外歯の歯数は、前記第1内歯の歯数よりも少なく、
前記第2内歯の歯数は、前記第2外歯の歯数よりも多く、
前記第1内歯と前記第2外歯の歯数は等しく、
前記第1内歯と前記第1外歯の歯数の差と、前記第2内歯と前記第2外歯の歯数の差は等しく、
前記可撓性内歯歯車のピッチ円直径は、前記可撓性外歯歯車のピッチ円直径よりも小さく、
前記ウェーブジェネレータは、前記可撓性外歯歯車を撓めることで、N個の前記極部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記可撓性外歯歯車を前記剛性内歯歯車に噛み合わせ、
前記可撓性内歯歯車は、前記可撓性外歯歯車が前記ウェーブジェネレータによって撓められたことに応じて撓み、N個の前記中間部のそれぞれに対応するN個の部分で、前記剛性外歯歯車と噛み合う、
波動歯車装置。
【0081】
(付記2)
前記可撓性内歯歯車は、
N個の前記中間部のそれぞれに対応する位置で、前記径方向において前記剛性外歯歯車と最も接近し、
N個の前記極部のそれぞれに対応する位置では、前記径方向において前記剛性外歯歯車と最も離れ、前記剛性外歯歯車とは噛み合わない、
付記1に記載の波動歯車装置。
【0082】
(付記3)
前記可撓性内歯歯車の外径は、前記可撓性外歯歯車の外径よりも小さく、
前記フレックス部は、前記可撓性外歯歯車と前記可撓性内歯歯車を接続する接続部を有し、
前記可撓性外歯歯車、前記接続部及び前記可撓性内歯歯車は、同じ材料で一体に形成されている、
付記1又は2に記載の波動歯車装置。
【0083】
(付記4)
前記剛性外歯歯車は、環状であり、
前記ウェーブジェネレータは、前記カムと共に回転する、中空の円筒シャフトを有し、
前記カムは、前記円筒シャフトの外周面から前記ウェーブベアリングに向かって突出して設けられ、
前記円筒シャフトは、前記剛性外歯歯車の内側に位置し、前記径方向において前記剛性外歯歯車と対向する対向部を有する、
付記1又は2に記載の波動歯車装置。
【0084】
(付記5)
前記可撓性内歯歯車の外周を囲む囲み部と、
前記囲み部と前記可撓性内歯歯車の間に設けられた環状のフレックスベアリングと、をさらに備える、
付記1又は2に記載の波動歯車装置。
【0085】
(付記6)
前記剛性外歯歯車は、前記軸線が延びる方向において前記カムの隣りに位置する、
付記1又は2に記載の波動歯車装置。
【0086】
以上の説明では、本開示の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【0087】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0088】
100…波動歯車装置
1…ウェーブジェネレータ
10…カム、10a…極部、10b…中間部
11…ウェーブベアリング、12…円筒シャフト
2…剛性内歯歯車、2a…外枠、2t…第1内歯
3…フレックス部
31…可撓性外歯歯車、31t…第1外歯
32…可撓性内歯歯車、32t…第2内歯
33…接続部
4…剛性外歯歯車、4t…第2外歯
5…カバー、5a…開口
6…支持部、61…内輪、62…外輪
7…囲み部
8…フレックスベアリング
AX…軸線
E1…第1噛み合い部
E2…第2噛み合い部
【要約】
波動歯車装置(100)は、カム(10)を有するウェーブジェネレータ(1)と、剛性内歯歯車(2)と、可撓性外歯歯車(31)及び可撓性内歯歯車(32)を有するフレックス部(3)と、剛性外歯歯車(4)と、を備える。カム(10)は、軸線(AX)を中心とする円周方向において等間隔で位置するN個の極部(Nは、2以上の整数)と、円周方向において隣り合う極部の中間に位置するN個の中間部と、を有する。ウェーブジェネレータ(1)は、可撓性外歯歯車(31)を撓めることで、N個の極部のそれぞれに対応するN個の部分で、可撓性外歯歯車(31)を剛性内歯歯車(2)に噛み合わせる。可撓性内歯歯車(32)は、可撓性外歯歯車(31)がウェーブジェネレータ(1)によって撓められたことに応じて撓み、N個の中間部のそれぞれに対応するN個の部分で、剛性外歯歯車(4)と噛み合う。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7