(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】サンプルからエネルギー分析器および電子分光計装置への電子伝達のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/06 20060101AFI20241028BHJP
H01J 49/48 20060101ALI20241028BHJP
G01N 23/2273 20180101ALI20241028BHJP
【FI】
H01J49/06 100
H01J49/48 400
G01N23/2273
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020050078
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】10 2019 107 327.8
(32)【優先日】2019-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512028770
【氏名又は名称】スペックス サーフェス ナノ アナリシス ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SPECS Surface Nano Analysis GmbH
【住所又は居所原語表記】Voltastrasse 5, 13355 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】シェーンヘンセ,ゲアト
(72)【発明者】
【氏名】カンペン,ソーステン
(72)【発明者】
【氏名】メール,スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】シャフ,オリバー
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-036670(JP,A)
【文献】特開2001-266787(JP,A)
【文献】特開2001-266788(JP,A)
【文献】特開昭62-290056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
G01N 23/2273
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子(2)を放出するサンプル(1)からエネルギー分析装置(200)への電子光学軸(OA)に沿った電子伝達のために構成された電子結像装置(100)であって、第1レンズ群(10)をサンプル側に、および第2レンズ群(30)を分析器側に、および、前記電子結像装置(100)の出射面内の前記電子(2)を前記電子光学軸(OA)に垂直な偏向方向に偏向するように構成された偏向器装置(20)、を含み、
・前記第1レンズ群(10)は、前記第1レンズ群(10)内に第1逆平面(RP1)と、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群(10、30)間に第1ガウス平面(GP1)を形成し、前記第1逆平面(RP1)に前記サンプル(1)からの電子(2)の運動量分布の第1運動量分布結像と、前記第1ガウス平面(GP1)に前記サンプル(1)の第1ガウス結像を生成するように構成され、
・前記第2レンズ群(30)は、前記第2レンズ群(30)の前記分析器側に第2逆平面(RP2)を形成し、前記第2逆平面(RP2)に前記サンプル(1)から前記電子(2)の前記運動量分布の第2運動量分布結像を生成するように構成され、
・前記第1レンズ群(10)は、前記第2レンズ群(30)によって生成される前記第2運動量分布結像が並列画像であるような小さい範囲で前記第1ガウス結像を生成するように構成され、
前記偏向器装置(20)は、前記第1ガウス平面(GP1)または他のガウス平面(GP2)において作用し、前記電子(2)の前記偏向が部分ビームの平行移動をもたらし、前記電子光学軸(OA)に垂直な前記部分ビーム間の角度を変更せずに、前記第2逆平面(RP2)で並列画像を形成することを特徴とする、電子結像装置(100)。
【請求項2】
・前記偏向器装置(20)は、前記偏向器装置(20)が前記電子光学軸(OA)に垂直な単一の平面で作用するように構成される、
請求項1に記載の電子結像装置。
【請求項3】
・前記偏向器装置(20)は、電気的および/または磁気的に作用する偏向要素(21)の単一のペア、1つの平面に4つの偏向要素(21)を配置した四重極配置、または、1つの平面に8つの偏向要素(21)を配置した八重極配置を含む、
請求項1または2に記載の電子結像装置。
【請求項4】
・前記第2逆平面(RP2)は、前記電子結像装置(100)の出射面であり、および、
・スリットダイアフラム(201)が前記第2逆平面(RP2)に配置され、前記エネルギー分析装置(200)の入射スリットを形成する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項5】
・前記第2レンズ群(30)の前記分析器側に配置され、少なくとも1つの第3レンズ群(40)の内部に第2ガウス平面(GP2)を、および前記少なくとも1つの第3レンズ群(40)の前記分析器側に第3逆平面(RP3)を形成し、および、前記第2ガウス平面(GP2)に前記サンプル(1)の第2ガウス結像を、および前記第3逆平面(RP3)に前記サンプル(1)からの前記電子(2)の前記運動量分布の第3運動量分布結像を生成するように構成されている、前記少なくとも1つの第3レンズ群(40)、
をさらに含み、
・前記第3逆平面(RP3)は、前記電子結像装置(100)の出射面であり、および、
・前記少なくとも1つの前記第3レンズ群(40)によって生成される前記第3運動量分布結像は、並列画像である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項6】
・スリットダイアフラム(201)が前記第2逆平面(RP2)に配置され、前記スリットダイアフラム(201)は、前記エネルギー分析装置(200)
の入射面に結像することによって前記エネルギー分析装置(200)の入射スリットを形成する、
請求項5に記載の電子結像装置。
【請求項7】
・スリットダイアフラム(201)が前記第3逆平面(RP3)に配置され、前記エネルギー分析装置(200)の入射スリットを形成し、
・前記第2逆平面(RP2)には前記スリットダイアフラム(201)は配置されていない、
請求項5に記載の電子結像装置。
【請求項8】
・前記偏向器装置(20)は、前記第1および前記第2レンズ群(10、30)の間、および前記第1ガウス平面(GP1)内に配置される、
請求項1から7のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項9】
・前記偏向器装置(20)は、前記第3レンズ群(40)および前記第2ガウス平面(GP2)に配置される、
請求項5から7のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項10】
・前記第1レンズ群(10)は、1mm未
満の前記電子光学軸(OA)に垂直な範囲を有する前記第1ガウス結像を生成するように構成される、
および/または、
・前記第1および前記第2レンズ群(10、30)は、
前記並列画像を形成する前記部分ビームの角度偏差が0.4°未
満である前記並列画像を形成するように構成される、
請求項1から9のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項11】
・前記第1レンズ群(10)の最前部のサンプル側電子光学要素(11)は、サンプル(1)と同じ電位を有するように構成され、それにより、サンプルの前にフィールドフリー領域が生成される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項12】
・前記偏向器装置(20)は、制御装置(50)に結合され、前記制御装置(50)は、前記並列画像を維持しながら、前記電子結像装置の出射面における前記電子(2)の走査偏向のために構成される、
請求項1から11のいずれか一項に記載の電子結像装置。
【請求項13】
・サンプル(1)を保持するように構成されたサンプルホルダ(101)、
・請求項1から12のいずれか一項に記載の電子結像装置(100)、および、
・エネルギー分析装置(200)、
を含み、
・前記電子結像装置(100)は、前記サンプル(1)から放出された電子を前記電子光学軸(OA)に沿って前記エネルギー分析装置(200)に電子伝達するように構成される、
電子分光計装置(300)。
【請求項14】
・前記エネルギー分析装置(200)は、半球型分析器を含む、
請求項13に記載の電子分光計装置。
【請求項15】
サンプル(1)からの電子(2)は、電子結像装置によって電子光学軸(OA)に沿ってエネルギー分析装置(200)に伝達され、電子(2)は、サンプル側の第1レンズ群(10)および分析器側の第2レンズ群(30)から順に通過し、前記電子(2)は、前記電子結像装置(100)の出射面内の偏向器装置(20)によって、前記電子光学軸(OA)に垂直な偏向方向に偏向され、
・前記第1レンズ群(10)は、前記第1レンズ群(10)の内部に第1逆平面(RP1)を形成し、前記第1および前記第2レンズ群(30)の間に第1ガウス平面(GP1)を形成し、前記第1逆平面(RP1)に前記サンプル(1)からの電子(2)の運動量分布の第1運動量分布結像を、および前記第1ガウス平面(GP1)に前記サンプル(1)の第1ガウス結像を生成し、
・前記第2レンズ群(30)は、前記第2レンズ群(30)の前記分析器側に第2逆平面(RP2)を形成し、前記第2逆平面(RP2)で前記サンプル(1)から前記電子(2)の前記運動量分布の第2運動量分布結像を生成し、
・前記第1レンズ群(10)は、前記第2レンズ群(30)により生成される前記第2運動量分布結像が並列画像であるような小さい範囲で前記第1ガウス結像を生成
し、
前記偏向器装置(20)は、前記第1ガウス平面(GP1)または他のガウス平面(GP2)において作用し、前記電子(2)の前記偏向が部分ビームの平行移動をもたらし、前記電子光学軸(OA)に垂直な前記部分ビーム間の角度を変更せずに、前記第2逆平面(RP2)で並列画像を形成することを特徴とする、電子伝達方法。
【請求項16】
・前記偏向器装置(20)は、前記偏向器装置(20)が前記電子光学軸(OA)に垂直な単一の平面で作用するように構成される、
請求項15に記載の電子伝達方法。
【請求項17】
・前記第2逆平面は前記電子結像装置の出射面であり、および、
・前記エネルギー分析装置(200)の入射スリットを形成するスリットダイアフラム(201)は、前記第2逆平面に配置されている、
請求項15または16に記載の電子伝達方法。
【請求項18】
・前記第2レンズ群(30)の前記分析器側に配置された少なくとも1つの第3レンズ群(40)は、前記少なくとも1つの第3レンズ群(40)の内部に第2ガウス平面(GP2)と、前記少なくとも1つの第3レンズ群(40)の前記分析器側で第3逆平面(RP3)を形成し、前記第2ガウス平面(GP2)に前記サンプル(1)の第2ガウス結像を、および前記第3逆平面(RP3)内に前記サンプル(1)からの前記電子(2)の前記運動量分布の第3運動量分布結像を生成し、
・前記第3逆平面(RP3)は、前記電子結像装置(100)の前記出射面であり、および、
・前記少なくとも1つの前記第3レンズ群(40)によって生成される前記第3運動量分布結像は、並列画像である、
請求項15または16に記載の電子伝達方法。
【請求項19】
・スリットダイアフラム(201)は、前記第2逆平面(RP2)に配置され、前記スリットダイアフラム(201)は、前記エネルギー分析装置(200)
の入射面に結像することによって前記エネルギー分析装置(200)の入射スリットを形成する、
請求項18に記載の電子伝達方法。
【請求項20】
・スリットダイアフラム(201)は、前記第3逆平面(RP3)に配置され、前記エネルギー分析装置(200)の入射スリットを形成し、
・前記第2逆平面(RP2)にはスリットダイアフラムは配置されていない、
請求項18に記載の電子伝達方法。
【請求項21】
・前記偏向器装置(20)は、前記第1ガウス平面(GP1)に配置される、
請求項15から20のいずれか一項に記載の電子伝達方法。
【請求項22】
・前記偏向器装置(20)は、前記少なくとも1つの第3レンズ群(40)および前記第2ガウス平面(GP2)に配置される、
請求項18から20のいずれか一項に記載の電子結像方法。
【請求項23】
・前記第1レンズ群(10)は、前記電子光学軸(OA)に垂直な範囲が1mm未
満の前記第1ガウス結像を生成する、および/または、
・前記第1および前記第2レンズ群(30)は、
前記並列画像を形成する部分ビームの角度偏差が0.4°未
満である前記並列画像を形成するように構成される、
請求項15から22のいずれか一項に記載の電子伝達方法。
【請求項24】
・前記第1レンズ群(10)の最前部のサンプル側電子光学要素(11)は、前記サンプル(1)と同じ電位を有し、それにより、前記サンプルの領域にフィールドフリー領域を生成する、
請求項15から23のいずれか一項に記載の電子伝達方法。
【請求項25】
・前記電子結像装置(100)の前記出射面内の前記電子(2)は偏向され、前記並列画像を維持しながら前記運動量分布結像の走査運動を生成する、
請求項15から24のいずれか一項に記載の電子伝達方法。
【請求項26】
・サンプル(1)の照射および前記サンプル(1)からの電子(2)の放出、
・放出された前記電子(2)の、請求項15から25のいずれか一項に記載の電子伝達方法によるエネルギー分析装置(200)への伝達、
・前記エネルギー分析装置(200)による電子(2)のエネルギー分解検出、
のステップを含む、電子分光法。
【請求項27】
・前記エネルギー分析装置(200)は、半球型分析器を含む、
請求項26に記載の電子分光法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、例えば光電子などの、電子の運動量およびエネルギー分解検出のために、サンプルからエネルギー分析装置に電子を伝達するための電子結像装置および電子伝達方法に関する。本発明は、さらに、電子結像装置を備えた電子分光計装置、および電子分光方法に関する。本発明の用途は、サンプルの電子分光分析にある。
【0002】
本明細書では、本発明の技術的背景を表す以下の先行技術を参照する:
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】欧州特許第2 823 504B1号明細書
【文献】米国特許第9 997 346B1号明細書
【文献】欧州特許第2 851 933B1号明細書
【文献】スウェーデン特許第539 849C2号明細書
【文献】ドイツ特許第10 2005 045 622B4明細書
【文献】ドイツ特許第10 2013 005 173B4明細書
【文献】欧州特許第1 559 126B9明細書
【文献】ドイツ特許第10 2014 019 408B4明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】B. Wannberg in "Nucl. Instrum. Meth. A" 601 (2009) 182;
【文献】M. Patt et al. in "Review of Scientific Instruments" 85, 113704 (2014).
【背景技術】
【0005】
特に光電子およびオージェ電子の測定のための、固体サンプルからエネルギー分析器への電子の伝達および集束のための電子光学レンズを備えた伝達光学系の使用が、一般的に知られている。さまざまな種類のエネルギー分析器および関連する伝達光学が知られている。サンプルから放出された電子を角度分解能で検出する一連の方法は、ARPES法(ARPES:角度分解光電子分光法)として知られている(例えば[非特許文献1]参照)。ARPES法では、参照軸に対する放射角度、例えば、電子がサンプルから放出されるサンプル表面の面法線が特に重要である。過去に高い角度分解能が達成されたが、これは比較的限られた角度範囲内でのみであった。例えば、これまで、約±7°の角度範囲で0.1°の高分解能と約±15°の範囲で0.5°の低減された分解能とが達成可能であった。
【0006】
2つの同心の半球型電極から組み立てられた半球型分析器は、通常、ARPES法を使用した従来の角度結像のエネルギー分析器として使用される。半球型電極間の電圧に応じて、特定のエネルギー帯(たとえば、半球型分析器の通過エネルギーの10%の幅のエネルギー間隔)の粒子のみが半球型分析器を通過することができる。エネルギーおよび角度分解測定のために、エネルギー分析器の入射面上の電子の角度分布の結像が与えられる。サンプルからの電子の角度分布結像は、実空間のエネルギー分析器の入射面に(極座標で)生成される。スリットダイアフラムは、半球型分析器の入射面に入射スリットとして配置されているため、半球型分析器は、入射スリットの範囲に沿った第1角度座標に沿って(例えばy方向に沿った)角度分布を決定できる。また、第1角度座標に垂直な第2座標(例えばx)に沿った角度分布を決定するために、トランスファーレンズでの2つの偏向器[特許文献1]または1つの偏向器[特許文献2]の配置が、入射スリットの範囲と電子光学軸に垂直な角度分布結像を順次走査(走査運動)する。
【0007】
電子の角度分解測定のための従来の伝達光学系は、伝達光学系の出口および/またはエネルギー分析器の入射面で、電子ビームが電子光学軸、例えばz軸に対し、一般的に>10°の顕著な発散を伴ってエネルギー分析器に入るという大きな欠点がある。この発散は、yz平面で異なる放射角を持つサンプル1’からの少数の電子部分ビームの軌跡の例を使用し、
図7に示されている(先行技術、[特許文献1]から引用)([非特許文献1]および[特許文献2]も参照)。エネルギー分析器では、結像エラーを引き起こし、電子のエネルギー分布および角度分布を計算するためにかなりの量の後処理が必要になる。さらに、従来の伝達光学系は、電子が放出されるサンプルソーススポットの十分に集束し局在化された位置空間結像を持たない(例えば、[非特許文献1]を参照)。
【0008】
発散は、第2角度座標に沿った角度分布の取得において特に不利であり、第2角度座標は、伝達光学系の1つまたは2つの偏向器20A’、20B’の助けを借りて連続的に走査される([非特許文献1]、[特許文献1]、[特許文献2]、[特許文献3]、[特許文献4]参照)。入射スリットの範囲に対して垂直な発散ビームの走査運動により、偏向器によるビームの偏向によって引き起こされる収差と組み合わせて、入射面でのビーム発散から組み合わせ誤差が生成される。
【0009】
入射面でのビーム発散は、エネルギー分析器の出口にスピンフィルタクリスタルを備えた結像スピンフィルタが配置されているスピン分解電子分光法においても不利となる([特許文献5]参照)。入射面の入射スリットに沿ったビーム発散は、顕著な非点収差の形で出射面のビーム発散を引き起こし、スピンフィルタクリスタル上の出射ビームの集束した結像を不可能にする。
【0010】
要約すると、従来の伝達光学系の端部での電子ビームの高い角発散は、エネルギー分析器、特に半球型分析器を使用した電子の角度分解分光法に対してかなりの不利な点を有する。これらの欠点は、潜在的に検出可能な角度間隔を制限し、第2角度座標をキャプチャするために走査運動が使用される場合、および結像スピンフィルタが使用される場合、その不利はさらに大きくなる。
【0011】
文献[特許文献6]、[特許文献7]、[特許文献8]および[特許文献9]は、ガウス結像(実空間結像)および運動量分布結像(運動量空間結像)が存在する、伸縮ビーム経路を含む運動量検鏡法を対象としたさらなる伝達光学系について説明している。ただし、これらの伝達光学系は、エネルギー分析器の入射スリットの範囲に垂直な運動量分布結像の走査運動用には、設計されていない。さらに、これらの技術はすべてカソードレンズの使用に基づいており、電子は強力な静電抽出フィールドによって伝達光学系に加速される。ただし、非平面状の表面(例えばUHVでサンプルを分割した後などに起こることがある)、微細構造(例えば半導体部品など)、または3次元構造の微結晶(新しい量子材料の一般的なテストオブジェクト)の検査では、強い抽出フィールドは邪魔になる。
【0012】
本発明の目的は、従来技術の欠点を回避するよう、電子結像装置、電子伝達方法、電子分光計装置および/または電子分光法を改善することである。目的は特に、発散に起因する結像エラーを最小限に抑えるか、さらには排除し、より良い角度分解能を実現し、より大きな角度間隔の検出を実現し、および/またはスピン分解電子分光法を単純化することである。
【0013】
これらの目的は、独立請求項の特徴を備えた電子結像装置、電子伝達方法、電子分光計装置および電子分光法によって対応して達成される。本発明の好ましい実施形態および適用は、従属請求項から明らかになる。
【0014】
本発明の第1の一般的な態様によれば、上記目的は、電子放出サンプルからエネルギー分析装置への電子光学軸に沿った電子伝達のために構成された電子結像装置によって達成される。電子伝達は、電子結像装置の入射面から出射面への放出電子(電子束または電子ビームとも呼ばれる)の伝達および結像を含み、入射面は、電子結像装置に面するサンプルの表面に設けられ、出射面は、エネルギー分析装置に面する電子結像装置の背面に設けられている。したがって、それぞれサンプル側および分析器側の入射面および出射面とも呼ばれる。電子光学軸は、好ましくは、入射面および出射面に垂直に延びる連続した直線軸であるが、代わりに断面が直線である角度付き経路を有することができる。
【0015】
電子結像装置は、サンプル側の第1レンズ群、分析器側の第2レンズ群、および電子光学軸に垂直な偏向方向の電子結像装置の出射面における電子の電気的および/または磁気的偏向のために構成された偏向器装置を備える。第1および第2レンズ群はそれぞれ、少なくとも2つの電子光学レンズを含む。第1および第2レンズ群ならびに偏向器装置はそれぞれ、動作電圧を提供するために制御回路に接続され、制御回路は別個の構成要素であるか、共通の制御装置に接続され得る。
【発明の概要】
【0016】
本発明によれば、第1レンズ群は、第1レンズ群の内部に第1逆平面を形成し、第1および第2レンズ群の間に第1ガウス平面を形成し、第1逆平面内のサンプルからの電子の運動量分布の第1運動量分布結像を生成し、第1ガウス平面で、サンプル、特に照明されたサンプルソーススポットの第1ガウス結像を生成するよう、構成されている。逆平面とは、相互画像(運動量結像またはフーリエ結像とも呼ばれる)が存在する結像面である。したがって、本明細書では運動量分布結像と呼ばれる第1相互画像は、第1逆平面に集束される。運動量分布結像は、電子の運動量分布の結像であり、電子の横運動量は、電子光学軸からの運動量分布結像の部分ビームの距離の増加とともに増加する。第1レンズ群の制御回路は、第1逆平面および第1ガウス平面の電子光学結像のために、適切に適合された制御電圧を第1レンズ群に印加するよう構成される。
【0017】
さらに、本発明によれば、第2レンズ群は、第2レンズ群の分析器側に第2逆平面を形成し、第2逆平面のサンプルからの電子の運動量分布の第2運動量分布結像を生成するように構成される。第2レンズ群の制御回路は、第2逆平面の電子光学結像のために、適切に適合された制御電圧を第2レンズ群に印加するよう構成される。
【0018】
さらに、本発明によれば、第1レンズ群は、第2レンズ群によって生成される第2運動量分布結像が並列画像であるような小さい範囲(光軸に垂直な結像の範囲)を有する第1ガウス結像を生成するように構成される。
【0019】
偏向器装置は、好ましくは電子結像装置のガウス平面、例えば第1ガウス平面または他のガウス平面(以下を参照)において作用し、これにより、電子の偏向が部分ビームの平行移動を有利にもたらし、光軸に垂直な部分ビーム間の角度を変更せずに、第2逆平面で並列画像を形成する。
【0020】
「並列画像」(または:実質的に平行な部分ビームを備えた実質的に平行な角度結像または運動量分布結像)という文言は、以下、運動量分布結像を指し、その部分ビームは第2逆平面を通過する際に電子光学軸に平行して走る、および/または、特に、エネルギー分析装置の分光特性(エネルギー分解能、運動量分解能)の重大な障害を引き起こさないよう、エネルギー分析装置の収差(特に発散誘導結像エラー)が電子の所望のエネルギー分解測定に対して無視できるほど小さいよう最小の発散を有す。並列画像は、第2逆平面に垂直または実質的に垂直に位置合わせされた部分ビームで構成される。部分ビームは、平行束としてエネルギー分析装置に入射する。部分ビームの実質的な垂直配向は、エネルギー分析装置の後のエネルギー分析で検出される、サンプルから放出される電子の角度範囲にわたって延びている。
【0021】
第1レンズ群の制御回路は、第1ガウス結像が所望のサイズになるように、第1レンズ群の制御電圧を生成するように構成される。第1レンズ群の電子光学レンズの形状は、好ましくは、第1ガウス平面において、サンプル上の電子のソーススポットの可能な限り最小のガウス結像を生成するように構成される。電子光学レンズの形状の最適化は、例えば数値シミュレーションによって、行われる。
【0022】
並列画像(出射面の平行運動量分布結像)は、その部分ビームの角度偏差(発散)が0.4°よりも小さい、特に0.2°よりも小さいことが好ましい。シミュレーションでは、角度偏差は、エネルギー分析装置のその後の結像を損なうことがないほど十分に小さいことが示されている(以下
図2を参照)。
【0023】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、第1レンズ群は、電子光学軸に垂直な範囲が1mm未満、特に0.5mm未満の第1ガウス結像を生成するように構成される。これらのサイズ範囲に対して、実際に発生する典型的な測定タスクおよび電子光学の典型的な構成で十分に小さい角度偏差で平行運動量分布結像が有利に達成される。
【0024】
偏向器装置の制御回路は、電子光学軸に垂直な第2逆平面における運動量分布結像の走査偏向のために構成される。したがって、電子結像装置の出射面内の電子は、エネルギー分析装置の入射スリット(スリットまたはスリットダイアフラムとも呼ばれる)の範囲から逸脱する方向に、好ましくは入射スリットに垂直に、走査運動を受ける。第1および第2レンズ群ならびに偏向器装置または対応する制御回路の構成は、それ自体知られている電子光学結像方程式および電子結像装置の幾何学的サイズを使用する計算に基づいて調整される。
【0025】
本発明の第2の一般的な態様によれば、上記の目的は、サンプルを保持するサンプルホルダ、本発明の第1の一般的な態様またはその実施形態による電子結像装置およびエネルギー分析装置、を含む電子分光計装置によって達成される。本発明によれば、電子結像装置は、サンプルから電子光学軸に沿って放出された電子のエネルギー分析装置への伝達および結像、および電子光学軸に垂直な運動量分布結像を走査運動のために構成され、エネルギー分析装置の入射スリットの範囲から逸脱する偏向方向、好ましくは入射スリットの範囲に垂直な偏向方向に配置される。電子結像装置は、サンプルソーススポットから放出された電子の運動量分布結像がエネルギー分析装置の入射面に並列画像として生成されるように構成される。
【0026】
エネルギー分析装置は、一般に、電子光学軸に垂直な少なくとも一方向に沿った角分布または運動量分布結像の角度分解能または運動量分解検出用に構成された電子光学結像装置である。エネルギー分析装置は、好ましくは半球型分析器(半球型電子エネルギー分析器)を含む。入射スリットを備えた半球型分析器を使用することにより、偏向器装置による運動量分布結像の走査運動により、入射スリットに沿った方向と第2の偏向方向の角度分布とを決定することができる。半球型分析器を使用する代わりに、エネルギー分析装置は、他のタイプの分析器、例えば、シリンダー分析器または127°分析器などを含むことができる。
【0027】
本発明の第3の一般的な態様によれば、上記目的は、電子が電子結像装置によってサンプルから電子光学軸に沿ってエネルギー分析装置に伝達される電子伝達方法によって達成される。サンプルは、好ましくは、固体サンプルを含み、その表面は、励起光での照射および電子結像装置への放出のために露出される。ソーススポット(励起光ビームの入射面)から放出された電子は、サンプル側の第1レンズ群、偏向器装置、および分析器側の第2レンズ群を順に通過し、電子は、電子結像装置の出射面で偏向器装置によって、電子光学軸に垂直に走行し、エネルギー分析装置の入射スリットの範囲から逸脱する偏向方向に偏向され、好ましくは入射スリットの範囲に垂直に合わされる。本発明によれば、第1レンズ群は、第1レンズ群内に第1逆平面を、および第1および第2レンズ群間に第1ガウス平面を形成し、第1逆平面にサンプルからの電子の運動量分布である第1運動量分布結像を、第1ガウス平面にソーススポットの第1ガウス結像を生成する。さらに、第2レンズ群は、第2レンズ群の分析器側に第2逆平面を形成し、第2逆平面にサンプルからの電子の運動量分布である第2運動量分布結像を形成する。第1レンズ群は、第2レンズ群により生成される第2運動量分布結像が並列画像であるような小さい範囲を有する第1ガウス結像を生成する。電子伝達方法は、好ましくは、本発明の第1の一般的な態様またはその実施形態による電子結像装置によって実行される。
【0028】
本発明の第4の一般的な態様によれば、上記の目的は、サンプルの照射およびサンプルからの電子の放出、本発明の第3の一般的な態様またはその実施形態によるエネルギー分析装置への電子伝達方法により放出された電子の伝達、およびエネルギー分析装置による電子の運動量およびエネルギー分解検出を含む電子分光法(サンプルから放出された電子のエネルギーおよび運動量分布を検出する方法)によって達成される。電子分光法は、好ましくは、本発明の第2の一般的な態様またはその実施形態による電子結像装置によって実行される。
【0029】
本発明は、好ましくはフィールドフリー環境で固体サンプルから放出され、エネルギーおよび運動量分布に関してエネルギー分析装置で分析される電子のビーム伝達を実質的に改善する装置および方法を有利に提供する。実空間で角度結像を生成する従来の電子結像装置で発生する結像エラーは、運動量分布結像の並列画像としての生成で回避される。励起源(サンプルソーススポット)で照らされた領域の適切に小さなガウス結像が第2レンズ群の前側焦点面に配置されるため、エネルギー分析装置の入射スリットの平面に集束された運動量分布結像は、このレンズ群の後方逆平面にある平行な部分ビームから作成され、すべての電子は、電子光学軸に実質的に平行してエネルギー分析装置に入る。その結果、エネルギー分析装置の入口での角度偏差は、従来の方法に比べて1~2桁減少する。第1ガウス結像は、第1レンズ群を用いて生成され、これは、好ましくは適切な形状によって収差を最小化する。
【0030】
【0031】
レンズ群と偏向器装置との組み合わせの収差は、所望の運動量分布結像(すなわち、サンプル上のソーススポットの第1ガウス結像)と逆の結像が非常に小さいため、運動量分布結像のコーディングは、この小さなガウス結像の軌跡として非常に正確に定義されるという点で、理論的に可能な最小にまで有利に低減できる。この特徴は、本発明を、すべての従来のビーム伝達システム、特に[非特許文献1]および[特許文献1]~[特許文献4]によるシステムと区別する。
【0032】
本発明者らは、本発明による技術を使用して、電子顕微鏡法で実現される概念、特に、光学結像伝達定理を使用する、所定の、非常に集束された実空間結像および所定の結像面での相互画像の作成は、電子分光法における電子光学システムの収差を低減するのに役立つだけでなく、追加の実質的な利点を提供するということを発見した:第1ガウス結像は第1レンズ群によって電子光学軸に沿って変位できるため、運動量分布結像の個々の部分ビームの傾斜角は、ビーム位置を失うことなく、エネルギー分析装置の入射面で最小化できる。これにより、偏向テクニックを使用して、高リターデーション条件(サンプルからの出射時の電子の初期運動エネルギーとエネルギー分析装置への入射時の運動エネルギーの比)でも、特に入射スリットに対して垂直な、第2運動量方向に走査できる。ズームレンズ(結像倍率の調整のために構成され、好ましくは5つ以上のレンズ要素を含むレンズ)の形態の第2レンズ群の好ましい実施形態は、特に、電子結像装置の出口での運動量結像の結像サイズと電子エネルギーを広い範囲内で変化させ、運動量結像のサイズとエネルギーとをエネルギー分析器の望ましい条件に適合させることができる(エネルギー分解能、運動量分解能)。
【0033】
エネルギー分析装置の出口にあるスピンフィルタクリスタルの結像エラーが減少または完全に回避されるため、エネルギー分析装置の入射面での並列画像の作成は、スピン分解電子分光法についても有利に簡素化する。
【0034】
本発明のさらに特に重要な利点は、運動量分布結像の偏向が単純化されることである。したがって、本発明の好ましい実施形態では、偏向器装置は、電子光学軸に垂直な単一の平面内でのみ作用する。電子が電子光学軸に沿って移動すると、電子が第1レンズ群と第2レンズ群との間の空間を通過するときに、偏向器装置が1回のみ動作する。これにより、結像エラーを受け入れることなく、例えば[特許文献1]による、従来の複雑な二重偏向器を有利に回避する。特に好ましくは、偏向器装置を作動させることにより、偏向器装置の偏向面と第1ガウス平面(または別のガウス平面、以下を参照)とが一致するため、第2逆平面における運動量分布結像の正確な平行移動が促進される。これにより、例えば[特許文献2]および[特許文献4]で説明されているような、追加のビーム傾斜が完全に回避される。
【0035】
単一平面での偏向には、偏向器装置が、例えば1対の電気的および/または磁気的に作用する偏向素子、偏向素子の四重極配置または八重極配置の、特に単純な構造でありうるという利点がある。電気的偏向の場合、偏向要素は偏向電極を備え、磁気偏向の場合、偏向要素は偏向コイルを備える。八重極配置は、電子光学軸の周りの偏向方向の回転を有利に可能とし、その結果、偏向器装置は、エネルギー分析装置の入射スリットの並びに対して運動量分布結像の変位方向をさらに回転させることができる。このようにして、たとえば、漂遊磁場による望ましくない結像の回転を補正する。
【0036】
電子結像装置のさらなる有利な実施形態(以下、第1の実施形態とも呼ぶ)によれば、第2逆平面は同時に電子結像装置の出射面であり、エネルギー分析装置の入射スリットを形成するスリットダイアフラムは、第2逆平面に配置される。この実施形態は、エネルギー分析装置への進入時に並列画像を直接調整するという利点と、比較的コンパクトな構造とを提供する。
【0037】
電子結像装置の代替実施形態によれば、第2レンズ群の分析器側、すなわち電子分光計装置の全体配置において、第2レンズ群とエネルギー分析装置の間に配置された、少なくとも1つの第3レンズ群を有する。少なくとも1つの第3レンズ群は、少なくとも1つの第3レンズ群内の第2ガウス平面と、少なくとも1つの第3レンズ群の分析器側の第3逆平面とを形成し、第2ガウス平面におけるサンプルの第2ガウス結像は、少なくとも1つの第3レンズ群とによって作成され、サンプルからの電子の運動量分布の第3運動量分布結像は第3逆平面に作成される。第3逆平面は、電子結像装置の出射面およびエネルギー分析装置の入射面であり、少なくとも1つの第3レンズ群によって生成される第3運動量分布結像は並列画像である。本発明のこれらの代替実施形態の場合においても、第3逆平面における運動量分布結像の対応する偏向をもたらす運動量分布結像の走査運動が提供される。少なくとも1つの第3レンズ群には、第3逆平面および第2ガウス平面の電子光学形成のために、少なくとも1つの第3レンズ群に適切で適合した制御電圧を印加するように構成される制御回路が設けられる。少なくとも1つの第3レンズ群を設けることは、平行運動量分布結像のビームエネルギーが、例えば、2桁の範囲で、エネルギー分析装置の入射面で変化できるという特定の利点を有する。これはエネルギー分析装置の最適分解能と伝達設定を可能とする。
【0038】
スリットダイアフラムを、第3レンズ群の前の第2逆平面に配置して、エネルギー分析装置の入射スリットを形成することができる(以下、第2実施形態と呼ぶ)。この場合、スリットダイアフラムは、エネルギー分析装置の入射面に直接配置されるのではなく、平行運動量分布結像が生成される第3レンズ群の前の、入射面に共役された第2逆平面に配置される。これにより、平行運動量分布結像が重ねられたスリットダイアフラムの実像が分析器の入射面に生成される。この配置において、電子は、はるかに大きいエネルギーで入射スリットを有利に通過することができ、それにより、エネルギー分析装置におけるその後の結像が改善される。スリットダイアフラムは第2逆平面に配置されているため、スリットダイアフラムはエネルギー分析装置の入射面で実像として結像できる。その結果、物理的なスリットダイアフラムの幅は固定される一方で、有効なスリットダイアフラムの幅と入射面での電子のエネルギーは電子光学的に変化させることができる。
【0039】
代替的に、エネルギー分析装置の入射スリットを形成するスリットダイアフラムは、第3逆平面に配置され、エネルギー分析装置の入射スリットを形成することができ、この場合、第2逆平面にはスリットダイアフラムは配置されない(以下、第3の実施形態とも呼ばれる)。第3の実施形態は、従来の設計、すなわち統合された入射スリット、を備えたエネルギー分析器を使用できるという特定の利点を提供する。
【0040】
本発明のさらなる修正実施形態によれば、それぞれが、第3レンズ群のように構成され、追加のガウス平面および逆平面を提供する第4レンズ群または追加のレンズ群を備えることができる。
【0041】
有利には、偏向器装置を配置するためのさまざまなオプションがある。特に、本発明の第1、第2および第3の実施形態では、偏向器装置は、第1および第2レンズ群の間および第1ガウス平面に配置することができる。あるいは、本発明の第2および第3の実施形態では、偏向器装置は、第3レンズ群および第2ガウス平面に配置することができる。さらなる代替形態によれば、偏向器装置は、第4レンズ群または追加のレンズ群のさらなるガウス平面に配置することができる。
【0042】
電子運動量顕微鏡法の電子光学概念に対するさらに重要な違いは本発明の有利な実施形態によって達成され、第1レンズ群のサンプル側の最前部の電子光学レンズ要素は、サンプルと同じ電位を有するように構成される。有利なことに、これによりサンプルの周囲の領域がフィールドフリーに保たれるため、運動量分解能を損なうような3次元形状による大きなフィールド歪みを生じることなく、高度な3次元構造または微結晶を含むサンプルを検査することも可能である。
【0043】
第2逆平面における運動量分布結像の変位のために、偏向器装置は、特に好ましくは、第1ガウス平面として作用する。第1ガウス平面での配置とは、偏向器装置が可変偏向フィールドを生成することを意味し、これは第1ガウス平面の周りに対称的に狭い範囲で作用する。この実施形態は、電子ビーム全体の特に効果的な偏向という利点を有し、結像装置の出口での運動量結像の平行度が維持される。あるいは、第3レンズ群を提供する場合、単一の偏向器装置を第2ガウス平面に配置し、第2ガウス結像の電子に作用させることができ、運動量結像の平行度は、偏向時に結像装置の出口で同様に維持される。
【0044】
本発明のさらに有利な実施形態によれば、第2レンズ群の分析器側の最後部に配置される電子光学レンズは、第2逆平面の領域にフィールドフリー空間を形成する。代替的または追加的に、第2または第3の実施形態では、第3レンズ群はその端部に境界要素を有し、境界要素は第3レンズ群の両側に隣接するフィールドフリー空間を形成するように構成される。この実施形態は、電子経路の偏向、ひいては運動量結像の歪みにつながるフィールドの静電フィードオーバーを防止する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明のさらなる詳細および利点は、添付の図面を参照して以下に説明される。図面は次のとおり:
【
図1】本発明による電子結像装置の第1の実施形態の概略図、
【
図2】さまざまな励起源によるサンプルの励起に関するガウス結像の生成のさらなる図、
【
図3】本発明による電子結像装置の第2の実施形態の概略図、
【
図4】本発明による電子結像装置の第3の実施形態の概略図、
【
図6】本発明による電子分光計装置の実施形態の概略図、
【
図7】従来の伝達光学システムのビーム軌道の図([特許文献1]から引用)。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、半球型分析器と組み合わせた電子結像装置を例示的に参照して以下に説明される。本発明は、半球形分析器の使用に限定されず、他のタイプのエネルギー分析装置でも実行可能である。サンプルの励起および半球型分析器によるサンプルから放出された電子のエネルギー分布の記録の詳細は、これらがそれ自体従来の技術から知られているため、記載されていない。図面内の電子光学部品の図は概略図である。例えば、減圧空間内での電子光学部品の配置や、間隔を空けたレンズ要素からの電子光学レンズの形成などの詳細は示されていない。一般的に、例えば電子光学レンズおよび関連する制御回路は、従来の伝達光学系から本質的に知られているものと同じであり得る。
【0047】
図は、位置空間において、電子光学軸に沿ったz方向と、これに垂直なxおよびy方向を含む、
図1に示す関連する空間方向を参照して説明されており、エネルギー分析装置200の入射面のスリットダイアフラム201(
図6も参照)は、y方向に延びている。したがって、スリットダイアフラムの方向は、運動量座標k
yの方向と、それに垂直な運動量座標k
xとを定義する。
【0048】
図1は、複数のレンズ群10、30、および 偏向器装置20に配置されているフィールドフリードリフト経路22を有する電子光学カラムに基づく平行運動量分布結像の伝達および横方向変位のための電子光学システムの形態の本発明による電子結像装置100の第1の実施形態を示す。
図1Aは、電子結像装置100の構成を示し、
図1Bは、偏向器装置20がオフの現実的な光学系のシミュレーションされたビーム経路を示し、
図1Cは、
図1Bと同じレンズ設定に対してシミュレートされたビーム経路を示しているが、偏向電極21に適切な電圧を印加することにより偏向器装置20はオンである。
図1B、C、および
図2、3、4の電子軌道のすべての表示においては、個々のビームの詳細をより明確に示すために、動径座標が放射状に拡大されている。レンズ群10、30および偏向器装置20は、電子光学レンズまたは構成要素10、20、および30の電極にエネルギーを供給するための制御回路を含む制御装置50に接続される。電子結像装置100は、サンプル1の表面と第1レンズ群10のフロントキャップ電極11との間が例えば距離15mmでサンプルホルダ101上に配置されており、これによりサンプル1が第1レンズ群10の物体面に位置される。スリットダイアフラム201の長さは、例えば20mmから40mmで、その幅は例えば50μmから2mmである。
【0049】
具体的には、
図1Aによる第1レンズ群10は、フロントキャップ電極11、集束電極12、およびアダプターレンズ13を含む。サンプル1と第1レンズ群10との間にフィールドフリー空間を作り出すために、サンプルホルダ101は、両方の構成要素が同じ電位になるようにフロントキャップ電極11に電気的に接続することができる。第2レンズ群30は、好ましくはズームレンズを形成する、複数のレンズ要素31と、最後部に配置されたレンズ要素とエネルギー分析装置200のスリットダイアフラム201との間にフィールドフリー空間を形成するよう、境界要素32を含む。このため、境界要素32とスリットダイアフラム201とは互いに電気的に接続されている。
【0050】
例えば、第1レンズ群10と第2レンズ群30との間にフィールドフリードリフト経路22を形成するために円筒形要素が設けられ、前記円筒形要素の長さは、隣接するレンズ群のフィードオーバーが低減され、偏向器装置がオフになったときの偏向器装置の位置で、ガウス結像の領域で電子軌道を偏向させる可能性のある有意な電界がなくなるような長さである。
【0051】
偏向器装置20は、例えば、偏向電極21の八重極配置、または別の電極配置(
図5を参照)を含む。偏向器装置20は、単一偏向器であることが好ましい、すなわち、電子は、サンプルと第2逆平面との間の電子光学軸OAに沿って、第1ガウス平面を通過するときに一度だけ偏向される。
【0052】
サンプル1が光で励起されると(
図2も参照)、サンプルから電子2の集団が放出される(
図1B)。電子2は、第1レンズ群10によって、電子光学軸OAに沿ってたとえば±15°などの、所定の放出角度まで結像される。エネルギー分析装置200のスリットダイアフラム201が図面平面に垂直な、xz平面にある電子結像装置100を示す
図1Bによれば、第1レンズ群10は、第1逆平面RP1の電子2を放出するサンプルソーススポットの相互画像と、第1レンズ群10の後焦点面である第1ガウス平面GP1のサンプルソーススポットの第1ガウス結像とを生成する。第2相互画像(平行な部分ビームを有する運動量分布結像)は、第2レンズ群30によりエネルギー分析装置200の入射スリットに結像される。これにより、すべての電子が非常に小さな角度偏差で平行な部分ビームとしてエネルギー分析装置200に入射することが保証される。第1レンズ群10は、第1ガウス平面GP1と電子光学軸OAとの交点が偏向器装置20の偏向面、特に偏向器装置20の中心に位置するように制御される。偏向器装置20上のガウス結像の中心合わせにより、運動量分布結像を、第2逆平面RP2において第2レンズ群30によって生成された平行な部分ビームで正確に平行移動させることができる。偏向器装置20に適切な電圧を印加することにより、
図1Cに示すように、ビームをさらに傾けることなく、第2逆平面RP2内の運動量分布結像の平行移動が可能になる。
【0053】
図1Cは、最適化されたレンズ形状と実用的な測定条件(±15°の角度間隔、従来の真空紫外実験室光源に適したサンプル16eVの運動エネルギー)を提供するために、第1ガウス平面GP1で作用する偏向器装置20の効果を示している。図示された例では、偏向電極21の電圧によって設定された偏向器装置20の電力により、第2逆平面RP2における分析器側の運動量分布結像は運動量半径Rだけ平行に移動する。直径2Rおよび運動量分布結像の平行度は平行移動しても保持される。したがって、制御回路(制御装置50)によって偏向器装置20の偏向力を連続的に変化させることにより、2次元運動量結像を完全に走査することができる。
【0054】
図2は、電子2を生成するための異なる励起源(図示せず)を備えた
図1Bと同様の電子2のビーム軌道を示し、
図2Aはシンクロトロン放射源またはレーザーの光ビームによる励起を示し、
図2Bは集束された真空UV励起源による励起を示し、
図2Cは集束されていない真空UV励起源による励起を示す。
【0055】
角度θは、電子光学軸OAに対するサンプルからの電子の放出角を示し、角度αは、第2逆平面RP2の運動量分布結像の、特定の放出角に対応するビーム束の(半分の)開弁角度を示す。部分ビームのこの開弁角度αの量(
図2Aの詳細では、ほとんど見えないが、
図2Cの詳細では、はっきりと見える)は、サンプル表面の電子源領域のサイズ、したがって励起光ビームの断面とサンプルへの入射角とによって決まる。
【0056】
軌道シミュレーションプログラム(SIMION8.0)を使用して、本発明による電子結像装置100の実用的な実施形態について現実的な計算が実行され、これらのうちの3つが
図2に例として示されている。サンプル1の表面と第2逆平面RP2における運動量分布結像との間の軸座標zに沿った距離は462mmである。電子光学レンズは収差が最小限に抑えられており、この場合、サンプル上のソース領域の縮小結像は、倍率M=0.6でガウス平面GP1に設定されている。本発明では、M>1の倍率であっても、他の倍率も同様に可能である。
【0057】
θ=15°の角度許容範囲のシミュレーションは、次のパラメーターを提供する:3つの場合すべてで、第2逆平面RP2の運動量分布結像の半径Rは4.3mmである。ビームの中心光線の傾き(=平行ビームからの偏差)はすべて<0.09°であり、予想されるように、ソース領域のサイズに依存しない。
【0058】
シンクロトロン放射またはレーザー源による励起の場合(
図2A)、サンプル上の光線の典型的なサイズとして50μmが想定された。θ=15°の大きな角度範囲のため、第1ガウス平面GP1の第1ガウス結像は、第1レンズ群10の球面収差によって拡大され、半径r~40μmである。平面RP2の部分ビームの開弁角度は、α≦0.16°である。この値は、例えば、
図7で示すように、従来の伝達レンズシステムの対応する角発散の値よりも2桁近く小さい。
【0059】
集束真空UV光源(
図2B)は200μmの典型的な光スポットサイズである。この場合、第1ガウス平面GP1の第1ガウス結像の半径は80μmであり、ビームの開弁角度、つまり平面RP2の運動量結像の結果の角発散はα≦0.2°である。
【0060】
集束されていない真空UV実験室光源(
図2C)の場合、励起光ビームは典型的な直径、たとえば0.5mmであり、第1ガウス平面GP1で、半径r=155μmの第1ガウス結像を生成する。ここで、平面RP2でのビームの開弁角度はα≦0.35°である。
図2Cの詳細は、小さな角度を明確にするために半径方向に大きく拡大されている。この場合も、第2逆平面RP2における運動量分布結像は鋭く集束され、電子は、最小の発散で平行ビームとしてエネルギー分析装置200に入る。
【0061】
図3は、本発明による電子結像装置100の第2の実施形態の好ましい変形例を示し、
図1のように、構成要素10、20および30およびその部品が設けられている。第1の実施形態とは異なり、第3レンズ群40が追加され、これにより、第2ガウス平面GP2のスリットダイアフラム201の背面の分析器側に第2ガウス結像が生成され、第3逆平面RP3に平行な部分ビームを有する第3運動量分布結像が生成される。第3逆平面RP3はエネルギー分析装置200の入射面であり、そのため、電子2は平行束としてエネルギー分析装置200に入る。第3レンズ群40は、ズームレンズを形成する電子光学レンズ要素42を含む。レンズ要素42および関連する制御回路(図示せず)は、エネルギー分析装置200のエネルギーおよび/または運動量分解能を最適化するために、電子エネルギーおよび逆平面RP3内の運動量分布結像の横倍率が可変であるように構成される。レンズ要素42を含むズームレンズの両端には、ズームレンズの端にフィールドフリー空間を作成し、スリットダイアフラム201の領域からの電界のフィードオーバーおよびエネルギー分析装置200の第3逆平面RP3への進入を最小限に抑えるように配置された境界要素41および43がある。この実施形態では、エネルギー分析装置200の入射面にスリットダイアフラム201の結像があるが、物理的なスリット、すなわち物理的なスリットダイアフラムはない。
【0062】
図4は、本発明による電子結像装置100の第3の実施形態の好ましい変形例を示し、レンズ要素42および境界要素41、43を有する第3レンズ群40も設けられている。しかし、第3の実施形態では、スリットダイアフラム201は、エネルギー分析装置200の入口の第3逆平面RP3に配置される。この場合も、第3レンズ群40は、ズームレンズを形成するレンズ要素42を含み、これは、エネルギー分析装置200のエネルギー分解能および運動量分解能を最適化するために、電子エネルギーおよび第3逆平面RP3における運動量分布結像の横方向倍率を広い範囲で変化させることができる。この場合、一体式入射スリットを備えた従来のエネルギー分析器を使用できる。
【0063】
図5は、様々な実施形態で提供できる偏向器装置20の変形例を示す。したがって、
図5Aによる偏向器装置20は、少なくとも2つの電極21(平行板偏向器と呼ばれる)、または
図5Bによると、1つの平面に4つの電極21(xy偏向器と呼ばれる)、または
図5Cによると、1つの平面に8つの電極21(八重極配置または八重極偏向器と呼ばれる)を含む。
図5Cによる実施形態は、
図1Bおよび1Cに示されるように、偏向面をx方向に正確に沿って、すなわち、入射スリット201の方向に正確に垂直に整列させるために、8つの電極21の適切な電圧によって任意の平面で偏向が起こり得るため、特に有利である。さらに、八重極配置により、走査処理中に発生する可能性のある縦方向の漂遊磁界による望ましくない結像回転を補正することができる。
【0064】
図6は、例えば
図1、3または4のいずれかによる電子結像装置100を含む電子分光計装置300、および、電子検出器202を備えた半球型分析器の形態のエネルギー分析装置200の実施形態の図である。電子分光法の実施において、サンプルホルダ101上のサンプル1から放出された電子は、電子結像装置100によって電子光学軸OAに沿ってエネルギー分析装置200に伝達される。電子のエネルギーおよび運動量分布は、スリットダイアフラム201に沿った第1運動量座標に沿って、および、スリットダイアフラム201に垂直な運動量分布結像の段階的変位を介して、電子の運動量分布結像をキャプチャすることによって記録され、これにより、完全な2次元運動量分布を記録できる。
【0065】
上記明細書、図面、および特許請求の範囲に開示された本発明の特徴は、個々に、または組み合わせて、または部分的に組み合わせて、その様々な実施形態で本発明を実現するために重要である。
【符号の説明】
【0066】
100 電子結像装置
101 サンプルホルダ
200 エネルギー分析装置
201 スリットダイアフラム
202 電子検出器
300 電子分光計装置
1 サンプル
2 電子
10 第1レンズ群
11 フロントキャップ電極
12 集束電極
13 アダプターレンズ
20 偏向器装置
21 偏向要素
22 ドリフト経路
30 第2レンズ群
31 レンズ要素
32 境界要素
40 第3レンズ要素
41 境界要素
42 ズームレンズ
43 境界要素
50 制御装置
RP1 第1逆平面(運動量結像面)
GP1 第1ガウス平面(現実空間結像平面)
RP2 第2逆平面
GP2 第2ガウス平面
RP3 第3逆平面
OA 光学軸
θ OAに対する放射角度
α ビーム束の開弁角度
R 運動量分布結像の半径
r ガウス結像の半径
x、y、z 方向座標
kx、ky、kz 運動量座標