(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20241028BHJP
F16J 15/06 20060101ALI20241028BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
F16J15/34 H
F16J15/06 C
F16J15/10 D
(21)【出願番号】P 2020215573
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】奥園 悠高
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/090869(WO,A1)
【文献】独国実用新案第20105507(DE,U1)
【文献】特開2019-158025(JP,A)
【文献】特開2005-133852(JP,A)
【文献】特開2009-138867(JP,A)
【文献】国際公開第2011/122256(WO,A1)
【文献】特開2006-144902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16J 15/06
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端の開口が機外に、他端の開口が静止密封環及び回転密封環の摺動面よりも被密封流体側に開放されている流路を備えるメカニカルシールであって、
前記メカニカルシールのハウジングは、本体と、前記本体に形成された貫通部または凹部に挿入配置された非金属材製のブロック体と、を具備し、
前記ブロック体には、流体を導く貫通路が形成され、当該貫通路は前記流路の少なくとも一部を構成して
おり、
前記ブロック体の前記貫通路は、前記一端の開口が前記ハウジングの軸方向に開放されているメカニカルシール。
【請求項2】
一端の開口が機外に、他端の開口が静止密封環及び回転密封環の摺動面よりも被密封流体側に開放されている流路を備えるメカニカルシールであって、
前記メカニカルシールのハウジングは、本体と、前記本体に形成された貫通部または凹部に挿入配置された非金属材製のブロック体と、を具備し、
前記ブロック体には、流体を導く貫通路が形成され、当該貫通路は前記流路の少なくとも一部を構成して
おり、
前記静止密封環には、前記流路の一部を構成する連通路が形成されており、
前記ブロック体の前記貫通路及び前記静止密封環の前記連通路は、前記ブロック体及び前記静止密封環の間に設けられたシール手段によって当該シール手段の外側に対して密封された状態で連通されているメカニカルシール。
【請求項3】
前記シール手段は、前記ブロック体及び前記静止密封環に嵌入される非金属材製のパイプと、当該パイプの外周に取り付けられたシール部材と、によって構成されている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記ブロック体の前記貫通路は、前記他端の開口が前記ハウジングの径方向内径側に開放されている請求項1
ないし3のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記ブロック体の前記貫通路は、流体が通過可能なコネクタが前記一端の開口に接続されている請求項1ないし
4のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記ブロック体は、柱状に形成されている請求項1ないし
5のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記ブロック体は、樹脂材製である請求項1ないし
6のいずれかに記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部品の周囲とメカニカルシールの機外との間で流体を流通させるための流路を備えるメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な分野において、被密封流体の漏出・混合を防止するためにシールが利用されている。このようなシールの一例として、自動車、一般産業機械等において、回転機械の回転軸を軸封可能な軸封装置が知られており、その中でも特にメカニカルシールは、高圧の被密封流体を密封できる点で幅広い分野で利用されている。
【0003】
メカニカルシールは、一対の環状の摺動部品が相対回転可能に構成され、回転軸の回転に伴ってそれぞれの摺動部品の摺動面同士が密接摺動することで、被密封流体の漏出を防止している。このようなメカニカルシールには、摺動部品の周囲とメカニカルシールの機外に連通する流路を用いて流体を流通させることが可能となっているものがある。このような流路を利用して、例えば流路を流れる流体により摺動部品同士の摺動に伴い生じた摩耗粉を排出可能となっているものもある。
【0004】
このようなメカニカルシールの一例として特許文献1に示される外部に流体を誘導する流路は、静止密封環に形成された径方向に貫通する連通路と、ハウジングを径方向に直線状に貫通する貫通孔と、当該貫通孔に挿入され静止密封環の連通路に連通可能に接続されたパイプとから構成されている。これにより、パイプの機外側の開口に吸引ポンプのコネクタを接続して吸引することで、回転密封環と静止密封環との密接摺動により生じた摩耗粉を被密封流体と共に流路を通過させて、排出することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許5593519号公報(第8頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摺動部品の周囲とメカニカルシールの機外との間で流体を流通させるような流路を持つメカニカルシールにあっては、周辺の機器や設備の関係で流体の流通方向、ハウジングの貫通孔の位置、流路の配置が設定される。しかし、特許文献1のようにハウジングに直線状の貫通孔を形成し、パイプを通じて流体を導くような構造を採用した場合に、流路の配置、形状が制限されてしまい、流路の機外に開放された開口の向きについて設計自由度が乏しく、流路の構成や組立てが煩雑となっていた。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、設計自由度が高い流路を簡単に組立て可能としたメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
一端の開口が機外に、他端の開口が静止密封環及び回転密封環の近傍に開放されている流路を備えるメカニカルシールであって、
前記メカニカルシールのハウジングは、本体と、前記本体に形成された貫通部または凹部に挿入配置された非金属材製のブロック体と、を具備し、
前記ブロック体には、流体を導く貫通路が形成され、当該貫通路は前記流路の少なくとも一部を構成している。
これによれば、ハウジングの本体に対して別体であるブロック体に流路を構成する貫通路を予め形成することができるため、流路の機外への開口方向を自由に設計可能であり、かつ流路を簡単に組立て可能である。加えて、貫通路が形成されたブロック体が非金属材で形成されていることから非金属材製の流路として利用することができる。
【0009】
前記ブロック体の前記貫通路は、前記一端側の開口が前記ハウジングの軸方向に開放されていてもよい。
これによれば、ハウジングの外径端よりも内径側にて貫通路を機外に連通させることが可能となるため、メカニカルシールの径方向寸法を小さくすることができる。
【0010】
前記ブロック体の前記貫通路は、前記他端側の開口が前記ハウジングの径方向内径側に開放されていてもよい。
これによれば、ハウジングの内側に連通する構造を簡素に構成することができる。
【0011】
前記静止密封環には、前記流路の一部を構成する連通路が形成されており、
前記ブロック体の前記貫通路及び前記静止密封環の前記連通路は、前記ブロック体及び前記静止密封環の間に設けられたシール手段によって当該シール手段の外側に対して密封された状態で連通されていてもよい。
これによれば、静止密封環及び回転密封環の周りに流体を流すことが可能な流路を簡素かつコンパクトに構成することができる。
【0012】
前記シール手段は、前記ブロック体及び前記静止密封環に嵌入される非金属材製のパイプと、当該パイプの外周に取り付けられたシール部材と、によって構成されていてもよい。
これによれば、連通路及び貫通路を容易に連通させることができる。
【0013】
前記ブロック体の前記貫通路は、流体が通過可能なコネクタが前記一端側の開口に接続されていてもよい。
これによれば、コネクタと貫通路との間で流体を直接通過させることができるため、確実にコネクタ及び貫通路内を通過する流体への金属イオンの溶出を防止することができる。
【0014】
前記ブロック体は、柱状に形成されていてもよい。
これによれば、本体及びブロック体の相対的な位置合わせが容易となる。
【0015】
前記ブロック体は、樹脂材製であってもよい。
これによれば、ブロック体を本体の貫通部または凹部に圧入して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る実施例1の非金属材製の流路が適用されたメカニカルシールの一部を破断して示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る実施例1の非金属材製の流路の断面図である。
【
図3】本発明に係る実施例1の非金属材製の流路の組立手順について説明するための図である。
【
図4】
図3に続いて、実施例1の非金属材製の流路の組立手順について説明するための図である。
【
図5】
図4に続いて、実施例1の非金属材製の流路の組立手順について説明するための図である。
【
図6】
図5に続いて、実施例1の非金属材製の流路の組立手順について説明するための図である。
【
図7】本発明に係る実施例2の非金属材製の流路の断面図である。
【
図8】本発明に係る実施例3の非金属材製の流路の断面図である。
【
図9】本発明に係る別形態の非金属材製の流路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る非金属材製の流路が構成されたメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1に係る非金属材製の流路が構成されたメカニカルシールにつき、
図1~
図6を参照して説明する。以下、
図2の正面から見て上下をメカニカルシールの上下として説明する。詳しくは、紙面上側をメカニカルシールの上側、紙面下側をメカニカルシールの下側として説明する。尚、本実施例1においては、メカニカルシールを構成する一対の摺動部品の摺動面より内径側を被密封流体側、外径側を大気側として説明する。
【0019】
図1に示される回転機械用のメカニカルシールMは、内径側の高圧の被密封流体Fの内径側から外径側の大気A中への漏れを密封するアウトサイド形であり、例えば半導体製品、食品、医薬品等の製造に使用される回転機械に適用されるものである。また、非金属材製の流路3が構成されており、図示しない吸引ポンプにより、流路3の端部に接続したコネクタ9を通じて摩耗粉を被密封流体Fと共に排出することが可能となっている。尚、被密封流体Fは液体であっても気体であってもよい。
【0020】
図1,
図2に示されるように、メカニカルシールMは、回転軸1と共に回転可能な状態で設けられた円環状の摺動部品としての回転密封環20と、非回転状態で設けられた円環状の摺動部品としての静止密封環10と、回転機械のケースに対して静止密封環10を非回転状態で保持するハウジング5と、から主に構成されている。回転密封環20は、図示しないコイルスプリングによって軸方向に付勢されており、静止密封環10の摺動面11と回転密封環20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。
【0021】
また、メカニカルシールMは、ハウジング5の内径側及び軸方向下方側、言い換えるとハウジング5の内側S1には静止密封環10が固定されている。
【0022】
回転密封環20は、充填材入PTFE(Polytetrafluoroethylene)によって円環状に形成されており、静止密封環10は、シリコンカーバイドによって円環状に形成されている。すなわち、静止密封環10、回転密封環20共に非金属材で形成されている。尚、静止密封環10、回転密封環20の材質は、例えばセラミック、合成樹脂、カーボン等の非金属材であれば適宜変更されてもよい。
【0023】
回転密封環20はカラー22に外嵌され回転軸1と共に回転可能かつ回転軸1に対して相対的に軸方向に移動可能となっている。具体的には、スリーブ2は回転軸1と共に回転可能な状態で設けられており、カラー22はスリーブ2に固定されており、ドライブボルト23はカラー22の貫通孔に挿通されスプリング受部品24に螺合固定されており、図示しないコイルスプリングがカラー22とスプリング受部品24との間に配置されて両者を相対的に離間方向に付勢しており、スプリング受部品24はコイルスプリングの付勢力を受けて回転密封環20を静止密封環10側に押圧しており、ドライブピン25はスプリング受部品24及び回転密封環20それぞれのスリットに挿入固定されて両者の相対回動を規制している。
【0024】
静止密封環10には、その周方向の一か所に径方向に貫通する連通路12が形成されている。連通路12は、内径端から外径側に直線状に延びる小径孔部13と、小径孔部13に連続して外径端に直線状に延びる大径の大径孔部14とから構成されている。
【0025】
また、静止密封環10には、軸方向下方側から断面視L字状に形成された円環の異物受部材30が圧入固定されている。より詳しくは、異物受部材30の凸部31とフランジ32は、静止密封環10の凸部15を上下方向から挟み込むことで異物受部材30の上下方向の移動が規制されている。異物受部材30の軸方向に延びる筒状部33と、静止密封環10及び回転密封環20との間は、被密封流体F側の空間の一部である異物受部35となっている。
【0026】
また、筒状部33の上端が静止密封環10及び回転密封環20の摺動面11,21よりも軸方向上方、すなわち回転密封環20側に位置しているため、摺動面11,21同士の密接摺動により生じた摩耗粉が筒状部33を超えて被密封流体Fの主部側に混入することを防止しつつ、摩耗粉を異物受部35内に回収することができる。
【0027】
また、静止密封環10の連通路12は、小径孔部13の開口13aが異物受部35に開放されて連通している。ここで、連通路12の開口13aは、本発明における流路の他端の開口である。
【0028】
ハウジング5は、金属材により円環状に一体形成された本体50と、樹脂材であるPEEK(Polyetheretherketone)によって略直方体状に一体形成された柱状のブロック体6によって構成されている。尚、ブロック体6は、PTFE等、PEEK以外の樹脂材によって形成されていてもよく、セラミック等で形成されていてもよく、非金属材で形成されていればよい。また、樹脂材によって形成される場合は、グラスファイバ、カーボンファイバ等の強化材が配合されていることが好ましい。
【0029】
本体50は、周方向の一か所に軸方向に貫通する断面矩形状の貫通部51と、軸方向下方部かつ内径側には静止密封環10の外径端部を挿嵌可能な環状凹部52が形成されており、貫通部51の下端部かつ内径側は環状凹部52に連通している。
【0030】
貫通部51には、ブロック体6が挿入配置されている。より詳しくは、ハウジング5の径方向におけるブロック体6の断面積は、本体50の貫通部51の断面積と略同じか僅かに小さく形成されているため、ブロック体6は貫通部51に挿入された状態となっている。
【0031】
ブロック体6には、穿孔器具により穿孔されて断面視逆向きL字状の貫通路60が形成されており、貫通路60は、断面視逆向きL字状に形成された小径孔部61と、小径孔部61の内径側端に連続する内側大径孔部62と、小径孔部61の軸方向上端に連続する外側大径孔部63から構成されている。尚、貫通路60は、鋳造、型抜き形成等、穿孔以外の種々の方法により形成されていてもよい。また、ブロック体は、複数に分割されている部材が組み合わされて形成されている構成であってもよいが、貫通路の密封性を考慮すると一体成型されているものが好ましい。
【0032】
また、内側大径孔部62の開口62aはハウジング5の内側S1に開放されて連通しており、外側大径孔部63の開口63aはハウジング5の外側S2に開放されて連通している。ここで、開口62aは本発明における貫通路の他端側の開口であり、開口63aは本発明における貫通路の一端側の開口である。
【0033】
また、外側大径孔部63には、その軸方向上端部に雌ねじ64が形成されており、コネクタ9の先端に形成された雄ねじを螺合させることが可能となっている。外側大径孔部63の開口63aは、ハウジング5の外側S2に開放されており、コネクタ9を通じてメカニカルシールMの機外にある図示しない吸引ポンプ内に連通している、本発明における流路の一端の開口である。
【0034】
また、静止密封環10及びブロック体6は、樹脂材で形成された円筒状のパイプ80と、パイプ80の軸方向両端部に外嵌された各Oリング81によって、連結されている。より詳しくは、パイプ80は、静止密封環10側に配置されている端部がOリング81と共に静止密封環10の大径孔部14内に圧入固定され、ブロック体6側に配置されている端部がOリング81と共にブロック体6の内側大径孔部62内に圧入固定されている。
【0035】
これにより、静止密封環10の連通路12及びブロック体6の貫通路60は、パイプ80の貫通流路80aを通じて連通され、静止密封環10及びブロック体6との隙間に対して密封されて、非金属材製の流路3が構成されている。ここで、パイプ80及び各Oリング81は、本発明におけるシール手段であり、Oリング81は本発明におけるシール部材である。
【0036】
次に、メカニカルシールM、特にその非金属材製の流路3の組立手順について、
図2~
図6を参照して説明する。本説明において、静止密封環10の連通路12、パイプ80の貫通流路80a、ブロック体6の貫通路60は、流路3の組立てを行う前に予め形成されている。
【0037】
まず、
図3に示されるように、静止密封環10の大径孔部14にパイプ80の被密封流体F側に配置された端部をOリング81(
図2参照)と共に圧入する。
【0038】
次いで、ブロック体6の内側大径孔部62(
図2参照)の軸心とパイプ80の大気A側端部との軸心の位置合わせを行い、ブロック体6をパイプ80に向かって押し込む。これにより、ブロック体6の内側大径孔部62内にパイプ80の大気A側端部がOリング81と共に圧入された状態となり、
図4に示されるように、ブロック体6が静止密封環10に連結保持される。
【0039】
この状態では、静止密封環10の平坦面10aに、対向配置されたブロック体6の平坦面6a(
図6参照)が面当接した状態となっている。このように、静止密封環10の平坦面10aに対してブロック体6の平坦面6aを面当接させることで、相対的な位置合わせがなされるため、位置決めが容易である。尚、静止密封環には平坦面が形成されておらず、ブロック体に凹状の湾曲面が形成されており、当該湾曲面が静止密封環の湾曲する外周面に当接される構成であってもよい。
【0040】
そして、軸方向上方側から本体50の貫通部51内にブロック体6を挿入させながら本体50をブロック体6及び静止密封環10に向かって押し込み、
図5に示されるように、本体50を静止密封環10に外嵌させる。このとき、静止密封環10が本体50の環状凹部52の軸方向上方側の内周面に当接される(
図2参照)ため、静止密封環10と本体50との軸方向における相対的な位置合わせが成される。この手順についてより詳しくは、まず本体50の貫通部51とブロック体6との位置合わせを行う。
【0041】
このとき、
図3を参照して、静止密封環10の大径孔部14及びブロック体6の内側大径孔部62は、それぞれ円筒空間となっているため、ブロック体6をパイプ80の周方向に回動させることが可能となっている。これにより、本体50の貫通部51の軸心とブロック体6の軸心との位置合わせが容易である。
【0042】
また、ブロック体6がパイプ80及び各Oリング81を介して静止密封環10に保持されていることから、手でブロック体6を把持する等、ブロック体6が移動しないようにする必要もなく簡便に本体50の貫通部51にブロック体6を挿入させることができる。
【0043】
次いで、ボルト53を本体50の下側から本体50の雌ねじ部に螺合させ、
図6に示されるように、本体50及びブロック体6の下面に構成される凹部にボルト53の頭部54を一部収容させるとともに、頭部54の雄ねじ側の端面を本体50の軸方向下面50dとブロック体6の軸方向下面6dとを跨いだ状態で当接させる。これにより、ブロック体6の抜け止めが成される。このようにして流路3の組立てが完了する。
【0044】
また、ブロック体6は、静止密封環10の平坦面10a(
図3参照)と本体50の周壁50aによって四方が囲まれた状態で挿入されているため、貫通部51の軸に直交する方向への抜け止めが成されている。
【0045】
尚、流路3の組立手順は、上述したものに限らず適宜変更されてもよい。
【0046】
以上説明したように、本実施例1の流路3は、ハウジング5の本体50に対して別体であるブロック体6に流路3を構成する貫通路60を予め形成することができるため、流路3のハウジング5の外側S2への開口方向を自由に設計可能であり、かつ流路3を簡単に組立て可能である。したがって、周辺の機器や設備の配置形状に合わせて流路3を簡単に設計、配置することができる。
【0047】
より詳しくは、貫通路60は、断面視逆向きL字状の貫通路60に限らず、直線状の貫通路、クランク状の貫通路等が形成されていてもよく、ブロック体6に形成可能な形状であれば適宜変更することが容易である。
【0048】
さらに、貫通路の形状がいずれの形状であっても、本体50の貫通部51に挿入配置可能なブロック体6であれば、ブロック体6を貫通部51に挿入配置することで貫通路を備えるハウジング5を形成することができるため、例えばハウジングに形成した貫通部の形状に沿って形成されたパイプを挿入するような構成と比較して、ブロック体6に形成可能な貫通路であれば継ぎ目無く一連の貫通路を形成可能であることから設計自由度が高い。尚、貫通路の一方側の開口の開放方向と本体の貫通部または凹部の開放方向とが略同一方向であることは言うまでもない。
【0049】
加えて、貫通路60が形成されたブロック体6が非金属材で形成されていることから非金属材製の流路3として利用することができる。これにより、例えば被密封流体Fに金属イオンが溶出することが忌避される半導体製品、食品、医薬品等に使用される物質を扱うポンプや撹拌機のような回転機械であっても、メカニカルシールMを適用することができる。
【0050】
また、本体50の貫通部51は、ハウジング5の軸方向と平行に延びてハウジング5の外側S2に開放されており、貫通部51に挿入されているブロック体6の貫通路60は、外側大径孔部63の開口63aがハウジング5の軸方向に開放されているため、ハウジング5の外径端よりも内径側にて貫通路60をハウジング5の外側S2に連通させることが可能となることから、メカニカルシールMの径方向寸法を小さくすることができる。
【0051】
加えて、本体50の貫通部51は、外側大径孔部63の開口63aがハウジング5の軸方向上方側、すなわち静止密封環10に対向配置されている回転密封環20側に開放されており、例えば貫通部の一方側の開口が軸方向下方側に開放されている構成と比較して、メカニカルシールMの軸方向寸法を利用してコネクタ9の寸法を許容することができる。すなわち、コネクタ9接続時における軸方向寸法を小さくすることができる。
【0052】
また、ブロック体6の貫通路60は、内側大径孔部62の開口62aがハウジング5の径方向内径側に開放されているため、例えば貫通路の他方側の開口がハウジングの軸方向に開放されている場合と比較して、静止密封環10の連通路12または異物受部35に連通させるために別途構造を設けることを省略することができるため、貫通路のハウジング5の内側S1に連通する構造を簡素に構成することができる。
【0053】
また、ブロック体6の貫通路60は、内側大径孔部62の開口62aがパイプ80の貫通流路80aを通じて静止密封環10の連通路12に連通しているため、例えば静止密封環に連通路が形成されておらず、この静止密封環を回り込むように延びる流路が形成されている構成(
図9参照)と比較して、メカニカルシールMの軸方向寸法を小さくすることが容易であるため、流路3を構成するための構造をコンパクトにすることができる。
【0054】
さらに、互いに非金属材製である静止密封環10及びブロック体6の間がパイプ80及び各Oリング81によって密封されることで流路3が構成されていることから、流路3を流れる流体が本体50に接触することが防止されている。これにより、例えば
図9に示されるライニング層305aのように、本体50に対して非金属材をライニングする必要がないため、流路3を簡素かつ低コストで構成可能となっている。
【0055】
また、本実施例1のシール手段は、パイプ80及び2つのOリング81によって構成されているため、連通路12及び貫通路60を容易に連通させることができる。
【0056】
また、貫通路60は、外側大径孔部63にコネクタ9が接続されていることから、金属材製の本体50等に流体が接触することなく流路3内からコネクタ9内に導出させることができる。すなわち、確実にコネクタ9及び貫通路60内を通過する流体への金属イオンの溶出を防止することができる。また、本体50に対する非金属材のライニングを省略することができる。すなわち、簡素かつ低コストで流路3を構成可能である。
【0057】
また、ブロック体6は、柱状に形成されているため、例えば立方体状や球体状に形成されている場合と比較して、本体50の貫通部51への挿入方向が判別しやすい。特に本実施例1のブロック体6は角柱状でありその断面が矩形状であって、ブロック体6を貫通部51に挿入するにあたって回止の機能を有するため、本体50及びブロック体6の相対的な位置合わせが容易となるとともに組立て後の位置が安定する。尚、ブロック体6は、その断面が非円形例えば多角形状や楕円状であれば回止を成すことができるため、矩形状に限定されるものではない。
【0058】
また、ブロック体6は樹脂材製であるため、本体50の貫通部51に圧入して固定してもよい。これにより、ブロック体6の抜け止めを成すことができるばかりでなく、本体50に対して相対的な移動や振動が生じにくくなるため、ブロック体6の摩耗を抑止することができる。
【0059】
また、流路3は、非金属材製の静止密封環10の連通路12と、樹脂材製のパイプ80の貫通流路80aと、樹脂材製のブロック体6の貫通路60によって構成されていることから、例えば金属材製の静止密封環に形成された連通路の内周面に非金属材をライニングした構成と比較して構造が簡単である。
【0060】
また、ハウジング5の本体50は、一体形成されているため、複数に分割された部品が連結されて構成されるハウジングと比較して、一体に組立てる手順が不要であるため組立てが簡素であるとともに、その構造強度を高めやすくなっている。
【0061】
また、ブロック体6は、剛性の高い静止密封環10の平坦面10a(
図3参照)と剛性の高い本体50の周壁50aによって四方が囲まれた状態で挿入されているため、その強度が確保されている。特に、外側大径孔部63を含むブロック体6の上端部は、一体に形成されている本体50の周壁50aによって囲まれているため、コネクタ9との接続部分の外側大径孔部63の強度を確保できる。
【0062】
また、静止密封環10には平坦面10aが形成されており、例えば静止密封環の外周面の曲率に合わせてブロック体の端面を加工するよりも、その加工が容易である。
【0063】
また、ボルト53は、ブロック体6よりも構造強度の高い本体50に螺合されているため、ボルト53の締結強度が高く、ブロック体6が抜け出しにくくなっている。
【実施例2】
【0064】
次に、非金属材製の流路の実施例2について、
図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0065】
図7に示されるように、実施例2の流路103は、静止密封環10の連通路12と、ブロック体106の貫通路60によって構成されている。また、静止密封環10とブロック体106との隙間はシール手段であるOリング181によって密封されている。これにより、前記実施例1と比較して、少ない部品点数で流路103が構成されている。
【0066】
また、ハウジング105の本体150には、周方向の一部において軸方向に貫通する断面視凸状の凹部151が形成されており、ブロック体106は、凹部151の挿嵌可能に、断面視凸状に形成されている。
【0067】
これにより、凹部151の上端部にて中央に向かって張り出す庇151aに、ブロック体106の環状端面106uを当接させ、前記実施例1と同様にボルト53を本体150に螺合させることで、ブロック体106の軸方向への抜け止めを成すことができる。
【0068】
また、本実施例2の流路103は、本体150の凹部151にブロック体106を挿入してハウジング105を組立てた後、軸方向上方側からハウジング105を静止密封環10に外嵌させることで組立てることができる。尚、静止密封環10の平坦面10aとブロック体106の平坦面6aとを面当接させた状態で、軸方向上方側から本体150を外嵌させてもよい。
【0069】
尚、Oリング181は、静止密封環10の大径孔部14に嵌入されている構成であるが、これに限らず、ブロック体106に形成された内側大径孔部62(
図2参照)に嵌入されていてもよい。また、Oリング181は、大径孔部14及び内側大径孔部62のような円筒凹状に形成された部分に嵌入されている構成に限らず、環状溝に嵌入されていてもよく、その支持形状は適宜変更されてもよい。
【実施例3】
【0070】
次に、非金属材製の流路の実施例3について、
図8を参照して説明する。尚、前記実施例1,2と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0071】
図8に示されるように、実施例3の流路203は、静止密封環10の連通路12と、周方向に沿ってラウンドしながらブロック体206の内径側から外径側に向かって貫通する弧状の貫通路160によって構成されている。
【0072】
また、ハウジング205の本体250には、ハウジング205の径方向に貫通して、外径側端部が縮径されている断面視横向き凸状の凹部251が形成されており、凹部251の軸方向外径側の庇251aに、ブロック体206の環状端面206uを当接させ、静止密封環10に外嵌させることで、ブロック体206の径方向への抜け止めが成されている。
【0073】
そして、前記実施例1と同様にボルト53を本体250に螺合させることで、凹部251の内周面とボルト53の頭部54によってブロック体206の軸方向への抜け止めが成されている。
【0074】
尚、Oリング181は、静止密封環10の大径孔部14に嵌入されている構成であるが、これに限らず、ブロック体206に形成された内側大径孔部62(
図2参照)に嵌入されていてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0076】
例えば、前記実施例では、流路は流体及び摩耗粉を排出させるためのものであるとして説明したが、これに限らず、例えば冷却用の流体、加温用の流体、摺動面間の潤滑を向上させるための流体等を機外から静止密封環及び回転密封環の近傍に供給するためのものであってもよく、適宜変更されてもよい。
【0077】
また、静止密封環及び回転密封環の近傍は、異物受部である構成として説明したが、これに限らず、例えば異物受部以外の被密封流体側であってもよく、大気側であってもよく、コイルスプリング、ドライブピン等であってもよく、静止密封環及び回転密封環の摺動面間であってもよく、ハウジングの内側かつ静止密封環及び回転密封環の近傍であれば適宜変更されてもよい。より好ましくは、静止密封環及び回転密封環が配置される空間と同じ空間であるとよい。
【0078】
また、前記実施例では、ブロック体はハウジングの周方向1か所に設けられている構成として説明したが、これに限らず、周方向に複数箇所に設けられていてもよく、限定されるものではない。
【0079】
また、静止密封環には連通路が形成されている構成として説明したが、これに限らず、
図9に示されるように、静止密封環110に連通路が形成されていなくともよい。具体的には、断面視逆向きL字状に形成されたブロック体306に、ブロック体306の形状に沿って貫通路360を形成して本体350と共にハウジング305を組立てることで、部品点数を増やすことなく貫通路360のみで流路を構成することができる。このような構成であれば、本体350には、流体と接触する可能性のある個所に非金属材によるライニング層305aを形成することが好ましい。
【0080】
また、回転密封環は、非金属材により形成されている構成として説明したが、これに限らず、金属材で形成された後、非金属材でライニングされていてもよい。これは、静止密封環であっても同様であり、連通路が形成されている場合には、連通路の内周面も非金属材でライニングされていればよい。
【0081】
また、ブロック体には、コネクタが接続される構成として説明したが、これに限らず、例えば流体が貯留される貯留空間の底部をブロック体が構成している等、コネクタを用いらずに流体が流出入される開口として利用されてもよい。
【0082】
また、流路の一端の開口は、貫通路の外側大径孔部の開口である構成として説明したが、これに限らず、外側大径孔部と連続するように別途組付けられた流路構成部材の開口であってもよく、適宜変更されてもよい。同様に、流路の他端の開口は、連通路の小径孔部の開口である構成として説明したが、これに限らず、小径孔部と連続するように別途組付けられた流路構成部材の開口であってもよく、適宜変更されてもよい。
【0083】
また、シール手段は、パイプ、Oリング等として説明したが、これに限らず、ガスケット、接着材による接着等であってもよく、適宜変更されてもよい。
【0084】
また、ブロック体は、凹部に挿入されている構成として説明したが、これに限らず、凹部の断面積よりも断面積が大きいブロック体が当該凹部に圧入されている構成であってもよく、ブロック体と凹部の内周面との間にシール部材が配置されてこれらの隙間が密封されている構成であってもよく、適宜変更されてもよい。
【0085】
また、本体は、一体形成されている構成として説明したが、これに限らず、複数に分割されていてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 回転軸
2 スリーブ
3 流路
5 ハウジング
6 ブロック体
9 コネクタ
10 静止密封環
12 連通路
13a 開口(他端の開口)
20 回転密封環
35 異物受部(静止密封環及び回転密封環の近傍)
50 本体
51 貫通部
60 貫通路
62a 開口(一端側の開口)
63 外側大径孔部
63a 開口(一端の開口,一端側の開口)
80 パイプ(シール手段)
81 Oリング(シール手段,シール部材)
103,203 流路
105,205 ハウジング
106,206 ブロック体
150,250 本体
151,251 凹部
160 貫通路
181 Oリング(シール手段)
305 ハウジング
306 ブロック体
350 本体
360 貫通路(流路)
A 大気
F 被密封流体
M メカニカルシール
S1 内側
S2 外側