(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20241028BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20241028BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20241028BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241028BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B05D3/10 E
B05D7/02
B05D7/24 302C
B32B9/00 Z
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2021126063
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 慶
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 一成
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-193303(JP,A)
【文献】特開昭59-202230(JP,A)
【文献】特開2003-013391(JP,A)
【文献】特開2012-229052(JP,A)
【文献】特開2004-174782(JP,A)
【文献】特開2003-072763(JP,A)
【文献】国際公開第2015/067739(WO,A1)
【文献】特開2015-093436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B05D1/00-7/26
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
B65D65/00-65/46
C23C16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層上にロジン層を介して積層されるダイヤモンドライクカーボン層を有する積層体。
【請求項2】
前記基材層の75重量%以上の成分が前記ポリオレフィンである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基材層が繊維材料を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記繊維材料が植物繊維を含む、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
容器の少なくとも一部を形成する、請求項1~4の何れか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材層を準備する準備工程と、前記基材層上にロジンを塗布することで前記ロジン層を形成する塗布工程と、前記ロジン層上にダイヤモンドライクカーボンを蒸着させることで前記ダイヤモンドライクカーボン層を形成する蒸着工程と、を有する、請求項1~5の何れか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層上に積層されるダイヤモンドライクカーボン層を有する積層体が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリエステルを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層に、良好なバリア性を発揮できるダイヤモンドライクカーボン層を積層することは知られている。しかし、基材層が上記のポリエステルでなくポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される場合には、基材層の表面がポリエステルの場合に比べて比較的荒れているため、ダイヤモンドライクカーボン層を良好なバリア性を発揮できるように積層することが困難であると考えられていた。
【0005】
そこで本発明の目的は、ポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層上に良好なバリア性を発揮できるダイヤモンドライクカーボン層を有する積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層体は、ポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層上にロジン層を介して積層されるダイヤモンドライクカーボン層を有する積層体である。
【0007】
また、本発明の積層体は、上記構成において、前記基材層の75重量%以上の成分が前記ポリオレフィンである積層体であるのが好ましい。
【0008】
また、本発明の積層体は、上記構成において、前記基材層が繊維材料を含む積層体であるのが好ましい。
【0009】
また、本発明の積層体は、上記構成において、前記繊維材料が植物繊維を含む積層体であるのが好ましい。
【0010】
また、本発明の積層体は、上記構成において、容器の少なくとも一部を形成する積層体であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明の積層体の製造方法は、前記基材層を準備する準備工程と、前記基材層上にロジンを塗布することで前記ロジン層を形成する塗布工程と、前記ロジン層上にダイヤモンドライクカーボンを蒸着させることで前記ダイヤモンドライクカーボン層を形成する蒸着工程と、を有する、積層体の製造方法であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層上に良好なバリア性を発揮できるダイヤモンドライクカーボン層を有する積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の積層体を示す一部断面側面図である。
【
図2】実施例における酸素透過量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を例示説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態において、積層体1は基材層2、ロジン層3及びダイヤモンドライクカーボン層4(以下、ダイヤモンドライクカーボン:Diamond Like CarbonをDLCともいう)を有し、容器の少なくとも一部を形成する。
【0016】
本実施形態では容器はカップ状の容器本体5と図示しないシール材とを有し、容器本体5は周壁5aと周壁5aの下端部に連なる底壁5bと周壁5aの上端に連なるフランジ壁5cとを有し、シール材は容器本体5内に内容物が充填された状態でフランジ壁5cの上面に剥離可能に貼着され、積層体1は周壁5aと底壁5bを形成する。
【0017】
なお容器はカップ状の容器本体5を有するものに限らず、例えば、ボトル状の容器本体5とキャップを有するものや、化粧料用コンパクト容器などであってもよい。また積層体1は容器本体5の少なくとも一部を形成するものに限らず、キャップなどの蓋部材の少なくとも一部を形成するものであってもよい。また積層体1は容器の少なくとも一部を形成するものに限らない。
【0018】
DLC層4は基材層2上にロジン層3を介して積層される。積層体1は本実施形態では基材層2の片面側のみにDLC層4を有するが、これに限らず、基材層2の両面側にDLC層4を有してもよい。また積層体1は本実施形態では基材層2の容器内面側のみにDLC層4を有するが、これに限らず、基材層2の容器外面側のみにDLC層4を有してもよい。また積層体1の片面側又は両面側に保護、加飾その他の所望の機能を有する追加の層を設けてもよい。
【0019】
基材層2はポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される。すなわち、基材層2を形成する合成樹脂材料の50重量%を超える成分がポリオレフィンである。基材層2がこのような合成樹脂材料によって形成される場合には、基材層2に直接DLC層4を良好なバリア性を発揮できるように積層することは困難であるが、基材層2にロジン層3を介してDLC層4を積層することで良好なバリア性を発揮させることができる。
【0020】
また基材層2は上記合成樹脂材料以外の成分を含んでもよい。この場合でも、基材層2にロジン層3を介してDLC層4を積層することで良好なバリア性を発揮させることができる。
【0021】
基材層2が上記合成樹脂材料以外の成分を含む場合、基材層2に占めるポリオレフィンの割合は高い方が好ましく、基材層2の75重量%以上の成分がポリオレフィンであるのが特に好ましい。基材層2の75重量%以上の成分がポリオレフィンである場合に、基材層2にロジン層3を介してDLC層4を積層することで特に良好なバリア性を発揮させることができる。
【0022】
基材層2は繊維材料を含んでもよく、この場合でも、基材層2にロジン層3を介してDLC層4を積層することで良好なバリア性を発揮させることができる。繊維材料は特に限定されないが、例えば植物繊維(セルロースなど)である。繊維材料として植物繊維を用いることにより、環境適合性を高めることができる。
【0023】
ポリオレフィンは特に限定されず、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、これらのブレンド樹脂などである。
【0024】
ロジン層3を形成するロジンは、松脂などのバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸など)を主成分とする天然樹脂である。
【0025】
基材層2上にロジン層3を積層する方法は特に限定されず、例えば塗布である。塗布方法は特に限定されず、例えば浸漬塗布、スプレー塗布、スピン塗布、刷毛塗りなど、種々の方法を利用することができる。湿式塗布を行う場合、例えば、ロジンをアルコールなどの溶媒に溶かして得られるロジン溶液を基材層2上に塗布することができる。
【0026】
DLC層4は、炭化水素あるいは炭素の同素体から成る非晶質(アモルファス)の硬質膜であり、例えば蒸着法によって形成することができる。蒸着法としては例えば化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)、物理蒸着(PVD:physical vapor deposition)などを利用することができる。化学蒸着としては、例えば、プラズマCVD、熱CVDなどが挙げられる。プラズマCVDで用いる電源としては、例えば高周波、マイクロ波などが挙げられる。
【0027】
DLC層4は、例えば、原料ガスとしてアセチレン(C2H2)などを用いるプラズマCVDによって形成することができる。その際、電源としては高周波を用いるのが好ましい。
【0028】
積層体1は例えば、準備工程、塗布工程及び蒸着工程を経ることで製造することができる。準備工程は基材層2を準備する工程である。塗布工程は基材層2上にロジンを塗布することでロジン層3を形成する工程である。蒸着工程はロジン層3上にDLCを蒸着させることでDLC層4を形成する工程である。
【0029】
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0030】
したがって、前述した実施形態の積層体1は、ポリオレフィンを主成分とする合成樹脂材料によって形成される基材層2上にロジン層3を介して積層されるダイヤモンドライクカーボン層4を有する積層体1である限り、種々変更可能である。
【0031】
なお、前述した実施形態の積層体1は、上記構成において、基材層2の75重量%以上の成分がポリオレフィンである積層体1であるのが好ましい。
【0032】
また、前述した実施形態の積層体1は、上記構成において、基材層2が繊維材料を含む積層体1であるのが好ましい。
【0033】
また、前述した実施形態の積層体1は、上記構成において、繊維材料が植物繊維を含む積層体1であるのが好ましい。
【0034】
また、前述した実施形態の積層体1は、上記構成において、容器の少なくとも一部を形成する積層体1であるのが好ましい。
【0035】
また、前述した実施形態の積層体1の製造方法は、基材層2を準備する準備工程と、基材層2上にロジンを塗布することでロジン層3を形成する塗布工程と、ロジン層3上にダイヤモンドライクカーボンを蒸着させることでダイヤモンドライクカーボン層4を形成する蒸着工程と、を有する、積層体1の製造方法であるのが好ましい。
【実施例】
【0036】
基材層の材質が異なる4つのサンプルを準備し、各サンプルについてロジン層もDLC層も設けないもの、ロジン層のみ設けたもの、DLC層のみ設けたもの、ロジン層とDLC層を設けたものを製作し、酸素バリア性を評価した。ロジン層はアルコールにロジンを溶解させて得たロジン溶液を塗布し乾燥することで設けた。DLC層を設けるものについてはロジン溶液中のロジンの濃度が3重量%から50重量%までの間で異なる複数種類のロジン溶液を準備し、それぞれのロジン溶液を塗布することでロジン層を設け、DLC層を積層し、酸素透過量を測定した。酸素透過量はMOCON法により、外側23℃-55%RH、内側23℃-90%RHの条件で測定した。サンプル1~4について、ロジン塗布なし、DLC蒸着なしの未処理品での酸素透過量を、DLC蒸着ありの処理品の中で最も優れたバリア性を示した(つまり酸素透過量が最も小さい)ものの酸素透過量で除した値をバリア性改善率BIF(バリア性改善率:Barrier Improvement Factor)として算出した。その結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0037】
サンプル1は基材層をポリプロピレンのみで形成し、サンプル2は基材層をポリプロピレンとセルロース(ポリプロピレン配合率80重量%)で形成し、サンプル3は基材層を紙配合樹脂(株式会社環境経営総合研究所製のMAPKA(登録商標)、ポリプロピレン配合率49重量%)のみで形成し、サンプル4は基材層を上記の紙配合樹脂とポリプロピレンとを5:5の比率でブレンドした材料で形成した。
【0038】
サンプル1~4は、開口部の直径が76mmで全高が75mmのカップ状容器本体とし、ロジン層とDLC層は容器内面側のみに設けた。ロジンの濃度が高いほど塗布により多くの重量のロジンを塗布することが容易となるが、ロジンの濃度が50重量%を超えるとロジンの塗布が困難になる傾向がある。また、ロジンの濃度が20重量%以上の場合、塗布、乾燥により形成されるロジン塗布量に大きな変化はなかった。なお、カップ内面の乾燥後に測定したロジン塗布量は、20重量%溶液の場合で0.10~0.16gであり、30重量%溶液の場合で0.16~0.18gであり、40重量%溶液の場合で0.18~0.19gであり、50重量%溶液の場合で0.17~0.22gであった。サンプル1~4におけるDLC層は、原料ガスとしてアセチレンを用いるプラズマCVDによって形成した。その際、電源としては高周波を用い、出力設定は800W、成膜時間は1.6秒とした。サンプル1において、形成されたDLC層の厚みは容器本体の周壁の高さ75mm部分及び45mm部分で29nm、底壁部分で27nm、平均で28nmであった。
【0039】
表1に示すように、サンプル1~4においてDLC層を設けない場合、ロジン層の有無によっては酸素バリア性に影響は認められなかった。また、サンプル1~4においてロジン層とDLC層を設けたものにおいては、最もポリプロピレン配合率が低い(49重量%)サンプル3でもBIFが3.6、最もポリプロピレン配合率が高い(100重量%)サンプル1ではBIFが76と良好な酸素バリア性が認められた。
【0040】
サンプル1~4においてDLC層を設けたものについて、ロジン濃度と酸素透過量との関係をグラフ化し、
図2に示す。
図2に示すように、繊維材料の配合率が異なるサンプル1~4のいずれにおいても、ロジン層を設けることにより酸素透過量が抑制された。ロジン層を介してDLC層を設けることで、ロジンの極性基がDLC層の良好な成膜に寄与しているものと考えられる。またサンプル1~4のいずれにおいても、ロジンの濃度(つまり塗布できたロジンの重量)が或る程度の値に達するまでは、ロジンの濃度が高まるにつれて酸素透過量が抑制された。特に、ポリプロピレン配合率が75重量%以上となるサンプル1、2、4では、サンプル3に比べ、ロジン濃度10重量%での酸素透過量が著しく抑制された。
【符号の説明】
【0041】
1 積層体
2 基材層
3 ロジン層
4 DLC層(ダイヤモンドライクカーボン層)
5 容器本体
5a 周壁
5b 底壁
5c フランジ壁