(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】軸封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20241028BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
F16J15/34 H
F16J15/34 G
F04D29/08 C
(21)【出願番号】P 2023506982
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009707
(87)【国際公開番号】W WO2022196412
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2021041884
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021115872
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】根岸 雄大
(72)【発明者】
【氏名】内山 涼介
(72)【発明者】
【氏名】山口 凱
(72)【発明者】
【氏名】前谷 優貴
(72)【発明者】
【氏名】塚元 崇博
(72)【発明者】
【氏名】松本 修
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 紗和花
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】大沼 実憲
(72)【発明者】
【氏名】巻島 創
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-067049(JP,A)
【文献】特開2014-156789(JP,A)
【文献】中国特許第103051099(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
F04D 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部を収容する駆動空間を有するケースと、
該ケースを貫通して前記駆動空間から被密封流体側の空間に亘って配置される回転軸と、
前記ケースと前記回転軸との間に配置され、対向し相対摺動する一対の摺動面を有し、該一対の摺動面の少なくとも一方に前記駆動空間内の流体を前記一対の摺動面間に導入する流体導入
溝が形成されたシール要素と、を備えた軸封装置であって、
前記駆動空間には、外部空間に連通する連通路が接続されている軸封装置。
【請求項2】
前記ケースには、流通阻害部が設けられており、
前記駆動空間は、前記流通阻害部により、前記シール要素側の空間と、前記駆動部側の空間と、に区画されており、
前記連通路は前記シール要素側の空間に接続されている請求項1に記載の軸封装置。
【請求項3】
前記流通阻害部がベアリングである請求項2に記載の軸封装置。
【請求項4】
前記シール要素は、相対回転する一対の摺動部品を有するメカニカルシールである請求項1ないし3のいずれかに記載の軸封装置。
【請求項5】
前記軸封装置は、水中に浸漬される機器に用いられるものであり、
前記連通路は、前記ケースに設けられる連通孔に接続され前記外部空間に延びる管を具備している請求項1ないし4のいずれかに記載の軸封装置。
【請求項6】
前記駆動空間の流体は気体、前記被密封流体側の空間の流体は液体であり、
前記ケースには、前記回転軸が挿通される貫通孔と、前記貫通孔よりも外径側に形成される液体溜まり溝と、が形成されており、
前記連通路は、前記液体溜まり溝よりも上方の位置で前記駆動空間と連通している請求項1ないし5のいずれかに記載の軸封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の回転軸とケースとの間を軸封する軸封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械において回転軸周辺の被密封流体の漏れを防止する軸封装置として、例えば相対回転し摺動面同士が摺動する一対の環状の摺動部品からなるメカニカルシールが用いられる軸封装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に示されるように、水中ポンプに用いられる軸封装置が挙げられる。特許文献1の軸封装置は、モータが配置される閉塞された駆動空間を有するケースと、ケースを貫通して漏れ側の駆動空間から被密封流体側の水中空間に亘って配置される回転軸と、回転軸とケースとの間に配置されるメカニカルシールと、を備えている。モータにより回転軸を回転駆動させることにより、回転軸の一端に設けられたポンプ用の羽根車が回転駆動されて水中空間内の水に流れを生じさせるとともに、メカニカルシールを構成する一対の摺動部品が相対回転摺動して水中空間から駆動空間内に水が進入することを防止できるようになっている。
【0004】
特許文献1のようなメカニカルシールを用いた軸封装置にあっては、水中空間内の水が一対の摺動部品の摺動面間に流入し液膜を形成することで、相対回転摺動時における摺動面間の潤滑性が高められているが、潤滑性能は液種に依存し、安定した潤滑性を発揮することが難しい。
【0005】
そこで、上記のような軸封装置にあっては、駆動空間内の流体を一対の摺動面間に導入するスパイラル溝等の流体導入機構を設け、流体導入機構により駆動空間内の流体が被密封流体側の空間に向けて移動し摺動面間に導入されるようにして、摺動面間に流体膜を形成させて潤滑性を確保しつつ、駆動空間内への被密封流体の漏れを抑制する技術が採用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-186297号公報(第4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のような軸封装置の摺動面間に上記のような流体導入機構を設けた場合、駆動空間内への被密封流体漏れを抑制することができるものの、駆動空間は閉塞された空間であるため、摺動面同士の相対回転摺動に伴って駆動空間内の流体が減少することで摺動面間に流体を導入できなくなり、摺動面間の高い潤滑性を維持できなくなる虞があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、摺動面同士の高い潤滑性を維持できる軸封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の軸封装置は、
駆動部を収容する駆動空間を有するケースと、
該ケースを貫通して前記駆動空間から被密封流体側の空間に亘って配置される回転軸と、
前記ケースと前記回転軸との間に配置され、対向し相対摺動する一対の摺動面を有し、該一対の摺動面の少なくとも一方に前記駆動空間内の流体を前記一対の摺動面間に導入する流体導入機構が形成されたシール要素と、を備えた軸封装置であって、
前記駆動空間には、外部空間に連通する連通路が接続されている。
これによれば、流体導入機構により一対の摺動面間に駆動空間内の流体が導入されたときに、連通路を通じて外部空間から駆動空間内に流体が補充されるため、摺動面同士の相対回転摺動に伴って駆動空間内の流体が減少することを防止でき、摺動面間の高い潤滑性を維持できる。
【0010】
前記ケースには、流通阻害部が設けられており、
前記駆動空間は、前記流通阻害部により、前記シール要素側の空間と、前記駆動部側の空間と、に区画されており、
前記連通路は前記シール要素側の空間に接続されていてもよい。
これによれば、連通路を通じて外部空間から流体がシール要素側の空間に補充されることにより、流通阻害部を介することなく外部空間から駆動空間内に流体の補充を行うことができ、流体導入機構に対する流体の供給が滞りなく行われ、流体導入機構による流体導入が阻害されることが無い。また、 シール要素側の空間と被密封流体側の空間との圧力差を小さくすることができる。さらには、シール要素が流体により冷却され、良好なシール性能を維持することができる。
【0011】
前記流通阻害部がベアリングであってもよい。
これによれば、ベアリングよりもシール要素側に連通路が接続されていることで、流体導入機構に対する流体の供給を滞りなく行うことができる。
【0012】
前記シール要素は、相対回転する一対の摺動部品を有するメカニカルシールであってもよい。
これによれば、一対の摺動部品の相対回転に基づいて摺動面間に導入される駆動空間内の流体の量を制御しやすい。
【0013】
前記軸封装置は、水中に浸漬される機器に用いられるものであり、
前記連通路は、前記ケースに設けられる連通孔に接続され前記外部空間に延びる管を具備していてもよい。
これによれば、水中ポンプが水中に浸漬された状態であっても、連通孔及び管の内部空間を通じて外部空間から駆動空間内に流体を補充できる。
【0014】
前記駆動空間の流体は気体、前記被密封流体側の空間の流体は液体であり、
前記ケースには、前記回転軸が挿通される貫通孔と、前記貫通孔よりも外径側に形成される液体溜まり溝と、が形成されており、
前記連通路は、前記液体溜まり溝よりも上方の位置で前記駆動空間と連通していてもよい。
これによれば、被密封流体側の空間から駆動空間内に液体が漏れたとしても、液体溜まり溝に液体が貯留されるので、その上方に配置される連通路により駆動空間と外部空間とが連通した状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例における軸封装置を示す一部断面図である。
【
図3】静止密封環の摺動面を軸方向から見た模式図である。
【
図4】(a)は回転密封環と静止密封環との相対回転時における動圧発生溝の流体の動きを軸方向から見た模式図、(b)は同じく模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る軸封装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0017】
実施例に係る軸封装置につき、
図1から
図4を参照して説明する。本実施例の軸封装置は、ポンプ本体を水没させて使用する水中ポンプに適用した形態を例示するが、その他の回転機械に適用されてもよい。尚、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付すこともある。
【0018】
図1に示されるように、軸封装置1は、駆動部であるモータ12の回転軸15の下端に設けられるインペラ16が配置された被密封流体側の空間としての液体流入空間Wと、漏れ側の空間としてのモータ側駆動空間A(以下、単に駆動空間Aということもある。)と、の間を封止するために設置されている。
【0019】
軸封装置1は、主としてモータ12のケースを構成する第1ハウジング部材10aと、第1ハウジング部材10aを貫通する回転軸15と、第1ハウジング部材10aと回転軸15との間に配置されるシール要素としてのメカニカルシール30と、を主に備えている。
【0020】
水中ポンプPのハウジング10は、駆動空間Aを区画する第1ハウジング部材10aと、液体流入空間Wを区画する第2ハウジング部材10bとを有する。第1ハウジング部材10aと第2ハウジング部材10bとは、フランジ10c,10dがボルト・ナット11で締結されることにより密封状に連結されている。
【0021】
第1ハウジング部材10aの駆動空間Aは、閉塞された空間であり、メカニカルシール30側に配置されるシール要素側の空間としての下部空間A1と、モータ12側に配置される駆動部側の空間としての上部空間A2と、を有している。第1ハウジング部材10aにおける上部空間A2には、モータ12が固定設置されている。モータ12は、ケーブル19を介して外部から入力される電力や制御信号等に基づいて制御される。
【0022】
第1ハウジング部材10aは、下部空間A1と上部空間A2とを区画する水平方向に延びる第1区画壁部10eと、下部空間A1とその下部に配置される液体流入空間Wとを区画する水平方向に延びる第2区画壁部10fと、を備えている。
【0023】
第1区画壁部10e及び第2区画壁部10fには、上下方向に延びる回転軸15を挿通可能な貫通孔10g,10hがそれぞれ形成されている。
【0024】
第1区画壁部10eの貫通孔10gは、上部が大径孔部、下部が小径孔部となっており、該大径孔部及び小径孔部により第1区画壁部10eの内径側に段部10jが形成されている。この段部10jには、回転軸15を回転可能に保持する流通阻害部としてのベアリング14が固定されている。尚、流通阻害部はベアリング14以外のもので構成されていてもよく、例えば、オイルシールやリップシール等のシール装置が単体で設けられていてもよく、また、シール装置とベアリングの両方が軸方向に並んで設けられていてもよい。
【0025】
本実施例のベアリング14は転がり軸受であり、下部空間A1及び上部空間A2は、ベアリング14を構成する部材同士の僅かな隙間を通じて連通している。すなわち、下部空間A1及び上部空間A2は、ベアリング14、つまり、流通阻害部により流路が絞られ流体が移動し難い状態で区画されている。
【0026】
第2区画壁部10fにおける貫通孔10hよりも外径側に離間した位置には、環状の液体溜まり溝18が形成されている。この液体溜まり溝18の内径側の面は、第2区画壁部10fの上面から下方外径側に向けて拡径するテーパ面となっている。これにより、仮に液体流入空間Wの液体が下部空間A1内に進入してもこの液体を外径側に誘導することができる。尚、液体溜まり溝18は、環状に限られず、周方向に離間して複数設けられていてもよい。
【0027】
また、第1ハウジング部材10aの側壁下部には、下部空間A1に連通する連通孔10kが貫通して形成されているとともに、連通孔10kには管13の一端が接続されている。この管13の他端は外部空間(以下、大気空間ともいう。)まで延びている。すなわち、連通孔10k及び管13は、下部空間A1と大気空間とを連通する連通路となっており、駆動空間Aは空気により満たされている。尚、外部空間とは、水中ポンプPが浸漬される水中空間とは別の空間である。
【0028】
また、連通孔10kは、第2区画壁部10fの上面、すなわち液体溜まり溝18よりも上方に配設されている。
【0029】
また、連通孔10kにはフィルタ2が設けられており、下部空間A1への異物の侵入を防止することができる。
【0030】
また、下部空間A1の内壁、詳しくは上部内壁には、下部空間A1内部の湿気を吸収する吸湿材3が設けられている。尚、吸湿材3は、塩化カリウム、二酸化ケイ素、生石灰等気中の水分を吸収するものであればよい。
【0031】
また、下部空間A1の内部には、下部空間A1内の温度を変更可能な変温機構4が設けられている。変温機構4は加熱または冷却することで周囲の湿気を凝集させることができる。凝集された湿気は吸湿材3により除去される。
【0032】
第2ハウジング部材10bは、内部に液体流入空間Wを構成するとともに、回転軸15の下端に設置されたインペラ16を収容するケーシングを構成する。第2ハウジング部材10bには、水中ポンプPが配置される水中空間に連通する吸入口10mと、図示しない配管が接続される吐出口10nが設けられている。インペラ16は、回転駆動することにより液体流入空間Wの液体(すなわち水)に吸入口10mから吐出口10nへの移動力を与え、ポンプとしての機能を発揮する。
【0033】
第1ハウジング部材10aにおける貫通孔10hと回転軸15との間には、メカニカルシール30が設置されている。メカニカルシール30は、回転軸15に沿って、液体流入空間Wと駆動空間Aとの間を封止する。換言すれば、メカニカルシール30は、回転軸15の外周面と第1ハウジング部材10aの貫通孔10hの内周面との間の隙間を封止する。
【0034】
図2を参照し、メカニカルシール30は、回転側摺動面31sを有する摺動部品としての回転密封環31と、回転側摺動面31sと摺動する静止側摺動面32sを有する摺動部品としての静止密封環32と、を主に備えている。
【0035】
詳しくは、メカニカルシール30は、回転密封環31、静止密封環32、カップガスケット33、ベローズ34、締め付けリング35、スプリング37、取り付け金具38、カラー39を有する。
【0036】
回転密封環31及び静止密封環32は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0037】
回転密封環31の回転側摺動面31sは、静止密封環32の静止側摺動面32sよりも径方向の幅が小さく形成されており、静止密封環32の静止側摺動面32sには後述する流体導入機構としての動圧発生溝40が複数形成されている(
図3参照)。尚、動圧発生溝40の具体的な構造については後に詳述する。
【0038】
ベローズ34は、例えばゴムなどの弾性変形が可能な材料で構成されている。ベローズ34は、回転軸15の外周面に密着して密封状に取り付けられる円筒部34aと、円筒部34aの駆動空間A側の端部から外径方向に折り曲げられた環状部34bとを備えている。円筒部34aの外周面には締め付けリング35が配置されており、締め付けリング35により円筒部34aが回転軸15の外周面に締め付けられている。
【0039】
また、環状部34bは、環状部34bの外周部と回転密封環31の外周部とは取り付け金具38によるカシメにより、密封状に固定されている。
【0040】
スプリング37はベローズ34の外周側に配置されている。スプリング37の上端は、取り付け金具38の下面に当接し、スプリング37の下端は、バネ受け部材に当接し、バネ受け部材の下方に配置され回転軸15に固設されたカラー39が反力を受けるようになっている。このスプリング37のバネ力により、回転密封環31は取り付け金具38を介して静止密封環32方向に付勢されようになっている。
【0041】
カップガスケット33は、弾力性に優れたゴム材料、あるいは合成樹脂などで構成されている。第1ハウジング部材10aにおける貫通孔10hは、上部に小径孔部、下部の大径孔部を有し、第2区画壁部10fの内径側に段部10pが形成されており、第2区画壁部10fの段部10pと回転密封環31との間で圧縮状態に保持されている。すなわち、カップガスケット33は、第2区画壁部10fと回転密封環31との間を密封している。
【0042】
次に、回転密封環31の回転側摺動面31s及び静止密封環32の静止側摺動面32sの構造について
図3及び
図4に基づいて説明する。尚、回転側摺動面31s及び静止側摺動面32sは、以下、単に摺動面31s,32sという。
【0043】
図3及び
図4(a)に示されるように、静止密封環32に対して回転密封環31が矢印で示すように反時計周りに相対摺動するようになっている。静止密封環32の摺動面32sには、内径側に複数(実施例では8個)の動圧発生溝40が周方向に均等に配設されている。
【0044】
尚、回転密封環31の摺動面31sは、動圧発生溝40よりも径方向に大きく、摺動面32sよりも径方向の幅が小さい。また、動圧発生溝40の数量は自由に変更することができる。また、摺動面31sは、平坦面に形成されている。
【0045】
また、摺動面32sの動圧発生溝40以外の部分は平坦面を成すランド41となっている。詳しくは、ランド41は、周方向に隣接する動圧発生溝40の間の部位と、各動圧発生溝40の外径側に配置される環状の部位と、を有し、これら各部位は、ランド41の摺動面32s側の面(以下、ランド41の平坦面ともいう。)と同一平面状に配置されている。
【0046】
動圧発生溝40は、内径側の端部、すなわち相対回転始端40Aが駆動空間Aに連通し、始端40Aから外径側に向けて回転密封環31の回転終端側に傾斜しながら円弧状に延びており、外径側の端部、すなわち相対回転終端40Bが壁部40bにより液体流入空間Wと非連通状態となるように閉塞されている。この動圧発生溝40は、外径側に向けて凸を有する円弧状を成している。
【0047】
具体的には、動圧発生溝40は、始端40Aから終端40Bに亘って平坦かつランド41の平坦面に平行な底面40aと、底面40aの終端40Bの端縁から摺動面32sに向けて垂直に延びる壁部40bと、底面40aの両側縁から摺動面32sに向けて垂直に延びる側壁部40c,40dとから構成されている。
【0048】
尚、壁部40bと側壁部40cとが成す角は鈍角であり、壁部40bと側壁部40dとが成す角は鋭角であり、壁部40bの側壁部40d側の鋭角部の方が壁部40bの側壁部40c側の鈍角部よりも回転密封環31の回転終端側に位置している。
【0049】
これら動圧発生溝40は、軸方向から見て、隣り合う動圧発生溝40が径方向に重畳するように配置されている。
【0050】
また、
図4(b)に示されるように、動圧発生溝40は、始端40A(
図3及び
図4(a)参照)から終端40Bに亘って一定の深さDを有している。尚、
図4(b)は1条の動圧発生溝40を長手方向で切った状態を想定した模式的な断面図である。
【0051】
また、本実施例では、動圧発生溝40が一定の深さDに形成されている形態を例示したが、これに限られず、例えば、始端から終端に向かって浅くなるように傾斜していてもよいし、始端から終端に向かって浅くなるように複数の段差が形成されていてもよい。また、動圧発生溝の底部は平面形状に限られず、曲面形状を成していてもよい。つまり、密封環の回転により摺動面内に流体を導入し、摺動面内において圧力が発生するものであればよい。
【0052】
次いで、静止密封環32と回転密封環31との相対回転時の動作について
図4を用いて説明する。先ず、回転密封環31が回転していない水中ポンプPの非稼働時には、駆動空間A内の空気が動圧発生溝40内に流入している。尚、スプリング37及び液体流入空間W内の液体の圧力によって回転密封環31が静止密封環32側に付勢されているので摺動面31s,32s同士は接触状態となっており、摺動面31s,32s間に液体流入空間W内の液体(以下、被密封流体という。)が進入する量はほぼない。
【0053】
回転密封環31が静止密封環32に対して相対回転すると、
図4の白矢印に示されるように、動圧発生溝40内の空気が摺動面31sとの摩擦により回転密封環31の回転方向に追随移動するとともに、駆動空間A内の空気が動圧発生溝40に引き込まれる。すなわち、動圧発生溝40内では、駆動空間A内の空気が始端40Aから終端40Bに向かって移動する。
【0054】
終端40Bに向かって移動した空気は、動圧発生溝40の終端40Bの鋭角部及びその近傍で圧力が高められる。すなわち鋭角部及びその近傍で正圧が発生する。
【0055】
鋭角部及びその近傍で発生した正圧による力Fにより、摺動面31s,32s間が若干離間される。これにより、摺動面31s,32s間には、主に動圧発生溝40内の空気が流入する。このように摺動面31s,32s間に空気が介在することにより潤滑性が向上(所謂、気体潤滑)し、摺動面31s,32s同士の摩耗を抑制することができる。尚、摺動面31s,32s間に流入した空気は液体流入空間W側に僅かに漏れてもよい。
【0056】
またこのとき、摺動面31s,32s間が若干離間されることで動圧発生溝40の鋭角部及びその近傍まで被密封流体が流入するが、動圧発生溝40の鋭角部及びその近傍で正圧が発生しているため、液体流入空間W側の液体である被密封流体は該鋭角部及びその近傍よりも内径側、すなわち駆動空間A側にはほぼ進入しない。
【0057】
図1に戻って、回転密封環31と静止密封環32との相対回転時には、駆動空間A内の空気が動圧発生溝40に引き込まれるが、動圧発生溝40に引き込まれた分の空気が駆動空間Aの下部空間A1に連通する連通孔10k及び管13を通じて大気空間から補充される。
【0058】
このように、回転密封環31と静止密封環32との相対回転時において、動圧発生溝40により摺動面31s,32s間に駆動空間A内の空気が導入されたときに、連通孔10k及び管13を通じて外部の大気空間から駆動空間A内に空気が補充されるため、摺動面31s,32s同士の相対回転摺動に伴って駆動空間A内の空気が極端に減少することを防止でき、空気が不足して摺動面31s,32s間が貧潤滑となることを抑制でき、高い潤滑性を維持できる。また、駆動空間A内の空気は、液体流入空間W側に向けて移動するため、液体流入空間Wの被密封流体が駆動空間A内に漏れにくくなっている。
【0059】
また、駆動空間A内の気体が減少して駆動空間A内の気圧が低下する、すなわち真空状態に近づくことを回避できる。
【0060】
また、駆動空間A内の流体は空気であり、大気空間から駆動空間A内に空気を流通できるようになっている。これによれば、大気空間から駆動空間A内に空気を補充するために外部空間や連通路にポンプ等を設ける必要がなく、簡素な構造とすることができる。
【0061】
また、駆動空間A内の流体は大気圧であるため、駆動空間Aの流体圧による力が摺動面31s,32s同士の摺動圧に影響を及ぼすことを防止できる。
【0062】
また、駆動空間Aは、回転軸15の回転をガイドするベアリング14により、メカニカルシール30側の下部空間A1と、モータ12側の上部空間A2とに区画されており、連通孔10kは下部空間A1に連通している。
【0063】
これによれば、連通孔10k及び管13を通じて大気空間から空気が下部空間A1に補充されることにより、下部空間A1内の圧力の低下を抑えることができるため、下部空間A1と上部空間A2との圧力差を小さくでき、下部空間A1と上部空間A2との間で空気が移動することを抑制できる。したがって、下部空間A1と上部空間A2との間で空気が移動することに伴って上部空間A2内の埃やベアリング14の潤滑油などが下部空間A1に進入して、メカニカルシール30に影響を与えることを抑制できる。
【0064】
また、シール要素は、回転密封環31及び静止密封環32を有するメカニカルシール30であり、駆動空間A内の空気を摺動面間に導入する流体導入機構は、静止密封環32の摺動面32sに設けられた動圧発生溝40であり、回転軸15やハウジング10を摺動面としていないため、回転密封環31と静止密封環32の相対回転速度に基づいて摺動面31s,32s間に導入される駆動空間A内の空気の量を制御しやすい。
【0065】
また、軸封装置1は水中ポンプPに用いられるものであり、管13は連通孔10kから大気空間に延びている。これによれば、水中ポンプPが水中に浸漬された状態であっても、連通孔10k及び管13の内部空間を通じて大気空間から駆動空間A内に空気を補充できる。尚、管13は樹脂等で作成された撓曲変形可能な柔軟性を有するフレキシブル管でも、金属配管のような柔軟性を有しないものでもよい。
【0066】
また、駆動空間Aは液体流入空間Wよりも鉛直上方に配置されており、第1ハウジング部材10aには、回転軸15が上下方向に挿通される貫通孔10hと、貫通孔10hよりも外径側に形成される液体溜まり溝18と、が形成されており、連通孔10kは、液体溜まり溝18よりも上方の位置で駆動空間Aの下部空間A1と連通している。これによれば、液体流入空間Wから下部空間A1内に被密封流体が漏れたとしても、液体溜まり溝18に貯留されるので、その上方に配置される連通孔10kが被密封流体で塞がれることがなく、下部空間A1と大気空間とが連通した状態を維持できる。
【0067】
尚、実施例では、下部空間A1と液体流入空間Wとを区画する第2区画壁部10fは第1ハウジング部材10aに設けられる形態を例示したが、これに限られず、第2ハウジング部材10bに設けられていてもよいし、第1ハウジング部材10a及び第2ハウジング部材10bとは別の部材により下部空間A1と液体流入空間Wとが区画されていてもよい。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0069】
例えば、前期実施例では駆動部としてモータである形態を例示したが、これに限られず、駆動する機器であればよい。
【0070】
また、前記実施例では、連通孔10kにフィルタ2が設けられていたが、これに限られず、管13にフィルタを設けてもよく、また、フィルタに限られず、サイクロンセパレータ等、下部空間A1への異物の侵入を防止するものであればよい。
【0071】
また、前記実施例では、下部空間A1の内壁に吸湿材が設けられていたが、これに限られず、フィルタと同じ箇所に吸湿材を設けてもよく、また、吸湿材で異物の侵入防止ができるのであれば、フィルタの代わりに吸湿材を設けてもよい。
【0072】
また、前記実施例では、駆動空間Aと外部空間とを連通する連通路が連通孔10k及び管13により構成されている形態を例示したが、これに限られず、例えば、連通路は、連通孔10kのみで構成されていてもよい。この場合、連通孔10kが被密封流体側の空間と連通せず、かつ外部空間と直接連通していればよい。
【0073】
また、前記実施例では、管13とケーブル19とは別々に設けられていたが、これに限られず、例えば、管の内部にケーブルを通し、管とケーブルとを一体的に形成してもよい。例えば、管の内部において、ケーブルを通す通路と駆動空間と外部空間とを連通する連通路とが別々に設けられていてもよい。また、ケーブルの内部に設けられた連通路によって駆動空間と外部空間とが連通されていてもよい。
【0074】
また、前記実施例では、駆動空間A内の流体が大気圧となっている形態を例示したが、ポンプやファンなどにより外部空間内の流体を加圧して駆動空間A内に強制的に送り出すようにしてもよい。
【0075】
また、前記実施例では、駆動空間Aと外部空間とを連通する形態を例示したが、これに限られず、例えば、外部空間ではなく、十分な量の流体を内部に保持するタンクと駆動空間Aとを連通してもよい。
【0076】
また、前記実施例では、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封流体を密封するインサイド形のメカニカルシール30である形態を例示したが、これに限られず、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封流体を密封するアウトサイド形のメカニカルシールであってもよい。この場合には回転密封環が下部空間A1側、静止密封環が液体流入空間W側に配置されていればよい。
【0077】
また、前記実施例では、動圧発生溝40を静止密封環32に設ける例について説明したが、動圧発生溝を回転密封環31に設けてもよいし、静止密封環32及び回転密封環31の両方に設けてもよい。
【0078】
また、前記実施例の動圧発生溝40は、駆動空間A側から液体流入空間Wに向けて円弧状に延びていたが、これに限られず、例えば、駆動空間A側から液体流入空間Wに向けて直線状に延びていてもよく、動圧を発生させる閉塞された終端部を有していればよい。また、動圧発生溝が鋭角部や鈍角部を有していなくてもよく、動圧発生溝の角部が軸方向から見て曲面形状をなしていてもよい。
【0079】
また、動圧発生溝40の始端40Aが駆動空間Aに連通するように開放されていなくてもよく、動圧発生溝は周囲がランドに囲まれたディンプルなどであってもよい。この場合、ディンプルが駆動空間Aに寄せて配置される、若しくは駆動空間A内の流体圧が液体流入空間W内の流体圧よりも僅かに高くなっていればよい。
【0080】
また、流体導入機構は動圧発生溝に限られず、動圧をほとんど発生させず、単に駆動空間A内の流体を摺動面間に導入できるものであってもよい。
【0081】
また、前記実施例では、駆動空間A内の流体圧が液体流入空間W内の流体圧よりも小さい形態を例示した、駆動空間A内の流体圧が液体流入空間W内の流体圧と同圧、または液体流入空間W内の流体圧よりも僅かに高くなっていてもよい。
【0082】
また、前記実施例では、駆動空間Aがベアリング14により下部空間A1及び上部空間A2に区画されている形態を例示したが、これに限られず、ベアリング14は駆動空間A外に設けられ、駆動空間Aが1つの空間となっていてもよい。
【0083】
また、前記実施例では、連通路が下部空間A1に連通される形態を例示したが、上部空間A2に連通していてもよい。この場合、下部空間A1からベアリング14を通じて上部空間A2に流体が移動する。
【0084】
また、前記実施例では、駆動空間A内の流体が圧縮性の空気である形態を例示したが、これに限られず、その他の気体、液体、または液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【0085】
また、前記実施例では、被密封流体側の空間内の流体が水である形態を例示したが、これに限られず、その他液体、気体、または液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【0086】
また、前記実施例では、水中ポンプPに用いられる軸封装置1について説明したが、これに限られず、軸封装置は自動車や一般産業機械などの回転機械に用いられていてもよい。
【0087】
また、前記実施例では、回転軸15が上下方向に延びるように配置される形態を例示したが、例えば、回転軸15が左右方向に延びるように配置されていてもよい。この場合、下部空間A1及び上部空間A2は左右に配置されることになる。
【符号の説明】
【0088】
1 軸封装置
10 ハウジング
10a 第1ハウジング部材(ケース)
10g,10h 貫通孔
10k 連通孔(連通路)
12 モータ(駆動部)
13 管(連通路)
14 ベアリング
15 回転軸
18 液体溜まり溝
30 メカニカルシール(シール要素)
31 回転密封環(摺動部品)
31s 回転側摺動面
32 静止密封環(摺動部品)
32s 静止側摺動面
40 動圧発生溝(流体導入機構)
A モータ側駆動空間
A1 下部空間(シール要素側の空間)
A2 上部空間(駆動部側の空間)
P 水中ポンプ(機器)
W 液体流入空間(被密封流体側の空間)