(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20241028BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20241028BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241028BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20241028BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20241028BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241028BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20241028BHJP
【FI】
A61K8/67 ZNA
A61K8/92
A61Q19/00
A61Q19/08
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
(21)【出願番号】P 2018240949
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-09-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017252183
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 早織
(72)【発明者】
【氏名】稲場 愛
(72)【発明者】
【氏名】野田 浩代
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌史
(72)【発明者】
【氏名】三井 司
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】木村 敏康
【審判官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-77172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノール及びツバキ種子油を含む、皮膚外用組成物であって、
レチノールの含有量が0.01~0.5質量%であり、
ツバキ種子油の含有量が0.1~10質量%であり、かつ
レチノールとツバキ種子油の質量含有比が1:25~100である、表皮細胞ヒアルロン酸産生亢進用皮膚外用組成物。
【請求項2】
ツバキ種子油の脂肪酸含有比率が、以下の通りである、請求項1に記載の組成物。
パルミチン酸:7.5~20.0%
オレイン酸:62.0~85.0%
リノール酸:3.5~10.0%
リノレン酸:1.5%以下
ステアリン酸:0.5~5.0%
【請求項3】
抗シワ皮膚外用組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
皮膚外用組成物に、レチノール及びツバキ種子油を、
レチノールの含有量が0.01~0.5質量%であり、
ツバキ種子油の含有量が0.1~10質量%であり、かつ
レチノールとツバキ種子油の質量含有比が1:25~100となるように含ませることにより、当該組成物に皮膚適用時表皮細胞ヒアルロン酸産生亢進による抗シワ効果を付与若しくは増強する方法。
【請求項5】
皮膚外用組成物に、レチノール及びツバキ種子油を、
レチノールの含有量が0.01~0.5質量%であり、
ツバキ種子油の含有量が0.1~10質量%であり、かつ
レチノールとツバキ種子油の質量含有比が1:25~100となるように含ませることにより、当該レチノールの有する
皮膚適用時抗シワ効果を増強する方法であって、
前記抗シワ効果が、表皮細胞ヒアルロン酸産生亢進によ
る抗シワ効果
である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用組成物等に関する。
【0002】
皮膚老化に伴って肌にはシワが増える。シワには、眼の下に細く横に入り、深さが表皮レベルのシワ(表皮性シワ)から、目尻や額などの表情筋の方向と垂直の細かいひだとして現れ、シワの深さが真皮レベルのシワ(真皮性シワ)や、目や口の周り、顔の輪郭などの大きなひだとして現れるシワ(老人性シワ)などがある。このような、表皮や真皮などの部位に総合的に作用してシワの形成防止や改善に多面的に作用する解決を目指して、研究がなされている。
【0003】
レチノールおよびその誘導体は、視覚をはじめとする生体機能の維持や、皮膚および粘膜などの正常上皮組織の再生機能などに関与することが知られているビタミンの一種であり、尋常性魚鱗癬などの角化異常皮膚疾患の外用医薬品として知られ、また、レチノール誘導体は、上皮組織の活性を維持し、紫外光線のシグナル透過を遮断することによって皮膚の老化を抑制することが知られており、皮膚老化防止用の化粧料などとして広く利用されている。
【0004】
またさらに、特定のアミノ酸配列を有するペプチドユニットを縮合して得られるポリペプチド(ポリ(プロリン-ヒドロキシプロリン-グリシン))にコハク酸を介してレチノールを結合した物質は細胞毒性が低く、表皮におけるヒアルロン酸産生を増大し、また、真皮におけるコラーゲンの合成を促進できることが見出されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた抗シワ効果(例えば、シワ形成防止効果、シワ改善効果、美肌効果、又は肌質改善効果等の効果)を奏する抗シワ皮膚外用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、レチノールにツバキ種子から得られる油(ツバキ種子油)を組み合わせて用いることにより、格段に高いHAS2及び/又はHAS3遺伝子発現亢進効果を得られることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
レチノール及びツバキ種子油を含む、皮膚外用組成物。
項2.
ツバキ種子油の脂肪酸含有比率が、以下の通りである、項1に記載の組成物。
パルミチン酸:7.5~20.0%
オレイン酸:62.0~85.0%
リノール酸:3.5~10.0%
リノレン酸:1.5%以下
ステアリン酸:0.5~5.0%
項3.
抗シワ皮膚外用組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
表皮細胞ヒアルロン酸産生亢進用組成物である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
皮膚外用組成物に、レチノール及びツバキ種子油を含ませることにより、当該組成物に皮膚適用時抗シワ効果を付与若しくは増強する方法。
項6.
皮膚外用組成物に、レチノール及びツバキ種子油を含ませることにより、当該レチノールの有する皮膚適用時抗シワ効果を増強する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚外用組成物を用いることにより、優れた抗シワ効果(より具体的には、例えば、シワ形成防止効果、シワ改善効果、美肌効果、又は肌質改善効果等)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】レチノール(10
-5M)及び/又はツバキ種子油(0.001%又は0.005%)がヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS2)の発現に与える影響をリアルタイムPCRにより解析した結果を示す。
【
図2】三次元皮膚モデルにおいて、レチノール(0.05%)及び/又はツバキ種子油(1%又は2%)がヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS3)の発現に与える影響をリアルタイムPCRにより解析した結果を示す。
【
図3】三次元皮膚モデルにおいて、レチノール(0.05%)及び/又はツバキ種子油(2%、3%、又は5%)が細胞増殖に関与する遺伝子(HB-EGF)の発現に与える影響をリアルタイムPCRにより解析した結果を示す。
【
図4】三次元皮膚モデルにおいて、レチノール(0.05%)及び/又はツバキ種子油(1%、2%、又は3%)がヒアルロン酸合成に与える影響をヒアルロン酸量の定量により解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に包含される皮膚外用組成物は、レチノール及びツバキ種子油を含む。以下、当該組成物を本発明の皮膚外用組成物とよぶことがある。
【0013】
レチノールは、次の構造式で表される化合物であり、上述の通り、皮膚老化防止用化粧品等に利用されている。
【0014】
【0015】
本発明の皮膚外用組成物におけるレチノールの含有量は、本発明の効果が損なわれない限り、特に制限されないが、例えば0.005~1質量%程度、0.01~0.5質量%程度、又は0.02~0.1質量%程度が好ましく挙げられる。また例えば組成物が液状である場合、10-6~10-2M程度であることが好ましく、10-5~10-2.5M程度であることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いるツバキ種子油は、ツバキの種子から抽出して得られる油である。ツバキとしては、ツバキ科ツバキ属に属する植物であって、その種子油が本発明の効果を得られるものであれば、特に制限はされない。なかでもヤブツバキ(Camellia Japonica)が好ましい。ツバキ種子から油を抽出する方法は特に制限されず、公知の方法又は公知の方法から容易に想到する方法を用いることができる。例えば、圧搾方法、又は煮出し方法等を用いることができる。また、ツバキ種子油としては、市販品を購入して用いることもできる。
【0017】
ツバキ種子油は、種々の脂肪酸を含む。その脂肪酸含有比率が、次のようになるものが本発明に用いるのに、より好ましい。パルミチン酸:7.5~20.0%、オレイン酸:62.0~85.0%、リノール酸:3.5~10.0%、リノレン酸:1.5%以下、ステアリン酸:0.5~5.0%。
【0018】
本発明の皮膚外用組成物に含まれるツバキ種子油の含有量は、本発明の効果が得られる範囲であれば、特に制限はされないが、例えば、0.0005~10質量%程度が好ましく、0.001~5質量%程度がより好ましく、0.01~2質量%程度がさらに好ましく、0.1~2質量%程度がよりさらに好ましい。当該範囲の上限は0.5、0.05、0.01質量%又は0.005質量%程度であってもよい。
【0019】
また、本発明の皮膚外用組成物には、皮膚外用組成物(特に外用医薬品組成物及び化粧品組成物)に使用される公知の成分をさらに含有していてもよい。このような成分としては、例えば、水、油剤、界面活性剤、保湿剤、高級アルコール、金属イオン封鎖剤、天然及び合成高分子、水溶性及び油溶性高分子、紫外線遮蔽剤、各種抽出液、有機染料等の色剤、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤、各種粉体等の成分が挙げられる。これらの成分の配合量も、公知の皮膚外用組成物への配合量の情報に基づき、適宜設定することができる。特に制限されないが、例えば、1~99.9質量%程度、又は50~99.9質量%程度であり得る。
【0020】
特に制限されるわけではないが、本発明の皮膚外用組成物は、液状組成物であることが好ましい。また、本発明の皮膚外用組成物の使用形態としては、例えば、フェイスパック、ペースト、軟膏、クリーム、ジェル、ローション、乳液、美容液、化粧水、スプレー剤、ヘアケア剤などが挙げられる。
【0021】
このような本発明の皮膚外用組成物は、公知の方法又は公知の方法から容易に想到される方法により製造することができる。例えば、レチノール及びツバキ種子油並びにその他の皮膚外用組成物に使用される公知の成分を適宜混合することにより製造することができる。
【0022】
また、本発明の皮膚外用組成物は、レチノール及びツバキ種子油を含有することにより、皮膚(特に表皮細胞)において、優れたヒアルロン酸合成酵素遺伝子(特にHAS2及び/又はHAS3)発現亢進効果、並びに/あるいは、細胞増殖因子の遺伝子(特にHB-EGF遺伝子)発現亢進効果を奏する。また、本発明の皮膚外用組成物は、皮膚(特に表皮細胞)において、優れたヒアルロン酸産生亢進効果を奏する。
【0023】
Hyaluronan Synthase(HAS)はヒアルロン酸合成酵素であり、HAS2及びHAS3は、それぞれがその1種である。HASの発現が亢進することで、ヒアルロン酸合成が促進され、これにより抗シワ効果が好ましく奏される。また、heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)は、皮膚細胞増殖に関わっていること、特にHB-EGFが増えれば皮膚ターンオーバーが早まり新しい皮膚に生まれ変わることが知られている。これにより、外傷や日焼け、あるいはシワやシミが解消され得る。
【0024】
このため、本発明は、レチノール及びツバキ種子油を含有するヒアルロン酸合成(産生ともいえる)亢進用組成物、及び、レチノール及びツバキ種子油を含有する細胞(特に皮膚細胞、中でも表皮細胞)増殖促進用若しくは皮膚ターンオーバー用組成物をも包含する。これらの組成物に含まれる各成分については、上述の記載が好ましく当てはまる。
【0025】
また、本発明は、(i)皮膚外用組成物に、レチノール及びツバキ種子油を含ませることにより、当該組成物に皮膚適用時抗シワ効果を付与若しくは増強する方法、並びに、(ii)皮膚外用組成物に、レチノール及びツバキ種子油を含ませることにより、当該レチノールの有する皮膚適用時抗シワ効果を増強する方法、も好ましく包含する。
【0026】
(i)の方法では、皮膚外用組成物において、レチノール及びツバキ種子油という特定の成分を組み合わせて含ませることによって、当該組成物自体の皮膚適用時抗シワ効果を増強させるか、あるいは当該組成物自体にレチノール及びツバキ種子油以外には皮膚適用時抗シワ効果を奏する成分が含まれていない場合には、当該効果を付与することができる。また、(ii)の方法では、もともとレチノール自体に皮膚適用時の抗シワ効果が期待されるところ、ツバキ種子油をレチノールと組み合わせて用いる(つまり、皮膚外用剤にレチノール及びツバキ種子油を含ませる)ことによって、当該レチノールの抗シワ効果を増強することができる。
【0027】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0028】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下、特に断らない限り、以下の検討に用いた各種組成物中の成分含有割合を示す%は質量(w/w)%を表す。CO2濃度の%はv/v%である。なお、用いたツバキ種子油の脂肪酸含有比率は、次の範囲を満たした。パルミチン酸:7.5~20.0%、オレイン酸:62.0~85.0%、リノール酸:3.5~10.0%、リノレン酸:1.5%以下、ステアリン酸:0.5~5.0%。
【0029】
ヒアルロン酸合成酵素遺伝子及び細胞増殖促進遺伝子の発現検討
NHEK細胞(正常ヒト表皮角化細胞;新生児由来)を用いて、レチノール及びツバキ種子油により、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS2)及び細胞増殖促進遺伝子(HB-EGF)の発現が変化するかを検討した。なお、細胞、培地及び培地関連試薬については、全て市販品を購入して用いた(倉敷紡績株式会社又はシグマアルドリッチ)。
【0030】
<増殖培地調製方法>
37℃に恒温化したHuMedia-KB2培地 500mLに同じく恒温化したインスリン 0.5ml、hEGF 0.5ml、ハイドロコ-チゾル 0.5ml、BPE(ウシ脳下垂体抽出液)2ml、ゲンタマイシン/アンフォテリシンB 0.5ml(抗菌剤)を加えた。これを緩やかに混合した後、4℃に保存した。
【0031】
<凍結NHEK細胞の解凍及び培地交換方法>
凍結NHEK細胞の入ったアンプル2本を37℃の恒温槽で解凍した。解凍後、予め15mlチューブに分注した4℃のHumedia-KG2培地 6mlに細胞溶液を混合した。予め37℃に恒温化したHumedia-KG2培地 39mlを13mlずつ3つのフラスコに移した。混合した細胞溶液を接着細胞培養フラスコ(SUMILON 250mL)に2mlずつ移し、細胞が均一になるように混合させてから、しばらく静置した。37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。翌日以降、細胞密度が80%コンフルエントになるまで1日1回培地交換を行なった。
【0032】
<NHEK細胞の継代培養方法>
増殖培地を吸引し、37℃に恒温化したHEPES緩衝液を5mL加え、軽く細胞層を洗浄した。HEPES緩衝液を吸引し、0.25%トリプシン溶液を2mL加え、37℃、5%CO2インキュベーターで3分静置した。その後、フラスコ底面に接着している細胞をはがした(フラスコの淵を軽く叩き、細胞をはがす)。そこに37℃に恒温化したトリプシン中和液を4mL加えてトリプシン酵素の反応を停止させた。細胞懸濁液を50mlファルコンに回収し、遠心した(RT、1,000rpm、5min)。上清を吸引し、Humedia-KG2培地10mlに混合した後、血球計算盤で細胞数を計測した。その後、接着細胞24wellプレートに培地量950μL、細胞数が1.2×105個になるよう蒔いた。翌日、培地交換を行なった。
【0033】
<試料添加方法>
増殖培地を吸引し、PBS 1mlで洗浄した後、Humedia-KB2培地 1mlに混合した検討試料(レチノール及び/又はツバキ種子油)を添加し、24時間培養した。なお、レチノールは10-5Mの終濃度となるよう培地に添加した。ツバキ種子油は、HAS2遺伝子の発現解析時には終濃度0.001%又は0.005%となるように培地に添加し、HB-EGF遺伝子の発現解析時には終濃度0.1質量%となるように培地に添加した。また、レチノールの代わりにDMSO(ジメチルスルホキシド)を培地中で1/1000に希釈される容量加えたものも同様に24時間培養した。
【0034】
<細胞回収方法>
Humedia-KB2培地を吸引し、PBS 1mlで洗浄した。PBSを吸引し、RLT(細胞溶解液) 350μlを加え、プレートシェイカーで3min振盪した。24wellプレートの周りをビニールテープで覆い、-80℃へ保存した。
【0035】
<cDNAの作製>
-80℃から24wellプレートを取り出し、恒温槽で解凍した。70% EtOH 350μlを加え、プレートシェイカーで3分振盪した。Total RNAサンプルはRNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いて抽出した。NANODROP 2000 Spectriphotometer(Thermo SCIENTIFIC)でRNA濃度を測定し、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ社)を用いて、約500ngのTotal RNAからcDNAを作製した。
【0036】
<リアルタイムPCR>
Primix Ex Taq(タカラバイオ社)10μlにプライマー、ROX DyeIIとRNA Free水を加え、18μlの混液を調製し、2μl(約50ng)のcDNAサンプルを加えて、Real-Time PCR測定サンプルを各プライマーごとに調製した。内在性コントロールとしてβ-actin、ターゲット遺伝子としてHAS2及びHB-EGFを選択した。Real-Time PCR Standard7500(Applied Biosystems)により、ターゲット遺伝子の発現解析(相対定量)を検量線法により行なった。
【0037】
HAS2遺伝子の発現解析結果(DMSO添加時を1としたときの遺伝子発現割合)を
図1に示す。
図1において、***は、有意差が有ることを示す(***:P<0.001)。また、図において、棒グラフの上部の***は、コントロール(DMSO添加)と比べて有意差があることを、横棒上部の***は、当該横棒の端部に位置するサンプルどうしを比較して有意差があることを、それぞれ示す。また、HB-EGF遺伝子解析の結果、DMSO添加時を1としたときの遺伝子発現割合は、レチノールのみ添加時が約6.4であり、レチノール及びツバキ種子油添加時が約9.9であって、レチノールのみ添加時に比べてレチノール及びツバキ種子油添加時の方が有意に高かった(P<0.05)。
【0038】
三次元皮膚モデルを用いたヒアルロン酸合成及び細胞増殖促進遺伝子の発現検討
三次元皮膚モデルを用いて、レチノール及びツバキ種子油 により、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS3)及び細胞増殖促進遺伝子(HB-EGF)の発現が変化するかを検討した。さらに、最終産物であるヒアルロン酸産生量の発現が変化するかについても検討した。なお、細胞、培地及び培地関連試薬については、全て市販品を購入して用いた(MatTek又は倉敷紡績株式会社又はシグマアルドリッチ)。
【0039】
<三次元皮膚モデルの培養方法>
MatTek社のキット(EPI-200)を用いて、三次元皮膚モデルを培養した。具体的には、37℃に恒温化したAssay培地を24wellプレートに500μlずつ加え、そこにMatTek社により調製されたNHEK細胞(正常ヒト表皮角化細胞;新生児由来)からなる三次元皮膚モデルをのせた。37℃、5%CO2インキュベーターで1日培養した。
【0040】
<試料添加方法>
三次元皮膚モデルに検討試料(レチノール及び/又はツバキ種子油)50μlを添加し、24時間(リアルタイムPCRによる遺伝子の発現解析実験)あるいは48時間(ヒアルロン酸産生の定量実験)培養した(皮膚全体に添加試料がまんべんなく浸るように添加した)。レチノールは0.05%の濃度となるよう調整してから、三次元皮膚モデルに添加した。ツバキ種子油は、HAS3遺伝子の発現解析時には濃度1%又は2%となるように調整してから三次元皮膚モデルに添加し、HB-EGF遺伝子の発現解析時には濃度2%、3%、又は5%となるように調整してから三次元皮膚モデルに添加し、ヒアルロン酸産生の定量実験時には濃度1%、2%、又は3%となるように調整してから三次元皮膚モデルに添加した。また、無添加の条件においても24時間あるいは48時間培養した。
【0041】
なお、添加するレチノール溶液の濃度調整は、Decaglyn 1-L、1,3-BG及びイオン交換水の混合液にレチノール1%の濃度となるよう溶解した濃縮液をまず調製し、これをイオン交換水で希釈することにより、行った。また、添加するツバキ種子油の濃度調整は、Decaglyn 1-L、1,3-BG及びイオン交換水の混合液にツバキ種子油20%の濃度となるよう溶解した濃縮液をまず調製し、これをイオン交換水で希釈することにより、行った。
【0042】
<三次元皮膚モデルの回収方法>
新たな24wellプレートにPBSを500μL加え、三次元皮膚モデルを移した。皮膚上に残っている液体をアスピレーターで軽く吸引し、PBSで洗浄した。ピンセットでカップから三次元皮膚モデルを切り離し、ピンセットを使ってメンブレンを剥がした。耐熱チューブに剥がした三次元皮膚モデルを入れ、液体窒素で凍結した後、-80℃へ保存した。
【0043】
<三次元皮膚モデルからのRNA抽出及びcDNAの作製>
15mLファルコンプラスティックチューブにRLT(細胞溶解液)を600μL添加し、氷冷した。-80℃で保存していた凍結サンプルを液体窒素で冷やした後、RLTに入れ、ホモジナイザーPOLYTRON(KINEMATICA社)を用いて40秒間ホモジナイズした。三次元皮膚モデル破砕液を1.5mlチューブに回収し、遠心した(RT、14,000rpm、5min)。上清を回収し、等量の70% EtOH 350μlを加え、ボルテックスで攪拌した。Total RNAサンプルはRNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いて抽出した。NANODROP 2000 Spectriphotometer(Thermo SCIENTIFIC)でRNA濃度を測定し、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ社)を用いて、約500ngのTotal RNAからcDNAを作製した。
【0044】
<リアルタイムPCR>
リアルタイムPCRは上記と同様にして行った。すなわち、Primix Ex Taq(タカラバイオ社)10μlにプライマー、ROX DyeIIとRNA Free水を加え、そこに約50ng のcDNAサンプルを加えて、Real-Time PCR測定サンプルをプライマーごとに20μlずつ調製した。内在性コントロールとしてβ-actin、ターゲット遺伝子としてHAS3及びHB-EGFを選択した。Real-Time PCR Standard7500(Applied Biosystems)により、ターゲット遺伝子の発現解析(相対定量)を検量線法により行なった。
【0045】
HAS3遺伝子の発現解析結果(コントロール(無添加)を1としたときの遺伝子発現割合)を
図2に示す。また、HB-EGF遺伝子解析の結果(コントロール(無添加)を1としたときの遺伝子発現割合)を
図3に示す。
図2及び
図3において、***、**、*、及び+は、有意差が有ることを示す(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05、+:P<0.1)。棒グラフの上部のこれらの記号は、コントロール(無添加))と比べて有意差があることを示す。また、横棒上部のこれらの記号は、当該横棒の端部に位置するサンプルどうしを比較して有意差があることを、それぞれ示す。なお、
図2において、ツバキ種子油のみを加えた場合(「1%ツバキ油」及び「2%ツバキ油」)の結果を示す棒グラフ上部の記号は、コントロール(無添加)と比べて低下したことについて有意差があることを示す。
【0046】
<三次元皮膚モデルからのヒアルロン酸抽出>
-80℃で保存していた凍結サンプル(三次元皮膚モデル)を凍結乾燥機FDU-2200(東京理化器械株式会社)で3時間凍結乾燥させ、乾燥重量を測定した。乾燥重量10mgに対し、2.5%アクチナーゼE(科研製薬株式会社)/10mM Tris-HCl(pH 8.0)溶液を1ml添加し、ヒートブロックにて55℃で24時間反応させ、タンパク質分解処理を行なった。ヒートブロックにて100℃で10分反応させ、アクチナーゼを煮沸失活させた。その後、遠心して(RT、12,000rpm、10min)、上清を回収した。
【0047】
<ヒアルロン酸産生の定量>
得られた上清中のヒアルロン酸量をHyaluronan Quantikine ELISA Kit(funakoshi)を用いて定量した。結果を
図4に示す。
図4において、***及び*は、有意差が有ることを示す(***:P<0.001、*:P<0.05)。横棒上部の、***、及び*は、当該横棒の端部に位置するサンプルどうしを比較して有意差があることを、それぞれ示す。
【0048】
なお、各PCRに用いた各プライマーの塩基配列は次の通りである。(F:はフォワードプライマーを、R:はリバースプライマーを示す。)
β-actin
F:TTGTTACAGGAAGTCCCTTGCC
R:ATGCTATCACCTCCCCTGTGTG
HAS2
F:AGTCATGTACACAGCCTTCAGAGCA
R:CACCTCCAACCATGGGATCTTC
HAS3
F:TCGGCGATTCGGTGGACTA
R:CCTCCAGGACTCGAAGCATCTC
HB-EGF
F:GGGACCCATGTCTTCGGAAATA
R:CCAGGATGGTTGTGTGTGGTCATAG
【配列表】