(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】肌の感度測定方法、感度測定装置及び肌吸引デバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/00 101L
(21)【出願番号】P 2019154087
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-06-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2019086491
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】北村 尚美
(72)【発明者】
【氏名】坂口 歳斗
(72)【発明者】
【氏名】昆陽 雅司
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 薫
(72)【発明者】
【氏名】永野 光
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】渡▲辺▼ 純也
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3161310(JP,U)
【文献】牧野泰才・篠田裕之、“吸引圧刺激による触覚生成法”、日本バーチャルリアリティ学会論文誌、第11巻、第1号、pp.123-132、2006年5月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/00-5/01
A61B5/06-5/22
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の肌が吸引される吸引口を備える吸引部と、前記吸引部で吸引する空気の吸引圧力を制御する吸引圧制御部と、を備える肌吸引デバイスを用いた肌の感度測定方法であって、
前記吸引圧制御部が、前記吸引圧力を第1の吸引圧力に制御し、前記吸引部が前記吸引口により前記肌を吸引する第1の吸引工程と、
前記第1の吸引工程の後に、前記吸引圧制御部が、前記吸引圧力を前記第1の吸引圧力と異なる第2の吸引圧力に制御し、前記吸引部が前記吸引口により前記肌を吸引する第2の吸引工程と、
前記被験者が、前記第2の吸引工程において前記肌が吸引された圧力が、前記第1の吸引工程において前記肌が吸引された圧力に対して異なるかどうかを判定する判定工程と、を備える
肌の感度測定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項2】
前記吸引圧制御部は、前記吸引圧力の圧力値を、所定の振幅、所定の周期で変動させる
請求項
1に記載の肌の感度測定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項3】
前記吸引口を複数備える
請求項
1又は請求項
2に記載の肌の感度測定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項4】
前記第1の吸引工程と前記第2の吸引工程において、前記吸引口において吸引された前記肌の変位を測定する
請求項
1から請求項
3のいずれか1項に記載の肌の感度測定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項5】
前記判定工程の判定結果に基づいて、肌の感度を演算する肌感度演算工程と、を更に備える
請求項
1から請求項
4のいずれか1項に記載の肌の感度測定方法(ただし、医療行為を除く)。
【請求項6】
被験者の肌が吸引される吸引口を備える吸引部と、前記吸引部で吸引する空気の吸引圧力を制御する吸引圧制御部と、を備える肌吸引デバイスと、
前記吸引圧制御部が、前記吸引圧力を第1の吸引圧力に制御した状態で肌が吸引された後に、前記吸引圧制御部が、前記吸引圧力を前記第1の吸引圧力とは異なる第2の吸引圧力に制御した状態で吸引された時に、前記第2の吸引圧力で前記肌が吸引された圧力が前記第1の吸引圧力で前記肌が吸引された圧力に対して異なるかどうかを判定した結果が前記被験者から入力される入力部と、を備える
肌の感度測定装置。
【請求項7】
前記吸引圧制御部は、前記吸引部で吸引する空気の圧力値を、所定の振幅、所定の周期で変動させる
請求項
6に記載の肌の感度測定装置。
【請求項8】
前記吸引口を複数備える
請求項
6又は請求項
7に記載の肌の感度測定装置。
【請求項9】
前記吸引口において吸引された前記肌の変位を測定する変位測定部を更に備える
請求項
6から請求項
8のいずれか1項に記載の肌の感度測定装置。
【請求項10】
肌が吸引される吸引口を備える吸引部と、
前記吸引部で吸引する空気の吸引圧力を制御する吸引圧制御部と、
前記吸引口において吸引された前記肌の変位を測定する変位測定部と
を備え、
前記吸引圧制御部は、前記吸引圧力の圧力値を、所定の振幅、所定の周期で変動させ、
前記吸引圧制御部は、前記吸引圧力を第1の吸引圧力に制御し、
前記吸引部は、前記第1の吸引圧力で前記吸引口により前記肌を吸引し、
前記吸引部が前記第1の吸引圧力で吸引した後に、前記吸引圧制御部が、前記吸引圧力を前記第1の吸引圧力と異なる第2の吸引圧力に制御し、
前記吸引部は、前記第2の吸引圧力で前記吸引口により前記肌を吸引する、
肌吸引デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌の感度測定方法、感度測定装置及び肌吸引デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚に振動刺激を与えて肌の感度を測る振動覚計が知られている(例えば、特許文献1)。従来の振動覚計では、振動板を肌に触れさせた状態で振動板の振動を次第に大きくしていく。そして、被験者が振動を感じた時点での振動の強さを感度の大きさに対応するものとして計測を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スキンケア等の化粧料は、肌表面の角層に直接適用することから、スキンケア等の化粧料は角層に対する影響が大きいと考えられる。したがって、スキンケア等の化粧料を評価する際には、角層について評価が重要である。従来技術においては、振動板により肌が強制的に押されるため、振動板の影響が肌の深部、例えば、真皮、にまで及んでいた。そのため、肌表面の角層に対してどのような影響があるかを評価することができる異なる刺激による感度測定方法が求められていた。
【0005】
本発明の一実施形態は、吸引状態における肌の感度測定方法及び感度測定装置、肌吸引デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の肌の感度測定方法は、吸引状態における肌の感度測定方法であって、被験者の肌に対して所定の吸引圧力を加え、当該所定の吸引圧力に対して吸引圧力を変化させて、前記被験者に当該肌に対する圧力の変化の有無を判定させることにより肌の感度を測定する肌の感度測定方法(ただし、医療行為を除く)である。
【発明の効果】
【0007】
吸引状態における肌の感度測定方法及び感度測定装置、肌吸引デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る感度測定装置の全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る感度測定装置の肌吸引デバイスの構成図である。
【
図3】本実施形態に係る感度測定装置の肌吸引デバイスのプローブの斜視図である。
【
図4】本実施形態に係る感度測定装置の肌吸引デバイスのプローブの断面図である。
【
図5】本実施形態に係る感度測定装置の肌吸引デバイスの動作の様子を説明する図である。
【
図6】本実施形態に係る感度測定装置の全体処理のフローチャートである。
【
図7】本実施形態に係る感度測定装置の処理結果を説明する図である。
【
図8】本実施形態に係る感度測定装置の処理結果を説明する図である。
【
図9】本実施形態に係る感度測定装置のプローブの吸引口を説明する図である。
【
図10】本実施形態に係る感度測定装置の変形例を用いた実験結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に吸引状態における肌の感度について説明する。吸引状態における肌の感度とは、肌が大気圧より低い圧力で吸引されている時に、吸引する吸引圧が変化したことを感じる度合いのことである。具体的には、小さな吸引圧の変化で圧力の変化を感じれば、肌の感度が高い。逆に、大きな吸引圧の変化でなければ圧力の変化を感じなければ、肌の感度は低い。肌の感度の測定については、感度が高いか低いかという測定や肌の感度の数値的な測定がある。詳細については後で述べる。
【0010】
以下に図面を参照して本実施形態について説明する。
【0011】
<感度測定装置10>
図1は、本実施形態に係る感度測定装置10の全体構成図である。
【0012】
本実施形態に係る感度測定装置10は、肌吸引デバイス100、情報処理装置200、を備える。肌吸引デバイス100と情報処理装置200について説明する。
【0013】
<肌吸引デバイス100>
最初に、本実施形態に係る肌吸引デバイス100について説明する。
【0014】
図2は、本実施形態に係る感度測定装置10の肌吸引デバイス100の構成図である。
【0015】
肌吸引デバイス100は、プローブ110、圧力センサ120、バルブ130、エアシリンダ140、リニアアクチュエータ150、コントローラ160、デバイス制御部170、デバイス通信部180、を備える。
【0016】
プローブ110について説明する。
図3は、本実施形態に係る感度測定装置10の肌吸引デバイス100の一例としてのプローブ110の斜視図である。
図4は、本実施形態に係る感度測定装置10の肌吸引デバイス100の一例としてのプローブ110の断面図である。
【0017】
プローブ110は、被験者の肌の測定対象部分に押し当てて、肌を吸引する機材である。プローブ110は、距離センサ112を備える。また、プローブ110の先端部114には、被験者の肌に押し当てる接触部115を備える。プローブ110は、接触部115に吸引口116を備える。先端部114は、吸引口116と対向する位置にガラス窓117が備える。プローブ110には、バルブ130からエアチューブ118が接続されている。吸引口116は、プローブ110の先端部114とガラス窓117で囲まれた気密空間を介してエアチューブ118と接続されている。したがって、エアチューブ118により吸引されることで、所定の負圧力で被験者の肌を吸引口116から吸引することができる。なお、プローブ110は、吸引部の一例である。
【0018】
距離センサ112は、プローブ110内部の吸引口116に対向する位置に設けられている。距離センサ112は、吸引口116の内側の肌と、距離センサ112との間の距離を測定する。それによって、肌が吸引されることによって、肌がどれだけ変位したかを計測することができる。なお、本実施形態の距離センサ112は、変位測定部の一例である。
【0019】
本実施形態の距離センサ112は、レーザ式距離センサであるラインセンサである。
図4で示す光路Pのように、距離センサ112であるラインセンサから出射した帯状のレーザ光は、肌で反射してラインセンサに入射する。距離センサ112は、入射したレーザ光を撮像素子に結像させ、位置の変化を検出することで変位を測定する。
【0020】
なお、距離センサ112は、測定対象と距離センサ112との間の距離が測定できれば、どのような距離センサを用いてもよい。例えば、距離センサ112として超音波式距離センサを用いてもよい。また、距離センサ112として画像センサを用いた距離センサを用いてもよい。
【0021】
また、距離を求める場所についても、吸引口116の内側にある所定の直線上の肌の距離を求めてもよい。吸引口116の内側にある肌の距離の2次元分布を求めてもよい。さらに、吸引口116の内側の肌の距離だけではなく、吸引口116の周辺の距離も測定してもよい。なお、本実施形態の肌吸引デバイス100においては、吸引口116の周辺の距離を求めて、その測定結果から距離センサ112から接触部115の肌が接触する表面までの距離を求める。
【0022】
吸引口116の穴の直径については、適宜変更することができる。穴の直径を小さくすると、皮膚の浅い部分の影響を調べることができる。穴の直径を大きくすると、皮膚の深い部分までの影響を調べることができる。吸引口116の穴の直径としては、2~8mmであることが好ましく、3~5mmにするのがより好ましい。本実施形態の肌吸引デバイス100では、皮膚の角層の影響を調べること目的として、吸引口116の穴の直径は4mmである。また、吸引口116の穴の形状について、本実施形態の吸引口116の穴の形状は円形であるが、当該形状は円形に限らない。例えば、三角形、四角形等の多角形にしてもよい。
【0023】
圧力センサ120は、プローブ110が吸引する空気の圧力を測定する機器である。圧力センサ120は、プローブ110とバルブ130との間に備えられる。なお、圧力センサ120は、プローブ110の吸引口116での圧力を測定するために、プローブ110の近くに配置されることが好ましい。
【0024】
バルブ130は、測定終了後に、装置内に残留した負圧を大気圧に戻すためのバルブである。バルブ130は、被験者の肌を吸引後に、大気解放している開口と装置を接続することによって、装置内に残留した負圧を大気圧に戻す。なお、バルブ130は、デバイス制御部170により制御される。
【0025】
エアシリンダ140は、バルブ130を介してプローブ110に空気を供給する機器である。リニアアクチュエータ150は、エアシリンダ140のピストンを往復運動させる機器である。エアシリンダ140のピストンは、リニアアクチュエータ150の往復運動するロッドと接続されている。リニアアクチュエータ150のロッドが往復運動することにより、エアシリンダ140のピストンが往復運動する。エアシリンダ140のピストンが往復運動することにより、エアシリンダ140のシリンダ内の空気が圧縮膨張を繰り返される。それにより、エアシリンダ140からプローブ110に供給される空気の圧力値が振動する。本実施形態においては、肌を吸引するために、エアシリンダ140からプローブ110に供給される空気の圧力は負圧にする。
【0026】
エアシリンダ140のピストンのストロークにより、吸引圧の変動幅(振幅)が定まる。すなわち、ストロークが大きいと吸引圧の変動幅(振幅)が大きくなり、ストロークが小さいと吸引圧の変動幅(振幅)が小さくなる。また、エアシリンダ140のピストンが往復運動する周波数が、吸引圧の変動周波数となる。
【0027】
コントローラ160は、リニアアクチュエータ150の動作を制御する機器である。具体的には、コントローラ160は、デバイス制御部170からの指令に基づいて、リニアアクチュエータ150のロッドが所定の動作、例えば、ロッドが特定のストロークと往復運動の周波数で動作するように、リニアアクチュエータ150を制御する。
【0028】
デバイス制御部170は、コントローラ160を介してリニアアクチュエータ150と、を制御する機器である。また、デバイス制御部170は、距離センサ112と、圧力センサ120の検出結果を取得する機器である。デバイス制御部170は、圧力センサ120で測定したプローブ110への吸引圧力が所定の吸引圧力になるように、コントローラ160を介してリニアアクチュエータ150を制御する。なお、吸引圧力については、リニアアクチュエータ150を制御して、概略所定の吸引圧力になるようにして制御して、圧力センサ120の値を用いて、演算を行うようにしてもよい。
【0029】
デバイス通信部180は、情報処理装置200との通信を行う。例えば、情報処理装置200に、距離センサ112と圧力センサ120で測定した結果を送信する。また、情報処理装置200から、リニアアクチュエータ150への司令等を受信する。
【0030】
なお、デバイス制御部170とデバイス通信部180については、例えば、PC等の情報処理装置により行うようにしてもよい。
【0031】
エアシリンダ140と、リニアアクチュエータ150と、コントローラ160と、デバイス制御部170が、吸引圧制御部の一例である。
【0032】
なお、本実施形態においては、エアシリンダ140とリニアアクチュエータ150とを用いて吸引圧を制御しているが、吸引圧の制御にほかの手段を用いてもよい。例えば、空電レギュレータにより、吸引圧を制御してもよいし、電磁弁を周期的に開閉することによって、吸引圧を制御してもよい。
【0033】
ここで、プローブ110への吸引圧力について説明する。吸引圧力は、一定の場合と、変動する場合とある。吸引圧力が一定の場合は、設定された圧力値で吸引する。吸引圧力が変動する場合は、吸引圧力の圧力値が設定された圧力の変動幅(振幅)と変動周波数で変動するように吸引する。ここで、圧力の変動幅(振幅)について説明する。本実施形態の肌吸引デバイス100では、圧力を大気圧から所定の圧力(負圧)まで圧力を変動させる。大気圧と吸引した負圧の圧力差が最大となる圧力差を圧力の変動幅(振幅)とする。デバイス制御部170は、吸引圧力の圧力値が設定の圧力の変動幅(振幅)と変動周波数になるように、リニアアクチュエータ150を制御する。例えば、変動周波数は、皮膚の受容器の周波数特性により定めることができる。
【0034】
皮膚の内部器官である受容器の周波数特性について説明する。皮膚の表層付近の受容器としては、自由神経終端(C線維)、メルケル触盤、マイスナー小体がある。また、皮膚深部の受容器としては、パチニ小体がある。
【0035】
メルケル触盤、マイスナー小体について、一定の荷重(静荷重)より変動する荷重の方が感度が高くなることが知られている。例えば、メルケル小体は5Hz程度まで他の受容器と比べて感度が高くなることが知られている。また、マイスナー小体は5~50Hz程度で他の受容器も感度が高くなることが知られている。そのことから、本実施形態の肌吸引デバイス100では、目的とする受容器に合わせて5Hz、10Hzのように吸引圧力の変動周波数を選択することが望ましい。
【0036】
また、上記以外にも変動周波数を変更することにより、他の受容器について評価することができる。例えば、変動周波数を高くすることにより、パチニ小体による反応を評価することができる。また、その際には受容器の深度に応じて、吸引口116の大きさを変更する。
【0037】
このように、本実施形態の感度測定装置10を用いることによって、評価したい受容器に対応して測定を行うことができる。
【0038】
肌吸引デバイス100で肌を吸引したときの動作について説明する。
図5は、本実施形態に係る肌吸引デバイス100で肌を吸引したときの動作の様子を説明する図である。
図5は、吸引圧力の設定について、圧力の変動幅(振幅)を2kPaと変動周波数を10Hzとして、肌を吸引したときのデータである。
【0039】
図5のデータD1は、圧力の変動を表す。
図5のデータD2は、皮膚変位を表す。横軸は、時間(秒)、縦軸はそれぞれ圧力と肌の変位を表す。なお、グラフ左側の縦軸がデータD1の圧力(kPa)を表す。グラフ右側の縦軸がデータD2の皮膚変位(mm)を表す。また、皮膚変位は、プローブ110の接触部115の肌が接触する表面から、吸引口116の中心の皮膚の表面まで距離である。
【0040】
図5より、肌吸引デバイス100によって、大気圧である0kPaから圧力の変動幅(振幅)として設定した2kPaとの間で、ほぼ吸引圧力が変動している。また、変動周波数として設定した10Hzで吸引圧力が変動している。
【0041】
また、
図5より、圧力値の振動に同期して、肌の表面が変形している。すなわち、肌吸引デバイス100により吸引されることにより、肌の表面が変位している。
【0042】
<情報処理装置200>
次に、
図1に戻って、情報処理装置200について説明する。
【0043】
本実施形態の情報処理装置200は、制御部210、演算部220、入力部230、通信部240、を備える。
【0044】
制御部210は、情報処理装置200の全体を制御する。制御部210は、演算部220、入力部230、通信部240と接続し、各部とデータや制御命令のやりとりをおこなう。例えば、制御部210は、通信部240に対して、肌吸引デバイス100に吸引圧力の設定値を送るように制御命令を送信したり、通信部240から肌吸引デバイス100から送信された圧力のデータ等を受信したりすることができる。
【0045】
演算部220は、肌吸引デバイス100の吸引圧力と入力部230の取得結果を用いて肌の感度を演算する。
【0046】
入力部230は、被験者からの判定結果を取得する。例えば、ボタンスイッチやタッチパネルにより構成される。入力部230により取得された判定結果は、演算部220に送られる。
【0047】
通信部240は、肌吸引デバイス100と通信を行う。通信部240は、制御信号を肌吸引デバイス100に送信するとともに、肌吸引デバイス100からデータを取得する。
【0048】
なお、情報処理装置200の各機能は、不図示の記憶装置に読み出し可能に記憶されるプログラムによってCPU(Central Processing Unit)が動作することにより実現される。例えば、これらの各機能は、CPUを含むマイクロコンピュータにおけるハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される。
【0049】
また、本実施形態の感度測定装置10では、肌吸引デバイス100、情報処理装置200を備えるが、構成についてはそれに限らない。例えば、肌吸引デバイス100のデバイス制御部170での制御を、情報処理装置200が行ってもよい。さらに、情報処理装置200が、制御信号を肌吸引デバイス100に送信して制御しているが、肌吸引デバイス100が入力部を設けて、試験者が肌吸引デバイス100の設定等の制御を行うようにしてもよい。
【0050】
<感度測定装置の処理>
図6は、本実施形態に係る感度測定装置10の全体処理のフローチャートである。
【0051】
(ステップS10) 被験者の肌の測定対象部分にプローブ110の接触部115を押し当てる。
【0052】
(ステップS20:第1の吸引工程) 情報処理装置200の制御部210は、通信部240、デバイス通信部180を介して肌吸引デバイス100のデバイス制御部170と通信して、吸引圧力の設定を、第1の吸引圧力に設定する。肌吸引デバイス100のデバイス制御部170は、通信した設定に基づいて、第1の吸引圧力で、プローブ110により肌を吸引する。本実施形態の肌吸引デバイス100では、吸引圧力を変動させるために、所定の吸引圧の変動幅(振幅)と、変動周波数に設定する。例えば、第1の吸引圧力として、圧力の変動幅(振幅)を2kPa、変動周波数を10Hzとする。なお、吸引圧力が一定の場合は、例えば、吸引圧力を所定の一定圧(例:2kPa)にする。
【0053】
(ステップS30:第2の吸引工程) 情報処理装置200の制御部210は、通信部240、デバイス通信部180を介して肌吸引デバイス100のデバイス制御部170と通信して、吸引圧力の設定を、第2の吸引圧力に設定する。肌吸引デバイス100のデバイス制御部170は、通信した設定に基づいて、第2の吸引圧力で、プローブ110により肌を吸引する。なお、本実施形態の肌吸引デバイス100では、吸引圧力を変動させるために、吸引圧の変動幅(振幅)と、変動周波数を設定する。この場合に、吸引圧力の変動幅(振幅)は、ステップS20の第1の吸引工程における第1の吸引圧力と同じ変動幅(振幅)でもよいし、異なる変動幅(振幅)でもよい。ただし、感度を求めるためには、次のステップS40の判定工程において、吸引圧力の変化の有無を判断することから、第2の吸引圧力の変動幅(振幅)とは異なる変動幅(振幅)で少なくとも1回は測定を行う。例えば、測定圧力設定の変動幅(振幅)として1.5kPa、変動周波数として10Hzとする。なお、吸引圧力が一定の場合は、例えば、吸引圧力を所定の一定圧(例:1.5kPa)にする。
【0054】
(ステップS40:判定工程) 被験者は、ステップS30の第2の吸引工程において肌が吸引された圧力が、ステップS20の第1の吸引工程において肌が吸引された圧力に対して異なるかどうかを判定する。例えば、第1の吸引工程において肌が吸引された圧力に対して強く吸引されたか、弱く吸引されたか、又は、同じ圧力で吸引されたかを判定する。そして、その判定した結果を情報処理装置200の入力部230から入力する。このように、ステップS20の判定工程において、被験者に肌に対する吸引圧力の変化の有無を被験者が感じるかどうかにより判定させる。
【0055】
なお、ステップS20と、ステップS30、ステップS40は、測定圧力設定を変更しながら複数回行ってもよい。また、被験者についても、複数の被験者で行うようにしてもよい。
【0056】
情報処理装置200の演算部220は、制御部210での圧力設定と入力部230での入力結果に基づいて、肌の感度を評価する。
【0057】
<感度測定方法>
吸引状態における肌の感度測定方法について、例を示す。例としては、(1)肌の感度が高いか低いか測定する感度測定方法、(2)肌の感度を数値的に測定する感度測定方法、について述べる。
【0058】
(1)肌の感度が高いか低いか測定する感度測定方法
最初に、被験者が知覚できる1回目の吸引刺激を被験者の肌に対して付与する(加える)。本感度測定方法においては、ステップS20の第1の吸引工程により行う。次に、1回目の吸引刺激に対して刺激を所定量変更した2回目の吸引刺激を、被験者の肌に対して付与する(加える)。本感度測定方法では、ステップS30の第2の吸引工程において、1回目の吸引圧力の変動幅(振幅)と異なる圧力の変動幅(振幅)に設定して行う。そして、1回目の吸引刺激と2回目の吸引刺激に対して、肌を吸引した圧力の変化の有無を判定させる。本感度測定方法においては、ステップS40の判定工程において、被験者に肌に対する吸引圧力の変化を感じるかどうか、すなわち、吸引圧力の変化の有無、を判定させる。被験者が変化を感じれば被験者の肌の感度が高い、被験者が変化を感じなければ被験者の肌の感度が低いと測定することができる。なお、当該所定の圧力については、例えば、人が圧力の違いを判別することができる平均的な圧力とする。本感度測定方法によって、被験者が肌の感度が高いか低いかを測定することができる。なお、測定は、同じ人に対して、測定する日や時間(例えば、午前、午後等)を変えて行ってもよい。また、測定は、年齢や性別、人種、居住地等の条件が異なる人の集合に対して行ってもよい。その場合にも、測定する日や時間(例えば、午前、午後等)を変えて行ってもよい。
【0059】
(2)肌の感度を数値的に測定する感度測定方法
スキンケア等の化粧料の効果を評価する方法として、肌の感度を数値化することで行うことができる。本感度測定方法の例として,吸引刺激に対する被験者の反応率を肌の感度として求める。
【0060】
肌の感度を数値化する肌の感度測定方法について示す。最初に、被験者が知覚できる1回目の吸引刺激を被験者の肌に対して付与する(加える)。本感度測定方法においては、ステップS20の第1の吸引工程により行う。次に、2回目の吸引刺激を被験者の肌に対して付与する(加える)。本感度測定方法においては、ステップS30の第2の吸引工程により行う。ここで、第1の吸引工程の第1の吸引圧力と、第2の吸引工程の第2吸引圧力について説明する。第1の吸引圧力と第2の吸引圧力の一方は、所定の基準の吸引圧力とする。そして、第1の吸引圧力と第2の吸引圧力の他方は、当該基準の吸引圧力に対して比較するための吸引圧力とする。なお、比較するための吸引圧力としては、基準の吸引圧力でもよいし、基準の吸引圧力から変更した吸引圧力でもよい。そして、それぞれの吸引圧について、ステップS40の判定工程で、ステップS30の第2の吸引工程において肌が吸引された圧力が、ステップS20の第1の吸引工程において肌が吸引された圧力に対して異なると感じるかどうかを判定する。この計測を比較するための吸引圧力を変更しながら複数回繰り返す。そして、ステップS40の判定工程での判定結果から、刺激の強弱を正しく知覚できた回数から反応率を算出し、当該基準の吸引圧力における感度とする。なお、刺激の強弱を正しく知覚できた回数から反応率を算出し感度を演算する工程を肌感度演算工程という。なお、基準の吸引圧力は、測定によって、任意の吸引圧力にすることができる。
【0061】
実際に取得した1名の被験者のデータを表1、表2に示す。本試験では、被験者の左頬にスキンケア化粧料を塗布する前後で、反応率がどのように変わるかを試験を行った。表1は、スキンケア化粧料を塗布する前、表2はスキンケア化粧料を塗布した後のデータである。表1、表2の行方向は、吸引刺激の強さを表し、列方向に被験者の回答(強い・同じ・弱い)を表す。なお、吸引刺激の強さについて、数字の小さい方が、吸引圧が低いことを表す。具体的には、吸引圧力が、それぞれ吸引刺激1の場合は1.5kPa、吸引刺激2の場合は2kPa、吸引刺激3の場合は2.75kPa、吸引刺激4の場合は3.75kPa、吸引刺激5の場合は5kPaである。本試験では、吸引刺激3を基準となる吸引刺激として測定を行った。また、比較するための吸引刺激として、5つの吸引刺激に対してそれぞれ10回をランダムな順に繰り返した。表1、表2は、スキンケア化粧料を塗布する前後の反応率(%)を求めた結果である。
【0062】
【0063】
【0064】
本実施形態の肌吸引デバイス100を備える感度測定装置10を用いることで、スキンケア化粧料を塗布する前後の皮膚の変化や感度の変化を、上記のような心理物理学的手法を用いて評価することができる。基準となる吸引刺激に対して強い吸引刺激が付与された場合に「強い」、弱い吸引刺激が付与された場合に「弱い」、同じ吸引刺激が付与された場合に「同じ」、と正しく回答できた反応率を正答率とする。この被験者の正答率平均は,化粧料塗布前で76%、化粧料塗布後で84%となり化粧料を塗布することで正答率が高くなっていることがわかる。
【0065】
また、本感度測定方法を用いた実験を35~54歳までの女性被験者10名で実施した。被験者ごとに平均した正答率の結果を
図7に示す。t検定の結果,スキンケア化粧料塗布前後で有意差がみられた。
【0066】
次に、感覚閾値(弁別閾値)について説明する。感覚閾値(弁別閾値)とは、付与された刺激に対してその変化を正しく判断することができる刺激の強度である。すなわち、付与された刺激が感覚閾値(弁別閾値)より小さい場合には、正しく変化を判断することができない。また、付与された刺激が、感覚閾値(弁別閾値)より大きい場合には、正しく変化を判断することができる。なお、感覚閾値(弁別閾値)が小さい方が、感度が高いと判断される。
【0067】
上述の女性被験者10名の実験に対して、被験者ごとに反応率の値から算出した感覚閾値(弁別閾値)の結果を
図8に示す。感覚閾値の算出は、刺激強度と反応率の関係を調べるために最小二乗法フィッティングを行った。感覚閾値(弁別閾値)の値はスキンケア化粧料塗布後に低下した。t検定の結果、スキンケア化粧料塗布前後で有意差がみられた。これより、スキンケア化粧料塗布後のほうがより小さな刺激の違いを弁別できていることがわかる。なお、反応率へのフィッティング方法はMuller-Urban法を用いてもよいし、最尤法等を用いてもよい。なお、肌感度演算工程における感度として、上記の感覚閾値(弁別閾値)を求めてもよい。
【0068】
なお、基準の吸引圧力について、上記のように第1の吸引圧力と第2の吸引圧力の一方を所定の基準の吸引圧力とすることに限らない。例えば、第1の吸引圧力を基準の吸引圧力に固定してもよいし、第2の吸引圧力を基準の吸引圧力に固定してもよい。また、比較するための吸引圧力についても、上記のようにランダムに変更することに限らずに、例えば、高い吸引圧力から徐々に低くしてもよいし、逆に低い吸引圧力から徐々に高くしてもよい。さらに、ある特定の刺激を与えてから、刺激をだんだん強くしていつ感じるかを調べたり,だんだん弱くしていつ感じなくなるかを調べたり,強さ順はランダムに刺激して感じるか調べたりして感度を求めてもよい。
【0069】
また、吸引圧力の範囲は、下限は被験者が知覚可能な最小の圧力から、上限は被験者が痛みを感じない最大の圧力までの範囲で変更することができる。すなわち、吸引圧力は、被験者が吸引刺激を感じるが痛みを感じない圧力にする。この吸引圧力の範囲は、吸引口の口径、穴の数、吸引する周波数、測定部位、被験者の感度等により異なる。したがって、被験者や試験条件等により吸引圧力の圧力値を適宜変更することができる。例えば、吸引口の口径を4mm、穴の数を1つ、吸引する周波数を10Hz、測定場所を一般的な男子学生の腕、とした場合には、2から20kPaの範囲で吸引圧力を変更する。また、測定場所を頬とした場合は、吸引圧力範囲の下限を2kPaから小さい圧力でも実施することができる。
【0070】
<まとめ>
吸引刺激を用いることによって、肌の表面に力を作用させることから、従来の振動覚計のように、作用させる力が直接皮膚の深部まで影響を及ぼすことない。そのことから、肌の表層、特に、角層における肌の感度への影響を評価することができる。したがって、例えば、スキンケア等の化粧料について、肌の角層への効果を評価することができる。
【0071】
また、本実施形態の肌吸引デバイス100は、距離センサ112を備えることから、肌の変位を測定することができる。それによって、肌の変位と肌の感度との関係について、調べることが可能である。
【0072】
<変形例>
図9は、本実施形態に係る感度測定装置10のプローブの吸引口116の一例を説明する図である。
【0073】
本実施形態のプローブ110の吸引口116は、
図9(a)に示すように、1個であったが、吸引口の数については1個に限らない。例えば、
図9(b)や
図9(c)に示すように、吸引口の数を3個や5個として、複数備えるようにしてもよい。また、吸引口を複数とする場合には、
図9(b)や
図9(c)のように、横に並べてもよいし、縦に並べてもよい。
図9では、吸引口の数を3個と5個を示しているが、偶数個にしてもよいし、5個より多くしてもよい。なお、吸引口を複数個設ける場合には、それぞれの吸引口で距離センサにより肌の変位を測定できるようにしてもよい。
【0074】
吸引口の数を増やすことによって、複数箇所を同時に刺激することができる。そのため、肌の吸引圧力に対する感度が高くなる。なお、吸引口の数を増やした際には、吸引圧力を変動させてもよいし、一定にしてもよい。
【0075】
変形例を用いて取得したデータについて述べる。吸引口数を変えた場合の吸引刺激に対する皮膚の閾値の変化について実験を行った。
【0076】
本実験に用いたプローブ110の吸引口116について説明する。本実験では、吸引口116の数(吸引口数)が1個、3個、5個である接触部115を備えるプローブ110を用いて測定を行った。吸引口116の配置は、
図9の配置とした。また、吸引口116のそれぞれの穴の直径は2mmとした。吸引口116が複数ある場合は、吸引口116と吸引口116の中心間の距離を4mmとした。
【0077】
次に、実験対象について説明する。20代前半の男性5名の被験者について実験を行った。測定対象とする肌、すなわち、プローブ110で吸引する箇所は、被験者の左前腕部内側の毛が生えていない部分の肌とした。
【0078】
次に、実験方法について説明する。最初に、実験対象の肌を、ある設定変動幅(振幅)で変動する吸引圧力で吸引する。そして、肌が吸引されていると感じるかどうかを、入力部230から情報処理装置200に入力する。次に、情報処理装置200は、その入力結果に基づいて、吸引圧力の設定変動幅(振幅)を変更して試験を繰り返す。そのようにして、被験者が吸引圧力を感じることができる吸引圧力の変動幅(振幅)の閾値を求めた。本実験においては、PEST(Parameter Estimation by Sequential Testing)法を用いて実験を行った。設定変動幅(振幅)を0.1kPaから13.3kPaの間で、最小0.1kPa単位で設定を変更した。また、吸引圧力の変動周波数は、10Hzとした。また、設置変動幅を変更する最小単位(0.1kPa)が5回続いた場合、測定が収束したと判断した。また、30回測定を行っても終わらなかった場合は、測定が収束しなかったと判断した。各被験者について、吸引口数が異なるプローブ110のそれぞれに対して3回ずつ合計9回測定を行った。各測定は、直径40mmの領域内で、測定位置を変えながら(例えば、25mm程度、測定を行った場所から移動する、等。)測定を行った。
【0079】
次に、実験対象について説明する。
図10は、本実施形態に係る感度測定装置10の変形例を用いた実験結果を説明する図である。
図10では、各被験者の結果が収束したデータをプロットした。また、収束したデータを用いて、箱ひげ図をプロットした。なお、収束したデータの数は、各吸引口数における15回(=被験者5名×各被験者当たり3回)のデータの中で、吸引口数が1個、3個の場合は8データ、5個の場合は10データであった。
【0080】
本実験の結果、吸引口数が増えると、閾値が低下する傾向、すなわち、肌の吸引圧力に対する感度が高くなる傾向が見られ、中央値に差が見られた。なお、本実験では、設定変動幅(振幅)の上限を13.3kPaとしたが、吸引口数が1個の場合では、その上限である13.3kPaにしたときでも、肌が吸引されていることを知覚できないことが多かった。
【0081】
以上、実施形態について詳述したが、上記の実施形態はすべての点で例示であって、上記の実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 感度測定装置
100 肌吸引デバイス
110 プローブ
112 距離センサ
116 吸引口
120 圧力センサ
130 バルブ
140 エアシリンダ
150 リニアアクチュエータ
170 デバイス制御部
200 情報処理装置
210 制御部
220 演算部
230 入力部