(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】エリア状況の推定方法及びその学習方法、並びにエリア状況の推定装置及びその学習装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20241028BHJP
G08G 1/13 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
G08G1/01 E
G08G1/13
(21)【出願番号】P 2020038176
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501271479
【氏名又は名称】株式会社トヨタマップマスター
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】田中 未来
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-113117(JP,A)
【文献】特開2010-191614(JP,A)
【文献】特開2008-250493(JP,A)
【文献】特開2013-206325(JP,A)
【文献】特開2002-251698(JP,A)
【文献】特開2019-028489(JP,A)
【文献】特開2018-180906(JP,A)
【文献】特開2018-028835(JP,A)
【文献】特開2015-222537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリアの状況を推定する方法であって、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれのプローブデータ又は車両インナーデータを含む車両データのセットと、モデルエリアの状況とを収集し、前記車両データのセットと前記モデルエリアの状況を定義する状況データとを含む教師データを生成し、
学習機能を備える状況推定部へ前記教師データを入力し、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習させ、
学習済の状況推定部へ、状況未知の前記モデルエリアとは異なる任意の推定対象エリアにおける車両データのセットを入力し、該入力時の前記推定対象エリアの状況を推定する、
エリア状況の推定方法において、
前記状況データはエリアにある道路の路側帯の混雑状況を定義する混雑データ又は非混雑状況を定義する非混雑データであり、
前記車両データは、停車前の前記プローブカーの走行履歴のパターン、及び/又は目的地と停車位置との距離を含む、エリア状況の推定方法。
【請求項2】
前記モデルエリアの状況の収集は、前記車両データの収集時に実行される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モデルエリアの状況の収集は、前記車両データの収集後に実行される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記走行履歴のパターンは、速度変化、座標変化、方向変化の少なくとも一つを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
エリアの状況を推定する推定装置であって、学習部と運用部とを備え、
前記学習部は、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれのプローブデータ又は車両インナーデータを含む車両データのセットと、モデルエリアの状況とを収集し、前記車両データのセットと前記モデルエリアの状況を定義する状況データとを含む教師データを生成する教師データ生成部と、
学習機能を備える状況推定部であって、前記教師データが入力され、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習する状況推定部と、とを備え、
前記運用部は、
学習済の前記状況推定部へ、状況未知の前記モデルエリアとは異なる任意の推定対象エリアにおける車両データのセットを入力して、該入力時の前記推定対象エリアの状況を推定する、
エリア状況の推定装置において、
前記状況データはエリアにある道路の路側帯の混雑状況を定義する混雑データ又は非混雑状況を定義する非混雑データであり、
前記車両データは、停車前の前記プローブカーの走行履歴のパターン、及び/又は目的地と停車位置との距離を含む、エリア状況の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエリア状況の推定方法及びその学習方法、並びにエリア状況の推定装置及びその学習装置に関する。この発明が対象とするエリア状況の推定方法は、例えば車両用のナビゲーション装置に適用される地図上の所望エリアに存在する車両の状況を、AI技術を用いて、推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナビゲーション装置に適用される便利な機能として目的地が存在するエリアにおける車両の状況を推定することがある。このようなエリア状況推定の一例として駐車場の空満状況の推定がある。駐車場の空満状況は、駐車場に備えられるセンサの他、駐車待時間や駐車待車両の車列長さなどから推定されて、ナビゲーション装置に反映される。
他方、例えば駅前においては、車両を駐車場に収めるまでもなく、短い間、駅近くの道路の路側帯に車両を停車させたい場合がある。
駐車場の場合に照らしていえば、所定のエリアにある道路の路側帯の空満状況(混雑状況)の推定機能がナビゲーション装置に備えられればうれしい。
本願発明に関連する技術を開示する先行技術文献として特許文献1~3を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-095663号公報
【文献】特開2013-068521号公報
【文献】特開2007-149054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
路側帯での停車は短時間しか認められないので、停車しようとする車両と発車しようとする車両との動作が頻繁に発生する。したがって、長い時間の停車(駐車)を前提とする駐車場での混雑状況を推定する方法はそのまま適用することができない。
本発明者の検討によれば、路側帯の混雑状況を推定する技術を開示乃至示唆する先行文献は何ら見当たらなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、モデルとなるエリアにおいて、混雑状況の路側帯へ同時期に停車した車両(プローブカー)と非混雑状況の路側帯へ同時期に停車した車両とでは、停車までの走行履歴のパターンに違いがあるのではないかと考えた。
例えば、混雑時には停車希望の路側帯位置に他の車両が停車している場合が多い、その結果、停車希望の路側帯位置へ停車するまでに、その車両は特徴的な走行履歴のパターンを示す。特徴的な走行履歴パターンとして、停車希望の路側帯位置の周囲を巡回することがある。ここに、巡回とは、停車希望の路側帯位置を一旦通り過ぎて、左右折、Uターン、及び/又は後進等を行って、当該停車希望の路側帯位置へ再度アプローチすることをいう。停車希望の路側帯位置(目的地)への停車が叶わずに、当該位置から離れた位置に車両を停車せざるを得ない場合もある。
【0006】
他方、非混雑状況において、車両の運転者は何らストレスなく、その車両を停車希望の路側帯位置に停車させられる。換言すれば、停車までの走行履歴パターンでは上記巡回が生じることがなく、目的地から離れた路側帯に停車することもない。
以上の知見より、本発明者は以下に説明する本願発明に想到した。
なお、上記の説明では、エリアの状況としてエリアにある道路の路側帯の混雑状況を例に採り上げているが、エリアの状況を推定する方法として本願発明は一般化できる。本願発明の推定方法は特定のエリアにおける車両の状況が頻繁に変化する場合に好適である。かかる場合の例として、上記の路側帯での混雑状況を推定する他、集中豪雨に見舞われたエリアにおける車両の動きがある。
【0007】
この発明の第1の局面は次のように規定される。即ち、
エリアの状況を推定する方法であって、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データのセットと、モデルエリアの状況とを収集し、前記車両データのセットと前記モデルエリアの状況を定義する状況データとを含む教師データを生成し、
学習機能を備える状況推定部へ前記教師データを入力し、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習させ、
学習済の状況推定部へ、状況未知の推定対象エリアにおける車両データのセットを入力し、前記推定対象エリアの状況を推定する、エリア状況の推定方法。
【0008】
このように規定される第1の局面の推定方法によれば、エリアの状況を推定するに際し、エリアに存在する複数のプローブカーの車両データを用いる。ここに車両データとは、プローブカーが保存し又は生成する車両に関する一切のデータを指し、例えば、プローブデータや車両インナーデータがある。プローブデータはプローブカーの走行履歴を示すための位置情報(x、y)とその取得時間tとから専ら構成される。車両インナーデータは車両が備えるセンサ、コントロールユニットその他から出力される当該車両の各種状態に関するデータであって、当該車両に搭載されたネットワーク上でCAN(Controller Area Network)をはじめとした各種通信プロトコルにより伝送可能なデータをいう。
【0009】
この発明では、モデルエリアを定めて、当該モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データとこのモデルエリアの状況を定義する状況データとを教師データとする。教師データを収集してこれを状況推定部へ入力する。この状況推定部は学習機能(ディープラーニング等の機械学習機能)を備える。即ち、AI処理の学習モードを実行する。
この学習モードにより、車両データのセットとモデルエリアの状況を特定する状況データとの関係が学習される。例えば、車両データのセットとして、任意に指定した時間帯における、モデルエリアの路側帯に駐車していたプローブカーの走行軌跡のセットを採用できる。モデルエリアの状況、例えばモデルエリアにある道路の路側帯が混雑状況であるか非混雑状況であるか、を特定する状況データとして「混雑データ」と「非混雑データ」とを採用することができる。この場合、混雑状況であるか非混雑状況であるかは、指定された時間帯におけるモデルエリアの現状視察若しくはその撮影画像に基づき人が判断する。また、撮影画像を画像処理してその判断をコンピュータ装置にさせることもできる。
【0010】
運用モードでは、状況未知の推定対象エリアにおける車両データのセットを学習済の状況推定部へ入力する。状況推定部は入力された車両データのセットに基づき、推定対象エリアの状況を特定する状況データを出力する。この状況データから推定対象エリアの状況が推定される。このとき、モデルエリアにおいて複数のプローブカーを選択したルールと同じルールを用いて推定対象エリアにおいても複数のプローブカーが選択されてそれらの車両データが学習済の状況推定部へ入力されるものとする。
【0011】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データのセットと、前記モデルエリアの状況とを収集し、前記車両データのセットと前記モデルエリアの状況を定義する状況データとを含む教師データを生成し、
学習機能を備える状況推定部へ該教師データを入力し、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習させる、エリア状況の推定方法用の学習方法。
この発明の第2の局面は、第1の局面における学習モードを規定する。当該第2の局面で規定する学習方法を実行することにより、学習済の状況推定部が得られる。
【0012】
この発明の第3の局面は次のように規定される。即ち、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データのセットと、前記モデルエリアの状況を定義する状況データとからなる教師データを入力して、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習させた、学習済の状況推定部を準備し、
該学習済の状況推定部へ、状況未知の推定対象エリアにおける車両データのセットを入力し、前記推定対象エリアの状況を推定する、エリア状況の推定方法。
この発明の第2の局面で規定する学習済の状況推定部を用いることにより、状況未知の推定対象エリアの状況を推定可能となる。
【0013】
この発明の第4の局面は次のように規定される。即ち
第1の局面において、前記モデルエリアの状況の収集は、前記車両データの収集時に実行される。
このように規定される第4の局面の推定方法によれば、モデルエリアの状況を特定する状況データと車両データとが同じ時間帯に得られるものとなるので、両者の関係が密接である。よって、状況の推定に高い精度が得られる。
【0014】
この発明の第5の局面は次のように規定される。即ち
第1の局面において、前記モデルエリアの状況の収集は、前記車両データの収集後に実行される。
このように規定される第5の局面の推定方法によれば、車両データに基づきその後に発生するエリアの状況を推定可能となる。例えば、目的地に到着する直前にこの発明の推定方法を実行することで、到着時における目的地の状況の推定が可能となる。ここに、目的地における車両データを収集する時間帯は、目的地に到着する直前の所定の時刻(例えば、状況推定を起動した時刻)から所定の時間を遡ったものとする。そして、かかる時間帯に得られた車両データに基づいて目的地到着時の目的地の状況が推定される。
【0015】
この発明の第6の局面は次のように規定される。即ち、
第1の局面において、前記状況データはエリアにある道路の路側帯の混雑状況を定義する混雑データ又は非混雑状況を定義する非混雑データであり、
前記車両データは、停車前の前記プローブカーの走行履歴のパターン、及び/又は目的地と停車位置との距離を含む。
このように規定される第6の局面に規定の推定方法によれば、エリアにある道路の路側帯の混雑状況の推定が可能となる。
【0016】
この発明の第7の局面は次のように規定される。即ち、
第6の局面に規定の推定方法において、前記走行履歴のパターンは、速度変化、座標変化、方向変化の少なくとも一つを含む。
このように規定される第7の局面に規定の推定方法によれば、車両データとして取得容易な走行状態データが選択されるので、その実行が容易になる。
【0017】
この発明の第8の局面は次のように規定される。即ち、
エリアの状況を推定する推定装置であって、学習部と運用部とを備え、
前記学習部は、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データのセットと、モデルエリアの状況とを収集し、前記車両データのセットと前記モデルエリアの状況を定義する状況データとを含む教師データを生成する教師データ生成部と、
学習機能を備える状況推定部であって、前記教師データが入力され、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習する状況推定部と、とを備え、
前記運用部は、
学習済の前記状況推定部へ、状況未知の推定対象エリアにおける車両データのセットを入力して、前記推定対象エリアの状況を推定する、エリア状況の推定装置。
このように規定される第8の局面の装置によれば、第1の局面と同様の効果が得られる。
【0018】
この発明の第9の局面は次のように規定される。即ち、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データのセットと、前記モデルエリアの状況とを収集し、前記車両データのセットと前記モデルエリアの状況を定義する状況データとを含む教師データを生成する教師データ生成部と、
学習機能を備える状況推定部であって、前記教師データが入力され、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習する、エリア状況の推定方法用の学習装置。
このように規定される第9の局面の装置によれば、第2の局面と同様の効果が得られる。
【0019】
この発明の第10の局面は次のように規定される。即ち、
モデルエリアに存在する複数のプローブカーのそれぞれの車両データのセットと、前記モデルエリアの状況を定義する状況データとからなる教師データを入力して、前記車両データのセットと前記状況データとの関係を学習させた、学習済の状況推定部を備え、
該学習済の状況推定部へ、状況未知の推定対象エリアにおける車両データのセットを入力して、前記推定対象エリアの状況を推定する、エリア状況の推定装置。
このように規定される第10の局面の装置によれば、第3の局面と同様の効果が得られる。
【0020】
この発明の第11の局面は次のように規定される。即ち、
前記モデルエリアの状況の収集は、前記車両データの収集時に実行される第8~10の局面の何れかに記載の装置。
このように規定される第11の局面の装置によれば、第4の局面と同様の効果が得られる。
【0021】
この発明の第12の局面は次のように規定される。即ち、
前記モデルエリアの状況の収集は、前記車両データの収集後に実行される第8~10の何れかの局面に記載の装置。
このように規定される第12の局面の装置によれば、第5の局面と同様の効果が得られる。
【0022】
この発明の第13の局面は次のように規定される。即ち、
前記状況データはエリアにある道路の路側帯の混雑状況を定義する混雑データ又は非混雑状況を定義する非混雑データであり、
前記車両データは、停車前の前記プローブカーの走行履歴のパターン、及び/又は目的地と停車位置との距離を含む、第8~10のいずれかの局面に記載の装置。
このように規定される第13の局面の装置によれば、第の局面6と同様の効果が得られる。このように規定される第8の局面の装置によれば、第の局面と同様の効果が得られる。
【0023】
この発明の第の局面は次のように規定される。即ち、
前記走行履歴のパターンは、速度変化、座標変化、方向変化の少なくとも一つを含む第13の局面に記載の装置。
このように規定される第14の局面の装置によれば、第7の局面と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1はこの発明の教師データ作成装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2はモデルモデルエリアにおける路側帯の状態(混雑状況)を示す模式図である。
【
図3】
図3はモデルエリアにおける路側帯の他の状態(非混雑状況)を示す模式図である。
【
図4】
図4はモデルエリアにおける路側帯の他の状態(非混雑状況)を示す模式図である。
【
図5】
図5はコンピュータ装置をこの発明の状況推定装置(学習モード)として機能させたときのブロック図である。
【
図6】
図6はコンピュータ措置をこの発明の状況推定装置(運用モード)として機能させたときのブロックである。
【
図7】
図7は実施形態の教師データ作成装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は
図7のフローチャートにおけるステップ5の詳細を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は
図7のフローチャートにおけるステップ6の詳細を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は推定対象エリアにおいて車両データの取得方法を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は
図10のフローチャートにおけるステップ105の詳細を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は
図10のフローチャートにおけるステップ106の詳細を示すフローチャートである。
【
図13】
図13はコンピュータ装置を
図1の教師データ作成装置として用いたときのハード構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1はこの発明の実施形態の教師データ作成装置1を示すブロック図である。
この教師データ作成装置1は、車両データ保存部2、プローブカー抽出部3、車両データセット作成部4、エリア状況入力部5、教師データ作成部6、出力部7及び教師データ保存部8から構成される。
車両データ保存部2には、プローブカーから収集された車両データが保存される。車両データにはプローブデータと車両インナーデータとが含まれる。
【0026】
プローブカー抽出部3は、
図2に破線で示すモデルエリアMAに含まれる道路(以下「モデル道路」ということがある)の路側帯において指定した時間帯に駐車していたプローブカーを抽出する。なお、モデルエリアMAは任意に選択できるが、例えば
図2に示すとおり、駅を中心とした所定の領域をもってモデルエリアMAとすることができる。時間帯は例えば10分間として、任意の時刻T
0においてモデル道路の路側帯に停車していたプローブカーを抽出する。抽出されたプローブカーの数、即ち、時刻T
0にモデル道路の路側帯に停車していたプローブカーの数が10に満たないとき、1分ごとに合計10回まで時間を遡り、すでに抽出したプローブカー以外に駐車していたプローブカーを抽出する。時間を遡る途中で抽出したプローブカーの合計数が10に達したときは更なるプローブカーの抽出は止める。抽出したプローブカーの総数が10に満たなくても、時刻T
0から10分間遡った時刻(T
0-10)において抽出を止める。
【0027】
このようにして抽出された各プローブカーにつき、それが停車する前の車両データを車両データ保存部2から読み出す。
この車両データとして、停車前に車両が停車位置の周囲を巡回していたか否かを示す走行履歴のパターンを採用することができる。走行履歴のパターンとして、例えば、停車前5分間の走行軌跡(座標変化)をプローブデータから形成する。当該走行軌跡が停車位置に重なっていれば、そのプローブカーは巡回していたと考えられる。その他、例えば停車前5分間における速度変化や方向変化の頻度もプローブカーの巡回を示唆するデータとなる。速度変化や方向変化はプローブデータの他ない車両インナーデータを利用することもできる。
【0028】
プローブカーを抽出した時間帯におけるモデルエリアの道路の路側帯が混雑状況であるか若しくは非混雑状況であるかを特定する状況データ(混雑データ、非混雑データ)を、エリア状況入力部5を介して、ヒトがマニュアルで入力する。混雑・非混雑の判断は現場において行うこともできるし、駅前通り(道路)について指定時間帯に撮影された画像からその判断を行うこともできる。
この発明の他の態様では、プローブカーを抽出した時間帯の後の時間帯の路側帯の状況が採用される。
教師データ作成部7はエリア状況入力部5を介して入力された混雑データ若しくは非混雑データに対して、当該取得時間帯に出した各プローブカーの車両データのセットを組み合わせて、教師データとする。
【0029】
【0030】
表1において、プローブカーがモデルエリアMA内の路側帯に停車していたときは、車両データの「エリア内に停車」の欄に「1」が付される。かかるプローブカーが存在しないときは、「1」の付されたプローブカー以降のプローブカーの該当する欄に「0」が付される。なお、当該「0」の付されたプローブカーの他の車両データにも「0」が付される。
プローブカーの迂回の有無を判定するため、停車位置に走行軌跡が重複していた場合に「走行軌跡が重複」の欄に「1」が付され、重複していない場合には「0」が付される。同様に走行軌跡に5回を超える方向転回がみられるときは「方向転回>5」の欄に「1」が付され、方向転回の回数が5以下のときは「0」が付される。
【0031】
停車位置から駅までの距離に基づき混雑状況であるか非混雑状況であるかを判定するため、プローブカーのナビゲーション装置が駅を目的地としているとき「駅が目的地」の欄に「1」が付され、駅が目的地に設定されていないときは「0」が付される。また、停車位置から駅までの距離が50m以上のときは「50m以上」の欄に「1」が付され、50m未満のときは「0」が付される。駅を目的地としているにも関わらず停車位置から駅までの距離が50m以上のとき、駅前の道路は混雑状況と推定される。
【0032】
図2に示す状況は「混雑1」として表1に記される。
図3に示す状況は「非混雑1」として表1に記される。この例では、指定した時間帯において3台のプローブカーのみが停車しており、駅前道路の路側帯に常に空きがあったことがわかる。なお、抽出されなかった4台目以降の各車両データは0である。
図4に示す状況は「非混雑2」として表1に示される。ここに、混雑1(
図2)と非混雑2(
図4)とでは、プローブカー1~5の車両データは等しい。ただし、非混雑2のプローブカー6~10は、何ら巡回することなく、停車が出来ている。これは、先の停車車両が路側帯から離脱してすぐに空きのスペースが見つかったことを意味する。換言すれば、駅前道路には常に停車車両が存在し、一見すると、混雑状況に見えるが、現実には車両の出入りが頻繁に行われているので、後から到着した車両は何らストレスなく停車可能であること、即ち、非混雑状況であることを意味する。
【0033】
図2~
図4に示すモデルエリアにつき、長期間かけて表1に示すデータセット(教師データ)を取得する。
教師データの数がAI処理に適した数に達したら、この教師データを
図5に示す学習装置100へ入力する。
この学習装置100は教師データ保存部8と状況推定部15とを備えてなる。教師データ保存部8には、車両データセット保存領域8Aとエリア状況保存領域8Bとが備えられる。
教師データ保存部8に保存された教師データが状況推定部15に入力されると、状況推定部15はAIプログラムに基づいて機械学習を行い、その結果、車両データセットと状況データとが所定の関係に関係付けられる。
【0034】
状況未知の推定対象エリアについてプローブカーの車両データを収集し、推定装置200のメモリ部23の車両データセット保存領域23Aに保存する。かかる車両データのセットを学習済の状況推定部15へ入力すると、当該車両データのセットに対応する状況データが、例えばその確率とともに出力部17から出力される。状況データが混雑データであったとき、推定対象エリアにある道路の路側帯は混雑状況であると推定される。
【0035】
次に、この発明の推定装置の動作について
図7以降のフローチャートを参照しながら説明する。
<学習モード>
図7のステップ1において、ナビゲーション装置で用いられる地図データ上にモデルエリアMAを特定する。ステップ2では、モデルエリアMAに含まれる停車可能な道路(モデル道路)を抽出する。
ステップ3では、任意の時間T
0を指定する。これにより時間T
0から10分間遡った時間帯(T
-10~T0)が指定される。
ステップ4では、ステップ3で指定された時間帯においてモデルエリアMAの状況(混雑状況であったか非混雑状況であったか)が特定されて状況データ(混雑データ又は非混雑データ)が作成される。モデルエリアの状況はエリア状況入力部5からのデータ入力により特定され、教師データ作成部で状況データ化される。
なお、ステップ3で指定した時間帯の後の時間帯でモデルエリアMAの状況を特定し、それで状況データを作成することもできる。
【0036】
ステップ5では、指定した時間帯内においてモデル道路の路側帯に停車していたプローブカーを抽出する。より詳しくは、
図8に示す動作を実行する。
即ち、ステップ51において、指定した時刻T
0においてモデル道路の路側帯に停車しているプローブカーを駅に近い順に抽出する。抽出したプローブカーの総数が10台に達したときは(ステップ52=YES)、ステップ57に進んで抽出したプローブカーを保存する。抽出したプローブカーの総数が10台に満たないときは(ステップ52=NO)、ステップ53に進む。
【0037】
ステップ53では、指定した時刻T0より1分前においてモデル道路の路側帯に駐車しているプローブカーであって、未だ抽出されていないものを駅から近い順に抽出する。ステップ51とステップ53とで抽出したプローブカーの総数が10台に達したときは(ステップ54=YES)、ステップ57に進む。当該総数が10に満たないときはステップ55に進み、以後、1分前毎に、10分前まで同様の動作を繰り返す(ステップ55=NO)。10分間遡っても抽出した総数が10台に達しないときでもテップ57に進む(ステップ55=YES)。
【0038】
図7に戻り、ステップ6では、ステップ57において保存されたプローブカーの走行履歴パターンを特定して、車両データを特定する。より詳しくは、
図9に示す動作を実行する。
即ち、ステップ61において最初に抽出したプローブカーNo.1の停車位置S
X1,Y1と停車時刻T
S1を特定する。この停止時刻T
S1はプローブカー毎に異なっており、指定時間帯(T
-10~T0)より前の時刻となる場合もある。
ステップ62では、プローブカーNo.1につき、車両データ保存部2に保存されているデータを参照して、その停止時刻T
S1から5分間遡る走行軌跡を作成する。
このように作成された走行軌跡が停車位置S
X1,Y1を通過していたとき(ステップ63=YES)、車両データとして表1の[走行軌跡が重複]の欄に「1」を付し(ステップ631)、そうでないときは同欄に「0」を付す(ステップ632)。
ステップ64では作成された走行軌跡を参照して、方向転回が5回を超えているとき(ステップ64=YES)、車両データとして表1の[方向転回>5]の欄に「1」を付し(ステップ641)、そうでないときは同欄に「0」を付す(ステップ642)。
【0039】
ステップ65ではプローブカーNo.1のナビゲーション装置が駅を目的地として設定していたか否かを確認し、駅を目的地に設定されたとき(ステップ65=YES)、車両データとして表1の[駅が目的地]の欄に「1」を付し(ステップ651)、そうでないときは同欄に「0」を付す(ステップ652)。
ステップ66ではプローブカーNo.1の停止位置SX1,Y1から駅(中心地点)までの距離を演算し、その距離が50m以上離れていたとき(ステップ66=YES)、車両データとして表1の[50m以上]の欄に「1」を付し(ステップ661)、そうでないときは同欄に「0」を付す(ステップ662)。
かかる処理を抽出されたすべてのプローブカーに対して実行する。
【0040】
図7に戻り、上記ステップ6において車両データのセット(10個)とステップ4において状況データ(混雑データ、非混雑データ)とが作成されたことがわかる。当該車両データのセットと状況データとを組み合わせて、表1に示す教師データが作成される(ステップ7)。
この教師データは、
図5に示す学習装置100の教師データ保存部8に一旦保存される。保存された教師データに対し、汎用的な前処理(例えば、データの水増しやダミーデータの追加など)を行って、これをAIプログラムの組み込まれた状況推定部15へ入力する。状況推定部15は機械学習を実行して車両データのセットと状況データとの関係を学習する。
【0041】
<運用モード>
次に、学習済の状況推定部15を用いる運用モードについて説明する。ここに、学習済の状況推定部15は、当該学習を実行したそのものを用いてもよいし、または、学習済のプログラム内容のコピープログラムをインストールした、物理的に異なる状況推定部15を用いてもよい。
自動車を使って家族を駅へ送迎する際、駅前の道路の路側帯に簡単に停車できるか否かを知りたい場合がある。この例の運用モードでは、最寄りの駅への送迎に際し、出発時若しくはその運転中に当該最寄り駅近くの道路へ簡単に停車できるか否か、即ち、当該道路の混雑状況を推定する際に適用される。ナビゲーション装置が当該推定機能を備えており、最寄り駅を目的地として当該機能をオンとしたとき、最寄り駅に到着したときの最寄り駅前道路の混雑状況が推定され、ナビゲーション装置に表示されるものとする。
【0042】
図10のフローチャートにおいて、ステップ101で目的地を推定すると、推定装置200(
図6参照)は、目的地の周囲に推定対象エリアを設定する。設定の方法は特に限定されないが、目的地を中心として、所定の距離(例えば100m)の範囲であったり、目的地に接する道路と交差する道路(一次交差道路)、更には交差する道路(一次交差道路)に更に交差する道路(二次交差道路)において、目的地から所定の距離(例えば100m)にある範囲であったりする。
ステップ102では、推定対象エリア内にある自動車が停車可能な道路を抽出する。
【0043】
ステップ103では推定機能をONとした現在時刻より10分前までの時間帯を指定する。
ステップ105では、車両データ保存部2に保存されている保存データを参照して、推定機能を起動させた現在時刻T
mから10分前まで時間帯(T
-10~m)に当該推定対象エリアに停車していたプローブカーを抽出する。抽出のルールを
図11のフローチャートに示した。このフローチャートによる処理は
図8のフローチャートによるものと実質等しいのでその説明を省略する。
ステップ106では、抽出したプローブカーの走行履歴パターンから車両データを特定する。特定の仕方を
図12のフローチャートに示した。このフローチャートによる処理(表1の作成ルール)は
図9のフローチャートに示したものと実質等しいのでその説明を省略する。
【0044】
ステップ106で車両データのセットが作成されるので、これを学習済の状況推定部15へ入力する。学習済の状況推定部15は入力された車両データのセットに基づき、状況データ、即ち混雑データ、若しくは非混雑データをその確率とともに出力する。
混雑データ若しくは非混雑データから、目的地である最寄り駅前道路に停車し易いか、停車が困難かを運転手が判断可能である。
この例では、推定機能をオンした時点における目的地の状況が推定されている。混雑状況であるか若しくは非混雑状況であるかは、その状態が急激に変化するものではないので、目的地到着予定時刻より前の時点での推定結果が有効に利用できるものと考えられる。
勿論、プローブカーを抽出した時間帯より後の時間帯におけるモデルエリアの状況を教師データにおける状況データとしておけば、推定機能をオンした時点から後の時間帯、即ち目的地に到着する時間帯の状況の推定がなされるものとなる。
プローブカーを抽出した時間帯より後の時間帯の状況を推定する場合、プローブカーから得られる車両データに、時間的な順序を設けることが好ましい。なお、表1の例では、1分毎にプローブカーを再抽出し、後から抽出されたプローブカーは前に抽出されたプローブカーの後の番号(No.)が付されるものとしている。
【0045】
図13にエリア状況の推定装置のハード構成を示す。
演算部300はCPU301、ROM303及びRAM305を備え、システム全体の制御をつかさどる。それとともに、プローブカー抽出部3、車両データセット作成部4、教師データ作成部6、状況推定部15及び推定対象特定部201として機能する。ROM303は、演算部300を制御する制御プログラム等が格納された不揮発性メモリである。RAM305は、キーボード等の入力装置330を介して利用者により予め設定された各種設定値を読み出し可能に格納したり、CPU301に対してワーキングエリアを提供したりする。入力装置330はエリア状況入力部5として機能する。演算部300を制御する制御プログラムはROM303に限らずRAM305や第1、第2記憶装置340及び350に格納されていてもよい。
【0046】
第1記憶装置340は車両データ保存部2として機能する。車両データ保存部2として、プローブカーを制御するセンターのサーバを利用することができる。
第2記憶装置350は教師データ保存部8のメモリ部32として機能する。
第1、第2記憶装置はハードメモリやフラッシュメモリなど、サーバシステムのメモリ装置の一部の領域を利用することが好ましい。
【0047】
データを一時的に保存する、いわゆるバッファメモリには、演算部のRAMの一部領域を利用できる。
出力装置320はディスプレイや音声出力装置であり、入力装置330は音声入力部や、ディスプレイに重ねて配置されるタッチパネル式のキーボートやマウスなどが該当する。
通信インターフェース360を介して、プローブカーと通信可能となる。
コンピュータを構成する各装置はシステムバス370で連結されている。
【0048】
本発明は、上記実施形態、実施例、変形例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 教師データ作成装置
15 状況推定部
100 学習装置
200 推定装置
MA モデルエリア