(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/96 20060101AFI20241028BHJP
C08G 8/00 20060101ALI20241028BHJP
D01F 9/12 20060101ALI20241028BHJP
D01F 9/14 20060101ALI20241028BHJP
D01F 9/24 20060101ALI20241028BHJP
D01F 9/28 20060101ALI20241028BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20241028BHJP
C01B 32/318 20170101ALI20241028BHJP
【FI】
D01F6/96
C08G8/00 E
D01F9/12 501
D01F9/14 513
D01F9/24 551
D01F9/28
B01D39/14 M
C01B32/318
(21)【出願番号】P 2020062985
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】石井 正芳
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-077112(JP,A)
【文献】特開昭50-031117(JP,A)
【文献】特開2012-052283(JP,A)
【文献】特開2001-316945(JP,A)
【文献】特公昭52-12814(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/32
C08G4/00-16/06
C08L1/00-101/00
B01D39/14
C01B32/30-32/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状活性炭の出発物質としてのフェノール樹脂繊維の製造方法であって、
フェノール100重量部に対し、ポリアミド樹脂1~3重量部を添加し溶融し、ホルムアルデヒドを添加、混合して原料を調製する原料混合工程と、
該原料に酸触媒を添加し触媒添加原料を得る触媒添加工程と、
該触媒添加原料を加熱してポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂含有フェノール樹脂を調製する合成工程と、
前記ポリアミド樹脂含有フェノール樹脂を紡糸して樹脂繊維を得る紡糸工程を有する
ことを特徴とするポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂繊維の繊度が5.0(dtex)以下である請求項1に記載のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項3】
前記紡糸工程の後に、無機酸とホルムアルデヒドを含有する硬化液中に前記樹脂繊維を浸漬して硬化樹脂繊維を得る繊維硬化工程を備える請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項3のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法により得られた前記硬化樹脂繊維を炭化・賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有する活性炭吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂繊維の製造方法に関し、特に、細径のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は耐熱性、耐薬品性等の特性を備えていることから基板材料をはじめとする各種の耐久性の求められる部品、部材に使用されている。この特性はフェノール樹脂繊維の形態にも引き継がれている。
【0003】
フェノール樹脂は熱可塑性のノボラック型と熱硬化性のレゾール型に分けられる。そのうち、繊維状の樹脂とするためには、糸状加工の便宜からノボラック型が大半である。両方の型を分ける最大の要因は、フェノールとホルムアルデヒドの重合に際して用いる触媒の相違である。
【0004】
ノボラック型のフェノール樹脂の合成時に添加される酸性触媒には、通常、シュウ酸等の有機酸、塩酸等の無機酸が使用されることが多い(特許文献1,2等参照)。ノボラック型のフェノール樹脂の合成後、加熱溶融して紡糸により繊維状に加工される。ただし、この段階のフェノール樹脂の強度は不足しているため、さらに硬化が行われる。通常、硬化に際し、フェノール樹脂は無機酸とホルムアルデヒドの混合された溶液中に浸漬される。さらに、繊維状のノボラック型フェノール樹脂の改良として、各種のリン酸エステルがノボラック型のフェノール樹脂に添加される。この結果、樹脂繊維の径が太くなり、強度も増す(特許文献3,4等参照)。一連のノボラック型のフェノール樹脂の合成により、樹脂繊維としての性能向上が求められた。
【0005】
ところが、フェノール樹脂繊維は他の合成樹脂に比べ靭性に劣るきらいがある。そのため、細径のフェノール樹脂繊維を製造する場合においては、溶融したフェノール樹脂を押し出し引張して延伸する巻取りの過程で、糸切れが生じやすく、安定した紡糸が難しい。
【0006】
そこで、フェノール樹脂100重量部にポリアミド樹脂5~30重量部を溶融混合し合成してポリアミド変性ノボラック型フェノール樹脂を得る方法が提案されている(特許文献5参照。)。この場合、ポリアミド樹脂の量が多すぎて樹脂の重合反応を阻害し、低分子の樹脂となってしまうとともに、樹脂の融点か下がって溶融紡糸の際の延伸がしにくくなるきらいがある。また、炭化・賦活時にポリアミド樹脂が燃えることにより繊維状活性炭の繊維強度が著しく低下することとなり活性炭原料としては不向きである。
【0007】
また、フェノール樹脂の合成後にポリアミド樹脂を混合し、ポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維とする製造方法が提案されている(特許文献6参照。)。しかしながら、フェノール樹脂とポリアミド樹脂の融点は大きく異なることから、両樹脂の溶融混合は容易ではなく、均一に混合することは難しく、溶融時に樹脂が焦げてしまう弊害が生ずるおそれがある。
【0008】
さらに、フェノール樹脂繊維には、繊維状活性炭の用途が注目されている。フェノール樹脂の場合、分子中の炭素原子は、他のオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等と比較して相対的に多い。そのため、炭化、賦活した後に残存する炭素骨格を形成する上で好ましい。また、フェノール樹脂由来の活性炭繊維は柔軟性を有する点から、用途が広がりつつある。
【0009】
フェノール樹脂繊維由来の繊維状活性炭は、純度が高く、被吸着物質の選択性や吸着速度に優れていることから需要が高い。そして、繊維径が小さい繊維状活性炭は外表面積が大きくなることから、単位重量当たりの吸着効率が向上する。これらのことから、細径の繊維として紡糸可能なフェノール樹脂が求められるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-291209号公報
【文献】特許第5250717号公報
【文献】特許第5443268号公報
【文献】特許第5499007号公報
【文献】特開平6-228256号公報
【文献】特許第5453373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、フェノール樹脂繊維において、フェノール樹脂中の樹脂組成を改良することにより、細径のフェノール樹脂繊維を紡糸しやすくするとともに、繊維状活性炭の原料として用いた場合においても繊維強度の低下を抑制することができるポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、第1の発明は、繊維状活性炭の出発物質としてのフェノール樹脂繊維の製造方法であって、フェノール100重量部に対し、ポリアミド樹脂1~3重量部を添加し溶融し、ホルムアルデヒドを添加、混合して原料を調製する原料混合工程と、該原料に酸触媒を添加し触媒添加原料を得る触媒添加工程と、該触媒添加原料を加熱してポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂含有フェノール樹脂を調製する合成工程と、前記ポリアミド樹脂含有フェノール樹脂を紡糸して樹脂繊維を得る紡糸工程を有することを特徴とするポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法に係る。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記樹脂繊維の繊度が5.0(dtex)以下である請求項1に記載のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法に係る。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記紡糸工程の後に、無機酸とホルムアルデヒドを含有する硬化液中に前記樹脂繊維を浸漬して硬化樹脂繊維を得る繊維硬化工程を備えるポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法に係る。
【0015】
第4の発明は、第3の発明のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法により得られた前記硬化樹脂繊維を炭化・賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有する活性炭吸着剤の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明に係るポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法によると、繊維状活性炭の出発物質としてのフェノール樹脂繊維の製造方法であって、フェノール100重量部に対し、ポリアミド樹脂1~3重量部を添加し溶融し、ホルムアルデヒドを添加、混合して原料を調製する原料混合工程と、該原料に酸触媒を添加し触媒添加原料を得る触媒添加工程と、該触媒添加原料を加熱してポリアミド樹脂を含有するポリアミド樹脂含有フェノール樹脂を調製する合成工程と、前記ポリアミド樹脂含有フェノール樹脂を紡糸して樹脂繊維を得る紡糸工程を有するため、細径のフェノール樹脂繊維を紡糸しやすくすることができるとともに、繊維状活性炭の原料として用いた場合においても繊維強度の低下を抑制することができる。
【0017】
第2の発明に係るポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法によると、第1の発明において、前記樹脂繊維の繊度が5.0(dtex)以下であるため、細径のフェノール樹脂繊維とすることができる。
【0018】
第3の発明に係るポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法によると、第1又は第2の発明において、前記紡糸工程の後に、無機酸とホルムアルデヒドを含有する硬化液中に前記樹脂繊維を浸漬して硬化樹脂繊維を得る繊維硬化工程を備えるため、樹脂繊維自体の強度の向上を図ることができる。
【0019】
第4の発明に係る活性炭吸着材の製造方法によると、第3の発明のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法により得られた前記硬化樹脂繊維を炭化・賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有するため、細径の繊維状活性炭を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法について、
図1の工程図に基づき説明する。はじめにフェノール樹脂の原料となるフェノールに、ポリアミド樹脂を添加し溶融する。ポリアミド樹脂が溶融した後、フェノール、ポリアミド樹脂溶融液を常温程度まで冷却し、ホルムアルデヒドを添加、混合し、混合原料が得られる(「原料混合工程」)。
【0022】
原料同士の混合に際し、フェノール樹脂の合成時のフェノールの当量(P
N)とホルムアルデヒドの当量(F
N)との当量比(R
1)の関係は、下記の式(i)のとおり、ホルムアルデヒドの当量(F
N)をフェノールの当量(P
N)で除して求められる。そして、当該当量比(R
1)は0.5~1.0の範囲とするのがよい。後述の実施例においても当該範囲であればフェノール樹脂の合成に都合良い。当量比R
1が0.5を下回る場合、フェノールの量が過少であり、同当量比R
1が1.0を上回る場合、相対的にフェノールの量が過剰である。それゆえ、次述の触媒種及び反応系を考慮すると、当該当量比の範囲が適切である。
【数1】
【0023】
また、ポリアミド樹脂を含有するフェノール樹脂の合成時のフェノールの重量に対し、ポリアミド樹脂は1~3重量部の範囲である。後述の実施例においても、当該範囲であれば、ポリアミド樹脂を含有したフェノール樹脂の合成に都合良い。ポリアミド樹脂が1重量部を下回るとポリアミド樹脂の量が過少であり、紡糸の際に延伸性の向上を図ることができない。また、3重量部を上回ると、ポリアミド樹脂の量が過剰であり、フェノール樹脂の合成を阻害して紡糸に適した重合物を作ることができないおそれがある。
【0024】
原料のフェノールにはフェノールの他に、フェノールの化合物(水酸基を有する芳香族化合物)も含められる。例えば、クレゾール(o-、m-、p-位)、p-フェニルフェノール、キシレノール(2,3-、3,5-)、レゾルシノール、各種ビスフェノール等が挙げられる。また、ホルムアルデヒドに代えて、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサール、フルフラール等が挙げられる。
【0025】
ポリアミド樹脂には、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン6,12等が挙げられる。
【0026】
原料のフェノール及びホルムアルデヒドの両分子間の架橋形成の目的の触媒として、シュウ酸等の有機酸、塩酸等の無機酸又はリン酸エステル等の有機リン化合物が添加される(「触媒添加工程」)。
【0027】
規定量ずつのフェノールとポリアミド樹脂及びホルムアルデヒド、酸触媒の溶融混合の後、攪拌されながら80~100℃で3~10時間加熱される。その後、150~220℃まで昇温されて脱水縮合反応が進みポリアミド樹脂が含有されたフェノール樹脂が合成される(「合成工程」)。触媒の添加量は、フェノールの重量の0.2~5重量部に相当する量である。
【0028】
続いて、合成工程により生じたポリアミド樹脂含有フェノール樹脂は紡糸装置に供給される。ノボラック型フェノール樹脂は熱可塑性樹脂であるため、紡糸装置は110~200℃、好ましくは120~150℃の溶融温度に維持される。紡糸装置の口金の口径は0.05~1.0mm、好ましくは口径0.1~1.0mmであり、押出し等により溶融状態のフェノール樹脂は口金から吐出されて紡糸される。紡糸後、外気に触れて冷却されるため、溶融状態の樹脂は直ちに硬化してポリアミド樹脂含有フェノール樹脂の繊維が形成される(「紡糸工程」)。
【0029】
フェノール樹脂繊維の繊維形状(断面形状)は円ないし楕円であり、紡糸装置の口金の形状に依存する。そして、繊維直径(断面径)は概ね0.01~0.04mmのフェノール樹脂の繊維として出来上がる。繊維直径は前述の紡糸工程にて制御される。繊維直径が極端に微小であれば炭化焼成時の加熱に耐えることができない。また、太くなりすぎる場合、硬化しにくくなる。
【0030】
紡糸装置からの吐出、冷却を経て出来上がった樹脂繊維はボビン等に巻き取られる。紡糸装置の口金からの吐出速度と巻き取り速度は適宜調整され、100~3000m/分であり、好ましくは200~1500m/分の範囲である。むろん、紡糸の手法、装置、条件は製造規模に応じて適宜である。
【0031】
紡糸工程を終えることにより、ポリアミド樹脂含有フェノール樹脂の繊維は完成する。ただし、そのままの状態では樹脂繊維自体の強度は不足しがちである。それゆえ、事後のハンドリング等の便宜から強度向上が必要である。そこで、樹脂繊維は硬化液内に浸漬されて硬化樹脂繊維が得られる(「繊維硬化工程」)。硬化液は塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸と、ホルムアルデヒドとの混合液である。なお、ホルムアルデヒドに加えてアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサール、フルフラール等も使用可能である。繊維硬化工程では、60~110℃、3~30時間かけて硬化が行われる。硬化後、水洗、乾燥を経てフェノール樹脂繊維は完成する。
【0032】
図示し詳述したフェノール樹脂繊維の製造方法から把握されるように、フェノール樹脂の合成時にポリアミド樹脂が添加されている。従って、従前の製造方法のように、いったんノボラック型フェノール樹脂を合成し終えた後、さらにポリアミド樹脂等と混合し、その上で紡糸や硬化する製造方法とは異なる。すなわち、ノボラック型のフェノール樹脂の合成時にポリアミド樹脂が直接混合される。合成後に添加、混合される場合は、樹脂の融点が大きく異なるため、均一な混合が難しいだけでなく、樹脂の焦げが生じる恐れがあることから、本発明の製造方法は有意である。
【0033】
本発明の製造方法によれば、ポリアミド樹脂がフェノールとホルムアルデヒドの合成段階から共存するため、合成により生成されるフェノール樹脂中に均等にナイロンが残留することとなる。一般にポリアミド樹脂は、アミド基の水素結合により優れた強靭性、柔軟性を示す。この作用により、本発明の製造方法により得られるフェノール樹脂繊維は、ポリアミド樹脂が均一に存在していると考えられることから、ポリアミド樹脂に起因する強靭性や柔軟性を備え、延伸性が向上していると考えられる。このことから、樹脂の延伸が容易となり細径の繊維を得やすくなる。後述の実施例のフェノール樹脂繊維の伸び率の指標によると、合成時にポリアミド樹脂を含有させることによって高い値を得ることができる。このため、繊維径を細径とすることができるとともに、糸切れを生じにくくして紡糸を容易にすることができる。
【0034】
本発明の製造方法により調製されたフェノール樹脂繊維の用途は必ずしも限定されない。例えば、フェノール樹脂繊維は燃えにくいため、耐火防護服等にも好適である。また、繊維そのものとしての用途の他にも、フェノール樹脂繊維は繊維状活性炭の出発物質として適する。通常のフェノール樹脂繊維よりも細径となることから、繊維状活性炭としたときの外表面積を大きくすることができる。
【実施例】
【0035】
[フェノール樹脂繊維の調製]
<試作例1>
(合成段階)
90%フェノール100重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)67.5重量部、ポリアミド樹脂としてナイロン6(宇部興産株式会社制、「1030B」)1重量部、酸性触媒としてリン酸エステル(東邦化学工業株式会社製,「BH-650」)0.5重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた3Lのセパラブルフラスコ内に投入して90~100℃で5時間反応した。反応終了後、200℃に昇温して脱水縮合を行った。その後、反応容器内を減圧し、水分と及び未反応物を除去した。その後、滴下漏斗により水を投入し低重合物を除去する操作を繰り返して洗浄した。こうして、試作例1に対応するフェノール樹脂の固形物を合成した。当該試作例1におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0036】
(紡糸・硬化段階)
続いて、合成したフェノール樹脂の固形物を粉砕し溶融紡糸装置に投入した。装置温度を150℃に設定してフェノール樹脂を溶融し、口径0.5mmの口金から溶融状態の樹脂を吐出するとともにボビンにより巻き取り樹脂繊維を得た。塩酸18重量%とホルムアルデヒド10重量%を含む硬化液中に樹脂繊維を浸漬し、95℃、10時間かけて硬化した。硬化後に水洗、乾燥してフェノール樹脂繊維を調製した。
【0037】
<試作例2>
ポリアミド樹脂としてナイロン6,12(宇部興産株式会社製、「7115U」)1重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例1と同様とし、試作例2のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例2におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0038】
<試作例3>
ポリアミド樹脂としてナイロン6,12(宇部興産株式会社製、「7115U」)3重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例1と同様とし、試作例3のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例3におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0039】
<試作例4>
ポリアミド樹脂としてナイロン6,12(宇部興産株式会社製、「7115U」)5重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例1と同様とし、試作例4のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例4におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0040】
<試作例5>
ポリアミド樹脂としてポリアミドエラストマー(宇部興産株式会社製、「9040X1」)1重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例1と同様とし、試作例5のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例5におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0041】
<試作例6>
ポリアミド樹脂としてAQナイロン(東レ株式会社製、「P-70」)1重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例1と同様とし、試作例6のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例6におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0042】
<試作例7>
ポリアミド樹脂としてナイロン6(株式会社鉛市製、「FR-101」)1重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例1と同様とし、試作例7のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例7におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0043】
<試作例8>
酸触媒としてシュウ酸0.5重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において試作例2と同様とし、試作例8のフェノール樹脂繊維を得た。当該試作例8におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0044】
<比較例1>
ポリアミド樹脂を0重量部(添加しない)とした以外は試作例1と同様とし、比較例1のフェノール樹脂繊維を得た。当該比較例1におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0045】
<比較例2>
酸触媒としてシュウ酸0.5重量部を使用した以外は、合成段階及び紡糸・硬化段階において比較例1と同様とし、比較例2のフェノール樹脂繊維を得た。当該比較例2におけるフェノールの当量(PN)とホルムアルデヒドの当量(FN)との当量比(R1)は0.8604であった。
【0046】
[測定項目・測定方法]
〔繊度(dtex)〕
JIS L 1015(2010)に準拠し、同規格の「8.5.1 正量繊度」のA法に従って繊度(dtex)を測定した。
【0047】
〔引張強さ〕
JIS L 1015(2010)に準拠し、引張強さ(cN/dtex)を測定した。
【0048】
〔伸び率〕
JIS L 1015(2010)に準拠し、伸び率(%)を測定した。
【0049】
〔分子量〕
前処理として、前述の調製により得た各例の樹脂を溶離液(テトラヒドロフラン)に溶解してメンブレンフィルターにより濾過した。濾液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。検出にはRI検出器を用い、分子量標準に標準ポリスチレンを使用した。
【0050】
〔融点〕
想定される融解温度より20℃低い温度まで、10℃/min以下で昇温し、その後昇温速度を2℃/minとし、フェノール樹脂がすべて融解し、液体になる温度を測定した。
【0051】
表1及び表2に各試作例及び比較例の樹脂繊維の測定結果を示す。
【0052】
【0053】
【0054】
[結果と考察]
ポリアミド樹脂が添加されていない比較例1と試作例1~3,5~7とを比較すると、比較例1よりもポリアミド樹脂を含有する樹脂から紡糸された該試作例の方が伸び率が高く、細径の繊維とすることができた。また、細径にも関わらず引張強さは同程度となったことから、細径であっても紡糸の際に糸切れが生じにくく、紡糸のしやすさが向上し生産効率が良くなることが示された。
【0055】
また、試作例2及び比較例1と触媒を変更した試作例8と比較例2とを比較すると、同様に細径の繊維とすることができ、また、引張強さとともに伸び率も向上した。このことから、原料となるポリアミド樹脂含有フェノール樹脂の調製に用いる触媒を変更しても、細径の樹脂繊維が得られるとともに、生産効率の向上を図ることができることが示された。
【0056】
また、ポリアミド樹脂の添加量を変更した試作例2~試作例4を比較すると、ポリアミド樹脂を5重量部添加した試作例4においては、繊維径が大きくなり細径の樹脂繊維とすることができなかった。これは、原料である樹脂のポリアミド樹脂の含有量が多くなることによって、樹脂の融点が下がり、樹脂が冷める(固まる)までの時間が短くなり紡糸がしにくくなるためではないかと考えられる。また、融点が下がることにより均一な糸ができにくいきらいがあり、取り回し難くなる。このことから、ポリアミド樹脂の添加量は3重量部以下とすることが好ましい。
【0057】
[フェノール樹脂繊維由来の繊維状活性炭の作製]
各試作例及び比較例のフェノール樹脂繊維について、任意の賦活度になるよう静置式電気炉を用いて公知の方法にて炭化・賦活して各試作例及び比較例に対応する繊維状活性炭を得た。
【0058】
[測定項目・測定方法]
各試作例及び比較例について、BET比表面積(m2/g)、引張強さ(cN)、伸び率(%)を測定し、結果を表3及び表4に示した。
【0059】
BET比表面積は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP―miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた(BET比表面積)。
【0060】
〔引張強さ〕
JIS L 1015(2010)に準拠して試験を行い、切断時の荷重(cN)を引張強さとした。
【0061】
【0062】
【0063】
[結果と考察]
活性炭の原料中に含まれるポリアミド樹脂の量が多すぎると、活性炭にするための焼成時にポリアミド樹脂は熱により分解されて焼成物中に残存しないため、強度が低下するおそれがある。試作例1~3,5~8は、比較例1,2と比較しても引張強度にさほど変化が見られないことから、ポリアミド樹脂の含有量を1~3重量部とすることにより、強度の低下を抑制し、従来の繊維状活性炭と同等の取り回しやすさを有する細径の繊維状活性炭を得ることができた。
【0064】
また、試作例1~3,5~8は、比較例1,2と比較して比表面積も大きく変化がないことから、同等の吸着性能を有することが理解される。また、繊維径が小さい繊維状活性炭は外表面積が大きくなることから、単位重量当たりの吸着効率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリアミド樹脂含有フェノール樹脂繊維の製造方法を採用することにより、細径の樹脂繊維を容易に得ることができる。また、細径の樹脂繊維を炭化、賦活することにより従来よりも細径の繊維状活性炭を得ることができ、フィルター体等に採用される新たな吸着剤としても有用である。