(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】撥水撥油性膜形成用液組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2020120307
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久実
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171701(JP,A)
【文献】特開2009-154480(JP,A)
【文献】特開2020-083836(JP,A)
【文献】特開平11-092177(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
C09D 1/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記
の式(19)から式(27)のいずれか1つで示される
、ペルフルオロエーテル構造を含む第1フッ素系
化合物(A1)が結合した平均粒子径2nm~90nmの
フッ素含有金属酸化物粒子(B)と、
下記
の式(19)から式(27)のいずれか1つで示される
、ペルフルオロエーテル構造を含む第2フッ素系
化合物(A2)を含有する
フッ素含有シリカゾルゲル(C)と、
溶媒(D)とを含み、
前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、前記第1フッ素
化合物(A1)と前記第2フッ素
化合物(A2)とを合計した含有割合が、1質量%~30質量%であり、
前記
フッ素含有シリカゾルゲル(C)と前記
フッ素含有金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が、10:90~90:10の範囲にあることを特徴とする撥水撥油性膜形成用液組成物。
【化6】
【化7】
上式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【請求項2】
前記第1フッ素
化合物(A1)の含有割合が、質量比で前記第2フッ素
化合物(A2)の含有割合以上である請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物。
【請求項3】
前記
フッ素含有金属酸化物粒子(B)
に用いる金属酸化物粒子は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物粒子である請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物。
【請求項4】
前記
フッ素含有シリカゾルゲル(C)は、前記
フッ素含有シリカゾルゲル(C)を100質量%としたとき、炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含む請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物。
【請求項5】
前記溶媒(D)は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物。
【請求項6】
請求項1記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法であって、
フッ素含有金属酸化物粒子
(B)の分散液とフッ素含有シリカゾルゲル液
(C)とを混合して
調製される撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素含有金属酸化物粒子
(B)の分散液が、金属酸化物粒子の分散液にフッ素系化合物
(A1)を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合して、調製される請求項6記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項8】
前記
フッ素含有金属酸化物粒子
(B)に用いる金属酸化物粒子がSi,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物粒子である請求項7記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【請求項9】
前記フッ素含有シリカゾルゲル液
(C)が、ケイ素アルコキシドとアルコールとフッ素系化合物
(A2)と水を混合した混合液に触媒を添加混合して、調製される請求項6記載の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性と撥油性を有する撥水撥油性膜を形成するための液組成物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、金属酸化物粒子を含む撥水撥油性膜形成用液組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、アルコール類の有機溶媒中にSiO2、CaCO3、TiO2等の無機化合物を分散させて無機化合物の分散液を調整する工程(第1工程)と、無機化合物の分散液中に、ペルフルオロアルキル基を含むフッ素化合物および触媒を添加して、無機化合物とフッ素化合物とがナノコンポジット化された複合材料を合成する工程(第2工程)と、を含むフッ素含有ナノコンポジット粒子の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1(段落[0047]、段落[0057]、段落[0067]~[0070]参照。))。
【0003】
特許文献1には、第2工程において、無機化合物の分散液中にテトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)等のケイ素アルコキシドを含むシランカップリング剤を添加してもよい旨が記載されている。また特許文献1には、フッ素含有ナノコンポジット粒子を水又はアルコール類の有機溶媒に分散させることによって、フッ素含有ナノコンポジット粒子の分散液にして、この分散液をコーティング剤として用いた場合には、各種材料表面に対して撥水撥油性や親水撥油性等の機能を付与することが可能となる旨が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の製造方法で作られたフッ素含有ナノコンポジット粒子の分散液(膜形成用液組成物)では、無機化合物(金属酸化物粒子)が親水撥油性であるため、形成した膜の撥油性能を保持しながら、膜の硬さ及び膜の強度を向上させることができなかった。
【0005】
このため、従来よりも高い撥水性及び撥油性を発揮できるフッ素含有複合粒子が提案されている(例えば、特許文献2(請求項1、段落[0008]、段落[0039]~段落[0054])参照。)。このフッ素含有複合粒子は、シリカ系微粒子の表面が1)フッ素含有化合物及び2)それがシリカ系微粒子のケイ素とシロキサン結合してなるフッ素含有基の少なくとも1種で被覆されている複合粒子であって、前記フッ素含有化合物が、パーフルオロポリエーテルからなる主鎖の少なくとも一方の末端側に[-Si(OR)3](但し、3つのRは、互いに同一又は異なって、水素又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)で示される官能基Aを含む化合物であり、前記シリカ系微粒子の単位表面積当たりのフッ素含有量が0.8mg/m2~1.0g/m2であることを特徴とする。
【0006】
上記フッ素含有複合粒子は、シリカ系微粒子又はその分散液とフッ素含有化合物の溶液とを混合し、特に両者を混合した後、その混合液を攪拌することにより製造される。シリカ系微粒子の分散液及びフッ素含有化合物の溶液は、それぞれ水、水溶性有機溶媒又はそれらの混合溶媒に分散して調製される。シリカ系微粒子の分散液とフッ素含有化合物の溶液を混合した後、混合液を攪拌することにより、官能基Aの一部又は全部がシリカ系微粒子表面のシリカ又はそのシリカ表面の官能基と十分に反応してシロキサン結合を確実に形成させることが可能となる。
【0007】
攪拌が完了した後、スラリーの形態で特許文献2記載のフッ素含有複合粒子が得られ、用途に応じて、フッ素含有複合粒子をそのままスラリーの形態で使用するか、或いは必要に応じてスラリーに対して固液分離、洗浄等の処理を施した後、実質的に乾燥した粉末の形態で使用することもできる。フッ素含有複合粒子を更に溶媒に分散させて得られた分散液の形態で使用することもできる。その他にも、前記スラリーを固液分離して得られたケーキを別の溶媒に分散させることによって得られた分散液の形態で使用することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-39987号公報
【文献】国際公開WO2019/026816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に開示されたフッ素含有複合粒子のスラリー、フッ素含有複合粒子を溶媒に分散させて得られた分散液等の膜形成用液組成物では、この液組成物を各種の物品に塗布して塗膜を物品表面に形成することにより、物品に撥水性及び/又は撥油性を付与することができるけれども、撥油性能がまだ十分でないこと、及びフッ素含有複合粒子同士の結着力が十分に大きくなく、形成した膜の強度、硬さが高くないこと等の課題がり、更なる改善が求められていた。
【0010】
本発明の目的は、従来の液組成物で形成した膜と比較して、形成した膜の撥水性、撥油性、膜の強度及び膜の硬さがより高く、膜表面に指紋が目立ちにくい撥水撥油性膜形成用液組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、金属酸化物粒子にフッ素系官能基成分を結合させること及びシリカゾルゲルにフッ素系官能基成分を含有させることにより、形成した膜により高い撥油性が付与される点、及び金属酸化物粒子同士をフッ素含有シリカゾルゲルで結着させて膜を形成すると、膜の硬さと膜の摩耗強度が向上し、かつ膜表面に凹凸が形成されて耐指紋性が改善される点に着目し、本発明に到達した。
【0012】
本発明の第1の観点は、下記の式(19)から式(27)のいずれか1つで示される、ペルフルオロエーテル構造を含む第1フッ素系化合物(A1)が結合した平均粒子径2nm~90nmのフッ素含有金属酸化物粒子(B)と、下記の式(19)から式(27)のいずれか1つで示される、ペルフルオロエーテル構造を含む第2フッ素系化合物(A2)を含有するフッ素含有シリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)とを含み、前記溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、前記第1フッ素化合物(A1)と前記第2フッ素化合物(A2)とを合計した含有割合が、1質量%~30質量%であり、前記フッ素含有シリカゾルゲル(C)と前記フッ素含有金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が、10:90~90:10の範囲にあることを特徴とする撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0013】
【0014】
上記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0016】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記第1フッ素化合物(A1)の含有割合が、質量比で前記第2フッ素化合物(A2)の含有割合以上である撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0017】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有金属酸化物粒子(B)に用いる金属酸化物粒子は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物粒子である。
【0018】
本発明の第4の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有シリカゾルゲル(C)は、前記フッ素含有シリカゾルゲル(C)を100質量%としたときに、炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含む撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0019】
本発明の第5の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記溶媒(D)は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である撥水撥油性膜形成用液組成物である。
【0020】
本発明の第6の観点は、
図1に示すように、
第1の観点の撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法であって、フッ素含有金属酸化物粒子
(B)の分散液とフッ素含有シリカゾルゲル液
(C)とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を製造する
撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【0021】
本発明の第7の観点は、第5の観点に基づく発明であって、
図1に示すように、前記フッ素含有金属酸化物粒子
(B)の分散液が、金属酸化物粒子の分散液にフッ素系化合物
(A1)を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合して、調製される撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【0022】
本発明の第8の観点は、第6の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有金属酸化物粒子(B)に用いる金属酸化物粒子がSi,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属の酸化物粒子である撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【0023】
本発明の第9の観点は、第5の観点に基づく発明であって、
図1に示すように、前記フッ素含有シリカゾルゲル液
(C)が、ケイ素アルコキシドとアルコールとフッ素系化合物
(A2)と水を混合した混合液に触媒を添加混合して、調製される撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の観点の撥水撥油性膜形成用液組成物では、成膜したときに、第1フッ素化合物(A1)が結合したフッ素含有金属酸化物粒子(B)を含み、かつ第2フッ素化合物(A2)を含むフッ素含有シリカゾルゲル(C)で金属酸化物粒子同士が結着するため、形成した膜の撥油性が非常に高い。また、膜の硬さと膜の摩耗強度を向上させることができる。形成した膜の表面が平滑でないため、膜表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ちにくい。
【0025】
本発明の第2の観点の撥水撥油性膜形成用液組成物では、第1フッ素化合物(A1)が第2フッ素化合物(A2)と同じ質量割合であるか、又は第2フッ素化合物(A2)より多く含有するため、バインダ成分であるシリカゾルゲル(C)にフッ素成分が少ないので、塗膜の外観や塗膜の密着性に優れる。
【0026】
本発明の第3の観点の液組成物では、フッ素含有金属酸化物粒子(B)に用いる金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、形成する膜の用途又は使用環境に適した金属酸化物粒子を含むことができる。
【0027】
本発明の第4の観点の液組成物では、フッ素含有シリカゾルゲル中に炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含むため、撥水撥油性膜を形成する基材に良好に密着し、かつ撥水撥油性膜の厚さが均一になり、撥水撥油性膜により一層優れた撥油性能を付与することができる。
【0028】
本発明の第5の観点の液組成物では、溶媒(D)は、水と炭素数1~4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1~4のアルコールとこのアルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であるため、液組成物の乾燥速度が向上し、液組成物の粘度が低減する。このため、この液組成物は取り扱いが容易で、基材への成膜性に優れる。
【0029】
本発明の第6の観点の液組成物の製造方法では、
図1に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子
(B)の分散液とフッ素含有シリカゾルゲル液
(C)とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を製造する。これにより、粒子表面が撥水撥油性である金属酸化物粒子がフッ素系化合物を含むシリカゾルゲル中に存在し、液組成物を成膜したときに、膜により一層の撥水撥油性を付与する。
【0030】
本発明の第7の観点の液組成物の製造方法では、金属酸化物粒子の分散液にフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合するため、フッ素含有金属酸化物粒子(B)が均一に分散した分散液が得られる。
【0031】
本発明の第8の観点の液組成物の製造方法では、フッ素含有金属酸化物粒子(B)に用いる金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、形成する膜の用途又は使用環境に適した金属酸化物粒子を含んだ液組成物を製造することができる。
【0032】
本発明の第9の観点の液組成物の製造方法では、ケイ素アルコキシドとアルコールとフッ素系化合物と水の混合液に触媒を添加混合して調製されたフッ素含有シリカゾルゲル液(C)は、フッ素含有金属酸化物粒子のバインダとして作用するとともに、液組成物を基材表面に成膜したときに、膜を基材表面に堅牢に結着させるとともにより膜に一層の撥水撥油性を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本実施形態の撥水撥油性膜形成用液組成物を製造するフロー図である。
【
図2】本実施形態の基材上に形成された撥水撥油性膜の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0035】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法〕
撥水撥油性膜形成用液組成物は次の方法により、概略製造される。
図1に示すように、金属酸化物粒子11と有機溶媒12を混合して金属酸化物粒子の分散液13を調製する。この分散液13に第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物14を混合し、更に水15と触媒16を混合してフッ素含有金属酸化物粒子の分散液17を調製する。一方、ケイ素アルコキシド21とアルコール22と第2フッ素系官能基成分(A2)を含むフッ素系化合物23と水25と、必要に応じてアルキレン基成分24を混合し、この混合液に触媒26を加えることにより、フッ素含有シリカゾルゲル液27を調製する。
このフッ素含有シリカゾルゲル液27に溶媒28を混合し、この混合液と上記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液17とを混合することにより、撥水撥油性膜形成用液組成物30を製造する。以下、各工程毎に詳しく述べる。
【0036】
〔金属酸化物粒子分散液の調製〕
先ず、有機溶媒中に、金属酸化物粒子を分散させて金属酸化物粒子の分散液を調製する。金属酸化物粒子は、2nm~90nm、好ましくは2nm~85nmの平均粒子径を有する。平均粒子径が2nm未満では、金属酸化物粒子の凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる。90nmを超えると、液組成物を成膜したときに、金属酸化物粒子が撥水撥油性膜から脱落する。金属酸化物粒子としては、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、TiO2、ZnO、ZrO2の粒子、これらの混合粒子、MgAl2O4等の複合酸化物粒子等が例示される。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール(以下、IPAということもある。)、テトラヒドロフラン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、フッ素系溶剤などが例示される。これらの中でも、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールが好ましい。なお、本明細書において、金属酸化物粒子の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した粒子形状のうち、200点の粒子サイズを画像解析により測定したものの平均値をいう。
【0037】
〔フッ素含有金属酸化物粒子分散液の調製〕
次に、調製された金属酸化物粒子の分散液中に、上述した式(1)又は式(2)で表される第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物を添加して、金属酸化物粒子と第1フッ素系官能基成分(A1)とがナノコンポジット化された複合材料を合成する。更に反応を促進するために、水及び触媒を添加する。これにより、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液を調製する。
【0038】
上記触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が挙げられ、有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。
【0039】
第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物は、下記一般式(3)又は式(4)で示される。これらの式(3)又は式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0044】
【0045】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0046】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0047】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0048】
ここで、上記式(3)又は式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有する第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0049】
【0050】
【0051】
〔フッ素含有シリカゾルゲル液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと、上述した式(1)又は式(2)で表される第2フッ素系官能基成分(A2)を含むフッ素系化合物と、水とを混合して混合液を調製する。このときアルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを一緒に混合してもよい。このケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン(TMOS)、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン(TEOS)、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、耐久性の高い撥水撥油性膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0052】
フッ素系化合物に含まれる第2フッ素系官能基成分(A2)は、上述した式(1)又は式(2)表され、第1フッ素系官能基成分(A1)を含む具体的なフッ素系化合物と第2フッ素系官能基成分(A2)を含む具体的なフッ素系化合物とは、同一であっても、異なってもよい。
【0053】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%~40質量%、好ましくは2.5質量%~20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない基材に膜を形成した場合に、基材への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1質量%~40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、基材がガラス等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、基材が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾルゲル(C)中、0.5質量%~20質量%含むことが好ましい。
【0054】
沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールは、上述したアルコールが挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシドに、或いはケイ素アルコキシドとエポキシ基含有シランに、炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10℃~30℃の温度で5分~20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0055】
上記調製された混合液に触媒を添加混合する。この触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が例示される。このとき液温を好ましくは30℃~80℃の温度に保持して、好ましくは1時間~24時間撹拌する。これにより、フッ素含有シリカゾルゲル液が調製される。なお、次の工程のために、フッ素含有シリカゾルゲル液にアルコールを添加混合してもよい。
【0056】
上記アルコールを添加混合した場合には、フッ素含有シリカゾルゲル液は、ケイ素アルコキシドを2質量%~50質量%、炭素数1~4の範囲にあるアルコールを20質量%~98質量%、水を0.1質量%~40質量%、触媒として0.01質量%~5質量%の割合で含有する。アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを混合した場合には、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで含有する。
【0057】
炭素数1~4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、ケイ素アルコキシドの加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、撥水撥油性膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0058】
シリカゾルゲル中のSiO2濃度(SiO2分)は1質量%~40質量%であるものが好ましい。このSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こり易く、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0059】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸により、膜の形成された基材が腐食等を生じ易い。
【0060】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述した第1フッ素系官能基成分(A1)が結合した金属酸化物粒子(B)と、前述した第2フッ素系官能基成分(A2)を含有するシリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)(
図1の符号28で示される。)とを含む。溶媒(D)は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール(以下、IPAということもある。)、テトラヒドロフラン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、フッ素系溶剤などが例示される。これらのフッ素系官能基成分(A1)及び(A2)は、上記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、液組成物中、合計して、1質量%~30質量%含まれる。フッ素系官能基成分の合計した含有割合(A1+A2)が1質量%未満では形成した膜に撥油性を付与できず、30質量%を超えると膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素系官能基成分の合計した含有割合(A1+A2)は2質量%~28質量%である。
【0061】
また第1フッ素官能基成分(A1)は、第2フッ素官能基成分(A2)と同じ質量割合であるか、又は第2フッ素官能基成分(A2)より多く含有することが塗膜の外観や塗膜の密着性が優れるため、好ましい。
【0062】
上述したように、本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。ペルフルオロエーテル構造の具体例としては、上述した式(19)~(27)で示される構造を挙げることができる。
【0063】
更に本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物は、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が、10:90~90:10の範囲にあることが必要である。即ち、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)を合計した量を100質量%とするとき、シリカゾルゲル(C)が10質量%未満であって金属酸化物粒子(B)が90質量%を超える場合には、液組成物中のバインダ成分が少なくなり過ぎて、後述する膜のセロテープ(登録商標)試験で、形成した膜が基材から剥離し易くなる。反対に金属酸化物粒子(B)が10質量%未満であってシリカゾルゲル(C)が90質量%を超える場合には、金属酸化物粒子が少な過ぎて、後述する膜の強度試験で、膜が基材から剥離し易くなる。好ましい質量比(C:B)は、20:80~80:20である。
【0064】
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物がフッ素含有金属酸化物粒子の分散液と、フッ素含有シリカゾルゲル液を含むため、基材表面に成膜したときに、従来の液組成物と比較して、より一層優れた撥油性能を付与するとともに、撥水撥油性膜の基材表面への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の撥水撥油性膜が得られる。
【0065】
〔撥水撥油性膜の基材表面への形成方法〕
本実施形態の撥水撥油性膜を基材表面に形成するには、撥水撥油性膜形成用液組成物を基材上に塗布した後に、大気中で室温乾燥させて上記液組成物を硬化することにより形成される。この基材としては、特に限定されないが、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、鉄等の金属板、窓ガラス、鏡等のガラス、タイル、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム等が挙げられる。上記液組成物の塗布方法としては、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0066】
図2に示すように、基材1の表面に形成された撥水撥油性膜2は、粒子表面がフッ素系官能基成分に覆われた多数の金属酸化物粒子3がバインダとしてのフッ素含有シリカゾルゲル4で結着して構成される。撥水撥油性膜2はフッ素系官能基成分が結合した金属酸化物粒子3とフッ素含有シリカゾルゲル4を含むため、膜の撥油性能が保持される。また平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子3同士がシリカゾルゲル4により、膜2中で結合するため、膜2の硬さと膜2の摩耗強度を向上させることができる。また金属酸化物粒子3の存在により膜表面が凹凸になり、膜2表面に指紋を付着させた後に、膜表面に指紋が目立ちにくい利点もある。膜厚は、金属酸化物粒子の粒子径と膜成分中の金属酸化物粒子の含有割合を変えることにより制御することができる。
【実施例】
【0067】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、金属酸化物粒子の分散液を調製するための合成例1~9及び比較合成例1~2を説明し、次いでフッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例10~13及び比較合成例3を説明し、次にこれらの合成例及び比較合成例を用いた撥水撥油性膜形成用液組成物の製造に関する実施例1~9及び比較例1~7を説明する。
【0068】
〔金属酸化物粒子分散液を調製するための合成例1~9、比較合成例1~2〕
<合成例1>
平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(19)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、40℃で2時間混合し、フッ素系化合物が二酸化ケイ素粒子に結合した二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0069】
<合成例2>
平均粒子径が45nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST-L、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(20)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0070】
<合成例3>
平均粒子径が80nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST-ZL、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(21)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0071】
<合成例4>
合成例3と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(22)で表されるフッ素系化合物を0.75g添加し混合した。次に、水を0.05g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0072】
<合成例5>
合成例3と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(23)で表されるフッ素系化合物を2.25g添加し混合した。次に、水を0.15g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0073】
<合成例6>
平均粒子径が3nmの二酸化ジルコニウムのメタノール分散液(SZR-M、堺化学社製、ZrO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を8.00g添加し混合した。次に、水を4.05g添加し混合した。更に、硝酸が0.035g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ジルコニウム粒子の分散液を得た。
【0074】
<合成例7>
平均粒子径が6nmの二酸化チタンのIPA分散液(TKD-701、テイカ社製、TiO2濃度18%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を2.70g添加し混合した。次に、水を0.97g添加し混合した。更に、硝酸が0.010g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。
【0075】
<合成例8>
平均粒子径が60nmのアルミナと二酸化ケイ素のIPA分散液(バイラールAS-L10、多木化学社製、3Al2O3・2SiO2濃度10%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.03g添加し混合した。次に、水0.02gを添加混合した。更に、硝酸0.005g添加し、以下、合成例1と同様にしてアルミナと二酸化ケイ素の粒子の分散液を得た。
【0076】
<合成例9>
平均粒子径が25nmの酸化亜鉛のIPA分散液(MZ-500、テイカ社製、ZnO濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.30g添加し混合した。次に、水を0.11g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして酸化亜鉛粒子の分散液を得た。
【0077】
<比較合成例1>
平均粒子径が230nmの二酸化チタンのIPA分散液(R32、堺化学社製、TiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.75g添加し混合した。次に、水を0.27g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。
【0078】
<比較合成例2>
合成例1と同じIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、フッ素系化合物を全く添加せずに、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素粒子の分散液を得た。
【0079】
以下の表1に、合成例1~9及び比較合成例1のフッ素含有金属酸化物粒子の分散液と比較合成例2のフッ素非含有の金属酸化物粒子の分散液の内容を示す。なお、表1において、フッ素系化合物として式(19)~式(22)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0080】
【0081】
〔フッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例10~13、比較合成例3〕
<合成例10>
テトラメトキシシラン(TMOS)の3量体~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)が28.5gと、エタノールが59.7g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.24g(0.8質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分としてエポキシ基含有シランである3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM-403)を1.5gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0082】
<合成例11>
合成例10と同一のTMOSの3量体~5量体が24.0gと、エタノールが59.7gが入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.06g(0.2質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分として合成例10と同一のGPTMSを6.0gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0083】
<合成例12>
合成例10と同一のTMOSの3量体~5量体が29.8gと、エタノールが59.8gが入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を3.00g(10.0質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分として合成例10と同一のGPTMSを0.2gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0084】
<合成例13>
テトラエトキシシラン(TEOS)が30.0gと、エタノールが56.9gが入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.30g(1.0質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分を添加することなく、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0085】
<比較合成例3>
合成例11と同一のTMOSの3量体~5量体が28.5gと、エタノールが59.6gが入ったビーカーに、フッ素系化合物を全く添加せずに、アルキレン基成分として合成例10と同一のGPTMSを1.5gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素を含有しないシリカゾルゲル液を得た。
【0086】
以下の表2に、合成例10~13のフッ素含有シリカゾルゲル液と比較合成例3のフッ素非含有のシリカゾルゲル液の内容を示す。
【0087】
【0088】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の製造のための実施例1~9、比較例1~7〕
<実施例1>
合成例10で得られたフッ素含有シリカゾルゲル液1.9gに溶媒26.0gを添加し混合した。溶媒は、工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業社製)22.0gに、ジアセトンアルコール1.0gと、イソプロピルグリコール3.0gとを混合して調製された。その後、合成例1の金属酸化物粒子の分散液1.5gを添加し混合し、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。この内容を以下の表3に示す。
【0089】
【0090】
<実施例2~9及び比較例1~7>
実施例2~9及び比較例1~7について、表3に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液の種類と秤量、フッ素含有シリカゾルゲル液の種類と秤量、及び実施例1と同一の溶媒の秤量をそれぞれ決定して、実施例2~9及び比較例1~7の各撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0091】
<比較試験及び評価>
実施例1~9及び比較例1~7で得られた16種類の液組成物を、刷毛(末松刷子製ナイロン刷毛マイスター)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS304基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが1~3μmとなるように塗布し、16種類の塗膜を形成した。すべての塗膜を室温の大気雰囲気中にて3時間静置し、塗膜を乾燥させて上記SUS304基材上に16種類の膜を得た。これらの膜について、膜表面の水濡れ性(撥水性)、撥油性、n-ヘキサデカンの転落性及び膜の外観を評価し、膜の強度試験、膜のセロテープ(登録商標)剥離試験及び耐指紋性試験を行った。これらの結果を表4に示す。なお、膜の耐指紋性とは、膜に指紋付着後に指紋が膜表面に目立ちにくく、また付着した場合の指紋の拭き取りが容易であることに加えて、指紋が膜に付着しにくい特性である。
【0092】
(1) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(撥水性)を評価した。84度以上であれば『良好』とした。
【0093】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカンを準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS304基材上の膜をこの液滴に近づけて膜に液滴を付着させる。この付着したn-ヘキサデカンの接触角を測定した。静止状態でn-ヘキサデカンが膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値をn-ヘキサデカンの接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。42度以上であれば『良好』とした。
【0094】
(3) n-ヘキサデカンの転落性試験
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに25±1℃のn-ヘキサデカンを準備し、水平に置いたポリプロピレン基材上にシリンジからn-ヘキサデカンを9μLの液滴を滴下し、基材を2度/分の速度で傾斜させ、n-ヘキサデカンの液滴が移動開始するときの基材の傾けた角度を測定した。(2)の接触角が低くてもこの転落角度が小さい方が防汚性に優れていることを意味する。50度以下であれば『良好』とした。またn-ヘキサデカンの液滴が移動して基材から転落した後で、基材表面に液滴の痕跡が有る場合を『油痕有り』とした。
【0095】
(4) 膜の外観
評価するSUS304基材上の膜を目視で観察して、膜が透明であるか否か、また膜が白濁しているか否かを調べた。膜が透明であるものを『良好』とし、膜が白濁しているものを『白濁不良』とした。
【0096】
(5) 膜の強度試験
評価するSUS304基材上の膜に下記の接触子を所定の荷重をかけながら、次の条件で10往復移動した後で、基材上の膜が基材から剥離しないか否かを目視で調べた。膜が剥離しない場合を『合格』とし、剥離した場合を『不合格』とした。
(a) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(b) 測定条件:
・移動距離:30mm
・垂直荷重:500g重
・移動速度:50mm/秒
・接触子:5mm×15mm角のネオプレーンゴム
【0097】
(6) 膜のセロテープ(登録商標)剥離試験
評価するSUS304基材上の膜に碁盤目状に1mm幅のクロスカットを施し、その碁盤目状にクロスカットされた膜に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「セロテープ(登録商標)」)を貼り、JISK5600-5-6(クロスカット法)の碁盤目テープ法に準拠してセロテープ(登録商標)剥離試験(以下、単に剥離試験という。)を行った。クロスカットを施したマス目100個を分母で表し、剥離試験後に基材上に残存するマス目の数を分子で表した。
【0098】
(6) 膜の耐指紋性試験
セルロース連続長繊維不織布(旭化成社製、製品名:ベンコットM-3II)を評価するSUS304基材上の膜の上に載せ、この不織布に人工指紋液(JIS K 2246に準じる)を100マイクロリットル滴下した。この不織布に黒ゴム24号(質量300g)を載せ、更に1kgの重りを載せて、30秒間静置することにより、膜に指紋液を付着させた。その後、不織布を剥がして、膜の耐指紋性を目視にて観察した。膜表面に指紋液が付着していなかったものを『良好』とし、付着しているものを『不良』とした。
【0099】
【0100】
表4から明らかなように、比較例1では、平均粒子径が230nmである金属酸化物(二酸化チタン)粒子を含む比較合成例1の二酸化チタン粒子の分散液から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この液組成物により膜を形成したため、膜中の金属酸化物粒子の平均粒子径が大き過ぎ、バインダ成分であるシリカゾルゲルで金属酸化物粒子が基材表面に結着しにくかった。この結果、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、膜が白濁していて、膜の外観が不良であった。また膜の強度試験では膜が基材から剥離し、剥離試験では基材上に残存するマス目の数は20個しかなく、大部分が剥離した。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0101】
比較例2では、フッ素系化合物を含まない比較合成例3のシリカゾルゲル液から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この液組成物により膜を形成したため、n-ヘキサデカンの転落角が悪かった。
【0102】
比較例3では、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)を合計した量を100質量%とするとき、シリカゾルゲル(C)が5質量%であったため、液組成物中のバインダ成分が少なくなり過ぎて、膜の剥離試験では基材上に残存するマス目の数は10個しかなく、大部分が剥離した。またn-ヘキサデカンの転落角が悪く、『油痕有り』であった。また膜が白濁していて、膜の外観が不良であった。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0103】
比較例4では、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)を合計した量を100質量%とするとき、金属酸化物粒子(B)が5質量%であったため、液組成物中の金属酸化物粒子が少なくなり過ぎて、膜の強度試験では基材上から膜が剥離した。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0104】
比較例5では、フッ素系官能基成分(A1)とフッ素系官能基成分(A2)の合計した含有割合(A1+A2)が0.8質量%であったため、形成した膜に撥油性を付与できず、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、n-ヘキサデカンの転落角試験では『油痕有り』であった。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0105】
比較例6では、フッ素系官能基成分(A1)とフッ素系官能基成分(A2)の合計した含有割合(A1+A2)が33.4質量%であったため、形成した膜に撥油性を付与できず、n-ヘキサデカンの転落角試験では70度であった。また膜が白濁していて、膜の外観が不良であった。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0106】
比較例7では、フッ素系化合物を含まない比較合成例2の金属酸化物粒子の分散液から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この液組成物により膜を形成したため、水及びn-ヘキサデカンの接触角は悪く、n-ヘキサデカンの転落角試験では『油痕有り』であった。更に膜の耐指紋性は不良であった。
【0107】
それに対して、実施例1~9では、第1及び第2フッ素系官能基成分(A1、A2)が上述した式(19)~式(23)及び式(27)であり、金属酸化物粒子の平均粒子径が2nm~90nmの範囲にあり、溶媒(D)を除く液組成物中の第1及び第2フッ素系官能基成分(A1、A2)を合計した含有割合(A1+A2)が1質量%~30質量%であり、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が10:90~90:10の範囲にある、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、水及びn-ヘキサデカンの接触角、n-ヘキサデカンの転落性及び膜の外観は、いずれも良好であり、膜の強度試験、剥離試験及び耐指紋性試験はいずれも合格していた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の撥水撥油性膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード、換気扇、冷蔵庫扉等において、油汚れを防止する分野に用いられる。
【符号の説明】
【0109】
1 基材
2 撥水撥油性膜
3 金属酸化物粒子
4 シリカゾルゲル