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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/02 20060101AFI20241028BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20241028BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20241028BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241028BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20241028BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241028BHJP
【FI】
C08F220/02
B29C64/112
B29C64/264
B33Y80/00
B33Y70/10
B33Y10/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020130785
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027027
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】大石 江美
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180081(JP,A)
【文献】特開2015-063666(JP,A)
【文献】特開2019-025725(JP,A)
【文献】特開2019-183133(JP,A)
【文献】特開2011-137123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
B29C64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル
成分(B):多官能ラジカル重合性化合物
成分(C):ラジカル重合開始剤
を含有し、
前記成分(A)は、下記一般式(1)で示され、
【化1】
[一般式(1)中、Rは、水素または炭素数1以上4以下の炭化水素基である。前記炭化水素基は、置換基を有していても良い。]
前記成分(A)の含有量は、60質量%以上85質量%以下であり、
前記成分(B)は、一分子内に、カプロラクトン構造を有し、かつ、ラジカル重合性基を2個以上有し、
光硬化性樹脂組成物中のカプロラクトン構造数Xは、下記式(i)により算出され、光硬化性樹脂組成物中の架橋基数Yは、下記式(ii)により算出され、
X=xBB/(xA+xBB+xBB)×100 ・・・(i)
Y=xBB/(xA+xBB+xBB)×100 ・・・(ii)
A:前記成分(A)のモル分率
B:前記成分(B)のモル分率
B:前記成分(B)1分子内のカプロラクトン構造数
B:前記成分(B)1分子内のラジカル重合性基数
前記Xは9以上30以下、前記Yは7以上20以下の範囲にあることを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記Xは9以上16以下、前記Yは7以上16以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
粘度が200cps未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(B)は、前記ラジカル重合性基として炭素-炭素二重結合を有する基を含むことを特徴する請求項1乃至のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記炭素-炭素二重結合を有する基がアクリロイル基またはメタクリロイル基であることを特徴する請求項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、
成分(D):前記成分(B)以外の多官能ラジカル重合性化合物
を含有し、
前記Xは下記式(iii)により算出され、前記Yは下記式(iv)により算出されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物。
X=xBB/(xA+xBB+xBB+xDD)×100 ・・・(iii)
Y=xBB+xDD/(xA+xBB+xBB+xDD)×100 ・・・(iv)
A:前記成分(A)のモル分率
B:前記成分(B)のモル分率
D:前記成分(D)のモル分率
B:前記成分(B)1分子内のカプロラクトン構造数
B:前記成分(B)1分子内のラジカル重合性基数
D:前記成分(D)1分子内のラジカル重合性基数
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物を硬化してなることを特徴とする硬化物。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物を所定の厚さで光硬化させて硬化層を形成する工程を複数回繰り返すことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の光硬化性樹脂組成物を所定の厚さで配置する工程と、
立体モデルのスライスデータに基づいて、前記光硬化性樹脂組成物に光エネルギーを照射して硬化させる工程と、
を含むことを特徴とする、請求項に記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物、硬化物、物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元積層造形法(Additive Manufacturing(AM))は、造形材料の多様化や装置技術の進化を背景に、製品の製造手段としての活用が進んでいる。この中で、液層光重合法(Vat Photopolymerization)や光造形法(Stereolithography)と呼ばれる造形方式は液状の光硬化性樹脂をレーザービームやランプで硬化させて立体形状を形成するもので、高精細かつ高精度の造形が可能であることを特徴とする。一方で、光硬化性樹脂からなる造形物には、高い機械的強度や耐環境性能が要求され、曲げ弾性率、耐衝撃性、耐熱性等の材料物性の改良が進んでいる。
特許文献1にはラジカル重合性単量体と多官能ラジカル重合性化合物からなる硬化性組成物により可撓性・高硬度・耐熱性を有する硬化性組成物が得られることが記載されている。
特許文献2には環化重合性モノマーならびにオリゴマー硬化性材料を含むインクを3Dプリンターによる造形に使用することで熱可塑性樹脂と同様の機械的特性を有する造形物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-40585号公報
【文献】特表2020-505255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、製品の用途によってはさらなる機械特性の向上が求められ、具体的には耐衝撃性ならびに曲げ弾性率の両立が要求される。加えて、高精細かつ高精度の造形に用いる上で、泡の巻き込み防止や液面レベリング性の観点から低い液体粘度も要求される。特許文献1の組成物の場合、低い液体粘度を実現することができるものの、十分な耐衝撃性が得られない。また特許文献2の組成物の場合、曲げ弾性など機械特性に優れた硬化物が得られるが、造形に適した低い液体粘度を得ることができない。本発明は、耐衝撃性及び曲げ弾性率に優れた硬化物を得ることができ、かつ、低粘度の硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ラジカル重合により5員環エーテルを含む重合物を形成する単官能アクリルモノマー(成分(A))ならびに、カプロラクトン構造を含む多官能ラジカル重合性化合物(成分(B))を含有する光硬化性樹脂組成物に関する本発明を完成するに至った。
成分(A)と成分(B)はラジカル重合により共重合構造を形成する。重合後の硬化物において、成分(A)が重合して形成される5員環エーテルと成分(B)中のカプロラクトン構造が衝撃を吸収する機能を有し、成分(B)等の多官能ラジカル重合性化合物により形成される架橋構造が重合物の高弾性率化を実現する。特に、5員環エーテルならびにカプロラクトン構造と架橋点間距離が衝撃吸収に必要な自由体積と高弾性率を両立する上で必要なファクターであることを見出した。
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、
成分(A):単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル
成分(B):多官能ラジカル重合性化合物
成分(C):ラジカル重合開始剤
を含有し、
前記成分(A)は、下記一般式(1)で示され、
【0006】
【化1】
[一般式(1)中、Rは、水素または炭素数1以上4以下の炭化水素基である。前記炭化水素基は、置換基を有していても良い。]
前記成分(A)の含有量は、60質量%以上85質量%以下であり、
前記成分(B)は、一分子内に、カプロラクトン構造を有し、かつ、ラジカル重合性基を2個以上有し、
光硬化性樹脂組成物中のカプロラクトン構造数Xは、下記式(i)により算出され、光硬化性樹脂組成物中の架橋基数Yは、下記式(ii)により算出され、
X=xBB/(xA+xBB+xBB)×100 ・・・(i)
Y=xBB/(xA+xBB+xBB)×100 ・・・(ii)
A:前記成分(A)のモル分率
B:前記成分(B)のモル分率
B:前記成分(B)1分子内のカプロラクトン構造数
B:前記成分(B)1分子内のラジカル重合性基数
前記Xは9以上30以下、前記Yは7以上20以下の範囲にあることを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐衝撃性、曲げ弾性率、耐熱性に優れた造形物を得ることができ、硬化前の液体粘度が低い、造形に適した光硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物(以下、「組成物」と称する場合がある)について詳細に説明する。
【0009】
<成分(A):単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステル>
成分(A)である単官能2-(アリルオキシメチル)アクリル酸またはそのエステルは下記一般式(1)で示される。
【0010】
【化2】
【0011】
一般式(1)中、Rは、水素または炭素数1以上4以下の炭化水素基であり、炭化水素基は、置換基を有していても良い。炭素数1以上4の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよく、エーテル結合を含んでいてもよい。炭素数1以上4以下の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、ビニルオキシエチル基、エポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。炭素数1以上4以下の炭化水素基としては、特に、炭素数1以上2以下の炭化水素基が好適に用いられる。炭化水素基が有していても良い置換基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、クロチル基、などの鎖状不飽和炭化水素基;エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基などの環状エーテル基;メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基などのアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基などのアルキルチオ基;アセチル基、プロピオニル基などのアシル基;アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのアシルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチルチオカルボニル基、エチルチオカルボニル基などのアルキルチオカルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;ウレイド基;アミド基;シアノ基;水酸基;トリメチルシリル基などが挙げられる。
【0012】
成分(A)としては、市販品を用いることができ、例えば、AOMA(株式会社日本触媒製)などが挙げられる。
【0013】
成分(A)が重合して形成される5員環エーテルを含むことで、硬化物の耐衝撃性が向上する。そのため、成分(A)の含有量は、組成物の総量に対して50質量%以上89質量%以下が好適であり、好ましくは60質量%以上89質量%以下、さらに好ましくは65質量%以上85質量%以下、より好ましくは70質量%以上85質量%以下である。
【0014】
<成分(B):多官能ラジカル重合性化合物>
成分(B)の多官能ラジカル重合性化合物は、一分子内に、カプロラクトン構造を有し、かつ、ラジカル重合性基を2個以上有する。ここで、「カプロラクトン構造」とは、ε-カプロラクトンが開環した構造、すなわち下記式(2)で示される構造である。
-C(=O)-(CH25-O- (2)
【0015】
成分(B)は、直鎖状化合物、分岐鎖状化合物および環状化合物のいずれであっても良く、成分(B)に含まれるカプロラクトン構造は、主鎖に含まれても良いし、側鎖に含まれても良いし、環状鎖中に含まれても良い。また、カプロラクトン構造を複数有する場合、カプロラクトン構造は、分子中で、ポリカプロラクトン構造のような繰り返し構造を形成しても良い。また、カプロラクトン構造を複数有する場合、カプロラクトン構造は、互いに離れて存在しても良い。具体的には、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、イソシアヌレート等の分岐状または環状化合物に由来する構造中に、カプロラクトン構造が、互いに離れて存在するような構造を形成しても良い。
【0016】
成分(B)に含まれるラジカル重合性基は、好ましくは炭素-炭素二重結合を有する基であり、より好ましくは(メタ)アクリル基である。
【0017】
成分(B)としては、市販品を用いることができ、例えば、DPCA-60、DPCA-120(いずれも日本化薬株式会社製)などが挙げられる。
【0018】
<光硬化性樹脂組成物中のカプロラクトン構造数Xおよび架橋基数Y>
成分(B)は、光硬化性樹脂組成物中のカプロラクトン構造数Xが9以上30以下、光硬化性樹脂組成物中の架橋基数Yが7以上20以下の範囲となるように含有することが好ましい。X、Yそれぞれの算出方法を以下で説明する。
【0019】
Xは、下記式(i)により算出され、Yは、下記式(ii)により算出される。
X=xBB/(xA+xBB+xBB)×100 ・・・(i)
Y=xBB/(xA+xBB+xBB)×100 ・・・(ii)
A:成分(A)のモル分率
B:成分(B)のモル分率
B:成分(B)1分子内のカプロラクトン構造数
B:成分(B)1分子内のラジカル重合性基数
【0020】
組成物が、成分(D)として、成分(B)以外の多官能ラジカル重合性化合物を含有する場合、Xは下記式(iii)により算出され、Yは下記式(iv)により算出される。
X=xBB/(xA+xBB+xBB+xDD)×100 ・・・(iii)
Y=xBB+xDD/(xA+xBB+xBB+xDD)×100 ・・・(iv)
A:成分(A)のモル分率
B:成分(B)のモル分率
D:成分(D)のモル分率
B:成分(B)1分子内のカプロラクトン構造数
B:成分(B)1分子内のラジカル重合性基数
D:成分(D)1分子内のラジカル重合性基数
【0021】
組成物が、成分(E)として、成分(A)以外の単官能ラジカル重合性化合物を含有する場合、Xは下記式(v)により算出され、Yは下記式(vi)により算出される。
X=xBB/(xA+xE+xBB+xBB)×100 ・・・(v)
Y=xBB/(xA+xE+xBB+xBB)×100 ・・・(vi)
A:成分(A)のモル分率
B:成分(B)のモル分率
E:成分(E)のモル分率
B:成分(B)1分子内のエトキシ基またはプロポキシ基数
B:成分(B)1分子内のラジカル重合性基数
【0022】
各成分のモル分率は、組成物の各配合成分の添加量(質量)と分子量から計算する。モル分率は、成分全体の物質量の総和に対する各成分の物質量の比であり、単位を持たない無次元量である。
【0023】
成分(B)として複数種類の化合物を含有する場合、xBB、xBBは、各化合物ごとに計算した、モル分率と、1分子内のカプロラクトン構造数、あるいはラジカル重合性基数との積の総和とする。成分(D)として複数種類の化合物を含有する場合のxDDについても同様である。
【0024】
実用に耐えうる耐衝撃性および弾性率を有する造形物が得られるXの範囲は、9以上30以下であり、好ましくは9以上16以下である。成分(B)に含まれるカプロラクトン構造は衝撃を吸収する効果があるが、Xが9を下回ると、耐衝撃性が低下してしまい、Xが30を超えると弾性率が低下してしまう。
【0025】
実用に耐えうる耐衝撃性および弾性率を有する造形物が得られるYの範囲は7以上20以下、好ましくは7以上16以下である。Yが7以上で高い曲げ弾性率を発現できる一方、20を超えると衝撃が加わった時の破断点が増えるため、耐衝撃性が低下してしまう。
【0026】
X,Yの両範囲を満たすことで、ラジカル重合後に衝撃吸収に必要な自由体積を確保しながら荷重に対する変形量の少ない硬化物を得ることができる。
【0027】
<成分(C):ラジカル重合開始剤>
ラジカル重合開始剤は、硬化性樹脂の硬化条件(照射波長、照射量)に応じて適宜選択することができる。
【0028】
光照射によりラジカル種を発生する重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、4-フェニルベンゾフェノン、4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジフェニルベンゾフェノン、4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
また、熱によりラジカル種を発生する重合開始剤としては、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシピバレート、tert-ブチルパーオキシネオヘキサノエート、tert-ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシネオデカノエート、tert-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオデカノエート等の過酸化物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
ラジカル重合開始剤は、1種類のみで使用することもできるし、2種類以上を併用して使用することもできる。ラジカル重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して、0.01質量部以上10.00質量部以下の範囲が好ましい。なお、ラジカル重合開始剤の添加比率は、光照射量、さらには、付加的な加熱温度に応じて適宜選択してもよい。また、得られる重合体の目標とする平均分子量に応じて、調整してもよい。
【0031】
<成分(D):成分(B)以外の多官能ラジカル重合性化合物>
本発明の光硬化性樹脂組成物には、硬化物の著しい性能低下が生じない範囲で、成分(D)として、成分(B)以外の多官能ラジカル重合性化合物を添加することができる。
【0032】
成分(D)としては、以下の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン-1,3-ジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート等であるがこれらに限定されない。また、成分(D)は、硬化物の機械特性が低下しない範囲で、一種類のみを追加しよも良いし複数同時に組合せても良い。
【0033】
<成分(E):成分(A)以外の単官能ラジカル重合性化合物>
本発明の光硬化性樹脂組成物には、硬化物の著しい性能低下が生じない範囲で、成分(E)として、成分(A)以外の単官能ラジカル重合性化合物を添加することができる。
【0034】
成分(E)としては、以下の単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。例えば、4-tert-ブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロイルオキシアダマンタン、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチルー2-アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタエニル(メタ)アクリレート、2-イソプロピルアダマンタンー2-イル(メタ)アクリレート、テトラヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、α-(メタ)アクリロキシーγ-ブチロラクトン、2-ヒドロキシ-o-フェニルフェノールプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニルグリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、トリシクロデカン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート等であるがこれらに限定されない。また、成分(E)は、硬化物の機械特性が低下しない範囲で、一種類のみを追加しよも良いし複数同時に組合せても良い。
【0035】
<成分(F):その他の重合性化合物>
粘度調整や機能付与のため、成分(F)として、その他の重合性材料を添加しても構わない。その他の重合性化合物の制限は特になく、例えば、単官能或いは2官能以上のエポキシ乃至オキセタン化合物等のカチオン重合性化合物が挙げられる。
【0036】
単官能或いは2官能以上のエポキシ、オキセタン化合物としては、例えば、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールADジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールZジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリシクロデカンジメタノールジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキシル-3,4-エポキシ-1-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-6-メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)エタン、アルファピネンオキサイド、カンファレンアルデヒド、リモネンモノオキサイド、リモネンジオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、4-ビニルシクロヘキセンジオキサイド、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ノルマルブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタンなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0037】
また、カチオン重合性化合物を添加する場合は、組成物に光照射によりカチオン種を発生する重合開始剤、光酸発生剤や光塩基発生剤を添加してカチオン重合性化合物の重合反応を促進しても良い。光照射によりカチオン種を発生する重合開始剤としては、ヨードニウム(4-メチルフェニル)[4-(2-メチルプロピル)フェニル]-ヘキサフルオロホスフェートが好適な重合開始剤として挙げられるがこれに限定されない。光酸発生剤としては、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラフルオロホウ酸トリフェニルフェナシルホスホニウム、ヘキサフルオロアンチモン酸トリフェニルスルホニウム、ビス-[4-(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスジヘキサフルオロアンチモネート、ビス-[4-(ジ4’-ヒドロキシエトキシフェニルスルフォニォ)フェニル]スルフィドビスジヘキサフルオロアンチモネート、ビス-[4-(ジフェニルスルフォニォ)フェニル]スルフィドビスジヘキサフルオロフォスフェート、テトラフルオロホウ酸ジフェニルヨードニウムなどを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0038】
<その他の添加剤>
本発明の組成物には、硬化物の著しい性能低下が生じない範囲で、重合禁止剤、光増感剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、連鎖移動剤等を添加することができる。
【0039】
重合禁止剤には、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノンモノエチルエーテル、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、ヒドロキノンモノブチルエーテル、ヒドロキノンモノペンチルエーテル、ヒドロキノンモノヘキシルエーテル、ヒドロキノンモノオクチルエーテル、ヒドロキノンモノへプチルエーテル等のヒドロキノン系の重合禁止剤、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の置換基を有するフェノール系の重合禁止剤が挙げられる。但し、ヒドロキノン等のヒドロキノン系の重合禁止剤、ベンゾキノン等のベンゾキノン系の重合禁止剤は、UV照射で黄変することがあるためコーティング等の薄膜硬化物を得る際に好適である。重合禁止剤には、反応時や保存時の重合抑制剤として上述したものが挙げられるがそれらに限定されない。添加量は、組成物に対して、0.01質量%以上1.00質量%以下の範囲が好ましい。また、一つの重合禁止剤のみを使用しても良いし2種類以上の重合禁止剤を組み合わせて使用しても良い。着色の少なさを考慮すると具体的にはヒドロキノン系重合禁止剤を組み合わせて利用することが好ましい。
【0040】
光増感剤にはベンゾフェノン、4,4-ジエチルアミノベンゾフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、アシルホスフィンオキサイド等が挙げられる。添加量は、組成物に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0041】
耐光安定剤には硬化物の特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2,2’-メチルレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)]-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール等のベンゾトリアゾール系の化合物、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸エチル、2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリル酸 2-エチルヘキシル等のシアノアクリレート系の化合物、トリアジン系の化合物、オクタベンゾン、2,2’-4,4’-テトラヒドロベンゾフェノン等のベンゾフェノン系の化合物等が挙げられる。耐光安定剤が光増感剤の役割を果たす場合もあり、その場合には光増感剤は添加しなくても良い。添加量は、組成物に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0042】
耐熱安定剤には硬化物の特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシベンゼンプロパン酸の側鎖を有する炭素数7から9のアルキルエステル、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)]プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオネート等のヒンダードフェノール系の化合物、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系の化合物、ジオクタデシル-3,3’-チオジプロピオネート等の硫黄系の化合物等が挙げられる。添加量は、組成物に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0043】
酸化防止剤には硬化物の特性に大きな影響を及ぼさないものであれば特に制限は無く、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート等のヒンダードアミン系の化合物等が挙げられる。添加量は、組成物に対して、0.01質量%以上10.00質量%以下の範囲が好ましい。
【0044】
連鎖移動剤、硬化助剤としては、例えば、β-メルカプトプロピオン酸、2-エチルヘキシル-3-メルカプトプロピオネート、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、メトキシブチル―3-メルカプトプロピオネート、ステアリル―3-メルカプトプロピオネート、1-ブタンチオール、シクロヘキサンチオール、3-メルカプトプロピオン酸シクロヘキシル、1-デカンチオール、2,4-ジフェニルー4メチル1-ペンテン、1-ドデカンチオール、3-メルカプトプロピオン酸ドデシル、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸エチル、1-ヘキサデカンチオール、3-メルカプトプロピオン酸ヘキシル、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1、2-プロパンジオール、メルカプト酢酸、2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプト酸メチル、メルカプトこはく酸、3-メルカプトプロピオン酸メチル、3-メルカプトプロピオン酸オクタデシル、3-メルカプトプロピオン酸オクチル、1-オクタンチオール、1-オクタデカンチオール、3-メルカプトプロピオン酸トリデシル、チオフェノール、多官能チオールとしてビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオナート)、1,4-ベンゼンチオール、3,7ジチア-1,9-ノナンオール、DL-1,4-ジメルカプト-2,3-ブタンジオール、1,5-ジメルカプトナフタレン、ジチオエリスリトール、エチレンビスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセタート、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシエチル)-イソシアヌレート、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、3,3‘-チオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸、ラウリルチオプロピオン酸(ドデシルチオプロピオン酸)、また市販品として、TS-G、C3TS-G、TA-G、LDAIC(四国化成工業株式会社製)、カレンズMTPE1、BD1、NR1、TPMB、(昭和電工株式会社製)などを挙げることができる。
【0045】
さらに、粘度調整や機能付与のため色素、フィラー等を添加しても構わない。フィラーとしては特に制限はなく、硬化物の機械特性を劣化させなければ良い。フィラーの種類は、金属塩、金属酸化物、ポリマー微粒子、ゴム粒子、無機ファイバー、有機ファイバー、カーボン等である。金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム等でありこれらに限定されない。ポリマー微粒子としては、アクリル微粒子、ポリスチレン微粒子、ナイロン粒子等であるがこれらに限定されない。ゴム粒子としてはブタジエンゴム粒子、スチレン・ブタジエンゴム共重合粒子、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム粒子、またはこれらのジエンゴムを水素添加または部分水素添加した飽和ゴム粒子、架橋ブタジエンゴム粒子、イソプレンゴム粒子、クロロプレンゴム粒子、天然ゴム粒子、シリコンゴム粒子、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー三元共重合ゴム粒子、アクリルゴム粒子、アクリル/シリコーン複合ゴム粒子等が挙げられるが、これらに限定されない。有機ファイバーとしては、ナイロンファイバー、セルロースナノファイバー等であるがこれらに限定されない。
【0046】
<粘度>
粘度(23℃の雰囲気下で測定した未硬化の組成物の液体粘度)が、1,000cps(mPa・s)未満であれば、液層光重合法や光造形法での造形は可能である。しかし、粘度が200cps以上だと硬化物中に泡が混入したり、樹脂液面のレベリングに時間を要したりする。そこで、本発明の組成物は、200cps未満の粘度(23℃の雰囲気下で測定した未硬化の組成物の液体粘度)を実現する。より好ましい粘度は100cps以下であり、さらに好ましくは10cps以下である。液体粘度が低いことで、泡の混入を抑制することができ、さらに、樹脂液面のレベリング時間の短縮や、造形後に行われる洗浄工程の簡略化等、ハンドリング性を向上させることができる。また、インクジェット方式等の噴霧においても好適に使用することができる。
【0047】
<組成物の調製方法>
本発明の組成物の調製方法は特に制限されず、すべての材料を秤量した後、加熱撹拌する方法が最も簡便である。ただし、加熱による重合の懸念がある場合は適宜重合禁止剤を添加しても良い。また加熱だけでは均一に混合することが困難な場合はアセトン等の溶剤に全ての材料を溶解させた後、溶媒留去することで調製しても良い。さらに、超音波ホモジナイザー、ボールミル、ディスクミル等の分散機による撹拌を利用しても良い。
【0048】
<物品の造形方法>
組成物の硬化工程において、硬化物の形状や硬化方法については特に限定されない。硬化方法としては、例えば、基材上に組成物を塗布した後に光照射する方法や型に組成物を注入した後に光照射する方法、薄膜の硬化物を積み重ねる光学的立体造形法(光造形法)等が挙げられる。
【0049】
組成物を基材上に塗布する方法は、特に限定されない。例えば、ロールコーター、リバースコーター、バーコーター、スリットコーター等の接触転写型塗布装置や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコーター等の非接触型塗布装置を用いて、組成物を基材上に、所望の膜厚となるよう塗布して塗布膜を形成しても良い。
【0050】
本発明の組成物を用いて光造形を行う方法は、従来既知の光造形方法および装置のいずれもが使用できる。好ましくは、組成物を所定の厚さで光硬化させた硬化層を積層する方法である。具体的には、組成物に、所望のパターンを有する硬化層が得られるように、造形する物品の三次元データから生成されるスライスデータに基づいて活性エネルギー光線を選択的に照射して第一の硬化層を形成する。次いで、第一の硬化層に接して、所定の厚さの硬化層が得られるように未硬化の液状組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して第一の硬化層と連続した第二の硬化層を新たに形成する。この積層操作を繰り返すことによって最終的に目的とする物品(立体的造形物)を得ることができる。
【0051】
活性エネルギー光線としては、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などを挙げることができる。その中でも、300nmから430nmの波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられ、その際の光源としては、紫外線レーザー(例えば半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He-Cdレーザーなど)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発光ダイオード)、蛍光灯などを使用することができる。
【0052】
組成物よりなる造形面に活性エネルギー光線を照射して所定の形状パターンを有する各硬化樹脂層を形成するに当たっては、レーザー光などのような点状に絞られた活性エネルギー光線を使用して点描または線描方式で硬化樹脂層を形成してもよいし、または液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーシャッター(DMD)などのような微小光シャッターを複数配列して形成した面状描画マスクを介して造形面に活性エネルギー光線を面状に照射して硬化樹脂層を形成させる造形方式を採用してもよい。
【0053】
<用途>
本発明の組成物は、三次元積層造形法、特に光造形法に好適に用いることができる。また、本発明の硬化物、3Dプリンターにより得られる造形物は、光学的立体造形分野に幅広く用いることができる。応用分野としては、何ら限定されるものではないが、代表的な分野として、工業製品のプロトタイプモデル、デザインモデル、ワーキングモデル、金型を制作するためのベースモデル、試作金型用の直接型、サービスパーツ、筐体、工業製品の部品等が挙げられる。特に、本発明の組成物は、弾性率と耐衝撃性、耐熱性を有するため耐久性が求められる工業製品の筐体や部品の製造に用いることができる。
【実施例
【0054】
≪実施例1乃至6、比較例1乃至5≫
<成分>
実施例、比較例で用いた各成分を、分子量、一分子内のカプロラクトン構造数、一分子内のラジカル重合性基数と共に、表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
<組成物の製造>
各成分を表2に示す配合比(質量部)で配合し、均一に混合し、組成物を製造した。
【0057】
<試験片用硬化物の製造>
調製した組成物を用いて、下記の方法で硬化物を作成した。まず、二枚の石英ガラスの間に長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの金型を挟み、ここに組成物を流し込んだ。流し込んだ組成物に対して、紫外線照射機(HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製EX250)、照度計(ウシオ電機株式会社製UIT-250)により10mW/cm2の紫外線を120秒間、照射面の表裏を入れ替えて合計6回照射し、離形することで硬化物を得た(総エネルギーとして7200mJ/cm2)。さらに、得られた硬化物を50℃の加熱オーブン内に入れて1時間、100℃の加熱オーブン内に入れて1時間熱処理を行い、試験片用の硬化物を得た。
【0058】
<曲げ弾性率の評価>
得られた試験片についてJIS K 7171に準じて、万能材料試験機(INSTRON製、5581)を用いて、曲げ弾性率の測定を行った。2mm/minの条件で、規定歪み区間(0.05%から0.25%)の応力勾配より曲げ弾性率を算出した。また、以下の基準で曲げ弾性率を評価した。結果を表2に示す。
A(非常に良好):曲げ弾性率が2.5GPa以上。
B(良好):曲げ弾性率が1.5GPa以上2.5GPa未満。
C(不良):曲げ弾性率が1.5GPa未満。
【0059】
<耐衝撃性の評価>
得られた試験片についてJIS K 7111に準じて、切欠き形成機(東洋精機製作所製、商品名「ノッチングツールA-4」)にて中央部に深さ2mm、45°の切欠き(ノッチ)を入れた。その後、衝撃試験機(東洋精機製作所製、商品名「IMPACT TESTER IT」)を用い、試験片の切欠きの背面から2Jのエネルギーで破壊する。150°まで振り上げたハンマーが試験片破壊後に振りあがる角度から破壊に要したエネルギーを算出し、このシャルピー衝撃強さを耐衝撃性の指標とした。また、以下の基準で耐衝撃性を評価した。結果を表2に示す。
A(非常に良好):シャルピー衝撃強さが7kJ/m2以上。
B(良好):シャルピー衝撃強さが5kJ/m2以上7kJ/m2未満。
C(不良):シャルピー衝撃強さが5kJ/m2未満。
【0060】
<耐熱性の評価>
得られた試験片についてJIS K 7191-2に準じて、荷重たわみ温度試験機(東洋精機製作所製、商品名「No.533 HDT 試験装置 3M-2」)を用いて耐熱性の試験を行った。曲げ応力1.80MPaで、25℃から毎分2℃昇温した。試験片のたわみ量が0.34mmに達した温度を荷重たわみ温度とし、耐熱性の指標とした。また、以下の基準で耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
A(非常に良好):荷重たわみ温度が60℃以上。
B(良好):荷重たわみ温度が45℃以上60℃未満。
C(不良):荷重たわみ温度が45℃未満。
【0061】
<液体粘度の測定>
未硬化の組成物の液体粘度を、超音波振動式粘度計(セコニック社製、商品名「VM-10A-L」を用い、23℃の雰囲気下で測定した。また、以下の基準で液体粘度を評価した。結果を表2に示す。
A(非常に良好):液体粘度が200cps未満。
B(良好):液体粘度が200cps以上1,000cps未満。
【0062】
【表2】
【0063】
表2より、多官能ラジカル重合性化合物として、一分子内に、カプロラクトン構造を有し、かつ、ラジカル重合性基を2個以上有する化合物(成分(B))を用いた実施例1乃至6と、分子内にカプロラクトン構造を有しない多官能ラジカル性重合物D-1を用いた比較例1を対比すると、実施例1乃至6の硬化物は高い耐衝撃性を有している。
【0064】
また、Xを9以上30以下、Yを7以上20以下の範囲内にした実施例1乃至6と、X、Yがこの範囲内にない比較例2乃至5を対比すると、実施例1乃至6では高い曲げ弾性率と耐衝撃性を両立できることが明らかになった。また、液体粘度はいずれも10cps以下であった。
【0065】
以上の結果から、本発明の組成物は、高い耐衝撃性、と曲げ弾性率、耐熱性を有する硬化物を得られることが明らかとなり、未硬化の状態での液体粘度が低いことから、光学的立体造形に好適に使用できることが明らかとなった。