(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】構造材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
E04B1/58 D
(21)【出願番号】P 2020159576
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田口 孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 啓介
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-066924(JP,A)
【文献】特開2017-015220(JP,A)
【文献】特許第6719199(JP,B2)
【文献】特開2020-139358(JP,A)
【文献】特開2020-148032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04H 9/02
E04C 3/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と補剛材と連結部材とを備えており、
前記鋼板は、構造物に組み込むことが可能であって、定められた長さを有しており、
前記補剛材は、木質系材料からなり、前記鋼板の厚さ方向の両側に配置され、前記鋼板と同じ方向に延びており、
前記連結部材は、前記鋼板の厚さ方向の両側に配置された前記補剛材同士を連結するものである構造材において、
前記連結部材は、前記補剛材同士を連結するとき、前記補剛材同士を互いに接近する方向に押圧するものであり、
前記補剛材同士は、前記連結部材による連結に基づいて互いに接近するとき、前記鋼板を押圧するよう構成され、
前記補剛材は、前記鋼板に対応して位置する第1面と、その第1面の隣に位置して前記鋼板を挟んだ反対側の補剛材と向かい合う第2面と、を有しており、
前記連結部材は、前記補剛材の第2面を鋼板の厚さ方向に通過しており、非連結状態にある前記補剛材同士を互いに接近する方向に押圧することによって補剛材同士を連結するものであり、
前記補剛材は、前記補剛材同士の非連結状態のもと、前記第1面と前記鋼板との間に隙間が生じないように配置されたとき、前記第2面と同第2面に対し向かい合う補剛材との間に隙間が生じるよう構成され、
前記補剛材同士の間であって前記鋼板から外れた位置には剪断抵抗部材が設けられており、
前記剪断抵抗部材は、前記鋼板の厚さ方向の両側に配置されている前記補剛材に対し、それぞれ前記第2面を通過して埋め込まれている構造材。
【請求項2】
前記連結部材は、付勢部材を介して前記補剛材に接しており、
前記付勢部材は、前記連結部材により前記補剛材同士を連結したとき、前記補剛材同士を互いに接近する方向に付勢するものである請求項
1に記載の構造材。
【請求項3】
前記鋼板と前記補剛材との間には低摩擦シートが挟まれており、
前記低摩擦シートは、前記鋼板と前記補剛材との間に生じる摩擦力を低減するものである請求項1
又は2に記載の構造材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物等の構造物に組み込まれる構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の構造物には、構造材が組み込まれる。構造材には、柱及び梁といった架構材が含まれる。構造材には、構造物を補強するためのブレースも含まれる。ブレースは、架構材の間、すなわち柱梁間に配置される。特許文献1には、上記ブレースの一種として、座屈拘束ブレースが開示されている。この座屈拘束ブレースを建物等の構造物に組み込むことにより、その構造物の強度及び剛性を高めることができる。
【0003】
上記座屈拘束ブレースは、鋼板と、補剛材と、連結部材と、を備えている。鋼板は、構造物に組み込むことが可能であって、定められた長さを有している。補剛材は、鋼板が長手方向において圧縮されたときの鋼板の座屈を抑制するためのものである。補剛材は、鋼板の厚さ方向の両側に配置されており、鋼板と同じ方向に延びている。鋼板の幅方向の隣には、スペーサ板が配置されている。スペーサ板は、鋼板の厚さ方向の両側に配置された補剛材同士の間に位置している。連結部材は、鋼板の厚さ方向の両側に配置された補剛材同士を貫通しており、それら補剛材同士を互いに連結している。鋼板が長手方向において圧縮されたときには、補剛材によって鋼板が拘束される。これにより鋼板の座屈が抑制される。
【0004】
補剛材は、木質系材料によって形成されている。このため、座屈拘束ブレースを軽量にすることができるとともに、座屈拘束ブレースの景感や触感を良好なものとすることができる。木質系材料からなる柱及び梁を有する建物に対し、上記座屈拘束ブレースを組み込む場合、次のような効果も得られる。すなわち座屈拘束ブレースと柱及び梁との質感や特性を合わせることができ、建物全体を木の質感と風合いを生かした仕上がりにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鋼板の長手方向についての圧縮によって鋼板が湾曲すると、鋼板における湾曲の頂点付近の部位が補剛材に押し付けられる。上記部位を補剛材に押し付ける力の大きさは、鋼板の長手方向についての圧縮が生じていないときの鋼板と補剛材との隙間の大きさに関係している。すなわち、上記隙間が大きいほど、上記部位を補剛材に押し付ける力が大きくなる。上記部位を補剛材に押し付ける力が大きい場合、補剛材に割れが生じる可能性がある。また、補剛材に傷が付く可能性もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する構造材は、鋼板と補剛材と連結部材とを備えている。鋼板は、構造物に組み込むことが可能であって、定められた長さを有している。補剛材は、木質系材料からなり、鋼板の厚さ方向の両側に配置され、鋼板と同じ方向に延びている。連結部材は、鋼板の厚さ方向の両側に配置された補剛材同士を連結するものである。上記連結部材は、補剛材同士を連結するとき、補剛材同士を互いに接近する方向に押圧するものである。上記補剛材同士は、連結部材による連結に基づいて互いに接近するとき、鋼板を押圧するよう構成されている。
【0008】
この構成によれば、鋼板における厚さ方向の両側に配置された補剛材同士が連結部材によって連結されたとき、連結部材が補剛材同士を互いに接近する方向に押圧する。これにより補剛材が鋼板を押圧するため、鋼板と補剛材との間に隙間が生じることを抑制できる。鋼板の長手方向についての圧縮によって鋼板が湾曲したときには、鋼板における湾曲の頂点付近の部位が補剛材に押し付けられる。鋼板と補剛材との間に上記隙間が生じることを抑制することにより、上記部位が補剛材に押し付けられる力を小さく抑えることができる。従って、上記部位を補剛材に押し付ける力によって、補剛材に割れが生じたり補剛材に傷が付いたりすることを抑制できる。
【0009】
上記構造材において、連結部材は、付勢部材を介して補剛材に接するものとすることが考えられる。上記付勢部材は、連結部材により補剛材同士を連結したとき、補剛材同士を互いに接近する方向に付勢するものとされる。
【0010】
この構成によれば、経年変化により補剛材が縮小した場合、その縮小に対応した分、補剛材が付勢部材の付勢力によって鋼板側に接近する。従って、経年変化により補剛材が縮小したとしても、補剛材と鋼板との間に隙間が生じることを抑制できる。
【0011】
上記構造材において、補剛材は、鋼板に対応して位置する第1面と、その第1面の隣に位置して鋼板を挟んだ反対側の補剛材と向かい合う第2面と、を有するものとすることが考えられる。連結部材は、補剛材の第2面を鋼板の厚さ方向に通過しており、非連結状態にある補剛材同士を互いに接近する方向に押圧することによって補剛材同士を連結するものとされる。補剛材は、補剛材同士の非連結状態のもと、第1面と鋼板との間に隙間が生じないように配置されたとき、第2面と同第2面に対し向かい合う補剛材との間に隙間が生じるよう構成される。
【0012】
上記構成によれば、補剛材の第2面間の隙間の分、連結部材により補剛材同士を互いに接近させる方向に押圧することができる。その結果、鋼板に対し補剛材が押圧されるようにすることができ、鋼板と補剛材との間に隙間が生じることを抑制できる。
【0013】
上記構造材において、補剛材同士の間であって鋼板から外れた位置には剪断抵抗部材を設けることが考えられる。剪断抵抗部材は、鋼板の厚さ方向の両側に配置されている補剛材に対し、それぞれ第2面を通過して埋め込まれている。
【0014】
構造材の長手方向についての圧縮時、鋼板が補剛材を押し付けることによる補剛材の湾曲に伴い、補剛材同士の間には長手方向についての剪断力が発生する。こうした剪断力を連結部材のみが受ける場合、剪断力に抵抗するために連結部材の数を多くしなければならない。その結果、構造材に多数の連結部材を設けることによるコスト高が生じたり、構造材の見栄えが悪くなったりする。
【0015】
上記構成によれば、構造材の長手方向についての圧縮時、補剛材同士の間で長手方向に発生する剪断力を、連結部材だけでなく剪断抵抗部材も受けるようになる。従って、こうした剪断力に抵抗するために連結部材の数を多くする必要がない。また、剪断抵抗部材は、補剛材に対し第2面を通過して埋め込まれているため、構造材の外から見えることはない。従って、構造材に多数の連結部材を設けることによるコスト高が生じたり、構造材の見栄えが悪くなったりすることを抑制できる。
【0016】
上記構造材において、鋼板と補剛材との間に低摩擦シートを挟むことが考えられる。低摩擦シートは、鋼板と補剛材との間に生じる摩擦力を低減するものとされる。
構造材(鋼板)の長手方向についての圧縮によって鋼板が湾曲したときには、鋼板における湾曲の頂点付近の部位が補剛材に押し付けられる。このときの押し付けられる力によって摩擦力が発生し、その摩擦力によって構造材の長手方向についての圧縮力が増加する。上記摩擦力が大きくなるほど、構造材の長手方向に作用する上記圧縮力が大きくなる。
【0017】
上記構成によれば、補剛材と鋼板との間に低摩擦シートが挟まれることにより、補剛材と鋼板との間に隙間が生じないようにされる。この低摩擦シートにより、鋼板と補剛材との間に生じる摩擦力を低減することができる。このため、構造材(鋼板)の長手方向についての圧縮によって鋼板が湾曲したとき、鋼板と補剛材との間に生じる摩擦力の低減により、構造材の長手方向に作用する上記圧縮力の増加を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】建物等の構造物に組み込まれた座屈拘束ブレースを示す側面図。
【
図4】座屈拘束ブレースが長手方向に圧縮されたときの鋼板及び補剛材を示す略図。
【
図5】座屈拘束ブレースに対し長手方向に荷重を加えたときの鋼板の座屈状況についての実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、構造材を座屈拘束ブレースとして具体化した第1実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0020】
図1に示すように、建物等の構造物には、柱1及び梁2といった架構材が組み込まれている。構造物の架構材には、複数のガセットプレート3が所定の距離をおいて取り付けられている。ガセットプレート3間には、座屈拘束ブレース4が組み込まれている。座屈拘束ブレース4は、構造物の強度及び剛性を高めるためのものである。
【0021】
図2に示すように、座屈拘束ブレース4は、鋼板5と、補剛材6と、を備えている。鋼板5は、所定の長さを有している。鋼板5の端部には接合板7が溶接されている。接合板7は、鋼板5の厚さ方向に対し直交している。
図1に示すように、鋼板5の端部とガセットプレート3とは添え板16,17によって固定されている。詳しくは、添え板16が鋼板5の端部とガセットプレート3とに対しボルト締結されるとともに、添え板17が接合板7とガセットプレート3とに対しボルト締結される。これにより、鋼板5の両端部はそれぞれ、ガセットプレート3に固定されている。その結果、鋼板5が構造物に組み込まれる。
【0022】
図2に示す補剛材6は、鋼板5が長手方向において圧縮されたときの鋼板5の座屈を抑制するためのものである。補剛材6は、鋼板5の厚さ方向の両側に配置されており、鋼板5と同じ方向に延びている。上記補剛材6としては、例えば集成材が用いられる。こうした補剛材6は、木質系材料からなる板材8によって形成される。詳しくは、複数の板材8が鋼板5と同じ方向に延びるように配置される。そして、複数の板材8を、鋼板5の幅方向に重ねることにより、補剛材6が形成される。なお、上記補剛材6としては、直交集成材(クロス・ラミネーティッド・ティンバー:CLT)、もしくは単板積層材(ラミネイティッド・ベニア・ランバー:LVL)を用いることも可能である。
【0023】
補剛材6は溝11を備えている。溝11は、鋼板5と対向するように位置しており、鋼板5と同方向に延びている。溝11の底面11aは、鋼板5に対応して位置する第1面としての役割を担う。補剛材6は接合面6aを備えている。接合面6aは、溝11の隣に位置しており、溝11と同じ方向に延びている。接合面6aは、鋼板5を挟んだ反対側の補剛材6と向かい合う第2面としての役割を担う。補剛材6は、複数の貫通孔12を備えている。貫通孔12は、鋼板5の厚さ方向に延び、接合面6aを通過している。貫通孔12は、溝11の延びる方向において、所定の間隔をおいて並んでいる。
【0024】
座屈拘束ブレース4は、複数のボルト9を備えている。ボルト9は、鋼板5における厚さ方向の両側に配置されている補剛材6を互いに連結するためのものである。ボルト9は、それら補剛材6の貫通孔12にそれぞれ挿通されている。ボルト9の両端部には、雄ねじが形成されている。ボルト9の両端部にはそれぞれ、ワッシャ18が取り付けられている。更に、ボルト9の両端部にはそれぞれ、ナット10がねじ込まれている。そして、ナット10を締め付けると、非連結状態にある補剛材6同士がボルト9、ワッシャ18、及びナット10によって互いに接近する方向に押される。これにより、鋼板5における厚さ方向の両側に配置された補剛材6同士が連結される。ボルト9、ワッシャ18、及びナット10は、補剛材6同士を連結する連結部材としての役割を担う。
【0025】
図3は、補剛材6同士を互いに連結するためにナット10を締め付ける前であって、言い換えれば補剛材6同士が非連結状態であって、ナット10による補剛材6同士の互いに接近する方向への押圧がなされていないときの座屈拘束ブレース4を示している。このとき、溝11の底面11aが鋼板5に接触するよう補剛材6を配置すると、同補剛材6における接合面6aと同接合面6aに対し向かい合う補剛材6との間に隙間が生じる。すなわち、そうなるよう補剛材6における溝11の深さが定められている。従って、ナット10を締め付けたときには、鋼板5の厚さ方向両側に配置された補剛材6が、ナット10によって互いに接近する方向に押される。その結果、互いに接近する補剛材6が鋼板5を押圧する。このとき、鋼板5は、補剛材6に挟み込まれ、拘束されるようになる。このように鋼板5を補剛材6で拘束することにより、鋼板5が長手方向についての圧縮時に座屈することは抑制される。なお、ナット10を締め付けたとき、鋼板5の厚さ方向の両側に配置された補剛材6の接合面6aは、互いに接していてもよいし、離れていてもよい。
【0026】
次に、本実施形態の座屈拘束ブレース4の作用効果について説明する。
図4に示すように、地震時等に鋼板5が長手方向についての圧縮によって湾曲すると、鋼板5における湾曲の頂点付近の部位P1が補剛材6に押し付けられる。上記部位P1を補剛材6に押し付ける力が大きい場合、補剛材6に割れが生じる可能性がある。また、補剛材6に傷が付く可能性もある。上記部位P1を補剛材6に押し付ける力の大きさは、鋼板5の長手方向についての圧縮が生じていないときの鋼板5と補剛材6における溝11の底面11aとの隙間の大きさに関係している。すなわち、上記隙間が大きいほど、上記部位P1を補剛材6に押し付ける力が大きくなる。
【0027】
座屈拘束ブレース4では、補剛材6が次のように形成されている。すなわち、ナット10を締め付ける前であって、ナット10による補剛材6同士の互いに接近する方向への押圧がなされていないとき、補剛材6における溝11の底面11aが鋼板5に接触するとともに、補剛材6における接合面6aと同接合面6aに対し向かい合う補剛材6との間に隙間が生じる。そのように補剛材6における溝11の深さが定められている。更に、鋼板5の厚さ方向両側に配置された補剛材6同士を連結するためのボルト9が、補剛材6の接合面6aを鋼板5の厚さ方向に通過している。
【0028】
上記ナット10を締め付けることにより、鋼板5の厚さ方向両側に配置された補剛材6同士を連結したとき、補剛材6の接合面間の上記隙間の分、ナット10により補剛材6同士を互いに接近させる方向に押圧することができる。その結果、鋼板5に対し補剛材6における溝11の底面11aが押圧されるようになり、鋼板5と補剛材6における溝11の底面11aとの間に隙間が生じることを抑制できる。この隙間の発生を抑制することにより、上記部位P1が補剛材6に押し付けられる力を小さく抑えることができる。従って、上記部位P1を補剛材6に押し付ける力によって、補剛材6に割れが生じたり補剛材6に傷が付いたりすることを抑制できる。
【0029】
図5は、本実施形態の座屈拘束ブレース4に対し長手方向(伸縮方向)に荷重を繰り返し加えたときの鋼板5の座屈状況についての実験結果を示している。
図5において、縦軸は上記荷重であり、横軸は上記荷重の作用に伴う鋼板5の長手方向についての伸縮量である。
図5から分かるように、座屈拘束ブレース4に作用する上記伸縮量が大きくなるほど、鋼板5の上記荷重が大きくなる。そして、上記伸縮量が大きくなると、鋼板5が座屈する。座屈拘束ブレース4においては、鋼板5と補剛材6における溝11の底面11aとの間に隙間が生じることを抑制できるため、鋼板5に座屈を生じさせるときの上記伸縮量が大きくなる。言い換えれば、上記伸縮量に対する座屈拘束ブレース4の抵抗性を高くすることができる。
【0030】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)地震時等に鋼板5が長手方向についての圧縮によって湾曲したとき、鋼板5における湾曲の頂点付近の部位P1が補剛材6に押し付けられる力によって、補剛材6に割れが生じたり補剛材6に傷が付いたりすることを抑制できる。
【0031】
[第2実施形態]
次に、構造材の第2実施形態について、
図6を参照して説明する。
図6に示すように、この実施形態の座屈拘束ブレース4は、皿ばね19と低摩擦シート13とを備えている。
【0032】
低摩擦シート13は、鋼板5と補剛材6における溝11の底面11aとの間に配置されている。低摩擦シート13は溝11と同じ方向に延びている。低摩擦シート13により、底面11aと鋼板5との間に隙間が生じないようにされる。低摩擦シート13は、前記鋼板5と底面11aとの間に生じる摩擦力を低減するためのものである。
【0033】
皿ばね19は、ナット10とワッシャ18との間に配置されている。そして、ナット10を締め付けると、ナット10が皿ばね19及びワッシャ18を介して補剛材6に接する。皿ばね19は、ナット10を締め付けることにより、補剛材6同士を互いに接近する方向に付勢する。皿ばね19は、そうした機能を有する付勢部材としての役割を担う。
【0034】
ナット10の締め付けにより、補剛材6同士が互いに接近する方向に押圧されると、低摩擦シート13が鋼板5と補剛材6における溝11の底面11aとの間に挟まれる。鋼板5と底面11aとの間に低摩擦シート13が挟まれることにより、鋼板5と底面11aとの間に隙間が生じないようにされる。このとき、補剛材6は、低摩擦シート13を介して鋼板5を押圧する。
【0035】
この実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、以下に示す効果が得られるようになる。
(2)補剛材6の経年変化として、水分の放出等に伴う体積の縮小が補剛材6には生じる。このように補剛材6の体積が縮小すると、その縮小に対応した分、補剛材6が皿ばね19の付勢力によって鋼板5側に接近する。従って、経年変化により補剛材6の体積が縮小したとしても、補剛材6と鋼板5との間に隙間が生じることは抑制される。
【0036】
(3)座屈拘束ブレース4の長手方向についての圧縮によって鋼板5が湾曲したときには、鋼板5における湾曲の頂点付近の部位P1が補剛材6に押し付けられる。このときの押し付けられる力によって摩擦力が発生し、その摩擦力によって座屈拘束ブレース4の長手方向についての圧縮力が増加する。上記摩擦力が大きくなるほど、座屈拘束ブレース4の長手方向に作用する上記圧縮力が大きくなる。
【0037】
鋼板5と底面11aとの間に生じる摩擦力は、それらの間に挟まれた低摩擦シート13により低減される。このため、座屈拘束ブレース4の長手方向についての圧縮によって鋼板5が湾曲したとき、鋼板5と底面11aとの間に生じる摩擦力の低減により、座屈拘束ブレース4の長手方向に作用する上記圧縮力の増加を小さく抑えることができる。
【0038】
[第3実施形態]
次に、構造材の第3実施形態について、
図7を参照して説明する。
図7に示すように、この実施形態の座屈拘束ブレース4は、剪断抵抗部材14を備えている。剪断抵抗部材14は、金属製の棒状であり、座屈拘束ブレース4の長手方向に並ぶ各ボルト9の間に配置されている。剪断抵抗部材14は、鋼板5の厚さ方向の両側に配置されている補剛材6に対し、それぞれ接合面6aを通過して埋め込まれている。
【0039】
この実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、以下に示す効果が得られるようになる。
(4)座屈拘束ブレース4の長手方向についての圧縮時、鋼板5が補剛材6を押し付けることによる補剛材6の湾曲に伴い、鋼板5の厚さ方向の両側に配置された補剛材6同士の間には、長手方向についての剪断力が発生する。こうした剪断力をボルト9のみが受ける場合、剪断力に抵抗するためにボルト9の数を多くしなければならない。その結果、座屈拘束ブレース4に多数のボルト9を設けることによるコスト高が生じたり、座屈拘束ブレース4の見栄えが悪くなったりする。
【0040】
しかし、座屈拘束ブレース4の長手方向についての圧縮時、補剛材6同士の間で長手方向に発生する剪断力を、ボルト9だけでなく剪断抵抗部材14も受けるようになる。従って、こうした剪断力に抵抗するためにボルト9の数を多くする必要がなくなる。また、剪断抵抗部材14は、補剛材6に対し接合面6aを通過して埋め込まれているため、座屈拘束ブレース4の外から見えることはない。従って、座屈拘束ブレース4に多数のボルト9を設けることによるコスト高が生じたり、座屈拘束ブレース4の見栄えが悪くなったりすることを抑制できる。
【0041】
[その他の実施形態]
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0042】
・第1実施形態において、
図8に示すように、溝11は、鋼板5の厚さ方向の両側に配置された補剛材6のうちの一方のみに形成されていてもよい。
・第1実施形態において、必ずしも補剛材6に溝11が形成されている必要はない。
【0043】
・第2実施形態において、皿ばね19と低摩擦シート13との一方のみを設けるようにしてもよい。
・第3実施形態において、剪断抵抗部材14を
図7に示すように各ボルト9の間に一つずつ設けたが、各ボルト9の間に複数設けるようにしてもよい。
【0044】
・剪断抵抗部材14は、必ずしも金属製である必要はなく、木製や竹製とすることも考えられる。
・剪断抵抗部材14は、必ずしも棒状である必要はなく、板状とすることも考えられる。
【0045】
・第1実施形態及び第3実施形態において、第2実施形態の皿ばね19を設けるようにしてもよい。
・第1実施形態及び第3実施形態において、第2実施形態の低摩擦シート13を設けるようにしてもよい。
【0046】
・皿ばね19の代わりにゴム等の弾性体を付勢部材として設けるようにしてもよい。
・締結部材としてビス等を採用してもよい。
・構造材として座屈拘束ブレース4を例示したが、構造材として柱1及び梁2といった架構材に用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…柱
2…梁
3…ガセットプレート
4…座屈拘束ブレース
5…鋼板
6…補剛材
6a…接合面
7…接合板
8…板材
9…ボルト
10…ナット
11…溝
11a…底面
12…貫通孔
13…低摩擦シート
14…剪断抵抗部材
16…添え板
17…添え板
18…ワッシャ
19…皿ばね