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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】超音波接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20241028BHJP
   B06B 1/00 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
B23K20/10
B06B1/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020168967
(22)【出願日】2020-10-06
(65)【公開番号】P2022061156
(43)【公開日】2022-04-18
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宜司
(72)【発明者】
【氏名】相澤 隆博
(72)【発明者】
【氏名】田辺 成俊
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-202644(JP,A)
【文献】特開2008-145252(JP,A)
【文献】特開2014-140890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0314498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
B06B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ方向の上側に複数の被接合部材を、前記複数の被接合部材が前記高さ方向に重ねられた状態で、配置可能なステージであって、前記複数の被接合部材のそれぞれの主面が前記高さ方向を向き、かつ、前記複数の被接合部材のそれぞれの縁部が前記高さ方向に対して交差する方向を向く状態で、前記複数の被接合部材が配置されるステージと、
前記複数の被接合部材に対して前記高さ方向の上側に配置され、前記複数の被接合部材を加圧力により前記高さ方向の下側に押圧し、かつ、前記高さ方向に対して交差する前記方向に振動する超音波振動を前記複数の被接合部材に伝達する状態に駆動されることにより、前記複数の被接合部材を接合する接合ツールと、
前記超音波振動により前複数の被接合部材が振動している状態において、前記複数の被接合部材の前記縁部の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサにより検出された前記複数の被接合部材の前記縁部の前記温度に関する情報に基づいて、前記接合ツールの駆動に関連する制御パラメータを変更する制御装置と、
を備える、超音波接合装置。
【請求項2】
前記複数の被接合部材は、第1の被接合部材と、前記高さ方向について前記第1の被接合部材と隣接して配置されるとともに、前記第1の被接合部材との接合面を形成する第2の被接合部材とを備え、
前記温度センサによる前記温度の測定範囲は、前記第1の被接合部材の前記縁部及び前記第2の被接合部材の前記縁部の中で、前記接合ツールとの間の距離が最も短い領域を含む、
請求項に記載の超音波接合装置。
【請求項3】
前記温度センサは、接触式温度センサ又は非接触式温度センサである、
請求項1または2に記載の超音波接合装置。
【請求項4】
前記温度に関する情報は、前記複数の被接合部材の前記縁部の表面温度を含み、
前記制御パラメータは、前記加圧力の目標値、前記超音波振動の振幅の目標値及び前記超音波振動を発振する時間の目標値及び前記接合ツールの前記高さ方向の位置の目標値から選択される少なくとも1つを含み、
前記制御装置は、前記表面温度が前記温度の基準範囲外である場合、前記制御パラメータのうち少なくとも1つを変更する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波接合では、ステージと接合ツールとの間に被接合部材を配置し、接合ツールが被接合部材を押圧した状態で接合ツールから被接合部材に超音波振動を伝達することにより、被接合部材を接合する。また、超音波接合装置では、超音波接合に要する時間、接合ツールの位置、超音波発振器での消費エネルギー、超音波発振器でのピークパワーのいずれかを主に用いて、超音波接合装置の動作が制御される。超音波接合装置では、被接合部材の接合強度の低下が抑制されることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-122347号公報
【文献】特開2018-039041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、超音波接合による接合において、被接合部材の接合強度の低下を抑制できる超音波接合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、超音波接合装置は、ステージ、接合ツール、温度センサ及び制御装置を備える。ステージは、高さ方向の上側に複数の被接合部材を、前記複数の被接合部材が前記高さ方向に重ねられた状態で、配置可能であり、複数の被接合部材のそれぞれの主面が高さ方向を向き、かつ、複数の被接合部材のそれぞれの縁部が高さ方向に対して交差する方向を向く状態で、複数の被接合部材が配置される。接合ツールは、複数の被接合部材に対して高さ方向の上側に配置され、複数の被接合部材を加圧力により高さ方向の下側に押圧し、かつ、高さ方向と交差する方向に振動する超音波振動を複数の被接合部材に伝達する状態に駆動されることにより、複数の被接合部材を接合する。温度センサは、超音波振動により複数の被接合部材が振動している状態において、複数の被接合部材の縁部の温度を検出する。制御装置は、温度センサにより検出された複数の被接合部材の縁部の温度に関する情報に基づいて、接合ツールの駆動に関連する制御パラメータを変更する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る超音波接合装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、実施形態に係る超音波接合装置の一例を概略的に示すブロック図である。
図3図3は、実施形態に係る超音波接合装置において、被接合部材を超音波接合する場合に、被接合部材の温度を測定する範囲を示す概略図である。
図4A図4Aは、実施形態に係る超音波接合装置において、互いに対して厚さが略同一の2つの被接合部材を超音波接合する場合に、被接合部材の温度を測定する範囲を示す概略図である。
図4B図4Bは、実施形態に係る超音波接合装置において、互いに対して厚さが異なる2つの被接合部材を超音波接合する場合に、被接合部材の温度を測定する範囲を示す概略図である。
図4C図4Cは、実施形態に係る超音波接合装置において、3つ以上の被接合部材を超音波接合する場合に、被接合部材の温度を測定する範囲を示す概略図である。
図5A図5Aは、実施形態に係る超音波接合装置において、高さ方向について重ねられた被接合部材を、高さ方向の一方側から視た状態で示す概略図である。
図5B図5Bは、実施形態に係る超音波接合装置において、図5Aとは異なる状態で高さ方向について重ねられた被接合部材を、高さ方向の一方側から視た状態で示す概略図である。
図5C図5Cは、実施形態に係る超音波接合装置において、高さ方向について重ねられた、端部の形状が図5Aとは異なる被接合部材を、高さ方向と交差する第1の方向から視た状態で示す概略図である。
図6A図6Aは、実施形態に係る超音波接合装置において、制御装置により実行される時間制御モードの処理の一例を示すフローチャートである。
図6B図6Bは、実施形態に係る超音波接合装置において、制御装置により実行される位置制御モードの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態に係る超音波接合装置の一例を示す。図1に示すように、超音波接合装置1では、高さ方向(矢印Z1及び矢印Z2で示す方向)、高さ方向に交差する(垂直又は略垂直な)第1の方向(矢印X1及び矢印X2で示す方向)、及び、高さ方向及び第1の方向の両方に交差する(垂直又は略垂直な)第2の方向(図1において紙面に対して垂直又は略垂直な方向)が規定される。ある一例では、高さ方向は、鉛直方向と一致又は略一致する。この場合、第1の方向は、鉛直方向に交差する(垂直又は略垂直な)第1の水平方向と一致又は略一致し、第2の方向は、鉛直方向及び第1の水平方向の両方に交差する(垂直又は略垂直な)第2の水平方向と一致又は略一致する。
【0009】
超音波接合装置1において、被接合部材2,3は、高さ方向についてステージ4の上面に配置可能である。ステージ4は、高さ方向について下側から被接合部材2,3を支持する。超音波接合装置1を用いて被接合部材2,3が超音波接合される場合、被接合部材2,3は、ステージ4の上面に互いに対して重ねられた状態で配置される。そのため、被接合部材(第1の被接合部材)2は、高さ方向について、被接合部材(第2の被接合部材)3に隣接して配置される。また、第2の被接合部材3は、第1の被接合部材2との間に接合面を形成する。
【0010】
超音波発振器5は、入力された電気信号を高周波数(例えば20kHz又は40kHz)かつ高電圧(例えば1000V程度)の電気信号に変換し、変換された電気信号を振動子6に伝達する。振動子6は、超音波発振器5から伝達された電気信号を振動に変換し、超音波を発生させる。振動子6から発せられた振動は、超音波ホーン7に伝達される。超音波ホーン7は、振動子6から伝達された超音波振動を接合ツール8に伝達する。接合ツール8は、超音波ホーン7から伝達された超音波振動を被接合部材2,3に伝達する。本実施形態では、接合ツール8は、第2の方向に振動する。加圧機構9は、超音波ホーン7及び接合ツール8に対して加圧力を加えることにより、接合ツール8を被接合部材2,3に対して押圧する。これにより、被接合部材2,3が第2の方向に振動するとともに、被接合部材2,3が接合される。このように、超音波接合装置1を用いて被接合部材2,3が超音波接合される場合、接合ツール8が超音波振動を被接合部材2,3に伝達するとともに、加圧機構9の加圧力により接合ツール8が被接合部材3を被接合部材2に対して押圧することで、被接合部材2,3が超音波接合される。ある一例では、超音波接合装置1を用いて、電池のリードと集電体とが接合される。
【0011】
接合ツール8から被接合部材2,3への振動の伝達方向は、接合ツール8の振動方向に対して、垂直又は略垂直である。すなわち、接合ツール8が被接合部材2,3に伝達する振動は横振動である。前述のような構成であるため、接合ツール8は、被接合部材2,3を加圧力により高さ方向の下側に押圧し、かつ、高さ方向と交差する第2の方向に振動する超音波振動を被接合部材2,3に伝達する状態に、駆動される。そして、接合ツール8が駆動されることにより、被接合部材2,3が接合される。
【0012】
制御装置30は、超音波発振器5及び加圧機構9を制御する。また、制御装置30には、センサ10及び温度センサ11が接続される。本実施形態では、センサ10は、加圧機構9から超音波ホーン7及び接合ツール8に加えられる加圧力、及び、接合ツール8の高さ方向の位置を計測パラメータとして計測する。高さ方向の位置は、例えば、接合ツール8の高さ方向の絶対的な位置であってもよく、高さ方向のある位置を基準とした接合ツール8の高さ方向の相対的な位置であってもよい。本実施形態では、温度センサ11は、被接合部材に関連した情報として、被接合部材2,3の表面の温度(表面温度)を計測する。センサ10及び温度センサ11では、所定のタイミングで定期的に、前述の計測パラメータが検出される。温度センサ11は、接触式のセンサ(接触式センサ)であってもよく、非接触式のセンサ(非接触式センサ)であってもよい。接触式センサの一例としては、熱電対が挙げられる。非接触式センサの一例としては、サーモカメラ、放射温度計が挙げられる。
【0013】
なお、振動子6、超音波ホーン7及び接合ツール8は、すべてが別体であってもよく、振動子6及び超音波ホーン7が一体であってもよく、超音波ホーン7及び接合ツール8が一体であってもよい。また、振動子6、超音波ホーン7及び接合ツール8のすべてが一体であってもよい。
【0014】
本実施形態の超音波接合装置1では、ユーザーインターフェースが設けられてもよい。ユーザーインターフェースは、操作部材を備える。操作部材では、超音波接合装置1の操作に関連する指令が、作業者等によって入力される。操作部材としては、ボタン、ダイヤル、ディスプレイ及びタッチパネル等が挙げられる。また、ユーザーインターフェースは、作業者等に情報を告知する告知部を備えていてもよい。告知部は、画面表示、音の発信及びライトの点灯等によって、告知する。告知部では、例えば、作業者によって認識されることが必要な情報、及び、作業者への警告情報等が、告知される。
【0015】
図2は、制御装置30のブロック図の一例を示す。制御装置30は、例えば、コンピュータである。制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を含むプロセッサ又は集積回路(制御回路)、及び、メモリ等の記憶媒体を備える。制御装置30に設けられるプロセッサ又は集積回路は、1つであってもよく、複数であってもよい。制御装置30は、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を実行する。
【0016】
制御装置30は、中央処理部31、圧力制御部32、超音波発振制御部33及び温度算出部34を備える。中央処理部31は、制御装置30を管理する。圧力制御部32は、加圧機構9を制御することにより、加圧機構9から被接合部材2,3に加えられる加圧力の大きさを調整する。超音波発振制御部33は、超音波発振器5の超音波発振を制御する。温度算出部34は、温度センサ11の測定値に基づいて、被接合部材2,3の温度を算出する。中央処理部31は、センサ10から加圧機構9により加えられる荷重及び接合ツール8の高さ方向の位置を取得する。中央処理部31は、センサ10及び温度算出部34から取得した情報に基づいて、圧力制御部32及び超音波発振制御部33を介して、加圧機構9及び超音波発振器5を制御可能である。また、中央処理部31は、外部の上位装置35と通信可能である。中央処理部31は、上位装置35から制御指令を受信可能である。中央処理部31は、外部の上位装置35からの要求に基づいて、超音波接合装置1に関する情報を上位装置35に送信可能である。上位装置35は、例えば、製造実行システム(MES;Manufacturing Execution System)、PLC(Programmable Logic Controller)である。
【0017】
前述のような超音波接合装置1では、接合ツール8が第2の方向に振動する。被接合部材2,3は、接合ツール8により押圧されることで、第2の方向に振動するとともに互いに対して押し付けられるため、超音波接合される。この場合、被接合部材2,3では、超音波接合の開始とともに、被接合部材2,3の間の接合面近傍の温度が急激に上昇する。この接合面近傍の温度が、所定の温度よりも高い場合、被接合部材2,3の接合が良好に実施される。このため、超音波接合装置1では、超音波接合時における被接合部材2,3の接合面近傍の温度を測定することが、重要となる。また、温度の測定は、可能な限り接合面に近い位置で測定されることが望ましい。これにより、接合面の実際の温度変化に遅れることなく可能な限りリアルタイムで温度変化が測定される。本実施形態では、制御装置30が、温度センサ11の測定値に少なくとも基づいて超音波発振器5及び加圧機構9を制御することにより、被接合部材2,3の超音波接合を実行する。そのため、本実施形態の超音波接合装置1では、被接合部材2,3の接合強度の低下を抑制できる。
【0018】
制御装置30が超音波発振器5及び加圧機構9を制御する際には、超音波接合装置1が被接合部材2,3を超音波接合し、センサ10及び温度センサ11が、前述した計測パラメータ(加圧力、高さ方向の位置及び温度)を検出する。そして、制御装置30は、計測パラメータのセンサ10及び温度センサ11での計測値を取得する。このため、計測パラメータが、制御装置30によって取得される。制御装置30は、計測パラメータの計測値を、所定のタイミングで定期的に取得する。このため、制御装置30は、超音波接合装置1に関連する計測パラメータの計測値に加えて、計測パラメータの時間変化(時間履歴)も、計測データとして取得する。したがって、制御装置30が取得する計測データには、加圧機構9の加圧力の時間変化(時間履歴)、接合ツール8の高さ方向の位置の時間変化(時間履歴)、及び、被接合部材2,3の温度の時間変化(時間履歴)等が含まれる。
【0019】
ここで、被接合部材2,3の接合面近傍における温度測定の範囲について説明する。図3は、被接合部材2,3を超音波接合する場合に、被接合部材2,3の接合面近傍における温度として測定し得る温度の測定範囲Sを示す。図3は、被接合部材2,3を第2の方向から視た状態で示す。前述したように、被接合部材2,3の接合面は、高さ方向について被接合部材2,3が接触する部位、すなわち、第1の被接合部材2の上面と第2の被接合部材3の下面とが接触する部位である。温度センサ11は、被接合部材2,3の接合面近傍の温度として、被接合部材2,3の接合面に近い位置における被接合部材2,3の表面温度を測定する。
【0020】
本実施形態では、温度センサ11は、被接合部材2,3の接合面近傍の温度として、図3に示すように被接合部材2,3がステージ4の上面に設置された状態において、被接合部材2,3における第2の方向についての縁部の温度を測定する。ある一例では、温度センサ11は、第1の被接合部材2の高さ方向を向く主面の縁部及び第2の被接合部材3の高さ方向を向く主面の縁部の温度を測定する。温度の測定範囲Sは、被接合部材2,3において、第1の方向について接合ツール8に対してずれていない又はほとんどずれていない。温度の測定範囲Sの第1の方向についての大きさは、接合ツール8の第1の方向についての寸法と一致又は略一致する。温度の測定範囲Sの高さ方向についての大きさは、被接合部材2の厚さ及び被接合部材3の厚さを足した厚さ(総厚)と一致又は略一致する。温度センサ11は、温度の測定範囲Sの範囲内であれば、測定箇所は限定されない。なお、温度センサ11は、温度の測定範囲Sの範囲内における複数の箇所の温度を測定してもよい。
【0021】
図4Aは、互いに対して厚さが略同一の2つの被接合部材を超音波接合する場合に、接合面近傍の温度として測定し得る範囲の一例を示す。図4Aの一例においても、測定範囲S1,S2は、前述のように、第1の方向について接合ツール8に対してずれていない又はほとんどずれていない。この場合、温度の測定範囲は、測定範囲S1又は測定範囲S2のどちらであってもよい。温度の測定範囲S1は、図3の一例の温度の測定範囲Sと同様である。すなわち、温度の測定範囲S1の第1の方向についての大きさは、接合ツール8の第1の方向についての寸法と一致又は略一致する。温度の測定範囲S1の高さ方向についての大きさは、被接合部材2及び被接合部材3の総厚と一致又は略一致する。
【0022】
温度の測定範囲S2は、温度の測定範囲S1と比較して、被接合部材2及び被接合部材3の接合面により近い位置を測定する測定範囲である。すなわち、高さ方向について、温度の測定範囲S2の大きさは、温度の測定範囲S1の大きさよりも小さい。温度の測定範囲S2の第1の方向についての大きさは、接合ツール8の第1の方向についての寸法と一致又は略一致する。温度の測定範囲S2において、高さ方向についての大きさは、被接合部材2,3の組み合わせ等により適宜設定される。ある一例では、温度の測定範囲S2において、高さ方向についての大きさは、被接合部材2の厚さが半分又は略半分となる位置から被接合部材3の厚さが半分又は略半分となる位置までの大きさと一致又は略一致する。被接合部材2,3のそれぞれにおける高さ方向についての寸法がある程度大きい場合、測定範囲は、測定範囲S2であることが好ましい。高さ方向について被接合部材2,3の接合面から離れた箇所が測定範囲に含まれることにより、計測パラメータとして、被接合部材2,3の接合面近傍の温度を測定することが難しくなるためである。言い換えれば、このような場合に測定範囲S1を測定範囲として用いる場合、被接合部材2,3の接合面の実際の温度とは大きく異なる温度を計測パラメータとして測定する可能性が高くなる。
【0023】
図4Bは、互いに対して厚さが異なる2つの被接合部材を超音波接合する場合に、接合面近傍の温度として測定し得る範囲の一例を示す。図4Bの一例においても、温度の測定範囲は、前述のように、第1の方向について接合ツール8に対してずれていない又はほとんどずれていない。この場合、温度の測定範囲は、図4Aの一例における温度の測定範囲S2に対応する範囲である。これは、図4Bの一例において、図4Aの一例における測定範囲S1を測定した場合、被接合部材2,3の互いに対する厚さが大きく異なるため、被接合部材2,3の接合面の実際の温度とは大きく異なる温度を計測パラメータとして測定する可能性が高くなるからである。ある一例では、温度の測定範囲S2において、高さ方向についての大きさは、厚さが薄い方の被接合部材の厚さと一致又は略一致する。この例では、接合面が温度の測定範囲S2の高さ方向について中央又は略中央となるように、温度の測定範囲S2が設定される。
【0024】
図4Cは、3つ以上の被接合部材を超音波接合する場合に、接合面近傍の温度として測定し得る範囲の一例を示す。図4Cの一例においても、温度の測定範囲は、前述のように、第1の方向について接合ツール8に対してずれていない又はほとんどずれていない。温度の測定範囲は、高さ方向について隣接する被接合部材2,3の接合面に近い位置である温度の測定範囲S2である。図4Cの一例では、3つ以上の被接合部材を超音波接合するため、複数の測定範囲S2が存在する。この場合、温度センサ11が測定する範囲は、1つの測定範囲S2であってもよく、複数の測定範囲S2であってもよい。この測定範囲S2は、複数の被接合部材の組み合わせ等によって適宜設定できる。ある一例では、複数の温度の測定範囲S2のうち、最も脆弱性が高いと想定される接合面を含む温度の測定範囲S2を測定範囲として設定してもよい。また、別のある一例では、複数の温度の測定範囲S2の中から、超音波接合後の被接合部材の強度及び/又は電気的特性を想定して、1つの又は複数の温度の測定範囲S2を測定範囲として設定してもよい。
【0025】
温度の測定範囲S(S1,S2)は、被接合部材2,3がステージ4の上面に設置された状態で、被接合部材2,3のそれぞれにおいて高さ方向を向く主面の縁部と接合ツール8との間の距離Dに基づいて設定される。本実施形態では、主面の縁部は、被接合部材2,3のそれぞれにおいて高さ方向について互いに対して離れて配置される一対の主面の間に配置される。温度の測定範囲S(S1,S2)は、被接合部材2,3のそれぞれの主面の縁部の中で、縁部と接合ツール8との間の距離Dが最も短い領域を含むように設定される。接合ツール8からの距離が短い領域が温度の測定範囲S(S1,S2)に含まれることで、接合面の実際の温度変化に遅れることなく、リアルタイムでの温度の測定が実行しやすくなるからである。以下、図5A~5Cを用いて主に距離Dの具体的な設定方法について記載するが、これに限定されるものではない。なお、図5A,5Bでは、第2の方向を矢印Y1及び矢印Y2で示す。
【0026】
図5Aは、第1の被接合部材2及び第2の被接合部材3を高さ方向について上側から視た状態で示す。ここでは、第1の被接合部材2の寸法及び第2の被接合部材3の寸法は、互いに対して同一又は略同一である。第1の被接合部材2及び第2の被接合部材3は、ステージ4の上側において、第1の方向及び第2の方向について、第1の被接合部材2の主面の縁部及び対応する第2の被接合部材3の主面の縁部が、一致又は略一致するように重ねられる。図5Aの一例では、第1の被接合部材2の縁面の位置と対応する第2の被接合部材3の縁面の位置とが、第1の方向又は第2の方向について、一致又は略一致している。すなわち、第1の被接合部材2の縁面及び対応する第2の被接合部材3の縁面が、面一である。
【0027】
図5Aの一例では、被接合部材2,3において、縁部E1~E4が規定され、縁部E1~E4のそれぞれに対応する距離D1~D4が規定される。すなわち、被接合部材2,3を合わせた被接合部材の全体に対して、4つの縁部及び4つの距離が既定される。この場合、距離D1は、接合ツール8の外周面のうち縁部E1に最も近い面(矢印X1側の面)から縁部E1までの第1の方向の距離である。距離D2は、接合ツール8の外周面のうち縁部E2に最も近い面(矢印Y1側の面)から縁部E2までの第2の方向の距離である。距離D3は、接合ツール8の外周面のうち縁部E3に最も近い面(矢印X2側の面)から縁部E3までの第1の方向の距離である。距離D4は、接合ツール8の外周面のうち縁部E4に最も近い面(矢印Y2側の面)から縁部E4までの第2の方向の距離である。図5Aに示すように、距離D1~D4の大きさの関係は、D1>D2>D4>D3である。そのため、温度の測定範囲S(S1,S2)が設定される領域は、距離D3に対応する縁部E3を含む領域である。したがって、図5Aの一例では、温度の測定範囲S(S1,S2)が縁部E3を含む領域に設定される。温度センサ11は、縁部E3を含む温度の測定範囲S(S1,S2)内において、被接合部材2,3の接合面近傍の温度を測定する。
【0028】
図5Bに示すように、第1の被接合部材2及び第2の被接合部材3が高さ方向について重ねられた状態で、第1の方向及び/又は第2の方向について第1の被接合部材2の縁部及び対応する第2の被接合部材3の縁部が、互いに対してずれていることがある。すなわち、第1の被接合部材2の縁面及び対応する第2の被接合部材3の縁面が、第1の方向及び/又は第2の方向について面一でないことがある。図5Bの一例では、第1の被接合部材2及び第2の被接合部材3を高さ方向について上側から視た状態で示す。この例では、第1の被接合部材2の主面の4つの縁部E1a~E4a、及び、第2の被接合部材3の主面の4つの縁部E1b~E4bが規定される。また、縁部E1a~E4a、E1b~E4bのそれぞれに対応する距離D1a~D4a、D1b~D4bが規定される。
【0029】
図5Bの一例でも、図5Aの一例と同様に、距離D1aは、接合ツール8の外周面のうち縁部E1aに最も近い面(矢印X1側の面)から縁部E1aまでの第1の方向の距離である。距離D1bは、接合ツール8の外周面のうち縁部E1bに最も近い面(矢印X1側の面)から縁部E1bまでの第1の方向の距離である。D1a及びD1bと同様に、距離D2a~D4a、D2b~D4bは、それぞれの距離に対応する縁部に最も近い接合ツールの面から当該縁部までの第1の方向又は第2の方向の距離である。図5Bに示すように、距離D1a~D4a、D1b~D4bの中では、距離D3bが最も短い。そのため、温度の測定範囲S(S1,S2)が設定される領域は、距離D3bに対応する縁部E3bを含む領域である。図5Bの一例では、第1の被接合部材2の縁部E3aと第2の被接合部材3の縁部E3bとが、第1の方向についてずれている。そして、図5Bの一例では、温度の測定範囲S(S1,S2)は、第1の被接合部材2の縁部E3a及び第2の被接合部材3の縁部E3bの両方にわたって設定される。温度センサ11は、縁部E3a,E3bの温度の測定範囲S(S1,S2)内において、被接合部材2,3の接合面近傍の温度を測定する。
【0030】
図5Cに示すように、第1の被接合部材2及び第2の被接合部材3の外側に向かうにつれて(縁部に近づくにつれて)、第1の被接合部材2の厚さ及び第2の被接合部材3の厚さが変化する場合がある。図5Cの一例では、第1の被接合部材2の縁部Eaの厚さ及び第2の被接合部材3の縁部Ebの厚さが、第1の方向の一方側(矢印X1側)に向かうにつれて薄くなる。この場合、距離Dは、接合ツール8が接触する箇所(接触箇所)における、第2の被接合部材3の厚さ及び対応する箇所の第1の被接合部材2の厚さの両方の総厚(接触箇所の総厚)Tallに基づいて規定される。そして、距離Dは、縁部Eaの厚さ及び縁部Ebの厚さの両方の総厚が総厚Tallと一致又は略一致する第1の方向についての位置と、接合ツール8の外周面のうち当該位置に最も近い面(矢印X1側の面)と、の距離である。温度の測定範囲S(S1,S2)が設定される領域は、距離Dが最も短い領域となる第1の被接合部材2の縁部Ea及び第2の被接合部材3の縁部Ebを含む領域である。したがって、図5Cの一例では、温度の測定範囲S(S1,S2)が、縁部Ea及び縁部Ebにわたって設定される。温度センサ11は、縁部E3a及び縁部E3bを含む温度の測定範囲S(S1,S2)内において、被接合部材2,3の接合面近傍の温度を測定する。なお、接合ツール8の接触箇所の総厚は、当該接触箇所の近傍における被接合部材2,3の複数の総厚を平均した厚さとして規定してもよい。
【0031】
なお、被接合部材が高さ方向について3つ以上配置される場合、高さ方向について隣接して配置されるとともに、互いの間に接合面を形成する2つの被接合部材のそれぞれを、第1の被接合部材及び第2の被接合部材として、距離Dを規定する。この場合、温度の測定範囲S(S1,S2)は、前述と同様に、第1の被接合部材2の縁部及び第2の被接合部材3の縁部を含む領域に設定される。
【0032】
また、被接合部材が円盤状又は略円盤状の場合、被接合部材の主面の縁部が、図5A及び5Bのように規定されない。すなわち、複数の縁部のそれぞれの境界が、被接合部材の形状に基づいて規定できない。この場合、複数の縁部は、高さ方向について一対の主面の間に配置されるとともに、第1の方向及び第2の方向について互いに対して離れた位置に設定される。設定された複数の縁部の個数に対応して、複数の縁部のそれぞれに対応する距離が規定される。縁部に対応する距離は、前述と同様に、接合ツール8の外周面のうち当該縁部に最も近い面から当該縁部までの距離である。図5A~5Cの場合と同様に、この距離に基づいて温度の測定範囲S(S1,S2)が設定される。
【0033】
図6Aは、実施形態の超音波接合装置1において被接合部材を超音波接合する場合に、制御装置によって実行される処理の一例を示す。図6Aの処理は、超音波接合装置1におい被接合部材2,3の超音波接合作業がされるたびに、制御装置30によって実行される。したがって、図6Aの処理は、制御装置30の1回の超音波接合において実行される処理を示す。図2に示すように、本実施形態では、制御装置30の中央処理部31によって、図6Aの処理が実行される。なお、以下の説明では、時間の変数として時間tを規定する。そして、時間tにおける加圧力F(t)、超音波振動の第2の方向についての振幅B(t)、被接合部材2,3の位置L(t)及び被接合部材2,3に温度θ(t)を規定する。また、超音波接合装置1では、センサ10によって定期的に加圧力F(t)及び位置L(t)が検出され、温度センサ11によって定期的に温度θ(t)が検出される。中央処理部31では、加圧力F(t)、振幅B(t)、位置L(t)及び温度θ(t)を定期的に取得する。加圧力F(t)を検出する時間間隔は、0.05ミリ秒以上10秒以下であることが好ましい。振幅B(t)を検出する時間間隔は、0.05ミリ秒以上10秒以下であることが好ましい。位置L(t)を検出する時間間隔は、0.05ミリ秒以上10秒以下であることが好ましい。温度θ(t)を検出する時間間隔は、0.05ミリ秒以上10秒以下であることが好ましい。これらの好ましい範囲は、ある一例では、超音波接合装置1において用いられる超音波の周波数に基づいて算出される。別のある一例では、これらの好ましい範囲は、超音波接合装置1において用いられる被接合部材2,3の組み合わせ等に基づいて決まる。
【0034】
以下では、中央処理部31が超音波発振制御部33と協働して超音波発振器5の発振を調整し、かつ、中央処理部31が圧力制御部32と協働して加圧機構9の加圧を調整する場合を説明する。例えば、超音波発振器5は、中央処理部31から入力された制御指令に基づいて、超音波発振制御部33によって制御される。加圧機構9は、中央処理部31から入力された制御指令に基づいて、圧力制御部32によって制御される。
【0035】
超音波接合装置1では、被接合部材2,3が、高さ方向についてステージ4の上面に設置される。被接合部材2,3は、高さ方向について互いに対して重ねられる。また、接合ツール8は、高さ方向について被接合部材2、3よりも上側に位置する。図6Aに示すように、中央処理部31では、接合ツール8の高さ方向の位置の基準範囲Ltrg、被接合部材2,3の温度の基準範囲θtrgが、例えば、図2に示す上位装置35を介して入力された指令に基づいて設定される(S101)。ある一例では、上位装置35に設けられるユーザーインターフェースを介して、中央処理部31に指令が入力されてもよい。被接合部材2,3の基準範囲Ltrgは、例えば、超音波接合後の被接合部材2,3の総厚の予定設計値の範囲に対応して設定される。基準範囲Ltrgの上限値は、例えば、超音波接合後の被接合部材2,3の総厚の設計上限値である。基準範囲Ltrgの下限値は、例えば、超音波接合後の被接合部材2,3の総厚の設計下限値である。また、被接合部材2,3の温度の基準範囲θtrgは、被接合部材2,3の接合が高い強度で実行される条件等に基づいて設定される。基準範囲θtrgの上限値は、例えば、被接合部材2,3の超音波接合により被接合部材2,3が破壊される超音波接合の条件等に基づいて設定される。基準範囲θtrgの下限値は、例えば、被接合部材2,3の接合強度が低く、被接合部材2,3の接合面で破断する超音波接合の条件等に基づいて設定される。
【0036】
中央処理部31は、加圧力の目標値(制御目標値)Fsの初期値Fsi、超音波振動の第2の方向についての振幅の目標値(制御目標値)Bsの初期値Bsi及び超音波を発信する時間の目標値(制御目標値)Tsの初期値Tsiを設定する(S102)。目標値Fsが設定される加圧力、目標値Bsが設定される超音波振動の第2の方向についての振幅、及び、目標値Tsが設定される発振する時間は、接合ツール8の駆動に関連する制御パラメータとなる。中央処理部31は、超音波振動の第2の方向についての振幅B(t)が振幅の目標値Bsと一致又は略一致するように、超音波発振制御部33と協働して、超音波発振器5の発振を調整する。また、中央処理部31は、加圧力F(t)が加圧力の目標値Fsと一致又は略一致するように、圧力制御部32と協働して、加圧機構9の加圧を調整する。ある一例では、加圧力の目標値Fsの初期値Fsiは10N以上4000N以下であり、振幅の目標値Bsの初期値Bsiは0.1μm以上100μm以下であり、時間の目標値Tsの初期値Tsiは0.05ミリ秒以上10秒以下である。なお、Fsの初期値Fsi、Bsの初期値Bsi、及び、Tsの初期値Tsiは、これに限定されるものではない。初期値Fsi,Bsi,Tsiは、超音波接合装置1及び被接合部材2,3の組み合わせ等に基づいて設定されてもよい。また、初期値Tsiは、例えば、超音波接合装置1において用いられる超音波の周波数に基づいて算出されてもよい。
【0037】
被接合部材2,3の基準範囲Ltrg,θtrg、制御パラメータの目標値Fs,Bs,Tsの設定が完了した後、接合ツール8が高さ方向について下側へ降下し、被接合部材2,3に接触する。中央処理部31は、圧力制御部32を制御して、加圧機構9による被接合部材2,3の加圧を開始する(S103)。加圧機構9が被接合部材2,3を加圧すると、加圧力F(t)が変動する。図6Aに示すように、中央処理部31は、加圧力F(t)と加圧力の目標値Fsの初期値Fsiとを比較する(S104)。加圧力F(t)が加圧力の目標値Fsの初期値Fsi以下の場合(S104-No)、処理はS104に戻り、S104以降の処理が順次行われる。加圧力F(t)が目標値Fsの初期値Fsiより大きい場合(S104-Yes)、中央処理部31は、超音波発振制御部33と協働して、超音波発振器5から被接合部材2,3に対して超音波の発振を開始させる(S105)。
【0038】
超音波発振器5が超音波を発振すると、接合ツール8の高さ方向の位置L(t)及び被接合部材2,3の温度θ(t)が変動する。図6Aに示すように、中央処理部31は、時間tと時間の目標値Tsとを比較する(S106)。時間tが時間の目標値Ts以下の場合(S106-No)、処理はS106に戻り、S106以降の処理が順次実行される。時間tが時間の目標値Tsより長い場合(S106-Yes)、中央処理部31は、センサ10の測定値に基づいて接合ツール8の高さ方向の位置L(t)を算出する(S107)。中央処理部31は、接合ツール8の高さ方向の位置L(t)と位置の基準範囲Ltrgとを比較する(S108)。位置L(t)が位置の基準範囲Ltrg外である場合(S108-No)、中央処理部31は、例えば、上位装置35に設けられるユーザーインターフェースに、不良品の発生を告知させる(S109)。そして、中央処理部31は、超音波発振制御部33と協働して、超音波発振器5からの超音波発振を停止させる(S113)。中央処理部31は、圧力制御部32と協働して、加圧機構9による被接合部材2,3の加圧を停止させる(S114)。すなわち、位置L(t)が位置の基準範囲Ltrg外である場合、超音波接合装置1が停止されるため、接合ツール8の駆動が停止される。そして、超音波接合装置1による被接合部材2,3の超音波接合が中止される。
【0039】
接合ツール8の高さ方向の位置L(t)が位置の基準範囲Ltrg内である場合(S108-Yes)、中央処理部31は、被接合部材2,3の温度θ(t)と温度の基準範囲θtrgとを比較する(S111)。被接合部材2,3の温度θ(t)が温度の基準範囲θtrg外である場合(S111-No)、中央処理部31は、目標値Fs,Bs,Tsの少なくとも1つの値を変更する(S112)。例えば、中央処理部31は、目標値Fsの値を変更する。前述のように、中央処理部31は、加圧力(t)が目標値Fsに一致又は略一致するように超音波発振制御部33と協働して超音波発振器5の発振を調整する。そのため、目標値Fsが変更されることにより、加圧力F(t)の値が変更される。Bs,Tsが変更される場合についても、Fsが変更される場合と同様である。目標値Fs,Bs,Tsのそれぞれが変更される大きさは、被接合部材2,3の組み合わせ等によって適宜設定される。S112の処理後、処理はS106に戻り、S106以降の処理が順次実行される。
【0040】
被接合部材2,3の温度θ(t)が温度の基準範囲θtrg内である場合(S111-Yes)、中央処理部31は、超音波発振制御部33と協働して、超音波発振器5からの超音波発振を停止させる(S113)。中央処理部31は、圧力制御部32を制御して、加圧機構9による被接合部材2,3の加圧を停止させる(S114)。すなわち、接合ツール8の駆動を停止させる。これにより、超音波接合装置1による被接合部材2,3の超音波接合が完了する。
【0041】
また、超音波接合装置1では、超音波発振が開始されると、時間tに基づく制御を実行した後に接合ツール8の高さ方向の位置L(t)及び被接合部材2,3の温度θ(t)に基づく制御を実行する時間制御モードの他に、位置制御モードを備えていてもよい。位置制御モードでは、中央処理部31は、超音波発振が開始されると、接合ツール8の位置L(t)に基づく制御を実行した後に、時間t及び被接合部材2,3の温度θ(t)に基づく制御を実行する。なお、時間制御モードと位置制御モードとは、互いに切り替え可能である。
【0042】
図6Bは、位置制御モードにおいて制御装置30によって実行される処理の一例を示す。処理S201~S205は、図6Aの一例に示す時間制御モードの処理S101~S105とそれぞれ同じである。ただし、処理201では、また、被接合部材2,3の位置の基準範囲(制御基準範囲)Ltrgの替わりに、時間の基準範囲(制御基準範囲)Ttrgが設定される。時間の基準範囲Ttrgは、例えば、0.05ミリ秒以上10秒以下である。この範囲は、ある一例では、超音波接合装置1において用いられる超音波の周波数に基づいて算出される。別のある一例では、この範囲は、超音波接合装置1において用いられる被接合部材2,3の組み合わせ等に基づいて決まる。また、処理S202では、時間の目標値Tsの初期値Tsiの替わりに、接合ツール8の位置の目標値Lsの初期値Lsiが設定される。すなわち、目標値Fsが設定される加圧力、目標値Bsが設定される超音波振動の第2の方向についての振幅、及び、目標値Lsが設定される位置が、接合ツール8の駆動に関連する制御パラメータとなる。位置の目標値Lsの初期値Lsiは、例えば、第2の接合部材の厚さが10%以上90%以下の厚さとなる範囲内において設定される。時間の基準範囲Ttrgは、例えば、被接合部材2,3の接合強度に基づいて設定される。基準範囲Ttrgの上限値及び/又は下限値は、例えば、被接合部材2,3の接合強度が十分でない場合の超音波接合の条件等に基づいて設定される。
【0043】
位置制御モードでは、S205において超音波発振器5が超音波を発振すると、中央処理部31は、センサ10の測定値に基づいて接合ツール8の高さ方向の位置L(t)を算出する(S206)。中央処理部31は、接合ツール8の高さ方向の位置L(t)と位置の目標値Lsとを比較する(S207)。接合ツール8の高さ方向の位置L(t)が位置の目標値Ls以下の場合(S207-No)、処理はS206に戻り、S206以降の処理が順次実行される。接合ツール8の高さ方向の位置L(t)が位置の目標値Lsより大きい場合(S207-Yes)、中央処理部31は、時間tと時間の基準範囲Ttrgとを比較する(S208)。
【0044】
時間tが時間の基準範囲Ttrg外である場合(S208-No)、中央処理部31は、図6Aの処理S109,S113,S114と同様の処理を、S209,S213,S214において実行する。すなわち、時間tが時間の基準範囲Ttrg外である場合、超音波接合装置1が停止されるため、接合ツール8の駆動が停止される。そして、超音波接合装置1による被接合部材2,3の超音波接合が中止される。時間tが時間の基準範囲Ttrg内である場合(S208-Yes)、中央処理部31は、図6Aの処理S111~S114と同様の処理を、S211~S214において実行する。ただし、S212では、目標値Fs,Bs,Tsのうちの少なくとも1つ値ではなく、目標値Fs,Bs,Lsのうちの少なくとも1つの値が変更される。これにより、超音波接合装置1による被接合部材2,3の超音波接合が完了する。
【0045】
本実施形態の超音波接合装置1では、温度センサ11が、超音波振動により振動する被接合部材2,3の温度を検出する。制御装置30は、温度センサ11により検出された被接合部材2,3の温度に関する情報に基づいて、制御パラメータを変更する。これにより、被接合部材2,3の温度が基準範囲外であっても、超音波接合装置1において、制御装置30が制御パラメータを適切に変更できる。よって、超音波接合装置1では、超音波接合による被接合部材2,3の接合強度の低下が抑制される。すなわち、被接合部材2,3の接合強度が維持される。
【0046】
本実施形態の超音波接合装置1では、複数の被接合部材のそれぞれの高さ方向を向く主面の縁部で被接合部材の温度を測定する。これにより、被接合部材2,3が超音波接合される面に近い位置の温度を測定できる。そのため、温度センサ11は、被接合部材2,3の超音波接合における温度変化に遅れることなく温度を測定できる。したがって、制御装置30は、被接合部材2,3の温度に関する情報をリアルタイムで取得できるとともに、制御パラメータをさらに適切に変更できる。よって、超音波接合装置1では、超音波接合による被接合部材2,3の接合強度の低下がさらに抑制される。すなわち、被接合部材2,3の接合強度がさらに維持される。
【0047】
本実施形態の超音波接合装置1では、被接合部材は、第1の被接合部材と、第2の被接合部材を備える。第2の被接合部材は、高さ方向について第1の被接合部材と隣接して配置されるとともに、第1の被接合部材との接合面を形成する。温度センサによる温度の測定範囲は、第1の被接合部材の主面の縁部及び第2の被接合部材の主面の縁部の中で、縁部と接合ツールとの間の距離が最も短い領域を含む。これにより、被接合部材2,3の超音波接合における温度変化をさらに高い感度で測定できる。したがって、制御装置30は、制御パラメータを一層適切に変更できる。よって、超音波接合装置1では、超音波接合による被接合部材2,3の接合強度の低下が一層抑制される。すなわち、被接合部材2,3の接合強度が一層維持される。
【0048】
本実施形態の超音波接合装置1では、制御パラメータは、加圧力の目標値Fs、超音波振動の第2の方向についての振幅の目標値Bs、超音波振動を発振する時間の目標値Ts及び接合ツール8の高さ方向についての位置の目標値Lsから選択される少なくとも1つを含む。制御装置30は、被接合部材2,3の表面温度が基準範囲θtrg外である場合、制御パラメータのうち少なくとも1つを変更する。これにより、被接合部材2,3の温度が基準範囲外であっても、超音波接合装置1において、制御装置30が制御パラメータをより適切に変更する。よって、超音波接合装置1では、超音波接合による被接合部材2,3の接合強度の低下がより一層抑制される。すなわち、被接合部材2,3の接合強度がより一層維持される。
【0049】
これらの少なくとも一つの実施形態では、超音波接合装置は、ステージの上側に配置された被接合部材の温度を検出する温度センサを備える。超音波接合装置は、温度センサにより検出された温度に関する情報に基づいて、接合ツールの駆動に関連する制御パラメータを変更する制御装置を備える。これにより、超音波接合装置では、被接合部材の接合強度の低下を抑制できる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、付記を記載する。
[1]高さ方向の上側に被接合部材を配置可能なステージと、
前記被接合部材に対して前記高さ方向の上側に配置され、前記被接合部材を加圧力により前記高さ方向の下側に押圧し、かつ、前記高さ方向と交差する方向に振動する超音波振動を前記被接合部材に伝達する状態に駆動されることにより、前記被接合部材を接合する接合ツールと、
前記超音波振動により振動する前記被接合部材の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサにより検出された前記被接合部材の前記温度に関する情報に基づいて、前記接合ツールの駆動に関連する制御パラメータを変更する制御装置と、
を備える、超音波接合装置。
[2]前記被接合部材は、前記高さ方向について互いに対して重ねられる複数の前記被接合部材であり、
前記温度センサは、複数の前記被接合部材のそれぞれの前記高さ方向を向く主面の縁部で前記被接合部材の前記温度を測定する、
[1]に記載の超音波接合装置。
[3]前記被接合部材は、第1の被接合部材と、前記高さ方向について前記第1の被接合部材と隣接して配置されるとともに、前記第1の被接合部材との接合面を形成する第2の被接合部材とを備え、
前記温度センサによる前記温度の測定範囲は、前記第1の被接合部材の前記主面の縁部及び前記第2の被接合部材の前記主面の縁部の中で、前記縁部と前記接合ツールとの間の距離が最も短い領域を含む、
[2]に記載の超音波接合装置。
[4]前記温度センサは、接触式温度センサ又は非接触式温度センサである、
[1]~[3]のいずれか1つに記載の超音波接合装置。
[5]前記温度に関する情報は、前記被接合部材の表面温度を含み、
前記制御パラメータは、前記加圧力の目標値、前記超音波振動の振幅の目標値及び前記超音波振動を発振する時間の目標値及び前記接合ツールの前記高さ方向の位置の目標値から選択される少なくとも1つを含み、
前記制御装置は、前記表面温度が前記温度の基準範囲外である場合、前記制御パラメータのうち少なくとも1つを変更する、
[1]~[4]のいずれか1つに記載の超音波接合装置。
【符号の説明】
【0051】
1…超音波接合装置、4…ステージ、8…接合ツール、11…温度センサ、30…制御装置。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B