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特許7577506石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法
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  • 特許-石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 75/04 20060101AFI20241028BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20241028BHJP
   F28G 9/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C10G75/04
C09K3/00 112E
F28G9/00 N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020176023
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2022067354
(43)【公開日】2022-05-06
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深津 直矢
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 喜啓
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀一
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-061470(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0139238(US,A1)
【文献】特開2020-147724(JP,A)
【文献】特開2014-218643(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107987888(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 75/04
F28G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤であって、
前記原料油予熱用熱交換器が、常圧蒸留装置用原料油予熱用熱交換器、減圧蒸留装置用原料油熱交換器、流動接触分解装置用原料油予熱用熱交換器、直接脱硫装置用原料油予熱用熱交換器または間接脱硫装置用原料油予熱用熱交換器であり、
ハンセン溶解度パラメータを三次元空間にプロットすることにより規定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、
原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、
前記原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Rの比(R/R)が1.0以下である、
沸点が200℃以上の芳香族系化合物からなり、
下記一般式(III)
【化3】
(但し、R は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、R およびR は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R 、R およびR の炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物、下記一般式(IV)
【化4】
(但し、R およびR 10 は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R およびR 10 の炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物および下記一般式(V)
【化5】
(但し、R 11 は炭素数1~10の炭化水素基であり、R 12 およびR 13 は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R 12 およびR 13 の炭素数の合計が0~5である。)
で表される化合物から選ばれる一種以上である
ことを特徴とする石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤。
【請求項2】
前記原料油予熱用熱交換器が、流動接触分解装置用原料油予熱用熱交換器である請求項1に記載の石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の汚れ抑制剤を100質量ppm~5000質量ppm含む原料油からなることを特徴とする石油精製プロセス用原料油。
【請求項4】
石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法であって、
請求項1または請求項2に記載の汚れ抑制剤を100質量ppm~5000質量ppm含む原料油を原料油予熱用熱交換器に供給する
ことを特徴とする石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法に関する。
【0002】
石油精製プロセスにおいては、常圧蒸留装置、減圧蒸留装置、流動接触分解装置(FCC)、直接脱硫装置、間接脱硫装置等の各種精製装置において、原油や各種重質油を原料油として高温下で精製処理が行われており、各装置における処理効率を向上させるために、予め処理対象となる原料油を熱交換器で予熱した上で、各装置に送出することが行われている。
【0003】
例えば、上述した精製装置のうち、流動接触分解装置(FCC)は、500℃以上の高温で重質油と流動接触分解触媒とを接触させ、重質油を分解処理してガソリン留分や中間留分を製造する装置であり、上記流動接触分解装置の処理対象となる重質油としては、脱硫重油や熱分解脱硫重油、間接脱硫重油、直接脱硫重油などが使用され、これらの重質油は熱交換器(場合によっては熱交換器と加熱炉)で300℃付近まで予熱されてから流動接触分解装置に投入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-102204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上述したとおり、上記処理対象となる原料油(原油や各種重質油)は非常に重質な成分を含むことから、熱交換器を用いて予熱すると熱交換部位に堆積物(汚れ分)が付着して熱交換効率が低下し易くなることが判明した。熱交換効率が低下すると各種精製装置に投入される原油や重質油が十分に加温されず、精製装置での処理時により大きなエネルギーが必要となることから、別途事前に加熱炉で加熱したり、加熱炉が無い場合には精製装置の処理量を低減する必要があるなど、生産コストが上昇したり生産性の低下を招くことになる。
【0006】
このような状況下、本発明は、予熱系熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、予熱用熱交換器に付着する汚れ分の原因成分に対して溶解性を示す汚れ抑制剤を用いることにより、熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解し得ることを着想した。
【0008】
上記知見に基づいて本発明者等がさらに検討したところ、石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤であって、ハンセン溶解度パラメータを三次元空間にプロットすることにより規定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、前記予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raの比(Ra/R)が1.0以下である、沸点が200℃以上の芳香族系化合物からなる汚れ抑制剤により、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤であって、
ハンセン溶解度パラメータを三次元空間にプロットすることにより規定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、
予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、
前記予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raの比(Ra/R)が1.0以下である、
沸点が200℃以上の芳香族系化合物からなる
ことを特徴とする石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、
(2)前記石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤が、下記一般式(I)
【化1】

(但し、Rは水素原子または炭素数1~15の炭化水素基であり、RおよびRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R、RおよびRの炭素数の合計が0~15である)
で表される化合物、下記一般式(II)
【化2】

(但し、RおよびRは、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、RおよびRの炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物、下記一般式(III)
【化3】

(但し、Rは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、RおよびRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R、RおよびRの炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物、下記一般式(IV)
【化4】

(但し、RおよびR10は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、RおよびR10の炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物、下記一般式(V)
【化5】

(但し、R11は炭素数1~10の炭化水素基であり、R12およびR13は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R12およびR13の炭素数の合計が0~5である。)
で表される化合物、および下記一般式(VI)
【化6】

(但し、R14~R20は水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R14~R20の炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物から選ばれる一種以上である上記(1)に記載の石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、
(3)上記(1)または(2)に記載の汚れ抑制剤を100質量ppm~5000質量ppm含む原料油からなることを特徴とする石油精製プロセス用原料油、
(4)石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法であって、
上記(1)または(2)に記載の汚れ抑制剤を100質量ppm~5000質量ppm含む原料油を原料油予熱用熱交換器に供給する
ことを特徴とする石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して優れた溶解性を発揮するために、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ハンセン球の中心値を成すHSP値(δd、δp、δh)の求め方について説明する図である。
図2】ハンセン溶解度パラメータ空間において、上記予熱用熱交換器に付着する汚れ分のHSP値、原料油基材のHSP値およびハンセン溶解度パラメータ距離Raの関係を示す概念図である。
図3】加熱ヒーター出口における原料油温度の時間経過に伴う温度差の測定方法を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤は、
ハンセン溶解度パラメータを三次元空間にプロットすることにより規定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、
予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、
前記予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raの比(Ra/R)が1.0以下である、
沸点が200℃以上の芳香族系化合物からなる
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係る汚れ抑制剤の適用対象となる石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器としては、常圧蒸留装置用原料油予熱用熱交換器、減圧蒸留装置用原料油熱交換器、流動接触分解装置(FCC)用原料油予熱用熱交換器、直接脱硫装置用原料油予熱用熱交換器または間接脱硫装置用原料油予熱用熱交換器等を挙げることができ、流動接触分解装置(FCC)用原料油予熱用熱交換器であることが適当である。
【0014】
各石油精製プロセスに供給される原料油(原油や各種重質油)は、従来公知のものから適宜選択される。
【0015】
本発明に係る汚れ抑制剤は、予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、
前記予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raの比(Ra/R)が1.0以下である
ものである。
【0016】
本出願書類において、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、Hildebrandの溶解度パラメータを、ロンドン分散力、双極子間力及び水素結合力の3個の凝集エネルギー成分に分割したベクトル量のパラメータを意味する。
本出願書類において、HSPのロンドン分散力に対応する成分を分散項δd、HSPの双極子間力に対応する成分を極性項δp、HSPの水素結合力に対応する成分を水素結合項δhと各々表記する。
本出願書類において、ハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)は、(δd、δp、δh)で表される。また、本出願書類において、ハンセン溶解度パラメータ値(HSP値)は、25℃におけるHSP値を意味する。
【0017】
HSPはベクトル量であるために、純粋な物質で全く同一の値を有するものは殆ど存在せず、また、一般的に使用される物質のHSP値はデータベースが構築されているため、当業者であれば、当該データベースを参照することにより、所望の物質のHSP値を入手することができる。
また、データベースにHSP値が登録されていない物質であっても、当業者であればHSP値を算出することができる。
【0018】
HSP値が未知の評価試料におけるHSP値は以下の方法で算出することができる。
HSP値(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、既知のHPS値を有する複数の純物質をプロットするとともに、上記純物質に対する評価試料の溶解性の有無によってハンセン球を特定し、当該ハンセン球の中心値を求めることで評価試料のHSP値を算出することができる。
ハンセン球の中心値を求めることで評価試料のHSP値を算出する場合、コンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いて算出することができる。
また、ハンセン球の半径である相互作用半径Rについても上記ソフトウェアを用いて算出することができる。
【0019】
本発明に係る汚れ抑制剤において、石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび上記予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rは、5.0 ~15.0(MPa)1/2であることが適当であり、5.5~14.0(MPa)1/2であることがより適当であり、6.0~13.0(MPa)1/2であることがさらに適当である。
本発明に係る汚れ抑制剤において、上記汚れ分が、流動接触分解装置(FCC)原料油用予熱交換器に付着する汚れ分である場合、上述した相互作用半径Rは、5.0~10.0(MPa)1/2であることが適当であり、5.5~9.5(MPa)1/2であることがより適当であり、6.0~9.0(MPa)1/2であることがさらに適当であり、6.0~8.0(MPa)1/2が一層適当であり、6.5~7.5(MPa)1/2がより一層適当である。
【0020】
上記ハンセン球の中心値、すなわちHSP値(δd、δp、δh)の求め方について、図1を用いて説明する。
先ず、図1に例示する(分散項δd、極性項δpおよび水素結合項δhを座標軸とする)三次元空間に既知のHSP値を有する16個の純物質のHSP値をプロットする。
このとき、図1に示すように、例えば、評価試料に溶解性を示す純物質を○印、評価試料に溶解性を示さない純物質を×印で表記する。
次いで、プロットされた評価試料の溶解性に基づき、溶解性を示した純物質(図1で○印で示す)を包含し、溶解性を示さなかった純物質(図1に×印で示す)を包含しない仮想球のうち、最小半径を有するものを(図1に円状に示す)ハンセン球Sとして求める。
上記ハンセン球Sを成す半径(上記最少半径)が図中に○印で示す純物質を溶解し相溶性を示す相互作用半径Rとなり、また、得られたハンセン球Sの中心値(δd、δp、δh)が評価試料のHSP値となる。
なお、上記評価試料の純物質に対する相溶性は、25℃の温度条件下、評価対象となる評価試料10mgに対して既知のHSP値を有する純物質1mLを溶解して10分間攪拌混合したときに、沈殿物が残存しないものを「溶解性あり(図1に示す○評価)」、沈殿物が残存するものを「溶解性なし(図1に示す×評価)」として判断したときの結果を示す。
後述する原料油予熱用熱交換器の汚れ分のような混合物や、同じく後述する特定の汚れ抑制剤のような純物質についても、上記評価試料として用いることによって、これらのHSP値やRを求めることができる。
【0021】
本発明に係る汚れ抑制剤は、予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、
前記予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raの比(Ra/R)が1.0以下である芳香族系化合物からなる。
【0022】
上記ハンセン溶解度パラメータ距離Raは、ハンセン溶解度パラメータを三次元空間にプロットすることにより規定されるハンセン溶解度パラメータ空間における評価対象となる汚れ抑制剤のHSP値と上記予熱用熱交換器に付着する汚れ分のHSP値との間の距離に相当する。
図2は、(分散項δd、極性項δpおよび水素結合項δhを座標軸とする)ハンセン溶解度パラメータ空間において、上記予熱用熱交換器に付着する汚れ分のHSP値、原料油基材のHSP値およびハンセン溶解度パラメータ距離Raの関係を示す概念図である。
【0023】
図2に例示するように、上述した方法により石油精製プロセスにおける原料油の予熱用熱交換器に付着する汚れ分のHSP値(δd、δp、δh)および評価対象となる汚れ抑制剤のHSP値(δd、δp、δh)を各々算出する。
予熱用熱交換器に付着した汚れ分のHSP値は、例えば予め使用する予熱交換器の内壁等に付着した汚れ分をサンプリングして前述の既知のHSP値を有する純物質に溶解させる評価試験を行って算出すればよい。また、評価対象となる汚れ抑制剤のHSP値も同様の評価試験を行って算出するか、HSP値が既知の物質であればその数値をそのまま用いてもよい。
得られた各HSP値をハンセン溶解度パラメータ空間にプロットした場合、両者間の距離に相当するハンセン溶解度パラメータ距離Raとの関係は、下記式
Ra = 4×(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh
(式中、Raは、ハンセン溶解度パラメータ空間における、予熱用熱交換器に付着する汚れ分のHSP値と評価対象となる汚れ抑制剤のHSP値との距離(ハンセン溶解度パラメータ距離)であり、
δdは、上記汚れ分のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpは、上記汚れ分のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δhは、上記汚れ分のハンセン溶解度パラメータの水素結合項であり、
δdは、評価対象となる汚れ抑制剤のハンセン溶解度パラメータの分散項であり、
δpは、評価対象となる汚れ抑制剤のハンセン溶解度パラメータの極性項であり、
δhは、評価対象となる汚れ抑制剤のハンセン溶解度パラメータの水素結合項である)
により表記することができ、上式中に予熱用熱交換器に付着する汚れ分のHSP値であるδd、δp、δhおよび評価対象となる汚れ抑制剤のHSP値であるδd、δp、δhを各々代入することにより、ハンセン溶解度パラメータ距離Raを算出することができる。
【0024】
本発明に係る汚れ抑制剤は、石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが、0.0~10.0(MPa)1/2であるものが適当であり、0.0~9.0(MPa)1/2であるものがより適当であり、0.0~8.0(MPa)1/2であるものがさらに適当であり、0.0~7.5(MPa)1/2が一層適当である。
【0025】
本発明に係る汚れ抑制剤は、予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示す純物質のハンセン溶解度パラメータおよび予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して溶解性を示さない純物質のハンセン溶解度パラメータにより規定されるハンセン球の半径である相互作用半径Rに対する、
前記予熱用熱交換器に付着する汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raの比(Ra/R)が、1.0以下であるものであり、0.9以下であるものが好ましく、0.8以下であるものがより好ましい。
上記比(Ra/R)の下限値は特に制限されず、上記比(Ra/R)は通常0.0以上の値を採る。
上記比Ra/Rが1.0以下であることにより、予熱系熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得る汚れ抑制剤を提供することができる。
【0026】
本発明に係る汚れ抑制剤は、上記比Ra/Rが1.0以下であるとともに沸点が200℃以上である芳香族系化合物からなる。
本発明に係る汚れ抑制剤は、沸点が210℃以上の芳香族化合物からなるものが好ましく、沸点が220℃以上の芳香族化合物からなるものがより好ましい。
汚れ抑制剤の沸点が200℃以上であることにより、石油精製プロセス用原料油に添加した場合であっても、精製中に揮発し難いことから、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制することができる。
【0027】
本発明に係る汚れ抑制剤は、融点が、80℃以下である芳香族化合物からなるものが好ましく、70℃以下である芳香族化合物からなるものがより好ましく、60℃以下である芳香族化合物からなるものがさらに好ましい。
汚れ抑制剤の融点が80℃以下であることにより、石油精製プロセス用原料油に添加した場合であっても、容易に溶解して、石油精製プロセス中に容易に供給し、流通させることができる。
【0028】
本発明に係る汚れ抑制剤の純度は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。
汚れ抑制剤の純度が90%以上であることにより、石油精製プロセス用原料油に添加した際に、効果的に汚れ抑制効果を発揮することができる。
【0029】
本発明に係る汚れ抑制剤としては、上記特性を有するものの中から任意に選択することができ、具体的には、下記一般式(I)~一般式(VI)で表される芳香族化合物から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0030】
すなわち、本発明に係る汚れ抑制剤としては、下記一般式(I)
【化7】

(但し、Rは水素原子または炭素数1~15の炭化水素基であり、RおよびRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R、RおよびRの炭素数の合計が0~15である)
で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
一般式(I)で表される化合物において、Rが炭化水素基である場合、Rの炭素数は、1~15であり、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
が炭化水素基である場合、Rは、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0032】
として、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基またはイソブチル基等を挙げることができる。
【0033】
一般式(I)で表される化合物において、RおよびRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
またはRが炭化水素基である場合、その炭素数は、1~10であり、1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
またはRが炭化水素基である場合、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0034】
またはRが炭化水素基である場合、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基等を挙げることができる。
【0035】
、RおよびRの炭素数の合計は、0~15であり、0~10であることが好ましく、0~5であることがより好ましい。
【0036】
一般式(I)で表される化合物として、具体的には、以下の(1)~(5)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式(I)においてR、RおよびRが全て水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.4であるもの)。
(2)一般式(I)においてRが-CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.4であるもの)。
(3)一般式(I)においてRが-(CH)CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.6であるもの)。
(4)一般式(I)においてRが-(CH)CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
(5)一般式(I)においてRが-(CH)14CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
【0037】
また、本発明に係る汚れ抑制剤としては、下記一般式(II)
【化8】

(但し、RおよびRは、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、RおよびRの炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0038】
一般式(II)で表される化合物において、RまたはRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
一般式(II)で表される化合物において、RまたはRが炭化水素基である場合、RまたはRの炭素数は、1~10であり、1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
またはRが炭化水素基である場合、RまたはRは、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0039】
またはRとして、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基またはイソブチル基等を挙げることができる。
【0040】
およびRの炭素数の合計は、0~10であり、0~7であることが好ましく、0~5であることがより好ましい。
【0041】
一般式(II)で表される化合物として、具体的には、以下の(1)~(4)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式(II)においてRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.4であるもの)。
(2)一般式(II)においてRが水素原子でRが-CH基であるもの(例えば2-メチルベンゾフェノンを挙げることができ、石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.5であるもの)。
(3)一般式(II)においてRが水素原子でRが-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.6であるもの)。
(4)一般式(II)においてRが水素原子でRが-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
【0042】
また、本発明に係る汚れ抑制剤としては、下記一般式(III)
【化9】

(但し、Rは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、RおよびRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R、RおよびRの炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0043】
一般式(III)で表される化合物において、Rが炭化水素基である場合、Rの炭素数は、1~10であり、1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
が炭化水素基である場合、Rは、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0044】
として、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基またはイソブチル基等を挙げることができる。
【0045】
一般式(III)で表される化合物において、RおよびRは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
またはRが炭化水素基である場合、その炭素数は、1~10であり、1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
またはRが炭化水素基である場合、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0046】
またはRが炭化水素基である場合、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基等を挙げることができる。
【0047】
、RおよびRの炭素数の合計は、0~10であり、0~7であることが好ましく、0~5であることがより好ましい。
【0048】
一般式(III)で表される化合物として、具体的には、以下の(1)~(6)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式(III)においてRが-CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるN-メチルジフェニルアミン(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
(2)一般式(III)においてRが-CH基、Rが水素原子、Rが-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(3)一般式(III)においてRが-CH基、Rが水素原子、Rが-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが1.0であるもの)。
(4)一般式(III)においてR、RおよびRがいずれも水素原子であるジフェニルアミン(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが1.0であるもの)。
(5)一般式(III)においてRが-(CH)CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(6)一般式(III)においてRが-(CH)CH基でRおよびRがいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが1.0であるもの)。
【0049】
また、本発明に係る汚れ抑制剤としては、下記一般式(IV)
【化10】

(但し、RおよびR10は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、RおよびR10の炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
一般式(IV)で表される化合物において、RまたはR10は水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であって、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
一般式(IV)で表される化合物において、RまたはR10が炭化水素基である場合、RまたはR10の炭素数は、1~10であり、1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
またはR10が炭化水素基である場合、RまたはR10は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0051】
またはR10として、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基またはイソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基等を挙げることができる。
【0052】
およびR10の炭素数の合計は、0~10であり、0~7であることが好ましく、0~5であることがより好ましい。
【0053】
一般式(IV)で表される化合物として、具体的には、以下の(1)~(5)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式(IV)においてRが水素原子でR10が-CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(2)一般式(IV)においてRが水素原子でR10がtert-ブチル基である4-tert-ブチルジフェニルスルフィド(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(3)一般式(IV)においてRが水素原子でR10が-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(4)一般式(IV)においてRが水素原子でR10が-C(C基である4-tert-オクチルジフェニルスルフィド(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(5)一般式(IV)においてRが水素原子でRが-(CH)CH基であるもの(石油衛星プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが1.0であるもの)。
【0054】
また、本発明に係る汚れ抑制剤としては、下記一般式(V)
【化11】

(但し、R11は炭素数1~10の炭化水素基であり、R12およびR13は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R12およびR13の炭素数の合計が0~5である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0055】
一般式(V)で表される化合物において、R11の炭素数は、1~10であり、1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
11は、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0056】
11として、具体的には、メチレン基等を挙げることができる。
【0057】
一般式(I)で表される化合物において、R12およびR13は水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であって、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
12またはR13が炭化水素基である場合、その炭素数は、1~10であり、
1~7であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
12またはR13が炭化水素基である場合、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0058】
12またはR13が炭化水素基である場合、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基等を挙げることができる。
【0059】
12およびR13の炭素数の合計は、0~10であり、0~7であることが好ましく、0~5であることがより好ましい。
【0060】
一般式(V)で表される化合物として、具体的には、以下の(1)~(4)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式(V)においてR11が-CH-基でR12およびR13がいずれも水素原子である2-ベンジルピリジン(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.7であるもの)。
(2)一般式(V)においてR11が-CH-基でR12が水素原子、R13が-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
(3)一般式(V)においてR11が-CH-基でR12が水素原子、R13が-(CH)CH基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(4)一般式(V)においてR11が-CH-基でR12が-C基、R13が-C15基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
【0061】
また、本発明に係る汚れ抑制剤としては、下記一般式(VI)
【化12】

(但し、R14~R20は水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R14~R20の炭素数の合計が0~10である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0062】
一般式(VI)で表される化合物において、R14~R20のいずれかが炭化水素基である場合、その炭素数は、1~3であり、1~2であることが好ましい。
14~R20のいずれかが炭化水素基である場合、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよい。
【0063】
14~R20のいずれかが炭化水素基である場合、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基等を挙げることができる。
【0064】
14~R20の炭素数の合計は、0~10であり、0~7であることが好ましく、0~5であることがより好ましい。
【0065】
一般式(VI)で表される化合物として、具体的には、以下の(1)~(5)の化合物を挙げることができる。
(1)一般式(VI)においてR14~R20がいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.7であるもの)。
(2)一般式(VI)においてR14~R17のいずれか一つの基が-C11基であるとともにその他の基がいずれも水素原子であり、R18~R20がいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
(3)一般式(VI)においてR14~R17のいずれか一つの基が-C1021基であるとともにその他の基がいずれも水素原子であり、R18~R20がいずれも水素原子であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(4)一般式(VI)においてR14~R19がいずれも水素原子であるとともにR20が-C11基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
(5)一般式(VI)においてR14~R19がいずれも水素原子であるとともにR20が-C1021基であるもの(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.9であるもの)。
(6)一般式(VI)においてR15、R19、R18およびR20がいずれもメチル基で、R14、R16およびR17がいずれも水素原子である2,3,3,5-テトラメチル-3H-インドール(石油精製プロセスにおける予熱用熱交換器に付着する汚れ分における相互作用半径Rが7.1(MPa)1/2である場合のRa/Rが0.8であるもの)。
【0066】
本発明に係る汚れ抑制剤の使用態様としては、適用対象となる原油予熱用熱交換器の運転を停止して内部を洗浄する際に汚れ抑制成分として塗布液に配合して使用する態様や、本発明に係る汚れ抑制剤を配合した原料油を適用対象となる予熱用熱交換器に供給し流通する態様を挙げることができ、これ等いずれかの態様により、熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制したり、一旦付着した汚れ分を好適に溶解することができる。
本発明に係る汚れ抑制剤の使用態様のうち、予熱用熱交換器の運転を継続した状態で熱交換器の汚れ抑制効果を発揮できることから、本発明に係る汚れ抑制剤を原料油に配合した状態で適用対象となる予熱用熱交換器に供給し流通する態様が好ましい。
【0067】
本発明に係る汚れ抑制剤を配合した原料油を適用対象となる予熱用熱交換器に供給する場合、原料油中における本発明に係る汚れ抑制剤の濃度は、100~5000質量ppmが好ましく、300~4500質量ppmがより好ましく、500~4000質量ppmがさらに好ましい。
原料油中の汚れ抑制剤の濃度が上記範囲内にあることにより、原料油による予熱用熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解することができる。
【0068】
本発明によれば、原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して優れた溶解性を発揮するために、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得る、石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤を提供することができる。
【0069】
次に、本発明に係る石油精製プロセス用原料油について説明する。
本発明に係る石油精製プロセス用原料油は、本発明に係る汚れ抑制剤を100質量ppm~5000質量ppm含む原料油からなることを特徴とするものである。
本発明に係る汚れ抑制剤や、当該汚れ抑制剤を配合した原料油等の詳細は、上述したとおりである。
【0070】
本発明に係る石油精製プロセス用原料油において、本発明に係る汚れ抑制剤の配合割合(濃度)は、100~5000質量ppmであり、300~4500質量ppmが好ましく、500~4000質量ppmがより好ましい。
本発明に係る原料油中の汚れ抑制剤の配合割合が上記範囲内にあることにより、原料油による予熱用熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解することができる。
【0071】
本発明に係る石油精製プロセス用原料油は、以下の方法により算出される加熱ヒーター出口における原料油温度の時間経過に伴う温度差が、0~40℃であるものが好ましく、0~35℃であるものがより好ましく、0~30℃であるものがさらに好ましい。
【0072】
<加熱ヒーター出口における原料油温度の時間経過に伴う温度差の測定方法>
図3に概略断面図で示すように、原料油タンクTに貯蔵されホットプレートHPにより70℃に加温された1.1Lの原料油を、同じく(図示しない)リボンヒーターにより流路全体が70℃に維持された流通配管c(直径6.5mm)内に毎分10mLで送液しつつ、上記原料油の流通配管内にヒーターロッドR(ステンレス鋼製、長さ200mm、直径6mm)を各々配置した加熱ヒーターHT1および加熱ヒーターHT2でそれぞれ設定温度T1(170℃)および温度T2(300℃)で順次加熱して上記原料油タンクTに返送する操作を600分間継続した後、上記加熱ヒーターHT2の原料油出口に配置された原料油温度計測手段TM2outで原料油のヒーター出口温度T3を測定したときに、加熱ヒーターHT2において、「(加熱当初におけるヒーター出口温度T3)-(600分間加熱時におけるヒーター出口温度T3)」により算出される温度差を繰り返し2回測定したときの算術平均値を温度差ΔTとする。
【0073】
上記温度差ΔTが上記範囲内に制御されていること、すなわちヒーター出口温度T3が所定範囲内に維持されていることにより、加熱ヒーターHT内部のヒーターロッドRへの汚れ分の付着量が少なく、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着が十分に抑制されていると判断することができる。
上記温度差ΔTが上記範囲外である場合には、ヒーター出口温度T3を維持し得ないために、加熱ヒーターHT内部のヒーターロッドRへの汚れ分の付着量が増加して、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得ないと判断することができる。
【0074】
本発明によれば、原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して優れた溶解性を発揮するために、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得る、石油精製プロセス用原料油を提供することができる。
【0075】
次に、本発明に係る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法について説明する。
本発明に係る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法は、本発明に係る汚れ抑制剤を100質量ppm~5000質量ppm含む原料油を原料油予熱用熱交換器に供給することを特徴とするものである。
本発明に係る汚れ抑制剤や、当該汚れ抑制剤を配合した原料油等の詳細は、上述したとおりである。
また、各原料油を供給する原料油予熱用熱交換器の詳細も上述したとおりである。
【0076】
本発明に係る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法において、原料油中における本発明に係る汚れ抑制剤の配合割合(濃度)は、100~5000質量ppmであり、300~4500質量ppmが好ましく、500~4000質量ppmがより好ましい。
本発明に係る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法において、原料油中の汚れ抑制剤の配合割合が上記範囲内にあることにより、原料油による予熱用熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解することができる。
【0077】
本発明によれば、本発明に係る汚れ抑制剤を配合した状態で予熱用熱交換器に原料油を供給することから、予熱用熱交換器の運転を継続した状態で熱交換器の汚れ抑制効果を容易に発揮することができる。
このため、本発明によれば、原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して優れた溶解性を発揮して、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を簡便にかつ十分に抑制し得る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法を提供することができる。
【実施例
【0078】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0079】
(実施例1~実施例6、比較例1~比較例2)
(1)相互作用半径Rの算出
石油精製プロセスで使用されている流動接触分解装置用原料油の予熱用熱交換器の内壁面に付着した汚れ分をサンプリングし、25℃の温度条件下、汚れ分10mgに対して、既知のHSP値を有する16種の純物質を各々1mlづつ添加し、10分間攪拌混合した後、5分間静置して、目視により溶解性を評価した。
得られた溶解性評価の結果に基づいて、コンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いてハンセン球の中心値(HSP値)を求めた上で、相互作用半径Rを求めたところ、相互作用半径Rは7.1(MPa)1/2であった。
(2)原料基材
流動接触分解装置用原料油組成物を構成する基材Aおよび基材Bとして、各々表1に示す物性を有する、脱硫減圧軽油(T-VGO)および直接脱硫重油(DDS-P)を用意した。
なお、表1に記載する各物性は、各々以下に示す方法により測定した値を意味する。
【0080】
(蒸留性状)
JIS K2254:1998の規定に基づいて測定した。
【0081】
(15℃における密度(密度(15℃)))
JIS K2249-1:2011の規定に基づいて測定した。
【0082】
(引火点)
JIS K 2265-3:2007に規定する「引火点の求め方―第3部:ペンスキーマルテンス密閉法」に基づいて測定した。
【0083】
(硫黄分含有割合)
500質量ppm以下の硫黄分は、JIS K 2541-6:2003に規定する「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第6部:紫外蛍光法」に基づいて測定し、500質量ppmを超える硫黄分は、JIS K 2541-4:2003に規定する「原油及び石油製品-硫黄分試験方法-第4部:放射線励起法」に基づいて測定した。
【0084】
(芳香族分含有割合)
JPI-5S-49-97の規定に基づいて測定した。
【0085】
(残留炭素分)
JIS K 2270-2:2009に規定する「原油及び石油製品―残留炭素分の求め方―第2部:ミクロ法」に基づいて測定した。
【0086】
(灰分)
JIS K 2272:1998に規定する「原油及び石油製品-灰分及び硫酸灰分試験方法」に基づいて測定した。
【0087】
(窒素分含有割合)
JIS K 2609:1998に規定する「原油及び石油製品-窒素分析試験方法」(化学発光法)に基づいて測定した。
【0088】
(50℃における動粘度(動粘度(50℃))
JIS K 2283:2000に規定する「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に基づいて測定した。
【0089】
(流動点)
JIS K 2269:1987に規定する「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」に基づいて測定した。
【0090】
(アスファルテン含有割合)
JPI-5S-22-83の規定に基づいて測定した。
【0091】
【表1】
【0092】
(3)汚れ抑制剤の選定
各実施例および比較例で使用する汚れ抑制剤として、各々、表2に示す物性を示す汚れ抑制剤を選定した。
各汚れ抑制剤1mlに対し、25℃の温度条件下、既知のHSP値を有する16種の純物質を各々1mlづつ添加し、10分間攪拌混合した後、5分間静置して、目視により溶解性を評価した。
得られた溶解性評価の結果に基づいて、コンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いて各汚れ抑制剤のハンセン球の中心値(HSP値)を求めた。
各汚れ抑制剤のHSP値と上述した汚れ分のHSP値から、コンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を用いて各汚れ抑制剤と汚れ分とのハンセン溶解度パラメータ距離Raを算出し、その上で、上述した相互作用半径Rに対する比(Ra/R)を算出した。
結果を表2に示す。
なお、比較例1においては汚れ抑制剤は使用しなかった。
【0093】
【表2】
【0094】
(3)原料油の調製
上記基材Aおよび基材Bを、体積比で基材A:基材B=7:3となるように混合した基材混合物に対し、汚れ抑制剤として、各々、表2に示す物性を示す汚れ抑制剤を表3に示す配合割合となるように添加することにより、流動接触分解装置用原料油を調製した。
次いで、図3に概略断面図で示す加温装置において、上記のとおり調製したいずれかの原料油を原料油タンクT中に貯蔵した。
原料油タンクTに貯蔵されホットプレートHPにより70℃に加温された1.1Lの原料油を、同じく(図示しない)リボンヒーターにより流路全体が70℃に維持された流通配管c(直径6.5mm)内に毎分10mLで送液しつつ、上記原料油の流通配管内にヒーターロッドR(ステンレス鋼製、長さ200mm、直径6mm)を各々配置した加熱ヒーターHT1および加熱ヒーターHT2でそれぞれ設定温度T1(170℃)および温度T2(300℃)で順次加熱して上記原料油タンクTに返送する操作を600分間継続した後、上記加熱ヒーターHT2の原料油出口に配置された原料油温度計測手段TM2outで原料油のヒーター出口温度T3を測定し、加熱ヒーターHT2において、「(加熱当初におけるヒーター出口温度T3)-(600分間加熱時におけるヒーター出口温度T3)」により算出される温度差を繰り返し2回測定してその算術平均値を温度差ΔTとして求めた。
結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
表2および表3より、実施例1~実施例6においては、汚れ抑制剤として、Ra/Rが1.0以下で、沸点が200℃以上の芳香族系化合物からなるものを使用していることにより係る汚れ抑制剤を配合した原料油は、加温処理したときに加熱ヒーターHT2におけるヒーター出口温度の温度差ΔT{(加熱当初におけるヒーター出口温度T3)-(600分間加熱時におけるヒーター出口温度T3)}を16.3~38.7℃に制御することができ、このために汚れ分の付着を十分に抑制し得るものであることが分かる。
【0097】
一方、表2および表3より、比較例1~比較例2においては、汚れ抑制剤として、上記所定のものをしていないために、得られた原料油を加温処理したときに加熱ヒーターHT2におけるヒーター出口温度T3の温度差ΔT{(加熱当初におけるヒーター出口温度T3)-(600分間加熱時におけるヒーター出口温度T3)}が42.7~49.5℃と高く、汚れ分の付着を十分に抑制し得ないものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、原料油予熱用熱交換器に付着する汚れ分に対して優れた溶解性を発揮するために、原料油予熱用熱交換器への汚れ分の付着を十分に抑制し得る石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制剤、石油精製プロセス用原料油および石油精製プロセスにおける原料油予熱用熱交換器の汚れ抑制方法を提供することができる。
図1
図2
図3